(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-11
(54)【発明の名称】生物学的材料の精製のための3次元多孔質デバイス
(51)【国際特許分類】
C12N 1/02 20060101AFI20241204BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C12N1/02
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538426
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 US2022082252
(87)【国際公開番号】W WO2023122737
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509009692
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】ナグラス スニタ
(72)【発明者】
【氏名】カン ユン-テ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA21
4B029AA27
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4B065AA90X
4B065AB10
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD14
4B065BD50
4B065CA46
(57)【要約】
本開示は、標的細胞由来成分(例えば、細胞外小胞)を精製及び/または単離するのに有用な多孔質3次元ポリマーデバイス、及びその作製方法、ならびにそれらを含むシステムまたはキットを提供する。3次元デバイスは、ポリマーを含む立方体であり、ポリマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞由来成分を精製または単離するための方法であって、
少なくとも1つの多孔質3次元デバイスと共にサンプルをインキュベートすることであって、各デバイスが、前記標的細胞由来成分に対する結合剤とコンジュゲートされたポリマー系表面を含む、前記インキュベートすること、
未結合のサンプルを除去すること、及び
標的細胞由来成分と結合剤の相互作用を破壊するように構成された溶出バッファー組成物を用いて、前記標的細胞由来成分を溶出させること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記方法が、遠心分離法を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの多孔質3次元デバイスが、立方体、直方体、角錐、角柱、または多面体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの多孔質3次元デバイスが、100~450ミクロンの細孔を含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの多孔質3次元デバイスが、少なくとも0.5mLの最大収容水量を有する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記インキュベーションすることが、前記少なくとも1つの多孔質3次元デバイスを前記サンプル内に一定期間完全にまたは部分的に浸漬することを含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記インキュベーションすることが、さらに、前記サンプル内に前記完全にまたは部分的に浸漬された少なくとも1つの多孔質3次元デバイスを撹拌することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記インキュベーションすることが、さらに、標的細胞由来成分と結合剤の相互作用を促進する結合組成物を添加することを含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記サンプルが、生物学的サンプルである、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記生物学的サンプルが対象から得られる、方法。
【請求項12】
前記対象が、疾患または障害を有するか、または有すると疑われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記サンプルの体積が、少なくとも1mLである、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルの体積が、少なくとも50mLである、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記標的細胞由来成分が、細胞フラグメントを含む、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記標的細胞由来成分が、生体分子を含む、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記標的細胞由来成分が、細胞外小胞を含む、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記標的細胞由来成分が、エクソソームを含む、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記標的細胞由来成分が、がん細胞由来エクソソームを含む、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記結合剤が、アネキシンVを含む、請求項17~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記結合組成物が、カルシウムを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの多孔質3次元デバイスが、1mL当たり2×10
8個を超えるエクソソームの最大エクソソーム結合容量を有する、請求項17~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
さらに、前記標的細胞由来成分を分析することを含む、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記分析することが、前記標的細胞由来成分に対して生物学的アッセイを実施することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
結合剤とコンジュゲートされたポリマー系表面を含む、3次元多孔質デバイス。
【請求項26】
前記デバイスが、多孔質立方体である、請求項25に記載のデバイス。
【請求項27】
前記ポリマーが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む、請求項25または26に記載のデバイス。
【請求項28】
前記PDMSが、酸化され、親水性である、請求項27に記載のデバイス。
【請求項29】
前記デバイスが、1.0~2.0mLの最大収容水量を有する、請求項25~28のいずれかに記載のデバイス。
【請求項30】
前記結合剤が、標的細胞由来成分に特異的に結合する、請求項25~29のいずれかに記載のデバイス。
【請求項31】
前記標的細胞由来成分が、エクソソームである、請求項30に記載のデバイス。
【請求項32】
多孔質3次元デバイスの製造方法であって、
3次元多孔質足場を提供することであって、前記足場が、除去されるように構成される、前記提供すること、
前記3次元多孔質基材を、ポリマーまたはポリマー前駆体で覆うこと、
任意に、前記ポリマーまたはポリマー前駆体を、硬化または架橋すること、及び
前記足場を除去すること、
を含む、前記方法。
【請求項33】
前記多孔質足場が、角砂糖である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ポリマーが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
さらに、前記ポリマー表面に親水性を付与することを含む、請求項32~34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記ポリマー表面に親水性を前記付与することが、酸化を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
さらに、結合剤を用いる前記ポリマーの機能化を含む、請求項32~36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
前記結合剤が、標的細胞由来成分に特異的に結合する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記標的細胞由来成分が、エクソソームである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
標的細胞由来成分を精製または単離する方法であって、
請求項25~31のいずれかに記載の少なくとも1つの多孔質3次元デバイス、または請求項31~39のいずれかに記載の方法により作製された少なくとも1つの多孔質3次元デバイスをサンプルと共にインキュベーションすること、
未結合のサンプルを除去すること、及び
前記標的細胞由来成分を溶出させること、
を含む、前記方法。
【請求項41】
請求項25~31のいずれかに記載の多孔質3次元デバイスまたはその作製に必要な構成要素を含む、システムまたはキット。
【請求項42】
サンプルのインキュベーションに使用するのに適した容器内に、1つ以上の請求項25~31のいずれかに記載の多孔質3次元デバイスを含む、システムまたはキット。
【請求項43】
標的細胞由来成分を精製または単離するための、請求項25~31のいずれかに記載の多孔質3次元デバイス、または請求項31~39のいずれかに記載の方法により作製された多孔質3次元デバイスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本開示は、多孔質3次元ポリマーデバイスを使用して標的細胞由来成分(例えば、細胞外小胞)を精製または単離する方法、多孔質3次元ポリマーデバイスの作製方法と、多孔質3次元ポリマーデバイスを含むシステムまたはキットを提供する。
【0002】
関連出願との相互参照
本出願は、2021年12月22日に出願された米国仮出願第63/292,904号の利益を主張し、この内容は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
細胞外小胞(EV)は、ほとんどの生物学的サンプル中に循環する有望ながんバイオマーカーであると考えられている。EVの主な機能は、細胞間コミュニケーションを促進することであり、その前駆細胞の固有の情報により、EVが、がんの早期診断及び転移の理想的なバイオマーカーとなる。体が分泌した様々な生体液中にEVが存在すると、液体生検の形態でがん診断用のエクソソームを単離及び分析するために使用することができる。生物学的サンプルの内容の複雑さのために、がん特異的エクソソームの効率的な分離は制限される。このことにより、現在の方法の多くが、目的の特定のエクソソームを効果的に単離することができない。
【発明の概要】
【0004】
標的細胞由来成分を精製または単離するための方法が、本明細書で開示される。方法は、以下のうちの少なくとも1つまたは全てを含む:少なくとも1つの多孔質3次元デバイスと共にサンプルをインキュベートすること(各デバイスが、標的細胞由来成分に対する結合剤とコンジュゲートされたポリマー系表面を含む);未結合のサンプルを除去すること;標的細胞由来成分と結合剤の相互作用を破壊するように構成された溶出バッファー組成物を用いて、標的細胞由来成分を溶出させること。いくつかの実施形態では、方法は、遠心分離法を含まない。
【0005】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの多孔質3次元デバイスは、立方体、直方体、角錐、角柱、または多面体である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの多孔質3次元デバイスは、100~450ミクロンの細孔を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの多孔質3次元デバイスは、少なくとも0.5mLの最大収容水量を有する。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、インキュベーションは、少なくとも1つの多孔質3次元デバイスをサンプル内に一定期間完全にまたは部分的に浸漬することを含む。いくつかの実施形態では、インキュベーションは、さらに、サンプル中に完全にまたは部分的に浸漬された少なくとも1つの多孔質3次元デバイスを撹拌することを含む。いくつかの実施形態では、インキュベーションは、さらに、標的細胞由来成分と結合剤の相互作用を促進する結合組成物を添加することを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、サンプルは、生物学的サンプルである。いくつかの実施形態では、生物学的サンプルは、対象から得られる。いくつかの実施形態では、対象は、疾患または障害を有するか、または有すると疑われる。いくつかの実施形態では、サンプルは、少なくとも1mL(例えば、少なくとも50mL)の体積を有する。
【0008】
いくつかの実施形態では、標的細胞由来成分は、細胞フラグメントを含む。いくつかの実施形態では、標的細胞由来成分は、生体分子を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、標的細胞由来成分は、細胞外小胞を含む。いくつかの実施形態では、標的細胞由来成分は、エクソソームを含む。いくつかの実施形態では、標的細胞由来成分は、がん細胞由来エクソソームを含む。いくつかの実施形態では、結合剤は、アネキシンVを含む。いくつかの実施形態では、結合組成物は、カルシウムを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの多孔質3次元デバイスは、1mL当たり2×108個を超えるエクソソームの最大エクソソーム結合容量を有する。
【0010】
いくつかの実施形態では、方法は、さらに、標的細胞由来成分を分析することを含む。いくつかの実施形態では、分析は、標的細胞由来成分に対する生物学的アッセイを実施することを含む。
【0011】
さらに、本明細書では、結合剤と共にコンジュゲートされたポリマー系表面を含む3次元多孔質デバイス及びその製造方法が開示される。いくつかの実施形態では、デバイスは、多孔質立方体である。
【0012】
さらに、本明細書に開示の多孔質3次元デバイス、または本明細書に開示の多孔質3次元デバイスを製造するために必要な構成要素を含むシステムまたはキットが、本明細書で開示される。
【0013】
本開示の他の態様及び実施形態は、以下の詳細な説明及び添付の図に照らして明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】生物学的サンプル中の細胞外小胞に対する高い親和性を付与するためのエクソソーム捕捉分子(例えば、アネキシンV、抗CD63など)の機能化を含む、本明細書に開示の例示的な
PorousExoChip(ExoSponge)デバイスの概略図である。
【
図2】循環バイオマーカーを単離するための多孔質PDMS立方体の製造及び表面改質の概略図である。Aは、角砂糖の足場を使用して、本明細書に開示のデバイスの作成を示す。Bは、ピラニア溶液酸化とそれに続くニュートラアビジンアネキシンV処理による機能化を示す。
【
図3】ビオチン化蛍光染料を使用した表面機能化の評価を示す。Aは、機能化デバイスと対照デバイスの間の蛍光強度の定量分析のグラフである。B及びCは、機能化デバイス(B)及び対照デバイス(C)の蛍光画像である。
【
図4】
PorousExoChipの表面改質を示す。Aは、水吸収のために、表面を親水性にすることを示す。Bは、ホスファチジルセリンタンパク質とのアネキシンVのコンジュゲートされた結合相互作用を示す。
【
図5A】多孔質微細構造分析を示す。高い表面相互作用を可能にする多孔質微細構造の画像である。
【
図5B】多孔質微細構造分析を示す。親水性の水吸収を示す。
【
図5C】多孔質微細構造分析を示す。PDMSの細孔径の分布を示すグラフである。
【
図6A】
PorousExoChipを使用したエクソソームの単離を示す。インキュベーション時間の最適化のグラフであり、これは、時間の経過に伴うEVの単離の増加を示す。
【
図6B】
PorousExoChipを使用したエクソソームの単離を示す。従来の超遠心分離法によるエクソソーム単離法と比較した、本明細書に開示の例示的なデバイス及び方法によるエクソソーム単離性能のグラフである。
PorousExoChipでは、エクソソームの単離が2倍になった。
【
図6C】
PorousExoChipを使用したエクソソームの単離を示す。回収されたエクソソームの純度による、
PorousExoChipと超遠心分離法の間のエクソソームの単離を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
多孔質構造(例えば、PDMS)を含み且つ標的細胞由来成分(例えば、細胞外小胞(EV))を単離する安価で効率的な手段を提供するように機能化されたデバイスが本明細書で開示される。超遠心分離法などの従来のEV単離方法は、実験室で操作する高価な機器を必要とし、また、少ないサンプル量に制限される。マイクロ流体デバイスは、大量の体液サンプルのような大きいサンプル量を処理できないので、EV単離での使用が制限される。開示されるデバイスは、超遠心分離法をはるかに超える捕捉結果を示し、大容量のサンプルを分析する能力を有する。いくつかの実施形態では、デバイスは、ポリマー成形用の砂糖の足場を使用して作成され、その後、水性生物学的サンプルに適合させる酸化処理が行われる。特定の結合剤で機能化した後、デバイス表面は、標的細胞由来成分に対して高い親和性を含む。
【0016】
このセクション及び本明細書で開示全体で使用されるセクション見出しは、単に構成目的のためだけのものであり、制限を意図するものではない。
【0017】
1.定義
本明細書で使用される用語「を含む(comprise)」、「を含む(include)」、「を有する(having)」、「を有する(has)」、「できる」、「を含有する」、及びそれらの変形は、追加の行為または構造の可能性を排除しないオープンエンドな移行句、用語、または単語であることが意図される。単数形「a」、「and」、及び「the」は、文脈に別途明示のない限り、複数形の指示対象も含む。本開示は、明示的に記載されているか否かに関わらず、本明細書に提示される実施形態または要素「を含む(comprising)」、「からなる(consisting of)」、及び「から本質的になる(consisting essentially of)」他の実施形態も企図する。
【0018】
本明細書における数値範囲の記載では、その間の各介在数が同じ精度で明示的に企図される。例えば、6~9の範囲については、数字7及び8は、6及び9に加えて企図され、6.0~7.0の範囲については、数字6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、及び7.0が明示的に企図される。
【0019】
本明細書において別途定義されない限り、本開示に関連して使用される科学用語及び技術用語は、当業者により一般に理解される意味を有するものとする。用語の意味及び範囲は明確でなければならないが、何らかの潜在的な曖昧さが発生する場合は、本明細書で提供する定義を、あらゆる辞書または外的な定義に優先する。さらに、別途文脈により要求されない限り、単数形の用語は、複数形も含み、複数形の用語は、単数形も含む。
【0020】
「バイオマーカー」は、生物学的化合物、例えば、タンパク質及びそのフラグメント、ペプチド、ポリペプチド、プロテオグリカン、糖タンパク質、リポタンパク質、炭水化物、脂質、核酸、有機または無機化学物質、天然ポリマー、細胞フラグメント、エクソソーム、及び小分子を含み、これは、生物学的サンプル中に存在し、生物学的サンプルから単離されるか、またはそれの中で測定され得る。さらに、バイオマーカーは、部分的に機能するか、または、例えば、抗体もしくは他の特定の結合タンパク質により認識され得るインタクト分子全体またはその一部であってよい。バイオマーカーは、特定の病期などの対象の所望の状態に関連し得る。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、がんバイオマーカー(例えば、循環腫瘍DNA)、タンパク質バイオマーカー(例えば、前立腺特異抗原、アルファフェトプロテイン、癌胎児性抗原)である。バイオマーカーの測定可能な態様は、例えば、対象由来の生物学的サンプル中のバイオマーカーの存在、不在、もしくは濃度、及び/または標準(例えば、内部もしくは健常対象由来)と比較した測定可能な態様のいずれかの相対的な変化を含んでもよい。測定可能な態様は、2つ以上のバイオマーカーの2つ以上の測定可能な態様の比であってもよい。本明細書で使用されるバイオマーカーは、2つ以上の個々のバイオマーカーの測定可能な態様を含むバイオマーカープロファイルも包含する。2つ以上の個々のバイオマーカーは、例えば、核酸及び炭水化物などの同じもしくは異なるクラスのバイオマーカー由来のものであり得るか、または、例えば、1つのバイオマーカーの不在及び別のバイオマーカーの濃度などの同じもしくは異なる測定可能な態様を測定し得る。バイオマーカープロファイルは、任意数の個々のバイオマーカーまたはその特徴を含んでもよい。別の実施形態では、バイオマーカープロファイルは、少なくとも1つの内部標準の少なくとも1つの測定可能な態様を含む。バイオマーカーを識別及び定量する方法は、当該技術分野で周知であり、組織学的及び分子学的方法、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及び他の免疫測定法、ゲル電気泳動タンパク質及びDNAアレイ、質量分析法、比色分析法、電気化学分析法、ならびに蛍光法を含む。
【0021】
本明細書で使用される「生体分子(複数可)」という用語は、生物により通常生成される分子を指す。これらの分子は、細胞外または細胞内に存在するペプチド、タンパク質、糖タンパク質、核酸、脂肪酸または脂質、及び糖を含んでもよい。
【0022】
「精製」または「単離」または「分離」という用語は、完全か部分的かに関わらず、標的細胞由来成分を含有する混合物から少なくとも1つの不純物の除去(それにより、(例えば、組成物中の不純物(複数可)の量または割合を減少させることにより)標的細胞由来成分の純度レベルを改善させる)を意味するために使用される。
【0023】
「対象」または「患者」は、ヒトまたは非ヒトであってよく、例えば、研究目的の「モデル系」として使用される動物の系統または種(例えば、本明細書に記載のマウスモデル)を含んでもよい。同様に、患者には、成人または青少年(例えば子供)が含まれ得る。さらに、患者は、本明細書で企図される組成物の投与から利益を得ることができる任意の生体、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒトまたは非ヒト)を意味し得る。哺乳動物の例としては、限定するものではないが、哺乳動物クラスの任意のメンバー:ヒト、非ヒト霊長類、例えば、チンパンジー、ならびに他の類人猿及びサル種;家畜、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ;飼育動物、例えば、ウサギ、イヌ、及びネコ;げっ歯類を含む実験動物、例えば、ラット、マウス及びモルモットなどが挙げられる。非哺乳動物の例としては、鳥類、魚類などが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0024】
好ましい方法及び材料を以下に記載するが、本明細書に記載のものと同様または同等の方法及び材料を、本開示の実施または試験に使用することができる。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照により、それらの全体が組み込まれる。本明細書で開示された材料、方法、及び例は、例示のみを目的としており、限定するものではない。
【0025】
2.標的細胞由来成分の精製
本開示は、標的細胞由来成分を精製または単離する方法を提供する。方法は、少なくとも1つの多孔質3次元デバイスと共にサンプルをインキュベートすること(各デバイスが、標的細胞由来成分に対する結合剤とコンジュゲートされたポリマー系表面を含む);未結合のサンプルを除去すること;及び、標的細胞由来成分と結合剤の相互作用を破壊するように構成された溶出バッファー組成物を用いて、標的細胞由来成分を溶出させること、を含んでもよい。いくつかの実施形態では、方法は、遠心分離法を含まない。
【0026】
a)多孔質3次元デバイス
本開示は、さらに、標的細胞由来成分の精製または単離に使用される多孔質3次元デバイスを提供する。デバイスは、限定されないが、立方体、直方体、角錐、角柱、または多面体を含む任意の3次元形状であってよい。いくつかの実施形態では、デバイスは、立方体である。
【0027】
多孔質3次元デバイスは、サイズが様々であってよく、一般には、いずれか1つまたは全ての寸法(例えば、長さ、幅、高さ)が0.25cm~5cmである。いくつかの実施形態では、多孔質3次元デバイスは、任意の1次元において、約0.5cm、約0.75cm、約1.0cm、約1.25cm、約1.5cm、約1.75cm、約2.0cm、約2.5cm、約3.0cm、約3.5cm、約4.0cm、または約4.5cmである。いくつかの実施形態では、多孔質3次元デバイスは、全ての寸法が、0.25cm~5cmの立方体である。
【0028】
いくつかの実施形態では、デバイスは、約100ミクロン~約450ミクロンの範囲の細孔を含む。いくつかの実施形態では、デバイス全体の平均細孔径は、200~300ミクロンである。
【0029】
多孔性により、3次元デバイスは、サンプルの水量を収容または保持し得る。いくつかの実施形態では、デバイスは、少なくとも0.5mLの最大収容水量を有する。いくつかの実施形態では、デバイスは、少なくとも0.6mL、少なくとも0.7mL、少なくとも0.8mL、少なくとも0.9mL、少なくとも1.0mL、少なくとも1.2mL、少なくとも1.5mL、またはそれ以上の最大収容水量を有する。従って、3次元デバイス自体は、可変の体積を有する。いくつかの実施形態では、体積は、1.0cm3超、1.25cm3超、1.5cm3超、1.75cm3超、2.0cm3超、2.25cm3超、2.5cm3超、3.0cm3超、またはそれ以上である。
【0030】
3次元デバイスは、ポリマー系表面を含む。デバイスに使用するのに適したポリマーは、エラストマー(例えば、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂)を含む。ポリマーは、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(オキセタン)、ポリイソプレン、ポリブタジエン、フルオロオレフィン系フルオロエラストマーなどからなる群より選択され得る。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ジメチルポリシロキサンまたはジメチコンとしても既知のポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む。
【0031】
ポリマー系表面は、標的細胞由来成分に対する結合剤とコンジュゲートしているか、またはそれを含む。結合剤の性質は、標的細胞由来成分に依存するであろう。「結合剤」は、本明細書では、標的細胞由来成分に結合して、これと複合体を形成する種(例えば、タンパク質、核酸、炭水化物)を指すために使用される。結合剤は、標的細胞由来成分に特異的に結合する。結合剤は、抗体、ならびにその抗原結合フラグメント、ならびに当該技術分野で既知の他のその様々な形態及び誘導体、ならびに抗原分子または抗原分子上の特定の部位(エピトープ)に結合する1つ以上の抗原結合ドメインを含む他の分子を含む。抗原と抗体の特異的結合ペアに加えて、他の特異的結合剤としては、ビオチンとアビジン(またはストレプトアビジン)、炭水化物とレクチン、相補的ヌクレオチド配列、エフェクター分子と受容体分子、補因子と酵素、酵素と酵素阻害剤などが挙げられ得る。
【0032】
従って、本開示は、結合剤とコンジュゲートされたポリマー系表面を含む3次元多孔質デバイスを提供する。提供された方法で使用される3次元多孔質デバイスについて上で提供された記載(例えば、3次元形状、ポリマー、及び結合剤)は、開示のデバイスにも適している。
【0033】
いくつかの実施形態では、デバイスは、多孔質立方体である。いくつかの実施形態では、ポリマー系表面は、PDMSを含む。いくつかの実施形態では、PDMSは、親水性にするために酸化される。
【0034】
いくつかの実施形態では、デバイスは、1.0~2.0mL(例えば、約1.0mL、約1.2mL、約1.5mL、約1.7mL、または約2.0mL)の最大収容水量を有する。
【0035】
多孔質3次元デバイスを製造する方法も本明細書で提供される。方法は、3次元多孔質足場(足場は除去可能)を提供すること、ポリマーもしくはポリマー前駆体で3次元多孔質基材を覆うこと、覆われた多孔質基材をインキュベートすること、ポリマーもしくはポリマー前駆体を硬化させること、及び足場を除去すること、を含む。
【0036】
3次元多孔質足場は、限定されないが、立方体、直方体、角錐、角柱、または多面体を含む上述の任意の形状であってよい。いくつかの実施形態では、足場は、立方体である。
【0037】
足場は、最終的なデバイス構造または3次元多孔性を損なわない何らかの機序により除去可能である。例えば、足場は、様々な溶媒に溶解可能であっても、酵素で消化可能であってもよい。いくつかの実施形態では、足場は、様々な温度及び条件で様々な溶媒系(例えば、水、バッファー、アルコール)に溶解する炭水化物を含む。いくつかの実施形態では、足場は、角砂糖である。
【0038】
開示の方法について上で記載されるように、製造方法で使用されるポリマーまたはポリマー前駆体は、エラストマー(例えば、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂)を含む。ポリマーは、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(オキセタン)、ポリイソプレン、ポリブタジエン、フルオロオレフィン系フルオロエラストマーなどからなる群より選択され得る。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ジメチルポリシロキサンまたはジメチコンとしても既知のポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む。
【0039】
足場全体を覆うために必要なポリマーの量は、足場の性質により異なるであろう。好ましくは、足場全体(内部細孔と外部表面の両方)の周囲に均一なコーティングを確保するために、過剰のポリマーが使用される。
【0040】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、さらに、硬化剤または架橋剤を含む。選択されたポリマーに基づいて、最終製品に達するまでに硬化剤が必要になることがあるが、いくつかのポリマーは、自己硬化する。硬化剤は、十分な重合を達成するためにプレポリマーとポリマーの間の反応に参加する任意の物質である。一般的な硬化剤は、ポリアジリジン、カルボジイミド、ポリイソシアネート、及びシランを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、疎水性であってよく、その結果、方法は、さらに、ポリマー表面を親水性にすることを含む。いくつかの実施形態では、ポリマー表面に親水性を付与することは、ポリマー表面の酸化を含む。酸化は、O2プラズマ処理ならびに/または強酸及び過酸化物を利用する溶液系の方法を含んでもよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、方法は、結合剤によるポリマーの機能化を含む。結合剤の機能化またはコンジュゲーションは、例えば、アビジン-ストレプトアビジン、ビオチン、臭化シアンカップリング、及び/またはリンカーの使用を含む、当該技術分野で既知の多数の方法により達成され得る。結合剤は、二官能性試薬などのカップリング剤を使用してポリマーに直接結合することも、間接的に結合することもできる。好ましい方法は、目的の用途、結合剤、サンプル、または標的細胞由来成分と結合剤の相互作用に必要な結合条件に基づく。上記で提供された結合剤の種類の記載は、本明細書で使用するのに適している。
【0043】
開示のデバイスまたは本明細書に開示の方法により製造されたデバイスは、本明細書に記載される標的細胞由来成分を精製及び単離するための方法に使用するのに等しく適している。
【0044】
b)インキュベーション及び溶出
次に、サンプルと多孔質3次元デバイス(複数可)の混合物がインキュベートされる。いくつかの実施形態では、インキュベーションは、少なくとも1つのデバイスをサンプル内に一定期間完全にまたは部分的に浸漬することを含む。
【0045】
標的細胞由来成分の濃度のサンプル量に基づいて、好適な数のデバイスを使用することができる。従って、方法は、さらに、サンプル量及び標的細胞由来成分濃度に基づいて、所望の量の細胞由来成分濃度を効率的に単離または精製するために必要なデバイスの数と、インキュベーションに必要な容器のサイズを選択することを含んでもよい。いくつかの実施形態では、より大きなサンプルサイズのために、2つ以上のデバイスが使用され、より大きな容器にスケールアップされる(例えば、20mL以上のチューブまたはフラスコ内の10mLに対して5つのデバイス、50mL以上のチューブまたはフラスコ内の20mLに対して10のデバイスなど)。
【0046】
インキュベーションは、任意の程度の加熱または冷却(加熱または冷却なしを含む)を用いる任意の温度、例えば、5℃、20℃、もしくは周囲の室温、または37℃であり得る。インキュベーション時間は、変動し得るが、決して、制限されるものではない。例えば、インキュベーションは、10分と一晩(例えば、16時間)の間のいずれでも行うことができる。インキュベーションは、撹拌の有無に関わらず行うことができ、またインキュベーション期間中の撹拌は一定または断続的に行うことができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、インキュベーションは、さらに、標的細胞由来成分と結合剤の相互作用を促進する結合組成物を添加することを含む。例えば、いくつかの実施形態では、結合組成物は、標的細胞由来成分と結合剤の相互作用に必要な補因子、pH、または伝導性を提供する。
【0048】
インキュベーション後、得られる未結合サンプルをデバイス(複数可)から除去することができる。未結合サンプルが除去されると、デバイス(複数可)は、標的細胞由来成分と結合剤の相互作用を妨げないが、非標的サンプル成分のデバイスまたは結合剤との非特異的相互作用を除去する適切なバッファーまたは結合組成物で洗浄され得る。
【0049】
標的細胞由来成分は、細胞由来成分と結合剤の相互作用を破壊するように構成された溶出バッファー組成物を用いてデバイスから除去することができる。例えば、溶出バッファーは、塩の濃度の増加、非生理学的pH(例えば、酸性もしくは塩基性)、カオトロープもしくは変性剤、キレート剤、または競合結合剤を有し得る。
【0050】
c)サンプル
本明細書で使用される場合、「サンプル」という用語は、最も広い意味で使用される。ある意味では、生物学的サンプル及び環境サンプルを含む、あらゆる供給源から取得された標本を含むことを意味する。生物学的サンプルは、動物(ヒトを含む)から取得され得、体液、固体、及び/または組織を包含する。しかし、そのような例は、サンプルの種類を制限するものとして解釈されるべきではない。いくつかの実施形態では、サンプルは、液体サンプルなどの流体サンプルである。本明細書に開示のデバイスで使用するのに適した液体サンプルの例としては、体液(例えば、血液、血清、血漿、唾液、尿、眼液、精液、痰、汗、涙、及び脊髄液)、水サンプル(例えば、海洋、海、湖、川などの水のサンプル)、家庭、地方自治体、または工業の水源、流出水、または下水サンプルからのサンプル;及び食品サンプル(例えば、牛乳、ビール、ジュース、またはワイン)が挙げられる。サンプルとなり得る液体溶液、溶出液、懸濁液、または抽出物を作成するために、粘性液体、半固体、または固体の標本が使用され得る。液体サンプルは、固体、半固体、または高粘性の材料、例えば、糞便の物質、組織、臓器、生体液、または事実上液体ではない他のサンプル、から作製することができる。例えば、固体または半固体のサンプルは、適切な溶液、例えば、バッファー、希釈液、及び/または抽出バッファーと混合することができる。サンプルは、液体サンプルを形成するために、浸軟、凍結及び解凍、または他の方法で抽出することができる。残留粒子は、濾過または遠心分離などの従来の方法を使用して除去または低減され得る。サンプルは、生物学的物質、例えば、細胞、微生物、細胞小器官、及び生化学複合体を含み得る。
【0051】
生物学的サンプルは、任意の好適な対象、通常は、哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、ウマ、非ヒト霊長類、またはヒト)から取得され得る。好ましくは、対象は、ヒトである。サンプルは、任意の好適な生物学的供給源、例えば、生理液(限定されないが、全血、血清、血漿、間質液、唾液、眼水晶体液、脳脊髄液、汗、尿、乳、腹水液、粘液、滑液、腹腔液、膣液、月経、羊水、精液、糞便などを含む)から取得され得る。いくつかの実施形態では、サンプルは、血液または血液製剤である。血液製剤は、ヒト血液から調製される任意の治療用物質である。これは、全血、血液成分(例えば、赤血球濃縮物または懸濁液;全血からまたはアフェレーシス療法により生成された血小板;血漿;血清及びクリオプレシピテート);ならびに血漿誘導体(例えば、凝固因子濃縮物)を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、サンプルは、疾患または障害を有するか、または有すると疑われる対象から得られた生物学的サンプルである。
【0053】
サンプルは、当業者らに既知の通常の手法を使用して対象から取得することができ、サンプルは、生物学的供給源から取得されたまま、またはサンプルの特性を変更するための前処理後に、使用されてもよい。そのような前処理としては、例えば、血液から血漿を調製すること、粘性流体を希釈すること、濾過、沈殿、希釈、蒸留、混合、濃縮、妨害成分の不活化、試薬の添加、溶解などが挙げられ得る。サンプルは、新たに収集されたサンプル、または冷凍もしくは冷蔵保存されているサンプル由来のものであってよい。
【0054】
方法は、任意量のサンプルに適する。有利なことに、開示のデバイス及び方法を使用して、大きなサンプルを効果的に処理することができる。いくつかの実施形態では、サンプルは、得られた時または処理後のいずれかで、少なくとも1mL(例えば、少なくとも5mL、少なくとも10mL、少なくとも20mL、少なくとも30mL、少なくとも40mL、少なくとも50mL、少なくとも60mL、少なくとも70mL、少なくとも100mL、またはそれ以上)の液量を有する。いくつかの実施形態では、サンプルの液量は、少なくとも50mLである。
【0055】
d)標的細胞由来成分
デバイスは、結合剤で結合している標的細胞由来成分の保持を促進するが、他のサンプル成分は、溶液中に残る。細胞由来成分は、細胞の任意の成分であっても、細胞または細胞のフラグメントに由来するものであってもよい。細胞由来成分は、限定されないが、巨大分子(例えば、タンパク質及び核酸)、生体分子複合体(例えば、リボソーム)、構造体(例えば、膜及び細胞小器官)、ならびに細胞外成分(例えば、細胞外小胞)を含む、細胞のまたは細胞に由来する任意の生体分子または構造を含んでもよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、標的細胞由来成分は、細胞外小胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞由来成分は、エクソソームである。
【0057】
広く受け入れられている定義を利用する統一された小胞の命名及び分類システムは、当該分野では理解しにくい。本明細書で使用される「細胞外小胞」という用語は、直径(または粒子が球状でない場合は最大寸法)が約30nm~10,000nmである脂質膜粒子を指す。細胞外小胞は、エクソソーム、エクトソーム、微小胞、微粒子、プロスタソーム、トレロソーム(食餌性抗原に対する免疫寛容を誘導)、アポトーシス小体(アポトーシス細胞により放出)、及びナノ小胞を包含する。本明細書で使用される「エクソソーム」という用語は、直径(または粒子が球状でない場合は最大寸法)が約30nm~150nmである膜状粒子を指し、エクソソームの膜の少なくとも一部は、細胞から直接取得されるか、または細胞に由来する。最も一般に、エクソソームは、サイズ(平均直径)が、ドナー細胞のサイズの最大5%である。それ故、特に考慮されたエクソソームは、細胞から排出されるものを含む。本明細書で使用される場合、本発明の細胞外小胞またはエクソソームは、特定のサイズまたはサイズ範囲により限定されることが意図されるものではない。
【0058】
エクソソームは、細胞膜または内部膜のいずれかに由来する膜結合粒子を含んでもよい。エクソソームは、ヘルニア状の膨出分離と細胞膜の部分の密閉の両方から生じる、または、腫瘍起源の様々な膜関連タンパク質(エクソソーム内腔に含有される分子(腫瘍由来マイクロRNAまたは細胞内タンパク質を含む)と共に腫瘍由来タンパク質に選択的に結合する、宿主循環に由来する表面結合分子を含む)を含有する任意の細胞内の膜で囲まれた小胞構造体の排出から生じる、脂質二重膜で囲まれた細胞由来構造体も含み得る。エクソソームは、膜フラグメントも含み得る。
【0059】
従って、いくつかの実施形態では、本開示は、生物学的サンプルからエクソソームを精製または単離する方法を提供する。これらの方法は、本明細書に開示されるように、少なくとも1つの多孔質3次元デバイス(それぞれが、エクソソーム特異的結合剤を含む)を用いて生物学的サンプルをインキュベートすること、未結合のサンプルを除去すること、結合しているエクソソームを溶出させることを含んでもよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のデバイス及び方法は、従来の遠心分離法及びマイクロ流体系の方法よりも少なくとも2倍多くのエクソソームを精製し得る。いくつかの実施形態では、デバイスは、最大エクソソーム結合容量が、1mL当たり2×108個を超える。いくつかの実施形態では、最大エクソソーム結合容量は、1mL当たり約2×108個を超えるエクソソーム、1mL当たり約2.5×108個を超えるエクソソーム、1mL当たり約3×108個を超えるエクソソーム、1mL当たり約3.5×108を超えるエクソソーム、1mL当たり約4×108個を超えるエクソソーム、1mL当たり約4.5×108個を超えるエクソソーム、または1mL当たり約5×108個を超えるエクソソームである。
【0061】
細胞外小胞及びエクソソームの精製に使用するのに適したデバイス及び方法では、結合剤は、細胞外小胞もしくはエクソソーム、または細胞外小胞もしくはエクソソームのサブセット(例えば、疾患または組織または起源)のかなり遍在する表面成分に結合する任意の物質であり得る。好適な表面成分としては、例えば、Alix及びTsg101、テトラスパニン(例えば、CD63、CD81、CD9)、セレクチン、インテグリン、CD40、ならびに他のエンドソーム関連タンパク質、例えば、Rab GTPase、SNARE、及びフロチリンが挙げられる。いくつかの実施形態では、がん関連表面タンパク質、例えば、EGFR、EpCAM、KRAS、CD24、CA-125、MUC18、HER2、CD44、前立腺特異抗原などを使用することができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、結合剤は、アネキシンVを含む。アネキシンVを結合剤として使用する場合、細胞外小胞の表面に発現するリン脂質(例えば、ホスファチジルセリン)がカルシウムの存在下でアネキシンVに結合するので、結合組成物は、カルシウムを含んでもよい。適切には、溶出バッファーは、キレート剤を含んでもよく、それにより、カルシウムが除去され、ホスファチジルセリン-アネキシンV相互作用が破壊される。
【0063】
エクソソーム及び細胞外小胞は、多数の目的で哺乳動物細胞により放出され得る。例えば、妊娠中は、エクソソームが、特定のT細胞の生成を阻害し、それにより、胎児が保護される。特定の細菌感染の場合、感染細胞に由来するエクソソームが、細菌の抗原フラグメントを発現して、病原体に対する免疫系を刺激する。がんは、免疫系を回避するために、エクソソームの免疫調節特性を使用することが仮定されている。循環エクソソームマーカーを分子特性及びリアルタイムの臨床パラメータと相関させることにより、循環エクソソームの使用により、「液体生検」が作成される。標的細胞由来成分は、疾患、障害、または状態に特有のエクソソーム及び細胞外小胞を含んでもよい。
【0064】
いくつかの実施形態では、細胞由来成分は、がん細胞由来エクソソームを含む。がん細胞は、限定されないが、乳癌、肺癌、頭頸部癌、前立腺癌、食道癌、気管癌、脳瘍、肝臓癌、膀胱癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、精巣癌、結腸癌、直腸癌、または皮膚癌を含む任意のがんであってよい。
【0065】
方法は、さらに、精製された細胞外小胞またはエクソソームを用いて、生物学的アッセイを分析または実施することを含んでもよい。いくつかの実施形態では、分析は、さらに、サンプル中の細胞外小胞またはエクソソームを定量することを含む。いくつかの実施形態では、分析は、さらに、細胞外小胞またはエクソソームを、単離し、バイオマーカー(例えば、DNAもしくはRNAもしくはタンパク質またはそれらの任意の組み合わせ)あるいは抗原の存在または量について分析すること、を含む。
【0066】
従って、いくつかの実施形態では、方法は、さらに、対象における疾患または障害(例えば、がん)を診断または予測すること、を含んでもよい。いくつかの実施形態では、方法は、さらに、得られた情報に基づいて、対象を処置することを含む。例えば、対象は、1つ以上の治療薬(例えば、化学療法薬)または放射線を投与されても、手術または他の医療処置を受けてもよい。
【0067】
3.システムまたはキット
開示のデバイス、または開示のデバイスの作製もしくは使用に必要な1つ以上の構成要素を含むシステムまたはキットも、本開示の範囲内にある。例えば、いくつかの実施形態では、システムまたはキットは、以下のうちの少なくとも1つまたは全てを含む:多孔質足場、ポリマーまたはポリマー前駆体、結合剤、ポリマーの機能化または結合剤のポリマーへの結合に必要な任意の成分、結合バッファー、及び溶出バッファー。
【0068】
いくつかの実施形態では、システムまたはキットは、開示のデバイスと共にサンプルをインキュベートするのに適した容器を含んでもよい。各構成要素は、使用のためにそれぞれの容器中に提供され得る。例えば、システムまたはキットは、サンプルのインキュベートに使用するのに適した容器内に、開示のデバイスの1つ以上(例えば、2、5、10、15、20など)を含んでもよい。いくつかの実施形態では、サンプルのインキュベーションに使用するのに適した容器は、バイアル、ボトル、ジャー、フラスコ、細胞培養デバイス、フレキシブルバッグ、または他のフレキシブル包装などを含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、システムまたはキットは、さらに、サンプルを調達または処理するための材料を含んでもよい。
【0070】
システムまたはキットの個々のメンバー構成要素は、物理的に一緒または別々に包装されてもよい。システムまたはキットの構成要素は、大量包装(例えば、多目的包装)または使い捨て包装で提供され得る。本明細書で提供されるシステムまたはキットは、好適な包装内にある。好適な包装としては、バイアル、ボトル、ジャー、フレキシブル包装などが含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
システムまたはキットは、キットの構成要素を使用するための使用説明書も含み得る。使用説明書は、システムまたはキットに関連する関連資料または方法論である。資料は、以下の任意の組み合わせを含んでもよい:背景情報、構成要素のリストとその入手可能性情報(購入情報など)、組成物を使用するための簡潔または詳細なプロトコール、トラブルシューティング、参考資料、技術サポート、及び任意の他の関連文書。使用説明書は、システムもしくはキットと共に、または別々のメンバー構成要素として、紙形式もしくは電子形式(コンピュータ可読メモリデバイスで供給されても、インターネットのウェブサイトからダウンロードされてもよい)のいずれかとして、または記録されたプレゼンテーションとして、供給することができる。
【0072】
開示のシステムまたはキットは、開示の方法と関連して用いることができると理解される。
【実施例】
【0073】
4.実施例
材料及び方法
多孔質PDMSの調製:デバイスは、多孔質構造の最初の型として角砂糖の足場を利用した。調製は、PDMS前駆体及び硬化剤を10:1の比で、2.05cm3の角砂糖を完全に覆うことから始めた。デバイスを真空チャンバー内に約1時間入れ、PDMSの糖への完全な透過を可能にした。PDMSの高分解能により、ナノスケールでの浸透が可能になる。次に、PDMSを、オーブン内で一晩約74℃で硬化させるように設定した。糖と組み合わせたPDMSデバイスを容器から取り出し、次に、立方体を切り出す。次に、糖足場を溶解させるために、それらを85℃の湯浴に1時間入れ、過飽和になる場合は湯浴を交換する。すべての残存糖を溶解させるために、立方体を70%のエタノール浴に一晩置いた。機能化の調製のために、デバイスを絞り、乾燥させた。
【0074】
多孔質PDMSの機能化:多孔質立方体は、PDMSの組成により本質的に非極性であった。これは、生物学的サンプルなどの水溶液の吸収には適していない。親水性デバイスの作成は、デバイスの大きな表面積を完全に酸化する必要があった。材料の密度により、従来のO
2プラズマ処理は、効果的な酸化剤として十分には浸透しないであろう。代わりに、硫酸及び過酸化水素の混合物を含有するピラニア溶液浴で、デバイスを処理して、デバイスの表面を親水性にした(
図4A)。10分後に、デバイスを取り外し、水及びエタノールで慎重にすすいだ。材料のがんEVに対する選択的親和性を可能にするために、多孔質PDMSに、シラン化、GMBS曝露、及びストレプトアビジンコンジュゲーションを含む機能化処理を行った(
図2)。これらのステップに続いて、ビオチン化アネキシンV処理(Y-T.Kang,et al.,Small 15(2019),1903600、全体が参照により本明細書に組み込まれる)を行って、表面を、がん由来エクソソームに対して選択的にした。
【0075】
PorousExoChipを使用したエクソソームの単離及び放出:開示のデバイスの多孔質の高表面積構造は、細胞外小胞(EV)の中容量のサンプルの単離に使用することができる。主に超遠心分離法の高速回転におけるカプセルの容量が限られているので、超遠心分離法(約40ml)または従来のマイクロ流体デバイス(1ml未満)では、大きなサンプルサイズのEV分析は不可能である。しかし、PorousExoChipの免疫系分離は、同様の物理的制約により制限されない。完全に機能化すると、デバイスを、より迅速なEV単離を可能にするミリリットルスケールのサンプルサイズに導入することができる。
【0076】
完全な機能化後に、カルシウムイオンを含有する結合バッファーと共に、がん由来エクソソームを含有する生物学的サンプルに、デバイスを導入した。次に、デバイスを、50mLの密封チューブ内でインキュベートし、40分間のインキュベーション時間でロッカーに設置した。デバイスを取り外し、洗浄プレート上に置き、結合バッファーですすいだ。次に、表面タンパク質とアネキシンVコンジュゲートPDMS間の親和性を破壊することにより、捕捉されたエクソソームを放出するために、それらをEDTA処理に供した。
【0077】
実施例1
多孔質PDMS
様々なデバイス立方体のサイズ及びEVとの相対的な相互作用を比較する最適化実験を実行した。小さい立方体(相対表面積が大きい)が、エクソソームの単離で、より効果的であったことを、これらの試験は実証した。しかし、最終的には、追加の手順及び実験者の難易度の増加が、小さい立方体の優れた単離を上回った。最適化されたデバイスのサイズは、足場として使用された角砂糖に近い寸法を有していた。それは、約2.05cm
3の体積を有し、酸化されたデバイスは、約1.4mLの水量を保持していた(
図5B)。これらの比較的大きな体積により、大容量分析が可能になった。顕微鏡分析後に、平均細孔径は、約270ミクロンであり、細孔の範囲は、100~450ミクロンであった(
図5A及び5C)。平均外表面細孔径は、デバイスの中間層よりも小さかった。
【0078】
実施例2
PorousExoChipを使用したエクソソームの単離
エクソソームの単離は、アネキシンV処理したPDMSとがん由来エクソソーム間の免疫親和性相互作用を利用した。結合バッファー(BB)が存在する場合に、EVの表面に発現しているホスファチジルセリンタンパク質がデバイスに結合するので、これが生じた。BBは、この相互作用に必要なカルシウムイオンを導入する(
図4B)。エクソソーム単離手順の最適化中に、デバイスの数、インキュベーション時間、及びインキュベーション環境を試験した。生物学的サンプルの体積当たりの立方体デバイスの最適数は、サンプル2.5mL当たり1個のデバイスの比であると決定された。インキュベーション時間は、エクソソームの取り込みに影響を及ぼしたが、40分のインキュベーション時間が、最も実用的であることがわかった(
図6A)。最後に、インキュベーション環境の実験を通じて、サンプルのデバイスへの浸透に関しては、遠心分離処理と比較して、単純なロッカー設定が好適であった。
【0079】
生物学的サンプルにおける従来のエクソソーム単離は、成功しているが、制御された実験室環境で操作しなければならない高価な機器が必要である。しかし、開示のPDMSデバイスは、EV単離の効果的な手段にもなるように機能化することができ、はるかに低コストで、これらの従来の手順よりも性能が優れている。開示の多孔質デバイスを超遠心分離法などの従来の単離方法と比較すると、PorousExoChipは、優れたエクソソーム単離を実証する。
【0080】
PorousExoChipでは、超遠心分離法の2倍のエクソソーム濃度が測定された。開示のデバイスの総EV濃度は、1mL当たり約4.3×10
8個のエクソソームであったが、超遠心分離法では1mL当たり約1.8×10
8個のエクソソームしか得られなかった。優れたEV収量に加えて、超遠心分離法と比較した場合、単離されたEVサンプルの純度(サンプル内のエクソソームサイズの小胞の割合(%))に優位な差異はなかった。双方ともに、純度の中央値が、70%を超えていた(
図6B及び6C)。
【0081】
上述の詳細な説明及び付随する実施例は、単なる例示であり、添付の請求項及びその同等物によりのみ定義される開示の範囲を制限するものとして解釈されるべきでないことが理解される。
【0082】
開示の実施形態に対する様々な変更及び修正は、当業者らには明らかであり、その趣旨及び範囲から逸脱することなく行われ得る。
【国際調査報告】