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特表2024-545728SAW共振器の設計方法、SAWフィルター及びその設計方法、並びにこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラム
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  • 特表-SAW共振器の設計方法、SAWフィルター及びその設計方法、並びにこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-10
(54)【発明の名称】SAW共振器の設計方法、SAWフィルター及びその設計方法、並びにこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20241203BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
H03H9/64 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539388
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 KR2022020440
(87)【国際公開番号】W WO2023128417
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0190778
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510035761
【氏名又は名称】ウィパム,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WIPAM, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ダエ キュ
(72)【発明者】
【氏名】ミン、キョウン ジョーン
(72)【発明者】
【氏名】キム、キュン オ
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA01
5J097AA13
5J097BB01
5J097BB11
5J097DD01
(57)【要約】
本発明は、SAW共振器の材料を変更するか又は製造工程を変更することなしに、SAW共振器のIDT電極において入力IDTフィンガー、出力IDTフィンガー、フィンガーの間の間隔などの構造を最適の条件に設計することにより、SAW共振器の品質因子を向上させることができ、このようなSAW共振器を用いてSAWフィルターを構成することにより、低い挿入損失と向上した周波数特性を得ることができるようにするSAW共振器の設計方法、SAWフィルター及びその設計方法、並びにこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムを提供するためのものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板、及び前記圧電基板に備えられ、電気信号と表面弾性波との間の変換を行うIDT電極を含むSAW共振器の設計方法であって、
前記IDT電極は複数の入力IDTフィンガー及び複数の出力IDTフィンガーを含み、前記入力IDTフィンガーと出力IDTフィンガーとの間に入力間隔部が形成され、前記出力IDTフィンガーと次の入力IDTフィンガーとの間に出力間隔部が形成されるSAW共振器において、
前記入力IDTフィンガー及び入力間隔部を含む領域で前記入力IDTフィンガーが占める比である入力フィンガーメタライゼーション、及び前記出力IDTフィンガー及び出力間隔部を含む領域で前記出力IDTフィンガーが占める比である出力フィンガーメタライゼーションをそれぞれ媒介変数と定義する段階と、
前記入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションのそれぞれの設定値を変化させながら選択されたSAW共振器の品質因子の範囲を満たす設定値を捜す段階と、を含む、SAW共振器の設計方法。
【請求項2】
前記媒介変数と定義する段階は、
前記入力IDTフィンガーから前記出力間隔部までの周期の半分と定義される区間長を前記入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションと一緒に媒介変数と定義する段階をさらに含み、
前記品質因子の範囲を満たす設定値を捜す段階は、
前記SAW共振器の品質因子の範囲を満たすように、前記区間長、入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションのそれぞれの設定値を捜す段階を含む、請求項1に記載のSAW共振器の設計方法。
【請求項3】
前記入力フィンガーメタライゼーション及び前記出力フィンガーメタライゼーションは0.40-0.60の範囲内でそれぞれ選択された値と設定される、請求項1に記載のSAW共振器の設計方法。
【請求項4】
圧電基板、及び前記圧電基板に備えられ、電気信号と表面弾性波との間の変換を行うIDT電極を含む複数のSAW共振器を直列及び並列に連結してSAWフィルターを設計する方法であって、
前記IDT電極は複数の入力IDTフィンガー及び複数の出力IDTフィンガーを含み、前記入力IDTフィンガーと出力IDTフィンガーとの間に入力間隔部が形成され、前記出力IDTフィンガーと次の入力IDTフィンガーとの間に出力間隔部が形成される複数のSAW共振器を直列及び並列に連結するSAWフィルターにおいて、
前記直列及び並列に連結される各SAW共振器で、前記入力IDTフィンガー及び入力間隔部を含む領域で前記入力IDTフィンガーが占める比である入力フィンガーメタライゼーション、及び前記出力IDTフィンガー及び出力間隔部を含む領域で前記出力IDTフィンガーが占める比である出力フィンガーメタライゼーションをそれぞれ媒介変数と定義する段階と、
前記入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションのそれぞれの設定値を変化させながら選択されたSAWフィルターの品質因子の範囲を満たす設定値を捜す段階と、を含む、SAWフィルターの設計方法。
【請求項5】
前記SAWフィルターにおける直列に連結される複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、
前記入力フィンガーメタライゼーションは0.41~0.48の範囲内で選択された値と設定され、前記出力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.59の範囲内で選択された値と設定される、請求項4に記載のSAWフィルターの設計方法。
【請求項6】
前記SAWフィルターにおける並列に連結される複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、
前記入力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.55の範囲内で選択された値と設定され、前記出力フィンガーメタライゼーションは0.48~0.55の範囲内で選択された値と設定される、請求項4に記載のSAWフィルターの設計方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載のSAWフィルターの設計方法を実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラム。
【請求項8】
圧電基板、及び前記圧電基板に備えられて電気信号と表面弾性波の間の変換をするIDT電極を含む複数のSAW共振器を直列及び並列に連結して構成されたSAWフィルターであって、
前記複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、
前記IDT電極は複数の入力IDTフィンガー及び複数の出力IDTフィンガーを含み、前記入力IDTフィンガーと出力IDTフィンガーとの間に入力間隔部が形成され、前記出力IDTフィンガーと次の入力IDTフィンガーとの間に出力間隔部が形成されるように構成され、
直列に連結される複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、前記入力IDTフィンガー及び入力間隔部を含む領域で前記入力IDTフィンガーが占める比である入力フィンガーメタライゼーションは0.41~0.48の範囲内の値を有するように構成され、前記出力IDTフィンガー及び出力間隔部を含む領域で前記出力IDTフィンガーが占める比である出力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.59の範囲内の値を有するように構成され、
並列に連結される複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、前記入力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.55の範囲内の値を有するように構成され、前記出力フィンガーメタライゼーションは0.48~0.55の範囲内の値を有するように構成される、SAWフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモバイル通信機器などに使用される共振器や帯域フィルターであって、圧電材料の圧電効果を用いて電気信号を圧電材料の表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)に変換し、その変換された表面弾性波(SAW)を再び電気信号に変換する表面弾性波共振器(以下、「SAW共振器」と言う)及び表面弾性波フィルター(以下、「SAWフィルター」と言う)に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、タブレットのようなモバイル機器は小さなサイズのRFフィルターを必要とするので、EM waveよりも電波速度がずっと遅い表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)又はバルク弾性波(Bulk Acoustic Wave:BAW)を用いた弾性波フィルター(Acoustic Filter)が主に用いられる。
【0003】
移動通信システムが発展するのに伴って、現在3GHz以下で使用可能な周波数帯域は飽和状態である。したがって、3GHz以下の周波数帯域で動作するRF(Radio Frequency)フィルターは、高い選択度、低い挿入損失、小さな大きさなどを要求する。
【0004】
このようなすべての要求を満たして現在一番広く使用されているフィルターは表面弾性波を用いたフィルターであり、SAWフィルターの選択度、挿入損失などを向上させるためには、フィルターを構成するSAW共振器の品質因子(Q-factor)を向上させなければならない。
【0005】
SAWフィルターは、多くの1ポート(port)又は2ポートSAW共振器(SAW Resonator)が直列に又は並列に連結されて設計されるので、SAWフィルターの品質因子(Q値)を向上させるためには、根本的に1ポート又は2ポートSAW共振器の品質因子(Q値)を向上させなければならない。
【0006】
従来、SAW共振器の品質因子の向上はSAW共振器を構成する圧電基板の圧電物質(piezoelectric material)又は圧電物質の結晶方向を変える方向に発展するか又は工程を変更する方向に発展した。
【0007】
しかし、SAW共振器の品質因子を向上させるために、圧電基板を成す圧電物質を変更するか又はその結晶方向を変更するか又は製造工程を変更するなどの方法は、SAW共振器の価格を上昇させるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2021-500838号公報
【0009】
【特許文献2】韓国公開特許第2014-0077463号公報
【0010】
【特許文献3】韓国公開特許第2006-0120007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はSAW共振器の材料を変更するか又は製造工程を変更することなしにSAW共振器のIDT電極の構造を変更してIDT電極で生成される表面弾性波(SAW)の波動を変造させることにより、SAW共振器自体で具現することができる最適の品質因子を持たせることができるSAW共振器の設計方法、SAWフィルター及びその設計方法、並びにこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムを提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法は、圧電基板、及び前記圧電基板に備えられ、電気信号と表面弾性波との間の変換を行うIDT電極を含むSAW共振器の設計方法であって、前記IDT電極は複数の入力IDTフィンガー及び複数の出力IDTフィンガーを含み、前記入力IDTフィンガーと出力IDTフィンガーとの間に入力間隔部が形成され、前記出力IDTフィンガーと次の入力IDTフィンガーとの間に出力間隔部が形成されるSAW共振器において、前記入力IDTフィンガー及び入力間隔部を含む領域で前記入力IDTフィンガーが占める比である入力フィンガーメタライゼーション、及び前記出力IDTフィンガー及び出力間隔部を含む領域で前記出力IDTフィンガーが占める比である出力フィンガーメタライゼーションをそれぞれ媒介変数と定義する段階と、前記入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションのそれぞれの設定値を変化させながら選択されたSAW共振器の品質因子の範囲を満たす設定値を捜す段階と、を含む。
【0013】
また、好ましくは、前記媒介変数と定義する段階は、前記入力IDTフィンガーから前記出力間隔部までの周期の半分と定義される区間長を前記入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションと一緒に媒介変数と定義する段階をさらに含み、前記品質因子の範囲を満たす設定値を捜す段階は、前記SAW共振器の品質因子の範囲を満たすように、前記区間長、入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションのそれぞれの設定値を捜す段階を含むことを特徴とする。
【0014】
また、好ましくは、前記入力フィンガーメタライゼーション及び前記出力フィンガーメタライゼーションは0.40-0.60の範囲内でそれぞれ選択された値と設定されることを特徴とする。
【0015】
一方、本発明の一実施例によるSAWフィルター設計方法は、圧電基板、及び前記圧電基板に備えられ、電気信号と表面弾性波との間の変換を行うIDT電極を含む複数のSAW共振器を直列及び並列に連結してSAWフィルターを設計する方法であって、前記IDT電極は複数の入力IDTフィンガー及び複数の出力IDTフィンガーを含み、前記入力IDTフィンガーと出力IDTフィンガーとの間に入力間隔部が形成され、前記出力IDTフィンガーと次の入力IDTフィンガーとの間に出力間隔部が形成される複数のSAW共振器を直列及び並列に連結するSAWフィルターにおいて、前記直列及び並列に連結される各SAW共振器で、前記入力IDTフィンガー及び入力間隔部を含む領域で前記入力IDTフィンガーが占める比である入力フィンガーメタライゼーション、及び前記出力IDTフィンガー及び出力間隔部を含む領域で前記出力IDTフィンガーが占める比である出力フィンガーメタライゼーションをそれぞれ媒介変数と定義する段階と、前記入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションのそれぞれの設定値を変化させながら選択されたSAWフィルターの品質因子の範囲を満たす設定値を捜す段階と、を含む。
【0016】
また、好ましくは、前記SAWフィルターにおける直列に連結される複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、前記入力フィンガーメタライゼーションは0.41~0.48の範囲内で選択された値と設定され、前記出力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.59の範囲内で選択された値と設定されることを特徴とする。
【0017】
また、好ましくは、前記SAWフィルターにおける並列に連結される複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、前記入力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.55の範囲内で選択された値と設定され、前記出力フィンガーメタライゼーションは0.48~0.55の範囲内で選択された値と設定されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前述したようなSAWフィルターの設計方法を実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムを含む。
【0019】
一方、本発明の一実施例によるSAWフィルターは、圧電基板、及び前記圧電基板に備えられて電気信号と表面弾性波の間の変換をするIDT電極を含む複数のSAW共振器を直列及び並列に連結して構成されたSAWフィルターであって、前記複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、前記IDT電極は複数の入力IDTフィンガー及び複数の出力IDTフィンガーを含み、前記入力IDTフィンガーと出力IDTフィンガーとの間に入力間隔部が形成され、前記出力IDTフィンガーと次の入力IDTフィンガーとの間に出力間隔部が形成されるように構成され、直列に連結される複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、前記入力IDTフィンガー及び入力間隔部を含む領域で前記入力IDTフィンガーが占める比である入力フィンガーメタライゼーションは0.41~0.48の範囲内の値を有するように構成され、前記出力IDTフィンガー及び出力間隔部を含む領域で前記出力IDTフィンガーが占める比である出力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.59の範囲内の値を有するように構成され、並列に連結される複数のSAW共振器のそれぞれにおいて、前記入力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.55の範囲内の値を有するように構成され、前記出力フィンガーメタライゼーションは0.48~0.55の範囲内の値を有するように構成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によるSAW共振器の設計方法、SAWフィルター及びその設計方法、並びにこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムは、SAW共振器の材料を変更するか又は製造工程を変更することなしに、SAW共振器のIDT電極において入力IDTフィンガー、出力IDTフィンガー、フィンガーの間の間隔などの構造を最適の条件に設計することにより、SAW共振器の品質因子を向上させることができ、このようなSAW共振器を用いてSAWフィルターを構成することにより、低い挿入損失及び向上した周波数特性を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法を説明するためのSAW共振器の構造をx-y平面上で示す図である。
【0022】
図2】(a)は図1のR部分を拡大して示す図であり、(b)は(a)に示す部分を正面(x-z平面)上で示す図である。
【0023】
図3】入力フィンガーメタライゼーション(Mi)の変化によるIDT電極のキャパシタンスの変化を示すグラフである。
【0024】
図4】入力フィンガーメタライゼーションが変化することにより、SAWフィルターの直列に連結された共振器のIDT電極の共振周波数がSrf曲線形に変化し、並列に連結された共振器のIDT電極の共振周波数がPrf曲線形に変化することを示す図である。
【0025】
図5】SAW共振器においてIDT電極の同じ区間長を持って入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションの値を変化させたとき、周波数範囲による品質因子の変化を示す図である。
【0026】
図6】複数のSAW共振器を直列及び並列に連結して構成したSAWフィルターにおいて直列に連結されたSAW共振器S1の入力フィンガーメタライゼーション及び並列に連結されたSAW共振器P1の入力フィンガーメタライゼーションの値を変更することによる周波数と挿入損失の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明によるSAW共振器の設計方法、SAWフィルター及びその設計方法、並びにこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムについての具体的な内容を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
まず、図1及び図2に基づいて本発明の一実施例によるSAW共振器の構成及びこれを用いたSAW共振器の設計方法について説明する。
【0029】
図1は本発明の一実施例によるSAW共振器の設計方法を説明するためのSAW共振器の構造をx-y平面上で示す図であり、図2の(a)は図1のR部分を拡大して示す図であり、図2の(b)は(a)に示す部分を正面(x-z平面)上で示す図である。
【0030】
図1に示すように、SAW共振器は、圧電効果(Piezoelectric Effect)によって電気エネルギーを音響エネルギーに変換させる圧電基板100と、その圧電基板100上に備えられ、電気信号によって圧電基板100上に表面弾性波(SAW)を発生させるか又は表面弾性波を電気信号に変換するIDT電極200と、前記IDT電極200で発生した表面弾性波が外部に進行することを前記IDT電極200に反射させるように前記IDT電極200の両側面にそれぞれ備えられる反射器110、120と、を含んでなることができる。
【0031】
SAW共振器で、IDT電極によって発生する表面弾性波はIDT電極で発生する電場の影響を受け、圧電基板の圧電物質の粒子(particle)が変形(deformation)して生成され、次の数学式1の関係を有する。
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、Sは応力(stress)、Tは変形率(strain)、uは圧電物質の粒子変位(particledis placement)、vは圧電物質の粒子速度(particlevelocity)、ρは質量密度(mass density)を示す。前述したT及びSは以下の数学式2を満たす。
【0034】
【数2】
【0035】
ここで、cは剛性係数(stiffness tensor)であり、ηは粘性係数(viscosity tensor)である。物体力(Body force)がない無損失媒体(lossless media)を仮定すると、T及びSは次の数学式3のように示すことができる。
【0036】
【数3】
【0037】
前記数学式3からIDT電極によって生成される表面弾性波の速度vは次の数学式4のように示すことができる。
【0038】
【数4】
【0039】
したがって、SAW共振器のIDT電極の構造を変更することにより、例えば入力IDTフィンガーの幅、出力IDTフィンガーの幅、入力間隔部の幅、出力間隔部の幅などを変更することにより、圧電基板にかかる変形率(strain)T、圧電物質を通過するときの表面弾性波の速度v、IDT電極で生成された表面弾性波から出力IDTフィンガーに与える変形率Tなどを変形すると品質因子を改善することができる。
【0040】
圧電基板100上に備えられたIDT電極200は金属で形成され、図1に示すように、IDT電極200は入力IDT電極部210及び出力IDT電極部220に区分される。入力IDT電極部210は陽電位(positive potential)を有し、出力IDT電極部220は陰電位(negative potential)を有する。
【0041】
入力IDT電極部210は、多数の入力IDTフィンガー(214、215など)と、各入力IDTフィンガーを電気的に連結する入力バスバー212と、を含み、出力IDT電極部220は、多数の出力IDTフィンガー224、225などと、各出力IDTフィンガーを電気的に連結する出力バスバー222と、を含む。
【0042】
また、各入力IDTフィンガー214、215など及び各出力IDTフィンガー224、225などは一つずつ交互に配置され、入力IDTフィンガーと出力IDTフィンガーとの間には所定の距離を置いて間隔部234、235などが形成される。
【0043】
前記フィンガーとフィンガーとの間の間隔部は、入力間隔部234及び出力間隔部235に区分され、入力IDTフィンガー214及びこれに隣接した出力IDTフィンガー225の間に入力間隔部234が形成され、出力IDTフィンガー225及びこれに隣接した次の入力IDTフィンガー215の間に出力間隔部235が形成される。
【0044】
図2の(a)は図1に示したR部分を拡大して示すものであり、i番目の入力IDTフィンガー214、i番目の入力間隔部234、i番目の出力IDTフィンガー225、及びi+1番目の入力IDTフィンガー215の一部を拡大して示すものである。
【0045】
図2の(a)は図1のR部分をx-y平面で示すものであるが、図2の(b)は(a)に示した部分に対応するようにx-z平面上で示すものである。
【0046】
図2の(b)に示すように、i番目の入力IDTフィンガー214、i番目の出力IDTフィンガー225、及びi+1番目の入力IDTフィンガー215の厚さtは同一であると仮定し、i番目の入力IDTフィンガー214とi番目の出力IDTフィンガー225との間にはi番目の入力間隔部234が形成され、i番目の出力IDTフィンガー225とi+1番目の入力IDTフィンガー215との間にはi番目の出力間隔部235が形成される。
【0047】
ここで、図2の(b)に示すように、i番目の入力IDTフィンガー214の幅はWi(i)であり、i番目の出力IDTフィンガー225の幅はWo(i)であり、i+1番目の入力IDTフィンガー215の幅はWi(i+1)である。そして、i番目の入力IDTフィンガー214とi番目の出力IDTフィンガー225との間の入力間隔部234の幅はSi(i)であり、i番目の出力IDTフィンガー225とi+1番目の入力IDTフィンガー215との間の出力間隔部235の幅はSo(i)である。
【0048】
図2の(b)に示すように、i番目の入力IDTフィンガー214の終端からx方向にi番目の出力間隔部235とi+1番目の入力IDTフィンガー215とが交わる地点までの長さを周期λと言う。
【0049】
すなわち、IDT電極の周期λは次のように定義することができる。
【0050】
【数5】
【0051】
本発明の一実施例によるSAW共振器及びSAWフィルターの設計方法は、SAW共振器の材料を変更するか又は製造工程を変更することなしに、SAW共振器のIDT電極において入力IDTフィンガー、出力IDTフィンガー、及びフィンガーの間の間隔などの構造を最適の条件に設計してSAW共振器の品質因子を向上させることができる方法を提供するためのものであり、このような設計のためには、IDT電極の構造に係わるいくつかの媒介変数を定義する必要がある。
【0052】
本発明の一実施例によるSAW共振器及びSAWフィルターの設計方法で重要な媒介変数として、前述したIDT電極の周期λの半分である区間長(Period length:Lp)を定義して使用することができる。
【0053】
また、前述した重要な媒介変数として、入力IDTフィンガー214及び入力間隔部234を含む領域で入力IDTフィンガー214が占める比である入力フィンガーメタライゼーション(Mi)と、出力IDTフィンガー225及び出力間隔部235を含む領域で出力IDTフィンガー225が占める比である出力フィンガーメタライゼーション(Mo)とをそれぞれ定義して使用することができる。
【0054】
すなわち、入力フィンガーメタライゼーション(Mi)は入力IDT電極の全体面積のうちで入力IDTフィンガー(金属)が占める比と定義することができ、出力フィンガーメタライゼーション(Mo)は出力IDT電極の全体面積のうちで出力IDTフィンガー(金属)が占める比と定義することができる。数式で示すと、i番目の入力フィンガーメタライゼーションMi(i)及びi番目の出力フィンガーメタライゼーションMo(i)は次の数学式1と定義することができる。
【0055】
【数6】
【0056】
本発明の一実施例によるSAW共振器及びSAWフィルターの設計方法は、前述した区間長Lpと、前述した入力フィンガーメタライゼーション(Mi)及び出力フィンガーメタライゼーション(Mo)とを媒介変数と定義し、このような区間長Lp、入力フィンガーメタライゼーション(Mi)、及び出力フィンガーメタライゼーション(Mo)のそれぞれの設定値を変化させながら選択されたSAW共振器の品質因子の範囲を満たす設定値を捜すことができ、そのような媒介変数の調整によって最適の品質因子を有するSAW共振器、及びこれを用いたSAWフィルターを設計することができる。
【0057】
図3は入力フィンガーメタライゼーション(Mi)の変化によるIDT電極のキャパシタンスの変化を示すグラフである。
【0058】
図3に示すように、SAW共振器のIDT電極で入力フィンガーメタライゼーション(Mi)が変化することによってキャパシタンスが比例して変化することが分かる。
【0059】
すなわち、図3は、入力フィンガーメタライゼーション(Mi)が0.4~0.6の範囲で変化するのに伴ってIDT電極のキャパシタンスが一緒に比例して変化することを示す。
【0060】
前記と同じ条件の複数のSAW共振器を直列及び並列に連結してSAWフィルターを構成する場合、図4に示すように、入力フィンガーメタライゼーション(Mi)が変化するのに伴ってSAWフィルターの直列に連結された共振器のIDT電極の共振周波数がSrf曲線形に変化し、並列に連結された共振器のIDT電極の共振周波数がPrf曲線形に変化することが分かる。
【0061】
図4は入力フィンガーメタライゼーション(Mi)及び出力フィンガーメタライゼーション(Mo)の値を同一値にして0.4~0.6まで変化させたとき、直列に連結されたSAW共振器の共振周波数はSrf曲線形に変化し、並列に連結されたSAW共振器の共振周波数はPrf曲線形に変化する。
【0062】
図4に示すように、入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションの組合せを適切に選択すると、そのような組合せを有するSAW共振器を直列及び並列に連結して構成されたSAWフィルターで望む直列共振周波数及び並列共振周波数を有するようにすることができる。
【0063】
ここで、SAW共振器の品質因子(Q)は下の数学式7のように示すことができる。
【0064】
【数7】
【0065】
ここで、ωは角周波数を示し、τgdは群遅延(group delay)であり、
【数8】
によって計算することができる。S11は散乱パラメータから計算することができる。
【0066】
前記数学式7で示すように、品質因子Q(ω)は周波数(ω)の関数であるので、SAW共振器において入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションの組合せを適切に選択すると、所望の共振周波数の特性を有するSAWフィルターの設計が可能であり、周波数の関数である品質因子も向上させることができる。
【0067】
すなわち、SAW共振器において所望の周波数で最高の品質因子を有する入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションの組合せを捜すことができ、よって品質因子が向上したSAW共振器及びSAWフィルターの設計が可能である。
【0068】
図5は、SAW共振器においてIDT電極の同じ区間長Lpを持って入力フィンガーメタライゼーション(Mi)及び出力フィンガーメタライゼーション(Mo)の値を変化させたときの周波数範囲による品質因子(Q)の変化を示す。
【0069】
図5で、SAW共振器のIDT電極の区間長Lpが0.8μmの場合、A1曲線は入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションがそれぞれ0.525の場合の曲線であり、A2曲線は入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションがそれぞれ0.5の場合の曲線であり、A3曲線は入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションがそれぞれ0.475の場合の曲線である。
【0070】
図5に示すように、入力フィンガーメタライゼーション及び出力フィンガーメタライゼーションを変化させながらSAW共振器の品質因子を向上させることができるという事実が分かる。
【0071】
図6は複数のSAW共振器を直列及び並列に連結して構成したSAWフィルターにおいて、直列に連結されたSAW共振器S1の入力フィンガーメタライゼーション及び並列に連結されたSAW共振器P1の入力フィンガーメタライゼーションの値を変更することによる周波数と挿入損失との関係を示すグラフである。
【0072】
図6で、B1曲線は直列連結SAW共振器S1の入力フィンガーメタライゼーション値及び並列連結SAW共振器P1の入力フィンガーメタライゼーション値がそれぞれ0.5の場合のSAWフィルターの周波数に対する挿入損失のグラフを示し、B2曲線は直列連結SAW共振器S1の入力フィンガーメタライゼーション値が0.4730であり、並列連結SAW共振器P1の入力フィンガーメタライゼーション値が0.55である場合のSAWフィルターの周波数に対する挿入損失のグラフを示す。
【0073】
図6に示すように、入力フィンガーメタライゼーション値の変化によってB1曲線からB2曲線に変化することにより、通過帯域(Passband)から阻止帯域(Rejection)に至る周波数区間が、図6に示すように、aだけもっと短くなり、挿入損失もB1曲線の場合に比べてB2曲線の場合がもっと向上したことが分かる。
【0074】
本発明の一実施例によるSAWフィルターは、複数のSAW共振器が直列及び並列に連結されて構成され、直列に連結される複数のSAW共振器の入力フィンガーメタライゼーションは0.41~0.48の範囲内の値を有するようにし、出力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.59の範囲内の値を有するようにし、並列に連結される複数のSAW共振器の入力フィンガーメタライゼーションは0.52~0.55の範囲内の値を有するようにし、出力フィンガーメタライゼーションは0.48~0.55の範囲内の値を有するように構成することにより、品質因子がより向上したSAWフィルターを得ることができる。
【0075】
以上で説明したように、本発明によるSAW共振器の設計方法、及びSAWフィルター及びその設計方法は、SAW共振器の材料を変更するか又は製造工程を変更することなしに、SAW共振器のIDT電極において入力IDTフィンガー、出力IDTフィンガー、及びフィンガーの間の間隔などの構造を最適の条件に設計することにより、SAW共振器の品質因子を向上させることができ、このようなSAW共振器を用いてSAWフィルターを構成することにより、低い挿入損失及び向上した周波数特性を得ることができる特徴及び利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によるSAW共振器の設計方法、SAWフィルター及びその設計方法、並びにこれを実行できるプログラム命令を備えるコンピュータプログラムは、当該設計方法によるプロセスをアルゴリズムで具現して該当機能を実行するソフトウェア又はそのような機能を行うコンピュータやSAW共振器又はフィルターの設計や製作のための装備に適用してSAW共振器やSAWフィルターの設計のための技術分野で産業上利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】