(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】標的特異的エクソソームベースの送達ビヒクルおよびそれを得るためのバイオ製剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0784 20100101AFI20241203BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20241203BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241203BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241203BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20241203BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241203BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20241203BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20241203BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20241203BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20241203BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20241203BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20241203BHJP
C12N 1/02 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
C12N5/0784
A61K9/51
A61P35/00
A61K45/00
A61K47/46
A61K31/7088
A61K38/02
A61P35/02
A61K38/20
A61K38/19
A61K31/341
A61K38/08
C12N1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536394
(86)(22)【出願日】2022-12-17
(85)【翻訳文提出日】2024-07-09
(86)【国際出願番号】 IN2022051088
(87)【国際公開番号】W WO2023119317
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】202131059239
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524228812
【氏名又は名称】ダッタ,アビシェーク
(71)【出願人】
【識別番号】524228823
【氏名又は名称】ポール,スワスティカ
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ダッタ,アビシェーク
(72)【発明者】
【氏名】ポール,スワスティカ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
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4C086NA13
4C086ZB26
4C086ZB27
(57)【要約】
本発明は、がん細胞およびがん幹細胞に、活性物質を標的送達するためのエクソソームベースの送達ビヒクルを開示する。送達ビヒクルは、バイオ製剤を含む培養培地中で単球をインキュベートして樹状細胞を得るステップと、樹状細胞を含む培養培地に活性物質を添加して、活性物質を含有するエクソソームベースの送達ビヒクルを得るステップと、がん細胞およびがん幹細胞に特異的な活性物質を標的送達するためにエクソソームベースの送達ビヒクルを培養培地から単離するステップと、を含む方法によって得られる。本発明はまた、がん細胞およびがん幹細胞に対するエクソソームベースの送達ビヒクルの特異性を高めるためのバイオ製剤を開示する。バイオ製剤には、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、インターロイキン-4、イオノマイシン、腫瘍壊死因子アルファ、IL1β、LPS、およびアンジオテンシンIIが含まれる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん細胞およびがん幹細胞に活性物質を標的送達するためのエクソソームベースの送達ビヒクルであって、前記エクソソームが、
バイオ製剤を含む培養培地中で単球をインキュベートして、樹状細胞を得るステップであって、前記単球を5%CO
2で、36°C~38°Cの温度範囲で、48時間~50時間インキュベートするステップと;
前記樹状細胞を含む前記培養培地に活性物質を添加して、前記活性物質を含めたエクソソームベースの送達ビヒクルを得るステップであって、前記樹状細胞を前記活性物質と共に20時間~24時間インキュベートするステップと;
がん細胞およびがん幹細胞に特異的な活性物質を標的送達するために、前記エクソソームベースの送達ビヒクルを前記培養培地から単離するステップと、
を含む方法によって産生される、エクソソームベースの送達ビヒクル。
【請求項2】
前記エクソソームベースの送達ビヒクルのサイズが、30nm~150nmの範囲である、請求項1に記載のエクソソームベースの送達ビヒクル。
【請求項3】
前記バイオ製剤は、前記単球が前記樹状細胞を得るためのインキュベーション期間を短縮させる、請求項1に記載のエクソソームベースの送達ビヒクル。
【請求項4】
前記活性物質が、抗がん剤または抗がんRNAまたはDNAまたはタンパク質またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載のエクソソームベースの送達ビヒクル。
【請求項5】
前記培養培地が、エクソソームベースの送達ビヒクルを得るために、単球をインキュベートするために使用される任意の培養培地である、請求項1に記載のエクソソームベースの送達ビヒクル。
【請求項6】
前記活性物質の前記分子量が、300g/mol~12,000g/molの範囲にある、請求項1に記載のエクソソームベースの送達ビヒクル。
【請求項7】
前記バイオ製剤が、活性物質をがん幹細胞およびがん細胞に標的送達するために、前記エクソソーム中のICAM1を増加させる、請求項1に記載のエクソソームベースの送達ビヒクル。
【請求項8】
前記バイオ製剤が、ガレクチン-3を上方制御する、請求項1に記載のエクソソームベースの送達ビヒクル。
【請求項9】
請求項1に記載のエクソソームベースの送達ビヒクルであって、前記バイオ製剤が、100ng/mL~150ng/mLの濃度範囲の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、100ng/mL~150ng/mLの濃度範囲のインターロイキン-4、200ng/mL~250ng/mLの濃度範囲のイオノマイシン、100ng/mL~150ng/mLの濃度範囲の腫瘍壊死因子アルファ、20ng/mL~40ng/mLの濃度の範囲のIL1β、200ng/mL~250ng/mLの濃度範囲のLPS、および50ng/mL~100ng/mLの濃度範囲のアンジオテンシンIIおよび/またはそれらの組み合わせを含み、ここで、前記バイオ製剤が、100mlの培養培地に混合される、送達ビヒクル。
【請求項10】
がん細胞およびがん幹細胞に対するエクソソームベースの送達ビヒクルの特異性を高めるためのバイオ製剤であって、
前記バイオ製剤が、100ng/mL~150ng/mLの濃度範囲の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、100ng/mL~150ng/mLの濃度範囲のインターロイキン-4、200ng/mL~250ng/mLの濃度範囲のイオノマイシン、100ng/mL~150ng/mLの濃度範囲の腫瘍壊死因子アルファ、20ng/mL~40ng/mLの濃度の範囲のIL1β、200ng/mL~250ng/mLの濃度範囲のLPS、50ng/mL~100ng/mLの濃度範囲のアンジオテンシンIIおよび/またはそれらの組み合わせを含み、
ここで、前記バイオ製剤が、100mlの培養培地に混合される、バイオ製剤。
【請求項11】
前記バイオ製剤が、活性物質をがん幹細胞およびがん細胞に標的送達するために前記エクソソーム中のICAM1を増加させる、請求項10に記載のバイオ製剤。
【請求項12】
前記バイオ製剤が、前記単球のインキュベーション期間を短縮させる、請求項10に記載のバイオ製剤。
【請求項13】
ガレクチン-3を上方制御する、請求項10に記載のバイオ製剤。
【請求項14】
前記培養培地が、エクソソームベースの送達ビヒクルを得るために単球をインキュベートするために使用される任意の培養物である、請求項10に記載のバイオ製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には送達ビヒクルに関するものであり、より具体的には、エクソソームベースの送達ビヒクルおよびエクソソームベースの送達ビヒクルの特異性を高めるためのバイオ製剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
がんは、異常な細胞の制御不能な成長を特徴とする疾患である。がんの標準治療としては、これらに限定されないが、手術、放射線療法、および化学療法が挙げられる。しかし、転移性がんについては、手術および放射線治療は、有用ではない。化学療法が、このような転移性がんに対する主な治療である。しかし、化学療法には、腫瘍への生体内分布が悪い、正常細胞とがん細胞とを区別できないためその両方を死滅させるなど、複数の欠点を伴う。化学療法は、非幹細胞がん細胞を死滅させることによって腫瘍の体積を減少させ得るが、がん幹細胞を標的にすることはできない。腫瘍内に存在するこれらの化学療法耐性細胞サブ集団は、化学療法に耐え抜き、不均一な腫瘍塊を再生することができ、これが腫瘍再発の主要原因である。化学療法は、その生体内分布を制御できないため、いくつかの深刻な副作用および毒性をさらに伴う。化学療法薬が、がん細胞およびがん幹細胞を効率よく標的とすることは、上記の問題に対する潜在的な解決策となり得る。エクソソームベースの送達ビヒクルも同様の方法で機能し、がん細胞のみでなくがん幹細胞も効率よく標的とする。エクソソームベースの送達ビヒクルは、標的までの活性物質の安全な通過をもたらす。
【0003】
エクソソームは、細胞から分泌される細胞外小胞である。エクソソームは、これに限定されないが、生体適合性、高浸透性、および生分解性などの特質により、優れた細胞間コミュニケーション装置として作用する。エクソソームの組成物には、その生物学的活動を担う複数の保存タンパク質が含まれている。保存的タンパク質としては、これらに限定されないが、テトラスパニン(CD81、CD63、およびCD9)、Tsg101およびAlixが挙げられる。さらに、エクソソームには、親細胞の種類に応じて、特定の成分も有する。親細胞は、これらに限定されないが、間葉系幹細胞(MSC)、胚性幹細胞、および免疫細胞が挙げられる。エクソソームは、その親細胞の固有の特性を反映しており、親細胞の治療効果を媒介することが現在は知られている。長年にわたって、エクソソームは、治療学の分野で広く使用されている。エクソソームは、いかなる介入もなく、親細胞から単離されたナイーブエクソソーム、または遺伝子組み換えされたエクソソームのいずれかとして使用される。それぞれの親細胞から単離されたエクソソームは、直接使用される。しかし、これらのナイーブエクソソームは、低い特異性および収量を示す。遺伝子組み換えエソソームは、これらに限定されないが、がん、炎症、および神経疾患など、多くの分野でその役割を担っている。細胞療法などの新たな腫瘍治療法では、患者の免疫細胞を利用して、がん細胞を標的とするが、これらの注入された免疫細胞は、TGF-β、IL-10などのサイトカインの分泌を介して、腫瘍細胞によって調節され、腫瘍に対するこれらの細胞を無効にし得る。また、がん細胞は、CD47を過剰発現させ、がん細胞が健康であるように見えるようにするため、これにより、免疫細胞による認識が回避される。細胞を含まないエクソソームベースの治療法を使用することにより、腫瘍細胞が、これらのエクソソームを調製できないため、細胞療法のこの欠点が克服され、in-vivoにおいてより効果的になり得る。別の新しい技術は、腫瘍細胞上の特定の受容体をブロックして、免疫細胞がブロックされるのを防ぐ抗体を使用する免疫療法である。しかし、多くの場合、これらの治療法は奏功せず、より進行性の疾患となる。がん細胞は、急速に分裂し、これにより多数の変異が蓄積される。多くの場合、これらのがん細胞は、特定のゲノム変異を蓄積し、免疫療法薬に対する耐性を発達させる。エクソソームは、複数の細胞表面受容体を利用して、エンドサイトーシスを促進し、その活性物質を腫瘍細胞内に送達し、これにより、単一の細胞表面受容体を使用して、がん細胞を識別する必要がなくなるため、エクソソームの使用は、免疫療法のこれらの予期しない副作用を軽減するのに有用であり得る。
【0004】
生物医学(biomedicine)の出現により、エクソソームは、腫瘍に対する新たな解決策として急速に発展している。近年では、生物活性物質(bioactive substance)を含めたエクソソームが、その生物活性物質を腫瘍細胞に送達することによって機能を果たすことが判明している。さらに、エクソソームは、化学薬品を送達することによって、腫瘍も阻害し得る。これらは、浸透効果および保持効果の向上を示す。化学薬品の天然担体としてのエクソソームは、マクロファージによる貪食を回避し、他の人工担体と比較して、化学薬品の半減期を延長し得る。その結果、送達プロセスにおいて、エクソソームは、特定の生分解性薬物の送達効率を顕著に改善する。ほとんどの薬物は、本質的に疎水性であるため、エクソソームベースの送達ビヒクル内に薬物を添加することにより、薬物の安定性、溶解性、および半減期も向上させる。
【0005】
表題「Platform technologies and human cell lines for the production of therapeutic exosomes」の総説論文において、Kim et. al.は、抗がん治療化合物PTXを含めたマクロファージ由来エクソソームが多剤耐性がんを治療する方法について示した。PTX含有エクソソームは、マウスの肺腫瘍モデルにおいて、抗がん効果の増大を示した。しかし、これらの担体ビヒクルは、収量および含有容量が少なく、そのため、腫瘍に対して完全に効果的ではない。
【0006】
上記の妨げを克服するために、エクソソーム模倣物が開発されている。そのような模倣物の1つは、国際公開第2018/170398号に記載されているリポソーム-エクソソームハイブリッドである。ハイブリッド担体ビヒクルは、より高い含有量および収量を表す。また、より大きい分子を容易に内包することも示している。しかしながら、これらのビヒクルは、限定されないが、高細胞傷害性および低特異性など、複数の欠点を有する。
【0007】
エクソソームは、生体分子または化学薬品をレシピエントの病理学的部位に送達させ、腫瘍の進行を効果的に阻害することができる。しかし、エクソソームの送達による腫瘍の治療は、精度および効率が十分ではなく、さまざまな課題を克服する必要がある。臨床グレードのエクソソームを産生するには、培養の拡張性、一貫性、制御可能な製造方法を確立する必要がある。さらに、がんの効果的な治療には、エクソソームベースの送達ビヒクルの標的特異性を達成する必要がある。がん細胞のみでなくがん幹細胞に対する特異性も、がんを完全に緩和する総合的な解決策をもたらす。持続可能な手段により、がん治療を改善するために、がん細胞、特にがん幹細胞に活性物質を効果的に送達するための効率的なエクソソームベースの送達ビヒクルを開発する必要性が長い間探られてきた。また、当該技術分野で知られている先行文献のいずれも、がん細胞、より具体的にはがん幹細胞に対する特異性を上昇させるために有効な製剤を使用することによって、エクソソームベースの送達ビヒクルの特異性を高める方法に関するものではない。本発明は、従来技術の前述の欠点を改良し、全体的にがんと闘うするためのビヒクル、方法および製剤を提供する。
【0008】
本発明は、以下の説明を図面と組み合わせて参照することにより、より良く理解されるであろう。本発明の特定の実施形態が、添付の図面に示されている。図面では、同様の数字またはアルファベットは、全体を通じて同様の要素を示す。しかし、添付の図面は、本発明の典型的な実施形態のみを示すものであり、したがって、本発明の範囲を制限するものとみなすものではないことに留意すべきであり、本発明は、同様に効果的な他の実施形態も許容し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的
本発明の目的は、がん細胞およびがん幹細胞に、活性物質を標的送達するためのエクソソームベースの送達ビヒクルを提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、がん細胞およびがん幹細胞に、活性物質を標的送達するためのエクソソームベースの送達ビヒクルを調製する方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、がん細胞およびがん幹細胞に活性物質を標的送達するために、膜貫通タンパク質および/またはmRNAおよび/またはshRNAおよび/またはcDNAを過剰発現させることによって、エクソソームベースの送達ビヒクルの特異性を高めるために、効果的なバイオ製剤を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、従来の化学療法薬では奏功しないがん幹細胞を標的とし、腫瘍体積の同様の減少を達成するために必要な化学療法サイクルの数を減少させ、治療費および患者への身体的影響および心理的影響を減少させる、エクソソームベースの送達ビヒクルを提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、免疫細胞中でのICAM1の産生を増加させるために用いられるバイオ製剤を提供することであり、これは、免疫細胞にかなりのストレスを誘導する可能性があるトランスフェクションによる過剰発現プラスミドを使用するよりも、遺伝子を過剰発現させるはるかに安全な方法である。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、免疫細胞におけるガレクチン-3の産生を増加させるために用いられるバイオ製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一態様によれば、本発明は、がん細胞およびがん幹細胞に、活性物質を標的送達するためのエクソソームベースの送達ビヒクルを提供する。送達ビヒクルは、バイオ製剤を含む培養培地中で単球をインキュベートして樹状細胞を得るステップと、先に得られた樹状細胞を含む培養培地に活性物質を添加して、活性物質を含有するエクソソームベースの送達ビヒクルを得るステップと、がん細胞およびがん幹細胞に特異的な活性物質を標的送達するためにエクソソームベースの送達ビヒクルを培養培地から単離するステップと、を含む方法によって得られる。
【0016】
本発明の別の態様は、がん細胞およびがん幹細胞に対するエクソソームベースの送達ビヒクルの特異性を高めるためのバイオ製剤を提供する。バイオ製剤には、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、インターロイキン-4、イオノマイシン、腫瘍壊死因子アルファ、IL1β、LPS、およびアンジオテンシンIIが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例による、化学療法薬を含めたエクソソームベースの送達ビヒクルの効力を示す概略図を示す。
【
図2】本発明の一実施形態による、ドキソルビシン(EXO-DOX)および遊離ドキソルビシン(DOX)を含むエクソソームベースの送達ビヒクルを用いて、PBMC培養後のアネキシンV細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【
図3】本発明の一実施形態による、標的エクソソームにおけるICAM1発現の分析を示す。
【
図4】本発明の一実施形態による、がん細胞およびがん幹細胞による本発明の送達ビヒクルの内在化効率を示す。
【
図5a】本発明の一実施形態による、本発明の送達ビヒクルによるがん細胞およびがん幹細胞の特異的標的化を示す。
【
図5b】本発明の一実施形態による、本発明の送達ビヒクルによるがん細胞およびがん幹細胞の特異的標的化を示す。
【
図5c】本発明の一実施形態による、本発明の送達ビヒクルによるがん細胞およびがん幹細胞の特異的標的化を示す。
【
図6】本発明の一実施形態による、等濃度の遊離薬剤と比較して、本発明の送達ビヒクルによるがん幹細胞の標的化が増強されていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の詳細な説明は、本質的に単なる例示であり、記載されている実施形態、または記載されている実施形態の適用および使用を制限することを意図するものではない。本明細書で使用される「例示的(exemplary)」または「説明的(illustrative)」という語は、「例、事例、または説明として機能する」という意味である。本明細書で「例示的」または「説明的」として記載されている実装は、必ずしも他の実装よりも好ましい、または有利であるものとして解釈されるものではない。以下において、本発明は、添付の実施例および/または図面を参照しながら説明し、ここには、本発明の実施形態を示す。この説明は、本発明が実施され得るすべての異なる方法、または本発明に追加され得るすべての特徴を詳細に列挙することを意図するものではない。例えば、1つの実施形態に関して示された特徴は、他の実施形態に組み込まれ得、また、特定の実施形態に関して示された特徴は、その実施形態から抹消させ得る。したがって、本発明は、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書に記載された任意の特徴または特徴の組み合わせを除外できるまたは省略できることを企図している。さらに、本明細書で提案されたさまざまな実施形態に対する多数の変形および追加は、本開示に照らして当業者には明らかであり、このような変形および追加は、本発明の範囲から逸脱するものではない。したがって、以下の説明は、本発明のいくつかの特定の実施形態を説明することを目的としており、そのすべての順列、組み合わせ、および変形を網羅的に指定するものではない。
【0019】
本発明の様々な実施形態は、がん細胞、特にがん幹細胞に活性物質を標的送達するためのエクソソームベースの送達ビヒクル、およびそれを得る方法を提供する。本発明はまた、がん細胞およびがん幹細胞に対するエクソソームベースの送達ビヒクルの特異性を高めるためのバイオ製剤を提供する。バイオ製剤は、エクソソーム中のICAM1を増加させ、またエクソソームベースの送達ビヒクルの特異性を高めるガレクチン-3を上方制御する。
【0020】
本発明のエクソソームベースの送達ビヒクルは、限定されないが、固形腫瘍がん、血液がん、および転移性がんなどのがん細胞を標的とするように生物学的操作されている。がんは、非固形腫瘍種または固形腫瘍であり得る。このようながんの例としては、限定されないが、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、白血病、乳癌前立腺癌扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、腹膜の癌、肝細胞癌、消化器癌、膵癌、神経膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝癌、結腸癌、大腸癌、胃癌子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎癌、肝癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、各種頭頸部癌、血液悪性腫瘍、急性骨髄性白血病、膵癌、乳癌、肺癌、結腸癌および黒色腫の転移などが挙げられる。本発明のエクソソームベースの送達ビヒクルは、がん幹細胞およびCMLなどの血液悪性腫瘍を標的とし、がん細胞の成長を阻害することも可能である。送達ビヒクルのサイズは、30nmから150nmの範囲であり、30kDaから90kDaのサイズ範囲の活性分子を担持する。ビヒクルの保存期間は、-20°Cで1~3ヶ月、-80°Cで6ヶ月である。これらの送達ビヒクルは、生物学的条件下で約30分から3時間にわたって、活性物質をうまく担持し、生物学的条件下での活性物質の半減期を24時間延長させる。
【0021】
活性物質とは、異常な細胞の成長を直接阻害する任意の物質またはそれらの物質の混合物である。この物質は、単独で、または任意の他の物質と組み合わせて、結果として異常な細胞の成長を制限する生物学的機能を増強し得るかまたは阻害し得る。活性物質は、単独で、または他の活性物質と組み合わせて、異常な状態を呈するヒトの身体の機能を調節する物質の分泌を制御し得る。本発明における活性物質は、限定されないが、タンパク質、薬物、酵素、核酸、化学物質、およびそれらの混合物から選択される。
【0022】
化学療法薬としては、これらに限定されないが、パクリタキセル、シスプラチン、ドキソルビシンが挙げられる。本発明の一実施形態では、エクソソームベースの送達ビヒクルを使用して、mRNA、shRNA、siRNA、およびDNAなどの生体分子を担持する。別の例では、エクソソームベースの送達ビヒクルは、BCR-ABL融合タンパク質を阻害し、特にIL3-Rを標的とする薬物を輸送することができる。本発明の別の例では、エクソソームベースの送達ビヒクルに化学療法薬ドキソルビシンを添加させる。
図1は、本発明の実施例に従って、化学療法薬を含めた本発明のエクソソームベースの送達ビヒクルの効力を示す概略図を示す。本発明のビヒクルにより、必要な化学療法サイクルの数も減少させるため、治療費が減少するのみでなく、患者への身体的影響および心理的影響も減少させる。
【0023】
エクソソームベースの送達ビヒクルは、ビヒクルに添加されたときに、そのクラスリンコーティングにより、マクロファージによる貪食をうまく回避し、活性物質の半減期を延長させるため、送達ビヒクルは、標的細胞に安全に到達され得る。
【0024】
本発明の別の実施形態は、がん細胞およびがん幹細胞に、活性物質を標的送達するためのエクソソームベースの送達ビヒクルを産生する方法を提供することである。これらのエクソソームは、がん細胞およびがん幹細胞に対する特異性を高めるように生物学的に操作される。本方法は、バイオ製剤を含む培養培地中で単球をインキュベートして樹状細胞を得るステップと、先に得られた樹状細胞を含む培養培地に活性物質を添加して、活性物質を含有するエクソソームベースの送達ビヒクルを得るステップと、がん細胞およびがん幹細胞に特異的な活性物質を標的送達するためにエクソソームベースの送達ビヒクルを培養培地から単離するステップと、を含む。ここで説明するステップは、以下に詳細に記載する。
【0025】
最初に、単球を培養培地中でインキュベートして樹状細胞(以下、DCと称する)を得る。培養培地は、RPMI、DMEM、L-15、またはDMEM高グルコースを含むがこれらに限定されないリストから選択される。一例として、NCCS Puneから入手したTHP-1細胞株(ヒト白血病単球細胞株)を、10%FBSと1X抗生物質および抗真菌ミックス(Himedia)を添加したDMEMで、370C、95%空気、および5%CO2の加湿チャンバー内で維持する。その後、指数関数的成長期の細胞は、さらなる実験に使用する。次のステップは、THP-1単球細胞株からのDCの生成である。一例では、本発明のバイオ製剤を含むRPMI培地中でのインキュベーション後に、成熟DCがThPl細胞から誘導される。インキュベーション期間は、約48時間~50時間である。細胞は、約95%空気および約5%CO2において、約37℃に維持された加湿チャンバー内でインキュベートさせる。こうして得られたDCに活性物質を添加して、活性物質を含めたエクソソームベースの送達ビヒクルを得る。活性物質は、内因性または外因性のパッケージング方法によってエクソソーム内にパッケージングさせる。一例では、DC由来エクソソーム内に活性物質をパッケージ化するために、単球由来DCを、バイオ製剤を含むRPMI培地中でエクソソーム内にパッケージ化される活性物質と共にインキュベートする。その後、エクソソームを単離するために約24時間後に培養培地を採取して、がん細胞およびがん幹細胞に活性物質を標的送達するためのエクソソームベースの送達ビヒクルを得る。一例では、ドキソルビシンを添加することは、成熟DCを1.8μg/mlまたは2.0μg/mlの濃度のドキソルビシンで、約24時間処置することによって行われる。その後、製品マニュアルに記載されているプロトコルを使用して、Total Exosome Isolation Reagent(カタログ番号4478359)を使用して、エクソソームを細胞培養培地から単離する。本発明の一実施形態によれば、エクソソームは、エクソソーム枯渇培地で48時間培養された2x108個の成熟DC-CMから、Total Exosome Isolation Reagentによって単離される。採取した培地を4℃、2,000rpmで3分間遠心分離し、上清を収集して、4℃、約4,000rpmで、約30分間遠心分離させる。エクソソームは、製造業者の指示に従って単離させる。次に、エクソソームペレットをカルシウムおよびマグネシウムを含まないPBSで1回洗浄し、50~100μlのPBSに再懸濁させる。全エクソソームタンパク質は、ブラッドフォードタンパク質アッセイによって測定する。一例では、1mlの培養培地から6~7μg/μlの収量が得られる。
【0026】
さらに別の実施形態は、がん細胞およびがん幹細胞に対するエクソソームベースの送達ビヒクルの特異性を高めるバイオ製剤を提供する。バイオ製剤は、エクソソームベースの送達ビヒクルが開発される培養培地と混合される成分のカクテルである。これらの成分は、これらに限定されないが、リポ多糖類(以下、LPSと称する)、腫瘍壊死因子-α(以下、TNF-αと称する)、アンジオテンシンII、インターロイキン-1β(以下、IL-1βと称する)、およびインターフェロン-Y(以下、IFN-Yと称する)などのリストから選択される。特に、本発明のバイオ製剤の組成には、100ng/mL~150ng/mLの濃度範囲の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、100ng/mL~150ng/mLの濃度範囲のインターロイキン-4、200ng/mL~250ng/mLの濃度範囲のイオノマイシン、100ng/mL~150ng/mLの濃度範囲の腫瘍壊死因子アルファ、20ng/mL~40ng/mLの濃度の範囲のIL1β、200ng/mL~250ng/mLの濃度範囲のLPS、および50ng/mL~100ng/mLの濃度範囲のアンジオテンシンIIが含まれる。
【0027】
バイオ製剤を調製するプロセスには、それぞれの成分をそれぞれの濃度で、100mlの培養培地に添加するステップが含まれる。本発明における培養培地は、本発明の単球をインキュベートし、次いで成熟樹状細胞を生成し、最終的にエクソソームベースの送達ビヒクルを生成する任意の培地、これらに限定されないが、RPMI、DMEM、L15培地である。一例では、培養培地は、高グルコースDMEM培地である。このようにして得られた製剤を、滅菌環境下において、約4℃で、約15分~20分間、ゆっくりと撹拌させる。
バイオ製剤の成分の供給源を以下に示す。
【0028】
【0029】
本発明の一実施形態によれば、単球をバイオ製剤と共にインキュベートすることにより、ICAM-1が過剰発現する。これらの過剰発現したタンパク質は、得られたエクソソームベースの送達ビヒクルの標的特異性によるものである。ICAM-1が過剰発現することにより、がん細胞由来のPGE2による免疫抑制を妨げ、細胞傷害性T細胞(CTL)の機能を回復させる。本発明の送達ビヒクルは、効果的にがん幹細胞およびがん細胞を標的とし、がん幹細胞およびがん細胞によって特異的に内在化され、同時に、本発明は、これらの細胞上の表面ICAM1を増加させて、それらの免疫原性プロファイルを増加させ、それによってCTLなどの免疫細胞による検出を向上させる。ICAM-1は、CTL上のLFA-1にも結合し、in-vivoにおいて、活性化させる。過剰発現したICAM-1は、がん幹細胞内のCD43も標的とし、その特異性を高める。このバイオ製剤は、ICAM1と共にガレクチン-3も上方制御し、がん細胞およびがん幹細胞の標的化を助ける。ガレクチン-3(以下、GAL3と略記)は、構造的に独特なベータガラクトシド結合レクチンであり、特定のタンパク質間およびタンパク質と炭水化物間の相互作用を介して、細胞増殖およびアポトーシス、接着および活性化などの多数の生物学的プロセスに関与する。本発明のバイオ製剤中のリポ多糖類(LPS)は、単球様THP-1細胞において遺伝子レベルおよびタンパク質レベルの両方において、GAL3発現の上方制御を引き起こし、同時にエクソソームの産生を増加させる。MUC1は、GAL3の天然リガンドである。MUC1とGAL3との相互作用により、がん幹細胞およびがん細胞による本発明のエクソソームベースの送達ビヒクルの内在化が促進され、その有効性が向上する。
【0030】
効力試験:
患者由来および健常者由来のPBMCに対する本発明のエクソソームの毒性を分析する。
本発明のエクソソームベースの送達ビヒクルは、多面的な効果を有して、これによって、化学療法薬の毒性を低下させる。PBMCに対する遊離DOXおよびDOXを含めたエクソソーム(EXO-DOX)の毒性を分析するために、健康な個体および腫瘍患者からPBMCを単離する。単離後、これらをDOX含有エクソソームまたは遊離DOXと共に約48時間培養させる。DOXをエクソソーム内にパッケージ化することにより、毒性の副作用が減少した。健康な患者の血液では、毒性が2倍低下するが、患者の血液では、毒性が約1.3倍低下した。
図2は、EXO-DOXおよび遊離DOXを添加したPBMCの培養後のアネキシンV細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【0031】
がん細胞およびがん幹細胞による本発明の送達ビヒクルの内在化効率の分析:
本発明の送達ビヒクルの内在化効率を理解するために、成熟DC由来のエクソソームおよびTHP1単球由来のエクソソームにCFSEのタグを付ける。CFSEタグ付きエクソソームを単離後、CSC(がん幹細胞)およびがん細胞をこれらのタグ付きエクソソームと共に時間依存的に培養させる。本結果は、成熟DC由来のエクソソームが、THP1単球由来のエクソソームと比較して、約6時間でがん細胞(約12倍)およびCSC(約2.8倍)に内在化される可能性が高くなることを示している。これにより、
図3に示すように、THP1単球由来エクソソームと比較して、本発明の送達ビヒクルの標的化能力が向上していることが明らかになる。
【0032】
標的エクソソームにおけるICAM1発現の分析
標的エクソソームにおけるICAM1の発現の増加を検証するために、ウェスタンブロット分析を実施する。そのために、THP1細胞を本発明のバイオ製剤で約48時間処置し、その後エクソソームを単離する。エクソソームの単離後、全エクソソームタンパク質を単離させる。標的エクソソーム上のICAM1の発現は、ウェスタンブロット分析によって分析する。結果は、THP1細胞をバイオ製剤とインキュベート後、
図4に示すとおり、未処置のTHP1細胞から単離されたエクソソームと比較して、ICAM1の発現が約4倍増加したことを示している。
【0033】
CSCおよびがん細胞の特異的標的化の分析
本発明のエクソソームベースの標的送達ビヒクルの特異性を分析するために、本発明の標的エクソソームは、ドキソルビシン(EXO-DOX)と共にパッケージ化されている。その後、乳癌由来のがん幹細胞、乳癌細胞、HEK293細胞を、EXO-DOX(4ng/ml)および遊離DOX(1800ng/ml)で処置する。処置後、遊離DOX処置セットおよびEXO-DOX処置セットにおいて、アネキシンV細胞の割合が同程度であることが見出される。これは、EXO-DOXが、450倍低い濃度であっても、遊離DOXと同等の効果があることを示唆するものである。興味深いことに、HEK293細胞をEXO-DOX(4ng/ml)および遊離DOX(1800ng/ml)で処置した場合、遊離DOXは、HEK293細胞中においてアポトーシスを誘導したが、EXO-DOXは、HEK293細胞中でアポトーシスを誘導できなかった。これにより、本発明のCSCおよびがん細胞に対する特異性が確認される。
図5a、
図5b、および
図5cは、本発明の送達ビヒクルによるがん細胞およびがん幹細胞の特異的標的化を示している。
【0034】
等濃度の遊離DOXおよびEXO-DOXとインキュベート後のCSC中での細胞傷害性の分析
遊離DOXと比較したEXO-DOXの増強された有効性を分析するために、MDA-MB-231細胞およびMDA-MB-468細胞から生成されたがん幹細胞を培養し、5ng/mlの遊離DOXおよび5ng/mlのEXO-DOXで処置した。フローサイトメトリーによるアネキシンV分析では、
図6に示すように、MDA-MB-231およびMDA-MB-468細胞由来のCSCのアポトーシスがそれぞれ約2倍および約6倍増加することが明らかになった。
【0035】
本発明の記載された好ましい実施形態には多くの修正、変形、および詳細な変更を行うことができるため、前述の説明および添付の図面に示されるすべての事項は、限定的な意味ではなく、例示的なものとして解釈されることが意図されている。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその法的均等物によって決定されるものとする。
【国際調査報告】