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特表2024-545724ぶどう膜メラノーマを診断するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】ぶどう膜メラノーマを診断するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/487 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
G01N33/487
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538692
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-08-22
(86)【国際出願番号】 RU2022050395
(87)【国際公開番号】W WO2023121515
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】2021138744
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524239313
【氏名又は名称】アレクサンダー ニコラエヴィチ シロウス
【氏名又は名称原語表記】Alexander Nikolayevich Sirous
【住所又は居所原語表記】Pishkova str. 1945/10, 15500 Praha, Czech Republic
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100210099
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 太介
(72)【発明者】
【氏名】エレナ ヴラジミロヴナ ツィガノヴァ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045BA13
2G045BB21
2G045BB28
2G045BB48
2G045CB30
2G045FA13
2G045FA16
2G045FA18
2G045FA19
(57)【要約】
提案されている発明は、医学、より具体的には眼科学に関連し、ぶどう膜メラノーマを診断するための方法に関する。本方法は、まず、流涙を引き起こすことを含む。次いで、涙液を顕微鏡スライドに液滴として塗布し、室温で45~180分間脱水する。涙液の顕微鏡検査を実施する。10~50個のブッシュ状構造が涙液サンプルの外側領域で検出された場合に、ぶどう膜メラノーマと診断する。この方法は非常に正確であり、高価な機器および試薬の使用を必要とせず、したがって、一般人の大部分に利用可能であり、また、非侵襲性であり、医師にとって執り行うのが容易である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ぶどう膜メラノーマを診断するための方法であって、流涙を予備的に誘発させ、次いで、涙液を顕微鏡スライドに液滴の形態で塗布し、室温で45~180分間脱水し、前記涙液の顕微鏡検査を行い、涙液サンプルの外側領域に10~50個の量のブッシュ状構造が検出された場合に、前記ぶどう膜メラノーマと診断することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
提案されている発明は、医学、より具体的には眼科学に関連し、ぶどう膜メラノーマの診断に使用することができる、ぶどう膜メラノーマを診断するための方法に関する。
【0002】
ぶどう膜メラノーマの発生は現在増加しており、2002年では、発生率は、ロシア連邦において成人人口10万人あたり0.5~0.8件、世界的には10万人あたり0.5件であった[Saakyan S.V., Zakharova G.P., Myakoshina E.B., Kletochnoye mikrookruzheniye uveal’noy melanomy: kliniko-morfologicheskiye korrelyatsii i prediktory neblagopriyatnogo prognoza [Cellular microenvironment of uveal melanoma: clinical and morphological correlations and predictors of bad prognosis], Molekulyarnaya meditsina 2020; 18 (3):27-33. https://doi. org/10.29296/24999490-2020-03-04]。CIS諸国では、ぶどう膜メラノーマについての医師診察率は、人口10万人あたり0.32~0.35人である[Oftal’moonkologiya: rukovodstvo dlya vrachey [Ophthalmic oncology: A guide for physicians] / ed. A.F. Brovkina. - M.: Meditsina, 2002. - 424 p.]。最新のデータによると、モスクワ地域では、ぶどう膜メラノーマの発生は、年間、成人人口100万人あたり疾患12~13件の新規症例に達している。この疾患は、主に労働年齢の患者において登録されている[Brovkina A. F., Panova I. E., Saakyan S. V., Oftal’moonkologiya: novoye za posledniye dva desyatiletiya [Ophthalmic oncology: achievements over the last two decades], Vestnik oftal’mologii. 2014; 130 (6): 13-19.]。
【0003】
早期診断の問題が課題として残っている。幾つかの種類の装置を使用した包括的な検査が必要であるが、これは、ほとんどの場合、第1および第2レベルの医療機関(総合診療所および臨床診断センター)では利用できず、第3レベル(病院)でも利用できない場合すらある。これまで、2020年の臨床ガイドラインによると、ぶどう膜メラノーマが疑われる患者は、以下の標準検査:
- 眼の生体顕微鏡検査、最大散瞳での隅角鏡検査;
- 突出の存在、その高さを明らかにし、腫瘍の直径を測定するための超音波検査(Bスキャン);
- 内因性新生血管ネットワークの存在を判定するためのカラードップラースキャン;
- 前眼部に病変が疑われる場合、超音波生体顕微鏡検査;
- 腫瘍の内因性血管ネットワークを検出し、隠れた成長ゾーンを視覚化するための蛍光血管造影法;
- 腫瘍の形態計測学的兆候を検出するための光干渉断層撮影法;
- 眼球の外側に発生した腫瘍を除外または検出するためのコンピューター断層撮影法または磁気共鳴画像法;
- 転移の存在を除外または検出するために静脈内造影剤を使用した腹部および胸部のコンピューター断層撮影法[Klinicheskiye rekomendatsii ‘‘uveal’naya melanoma’’ Ministerstva zdravookhraneniya Rossiyskoy Federatsii [Clinical guidelines ’’uveal melanoma’’ of the Ministry of Health of the Russian Federation] (protocol of April ’’10’’, 2020, No. 17/2-3-4)]
を受けている。
【0004】
蛍光血管造影法(FAG)は、最も情報量が多いと考えられており、ぶどう膜メラノーマの主な兆候、すなわち、斑状の過蛍光、静脈相におけるコンフルエントへの移行および腫瘍の長期の残留蛍光を確立することを可能にする。しかしながら、同様のパターンが、巨大な母斑、偽腫瘍性疾患または脈絡膜血管腫で観察され得る。さらに、多くの患者には、重度の身体的条件およびアレルギーの存在を理由に、この処置が禁忌である。蛍光血管造影法の別の制限は、眼内媒体の透明性が必要であることであるが、これは、白内障などの併発疾患によるものではないであろう。FAGの実施自体は、眼底カメラ、コンピューター分析装置、フルオレセインに対するアレルギー反応が生じる場合には緊急補助を提供する手段なしには不可能であり、それによって、総合診療所の眼科では、この方法自体が利用不可能になる。
【0005】
周辺血清中の免疫担当細胞の検査を含む、進行性脈絡膜母斑からのぶどう膜メラノーマの鑑別診断の方法(RU 2147129 C1, cl. G01N 33/53, G01N 33/48, publ. March 27, 2000)が知られており、この方法では、正常なキラー細胞CD16+の集団およびそれらの比活性度の絶対指標によって診断が行われ、それらが通常の限界を超えて同時に増加した場合には、初期ぶどう膜メラノーマと診断され、指標において変化が見られない場合には、進行性脈絡膜母斑と診断される。この方法によって、臨床的に複雑かつ非典型的な症例の鑑別診断を行うことが可能になり、それによって、適時かつより効果的に適切な治療を行って、眼科腫瘍患者の平均余命を延ばすことが可能になる。
【0006】
この方法の欠点は、方法の侵襲性、実行の技術的な複雑さおよび高価な試薬を使用する必要があることである。
【0007】
ぶどう膜メラノーマおよび他の眼球腫瘍の鑑別診断の方法(RU 2218069 C1, cl. A61B 5/00, publ. December 10, 2003)が知られており、この方法では、検出された臨床症状が、ポイントスケールで評価され、ポイントの総数が合計され、最終的な合計に基づいて、眼内転移、メラノサイトーマ、脈絡膜母斑、血管腫またはぶどう膜メラノーマが診断される。この方法によって、診断の質を改善することが可能になる。
【0008】
既知の方法の欠点は、評価が主観的であること、また、周辺局部における検眼鏡検査の方法によって腫瘍を視覚化することが可能ではないことである。
【0009】
二次元セロスケール超音波検査(two-dimensional seroscale echography)の方法(B法)がより広く普及している。これは、非侵襲性であり、無痛性であり、情報量が非常に多く、患者の特別な準備を必要とせず、合併症が起こる懸念なしにあらゆる年齢の患者に対して繰り返し検査を実施することを可能にする。この方法は、眼の光学媒体の透明性が不十分である場合に高い診断価値を有し、検眼鏡検査による視覚化が不可能である場合に眼底の状態を評価する唯一の客観的な方法である。しかしながら、この方法によっては、腫瘍組織の状態を評価することは可能にならない。特に、これは、腫瘍組織の音響密度の定量的特性(その密度測定特性)を提供せず、また、それによって、腫瘍過程の経過の性質の決定に著しい影響が及び得る。
【0010】
したがって、例えば、ぶどう膜メラノーマの形態学的形態の鑑別診断の方法(RU 2577237 C1, cl. A61B 8/08, A61B 8/10, publ. March 10, 2016)が知られており、この方法では、超音波検査は、15~17MHzの走査周波数での高周波数二次元セロスケール走査によって実施される。腫瘍組織の音響密度を評価する。80以下の相対単位の平均音響密度指標が検出された場合、紡錘細胞型と診断される。音響密度が80超の相対単位である場合、類上皮細胞型および混合細胞型と診断される。この方法は、腫瘍組織の組織ヒストグラムに基づいた密度測定分析により、腫瘍組織の特性を特定し、腫瘍過程の経過を予測することを可能にする。
【0011】
既知の方法の欠点は、疾病の早期段階では効果がなく、このことが、患者の予後の悪化に関連することである。
【0012】
必要な機器が不足していることが頻繁にあり、診断の可能性が限られていること、すなわち、疾病の初期段階における情報が不十分であること(段階T1-底部<3~9mm、突出≦6mm、T2-底部10~16mm、突出3~10mm)に加えて、前述のアプローチは高価であり、集団のマススクリーニングには適用可能ではない。FNAB(細針吸引生検)などの診断方法は、転移、また、潜在的な合併症(網膜剥離、眼球血症)を避けるために、厳重に禁忌となっている。患者にとっても、民間の医療センターにおける利用可能な必要な検査を実施するための費用の問題が課題となりつつある。
【0013】
上記の問題を考慮して、ぶどう膜メラノーマを有する大部分の患者にとって、眼球摘出という1つの治療方法のみが選択肢となる。この手術は、健常者の集団の障害に繋がる。さらに、その実施の前後には、人々との心理的なケアが必要である:目の欠損などの欠陥があることを自分自身が将来的に受け入れることができないことから、適時の手術を拒否するケースは珍しくない。様々な著者のデータによると、ぶどう膜メラノーマを有する患者の26~66%において摘出が実施されており、この手術を実施した後の患者の死亡率が高いことが報告されている(20.9~40.7%)[Stoyukhina, A. S., Rezul’taty enukleatsiy kak metoda lecheniya bol’shikh uveal’nykh melanoma [Results of enucleations as a method of treatment of large uveal melanomas] / A. S. Stoyukhina, E. E. Grishina, D. V. Davydov // Oftal’mologicheskiye vedomosti. - 2010. - Vol. 3. - No. 1. - p. 16-21]。ぶどう膜メラノーマ転移の過程は、患者の12~16%で観察される[Saakyan, S. V., Analiz metastazirovaniya i vyzhivayemosti bol’nykh uveal’noy melanomoy [Analysis of metastasis and survival rate of patients with uveal melanoma] / S. V. Saakyan, T. V. Shirina // Opukholi golovy i shei. - 2012. - No. 2. - p. 53-57]。全ての症例の60~70%において、ぶどう膜メラノーマの最初の転移は肝臓に見られ、症例のほぼ40%において、初期に、継続的な成長の病巣が、肺、軟部組織およびリンパ節に検出される[Molekulyarnyye markery uveal’noy melanomy [Molecular markers of uveal melanoma] / M. V. Yakimova, E. N. Zhilyayeva, A. V. Medved’ [et al] // Novosti khirurgii. - 2019. - Vol. 27. - No. 4. - p. 443-452. - DOI 10.18484/2305-0047.2019.4.443]。
【0014】
構造の結晶化は、濃度ならびに電解質、特にナトリウムおよび塩化物とムチンおよびタンパク質高分子との相互作用に依存すると考えられている。二価Ca2+およびMn2+に対する一価Na+およびK+の比率も重要である:これは、面(facies)の主要構造「シダ(ferns)」の形成に重要である[Structure and microanalysis of tear film ferning of camel tears, human tears, and Refresh. PlusMolecular Vision 2018; 24:305-314]。
【0015】
面における結晶分布および構造形成の詳細なメカニズムは、Shabalin V.N.およびShatokhina S.N.のモノグラフに記載されている‘‘Morfologiya zhidkikh sred glaza (novaya teoriya involyutivnogo kataraktogeneza)’’ [‘‘Morphology of liquid media of the eye (new theory of involutional cataractogenesis)’’]。これは、涙液および房水の構成、老人性白内障における眼の液体媒体の生化学的特性について記載している。著者等は、老人性白内障を有する患者における血清、涙液および房水の面の形態学的パターンを比較し、人工水晶体を有する患者における涙液の形態学的パターンの特定の特徴も明らかにした[Morfologiya zhidkikh sred glaza (novaya teoriya involyutivnogo kataraktogeneza) [Morphology of liquid media of the eye (new theory of involutional cataractogenesis)] / V. N. Shabalin, S. N. Shatokhina, A. A. Devyatkin [et al]. - Moskva: Izdatel’stvo ’’Meditsina’’, 2004. - 244 p. - ISBN 5225046886]。この方法を使用して、レンズの混濁および視力低下などの臨床兆候がみられないときの初期段階において、老人性白内障を診断することが可能になった。
【0016】
眼科に加えて、結晶構造解析の方法は、悪性新生物の早期診断、小児における癒着過程の診断において、婦人科で使用されている[Strukturnyye komponenty biologicheskikh zhidkostey u beremennykh s gestozom [Structural components of biological fluids in pregnant women with gestosis] / V. D. Tadzhiyeva, L. I. Trubnikova, S. N. Shatokhina [et al] // Akusherstvo i ginekologiya. - 2005. - No. 2. - p. 35-39]。
【0017】
したがって、例えば、悪性新生物を診断する方法(RU 2235323 C2, cl. G01N 33/48, G01N 21/21, G01N 33/49, publ. August 27, 2004)が知られており、この方法では、血清を得て、室温で乾燥させ、次いで、検査し、その際、0.01~0.02mlの血清を顕微鏡スライドに塗布し、乾燥を、55~60%の相対湿度、カバーガラス下で、72~96時間行い、検査を偏光において顕微鏡によって行う。球晶の中心部に単一の小さな多色の封入体を有する異方性球晶の検出時に、生物における悪性増殖の前臨床段階が診断され、発現した色付きの封入体を有する異方性球晶の検出時に、悪性新生物の初期段階が診断される。この方法は、悪性新生物の診断の精度の向上をもたらし、実行も単純である。
【0018】
既知の方法の欠点は、方法の侵襲性、すなわち、採血の必要性であり、これは、身体の外部バリアへの損傷を示唆する。
【0019】
腹腔臓器に外科的介入を受けた小児における癒着疾患を予測する方法(RU 2608658 C1, cl. G01N 33/48, publ. January 23, 2017)も知られており、この方法では、腹膜滲出液の検査が行われる。サンプルを手術後10~15時間で採取し、これを37℃で30~40分間サーモスタット処理し、その後、滲出液の上清部分を一滴採取し、顕微鏡検査をくさび形脱水法(wedge-shaped dehydration method)によって実施し、舌状突起部(lingual fields)が面の外側領域で検出された場合、癒着疾患が予測される。この方法によって、癒着防止療法の早期の効果的な処方のために、癒着疾患を発症するリスクが高い小児を迅速かつ効果的に識別することが可能になる。
【0020】
既知の方法の欠点は、方法の侵襲性ならびに使用に制限および禁忌があること、例えば、他の局部の併発炎症過程があることである。
【0021】
提案されている方法に最も近いものは、老人性白内障を診断するための方法(RU 2273024 C2, cl. G01N 33/48, A61F 9/00, publ. March 27, 2006)であり、この方法は、脱脂した顕微鏡スライドに液滴の形態で塗布して脱水した涙液の顕微鏡検査を含む。事前に、刺激された涙液を有するチューブを、35~37℃の温度のサーモスタットで10~15分間保つ。次いで、1滴の涙液を、顕微鏡スライド上で45~60分間脱水し、透過光において顕微鏡観察し、涙液サンプルの外側領域に点状の異質等方性封入体が検出された場合、老人性白内障と診断される。同発明は、単純な実行を実現し、実装が迅速であり、スクリーニング検査として上手く使用することができ、最も近い従来技術として採用されている。
【0022】
最も近い従来技術による方法の欠点は、それによって、ぶどう膜メラノーマを診断することが可能ではないことである。
【0023】
本発明の根底にある課題は、非常に正確であり、高価な装置および試薬の使用を必要とせず、これを理由に、より広い層の集団が利用可能であり、医者にとって実施が容易であり、かつ非侵襲性である、ぶどう膜メラノーマを診断するための新たな方法の開発である。
【0024】
この目的は、ぶどう膜メラノーマを診断するための方法が、流涙を予備的に誘発させ、次いで、涙液を顕微鏡スライドに液滴の形態で塗布し、室温で45~180分間脱水し、涙液の顕微鏡検査を行い、涙液サンプルの外側領域に10~50個の量のブッシュ状構造が検出された場合に、ぶどう膜メラノーマと診断することを含むという事実によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1による患者の涙液面の形態学的パターンを示す図である。
図2】実施例2による患者の涙液面の形態学的パターンを示す図である。
図3】実施例3による患者の涙液面の形態学的パターンを示す図である。
図4】実施例4による患者の涙液面の形態学的パターンを示す図である。
図5】実施例5による患者の涙液面の形態学的パターンを示す図である。
図6】実施例6による患者の涙液面の形態学的パターンを示す図である。
【0026】
ぶどう膜メラノーマを診断するための提案されている方法は、以下のように行われる。
【0027】
事前に、流涙を患者において誘発させる。涙液を皮下注射針の先端によって0.1ml以上の体積でエッペンドルフに収集する。次いで、涙液を、約0.05mlの体積の液滴の形態で、機械式ピペットによって、脱脂した顕微鏡スライドに塗布する。次いで、脱水を行い、面の形成まで、涙液が塗布された顕微鏡スライドを室温で45~180分間静置する。形態学的パターンは、デジタルカメラに接続された光学顕微鏡下で検査される。10~50個の量で存在するブッシュ状構造が涙液サンプルの外側領域で検出された場合、ぶどう膜メラノーマと診断される。外側(タンパク質)領域のパターン形成の乱れ、移行ゾーンの退色または完全な欠落、「シダ」形状のパターン形成の欠落または乱れ、ブッシュ状構造による中央ゾーンの充填は、腫瘍プロセスの後期段階でのみ検出される。また、併発老人性白内障を示す点状の異質等方性封入体が存在することもあり得る。
【0028】
面の得られた形態学的構造は、あらゆる電子媒体に記録することができる。
【0029】
提案されている方法によって、脈絡膜/毛様体ぶどう膜メラノーマの診断が確定された19人の患者を診断した。診断は、超音波検査、最大散瞳の条件での検眼鏡検査データによって臨床的に行い、摘出された眼の検体の形態学的検査によって確認した。面の得られた形態学的構造では、19人の患者のうちの17人において、腫瘍が局在している眼から採取された涙液の面のサンプル中で、異なる直径のブッシュ微細構造が10個以上の量で存在していた。これによって、微細構造の量と新生物のサイズおよび段階との相関関係が認められた。ぶどう膜メラノーマと診断された19人の患者のうちの2人において、ブッシュ状構造も認められたが、しかしながら、これは、対になった(健康な)眼から採取された涙液の面においてであり、罹患した眼からの面のサンプルにおいては、これらの構造は存在していなかった。
【0030】
第1の臨床例
ボランティアF氏、1999年生まれ(涙収集時20歳-2019年)、身体的に健康。ボランティアの涙液のサンプル0.05mlを顕微鏡スライドに塗布し、次いで、面が得られるまで、サンプルを室温で3時間乾燥させ、次いで、得られた面の形態学的パターンを、透過光において顕微鏡下で調べ、また、カメラで記録した(図1)。面において、周辺部、移行部、および中心部の3つのゾーンへの明確な区分が観察された。3つのゾーンすべてにおいて、健康な人の涙液の面に形成する典型的な構造が存在していた:放射方向の周辺ゾーンにおける亀裂、移行ゾーンにおける「鱗」型構造、および中央ゾーンにおける「シダ」。この構造形成は、18~30歳の年齢区分の条件付きで健康な人すべてに特徴的である。
【0031】
第2の臨床例
ボランティアSh氏、1999年生まれ(涙収集時20歳-2019年)、身体的に健康。鼻形成術の既往歴、高度近視があり、これは、涙液の構造形成および組成における潜在的な変化に影響を与える要因のうちの1つであると考えられた。
【0032】
ボランティアの涙液のサンプル0.05mlを顕微鏡スライドに塗布し、次いで、面が得られるまで、サンプルを室温で3時間乾燥させ、次いで、得られた面の形態学的パターンを、透過光において顕微鏡下で調べ、また、カメラで記録した(図2)。面において、周辺部、移行部、および中心部の3つのゾーンへの明確な区分が観察された。周辺ゾーンでは、亀裂の乱れから完全な消失まで観察された。移行ゾーンでは、3個の量のブッシュ状構造の封入体を有する構造の乱れが観察された。
【0033】
第3の臨床例
患者G、1949年生まれ(入院時70歳-2019年)、眼球検体の形態学的検査に基づく診断:左眼の紡錘細胞脈絡膜メラノーマ。
【0034】
患者の涙液のサンプル0.05mlを顕微鏡スライドに塗布し、次いで、面が得られるまで、サンプルを室温で3時間乾燥させ、次いで、得られた面の形態学的パターンを、透過光において顕微鏡下で調べ、また、カメラで記録した。面サンプルにおいて、周辺部に放射状の分岐を有する14個の量のブッシュ状構造が、面の全周にわたって観察された(図3)。ほとんどの場合、構造は、中間の間隔なしで互いに密に隣接している。直径において他のものを2倍上回る単一の大きな構造が見られる。図3は、患者の面の形態学的パターンを示しており、ブッシュ微細構造を含む面の領域が円でマークされている。
【0035】
第4の臨床例
患者K、1941年生まれ(入院時78歳-2019年)、眼球検体の形態学的検査に基づく診断:左眼の毛様体メラノーマ。
【0036】
患者の涙液のサンプル0.05mlを顕微鏡スライドに塗布し、次いで、面が得られるまで、サンプルを室温で3時間乾燥させ、次いで、得られた面の形態学的パターンを、透過光において顕微鏡下で調べ、また、カメラで記録した。面において、実施例1よりも分岐が少なく、かつより小さいブッシュ状微細構造が、32個の量で、1個のブッシュ状微細構造の直径を上回らない異なる間隔を伴って、面の全周にわたって周辺に沿って存在することが観察された。図4は、患者の面の形態学的パターンを示しており、ブッシュ微細構造を含む面の領域が円でマークされている。
【0037】
第5の臨床例
患者V、1937年生まれ(入院時82歳-2019年)、眼球検体の形態学的検査に基づく診断:左眼の紡錘細胞脈絡膜メラノーマ。
【0038】
患者の涙液のサンプル0.05mlを顕微鏡スライドに塗布し、次いで、面が得られるまで、サンプルを室温で3時間乾燥させ、次いで、得られた面の形態学的パターンを、透過光において顕微鏡下で調べ、また、カメラで記録した。面において、放射状の分岐を有するブッシュ状微細構造が、23個の量で、1個のブッシュ状微細構造の直径を上回らない異なる間隔を伴って、面の全周にわたって周辺に沿って存在することが観察された。図5は、患者の面の形態学的パターンを示しており、ブッシュ微細構造を含む面の領域が円でマークされている。
【0039】
第6の臨床例
患者A、1955年生まれ(入院時65歳-2020年)、眼球検体の形態学的検査に基づく診断:左眼の混合細胞脈絡膜メラノーマが、眼窩および鼻の副鼻腔に芽生え、肺に転移している。
【0040】
患者の涙液のサンプル0.05mlを顕微鏡スライドに塗布し、次いで、面が得られるまで、サンプルを室温で3時間乾燥させ、次いで、得られた面の形態学的パターンを、透過光において顕微鏡下で調べ、また、カメラで記録した。図6は、患者の面の形態学的パターンを示しており、42個の量のブッシュ微細構造を含む面の領域が円でマークされている。中央では、健康な人の涙面サンプルに特徴的な「シダ」型構造がないこと、およびブッシュ状構造に似た丸い構造の外観が観察される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の涙液を分析する方法であって、涙液を顕微鏡スライドに液滴の形態で塗布し、室温で45~180分間脱水し、涙液サンプルの顕微鏡検査を行い、涙液サンプルの外側領域に10~50個の量のブッシュ状構造を同定する、方法。
【国際調査報告】