IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェの特許一覧

特表2024-545779CFDシミュレーションを使用した血流量推定
<>
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図1
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図2
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図3
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図4
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図5
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図6
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図7
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図8
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図9
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図10
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図11
  • 特表-CFDシミュレーションを使用した血流量推定 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-11
(54)【発明の名称】CFDシミュレーションを使用した血流量推定
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/028 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
A61B5/028
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538983
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2022087178
(87)【国際公開番号】W WO2023126267
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】21218038.4
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】フラコウィアク ブルーノ ジャン フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル ホルスト アーエン
(72)【発明者】
【氏名】シュタインブーフ ジェイレ
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA11
4C017AB04
4C017AC01
4C017AC11
4C017BC11
4C017FF05
(57)【要約】
被検体の血管系内の血流量を推定するためのシステムが提供される。このシステムは、プロセッサを含む。このプロセッサは、記憶された命令を実行して、血管系内の少なくとも2つの位置の少なくとも2つの温度測定値を経時的に取得することと、血管系の形状を境界条件として使用して、血管系内の血流及び温度の複数の計算流体力学(CFD)シミュレーションを生成することであって、各CFDシミュレーションは、それぞれのCFD入力パラメータに対応している、生成することとを行う。プロセッサは更に、各CFDシミュレーションから、血管系内の位置に対応する位置でのシミュレーション温度を経時的に取得し、経時的な温度測定値を、様々なCFD入力パラメータに対応する経時的なシミュレーション温度と比較することを含めて、血管系内の血流量を推定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の血管系内の血流量を推定するためのシステムであって、プロセッサを含み、前記プロセッサは、記憶された命令を実行して、
前記血管系内の少なくとも2つの位置の少なくとも2つの温度測定値を経時的に受信することと、
前記血管系の形状を境界条件として使用して、前記血管系内の温度の複数の計算流体力学(CFD)シミュレーションを生成することであって、各CFDシミュレーションは、血流特徴に関連するそれぞれのCFD入力パラメータに対応している、生成することと、
各CFDシミュレーションから、前記血管系内の前記位置に対応する位置でのシミュレーション温度を経時的に取得することと、
経時的な前記温度測定値と、異なるCFD入力パラメータに関連する経時的な前記シミュレーション温度とを比較することによって、前記血管系内の前記血流量を推定することと、
を行う、システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、以前のCFDシミュレーションの前記シミュレーション温度と前記温度測定値との比較に基づいて生成されたCFD入力パラメータを用いて前記CFDシミュレーションを反復的に生成し、CFDシミュレーションの前記反復的生成の第1のCFDシミュレーションは、第1の推定CFD入力パラメータを使用して生成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記CFD入力パラメータは、心臓からの血液の流量プロファイルの周期パルスを表す、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記CFD入力パラメータは、推定血流量を表す、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記推定血流量は、前記被検体の心拍数の測定値に基づいている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記CFD入力パラメータは、前記CFDシミュレーションの境界条件として使用される前記血管系内の圧力の測定値を含み、前記プロセッサは、出口抵抗値を推定する、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記圧力測定値は、経時的な圧力測定値を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサは更に、経時的な前記温度測定値と、異なるCFD入力パラメータに対応する経時的な前記シミュレーション温度とを比較することによって、前記血管系内の出口抵抗値を推定する、請求項6又は7に記載のシステム。
【請求項9】
前記温度測定値とシミュレーション温度とを比較することは、前記温度測定値及びシミュレーション温度をパターン検出アルゴリズムに入力し、検出されたパターンを比較することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記温度測定値を取得するための温度センシング機能を備え、且つ前記少なくとも2つの温度測定値のための前記位置を測定する追跡デバイスを更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記温度測定値を取得するための温度センシング機能を備えたデバイスであって、前記少なくとも2つの温度測定値のための前記位置を含む前記デバイスの少なくともセクションの形状及び位置を決定するための形状センシングを有する、デバイスを更に含み、決定された前記形状は、任意選択で、前記プロセッサによって使用されて、前記血管系の前記形状を決定するか、又は前記血管系の解剖学的領域を同定する、請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記血管系の前記形状を取得するためのイメージングシステムを更に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記CFDシミュレーションは更に、温度を変化させるボーラスの注入のシミュレーションを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記プロセッサは更に、前記温度測定値の品質パラメータを解析し、ユーザインターフェースに温度測定フィードバックを出力する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
被検体の血管系内の血流量を推定するためのコンピュータ実施方法であって、
前記血管系内の少なくとも2つの位置の少なくとも2つの温度測定値を経時的に取得するステップと、
前記血管系の形状を境界条件として使用して、前記血管系内の血流及び温度の複数の計算流体力学(CFD)シミュレーションを生成するステップであって、各CFDシミュレーションは、血流特徴に関連するそれぞれのCFD入力パラメータに対応している、生成するステップと、
各CFDシミュレーションから、前記血管系内の前記位置に対応する位置でのシミュレーション温度を経時的に取得するステップと、
経時的な前記温度測定値と、異なるCFD入力パラメータに対応している経時的な前記シミュレーション温度とを比較することによって、前記血管系内の前記血流量を推定するステップと、
を含む、コンピュータ実施方法。
【請求項16】
コンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムコードは、処理システムを有するコンピューティングデバイス上で実行されると、前記処理システムに、請求項15に記載のコンピュータ実施方法の全てのステップを行わせる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の血管系における血流量の推定又は測定の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の血流は、全身での栄養素、ホルモン、代謝廃棄物、酸素、及び二酸化炭素の輸送を確実にして、細胞レベルの代謝を維持し、pH、浸透圧、全身の温度を調節し、微生物や機械的な害から保護する。
【0003】
心臓は、循環系の促進因子であり、律動収縮及び弛緩を通して血液を拍出する。心臓からの血流量は心拍出量として知られている。
【0004】
心臓から拍出される血液は、最初に、身体の最大の動脈である大動脈に入る。その後、細く小さな動脈に分かれ、次に細動脈、最終的には毛細血管に分かれ、そこで酸素の移動が生じる。したがって、心臓からの心拍出量は、より小さな動脈に分かれる。動脈を通る特定の血流量は通常、動脈の直径及び心拍出量によって決まる。
【0005】
血流量は、イメージング技術や血管内デバイスを使用して測定できる。しかし、これらの方法から正確な血流測定値を取得することは通常、困難な作業である。これらの方法を使用した血流測定値は、患者の体動アーチファクト、限られた時間分解能、センサの向き、信号ノイズ、デバイスの複雑さ、ユーザのばらつき、血管木の歪み、及び血流の拍動性によって影響を受ける可能性がある。
【0006】
正確な血流量測定値の取得は困難であるが、血流量測定値から得られる臨床情報は、臨床医にとって非常に価値がある。例えば、血流量を使用して血管疾患(末梢動脈疾患(PAD)や冠動脈疾患(CAD)など)を評価できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、血流量を測定するための改良された方法が必要である。
【0008】
他の技術の中でも、例えば、血管内デバイスに、光ファイバであって、その長さに沿って温度感知光学センサセグメントが空間的に分布している、光ファイバを埋め込み、例えばボーラス注入によって引き起こされる温度変化、したがって、その長さに沿っての血流量の変化を感知することが知られている。
【0009】
温度は血管の幅にわたって自然に且つ著しく変化し(壁効果)、また、ボーラスは注入ポイントから離れた場所では検出が困難である(熱拡散及び流れ混合効果)ため、温度及び血流量測定の信頼性を高める必要がある。
【0010】
米国特許出願公開第2018/014734A1号は、皮膚などの組織の熱輸送特性をモニタリングするための組織取り付け型デバイス及び方法について説明している。デバイスは組織に共形的に取り付けられ、1つ以上の熱アクチュエータと複数のセンサとを含む。
【0011】
米国特許出願公開第2021/321888A1号は、動脈内のボリュメトリック流量を示すデータを決定するコンピュータ実施方法について説明している。この方法は、血流の方向に対して近位の血圧測定値を示すデータを受信することを含む。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、特許請求の範囲によって規定される。
【0013】
本発明のある態様による実施例によれば、被検体の血管系内の血流量を推定するためのシステムが提供される。このシステムは、プロセッサを含む。このプロセッサは、記憶された命令を実行して、
血管系内の少なくとも2つの位置の少なくとも2つの温度測定値を経時的に受信することと、
血管系の形状を境界条件として使用して、血管系内の温度の複数の計算流体力学(CFD)シミュレーションを生成することであって、各CFDシミュレーションは、血流特徴(例えば、以下の明細書で例示的に説明されているように、圧力、抵抗、及び/若しくはインピーダンス、並びに/又はボーラス注入が更にモデル化(シミュレート)される場合は温度-以下で詳述する特定の実施形態)に関連するそれぞれのCFD入力パラメータに対応している、生成することと、
各CFDシミュレーションから、血管系内の上記の位置に対応する位置でのシミュレーション温度を経時的に取得することと、
経時的な温度測定値と、異なるCFD入力パラメータに関連する経時的なシミュレーション温度とを比較することによって、血管系内の血流量を推定することとを行う。
【0014】
実際の血流量を推定するために、様々なCFD入力パラメータに対してCFDシミュレーションが行われる。様々なCFD入力パラメータは、シミュレーション温度を変更する。したがって、実際の温度測定値に最も類似したシミュレーション温度は、この最も類似したシミュレーション温度に対応するCFD入力パラメータが実際の値に最も近いことを示すべきである。CFD入力パラメータは、血流特徴(流量や圧力など)に関連しているため、最適なCFDシミュレーションをもたらす血流特徴を決定することによって、実際の血流量を推定できる。
【0015】
CFD入力パラメータは、シミュレートする血流量(つまり、モデル化する血流量)を含む。この場合、最適なCFDシミュレーションが特定されると、CFD入力パラメータは、推定血流量を直接提供する。しかし、CFDパラメータは、他の血流特徴を提供してもよい。このような場合、最適なCFDシミュレーションが特定されると、シミュレーション自体がCFDシミュレーションの別の出力として(つまり、シミュレーション温度に加えて)推定血流量を生成してもよい。
【0016】
いずれの場合も、CFD入力パラメータはシミュレートする血流特性を変更する。したがって、シミュレーション温度も変更する。温度の変化も血流に相対的に変化するためである。「最も近い」CFD入力パラメータを見つけることによって、最適なシミュレーションが見つかり、したがって、CFD入力パラメータは実際の血流に適用すると仮定される。
【0017】
更に、CFDシミュレーションは、血管系内の血流の正確なシミュレーション提供するために使用できる。血管内の血液の流れは些細なことではないため、血流の直接測定は困難であるか、場合によっては誤っていることもある。例えば、血流の速度は、測定がどれくらい壁の近くで行われるかによって変化する。
【0018】
システムは更に、少なくとも2つの温度測定値を測定するための温度測定システムを含む。
【0019】
少なくとも2つの温度測定値が取られる位置は、システムアーキテクチャから知ることができ、推定又は測定される。システムは、例えば位置を取得するための位置特定システムを含む。例えば光ファイバリアルシェイプ(FORS)デバイスを温度測定システム及び位置特定システムとして使用する。これは力の測定値に基づいているが、位置を追跡する他の手法を使用することもできる。
【0020】
発明者によって、CFDシミュレーションと実際の血流とを比較する1つの手法は、ボーラス(冷たいボーラスなど)を注入したときのFORSデバイスの長さに沿った温度変化を比較することであることが認識されている。ボーラスとは、(例えば、血管への注入によって)短時間にわたって与えられる薬物又は他の物質の1回分の投与である。冷たいボーラスとは、血液の温度よりも低い(つまり、37℃よりも低い)温度のボーラスのことである。好ましくは、冷たいボーラスは、30℃又は25℃よりも低い温度にある。冷たいボーラスの温度が低いほど、冷たいボーラスと血液との温度差が高くなる(上限まで)。冷たいボーラスは血流に加わり、徐々に血液の温度まで温かくなる。
【0021】
したがって、温度測定値は、冷たいボーラスの注入によって引き起こされる、介入デバイスに埋め込まれた温度センシングによって取得される血管系内の温度変化に対応している。
【0022】
介入デバイスは更に、上記の温度測定値を取得するための温度センシングを備え、且つ上記の少なくとも2つの温度測定値の上記位置を測定する追跡デバイスを含む。例えば、超音波トランスデューサ、電磁(EM)センサ、光センサ(例えば、上記のデバイスで使用される光ファイバ内に設けられているブラッグ格子、レイリー散乱素子)が、温度センサ、外部超音波プローブ、EM検出器、光学インタロゲータに関して既知の位置で設けられて、検出された超音波/EM/光学データに基づいて位置をキャプチャする。或いは、位置は、介入デバイスに設けられた光学マーカに基づくイメージングプロセスによって取得することもできる。
【0023】
特定の実施形態としては、温度測定値は、介入デバイスに設けられた形状センサから取得される。形状は、上記の位置と共に決定される(後者は、既知の座標に位置合わせされている場合、同じ形状センサによって取得できる)。
【0024】
形状センシングは、光ファイバリアルシェイプ(FORS)デバイス内に提供されてもよい。位置は、血管系内のFORSデバイスの形状、又は位置が決定された外部座標系と位置合わせされた形状情報を取得することによって取得できる。FORSデバイスは、薄くて細長い柔軟な介入デバイス(つまり、カテーテルやガイドワイヤと類似する)内に提供される。FORSデバイスは、イメージングシステムから取得した画像に見えない場合でも、また、FORSデバイスがイメージングされる必要なく、受信した光学データからFORSデバイスの形状を取得できるように製造されている。FORSデバイスは、複数の光ファイバか、又は複数の光コアを備えた1つの光ファイバを含み、複数の光センサ(ブラッグ格子やレイリー散乱センシング素子など)が設けられており、コアは、よく知られている態様で、FORSデバイスの長さの少なくとも一部を通って、形状を再構成するために、中心軸、コア、又はファイバの周りに通常巻き付けられて配置されている。
【0025】
FORSデバイスの特定の形状では、光ファイバから反射されたり、光ファイバ内で散乱されたりする光の変化が内部ひずみと関連しているため、FORSデバイスの形状を再構成できる。
【0026】
FORS技術は、既知の座標に位置合わせされているならば、当該既知の座標系での血管にわたるカテーテル/ガイドワイヤの全長又は長さの一部を追跡するという利点がある。したがって、カテーテル/ガイドワイヤは、CFDシミュレーションにおいて鈍頭物体として含めることができ、これにより、CFDシミュレーションがより正確になる。
【0027】
FORSデバイスはまた、FORSデバイスの長さに沿っていくつかのポイントで又は全てにおいて、既知の手法で少なくとも2つの温度を測定するためにも使用できる。温度センシング素子は、FORSデバイスの様々な部分の温度を測定するために、FORSデバイスに沿って様々な位置に配置される。
【0028】
冷たいボーラスが血流に加わると、FORSデバイスは(例えば、FORSデバイスの長さを冷たいボーラスが下って移動するにつれて)異なる時間にFORSデバイスの長さに沿って低い温度を検出する。したがって、FORSデバイスの長さに沿った異なる温度は、血流量を示すことができる。
【0029】
したがって、冷たいボーラスの注入に対応するFORSデバイスの温度測定値をシミュレーション温度と比較でき、最も類似したシミュレーション温度を使用して(対応するCFD入力パラメータに基づいて)実際の血流量の推定値を示すことができる。各シミュレーション温度は、異なるCFDシミュレーションから取得され、各CFDシミュレーションは、血流量などの異なる血流条件に対応するCFD入力パラメータに基づいている。したがって、最も類似したシミュレーション温度は、正確である可能性が最も高いシミュレーション血流量に対応している。血流量には、経時的な平均血流量が含まれていてもよい。
【0030】
FORSデバイスは、FORSデバイスの形状と、FORSデバイスの長さに沿った少なくとも2つの温度測定値とを出力できる。
【0031】
例えば、プロセッサはFORSデバイスから、血管系内のFORSデバイスの形状と、FORSデバイスの長さに沿った経時的な温度測定値とを取得する。
【0032】
血管系の形状は、血管系の画像データ(コンピュータ断層撮影血管造影法、磁気共鳴血管造影法、回転血管造影法、血管内超音波、又は任意の他の血管内イメージングデバイスなど)から取得できる。血管系の形状はまた、血管系のモデルからも取得することもできる。血管系の形状は、コンピュータで生成された血管系の3Dモデルである場合がある。このモデルは、CFDシミュレーションにおいて境界条件として使用できる。血管モデルはまた、FORSデバイスの形状に関連するFORSデータに基づいて生成することもできる。決定された形状はまた、又は或いは、任意選択で使用して、血管系の解剖学的領域(実際によく見分けのつく解剖学的特徴を有する特定の血管又は臓器)を同定することもできる。
【0033】
なお、形状センシングは必ずしもFORS型の形状センシングではない。例えば、介入デバイスのセンシングされたノードに基づく形状決定など(例えば、埋め込み超音波又はEMセンサを使用する-前述のように形状を決定するためにノード間の補間を使用する)の他の技術を使用できる。
【0034】
冷たいボーラス注入のシミュレーションで使用するために、冷たいボーラスの血管系への注入に対応する注入量及び注入時間も提供できる。例えば注入量及び時間は、手動ボーラス注入でもわかっている。注入ポンプを使用する場合などには、注入流量も取得できる。したがって、シミュレーションでは、血管系への冷たいボーラスの注入、特に冷たいボーラスの量及び注入時間、場合によっては流れ特性が考慮される。冷たいボーラスが血管系のどこに注入されたのかを示す冷たいボーラスの注入位置も取得できる。正確な注入パラメータ(注入時間、注入位置、注入の流量、及び/又は射出量など)が常にわかっているとは限らず、推定が必要な場合や、一般的なパラメータを使用する場合がある。例えば、注入時間は、温度の低下を示す温度測定値から推定できる。注入位置は、注入による温度変化を測定できるように、位置の上流であり得る。
【0035】
イメージングする血管は、温度測定値を取得する特定の方法やサイズの考慮事項によって決定できる。例えばFORSデバイスを用いてイメージングする血管は、特定のFORSデバイスのサイズ(直径など)によって決定できる。しかし、温度測定値を取得するための適切な方法及びツールを使用することで、被検体の血管系内のほとんどの血管内の血流を推定できると想定されている。
【0036】
したがって、要約すると、CFDシミュレーションは、被検体の血管系内の血液の流れ、血管系内への冷たいボーラスの注入、及びFORSデバイスの長さに沿ったその後の温度測定値を模倣することを意図している。現実とシミュレーションとの唯一の異なる「パラメータ」は血流量である。
【0037】
したがって、CFDシミュレーションごとに(したがって、異なる推定血流量に対応している)シミュレーション温度を取得できる。温度測定値は、最小二乗フィッティング法(例えば、レーベンバーグ・マルカート法、ガウス・ニュートン法、勾配法、直接探索法など)を使用してシミュレーション温度と比較される。
【0038】
生成するCFDシミュレーションの数を決定するために、様々な方法を使用できる。例えば推定血流量のセットのために、所定数のCFDシミュレーションを並行して又は連続して行うことができる。
【0039】
プロセッサは、以前のCFDシミュレーションのシミュレーション温度と温度測定値との比較に基づいて生成されたCFD入力パラメータを用いてCFDシミュレーションを反復的に生成することによって、CFDシミュレーションを生成する。ここで、CFDシミュレーションの反復的生成の第1のCFDシミュレーションは、第1のCFD入力パラメータを使用して生成される。
【0040】
本質的に、CFD入力パラメータは、反復CFDシミュレーションを介して最適化される。
【0041】
CFDシミュレーションの反復的生成により、CFD入力パラメータを実際の値に迅速に収束させることができる。反復回数は、特定の処理システムがCFDシミュレーションを生成するのにかかる時間によって決定される。更に、推定血流値を以前の比較に依存させることで、実際の血流量をより正確に決定できる。
【0042】
CFDシミュレーションのCFD入力パラメータには、上記で説明したように推定/シミュレートされた血流量が含まれる。したがって、CFDシミュレーションでシミュレートされた血流量を推定し、推定された血流量ごとにシミュレートされた温度マップを取得できる。前述同様に、推定血流量は反復的に最適化される。推定血流量は、心臓からの血液の流量プロファイルに基づいて周期パルスを含む。
【0043】
血管系内の血流は一定ではなく、心臓からの血液の周期的な流れによって決まる。心臓からの血液の流れは典型的に、特定のプロファイルを形成する周期パルスから形成される。このプロファイルを使用して、経時的にどのように血流を変化させるかをCFDシミュレーションに通知し、したがって、より正確なシミュレーション温度を取得できる。測定が行われる血管に応じて、特定の血管の一般的な速度/流れプロファイルを使用できる。
【0044】
推定血流量は、被検体の心拍数の測定値に基づいていてもよい。被検体の心拍数は経時的に変化するため、心拍数のこれらの変動を使用して、血液の拍動をシミュレートする速度と、この速度が経時的にどのように変化するかとをCFDシミュレーションに通知することもでき、これにより、CFDシミュレーションの精度を更に高め、シミュレーション温度の精度を更に高める。
【0045】
CFDシミュレーションのCFD入力パラメータには、CFDシミュレーションの境界条件として使用される血管系の圧力の測定値と推定出口抵抗値とが含まれる。
【0046】
出口抵抗をCFD入力パラメータとして使用する方が、推定血流値を使用することよりも正確である。これは、圧力測定値も使用され、これらはCFDシミュレーションの更なる境界条件を提供するためである。圧力測定値がない場合、出口抵抗は母集団データなどに基づいて決定される。
【0047】
プロセッサは更に、経時的な温度測定値と、異なるCFD入力パラメータに対応する経時的なシミュレーション温度とを比較することを含めて、血管系内の出口抵抗値を推定する。
【0048】
出口抵抗値は、血管の健康状態(びまん性狭窄、高血圧、微小塞栓症など)に関する貴重な洞察を提供する。血管の特定の健康状態は、血管を通る血流量にも影響を与え、これが血管系全体の血流量に影響を与える。
【0049】
圧力測定値は、経時的な圧力測定値(つまり、時間の経過と共に変化する圧力測定値)を含む。
【0050】
CFDシミュレーションに追加の境界条件として時間の経過と共に変化する圧力測定値を含めることで、CFDシミュレーションから出力される出口抵抗値の精度が向上する。血流と同様に、血管内の圧力は通常一定ではなく、例えば調節機構の影響を受ける。したがって、CFDシミュレーションの境界条件として、圧力の時間の経過と共に変化する性質を含めると、推定血流量及び/又は出口抵抗の精度が更に向上する。
【0051】
温度測定値とシミュレーション温度とを比較することは、温度測定値及びシミュレーション温度をパターン検出アルゴリズムに入力し、検出されたパターンを比較することを含む。
【0052】
パターン検出アルゴリズムは、人工知能アルゴリズム、データセットでトレーニングされた機械学習アルゴリズム、又はニューラルネットワークを使用したディープラーニングアルゴリズムであり得る。パターン検出アルゴリズムは、母集団データセット(つまり、実際の測定値からのデータ)及び/又はシミュレーションデータセット(つまり、シミュレーション測定値からのデータ)でトレーニングされる。パターン検出アルゴリズムは通常、他の方法(最小二乗法など)よりも高速でより正確/堅牢である。
【0053】
システムは更に、少なくとも2つの温度測定値と、血管系に対する形状センシングデバイスの形状とを取得するための形状センシングデバイスを含み、形状センシングデバイスの形状は、対応する温度測定値の測定位置を含む。例えば、形状センシングデバイスはFORSデバイスである。
【0054】
温度測定値とデバイスの形状とを取得できることにより、温度を測定し、測定値の位置を特定するための2つのシステムが別々にある必要がなくなる。場合によっては、ユーザが位置をユーザインターフェースなどに入力することもできる。これによっても、位置特定システムが不要になる。形状センシングは、システムがある臓器などの場所を特定するためにも使用できる。
【0055】
システムは更に、血管系の形状を取得するためのイメージングシステムを含む。
【0056】
CFDシミュレーションは更に、温度を変化させるボーラスの注入のシミュレーションも含む。その場合、モデル化された注入からもたらされるこの温度は、前述のCFDシミュレーションの追加のCFD入力パラメータであり、CFDシミュレーションは血管系内の温度を取得する。
【0057】
プロセッサは更に、温度測定値の品質パラメータを解析し、ユーザインターフェースに温度測定フィードバックを出力する。
【0058】
場合によっては、温度測定値が比較に十分でないため、正確な推定にならないことがある。品質パラメータは、温度測定の時間の長さ、温度測定の温度差などであり得る。次いで、プロセッサは温度測定フィードバック(例えば、「測定OK」、「要再測定」など)を出力する。
【0059】
本発明はまた、被検体の血管系内の血流量を推定するための方法を提供する。この方法は、
血管系内の少なくとも2つの位置の少なくとも2つの温度測定値を経時的に取得するステップと、
血管系の形状を境界条件として使用して、血管系内の血流及び温度の複数の計算流体力学(CFD)シミュレーションを生成するステップであって、各CFDシミュレーションは、血流特徴に関連するそれぞれのCFD入力パラメータに対応している、生成するステップと、
各CFDシミュレーションから、血管系内の位置に対応する位置でのシミュレーション温度を経時的に取得するステップと、
経時的な温度測定値と、異なるCFD入力パラメータに対応している経時的なシミュレーション温度とを比較することによって、血管系内の血流量を推定するステップとを含む。
【0060】
この方法は、例えば、コンピュータで実施される又はプロセッサで実施される方法である。
【0061】
本発明はまた、コンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品を提供する。コンピュータプログラムコードは、処理システムを有するコンピューティングデバイス上で実行されると、処理システムに、上記の方法の全てのステップを行わせる。
【0062】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下に説明する実施形態から明らかになり、また、当該実施形態を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
本発明をより深く理解し、それがどのように実行されるかをより明確に示すために、ほんの一例として添付の図面を参照する。
【0064】
図1図1は、血管内の温度を測定するための光ファイバリアルシェイプ(FORS)デバイスと、対応するシミュレーション温度の図を示す。
図2図2は、シミュレーション温度及び実験結果を示す。
図3図3は、温度マップから血流を測定するための処理方法の1つを示す。
図4図4は、推定血流量を使用して、被検体の血管系内の血流量を推定するための方法を示す。
図5図5は、計算流体力学(CFD)シミュレーションを生成するプロセスを示す。
図6図6は、血流量を推定するためのCFDシミュレーションの使用の第1の検証実験を示す。
図7図7は、現実的な血管の3Dモデルを示す。
図8図8は、図7に示す3Dモデルを使用した第2の検証実験の結果を示す。
図9図9は、時間の共に変化する血流プロファイルを示す。
図10図10は、パターン検出を使用する改良された比較方法を示す。
図11図11は、出口抵抗値を使用して被検体の血管系内の血流量を推定するための方法を示す。
図12図12は、血流量を推定するための更に別の方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明を、図を参照して説明する。
【0066】
詳細な説明及び具体的な実施例は、装置、システム、及び方法の模範的な実施形態を示しているが、説明のみを目的としたものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではないことが理解されるべきである。本発明の装置、システム、及び方法のこれらの及び他の特徴、態様並びに利点は、次の説明、添付の特許請求の範囲、及び添付の図面からよりよく理解されるようになるであろう。図は概略図に過ぎず、縮尺どおりに描かれていないことが理解されるべきである。また、図全体で同じ参照番号を使用して、同じ部分又は類似の部品を示すことが理解されるべきである。
【0067】
被検体の血管系内の血流量を推定するためのシステムである。このシステムは、記憶された命令を実行して、血管系内の少なくとも2つの位置の少なくとも2つの温度測定値を経時的に取得し、血管系の形状を境界条件として使用して血管系内の温度の複数の計算流体力学(CFD)シミュレーションを生成するプロセッサを含み、各CFDシミュレーションは、それぞれのCFD入力パラメータに対応している。プロセッサは更に、各CFDシミュレーションから、血管系内の位置に対応する位置でのシミュレーション温度を経時的に取得し、経時的な温度測定値を、様々なCFD入力パラメータに対応する経時的なシミュレーション温度と比較することを含めて、血管系内の血流量を推定する。
【0068】
図1は、血管102内の温度を測定するための光ファイバリアルシェイプ(FORS)デバイス104と、対応するシミュレーション温度110及び112の図を示す。FORS技術は、身体内に展開されたカテーテル104やガイドワイヤの形状を推定することに非常に成功している。また、ガイドワイヤの中心線に沿った温度測定にも使用できる。これにより、時間及び位置の関数としての温度の2Dプロットがもたらされる。したがって、内腔内のポイント106に制御された時間で冷たいボーラスを注入することにより、カテーテル/ガイドワイヤ104の中心線に沿ったその伝播を追跡し、直線をフィッティングすることによって流速を導出することができる。冷たいボーラスは、例えば冷たい生理食塩水ボーラスや冷たい造影剤ボーラスである。好ましくは、冷たいボーラスは比較的粘度が低い。
【0069】
温度プロット110及び112は、制御された時間における冷たい生理食塩水ボーラス注入と組み合わされたFORS技術を用いて測定された温度測定値からの想定される流量推定の図である。プロット110は、106での冷たいボーラス注入後の特定の時間におけるFORSデバイス104の長さに沿った温度差を示している。Y軸に温度(摂氏)を示し、X軸にFORSデバイス104に沿った距離(mm)を示している。プロット112は、106での冷たいボーラス注入後の時間でのFORSデバイス104の長さに沿った温度差に基づく温度マップを示している。Y軸にFORSデバイス104に沿った距離(mm)を示し、X軸に時間(秒)を示している。全ての温度マップは、Y軸に距離(mm)を、X軸に時間(秒)を示す。
【0070】
冷たいボーラスが血管に沿って伝播する間、冷たいボーラスは周囲の血流108と混合され、熱拡散及び流れ混合により温度マップ112のエッジが平滑化される。更に、血流の拍動性、血管102の歪んだ形状、及び血管中心線からのカテーテル/ガイドワイヤ104の軌道の逸脱により、推定流量にいくつかの追加の誤差が生じる。FORSガイドワイヤを直線血管に挿入して行った計算流体力学(CFD)シミュレーションを使用して、これらのアーチファクトを説明できる。
【0071】
図2は、シミュレーション温度206及び208と、実験温度測定値210とを示している。図2a)及び図2b)のガイドワイヤ204は形状が異なる。図2a)に一般的に理想的なシナリオを示している。図2a)は血管202の中心に直線状のガイドワイヤ204が配置され、その近位部に冷たいボーラス(20℃)が注入されていることを示している。温度マップ206は理想的な場合の温度変化を示している。ボーラスは、温度マップ206上の対角線に沿って一貫して伝播する。ボーラスエッジでの混合及び拡散の平滑化がある場合でも、対角線を使用して速度を推定できる。これにより、その温度は血液温度(37℃)に近くなる。
【0072】
しかし、より現実的なシナリオでは、ガイドワイヤ204が曲がっている場合がある。図2b)により現実的なシナリオを示している。図2b)は、結果として得られる温度マップ208が大きく影響を受けていることを示している。特に、ボーラスは後の時間に到着するように見え、ガイドワイヤが血管202の壁に近づいている拡散の結果としてより遅くなり、ぼやけてしまう。このため、温度マップからの流量推定は非常に困難となり、これは、流れの拍動性や血管の歪んだ形状が考慮される前であっても、非常に困難となる。
【0073】
比較のため、図2c)は実験データから取得した温度マップ210を示している。実験データは、(血管に対して)湾曲したガイドワイヤから取得される。温度マップ210の問題点は、ボーラスが血管の断面で異なる速度で移動することである(つまり、壁の近くで速度が遅く、中心で速度が速い)。ボーラスと血管の混合が血管内の流れのプロファイルと組み合わされると、温度マップ210に見られる影響が生じる。
【0074】
コンテキストのために、血管202内に典型的なポアズイユ流れ212を示している。流れ212の形状からわかるように、血管202の壁の近くの流れの速度は、中心における速度よりも遅くなる。ポアズイユ型流れを使用して、カテーテル/ガイドワイヤ204が壁の近くにあることの影響を説明した。しかし、一般的に、ほとんどの流れプロファイルでは血管202の中心よりも壁の近くで速度が遅くなるため、他のタイプの流れ又は他の流れプロファイルを使用することもできる。環状流は、血管内のガイドワイヤの存在を考慮していると考えられている。
【0075】
したがって、FORSデバイスの長さに沿った熱拡散の課題に対処するために、より高度な処理方法が開発されている。図3は、温度マップから血流を測定するための処理方法の1つを示している。温度マップ302は、直線血管内の湾曲ガイドワイヤからのシミュレーション温度を示している。ここでは、血流は拍動流である。温度マップ304は、温度マップ302の正規化バージョンを示している。温度マップ302を正規化することで、ボーラスのエッジを両エッジでより適切に追跡できる。正規化された温度マップ304から追跡されたエッジをプロット306に示している。追跡されたエッジ308及び310から、直線をフィッティングして平均流速と流量とを推定できる。
【0076】
しかし、これらの測定値は、冷たいボーラスの各側の流量を過大評価する傾向がある。追跡されたエッジ308及び310は、それぞれ462mL/分と372mL/分の測定値になる。ただし、シミュレーションの流れは300mL/分に調節された。更に、血管の直径は、温度マップから推定速度を流量値に変換するために知られている必要がある。
【0077】
図4は、推定血流量をCFD入力パラメータとして使用して、被検体の血管系内の血流量を推定するための方法を示す。この方法は、一般に、前述のように(つまり、冷たいボーラスの注入後に)実際の温度測定値を取得する(つまり、温度マップを取得する)ことと、実際の温度測定値を、被検体の血管系の3Dモデル内の血流をシミュレートすることを目的としたCFDシミュレーションから取得したシミュレーション温度と比較することとを含む。
【0078】
ステップ402において、FORSデバイスが被検体の血管系内に挿入される。FORSデバイスは、特定の関心血管に挿入される。ステップ410において、血管系内のFORSデバイスの形状が取得され、ステップ408において、FORSデバイスの長さに沿った温度測定値が経時的に取得される。FORSデバイスからの温度測定値は、ステップ407において、血管系に冷たいボーラスが注入された後に取得される。
【0079】
注入方法は、ガイドワイヤの近くにあるシース又はカテーテルを介した方法である。しかし、場合によっては、ボーラスが血管を通って移動するため、注入部位はFORSデバイスから比較的離れていてもよく、ボーラスと血液との温度差が測定可能であれば、FORSデバイスに対する注入部位の位置は重要ではない。一例では、冷たいボーラスは別のデバイスを使用して(つまり、カテーテル/ガイドワイヤを介せずに)注入される。当然ながら、注入部位の正確な位置を確保すると、シミュレーション注入を使用した測定値の精度が高くなる。
【0080】
ステップ414において、血管系内の血流及び温度のCFDシミュレーションが生成される。この場合、CFDシミュレーションは反復的に生成される(後述)。CFDシミュレーションは、血管系の形状を境界条件として使用して生成される。ステップ404において、血管系の形状(血管系のCT画像など)が取得され、ステップ412において、形状データから血管系の3Dモデルが生成される。
【0081】
CFDシミュレーションには、FORSデバイスの形状に基づくFORSデバイスのモデルが含まれる。更に、CFDシミュレーションには、血管系への冷たいボーラス注入のシミュレーションが含まれる(図4に図示しないステップ)。各CFDシミュレーションは、それぞれの推定血流量に対応している。
【0082】
ステップ416において、各CFDシミュレーションのシミュレーション温度が取得され、ステップ418において、FORSデバイスの温度測定値と比較される。
【0083】
CFDシミュレーションで考慮すべき1つの側面は、入力血流量である。CFDシミュレーションでは、血流をシミュレートするために入力血流量が必要であるため、CFDシミュレーションで使用されるいわゆる「推定血流量」を選択する必要がある。この場合、このプロセスは、出力されたシミュレーション温度と温度測定値とを比較し、比較に基づいて新しい推定血流量を生成することによって、最初の推定値を反復的に向上させる。したがって、第1のCFDシミュレーションでは、ステップ406において、最初の推定値(つまり、第1の推定血流量)が取得され、以前の比較に基づいて新しい推定血流量が反復的に取得される。温度測定値とシミュレーション温度の差が最小になるまでこの反復プロセスは継続される。
【0084】
第1の推定血流量は、知識に基づいた血流の推定値であり得る。例えば、血流の大まかな計算は、FORS測定から取得され、第1の推定血流量として使用できる。特定の関心血管の集団平均血流量を使用することもできる。
【0085】
言い換えれば、CFDシミュレーションでは、測定された温度マップとシミュレーション温度マップとの差が最小値に集束するまで、定常状態の入口血流量を可変パラメータとして、また、例えば標準的な非線形最小二乗フィッティング法(レーベンバーグ・マルカート法、ガウス・ニュートン法、勾配法、直接探索法など)を使用して最適化を行う。この収束した血流パラメータを、臨床出力として提供できる。
【0086】
図5は、CFDシミュレーションを生成するプロセスを示している。画像データ504は、例えば、コンピュータ断層撮影血管造影法(CTA)、磁気共鳴血管造影法(MRA)、又は回転血管造影法を用いて取得される。血管内超音波を含む超音波も使用できる。画像データ504から、血管506の3D形状が生成される。これは、CFDシミュレーション508で血管の解剖学的構造を記述するために使用され、したがって、境界条件として機能する。FORS技術からの空間情報502に基づいて、血管に対するガイドワイヤ/カテーテルの3D形状が決定され、CFDシミュレーション508にも含まれる。(例えば生理食塩水の)冷たいボーラスの注入は、臨床プロトコルからのその量及び注入時間の知識と、任意選択でボーラス注入速度も使用して、CFDシミュレーション508に含められる。シミュレーションされた注入は、CFDシミュレーション508で温度の変化として見ることができる。画像510は、CFDシミュレーション508の拡大バージョンを示す。
【0087】
ガイドワイヤ/カテーテルに沿った時間の経過と共に変化する温度及び流れ場は、入口血流量の最初の推測値を使用してCFDシミュレーション508でシミュレーションされる。したがって、シミュレーションからシミュレーション温度を取得できる。一般的に、CFDシミュレーションとそれに対応する血流及び温度のシミュレーションとは、被検体の血管系内の血流を可能な限り忠実に模倣することが意図されている。したがって、様々な血流量の推定値におけるシミュレーション温度を実際の温度測定値と比較して、最も近いシミュレーション温度(つまり、差が最も少ない)を使用して、最も近いシミュレーション温度が測定された(推定)血流量に基づいて実際の血流量を推定できる。
【0088】
図6は、血流量を推定するためのCFDシミュレーションの使用の第1の検証実験を示している。大腿動脈を模した直線血管602に湾曲したガイドワイヤ604を挿入した。血管602の入力血流として300mL/分の血流を使用した(608で示されている)。
【0089】
第1の検証実験は、まず、FORS技術で測定された実験データを模倣した温度マップを生成するために、生理的な拍動流を用いて行われた。結果として得られた実験温度測定値は、図3に示す温度マップ302に類似していた。
【0090】
上記のCFDシミュレーションを使用した最適化方法を、可変パラメータとして定常状態流れを用いたCFDシミュレーションにおいて、同じ形状に適用した。温度マップ610a~610eは、5つの異なる推定血流量でのシミュレーションの温度測定値を示している。
【0091】
温度マップ610aは80mL/分の血流量に対応し、温度マップ610bは240mL/分の血流量に対応し、温度マップ610cは280mL/分の血流量に対応し、温度マップ610dは300mL/分の血流量に対応し、温度マップ610eは400mL/分の血流量に対応している。
【0092】
実験データと温度マップ610a~610eとの平均二乗差はコスト関数として計算される。マップ612a~612eは、実験測定値とシミュレーション測定値610a~610eとの差をそれぞれ示している。最も近い温度マップを決定するために、マップ612a~612eの各々について差の和が計算された。
【0093】
マップ612aは1.1×10の和を有し、マップ612bは1.3×10の和を有し、マップ612cは7.5×10の和を有し、マップ612dは7.3×10の和を有し、マップ612eは1.4×10の和を有している。
【0094】
マップ612a~612eの和はグラフ614にプロットされている。ここでは、血流の「推定値」がX軸に示され、最小二乗和がY軸に示される。平均実験流量への収束は、最適化プロット614(つまり、300mL/分に向かう)で明確に示されている。これにより、本発明の提案するマッピング手順が有効であることが確認される。
【0095】
更に、より現実的な血管形状を使用して、第2の検証も行った。図7は、現実的な血管704の3Dモデルを示している。湾曲ガイドワイヤ706が、腹部大動脈から総腸骨動脈への分岐に対応するより現実的な血管704に挿入される。3Dモデル702はCT画像から再構成されている。
【0096】
CFDシミュレーションスナップショット708は、定常状態の血流入力712へのポイント710での冷たいボーラスの注入による血管704内の温度変化を示している。長さ714は、冷たいボーラスが温かい血液と混合する混合領域を示している。同一の血管形状についての実験的温度測定値を、746mL/分の平均血流で取得した。
【0097】
図8は、図7に示す3Dモデルを使用した第2の検証実験の結果を示している。温度マップ802a~802eは、図7に示すように、5つのCFDシミュレーションで使用された5つの異なる平均血流値の温度測定値を示している。
【0098】
温度マップ802aは200mL/分の推定血流量に対応し、温度マップ802bは600mL/分の推定血流量に対応し、温度マップ802cは700mL/分の推定血流量に対応し、温度マップ802dは750mL/分の推定血流量に対応し、温度マップ802eは1000mL/分の推定血流量に対応している。
【0099】
マップ804a~804eは、異なる流れにおける定常状態の温度マップ802a~802eと、FORS技術で測定された実験データを模倣した温度測定値との比較を示している。
【0100】
実験データと温度マップ802a~802eとの平均二乗差はコスト関数として計算される。マップ804a~804eは、実験測定値とシミュレーション測定値802a~802eとの差をそれぞれ示している。最も近い温度マップを決定するために、マップ804a~804eの各々について差の和が計算された。
【0101】
マップ804aは5.2×10の和を有し、マップ804bは2.7×10の和を有し、マップ804cは2.4×10の和を有し、マップ804dは2.3×10の和を有し、マップ804eは2.5×10の和を有している。
【0102】
マップ804a~804eの和はグラフ806にプロットされている。ここでは、血流の「推定値」がX軸に示され、最小二乗和がY軸に示される。最適化プロット806は、5つの温度マップ802a~802eからの最適一致は温度マップ802dであったため、平均実験流量(即ち、746mL/分)への収束を示している。これにより、本発明の提案するマッピング手順が有効であることが更に確認される。
【0103】
上記の2つの検証例では、定常状態の血流を使用したシミュレーション温度測定値を、拍動性血流を使用した実験温度測定値と比較している。しかし、CFDシミュレーションでは、シミュレートされた拍動性血流を使用する場合もある。
【0104】
図9は、時間の共に変化する血流プロファイルを示している。実験データとCFDシミュレーションとの比較は、定常状態の平均血流値を使用するのではなく、(例えばプロット902に示すプロファイルなど一般化されたPV血流プロファイルを使用して)時間の経過と共に変化する血流量を反復的に決定することにより、更に向上できる。
【0105】
この場合、CFDシミュレーションには、時間の経過と共に変化する血流が含まれるため、測定の精度が更に向上する。時間の経過と共に変化する血流の使用は、CFDシミュレーションを生成するための複雑さと処理要件に依存する。
【0106】
プロット902は、腹部大動脈の流れプロファイルの例である。Y軸に血流量(mL/分)を示し、X軸に時間(秒)を示す。この流量は、完全に離散的であっても、いくつかの重要なパラメータ(脈拍間隔、心収縮期及び心拡張期の持続時間や心収縮期ピーク904、フォワード心拡張期ピーク908、リバース心拡張期ピーク906、及び心拡張期終期910の振幅)によって決定される一般形状から決定することもできる。
【0107】
更に、心拍数を入力として使用して、プロファイルをより被検体に固有なものにすることができる。心拍数は、ECGから又はFORSカテーテル/ガイドワイヤの温度測定値から推定できる。例えば、脈拍終期は心拍数に依存する。
【0108】
実験データとCFDシミュレーションとを比較して、時間の経過と共に変化する血流量を反復的に決定することは更に、より精緻な最適化アルゴリズムを使用することを含む。
【0109】
図6及び図8で示した前述した比較方法は、実験データと定常状態シミュレーションとの間の平均二乗距離の最小化に依存している。この距離は、完全な温度マップに基づいて計算される。
【0110】
しかし、より精緻な比較方法(又は最適化アルゴリズム)が適用されることもある。例えば、最適化アルゴリズムは温度マップのより関連性の高い部分に焦点を当てることができる。図10は、パターン検出を使用する改良された比較方法を示している。温度マップ1002は実験データに対応し、温度マップ1004及び1006は2つの異なる血流量でのCFDシミュレーションから取得した温度マップに対応している。
【0111】
温度マップの関連性のある部分は、図10に示すようにパターン検出アルゴリズムを使用して決定できる。これらのパターン検出アルゴリズムは、人工知能、トレーニングされたデータセットに基づく機械学習、又はニューラルネットワークを用いたディープラーニングに基づいている。これらのアルゴリズムを使用することで、最適化プロセスの堅牢性、速度、及び精度が向上する(例えば比較が高速化することによって、より多くの反復が可能になる)。
【0112】
図10の温度マップで使用されるパターン検出アルゴリズムは、実験温度マップ1002とシミュレーション温度マップ1004とのパターン一致を示している。一方、パターン検出アルゴリズムは、温度マップ1002と1006とのパターンの不一致を示している。
【0113】
パターン検出を使用すると、比較方法の精度が向上し、定常状態と拍動流との比較に更に役立つ。
【0114】
CFDモデルを使用すると、出口抵抗や、入口と出口との間の圧力降下など、臨床的に関連性のある追加パラメータを抽出できる。図7に戻ると、出口抵抗は、測定された圧力値が取得されれば、シミュレートされた血流が3D血管モデルから出る形状の右側にある2つの下流出口について計算できる。したがって、被検体固有の出口抵抗を、介入医への追加の臨床出力として提供できる(例えば収束された流量の次に)。
【0115】
出口抵抗は、(測定された)圧力と流れの比として定義でき、CFDシミュレーションにおいて被検体固有の境界条件として使用できる。他のより複雑な出口抵抗の定義が使用されてもよい。圧力は、同じ血管内でも、別の場所でも、更には、外部センサでも測定できる。出口抵抗値は、(血管固有の)下流血管疾患状態(びまん性狭窄、高血圧、微小塞栓症など)に関する貴重な洞察をもたらす。
【0116】
出口抵抗は、圧力と流れとの比を取得するためにナビエ・ストークス方程式を解き、被検体の圧力を測定することによって計算できる。
【0117】
更に、CFDシミュレーションから取得した出口抵抗は、測定された温度マップとシミュレートされた温度マップとの差を低減するために反復的に最適化できる。したがって、出口抵抗は、推定血流量ではなく、最適化されたCFD入力パラメータである。
【0118】
図11は、出口抵抗値を使用して被検体の血管系内の血流量を推定するための方法を示している。この方法はコンピュータによって実施される。血管系の3Dモデル1112に加えて、圧力測定値1105をCFDシミュレーション1114の境界条件として使用し、これにより、下流出口抵抗を最適化できる。第1のCFDシミュレーションでは、第1の推定出口抵抗値1106が使用され、シミュレーション温度1116と温度測定値1108との比較1118に基づいて、新しい推定出口抵抗値が取得され、CFDシミュレーションで反復的に最適化できる。
【0119】
前と同様に、この方法はFORSデバイスの挿入1102と、冷たいボーラスの注入1107とに基づいている。したがって、FORSデバイスの形状1110を取得して、どこでシミュレーション温度1116を取得するかを通知するために使用される。冷たいボーラスの注入1107は、いつ温度測定値1108を取得するかを通知するために使用される。血管系の3Dモデル1112は、血管系の形状測定値1104から取得される。
【0120】
ステップ1118において実験データとCFDシミュレーションとを比較して、時間の経過と共に変化する血流量を反復的に推定することは、測定された時間の経過と共に変化する圧力と更に組み合わせて出口抵抗を推定できる。
【0121】
出口抵抗を推定する際に、血管内の時間の経過と共に変化する圧力を測定できる。これは、CFDシミュレーションの境界条件として使用すると、過渡流れプロファイルをもたらす。単一の出口抵抗値を特定の形状の血管系内の全ての出口血管に使用することも、特定の抵抗値を各出口血管に使用することもできる。
【0122】
時間の経過と共に変化する出口抵抗値を使用すると、(血管固有の)下流血管疾患状態(びまん性狭窄、高血圧、微小塞栓症など)及び流量調節の生理学的過程(例えば薬物誘発性の充血の後の)に関する重要な洞察をもたらす。更に、CFDシミュレーションはより高度な境界条件と組み合わされてもよい。例えばウィンドケッセル(Windkessel)モデルが下流血管の容量効果をキャプチャする。
【0123】
更なる実施形態では、実験データとCFDシミュレーションとを比較して、時間の経過と共に変化する血流量を反復的に決定することは更に、制御された頻度で注入される冷たいボーラスの連続的な注入に基づいている。
【0124】
連続的な冷たいボーラス(生理食塩水又は造影剤のボーラスなど)は、長時間(つまり、1つのボーラスを注入して測定するのにかかる時間よりも長い)にわたって制御された頻度で注入される。これにより、生理食塩水の注入流量及び頻度を設定するだけで臨床手順が容易になり、FORS温度測定の開始のタイミングを正確に計る必要がなくなり、ボーラスを見落とすリスクを防ぐことができる。臨床上の利便性に加えて、いくつかの連続ボーラスを有する温度マップがあると、例えば、平均化によってノイズを平滑化することで、最終的な温度マップの精度を向上できる。
【0125】
血管解剖学的構造の画像の上にCFDシミュレーションを表示できる。したがって、CFDシミュレーションの収束結果を3D解剖学的構造に表示して、血流の速度及び圧力場を視覚化できる。これにより、異なる血管枝における相対血流、狭窄を横切る圧力勾配、血管壁のせん断応力など、臨床的に関連性のある追加情報が得られる。
【0126】
場合によっては、FORSデバイスの長さに沿って2つの温度測定ポイントのみが必要である。したがって、カテーテル/ガイドワイヤの全長に沿った温度の代わりに、異なる場所での少なくとも2つの時間の経過と共に変化する温度測定が使用される。これらの2つのポイントの場所は、血管の解剖学的構造に対して既知である必要がある。したがって、これらの2つのポイントでの測定値は、CFDシミュレーションにおける対応するポイントと比較できる。
【0127】
別の実施形態では、2D画像を使用して血管系の2D形状モデルを生成し、血管壁の近くでの温度測定値を取得できる。2D形状の使用は、3D形状を使用する場合と同じように扱うことができる。2D形状は2D投影に基づいているため、非深度情報のみが使用可能であり、したがって、血管断面に対するカテーテル/ガイドワイヤの唯一の信頼できる場所は、2D画像での壁の近くに見える場所である。したがって、2D形状を使用する場合は、血管壁の近くの温度測定値及びシミュレーション温度のみを使用する方が好都合である。
【0128】
要約すると、冷たいボーラスの制御された注入と組み合わせたFORS温度測定からの血流推定を改良する新しいシステムが提案されている。このシステムは、血管の形状、カテーテル/ガイドワイヤの形状、及び血管に対するその位置を考慮して、実験データとCFDシミュレーションとのマッピング手順(つまり比較)に依存している。
【0129】
例えば、マッピング手順は次のステップに分割できる:
イメージングモダリティ(超音波、CT、MRIなど)からの血管画像データの収集。
(血管画像データからの)血管形状の再構成。
カテーテル/ガイドワイヤの形状の収集、及び時間制御された生理食塩水ボーラスの注入に対するその中心線(FORS)に沿った温度の収集。
FORSカテーテル/ガイドワイヤ及び3D血管形状を入力データとして含むCFDシミュレーションの生成。
CFDシミュレーションを使用した血流及び温度のシミュレーション。
【0130】
ボーラスの流量及び注入時間は、例えば臨床プロトコルから知られている。入口血流量は最初は不明であるため、第1のCFDシミュレーションは、血流量の最初の推定値で開始される。したがって、入口血流への反復プロセスを行って、カテーテル/ガイドワイヤの中心線でのシミュレートされた温度と測定された温度との差を最小限に抑えることができる。
【0131】
図12は、血流量を推定するための更に別の方法を示している。温度測定値及び対応する位置は、それぞれステップ1202及び1204で取得される。
【0132】
血管系内から少なくとも2つの温度測定値が必要である。血管内の2つの異なる位置にある2つの温度センサを使用して、2つの測定値が取得される。或いは、温度測定値のうちの1つを、注入部位及び注入が行われた時間(つまり、注入の開始開始時間及び終了時間)から得ることもできる。当然ながら、取得する温度測定値が多いほど、血流推定はより正確になる。したがって、好ましくはFORSデバイス(又は同様のデバイス)が使用される。
【0133】
温度測定は時間の経過と共に行われるため、測定における適切な時間分解能が重要である。血管内の温度が元の温度に戻るまでにかかる時間と比較して、特に時間分解能が低いと、血流の推定に誤差が生じる可能性がある。
【0134】
温度測定の位置特定(つまり、位置を取得すること)は、温度測定の前、最中、又は後に外部から(X線、超音波、CTなど)行うことができる。例えば、温度測定値を取得するために使用されるセンサは、放射性不透過性マーカや他の検出可能マーカ(電磁コイルなど)を有している。或いは、位置センサを使用したり、医師が手動で位置を入力したりすることもできる(例えば、CTスキャン又は超音波スキャンで位置特定される)。2つ以上のマーカを含むカテーテル/ガイドワイヤの場合、マーカの位置を補間して、カテーテル/ガイドワイヤの連続形状が取得される。
【0135】
温度測定にFORSデバイスを使用する場合、血管系に対するFORSデバイスの形状を、更なる位置特定手法(例えば、FORSデバイスをイメージングする)を使用して拡張(又は置換)できる。血管系に対するFORSデバイスの形状を取得することは、本質的にはFORSデバイスの位置の特定と同等である。
【0136】
ステップ1206において、血管系の形状が取得される。形状は、例えば外部イメージングシステム(CT、MRI、OCT、超音波など)によって、又は内部イメージングシステム(血管内超音波、IVUS、カテーテルなど)によって取得される。形状は、CFDシミュレーションの境界条件として使用される。
【0137】
ステップ1208において、CFDシミュレーションのためのCFD入力パラメータが選択/推定される。前述のように、CFD入力パラメータは、各CFDシミュレーションを通じて反復的に最適化できる。CFD入力パラメータには、圧力測定値を更なる境界条件として、推定血流測定値又は出口抵抗値が含まれる。
【0138】
次に、ステップ1210において、CFDシミュレーションが生成され、ステップ1212において、このCFDシミュレーションからシミュレーション温度が取得される。シミュレーション温度は、温度測定値とシミュレーション温度の両方が血管系に対して同じ場所に対応し、したがって、比較できるような位置に対応する場所で取得される。ステップ1214において、比較に基づいて、血流量が取得される。出口抵抗値もCFDシミュレーションから取得される。
【0139】
上記の実施例は、冷たいボーラスの注入と、ボーラスが血流と混合する際の冷却のモデリングとに基づいている。しかし、同じ概念を温かいボーラス(つまり、体温よりも上)に適用することもできる。ボーラスの注入は、連続した離散的なボーラス注入ではなく、連続的な注入であってもよい。
【0140】
温かい又は冷たいボーラスを作成するために、血液自体を温めたり冷やしたりするための加熱デバイス又は冷却デバイスがあってもよい。
【0141】
当業者であれば、本明細書で説明する方法を実行するためのプロセッサを容易に開発することができるであろう。したがって、フローチャートの各ステップは、プロセッサによって行われる異なるアクションを表し、プロセッサの各モジュールによって行われる場合がある。
【0142】
前述のように、システムはプロセッサを使用してデータ処理を行う。プロセッサは、ソフトウェアやハードウェアを使用して、様々なやり方で実装して、必要な様々な機能を行うことができる。通常、プロセッサは、ソフトウェア(例えばマイクロコード)を使用してプログラムされて、必要な機能を行う1つ以上のマイクロプロセッサを用いる。プロセッサは、一部の機能を行うための専用ハードウェアと、他の機能を行うための1つ以上のプログラム済みマイクロプロセッサ及び関連回路との組み合わせとして実装できる。
【0143】
本開示の様々な実施形態に用いられ得る回路の例としては、従来のマイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0144】
様々な実装形態では、プロセッサは、RAM、PROM、EPROM、及びEEPROM(登録商標)などの揮発性及び不揮発性コンピュータメモリなどの1つ以上の記憶媒体と関連付けられ得る。記憶媒体は、1以上のプロセッサ及び/又はコントローラ上で実行されると、必要な機能を実行する1つ以上のプログラムでエンコードされ得る。様々な記憶媒体は、プロセッサ又はコントローラ内で固定されていても、そこに保存されている1つ以上のプログラムをプロセッサにロードできるように輸送可能であってもよい。
【0145】
開示された実施形態の変形例は、図面、開示及び添付の特許請求の範囲の検討から、請求項に係る発明を実施する際に当業者によって理解され、実行され得る。特許請求の範囲において、語「含む」は、他の要素又はステップを排除するものではなく、単数形の要素は複数を排除するものではない。
【0146】
単一のプロセッサ又は他のユニットが、特許請求の範囲に記載されているいくつかのアイテムの機能を果たしてもよい。
【0147】
特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを有利に使用することができないことを意味するものではない。
【0148】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に又はその一部として供給される、光記憶媒体又は固体媒体などの任意の適切な媒体に保存/配布することができるが、インターネット又は他の有線若しくはワイヤレス通信システムを介してなど他の形式で配布することもできる。
【0149】
「~するように適応されている」という用語が、特許請求の範囲又は説明で使用されている場合、「~するように適応されている」という用語は「~するように構成されている」という用語と同等であることを意図していることに留意されたい。
【0150】
特許請求の範囲における任意の参照符号は、範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】