(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】鋼板中の水素含有量の評価方法
(51)【国際特許分類】
C21D 1/74 20060101AFI20241203BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20241203BHJP
C21D 1/26 20060101ALI20241203BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241203BHJP
C22C 38/38 20060101ALN20241203BHJP
C22C 38/14 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
C21D1/74 K
C21D9/46 Z
C21D1/26 Z
C22C38/00 301F
C22C38/38
C22C38/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535826
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-08-13
(86)【国際出願番号】 IB2022061809
(87)【国際公開番号】W WO2023111771
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2021/061904
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュドネ,トマ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA27
4K037EB02
4K037EB05
4K037EB11
4K037EB12
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FK02
4K037FK08
(57)【要約】
本発明は、焼鈍工程に供されている間の鋼板中の水素含有量の評価方法であって、以下のステップ、温度曲線に従って鋼板の微細構造を推定するステップと、水素の溶解度CHを計算するステップと、転位中のトラップされた水素の体積濃度CTおよび結晶格子の格子間サイト中の水素の体積濃度CLを計算するステップと、焼鈍工程の各時間ステップでの水素含有量Ctotal=CL+CTを算出するステップと、各時間ステップでの水素含有量Ctotalをユーザに出力するステップとを含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱経路に従って少なくとも1つの焼鈍工程を受ける鋼板中の、水素含有量の評価方法であって、温度は、水素を含有する雰囲気を有する炉内のセンサによって測定されることができ、前記鋼板は、原子が結晶格子内に配置された粒子を含み、したがって、転位および格子間サイトを含む鋼の微細構造を形成し、前記方法は、以下の連続するステップ、
-熱経路の関数として鋼板の微細構造を決定するステップと、
-微細構造、温度T、および水素分圧p
H2の関数として、鋼板の表面における水素の溶解度C
Hを計算するステップと、
-転位中のトラップされた水素の体積濃度C
Tおよび格子間サイト中の水素の体積濃度C
Lを、温度T、水素のトラップ速度k、水素のデトラップ速度p、C
H、および微細構造の関数として計算するステップと、
-焼鈍工程の任意の時点での水素含有量C
total=C
L+C
Tを算出するステップと、
-コンピュータディスプレイを通して、いつでも水素含有量C
totalをユーザに出力するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
C
TおよびC
Lは、前記鋼板の厚さの少なくとも一部にわたって以下の式、
【数1】
【数2】
D
Lは結晶格子中の水素の格子拡散係数、
xは前記鋼板の内側の深さ、
N
Lは格子間サイトの体積密度、
N
Tは転位の体積密度、
N
Aはアボガドロ定数、
を解くことによって算出される、請求項1に記載の鋼板中の水素含有量の評価方法。
【請求項3】
水素の溶解度C
Hは、以下の式、
Ac3以下の温度Tの場合、
【数3】
Ac3を超える温度Tの場合、
【数4】
p
H2は炉内の水素分圧であり、C
Hはat%で表される
によって算出される、請求項1および2のいずれか一項に記載の、鋼板中の水素含有量の評価方法。
【請求項4】
鋼板の微細構造は、フェライト、オーステナイト、マルテンサイト、およびベイナイトのうちの少なくとも1つの相を含有し、水素の格子拡散係数D
Lは、以下の式、
フェライト、マルテンサイト、およびベイナイトにおいて
【数5】
オーステナイトにおいて
【数6】
によって算出される、請求項1~3のいずれか一項に記載の、鋼板中の水素含有量の評価方法。
【請求項5】
水素のトラップ速度kおよび水素のデトラップ速度pは、以下の式、
【数7】
【数8】
k
0およびp
0はトラップおよびデトラップ係数、E
Tはトラップエネルギー、E
Dはデトラップエネルギー、Rは普遍定数気体、
により算出される、請求項1~4のいずれか一項に記載の、鋼板中の水素含有量の評価方法。
【請求項6】
転位の体積密度N
Tは、以下の式、
【数9】
ρ
disは転位の表面密度、αはBurgerベクトル当たりの転位数、a
bccは格子パラメータ、
によって算出される、請求項1~5のいずれか一項に記載の、鋼板中の水素含有量の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍工程に供されている間に鋼板中の水素含有量を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板は、原子が結晶格子状に配列されて鋼の微細構造を形成する粒子からなる。これらの原子間の空間は格子間サイトと呼ばれる。原子の配列は完全に規則的ではなく、線状欠陥である転位の場合のように、何らかの配列欠陥が生じ得る。
【0003】
鋼板の熱処理中、炉の雰囲気中に存在する水素原子は、鋼に容易に浸透し、吸収され得る。実際、水素は、結晶格子の格子間サイトのサイズと同程度の原子サイズのために結晶格子内に拡散することができる。水素原子は、漸進的に拡散し、転位などの欠陥の内部にトラップされ得る。
【0004】
鋼板中の水素の導入および拡散は、鋼板の脆性の原因となる機構の1つであり、例えば、粒界および/または転位滑り面に沿った亀裂形成をもたらし得る。
【0005】
水素のために、鋼帯は、水素脆化とも呼ばれる延性の損失を被る可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、焼鈍工程を受けている鋼板中の水素含有量を評価する方法を提供し、いつでも水素含有量をユーザへ出力することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、請求項1に記載の方法を提供することによって達成される。方法はまた、請求項2~6のいずれか一項に記載の特徴を備えることができる。
【0008】
以下、CLは鋼板の結晶格子の格子間サイトの水素の濃度を示し、CTは鋼板中のトラップされた水素の濃度を示す。転位は、微細構造中に均一に分布した、本発明で考慮される唯一のトラップサイトである。
【0009】
以下に、添付の図面を参照して、本発明を詳細に説明し、限定を導入することなく実施例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】本発明の方法の一実施形態で使用されるセルを示し、工程P1の点F
1における微細構造を表す。
【
図4】P0のC
L、C
TおよびC
total=C
L+C
Tの時間発展を表す。
【
図5】P1のC
L、C
TおよびC
totalの時間発展を表す。
【
図6】P2のC
L、C
TおよびC
totalの時間発展を表す。
【
図9】P3のC
L、C
TおよびC
totalの時間発展を表す。
【
図10】P4のC
L、C
TおよびC
totalの時間発展を表す。
【
図11】本発明の方法の一実施形態で使用されるセルを示し、工程P3の点E
3における微細構造を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による方法は、少なくとも1つの焼鈍工程を受ける鋼板の拡散水素含有量の評価を扱う。
【0012】
この焼鈍の間、鋼板は、熱経路に従って、少なくとも1つの加熱工程および1つの冷却工程に供される。通常、熱処理は、酸化性雰囲気、すなわち、例えば、O2、CH4、CO2またはCOである酸化性ガスを含む雰囲気中で行われることができる。それらはまた、中性雰囲気、すなわち、例えばN2、ArまたはHeである中性ガスを含む雰囲気中で行われることができる。最後に、それらはまた、還元雰囲気、すなわち、例えば、H2またはHNxである還元ガスを含む雰囲気中で行われることもできる。
【0013】
好ましい実施形態では、熱経路はまた、少なくとも1つの等温保持ステップを含むことができ、これには通常、加熱ステップが先行し、その後に冷却ステップが続くことができる。冷却ステップは、過時効サブステップと呼ばれる等温保持と、それに続く後続の冷却ステップとを含むことができる。高温金属浴中の溶融めっきコーティング工程はまた、そのような熱経路中に使用されることができ、そのような高温金属浴中に浸漬された金属板がそのような浴中での保持時間中に浴温度に維持されるため、別のタイプの等温保持である。
【0014】
前記焼鈍は、例えば、再結晶焼鈍、回復または焼き戻しであってもよく、その後にこれらの熱処理、
-急冷および焼き戻し、
-急冷および分離
を行うことができる。
【0015】
本発明による熱経路は、連続温度T、加熱および冷却速度、ならびに焼鈍工程および任意の後続の熱処理の各セクションで費やされる時間に対応する。
【0016】
熱経路の温度は、焼鈍および任意の後続の熱処理中にセンサによって、またはソフトウェアを使用して行われる算出によって測定されることができる。
【0017】
本発明による方法の第1のステップは、例えばCOMSOL(R)のようなソフトウェアを使用して行われる算出によって、焼鈍工程の熱経路の関数として鋼板の微細構造を決定することである。微細構造はまた、X-CAP(R)などの鋼中のオーステナイト含有量を測定することができる炉内のセンサによって決定することができる。
【0018】
本発明の枠組では、微細構造の発展(evolution)は、所与の温度での相変化に対応する特定の点でのみ瞬間的に起こる。次いで、鋼板の表面における水素の溶解度CHが算出される。水素の溶解度は、鋼板に溶解する水素の適性である。この溶解度は、温度、水素の分圧、および鋼板の微細構造に存在する相に依存する。これは、以下の式[1]および式[2]によって算出されることができる。
【0019】
Ac3以下、好ましくは280K~1184Kの温度Tの場合、
【数1】
【0020】
加熱が行われる温度曲線の最初の部分では、フェライトが鋼板の主な構造である。フェライト中の水素の溶解度CHは、上記式[1]を用いて適切に算出される。
【0021】
冷却が行われる温度曲線の最後の部分では、Ac3を超えて形成されたオーステナイトの一部は、鋼の組成および冷却速度に応じて、ベイナイトおよび/またはマルテンサイトに変態する可能性がある。曲線のその部分では、ベイナイトおよびマルテンサイト中の水素の溶解度CHはフェライトと同じであると仮定され、上記式[1]も使用して適切に得られることができる。
【0022】
Ac3を超える、好ましくは1184K~1667Kの温度Tの場合、
【数2】
【0023】
高温での保持が起こり得る温度曲線の中央部では、オーステナイトが鋼板中の主相であると仮定し、オーステナイト中の水素の溶解度CHは上記式[2]を用いて適切に算出される。
【0024】
式[1]および式[2]の両方において、CHはat%で表され、pH2は炉内の水素分圧であり、Paで表される。これらの両方の式は、Fromm&Jehn「Hydrogen in Elements」、(Bull.Alloys Phase Diagrams、5(3)、323~326(1984))の刊行物からのものである。
【0025】
鋼板の表面における水素の溶解度C
Hを決定することは、本発明による方法の次のステップのための入力として必要であり、結晶格子の格子間サイトにおける水素の体積濃度C
Lおよび鋼板中のトラップされた水素の体積濃度C
Tは、いずれも鉄1m
3あたりの水素のモル数(mol
H/m
3
Fe)で表され、以下の式を解くことによって数値シミュレーションを用いて計算される。
【数3】
【数4】
【0026】
ここで、式[3]および式[4]の両方の異なるパラメータおよび定数が説明される。
【0027】
DLは、m2/sで表される結晶格子内の拡散係数であり、温度およびその温度で鋼板に存在する相に依存する。この拡散係数は、水素の材料内部への拡散し易さを表す。係数が大きいほど、水素が拡散しやすくなる。
【0028】
フェライト、マルテンサイトおよびベイナイトでは、この水素の係数拡散D
Lは同じであると仮定され、以下の式によって算出される。
【数5】
【0029】
オーステナイトでは、水素の係数拡散D
Lは、以下の式に従って算出される。
【数6】
R=8.314J/mol・Kは普遍気体定数であり、TはKで表される温度である。
【0030】
これらの式から、同等の温度では、水素がオーステナイトよりもフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトに拡散しやすいことが分かる。
【0031】
NL=5.2×1029サイト/m3は、鋼板中の格子間サイトの体積密度である。本発明による方法では、NLは微細構造のすべての相で同じであると仮定される。
【0032】
N
Tは転位の体積密度であり、サイト/m
3で表される。転位は、E
B=27000J/molの関連するトラップエネルギーを有する。本発明による方法では、1つの転位が1つ以上の水素原子をトラップすることができる。転位の体積密度N
Tは、以下の式、
【数7】
により、サイト/m
2で表される転位の表面密度ρ
disを使用して算出され、αは、Burgerベクトル当たりの転位の数であり、水素原子をトラップする転位の能力を表す。この係数が高いほど、転位は水素原子をより多くトラップする。a
bccは、オングストロームで表されるbcc構造の格子パラメータである。本発明の枠組みにおいて、この格子パラメータは、すべてのbcc構造であるフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトにおいて同じである。好ましい実施形態では、これらのパラメータは以下の値をとることができる。
α=7
a
bcc=2.87Å
【0033】
本発明の枠組において、水素の原子は、それらの低い拡散係数のために、オーステナイト中の転位によってトラップされ得ない。
【0034】
kおよびpはそれぞれ、水素トラップ速度およびデトラップ速度であり、s
-1で表され、時間の関数としてそれぞれトラップおよびデトラップされた水素原子の量に対応し、以下の式によって規定される。
【数8】
【数9】
【0035】
ET=4150J/molは、トラップのエネルギーであり、これは水素原子がトラップされるために提供しなければならないエネルギーであり、また、ED=ET+EB=31150J/molは、水素がデトラップされるために提供しなければならないエネルギーである。
【0036】
定数k0およびp0は、s-1で表される水素トラップ係数およびデトラップ係数である。それらは、微細構造の異なる相におけるNTと共にCTおよびCLを算出するためのフィッティングパラメータとして使用される。そのようなフィッティングパラメータは、所与の鋼組成で行われた実験と本発明による算出との比較によって決定することができ、実験値および算出値が収束するまで繰り返される。
【0037】
最後に、NA=6.02×1023mol-1はアボガドロ数である。
【0038】
上述したように、本発明の方法の枠組みで行われる算出のいくつかは、温度曲線の所与の点で鋼中に存在する相に依存する。さらに、式[3]は、算出が行われる鋼部分の深さxに依存する。鋼板の厚さ全体にトラップされた水素の正確な評価を与えるために、鋼板は、鋼板の厚さの少なくとも一部をシミュレートするために、5μm×5μmのN個のセルの繰り返しからなると考えることが好ましい。好ましい実施形態では、鋼板の厚さの半分が使用され、Nは以下の式、
N=鋼板の厚さ/(2*5μm)
によって算出される。
【0039】
鋼板の他の半分の厚さは、第1の厚さと全く同様に挙動し、水素の拡散は鋼板の全長において均一である。
【0040】
次いで、CH値は温度曲線に沿って式[1]および[2]を使用して算出されることができる。次いで、そのようなCH値は、セルの第1行のCL値として使用される。
【0041】
式[3]および[4]が各セルに連続的に適用されて、最終的に鋼板の全厚に対するCTおよびCLの値を提供することができる。
【0042】
本発明による方法の最後のステップでは、トータル水素含有量Ctotalは、コンピュータディスプレイを介してユーザに出力される前に、任意の時点でCLとCTとの和を算出することによって決定される。
【0043】
本発明は以下の実施例によって説明されるが、これらは決して限定的なものではない。
【0044】
(実施例1)
0.07wt%のC、2.62wt%のMn、0.25wt%のSi、0.3wt%のCr、0.16wt%のAl、0.091wt%のMoからなり、組成の残りは鉄および精錬から生じる不可避の不純物の組成および厚さ1mmを有する冷延鋼板が供給される。
【0045】
次いで、そのような鋼板は、
図1および
図2に記載されているように、工程P0、P1およびP2のうちの1つの焼鈍工程を受けることができる。すべての工程において、鋼板は790℃の温度T
Hに加熱され、5%の水素、残りはN
2からなる雰囲気を有し、-50℃の露点を有する炉内で、保持時間t
Hにわたって前記温度に維持される。
【0046】
次いで、工程P0において、鋼板は室温(RT)まで冷却される。
【0047】
工程P1では、鋼板は、THから465℃の温度T1まで冷却され、86秒の保持時間t1の間前記温度に維持された後、10℃/秒の冷却速度で室温まで冷却される。
【0048】
工程P2では、鋼板は、まず、THから600℃の温度T1まで2.6℃/sの冷却速度で徐冷され、次に、T1から465℃の温度T2まで40℃/sの冷却速度で冷却される。鋼板は、86秒の保持時間t2にわたって前記温度T2に維持され、その後10℃/秒の冷却速度で室温(RT)に冷却される。
【0049】
各工程における温度Msは、膨張測定によって得られる。
【0050】
水素含有量の実験値を得るために、これらの工程パラメータを用いて実験が行われた。以下の特定の条件が適用された:
【0051】
【0052】
表2:実験水素含有量
実験水素含有量は、工程の最後にTDA実験によって測定される。水素の熱脱離を得るために、鋼板は1200℃/hの加熱速度で加熱された。
【0053】
対応する拡散性水素含有量は表2にまとめられる。
【0054】
【0055】
本発明に従って評価される水素含有量
まず、
図1および
図2に表すように、温度曲線の各点(A0,B0,C0,D0,E0;A1,B1,C1,D1,E1,F1,G1;A2,B2,C2,D2,E2,F2,G2,H2)で鋼板の微細構造が推定される。
【0056】
微細構造の相変態は、示された点でのみ瞬時に起こる。推定された微細構造は表3にまとめられている。
【0057】
【0058】
THまでの加熱ステップ中、フェライトは、温度がAC1に達するまで主相であり、そこでフェライトはオーステナイトに変態し始める。点B0、B1およびB2でそれぞれ開始するTHでの保持ステップの間、微細構造はフェライトおよびオーステナイトからなる。
【0059】
工程P0では、室温での冷却中に、すべてのオーステナイトがMs0温度(点D0)でマルテンサイトに変態する。
【0060】
点C1で始まる工程P1の第1の冷却中、オーステナイトの一部はベイナイトに変態する。D1から始まる後続の保持ステップ中に、オーステナイトはベイナイトに変態し続ける。E1で開始する冷却中の微細構造は、D1とE1との間のステップと同じである。オーステナイトは、Ms1温度に対応する点F1でマルテンサイトに最終的に変態する。
【0061】
工程P2では、C2で開始する徐冷中、相変態は起こらない。オーステナイトの一部は、D2から始まる後続の冷却中にベイナイトに変態する。E2で開始する後続の過時効中に、オーステナイトはベイナイトに変態し続ける。F2の微細構造はE2と同じであり、オーステナイトはMs2温度の点G2でマルテンサイトに変態する。
【0062】
鋼板の厚さの半分は、5μm×5μmのN=100個のセルの繰り返しによってシミュレートされる。表3の相百分率は、点F
1における微細構造に対応する
図3に示されるように、セルの表面の百分率を通して考慮される。セルの表面の25%は、鋼内部のマルテンサイトの25%を表し、セルの表面の45%は、ベイナイトの45%を表し、セルの表面の30%は、鋼板内部のフェライトの30%を表す。
【0063】
次いで、相変態が起こるすべての点について、5066.5Paの水素分圧pH2で式[1]および[2]を使用してCH値が算出される。次いで、そのようなCH値は、セルの第1行のCL値として使用される。
【0064】
以下のプロトコルを用いて、NTならびにトラップ係数およびデトラップ係数が当てはめられた。実施例1による組成を有する鋼板は、5%のH2、残りはN2からなる雰囲気を有する炉内で850℃の温度で加熱され、260秒の保持時間にわたって前記温度に維持された後、急冷された。次いで、各鋼板中の実験水素含有量が、1200℃/hの加熱速度で鋼板を加熱することにより、TDA実験により測定された。
【0065】
数回の反復の後、最良のフィッティングパラメータは以下のように選択された。
k0=105s-1
p0=102s-1
フェライト中のNT=1024サイト/m3
ベイナイト中のNT=5 1024サイト/m3
マルテンサイト中のNT=1025サイト/m3
【0066】
次いで、結晶格子の格子間サイトにおける水素の体積濃度CLおよび鋼板中のトラップされた水素の体積濃度CTは、上記の微細構造を考慮して、および熱曲線に沿って相変態が生じる点のそれぞれについて、式[3]および[4]を解くことによって計算される。
【0067】
次いで、C
total(C
total=C
L+C
L)がこれらの各点で算出され、オペレータに送信される。すべての点を集めたそれぞれの曲線は、工程P0、P1およびP2に対応する
図4~
図6に示されている。
【0068】
工程P0の場合、本発明による方法によって決定される最終水素含有量は、焼鈍工程の最後に実験的に測定された0.34ppmと比較して0.36ppmである。
【0069】
工程P1およびP2の場合、本発明による方法によって決定される最終水素含有量は、実験的に測定された0.10ppmと比較して0.09ppmである。
【0070】
これらの実施例によって示されるように、本発明による方法は、水素含有量の発生を良好に予測する。
【0071】
これは、本発明による方法が、鋼板の製造中にユーザに出力されるために、いつでも水素含有量を正確に評価できることを示している。
【0072】
(実施例2)
0.19wt%のC、3.86wt%のMn、1.27wt%のSi、0.39wt%のAl、0.2wt%のM0、0.0235wt%のNb、0.0293wt%のTiの組成を有し、組成の残部が鉄および精錬から生じる不可避の不純物であり、厚さが1.2mmの冷延鋼板が供給される。次いで、そのような鋼板は、
図7および
図8に記載されるように、工程P3およびP4の間で焼鈍工程を受けることができる。
【0073】
すべての工程において、鋼板は850℃の温度THに加熱され、159秒の保持時間tHの間、前記温度に維持される。次いで、鋼板は2℃/秒の冷却速度でTHから600℃の温度T1まで冷却された後、170℃の温度TQまで急冷される。
【0074】
次いで、工程P3において、鋼板はTQから室温(RT)まで冷却される。
【0075】
次いで、工程P4において、鋼板はTQから450℃の温度Toまで再加熱され、102秒の保持時間toにわたって前記温度Toに維持され、その後室温まで冷却される。
【0076】
各工程におけるこのグレードの温度Msは、膨張測定によって得られる。
【0077】
水素含有量の実験値を得るために、これらの工程パラメータを用いて実験が行われた。以下の特定の条件が適用された:
【0078】
【0079】
水素含有量の実験値を得るために、これらの工程パラメータを用いた試験が行われた。
【0080】
表5:実験水素含有量
実験水素含有量は、1200℃/hの加熱速度で鋼板を加熱することにより、工程の最後にTDA実験により測定される。
【0081】
対応する水素含有量は表5にまとめられる。
【表5】
【0082】
本発明に従って評価される水素含有量
まず、
図7および
図8に表されるように、温度曲線の各点(A3,B3,C3,D3,E3,F3,G3;A4,B4,C4,D4,E4,F4,G4,H4)で鋼板の微細構造が推定される。
【0083】
微細構造の相変態は、示された点で瞬時に起こる。推定された微細構造は表6にまとめられる。
【0084】
【0085】
THまでの加熱ステップの間、フェライトは、温度がAC3に達するまで主相であり、そこでフェライトはオーステナイトに変態する。点B3および点B4でそれぞれ開始するTHでの保持ステップ中、微細構造はオーステナイトの100%からなる。
【0086】
工程P3では、点C3および点D3において、微細構造はB3の微細構造と同じである。すべてのオーステナイトは、E3に対応するMs温度でマルテンサイトに変態し、微細構造は工程の最後まで変化しない。
【0087】
工程P4では、点C4および点D4において、微細構造はB4の微細構造と同じである。オーステナイトの一部は、E4に相当するMs温度でマルテンサイトに変態し、微細構造は工程の最後まで変化しない。
【0088】
鋼板の厚さの半分は、5μm×5μmのN=120個のセルの繰り返しによってシミュレートされる。表5の相百分率は、点E
4での微細構造に対応する
図11に表されるように、数値セルの表面の百分率を通して考慮される。セルの表面の15%は鋼内部のオーステナイトの15%を表し、セルの表面の85%は分配されたマルテンサイト(partitioned martensite)の85%を表す。
【0089】
次いで、相変態が起こるすべての点について、5066.5Paの水素分圧pH2で式[1]および[2]を使用してCH値が算出される。次いで、そのようなCH値は、セルの第1行のCL値として使用される。
【0090】
以下のプロトコルを用いて、NTならびにトラップ係数およびデトラップ係数が当てはめられた。実施例2による組成を有する鋼板は、5%のH2、残りはN2からなる雰囲気を有する炉内で850℃の温度で加熱され、260秒の保持時間にわたって前記温度に維持された後、急冷された。次いで、各鋼板中の実験水素含有量が、1200℃/hの加熱速度で鋼板を加熱することにより、TDA実験により測定された。
【0091】
数回の反復の後、最良のフィッティングパラメータは以下のように選択された。
k0=105s-1
p0=102s-1
フェライト中のNT=1024サイト/m3
ベイナイト中のNT=5 1024サイト/m3
マルテンサイト中のNT=1025サイト/m3
【0092】
次いで、結晶格子の格子間サイトにおける水素の体積濃度CLおよび鋼板中のトラップされた水素の体積濃度CTは、上記の微細構造を考慮して、および熱曲線に沿って相変態が生じる点のそれぞれについて、式[3]および[4]を解くことによって計算される。
【0093】
次いで、C
total(C
total=C
L+C
L)がこれらの各点で算出され、オペレータに送信される。すべての点を集めたそれぞれの曲線は、工程P3およびP4に対応する
図9および
図10に示されている。
【0094】
これらの実施例によって示されるように、本発明による方法は、水素含有量の変化(evolution)を良好に予測する。
【0095】
点G3(t=430秒)における工程P3の最後に算出された水素含有量の数値は、実験的に測定された0.38ppmと比較して0.37ppmである。工程P4の点H4(t=590秒)において、算出された水素含有量の数値は、実験的に測定して0.07ppmである。
【0096】
水素含有量は、焼鈍工程の任意の時点でユーザに出力することができ、曲線全体も焼鈍工程の最後に出力されることができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱経路に従って少なくとも1つの焼鈍工程を受ける鋼板中の、水素含有量の評価方法であって、温度は、水素を含有する雰囲気を有する炉内のセンサによって測定されることができ、前記鋼板は、原子が結晶格子内に配置された粒子を含み、したがって、転位および格子間サイトを含む鋼の微細構造を形成し、前記方法は、以下の連続するステップ、
-熱経路の関数として鋼板の微細構造を決定するステップと、
-微細構造、温度T、および水素分圧p
H2の関数として、鋼板の表面における水素の溶解度C
Hを計算するステップと、
-転位中のトラップされた水素の体積濃度C
Tおよび格子間サイト中の水素の体積濃度C
Lを、温度T、水素のトラップ速度k、水素のデトラップ速度p、C
H、および微細構造の関数として計算するステップと、
-焼鈍工程の任意の時点での水素含有量C
total=C
L+C
Tを算出するステップと、
-コンピュータディスプレイを通して、いつでも水素含有量C
totalをユーザに出力するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
C
TおよびC
Lは、前記鋼板の厚さの少なくとも一部にわたって以下の式、
【数1】
【数2】
D
Lは結晶格子中の水素の格子拡散係数、
xは前記鋼板の内側の深さ、
N
Lは格子間サイトの体積密度、
N
Tは転位の体積密度、
N
Aはアボガドロ定数、
を解くことによって算出される、請求項1に記載の鋼板中の水素含有量の評価方法。
【請求項3】
水素の溶解度C
Hは、以下の式、
Ac3以下の温度Tの場合、
【数3】
Ac3を超える温度Tの場合、
【数4】
p
H2は炉内の水素分圧であり、C
Hはat%で表される
によって算出される、請求項1および2のいずれか一項に記載の、鋼板中の水素含有量の評価方法。
【請求項4】
鋼板の微細構造は、フェライト、オーステナイト、マルテンサイト、およびベイナイトのうちの少なくとも1つの相を含有し、水素の格子拡散係数D
Lは、以下の式、
フェライト、マルテンサイト、およびベイナイトにおいて
【数5】
オーステナイトにおいて
【数6】
によって算出される、請求項1
または2に記載の、鋼板中の水素含有量の評価方法。
【請求項5】
水素のトラップ速度kおよび水素のデトラップ速度pは、以下の式、
【数7】
【数8】
k
0およびp
0はトラップおよびデトラップ係数、E
Tはトラップエネルギー、E
Dはデトラップエネルギー、Rは普遍定数気体、
により算出される、請求項1
または2に記載の、鋼板中の水素含有量の評価方法。
【請求項6】
転位の体積密度N
Tは、以下の式、
【数9】
ρ
disは転位の表面密度、αはBurgerベクトル当たりの転位数、a
bccは格子パラメータ、
によって算出される、請求項1
または2に記載の、鋼板中の水素含有量の評価方法。
【国際調査報告】