(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-11
(54)【発明の名称】水性カーボンナノチューブ分散物、ペースト、カソード及びアノード
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20241204BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540545
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 RU2022000169
(87)【国際公開番号】W WO2023128801
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519239702
【氏名又は名称】エムシーディ テクノロジーズ エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】プレチェンスキー, ミハイル ルドルフォビッチ
(72)【発明者】
【氏名】カシン, アレクサンダー アレクサンドロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ボブレノク, オレグ フィリッポビッチ
(72)【発明者】
【氏名】コソラポフ, アンドレイ ゲナディエビッチ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA14
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA26
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA13
5H050HA15
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、水と、ゲル化剤と、0.3~2重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを、ゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの質量比が0.05以上かつ10以下で含有する分散物であって、ゲル化剤の分子の凝集物によって形成され、単層及び/又は二層ナノチューブによって弱いゲルのネットワークに物理的に連結されたゲル粒子を含有する分散物を提案する。また、分散物の調製方法、カソードペースト及びアノードペーストの調製方法、カソードペースト及びアノードペースト、並びにカソード及びアノードが提案されている。本発明は、リチウムイオン電池用の電極ペースト及びその後の電極の調製などにおいて、貯蔵及び輸送中の高い安定性と、使用される様々な製造プロセス中の低い粘度との両方を示す単層及び/又は二層カーボンナノチューブの水性分散物を製造するという問題を解決する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、ゲル化剤、並びに単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含む分散物であって、前記単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が0.3~2重量%の範囲であり、前記ゲル化剤に対する前記単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が少なくとも0.05かつ10以下であり、前記分散物が、単層カーボンナノチューブ及び/又は二層カーボンナノチューブによって弱いゲルネットワークに物理的に結合したゲル化剤分子の凝集物によって形成されたゲル粒子を含む、分散物。
【請求項2】
前記分散物が、0.37以下の流動挙動指数n及び少なくとも3.2Pa・s
nの流動一貫性指数Kを有する擬塑性べき乗則流体である、請求項1に記載の分散物。
【請求項3】
前記分散物が、1Hzの周波数及び1%の相対剪断歪み振幅での振動剪断歪みが加えられたときに少なくとも27Paの損失弾性率を有する、請求項1に記載の分散物。
【請求項4】
前記ゲル化剤が、カルボキシメチルセルロース若しくはその塩、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸若しくはその塩、又はそれらの混合物のいずれかである、請求項1に記載の分散物。
【請求項5】
前記単層及び/又は二層カーボンナノチューブが、それらの表面上に少なくとも0.1重量%の官能基を含有する、請求項1に記載の分散物。
【請求項6】
単層及び/又は二層カーボンナノチューブが、それらの表面上に少なくとも0.1重量%の塩素を含有する、請求項5に記載の分散物。
【請求項7】
単層及び/又は二層カーボンナノチューブが、それらの表面上に少なくとも0.1重量%のカルボニル基及び/又はヒドロキシル基、及び/又はカルボキシル基を含有する、請求項5に記載の分散物。
【請求項8】
波長532nmのラマンスペクトルにおけるG/D線強度の比が少なくとも10である、請求項1に記載の分散物。
【請求項9】
波長532nmのラマンスペクトルにおけるG/D線強度の比が少なくとも40である、請求項8に記載の分散物。
【請求項10】
波長532nmのラマンスペクトルにおけるG/D線強度の比が少なくとも60である、請求項9に記載の分散物。
【請求項11】
波長532nmのラマンスペクトルにおけるG/D線強度の比が少なくとも80である、請求項10に記載の分散物。
【請求項12】
単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物が、第8族~第11族の金属不純物を含有する、請求項1に記載の分散物。
【請求項13】
単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物における第8族~第11族の金属不純物の含有量が1重量%未満である、請求項12に記載の分散物。
【請求項14】
単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物における第8族~第11族の金属不純物の含有量が0.1重量%未満である、請求項13に記載の分散物。
【請求項15】
剪断速度の関数としての粘度が、Ostwald-de Waeleべき乗則に従い、流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kが、条件n<1.25
.lg(K/(Pa・s
n))-0.628を満たす、請求項1に記載の分散物。
【請求項16】
剪断速度の関数としての粘度が、Ostwald-de Waeleべき乗則に従い、流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kが、条件n<1.24-0.787
.lg(K/(Pa・s
n))を満たす、請求項1に記載の分散物。
【請求項17】
水と、ゲル化剤と、0.3~2重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する分散物の製造方法であって、前記ゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が少なくとも0.05かつ10以下であり、前記方法が、一連の少なくとも3つの分散段階(D)及び少なくとも2つの交互の静止段階(R)を含み、前記分散段階(D)のいずれかが、少なくとも10000s
-1の剪断速度で少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーで前記分散物を機械的加工する段階、又は少なくとも20kHzの周波数で少なくとも1W・h/kgの比入力エネルギーで超音波処理する段階のいずれかであり、前記静止段階(R)が、2つの連続する分散段階(D)の間の前記分散物を少なくとも1分間、10s
-1未満の剪断速度に曝露することを特徴とする、方法。
【請求項18】
一連の少なくとも10の分散段階(D)及び少なくとも9の交互の静止段階(R)を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
一連の少なくとも30の分散段階(D)及び少なくとも29の交互の静止段階(R)を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記一連の交互の段階(D)及び(R)が、(i)機械的加工又は超音波処理の段階を提供する1つ又はいくつかのデバイスと、(ii)前記分散物が保持されて10s
-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で前記分散物を循環させることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
分散循環係数が少なくとも10である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
分散循環係数が少なくとも30である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記方法が、(i)10W・h/kgを超える比入力エネルギーで10000s
-1を超える剪断速度での回転脈動装置、少なくとも20kHzの周波数及び1W・h/kgを超える比入力エネルギーでの前記分散物に浸漬された半波又は波活性化装置を有する超音波処理デバイスと、(ii)前記分散物が平均で1分を超えて保持されて10s
-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で、100~10000kg/hの循環速度で前記分散物を循環させることを含む、請求項20に記載の製造方法。
【請求項24】
前記方法が、(i)少なくとも10000s
-1の剪断速度及び少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーでの高圧ホモジナイザーと、(ii)前記分散物が平均で少なくとも1分間保持されて10s
-1未満の剪断速度でゆっくり撹拌されるタンクとの間で、100~10000kg/hの循環速度で前記分散物を循環させることを含む、請求項20に記載の製造方法。
【請求項25】
カソード活物質と、水と、ゲル化剤と、少なくとも0.005重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するカソードスラリーの製造方法であって、(C1)活性リチウム含有成分と請求項1に記載の分散物とを混合する段階、及び(C2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造する段階を含む、方法。
【請求項26】
水及び/又は水溶性有機溶媒及び/又は1つ若しくはいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤を前記混合する段階(C1)で添加することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記方法が、前記段階(C2)の前に実施される、水及び/又は水溶性有機溶媒及び/又は1つ若しくはいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤と混合する1つ又はいくつかの段階をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
カソード活物質と、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するカソードスラリーであって、少なくとも0.005重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有し、請求項25に記載の方法によって製造される、カソードスラリー。
【請求項29】
1s
-1の剪断速度での動粘度が少なくとも10Pa・sであり、100s
-1の剪断速度での動粘度が1Pa・s以下である、請求項28に記載のカソードスラリー。
【請求項30】
0.37以下の流動挙動指数n及び少なくとも10Pa・s
nの流動一貫性指数Kを有する擬塑性流体である、請求項28に記載のカソードスラリー。
【請求項31】
多層カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラファイト、第8族~第11族金属のうちの1つ又はいくつかの少なくとも0.1重量%の導電性添加剤をさらに含有する、請求項28に記載のカソードスラリー。
【請求項32】
請求項25に記載のカソードスラリーを製造するための一連の段階(C1)及び(C2)を含むリチウムイオン電池カソードの製造方法であって、(C3)前記得られたスラリーを集電体に塗布し、(C4)前記塗布されたスラリーを前記カソードが形成されるまで乾燥させ、(C5)前記カソードを必要な密度に圧縮する、製造方法。
【請求項33】
請求項32に記載の方法によって製造されたリチウムイオン電池カソード。
【請求項34】
アノード活物質と、水と、ゲル化剤と、少なくとも0.01重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するアノードスラリーの製造方法であって、(A1)アノード活物質と請求項1に記載の分散物とを混合する段階、及び(A2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造する段階を含む、方法。
【請求項35】
水及び/又は水溶性有機溶媒及び/又は1つ若しくはいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤も前記混合する段階(A1)で前記混合物に添加される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記方法が、前記段階(A2)の前に実施される、水及び/又は水溶性有機溶媒及び/又は1つ若しくはいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤と混合する1つ又は複数の段階をさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
アノード活物質と、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するアノードスラリーであって、少なくとも0.01重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有し、請求項34に記載の方法によって製造される、アノードスラリー。
【請求項38】
1s
-1の剪断速度での動粘度が少なくとも10Pa・sであり、100s
-1の剪断速度での動粘度が1Pa・s以下である、請求項37に記載のアノードスラリー。
【請求項39】
0.37以下の流動挙動指数n及び少なくとも10Pa・s
nの流動一貫性指数Kを有する擬塑性流体である、請求項37に記載のアノードスラリー。
【請求項40】
多層カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラファイト、第8族~第11族金属のうちの1つ又はいくつかの少なくとも0.1重量%の導電性添加剤をさらに含有する、請求項37に記載のアノードスラリー。
【請求項41】
請求項34に記載のアノードスラリーを製造するための一連の段階(A1)及び(A2)を含むリチウムイオン電池アノードの製造方法であって、(A3)前記得られたスラリーを集電体に塗布し、(A4)前記塗布されたスラリーを前記アノードが形成されるまで乾燥させ、(A5)前記アノードを必要な密度に圧縮する、製造方法。
【請求項42】
請求項41に記載の方法によって製造される、リチウムイオン電池アノード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層カーボンナノチューブ及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにその凝集物の水性分散物に関し、この分散物は、高い安定性及び中程度の粘度の両方を有する。本発明はまた、それらの製造方法に関する。本発明はまた、電極スラリーを製造するためのそのような分散物の使用に関する。本発明はまた、電極スラリーに関する。本発明はまた、リチウムイオン電池の電極、及びリチウムイオン電池電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ及び二層カーボンナノチューブの分散物を使用して、リチウムイオン電池電極を製造するための電極スラリーを含む様々なコーティング及び複合材料にカーボンナノ材料を導入することができる。
【0003】
リチウムイオン電池のカソード及び電極に単層及び/又は二層カーボンナノチューブを使用すると、例えばロシア特許第2749904号明細書によって実証されているように、電極及び電池全体の容量を増加させ、それらの内部抵抗を低減し、リチウムイオン電池電極、特にリチウムイオン電池のケイ素含有アノードの充放電サイクル寿命を延ばすことが可能になる。
【0004】
単層及び二層カーボンナノチューブは束ねられて、より複雑な形状に凝集する傾向がある。カーボンナノチューブの長く厚い束への凝集は、例えば電極の高い電気伝導率を確実にするためを含むいくつかの実施態様において望ましいが、分散したカーボンナノチューブ凝集物の沈降速度をより速くする、すなわち分散物及び/又は電極スラリーの安定性をより低くする。分散物の安定性が低いと、分散物の貯蔵時間が短くなり、潜在的な物流及びプロセス能力が制限され、電極スラリー材料との不均一なその後の混合のリスクが高まり、その結果、リチウムイオン電池製造における不合格品のリスクが高まる。これらのリスクは、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにそれらの凝集物を含有する電極スラリーのより低い安定性にさらに大きな程度まで関連する。
【0005】
分散剤及び界面活性剤を使用することによってカーボンナノチューブなどの分散粒子の凝集を防止することによって分散物の安定性を改善する方法は、当技術分野で公知である。単層カーボンナノチューブの場合、クロロスルホン酸は、例えば、凝集プロセスの平衡を個々のナノチューブに向かって完全にシフトさせることが知られている[A.N.G.Parra-Vasquez,N.Behabtu,M.J.Green,C.L.Pint,C.C.Young,J.Schmidt,E.Kesselman,A.Goyal,P.M.Ajayan,Y.Cohen,Y.Talmon,R.H.Hauge,M.Pasquali,Spontaneous Dissolution of Ultralong Single-and Multiwalled Carbon Nanotubes,ACS Nano 2010 4(7),3969-3978]。しかしながら、このアプローチは、カーボンナノチューブの長い束が分散物中で減少又は排除されるという欠点を有するが、それらの存在は、この種の分散物を用いて得られるコーティング又は複合材料(例えば、リチウムイオン電池電極)の電気的パーコレーション閾値を減少させ、電気伝導率を増加させるので、いくつかの実施態様では有利である。
【0006】
一方、単層又は二層カーボンナノチューブの分散物は、高粘度を特徴とし、高粘度は、ナノチューブ及び束の濃度並びにそれらのアスペクト比の増加に伴って成長する[A.N.G.Parra-Vasquez,J.G.Duque,M.J.Green,M.Pasquali,Assessment of length and bundle distribution of dilute single-walled carbon nanotubes by viscosity measurements,AIChE J.,60(2014)1499-1508]。複雑な形状の凝集物へのカーボンナノチューブ束のさらなる凝集は、分散物の非常に高い粘度をもたらし、例えば製造プロセスにおけるプロセスラインを介したコーティング又は移送のための分散物のさらなる利用を技術的に困難にする。
【0007】
同時に、分散物の高粘度は、カーボンナノチューブ及びそれらの束の移動度並びに凝集物の沈降速度を低下させ、したがって分散物の安定性を改善する。逆に、凝集物の移動度及び沈降速度は、低粘度の分散物においてより高い。したがって、カーボンナノチューブ分散物の選択は、分散物の高い安定性と低い粘度との中間点を見出すことに関する。
【0008】
したがって、リチウムイオン電池用の電極スラリーの製造を含め、分散物の高い安定性と、その層状化及び特性変化を伴わない長期貯蔵の機会とが、分散物の使用に必要な低粘度と組み合わされた、分散物を得るという技術的課題がある。単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有する電極スラリーにも同様の技術的問題があり、使用(電極の集電体への塗布)前の貯蔵中に高粘度を提供し、電極の活物質層の端部の良好な品質を確保するために広がることなく集電体への塗布後に高粘度を提供し、同時に、集電体への塗布のために定義された加工条件下で電極スラリーの低粘度を提供する必要がある。
【0009】
カーボンナノチューブを分散状態で含有する高粘度ゲルを得るための解決策がある。国際公開第2006112162号は、安息香酸又はその誘導体及び塩基の中和反応によって得られるようなイオン液体に基づく、分散カーボンナノチューブを含有するゲルを提供する。このゲル含有カーボンナノチューブは、ナノチューブの凝集及びそれらの凝集物の沈降なしに無制限の長期貯蔵を保証する。しかしながら、イオン液体を分散液として用いることは、分散物の用途を大きく制限する。電極スラリーの製造を含む大部分の用途では、そのようなゲルを直接使用することはできず、主に中性分子を含有する水性及び/又は有機溶媒に基づく分散物を使用前にそこから得るべきである。この分散物の安定性は、初期ゲルの安定性によってもはや保証されず、電極スラリーの安定性も保証されない。さらに、電極スラリー及びリチウムイオン電池電極の製造を含む多くの実施態様では、イオン液体の初期成分は、溶媒中で希釈及び分散した後でも望ましくない場合がある。
【0010】
いくつかの既知の解決策は、分散物の粘度及び/又はその複素弾性率が狭い範囲にあるような分散物組成物を提供し、この範囲は、カーボンナノチューブ分散物の良好な品質を保つために必要な高粘度と、この分散物をポンピングして最終生成物に変換する良好な作業性のために望ましい低粘度との中間である。例えば、欧州特許第3333946号明細書は、分散物媒体中のカーボンナノチューブ束の分散物を特許請求しており、この分散物はまた、共役ジエンの水素化によって得られた1~15重量%単位の水素化ニトリルブタジエンゴムも含有し、分散物はさらに、1Hzで20~500Paの複素弾性率を特徴とする。引用特許の発明者らは、液体のいくつかの一般的なレオロジー的特徴として1Hzでの複素弾性率を使用している:低い複素弾性率では液体粘度が低すぎる;複素弾性率が高く、プロセス(電極形成)がもはや実行できない場合、液体粘度が高すぎる。引用特許に記載されているように、上記複素弾性率を有する分散物の粘度は、1/(6.3s)の剪断速度で2~20Pa・sである。欧州特許第3333946号明細書は、分散物の高い安定性を確実にすることを目的としていない。しかしながら、粘度を20Pa・s未満に制限することは、分散物が長期間安定なままであるのに十分ではなく、これは、分散物の良好な貯蔵及び輸送を含む効率的な製造プロセスを妨げる欠点である。
【0011】
特許第6860740号公報は、分散物の粘度及び/又はその複素弾性率G*=(G’
2+G’’
2)
1/2を制限し、同時に位相角、すなわち、1Hzの周波数で振動する剪断歪みを加えることによって測定された損失弾性率G’’と貯蔵弾性率G’との間の比の逆正接を制限することを提案している。この公報には、カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロース又はその塩と、水とを含有する分散物であって、カルボキシメチルセルロース又はその塩の加重平均分子量が10000~100000であり、エステル化度が0.5~0.9であり、分散物の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)との積(X×Y)が100以上1500以下である分散物を特許請求の範囲に記載している。これは、本発明の懸濁液が条件(1)を満たすことを意味し、ここで、G’’は損失弾性率であり、G’は貯蔵弾性率(1Hzの周波数で振動する剪断歪みを加えることによって測定されたもの)である。
【0012】
条件(1)の簡単な数学的分析は、分散物の弾性特性を規定する貯蔵弾性率G’を制限しないことを示す。本発明によって制限される値は、損失弾性率G’’の単調関数である。条件(1)は、分散物の粘性特性を決定する損失弾性率を制限し、G’→∞の高い値ではG’’<26.18Paであり、貯蔵弾性率の制限された値ではさらに小さくなるべきである。同時に、条件(1)は、位相角を制限し、これは、200~500Paの複素弾性率のまさに中程度の値でこの条件を満たすために3~7.5度未満であるべきである。このような位相角の値は、剛性ゲルにおいて典型的である。したがって、特許第6860740号公報は、低粘度分散物の剛性ゲルを提供する。この解決策の欠点は非常に明白である:そのようなゲルの破壊は、サイズが数十マイクロメートルの大きな凝集物を生成し、これは分散物の粘度が低いため、したがって剪断応力が低いためにさらに破壊することができない。したがって、分散物を電極スラリーの活性成分と混合することは、均一なスラリーを製造することを困難にし、そのレオロジー特性は最適ではなく、例えば、スラリー粘度が低すぎてその安定性を確保できない場合がある。特許第6860740号公報に記載された発明の別の実施形態は、上記の制限とともに、位相角が15度を超えるが複素弾性率が50Pa未満であることを特徴とする分散物を提供し、これは、分散物の非常に低い粘度、したがってその低い安定性を意味する。
【0013】
本出願のプロトタイプとして、特許第6860740号公報が採用されている。
【0014】
したがって、貯蔵及び輸送中の高い安定性と、電極スラリー、次いでリチウムイオン電池電極の製造を含むその使用の様々なプロセス下での低い粘度との両方を有する、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの水性分散物を得るという技術的課題がある。単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有する電極スラリーにも同様の技術的問題があり、使用(電極の集電体への塗布)前の貯蔵中に高粘度を提供し、電極の活物質層の端部の良好な品質を確保するために広がることなく集電体への塗布後に高粘度を提供し、同時に、集電体への塗布のために定義された加工条件下で電極スラリーの低粘度を提供する必要がある。その結果、連続した充放電サイクルにおける高い比容量及び安定した動作によって実証される高品質のリチウムイオン電池電極を製造するという問題がある。プロトタイプとして採用された特許第6860740号公報を含む既知の解決策は、この技術的問題を解決することを可能にしない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】ロシア特許第2749904号明細書
【特許文献2】国際公開第2006112162号
【特許文献3】欧州特許第3333946号明細書
【特許文献4】特許第6860740号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】A.N.G.Parra-Vasquez,N.Behabtu,M.J.Green,C.L.Pint,C.C.Young,J.Schmidt,E.Kesselman,A.Goyal,P.M.Ajayan,Y.Cohen,Y.Talmon,R.H.Hauge,M.Pasquali,Spontaneous Dissolution of Ultralong Single-and Multiwalled Carbon Nanotubes,ACS Nano 2010 4(7),3969-3978
【非特許文献2】A.N.G.Parra-Vasquez,J.G.Duque,M.J.Green,M.Pasquali,Assessment of length and bundle distribution of dilute single-walled carbon nanotubes by viscosity measurements,AIChE J.,60(2014)1499-1508
【発明の概要】
【0017】
技術的問題を解決するために、貯蔵中の静止時の分散物の動粘度は、1/6.3s
-1以下の剪断速度で20Pa・sより高くなければならず、カーボンナノチューブの凝集及び/又は沈降なしに分散物を長期間貯蔵及び/又は輸送することを可能にし、プロセス流中の分散物の動粘度は著しくより低く、すなわち、18.6s
-1以上の剪断速度で2Pa・s未満、すなわち、電極スラリー製造プロセスを含むこの分散物が使用される加工に十分に低い。以下、「粘度」という用語は、25℃の温度での動粘度を指す。分散物の貯蔵及び適用条件は、本発明の分散物の利点を否定しない異なる温度によって特徴付けられ得る。重要なことに、ここで与えられ、以下で使用される、貯蔵及び輸送中の典型的な剪断速度(<1/6.3s
-1)及び加工中の剪断速度(>18.6s
-1)の値は絶対的ではなく、分散物粘度の定量的説明のための慣例とみなされる。剪断速度は、いくつかの輸送条件では1/6.3s
-1を超える場合があり、分散物を使用するいくつかの加工では18.6s
-1未満である場合があり、これは本発明の分散物の利点を否定しない。
本出願の発明者らによってなされた研究は、非理想的な擬塑性流体であり、いくつかの非理想的な液体について知られているOstwald-de Waeleべき乗則に従う単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにそれらの凝集物の分散物を製造することが可能であることを示している。以下を参照のこと。W.Ostwald,Ueber die rechnerische Darstellung des Strukturgebietes der Viskositat,Kolloid-Zeitschrift 47(1929)176-187:
【0018】
この法則は、それらの粘度が液体流中の剪断速度に依存すること、すなわち、粘度が低いほど、剪断速度が大きくなることを示唆している。擬塑性流体は、n<1によって特徴付けられる。流動挙動指数nが低いほど、剪断速度に対する擬塑性流体粘度の依存性がより顕著になる。さらなる研究は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの分散物にゲル化剤(gelling agent:gelator、gelation agent)を、ゲル粒子(ドメイン)が分散物中に蓄積し、ゲル粒子がこのゲル化剤の分子によって形成され、単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブを含有する凝集物と互いに結合するように添加することによって、流動挙動指数を有意に低下させることができることを示している。ゲル化剤並びに単層及び/又は二層カーボンナノチューブのこの同時導入は、溶媒中のカーボンナノチューブ及び溶媒中のゲル化剤の対応する(濃度が同等の)分散物の流動挙動指数と比較して、より低い流動挙動指数n(すなわち、分散物と理想的なニュートン流体との間のより大きな差)をもたらす相乗効果をもたらす。
【0019】
相乗効果は、ゲル化剤分子の凝集物によって形成され、単層及び/又は二層カーボンナノチューブによって弱いゲルネットワーク(いくつかの刊行物は、弱いゲルを構造化液体と呼ぶ)に物理的に結合したゲル粒子の分散物中の存在によって引き起こされる。得られたネットワークは、低い剪断荷重で非常に高い分散物粘度を提供する。しかしながら、カーボンナノチューブとゲル化剤分子との間の分子間結合は十分に弱く、したがって、より高い剪断荷重はそれらを破壊し、より低い粘度をもたらす。得られた系は、1つの強いゲル化剤及び1つの弱いゲル化剤(後者は単層又は二層カーボンナノチューブである)を有する多成分(2成分)超分子ゲル(E.R.Draper及びD.J.Adamsによる総説、How should multicomponent supramolecular gels be characterised? Chem.Soc.Rev.,2018,47,3395;doi:10.1039/c7cs00804jを参照)として特徴付けることができる。
【0020】
単層及び/又は二層カーボンナノチューブとゲル化剤の両方を懸濁液中に有することは、前記相乗効果にとって十分ではない。ナノチューブ及びゲル化剤を水中で混合及び分散させ、ゲル化剤及びナノチューブが共集合性ゲルのゲルネットワークのみを形成する場合、又は逆にゲル化剤及びナノチューブが2つの独立した相互浸透性ゲルネットワークを形成する場合、得られるゲルはどちらの場合も問題の特徴を有さず、その特性は上記のプロトタイプに近い。しかしながら、ナノチューブ及びゲル化剤を水中で混合及び分散させ、溶媒中のゲル化剤のゲル粒子(ドメイン)が蓄積し、単層及び/又は二層カーボンナノチューブがゲル化剤のみ又は主にゲル化剤を含有するゲルドメインを2成分ゲルの単一ネットワークに結合する条件を提供する場合、得られる分散物は、非常に低い値の流動挙動指数を用いて上述したように、剪断速度の関数として鋭い粘度を示す。
【0021】
ゲル構造の特徴付け:結合凝集物のみからなるか(共集合性ゲル)、又はカーボンナノチューブによって結合されたゲル化剤の単一成分ゲルドメイン(又はカーボンナノチューブを含有する凝集物)を含有するか(自己選別ゲル)にかかわらず、極低温透過型電子顕微鏡法及びNMRマイクロトモグラフィなどの特別で非標準的な研究方法を必要とする。一方、ゲル構造は、そのレオロジー特性、すなわち剪断速度の関数としての粘度、又は剪断歪みの関数としての複素弾性率G*及びその成分G’及びG’’によって定義することができる。
【0022】
本発明は、一実施形態では、水、ゲル化剤、並びに単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含む分散物を提供し、ここで、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は0.3~2重量%の範囲であり、ゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比は少なくとも0.05かつ10以下であり、分散物は、単層カーボンナノチューブ及び/又は二層カーボンナノチューブによって弱いゲルネットワークに物理的に結合したゲル化剤分子の凝集物によって形成されたゲル粒子を含有する。
【0023】
本発明はまた、一実施形態では、水、ゲル化剤、並びに単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有する分散物を提供し、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は0.3~2重量%の範囲であり、ゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比は少なくとも0.05かつ10以下であり、分散物は、0.37以下の流動挙動指数n及び少なくとも3.2Pa・snの流動一貫性指数Kを有する擬塑性流体であることを特徴とする。
【0024】
この組成物、構造を有する、又はそのようなレオロジー特性を有する分散物は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにゲル化剤の粘度に対する相乗効果のために、低剪断速度(例えば、1/6.3s-1未満)での分散物の非常に高い動粘度及び加工に典型的な剪断速度(例えば、18.6s-1超)での低い動粘度の利益を与える。
【0025】
ゲル化剤とは、分子間力(ファンデルワールス力、水素結合など)によって正味の架橋を形成することができるポリマー鎖を有する物質を指す。これにより、静止時の分散物の高い粘度が保証される。しかしながら、高い剪断速度は、ゲル化剤を含む分散物の粘度を著しく低下させる。分子間相互作用が可能なポリマーは、ゲル化剤であり得る。ゲル化剤として使用することができる物質の例は、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリアクリル酸及び/又はその塩、又はそれらの混合物であるが、これらに限定されない。最も好ましくは、ゲル化剤は、本発明の水性分散物の以下のうちの1つである:カルボキシメチルセルロースNa塩、カルボキシメチルセルロースLi塩、ポリアクリル酸Na塩若しくはポリアクリル酸Li塩、又はポリビニルピロリドン。場合によっては、2以上の異なるゲル化剤が、好ましくは単層及び/又は二層カーボンナノチューブと共に分散物中に存在する。
【0026】
分散物中のゲル化剤は、より高い流動一貫性指数K及びより低い流動挙動指数nを保証する。分散物中の単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物も、より高い流動一貫性指数K及びより低い流動挙動指数nを確実にする。分散物が単層及び/又は二層カーボンナノチューブによって弱いゲルネットワークに物理的に結合したゲル化剤分子の凝集物によって形成されたゲル粒子を含有するように、ゲル化剤と単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物の両方を分散物中に有することは、相乗効果を生じ、溶媒中のカーボンナノチューブ及び溶媒中のゲル化剤の対応する分散物の流動挙動指数と比較して、有意により低い流動挙動指数n(すなわち、分散物と理想的なニュートン流体との間のより大きな差)をもたらす。それはまた、振動剪断荷重下でより高い損失弾性率G’’及びより高い位相角δ=arctan(G’’/G’)を与える。
【0027】
分散物中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの好ましい重量比は、少なくとも0.1かつ5以下である。分散物中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの最も好ましい重量比は、少なくとも0.33かつ3以下である。しかしながら、技術的結果をもたらす相乗効果は、分散物中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が0.05~0.33の範囲でも達成可能である。いくつかの実施態様では、分散物中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの最も好ましい重量比は、少なくとも0.5かつ2以下である。技術的結果をもたらす相乗効果は、分散物中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が2~10の範囲でも達成可能である。
【0028】
分散物中に単層及び/又は二層(多層ではない)カーボンナノチューブを有することは、一般に、技術的結果の前提条件である。単層カーボンナノチューブは、安定な単層カーボンナノチューブのために4nm未満、例えば1.5nmの小さい直径を有すると同時に、5μmを超えることができる大きな長さを有することが知られている。したがって、単層カーボンナノチューブは、3000を超えることができる非常に大きい長さ対直径比を有する。二層カーボンナノチューブはまた、6nmを超えない(例えば2.8nmであることができる)外径を有することも知られており、それらの長さは5μmを超えることもできる。この高い長さ対直径比は、単層カーボンナノチューブに分散レオロジーに大きな影響を与え、ゲル化剤の同時存在による相乗効果と相まって、所望の技術的結果をもたらす。単層及び/又は二層カーボンナノチューブの凝集は、その中に含有される個々のナノチューブの長さ対直径比よりも幾分小さいか又は大きい長さ対直径比を有する凝集物を形成することができる。単層及び/又は二層カーボンナノチューブ凝集物は、好ましくは100を超える長さ対直径比、より好ましくは500を超える単層及び/又は二層カーボンナノチューブの長さ対直径比、最も好ましくは1000を超える単層及び/又は二層カーボンナノチューブの長さ対直径比を有する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束を含有する。
【0029】
所望の技術的結果を達成することを可能にする分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は、0.3~2重量%である。分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの好ましい含有量は、使用されるプロセス機器及びロジスティック特性によって決定される。好ましくは、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は0.3~1.4重量%である。いくつかの実施態様では、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は、好ましくは0.3~0.6重量%、最も好ましくは0.35~0.45重量%である。いくつかの他の実施態様では、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は、好ましくは0.6~1.2重量%、最も好ましくは0.7~1重量%である。
【0030】
単層及び/又は二層カーボンナノチューブがファンデルワールス力(π-π相互作用)を介して互いに相互作用し、凝集する(束ねる)能力もまた、技術的結果を達成するために非常に重要である。単層及び/又は二層カーボンナノチューブの欠陥は、この能力を低下させる。したがって、単層及び/又は二層カーボンナノチューブは、好ましくは、可能な限り少ない欠陥を含有する。単層及び/又は二層カーボンナノチューブの構造における欠陥の数を示す定量的指標は、ラマンスペクトルにおけるG及びD線強度の比であり、この比が大きいほど、カーボンナノチューブの欠陥が少なくなる。532nmのラマンスペクトルにおける好ましいG及びD線強度比は少なくとも10であり、532nmのラマンスペクトルにおけるより好ましいG及びD線強度比は少なくとも40であり、532nmのラマンスペクトルにおけるさらにより好ましいG及びD線強度比は少なくとも60であり、最も好ましい比は少なくとも80である。
【0031】
単層及び/又は二層カーボンナノチューブに加えて、分散物は、非晶質炭素及び/又はグラファイト及び/又は多層カーボンナノチューブを含む他の炭素同素体の不純物を含有し得るが、これらに限定されない。分散レオロジーに対するこれらの不純物の影響はわずかであり、したがって、不純物は技術的結果に影響を及ぼさない。
【0032】
単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物の分散物は、元素周期表の第8族~第11族の金属、又はカーボンナノチューブの製造において触媒として使用される金属炭化物、例えば、鉄若しくはコバルト、又は他の金属、バイメタル粒子、又はそれらの合金の不純物を含有してもよく、それらは、これらのカーボンナノチューブが得られる方法に起因する。電極スラリーの製造及び電極のさらなる製造を含むいくつかの実施態様では、単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はその凝集物中の元素周期表の第8族~第11族の金属不純物の含有量は、好ましくは1重量%未満である。いくつかの実施態様では、単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はその凝集物中の元素周期表の第8族~第11族の金属不純物の含有量は、より好ましくは0.1重量%未満である。他の実施態様では、反対に、単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物中の化学元素周期表の第8族~第11族の金属不純物の含有量をそれほど制限する理由はないので、15重量%までとすることができる。
【0033】
最小流動挙動指数nを達成するための最良の相乗効果のために、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの表面は、好ましくは、限定はしないが、酸素含有基(最も好ましくは、表面は、カルボキシル基及び/又はカルボニル基及び/又はヒドロキシル基を含有する)又は塩素含有基などの官能基を含有する。この場合、カーボンナノチューブとゲル化剤分子との間の相互作用がより強く、流動挙動指数の低下に対するゲル化剤とナノチューブとの相乗効果が最も顕著である。官能基は、当技術分野で公知の様々な方法によってカーボンナノチューブの表面上に生成することができる。例えば、カルボキシル官能基は、硝酸溶液中での熱処理によってカーボンナノチューブの表面に生成することができ、塩素含有官能基は、ロシア特許第2717516号明細書に記載されている方法のうちの1つによって生成することができるが、与えられた例に限定されない。官能化方法、すなわちカーボンナノチューブの表面上に官能基を生成する方法は、本開示の範囲外であるが、文献中に見出され得る。単層及び/又は二層カーボンナノチューブの表面上の官能基の含有量は、好ましくは少なくとも0.1重量%であり;最も好ましくは、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの表面上の塩素含有量は少なくとも0.1重量%である。この技術的結果は、少なくとも0.1重量%のカルボニル基及び/又はヒドロキシル基、及び/又はカルボキシル基によって官能化された表面を有する単層及び/又は二層カーボンナノチューブによっても達成可能である。しかしながら、技術的結果は、表面上に官能基を含有しない、例えば、表面上の潜在的な官能基を除去するために不活性雰囲気中で意図的に加熱された単層及び/又は二層カーボンナノチューブによっても達成可能である。
【0034】
水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有する分散物は擬塑性であり、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとゲル化剤との相乗的相互作用に起因して、流れにおける剪断速度に対する分散物粘度の非常に強い依存性を示す。これは、大部分の実施態様について、一方では、静止時(貯蔵及び/又は輸送中)に高粘度の分散物を提供し、他方では、分散物がパイプを通って流れるとき、又はノズルを通って噴霧されるとき、又は流れにおける所与の剪断速度を有する他の用途において、特定の分散物使用条件下で必要な粘度を提供するという技術的問題を解決する。この問題を解決するために、流動挙動指数nは、好ましくは、十分に小さく、0.37以下であり、流動一貫性指数Kは、少なくとも3.2Pa・snである。より好ましくは、流動挙動指数nは0.30以下である。最も好ましくは、流動挙動指数nは0.2以下である。
【0035】
流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kは、Ostwald-de Waeleべき乗方程式(2)によって記述されるように、剪断速度γの関数としての分散物粘度μeffのパラメータを指す。重要なことに、剪断速度の関数としての分散物粘度は、Ostwald-de Waeleべき乗則に正確に従わない場合がある。剪断速度の関数としての分散物粘度がべき乗則と異なる場合、流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kは、例えば最小二乗基準に基づいて、剪断速度対数の関数としての粘度対数のプロット上の最良線形近似に対応するパラメータとみなされる。
【0036】
流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kは、好ましくは、以下の条件:n<1.25lg(K/(Pa・sn))-0.628を満たす。この場合、貯蔵中の静止時の分散物の粘度は、1/6.3s-1以下の剪断速度で20Pa・sを超えて高いままであり、カーボンナノチューブ及びその凝集物の凝集及び/又は沈降なしに分散物の長期貯蔵及び/又は輸送を可能にする。
【0037】
流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kは、好ましくは、以下の条件:n<1.24-0.787.lg(K/(Pa・sn))を満たす。この場合、流れにおける分散物粘度は、18.6s-1以上の剪断速度で2Pa・s未満であり、したがって、電極スラリーの製造のためを含む、この分散物を使用する加工に十分低い。
【0038】
分散物は、好ましくは、1Hzの周波数及び1%の相対剪断歪み振幅での振動剪断歪みが加えられたときの少なくとも27Paの損失弾性率を特徴とする。損失弾性率G’’は、コーン・アンド・プレートセル又はプレート・アンド・プレートセルを備えた回転式レオメーターを使用して測定することができる。プレート・アンド・プレートセルでは、単層カーボンナノチューブ束の長さを数十μmとすることができるため、損失弾性率を正確に測定するためには、プレート間のギャップが少なくとも500μmであることが重要である。隙間を小さく設定すると、壁効果が大きくなり得、測定値が誤ってしまう可能性がある。
【0039】
本発明は、一実施形態において、水と、ゲル化剤と、0.3~2重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する分散物の製造方法を提供し、ゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が少なくとも0.05かつ10以下であり、方法が、一連の少なくとも3つの分散段階(D)及び少なくとも2つの静止段階(R)を交互に含み、分散段階(D)のいずれかが、少なくとも10000s-1の剪断速度で少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーで分散物を機械的加工する段階、又は少なくとも20kHzの周波数で少なくとも1W・h/kgの比入力エネルギーで超音波処理する段階のいずれかであり、静止段階(R)が、2つの連続する分散段階(D)の間の分散物を少なくとも1分間、10s-1未満の剪断速度に曝露することを特徴とする。
【0040】
提供される分散物の製造方法は、一方では、段階(D)での高い剪断速度に起因して単層カーボンナノチューブを分散させることを可能にし、他方では、静止段階(R)で、単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ又は単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブを含有する凝集物によって単一ネットワークに主に結合されたゲル化剤を有するゲルドメインを含有する2成分ゲルの分離構造を形成することを可能にする。この製造方法は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブのより良好な分散及び分布を確実にすることに留意されたい。得られた分散物は擬塑性であるため、機械的加工又は超音波処理中に、高剪断速度を有する領域内の局所的な低粘度ゾーン及び低剪断速度を有する領域内の局所的な高粘度ゾーンが形成され得、これらのゾーン間の物質移行は低強度かほとんどない。この理由から、提供される方法は、機械的加工又は超音波処理の段階を2回よりも多く繰り返すことによって技術的結果が達成可能であり、分散物は、機械的加工又は超音波処理の周期的に繰り返される段階の間、少なくとも1分間、静止しているか、又は10s-1未満の比較的低い剪断速度でなければならないことを示唆している。
【0041】
機械的加工は、例えば、ローターステーター分散機及びホモジナイザー(溶解機)、コロイドミル、ビーズミル、遊星ミル、高圧ホモジナイザー(HPH)、及び回転脈動装置(RPA)を含む、分散物の流れにおいて所望の剪断速度を提供する様々な分散又は混合機器を用いて実行することができる。いくつかの実施態様では、ディスク溶解機、すなわち、ディスクインペラを有する(好ましくは歯付きディスクインペラを有する)垂直撹拌機は、機械的活性化に十分であり、好ましい。非常に高い剪断速度ゾーンを通過する分散流を有するビーズミル又は高圧ホモジナイザーを使用する場合、分散段階(D)は、分散物の全体積をミル又はホモジナイザーに押し込むことを含む。この場合、静止段階(R)は、溶媒と、HNBRと、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含む分散性混合物が、分散サイクルの間にタンク内の存在し、10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるだけであることを意味する。
【0042】
機械的加工又は超音波処理のための機器、比出力、各段階での処理の持続時間の選択は、利用可能な機器及び分散物の組成、すなわち選択された溶媒、カーボンナノチューブの濃度、選択されたHNBRの濃度及び銘柄、並びに他の充填剤及び添加剤の利用可能性に依存する。これに関して、いくつかの機器の選択肢は、いくつかの分散物組成物に適用されない場合がある。
【0043】
場合によっては、本方法は、好ましくは、一連の少なくとも5つの分散段階(D)及び少なくとも4つの静止段階(R)を交互に含み、分散段階(D)のいずれかは、少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーで少なくとも10000s-1の剪断速度で分散物を機械的加工する段階、又は少なくとも1W・h/kgの比入力エネルギーで少なくとも20kHzの周波数で超音波処理する段階のいずれかであり、静止段階(R)は、2つの連続する分散段階(D)の間の分散物を少なくとも1分間、10s-1未満の剪断速度に曝露する。別の実施態様では、本方法は、好ましくは、一連の少なくとも10の分散段階(D)及び少なくとも9の交互の静止段階(R)を含む。別の実施態様では、本方法は、好ましくは、一連の少なくとも30の分散段階(D)及び少なくとも29の交互の静止段階(R)を含む。
【0044】
いくつかの実施態様では、機械的加工又は超音波処理の段階を提供する1つ又はいくつかのデバイスと、分散物が保持されて10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で分散物を循環させることによって、一連の少なくとも3つの(D)段階及び少なくとも2つの静止段階(R)が交互に実施される。ここで、分散物製造時のそのような分散物循環の係数は、少なくとも5であることが好ましい。いくつかの方法の実施態様では、製造中の分散循環係数は少なくとも10であり得る。他の実施態様では、製造中の分散循環係数は、好ましくは少なくとも30である。好ましい循環サイクル数は、分散物の組成、分散機器のタイプ、及び分散段階での比入力電力によって定義される。
【0045】
いくつかの実施態様では、製造方法は、好ましくは、少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーで少なくとも10000s-1の剪断速度での回転脈動装置、少なくとも20kHzの周波数及び少なくとも1W・h/kgの比入力エネルギーでの浸漬ソノトロード(超音波プローブ、超音波アクチュエータ)を備えた超音波処理デバイスと、タンク内での分散物の滞留時間が少なくとも1分であり、分散物が10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で、100~10000kg/hの循環速度で分散物を循環させることを含む。滞留時間は、タンク体積と循環速度との間の比、すなわち、完全混合デバイスの近似におけるタンク内の分散物の平均滞留時間を指す。いくつかの実施態様では、回転脈動装置のローターとステーターとの間の剪断速度は、好ましくは少なくとも20000s-1、最も好ましくは少なくとも50000s-1である。いくつかの実施態様では、分散物が回転脈動装置を通過するときの比入力エネルギーは、好ましくは30W・h/kg以下である。しかしながら、技術的結果は、分散物が回転脈動装置を通過するときに10~30W・h/kgの比入力エネルギーでも達成可能である。また、好ましくは、超音波処理は、少なくとも40kHzの周波数及び2W・h/kgを超える比入力エネルギーで行われる。しかしながら、技術的結果は、20kHz~40kHzの周波数及び1~2W・h/kgの比入力エネルギーでも達成可能であるが、これはより多くのサイクルを必要とする。
【0046】
いくつかの実施態様では、製造方法は、好ましくは、少なくとも10000s-1の剪断速度及び少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーでの高圧ホモジナイザーと、分散平均滞留時間が少なくとも1分であり、10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で、100~10000kg/hの循環速度で分散物を循環させることを含む。ホモジナイザーバルブの上流の圧力は、30MPa超、例えば60MPa超とすることができ、ホモジナイザーの設計によって決定される。ノズル直径はまた、本発明の範囲外であるホモジナイザーの設計によって決定され、2mm未満、例えば700μmとすることができる。いくつかの実施態様では、回転脈動装置のローターとステーターとの間の剪断速度は、好ましくは70000s-1を超え、最も好ましくは500000s-1を超える。いくつかの実施態様では、各分散段階での比入力エネルギーは、好ましくは20W・h/kg超、最も好ましくは30W・h/kg超である。しかしながら、技術的結果は、分散物の10~20W・h/kgの間の各分散段階での比入力エネルギーによっても達成可能であるが、これはより多くのサイクルを必要とする。
【0047】
本発明は、一実施形態では、カソード活物質と、水と、ゲル化剤と、少なくとも0.005重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造する方法を提供し、その方法は、(C1)活性リチウム含有成分、並びに、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する上記分散物を混合する段階であって、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が0.3~2重量%であり、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとゲル化剤との間の重量比が少なくとも0.05かつ10以下である、混合する段階と、(C2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造する段階を含むことを特徴とする。
【0048】
本発明は、一実施形態では、カソード活物質と、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するカソードスラリーであって、少なくとも0.005重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有し、上記方法によって製造されることを特徴とする、カソードスラリーを提供する。
【0049】
本発明は、一実施形態では、アノード活物質と、水と、ゲル化剤と、少なくとも0.01重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有するアノードスラリーを製造する方法を提供し、その方法は、(A1)活性ケイ素含有成分、並びに、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する上記分散物を混合する段階であって、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が0.3~2重量%であり、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとゲル化剤との間の重量比が少なくとも0.05かつ10以下である、混合する段階と、(A2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造する段階を含むことを特徴とする。
【0050】
本発明は、一実施形態では、カソード活物質と、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するアノードスラリーであって、少なくとも0.01重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有し、上記方法によって製造されることを特徴とする、アノードスラリーを提供する。
【0051】
段階(C2)又は(A2)において、均一な懸濁液を生成するための段階(C1)又は(A1)でそれぞれ得られた混合物の撹拌は、任意の既知の混合方法によって、任意の混合機器、例えば、垂直撹拌機(溶解機としても知られる)、遊星ミキサー、ローターステーター型ミキサー、二軸スクリューミキサーで行うことができるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様では、撹拌は、好ましくは、ディスク溶解機、すなわち、ディスクインペラを有する(好ましくは歯付きディスクインペラを有する)垂直撹拌器を使用して行われる。段階(C2)又は(A2)では、遊星ミキサーが最も好ましい。段階(C2)又は(A2)のための混合方法の選択及びこれらの段階のための機器の選択は、本発明の範囲外であることに留意されたい。
【0052】
カソード活物質は、以下の特性を有する任意の材料を指す(M.S.Whittingham,Lithium Batteries and Cathode Materials,Chem.Rev.2004,Vol.104,pp.4271-4301によって概説される)。(1)材料は、容易に還元可能/酸化可能なイオン、例えば遷移金属カチオンを含有する。(2)材料は、その構造の基本的な変化なしに可逆的にリチウムと反応する;(3)材料は、反応の自由エネルギー(ヘルムホルツ電位)が高いリチウムと反応する;(4)材料は、リチウムと非常に迅速に相互作用する。例えば、カソードスラリーの活物質は、LiTiS2、LiVSe2、LiCoO2、LiNiO2、LiFePO4(LFPとも呼ばれる)、LiNixMnyCozO2(式中、x、y、zは1未満の正数であってx+y+z=1であり、NMCとも呼ばれ、例えばLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2はNMC 811とも呼ばれる)、又は与えられた例に限定されないが他のいずれか、又はそれらの混合物であることができる。本発明のカソードスラリーは、LiFePO4(LFPとも呼ばれる)が最も好ましい。
【0053】
アノード活物質とは、その構造を根本的に変化させることなく、かなりの量の還元されたリチウムを吸収することができる材料を指す。アノード活物質は、グラファイト相、ケイ素相、又は酸化ケイ素SiOx相(式中、xは2以下の正数である)であってもよく、又はアノード活物質中の酸素元素とケイ素元素との間の総原子比が0より大きく1.8未満であるケイ素と酸化ケイ素SiOx相の組み合わせ、又は例えば、H.Cheng;J.G.Shapter;Y.Li,G.Gao,Recent progress of advanced anode materials of lithium-ion batteries.Journal of Energy Chemistry,Volume 57,2021,pp.451-468,ISSN 2095-4956,doi.org/10.1016/j.jechem.2020.08.056による総説に記載されているような他の既知のアノード活物質であってもよい。
【0054】
カソードスラリー及びアノードスラリーを製造するための提供された方法、並びに提供されたカソードスラリー及びアノードスラリーに関する「電極スラリー」という用語は、カソードスラリー又はアノードスラリーを指すものとし、「電極」は、それぞれカソード又はアノードを指すものとする。
【0055】
電極スラリー中に単層及び/又は二層カーボンナノチューブとゲル化剤の両方を有することは、分散物について上述したものと同様の相乗効果により、電極スラリーの流動挙動指数nが小さいという点で、理想的な(ニュートン)流体からのスラリーのレオロジー特性の有意な差を引き起こす。それは、好ましくは、少なくとも10Pa・snの流動一貫性指数Kを有する0.37以下であり、これは、電極スラリーが、非常に低い粘度、例えば、導電性電極板への電極スラリーのその後の塗布に典型的な100s-1以上の剪断速度で1Pa・s以下と、高い粘度、例えば1s-1以下の剪断速度で少なくとも10Pa・sとの両方を同時に有することを意味する。電極スラリーの特性のこの組み合わせは好ましく、使用(電極の集電体への塗布)前の貯蔵中に高粘度を提供し、電極の活物質層の端部の良好な品質を確保するために広がることなく集電体への塗布後に高粘度を提供し、同時に、集電体への塗布のために定義された加工条件下で電極スラリーの低粘度を提供するという技術的問題を解決する。
【0056】
電極スラリーは、加工に有利であれば、水に加えて別の水溶性有機溶媒を含有してもよい。水溶性有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどを挙げることができるが、これらに限定されない。さらなる水及び/又は水溶性有機溶媒を、電極活物質と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにゲル化剤を含有する分散物とを混合する段階(C1)若しくは(A1)において添加することができるか、又は混合段階(C1)若しくは(A1)に先行する追加の混合段階において添加することができるか、又は混合段階(C1)若しくは(A1)の後で段階(C2)若しくは(A2)の前の別個の混合段階において添加することができる。
【0057】
乾燥後の電極材料の必要な可塑性及び強度を確保するために、電極スラリーにバインダーをさらに添加することができる。最も典型的には高分子(ポリマー)材料であるこれらの添加剤は、溶液又は懸濁液、例えば水性懸濁液、N-メチル-2-ピロリドン又は別の溶媒に基づく懸濁液の形態で導入することができ、溶媒の選択は、使用される加工の特徴に依存する。これらの添加剤は、例えば、フルオロプラスチックの懸濁液、様々なゴムのラテックス、ポリアクリル酸又はその塩、例えばNa又はLi塩を含むことができる。バインダーを、電極活物質と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにゲル化剤を含有する分散物とを混合する段階(C1)若しくは(A1)において添加することができるか、又は混合段階(C1)若しくは(A1)に先行する追加の混合段階において添加することができるか、又は混合段階(C1)若しくは(A1)の後で段階(C2)若しくは(A2)の前の別個の混合段階において添加することができる。
【0058】
技術的結果を達成するためには、段階(C1)又は(A1)でスラリーを製造するために使用される分散物がゲル化剤と単層及び/又は二層カーボンナノチューブの両方を含有することが重要であり、すなわち、電極スラリーを製造するための分散物が単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有し、電極スラリーの製造中にゲル化剤がそれに添加されるだけでは十分でない。いくつかの実施態様では、電極スラリーは、好ましくは、上述の分散物中のゲル化剤と化学的に同様のゲル化剤をさらに含有し、すなわち、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有し、電極スラリーを製造するために使用されるか、又は好ましくは別のゲル化剤が電極スラリーに添加される。この場合、電極スラリー中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比は、その製造に使用される分散物中の対応する比よりも小さい。分散物中のものと化学的に類似する追加のゲル化剤又は異なるものを、電極活物質と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有する分散物とを混合する段階(C1)若しくは(A1)において添加することができるか、又は混合段階(C1)若しくは(A1)に先行する追加の混合段階において添加することができるか、又は混合段階(C1)若しくは(A1)の後で段階(C2)若しくは(A2)の前の別個の混合段階において添加することができる。
【0059】
上記の3つの段落を要約すると、電極スラリーを製造する方法は、段階(C2)又は(A2)の前に、水及び/又は水溶性有機溶媒及び/又は1つ又はいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤と混合する1つ又はいくつかの追加の段階を含むことができる。いくつかの実施態様では、溶媒及び/又は1つ若しくはいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤も、好ましくは混合する段階(C1)又は(A1)で混合物に添加される。
【0060】
なお、上記のように電極スラリーのレオロジー特性を変化させるゲル化剤として作用する物質は、バインダーとしても機能することができ、例えば、ポリアクリル酸のLi塩は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有するスラリーのレオロジー特性に対して相乗効果を有するゲル化剤と、電極スラリーの強度特性を改善するバインダーとの両方である。
【0061】
電極スラリー中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの好ましい重量比は、少なくとも0.005かつ10以下である。いくつかの実施態様では、電極スラリー中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比は、好ましくは少なくとも0.01かつ5以下である。電極スラリー中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの最も好ましい重量比は、少なくとも0.03かつ3以下である。しかしながら、技術的結果をもたらす相乗効果は、電極スラリー中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が0.005~0.03の範囲でも達成可能である。技術的結果をもたらす相乗効果は、電極スラリー中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が3~10の範囲でも達成可能である。
【0062】
いくつかの実施態様では、電極スラリーは、好ましくは、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ以外の少なくとも0.1重量%の導電性添加剤、例えばグラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、様々な形態、厚さ及び長さの炭素繊維、又はこれらの例に限定されない金属粒子をさらに含有し、例えばそのような添加剤は、電極の内部抵抗を低減する別の利点を確実にすることができる。
【0063】
電極スラリーは、カーボンナノチューブ製造プロセスに起因する単層及び/又は二層カーボンナノチューブ中の不純物である元素の周期表の第8族~第11族の金属粒子を含んでもよい。金属粒子を含むこれらの導電性添加剤は、技術的結果の達成を妨げない。しかしながら、金属粒子はほとんどの実施態様において望ましくなく、電極スラリー中の元素の周期表の第8族~第11族の金属不純物の含有量は、好ましくは単層及び二層カーボンナノチューブの1重量%未満であることに留意されたい。いくつかの実施態様では、電極スラリー中の元素の周期表の第8族~第11族の金属不純物の含有量は、好ましくは単層及び二層カーボンナノチューブの0.1重量%未満である。
【0064】
本発明は、一実施形態において、リチウムイオン電池カソードを製造するための方法であって、上記カソードスラリーを製造するための一連の段階を含むことを特徴とする方法を提供する。(C1)活性リチウム含有カソード成分、並びに、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する上記分散物を混合することであって、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が0.3~2重量%であり、分散物中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの間の重量比が少なくとも0.05かつ10以下である、混合すること、(C2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造すること、及び(C3)得られたスラリーを集電体に塗布すること、(C4)塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥すること、及び(C5)カソードを必要な密度に圧縮すること。カソードを製造する方法は、(C1)活性リチウム含有カソード材料と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにゲル化剤を含有する分散物とを混合する段階で添加することができるか、又は混合段階(C1)に先行する別個の混合段階で添加することができるか、又は混合段階(C1)の後で段階(C2)の前の別個の混合段階で添加することができる、分散物中のものと化学的に類似するバインダー及び/又は追加の溶媒及び/又はゲル化剤又は異なるものを導入する追加の段階を含むことができる。
【0065】
本発明は、一実施形態において、リチウムイオン電池アノードを製造するための方法であって、上記アノードスラリーを製造するための一連の段階を含むことを特徴とする方法を提供する。(A1)活性アノード成分、並びに、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する上記分散物を混合することであって、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が0.3~2重量%であり、分散物中のゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの間の重量比が少なくとも0.05かつ10以下である、混合すること、(A2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造すること、及び(A3)得られたスラリーを集電体に塗布すること、(A4)塗布したスラリーをアノードが形成されるまで乾燥すること、及び(A5)アノードを必要な密度に圧縮すること。アノードを製造する方法は、(A1)アノード活物質と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにゲル化剤を含有する分散物とを混合する段階で添加することができるか、又は混合段階(A1)に先行する別個の混合段階で添加することができるか、又は混合段階(A1)の後で段階(A2)の前の別個の混合段階で添加することができる、分散物中のものと化学的に類似するバインダー及び/又は追加の溶媒及び/又はゲル化剤又は異なるものを導入する追加の段階を含むことができる。
【0066】
本発明は、一実施形態において、上記カソードスラリーを製造するための一連の段階を含む方法によって製造されたリチウムイオン電池カソードを提供する。(C1)活性リチウム含有成分、並びに、水と、ゲル化剤と、単層又は二層カーボンナノチューブとを含有する上記分散物を混合することであって、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が0.3~2重量%であり、ゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの間の重量比が少なくとも0.05かつ10以下である、混合すること、(C2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造すること、及び(C3)得られたスラリーを集電体に塗布すること、(C4)塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥すること、及び(C5)カソードを必要な密度に圧縮すること。
【0067】
ゲル化剤と単層及び/又は二層カーボンナノチューブとの両方をカソードスラリー中に有することにより、剪断速度の関数としての粘度に影響を及ぼし、集電体への適用条件下でのカソードスラリーの安定性と中程度の粘度の両方を確実にし、本発明のカソードを有するリチウムイオン電池は、連続する充放電サイクルにおいて非常に安定した動作を示す。例えば、1Cの電流での400回の充電及び放電サイクル後の電池容量は、初期電池容量の80%超、いくつかの実施態様では90%超、いくつかの実施態様では95%超であり得る。達成可能な電池安定性は、電池カソード内の活物質及び電池アノードに依存する。
【0068】
本発明は、一実施形態において、上記アノードスラリーを製造するための一連の段階を含む方法によって製造されることを特徴とする、リチウムイオン電池アノードを提供する。(A1)活性アノード成分、並びに、水と、ゲル化剤と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する上記分散物を混合することであって、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が0.3~2重量%であり、ゲル化剤に対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの間の重量比が少なくとも0.05かつ10以下である、混合すること、(A2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造すること、及び(A3)得られたスラリーを集電体に塗布すること、(A4)塗布したスラリーをアノードが形成されるまで乾燥すること、及び(A5)アノードを必要な密度に圧縮すること。
【0069】
ゲル化剤と単層及び/又は二層カーボンナノチューブとの両方をアノードスラリー中に有することにより、剪断速度の関数としての粘度に影響を及ぼし、集電体への適用条件下でのアノードスラリーの安定性と中程度の粘度の両方を確実にし、本発明のアノードを有するリチウムイオン電池は、連続する充放電サイクルにおいて非常に安定した動作を示す。例えば、1Cのレートでの400回の充電及び放電サイクル後の電池容量は、初期電池容量の80%超、いくつかの実施態様では90%超、いくつかの実施態様では95%超であり得る。達成可能な電池安定性は、電池アノード内の活物質及び電池カソードに依存する。
【0070】
本発明は、例示のみのために提供されて本発明の可能な実施態様を限定することを意図しない添付の図及び実施例によって説明される。便宜上、実施例に関する基本的な情報を、分散物及び電極スラリーの組成及び特性に関する情報を提供する表1及び2にも要約する。
【0071】
本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の説明に記載され、その説明から部分的に明らかになるか、又は本発明の実施によって習得され得る。本発明の利点は、本明細書及び特許請求の範囲並びに添付の図面において特に指摘された構造によって実現及び達成される。
【0072】
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的であり、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することを意図していることを理解されたい。
添付図面の簡単な説明
【0073】
本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の実施形態を示し、本明細書と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】実施例1、5及び7並びに比較例8の分散物中のTuball(商標)単層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を示す。
【
図2】実施例1(丸)、実施例2(四角)、比較例8(暗い三角)の分散物の動粘度(Pa・s)を剪断速度(s
-1)の関数として示す。
【
図3】実施例1のカソードスラリー(丸)及び比較例8のカソードスラリー(暗い四角)、並びに実施例1のアノードスラリー(菱形)及び比較例8のアノードスラリー(暗い三角)の動粘度(Pa・s)を剪断速度(s
-1)の関数として示す。
【
図4】実施例1(左)及び比較例8(右)の集電体に塗布したカソードスラリー層の写真を示す。
【
図5】実施例1のカソード及びアノードを有するリチウムイオン電池の充放電サイクル数(充電率1C、放電率1C)の関数としての初期容量に関連する容量を示す。
【
図6】実施例2のカソード及びアノードを有するリチウムイオン電池の充放電サイクル数(充電率1C、放電率1C)の関数としての初期容量に関連する容量を示す。
【
図7】実施例3のカソード及びアノードを有するリチウムイオン電池の充放電サイクル数(充電率1C、放電率1C)の関数としての初期容量に関連する容量を示す。
【
図8】実施例4の分散物の単層及び二層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を示す。
【
図9】実施例5のカソード及びアノードを有するリチウムイオン電池の充放電サイクル数(充電率1C、放電率1C)の関数としての初期容量に関連する容量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0075】
ここで、本発明の好ましい実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。
【0076】
実施例1
分散物の製造及び説明。
分散物は、水中に、ゲル化剤として0.6重量%のNa-カルボキシメチルセルロースと、0.4重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物とを含有する。分散物を製造するために使用される単層カーボンナノチューブは、Tuball(商標)SWCNTである。SWCNTの直径は、1.2~2.1nmの範囲であり、平均直径は1.54nmである(直径は、乾燥懸濁物のTEMによって決定され、懸濁物の光吸収スペクトルにおける吸収バンドS
1-1の位置によって決定された)。532nmでのラマン分光法は、単層カーボンナノチューブに典型的な1580cm
-1での強いG線及び他の同素体形態の炭素及び単層カーボンナノチューブの欠陥に典型的な約1330cm
-1でのD線を示す。G/D線強度比は80である。窒素吸着等温線から決定された比表面積は、1220m
2/gである。使用したSWCNTの透過型電子顕微鏡写真については、
図1を参照されたい。分散物を製造するためのSWCNTを、本発明に記載の方法によって塩素でさらに修飾した[RU2717516C2;MCD TECH,March 23,2020;IPC:C01B32/174,B82B3/00,B82B1/00]。エネルギー分散分光法は、管状SWCNT中の塩素含有量が0.25重量%であることを示す。%。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)により、SWCNTが0.46重量%の鉄(第8族金属)の不純物を含有することが示される。スラリー中のゲル化剤に対する単層カーボンナノチューブの重量比は0.667である。
【0077】
分散物は、必要な割合の水、カルボキシメチルセルロースNa塩及びSWCNTを混合し、NETZSCH Omega 500高圧ホモジナイザー中で65MPaの圧力及び300kg/hの分散移行速度で700μmの直径を有するノズルを介して10倍分散させることによって製造した。ノズル内の剪断速度は約6・105 s-1である。消費電力は8kWであり、段階(D)における比入力エネルギーは約27W・h/kgであった。各2つの分散段階の間で、分散物を50リットルタンクに静置し、ゲート撹拌機によって約1s-1の剪断速度で10分間ゆっくりと撹拌した。
【0078】
分散物のレオロジー特性は、0.5mmのギャップを有するプレート間セルにおいて、HAAKE RheoStress 6000動的剪断レオメーターを用いて測定した。分散試料をスパチュラを用いて下部プレート(d=20mm)に移し、(T=19~21℃)にサーモスタットし、次いで、プレートを0.55mmのギャップに閉じ、その後、過剰な試料を金属スパチュラを用いて除去し、プレートを再び0.5mmの測定ギャップに閉じた。移動プレートの回転角0.029°に相当する変形振幅1%に対して、貯蔵弾性率G’は912Paであり、損失弾性率G’’=190Paであり、これは分散物が高粘性ゲルであることを意味する。
【0079】
分散物は、
図2において円(曲線1)として与えられる剪断速度(s
-1)の関数としての粘度(Pa・s)によって特徴付けられる。粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度の関数としての粘度は、0.093s
-1~93s
-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.13であり、流動一貫性指数は9.0Pa・s
0.13である。1/6.3s
-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は43Pa・sを超え、18.6s
-1を超える剪断速度の領域では0.72Pa・s未満である。
【0080】
分散物を使用してカソードスラリー及びカソードを製造する。
【0081】
分散物を使用して、58.65重量%の活物質LiFePO4、溶媒として40重量%の水、0.72重量%のスチレンブタジエンゴムバインダー、0.6重量%のNa-カルボキシメチルセルロースゲル化剤、及び0.03重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-この分散物12.5gにNa-カルボキシメチルセルロース0.925g及び水53.075gを含有する溶液54gを添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する(段階(C1)の前及び段階(C2)の前に実施されるバインダー及び溶媒を添加する追加段階);
-得られた混合物を97.75gの活性成分LiFePO4と混合する(段階C1);
-乾燥物質含有量50%の水性スチレンブタジエンゴムラテックス2.4gを添加する(段階(C2)の前に実施される追加のバインダー添加段階);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階C2)。
【0082】
スラリーを製造するために使用される分散物中の単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方により、得られたカソードスラリーは、
図3の円(曲線1C)によって表される剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有する。流動挙動指数は0.26である。93s
-1の剪断速度で測定された粘度は0.76Pa・sであり、100s
-1の剪断速度への依存性外挿は約0.70Pa・sの粘度推定値を与え、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s
-1未満の剪断速度では、粘度は21Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0083】
スラリーの貯蔵安定性は、直径30mmの50mlの円筒形試験管にスラリーを貯蔵した後、スラリー層の高さに沿って固体粒子含有量の分布を変化させることによって決定した。この目的のために、スラリーを試験管に入れ、蓋で閉じ、標準的な条件下(大気圧、25℃)で7日間維持した。その後、試験管の上部3分の1、中部3分の1及び下部3分の1をピペットで採取し、試料中の水及び固体不揮発性成分の重量分率を乾燥により求めた。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中の水含有量は40.0重量%であり、1週間の貯蔵後、溶媒含有量は上部3分の1において41.0重量%、中部において39.8重量%、下部において39.2重量%であった。初期溶媒含有量との相対差は2.5%を超えず、後述する比較例8に記載のスラリーよりも大幅に小さく、得られるスラリーの安定性が高いことを示している。スラリーを使用して、7日間の貯蔵後にカソードを製造することができる。
【0084】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体のアルミニウム箔に塗布し、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ、カソードをカレンダー上で5トンの力で2.5mg/cm
2の必要密度まで圧縮することによって製造した。集電体に塗布したカソードスラリー層の写真を
図4に示す(左の写真)。カソード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF
6の1M溶液であって追加の5%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.015A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の158mA・h/gである。
分散物を使用してアノードスラリー及びアノードを製造する。
【0085】
分散物を使用して、31.3重量%のグラファイト活物質、14.2重量%のケイ素活物質、53.6重量%の水溶媒、0.35重量%のNa-カルボキシメチルセルロースゲル化剤、0.84重量%のスチレンブタジエンラテックスバインダー、及び0.23重量%の単層カーボンナノチューブを含有するアノードスラリーを製造した。アノードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-分散物187.5g、水1500g、グラファイト粉末1000g、及びシリコン粉末454.2gを混合し、10時間撹拌する(追加の水が導入される段階A1);
-50重量%の水性スチレンブタジエンラテックス懸濁液54g(段階(A2)の前に実施される追加のバインダー添加段階);
-4時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階A2)。
【0086】
単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方が存在することにより、得られたアノードスラリーもまた、
図3の菱形(曲線1A)によって表される剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有する。依存性は、Ostwald-de Waeleべき乗則に従い、流動挙動指数0.17及び流動一貫性指数11.5Pa・s
0.17を有する。100s
-1の剪断速度では、スラリー粘度は0.26Pa・s未満であり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s
-1未満の剪断速度では、粘度は11.6Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0087】
アノードスラリーの貯蔵安定性を、カソードスラリーに関する上記の方法によって試験した。1週間以内に、スラリーの上部3分の1の水含有量は53.6重量%から54.2重量%に(すなわち初期値に対して2%未満)増加した。これは、高いスラリー安定性を示す。
【0088】
アノードの製造のために、得られたアノードスラリーをドクターブレードを用いて銅箔に塗布し、40℃の温度で1時間乾燥させ、カレンダー上で5トンの力で1.4g/cm3のアノード材料密度まで圧縮した。アノード上の活物質の負荷は8.5mg/cm2である。アノード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1M溶液であって追加の1%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。アノード材料の0.03A/gの充電電流におけるアノードの初期比容量は、アノード材料の342mA・h/gである。
【0089】
得られたカソード及びアノードからリチウムイオン電池を組み立てた。厚さ16μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPF
6の0.8M溶液に1%v/vのビニルカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は324mA
.hであった。充放電サイクル数(充電電流324mA、放電電流324mA)の関数としての容量(初期容量と呼ぶ)を
図5に示す。電池容量は、3000サイクル後に初期容量の90%を超える。
【0090】
実施例2
分散物は、0.6重量%のポリビニルピロリドン(PVP)ゲル化剤と、0.3重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物とを含有し、残りは水である。多段階化学精製に供して硝酸中で4時間沸騰させたTuball(商標)SWCNTを使用して分散物を製造した。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)は、SWCNT中のFe含有量が60ppm又は0.06重量%であることを示す。電位差滴定は、このような処理後のSWCNT表面が約0.62重量%のカルボキシル基を含有することを示す。SWCNTの直径は1.2~2.1nmの範囲に分布し、平均直径は1.60nmであり、G/D線強度比は24であり、窒素吸着等温線から決定された比表面積は1280m2/gである。スラリー中のゲル化剤に対する単層カーボンナノチューブの重量比は0.667である。
【0091】
必要な割合の水、ポリビニルピロリドン及びSWCNTを混合し、Chaoli GJB500高圧ホモジナイザーに分散させる段階とゲート撹拌機によって約1s-1の剪断速度で12分間ゆっくり撹拌しながら65リットルタンクに静置する段階の交互段階を8回繰り返すことによって、分散物を製造した。分散は、60MPaの圧力、300 l/hの分散移行流速、及び約6・105 s-1のバルブノズル内の剪断速度で行われた。測定された消費電力は16kWであり、段階(D)における比入力エネルギーは約53W・h/kgであった。
【0092】
分散物のレオロジー特性は、0.5mmのギャップを有するプレート間セルにおいて、HAAKE RheoStress 6000動的剪断レオメーターを用いて測定した。分散試料をスパチュラを用いて下部プレート(d=20mm)に移し、(T=19~21℃)にサーモスタットし、次いで、プレートを0.55mmのギャップに閉じ、その後、過剰な試料を金属スパチュラを用いて除去し、プレートを再び0.5mmの測定ギャップに閉じた。移動プレートの回転角0.029°に相当する変形振幅1%に対して、貯蔵弾性率G’は2460Paであり、損失弾性率G’’=390Paであり、これは分散物が高粘性ゲルであることを意味する。
【0093】
分散物は、
図2において四角マーカーとして与えられる剪断速度(s
-1)の関数としての粘度(Pa・s)によって特徴付けられる。流動挙動指数nは0.156であり、流動一貫性指数は21.6Pa・s
0.156である。1/6.3s
-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は100Pa・sを超え、18.6s
-1を超える剪断速度の領域では1.9Pa・s未満である。
【0094】
分散物を使用して、61重量%の活物質LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2(NCM111)、37.7重量%の水溶媒、0.62重量%のスチレンブタジエンゴムバインダー、0.62重量%のNa-カルボキシメチルセルロースバインダーの、0.047重量%のPVPゲル化剤、及び0.023重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-この分散物62.5gにNa-カルボキシメチルセルロース5g及び水235gを含有する溶液240gを添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する(段階(C1)の前及び段階(C2)の前に実施される追加のバインダー及び溶媒を添加する段階)。
-得られた混合物を488gの活性成分NCM111と混合する(段階C1);
-乾燥物質含有量50%の水性スチレンブタジエンゴムラテックス10gを添加する(段階(C2)の前に実施される追加のバインダー添加段階);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階C2)。
【0095】
スラリーを製造するために使用される分散物中の単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方により、得られたカソードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、流動挙動指数0.24及び流動一貫性指数18.8Pa・sを有するべき乗則によって十分に説明される。100s-1の剪断速度では、動粘度は約0.55Pa・sであり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1以下の剪断速度では、粘度は少なくとも18.8Pa・sであり、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0096】
スラリーの貯蔵安定性は、実施例1に記載の方法によって決定した。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中の水含有量は37.7重量%であり、1週間の貯蔵後、水含有量は上部3分の1において38.2重量%、中部において37.9重量%、下部において37.0重量%であった。初期溶媒含有量との相対差は2%を超えず、測定誤差内である。スラリーを使用して、7日間の貯蔵後にカソードを製造することができる。
【0097】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体のアルミニウム箔に塗布し、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ、カソードをカレンダー上で5トンの力で3.6mg/cm2の必要密度まで圧縮することによって製造した。カソード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1M溶液であって追加の1%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.015A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の155mA.h/gである。
【0098】
分散物を使用して、26.6重量%のグラファイト活物質、16.2重量%のケイ素活物質、55.5重量%の水溶媒、0.33重量%のポリビニルピロリドンゲル化剤、0.49%のNa-カルボキシメチルセルロースバインダー、0.66重量%のスチレンブタジエンラテックスバインダー、及び0.17重量%の単層カーボンナノチューブを含有するアノードスラリーを製造した。アノードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-分散物1250gにケイ素粉末367g及びグラファイト粉末600gを添加し、1時間撹拌する(段階(A1));
-Na-カルボキシメチルセルロース粉末11gを添加し、1時間撹拌する;(段階(A2)の前に実施される追加のバインダーを添加する段階);
-50重量%の水性ブタジエンスチレンラテックス懸濁液30g(段階(A2)の前に実施される追加のバインダー添加段階);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階A2)。
【0099】
アノードの製造のために、得られたアノードスラリーをドクターブレードを用いて銅箔に塗布し、80℃の温度で15分間乾燥させ、カレンダー上で5トンの力で1.0g/cm3のアノード材料密度まで圧縮した。アノード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1M溶液であって追加の10%v/vのフルオロエチレンカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。アノード材料の0.3A/gの充電電流におけるアノードの初期比容量は、アノード材料の1360mA・h/gである。
【0100】
単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方が存在する場合、得られたアノードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、流動挙動指数0.19及び流動一貫性指数12.3Pa・s0.19を有するOstwald-de Waeleべき乗則に従う。100s-1の剪断速度では、スラリー粘度は0.30Pa・s未満であり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1未満の剪断速度では、粘度は12.3Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0101】
アノードスラリーの貯蔵安定性を、カソードスラリーに関する上記の方法によって試験した。1週間以内に、スラリーの上部3分の1の水含有量は55.6重量%から57.0重量%に(すなわち初期値の3rel.%未満)増加した。これは、高いスラリー安定性を示す。
【0102】
得られたカソード及びアノードからリチウムイオン電池を組み立てた。厚さ16μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPF
6の1.5M溶液に20%v/vのビニルカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は525mA・hであった。充放電サイクル数(充電電流525mA、放電電流525mA)の関数としての容量(初期容量と呼ぶ)を
図6に示す。電池容量は、1000サイクル後に初期容量の96%を超える。
実施例3
【0103】
分散物は、2重量%のポリアクリル酸Na塩ゲル化剤と、0.3重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物とを含有し、残部は水である。分散物を製造するために使用される単層カーボンナノチューブは、Tuball(商標)SWCNTである。SWCNTの直径は1.2~2.1nmの範囲に分布し、平均直径は1.62nmであり、G/D線強度比は46であり、窒素吸着等温線から決定された比表面積は580m2/gである。Ar中5%酸素流の熱重量測定データは、950℃での材料酸化後の灰分が約20重量%であることを示す。X線回折は、灰分が主に酸化鉄Fe2O3を含有し、SWCNTがナノ分散金属鉄相を含有することを示す。エネルギー分散型X線分光法は、SWCNT中のFe含有量が14.2重量%であることを示し、これは灰分重量に関するデータと一致する。
【0104】
分散物は、必要な割合の水、ポリアクリル酸のNa塩、及びSWCNTを混合し、消費電力32kW、ローター直径190mm、ローターとステーターの間のギャップ700μm、及びローター速度2940rpmで回転脈動装置(RPA)内で分散させ、100リットルのタンク内で40kHzの周波数及びソノトロード1800Wの音響入力電力で超音波処理し、220リットルのタンク内でアンカー撹拌機によって30rpm及び約2s-1の剪断速度でゆっくり撹拌しながら静置する、交互段階を15回繰り返すことによって製造した。RPA、プローブソニケーター、及びタンクの間の分散物循環の速度は、1000kg/hであり;約32W・h/kgのエネルギーが分散段階(D)でRPA中の分散物に適用され;約1.8W・h/kgが超音波処理段階(D)で分散物に適用され;約2s-1の剪断速度での分散物の平均タンク滞留時間は、段階(R)で約13分である。
【0105】
分散物のレオロジー特性は、0.5mmのギャップを有するプレート間セルにおいて、HAAKE RheoStress 6000動的剪断レオメーターを用いて測定した。分散試料をスパチュラを用いて下部プレート(d=20mm)に移し、(T=19~21℃)にサーモスタットし、次いで、プレートを0.55mmのギャップに閉じ、その後、過剰な試料を金属スパチュラを用いて除去し、プレートを再び0.5mmの測定ギャップに閉じた。移動プレートの回転角0.029°に相当する変形振幅1%に対して、貯蔵弾性率G’は1150Paであり、損失弾性率G’’=410Paであり、これは分散物が高粘性ゲルであることを意味する。
【0106】
分散物は、より高い剪断速度での粘度の急激な低下を特徴とし、これはべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.23であり、流動一貫性指数は19.0Pa・s0.23である。分散物粘度は、1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域では78Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では0.53Pa・s未満であり、一方では、高い分散物貯蔵安定性を提供し、他方では、リチウムイオン電池電極を製造するための電極スラリーの製造を含む様々な実施態様でのその加工性を提供する。
【0107】
分散物を使用して、29.9重量%の活物質LiCo2O4(LCO)、68.6重量%水溶媒、1.25重量%のNa-PAAゲル化剤、及び0.19重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-分散物2000gに水235gを添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する(段階(C1)の前及び段階(C2)の前に実施される追加の溶媒を添加する段階)。
-得られた混合物を954gの活性成分LCOと混合する(段階C1);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階C2)。
【0108】
スラリーを製造するために使用される分散物中の単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方により、得られたカソードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、流動挙動指数0.20及び流動一貫性指数12.1Pa・s0.2を有するべき乗則によって十分に説明される。100s-1の剪断速度では、動粘度は約0.30Pa・sであり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1以下の剪断速度では、粘度は少なくとも12.1Pa・sであり、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0109】
スラリーの貯蔵安定性は、実施例1に記載の方法によって決定した。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中の水含有量は68.6重量%であり、1週間の貯蔵後、水含有量は上部3分の1において70.2重量%、中部において69.0重量%、下部において66.4重量%であった。溶媒の初期含有量との差は3.5rel.%を超えない。スラリーを使用して、7日間の貯蔵後にカソードを製造することができる。
【0110】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体のアルミニウム箔に塗布し、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ、カソードをカレンダー上で10トンの力で4.2mg/cm2の必要密度まで圧縮することによって製造した。カソード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1.2M溶液であって追加の1%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.0125A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の123mA・h/gである。
【0111】
分散物を使用して、18.5重量%の酸化ケイ素(SiOx)活物質、79.7重量%の水溶媒、1.63重量%のPAAゲル化剤、及び0.24重量%の単層カーボンナノチューブを含有するアノードスラリーを製造した。アノードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-この分散物800gにSiOx粉末181gを添加する(段階A1);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階A2)。
【0112】
単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方が存在する場合、得られたアノードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、流動挙動指数0.17及び流動一貫性指数10.5Pa・s0.17を有するOstwald-de Waeleべき乗則に従う。100s-1の剪断速度では、スラリー粘度は0.23Pa・s未満であり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1未満の剪断速度では、粘度は10.5Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0113】
アノードスラリーの貯蔵安定性を、カソードスラリーに関する上記の方法によって試験した。1週間以内に、スラリーの上部3分の1の水含有量は80重量%から81重量%に(すなわち初期値の2rel.%未満)増加した。これは、高いスラリー安定性を示す。
【0114】
アノードの製造のために、得られたアノードスラリーをドクターブレードを用いて銅箔に塗布し、70℃の温度で15分間乾燥させ、カレンダー上で5トンの力で1.3g/cm3のアノード材料密度まで圧縮した。アノード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1M溶液であって追加の10%v/vのフルオロエチレンカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。アノード材料の0.1A/gの充電電流におけるアノードの初期比容量は、アノード材料の1652mA.h/gである。
【0115】
得られたカソード及びアノードからリチウムイオン電池を組み立てた。厚さ16μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPF
6の1.5M溶液に20%v/vのフルオロエチレンカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は1200mA
.hであった。充放電サイクル数(充電電流1200mA、放電電流1200mA)の関数としての容量(初期容量と呼ぶ)を
図7に示す。電池容量は、215サイクル後に初期容量の85%を超える。
実施例4
【0116】
分散物は実施例1に記載のものと同様であるが、1.2~2.8nmの直径及び1.8nmの平均直径を有する単層及び二層カーボンナノチューブの混合物を含有する(直径は、乾燥懸濁物のTEMによって、及びラマンスペクトルにおけるラジアルブリージングモード(RBM)線の位置から決定された)。波長532nmの光のラマンスペクトルにおけるG/D線の強度比は34である。単層カーボンナノチューブと一緒に束ねられた二層カーボンナノチューブの利用可能性は、
図8に提供される電子顕微鏡写真によって確認される。分散物中のカーボンナノチューブの濃度は0.4重量%である。分散物はまた、0.6重量%のカルボキシメチルセルロースNa塩ゲル化剤も含有する。スラリー中のゲル化剤に対する単層カーボンナノチューブの重量比は0.667である。
【0117】
分散物は、必要な割合の水、Na-カルボキシメチルセルロース、並びにSWCNT及びDWCNTを混合し、NETZSCH Omega 500高圧ホモジナイザー中で65MPaの圧力及び300kg/hの分散移行速度で700μmの直径を有するノズルを介して32倍分散させることによって製造した。ノズル内の剪断速度は約6・105 s-1である。消費電力は8kWであり、段階(D)における比入力エネルギーは約27W・h/kgであった。各2つの分散段階の間で、分散物を50リットルタンクに静置し、ゲート撹拌機によって約1s-1の剪断速度で10分間ゆっくりと撹拌した。
【0118】
分散物は、剪断速度が増加するにつれて粘度が低下することを特徴とする。粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度の関数としての粘度は、0.093s-1~100s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.19であり、流動一貫性指数は4.9Pa・s0.19である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は22Pa・sを超え、18.6 s-1を超える剪断速度の領域では0.46Pa・s未満である。
【0119】
分散物のレオロジー特性は、0.5mmのギャップを有するプレート間セルにおいて、HAAKE RheoStress 6000動的剪断レオメーターを用いて測定した。分散試料をスパチュラを用いて下部プレート(d=20mm)に移し、(T=19~21℃)にサーモスタットし、次いで、プレートを0.55mmのギャップに閉じ、その後、過剰な試料を金属スパチュラを用いて除去し、プレートを再び0.5mmの測定ギャップに閉じた。移動プレートの回転角0.029°に相当する変形振幅1%に対して、貯蔵弾性率G’は176Paであり、損失弾性率G’’=28Paであり、これは分散物が高粘性ゲルであることを意味する。
【0120】
分散物を使用して、58.65重量%の活物質LiFePO4、40重量%の水溶媒、0.72重量%のスチレンブタジエンゴムバインダー、0.6重量%のNa-カルボキシメチルセルロースゲル化剤、及び0.03重量%の単層及び二層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。製造順序は実施例1と同様であった。
【0121】
スラリーを製造するために使用される分散物中の単層及び二層カーボンナノチューブ並びにゲル化剤の両方により、得られたカソードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、べき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数は0.29であり、流動一貫性指数は18Pa・s0.29である。93s-1の剪断速度で測定された粘度は0.72Pa・sであり、100s-1の剪断速度への依存性外挿は約0.68Pa・sの粘度推定値を与え、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1以下の剪断速度では、粘度は少なくとも18Pa・sであり、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0122】
スラリーの保存安定性は、実施例1と同様にして求めた。初期スラリー中の水含有量は40.0重量%であり、1週間の貯蔵後、溶媒含有量は上部3分の1において41.4重量%、中部において39.7重量%、下部において38.8重量%であった。初期溶媒含有量との差は3rel.%を超えず、後述する比較例8に記載のスラリーよりも大幅に小さく、得られるスラリーの安定性が高いことを示している。スラリーを使用して、7日間の貯蔵後にカソードを製造することができる。
【0123】
リチウムイオン電池カソードは、実施例1と同様に製造した。カソード材料の0.015A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の152mA・h/gである。
【0124】
分散物を使用して、31.3重量%のグラファイト活物質、14.2重量%のケイ素活物質、53.6重量%の水溶媒、0.35重量%のNa-カルボキシメチルセルロースゲル化剤、0.84重量%のスチレンブタジエンラテックスバインダー、及び0.23重量%の単層及び二層カーボンナノチューブを含有するアノードスラリーを製造した。アノードスラリーの製造手順は、実施例1と同様であった。
【0125】
分散物中の単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方により、得られたアノードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、べき乗則によって説明される。流動挙動指数は0.2であり、流動一貫性指数は11.0Pa・s0.2である。100s-1の剪断速度では、スラリー粘度は0.28Pa・s未満であり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1未満の剪断速度では、粘度は11.0Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0126】
アノードスラリーの貯蔵安定性を、実施例1における上記の方法によって試験した。1週間以内に、スラリーの上部3分の1の水含有量は53.6重量%から54.7重量%に(すなわち初期値の2rel.%未満)増加した。これは、高いスラリー安定性を示す。
【0127】
実施例1と同様にしてアノードを製造した。アノード材料の0.03A/gの充電電流におけるアノードの初期比容量は、アノード材料の334mA・h/gである。
【0128】
得られたカソード及びアノードからリチウムイオン電池を組み立てた。厚さ16μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPF6の0.8M溶液に1%v/vのビニルカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.03Cでの初期電池容量は314mA・hであった。400回の充放電サイクル後の電池容量は初期容量の92%を超える(充電電流314mA、放電電流314mA)。
実施例5
【0129】
分散物は、水中に、0.2重量%のカルボキシメチルセルロースLi塩ゲル化剤と、2重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物とを含有する。実施例1に記載されているように、塩素で修飾されたTuball(商標)SWCNTを使用して分散物を製造した。スラリー中のゲル化剤に対する単層カーボンナノチューブの重量比は10である。
【0130】
必要な割合の水、ポリビニルピロリドン及びSWCNTを混合し、この分散物を、Chaoli GJB500高圧分散機(段階(D))と、この分散物が静止している50リットルタンク(段階(R))との間で、約2s-1の剪断速度でゲート撹拌機によってゆっくり撹拌しながら、300kg/hの分散移行速度で32倍循環させることによって、分散物を製造した。分散機における推定剪断速度は600000s-1を超え、測定された電力消費は19kWであった。分散サイクルにおける比入力エネルギーは、約63W・h/kgである。段階(R)におけるタンク内の平均滞留時間は約10分であった。
【0131】
粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度の関数としての粘度は、0.093s-1~100s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.33であり、流動一貫性指数は13.5Pa・s0.33である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は45Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では1.9Pa・s未満である。
【0132】
分散物のレオロジー特性は、0.5mmのギャップを有するプレート間セルにおいて、HAAKE RheoStress 6000動的剪断レオメーターを用いて測定した。分散試料をスパチュラを用いて下部プレート(d=20mm)に移し、(T=19~21℃)にサーモスタットし、次いで、プレートを0.55mmのギャップに閉じ、その後、過剰な試料を金属スパチュラを用いて除去し、プレートを再び0.5mmの測定ギャップに閉じた。移動プレートの回転角0.029°に相当する変形振幅1%に対して、貯蔵弾性率G’は980Paであり、損失弾性率G’’=460Paであり、これは分散物が高粘性ゲルであることを意味する。
【0133】
分散物を使用して、55.1重量%の活物質LiFePO4、42.3重量%の水溶媒、0.57重量%のスチレンブタジエンゴムバインダー、1.22重量%のカルボキシメチルセルロースLi塩ゲル化剤及びバインダー、並びに0.85重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-この分散物750gに、20gのLi-カルボキシメチルセルロース粉末及び968.5gの有効成分LiFePO4を添加する(追加のバインダーが導入される段階(C1));
-乾燥物質含有量50重量%の水性スチレンブタジエンゴムラテックス懸濁液20gを添加する(段階(C2)の前に実施される追加のバインダー添加段階);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階C2)。
【0134】
スラリーを製造するために使用される分散物中の単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方により、得られたカソードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、流動挙動指数0.18及び流動一貫性指数19.9Pa・s0.18を有するべき乗則によって十分に説明される。100s-1の剪断速度では、動粘度は約0.46Pa・sであり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1以下の剪断速度では、粘度は少なくとも19.9Pa・sであり、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0135】
スラリーの貯蔵安定性は、実施例1に記載の方法によって決定した。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中の水含有量は42.3重量%であり、1週間の貯蔵後、水含有量は上部3分の1において43.0重量%、中部において42.5重量%、下部において41.5重量%であった。溶媒の初期含有量との差は2rel.%を超えない。スラリーを使用して、7日間の貯蔵後にカソードを製造することができる。
【0136】
得られたカソードスラリーを実施例1と同様に用いて、リチウムイオン電池カソードを製造した。カソード材料の0.15A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の147mA・h/gである。
【0137】
分散物を使用してアノードスラリー及びアノードを製造する。
【0138】
分散物を使用して、18重量%のグラファイト活物質、32.9重量%の酸化ケイ素活物質、44.6重量%の水溶媒、3.1重量%のカルボキシメチルセルロースLi塩ゲル化剤及びバインダー、0.6重量%のスチレンブタジエンゴムバインダー、及び0.9重量%の単層カーボンナノチューブを含有するアノードスラリーを製造した。アノードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-分散物37.5g、カルボキシメチルセルロースLi塩粉末2.5g、グラファイト粉末15g、及びケイ素粉末27.4gを混合し、1時間撹拌する(追加のバインダーが導入される段階(C1))。
-乾燥物質含有量50重量%の水性スチレンブタジエンゴムラテックス懸濁液1gを添加する(段階(A2)の前に実施される、バインダー及び水を添加する追加の段階);
-10時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階A2)。
【0139】
単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方が存在することより、得られたアノードスラリーもまた、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、べき乗則によって説明される。流動挙動指数は0.17であり、流動一貫性指数は20.4Pa・s0.17である。100s-1の剪断速度では、スラリー粘度は0.45Pa・s未満であり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1未満の剪断速度では、粘度は20.4Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0140】
アノードスラリーの貯蔵安定性を、実施例1における上記の方法によって試験した。1週間以内に、スラリーの上部3分の1の水含有量は44.6重量%から45.2重量%に(すなわち初期値の2rel.%未満)増加した。これは、高いスラリー安定性を示す。
【0141】
アノードの製造のために、得られたアノードスラリーをドクターブレードを用いて銅箔に塗布し、100℃の温度で1時間乾燥させ、カレンダー上で5トンの力で1.6g/cm3のアノード材料密度まで圧縮した。アノード上の活物質の負荷は5.5mg/cm2である。アノード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1M溶液であって追加の10%v/vのフルオロエチレンカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。アノード材料の0.1A/gの充電電流におけるアノードの初期比容量は、アノード材料の900mA・h/gである。
【0142】
得られたカソード及びアノードからリチウムイオン電池を組み立てた。厚さ16μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPF
6の1.5M溶液に20%v/vのフルオロエチレンカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は1200mA・hであった。充放電サイクル数(充電電流1200mA、放電電流1200mA)の関数としての容量(初期容量と呼ぶ)を
図9に示す。電池容量は、800サイクル後に初期容量の96%を超える。
実施例6
【0143】
分散物は、水中に、2重量%のカルボキシメチルセルロースNa塩ゲル化剤と、0.3重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物とを含有する。分散物を製造するために使用される単層カーボンナノチューブは、Tuball(商標)-99 SWCNTである。SWCNTの直径は、1.2~2.1nmの範囲であり、平均直径は1.58nmである(直径は、乾燥懸濁物のTEMによって決定され、懸濁物の光吸収スペクトルにおける吸収バンドS1-1の位置によって決定された)。532nmでのラマン分光法は、単層カーボンナノチューブに典型的な1580cm-1での強いG線及び他の同素体形態の炭素及び単層カーボンナノチューブの欠陥に典型的な約1330cm-1でのD線を示す。G/D線強度比は56である。窒素吸着等温線から決定された比表面積は、1160m2/gである。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)により、SWCNTが0.4重量%の鉄(元素周期表の第8族の金属)の不純物を含有することが示される。スラリー中のHNBRに対する単層カーボンナノチューブの重量比は0.15である。
【0144】
分散物は、必要な割合の水、カルボキシメチルセルロースNa塩及びSWCNTを混合し、NETZSCH Omega 500高圧ホモジナイザー中で65MPaの圧力及び300kg/hの分散移行速度で700μmの直径を有するノズルを介して6倍分散させることによって製造した。ノズル内の剪断速度は約6・105 s-1である。消費電力は9kWであり、段階(D)における比入力エネルギーは約30W・h/kgであった。各2つの分散段階の間で、分散物を100リットルタンクに静置し、ゲート撹拌機によって約3s-1の剪断速度で20分間ゆっくりと撹拌した。
【0145】
粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度の関数としての粘度は、0.093s-1~100s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.13であり、流動一貫性指数は20.5Pa・s0.13である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は100Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では1.6Pa・s未満である。
【0146】
分散物のレオロジー特性は、0.5mmのギャップを有するプレート間セルにおいて、HAAKE RheoStress 6000動的剪断レオメーターを用いて測定した。分散試料をスパチュラを用いて下部プレート(d=20mm)に移し、(T=19~21℃)にサーモスタットし、次いで、プレートを0.55mmのギャップに閉じ、その後、過剰な試料を金属スパチュラを用いて除去し、プレートを再び0.5mmの測定ギャップに閉じた。移動プレートの回転角0.029°に相当する変形振幅1%に対して、貯蔵弾性率G’は2800Paであり、損失弾性率G’’=320Paであり、これは分散物が高粘性ゲルであることを意味する。
【0147】
分散物を使用して、66.1重量%の活物質LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)、30.3重量%のN-メチルピロリドン(NMP)溶媒、2.2重量%の水、1.32重量%のPVDFバインダー、0.046重量%のカルボキシメチルセルロースNa塩ゲル化剤、及び0.0069重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-110gのN-メチルピロリドン及び4.8gのポリフッ化ビニリデン(PVDF)粉末を8.3gの分散物に添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する(段階(C2)の前に追加の溶媒(NMP)及びバインダーを導入するための追加の段階)。
-得られた混合物を240gの活性成分NCM622と混合する(段階(C1));
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階(C2))。
【0148】
スラリーを製造するために使用される分散物中の単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方により、得られたカソードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、流動挙動指数0.28及び流動一貫性指数22Pa・s0.28を有するべき乗則によって十分に説明される。100s-1の剪断速度では、動粘度は約0.80Pa・sであり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1以下の剪断速度では、粘度は少なくとも22Pa・sであり、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0149】
スラリーの貯蔵安定性は、実施例1に記載の方法によって決定した。初期スラリー中の溶媒(水及びNMP)含有量は32.5重量%であり、1週間の貯蔵後、水含有量は上部3分の1において32.8重量%、中部において32.7重量%、下部において32.1重量%であった。溶媒の初期含有量との差は2rel.%を超えない。スラリーを使用して、7日間の貯蔵後にカソードを製造することができる。
【0150】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体のアルミニウム箔に塗布し、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ、カソードをカレンダー上で5トンの力で3.7mg/cm2の必要密度まで圧縮することによって製造した。カソード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1M溶液であって追加の5%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.017A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の173mA・h/gである。
【0151】
分散物を使用して、39重量%のグラファイト活物質、4.5重量%の酸化ケイ素SiOx活物質、55.1重量%の水溶媒、1.35重量%のカルボキシメチルセルロースNa塩(Na-CMC)ゲル化剤及びバインダー、及び0.027重量%の単層カーボンナノチューブを含有するアノードスラリーを製造した。アノードスラリーは、一連の段階:分散物11.7、水50g、Na-CMC粉末1.27g、グラファイト粉末43.5g、及びSiOx酸化ケイ素粉末5gを混合する段階(追加の水溶媒及びNa-CMCバインダーが導入された段階(A1))と、12時間撹拌して均一なスラリーを製造する段階(段階(A2))によって製造された。
【0152】
単層カーボンナノチューブ及びゲル化剤の両方が存在することより、得られたアノードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、べき乗則によって説明される。流動挙動指数は0.25であり、流動一貫性指数は11.6Pa・s0.25である。100s-1の剪断速度では、スラリー粘度は0.37Pa・s未満であり、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1未満の剪断速度では、粘度は11.6Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0153】
アノードスラリーの貯蔵安定性を、実施例1における上記の方法によって試験した。1週間以内に、スラリーの上部3分の1の水含有量は55重量%から55.6重量%に(すなわち初期値の2rel.%未満)増加した。これは、高いスラリー安定性を示す。
【0154】
アノードの製造のために、得られたアノードスラリーをドクターブレードを用いて銅箔に塗布し、100℃の温度で1時間乾燥させ、カレンダー上で5トンの力で1.5g/cm3のアノード材料密度まで圧縮した。アノード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1M溶液であって追加の10%v/vのフルオロエチレンカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。アノード材料の0.1A/gの充電電流におけるアノードの初期比容量は、アノード材料の420mA・h/gである。
【0155】
得られたカソード及びアノードからリチウムイオン電池を組み立てた。厚さ16μmのポリプロピレンセパレータを使用した。エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPF6の1.5M溶液に20%v/vのフルオロエチレンカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は2400mA・hであった。500回の充放電サイクル後の電池容量は初期容量の85%を超える(充電電流800mA、放電電流800mA)。
実施例7
【0156】
分散物は、水中に、0.8重量%のカルボキシメチルセルロースNa塩ゲル化剤と、0.8重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物とを含有する。実施例1に記載されているように、塩素で修飾されたTuball(商標)SWCNTを使用して分散物を製造した。スラリー中のゲル化剤に対する単層カーボンナノチューブの重量比は1である。
【0157】
分散物は、必要な割合の水、ポリアクリル酸のNa塩、及びSWCNTを混合し、消費電力32kW、ローター直径190mm、ローターとステーターの間のギャップ700μm、及びローター速度2940rpmで回転脈動装置(RPA)内で分散させ、100リットルのタンク内で40kHzの周波数及びソノトロード1600Wの音響入力電力で超音波処理し、65リットルのタンク内でアンカー撹拌機によって30rpm及び約2s-1の剪断速度でゆっくり撹拌しながら静置する、交互段階を15回繰り返すことによって製造した。RPA、プローブソニケーター、及びタンクの間の分散物循環の速度は、1200kg/hであり;約25W・h/kgのエネルギーが分散段階(D)でRPA中の分散物に適用され;約1.3W・h/kgが超音波処理段階(D)で分散物に適用され;約1s-1の剪断速度での分散物の平均タンク滞留時間は、段階(R)で約3.25分であった。
【0158】
分散物は、必要な割合の水、カルボキシメチルセルロースNa塩及びSWCNTを混合し、NETZSCH Omega 500高圧ホモジナイザー中で65MPaの圧力及び300kg/hの分散移行速度で700μmの直径を有するノズルを介して6倍分散させることによって製造した。ノズル内の剪断速度は約6・105 s-1である。消費電力は9kWであり、段階(D)における比入力エネルギーは約30W・h/kgであった。各2つの分散段階の間で、分散物を100リットルタンクに静置し、ゲート撹拌機によって約3s-1の剪断速度で20分間ゆっくりと撹拌した。
【0159】
粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度の関数としての粘度は、0.093s-1~100s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.26であり、流動一貫性指数は12.8Pa・s0.26である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は50Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では1.5Pa・s未満である。
【0160】
分散物のレオロジー特性は、0.5mmのギャップを有するプレート間セルにおいて、HAAKE RheoStress 6000動的剪断レオメーターを用いて測定した。分散試料をスパチュラを用いて下部プレート(d=20mm)に移し、(T=19~21℃)にサーモスタットし、次いで、プレートを0.55mmのギャップに閉じ、その後、過剰な試料を金属スパチュラを用いて除去し、プレートを再び0.5mmの測定ギャップに閉じた。移動プレートの回転角0.029°に相当する変形振幅1%に対して、貯蔵弾性率G’は905Paであり、損失弾性率G’’=240Paであり、これは分散物が高粘性ゲルであることを意味する。
【0161】
分散物を使用して、49.6重量%のカソード活物質LiFePO4(LFP)、48.3重量%の水溶媒、1重量%のアセチレンブラック、1重量%のNa-カルボキシメチルセルロースゲル化剤及びバインダー、並びに0.014重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-分散物1.7g、水45g、Na-カルボキシメチルセルロース粉末1g、アセチレンブラック1g、及び活性成分LFP48gを混合する(水、導電性添加剤及びバインダーがさらに導入された段階(C1))。
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する(段階C2)。
【0162】
スラリーを製造するために使用される分散物中の単層及び二層カーボンナノチューブ並びにゲル化剤の両方により、得られたカソードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、べき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数は0.27であり、流動一貫性指数は14.4Pa・s0.27である。93s-1の剪断速度で測定された粘度は0.51Pa・sであり、100s-1の剪断速度への依存性外挿は約0.50Pa・sの粘度推定値を与え、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1以下の剪断速度では、粘度は少なくとも14.4Pa・sであり、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0163】
カソードスラリーの貯蔵安定性を、実施例1における上記の方法によって試験した。1週間以内に、スラリーの上部3分の1の水含有量は48.3重量%から49.0重量%に(すなわち初期値の2rel.%未満)増加した。これは、高いスラリー安定性を示す。
【0164】
分散物を使用して、45.9重量%のグラファイト活物質、53.1重量%の水溶媒、0.93重量%のNa-カルボキシメチルセルロースゲル化剤、及び0.13重量%の単層カーボンナノチューブを含有するアノードスラリーを製造した。アノードスラリーは、一連の段階:分散物1.7g、水55g、Na-CMC粉末0.98g及びグラファイト粉末49gを混合する段階(段階A1)と、得られた混合物を12時間撹拌して均一なスラリーを製造する段階(段階A2)によって製造された。
【0165】
スラリーを製造するために使用される分散物中の単層及び二層カーボンナノチューブ並びにゲル化剤の両方により、得られたアノードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有し、これは、べき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数は0.22であり、流動一貫性指数は12.8Pa・s0.22である。93s-1の剪断速度で測定された粘度は0.37Pa・sであり、100s-1の剪断速度への依存性外挿は約0.35Pa・sの粘度推定値を与え、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1以下の剪断速度では、粘度は少なくとも12.8Pa・sであり、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0166】
アノードスラリーの貯蔵安定性を、実施例1における上記の方法によって試験した。1週間以内に、スラリーの上部3分の1の水含有量は53.6重量%から54.7重量%に(すなわち初期値の2rel.%未満)増加した。これは、高いスラリー安定性を示す。
【0167】
アノードの製造のために、得られたアノードスラリーをドクターブレードを用いて銅箔に塗布し、100℃の温度で1時間乾燥させ、カレンダー上で5トンの力で1.7g/cm3のアノード材料密度まで圧縮した。アノード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1M溶液であって追加の10%v/vのフルオロエチレンカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。アノード材料の0.1A/gの充電電流におけるアノードの初期比容量は、アノード材料の330mA.h/gである。
【0168】
得られたカソード及びアノードからリチウムイオン電池を組み立てた。厚さ16μmのポリプロピレンセパレータを使用した。エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPF6の1.5M溶液に20%v/vのフルオロエチレンカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は1250mA・hであった。電池容量は、1000サイクル後、1130mA・hであり、すなわち初期容量の90%を超える。
実施例8(比較例)。
【0169】
分散物は0.4重量%の実施例1に記載のSWCNT、及び水を含有する。分散物はゲル化剤を含有しない。実施例1と同様にして分散物を製造した。
【0170】
分散物粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度の関数としての粘度は、0.093s-1~100s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって説明される。流動挙動指数nは0.62であり、流動一貫性指数は3.0Pa・s0.62である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は約6Pa・sであり、18.6s-1を超える剪断速度の領域では約1Pa・sである。低剪断速度の領域における分散物粘度は、20Pa・s未満であり、長期貯蔵中の分散物安定性を確保するのに十分ではない。
【0171】
分散物のレオロジー特性は、0.5mmのギャップを有するプレート間セルにおいて、HAAKE RheoStress 6000動的剪断レオメーターを用いて測定した。分散試料をスパチュラを用いて下部プレート(d=20mm)に移し、(T=19~21℃)にサーモスタットし、次いで、プレートを0.55mmのギャップに閉じ、その後、過剰な試料を金属スパチュラを用いて除去し、プレートを再び0.5mmの測定ギャップに閉じた。移動プレートの回転角0.029°に相当する変形振幅1%では、貯蔵弾性率G’は103Paであり、損失弾性率G’’=19Paであり、これはまた、得られたゲルのかなり低い粘度を示す。
【0172】
分散物を使用して、分散物中にゲル化剤が存在しなかったことを除いて、実施例1と同様の組成及び製造順序でカソードスラリーを製造した。したがって、対応する量のゲル化剤をNa-カルボキシメチルセルロース溶液の形態で添加した:
-製造した分散物12.5gに、Na-カルボキシメチルセルロース1g及び水53gを含有する溶液54gを添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する。
-得られた混合物を97.75gの活性成分LiFePO4と混合する;
-乾燥物質含有量が50%の水性スチレンブタジエンゴムラテックス2.4gを添加する;
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する。
【0173】
得られたカソードスラリーの剪断速度の関数としての粘度は、
図3の暗い四角(曲線8C)によって示されている。この依存性は、流動挙動指数n=0.46及び流動一貫性指数9.3Pa・s
0.46を有するOstwald-de Waeleべき乗則によって記述される。スラリー粘度は、剪断速度約1s
-1で約9.3Pa・sである。この粘度は、スラリー貯蔵安定性研究及びカソード適用実験によって示されるように、貯蔵中のカソードスラリーの剥離がなく、スラリーを集電体に適用することによって得られるカソードが高品質であるという必要な技術的結果を達成するのに十分ではない。
【0174】
スラリーの貯蔵安定性は、直径30mmの50mlの円筒形試験管にスラリーを貯蔵した後、スラリー層の高さに沿って固体粒子含有量の分布を変化させることによって決定した。この目的のために、スラリーを試験管に入れ、蓋で閉じ、標準的な条件下(大気圧、25℃)で7日間維持し、実施例1に記載された手順と同様に分析した。厚さ約6mmの濁った上清層が、7日間でスラリー表面に形成された。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中の溶媒含有量は40重量%であり、1週間の貯蔵後、溶媒含有量は上部3分の1において54.1重量%、中部において36.5重量%、下部において29.6重量%であった。カソードスラリーの著しい剥離があり、7日後の塗布を妨げた。
【0175】
得られたカソードスラリーを用いてカソードを製造しようとする場合、カソードスラリーを用いた集電体の高品質のコーティングを得ることは不可能である(
図4(右側の写真)参照)。ゲル化剤を含まない得られた分散物、及びこの分散物を用いて製造したカソードスラリーは、必要な技術的結果を得ることができない。
【0176】
分散物を使用して、分散物中にゲル化剤が存在しなかったことを除いて、実施例1と同様の組成及び製造順序でアノードスラリーを製造した。したがって、対応する量のゲル化剤をNa-カルボキシメチルセルロース溶液の形態で添加した。アノードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-分散物187.5g、水1388g、1重量%のNa-CMC水溶液112g、グラファイト粉末1000g、及びシリコン粉末454.2gを混合し、10時間撹拌する;
-50重量%の水性ブタジエンスチレンラテックス懸濁液54gを添加する;
-2時間撹拌して均一なスラリーを製造する。
【0177】
スラリーの貯蔵安定性は、実施例1に記載したのと同様の手順によって決定した。厚さ約8mmの濁った上清層が、7日間でスラリー表面に形成された。本実施例のアノードスラリーについて、初期スラリー中の溶媒含有量は53.6重量%であり、1週間の貯蔵後、溶媒含有量は上部3分の1において68.1重量%、中部において48.0重量%、下部において44.2重量%であった。カソードスラリーの著しい剥離があり、7日後の塗布を妨げた。
【0178】
以下の表1は、実施例1~8の分散物の組成及び特性の概要を示す。
【0179】
以下の表2は、実施例1~8のカソードスラリー及びアノードスラリーの組成及び特性の概要を示す。
【表1】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明は、1つの実施形態において、液相における単層及び/又は二層カーボンナノチューブの分散物並びにそれらの凝集物、電極スラリー、リチウムイオン電池電極、及びリチウムイオン電池を製造するために使用される。
【0181】
本発明の範囲及び趣旨の範囲内で、その様々な修正、適合、及び代替の実施形態を行うことができることも理解されるべきである。本発明は、以下の特許請求の範囲によってさらに定義される。
【国際調査報告】