(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-11
(54)【発明の名称】骨再生材料
(51)【国際特許分類】
A61L 27/12 20060101AFI20241204BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20241204BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20241204BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20241204BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20241204BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/56
A61L27/54
A61L27/22
A61L27/38 111
A61L27/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538194
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2022087609
(87)【国際公開番号】W WO2023118505
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516092784
【氏名又は名称】ウィッシュボーン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロンペン エリック
(72)【発明者】
【氏名】ルクルー ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ランバート フランス
(72)【発明者】
【氏名】ドリー エミリー
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081BA12
4C081BB08
4C081CD28
4C081CD34
4C081CE02
4C081CF031
4C081DA11
4C081DB02
4C081DB05
4C081DB07
4C081DC15
4C081EA02
4C081EA04
4C081EA06
4C081EA12
(57)【要約】
本発明は、マクロポーラスである天然由来のハイドロキシアパタイトの固相から本質的になる骨再生材料、ならびにその製造方法および骨欠損の修復方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロポーラスである天然由来のハイドロキシアパタイトの固相から本質的になる骨再生材料であって、直径が50μm以上、好ましくは50μm以上100μm以下である細孔を有し、前記ハイドロキシアパタイトの固相が、結晶サイズが20nm以上120nm以下であるハイドロキシアパタイトの結晶性固相であり、かつ、比表面積が8m
2/g以上20m
2/g以下であることを特徴とする、骨再生材料。
【請求項2】
前記ハイドロキシアパタイトの結晶性固相の前記結晶サイズが、30nm以上120nm以下、好ましくは40nm以上100nm以下、より好ましくは45nm以上80nm以下、さらに好ましくは50nm以上80nm以下、特に好ましくは50nm以上60nm以下である、請求項1に記載の骨再生材料。
【請求項3】
前記ハイドロキシアパタイトの固相の前記比表面積が、10m
2/g以上20m
2/g以下、好ましくは10m
2/g以上18m
2/g以下、好ましくは12m
2/g以上16m
2/g以下である、請求項1または2に記載の骨再生材料。
【請求項4】
気孔率が70%以上85%以下、好ましくは75%以上85%以下、より好ましくは80%以上85%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の骨再生材料。
【請求項5】
粒度分布d
10が350μm以上500μm以下、好ましくは370μm以上480μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の骨再生材料。
【請求項6】
粒度分布d
50が500μm以上800μm以下、好ましくは550μm以上780μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の骨再生材料。
【請求項7】
粒度分布d
90が850μm以上1250μm以下、好ましくは850μm以上1100μm以下、より好ましくは850μm以上1000μm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の骨再生材料。
【請求項8】
Ca/Pモル比が0.2以上2以下、好ましくは0.3以上1.8以下、より好ましくは0.5以上1.65以下であるリン酸カルシウムの第2の合成固相により富化されており、前記第2の合成固相は、前記天然由来の固体のハイドロキシアパタイトの第1の相の溶解度積Ksよりも大きい溶解度積Ksを有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の骨再生材料。
【請求項9】
抗生物質、抗ウイルス薬、抗炎症薬、ステロイドなどのホルモン、BMPなどの成長因子、抗拒絶反応剤、幹細胞、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの治療剤を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の骨再生材料。
【請求項10】
無菌材料である、請求項1~9のいずれか1項に記載の骨再生材料。
【請求項11】
ハイドロキシアパタイトおよび有機物質を含む骨材料を、温度を150℃以上300℃以下、圧力を1500kPa以上3500kPa以下とした水抽出溶液と接触させ、前記骨材料から抽出された前記有機物質および必要に応じて不純物を含む第1の液相と、第2の固体のハイドロキシアパタイト相と、を得る工程と、
前記液相と前記固体のハイドロキシアパタイト相との間を分離する工程と、
分離された前記固体のハイドロキシアパタイト相を800℃以上1200℃以下の温度で(穏やかに)焼結する工程と、
焼結した前記ハイドロキシアパタイト相により骨再生材料を形成する工程と、
を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の骨再生材料の製造方法。
【請求項12】
前記分離工程と前記焼結工程との間に、前記固体のハイドロキシアパタイト相の一連の篩上での一連の篩分け工程をさらに含み、好ましくは、前記一連の篩分け工程は、少なくとも1mmの篩上での第1の篩分け工程と、少なくとも0.25mmの篩上での第2の篩分け工程と、を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記分離工程と前記焼結工程との間の前記一連の篩分け工程は、前記一連の篩に金属球を加え、前記一連の篩上で前記金属球を運動させる工程を含む、一連の篩分け工程である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記水抽出溶液を、170℃以上280℃以下、好ましくは190℃以上260℃以下、より好ましくは210℃以上240℃以下、さらに好ましくは220℃以上230℃以下の温度にする、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
前記水抽出溶液を、2000kPa以上3500kPa以下、好ましくは2500以上3500kPa以下、より好ましくは3000以上3500kPa以下、さらに好ましくは3200以上3500kPa以下の圧力にする、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記焼結工程が、40分以上4時間以下、好ましくは1時間以上3時間以下、より好ましくは1時間以上2時間以下、例えば1時間以上1時間半以下の間行われる、請求項11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記焼結工程が、800℃以上1150℃以下、好ましくは800℃以上1100℃以下、より好ましくは800℃以上1050℃以下、さらに好ましくは800℃以上1000℃以下、殊に好ましくは800℃以上950℃以下、殊さらに好ましくは800℃以上900℃以下、特に好ましくは800℃以上850℃以下、例えば810℃以上830℃以下の温度で行われる、請求項11から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記篩分け工程と前記焼結工程との間に、前記固体のハイドロキシアパタイト相を過酸化物で処理する工程、好ましくは過酸化水素で処理する工程をさらに含む、請求項12~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記過酸化物処理工程と前記焼結工程との間に、乾燥工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記焼結したハイドロキシアパタイト相を洗浄する追加の工程をさらに含む、請求項11~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
任意の順序で互いに連続する少なくとも1つの第1および少なくとも1つの第2の別個の浸漬によって、前記骨再生材料をカルシウムおよびリンで富化する工程をさらに含み、前記少なくとも1つの第1の浸漬は、1M濃度のカルシウムを含む第1の溶液中で行われ、前記少なくとも1つの第2の浸漬は、0.5M濃度のリンを含む第2の溶液中で行われる、請求項11~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記富化工程の前記第1の浸漬が、Ca(NO
3)
2.4H
2O、CaCl
2.2H
2O、CaSO
4.2H
2OまたはCaCO
3の第1の溶液中で行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記富化工程の前記第2の浸漬が、Na
3PO
4、Na
2HPO
4、NaH
2PO
4.H
2O、K
3PO
4、K
2HPO
4、KH
2PO
4、K
2HPO
4、(NH
4)
3PO
4、(NH
4)
2HPO
4、またはNH
4H
2PO
4の第2の溶液中で行われる、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記骨再生材料および/または前記富化骨再生材料を滅菌する工程、好ましくはイオン化による滅菌工程をさらに含む、請求項11~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
充填される欠損部を測定する工程と、
骨欠損部の骨再生を促進するように配置される合成被覆装置を位置決めする工程であって、当該合成被覆装置は、アディティブ・マニュファクチャリングによって得られ、50μm以上1000μm以下のサイズの一連の細孔を有する多孔質マトリックスで形成された少なくとも1つのシェルと、一方では前記多孔質マトリックスに連結され、他方では前記骨欠損部の骨表面を支えている、少なくとも1つの支柱と、を備えており、前記合成被覆装置は、再生される骨体積を収容するように配置された空洞自体を画定するように配置されている、合成被覆装置を位置決めする工程と、
請求項1~10のいずれか1項に記載の骨再生材料、または請求項11~24のいずれか1項によって得られる骨再生材料を、前記合成被覆装置によって形成された前記空洞に充填する工程と、
を含む、患者の骨欠損の修復方法。
【請求項26】
非治療的修復であり、かつ/または美容的である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
強い機械的応力を受ける骨、好ましくは咀嚼系の機能に関連する骨の修復のための方法である、請求項25または26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロポーラスである天然由来のハイドロキシアパタイトの固相から本質的になる骨再生材料に関する。
【0002】
本発明はさらに、マクロポーラスである天然由来のハイドロキシアパタイトの固相から本質的になる骨再生材料の製造方法に関する。
【0003】
本発明は最後に、マクロポーラスである天然由来のハイドロキシアパタイトの固相から本質的になる骨再生材料を用いて、患者の骨欠損を修復する方法に関する。
【0004】
この種の骨再生材料は、特に修復外科や美容外科の様々な分野における骨の劣化の治療に用いられる。
【背景技術】
【0005】
ハイドロキシアパタイトは、式Ca5(PO4)3(OH)で表される、骨伝導性を有するリン酸カルシウムであり、骨の主要なミネラル成分である。実際、ハイドロキシアパタイトは、同じ六方晶構造を持つ同型化合物であるアパタイトの結晶学的ファミリーに属する。
【0006】
ハイドロキシアパタイトは、最も一般的な結晶性リン酸カルシウムであり、骨、歯のエナメル質、象牙質の主要なミネラル成分であるため、この化合物は長年にわたり、さまざまな医療分野で生体材料として広く使用されてきた。
【0007】
さらに、ハイドロキシアパタイト、特に天然由来のハイドロキシアパタイトは、良好な生体適合性および細胞またはタンパク質に対する特異的な吸着特性を有する。したがって、それらの使用は、骨、特に口腔骨の再建、修復または審美手術の分野に完全に適している。
【0008】
したがって、天然(動物)由来のハイドロキシアパタイトは、骨伝導性を有するだけでなく、ヒトの天然骨材料と同一の結晶構造および形態を有することが認識されており、ハイドロキシアパタイトは、インプラント、特に口腔内インプラントに完全に適しており、現在、欠損または劣化した骨部位の骨再建および再生を刺激するために使用されている。
【0009】
さらに、天然由来のハイドロキシアパタイトの固相から本質的になり、有機物質(タンパク質、プリオン、ペプチド、脂質)を除去した骨再生材料は、合成ハイドロキシアパタイトの固相と比較して、より優れた骨再生を可能にすることが確認されている。実際、骨再生材料が患者に移植された状態では、体内への統合、インプラント部位でのオッセオインテグレーション、生体適合性を促進し、不要な拒絶反応を回避しながら生体環境と相互作用できるように、有機物質の痕跡をすべて除去することが不可欠である。
【0010】
骨のコロニー形成は、骨再生材料の多孔質特性と、そのマクロ孔の数と大きさの相互連結に依存する。これらの相互連結はトンネルを形成し、細孔間の細胞や血流の通過を可能にし、新生骨の形成を促進する。
【0011】
これに関連して、先行技術として文献米国特許第5417975号が知られており、ナノ細孔、ミクロ細孔、および直径50μm以上の細孔を有する天然由来のハイドロキシアパタイトの固相を含む骨再生材料である製品BioOss(登録商標)が開示されている。
【0012】
文献国際公開第2015/049336号も先行技術として知られており、この文献には、直径50μm以上の細孔、好ましくは直径50~100μmの細孔を有する天然由来のハイドロキシアパタイトの固相を含む骨再生材料も開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
残念ながら、これらの製品には多くの利点があるものの、その機械的特性には改善の余地がある。
【0014】
本発明は、前記ハイドロキシアパタイトの固相が、結晶サイズが20~120nmであり、比表面積が8~20m2/gであるハイドロキシアパタイトの結晶性固相であることを特徴とする、上記のような骨再生材料を提供することによって、先行技術の欠点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る骨再生材料は、特に有利には、800℃以上1200℃以下、好ましくは800℃以上1150℃以下、より好ましくは800℃以上1100℃以下、さらに好ましくは800℃以上1050℃以下、よりさらに好ましくは800℃以上1000℃以下、殊に好ましくは800℃以上950℃以下、さらに殊に好ましくは800℃以上900℃以下、特に好ましくは800℃以上850℃以下、例えば810℃以上830℃以下、例えば820℃、の温度での焼結工程の後に得られる。
【0016】
この焼結工程により、特に天然由来のハイドロキシアパタイトの固相の結晶を「溶接」することが可能になり、ナノ細孔やミクロ細孔が非常に大きく減少、あるいは完全に消失し、結晶のサイズが大きくなり、比表面積が減少する。しかし、骨再生材料のナノ細孔やミクロ細孔の大幅な減少や消失は、材料の血管新生やコロニー形成ができなくなるため、その後の骨再生が不完全になったり、質が低下したりする危険性があり、有害であると考えられている。
【0017】
実際、骨再生材料に微細孔がないことは、骨成長および骨伝導の形成に有害であることが一般に認識されている。
【0018】
この欠点とは異なり、本発明に係る焼結工程は、再生材料の表面形状を保持することを可能とし、これにより、骨再生の可能性を保持しながら、その強度を補強することができるため、特に有利である。
【0019】
例えば、本発明に係る材料焼結工程により、材料の表面上に実質的に球状の要素を形成することが可能となる。
【0020】
したがって、本発明に係る材料は、サイズ(直径または相当直径)が150nm以上350nm以下、好ましくは175nm以上325nm以下、より好ましくは200nm以上300nm以下である、ハイドロキシアパタイトの実質的に球状/ボール状/擬似球状の要素を有する。材料表面のハイドロキシアパタイトの融解をもたらし、その結果、骨再生の可能性に有害な過度に滑らかな表面をもたらす、温度が1200℃を超える焼結工程の性能とは異なり、実質的に球状/ボール状/擬似球状の要素は一緒になって、本発明による骨再生材料の粗い表面を形成する。
【0021】
特に驚くべきことに、本発明者らは、本発明に係る骨再生材料が焼結された、すなわち焼結工程後に、ハイドロキシアパタイト相の結晶サイズが20~120nmであり、比表面積が8~20m2/gであり、より硬く、より強い構造を有し、粗い表面形状を有する一方で、先行技術の方法と同様に骨組織によってコロニー形成されることに気付いた。
【0022】
実際、本発明に係る骨再生材料は、骨欠損あるいは骨劣化の再建および/または再生のために、より詳細には、咀嚼によって加えられる力が大きく、長期間にわたって繰り返される歯科分野において、移植されることが意図されている。
【0023】
したがって、本発明に係る骨再生材料は、骨再生能、オッセオインテグレーション、骨伝導の点で、先行技術と同じ特性および利点を有しながら、より硬く、より強く、且つ、その表面粗さが骨再生能を保持または向上させるものであることが、特に有利である。
【0024】
従属請求項は、他の有利な実施形態に言及している。
【0025】
有利には、本発明に係る骨再生材料のハイドロキシアパタイトの結晶性固相の結晶のサイズは30nm以上120nm以下、好ましくは40nm以上100nm以下、より好ましくは45nm以上80nm以下、さらに好ましくは50nm以上80nm以下、特に好ましくは50nm以上60nm以下である。
【0026】
有利には、本発明に係る骨再生材料のハイドロキシアパタイトの固相の比表面積は、10m2/g以上20m2/g以下、好ましくは10m2/g以上18m2/g以下、より好ましくは12m2/g以上16m2/g以下である。
【0027】
これは、先行技術の方法と少なくとも同じ骨再生能という特性を提供する一方で、改善された強度および剛性を有し、特に機械的制約が大きい歯科分野に適している、本発明に係る骨再生材料を提供するという利点を有している。
【0028】
好適には、本発明に係る骨再生材料の気孔率は、70%以上85%以下、好ましくは75%以上85%以下、より好ましくは80%以上85%以下である。
【0029】
これにより、骨形成能が著しく改善された本発明に係る骨再生材料を提供できるという利点がある。
【0030】
好適には、本発明に係る骨再生材料の粒度分布d10は、350μm以上500μm以下、好ましくは370μm以上480μm以下である。
【0031】
好適には、本発明に係る骨再生材料の粒度分布d50は、500μm以上800μm以下、好ましくは550μm以上780μm以下である。
【0032】
好適には、本発明に係る骨再生材料の粒度分布d90は、850μm以上1250μm以下、好ましくは850μm以上1100μm以下、より好ましくは850μm以上1000μm以下である。
【0033】
このような粒度分布を有する本発明に係る骨再生材料は、骨再生を可能にする最適な細孔容積を有するという利点を有する。
【0034】
有利には、本発明に係る骨再生材料は、Ca/Pモル比が0.2以上2以下、好ましくは0.3以上1.8以下、より好ましくは0.5以上1.65以下であるリン酸カルシウムの第2の合成固相により富化される。ここで、前記第2の合成固相は、天然由来の前記固体のハイドロキシアパタイトの第1の相の溶解度積Ksよりも大きい溶解度積Ksを有する。
【0035】
特に有利な態様では、これにより、カルシウム(例えば、遊離細胞外Ca2+イオンの形態で)およびリン(例えば、遊離細胞外PO4
3-イオンの形態で)の骨再生部位の周囲への適切な放出が保証されるため、後者は、骨細胞の増殖および分化ならびに石灰化を有意に促進することにより、周囲の生体組織の再成長の促進剤として作用することができる。
【0036】
好ましくは、本発明に係る骨再生材料は、抗生物質、抗ウイルス薬、抗炎症薬、ステロイドなどのホルモン、BMPなどの成長因子、抗拒絶反応剤、幹細胞、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの治療剤を含む。
【0037】
有利には、本発明に係る骨再生材料は無菌材料である。
【0038】
本発明に係る骨再生材料の他の実施形態は、添付の特許請求の範囲に示されている。
【0039】
本発明はまた、以下の工程を含む、本発明に係る骨再生材料の製造方法に関する。
- ハイドロキシアパタイトおよび有機物質を含む骨材料を、温度を150℃以上300℃以下、圧力を1500kPa以上3500kPa以下とした水抽出溶液と接触させ、前記骨材料から抽出された前記有機物質とおそらくは不純物とを含む第1の液相と、第2の固体のハイドロキシアパタイト相と、を得る工程。
- 前記液相と前記固体のハイドロキシアパタイト相との間を分離する工程。
- 分離された前記固体のハイドロキシアパタイト相を800℃以上1200℃以下の温度で(穏やかに)焼結する工程。
- 焼結した前記ハイドロキシアパタイト相により前記骨再生材料を形成する工程。
【0040】
本発明の方法によれば、特に驚くべき有利な態様で、骨再生能、オッセオインテグレーションおよび骨伝導の点で先行技術と少なくとも同じ特性を有しながら、より硬く、より強く、かつその表面粗さにより骨再生能が維持または改善された焼結骨再生材料を提供することが可能となる。
【0041】
特に、800℃未満の焼結条件では材料の機械的強度の向上が得られず、1200℃を超える温度、さらには900℃を超える温度では、材料の表面形状および骨再生能に悪影響を及ぼす一方、800℃以上1200℃以下、さらには900℃以下の焼結条件では、患者に移植可能な、所望の骨再生能を有する、強固で堅牢かつ強力な骨再生材料を得ることが可能と思われる。
【0042】
有利には、本発明に係る方法は、前記分離工程と前記焼結工程との間に、前記固体のハイドロキシアパタイト相の一連の篩上での一連の篩分け工程をさらに含み、好ましくは、前記一連の篩分け工程は、少なくとも1mmの篩上での第1の篩分け工程と、少なくとも0.25mmの篩上での第2の篩分け工程と、を含む。
【0043】
例えば、骨材料に由来する抽出後の固体のハイドロキシアパタイト相は、抽出工程によってすでに脆くなっており、下から上へ、収集籠、0.25mmの篩および1mmの篩を含む篩セットの上に堆積される。
【0044】
さらに有利には、本発明に係る方法の、分離工程と焼成工程との間の一連の篩分け工程は、前記一連の篩に金属球を加え、前記一連の篩上で前記金属球を運動させる工程を含む、一連の篩分け工程である。
【0045】
実際、篩セットに金属球を加え、装置を用いて篩セットを動かすことで、球はハイドロキシアパタイト相をさらに脆くさせ、ハイドロキシアパタイト相の篩通過を促進し、所望のサイズの粒子を得ることができる。
【0046】
有利には、本発明に係る方法の水抽出溶液は、温度を170℃以上280℃以下、好ましくは190℃以上260℃以下、より好ましくは210℃以上240℃以下、特に好ましくは220℃以上230℃以下にされる。
【0047】
好ましくは、本発明に係る方法の水抽出溶液は、圧力を2000kPa以上3500kPa以下、好ましくは2500kPa以上3500kPa以下、より好ましくは3000kPa以上3500kPa以下、さらに好ましくは3200kPa以上3500kPa以下、特に好ましくは3400kPa以上3500kPa以下にされる。
【0048】
実際、本発明に係る方法の超臨界抽出工程は、220~230℃の温度条件および3200~3500kPaの圧力条件下で、有機物質(タンパク質、プリオン、ペプチド、脂質)が除去された純粋な固体のハイドロキシアパタイト相を得るための最良の結果を示し、したがって、その後に起こり得る望ましくない拒絶反応を低減する。
【0049】
超臨界抽出工程の所要時間は、有利には骨材料の量に応じて調整される。有利には、本発明に係る方法の焼結工程は、40分以上4時間以下、好ましくは1時間以上3時間以下、より好ましくは1時間以上2時間以下、特に好ましくは1時間以上1.5時間以下の期間行われる。
【0050】
さらに、焼結工程は、加熱プレート工程と組み合わせた昇温サブ工程を含み、この焼結工程は合計で、例えば1時間20分続く。
【0051】
好ましくは、本発明に係る方法の焼結工程は、800℃以上1150℃以下、好ましくは800℃以上1100℃以下、より好ましくは800℃以上1050℃以下、さらに好ましくは800℃以上1000℃以下、殊に好ましくは800℃以上950℃以下、殊さらに好ましくは800℃以上900℃以下、特に好ましくは800℃以上850℃以下、例えば810℃以上830℃以下の温度で行われる。
【0052】
好ましくは、焼結工程の昇温工程は、20分以上2時間、好ましくは20分以上1時間以下、より好ましくは20分以上45分間以下、さらに好ましくは25分以上35分間以下の間に、800℃以上1150℃以下、有利には800℃以上850℃以下、例えば810℃以上830℃以下の温度に到達させることを可能にする。
【0053】
例えば、昇温工程により、30分間で焼結温度820℃に到達することが可能である。
【0054】
好ましくは、昇温工程の間、時間に基づく温度上昇は実質的に線形である。
【0055】
これにより、長すぎず、再現可能な昇温工程が可能となる。
【0056】
実際、本発明者らは、特に600℃を超える温度での比較的長い時間の昇温工程がすでに骨に影響を与えていることに注目した。これは必ずしも不利ではないが、温度800℃以上1200℃以下、好ましくは800℃以上1150℃以下、より好ましくは800℃以上850℃以下、例えば810℃以上830℃以下でのプレート工程の長さを決定する際に考慮しなければならない。
【0057】
さらに、焼結工程の加熱プレート工程は、温度800℃以上1200℃以下、有利には800℃以上850℃以下、例えば810℃以上830℃以下で、20分以上2時間以下、好ましくは30分以上1時間30分以下、より好ましくは45分以上1時間以下、さらに好ましくは46分以上58分間以下の期間実施される。
【0058】
例えば、焼結温度820℃での加熱プレート工程は45分~58分間行われる。
【0059】
さらに、本発明に係る方法の焼結工程は、焼結温度および焼結時間に関して一定の柔軟性を有する。しかしながら、焼結工程における加熱プレート工程の温度設定は最も重要な設定であり、より厳密に制御されることによる利点がある。
【0060】
有利には、本発明に係る方法は、前記篩分け工程と前記焼結工程との間に、前記固体のハイドロキシアパタイト相を過酸化物で処理する工程、好ましくは過酸化水素で処理する工程をさらに含む。
【0061】
好ましくは、本発明に係る方法は、前記過酸化物処理工程と前記焼結工程との間に、(穏やかな)乾燥工程をさらに含む。
【0062】
有利には、本発明に係る方法は、任意の順序で互いに連続する別個の少なくとも1つの第1の浸漬および少なくとも1つの第2の浸漬によって、骨再生材料にカルシウムおよびリンを富化する工程をさらに含み、前記少なくとも1つの第1の浸漬は、1M濃度のカルシウムを含む第1の溶液中で行われ、前記少なくとも1つの第2の浸漬は、0.5M濃度のリンを含む第2の溶液中で行われる。
【0063】
有利には、本発明に係る方法の富化工程の第1の浸漬は、Ca(NO3)2.4H2O、CaCl2.2H2O、CaSO4.2H2OおよびCaCO3の第1の溶液中で行われる。
【0064】
有利には、本発明に係る方法の富化工程の第2の浸漬は、Na3PO4、Na2HPO4、NaH2PO4.H2O、K3PO4、K2HPO4、KH2PO4、K2HPO4、(NH4)3PO4、(NH4)2HPO4またはNH4H2PO4の第2の溶液中で行われる。
【0065】
好ましくは、本発明に係る方法は、骨再生材料および/または富化骨再生材料を滅菌する工程、好ましくはイオン化による滅菌工程をさらに含む。
【0066】
本発明に係る製造方法の他の実施形態は、添付の特許請求の範囲に示されている。
【0067】
本発明はまた、以下の工程を含む、患者の骨欠損の修復方法に関する。
- 充填される欠損部を測定する工程。
- アディティブ・マニュファクチャリングによって得られる、骨欠損部の骨再生を促進するように配置された合成被覆装置であって、50μm以上1000μm以下のサイズの一連の細孔を有する多孔質マトリックスで形成された少なくとも1つのシェルと、一方では前記多孔質マトリックスに連結され、他方では前記骨欠損部の骨表面を支えている、少なくとも1つの支柱と、を備え、前記被覆装置は、再生される骨体積を収容するように配置された空洞自体を画定するように配置されている、合成被覆装置を位置決めする工程。
- 被覆装置によって形成された前記空洞に、本発明に係る骨再生材料を充填する工程。
【0068】
有利には、本発明に係る方法は非治療的修復であり、かつ/または美容的である。
【0069】
有利には、本発明に係る方法は、強い機械的応力を受ける骨、好ましくは咀嚼系の機能に関連する骨の修復のための方法である。
【0070】
本発明に係る骨欠損の修復方法の他の実施形態は、添付の特許請求の範囲において提供される。
【0071】
本発明の他の特徴、詳細および利点は、非限定的に、図面および実施例を参照して以下に示す説明から明らかになるであろう。
以下に例示する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】
図1は、1200℃を超える温度で焼結された先行技術による骨再生材料の構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られた画像である。
【
図2A】
図2Aおよび
図2Bは、820℃の温度で焼結された本発明による骨再生材料の構造の、それぞれ5000倍および10000倍の倍率での走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られた画像である。
【
図2B】
図2Aおよび
図2Bは、820℃の温度で焼結された本発明による骨再生材料の構造の、それぞれ5000倍および10000倍の倍率での走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
実施例1-本発明に係る骨再生材料
本発明に従ってハイドロキシアパタイトの固相から本質的になる骨再生材料を製造した。本例において、材料は滅菌されている。
本発明による骨再生材料の3つの試料について、固相の組成、結晶のサイズ、体積気孔率、粒子のサイズ、比表面積の測定を含む一連の分析を行った。
【0074】
試料1、2および3は、いずれもハイドロキシアパタイト100%の固相組成を有する。すなわち、本発明に係る骨再生材料は、本質的にハイドロキシアパタイトの固相からなる。
試料1の結晶サイズは54.6nm、試料2は54.2nm、試料3は54.4nmである。したがって、本発明に係る骨再生材料の結晶の平均サイズは54.4nmである。
体積気孔率に関しては、試料1の気孔率は82.3%、試料2は82.1%、試料3は82.5%である。したがって、本発明に係る骨再生材料の平均体積気孔率は82.3%である。
【0075】
粒子径に関して、試料1の粒度分布d10は381μm、d50は553μm、d90は877μmである。試料2の粒度分布d10は452μm、d50は782μm、d90は1243μmである。試料3の粒度分布d10は474μm、d50は756μm、d90は1115μmである。したがって、本発明に係る骨再生材料の平均粒度分布d10は436μm、d50は697μm、d90は1079μmである。
試料1、2、3の比表面積はいずれも16m2/gであるため、平均比表面積は16m2/gである。
【0076】
さらに、本発明に係る骨再生材料は、温度820℃で45分~60分間の加熱プレート時間での焼結工程後に特に有利な態様で得られ、粗い表面形状を有する、より硬く、より強固な構造を有する材料を得ることが可能となり、骨再生能が改善される。
【0077】
実際、
図2Aおよび
図2Bに描かれているように、本発明に係る材料は、150~350nm、好ましくは175~325nm、より好ましくは200~300nmのサイズ(直径または相当直径)のハイドロキシアパタイトの実質的に球状/ボール状/擬似球状要素を有し、これらが一緒になって粗面を形成する。1200℃を超える温度で焼結され、骨再生の可能性に不利な滑らかな表面を有する
図1に示される骨再生材料とは異なる。
【0078】
実施例2-本発明に係る骨再生材料の調製
本発明に係る骨再生材料のバッチは、ウシの骨を収集し、そのウシの骨を切断して骨材料を形成することにより調製した。
【0079】
ハイドロキシアパタイトと有機物質とを含む骨材料を、例えば220℃以上230℃以下、圧力3200kPa以上3500kPa以下の超臨界温度・圧力条件下で水抽出溶液と接触させ、抽出された有機物質と不純物とを含む第1の液相と、固体のハイドロキシアパタイトの第2の相と、を得て、次にこれら2つの相を分離して固体のハイドロキシアパタイト相を保存した。
【0080】
超臨界抽出工程によって脆くなった固体のハイドロキシアパタイト相を、第1の篩分けを実施するために1mmの第1の篩にかけ、次に第2の篩分けを実施するために0.25mmの第2の篩にかけた。有利には、金属球を固体のハイドロキシアパタイト相と一緒に篩にかけ、破砕と篩分けを容易にする。篩分け工程は1回または複数回、例えば2回または3回行うことができる。
【0081】
篩分け後の固体のハイドロキシアパタイト相を回収し、820℃で45分~60分間の加熱プレート工程中に、800~1200℃の温度で、理想的には820℃の温度で焼結工程を行った。
【0082】
このようにして、焼結した固体のハイドロキシアパタイト相は、本発明に係る骨再生材料を形成し、これはより硬い構造を有し、より強固であり、また粗い表面形状を有し、それにより骨再生能が向上している。
【0083】
さらに、本発明に係る材料を形成する焼結した固体のハイドロキシアパタイト相は、別個の浸漬によってカルシウムおよびリンで洗浄および/または富化し、次いで滅菌、好ましくはイオン化により滅菌することもできる。
【0084】
もちろん、本発明は決して上述した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく多くの改変が可能であることを理解されたい。
【国際調査報告】