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特表2024-545725高分子材料の表面処理用組成物、キットおよび表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】高分子材料の表面処理用組成物、キットおよび表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/34 20060101AFI20241203BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20241203BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20241203BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20241203BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20241203BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20241203BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20241203BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20241203BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L31/10
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/24
A61L31/04 110
A61L31/04 120
A61L31/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539362
(86)(22)【出願日】2022-12-27
(85)【翻訳文提出日】2024-06-27
(86)【国際出願番号】 KR2022021424
(87)【国際公開番号】W WO2023128570
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0192254
(32)【優先日】2021-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504206469
【氏名又は名称】アイ-センス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】I-SENS,INC.
(71)【出願人】
【識別番号】316016667
【氏名又は名称】ウルサン ナショナル インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】シン, ヒョン ソ
(72)【発明者】
【氏名】チョ, ジュ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ス ジン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ボ ナ
(72)【発明者】
【氏名】カン, グン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】リュ, ジャ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ド ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ガ ウン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ギョン ソク
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ウン ソン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081CA021
4C081CA031
4C081CA041
4C081CA081
4C081CA082
4C081CA131
4C081CA161
4C081CA171
4C081CA181
4C081CA182
4C081CA201
4C081CA211
4C081CA231
4C081CA241
4C081CA251
4C081CA271
4C081CC01
4C081CC05
4C081CD041
4C081CD081
4C081CD091
4C081CD121
4C081CD151
4C081DA02
4C081DC14
4C081EA06
(57)【要約】
本発明は、高分子材料の表面処理用組成物に関し、より詳細には、グリシドール由来の繰り返し単位を有し、少なくとも1つの末端に非置換または置換アクリレート基が含まれたハイパーブランチポリグリセロールを含むことにより、前記組成物で表面処理された高分子材料または高分子材料を含む体内移植材の表面にタンパク質が吸着することを防止して、線維化、血栓形成または炎症細胞の吸着を阻害する効果がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシドール由来の繰り返し単位を有し、少なくとも1つの末端に非置換または置換アクリレート基が含まれたハイパーブランチポリグリセロールを含む、高分子材料の表面処理用組成物。
【請求項2】
前記ハイパーブランチポリグリセロールの数平均分子量は、500g/mol~500,000g/molである、請求項1に記載の高分子材料の表面処理用組成物。
【請求項3】
前記ハイパーブランチポリグリセロールは、トリチル化されたトリエチレングリコールを開始剤としてグリシドールが開環付加重合されたものである、請求項1に記載の高分子材料の表面処理用組成物。
【請求項4】
前記置換アクリレート基は、2番炭素がC1~C6の直鎖または分岐鎖アルキルで置換されたアクリレートである、請求項1に記載の高分子材料の表面処理用組成物。
【請求項5】
前記ハイパーブランチポリグリセロールは、末端の少なくとも一部がメタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールである、請求項1に記載の高分子材料の表面処理用組成物。
【請求項6】
前記メタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールは、前記ハイパーブランチポリグリセロールとグリシジルメタクリル酸(glycidyl methacrylate)とを反応させて製造されたものである、請求項5に記載の高分子材料の表面処理用組成物。
【請求項7】
前記高分子材料は、熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethane、TPU)、ポリカーボネート(polycarbonate、PC)、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、PDMS)、ポリビニルクロリド(polyvinyl chloride、PVC)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)、シリコーン(silicone)、テフロン(PTFE、Teflon、登録商標)、ポリスチレン(polystyrene)、ナイロン(Nylon)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアクリレート(polyacrylate)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)、ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン(polysulfone、PS)、フェノール樹脂(Phenol)、エポキシ(epoxy resin)、ポリグリコリド(PGA)、ポリラクチド(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、PLGA(poly(lactic-co-glycolic acid)、PLCL(poly(e-caprolactone-co-lactide)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、およびポリアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の高分子材料の表面処理用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物および架橋剤溶液を含む、高分子材料の表面処理用キット。
【請求項9】
前記架橋剤溶液は、C1~C6のアルコール、C3~C6のシクロアルカノン、またはC3~C6のオキサシクロアルカンに架橋剤を溶解して製造されたものである、請求項8に記載の高分子材料の表面処理用キット。
【請求項10】
前記架橋剤は、PETMP(pentaerythritol tetra(3-mercaptopropionate)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオナート))である、請求項8に記載の高分子材料の表面処理用キット。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物で表面処理された高分子材料を含む、体内移植材。
【請求項12】
前記体内移植材は、連続血糖モニタリングセンサーである、請求項11に記載の体内移植材。
【請求項13】
高分子材料の表面の少なくとも一部に、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物及び架橋剤を処理するステップを含む、高分子材料の表面処理方法。
【請求項14】
前記ステップは、前記高分子材料を前記組成物に浸漬した後、前記架橋剤に浸漬して行うことである、請求項13に記載の高分子材料の表面処理方法。
【請求項15】
前記架橋剤は、PETMP(pentaerythritol tetra(3-mercaptopropionate)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオナート))である、請求項13に記載の高分子材料の表面処理方法。
【請求項16】
前記架橋剤は、C1~C6のアルコール、C3~C6のシクロアルカノン、またはC3~C6のオキサシクロアルカンに溶解したものである、請求項13に記載の高分子材料の表面処理方法。
【請求項17】
前記架橋剤の濃度は10mM~30mMである、請求項13に記載の高分子材料の表面処理方法。
【請求項18】
前記高分子材料は、熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethane、TPU)、ポリカーボネート(polycarbonate、PC)、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、PDMS)、ポリビニルクロリド(polyvinyl chloride、PVC)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)、シリコーン(silicone)、テフロン(PTFE、Teflon、登録商標)、ポリスチレン(polystyrene)、ナイロン(Nylon)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアクリレート(polyacrylate)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)、ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン(polysulfone、PS)、フェノール樹脂(Phenol)、エポキシ(epoxy resin)、ポリグリコリド(PGA)、ポリラクチド(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、PLGA(poly(lactic-co-glycolic acid)、PLCL(poly(e-caprolactone-co-lactide)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、およびポリアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項13に記載の高分子材料の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料の表面処理用組成物、キットおよび高分子材料の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化の進展と医療機器の発達により、疾病の診断や体内組織・機関の機能を補助する人工埋込物に対する関心および需要が急増している。埋込物を構成する生体材料には、金属、セラミック、高分子などの形態があり、血液と直接接触するカテーテルやステントを含む医療機器、バイオセンサー、薬物送達体などの体内埋め込み型デバイスにおいて多様に応用されている。人工埋込物を構成する生体材料は、体内の活動に全く影響を与えない不活性物質で作るべきであり、体内の組織や血液と長時間直接接触するため、生体適合性に優れた材料で構成しなければならない。このため、生体材料の表面処理技術の研究が継続的に進められている。
【0003】
一方、体外から埋め込まれた人工生体材料は、体内免疫系によって異物と認識され、異物反応(Foreigin body reaction)を引き起こす。材料の表面に組織や血液中のタンパク質が吸着することを皮切りに、吸着したタンパク質が変性し、血小板やマクロファージなどが周囲に集まる。埋込物の多くは、食作用によって飲み込むには大きすぎるため、集まったマクロファージが融合して多核巨細胞(Multinucleated giant cell;Foreigin body giant cell)を形成し、そこから発生したシグナル因子によって周囲に線維芽細胞(fibroblast)が集まり、コラーゲンで形成された線維性カプセル膜を形成する。
【0004】
バイオファウリング(Biofouling)とは、生体材料の表面にタンパク質が吸着することを指す。このタンパク質吸着は異物反応を引き起こす現象であり、続いて線維化、血栓形成および炎症細胞の吸着を促進して炎症(inflammation)を誘発する。そのため、人工生体材料の埋め込み時に問題となる異物反応を最小限に抑える方法として、材料の表面を、タンパク質の吸着を抑制できる性質に変化させる表面処理技術が注目されている。
【0005】
防汚(Anti-fouling)コーティングとは、タンパク質、細胞、微生物などの生体物質が表面に付着しないように、生体適合性材料で表面をコーティングすることをいう。従来の人工埋込物の場合、生体適合性が高いと知られている医療用シリコーン(silicone)、ゴアテックス(Gore-Tex、登録商標)でさえも異物反応を引き起こすことが多く、血栓形成や線維化組織の肥大による炎症や痛みを引き起こす副作用により適用が制限されていた。多くの研究者が異物反応防止材料の表面開発の必要性を感じており、防汚性を持つ高分子を用いた表面処理法が注目されている。これにより、異物反応を誘発する生体適合性の問題を改善し、埋め込み型医療機器や疾病診断用バイオセンサーへの適用が可能となり、その適用範囲は無限である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高分子材料の表面処理用組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、高分子材料の表面処理用キットを提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、表面処理された高分子材料を含む体内移植材を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、高分子材料の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.グリシドール由来の繰り返し単位を有し、少なくとも1つの末端に非置換または置換アクリレート基が含まれたハイパーブランチポリグリセロールを含む、高分子材料の表面処理用組成物。
【0011】
2.前記項目1において、前記ハイパーブランチポリグリセロールの数平均分子量は500g/mol~500,000g/molである、高分子材料の表面処理用組成物。
【0012】
3.前記項目1において、前記ハイパーブランチポリグリセロールは、トリチル化されたトリエチレングリコールを開始剤としてグリシドールが開環付加重合されたものである、高分子材料の表面処理用組成物。
【0013】
4.前記項目1において、前記置換アクリレート基は、2番炭素がC1~C6の直鎖または分岐鎖アルキルで置換されたアクリレートである、高分子材料の表面処理用組成物。
【0014】
5.前記項目1において、前記ハイパーブランチポリグリセロールは、末端の少なくとも一部がメタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールである、高分子材料の表面処理用組成物。
【0015】
6.前記項目5において、前記メタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールは、前記ハイパーブランチポリグリセロールとグリシジルメタクリル酸(glycidyl metacrylate)とを反応させて製造されたものである、高分子材料の表面処理用組成物。
【0016】
7.前記項目1において、前記高分子材料は、熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethane、TPU)、ポリカーボネート(polycarbonate、PC)、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、PDMS)、ポリビニルクロリド(polyvinyl chloride、PVC)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)、シリコーン(silicone)、テフロン(PTFE、Teflon、登録商標)、ポリスチレン(polystyrene)、ナイロン(Nylon)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアクリレート(polyacrylate)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)、ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン(polysulfone、PS)、フェノール樹脂(Phenol)、エポキシ(epoxy resin)、ポリグリコリド(PGA)、ポリラクチド(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、PLGA(poly(lactic-co-glycolic acid)、PLCL(poly(e-caprolactone-co-lactide)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、およびポリアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つである、高分子材料の表面処理用組成物。
【0017】
8.前記項目1~7のいずれかに記載の組成物と架橋剤溶液とを含む、高分子材料の表面処理用キット。
【0018】
9.前記項目8において、前記架橋剤溶液は、C1~C6のアルコール、C3~C6のシクロアルカノン、またはC3~C6のオキサシクロアルカンに架橋剤を溶解して製造されたものである、高分子材料の表面処理用キット。
【0019】
10.前記項目8において、前記架橋剤は、PETMP(pentaerythritol tetra(3-mercaptopropionate)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオナート))である、高分子材料の表面処理用キット。
【0020】
11.前記項目1~7のいずれかに記載の組成物で表面処理された高分子材料を含む、体内移植材。
【0021】
12.前記項目11において、前記体内移植材は、連続血糖モニタリングセンサーである、体内移植材。
【0022】
13.高分子材料の表面の少なくとも一部に、前記項目1~6のいずれかの組成物及び架橋剤を処理するステップを含む、高分子材料の表面処理方法。
【0023】
14.前記項目13において、前記ステップは、前記高分子材料を前記組成物に浸漬した後、前記架橋剤に浸漬して行う、高分子材料の表面処理方法。
【0024】
15.前記項目13において、前記架橋剤は、PETMP(pentaerythritol tetra(3-mercaptopropionate)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオナート))である、高分子材料の表面処理方法。
【0025】
16.前記項目13において、前記架橋剤は、C1~C6のアルコール、C3~C6のシクロアルカノン、またはC3~C6のオキサシクロアルカンに溶解したものである、高分子材料の表面処理方法。
【0026】
17.前記項目13において、前記架橋剤の濃度は、10mM~30mMである、高分子材料の表面処理方法。
【0027】
18.前記項目13において、前記高分子材料は、熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethane、TPU)、ポリカーボネート(polycarbonate、PC)、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、PDMS)、ポリビニルクロリド(polyvinyl chloride、PVC)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)、シリコーン(silicone)、テフロン(PTFE、Teflon、登録商標)、ポリスチレン(polystyrene)、ナイロン(Nylon)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアクリレート(polyacrylate)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)、ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン(polysulfone、PS)、フェノール樹脂(Phenol)、エポキシ(epoxy resin)、ポリグリコリド(PGA)、ポリラクチド(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、PLGA(poly(lactic-co-glycolic acid)、PLCL(poly(e-caprolactone-co-lactide)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、およびポリアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つである、高分子材料の表面処理方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の組成物で表面処理された高分子材料を含む体内移植材は、移植材の表面における体内タンパク質の吸着、表面線維化および炎症細胞の吸着を阻害し、最終的には体内への埋め込み時にも性能の低下を防ぐことができる。
【0029】
また、本発明の組成物で表面処理された高分子材料を含む体内移植材は、体内への埋め込み時に発生する血栓形成や炎症反応を遅らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、グリシドール由来の繰り返し単位を有するハイパーブランチポリグリセロール及びドーパミンを用いて高分子材料の表面を処理する過程を概略的に示す。
図2図2は、トリエチレングリコールからハイパーブランチポリグリセロールを合成する過程を示す。
図3図3は、図2のH2のH NMR分析の結果を示す。
図4図4は、図2のH3のH NMR分析の結果を示す。
図5図5は、図2のH4のH NMR分析の結果を示す。
図6図6は、図2のH4からメタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールを合成する過程を示す。
図7図7は、メタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールのH NMR分析の結果を示す。
図8図8は、塩基性緩衝液溶媒の条件下でハイパーブランチポリグリセロール及びドーパミンを用いて高分子材料の表面をコーティングする過程及びその結果を示す。
図9図9は、メタノール溶媒の条件下でハイパーブランチポリグリセロール及びドーパミンを用いて高分子材料の表面をコーティングする過程及びその結果を示す。
図10図10は、メタノール溶媒の条件下でメタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロール及びPETMP還元剤を用いて高分子材料の表面をコーティングする過程及びその結果を示す。
図11図11は、エタノール、シクロペンタノン溶媒の条件下でメタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロール及びPETMP還元剤を用いて高分子材料の表面をコーティングする過程及びその結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明は、高分子材料の表面処理用組成物を提供する。
【0033】
高分子材料の表面処理用組成物は、グリシドール由来の繰り返し単位を有するハイパーブランチポリグリセロールを含む。
【0034】
ハイパーブランチポリグリセロールとは、枝分かれ構造を含む高分子であり、多数のヒドロキシ基(hydroxyl group)を含む。
【0035】
ハイパーブランチポリグリセロールの数平均分子量(Mn)は、500g/mol~500,000g/mol、650g/mol~400,000g/mol、800g/mol~300,000g/mol、950g/mol~200,000g/mol、1,100g/mol~100,000g/mol、1,400g/mol~50,000g/mol、2,000g/mol~25,000g/mol、2,500g/mol~12,000g/mol、3,000g/mol~6,000g/molであってもよいが、これらに限定されるものではない。数平均分子量は、例えば、NMRを測定してプロトンの数を用いて計算した数値であってもよい。
【0036】
ハイパーブランチポリグリセロールの分岐度(degree of branch、DB)は、0.4~1、0.5~0.9、または0.6~0.8であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0037】
ハイパーブランチポリグリセロールは、1つの末端にポリエチレングリコール基をさらに含むことができる。一例として、ハイパーブランチポリグリセロールは、1つの末端にトリエチレングリコールが結合した構造であってもよい。
【0038】
ハイパーブランチポリグリセロールは、当業者に公知の方法で製造されたものであってもよい。
【0039】
ハイパーブランチポリグリセロールは、酸分解性保護基または光分解性保護基が付着したトリエチレングリコールを開始剤としてグリシドールが開環付加重合されたものであってもよい。保護基とは、特定の官能基が反応に参加しないように結合している基を意味し、酸分解性保護基または光分解性保護基とは、酸または光によって分解して結合している官能基が脱保護(deprotection)され得る保護基を意味する。
【0040】
酸分解性保護基または光分解性保護基は、トシル基、O-トリチル、N-トリチル、またはS-トリチル基であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0041】
酸分解性保護基または光分解性保護基が付着したトリエチレングリコールは、トリチル化されたトリエチレングリコールであってもよく、具体的には、S-トリチル化されたトリエチレングリコールであってもよい。
【0042】
ハイパーブランチポリグリセロールは、グリシドール由来の繰り返し単位を有し、少なくとも1つの末端に非置換または置換アクリレート基を含むハイパーブランチポリグリセロールであってもよい。
【0043】
非置換アクリレート基は、下記化学式1で表すことができる。
【0044】
【化1】
【0045】
置換アクリレート基は、前記化学式1の2番炭素がC1~C6の直鎖または分枝鎖アルキルで置換されていてもよい。例えば、置換アクリレート基は、メタクリレート基であってもよい。
【0046】
一実施形態によれば、ハイパーブランチポリグリセロールは、アクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールであってもよい。具体的には、ハイパーブランチポリグリセロールは、末端の少なくとも一部がアクリル化されていてもよい。
【0047】
一実施形態によれば、ハイパーブランチポリグリセロールは、メタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールであってもよい。具体的には、ハイパーブランチポリグリセロールは、末端の少なくとも一部がメタクリル化されていてもよい。メタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールは、公知の方法で製造してもよく、例えば、ハイパーブランチポリグリセロールとグリシジルメタクリル酸(glycidyl metacrylate)とを反応させて製造してもよい。
【0048】
高分子材料は、生体材料として使用することができる。生体材料とは、疾病の診断、治療および予防などの手段で生体に適用できる材料を総称し、損傷を受けたり機能を失った人体組織および器官に代わって使用される人工臓器、人工組織および治療用品などの基本材料を意味する。
【0049】
高分子材料は、熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethane、TPU)、ポリカーボネート(polycarbonate、PC)、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、PDMS)、ポリビニルクロリド(polyvinyl chloride、PVC)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)、シリコーン(silicone)、テフロン(PTFE、Teflon、登録商標)、ポリスチレン(polystyrene)、ナイロン(Nylon)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアクリレート(polyacrylate)、ポリプロピレン(polypropylene、PP)、ポリエチレン(polyethylene、PE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン(polysulfone、PS)、フェノール樹脂(Phenol)、エポキシ(epoxy resin)、ポリグリコリド(PGA)、ポリラクチド(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、PLGA(poly(lactic-co-glycolic acid)、PLCL(poly(e-caprolactone-co-lactide)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、およびポリアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0050】
用語「表面処理」とは、処理対象の表面を改質して表面の特性を変化させることを意味し、処理は表面をコーティングすることを含み、処理対象の表面で発生し得る物理的、化学的または生物学的現象および反応を最小限に抑えるために行うことができる。具体的には、処理対象が高分子材料である場合、表面処理は炎症細胞の吸着または炎症反応を最小限に抑えるために行うことができる。
【0051】
組成物は、例えば、高分子材料の表面上にドーパミン溶液を先に使用した後に使用することができる。この場合、高分子材料の表面にコーティングされたドーパミンとハイパーブランチポリグリセロールとの間のチオール・エンクリック化学反応により、高分子材料の表面上にコーティング膜を形成することができる。
【0052】
組成物は、例えば架橋剤と共に使用することができる。この場合、高分子材料の表面とハイパーブランチポリグリセロールとの間に架橋が形成され、より安定して高分子材料の表面処理を行うことができる。
【0053】
本発明の組成物に含まれるハイパーブランチポリグリセロールは、枝分かれ構造を含むため高密度であり、立体障害により高分子材料の表面にタンパク質が付着することを防止し、線維化を抑制する効果を示すことができる。さらに、ハイパーブランチポリグリセロールは、多数のヒドロキシ基を含むため、親水性が高く、生体適合性に優れている。これらの特性から、本発明の組成物で表面処理された高分子材料は、体内移植材の構成成分として使用することができる。
【0054】
本発明の組成物とドーパミンまたは架橋剤を用いて高分子材料の表面を処理すると、表面処理された高分子材料を体内に移植しても体内炎症反応を遅らせることができる。
【0055】
また、本発明は、高分子材料の表面処理用キットを提供する。
【0056】
高分子材料の表面処理用キットは、前記ハイパーブランチポリグリセロールを含む高分子材料の表面処理用組成物を含むことができる。
【0057】
キットは、さらにドーパミン溶液を含むことができる。ドーパミン溶液は、例えば、塩基性条件下で緩衝溶液またはメタノールにドーパミンを溶解して製造することができ、具体的には、メタノールにドーパミンを溶解して製造することができるが、これに限定されるものではない。キットにドーパミン溶液がさらに含まれる場合、酸化剤をさらに含んでもよい。酸化剤は、例えば、NaIOであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0058】
ハイパーブランチポリグリセロールは、グリシドール由来の繰り返し単位を有し、少なくとも1つの末端に非置換または置換アクリレート基を含むハイパーブランチポリグリセロールであってもよい。この場合、キットは、架橋剤溶液をさらに含んでもよい。架橋剤溶液は、例えば、C1~C6のアルコール(例えば、メタノール、エタノール)、C3~C6のシクロアルカノン(例えば、シクロペンタノン)、またはC3~C6のオキサシクロアルカン(例えば、テトラヒドロフラン)に架橋剤を溶解して製造することができ、具体的には、シクロペンタノンまたはテトラヒドロフランに架橋剤を溶解して製造することができ、より具体的には、シクロペンタノンに架橋剤を溶解して製造することができるが、これらに限定されるものではない。架橋剤としては、高分子材料とハイパーブランチポリグリセロールとを架橋できるものであれば特に制限はなく、例えば、PETMP(pentaerythritol tetra(3-mercaptopropionate)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオナート))であってもよいが、これに限定されるものではない。PETMPは、4つのチオール(thiol)基を有しており、光照射又は適当な温度での加熱条件下で、メタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールのメタクリル基と高分子材料の表面との間に架橋を形成して、本発明の組成物を高分子材料の表面にさらに安定して処理することができる。
【0059】
また、本発明は、体内移植材を提供する。
【0060】
体内移植材は、前記高分子材料の表面処理用組成物で表面処理された高分子材料を含む。
【0061】
体内移植材は、体内に埋め込みまたは移植可能な材料であり、体内に永久的または半永久的に存在可能な材料だけでなく、一時的に存在可能な材料を含む。
【0062】
体内移植材に含まれる表面処理された高分子材料は、移植材の最外郭に配置されていてもよい。この場合、最外郭に配置された表面処理された高分子材料によって、移植材上に吸着されるタンパク質が低減し、体内での線維化、血栓形成または炎症細胞の吸着が阻害される。
【0063】
体内移植材としては、バイオセンサー、人工血管、カテーテル、ドレイン、シャント、カニューレ、チューブ、ガイドワイヤー、骨チップ、導管、ピン、ロッド、ネジ、プレート、縫合糸、パッチ、バルーン、ステント、メンブレン、歯科インプラント、歯科材料、組織再生用支持体、薬物送達体、および遺伝子送達体からなる群より選択される少なくとも1つが挙げられ、具体的には、バイオセンサーであってもよく、より具体的には、連続血糖モニタリングセンサーであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0064】
また、本発明は、高分子材料の表面処理方法を提供する。
【0065】
一例として、高分子材料の表面処理方法は、ドーパミンでコーティングされた高分子材料を、前記ハイパーブランチポリグリセロールを含む高分子材料の表面処理用組成物で処理するステップを含むことができる。
【0066】
高分子材料、表面処理および組成物は、前述の範囲内であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0067】
ドーパミンでコーティングされた高分子材料は、当業者に公知の方法によって製造することができ、例えば、高分子材料をドーパミン溶液に浸漬してディップコーティング(dip-coating)することができるが、これに限定されるものではない。
【0068】
他の方法として、高分子材料の表面処理方法は、高分子材料の表面の少なくとも一部を、少なくとも1つの末端に非置換または置換アクリレート基が含まれたハイパーブランチポリグリセロールを含む高分子材料の表面処理用組成物および架橋剤で処理するステップを含むことができる。
【0069】
前記置換アクリレート基は、アクリレートの2番炭素が置換されていてもよく、具体的には、アクリレートの2番炭素がC1~C6の直鎖または分岐鎖アルキルで置換されていてもよい。一実施形態によれば、前記置換アクリレート基は、メタクリレートであってもよい。
【0070】
一実施形態によれば、高分子材料の表面処理方法は、高分子材料の表面の少なくとも一部を、メタクリル化されたハイパーブランチポリグリセロールを含む高分子材料の表面処理用組成物および架橋剤で処理するステップを含むことができる。
【0071】
少なくとも1つの末端に非置換または置換アクリレート基が含まれたハイパーブランチポリグリセロールを含む高分子材料の表面処理用組成物および架橋剤を処理するステップは、当業者に公知の方法で行うことができ、例えば、高分子材料を前記組成物に浸漬した後、前記架橋剤に浸漬して行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0072】
架橋剤は、高分子材料とハイパーブランチポリグリセロールとを架橋できるものであれば特に制限はなく、例えば、PETMP(pentaerythritol tetra(3-mercaptopropionate)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオナート))であってもよいが、これに限定されるものではない。架橋剤は、例えば、C1~C6のアルコール(例えば、メタノール、エタノール)、C3~C6のシクロアルカノン(例えば、シクロペンタノン)、またはC3~C6のオキサシクロアルカン(例えば、テトラヒドロフラン)に溶解することができ、具体的には、シクロペンタノンまたはテトラヒドロフランに溶解することができ、より具体的には、シクロペンタノンに溶解することができるが、これらに限定されるものではない。架橋剤の濃度は、例えば、10mM~30mM、12mM~29mM、15mM~28mM、16mM~26mM、18mM~25mM、18.5mM~24.5mM、19mM~24mM、または19.5mM~23.5mMであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0073】
高分子材料の表面処理方法の対象となる高分子材料は、体内移植材に含まれていてもよく、具体的には、移植材の最外郭に配置されていてもよい。体内移植材は、前述の範囲内であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0074】
本発明の方法により表面処理された高分子材料、またはその高分子材料が含まれた体内移植材を使用すると、表面へのタンパク質の吸着を防止する効果があるため、体内における線維化、血栓形成または炎症細胞の吸着を阻害することができる。
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【実施例
【0076】
本発明者らは、数多くのヒドロキシ基(-OH)が存在するポリオールであり、かつ枝分かれ状を呈するハイパーブランチポリグリセロール(HPG、Hyperbranched polyglycerol)とドーパミン(dopamine)を用いて(図1)、防汚性のコーティング材料として利用できることを確認した。HPGは高密度であるため、立体障害によりタンパク質の吸着を防ぎ、親水性が高いため生体適合性も予想される。
【0077】
分析装置及び条件
H NMRスペクトルは、核磁気共鳴分光計(Agilent 400MHz FT-NMR)を用いて測定した。分子量および多分散指数(PDI)の値は、0.05M硝酸ナトリウム(NaNO)を含有する水性緩衝液中でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、Agilent 1260 infinity)を用いて測定した。Shodex SB-803HQカラムを35℃で使用し、流速を1.0ml/minに設定した。
【0078】
基板の親水性は、水接触角計(Phoenix 300)を用いて評価した。
【0079】
基板の表面形態および粗さは、原子間力顕微鏡(Multimode V_AFM、Veeco)を用いて測定した。サンプルは、Tapping Mode in Airの条件を用いて測定した。基板表面の化学組成は、X線光電子分光装置(XPS、K-alpha、ThermoFisher)を用いて分析した。厚さ分析用のサンプルを準備する過程として、ミクロトーム(Ultramicrotome、CR-X、RMC)を用いて基板の断面を切断した。表面形態および厚さを測定するために、金属でコーティング処理した後、低温走査電子顕微鏡(Cold FE-SEM、S-4800、Hitachi High-Technologies)を用いて、基板上部および断面の画像を14kVで撮影した。
【0080】
Step 1.生体適合性高分子の合成及び分析
1-1.ハイパーブランチポリグリセロール(HPG、Hyperbranched polyglycerol)
トリエチレングリコールを用いてトシル化(H2)を行った後、トリチル改質化接合(H3)を行った。トリチル改質化されたトリエチレングリコールを開始剤として、ヒドロキシ基にグリシド単量体(グリシドール)を開環重合(H4)した(図2)。
【0081】
図2に示すH2、H3及びH4の合成方法は、以下の通りである。
【0082】
H2を合成するために、一口丸底フラスコに、4-トルエンスルホニルクロリド(1.1g、1.0eq)とジクロロメタン10mlを加え、0℃に冷却した後、トリエチレングリコール(1.0g、1.2eq)とトリエチルアミン(0.79g、1.3eq)を加え、2時間撹拌した。その後、常温でアルゴンを使用して非反応性気体を組成した後、24時間撹拌した。反応終了後、生成した固体を減圧下でろ過して除去した。ろ液を減圧濃縮蒸発器で濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて、20%ヘキサン、80%エチルアセテートの条件下で分離した(H NMR(400MHz、CDCl):δ7.81-7.79(d,2H),7.35-7.33(d,2H),4.18-4.15(t,J=4.8Hz,2H),3.73-3.59(m,11H),2.45(s,3H)、図3)。
【0083】
H3を合成するために、水酸化ナトリウム(74mg、1.25eq)を1.0mlの蒸留水に溶解した溶液を、トリフェニルメタンチオール(0.51g、1.25eq)をエタノール/トルエン(1:1、5.0ml)溶媒に溶解した溶液に入れて撹拌した。その後、H2(1.0g、1.2eq)をエタノール/トルエン(1:1、5.0ml)溶媒に溶解し、先に撹拌した溶液に加えた。常温で18時間反応させた後、準備された飽和炭酸水素ナトリウム溶液に注いだ。有機溶液層を炭酸水素ナトリウムで3回、塩水で3回抽出して洗浄した。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮蒸発器を用いて高真空下で濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて、50%ヘキサン、50%エチルアセテートの条件から、25%ヘキサン、75%エチルアセテートの条件までエチルアセテートの比率を増加させながら分離した(H NMR(400MHz、DMSO):δ:7.43-7.25(m,12H),7.42-7.40(m,3H),3.72-3.68(m,2H),3.60-3.55(m,4H),3.47-3.43(m,2H),2.46-2.42(t,2H)、図4)。
【0084】
H4を合成するために、H3(0.1g、1.0eq)と水素化ナトリウム(68mg、0.1eq)を高真空下で10分間乾燥した後、フラスコ内の気体を窒素で置換し、シリンジポンプを使用してグリシド単量体(1.903ml、0.1eq)を95℃で20時間加えた。注入が完了した後、残りのグリシド単量体がすべて反応するようにさらに4時間の追加反応を行い、常温に冷却した。その後、最小量のメタノールに溶解した後、ジエチルエーテルで沈殿させ、遠心分離機を用いて固体を分離した。沈殿を3回繰り返した後、高真空下で乾燥した(H NMR(400MHz、DMSO):δ:7.43-7.25(m,12H),7.42-7.40(m,3H),4.79-4.42(m,114H),3.75-3.27(m,614H)、図5)。
【0085】
H4のH NMR分析により、ヒドロキシ基(4.79ppm-4.42ppm)とポリエーテル基(3.75ppm-3.27ppm)のアルキル鎖が確認された。NMRを測定し、プロトンの数による計算を用いて高分子の分子量を調べた。重合度(Degree of polymerization、DP)は、「[ヒドロキシ基に該当するHプロトンNMR信号の積分値/トリチル開始剤に該当するHプロトンNMR信号の積分値]から1を引いた値」として計算した(図5)。
【0086】
したがって、高分子の分子量は、[重合前の分子量+重合度×単量体の繰り返し単位の分子量]の式で計算された。
(M=M+DP・Mglycidol=M+[IOH/ITrityl-1]・Mglycidol
:高分子の分子量、
:高分子開始剤の分子量、
OH:ヒドロキシ基に該当するHプロトンNMRの信号を積分した値、
Trityl:トリチル開始剤に該当するHプロトンNMRの信号を積分した値、
glycidol:単量体の繰り返し単位の分子量)
【0087】
ヒドロキシ基に該当するNMR信号の積分値(4.79ppm-4.42ppm)は124.40であり、トリチル開始剤1単位当たり15個のプロトンを有している。したがって、当該計算式を用いて、「350.48+[((124.40/15)-1)×74.079]=890.76」の分子量を確認した。
【0088】
1-2.メタクリル化ハイパーブランチポリグリセロール(Methacrylated hyperbranched polyglycerol)
前述の方法で得られたH4高分子をグリシジルメタクリル酸と反応させ、H4高分子をグリシジルメタクリル酸に改質化接合した。その後、チオール基を有する還元剤と共に架橋反応を行い、基板上にコーティングした(図6)。
【0089】
改質化接合後、NMR分析により、メタクリル酸のアルキル基の二重結合シグナルが5.5ppm-6.0ppm付近に見られ、改質化接合によるヒドロキシ基の4.0ppm-5.0ppm付近にシグナル減衰が観察された(図7)。
【0090】
Step 2.ポリウレタン基質上の高分子固定能力の評価-安定性の評価
HPGをTPU(Thermo Plastic Polyurethane、熱可塑性ポリウレタン)基板上にコーティングするために、以下の3つの方法を用いてコーティングを行った。
【0091】
2-1.酸化重合コーティング
ドーパミンコーティングの分野では、1.0M塩基性緩衝液(pH8.5)を用いて酸化重合によりポリドーパミンの形成を誘導し、その上にチオール・エンクリック化学反応によりHPGをコーティングする連続コーティング戦略を採用した。
【0092】
ドーパミン及びHPGをそれぞれ1MのTris-HCl pH8.5の緩衝液を用いて溶解した後、順次に24時間コーティングおよび乾燥する方法を適用した。ドーパミン2mg/mlで溶解した緩衝液を製造し、基板を24時間浸漬した後、緩衝液で十分に洗浄した。乾燥後、HS-HPGを2mg/ml溶解した緩衝液にさらに24時間浸漬してコーティングし、緩衝液で十分に洗浄した(図8a)。
【0093】
接触角を測定したところ、16°、24°、37°、55°の接触角が得られた(図8b)。
【0094】
2-2.メタノール溶媒環境下でのディップコーティング/噴射コーティング
前記「2-1」で述べたドーパミン及びHPG高分子コーティング方法とは異なる方法でコーティングを行った。具体的には、「2-1」で用いた1.0MのTris-HCl pH8.5の緩衝液からメタノールに溶媒を変更した後、ドーパミンコーティング及びHPG高分子コーティングは、それぞれ、浸漬コーティング(ディップコーティング)及び噴射コーティングの異なる方法により行った(図9a)。
【0095】
ドーパミンのコーティングに用いたディップコーティングは、酸化剤が添加された40mMのドーパミン溶液に5分間浸漬した後、乾燥する方法で行った。具体的には、ドーパミンをメタノールに溶解してドーパミン溶液を製造し、当該溶液にTPU基板を浸漬した後、酸化剤(NaIO)を入れてコーティングを行った。その後、HPGのコーティングに用いた噴射コーティングは、基板上にHPG溶液を噴射器で噴射した後、乾燥する方法で行った。
【0096】
その結果、ドーパミンのディップコーティング後の接触角は61°-76°であり、HPGの噴射コーティング後の接触角は39°程度であった(図9b)。
【0097】
2-3.メタクリル化HPGコーティング
より安定的に基板上に固定するために、架橋剤を用いて、基板上での架橋結合によるHPGコーティングを誘導した。
【0098】
還元剤としては、4つのチオール(Thiol)基を有するPETMP(pentaerythritol tetra(3-mercaptopropionate)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオナート))架橋剤を使用した。
【0099】
メタノールを溶媒として100mg/mlの高濃度のメタクリル化高分子コーティングを5秒間行った後、還元剤を用いて架橋結合を形成した。PETMP還元剤の濃度を変化させて、最も低い接触角が形成される条件を見つけようとした。その結果、25mMのPETMPの条件下で洗浄前に20°程度の接触角が達成された。洗浄後の接触角は47°程度と測定された(図10b)。
【0100】
次に、エタノール又はシクロペンタノンに溶解したPETMP 25mMの還元剤溶液に浸漬する回数と時間を変化させて、最適な条件を見つけようとした。コーティング溶媒は、架橋中に、予めコーティングされた高分子が洗い流されるか否かを考慮して、高分子が溶解するエタノールと、高分子が溶解しないシクロペンタノンに設定した。浸漬回数が1回の場合(1秒間)、エタノール(45°)の接触角よりもシクロペンタノン(30°)の接触角が低いことが観察された。シクロペンタノンを溶媒として、様々な条件で追加実験を行った。浸漬回数を5回、浸漬時間を10分間と変更設定して観察したが、それぞれ63°、66°であることが確認された(図11b)。
【0101】
下記表1に、前記「2-1.酸化重合コーティング」、「2-2.メタノール溶媒環境下でのコーティング」、および「2-3.メタクリル化HPGコーティング」の方法および結果をまとめて示す。
【0102】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】