(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用カソード組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241203BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241203BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241203BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M4/139
H01M4/36 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535816
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-08-13
(86)【国際出願番号】 FR2022052336
(87)【国際公開番号】W WO2023111448
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】マチュー,シリル
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA09
5H050EA10
5H050EA22
5H050EA24
5H050EA28
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
本発明は、一般に、Liイオンタイプの充電式蓄電池における電気エネルギーの貯蔵の分野に関する。より具体的には、本発明は、Liイオン電池用のカソード組成物に関する。本発明はまた、このようなカソード組成物の製造プロセス、及びこのようなカソードを含むLiイオン蓄電池に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池用のカソード組成物であって、
- フルオロポリマーバインダー(成分A)、
- 電極活物質(成分B)、及び
- 導電性材料(成分C)
を含み、
前記ポリマーバインダーが、45~390NTU、好ましくは100~300NTUのポリマーバインダー初期ヘイズを示し、前記電極活物質が炭素層でコーティングされている、電池用のカソード組成物。
【請求項2】
炭素でコーティングされた前記活物質が、5nm~1μmの範囲のグラファイト層でコーティングされた無機リチウム挿入化合物を含む、請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項3】
炭素でコーティングされた前記活物質が、レーザー粒径分析によって測定して100nm~5μmのサイズを有する元素粒子で形成される、請求項1又は2に記載のカソード組成物。
【請求項4】
前記活物質が、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウム/マンガン複合酸化物、リチウム/ニッケル複合酸化物、リチウム/コバルト複合酸化物、リチウム/ニッケル/コバルト複合酸化物、リチウム/ニッケル/コバルト/マンガン複合酸化物、リチウム富化リチウム/ニッケル/コバルト/マンガン複合酸化物、リチウム/遷移金属複合酸化物、スピネル構造のリチウム/マンガン/ニッケル複合酸化物、高電圧ニッケル/マンガン複合酸化物、酸化バナジウム、S
8タイプの硫黄の酸化物及びそれらの混合物から選択される、請求項1~3のいずれかに記載のカソード組成物。
【請求項5】
前記活物質が、LiFePO
4、LiMnPO
4、LiFe
xMn
yPO
4、LiFePO
4F、LiMnPO
4F及びLiFe
xMn
yPO
4F(ただし、x+y=1である)から選択される、請求項1~3のいずれかに記載のカソード組成物。
【請求項6】
前記成分Aが、ポリ(フッ化ビニリデン)ホモポリマー、並びに、二フッ化ビニリデンと、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロプロピルビニルエーテル、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロプロペン、エチレン及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つのコモノマーとのコポリマーから選択される、請求項1~5のいずれかに記載のカソード組成物。
【請求項7】
PVDFが、以下の官能基、すなわち、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ(グリシジルなど)、アミド、ヒドロキシル、カルボニル、メルカプト、スルフィド、オキサゾリン、フェノール、エステル、エーテル、シロキサン、スルホン酸、硫酸、リン酸又はホスホン酸の基の少なくとも1つを有するモノマー単位を含む、請求項6に記載のカソード組成物。
【請求項8】
成分Cが、カーボンブラック、天然若しくは合成のグラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維及び金属粉末、並びに導電性金属酸化物から選択される、請求項1~7のいずれかに記載のカソード組成物。
【請求項9】
以下の重量による組成、すなわち
- 80%~99%の割合の成分A、
- 1%~5%の割合の成分B、
- 1%~5%の割合の成分C
(ただし、これらの割合の合計は100%である)
を有する、請求項1~8のいずれかに記載のカソード組成物。
【請求項10】
炭素でコーティングされた活物質(成分B)、導電性材料(成分C)及びフルオロポリマーバインダー(成分A)を使用する、請求項1~9のいずれかに記載のカソード組成物の製造プロセスであって、以下の段階、すなわち、
- 2%~20%、好ましくは2%~15%、有利には4%~14%の乾燥物質含有率で成分AをN-メチルピロリドン(NMP)に溶解することによりポリマーバインダー溶液を調製する段階、
- 成分B及び成分Cをポリマーバインダーの前記溶液に添加し、混合して、金属支持体に塗布することができる電極配合物を得る段階
を含むプロセス。
【請求項11】
アノードと、請求項1~9のいずれかに記載のカソードと、電解質とを含むLiイオン蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、Liイオンタイプの充電式蓄電池における電気エネルギーの貯蔵の分野に関する。より具体的には、本発明は、Liイオン電池用のカソード組成物に関する。本発明はまた、このようなカソード組成物の製造プロセス、及びこのようなカソードを含むLiイオン蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム蓄電池は、携帯電話、ノート型パソコン、小型家庭用電子機器から車両、大容量のエネルギー貯蔵装置等に至るまで、様々な電子機器の電源として使用することができ、リチウム蓄電池の需要は絶えず増大している。
【0003】
電気自動車の大規模開発のためには、電池の製造コストの削減が不可欠であり、想定される選択肢の1つは、コバルトを含まない低コスト活物質を使用することである。さらに、電気自動車の電池の重量エネルギー密度の増加は、この技術の大量採用にとって大きな課題のままである。電極の厚さの増加及び活物質の粒子のサイズの低下は、コスト及びエネルギー密度の観点からこれらの目的を達成することを可能にするであろう。
【0004】
電極の厚さの増加は、電極/集電体の接着を改善することを伴う。粒子のサイズの低下は、インクの粘度の上昇を伴い、電極調製のための従来の堆積プロセスにおけるインクの使用を妨げる。
【0005】
M.SinghらによるJournal of The Electrochemical Society、162(7)、A1196-A1201(2015)の刊行物は、リチウムイオンセルのためのより厚い電極(320μm)の層が、電池の体積当たりの好ましい電極/集電体比を示し、セルの製造コストを削減することを可能にすることを示した。しかし、厚い電極のこのアプローチは、いくつかの定置式エネルギー貯蔵用途には充分であり得るが、電気自動車の製造には適していないであろう。
【0006】
カソードコーティングのための現在の産業設備は、集電体上に堆積されるインクの粘度に関して加工性の窓を課す。これは、2000~8000mPa.s@10s-1の粘度を有するインクは、集電体への塗布が容易なインクであるからである。2000mPa.s未満では、コーティングの塗布及び乾燥中にインクの弛緩が観察され、これは、厚さ及び堆積重量に大きな変動をもたらす。8000mPa.sを超えると、インクが均一に堆積しなくなる。
【0007】
さらに、電池産業において、貯蔵中のインクのレオロジー安定性は、生産性の最適化にとって重要なパラメータである。これは、インクが72時間までの貯蔵の間、その上述のレオロジー特性を保持しなければならないためである。
【0008】
さらに、電極の工業的製造のためのロール・ツー・ロールプロセスは、集電体上に堆積された乾燥物質の接着の最小値を伴う。電極の良好な機械的強度のために、180°剥離試験によって得られるこの接着値は20N/mよりも大きくなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M.SinghらによるJournal of The Electrochemical Society、162(7)、A1196-A1201(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
良好な機械的特性及び接着特性を維持しながら、電気自動車における用途のためのLiイオン電池における重量エネルギー密度を増加させることを可能にするカソードのためのバインダー組成物を開発することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、本発明者らは、カソードの製造に使用されるポリマーバインダーの物理的パラメータが、得られるカソードのレオロジー品質及び機械的性能品質に重要であることを発見した。これは、炭素でコーティングされたカソード活物質上で、本発明は、フルオロポリマーバインダーの初期ヘイズが45~390NTUであることが、最終電極の最適な加工性及び機械的強度を可能にすることを実証するからである。
【0012】
本発明が提案する技術的解決策は、電池用カソード組成物を提供することであって、該組成物は、フルオロポリマーバインダー、電極活物質及び導電性材料を含む。
【0013】
特徴としては、前記フルオロポリマーバインダーが、45~390NTU、好ましくは100~300NTUのポリマーバインダー初期ヘイズを示す。
【0014】
特徴としては、前記電極活物質が、炭素層でコーティングされる。
【0015】
本発明はまた、炭素でコーティングされた活物質と、NMP中7%の濃度で45~390NTUという初期ヘイズを示すフルオロポリマーバインダーとを使用するカソード組成物の製造プロセスを提供することを目的とする。
【0016】
本発明の別の主題は、負極、正極及び(液体又は固体)電解質を含むLiイオン蓄電池であって、陰極については上記の通りであるLiイオン蓄電池である。
【0017】
本発明は、従来技術の欠点を克服することを可能にする。本発明は、そのヘイズがNMP中7%の濃度で45~390NTUである限り、使用されるフルオロポリマーバインダーの性質にかかわらず、機械的特性及び集電体への接着特性に関して、高性能のカソードを製造及び取得するために必要なすべての特定の特徴を満たすことを可能にする電池用のカソード組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、本発明を、以下の説明において、より詳細に、非限定的な方法で説明する。
【0019】
第1の態様によれば、本発明は、以下、すなわち、
- フルオロポリマーバインダー(成分A)、
- 電極活物質(成分B)及び
- 導電性材料(成分C)
を含み、該ポリマーバインダーは、45~390NTU、好ましくは100~300NTUというポリマーバインダーの初期ヘイズを示し、該電極活物質は炭素層でコーティングされている電池用のカソード組成物に関する。
【0020】
様々な実施形態によれば、前記電極組成物は、適切な場合には組み合わされる以下の特徴を含む。示される含有率は、別段の指示がない限り、重量によって表される。
【0021】
<成分A>
本発明で使用されるポリマーバインダーは、二フッ化ビニリデンをベースとするポリマーであり、略称PVDFによって総称される。
【0022】
一実施形態によれば、PVDFは、ポリ(フッ化ビニリデン)ホモポリマー又はフッ化ビニリデンホモポリマーの混合物である。
【0023】
一実施形態によれば、PVDFは、ポリ(フッ化ビニリデン)ホモポリマー又は二フッ化ビニリデンと二フッ化ビニリデンと相溶性のある少なくとも1つのコモノマーとのコポリマーである。
【0024】
一実施形態によれば、PVDFは半結晶性である。
【0025】
二フッ化ビニリデンと相溶性のコモノマーは、ハロゲン化(フッ素化、塩素化又は臭素化)されていてもハロゲン化されていなくてもよい。
【0026】
適切なフッ素化コモノマーの例は、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロプロペン、特に3,3,3-トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、特に2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン、ペンタフルオロプロペン、特に1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル、特に一般式Rf-O-CF-CF2のものであって、Rfはアルキル基、好ましくはC1~C4アルキル基である(好ましい例はペルフルオロプロピルビニルエーテル及びペルフルオロメチルビニルエーテルである)。
【0027】
フッ素化コモノマーは、塩素又は臭素原子を含むことができる。これは、特にブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン及びクロロトリフルオロプロペンから選択することができる。クロロフルオロエチレンは、1-クロロ-1-フルオロエチレン又は1-クロロ-2-フルオロエチレンのいずれかを表すことができる。1-クロロ-1-フルオロエチレン異性体が好ましい。クロロトリフルオロプロペンは好ましくは1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン又は2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである。
【0028】
VDFコポリマーはまた、非ハロゲン化モノマー、例えばエチレン、及び/又はアクリル若しくはメタクリルコモノマーを含むことができる。
【0029】
フルオロポリマーは、好ましくは少なくとも50モル%の二フッ化ビニリデンを含有する。
【0030】
一実施形態によれば、PVDFは、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー(P(VDF-HFP))であり、ヘキサフルオロプロピレンモノマー単位の重量パーセントがコポリマーの重量に対して2重量%~23重量%、好ましくは4重量%~15重量%である。
【0031】
一実施形態によれば、PVDFは、ポリ(フッ化ビニリデン)ホモポリマーとVDF-HFPコポリマーとの混合物である。
【0032】
一実施形態によれば、PVDFは、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレン(TFE)とのコポリマーである。
【0033】
一実施形態によれば、PVDFは、フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマーである。
【0034】
一実施形態によれば、PVDFはVDF-TFE-HFPターポリマーである。一実施形態によれば、PVDFはVDF-TrFE-TFEターポリマー(TrFEはトリフルオロエチレンである)である。これらのターポリマーにおいて、VDFの重量含有率は少なくとも10%であり、コモノマーは様々な割合で存在する。
【0035】
一実施形態によれば、PVDFは、以下の官能基、すなわち、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ(グリシジルなど)、アミド、ヒドロキシル、カルボニル、メルカプト、スルフィド、オキサゾリン、フェノール、エステル、エーテル、シロキサン、スルホン酸、硫酸、リン酸又はホスホン酸の基の少なくとも1つを有するモノマー単位を含む。官能基は、当業者に周知の技術に従って、フッ素化モノマーと、前記官能基の少なくとも1つ及びフッ素化モノマーと共重合することができるビニル官能基を有するモノマーとのグラフト化又は共重合であり得る化学反応によって導入される。
【0036】
一実施形態によれば、官能基は、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートから選択される(メタ)アクリル酸タイプの基であるカルボン酸官能基を有する。
【0037】
一実施形態によれば、カルボン酸官能基を有する単位は、酸素、硫黄、窒素及びリンから選択されるヘテロ原子をさらに含む。
【0038】
一実施形態によれば、官能基は、合成プロセス中に使用される移動剤によって導入される。移動剤は、以下の基、すなわち、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ(グリシジルなど)、アミド、ヒドロキシル、カルボニル、メルカプト、スルフィド、オキサゾリン、フェノール、エステル、エーテル、シロキサン、スルホン酸、硫酸、リン酸又はホスホン酸の基から選択される官能基を有する20000g/mol以下のモル質量を有するポリマーである。このタイプの移動剤の例は、アクリル酸オリゴマーである。
【0039】
PVDF中の官能基の含有率は、0.01モル%以上、好ましくは0.1モル%以上であり、15モル%以下、好ましくは10モル%以下である。
【0040】
PVDFは高分子量であることが好ましい。ここで使用する用語「高分子量」は、100Pa.s超、好ましくは500Pa.s超、より好ましくは1000Pa.s超、有利には2000Pa.s超の溶融粘度を有するPVDFを意味すると理解される。粘度は、規格ASTM D3825に従って、キャピラリーレオメーター又は平行プレートレオメーターを用いて、232℃で、100s-1の剪断勾配で測定される。2つの方法は、同様の結果を与える。
【0041】
本発明において使用されるPVDFホモポリマー及びVDFコポリマーは、既知の重合方法、例えば乳化重合によって得ることができる。
【0042】
一実施形態によれば、それらは、フッ素化界面活性剤の非存在下で乳化重合プロセスによって調製される。
【0043】
PVDFの重合は、一般に10重量%~60重量%、好ましくは10重量%~50重量%の固形分を有し、1マイクロメートル未満、好ましくは1000nm未満、好ましくは800nm未満、より好ましくは600nm未満の重量平均粒径を有するラテックスをもたらす。粒子の重量平均サイズは一般に少なくとも10nm、好ましくは少なくとも50nmであり、有利には平均サイズは100~400nmの範囲内である。ポリマー粒子は、二次粒子と呼ばれる弱凝集体を形成することができ、その重量平均サイズは、5000μm未満、好ましくは1000μm未満、有利には1~80マイクロメートルの間、好ましくは2~50マイクロメートルである。弱凝集体は、配合化及び基材への塗布中に別個の粒子に分解することができる。
【0044】
いくつかの実施形態によれば、PVDFホモポリマー及びVDFコポリマーは、バイオベースのVDFから構成される。用語「バイオベース」は、「バイオマスから得られること」を意味する。これにより、膜の生態学的フットプリントを改善することができる。バイオベースのVDFは、規格NF EN 16640に従って14Cの含有率によって決定されるように、少なくとも1原子%の再生可能炭素、すなわち、生体材料又はバイオマスに由来する天然起源の炭素の含有率によって特徴付けることができる。用語「再生可能炭素」は、以下に示すように、炭素が天然起源であり、生体材料(又はバイオマス)に由来することを示す。いくつかの実施形態によれば、VDFのバイオ炭素含有率は、5%超、好ましくは10%超、好ましくは25%超、好ましくは33%以上、好ましくは50%超、好ましくは66%以上、好ましくは75%超、好ましくは90%超、好ましくは95%超、好ましくは98%超、好ましくは99%超、有利には100%に等しくあり得る。
【0045】
特徴として、前記フルオロポリマーバインダーは、NMP中7%の濃度で45~390NTU、好ましくはNMP中7%の濃度で100~300NTUという初期ヘイズを示す。頭字語「NTU」は、比濁法濁度単位を意味する。
【0046】
ヘイズ値は、10~800NTUの範囲のStablcal(R)ホルマジンのいくつかの標準溶液で予め較正された濁度計を使用して測定される。この測定は、N-メチルピロリドン(NMP)中に77.5g/lの重量濃度で25℃の温度で溶解したポリマーバインダーの溶液で実施され、これはNMP(乾燥物質)中の7%の濃度に等しい。
【0047】
ポリマーバインダーは、擬似プラネタリーミキサー、プラネタリーミキサー、ロールタイプミキサー、分散機及び従来の撹拌などの当業者に既知の任意の方法によってNMPに溶解される。用語「初期」は、NMP中に溶解したフルオロポリマーの状態を指す。
【0048】
<成分B>
表現「炭素でコーティングされた活物質」は、透過型電子顕微鏡によって測定して、5nm~1μmの範囲のグラファイト層で被覆された任意の無機リチウム挿入化合物を意味すると理解される。
【0049】
活物質の元素粒子のサイズは、レーザー粒径分析によって測定して100nm~5μmである。
【0050】
一実施形態によれば、正極中の活物質は、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウム/マンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4又はLixMnO2)、リチウム/ニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウム/コバルト複合酸化物(例えばLixCoO2)、リチウム/ニッケル/コバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCoyO2)、リチウム/ニッケル/コバルト/マンガン複合酸化物(例えば、x+y+z=1であるLiNixMnyCozO2)、リチウム富化リチウム/ニッケル/コバルト/マンガン複合酸化物(例えば、Li1+x(NixMnyCoz)1-xO2)、リチウム/遷移金属複合酸化物、スピネル構造のリチウム/マンガン/ニッケル複合酸化物(例えば、LixMn2-yNiyO4)、高電圧ニッケル/マンガン複合酸化物(例えば、LiMn1.5Ni0.5-XxO4(Xは、Al、Fe、Cr、Co、Rh及びNdから選択され、0<x<0.1である))、酸化バナジウム、S8タイプの硫黄の酸化物及びそれらの混合物から選択される。
【0051】
一実施形態によれば、前記活物質はコバルトを含有しない。これは、LiFePO4、LiMnPO4、LiFexMnyPO4、LiFePO4F、LiMnPO4F及びLiFexMnyPO4F(x+y=1)から選択される。
【0052】
<成分C>
導電性物質は、カーボンブラック、天然若しくは合成のグラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維及び金属粉末、並びに導電性金属酸化物から選択される。優先的には、それらは、カーボンブラック、天然若しくは合成のグラファイト、炭素繊維及びカーボンナノチューブから選択される。
【0053】
本発明によるカソードコーティングの重量による組成は、
- 80%~99%の割合の成分A、
- 1%~10%の割合の成分B、
- 1%~10%の割合の成分C
であり、これらの割合の合計は100%である。
【0054】
本発明はまた、炭素でコーティングされた活物質、導電性材料及びフルオロポリマーバインダーを用いるカソード組成物の製造プロセスであって、以下の段階を含むプロセスに関する。
- 2%~20%、好ましくは2%~15%、有利には4%~14%の乾燥物質含有率で成分AをN-メチルピロリドン(NMP)に溶解することによるポリマーバインダー溶液の調製段階、
- 成分B及び成分Cをポリマーバインダーの前記溶液に添加し、混合して、金属支持体に塗布することができる電極配合物(インクとも呼ばれる)を得る段階。
【0055】
本発明はまた、以下の段階を含むLiイオン電池正極の製造プロセスに関する。
- 金属支持体に塗布することができる電極配合物を提供する段階、
- 金属基材上へ前記電極配合物を堆積させる段階、
- 熱処理(機械的圧力なしでポリマーの融点より50℃まで高い温度範囲の適用)及び/又はカレンダー加工などの熱機械的処理による前記電極を圧密化する段階。
【0056】
一実施形態によれば、カソードは、以下の段階に従って製造された。すなわち、ポリマーバインダーが完全に溶解するまで、N-メチル-2-ピロリドン中のポリマーバインダーの7重量%溶液を調製する。次いで、Super P C65カーボンブラック(供給社Timcal)をこの溶液に添加する。メカニカルスターラーを用いて溶液を混合する。次いで、炭素でコーティングされた活物質を添加する。炭素でコーティングされた活物質/カーボンブラック/バインダーの混合物100重量部に対して、炭素でコーティングされた活物質94重量部、カーボンブラック3重量部、及びバインダー3重量部を含有するインクを得る。得られたインクを、湿潤厚さが200μmとなるようにアルミニウムシート上に堆積させた。次いで、コーティングされたシートを90℃で15分間、次いで150℃で30分間加熱することによって、NMPを蒸発させる。こうして、70±10μmの厚さを有するコーティングが得られる。
【0057】
電極の金属支持体は、通常、カソード用にはアルミニウムで作られる。金属支持体は表面処理されていてもよく、5μm以上の厚さを有する導電性プライマーを有することができる。支持体は、炭素繊維で作られた織布又は不織布であってもよい。
【0058】
本発明の別の主題は、負極、正極及び電解質を含むLiイオン蓄電池であって、カソードについては上記した通りであるLiイオン蓄電池である。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、本発明の範囲を非限定的に例示する。
【0060】
ホモポリマー1:NMP中で4000mPa.sの溶液中の粘度を特徴とするフッ化ビニリデンホモポリマー
ホモポリマー2:NMP中での5000mPa.sの溶液中の粘度を特徴とするフッ化ビニリデンホモポリマー
ホモポリマー3:NMP中で2000mPa.sの溶液中の粘度を特徴とするフッ化ビニリデンホモポリマー
ホモポリマー4:NMP中で11000mPa.sの溶液中の粘度を特徴とするフッ化ビニリデンホモポリマー
ホモポリマー5:NMP中で10000mPa.sの溶液中の粘度を特徴とするフッ化ビニリデンホモポリマー
機能性コポリマー1:NMP中で6000mPa.sの溶液中の粘度を特徴とするフッ化ビニリデンとアクリル酸とのコポリマー。
機能性コポリマー2:NMP中で2000mPa.sの溶液中の粘度を特徴とするフッ化ビニリデンとアクリル酸とのコポリマー。
【0061】
これら全ての生成物について、乾燥物質含有率は8%である。
【0062】
<NMPに溶解したポリマーバインダーの溶液粘度の測定>
粘度測定は、SC4チャンバー及び25スピンドルを備えたBrookfield DV2T粘度計で実施する。温度を25℃のHuber浴で調節する。
【0063】
<ヘイズの測定>
ポリマーバインダーのヘイズを、ポリマーを重量濃度77.5g/lで25℃の温度でN-メチルピロリドン(NMP)に溶解することによって測定する。
【0064】
10~800NTUの範囲のStablcalホルマジンのいくつかの標準溶液を用いて予め較正したHach 2100 Q濁度計によって、ヘイズ値を決定する。
【0065】
<接着力の測定>
炭素でコーティングされた活物質/カーボンブラック/バインダーの混合物で形成された層とアルミニウムシートとの間の接着力を測定する。これを行うために、25mmの幅を有するストリップを切り出す。このストリップを、続いて、両面接着剤を使用して剛性アルミニウムプレートに接着結合し、接着剤を、炭素でコーティングされた活物質/カーボンブラック/バインダーのコーティングの側面上に堆積させる。34SC1タイプのInstron製のダイナモメーターを使用して、一方のジョーに硬いアルミニウムプレートを、他方のジョーに、その上に堆積を行った可撓性アルミニウムシートを固定することによって、剥離試験を実施する。この構成では、剥離角度は180°である。ジョーの変位速度を100mm/分に設定する。
【0066】
<金属支持体に塗布することができる電極配合物の粘度の測定>
電極配合物の粘度を、TA HR 10レオメーターを用いて23℃で測定した。炭素でコーティングされた活物質/カーボンブラック/バインダーの混合物100重量部に対して、炭素でコーティングされた活物質94重量部と、カーボンブラック3重量部と、バインダー3重量部とを含むインクを、1mm(=ギャップ1mm)離れた2枚の平行板(直径40mm)の間に堆積させる。0.1s-1~100s-1の範囲の異なる剪断速度で、粘度の値を得る。10s-1の値を異なる配合物間の比較とする。
【0067】
本発明による組成物(実施例1、2及び7)対比較例3、4及び5を有するカソードの接着力及び電極配合物の粘度に関する性能品質を表1に示す。
【0068】
【国際調査報告】