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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】イソシクロスポリンAの塩の製造法
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/64 20060101AFI20241203BHJP
   C07K 1/02 20060101ALI20241203BHJP
   A61K 38/08 20190101ALN20241203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20241203BHJP
   A61P 37/06 20060101ALN20241203BHJP
   A61P 27/02 20060101ALN20241203BHJP
   A61P 19/02 20060101ALN20241203BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20241203BHJP
   A61P 17/06 20060101ALN20241203BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
C07K7/64
C07K1/02
A61K38/08
A61P43/00 123
A61P37/06
A61P27/02
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P17/06
A61P1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537999
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-08-21
(86)【国際出願番号】 IB2022062576
(87)【国際公開番号】W WO2023119172
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】102021000032648
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】315012541
【氏名又は名称】ドムペ・ファルマチェウティチ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ピウマッティ,ソニア
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA06
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA27
4C084CA59
4C084DA11
4C084NA06
4C084NA07
4C084NA15
4C084ZA331
4C084ZA661
4C084ZA681
4C084ZA891
4C084ZA961
4C084ZB081
4C084ZB151
4H045AA20
4H045BA16
4H045EA20
4H045FA50
(57)【要約】
本発明は薬物合成の技術分野に属する。特に、本発明は、イソシクロスポリンAの塩の製造法、特にシクロスポリンAのエステル交換によるイソシクロスポリンAの塩の製造法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロスポリンAのイソシクロスポリンAの塩へのエステル交換によるイソシクロスポリンAの塩の製造法であって、
a)前記シクロスポリンAを無水メタノール中に溶解してトリフルオロ酢酸を加え;
b)工程(a)によって得られた溶液を、50℃から反応混合物の還流温度までの範囲の温度に30~60時間の範囲の時間加熱し;
c)前記メタノールと過剰の前記トリフルオロ酢酸を除去し;
d)イソシクロスポリンAの前記トリフルオロ酢酸との塩を回収する
工程を含み、工程a)によって得られた溶液中の前記トリフルオロ酢酸と前記メタノールのモル比が1:3である方法。
【請求項2】
工程b)が60℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)が約48時間実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)の過剰のトリフルオロ酢酸が、真空下ジエチルエーテルでストリッピングすることによって除去される、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程d)の下流に下記工程:
e)クエン酸及び乳酸から選ばれる酸化合物をメタノール中に溶解し;
f)イソシクロスポリンAの前記トリフルオロ酢酸との前記塩を、工程e)で得られた溶液中に溶解し、この間、得られた溶液を0.5~2時間の範囲の時間撹拌し;
g)メタノール及び前記トリフルオロ酢酸を除去し;そして
h)イソシクロスポリンAの、クエン酸及び乳酸から選ばれる前記酸化合物との塩を回収する
工程をさらに含む、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程a)が、約2mmolのシクロスポリンAを60mmolのメタノール中に溶解することを含む、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
イソシクロスポリンAの総収率が80%である、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
出発物質のシクロスポリンAの変換パーセンテージが53%である、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物合成の技術分野に属する。特に、本発明は、イソシクロスポリンAの塩の製造法、特にシクロスポリンAのエステル交換によるイソシクロスポリンAの塩の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロスポリンは環状構造を有するオリゴペプチドで、抗真菌特性及び免疫抑制作用を有し、臓器移植における身体の免疫反応を調節して拒絶反応を予防するために使用されている。
【0003】
シクロスポリンの最初の発見以来、数種類の天然シクロスポリンが単離及び同定されている。一方、非天然シクロスポリンは半合成法か又は培養技術の応用を通じて得られている。シクロスポリンAは主に薬物として使用されるシクロスポリンである。
【0004】
シクロスポリンAは単剤療法又は他の免疫抑制薬との併用療法で使用されるが、主な適応症は、臓器移植、特に腎臓、膵臓、肝臓及び心臓移植における拒絶反応の予防である。
シクロスポリンAは、例えば、ブドウ膜炎、関節リウマチ、乾癬及び潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患の治療にも使用できる。
【0005】
シクロスポリンは、11個のペプチドによって形成され、数個のN-メチル化アミノ酸を含有しているため、複雑な化学構造を有している。その結果、ペプチド縮合試薬による合成は、かなり複雑で時間もかかる。そこで、現在、シクロスポリンの合成に主に使用されている方法は、2種類の真菌、すなわち、トリコデルマ・ポリスポラム(Trichoderma polysporum)及びシリンドロカルポン・ルシダム(Cylindrocarpon lucidum)の発酵による方法である(Survase,S.A.,Kagliwal,L.D.,Annapure,U.S.& Singhal,R.S.Cyclosporin A - a review on fermentative production,downstream processing and pharmacological applications(シクロスポリンA-発酵生産、ダウンストリームプロセシング及び薬理学的応用についてのレビュー).Biotech.Advances.29,418-435(2011))。しかしながら、この合成法ではシクロスポリンを高収率で得ることはできない。
【0006】
2010年、化学者Danishevsky率いる研究グループが、シクロスポリンAを液相でのイソニトリルの縮合反応によって合成しようとした。しかしながら、この合成法は多くの縮合試薬の使用を必要とし、それゆえ複雑である。従って、現在、多くの困難と長時間を要する方法以外、固相合成法は実現できていない。
【0007】
さらに、シクロスポリンAの用途は、その低いバイオアベイラビリティと高い毒性、特に腎毒性のために限られている。実際、シクロスポリンの経口投与後、血中濃度レベルは高ピークに達した後、急速に低下する。その結果、有効量のシクロスポリンを経口投与すると、血中濃度のピークレベル時に血液中のシクロスポリンが一過性ではあるが危険なほど高濃度になり、いくつかの副作用、特に腎臓と肝臓の損傷をもたらす。
【0008】
最近、一部のイソシクロスポリン、特にイソシクロスポリンA、B、D、及びGは、シクロスポリンに比べて改良された薬物動態プロフィールを有していることが観察されている。好都合なことに、イソシクロスポリン、すなわちシクロスポリンの異性体は、比較的不活性で非毒性のアイソフォームで腸に吸収され、その後薬理学的に活性なシクロスポリン形に変換されるので、投与後の血中ピーク濃度が低下する。
【0009】
本発明の目的は、上で概略を述べた現存のシクロスポリン合成法で遭遇する課題を克服するために、イソシクロスポリンAの塩の製造法を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Survase, S. A., Kagliwal, L. D., Annapure, U. S. & Singhal, R. S. Biotech. Advances. 29, 418-435 (2011)
【発明の概要】
【0011】
出願人は、シクロスポリンAの直接変換によるイソシクロスポリンAの塩の製造法を開発した。本発明による方法によって得られるイソシクロスポリンは、良好な薬物動態プロフィールを有しているため、シクロスポリンの代わりに薬物として使用できる。
【0012】
本発明の第一の態様は、シクロスポリンAのイソシクロスポリンAの塩へのエステル交換によるイソシクロスポリンAの塩の製造法についてであり、該方法は、
a)前記シクロスポリンAを無水メタノール中に溶解してトリフルオロ酢酸を加え;
b)工程a)によって得られた溶液を、50℃から反応混合物の還流温度までの範囲の温度に30~60時間の範囲の時間加熱し;
c)前記メタノールと過剰の前記トリフルオロ酢酸を除去し;
d)イソシクロスポリンAの前記トリフルオロ酢酸との塩を回収する
工程を含み、工程a)によって得られた溶液中の前記トリフルオロ酢酸と前記メタノールのモル比は1:3である。
【0013】
出願人は、酸化合物、特にトリフルオロ酢酸とメタノール間の1:3という最適モル比を用いると、シクロスポリンAからイソシクロスポリンAへの53%の変換が副産物なしに得られるが、酸化合物とメタノール間のモル比が1:1又は1:4であると、シクロスポリンAからイソシクロスポリンAへの変換率が低い(30%又は20%)(実施例1及び2参照)ことを観察した。他方、酸化合物とメタノール間のモル比が3:1であると、シクロスポリンAからイソシクロスポリンAへの変換率は高くなるが(75%)、多数の副産物を伴う(実施例2)。
【0014】
これを踏まえ、1:3のモル比が、シクロスポリンの53%がアイソフォームに副産物なしに変換され、変換されなかった残留物をリサイクルできるため、最良の比であるという結果になった。
【0015】
本発明の第二の態様において、工程a)によるシクロスポリンAとメタノールの溶液はマイクロ波によって加熱される。
前記第二の態様に従って、シクロスポリンAのイソシクロスポリンAの塩へのエステル交換によるイソシクロスポリンAの塩の製造法は、
a)前記シクロスポリンAを無水メタノール中に溶解してトリフルオロ酢酸を加え;
b)工程a)によって得られた溶液をマイクロ波オーブン中で加熱し;
c)前記メタノールと過剰の前記トリフルオロ酢酸を除去し;
d)イソシクロスポリンAの前記トリフルオロ酢酸との塩を回収する
工程を含む。
【0016】
特に、方法の工程b)によるマイクロ波加熱は、55℃~65℃の範囲の温度で10~20時間の範囲の時間、好ましくは約15時間実施される。
特に好適な態様において、工程b)は60℃で15時間実施される。
【0017】
実際、60℃で15時間のマイクロ波加熱は、100%のイソシクロスポリンA又はその塩の収率を得ることを可能にする。
本発明の第二の態様の第二の側面は、本発明の方法によるイソシクロスポリンAの塩を製造するための連続フロー式マイクロ波システムである。
【0018】
前記連続フロー式マイクロ波システムは、出発試薬用の一つ又は複数の分配ユニット、一つ又は複数のマイクロ波反応器、及び一つ又は複数の生成物コレクターを含む。
特に、出発試薬は、一つ又は複数のポンプ、好ましくは一つ又は複数のHPLCポンプ又はシリンジポンプを用いて、一つ又は複数のマイクロ波反応器に供給される。
【0019】
本発明によるシステムは、一つ又は複数のクーラーと、一つ又は複数の背圧調節器も有する。
好適な態様において、前記連続フロー式マイクロ波システムは、複数のマイクロ波反応器を並列に含む。
【0020】
マイクロ波加熱と連続フロー技術の組合せが、好都合にも得られるイソシクロスポリンAの収率増大を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、トリフルオロ酢酸とメタノールのモル比1:3を用いることによって得られたイソシクロスポリンAの塩の液体クロマトグラフィーの結果を示す。図1中、“IsoCsA”はイソシクロスポリンAを示し、“CsA”はシクロスポリンAを示す。
図2図2は、トリフルオロ酢酸とメタノールのモル比1:4を用いることによって得られたイソシクロスポリンAの塩の液体クロマトグラフィーの結果を示す(実施例2参照)。図2中、“IsoCsA”はイソシクロスポリンAを示し、“CsA”はシクロスポリンAを示す。
図3図3は、マイクロ波の中での反応混合物の加熱を実施することによって得られたイソシクロスポリンAの塩の液体クロマトグラフィーの結果を示す。図3中、“IsoCsA”はイソシクロスポリンAを示す。
図4図4は、本発明による連続フロー式マイクロ波システムを図形的に表現した図である。特に、図4に示されている連続フロー式マイクロ波システムは、分配ユニット(1)、マイクロ波反応器(2)、及び生成物コレクター(3)を含む。図4には、出発試薬を分配ユニット(1)からマイクロ波反応器(2)、クーラー(5)、及び背圧調節器(6)に運ぶポンプ(4)も示されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
経口投与後の高い血中シクロスポリン濃度による副作用を低減するために、出願人は、シクロスポリンAの異性体であるイソシクロスポリンAの塩の製造法を考案した。これは、シクロスポリンAのエステル交換によりイソシクロスポリンの塩を製造することによって提供される。この方法により、イソシクロスポリンAの塩の製造法において、その複雑な化学構造のために遭遇する問題を克服することが可能となる。
【0023】
実際、シクロスポリンは、以下の式I:
【0024】
【化1】
【0025】
を有する疎水性の環状ウンデカペプチドである。
シクロスポリンAの異性体であるイソシクロスポリンAは、代わりに以下の式(II):
【0026】
【化2】
【0027】
を有する。
シクロスポリンAとその異性体間の構造の違いは、以下のスキーム1:
【0028】
【化3】
【0029】
に表されている。
イソシクロスポリンAは、比較的不活性で非毒性のアイソフォームで腸に吸収され、その後薬理学的に活性なシクロスポリンの形態に変換されるので、投与後の血中ピーク濃度が低下する。従って、イソシクロスポリンAは、シクロスポリンAと同じ薬理効果を有しながら低毒性であるので、シクロスポリンAの代わりに使用することができる。
【0030】
本発明の第一の態様の目的は、シクロスポリンAのイソシクロスポリンAの塩へのエステル交換によるイソシクロスポリンAの塩の製造法であり、該方法は、
a)前記シクロスポリンAを無水メタノール中に溶解してトリフルオロ酢酸を加え;
b)工程a)によって得られた溶液を、50℃から反応混合物の還流温度までの範囲の温度に30~60時間の範囲の時間加熱し;
c)前記メタノールと過剰の前記トリフルオロ酢酸を除去し;
d)イソシクロスポリンAの前記トリフルオロ酢酸との塩を回収する
工程を含み、工程a)によって得られた溶液中の前記トリフルオロ酢酸と前記メタノールのモル比は1:3である。
【0031】
出願人は、有益なことに、工程a)で形成された溶液(シクロスポリンA、トリフルオロ酢酸及びメタノールを含む)中のトリフルオロ酢酸とメタノール間のモル比が1:3に等しいと、80%というイソシクロスポリンAの塩の収率が得られることを観察した。一態様において、工程a)による溶液は、約2mmolのシクロスポリンAと60mmolのメタノールを含む(実施例の表1参照)。
【0032】
特に、本発明による方法において、工程b)は50℃から反応混合物の還流温度までの範囲の温度、好ましくは60℃の温度で実施される。
特に好適な態様において、工程a)による溶液、すなわちメタノール中に溶解されたシクロスポリンAを含む溶液は、48時間、好ましくは60℃の温度で加熱される。
【0033】
本発明の方法による反応スキームを以下に示す。
【0034】
【化4】
【0035】
工程c)の過剰のトリフルオロ酢酸は、真空下、ジエチルエーテルでストリッピングすることによって除去できる。
上記スキーム2から分かるように、得られたイソシクロスポリンAのトリフルオロ酢酸との塩にDCM/NaHCOを加えると、出発物質のシクロスポリンを塩化工程(工程d’)中に除去することができる。
【0036】
イソシクロスポリンAのトリフルオロ酢酸との塩を回収後、本方法は最終的に、工程d)で得られたイソシクロスポリンAのトリフルオロ酢酸との塩を、クエン酸及び乳酸から選ばれる酸化合物とメタノールを含む溶液中に溶解することを含む。
【0037】
特に、本発明による方法は、工程d)の下流に下記工程:
e)クエン酸及び乳酸から選ばれる酸化合物をメタノール中に溶解し;
f)イソシクロスポリンAの前記トリフルオロ酢酸との前記塩を、工程e)で得られた溶液中に溶解し、この間、得られた溶液を0.5~2時間の範囲の時間撹拌し;
g)メタノール及び前記トリフルオロ酢酸を除去し;そして
h)イソシクロスポリンAの、クエン酸及び乳酸から選ばれる前記酸化合物との塩を回収する
工程を含みうる。
【0038】
イソシクロスポリンAの、クエン酸及び乳酸から選ばれる酸化合物との塩の製造例は、実験の部に示されている(実施例3及び4)。
出願人は、トリフルオロ酢酸とメタノール間が1:3という最適モル比であると、シクロスポリンAからイソシクロスポリンAへの53%の変換が副産物なしに得られるが、酸化合物とメタノール間のモル比が1:1又は1:4であると、シクロスポリンAからイソシクロスポリンAへの変換率が低い(30%又は20%)ことを観察した(実施例1及び2参照)。
【0039】
酸化合物対メタノールのモル比が3:1であると、シクロスポリンAからイソシクロスポリンAへの変換率は高くなるが(75%)、多数の副産物を伴う。
上記方法によって得られるイソシクロスポリンAの総収率は80%である。
【0040】
本発明の第二の態様に従って、シクロスポリンAのイソシクロスポリンAの塩へのエステル交換によるイソシクロスポリンAの塩の製造法は、
a)前記シクロスポリンAを無水メタノール中に溶解してトリフルオロ酢酸を加え;
b)工程a)によって得られた溶液をマイクロ波オーブン中で加熱し;
c)前記メタノールと過剰の前記トリフルオロ酢酸を除去し;そして
d)イソシクロスポリンAの前記トリフルオロ酢酸との塩を回収する
工程を含む。
【0041】
特に、方法の工程b)において、工程a)によって得られた溶液は、マイクロ波の中、55℃~65℃の範囲の温度、好ましくは60℃の温度で加熱される。
特に、工程b)は、10~20時間の範囲の時間、好ましくは約15時間実施される。
【0042】
特に好適な態様において、方法の工程b)によるマイクロ波加熱は60℃で15時間実施される。
実際、これらの条件下では100%のイソシクロスポリンAの塩の収率を得ることが可能である。
【0043】
以下のスキーム3に本発明の方法による反応スキームを示す。ここでは化合物(トリフルオロ酢酸)とメタノール間の反応溶液はマイクロ波(M.W.)の中で加熱される。
【0044】
【化5】
【0045】
本発明による方法の工程c)において、過剰の酸化合物は真空下ジエチルエーテルでストリッピングすることによって除去される。
イソシクロスポリンAのトリフルオロ酢酸との塩を回収後(工程d)、本方法は最終的に、イソシクロスポリンAの前記トリフルオロ酢酸との前記塩を、クエン酸及び乳酸から選ばれる酸化合物とメタノールを含む溶液中に溶解することを含む。
【0046】
特に、本発明による方法は、工程d)の下流に下記工程:
e)クエン酸及び乳酸から選ばれる酸化合物をメタノール中に溶解し;
f)イソシクロスポリンAの前記トリフルオロ酢酸との前記塩を、工程e)で得られた溶液中に溶解し、この間、得られた溶液を0.5~2時間の範囲の時間撹拌し;
g)メタノール及び前記トリフルオロ酢酸を除去し;そして
h)イソシクロスポリンAの、クエン酸及び乳酸から選ばれる前記酸化合物との塩を回収する
工程を含みうる。
【0047】
イソシクロスポリンAの、クエン酸及び乳酸から選ばれる酸化合物との塩の製造例は、実験の部に示されている(実施例3及び4)。
マイクロ波加熱を含むイソシクロスポリンAの塩の製造法は、一つ又は複数のマイクロ波反応器を含む連続フローシステムによって実施できる。特に、出願人は、マイクロ波加熱を連続フロー技術と組み合わせることによって、高収率のイソシクロスポリンAが得られることを観察した。従って、本発明の第二の態様の第二の側面は、工程a)による溶液をマイクロ波オーブン中で加熱することを含む、イソシクロスポリンAの塩を製造するための連続フロー式マイクロ波システムである。特に、イソシクロスポリンAの塩を製造するための連続フロー式マイクロ波システムは、本発明による方法の工程a)で得られた溶液によって表される出発試薬用の一つ又は複数の分配ユニット、一つ又は複数のマイクロ波反応器、及び一つ又は複数の生成物コレクターを含む。
【0048】
特に、前記システムにおいて、出発試薬は、ポンプ、好ましくはHPLCポンプ又はシリンジポンプによって分配ユニットからマイクロ波反応器に運ばれる。
該システムは、一つ又は複数のクーラー、及び圧力をモニターするための一つ又は複数の背圧調節器も含みうる。
【0049】
さらに、反応温度をモニターするために、例えば光ファイバーセンサーなどのセンサーがあってもよい。
一態様において、該システムは、出発試薬用の単一の分配ユニット、単一のマイクロ波反応器、及び単一の生成物コレクターを含む(図4に示されているとおり)。この反応器は、一つのポンプ、一つのクーラー及び一つの背圧クーラーも備えている。
【0050】
好ましくは、連続フロー式マイクロ波システムは、出発試薬用の二つ以上の分配ユニット、二つ以上のマイクロ波反応器、及び二つ以上の生成物コレクターを含む。また、二つ以上のポンプ、二つ以上のクーラー、及び二つ以上の背圧クーラーを備えていてもよい。
【0051】
さらに好ましくは、連続フロー式マイクロ波システムは、複数のマイクロ波反応器を並列に含む。
【実施例
【0052】
実施例1:シクロスポリンAのエステル交換によるイソシクロスポリンAのトリフルオロ酢酸との塩の製造-TFA:メタノールのモル比 1:3
シクロスポリンA(2.5g、2.08モル)を無水メタノール(2.45ml)中に溶解した。トリフルオロ酢酸(TFA)(1.5ml)を加え、反応を還流下60℃で48時間撹拌した。
【0053】
溶媒を減圧下で除去し、過剰の残留TFAを真空下ジエチルエーテル(2×15ml)でストリッピングすることにより除去した。
イソシクロスポリンAの乾燥TFAとの塩(1.33g)は白色粉末のようであった。出発物質の約53%の変換とIso-CsAの定量的収率が得られた。最後の反応で副産物は観察されなかった。残りの出発物質(シクロスポリンA、CsA)は、塩化工程中にNAHCOを添加することによって除去された。
【0054】
表1から分かるように、トリフルオロ酢酸とメタノール間のモル比は1:3である。
【0055】
【表1】
【0056】
生成物は液体クロマトグラフィーにより特徴付けされた(図1参照)。
出願人は、反応時間を60時間を超えて、例えば72時間に延長しても、反応収率に顕著な増加はなく、不純物の生成が見られたことを観察した。反応時間を60時間より長くすることは有益でないと考えられた。
【0057】
従って、出願人は、最適な反応条件は、60時間までの反応時間でトリフルオロ酢酸とメタノール間のモル比が1:3という結論に至った。
実施例2:シクロスポリンAのエステル交換によるイソシクロスポリンAの塩の製造-TFA:メタノールのモル比 1:1、1:4、3:1
出願人は、表2に示されているように、トリフルオロ酢酸とメタノール間のモル比を変えて別の実験を実施した。
【0058】
【表2】
【0059】
表2から分かるように、トリフルオロ酢酸化合物とメタノール間のモル比が1:1又は1:4であると、シクロスポリンAからイソシクロスポリンAへの変換率が低くなる(30%又は20%)。他方、酸化合物とメタノール間のモル比が3:1であると、シクロスポリンAからイソシクロスポリンAへの変換率は高くなる(75%)が、多数の副産物を伴う。
【0060】
生成物は液体クロマトグラフィーにより特徴付けされた(図2参照)。
トリフルオロ酢酸とメタノールのモル比3:1(表2の試薬c))で得られた異性化収率は、12時間後及び24時間後に測定された。特に、反応の12時間後に55%の変換率、24時間後に70%の変換率が観察されたが、検出された副産物の量に目立った改善はなかった。
【0061】
出願人はさらに、表2の試薬c)で示されているのと同じ条件で、ただし反応温度を60℃から65℃に上げて操作することにより、変換率が77%になることを観察したが、この場合も検出される副産物の量に目立った改善はなかった。
【0062】
実施例3:イソシクロスポリンAのクエン酸との塩の製造
イソシクロスポリンAのトリフルオロ酢酸との塩(1mmol)をMeOHとクエン酸(1mmol)の溶液中に溶解した。溶液を撹拌下で1時間維持した後、溶媒を減圧下で除去し、過剰の残留トリフルオロ酢酸を真空下ジエチルエーテル(2×15ml)でストリッピングすることによって除去した。収率90%のイソシクロスポリンAのクエン酸との塩を得た。
【0063】
実施例4:イソシクロスポリンAの乳酸との塩の製造
イソシクロスポリンAのトリフルオロ酢酸との塩(1mmol)をMeOHと乳酸(1mmol)の溶液中に溶解した。溶液を撹拌下で1時間維持した後、溶媒を減圧下で減少させ、過剰の残留トリフルオロ酢酸を真空下ジエチルエーテル(2×15ml)でストリッピングすることによって除去した。収率91%のイソシクロスポリンAの乳酸との塩を得た。
【0064】
実施例5:シクロスポリンAのエステル交換によるイソシクロスポリンAの塩の製造-マイクロ波加熱
シクロスポリンA(2.5g、2.08モル)を無水メタノール中に溶解した後、トリフルオロ酢酸を加え(5ml)、反応バイアルを、Biotage MWリアクタを用いることによりマイクロ波の中60℃で15時間加熱した。
【0065】
溶媒を減圧下で減少させ、過剰の残留トリフルオロ酢酸を真空下ジエチルエーテル(2×15ml)でストリッピングすることにより除去した。
イソシクロスポリンAの乾燥TFAとの塩(3.386g)は白色粉末のようであった。生成物は液体クロマトグラフィーにより特徴付けされた(図3参照)。
【符号の説明】
【0066】
1 分配ユニット
2 マイクロ波反応器
3 生成物コレクター
4 ポンプ
5 クーラー
6 背圧調節器
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】