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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】焼鈍鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20241203BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241203BHJP
   C22C 38/38 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
C21D9/46 W
C22C38/00 301R
C21D9/46 E
C22C38/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535838
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 IB2022061805
(87)【国際公開番号】W WO2023111770
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2021/061906
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュドネ,トマ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA27
4K037EB02
4K037EB05
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FK03
4K037FK08
4K037FL03
4K037FL05
(57)【要約】
本発明は、水素を含む雰囲気を有する炉内で時間tの関数として温度曲線Tに従う焼鈍工程に供される熱処理鋼板の製造方法であって、焼鈍工程のステップの最後に鋼板中で目標とされる水素含有量が規定される、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱経路に従う焼鈍工程に供される、化学組成を有する焼鈍鋼板の製造方法であって、温度は、水素を含有する雰囲気を有する炉内のセンサによって測定されることができ、前記鋼板は、原子が結晶格子内に配置された粒子を含有し、したがって、転位および格子間サイトを含む鋼の微細構造を形成し、前記方法は、以下の連続するステップ、すなわち、
焼鈍工程の任意のステップで鋼板中の目標とする水素含有量Ctotal-targetedを規定するステップと、
焼鈍工程の少なくとも2つの温度曲線Tを時間tの関数として規定するステップであって、nは曲線の数であるステップと、
焼鈍工程中の炉の雰囲気中の水素の量を規定するステップと、
熱経路の関数として鋼板の微細構造を決定するステップと、
微細構造、温度Tおよび水素分圧pH2の関数として鋼板の表面における水素の溶解度Cを計算するステップと、
転位中のトラップされた水素の体積濃度Cおよび格子間サイト中の水素の体積濃度Cを、温度T、水素のトラップ速度kおよび水素のデトラップ速度p、C、ならびに微細構造の関数として計算するステップと、
焼鈍工程の任意の時点での水素含有量Ctotal=C+Cを算出するステップと、
任意に、コンピュータディスプレイを通して、いつでも水素含有量Ctotalをユーザに出力するステップと、
total-targetedに可能な限り近いCtotalをもたらす温度曲線Tおよび組成雰囲気を選択するステップと、
鋼板に前記化学組成をもたらすステップと、
前記選択された組成雰囲気中で、時間tの関数として、前記選択された温度曲線T=Tに従って鋼板を焼鈍するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
およびCは、前記鋼板の厚さの少なくとも一部にわたって以下の式、
【数1】
【数2】
は結晶格子中の水素の格子拡散係数、
xは前記鋼板の内側の深さ、
は格子間サイトの体積密度、
は転位の体積密度、
はアボガドロ定数、
を解くことによって算出される、請求項1に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項3】
水素の溶解度Cは、以下の式、
Ac3以下の温度Tの場合、
【数3】
Ac3を超える温度Tの場合、
【数4】
H2は炉内の水素分圧であり、Cはat%で表される、
によって算出される、請求項1および2のいずれか一項に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項4】
鋼板の微細構造は、フェライト、オーステナイト、マルテンサイト、およびベイナイトのうちの少なくとも1つの相を含み、水素の格子拡散係数Dが、以下の式、
フェライト、マルテンサイト、およびベイナイトにおいて、
【数5】
オーステナイトにおいて、
【数6】
によって算出される、請求項1~3のいずれか一項に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項5】
水素のトラップ速度kおよび水素のデトラップ速度pは、以下の式、
【数7】
【数8】
およびpはトラップ係数およびデトラップ係数、Eはトラップエネルギー、Eはデトラップエネルギー、Rは普遍定数気体、
により算出される、請求項1~4のいずれか一項に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項6】
転位の体積密度Nは、以下の式、
【数9】
ρdisは転位の表面密度、αはBurgerベクトル当たりの転位数、abccは格子パラメータ、
によって算出される、請求項1~5のいずれか一項に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項7】
焼鈍工程は、鋼板を加熱、保持、および冷却する異なるステップを含むことができ、冷却ステップは過時効サブステップを含むことができ、再加熱ステップに続いて後続の最終冷却が続くことができる、請求項1~6のいずれか一項に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍工程の任意のステップの最後に規定の水素値を得るために、工程パラメータが選択される焼鈍鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板は、原子が結晶格子状に配列されて鋼の構造を形成する粒子からなる。これらの原子間の空間は格子間サイトと呼ばれる。原子の配列は完全に規則的ではなく、線状欠陥である転位の場合のように、何らかの配列欠陥が生じ得る。
【0003】
鋼板の熱処理中、炉の雰囲気中に存在する水素原子は、鋼に容易に浸透し、吸収され得る。実際、水素は、結晶格子の格子間サイトのサイズと同程度の原子サイズのために結晶格子内に拡散することができる。水素原子は、漸進的に拡散し、転位などの欠陥の内部にトラップされ得る。
【0004】
鋼板中の水素の導入および拡散は、鋼板の脆性の原因となる機構の1つであり、例えば、粒界および/または転位滑り面に沿った亀裂形成をもたらし得る。
【0005】
水素のために、鋼帯は、水素脆化とも呼ばれる延性の損失を被る可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、焼鈍工程の任意のステップの最後に規定の水素値を得るために、工程パラメータが選択される、焼鈍鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、請求項1に記載の方法を提供することによって達成される。方法はまた、請求項2~7のいずれか一項に記載の特徴を備えることができる。
【0008】
以下、Cは鋼板の結晶格子の格子間サイトの水素の濃度を示し、Cは鋼板中のトラップされた水素の濃度を示す。転位は、微細構造中に均一に分布した、本発明で考慮される唯一のトラップサイトである。
【0009】
以下に、添付の図面を参照して、本発明を詳細に説明し、限定を導入することなく実施例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】温度曲線T0およびT1を表す。
図2】本発明の方法の一実施形態で使用されるセルを表し、温度曲線T1の点Fにおける微細構造を表す。
図3】試験1のC、CおよびCtotal=C+Cの時間発展を表す。
図4】試験2のC、CおよびCtotalの時間発展を表す。
図5】試験3のC、CおよびCtotalの時間発展を表す。
図6】試験4のC、CおよびCtotalの時間発展を表す。
図7】試験5のC、CおよびCtotalの時間発展を表す。
図8】試験6のC、CおよびCtotalの時間発展を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
焼鈍工程の任意のステップの最後に規定の水素値を得るために工程パラメータが選択される、焼鈍鋼板の製造方法でが提供され、前記方法は、以下の連続するステップを含む。
本発明による方法の第1のステップは、焼鈍工程のステップの最後に、鋼板中の目標水素含有量Ctotal-targetedを規定することである。
この焼鈍の間、鋼板は、熱経路に従って、少なくとも1つの加熱工程および1つの冷却工程に供される。通常、熱処理は、酸化性雰囲気、すなわち、例えば、O、CH、COまたはCOである酸化性ガスを含む雰囲気中で行われることができる。それらはまた、中性雰囲気、すなわち、例えばN、ArまたはHeである中性ガスを含む雰囲気中で行われることができる。最後に、それらはまた、還元雰囲気、すなわち、例えば、H2またはHNxである還元ガスを含む雰囲気中で行われることもできる。
【0012】
好ましい実施形態では、熱経路はまた、少なくとも1つの等温保持ステップを含むことができ、これには通常、加熱ステップが先行し、その後に冷却ステップが続くことができる。冷却ステップは、過時効サブステップと呼ばれる等温保持と、それに続く後続の冷却ステップとを含むことができる。高温金属浴中の溶融めっきコーティング工程はまた、そのような熱経路中に使用されることができ、そのような高温金属浴中に浸漬された金属板がそのような浴中での保持時間中に浴温度に維持されるため、別のタイプの等温保持である。
【0013】
前記焼鈍は、例えば、再結晶焼鈍、回復または焼き戻しであってもよく、その後にこれらの熱処理、
-急冷および焼き戻し、
-急冷および分割
を行うことができる。
【0014】
本発明による熱経路は、連続温度T、加熱および冷却速度、ならびに焼鈍工程および任意の後続の熱処理の各セクションで費やされる時間に対応する。
【0015】
熱経路の温度は、焼鈍および任意の後続の熱処理中にセンサによって、またはソフトウェアを使用して行われる算出によって測定されることができる。
【0016】
次に、水素雰囲気を有する炉内で、時間tの関数としての焼鈍ステップの少なくとも2つの温度曲線T(nは曲線の数である)が規定される。雰囲気中の水素の量が規定される。炉内の雰囲気は、H、NおよびOを含むことができる。
【0017】
本発明による方法の次のステップは、例えばCOMSOL(R)のようなソフトウェアを使用して行われる算出によって、焼鈍工程の熱経路の関数として鋼板の微細構造を決定することである。微細構造はまた、X-CAP(R)などの鋼中のオーステナイト含有量を測定することができる炉内のセンサによって決定することができる。
【0018】
本発明の枠組では、微細構造の発展(evolution)は、所与の温度での相変化に対応する特定の点でのみ瞬間的に起こる。
【0019】
次いで、鋼板の表面における水素の溶解度Cが算出される。水素の溶解度は、鋼板に溶解する水素の適性である。この溶解度は、温度、水素の分圧、および鋼板の微細構造に存在する相に依存する。これは、以下の式[1]および式[2]によって算出されることができる。
【0020】
Ac3以下、好ましくは280K~1184Kの温度Tの場合、
【数1】
【0021】
加熱が行われる温度曲線の最初の部分では、フェライトが鋼板の主な構造である。フェライト中の水素の溶解度Cは、上記式[1]を用いて適切に算出される。
【0022】
冷却が行われる温度曲線の最後の部分では、Ac3を超えて形成されたオーステナイトの一部は、鋼の組成および冷却速度に応じて、ベイナイトおよび/またはマルテンサイトに変態する可能性がある。曲線のその部分では、ベイナイトおよびマルテンサイト中の水素の溶解度Cはフェライトと同じであり、上記式[1]も使用して適切に得られることができる。
【0023】
Ac3を超える、好ましくは1184K~1667Kの温度Tの場合:
【数2】
【0024】
高温での保持が起こり得る温度曲線の中央部では、オーステナイトが鋼板中の主相であり、オーステナイト中の水素の溶解度Cは上記式[2]を用いて適切に算出される。
【0025】
式[1]および式[2]の両方において、Cはat%で表され、pH2は炉内の水素分圧であり、Paで表される。これらの両方の式は、Fromm&Jehn「Hydrogen in Elements」、(Bull.Alloys Phase Diagrams、5(3)、323~326(1984))の刊行物からのものである。
【0026】
鋼板の表面における水素の溶解度Cを決定することは、本発明による方法の次のステップのための入力として必要であり、結晶格子の格子間サイトにおける水素の体積濃度Cおよび鋼板中のトラップされた水素の体積濃度Cは、いずれも鉄mあたりの水素のモル数(mol/m Fe)で表され、以下の式を解くことによって数値シミュレーションを用いて計算される。
【数3】
【数4】
【0027】
ここで、式[3]および式[4]の両方の異なるパラメータおよび定数が説明される。
【0028】
は、m/sで表される結晶格子内の拡散係数であり、温度およびその温度で鋼板に存在する相に依存する。この拡散係数は、水素の材料内部への拡散し易さを表す。係数が大きいほど、水素が拡散しやすくなる。
【0029】
フェライト、マルテンサイトおよびベイナイトでは、この水素の係数拡散Dは同じであり、以下の式によって算出される。
【数5】
【0030】
オーステナイトでは、水素の係数拡散Dは、以下の式に従って算出される。
【数6】
R=8.314J/mol・Kは普遍気体定数であり、TはKで表される温度である。
【0031】
これらの式から、同等の温度では、水素がオーステナイトよりもフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトに拡散しやすいことが分かる。
【0032】
=5.2×1029サイト/mは、鋼板中の格子間サイトの体積密度である。本発明による方法では、Nは微細構造のすべての相で同じである。
【0033】
は転位の体積密度であり、サイト/mで表される。転位は、E=27000J/molの関連するトラップエネルギーを有する。本発明による方法では、1つの転位が1つ以上の水素原子をトラップすることができる。転位の体積密度Nは、以下の式、
【数7】
により、サイト/mで表される転位の表面密度ρdisを使用して算出され、αは、Burgerベクトル当たりの転位の数であり、H原子をトラップする転位の能力を表す。この係数が高いほど、転位は水素原子をより多くトラップする。abccは、オングストロームで表されるbcc構造の格子パラメータである。本発明の枠組みにおいて、この格子パラメータは、すべてのbcc構造であるフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトにおいて同じである。好ましい実施形態では、これらのパラメータは以下の値をとることができる。
α=7
bcc=2.87Å
【0034】
本発明の枠組みにおいて、水素の原子は、それらの低い拡散係数のために、オーステナイト中の転位によってトラップされ得ない。
【0035】
kおよびpはそれぞれ、水素トラップ速度およびデトラップ速度であり、s-1で表され、時間の関数としてそれぞれトラップおよびデトラップされた水素原子の量に対応し、以下の式によって規定される。
【数8】
【数9】
【0036】
=4150J/molは、トラップのエネルギーであり、これは水素原子がトラップされるために提供しなければならないエネルギーであり、また、E=E+E=31150J/molは、水素がデトラップされるために提供しなければならないエネルギーである。
【0037】
定数k0およびp0は、s-1で表される水素トラップ係数およびデトラップ係数である。それらは、微細構造の異なる相におけるNと共にCおよびCを算出するためのフィッティングパラメータとして使用される。そのようなフィッティングパラメータは、所与の鋼組成で行われた実験と本発明による算出との比較によって決定することができ、実験値および算出値が収束するまで繰り返される。
【0038】
最後に、N=6.02×1023mol-1はアボガドロ数である。
【0039】
上述したように、本発明の方法の枠組みで行われる算出のいくつかは、温度曲線の所与の点で鋼中に存在する相に依存する。さらに、式[3]は、算出が行われる鋼部分の深さxに依存する。鋼板の厚さ全体にトラップされた水素の正確な評価を与えるために、鋼板は、鋼板の厚さの少なくとも一部をシミュレートするために、5μm×5μmのN個のセルの繰り返しからなると考えることが好ましい。好ましい実施形態では、鋼板の厚さの半分が使用され、Nは以下の式、
N=鋼板の厚さ/(2*5μm)
によって算出される。
【0040】
鋼板の他の半分の厚さは、第1の厚さと全く同様に挙動し、水素の拡散は鋼板の全長において均一である。
【0041】
次いで、C値は温度曲線に沿って式[1]および[2]を使用して算出されることができる。次いで、そのようなC値は、セルの第1行のC値として使用される。
【0042】
式[3]および[4]が各セルに連続的に適用されて、最終的に鋼板の全厚に対するCおよびCの値を提供することができる。
【0043】
本発明による方法の最後のステップでは、トータル水素含有量Ctotalは、任意にユーザに出力される前に、任意の時点でCとCとの和を算出することによって決定される。
【0044】
totalをCtotal-targetedに可能な限り近づける温度曲線Tおよび組成雰囲気が選択され、温度曲線T=Tに従ってCtotal-targetedに最も近い水素含有量を有する焼鈍鋼板をさらに製造する。
【0045】
本発明を以下の実施例によって説明するが、これらは決して限定的なものではない。
【0046】
(実施例)
0.07wt%のC、2.62wt%のMn、0.25wt%のSi、0.3wt%のCr、0.16wt%のAl、0.091wt%のMoからなり、組成の残りは鉄および精錬から生じる不可避の不純物の組成および厚さ1mmを有する冷延鋼板が供給される。
【0047】
次いで、そのような鋼板は、1回の焼鈍工程を受けることができる。時間の関数としての温度曲線Tn(n=2)が図1に記載される。鋼板は、室温(RT)に冷却される前に、温度Tに加熱され、雰囲気A中で保持時間tにわたって前記温度に維持され、冷却温度Tに冷却され、雰囲気A中で保持時間tにわたって前記温度Tに維持される(以下、このステップは過時効ステップである)。
【0048】
このグレードの温度Msは、膨張測定によって得られる:Ms=240℃。
【0049】
その後の亜鉛コーティングステップを容易にするために、過時効ステップの最後に、可能な限り低い水素値Ctotal-targeted=0ppm値が求められる。
【0050】
工程パラメータは表1にまとめられる。
【0051】
表1:工程パラメータ
【表1】
【0052】
本発明に従って評価される水素含有量
鋼板の微細構造は、図1に表すように、温度曲線の各点(A1,B1,C1,D1,E1,F1,G1;A2,B2,C2,D2,E2,F2,G2)で推定される。
【0053】
微細構造の相変態は、示された点でのみ瞬時に起こる。推定された微細構造は表2にまとめられる。
【0054】
表2:推定微細構造
【表2】
【0055】
までの加熱ステップ中、フェライトは、温度がAC1に達するまで主相であり、そこでフェライトはオーステナイトに変態し始める。点BおよびBでそれぞれ開始するTでの保持ステップの間、微細構造はそのときフェライトおよびオーステナイトからなる。
【0056】
点CおよびCから始まる冷却中に、オーステナイトの一部はベイナイトに変態する。オーステナイトは、DおよびDから始まる後続の保持ステップ中にベイナイトに変態し続ける。Eで開始する冷却中の微細構造は、DとEとの間のステップと同じである。Eから始まる冷却中の微細構造は、DとEとの間のステップと同じである。
【0057】
オーステナイトは、Ms温度に対応する点FおよびFで、最終的にマルテンサイトに変態する。
【0058】
鋼板の厚さの半分は、5μm×5μmのN=100個のセルの繰り返しによってシミュレートされる。表2の相百分率は、点Fにおける微細構造に対応する図2に示すように、セルの表面の百分率を通して考慮される。セルの表面の25%は、鋼内部のマルテンサイトの25%を表し、セルの表面の45%は、ベイナイトの45%を表し、セルの表面の30%は、鋼板内部のフェライトの30%を表す。
【0059】
次いで、式[1]および[2]を使用してC値が算出される。次いで、そのようなC値は、セルの第1行のC値として使用される。
【0060】
以下のプロトコルを用いて、Nならびにトラップ係数およびデトラップ係数が当てはめられた。実施例1による組成を有する鋼板は、5%のH、残りはNからなる雰囲気を有する炉内で850℃の温度で加熱され、260秒の保持時間にわたって前記温度に維持された後、急冷された。次いで、各鋼板中の実験水素含有量が、1200℃/hの加熱速度で鋼板を加熱することにより、TDA実験により測定された。
【0061】
数回の反復の後、最良のフィッティングパラメータは以下のように選択された。
=10-1
=10-1
フェライト中のN=1024サイト/m
ベイナイト中のN=5 1024サイト/m
マルテンサイト中のN=1025サイト/m
【0062】
次いで、結晶格子の格子間サイトにおける水素の体積濃度Cおよび鋼板中のトラップされた水素の体積濃度Cは、上記の微細構造を考慮して、および熱曲線に沿って相変態が生じる点のそれぞれについて、式[3]および[4]を解くことによって計算される。
【0063】
次いで、Ctotal(Ctotal=C+C)がこれらの各点で算出され、任意にオペレータに送信される。
【0064】
図3図4および図5はそれぞれ、試験1、2および3のC、Cおよびトータル水素含有量Ctotalの時間の関数としての発展を表す。
【0065】
図6図7および図8はそれぞれ、試験4、5および6についてのC、CおよびCtotalの時間の関数としての変化(evolution)を表す。
【0066】
本発明による方法によって決定される過時効ステップ(図1の点EおよびEにおいて、t=395sに対応する)の最後の水素含有量は以下の表にまとめられる。
【表3】
【0067】
本発明による方法は、試験1~3に見られるように、この過時効ステップの間の雰囲気中の水素含有量を減少させることによって、過時効ステップの最後の鋼板中の水素の量を減少させることができることを評価し、過時効ステップの間に1%のH2を用いて行われた試験3における水素含有量は、5%のH2を用いて行われた試験1よりも低い。試験4~6についても同様に、過時効ステップの間に1%のH2を用いて行われた試験6における水素含有量が、5%のH2を用いて行われた試験4よりも低い。
【0068】
さらに、本発明による方法は、Tc=400℃の試験1~3で行われるように、鋼板を低い冷却温度に維持することにより、試験4~6のより高い温度と比較して水素の量が減少すると予測する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱経路に従う焼鈍工程に供される、化学組成を有する焼鈍鋼板の製造方法であって、温度は、水素を含有する雰囲気を有する炉内のセンサによって測定されることができ、前記鋼板は、原子が結晶格子内に配置された粒子を含有し、したがって、転位および格子間サイトを含む鋼の微細構造を形成し、前記方法は、以下の連続するステップ、すなわち、
焼鈍工程の任意のステップで鋼板中の目標とする水素含有量Ctotal-targetedを規定するステップと、
焼鈍工程の少なくとも2つの温度曲線Tを時間tの関数として規定するステップであって、nは曲線の数であるステップと、
焼鈍工程中の炉の雰囲気中の水素の量を規定するステップと、
熱経路の関数として鋼板の微細構造を決定するステップと、
微細構造、温度Tおよび水素分圧pH2の関数として鋼板の表面における水素の溶解度Cを計算するステップと、
転位中のトラップされた水素の体積濃度Cおよび格子間サイト中の水素の体積濃度Cを、温度T、水素のトラップ速度kおよび水素のデトラップ速度p、C、ならびに微細構造の関数として計算するステップと、
焼鈍工程の任意の時点での水素含有量Ctotal=C+Cを算出するステップと、
任意に、コンピュータディスプレイを通して、いつでも水素含有量Ctotalをユーザに出力するステップと、
total-targetedに可能な限り近いCtotalをもたらす温度曲線Tおよび組成雰囲気を選択するステップと、
鋼板に前記化学組成をもたらすステップと、
-前記選択された組成雰囲気中で、時間tの関数として、前記選択された温度曲線T=Tに従って鋼板を焼鈍するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
およびCは、前記鋼板の厚さの少なくとも一部にわたって以下の式、
【数1】
【数2】
は結晶格子中の水素の格子拡散係数、
xは前記鋼板の内側の深さ、
は格子間サイトの体積密度、
は転位の体積密度、
はアボガドロ定数、
を解くことによって算出される、請求項1に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項3】
水素の溶解度Cは、以下の式、
Ac3以下の温度Tの場合、
【数3】
Ac3を超える温度Tの場合、
【数4】
H2は炉内の水素分圧であり、Cはat%で表される、
によって算出される、請求項1および2のいずれか一項に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項4】
鋼板の微細構造は、フェライト、オーステナイト、マルテンサイト、およびベイナイトのうちの少なくとも1つの相を含み、水素の格子拡散係数Dが、以下の式、
フェライト、マルテンサイト、およびベイナイトにおいて、
【数5】
オーステナイトにおいて、
【数6】
によって算出される、請求項1または2に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項5】
水素のトラップ速度kおよび水素のデトラップ速度pは、以下の式、
【数7】
【数8】
およびpはトラップ係数およびデトラップ係数、Eはトラップエネルギー、Eはデトラップエネルギー、Rは普遍定数気体、
により算出される、請求項1または2に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項6】
転位の体積密度Nは、以下の式、
【数9】
ρdisは転位の表面密度、αはBurgerベクトル当たりの転位数、abccは格子パラメータ、
によって算出される、請求項1または2に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項7】
焼鈍工程は、鋼板を加熱、保持、および冷却する異なるステップを含むことができ、冷却ステップは過時効サブステップを含むことができ、再加熱ステップに続いて後続の最終冷却が続くことができる、請求項1または2に記載の焼鈍鋼板の製造方法。
【国際調査報告】