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特表2024-545727SAW共振器の設計方法及びこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】SAW共振器の設計方法及びこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20241203BHJP
【FI】
H03H9/145 C
H03H9/145 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539380
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 KR2022020438
(87)【国際公開番号】W WO2023128416
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0190776
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510035761
【氏名又は名称】ウィパム,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WIPAM, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ダエ キュ
(72)【発明者】
【氏名】ミン、キョウン ジョーン
(72)【発明者】
【氏名】キム、キュン オ
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA14
5J097BB01
5J097BB11
5J097DD01
(57)【要約】
本発明はSAW共振器のSAWに対する特性を直接的に測定する代わり、SAW IDT電極に対する4ポート伝送線モデルを樹立し、SAW共振器のサンプルから測定された初期媒介変数を用いて4ポート伝送線モデルの媒介変数を算出し、それから数百MHzから数GHzまで広い周波数帯域にわたってSAWフィルターを構成することができるSAW共振器の設計方法及びこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SAW共振器の特性情報を用いたSAW共振器の設計方法であって、
SAW共振器サンプルから測定されたそれぞれの散乱パラメータを用いて、IDT電極によって発生する表面弾性波に対する特徴周波数情報を算出する段階と、
前記特徴周波数情報を用いて、前記IDT電極内の表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階と、
前記算出された表面弾性波の物理的特性を示す情報を用いて前記表面弾性波の伝送線回路モデルからSAW共振器を設計する段階と、を含む、SAW共振器の設計方法。
【請求項2】
前記散乱パラメータを用いて前記IDT電極のフィンガー当たりのキャパシタンスを前記表面弾性波の物理的特性を示す情報のうちの一つとして算出する段階をさらに含む、請求項1に記載のSAW共振器の設計方法。
【請求項3】
前記表面弾性波に対する特徴周波数情報を算出する段階は、
前記散乱パラメータから変換された前記IDT電極のインピーダンス又はアドミタンスを用いて、前記IDT電極によって発生する表面弾性波に対する共振周波数、反共振周波数及びスプリアス応答周波数を算出する段階を含む、請求項1に記載のSAW共振器の設計方法。
【請求項4】
前記表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階は、
前記特徴周波数情報を用いて前記IDT電極内の表面弾性波の位相速度を決定する段階と、
前記特徴周波数情報を用いて、前記IDT電極からどれくらい多くの電気エネルギーが表面弾性波エネルギーに変換できるかを示す電気機械結合係数を決定する段階と、
前記特徴周波数情報を用いて前記IDT電極内の表面弾性波の減衰定数を決定する段階と、を含む、請求項1に記載のSAW共振器の設計方法。
【請求項5】
前記表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階は、
前記IDT電極内の表面弾性波の位相速度に臨時値を変化させながら繰り返し適用することによって算出される周波数特性が前記算出された共振周波数及びスプリアス応答周波数に所定の範囲内で近接するときの臨時値を前記表面弾性波の物理的特性を示す位相速度の値と決定する段階を含む、請求項3に記載のSAW共振器の設計方法。
【請求項6】
前記表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階は、
前記IDT電極の電気機械結合係数に臨時値を変化させながら繰り返し適用することによって算出される周波数特性が前記算出された反共振周波数に所定の範囲内で近接するときの臨時値を前記表面弾性波の物理的特性を示す電気機械結合係数の値と決定する段階を含む、請求項3に記載のSAW共振器の設計方法。
【請求項7】
前記表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階は、
前記IDT電極の入力インピーダンス又はアドミタンスの共振周波数及び反共振周波数におけるピークトゥピークの大きさが前記算出された共振周波数及び反共振周波数と一致するように減衰定数を決定する段階を含む、請求項3に記載のSAW共振器の設計方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のSAW共振器の設計方法を実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモバイル通信機器などに使用される共振器や帯域フィルターであって、圧電材料の圧電効果を用いて電気信号を圧電材料の表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)に変換し、その変換された表面弾性波(SAW)を再び電気信号に変換するSAW共振器をSAW IDTの4ポート等価回路モデルの媒介変数であるIDT電極キャパシタンス、SAW位相速度、電気機械結合係数、IDT電極の減衰定数などを用いて設計する方法及びこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体圧電物質は、材料内部の音波が表面の物理的レイアウトによってよく制御することができるので、近年、RF(Radio Frequency)電子システムに広く使用されている。
【0003】
特に、音響共振器に基づくRFフィルターは、高性能、小型化及び低費用によって、マイクロ波集積システムの重要な回路部品になった。
【0004】
SAW共振器で、時間によって変わる電気信号がIDT電極にかかると、弾性材料内の粒子が振動する。よって、圧電基板の浅い表面で音波が発生する。
【0005】
SAW共振器の圧電基板に備えられたIDT電極に係わる物理的現象は電磁気波が音波に関連しているので、その動作メカニズムを理解することは非常に複雑である。
【0006】
SAW共振器において、どのくらい多くの電気エネルギーが音響エネルギーに変換することができるかを示す電気機械結合係数(k)を導入して電磁気波と音響波とを別個の波動として取り扱うことができる。
【0007】
先行文献1(W. R. Smith, H. M. Gerard, J. H. Collins, T. M. Reeder, and H. J. Shaw, "Analysis of Interdigital Surface Wave Transducers by Use of an Equivalent Circuit Model," IEEE Trans. Microw. Theory Tech., Vol. MTT-17, no. 11, pp. 856-864, Nov. 1969.)及び先行文献2(W.R. Smith, H.M. Gerard, and W.R. Jones, "Analysis and Design of Dispersive Interdigital Surface-Wave Transducers," IEEE Trans. Microw, Theory Tech., Vol. MTT-20, no. 7, pp. 458-471, Jul. 1972.)で、スミス(Smith)はIDT電極内の表面弾性波(SAW)の物理的特性を電気機械結合係数、音響位相速度、音響エネルギー損失を使用して数学的に公式化することができる電気・機械的に結合された4ポート分散回路でSAWデバイスをモデリングした。これにより、IDT電極内で発生するSAWの物理的特性を容易に理解することができた。
【0008】
ところが、バルク圧電物質で理論的に決定された
【数1】
は実際の装置では大きな偏差を有することがある。
【0009】
ここで、vは圧電物質内での音響波の位相速度である。BAW(Bulk Acoustic Wave)装置に対しては理論的に決定されたk bulkが充分に正確であるが、SAWデバイスの場合には、大部分の音響エネルギーが圧電基板の表面に分布するから、バルク素子モデルのkはSAWデバイスに適用するのに相応しくない問題点があった。
【0010】
一方、先行文献3(O. Ikata, T. Miyashita, T. Matsuda, T. Nishihara and Y. Satoh, "Development of low-loss band-pass filters using SAW resonators for portable telephones," in Proc. IEEE Ultrason. Symp., 1992, pp. 111-115.)で、イカタ(Ikata)は実験データを使用してフィルターの帯域幅が実験結果と一致するようにkを決定した。
【0011】
その後、イカタ(Ikata)はIDT電極の金属負荷効果を考慮してIDT電極内を金属領域及び空間領域に区分して両領域の音響波位相速度(v、v)を区分した。
【0012】
このような媒介変数は数百MHzまではかなり正確であったが数GHzの周波数帯域では充分に正確ではないから、このような既存の技術を使用するSAW IDTに基づくマイクロ波回路設計は重大な設計失敗をもたらすことがある問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】W. R. Smith, H. M. Gerard, J. H. Collins, T. M. Reeder, and H. J. Shaw, "Analysis of Interdigital Surface Wave Transducers by Use of an Equivalent Circuit Model," IEEE Trans. Microw. Theory Tech., Vol. MTT-17, no. 11, pp. 856-864, Nov. 1969.
【0014】
【非特許文献2】W.R. Smith, H.M. Gerard, and W.R. Jones, "Analysis and Design of Dispersive Interdigital Surface-Wave Transducers," IEEE Trans. Microw, Theory Tech., Vol. MTT-20, no. 7, pp. 458-471, Jul. 1972.
【0015】
【非特許文献3】O. Ikata, T. Miyashita, T. Matsuda, T. Nishihara and Y. Satoh, "Development of low-loss band-pass filters using SAW resonators for portable telephones," in Proc. IEEE Ultrason. Symp., 1992, pp. 111-115.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はSAW共振器のSAWに対する特性を直接的に測定する代わり、SAW IDT電極に対する4ポート伝送線モデルを樹立し、SAW共振器のサンプルから測定された初期媒介変数を用いて4ポート伝送線モデルの媒介変数を算出し、それから数百MHzから数GHzまでの広い周波数帯域にわたってSAWフィルターを構成することができるSAW共振器の設計方法及びこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムを提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一実施例によるSAW共振器の特性情報を用いたSAW共振器の設計方法は、SAW共振器サンプルから測定されたそれぞれの散乱パラメータを用いて、IDT電極によって発生する表面弾性波に対する特徴周波数情報を算出する段階と、前記特徴周波数情報を用いて、前記IDT電極内の表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階と、前記算出された表面弾性波の物理的特性を示す情報を用いて前記表面弾性波の伝送線回路モデルからSAW共振器を設計する段階と、を含む。
【0018】
また、好ましくは、前記散乱パラメータを用いて前記IDT電極のフィンガー当たりのキャパシタンスを前記表面弾性波の物理的特性を示す情報のうちの一つとして算出する段階をさらに含むことを特徴とする。
【0019】
また、好ましくは、前記表面弾性波に対する特徴周波数情報を算出する段階は、前記散乱パラメータから変換された前記IDT電極のインピーダンス又はアドミタンスを用いて、前記IDT電極によって発生する表面弾性波に対する共振周波数、反共振周波数及びスプリアス応答周波数を算出する段階を含むことを特徴とする。
【0020】
また、好ましくは、前記表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階は、前記特徴周波数情報を用いて前記IDT電極内の表面弾性波の位相速度を決定する段階と、前記特徴周波数情報を用いて、前記IDT電極からどれくらい多くの電気エネルギーが表面弾性波エネルギーに変換できるかを示す電気機械結合係数を決定する段階と、前記特徴周波数情報を用いて前記IDT電極内の表面弾性波の減衰定数を決定する段階と、を含むことを特徴とする。
【0021】
また、好ましくは、前記表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階は、前記IDT電極内の表面弾性波の位相速度に臨時値を変化させながら繰り返し適用することによって算出される周波数特性が前記算出された共振周波数及びスプリアス応答周波数に所定の範囲内で近接するときの臨時値を前記表面弾性波の物理的特性を示す位相速度の値と決定する段階を含むことを特徴とする。
【0022】
また、好ましくは、前記表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階は、前記IDT電極の電気機械結合係数に臨時値を変化させながら繰り返し適用することによって算出される周波数特性が前記算出された反共振周波数に所定の範囲内で近接するときの臨時値を前記表面弾性波の物理的特性を示す電気機械結合係数の値と決定する段階を含むことを特徴とする。
【0023】
また、好ましくは、前記表面弾性波の物理的特性を示す情報を算出する段階は、前記IDT電極の入力インピーダンス又はアドミタンスの共振周波数及び反共振周波数におけるピークトゥピークの大きさが前記算出された共振周波数及び反共振周波数と一致するように減衰定数を決定する段階を含むことを特徴とする。
【0024】
一方、本発明は前記のようなSAW共振器の設計方法を実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムを含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明によるSAW共振器の設計方法及びこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムは、SAW共振器のSAWに対する特性を直接的に測定する代わり、SAW IDT電極に対する4ポート伝送線モデルを樹立し、SAW共振器のサンプルから測定された初期媒介変数を用いて4ポート伝送線モデルの媒介変数を算出し、それから数百MHzから数GHzまでの広い周波数帯域にわたってSAWフィルターを構成することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)は1ポートSAW共振器を示す図であり、(b)は(a)に示したSAW共振器のIDT電極を介して発生する表面弾性波(SAW)の物理的特性を解釈するためにSAW共振器のIDT電極に対するメカニズムを等価の電気電路で示す図である。
【0027】
図2】(a)はSAW共振器のIDT電極200部分を拡大して示す図であり、(b)は(a)に示したIDT電極によるSAWの解釈のためにi番目のフィンガーを基準に等価の電気電路を用いて4ポート伝送線モデルを示す図である。
【0028】
図3】本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法の各過程を説明するフローチャートである。
【0029】
図4】3D field solverを活用してSAW共振器のIDT電極に対するキャパシタンスを算出する一例を示す図である。
【0030】
図5】SAW共振器のIDT電極の周波数に対するアドミタンスYinのグラフであり、共振周波数(f)、反共振周波数(f)、スプリアス応答周波数(f)に対してそれぞれ示す図である。
【0031】
図6】本発明の一実施例によって求めたSAW位相速度及び位相速度の比とフィル厚さ比(film-thickness ratio(h/Lp))の関係に対して示すグラフである。
【0032】
図7】本発明の一実施例によって求めた電気機械結合係数(k)及び減衰定数(α)とフィルム厚さ比(film-thickness ratio(h/Lp))の関係に対して示すグラフである。
【0033】
図8】(a)は本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法を検証するために作った3.5ステージ(stage)のはしご形(ladder type)SAWフィルターを示す図であり、(b)は(a)に示したようなテストSAWフィルターに対して周波数対挿入損失のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明によるSAW共振器の設計方法及びこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムについての具体的な内容を図面に基づいて詳細に説明する。
【0035】
図1の(a)は1ポートSAW共振器に対して示すものであり、図1の(b)は(a)に示したSAW共振器のIDT電極を介して発生する表面弾性波(SAW)の物理的特性を解釈するためにSAW共振器のIDT電極に対するメカニズムを等価の電気電路として示す図である。
【0036】
図1の(a)に示すようなSAW共振器は、圧電基板100上にIDT(InterDigital Transducers)電極200を形成し、IDT電極200にかかった電気的信号によって圧電基板100の表面に表面弾性波(SAW)を生成する。ここで、図1の(a)に示すように、圧電基板100上にIDT電極200の両端にそれぞれ反射器110、120を備えることにより、IDT電極200で発生した表面弾性波が外部に漏洩せず、各反射器110、120で反射されるように構成することができる。
【0037】
SAW共振器は、電気エネルギーと音響エネルギーとが互いに結合されているので、それ自体としては解釈がとても難しい。これを容易に解決するために、図1の(b)のように、電気機械結合係数(k)を導入して音響エネルギーと電気エネルギーとを分離することにより、IDT電極におけるSAWに対するメカニズムを回路的に解釈することができる。
【0038】
従来では、kが圧電物質の固有定数であり、理論的には、次の数学式1のように、弾性スティフネス定数(elastic stiffness constant(c))、圧電応力定数(piezoelectric stress constant(e))、誘電率(dielectric permittivity(ε))を用いて定義することができ、実験的には、IDT電極内で圧電ショーティング(piezoelectric shorting)による音響波位相速度変化(▽v)を用いて計算することができる。
【0039】
【数2】
【0040】
前記数学式1によるkはバルク波(Bulk Wave)の電気機械結合係数であるので、大部分の音響波が圧電基板の表面に存在するSAWデバイスの場合には相応しくない。
【0041】
前述したような先行文献1及び2のスミス(Smith)は、このような問題を解決するために、補正係数δを導入して次の数学式4のように
【数3】
を新たに定義した。
【0042】
【数4】
【0043】
前述したような
【数5】
は数百MHz以下で動作するSAWデバイスにはよく合うが、SAWデバイスの動作周波数が数GHzに上昇するほどIDT電極の質量負荷効果(mass loading effect)のため合わなくなる。
【0044】
このような問題を解決するために、前述した先行文献3のイカタ(Ikata)は、質量負荷効果(mass loading effect)を考慮してIDT電極内でのSAWの位相速度を、金属負荷(metal loading)がないとき(IDT電極のフィンガーがないとき)のSAWの位相速度(v)と金属負荷(metal loading)があるとき(IDT電極のフィンガーがあるとき)のSAWの位相速度(v)の比(τ=v/v)でIDT電極内でのSAWの位相速度をモデリングした。
【0045】
電気機械結合係数は既存方法では合わないので、SAWデバイスの帯域幅が合うように修正してSAWデバイスを成功的に設計することができるが、SAW動作周波数が数GHzに上昇するほど質量負荷効果(mass loading effect)がより一層非線形に変わるので、前述したようなイカタ(Ikata)の方法も限界がある。
【0046】
SAW共振器に対するIDT電極200の回路モデルは、図2のように、4ポート伝送線モデルで表現することができる。
【0047】
図2の(a)はSAW共振器のIDT電極200部分を拡大して示す図であり、図2の(b)は(a)に示したIDT電極によるSAWの解釈のために、i番目のフィンガーを基準に等価の電気電路を用いて4ポート伝送線モデルを示す図である。
【0048】
図2の(a)に示すように、IDT電極200は、多数のフィンガー211~215と、各フィンガーの間の間隔部231~234とを含み、図面符号211はi-2番目のフィンガーを示し、その幅はm(i-2)であり、図面符号212はi-1番目のフィンガーを示し、その幅はm(i-1)であり、図面符号213はi番目のフィンガーを示し、その幅はmであり、図面符号214はi+1番目のフィンガーを示し、その幅はm(i+1)であり、図面符号215はi+2番目のフィンガーを示し、その幅はm(i+2)である。
【0049】
そして、図2の(a)に示すように、i-2番目のフィンガー211とi-1番目のフィンガー212との間のi-1番目の間隔部231の幅はS(i-1)であり、i-1番目のフィンガー212とi番目のフィンガー213との間のi番目の間隔部232の幅はSであり、i番目のフィンガー213とi+1番目のフィンガー214との間のi+1番目の間隔部233の幅はS(i+1)であり、i+1番目のフィンガー214とi+2番目のフィンガー215との間のi+2番目の間隔部234の幅はS(i+2)である。
【0050】
ここで、図面符号211、213、215は入力IDT電極のフィンガー、すなわち入力フィンガーであり、図面符号212、214は出力IDT電極のフィンガー、すなわち出力フィンガーである。
【0051】
図2の(a)に示すように、入力フィンガーの間の距離又は出力フィンガーの間の距離をIDT電極の周期(λ)と言い、その半分の距離、すなわちλ/2を区間長(Period Length)と言い、Lpと表示する。図2の(a)に示す記号hは各フィンガー211などの厚さを示す。
【0052】
図2の(b)は図2の(a)に示したi番目のフィンガー213を中心にi番目の間隔部232及びi+1番目の間隔部233に対して等価の電気電路を用いた4ポート伝送線モデルを示す図である。
【0053】
図2の(b)に示した4ポート伝送線モデルを計算するためには、IDT電極のフィンガーに対するキャパシタンス(Co)と、質量負荷効果(mass loading effect)の有無によるSAWの位相速度(v、v)、電気機械結合係数(k)、SAWの減衰定数(α)をそれぞれ決定する必要がある。
【0054】
本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法は、前述した媒介変数を効果的に決定することにより、所望の特性を有するSAW共振器を設計するためのものである。
【0055】
このための本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法は、図3に示すフローチャートによるプロセスを含むことができ、そのプロセスによって前述したキャパシタンス(Co)と、質量負荷効果(mass loading effect)の有無によるSAWの位相速度(v、v)、電気機械結合係数(k)、SAWの減衰定数(α)を効果的に算出することができる。
【0056】
図3を参照して本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法の各過程を説明すると、まず設計しようとするSAW共振器に対してサンプルを抽出し、そのサンプルから初期媒介変数としてSAW共振器の散乱パラメータ(scattering parameter)を測定する(S110)。
【0057】
IDT電極の質量負荷効果(mass loading effect)は、図2の(a)に示したようなIDT電極の区間長(period length:Lp)とIDT電極の厚さ(h)の比であるフィルム厚さ比(film-thickness ratio:h/Lp)によって非線形に変わる。
【0058】
したがって、1ポートSAW共振器の開口長(aperture length:La)、IDT電極のフィンガーの個数(NIDT)、反射器の個数(NREF)、フィンガーの厚さ(h)は同一の状態でIDT電極の区間長(Lp)のみを変えてテストパターンを製作し、これらをサンプルとして用いることができる。製作したサンプルはVNAを用いて散乱パラメータを測定することができる。
【0059】
前述したように測定された散乱パラメータを用いて、SAW共振器のIDT電極の各フィンガーのキャパシタンスを算出することができる(S120)。
【0060】
測定された散乱パラメータを用いて以下の数学式3のようにアドミタンスYin(ω)を算出することができる。
【0061】
【数6】
【0062】
ここで、ωは角周波数であり、S11(ω)は散乱パラメータである。
【0063】
前記Yin(ω)から次の数学式4を用いてSAW共振器の総キャパシタンスCを計算することができる。ここで、計算のための周波数fは、IDT電極のキャパシタンス値が安定的な100MHz以下の低周波数にした。
【0064】
【数7】
【0065】
総キャパシタンスCtotalは商用3D field solver(例えば、HFSS、SONNET、ADSなど)を活用して求めることもできる。図4は3D field solverの活用例を示す。
【0066】
図4に示すように、前述したような総キャパシタンスCtotalはIDT電極内で詳細キャパシタンスの和でさらに表現することができ、これを以下の数学式5のように示すことができる。
【0067】
【数8】
【0068】
ここで、CinternalはIDT電極の両端のフィンガーを除いた内側のフィンガーのフィンガー当たりのキャパシタンスであり、CedgeはIDT電極の両端のフィンガーのフィンガー当たりのキャパシタンスであり、Cparasiticは寄生キャパシタンス(parasitic capacitance)である。
【0069】
互いに異なるN個の1ポートSAW共振器サンプルからCinternalを計算することができ、図4に示すように、CinternalとCedgeとはほとんど同一であるから、4ポートSAW伝送モデルのIDT電極フィンガーのキャパシタンスCはCinternalとほとんど同じであるので、Cinternalで計算することができる。
【0070】
前述したように、図3のS120段階によるIDTフィンガーキャパシタンスを算出することができる。
【0071】
一方、図3に示すように、前述したように測定された散乱パラメータから変換されたIDT電極のインピーダンス又はアドミタンスを用いて、例えば前述した数学式3で求めたIDT電極のアドミタンスを用いて、IDT電極によって発生する表面弾性波(SAW)に対する共振周波数(f)、反共振周波数(f)、及びスプリアス応答周波数(f)をそれぞれ算出することができる。
【0072】
図5はIDT電極の周波数に対するアドミタンスYinのグラフを示し、共振周波数(f)、反共振周波数(f)、及びスプリアス応答周波数(f)に対してそれぞれ示す。
【0073】
ここで、スプリアス応答周波数(f)はIDT電極内で発生するバルク波(Bulk wave)による応答周波数であり、SAWの応答特性においてノイズに相当する部分である。
【0074】
このようなバルク波(Bulk wave)による応答周波数はSAWの物理的特性を把握するのにノイズとして作用するので、SAWの物理的特性の非線形を増加させる要因となる。
【0075】
本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法では、前述したようなノイズに相当するバルク波(Bulk wave)によるスプリアス応答周波数(f)を一緒に考慮して必要な媒介変数を算出するので、従来のスミス(Smith)やイカタ(Ikata)の方法よりも正確なSAWの物理的特性情報を算出することができる。
【0076】
再び図3に戻り、S130段階で前述したようにアドミタンスを用いてSAWに対する共振周波数(f)、反共振周波数(f)、及びスプリアス応答周波数(f)を算出した後、IDT電極内の表面弾性波(SAW)の位相速度に臨時値
【数9】
を適用して周波数特性を算出し(S140)、それから算出された共振周波数及びスプリアス応答周波数を図5に示すような共振周波数(f)及びスプリアス応答周波数(f)とそれぞれ比較して実質的に一致するかを、すなわち臨時値による周波数特性が共振周波数(f)及びスプリアス応答周波数(f)に所定の範囲内に近接するかを判断する(S150)。
【0077】
共振周波数(f)及びスプリアス応答周波数(f)に所定の範囲内で近接するまで位相速度の臨時値を他の値で繰り返し適用し、周波数特性が共振周波数及びスプリアス応答周波数に所定の範囲内で近接するときの臨時値をIDT電極内の表面弾性波の位相速度(v、v)と決定することができる(S160)。
【0078】
先にSAW共振器はIDT電極の質量負荷効果(mass loading effect)がIDT電極の区間長(Lp)とIDT電極の厚さ(h)の比であるフィルム厚さ比(film-thickness ratio:h/Lp)によって非線形に変わると説明したことがある。図6はフィルム厚さ比(film-thickness ratio(h/Lp))に対して前記S160段階で求めたIDT電極のフィンガーがないとき(質量負荷効果(mass loading effect)がないとき)のSAWの位相速度(v)及び位相速度の比(τ)の関係を示すグラフである。
【0079】
図6に示すように、フィルム厚さ比(film-thickness ratio(h/Lp))が変化するのに伴って、IDT電極のフィンガーがないときのSAWの位相速度(v)とIDT電極のフィンガーがあるときのSAWの位相速度(v)の比(τ=v/v)が非線形的に変化することが分かる。
【0080】
また図3に戻り、前述したように、共振周波数及びスプリアス応答周波数を用いてSAWの位相速度(v、v)を決定した後、反共振周波数を用いてIDT電極に対する電気機械結合係数(k)を決定する段階(S170~S190)を実行することができる。これも、位相速度と同様に、反復法(iterative method)を用いて決定することができる。
【0081】
IDT電極の電気機械結合係数に臨時値を適用してSAWの周波数特性を算出し(S170)、その算出された周波数特性が図5に示すような反共振周波数(f)に所定の範囲内で近接するかを判断することができ(S180)、反共振周波数(f)に所定の範囲内で近接するまで電気機械結合係数の臨時値として他の値を繰り返し適用し、周波数特性が反共振周波数(f)に所定の範囲内で近接するときの臨時値をIDT電極の電気機械結合係数(k)と決定することができる(S190)。
【0082】
また、前述したように決定されたSAWの位相速度及び電気機械結合係数によるインピーダンス又はアドミタンスの共振周波数及び反共振周波数のピークトゥピーク(peak to peak)大きさが図5に示したような共振周波数(f)及び反共振周波数(f)のピークトゥピーク(peak to peak)大きさと一致するようにする減衰定数(α)を決定することができる(S200)。
【0083】
図7はフィル厚さ比(film-thickness ratio(h/Lp))に対する前記S190段階で求めた電気機械結合係数(k)及び減衰定数(α)の関係を示すグラフである。
【0084】
図7に示すように、フィル厚さ比(film-thickness ratio(h/Lp))が変化するのに伴ってIDT電極の電気機械結合係数(k)はほとんど一定した値を維持する一方で、減衰定数(α)はフィル厚さ比(film-thickness ratio(h/Lp))が変化するのに伴って非線形に変化することが分かる。
【0085】
一方、図8の(a)は本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法を検証するために直列に連結されたSAW共振器S1~S4及び並列に連結されたSAW共振器P1~P3を含む3.5ステージ(stage)のはしご形(ladder type)SAWフィルターを示す。
【0086】
それぞれの直列連結SAW共振器S1~S4及び並列連結SAW共振器P1~P3の開口長(La)は40μmにし、反射器の個数Nrefは20にするとき、直列連結SAW共振器S1~S4のそれぞれの区間長(Lp)及びIDTフィンガー個数(NIDT)、並びに並列連結SAW共振器P1~P3のそれぞれの区間長(Lp)及びIDTフィンガー個数(NIDT)は図8の(a)に示す通りである。
【0087】
図8の(a)に示すようなテストSAWフィルターに対して周波数対挿入損失のグラフを図8の(b)に示すように算出した。
【0088】
図8の(b)に示したグラフで、点線で示すMA3は従来の方法によって算出されたグラフであり、赤色実線で示すMA1は本発明による方法によって算出されたグラフであり、黒色実線で示すMA2は測定によってシミュレーションした結果のグラフである。
【0089】
図8の(b)に示すように、従来の方法によるMA3と、本発明によるMA1と、測定されたシミュレーション結果によるMA2とを互いに比較すると、通過帯域(passband)で従来の方法によるMA3はシミュレーション結果によるMA2によって周波数帯域幅(bandwidth)で最大36MHz、そして挿入損失は最大3.4dBまで大きな差を示す。
【0090】
一方、本発明によるMA1とシミュレーション結果によるMA2とを比較すると、帯域幅(bandwidth)で最大4MHz、挿入損失で最大0.7dB程度の微小な差を示していることから、本発明による結果が実際SAWフィルターの周波数特性とほぼ一致することが分かる。
【0091】
したがって、従来の方法によって既に知っている物質値を用いてSAWフィルターを設計する場合、正確なSAWフィルターの設計が難しいが、本発明で提示する方法によれば、数GHzでも非常に正確にSAWフィルターを設計することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によるSAW共振器の設計方法及びこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムは、当該設計方法によるプロセスをアルゴリズムによって具現して当該機能を実行するソフトウェア又はそのような機能を実行するコンピュータ又はSAW共振器やフィルターの設計や製作のための装備に適用してSAW共振器やSAWフィルターの設計のための技術分野で産業上利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】