(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-11
(54)【発明の名称】負荷開放エラーを識別する方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241204BHJP
G01M 15/04 20060101ALI20241204BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F02D45/00 368F
F02D45/00 345
F02D45/00 360A
F02D45/00 376
G01M15/04
G01N27/26 391A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531195
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-06-27
(86)【国際出願番号】 EP2022082899
(87)【国際公開番号】W WO2023094414
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】102021213204.9
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン デンカー
(72)【発明者】
【氏名】シユン チュウ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフラム シュライバー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス シュヴェアツレ
【テーマコード(参考)】
2G087
3G384
【Fターム(参考)】
2G087AA15
2G087BB28
2G087BB40
2G087CC21
2G087EE17
2G087FF23
2G087FF28
3G384BA09
3G384DA46
3G384DA61
3G384DA62
3G384EC08
3G384EE35
3G384FA37B
(57)【要約】
自動車の排気ガス室内の排気ガスの少なくとも1つの特性を検出するように構成された広帯域ラムダセンサ(112)の負荷開放エラーを識別する方法であって、広帯域ラムダセンサ(112)は、さらに少なくとも1つのヒータを含む、方法を提案する。当該方法は、次のステップ、すなわち、a)エラー検査を実行可能化するステップであって、温度モデルを用いて広帯域ラムダセンサ(112)が十分に加熱されているかどうかを検査する、ステップと、b)エラー検査を実行するステップと、を含み、エラー検査後にエラーが識別されなかった場合には、次のステップ、すなわち、b1)i.О.結果を用いて方法を終了するステップが実行され、エラー検査後にエラーが識別された場合には、次のステップ、すなわち、b2)n.i.О.結果を用いて方法を終了するステップが実行され、ステップb)の実行前に過熱防止の必要性の検査が行われ、過熱防止の必要性が存在する場合には、ヒータのヒータ電圧が、ステップa)と同時に、又は、ステップa)の実行前に低減される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の排気ガス室内の排気ガスの少なくとも1つの特性を検出するように構成された広帯域ラムダセンサ(112)の負荷開放エラーを識別する方法であって、前記広帯域ラムダセンサ(112)は、さらに少なくとも1つのヒータを含む、方法において、
前記方法は、次のステップ、すなわち、
a)エラー検査を実行可能化するステップであって、温度モデルを用いて前記広帯域ラムダセンサ(112)が十分に加熱されているかどうかを検査する、ステップと、
b)エラー検査を実行するステップと、
を含み、
エラー検査後にエラーが識別されなかった場合には、次のステップ、すなわち、
b1)i.О.結果を用いて前記方法を終了するステップ
が実行され、
エラー検査後にエラーが識別された場合には、次のステップ、すなわち、
b2)n.i.О.結果を用いて前記方法を終了するステップ
が実行され、
前記ステップb)の実行前に過熱防止の必要性の検査が行われ、過熱防止の必要性が存在する場合には、前記ヒータのヒータ電圧が、ステップa)と同時に、又は、前記ステップa)の実行前に低減される、方法。
【請求項2】
前記温度モデルは、WPAモデル、BPモデル、WPA/BPモデルから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度モデルは、WPA/BPモデルであり、前記WPA/BPモデルを用いて前記過熱防止の必要性の検査を行う、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)において、前記温度モデルによって算定された前記広帯域ラムダセンサ(112)の動作温度が所定の限界値を上回ったことが検査される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記温度モデルは、WPAモデルであり、前記過熱防止の必要性の検査は、別の温度モデルによって行われる、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記別の温度モデルは、BPモデルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)における前記エラー検査において、測定された内部抵抗と診断閾値との比較が行われる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの広帯域ラムダセンサ(112)と、
少なくとも1つの制御部と、
を含むシステムであって、
前記制御部は、少なくとも1つのプロセッサを含み、
前記制御部は、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法に従って方法ステップを実行するように構成されている、システム。
【請求項9】
コンピュータ上又はコンピュータネットワーク上で実行されるときに、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法を実施するために構成されているコンピュータプログラム。
【請求項10】
データ構造を記憶したデータ担体であって、
前記データ構造は、コンピュータ又はコンピュータネットワークの作業メモリ及び/又はメインメモリにローディングされた後、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法を実施するために構成されている、データ担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来技術
遵守すべき排気ガス規制のために、内燃機関においては、ラムダセンサが使用されている。ラムダセンサは、基本的には、例えば、「Konrad Reif著(Hrsg.):“Sensoren im Kraftfahrzeug”、第1版(1.Aufl.)、2010年、第160頁-第165頁」から公知である。オットーシステムにおいてもディーゼルシステムにおいても、特に広帯域ラムダセンサが使用される。測定されたラムダ信号は、制御装置の多くの機能のために使用可能であり、例えば、排気ガス後処理の改善のために、及び、三元触媒の効率の監視のために利用することができる。
【背景技術】
【0002】
広帯域ラムダセンサにより、排気ガス中の酸素濃度を広い範囲において特定することができる。測定されたラムダ値は、化学量論的な空燃比に対する実際の空燃比を定義するものであり得る。広帯域ラムダセンサは、典型的には、0.7から空気までの範囲において一義的に連続的なラムダ信号を送出する。広帯域ラムダセンサは、通常、上下方向に積層された個々のセラミックフィルムを有する。広帯域ラムダセンサは、基本的にはセンサセラミックの十分に高い作業温度でしか機能しないので、電気式で加熱される。必要なセラミック温度を可能な限り迅速に達成することができるようにするために、通常、ヒータエレメントがセラミック層間に組み込まれている。広帯域ラムダセンサは、基本的には、所定のセラミック温度以上ではじめて動作可能となり、顧客の技術文書に示されている広帯域ラムダセンサの許容誤差範囲内に該当する。広帯域ラムダセンサから供給される信号の評価は、基本的には、制御装置に組み込まれた特別な評価モジュール(ASIC)を介して行われる。ここでは、典型的に、デジタルモジュール又はデジタル/アナログモジュールが使用される。広帯域ラムダセンサの外側ポンピング電極と評価モジュールとの間には、排気ガス中の酸素濃度に比例するポンピング電流が流れ得る。排気ガス混合物がリーンである場合、ポンピング電流は基本的に正となり、又は、混合物がリッチである場合、ポンピング電流は負となる。理想状態において、すなわち、ラムダ比=1である場合には、ポンピング電流は基本的に0である。評価モジュールは、通常、測定された電流を評価し、制御装置でのさらなる処理のための出力電圧を送出する。
【0003】
広帯域ラムダセンサは、特に、ケーブルハーネス、コネクタを、センサ加熱用の別個の出力段と広帯域ラムダセンサを動作させるための、及び、制御装置のラムダベースの機能のための物理的なラムダ信号を提供するためのソフトウェアコンポーネントドライバとを含む評価モジュールに接続した状態で含み得る。最適な利用を達成するために、制御装置のラムダベースの機能は、基本的に、耐用期間の全体にわたって品質の点できわめて高価値のラムダ信号を必要とする。広帯域ラムダセンサは、基本的に、排気ガス排出量に対して決定的な影響を有するので、基本的には特にケーブル接続の診断、出力段の診断、センサ加熱部の加熱出力の診断、信号利用可能性の診断及びループ閉成時点の診断、及び/又は、対称ダイナミクス及び非対称ダイナミクスのエラー(フィルタ及び遅延)の診断を含み得る種々の診断機能が必要である。
【0004】
一部においては、ケーブル接続の診断は広帯域ラムダセンサの内部の抵抗比の評価によってしか表すことができないので、負荷開放診断(ケーブル破断の識別)のために、センサセラミックは、所定の動作温度を上回っていなければならない。
【0005】
加熱出力診断も同様に、センサセラミックの抵抗から導出される温度に基づくものであり得る。したがって、基本的に、センサセラミックの抵抗が測定可能な領域(生じ得るヒータエラー)を外れているかどうか、又は、開放された線路が存在するかどうかを一義的に区別することはできない。現在、負荷開放診断は、センサ温度モデルによって実行可能化されている。当該モデルにより、基本的に、一方では、より弱いヒータ又はWPAヒータ(Worst Performance Acceptable(許容可能な最低性能)ヒータ)が現場でのロバストな診断を行うための十分な温度まで既に加熱されていなければならず、他方では、部品保護の理由からより強力なヒータ(BPヒータ又はBest Performing(最高性能)ヒータ)の過熱が基本的に排除されていなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Konrad Reif著(Hrsg.):“Sensoren im Kraftfahrzeug”、第1版(1.Aufl.)、2010年、第160頁-第165頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の開示
したがって、公知の装置及び公知の方法の上述した欠点を少なくとも大幅に回避する、広帯域ラムダセンサの負荷開放エラーを識別する方法、少なくとも1つの広帯域ラムダセンサと少なくとも1つの制御部とを含むシステム、コンピュータプログラム、及び、データ担体が提案される。特に、信号線路のケーブル破断の識別と加熱出力エラーとの間の目的の対立が解決可能となる。さらに、高い製造許容誤差範囲を考慮した過熱防止の同時の保証が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様においては、自動車の排気ガス室内の排気ガスの少なくとも1つの特性を検出するように構成された広帯域ラムダセンサの負荷開放エラーを識別する方法が提案される。広帯域ラムダセンサは、少なくとも1つのヒータを有する。「広帯域ラムダセンサ」なる概念は、基本的に、ガソリン機関又はディーゼル機関につき、排気ガス室内で、特に排気ガス中の有害物質含有量を低減するために、実際の測定データを機関制御装置に供給するように構成された任意の装置をいう。特に、広帯域ラムダセンサは、排気ガス中の残留酸素含有量を特定するように構成可能である。このようにして、機関制御装置により、燃料混合物を相応に最適化することができる。基本的に、負荷開放エラーを識別する方法は、ジャンプセンサ及びNOxセンサにも適しており、この場合、温度信号は、セラミック抵抗の評価を介して算定することができる。
【0009】
「ヒータ」なる概念は、基本的には、広帯域ラムダセンサをコールドスタート直後に既に必要な作業温度へ移行させるように構成された任意のエレメントを表す。これにより、基本的には、既に機関のウォームアップフェーズにおいてエミッションの点で最適化された動作を保証することができる。「コールドスタート」とは、基本的に、予熱されていない自動車の始動をいう。特に、始動時には、自動車のコンポーネント全体、特に全てのコンポーネントが同一の温度レベルを有し得る。特に、自動車の温度センサ全体、特に全ての温度センサは、同一の温度レベルを有し得る。特に、広帯域ラムダセンサは、コールドスタート時に50℃未満の温度を有し得る。
【0010】
本発明に係る方法は、エミッション限界値、特に法的に定められたエミッション限界値の遵守を監視するためのオンボード診断(OBD)である。システム内のエラーによって排気ガス限界値が遵守されなくなる可能性がある場合、エラーを識別して制御装置のエラーメモリに入力することができる。上述したように、本発明に係る方法は、負荷開放エラーを識別する方法である。したがって、本方法は、負荷開放診断とも称することができる。負荷開放診断は、ケーブル破損の識別に相当し得る。
【0011】
本方法は、以下に挙げるステップを含む。本方法は、ここに挙げていない別のステップを含むことも可能である。これらのステップは、特に相前後して、少なくとも部分的に繰り返して実行することができる。
【0012】
本方法は、次のステップ、すなわち、
a)エラー検査を実行可能化するステップであって、温度モデルを用いて広帯域ラムダセンサ(112)が十分に加熱されているかどうかを検査する、ステップと、
b)エラー検査を実行するステップと、
を含み、
エラー検査後にエラーが識別されなかった場合には、次のステップ、すなわち、
b1)i.О.結果を用いて方法を終了するステップ
が実行され、
エラー検査後にエラーが識別された場合には、次のステップ、すなわち、
b2)n.i.О.結果を用いて方法を終了するステップ
が実行され、
ステップb)の実行前に過熱防止の必要性の検査が行われ、過熱防止の必要性が存在する場合には、ヒータのヒータ電圧が、ステップa)と同時に、又は、ステップa)の実行前に低減される。
【0013】
本方法は、特にコンピュータ実装方法であるものとしてよい。「コンピュータ実装」なる用語は、特に、データ処理手段を使用して、特に少なくとも1つのプロセッサを使用して、完全に又は部分的に実装されたプロセスを指し得る。
【0014】
「実行可能化(Freigabe)」なる概念は、基本的に、特定の条件が存在する場合に方法ステップの実行を承認する過程をいう。実行可能化が行われた後、上記の方法ステップを実行することができる。実行可能化が行われない場合、上記の方法ステップは実行されない。ステップa)におけるエラー検査の実行可能化の際に、特に、温度モデルによって算定された広帯域ラムダセンサの動作温度が所定の限界値を上回ったことを検査することができる。
【0015】
「過熱防止」なる概念は、基本的に、広帯域ラムダセンサの安全機能をいう。ヒータのヒータ電圧が高くなるにつれて、ヒータコイルの熱発生、ひいては広帯域ラムダセンサの熱発生も大きくなり得る。ヒータ又は広帯域ラムダセンサの温度が所定の限界値を上回ると、過熱防止の必要性が生じ得る。
【0016】
ステップb)におけるエラー検査では、測定された内部抵抗と診断閾値との比較を行うことができる。ダブルセルセンサ、特に広帯域ダブルセルセンサの場合、次の信号線路間の内部抵抗、すなわち、APE(外部ポンピング電極)とIPN(内部ポンピング電極及びネルンスト電極)との間の内部抵抗、並びに、RE(基準電極)とIPNとの間の内部抵抗を考慮することができる。シングルセルセンサ、特に広帯域シングルセルセンサの場合には、次の信号線路間の内部抵抗、すなわち、APEとIPNとの間の内部抵抗を考慮することができる。この点に関して、ロバストなエラー識別のために連続した複数の個別測定が実行される場合、信号の時間特性を考慮することができる。
【0017】
上述したように、エラー検査後にエラーが識別されなかった場合、本方法は「i.О.結果」で終了する。i.О.結果なる概念は、特にi.О.システム(「正常な」システム)であることを表し得る。i.O.システムは、特に、エラーのないシステムであるものとしてよく、この場合には特に、新規である、馴らし運転中である、経時劣化している、というような状態に関する定義が存在しない。
【0018】
上述したように、エラー検査後にエラーが識別された場合には、本方法は「n.i.О.結果」に基づいて終了する。n.i.О.結果なる概念は、特に、n.i.О.システム(「正常でない」システム)であることを表し得る。n.i.О.システムは、特に、エラーを有するシステムであるものとしてよく、この場合には特に、新規である、馴らし運転中である、経時劣化している、のような状態に関する定義が存在する。
【0019】
上述したように、ステップa)においては、温度モデルを用いて、広帯域ラムダセンサが十分に加熱されているかどうかが検査される。
【0020】
広帯域ラムダセンサの温度は、基本的には、広帯域ラムダセンサがヒータ、特にセンサヒータによって必要な温度動作ウィンドウへ、すなわち、広帯域ラムダセンサのセンサセラミックでは約550℃からのウィンドウへ移行される場合にのみ算定することができる。約550℃の温度動作ウィンドウは基本的に現在の従来技術に対応するが、場合によっては、より低くてもよい。広帯域ラムダセンサの加熱過程においては、広帯域ラムダセンサの温度を算定し得る手段が基本的に存在しないので、ヒータによって広帯域ラムダセンサへ導入されるエネルギ及び/又は熱量が算定されるように温度モデルを構成することができる。温度モデルは、自動車の実際のバッテリ電圧及び/又はヒータ出力段のデューティ比を考察することができる。これらの量に基づいて、広帯域ラムダセンサに対して、どの程度の温度に達するかを算定することができる。
【0021】
温度モデルは、種々の状態量に基づくことができる。状態量とは、特に、温度及び/又はエネルギであるものとしてよい。特にエネルギ又は温度の形態でのエネルギバランスに対して、ヒータの電気エネルギ及び/又は少なくとも1つの別のエネルギの伝達形態を、場合により一般化された状態で、全ての伝達形態に対して考慮することができる。可能な伝達形態は、基本的には、熱放射、対流及び/又は伝導である。モデル形成に応じて、こうした伝達形態から、広帯域ラムダセンサの冷却(周囲が低温である場合)又は加熱(周囲が高温である場合)も生じ得る。さらに、制御装置の始動後の初期化のための冷却モデルが設けられることもある。
【0022】
温度モデルは、WPAモデル、BPモデル、WPA/BPモデルから成る群から選択可能である。
【0023】
BPモデル(Best Performance(最高性能)モデル)は、基本的に、エラーのないシステムである。エラーのないシステムは、特に製造許容誤差範囲に対応して、ヒータの最も低い比抵抗を有し得る。
【0024】
WPAモデル(Worst Performance Acceptable(許容可能な最低性能)モデル)は、特に、経時劣化してはいるがエラーのないシステム、すなわち、いまだ正確に排気ガス限界値を遵守することができる状態にあるシステムであり得る。これは、特には、その耐用期間の終わりにさしかかっている自動車であり得る。経時劣化したシステムに基づいて、基本的には、エラーを有するシステムにおいて当局での権限確認に必要な全ての検証測定も行われる。
【0025】
BPモデルとWPAモデルとの相違点は、1つには、再始動後の初期化にあり得る。WPAモデルにおいては、存在するロバスト性に基づいて、より迅速な冷却を行うことができる。BPモデルにおいては、安全性に基づいて、過熱時にはより緩慢な冷却を行うことができる。また、ヒータ抵抗の場合、冷間状態と熱間状態とで50%超の差が通常であり得る。
【0026】
WPA/BPモデルとは、特に、BPモデルとWPAモデルとの組合せであるものとしてよい。
【0027】
第1の変形形態において、温度モデルは特に2つの機能を有するものとしてよい。一方では、温度モデルは、本発明に係る方法の実行可能化のために必要な最小エネルギ閾値を算定するように構成可能である。さらには、温度モデルは、広帯域ラムダセンサの過熱を防止するように構成可能である。
【0028】
第1の変形形態においては、温度モデルはWPA/BPモデルであり得る。WPA/BPモデルを用いて、広帯域ラムダセンサが十分に加熱されているかどうかを検査することができる。さらに、WPA/BPモデルを用いて、過熱防止の必要性を検査することができる。
【0029】
第1の変形形態においては、ステップa)と同時にヒータのヒータ電圧の低減を実行可能である。特に、エラー検査の実行可能化と同時にヒータ電圧を低減することができる。低減された有効ヒータ電圧の選択に応じて、デバウンシング時間を延長することができる。
【0030】
第2の変形形態においては、温度モデル、特にステップa)における温度モデルは、WPAモデルであり得る。過熱防止の必要性の検査は、別の温度モデルを用いて行うことができる。特に、当該別の温度モデルは、BPモデルであるものとしてよい。エラー検査の実行可能化のためのWPAモデルと過熱防止のためのBPモデルとを別個にモデリングすることにより、付加的な自由度を得ることができ、これにより、ヒータ抵抗のより広いばらつきを考慮することができる。このことは、特にWPAヒータがロバストな診断を実行するための十分な高温にいまだ達しておらず、一方、BPヒータでは既に過熱が差し迫っている場合に重要である。
【0031】
本発明の他の態様においては、少なくとも1つの広帯域ラムダセンサと、少なくとも1つの制御部とを含むシステムが提案される。当該制御部は、少なくとも1つのプロセッサを含む。当該制御部は、上述した又は以下においてさらに説明する方法に従って方法ステップを実施するように構成されている。
【0032】
本発明の他の態様においては、コンピュータ上又はコンピュータネットワーク上で実行されるときに、上述した又は以下においてさらに説明する方法を実施するために構成されたコンピュータプログラムが提案される。
【0033】
本発明の他の態様においては、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラムが提案される。コンピュータプログラムは、コンピュータ上又はコンピュータネットワーク上で実行されるときに、上述した又は以下においてさらに説明する方法を実施するために構成されたものである。
【0034】
本発明の他の態様においては、データ構造を記憶したデータ担体が提案される。データ構造は、コンピュータ又はコンピュータネットワークの動作メモリ及び/又はメインメモリにローディングされた後、上述した又は以下においてさらに説明する方法を実施するために構成されたものである。
【0035】
本発明の他の態様においては、プログラムがコンピュータ上又はコンピュータネットワーク上で実行されるときに、上述した又は以下においてさらに説明する方法を実施するために機械可読担体上に記憶されたプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品が提案される。
【0036】
この場合、コンピュータプログラム製品とは、市販製品としてのプログラムであると理解される。コンピュータプログラムは、基本的には任意の形態で、したがって、例えば、紙上又はコンピュータ可読データ担体上に存在するものとしてよく、特にデータ伝送ネットワークを介して配信可能なものであってよい。特に、プログラムコード手段は、コンピュータ可読データ担体及び/又はコンピュータ可読記憶媒体に記憶可能である。本明細書において使用される「コンピュータ可読データ担体」及び「コンピュータ可読記憶媒体」なる概念は、特に、非一時的なデータ記憶装置、例えば、コンピュータによって実行可能な命令を記憶したハードウェアデータ記憶媒体を指すことができる。コンピュータ可読データ担体又はコンピュータ可読記憶媒体は、特に、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び/又は読み出し専用メモリ(ROM)のような記憶媒体であってよく、又は、これらを含むものであってよい。
【0037】
本発明の他の態様においては、コンピュータシステム又はコンピュータネットワークによって実行可能な、上述した又は以下においてさらに説明する方法を実施するための命令を含む、変調されたデータ信号が提案される。
【0038】
本発明に係る方法及び本発明に係る装置は、公知の方法及び公知の装置と比較して多くの利点を有している。特に、センサ側でのケーブルエラーとセンサヒータ側での加熱出力の低減の際に生じるエラーとを一義的に区別することによって、ケーブル破断の識別と加熱出力エラーとの間の目的の対立を解決することができる。
【0039】
コンポーネント保護のロバストな診断及び保証に関するセンサ温度モデルへの要求は、2つの異なるモデルによって実現することができる。今日のラムダセンサは、基本的にはきわめて強力でありしたがって低抵抗であるヒータを有している。しかし、スクリーンプリンティング法及び/又は焼結法を含み得る製造プロセスに基づき、基本的にはヒータ抵抗の著しいばらつきが生じる。2つの異なる温度モデルへの要求の分離により、センサエレメントの過熱が差し迫っている場合には、ヒータの閉ループ制御に介入して、比較的弱く高抵抗であるヒータに十分な時間を与え、負荷開放診断のためにセンサエレメントを十分に加熱することができる。さらに、診断ロバスト性の改善も、診断の実行可能化によりヒータの閉ループ制御を調整する温度モデルによって達成することができる。
【0040】
負荷開放診断の実行可能化は、エラーのないシステムにおいては、基本的には所定の温度閾値を上回ると行われる。エラーを有するシステムにおいては、基本的に温度信号を利用できないので、診断の実行可能化は基本的にセンサ温度モデルに基づいて実行される。現在の従来技術においては、負荷開放診断はWPA/BPモデルに基づいて実行可能化可能であるが、基本的には、これと同時にロバストな診断及び過熱防止を提供しなければならない。この場合、診断結果を確保するためにデバウンシング時間は十分な長さを有さなければならないが、過熱防止の理由から可能な限り短く選択せざるをえない。
【0041】
提案の方法により、負荷開放診断の実行可能化と同時にヒータ電圧が低減されることにより、許容デバウンシング時間が延長可能となる。低減される有効ヒータ電圧の選択に応じて、デバウンシング時間を延長することができる。
【0042】
さらに、提案の方法により、ロバストな診断及び過熱防止への要求を、2つのヒータモデルへ分割することができる。負荷開放診断を実行可能化するためのWPAモデルと過熱防止のためのBPモデルとを別個にモデリングすることにより、付加的な自由度を得ることができ、これにより、ヒータ抵抗におけるより広いばらつきを考慮することができる。このことは、特にWPAヒータがロバストな診断を実行するための十分な高温にいまだ達しておらず、一方、BPヒータでは既に過熱が差し迫っている場合に重要である。
【0043】
2つの変形形態の双方により、センサ損傷のリスクを発生させることなく、センサを加熱するための効果的なエネルギ入力を増大させることができる。
【0044】
本発明のさらなる任意選択手段としての詳細及び特徴は、図に概略的に描かれた好ましい実施例の以下の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本発明に係る方法を実施し得る、制御装置、ラムダセンサ、ケーブルコネクタ及びセンサコネクタを含むシステムに関する全体概観を示す図である。
【
図3A】本発明に係る方法を示すさらなるフローチャートである。
【
図3B】本発明に係る方法を示すさらなるフローチャートである。
【
図4A】ラムダセンサのセラミックに関する温度特性を示す図である。
【
図4B】ラムダセンサのセラミックに関する温度特性を示す図である。
【
図4C】ラムダセンサのセラミックに関する温度特性を示す図である。
【
図5】ラムダセンサのセラミックのための温度特性及びセンサ電圧信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
発明の実施形態
図1には、本発明に係る方法を実施し得る、ラムダセンサ110、特に広帯域ラムダセンサ112と、制御装置114と、ケーブルコネクタ及びセンサコネクタ118とを含むシステム108に関する全体的な概観が示されている。
【0047】
ラムダセンサ110は、ケーブルコネクタ及びセンサコネクタ118とケーブルハーネス120とを介して制御装置114に接続可能である。ラムダセンサ110は、排気管122内にねじ込み可能である。制御装置114は、センサ加熱のためのヒータ出力段124、ASIC126、特にASIC CJ135及びマイクロコントローラ128を有し得る。マイクロコントローラ128は、ハードウェアカプセル130と、ラムダセンサ110用のソフトウェアコンポーネントドライバ131とを含み得る。ASIC126は、特に、ソフトウェアコンポーネントドライバ131用のマイクロコントローラ128に供給されるセンサ信号を駆動制御して変換するハードウェアコンポーネントであり得る。
【0048】
図2には、ソフトウェア方式の
図132が示されている。負荷開放診断部134は、エラー識別部、エラー疑い通知部及び信号検出部を含み得る。通知は、診断マネージャ142において行うことができる。負荷開放診断部134は、i.О.システムの物理的温度モデル136を用いて実行することができる。さらに、負荷開放診断部134は、WPAシステムの物理的温度モデル138を用いて実行することもできる。物理的温度モデル136及び物理的温度モデル138には、矢印140で概略的に示されているように、それぞれ1つのパラメータバッテリ電圧、停止時間、周囲温度及びヒータが共に導入可能となる。さらに、負荷開放診断部134は、矢印142で概略的に示されているように、センサ信号と、壁温度、及び/又は、触媒温度を考慮し得る排気ガス温度モデルとに基づいて実行することができる。
【0049】
図3Aには、本発明に係る方法のフローチャートが示されている。フィールド144に示されているヒータ駆動制御に関して、フィールド146に示されているように、広帯域ラムダセンサの少なくとも1つの温度モデル、特にWPA/BPモデルを用いて、広帯域ラムダセンサの動作温度を算定することができる。温度モデルによって算定された動作温度が別の所定の限界値を上回った場合、フィールド148で示されているように、負荷開放エラーを識別する方法を実行可能化することができる。負荷開放エラーを識別する方法の実行を実行可能化する際には、フィールド150によって示されているように、特に過熱防止が必要である場合に、広帯域ラムダセンサのヒータの加熱電圧を同時に低減することができる。矢印152で概略的に表されているデバウンシング時間の後、フィールド154で示されているように、負荷開放診断のエラー確認が問い合わせ可能となる。矢印156で示されているようにエラーが確認された場合、フィールド158によって示されているように負荷開放エラーが存在している。矢印160で示されているようにエラーが確認されなかった場合、フィールド162で示されているようにヒータ診断の実行可能化報告が行われる。
【0050】
したがって、負荷開放診断の実行可能化と同時にヒータ電圧が低減されることにより、許容デバウンシング時間を増大させることができる。低減される有効ヒータ電圧の選択に応じて、デバウンシング時間を延長することができる。
【0051】
図3Bには、本発明に係る方法の別のフローチャートが示されている。ここでのフローチャートは、
図3Aに示されているフローチャートに少なくとも部分的に対応するので、
図3Aについての上述した説明も参照されたい。
【0052】
図3Bに示されているように、フィールド146に概略的に示されているように温度モデルを用いて広帯域ラムダセンサの動作温度を算定することができ、ここで、温度モデルにより算定された動作温度が所定の限界値を上回ると、フィールド148に示されているように、負荷開放エラーを識別する方法を実行可能化することができる。温度モデルは、WPAモデルであり得る。
【0053】
別の温度モデル、特にBPモデルを用いて、フィールド164に概略的に示されているように、過熱防止が必要であるかどうかを検査することができ、さらにフィールド150によって概略的に示されているように、ヒータ電圧を低減することができる。これにより、矢印166で示されている付加的な自由度を得ることができる。
【0054】
こうして、ロバストな診断及び過熱防止への要求を2つのヒータモデルへ分割することができる。負荷開放診断を実行可能化するためのWPAモデルと過熱防止のためのBPモデルとを別個にモデリングすることにより、付加的な自由度を得ることができ、これにより、ヒータ抵抗におけるより広いばらつきを考慮することができる。このことは、特にWPAヒータがロバストな診断の実行のための十分な高温にいまだ達しておらず、一方、BPヒータでは既に過熱が差し迫っている場合に重要である。
【0055】
図3A及び
図3Bによる2つの変形形態によって、センサの加熱のための有効なエネルギ入力を増大させることができ、その際にもセンサ損傷のリスクは発生しない。
【0056】
図4A乃至
図4Cには、ラムダセンサセラミックに関する温度特性が示されている。
図4Aには、i.O.システムでのラムダセンサセラミックの温度特性が示されており、
図4Bには、ヒータエラーを有するシステムでのラムダセンサセラミックの温度特性が示されており、
図4Cには、ケーブル破断を有するシステムでのラムダセンサセラミックの温度特性が示されている。
【0057】
図5には、ラムダセンサセラミックの温度特性及びセンサ電圧信号が示されている。温度特性は、
図4A乃至
図4Cに示されている温度特性に対応する。i.О.システムでのラムダセンサセラミックの温度特性は円で示されており、ヒータエラーを有するシステムでのラムダセンサセラミックの温度特性は三角形で示されており、ケーブル破断を有するシステムでのラムダセンサセラミックの温度特性は十字で示されている。
【0058】
i.О.システムでのラムダセンサセラミックのセンサ電圧信号は円で示されており、ヒータエラーを有するシステムでのラムダセンサセラミックのセンサ電圧信号は三角形で示されており、ケーブル破断を有するシステムでのラムダセンサセラミックのセンサ電圧信号は十字で示されている。
【0059】
負荷開放診断のための実行可能化時点は線200で示されており、負荷開放診断の終了時点は線202で示されている。これにより、矢印204で示されているように、エラー疑いが生じたときの最大待機時間が得られる。さらに、矢印206によって、負荷開放診断を実行可能化するための最小待機時間が示されている。領域206において、センサ電圧の変化が見て取れる。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の排気ガス室内の排気ガスの少なくとも1つの特性を検出するように構成された広帯域ラムダセンサ(112)の負荷開放エラーを識別する方法であって、前記広帯域ラムダセンサ(112)は、さらに少なくとも1つのヒータを含む、方法において、
前記方法は、次のステップ、すなわち、
a)エラー検査を実行可能化するステップであって、温度モデルを用いて前記広帯域ラムダセンサ(112)が十分に加熱されているかどうかを検査する、ステップと、
b)エラー検査を実行するステップと、
を含み、
エラー検査後にエラーが識別されなかった場合には、次のステップ、すなわち、
b1)i.О.結果
(正常な結果)を用いて前記方法を終了するステップ
が実行され、
エラー検査後にエラーが識別された場合には、次のステップ、すなわち、
b2)n.i.О.結果
(正常でない結果)を用いて前記方法を終了するステップ
が実行され、
前記ステップb)の実行前に過熱防止の必要性の検査が行われ、過熱防止の必要性が存在する場合には、前記ヒータのヒータ電圧が、
前記ステップa)と同時に、又は、前記ステップa)の実行前に低減される、方法。
【請求項2】
前記温度モデルは、WPA
(Worst Performance Acceptable(許容可能な最低性能))モデル、BP
(Best Performance(最高性能))モデル、WPA/BPモデル
(BPモデルとWPAモデルとの組合せ)から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度モデルは、WPA/BPモデルであり、前記WPA/BPモデルを用いて前記過熱防止の必要性の検査を行う、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップa)において、前記温度モデルによって算定された前記広帯域ラムダセンサ(112)の動作温度が所定の限界値を上回ったことが検査される、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記温度モデルは、WPAモデルであり、前記過熱防止の必要性の検査は、別の温度モデルによって行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記別の温度モデルは、BPモデルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップb)における前記エラー検査において、測定された内部抵抗と診断閾値との比較が行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの広帯域ラムダセンサ(112)と、
少なくとも1つの制御部と、
を含むシステムであって、
前記制御部は、少なくとも1つのプロセッサを含み、
前記制御部は、請求項
1に記載の方法に従って方法ステップを実行するように構成されている、システム。
【請求項9】
コンピュータ上
で実行されるときに、
前記コンピュータに、請求項
1に記載の方法を実施
させるため
のプログラムコードを含むコンピュータプログラム。
【請求項10】
プログラムコードを記憶したデータ担体であって、
前記
プログラムコードは、コンピュータ
の作業メモリ及び/又はメインメモリにローディングされた後、
前記コンピュータに、請求項
1に記載の方法を実施
させるため
のものである、データ担体。
【国際調査報告】