(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-11
(54)【発明の名称】毛包細胞からなる多層組織工学皮膚、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241204BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20241204BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577401
(86)(22)【出願日】2023-07-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 CN2023109601
(87)【国際公開番号】W WO2024113917
(87)【国際公開日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】202211532816.X
(32)【優先日】2022-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523468105
【氏名又は名称】上海尚瑞生物医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI REMED BIOTECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】Room 302-22, Building 1, No.400 Fangchun Road, Shanghai Pilot Free Trade Zone, Pudong New Area, Shanghai, China
(71)【出願人】
【識別番号】523468116
【氏名又は名称】上海睿泰生物科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI RUITAI BIOTECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】Room 204, Building 3, No.2388 Chenhang Road, Minhang District, Shanghai China
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】呉 復躍
(72)【発明者】
【氏名】宇山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】陳 静
(72)【発明者】
【氏名】呉 文育
(72)【発明者】
【氏名】何 振東
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG08
4B029GB09
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB19
4B065BB32
4B065BB40
4B065BC11
4B065BC50
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、毛包細胞からなる多層組織工学皮膚、その製造方法、及び使用に関する。製造方法は、体外自家毛包の消化、毛包混合細胞の拡大培養、毛包混合細胞の成熟分化及び毛包混合細胞の成熟分化、並びに組織構造の形成を含む。従来技術と比べて、本発明による組織工学皮膚は、自家毛包細胞のみで構成され、生理学的基底層、有棘層、顆粒層のような層状構造を形成し、基底層にメラノサイトを豊富に含む。該組織工学皮膚は、細胞間の緊密な結合と良好な靭性を持ち、活発に分裂する基底層様細胞を豊富に含み、その豊富なメラノサイトにより白斑領域の皮膚の再色素沈着を促進し、組織工学皮膚の使用分野を広げる。本発明は、広範囲の供給源に由来する自家毛包を使用し、工業化コストを削減させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛包細胞からなる多層組織工学皮膚の製造方法であって、
体外自家毛包の消化のステップと、毛包混合細胞の拡大培養のステップと、毛包混合細胞の成熟分化及び毛包混合細胞の成熟分化、並びに組織構造の形成のステップと、を含み、
前記体外自家毛包の消化のステップでは、
二段階酵素消化法によって毛包組織を消化し、主に毛包幹細胞とメラニン芽細胞を含有する毛包バルジ領域、ケラチノサイトを豊富に含む外根鞘及び毛乳頭細胞を豊富に含む毛包領域を効果的に消化し、毛包混合細胞を取得し、
前記毛包混合細胞の拡大培養のステップでは、
培養液A及び培養液Bを用いて毛包混合細胞を含有する毛包単細胞懸濁液を2段階で拡大培養し、拡大培養後の毛包混合細胞を得て、
前記毛包混合細胞の成熟分化及び毛包混合細胞の成熟分化、並びに組織構造の形成のステップでは、
培養液Bを用いて拡大培養後の毛包混合細胞をコンフルエンス率が80%となるまで培養した後、培養液Cに変更して培養し、培養液Cによる培養において毎日培養液を交換し、毛包幹細胞、前メラノサイト、ケラチノサイトを豊富に含む毛包混合細胞を培養液C中で成熟表皮細胞へ誘導分化して、成熟後の細胞を層ごとに配列し、培養液Cの作用により表皮細胞同士を緊密に結合し、毛包細胞からなる多層組織工学皮膚を形成し、
前記培養液Aは、
体積を500mlとしたときに、成分として、成分が明確な市販ケラチノサイト培地500ml、インスリン様成長因子1~10ng/ml、ケラチノサイト成長因子0.5~5ng/ml、エンドセリン100~500ng/ml、メラノサイト刺激ホルモンα 20~80ng/ml、ゲンタマイシン20~100μg/mlからなり、
前記培養液Bは、
体積を500mlとしたときに、成分として、成分が明確な市販ケラチノサイト培地500ml、インスリン様成長因子1~10ng/ml、塩基性線維芽細胞成長因子1~10ng/ml、表皮細胞成長因子10~50ng/ml、副腎皮質刺激ホルモン10~50ng/ml、メラノサイト刺激ホルモンα 20~80ng/mlからなり、
前記培養液Cは、
体積を500mlとしたときに、成分として、市販DMEM培地370ml、市販F12培地125ml、非必須アミノ酸5ml、インスリン様成長因子1~10ng/ml、タウリン1~10μg/ml、5-ヒドロキシトリプタミン塩酸塩1~5μg/ml、インスリン20~80μg/ml、組換えトランスフェリン10~50μg/ml、塩基性線維芽細胞成長因子1~10ng/ml、トリヨードチロニン1~10nM、ヒドロコルチゾン0.5~5μg/ml、ケラチノサイト成長因子0.5~5ng/ml、表皮細胞成長因子10~50ng/ml、副腎皮質刺激ホルモン10~50ng/ml、アデノシン10~50μg/mlからなる、ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
二段階酵素消化法によって毛包組織を消化する方法は、
1回目の酵素消化のステップと、2回目の酵素消化のステップと、を含み、
前記1回目の酵素消化のステップでは、体外自家毛包組織を0.6~2.4U/ml中性プロテアーゼ含有培養液Aに浸漬し、インキュベートし、
前記2回目の酵素消化のステップでは、毛包組織を細断して、TrypLEを加えて10~40分間消化した後、強くピペッティングし、ピペッティング後、細胞及び組織を含む懸濁液を篩で濾過し、濾液を遠心分離した後、細胞塊にリン酸緩衝液を加えて、3~5回洗浄後、培養液Aを加え、毛包混合細胞を含有する毛包単細胞懸濁液を製造する、ことを特徴とする請求項1に記載の毛包細胞からなる多層組織工学皮膚の製造方法。
【請求項3】
培養液A及び培養液Bを用いて毛包混合細胞を含有する毛包単細胞懸濁液を2段階で拡大培養する方法では、
毛包混合細胞を10
4~10
6/ml細胞濃度で基質により被覆された培養皿に接種し、培養液Aを加え、5%CO
2、37℃の条件で拡大培養し、液体を一日おきに交換し、コンフルエンス率が80%以上となると細胞を継代し、
継代後の細胞を10
4~10
6/ml細胞濃度で基質により被覆された培養皿に接種し、培養液Bを加え、5%CO
2、37℃の条件で拡大培養し、液体を一日おきに交換し、毛包幹細胞、前メラノサイト、ケラチノサイトの同時拡大培養を完了すると、拡大培養後の毛包混合細胞を得る、ことを特徴とする請求項1に記載の毛包細胞からなる多層組織工学皮膚の製造方法。
【請求項4】
培養皿を被覆するための基質は、体積を500mlとしたときに、成分として、市販リン酸緩衝液500ml、IV型コラーゲン10~100μg/mlからなる、ことを特徴とする請求項3に記載の毛包細胞からなる多層組織工学皮膚の製造方法。
【請求項5】
毛包混合細胞の成熟分化及び毛包混合細胞の成熟分化、並びに組織構造の形成においては、拡大培養後の毛包混合細胞を10
4~10
5個/cm
2密度で基質により被覆された培養皿に接種し、培養液Bを用いて5%CO
2、37℃の条件で培養し、コンフルエンス率が80%となると、培養液Cに変更し、液体を一日おきに交換する、ことを特徴とする請求項1に記載の毛包細胞からなる多層組織工学皮膚の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される多層組織工学皮膚であって、
生理学的基底層、有棘層、顆粒層を有する層状構造組織であり、基底層にメラニン芽細胞を豊富に含む、ことを特徴とする多層組織工学皮膚。
【請求項7】
請求項6に記載の多層組織工学皮膚の使用であって、
前記多層組織工学皮膚は生物医学材料の製造に用いられる、ことを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物の技術分野に関し、特に、毛包細胞からなる多層組織工学皮膚、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は全身の表面を覆う人体最大の器官の1つで、体重の約16%を占める。皮膚には分泌、吸収、体の保護、感覚や免疫などの重要な機能がある。生理的皮膚は表皮層、真皮層、皮下組織に分けられる。外傷、火傷、炎症、潰瘍などは皮膚の全層の欠損を引き起こすことが多い。白斑などの自己免疫疾患でも、表皮層のメラノサイトが欠損し、皮膚の色が異常になることがある。
組織工学皮膚は、組織工学器官の中で最も早く開発され、しかも発展速度が最も速く、技術が最も成熟した組織工学製品である。多くの実験と臨床研究により、組織工学皮膚は代替物として、皮膚創面の修復と再建に用いることができることが証明されており、中国国内外でも、すでに成熟した組織工学皮膚製品が発売されている。白斑病を細分化する分野では、組織工学表皮製品がまだ登場しておらず、その主な原因は、外因成分のない皮膚混合細胞培養系の開発が難しいことである。また、従来の生体外培養過程において、表皮細胞が角質化特徴を失う傾向があるため、製造された組織工学表皮の皮膚片の脆性が増加し、生理的表皮に似た構造特徴を形成しにくく、しかもその機能に影響を与える。
【0003】
組織工学皮膚では、細胞の活性が特に重要である。もしその多くがすでに分化した細胞で、幹細胞が少なく修復創面が大きい場合、分化細胞は徐々に老化して脱落し、補充に十分な幹細胞や周辺に移行した細胞がなければ、移植片は生存できない。従って、十分な幹細胞は組織工学皮膚に非常に重要であり、細胞の更新と移植片の創面での長期生存を保証する肝心な点である。毛包上皮細胞は、表皮層のケラチノサイトと組織構造的に連続しており、細胞形態が似ており、一定の条件下で相互に転化することができる。毛包上皮細胞は、主に毛母細胞の外根鞘細胞からなる。異なる部分の毛包細胞のクローン形成能を分析することにより、毛包バルジ領域に高度な増殖能を有する細胞を発見し、毛包バルジ領域に幹細胞が存在することを証明した。近年、毛包バルジ領域は幹細胞の貯蔵庫と認められている。それは毛包の形成に参与し、毛髪の周期的な成長を維持するだけでなく、表皮の発育にも関係し、表皮の基底層の一時的な増幅細胞を形成し、表皮の自家更新を維持し、皮膚の損傷過程の中で表皮を修復する重要な作用を担当するかもしれない。また、毛包バルジ領域ではメラニン幹細胞も発見された。したがって、毛包はより優れた組織工学皮膚の種子細胞源である。研究によれば、毛包外根鞘細胞由来の皮膚片がより強い接着作用があり、「エッジ効果」が形成され、皮膚片細胞が大量の成長因子とサイトカインを放出して上皮細胞の遊走を刺激し、傷口の収縮、創面の縮小を促すことを発見した。このような現象は一般的な皮膚表皮の移植片と通常の単層培養のケラチノサイト移植では報告されていない。
【0004】
毛包上皮細胞を種子細胞源とし、生細胞を含む組織工学皮膚製品の既存の細胞培養系は、血清及び線維芽細胞栄養層に強く依存している。培養試薬の使用、培養条件、血清の使用、添加外因因子の種類、細胞培養密度などにより、細胞の異質性、分化能、増殖能、及び増幅培養後の細胞機能などに差が存在し、皮膚片の規範化生産と医療使用が制限されてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の従来技術に存在する欠陥を解決するために、毛包細胞からなる多層組織工学皮膚、その製造方法及び使用を提供することである。
【0006】
本発明による多層組織工学皮膚は、自家毛包細胞のみで構成され、生理的皮膚のようにメラノサイトを豊富に含む基底層、有棘層、顆粒層の層状構造を形成する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、以下の技術的解決手段によって達成され得る。
【0008】
本発明は、まず、毛包細胞からなる多層組織工学皮膚の製造方法であって、
体外自家毛包の消化のステップと、毛包混合細胞の拡大培養のステップと、毛包混合細胞の成熟分化及び毛包混合細胞の成熟分化、並びに組織構造の形成のステップと、を含み、
前記体外自家毛包の消化のステップでは、
二段階酵素消化法によって毛包組織を消化し、主に毛包幹細胞とメラニン芽細胞を含有する毛包バルジ領域、ケラチノサイトを豊富に含む外根鞘及び毛乳頭細胞を豊富に含む毛包領域を効果的に消化し、毛包混合細胞を取得し、
前記毛包混合細胞の拡大培養のステップでは、
培養液A及び培養液Bを用いて毛包混合細胞を含有する毛包単細胞懸濁液を2段階で拡大培養し、拡大培養後の毛包混合細胞を得て、
前記毛包混合細胞の成熟分化及び毛包混合細胞の成熟分化、並びに組織構造の形成のステップでは、
培養液Bを用いて拡大培養後の毛包混合細胞をコンフルエンス率が80%となるまで培養した後、培養液Cに変更して培養し、培養液Cによる培養において毎日培養液を交換し、毛包幹細胞、前メラノサイト、ケラチノサイトを豊富に含む毛包混合細胞を培養液C中で成熟表皮細胞へ誘導分化して、成熟後の細胞を層ごとに配列し、培養液Cの作用により表皮細胞同士を緊密に結合し、毛包細胞からなる多層組織工学皮膚を形成し、
前記培養液Aは、
体積を500mlとしたときに、成分として、成分が明確な市販ケラチノサイト培地500ml、インスリン様成長因子1~10ng/ml、ケラチノサイト成長因子0.5~5ng/ml、エンドセリン100~500ng/ml、メラノサイト刺激ホルモンα 20~80ng/ml、ゲンタマイシン20~100 μg/mlからなり、
前記培養液Bは、
体積を500mlとしたときに、成分として、成分が明確な市販ケラチノサイト培地500ml、インスリン様成長因子1~10ng/ml、塩基性線維芽細胞成長因子1~10ng/ml、表皮細胞成長因子10~50ng/ml、副腎皮質刺激ホルモン10~50ng/ml、メラノサイト刺激ホルモンα 20~80ng/mlからなり、
前記培養液Cは、
体積を500mlとしたときに、成分として、市販DMEM培地370ml、市販F12培地125ml、非必須アミノ酸5ml、インスリン様成長因子1~10ng/ml、タウリン1~10μg/ml、5-ヒドロキシトリプタミン塩酸塩1~5μg/ml、インスリン20~80μg/ml、組換えトランスフェリン10~50μg/ml、塩基性線維芽細胞成長因子1~10ng/ml、トリヨードチロニン1~10nM、ヒドロコルチゾン0.5~5μg/ml、ケラチノサイト成長因子0.5~5ng/ml、表皮細胞成長因子10~50ng/ml、副腎皮質刺激ホルモン10~50ng/ml、アデノシン10~50μg/mlからなる、製造方法を提供する。
【0009】
本発明の一実施形態では、体外自家毛包とは、人体から分離した毛包のことでる。すなわち、本願による方法は、体外組織に基づいて行われる。
【0010】
本発明の一実施形態では、体外自家毛包を取得する方法として、毛包リムーバにより毛包を吸い出すなど、通常の技術方法が使用されてもよい。具体的な取得方法は植毛操作におけるFUE(follicle unit extraction)毛包抽出方法を用いることができ、具体的にはFollicular Unit Extraction: Minimally invasive surgery for hair transplantation. Dermatol Surg. 2002; 28: 720-7を参照することコができる。電動プレス下で毛包採取装置の先端を頭皮の皮膚に突き刺し、毛包を吸い出し、毛包を無菌エルボピンセットで軽く抽出し、この過程全体にあわたって毛包の構造が完全に保持される。
【0011】
本発明の一実施形態では、二段階酵素消化法によって毛包組織を消化する方法は、1回目の酵素消化と、2回目の酵素消化と、を含み、
前記1回目の酵素消化では、体外自家毛包組織を0.6~2.4U/ml中性プロテアーゼ含有培養液Aに浸漬し、37℃で一晩インキュベートし、
前記2回目の酵素消化では、翌日、毛包組織を細断して、TrypLEを加えて37℃で10~40分間消化した後、強くピペッティングし、ピペッティング後、細胞及び組織を含む懸濁液を100μm篩でろ過し、濾液を遠心分離した後、細胞塊にリン酸緩衝液を加えて、3~5回洗浄後、培養液Aを加え、毛包混合細胞を含有する毛包単細胞懸濁液を製造する。
【0012】
本発明の一実施形態では、培養液A及び培養液Bを用いて毛包混合細胞を含有する毛包単細胞懸濁液を2段階で拡大培養する方法では、
毛包混合細胞を104~106/ml細胞濃度で基質により4時間被覆された培養皿に接種し、培養液Aを加え、5%CO2、37℃の条件で拡大培養し、液体を一日おきに交換し、コンフルエンス率が80%以上となると細胞を継代し、
継代後の細胞を104~106/ml細胞濃度で基質により4時間被覆された培養皿に接種し、培養液Bを加え、5%CO2、37℃の条件で拡大培養し、液体を一日おきに交換し、毛包幹細胞、前メラノサイト、ケラチノサイトの同時拡大培養を完了すると、拡大培養後の毛包混合細胞を得る。
【0013】
本発明の一実施形態では、培養皿を被覆するための基質は、体積を500mlとしたときに、成分として、市販リン酸緩衝液500ml、IV型コラーゲン10~100μg/mlからなる。
【0014】
本発明の一実施形態では、毛包混合細胞の成熟分化及び毛包混合細胞の成熟分化、並びに組織構造の形成において、拡大培養後の毛包混合細胞を104~105個/cm2密度で基質により被覆された培養皿に接種し、培養液Bを用いて5%CO2、37℃の条件で培養し、コンフルエンス率が80%となると、培養液Cに変更し、液体を一日おきに交換する。
【0015】
本発明はさらに、上記の製造方法によって製造される多層組織工学皮膚を提供する。
【0016】
本発明の一実施形態では、前記多層組織工学皮膚は、生理学的状態に似たメラニン芽細胞と幹性を有するケラチノサイトを含む。
【0017】
本発明の一実施形態では、前記多層組織工学皮膚は、生理学的基底層、有棘層、顆粒層を有するような層状構造組織であり、基底層にメラニン芽細胞を豊富に含む。該組織工学皮膚は、細胞間の緊密な結合と良好な靭性を持ち、活発に分裂する基底層様細胞を豊富に含む。
【0018】
本発明はさらに、上記の製造方法によって製造される多層組織工学皮膚の使用であって、前記多層組織工学皮膚は生物医学材料の製造に用いられる使用を提供する。色素欠損や表皮欠損疾患の治療に有用である。
【0019】
本発明の一実施形態では、製造された多層組織工学皮膚は、安定期の白斑治療のために使用された場合、白斑の再色素沈着を促進することができ、また、自家由来から免疫拒絶反応がなく、白斑の治癒を達成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明による毛包細胞からなる多層組織工学皮膚の製造方法は、体外自家毛包の消化、毛包混合細胞の拡大培養、毛包混合細胞の成熟分化及び毛包混合細胞の成熟分化、並びに組織構造の形成を含む。本発明による製造方法では、培養系中にいかなる外因性成分も存在せず、製造された組織工学表皮は自家細胞のみで構成され、同種異種栄養層細胞が存在しないという特性により、製造された製品は臨床使用上より安全である。細胞組成は混合細胞で構成され、主にメラノサイトとケラチノサイトである。ケラチノサイトは多層構造を形成し、生理的表皮に似た基底層の上に、大量のメラノサイトが配置されており、この細胞の特性により、この組織工学表皮は適応症を拡大し、安定期の白斑の外科移植治療に有用となり、白斑の再色素沈着を促進することができる。
【0021】
本発明は、自家毛包を組織工学皮膚の種子細胞源として採用することで、材料由来の制限や提供者の苦痛を極めて低減することができ、自家細胞は移植後の免疫拒絶作用を回避することができ、組織工学皮膚と研削創面との組み込みに有利で、より良い治療効果を達成することができる。使用される毛包は豊富な幹細胞を含み、細胞代謝が活発で、増殖能が高く、継代回数が多いため、種子細胞の大規模な増幅に有利で、材料採取量を減らすと同時に、産業化コストを削減させることができる。
【0022】
本発明は、自家毛包を採取し、酵素消化法により毛包上皮ケラチノサイト、前メラノサイト及び毛包幹細胞を分離し、インビトロで効率的に増幅培養した後、成熟表皮細胞へ誘導分化し、培養後、自家毛包細胞のみで構成され、生理的基底層、有棘層、顆粒層に似た層状構造を形成し、基底層にメラノサイトを豊富に含む、生理的状態に似した多層組織構造表皮皮膚を得る。該組織工学皮膚は、細胞間の緊密な結合と良好な靭性を持ち、活発に分裂する基底層様細胞を豊富に含み、移植の成功率を高め、その豊富なメラノサイトにより白斑領域の皮膚の再色素沈着を促進し、組織工学皮膚の使用分野を広げる。自家毛包を採取するため、入手しやすく、採取には苦痛がなく、また、産業化コストを削減させる。
【0023】
本発明の研究により、成分が明確で、血清や栄養層のない毛包由来混合細胞の培養系を構築することがバイオテクノロジー的に実現可能であり、毛包由来混合細胞を組織工学表皮の種子細胞として白斑の治療に用いることが可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1における毛包混合細胞の培養液A中での細胞形態(10倍対物レンズ)である。
【
図2】実施例1における毛包混合細胞の培養液B中での細胞形態(10倍対物レンズ)である。
【
図3】実施例1における毛包混合細胞の培養液C中での細胞形態(10倍対物レンズ)である。
【
図4】実施例1における毛包混合細胞中のメラノサイトの形態構造(10倍対物レンズ)である。
【
図5】実施例1における毛包細胞からなる多層組織工学皮膚(面積:21cm
2)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面及び特定の実施例を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0026】
以下の実施例では、具体的な条件が明記されていない実験方法は、通常、通常の条件に従うか、製造業者が提案する条件に従う。
【0027】
(実施例1)
ステップ1:培養液の用意
被覆基質の調製:体積を500mlとしたときに、成分として、市販リン酸緩衝液500ml、IV型コラーゲン30μg/ml
培養液Aの調製:体積を500mlとしたときに、成分として、成分が明確な市販ケラチノサイト培地500ml、インスリン様成長因子10ng/ml、ケラチノサイト成長因子3ng/ml、エンドセリン200ng/ml、メラノサイト刺激ホルモンα 50ng/ml、ゲンタマイシン50 μg/ml
培養液Bの調製:体積を500mlとしたときに、成分として、成分が明確な市販ケラチノサイト培地500ml、インスリン様成長因子10ng/ml、塩基性線維芽細胞成長因子4ng/ml、表皮細胞成長因子20ng/ml、副腎皮質刺激ホルモン50ng/ml、メラノサイト刺激ホルモンα 50ng/ml
培養液Cの調製:体積を500mlとしたときに、成分として、市販DMEM培地370ml、市販F12培地125ml、非必須アミノ酸5ml、インスリン様成長因子10ng/ml、タウリン5μg/ml、5-ヒドロキシトリプタミン塩酸塩1μg/ml、インスリン20μg/ml、組換えトランスフェリン20μg/ml、塩基性線維芽細胞成長因子4ng/ml、トリヨードチロニン5nM、ヒドロコルチゾン1.5μg/ml、ケラチノサイト成長因子3ng/ml、表皮細胞成長因子20ng/ml、副腎皮質刺激ホルモン50ng/ml、アデノシン40μg/ml
ステップ2:体外自家毛包組織
体外自家毛包組織を2U/ml中性プロテアーゼ含有培養液Aに浸漬して、一晩インキュベートし、翌日、毛包組織を細断して、TrypLEを加えて37℃で30分間消化した後、強くピペッティングし、ピペッティング後、懸濁液を100μm篩で濾過し、濾液を遠心分離した後、リン酸緩衝液を加えて、3回洗浄後、培養液Aを加え、毛包単細胞懸濁液を製造した。ここで、毛包混合細胞の培養液A中での細胞形態を
図1に示す。
ステップ3:毛包混合細胞の拡大培養
培養液A及び培養液Bを用いて、取得した毛包単細胞懸濁液を2段階で拡大培養した。毛包混合細胞を5×10
4/ml細胞濃度で基質により4時間被覆された培養皿に接種し、培養液Aを加え、5%CO
2、37℃の条件で拡大培養し、液体を一日おきに交換し、コンフルエンス率が80%以上となると細胞を継代した。継代後の細胞を5×10
4/ml細胞濃度で基質により4時間被覆された培養皿に接種し、培養液Bを加え、5%CO
2、37℃の条件で拡大培養し、液体を一日おきに交換し、細胞コンフルエンス率が80%となると、毛包幹細胞、前メラノサイト、ケラチノサイトの同時拡大培養を完了した。ここで、毛包混合細胞の培養液B中での細胞形態を
図2に示す。
ステップ4:毛包混合細胞分化及び組織形成
拡大培養後の毛包混合細胞を1×10
4個/cm
2密度で基質により被覆された培養皿に接種し、培養液Bを用いて5%CO
2、37℃の条件で培養し、コンフルエンス率が80%となると、培養液Cに変更し、液体を一日おきに交換した。毛包幹細胞、前メラノサイト、ケラチノサイトを豊富に含む毛包混合細胞を培養液C中で成熟表皮細胞へ誘導分化して、成熟後の細胞を層ごとに配列し、培養液Cの作用により表皮細胞同士を緊密に結合し、生理的表皮に似た組織構造を得て、製造を完了した。ここで、毛包混合細胞の培養液C中での細胞形態を
図3に示す。
実施例1の製造方法によれば、経済的な毛包細胞からなる多層組織工学皮膚を製造することができ、このような製造条件では、毛包由来組織工学表皮が最も多く得られた。毛包混合細胞中のメラノサイトの形態構造を
図4に示す。実施例1では、毛包細胞からなる多層組織工学皮膚を
図5に示す。
【0028】
(実施例2)
ステップ1:培養液の用意
被覆基質の調製:体積を500mlとしたときに、成分として、市販リン酸緩衝液500ml、IV型コラーゲン50μg/ml
培養液Aの調製:体積を500mlとしたときに、成分として、成分が明確な市販ケラチノサイト培地500ml、インスリン様成長因子10ng/ml、ケラチノサイト成長因子3ng/ml、エンドセリン200ng/ml、メラノサイト刺激ホルモンα50ng/ml、ゲンタマイシン50 μg/ml
培養液Bの調製:体積を500mlとしたときに、成分として、成分が明確な市販ケラチノサイト培地500ml、インスリン様成長因子10ng/ml、塩基性線維芽細胞成長因子4ng/ml、表皮細胞成長因子20ng/ml、副腎皮質刺激ホルモン50ng/ml、メラノサイト刺激ホルモンα50ng/ml
培養液Cの調製:体積を500mlとしたときに、成分として、市販DMEM培地370ml、市販F12培地125ml、非必須アミノ酸5ml、インスリン様成長因子10ng/ml、タウリン5μg/ml、5-ヒドロキシトリプタミン塩酸塩1μg/ml、インスリン20μg/ml、組換えトランスフェリン20μg/ml、塩基性線維芽細胞成長因子4ng/ml、トリヨードチロニン5nM、ヒドロコルチゾン1.5μg/ml、ケラチノサイト成長因子3ng/ml、表皮細胞成長因子20ng/ml、副腎皮質刺激ホルモン50ng/ml、アデノシン40μg/ml
ステップ2:体外自家毛包組織
体外自家毛包組織を2U/ml中性プロテアーゼ含有培養液Aに浸漬して、一晩インキュベートし、翌日、毛包組織を細断して、TrypLEを加えて37℃で50分間(2回に分けて)消化した後、強くピペッティングし、ピペッティング後、懸濁液を100μm篩で濾過し、濾液を遠心分離した後、リン酸緩衝液を加えて、3回洗浄後、培養液Aを加え、毛包単細胞懸濁液を製造した。
ステップ3:毛包混合細胞の拡大培養
培養液A及び培養液Bを用いて、取得した毛包単細胞懸濁液を2段階で拡大培養した。毛包混合細胞を5×105/ml細胞濃度で基質により4時間被覆された培養皿に接種し、培養液Aを加え、5%CO2、37℃の条件で拡大培養し、液体を一日おきに交換し、コンフルエンス率が80%以上となると細胞を継代した。継代後の細胞を5×105/ml細胞濃度で基質により4時間被覆された培養皿に接種し、培養液Bを加え、5%CO2、37℃の条件で拡大培養し、液体を一日おきに交換し、細胞コンフルエンス率が80%となると、毛包幹細胞、前メラノサイト、ケラチノサイトの同時拡大培養を完了した。
ステップ4:毛包混合細胞分化及び組織形成
拡大培養後の毛包混合細胞を8×104個/cm2密度で基質により被覆された培養皿に接種し、培養液Bを用いて5%CO2、37℃の条件で培養し、コンフルエンス率が80%となると、培養液Cに変更し、液体を一日おきに交換した。毛包幹細胞、前メラノサイト、ケラチノサイトを豊富に含む毛包混合細胞を培養液C中で成熟表皮細胞へ誘導分化して、成熟後の細胞を層ごとに配列し、培養液Cの作用により表皮細胞同士を緊密に結合し、生理的表皮に似た組織構造を得て、製造を完了した。
実施例2の製造方法によれば、毛包細胞からなる多層組織工学皮膚を効率的に製造することができ、このような製造条件では、28日だけで毛包由来組織工学表皮が得られるが、実施例1の数よりも少ない。2つの実施例では、毛包由来組織工学表皮の品質が同じである。
【0029】
以上の2つの実施例では、体外自家毛包とは、人体から分離した毛包のことでる。
【0030】
体外自家毛包を取得する方法として、毛包リムーバにより毛包を吸い出すなど、通常の技術方法が使用されてもよい。具体的な取得方法は植毛操作におけるFUE(follicle unit extraction)毛包抽出方法を用いることができ、具体的にはFollicular Unit Extraction: Minimally invasive surgery for hair transplantation. Dermatol Surg. 2002; 28: 720-7を参照することコができる。電動プレス下で毛包採取装置の先端を頭皮の皮膚に突き刺し、毛包を吸い出し、毛包を無菌エルボピンセットで軽く抽出し、この過程全体にあわたって毛包の構造が完全に保持される。
【0031】
上記の2つの実施例では、製造された多層組織工学皮膚は、生理学的状態に似たメラニン芽細胞と幹性を有するケラチノサイトを含む。前記多層組織工学皮膚は、生理学的基底層、有棘層、顆粒層を有するような層状構造組織であり、基底層にメラニン芽細胞を豊富に含む。該組織工学皮膚は、細胞間の緊密な結合と良好な靭性を持ち、活発に分裂する基底層様細胞を豊富に含む。製造される多層組織工学皮膚の使用では、前記多層組織工学皮膚は生物医学材料の製造に用いられる。色素欠損や表皮欠損疾患の治療に有用である。例えば、製造された多層組織工学皮膚は、安定期の白斑治療のために使用された場合、白斑の再色素沈着を促進することができ、また、自家由来から免疫拒絶反応がなく、白斑の治癒を達成することができる。
【0032】
上記の実施例の説明は、当業者が発明を理解し、使用することを容易にするためになされたものである。当業者であれば、これらの実施例に様々な修正を加えたり、本明細書に記載された一般原理を、創造的な労力を要することなく他の実施例に適用したりすることが容易であることは明らかである。したがって、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の開示に基づいて、本発明の範疇から逸脱しない当業者による改良及び修正は、すべて本発明の特許範囲に含まれるべきである。
【国際調査報告】