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特表2024-545798カーボンナノチューブ分散物、カソードペースト及びカソード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-11
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散物、カソードペースト及びカソード
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20241204BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540551
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 RU2022000170
(87)【国際公開番号】W WO2023128802
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】2021139491
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519239702
【氏名又は名称】エムシーディ テクノロジーズ エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】プレチェンスキー, ミハイル ルドルフォビッチ
(72)【発明者】
【氏名】カシン, アレクサンダー アレクサンドロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ボブレノク, オレグ フィリッポビッチ
(72)【発明者】
【氏名】コソラポフ, アンドレイ ゲナディエビッチ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB13
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA10
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、分子の大部分が電気的に中性である溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、0.2~2重量%の量の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する分散物であって、水素化ニトリルブタジエンゴムに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの質量比は0.1以上10以下である分散物を提案する。また、分散物の調製方法、カソードペーストの調製方法、カソードペースト、カソードの調製方法、カソードが提案されている。本発明は、リチウムイオン電池用のカソードペースト及びその後のカソードの調製などにおいて、貯蔵及び輸送中の高い安定性と、使用される様々な製造プロセス中の低い粘度との両方を示す、分子の大部分が電気的に中性である溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する分散物を製造するという問題を解決する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒であって、前記溶媒のほとんどの分子が電気的に中性である溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含む分散物であって、前記単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が0.2~2重量%の範囲であり、前記HNBRに対する前記単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が少なくとも0.1かつ10以下である、分散物。
【請求項2】
前記HNBRが15重量%を超える水素化ポリブタジエン単位を含有する、請求項1に記載の分散物。
【請求項3】
前記HNBRが40重量%を超える水素化ポリブタジエン単位及び/又は1重量%未満の残留ポリブタジエン単位を含有する、請求項2に記載の分散物。
【請求項4】
前記HNBRが20重量%を超えるアセトニトリル単位を含有する、請求項1に記載の分散物。
【請求項5】
前記溶媒が、少なくとも70℃の引火点を有する有機溶媒である、請求項1に記載の分散物。
【請求項6】
前記溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物のいずれかである有機溶媒である、請求項5に記載の分散物。
【請求項7】
前記単層及び/又は二層カーボンナノチューブが、表面上に少なくとも0.1重量%の官能基を含有する、請求項1に記載の分散物。
【請求項8】
前記単層及び/又は二層カーボンナノチューブが、前記表面上に少なくとも0.1重量%の塩素を含有する、請求項7に記載の分散物。
【請求項9】
前記単層及び/又は二層カーボンナノチューブが、前記表面上に少なくとも0.1重量%のカルボニル基及び/又はヒドロキシル基、及び/又はカルボキシル基を含有する、請求項7に記載の分散物。
【請求項10】
中に含有される前記単層及び/又は二層カーボンナノチューブが凝集しており、カーボンナノチューブ凝集物の数の流体力学的直径分布のモードが100nm~1μmの範囲である、請求項1に記載の分散物。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブ凝集物の数の流体力学的直径分布のモードが、300nm~800nmの範囲である、請求項10に記載の分散物。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブ凝集物の数の流体力学的直径分布が、1を超えるモードによって特徴付けられる、請求項10に記載の分散物。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブ凝集物の数の流体力学的直径分布が、2μmを超えるモードを特徴とする、請求項12に記載の分散物。
【請求項14】
コーン・アンド・プレートのレオメーターセルにおいて1Hzの周波数及び100%の相対剪断歪み振幅を有する振動剪断歪みで、前記分散物が溶媒と単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにHNBRの高濃度ゲルとに分離する、請求項1に記載の分散物。
【請求項15】
前記分散物が、波長532nmのラマンスペクトルにおけるG/D線強度の比が少なくとも10である、請求項1に記載の分散物。
【請求項16】
前記分散物が、波長532nmのラマンスペクトルにおけるG/D線強度の比が少なくとも40である、請求項15に記載の分散物。
【請求項17】
前記分散物が、波長532nmのラマンスペクトルにおけるG/D線強度の比が少なくとも60である、請求項16に記載の分散物。
【請求項18】
前記分散物が、波長532nmのラマンスペクトルにおけるG/D線強度の比が少なくとも80である、請求項17に記載の分散物。
【請求項19】
前記単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物が、第8族~第11族の金属不純物を含有する、請求項1に記載の分散物。
【請求項20】
単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物における第8族~第11族の金属不純物の含有量が1重量%未満である、請求項19に記載の分散物。
【請求項21】
単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物における第8族~第11族の金属不純物の含有量が0.1重量%未満である、請求項20に記載の分散物。
【請求項22】
前記分散物が、0.37以下の流動挙動指数n及び少なくとも3.2Pa・sの流動一貫性指数Kを有する擬塑性流体である、請求項1に記載の分散物。
【請求項23】
剪断速度に対する粘度の依存性が、Ostwald-de Waeleべき乗則に従い、前記流動挙動指数n及び前記流動一貫性指数Kが、条件n<1.25*lg(K/(Pa・s))-0.628を満たす、請求項1に記載の分散物。
【請求項24】
剪断速度に対する粘度の依存性が、Ostwald-de Waeleべき乗則に従い、前記流動挙動指数n及び前記流動一貫性指数Kが、条件n<1.24-0.787*lg(K/(Pa・s))を満たす、請求項1に記載の分散物。
【請求項25】
前記コーン・アンド・プレートのレオメーターセルにおいて1Hzの周波数及び5~10%の範囲の相対剪断歪み振幅を有する振動剪断歪みで27Paを超える損失弾性率と、前記コーン・アンド・プレートのレオメーターセルにおいて1Hzの周波数及び5~10%の範囲の相対剪断歪み振幅を有する振動剪断歪みで18°を超える位相角とを有する、請求項1に記載の分散物。
【請求項26】
分子のほとんどが電気的に中性である溶媒と、0.2~2重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブと、水素化ニトリルブタジエンゴムとを、水素化ニトリルブタジエンゴムに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が少なくとも0.1かつ10以下で含有する、分散物を製造するための方法であって、一連の少なくとも3つの分散段階(D)及び少なくとも2つの静止段階(R)を含み、前記静止段階(R)は前記分散段階(D)の間に交互であり、前記分散段階(D)のいずれかが、(i)少なくとも10000s-1の剪断速度で少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーでの前記分散物の機械的加工、又は(ii)少なくとも20kHzの周波数で少なくとも1W・h/kgの比入力エネルギーでの超音波処理を含み、前記静止段階(R)が、2つの連続する分散段階(D)の間の前記分散物を少なくとも1分間、10s-1未満の剪断速度に曝露する、方法。
【請求項27】
一連の交互の少なくとも10の分散段階(D)及び少なくとも9の静止段階(R)を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
一連の交互の少なくとも30の分散段階(D)及び少なくとも29の静止段階(R)を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記一連の交互の段階(D)及び(R)が、機械的加工又は超音波処理の段階を提供する1つ又はいくつかのデバイスと、前記分散物が保持されて10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で、前記分散物を循環させることによって実施される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記製造中の分散循環係数が少なくとも10である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記製造中の分散循環係数が少なくとも30である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーで少なくとも10000s-1の剪断速度での回転脈動デバイス、少なくとも20kHzの周波数で少なくとも1W・h/kgの比入力エネルギーでの前記分散物に浸漬されたソノトロードを有する超音波処理デバイスと、前記分散物が少なくとも1分保持されて10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で、100~10000kg/hの循環速度で前記分散物を循環させることを含む、請求項29に記載の製造方法。
【請求項33】
前記方法が、少なくとも10000s-1の剪断速度及び少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーでの高圧ホモジナイザーと、前記分散物が少なくとも1分間保持されて10s-1未満の剪断速度でゆっくり撹拌されるタンクとの間で、100~10000kg/hの循環速度で前記分散物を循環させることを含む、請求項29に記載の製造方法。
【請求項34】
活物質と、溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、少なくとも0.005重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するカソードスラリーを製造するための方法であって、(1)リチウム含有活物質と請求項1に記載の分散物とを混合する段階、及び(2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造する段階を含む、方法。
【請求項35】
溶媒及び/又は1つ若しくはいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤も前記混合する段階(1)で前記混合物に添加される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記方法が、段階(2)の前に実施される、前記溶媒及び/又は1つ若しくはいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤と混合する1つ若しくはいくつかの追加の段階を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
活物質と、溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するカソードスラリーであって、少なくとも0.005重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有し、請求項34に記載の方法によって製造される、カソードスラリー。
【請求項38】
1s-1の剪断速度での動粘度が少なくとも10Pa・sであり、100s-1の剪断速度での動粘度が1Pa・s以下である、請求項37に記載のカソードスラリー。
【請求項39】
0.3以下の流動挙動指数n及び少なくとも10Pa・sの流動一貫性指数Kを有する擬塑性流体である、請求項37に記載のカソードスラリー。
【請求項40】
多層カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラファイト、第8族~第11族金属のうちの1つ又はいくつかの少なくとも0.01重量%の導電性添加剤をさらに含有する、請求項37に記載のカソードスラリー。
【請求項41】
リチウムイオン電池カソードを製造するための方法であって、一連の以下の段階:(1)前記リチウム含有活物質tと請求項1に記載の分散物とを混合すること、(2)前記得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造すること、(3)前記得られたスラリーを集電体に塗布すること、(4)前記塗布されたスラリーを前記カソードが形成されるまで乾燥させること、及び(5)前記カソードを必要な密度に圧縮すること、を含む方法。
【請求項42】
請求項41に記載の方法によって製造される、リチウムイオン電池カソード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにその凝集物の液体分散物に関し、これらの分散物は、高い安定性及び中程度の粘度の両方を有する。本発明はまた、そのような分散物を製造するための方法に関する。本発明はまた、カソードスラリーを製造するためのそのような分散物の使用に関する。本発明はまた、カソードスラリー、及びリチウムイオン電池カソードを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層及び二層カーボンナノチューブの分散物を使用して、リチウムイオン電池カソードを製造するためのカソードスラリーを含む様々なコーティング及び複合材料にこれらのカーボンナノ材料を導入することができる。リチウムイオン電池のカソードに単層及び二層カーボンナノチューブが存在すると、その技術的特性を改善することができる:内部抵抗を低減し、比容量及び充電サイクル数を増加させる(すなわち、一定回数の充放電サイクル後の電池容量を増加させる)。しかしながら、単層及び/又は二層カーボンナノチューブは、この技術的結果を達成するために、リチウムイオン電池カソード材料中に最適に分散及び分布されるべきである。
【0003】
単層及び二層カーボンナノチューブは束ねられて、より複雑な形状に凝集する傾向がある。カーボンナノチューブの長く厚い束への凝集は、例えば、カソードの高い電気伝導率を確実にするためを含むいくつかの実施態様において望ましいが、分散したカーボンナノチューブ凝集物の沈降速度をより速くする、すなわち分散物又はカソードスラリーの安定性をより低くする。分散物の安定性が低いと、分散物の貯蔵時間が短くなり、可能な物流及び技術的スキームに制限をもたらし、カソードスラリー材料との不均一なその後の混合のリスクが高まり、その結果、リチウムイオン電池製造における不合格品のリスクが高まる。これらのリスクは、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにそれらの凝集物を含有するカソードスラリーのより低い安定性にさらに大きな程度まで関連する。
【0004】
分散剤及び界面活性剤を使用してカーボンナノチューブなどの分散粒子の凝集を防止することによって分散物の安定性を改善する方法は、当技術分野で公知である。単層カーボンナノチューブの場合、クロロスルホン酸は、例えば、凝集プロセスの平衡を個々のナノチューブに向かって完全にシフトさせることが知られている[A.N.G.Parra-Vasquez,N.Behabtu,M.J.Green,C.L.Pint,C.C.Young,J.Schmidt,E.Kesselman,A.Goyal,P.M.Ajayan,Y.Cohen,Y.Talmon,R.H.Hauge,M.Pasquali,Spontaneous Dissolution of Ultralong Single-and Multiwalled Carbon Nanotubes,ACS Nano 2010 4(7),pp.3969-3978]。しかしながら、このアプローチは、カーボンナノチューブの長い束が分散物中で減少又は排除されるという欠点を有するが、それらの存在は、この種の分散物を用いて得られるコーティング又は複合材料(例えば、リチウムイオン電池カソード)の電気的パーコレーション閾値を減少させ、電気伝導率を増加させるので、いくつかの実施態様では有利である。
【0005】
一方、単層又は二層カーボンナノチューブの分散物は、高粘度を特徴とし、高粘度は、ナノチューブ及びそれらの束の濃度並びにそれらの長さ対厚さ比の増加に伴って成長する[A.N.G.Parra-Vasquez,J.G.Duque,M.J.Green,M.Pasquali,Assessment of length and bundle distribution of dilute single-walled carbon nanotubes by viscosity measurements,AIChE J.,60(2014),pp.1499-1508]。複雑な形状の凝集物へのカーボンナノチューブ束のさらなる凝集は、分散物の非常に高い粘度をもたらし、例えば製造プロセスにおけるプロセスラインを介したコーティング又はポンピングのための分散物のさらなる利用を技術的に困難にする。
【0006】
同時に、分散物の高粘度は、カーボンナノチューブ及びそれらの束の移動度並びに凝集物の沈降速度を低下させ、したがって分散物の安定性を改善する。逆に、凝集物の移動度及び沈降速度は、低粘度の分散物においてより高い。したがって、カーボンナノチューブ分散物の選択は、分散物の高い安定性とその低い粘度との中間点を見出すことに関する。
【0007】
したがって、リチウムイオン電池用のカソードスラリーを製造するプロセスを含め、分散物の高い安定性と、剥離及び特性変化を伴わない長期貯蔵の機会とが、分散物の使用に必要な低粘度と組み合わされた、分散物を得るという技術的課題がある。単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーにも同様の技術的問題があり、使用(カソードの集電体への塗布)前の貯蔵中のその高粘度を確保し、カソードの活物質層の端部の良好な品質を確保するために広がることなく集電体への塗布後に高粘度を確保し、同時に、集電体への塗布のために定義された加工条件下でカソードスラリーの低粘度を確保する必要がある。
【0008】
カーボンナノチューブを分散状態で含有する高粘度ゲルを製造ための解決策がある。国際公開第2006112162号は、安息香酸又はその誘導体及び塩基の中和反応によって得られるようなイオン液体に基づく、分散カーボンナノチューブを含有するゲルを提案している。このゲル含有カーボンナノチューブは、ナノチューブの凝集及びそれらの凝集物の沈降なしに無制限の長期貯蔵の可能性を提供する。しかしながら、イオン液体を分散液として用いることは、分散物の用途を大きく制限する。カソードスラリーの製造を含む大部分の用途では、このゲルを直接使用することはできず、主に電気的に中性分子を含有する水性及び/又は有機溶媒に基づく分散物を使用前にそこから得るべきである。この分散物の安定性は、初期ゲルの安定性によってもはや保証されず、カソードスラリーの安定性も保証されない。さらに、カソードスラリー及びリチウムイオン電池カソードの製造を含む多くの実施態様では、イオン液体の初期成分は、溶媒中で希釈及び分散した後でも望ましくない場合がある。
【0009】
分散物の粘度及び/又はその複素弾性率が狭い範囲にあるように、分散物の組成が選択される解決策が知られており、この範囲は、カーボンナノチューブ分散物の良好な品質を保つために必要な高粘度と、この分散物を移送して最終生成物に変換する良好な作業性のために望ましい低粘度との中間である。例えば、欧州特許第3333946号明細書は、分散物媒体中のカーボンナノチューブ束の分散物を特許請求しており、この分散物はまた、共役ジエンの水素化によって得られた1~15重量%単位の水素化ニトリルブタジエンゴムも含有し、分散物はさらに、1Hzで20~500Paの複素弾性率を特徴とする。欧州特許第3333946号明細書の発明者らは、流体粘度の尺度として1Hzでの複素弾性率を使用している:低い複素弾性率では流体粘度が低すぎる;複素弾性率が高く、さらなる製造プロセス(電極の形成)が技術的に実現可能でない場合、液体粘度が高すぎる。引用特許に記載されているように、上記複素弾性率を有する分散物の粘度は、1/(6.3s)の剪断速度で2~20Pa・sである。欧州特許第3333946号明細書は、分散物の高い安定性を確実にすることを目的としていない。しかしながら、粘度を20Pa・s未満に制限することは、分散物が長期間安定なままであるのに十分ではなく、これは、分散物の良好な貯蔵及び輸送を含む製造プロセスの効率的な組織化を妨げる欠点である。欧州特許第3333946号明細書は、プロトタイプとして選択されている。
【0010】
技術的課題
したがって、貯蔵及び輸送中の高い安定性と、リチウムイオン電池のカソードスラリー、次いでカソードの製造を含むその使用の様々な技術的プロセス下でのこの分散物の低い粘度との両方を特徴とする、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの分散物を得るという技術的課題がある。単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーにも同様の技術的問題があり、使用(カソードの集電体への塗布)前の貯蔵中の高粘度、カソードの活物質層の端部で良好な品質を確保するために広がることのない集電体への塗布後の高粘度、同時に、集電体への塗布の技術的プロセスの条件下でカソードスラリーの低粘度を特徴とするカソードスラリーを得る必要がある。その結果、連続した充放電サイクルにおける高い比容量及び動作の安定性に現れる高品質のリチウムイオン電池カソードを製造するという問題がある。欧州特許第3333946号明細書を含む既知の解決策は、技術的問題を解決することを可能にしない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2006112162号
【特許文献2】欧州特許第3333946号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A.N.G.Parra-Vasquez,N.Behabtu,M.J.Green,C.L.Pint,C.C.Young,J.Schmidt,E.Kesselman,A.Goyal,P.M.Ajayan,Y.Cohen,Y.Talmon,R.H.Hauge,M.Pasquali,Spontaneous Dissolution of Ultralong Single-and Multiwalled Carbon Nanotubes,ACS Nano 2010 4(7),pp.3969-3978
【非特許文献2】A.N.G.Parra-Vasquez,J.G.Duque,M.J.Green,M.Pasquali,Assessment of length and bundle distribution of dilute single-walled carbon nanotubes by viscosity measurements,AIChE J.,60(2014),pp.1499-1508
【発明の概要】
【0013】
技術的問題を解決するために、貯蔵中の静止時の分散物は高粘性流体でなければならず、すなわち、分散物粘度は、カーボンナノチューブの凝集及び/又は沈降なしに分散物の長期貯蔵及び/又は輸送を可能にする1/6.3s-1以下の剪断速度で20Pa・sを超えなければならず、同時に、プロセス流中の分散物粘度は著しくより低いものでなければならず、18.6s-1以上の剪断速度で2Pa・s未満、すなわち、カソードスラリーを調製する技術的プロセスを含む、この分散物が適用される技術的プロセスに十分に低いものでなければならない。以下、「粘度」という用語は、25℃の温度での動粘度を指す。分散物の貯蔵及び適用条件は、異なる温度を特徴とし得る。重要なことに、ここで与えられ、以下で使用される、貯蔵及び輸送中の典型的な剪断速度(<1/6.3s-1)及び加工中の剪断速度(>18.6s-1)の値は絶対的ではなく、分散物粘度の定量的説明のための慣例とみなされる。剪断速度は、いくつかの輸送条件では1/6.3s-1を超える場合があり、分散物を使用するいくつかの技術的プロセスでは18.6s-1未満である場合があり、これは本発明の分散物の利点を否定しない。
【0014】
本出願の発明者らによってなされた研究は、非理想的な擬塑性流体であり、いくつかの非理想的な液体について知られているOstwald-de Waeleべき乗則に従う単層及び二層カーボンナノチューブ並びにそれらの凝集物の分散物を製造することが可能であることを示している[W.Ostwald,Ueber die rechnerische Darstellung des Strukturgebietes der Viskositat」、Kolloid-Zeitschrift 47(1929),pp.176-187]。
【0015】
この法則によれば、それらの粘度が液体流中の剪断速度に依存すること、すなわち、粘度が低いほど、剪断速度が大きくなる。擬塑性流体は、n<1によって特徴付けられる。流動挙動指数nが低いほど、剪断速度に対する擬塑性流体粘度の依存性がより顕著になる。さらなる研究は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの分散物中にゲル化剤を添加することによって流動挙動指数を有意に低下させることができ、これを使用して、ゲル化剤として水素化ブタジエン-ニトリルゴム(HNBR、水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)を使用する場合に有機溶媒中で特に有意な効果を達成することができることを示した。HNBR並びに単層及び/又は二層カーボンナノチューブの同時導入は、溶媒中のカーボンナノチューブ及び溶媒中のHNBRの溶液又は懸濁物の対応する分散物の流動挙動指数と比較して、より低い流動挙動指数n(すなわち、分散物と理想的なニュートン流体との間のより大きな差)をもたらす相乗効果を与える。
【0016】
相乗効果は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束によって相互結合された懸濁液中に形成されたHNBRゲル領域から生じる。得られたネットワークは、低い剪断荷重で非常に高い分散物粘度を提供する。しかしながら、カーボンナノチューブとHNBR分子との間の分子間結合は十分に弱く、したがって、より高い剪断荷重はそれらを破壊し、より低い粘度をもたらす。
【0017】
本開示は、分子のほとんどが電気的に中性である溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する分散物であって、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が0.2~2重量%の範囲であり、水素化ニトリルブタジエンゴムに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が少なくとも0.1かつ10以下である、分散物を提供する。
【0018】
この組成物を有する分散物は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにHNBRの粘度に対する相乗効果のために、低剪断速度(例えば、1/6.3s-1未満)での分散物の非常に高い動粘度及び加工に典型的な剪断速度(例えば、18.6s-1超)での低い動粘度の利点を有する。
【0019】
水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)とは、ニトリルブタジエンゴムの水素化によって得られるポリマー、すなわちアセトニトリルとブタジエンとを共重合して得られるポリマーをいう。HNBRは、-CH2-CH(CN)-アセトニトリル単位、ポリブタジエン単位及び水素化ポリブタジエン単位を含有する。用語「ポリブタジエン単位」は、-СH-CH=CH-CH-(1,4-ポリブタジエン単位)又は>СH-CH=CH(1,2-ポリブタジエン単位)ポリマー鎖単位を指し、用語「水素化ポリブタジエン単位」は、それぞれ-СH-CH-CH-CH-又は>CH-CH-CHポリマー鎖単位、すなわち、ポリブタジエン単位の水素化によって得られる飽和単位を指す。いくつかの実施態様では、例えば、Therban(登録商標)3406又はTherban(登録商標)3404は、好ましくは、1重量%未満の残留ポリブタジエン単位を含有する完全水素化ゴムとして使用される。いくつかの実施態様では、3重量%を超える、又は5重量%を超える、又は17重量%を超える、ポリブタジエン単位の残留含有量を有する部分水素化ゴム、例えばTherban(登録商標)3496を使用することが好ましい。
【0020】
HNBR中の水素化ポリブタジエン単位の好ましい含有量は15重量%を超える。HNBR中の水素化ポリブタジエン単位の最も好ましい含有量は40重量%を超える。
【0021】
場合によっては、HNBRは、好ましくは20重量%を超えるアセトニトリル単位を含有する。場合によっては、水素化ニトリルブタジエンゴムML(1+4)100℃の粘度は、好ましくは50ムーニー単位未満である。いくつかの実施態様では、そのような低粘度ニトリルブタジエンゴムは、好ましくは完全に水素化されている、すなわち1重量%未満の残留ポリブタジエン単位、例えばTherban(登録商標)3404を含有する。
【0022】
分散物中のHNBRの存在は、より高い流動一貫性指数K及びより低い流動挙動指数nをもたらす。分散物中の単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物の存在も、流動一貫性指数Kの増加及び流動挙動指数nの減少をもたらす。分散物中のHNBR並びに単層及び/又は二層カーボンナノチューブ及び/又はそれらの凝集物の同時存在は、溶媒中のカーボンナノチューブ及び溶媒中のHNBRの対応する分散物の流動挙動指数と比較して、よりいっそう低い流動挙動指数n(すなわち、分散物と理想的なニュートン流体との間のより大きな差)で表される相乗効果をもたらす。
【0023】
技術的結果を達成することを可能にする分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は、0.2~2重量%である。分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの好ましい含有量は、使用される技術的機器及びロジスティック特性によって決定される。好ましくは、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は0.3~1.4重量%である。いくつかの実施態様では、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は、好ましくは0.3~0.6重量%、最も好ましくは0.35~0.45重量%である。いくつかの他の実施態様では、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は、好ましくは0.6~1.2重量%、最も好ましくは0.7~1重量%である。
【0024】
分散物中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの好ましい重量比は、少なくとも0.2かつ5以下である。分散物中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの最も好ましい重量比は、少なくとも0.5かつ3以下である。しかしながら、技術的結果をもたらす相乗効果は、分散物中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が0.1~0.5の範囲でも達成可能である。いくつかの実施態様では、分散物中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの最も好ましい重量比は、少なくとも0.5かつ5以下である。技術的結果をもたらす相乗効果は、分散物中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が3~10の範囲でも達成可能である。
【0025】
分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの存在は、技術的結果を達成するための重要な条件である。単層カーボンナノチューブは、安定な単層カーボンナノチューブのために4nm未満、例えば1.5nmの小さい直径を有すると同時に、5μmを超えることができる大きな長さを有することが知られている。したがって、単層カーボンナノチューブは、3000を超えることができる非常に大きい長さ対直径比を有する。二層カーボンナノチューブはまた、6nmを超えない(例えば2.8nmであることができる)外径を有することも知られており、それらの長さは5μmを超えることもできる。単層及び/又は二層カーボンナノチューブの凝集は、その中に含有される個々のナノチューブの長さ対直径比よりも幾分小さいか又は大きい長さ対直径比を有する凝集物を形成することができる。好ましくは、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ凝集物は、100を超える長さ対直径比、より好ましくは500を超える単層及び/又は二層カーボンナノチューブの長さ対直径比、最も好ましくは1000を超える単層及び/又は二層カーボンナノチューブの長さ対直径比を有する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束を含有する。
【0026】
単層及び/又は二層カーボンナノチューブがファンデルワールス力(π-π相互作用)を介して互いに相互作用し、凝集する(束ねる)能力もまた、技術的結果を達成するために非常に重要である。単層及び/又は二層カーボンナノチューブの欠陥は、この能力を低下させる。したがって、単層及び/又は二層カーボンナノチューブは、好ましくは、可能な限り少ない欠陥を含有する。単層及び/又は二層カーボンナノチューブの構造における欠陥の数を示す定量的指標は、ラマンスペクトルにおけるGバンド及びDバンド強度の比であり、この比が大きいほど、カーボンナノチューブの欠陥が少なくなる。532nmのラマンスペクトルにおけるGバンド及びDバンドの好ましいピーク強度比は少なくとも10であり、532nmのラマンスペクトルにおけるGバンド及びDバンドのより好ましい強度比は少なくとも40であり、532nmのラマンスペクトルにおけるGバンド及びDバンド強度比は少なくとも60であることがさらにより好ましく、最も好ましい比は少なくとも80である。
【0027】
カソードスラリーの製造及びさらなるカソード製造を含む多くの実施態様では、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブは好ましくは凝集しており、カーボンナノチューブ凝集物の数の流体力学的直径分布のモードは100nm~1μmの範囲である。最も好ましくは、カーボンナノチューブ凝集物の数の流体力学的直径分布のモードは、300nm~800nmの範囲である。この場合、カーボンナノチューブ凝集物の数の流体力学的直径分布は、1を超えるモードによって特徴付けることができ、例えば、二峰性又は三峰性であり得る。懸濁粒子(カーボンナノチューブの束など)の数のサイズ分布は、動的光散乱(DLS)によって一般に決定され、これにより、周知のStokes-Einsteinの関係を介して有効流体力学的直径Dに関連する懸濁粒子拡散係数Ddiffを決定することができる。
【0028】
上述のように、単層及び/又は二層カーボンナノチューブがファンデルワールス力(π-π相互作用)を介して互いに相互作用し、凝集する(束ねる)能力もまた、技術的結果を達成するために重要であるが、これは、カソードスラリーの安定性を確保するために特に重要であり、これは、その製造のための分散物を必要とする。束のかなりの部分の長さは、好ましくは、カソード活物質の典型的なサイズを超え、例えば10μmを超える。したがって、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束の長さは、流体力学的直径を著しく超えることに留意されたい。長さL及び直径dを有する円筒状粒子(ナノチューブ及びそれらの束)についてのStokes-Einsteinの関係は、すべての可能な配向にわたって平均化して、方程式(2)によって与えられる。
【0029】
N.Nair,W.Kim,R.D.Braatz,M.S.Strano,Dynamics of Surfactant-Suspended Single-Walled Carbon Nanotubes in a Centrifugal Field,Langmuir,2008,Vol.24,pp.1790-1795 doi:10.1021/la702516uを参照されたい。又は、粒子が扁長楕円体であると仮定される場合には、方程式(3)による。
【0030】
J.Gigault,I.Le Hecho,S.Dubascoux,M.Potin-Gautier,G.Lespes,Single-walled carbon nanotube length determination by asymmetrical-flow field-flow fractionation hyphenated to multi-angle laser-light scattering,J.Chromatogr.A,2010,Vol.1217,pp.7891-7897]を参照されたい。
【0031】
2つのモデル(2)及び(3)は、形状係数の非常に近い値をもたらし、これは、バンドル長さがその有効流体力学的直径の何倍大きいかを示す。懸濁液中の大部分のナノチューブ束の長さ対直径比が100~10000の間の範囲にあることを考慮すると、形状係数は5~10の狭い範囲にある。したがって、カーボンナノチューブ束の長さLは、式(4)の有効流体力学的直径の値から2倍まで推定することができる。
【0032】
【0033】
したがって、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ凝集物(束)の流体力学的直径による分布が1よりも多くのモードによって特徴付けられ、及び/又は少なくとも1つのモードが2μmを超えることが好ましい。
【0034】
10μmを超えるサイズを有する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの凝集物の存在は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにHNBRの分散物の別の特性において明らかであり、これは、凝集物サイズに匹敵するサイズを有する狭いスロットチャネルにおける振動剪断歪み下での分散物の急速な分離である。したがって、分散物は、コーン・アンド・プレートのレオメーターセルにおいて、例えば、コーン角1°のコーン・アンド・プレートのレオメーターセルにおいて、1Hzの周波数及び100%の相対剪断歪み振幅の振動剪断歪み下で、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量が少ない溶媒と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにHNBRの高濃度ゲルとに分離する能力を有することが好ましい。
【0035】
単層及び/又は二層カーボンナノチューブに加えて、分散物は、非晶質炭素及び/又はグラファイト及び/又は多層カーボンナノチューブを含む他の炭素同素体の不純物を含有し得るが、これらに限定されない。分散レオロジーに対するこれらの不純物の影響はわずかであり、したがって、不純物は技術的結果に影響を及ぼさない。
【0036】
単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物の分散物は、第8族~第11族金属、又はカーボンナノチューブの製造において触媒として使用される金属炭化物、例えば、鉄若しくはコバルト、又は他の金属、バイメタル粒子、又はそれらの合金の不純物を含有してもよく、それらは、これらのカーボンナノチューブが得られる方法に起因する。カソードスラリーの製造及びカソードのさらなる製造を含むいくつかの実施態様では、単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はその凝集物中の第8族~第11族金属不純物の含有量は、好ましくは1重量%未満である。いくつかの実施態様では、単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はその凝集物中の第8族~第11族金属不純物の含有量は、より好ましくは0.1重量%未満である。他の実施態様では、反対に、第8族~第11族金属不純物の含有量をそれほど制限する理由はなく、単層及び/若しくは二層カーボンナノチューブ並びに/又はそれらの凝集物中のそれらの含有量は15重量%までとすることができる。
【0037】
最小流動挙動指数nを達成するための最良の相乗効果のために、単層及び/又は二層カーボンナノチューブの表面は官能基を含有することが好ましい。いくつかの実施態様では、単層及び/又は二層カーボンナノチューブは、それらの表面上にカルボニル基及び/又はヒドロキシル基、及び/又はカルボキシル基を含有することが好ましい。他の実施態様のために、カーボンナノチューブは、好ましくは、表面上に塩素含有基を含有するが、与えられた例に限定されない。この場合、カーボンナノチューブとゴム分子のアセトニトリル単位との間の相互作用がより強く、より低い流動挙動指数に対するHNBRナノチューブとの相乗効果が最も顕著である。官能基は、当技術分野で公知の様々な方法によってカーボンナノチューブの表面上に生成することができる。例えば、カルボキシル官能基は、硝酸溶液中での熱処理によってカーボンナノチューブの表面に生成することができ、塩素含有官能基は、ロシア特許第2717516号明細書に記載されている方法のうちの1つによって生成することができるが、与えられた例に限定されない。カーボンナノチューブを官能化するための方法は、本発明の主題ではない。単層及び/又は二層カーボンナノチューブの表面上の官能基の含有量は、少なくとも0.1重量%であることが好ましい。いくつかの実施態様では、単層及び/又は二層カーボンナノチューブは、それらの表面上に少なくとも0.1重量%のカルボニル基及び/又はヒドロキシル基、及び/又はカルボキシル基を含有することが好ましい。単層及び/又は二層カーボンナノチューブの表面上の塩素の最も好ましい含有量は、少なくとも0.1重量%である。しかしながら、技術的結果は、表面上に官能基を含有しない、例えば、表面上の潜在的な官能基を除去するために不活性雰囲気中で意図的に加熱された単層及び/又は二層カーボンナノチューブによっても達成可能である。
【0038】
溶媒の選択は、分散物のその後の適用のための要件に依存する。例えば、分散溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物などの有機溶媒であってもよいが、与えられた例に限定されず、又は2以上の溶媒の溶液、及び有機溶媒の水溶液であってもよい。また、分散物の製造及び操作の安全性の観点から、溶媒の引火点は、分散物の安全な製造及び操作を確保するために少なくとも70℃であることが好ましい。いくつかの実施態様では、有機溶媒の引火点は、好ましくは少なくとも80℃であり、例えばN-メチル-2-ピロリドン(89℃の引火点)又はジメチルアセトアミド(87℃の引火点)、又は他の溶媒であるが、与えられた例に限定されない。
【0039】
溶媒と、HNBRと、単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有する分散物は擬塑性であり、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとHNBRとの相乗的相互作用に起因して、流れにおける剪断速度に対する分散物粘度の非常に強い依存性を特徴とする。これにより、大部分の用途で技術的問題が解決され、一方では、(貯蔵及び/又は輸送中の)乱されていない分散物の高い粘度を確保することが必要であり、他方では、分散物がパイプを通って流れるとき、又は分散液がノズルを通って噴霧されるとき、又は流れにおいて所与の剪断速度を有する他の用途において、特定の分散物使用条件下で必要な粘度を確保することが必要である。この問題を解決するために、流体挙動指数nの値は十分に小さく、0.37以下であり、流動一貫性指数Kは少なくとも3.2Pa・sであることが好ましい。より好ましくは、流動挙動指数nの値は0.30以下である。最も好ましくは、流動挙動指数nの値は0.2以下である。
【0040】
流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kは、上記のOstwald-de Waele方程式(1)によって記述されるように、剪断速度γの関数としての動的分散物粘度μeffのパラメータを指す。剪断速度の関数としての分散物粘度の依存性は、Ostwald-de Waeleべき乗則に正確に従わなくてもよいことに留意することが重要である。剪断速度の関数としての分散物粘度の挙動がべき乗則と異なる場合、流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kは、例えば最小二乗基準に基づいて、剪断速度対数の関数としての粘度対数の曲線上の最良線形近似に対応するパラメータとみなされる。
【0041】
流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kの値は、好ましくは、以下の条件:n<1.25・lg(K/(Pa・s))-0.628を満たす。この場合、貯蔵中の乱れていない分散物の粘度は、1/6.3s-1以下の剪断速度で20Pa・sを超えて高いままであり、カーボンナノチューブ及びその凝集物の凝集及び/又は沈降なしに分散物の長期貯蔵及び/又は輸送を可能にする。
【0042】
流動挙動指数n及び流動一貫性指数Kの値は、好ましくは、以下の条件:n<1.24-0.787・lg(K/(Pa・s))を満たす。この場合、流れにおける分散物粘度は、18.6s-1以上の剪断速度で2Pa・s未満であり、したがって、カソードスラリーの製造のためを含む、この分散物を使用する加工に十分低い。
【0043】
流体の粘性特性を記述する別の手法は、振動剪断歪み下の複素弾性率G*、及び貯蔵弾性率G’実数成分、及び損失弾性率G”見かけ成分を測定することである。これらの値は、通常、20+/-1℃の温度でサーモスタットされたプレート・アンド・プレートセルで、又はより好ましくは、コーン・アンド・プレートセルで測定され、これは、後者がセルの全体積にわたって同じ剪断速度を提供するためである。1°の角度を有するコーンの場合、1Hzの周波数で平面に対して1°のコーン振動は、100%の剪断歪み振幅及び1s-1の剪断速度を意味する。上記のように、分散物は、技術的結果を達成するために、1s-1未満、例えば(1/6.3)s-1の定常剪断速度で20Pa・sを超える動粘度を有する非理想的な擬塑性粘弾性流体でなければならない。これらの剪断速度の値は、1Hzの振動周波数で16%未満の剪断歪み振幅に対応する。残念ながら、カーボンナノチューブを含有する分散物については、定常流条件下での動粘度と振動系で決定された複素弾性率の成分との間の直接的な対応関係を確立することは不可能である。しかしながら、より大きい損失弾性率G”はより高い粘度を意味し、分散物が粘弾性流体として特徴付けられるためには、位相角δ=arctan(G”/G’)は15°より大きく、好ましくは18°より大きくなければならないことは明らかである。この点に関して、分散物は、コーン・アンド・プレートのレオメーターセルにおいて1Hzの周波数及び5~10%の範囲の相対剪断歪み振幅を有する振動剪断歪みで27Paを超える損失弾性率、及びコーン・アンド・プレートのレオメーターセルにおいて1Hzの周波数及び5~10%の範囲の相対剪断歪み振幅を有する振動剪断歪みで18を超える位相角を特徴とすることが好ましい。
【0044】
分子の大部分が電気的に中性である溶媒と、0.2~2重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブと、水素化ニトリルブタジエンゴムとを、水素化ニトリルブタジエンゴムに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が少なくとも0.1かつ10以下で含有する分散物を製造するための方法が開示されており、その方法は、一連の少なくとも3つの分散段階(D)及び少なくとも2つの交互の静止段階(R)を含み、分散段階(D)のいずれかが、少なくとも10000s-1の剪断速度で少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーで分散物を機械的加工する段階、又は少なくとも20kHzの周波数で少なくとも1W・h/kgの比入力エネルギーで超音波処理する段階のいずれかであり、静止段階(R)が、2つの連続する分散段階(D)の間の分散物を少なくとも1分間、10s-1未満の剪断速度に曝露する。
【0045】
開示された分散物を製造するための方法は、一方では、段階(D)での高い剪断速度に起因して単層カーボンナノチューブを分散させることを可能にし、他方では、静止段階(R)で単層及び/又は二層カーボンナノチューブによって単一のネットワークに相互結合される、主にHNBR及び溶媒を有するゲル領域を含有する二成分自己選別ゲルの分離構造を形成することを可能にする。この製造方法は、単層及び/又は二層カーボンナノチューブのより良好な分散及び分布を確実にすることに留意されたい。得られた分散物は、機械的加工又は超音波処理中に擬塑性であるため、高剪断速度を有する領域における低粘度を有する局所領域、及び低剪断速度を有する領域における高粘度を有する局所領域が形成され、これらの領域間の重量移行は低強度又はほとんど不可能である。このため、提案された方法では、技術的結果を達成するために、機械的加工又は超音波処理の段階を2回よりも多く繰り返す必要があり、機械的加工又は超音波処理の周期的に繰り返す段階の間に、分散物は少なくとも1分間、乱されないか、又は10s-1未満の比較的低い剪断速度でなければならない。
【0046】
機械的加工は、例えば、ローターステーター分散機及びホモジナイザー(溶解機)、コロイドミル、ビーズミル、遊星ミル、高圧ホモジナイザー(HPH)、及び回転脈動装置(RPA)を含む、分散物の流れにおいて所望の剪断速度を提供する様々な分散又は混合機器を用いて実行することができる。いくつかの実施態様では、ディスク溶解機、すなわち、ディスクインペラを有する(好ましくは歯付きディスクインペラ(カッター)を有する)垂直撹拌機は、機械的活性化に十分であり、好ましい。非常に高い剪断速度ゾーンを通過する分散流を有するビーズミル又は高圧ホモジナイザーを使用する場合、分散段階(D)は、分散物の全体積をミル又はホモジナイザーに押し込むことを含む。この場合、静止段階(R)は、溶媒と、HNBRと、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含む分散混合物が、分散サイクルの間にタンク内の存在し、10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるだけであることを意味する。
【0047】
機械的加工又は超音波処理のための機器、比出力、各段階での処理の持続時間の選択は、利用可能な機器及び分散物の組成、すなわち選択された溶媒、カーボンナノチューブの濃度、選択されたHNBRの濃度及び銘柄、並びに他の充填剤及び添加剤の利用可能性に依存する。これに関して、いくつかの機器の選択肢は、いくつかの分散物組成物に適用されない場合がある。
【0048】
場合によっては、本方法は、好ましくは、一連の交互の少なくとも5つの分散段階(D)及び少なくとも4つの静止段階(R)を含み、分散段階(D)のいずれかは、少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーで少なくとも10000s-1の剪断速度で分散物を機械的加工する段階、又は少なくとも1W・h/kgの比入力エネルギーで少なくとも20kHzの周波数で超音波処理する段階のいずれかであり、静止段階(R)は、2つの連続する分散段階(D)の間の分散物を少なくとも1分間、10s-1未満の剪断速度に曝露する。別の実施態様では、本方法は、好ましくは、一連の交互の少なくとも10の分散段階(D)及び少なくとも9の静止段階(R)を含む。別の実施態様では、本方法は、好ましくは、一連の交互の少なくとも30の分散段階(D)及び少なくとも29の静止段階(R)を含む。
【0049】
いくつかの実施態様では、機械的加工又は超音波処理の段階を提供する1つ又はいくつかのデバイスと、分散物が保持されて10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で分散物を循環させることによって、一連の少なくとも3つの分散段階(D)及び少なくとも2つの静止段階(R)が交互に実施される。ここで、分散物製造時のそのような分散物循環の係数は、少なくとも5であることが好ましい。いくつかの方法の実施態様では、製造中の分散循環係数は少なくとも10であり得る。他の実施態様では、製造中の分散循環係数は、好ましくは少なくとも30である。好ましい循環サイクル数は、分散物の組成、分散機器のタイプ、及び分散段階での比入力電力によって定義される。
【0050】
いくつかの実施態様では、製造方法は、好ましくは、100~10000kg/hの循環速度で、少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーで少なくとも10000s-1の剪断速度での回転脈動デバイス、少なくとも20kHzの周波数及び少なくとも1W・h/kgの比入力エネルギーでの浸漬ソノトロード(超音波プローブ、超音波アクチベーター)を備えた超音波処理デバイスと、分散物が少なくとも1分間保持されて10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で、分散物を循環させることを含む。滞留時間は、タンク体積と循環速度との比、すなわち、理想的な混合装置の近似における分散物がタンク内にある平均時間を指す。いくつかの実施態様では、回転脈動デバイスのローターとステーターとの間の剪断速度は、好ましくは少なくとも20000s-1、最も好ましくは少なくとも50000s-1である。いくつかの実施態様では、分散物が回転脈動デバイスを通過するときの比入力エネルギーは、好ましくは30W・h/kg以下である。しかしながら、技術的結果は、分散物が回転脈動デバイスを通過するときに10~30W・h/kgの比入力エネルギーでも達成可能である。また、好ましくは、超音波処理は、少なくとも40kHzの周波数及び2W・h/kgを超える比入力エネルギーで行われる。しかしながら、技術的結果は、20kHz~40kHzの周波数及び1~2W・h/kgの比入力エネルギーでも達成可能であるが、これはより多くのサイクルを必要とする。
【0051】
いくつかの実施態様では、製造方法は、好ましくは、少なくとも10000s-1の剪断速度及び少なくとも10W・h/kgの比入力エネルギーでの高圧ホモジナイザーと、少なくとも1分の平均タンク滞留時間で分散物が保持されて10s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌されるタンクとの間で、100~10000kg/hの循環速度で分散物を循環させることを含む。分散機バルブの上流の圧力は、30MPa超、例えば60MPa超とすることができ、分散機の設計によって決定される。ノズル直径はまた、本発明の範囲外である分散機の設計によって決定され、2mm未満、例えば700μmとすることができる。いくつかの実施態様では、分散機中の剪断速度は、好ましくは少なくとも70000 s-1であり、最も好ましくは500000s-1を超える。いくつかの実施態様では、各分散段階での比入力エネルギーは、好ましくは20W・h/kg超、最も好ましくは30W・h/kg超である。しかしながら、技術的結果は、分散物の10~20W・h/kgの間の各分散段階での比入力エネルギーによっても達成可能であるが、これはより多くのサイクルを必要とする。
【0052】
活物質と、溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、少なくとも0.005重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するカソードスラリーを製造するための方法が開示され、その方法は、(1)リチウム含有活物質、及び、分子のほとんどが電気的に中性である溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有する上記分散物を混合する段階(分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は0.2~2重量%であり、分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブと水素化ニトリルブタジエンゴムとの重量比は少なくとも0.1かつ10以下である)、及び(2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造する段階、を含む。
【0053】
活物質と、溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含有するカソードスラリーであって、少なくとも0.005重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有し、上記方法によって製造される、カソードスラリーが開示される。カソードスラリーは、好ましくは少なくとも0.01重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有する。
【0054】
段階(2)において、均一な懸濁液を生成するための段階(1)で得られた混合物の撹拌は、任意の既知の混合方法によって、任意の混合機器、例えば、垂直撹拌機(溶解機としても知られる)、遊星ミキサー、ローターステーター型ミキサー、二軸スクリューミキサーで行うことができるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様では、撹拌は、好ましくは、ディスク溶解機、すなわち、ディスクインペラを有する(好ましくは歯付きディスクインペラ(カッター)を有する)垂直撹拌器を使用して行われる。段階(2)では、遊星ミキサーが最も好ましい。段階(2)のための混合方法の選択及びこの段階のための機器の選択は、本発明の範囲外であることに留意されたい。
【0055】
カソードスラリー活物質は、カソード活物質として適切な任意のリチウム含有材料、すなわち、以下の特性を有する材料を指す(M.S.Wittingham,Lithium Batteries and Cathode Materials,Chem.Rev.2004,Vol.104,pp.4271-4301によって概説される):(1)材料は、容易に還元可能/酸化可能なイオン、例えば遷移金属カチオンを含有する。(2)材料は、その構造の基本的な変化なしに可逆的にリチウムと反応する;(3)材料は、反応の自由エネルギー(ヘルムホルツ電位)が高いリチウムと反応する;(4)材料は、リチウムと非常に迅速に相互作用する。例えば、カソードスラリーの活物質は、LiTiS、LiVSe、LiCoO、LiNiO、LiFePO(LFPとも呼ばれる)、LiNiMnCo(式中、x、y、zは1未満の正数であってx+y+z=1であり、NMCとも呼ばれ、例えばLiNi0.8Mn0.1Co0.1はNMC 811とも呼ばれる)、又は与えられた例に限定されないが他のいずれか、又はそれらの混合物であることができる。
【0056】
単層及び/又は二層カーボンナノチューブとHNBRとがカソードスラリー中に同時に存在すると、分散物について上述したのと同様の相乗効果により、理想的な(ニュートン)流体からのスラリーのレオロジー特性に有意な差が生じ、これはカソードスラリーの流動挙動指数nの値が小さいという事実で表される。それは、好ましくは、少なくとも10Pa・sの流動一貫性指数Kを有する0.3以下であり、これは、カソードスラリーが同時に、一方では、非常に低い粘度、例えば、導電性電極板へのカソードスラリーのその後の塗布に典型的な100s-1以上の剪断速度で1Pa・s以下であり、他方では、高い粘度、例えば1s-1の剪断速度で少なくとも10Pa・sであることを意味する。カソードスラリーの特性のこの組み合わせは好ましく、使用(カソードの集電体への塗布)前の貯蔵中に高粘度を提供し、カソードの活物質層の端部の良好な品質を確保するために広がることなく集電体への塗布後に高粘度を提供し、同時に、集電体への塗布のために定義された加工条件下でカソードスラリーの低粘度を提供するという技術的問題を解決する。
【0057】
カソードスラリーは、1つ又はいくつかの有機溶媒又は有機溶媒の水溶液を含有することができる。有機溶媒の中でもN-メチル-2-ピロリドンが最も好ましいが、エチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどの他の溶媒を用いることもできるが、与えられた例に限定されない。明らかに、カソードスラリーは、上記分散物に含まれる溶媒を含有すべきであり、すなわち、分子のほとんどが電気的に中性である溶媒と、HNBRと、カソードスラリーを製造するために使用される単層及び/又は二層カーボンナノチューブとを含む。しかしながら、カソードスラリーは、技術的プロセスの観点から何らかの利点を提供する場合、別の溶媒をさらに含有してもよい。分散物中のものと化学的に類似する追加の溶媒又は異なるものを、リチウム含有カソード活物質と単層及び/又は二層カーボンナノチューブとHNBRとを含有する分散物とを混合する段階(1)において添加することができるか、又は混合段階(1)に先行する追加の混合段階において添加することができるか、又は混合段階(1)の後で段階(2)の前の別個の混合段階において添加することができる。
【0058】
乾燥後のカソード材料の必要な可塑性及び強度を確保するために、カソードスラリーにバインダーをさらに添加することができる。最も典型的には高分子(ポリマー)材料であるこれらの添加剤は、溶液又は懸濁液、例えば水性懸濁液、N-メチル-2-ピロリドン又は別の溶媒に基づく懸濁液の形態で導入することができ、溶媒の選択は、使用される技術的プロセスの特徴に依存する。これらの添加剤は、例えば、フルオロプラスチックの懸濁液、様々なゴムのラテックス、ポリアクリル酸又はその塩、例えばNa又はLi塩を含むことができる。分散物と同グレードの水素化ニトリルブタジエンゴム、又は異なるものを、バインダーとしてカソードスラリーに添加することができる。バインダーを、リチウム含有カソード活物質と単層及び/又は二層カーボンナノチューブとHNBRとを含有する分散物とを混合する段階(1)において添加することができるか、又は混合段階(1)に先行する追加の混合段階において添加することができるか、又は混合段階(1)の後で段階(2)の前の別個の混合段階において添加することができる。
【0059】
技術的結果を達成するためには、段階(1)でスラリーを製造するために使用される分散物がHNBRと単層及び/又は二層カーボンナノチューブの両方を含有することが重要であり、すなわち、スラリーを製造するために使用される分散物が単層及び/又は二層カーボンナノチューブを含有し、カソードスラリーの製造中にHNBRがそれに添加されるだけでは十分でない。
【0060】
上記を要約すると、いくつかの実施態様では、カソードスラリー製造プロセスは、段階(2)の前に、溶媒及び/又は1つ若しくはいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤と混合する1つ若しくはいくつかの追加の段階を含むことが好ましい。いくつかの実施態様では、溶媒及び/又は1つ若しくはいくつかのバインダー及び/又は導電性添加剤も、混合する段階(1)で混合物に添加されることが好ましい。
【0061】
カソードスラリー中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比は、少なくとも0.05かつ10以下であることが好ましい。いくつかの実施態様では、カソードスラリー中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比は、好ましくは少なくとも0.1かつ5以下である。カソードスラリー中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの最も好ましい重量比は、少なくとも0.33かつ3以下である。しかしながら、技術的結果をもたらす相乗効果は、カソードスラリー中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が0.03~0.33の範囲でも達成可能である。いくつかの実施態様では、カソードスラリー中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの最も好ましい重量比は、少なくとも0.5かつ2以下である。技術的結果をもたらす相乗効果は、カソードスラリー中のHNBRに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比が2~10の範囲でも達成可能である。
【0062】
いくつかの実施態様では、カソードスラリーは、限定はしないが、少なくとも0.01重量%の単層及び/又は二層カーボンナノチューブ以外の導電性添加剤、例えばグラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、様々な形態、厚さ及び長さの炭素繊維、例えば多層カーボンナノチューブ、又は金属粒子をさらに含有することが好ましく、例えばそのような添加剤は、カソードの内部抵抗を低減するという別の利点を確実にすることができる。
【0063】
カソードスラリーは、カーボンナノチューブ製造プロセスからの単層及び/又は二層カーボンナノチューブ中の不純物である第8族~第11族金属粒子を含んでもよい。金属粒子を含むこれらの導電性添加剤は、技術的結果の達成を妨げない。しかしながら、金属粒子はほとんどの実施態様において望ましくなく、カソードスラリー中の第8族~第11族金属不純物の含有量は、好ましくは単層及び二層カーボンナノチューブの1重量%未満であることに留意されたい。いくつかの用途は、カソードスラリー中の第8族~第11族金属不純物の含有量が単層及び二層カーボンナノチューブの含有量の0.1重量%未満であることを好む。
【0064】
本発明は、リチウムイオン電池のカソードを製造するための方法であって、上記カソードスラリーを製造するための一連の段階を含むことを特徴とする方法を提供する。(1)リチウム含有活物質、及び、分子のほとんどが電気的に中性である溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、単層又は二層カーボンナノチューブとを含有する上記分散物を混合すること(分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は0.2~2重量%であり、分散物中の水素化ニトリルブタジエンゴムに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比は少なくとも0.1かつ10以下である)、及び(2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造すること、及び、(3)得られたスラリーを集電体に塗布すること、(4)カソードが形成されるまで塗布されたスラリーを乾燥させること;及び(5)カソードを必要密度に圧縮すること。カソードを製造する方法は、(1)リチウム含有カソード活物質と、単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにHNBRを含有する分散物とを混合する段階で添加することができるか、又は混合段階(1)に先行する別個の混合段階で添加することができるか、又は混合段階(1)の後で段階(2)の前の別個の混合段階で添加することができる、分散物中のものと化学的に類似するバインダー及び/又は追加の溶媒又は異なるものを導入する追加の段階を含むことができる。
【0065】
本発明は、上記カソードスラリーを製造するための一連の段階を含む方法によって製造されることを特徴とする、リチウムイオン電池のカソードを提供する。(1)リチウム含有活物質、及び、分子のほとんどが電気的に中性である溶媒と、水素化ニトリルブタジエンゴムと、単層又は二層カーボンナノチューブとを含有する上記分散物を混合すること(分散物中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの含有量は0.2~2重量%であり、水素化ニトリルブタジエンゴムに対する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの重量比は少なくとも0.1かつ10以下である)、及び(2)得られた混合物を撹拌して均一なスラリーを製造すること、及び、(3)得られたスラリーを集電体に塗布すること、(4)カソードが形成されるまで塗布されたスラリーを乾燥させること;及び(5)カソードを必要密度に圧縮すること。
【0066】
HNBRと単層及び/又は二層カーボンナノチューブとがカソードスラリー中に同時に存在することにより、剪断速度に対する粘度の依存性に影響を及ぼし、集電体への適用条件下でのカソードスラリーの安定性と中程度の粘度の両方を確実にし、本発明のカソードを有するリチウムイオン電池は、連続する充放電サイクルにおいて非常に安定した動作を示す。例えば、1Cのレートでの400回の充電及び放電サイクル後の電池容量は、初期電池容量の80%超、いくつかの実施態様では90%超、いくつかの実施態様では95%超であり得る。達成可能な電池安定性は、電池カソード内の活物質及び電池アノードに依存する。
【0067】
本発明は、例示のみのために提供されて本発明の可能な実施態様を限定することを意図しない添付の図及び実施例によって説明される。便宜上、実施例に関する基本的な情報を、分散物の組成及び特性に関する情報を提供する表にも要約する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】実施例1及び4並びに比較例9の分散物中のTuball(商標)単層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を示す。
図2】実施例1(丸)、実施例2(三角)及び実施例5(四角)の分散物中の流体力学的直径D(nm)による粒子(ナノチューブ及びそれらの束)の体積分率(%)の分布についての動的光散乱データを示す。
図3】実施例1(丸)、実施例2(四角)、実施例3(菱形)、比較例8(暗い三角)及び比較例9の溶液(明るい三角、これらの値は提示を容易にするために100倍される)の分散物の動粘度(Pa・s)の剪断速度(s-1)に対する依存性を示す。
図4】実施例1(丸)、実施例2(四角)、実施例3(菱形)及び比較例8(暗い三角)のカソードスラリーの動粘度(Pa・s)の剪断速度(s-1)に対する依存性を示す。
図5】実施例1(左)及び比較例9(右)の集電体に塗布したスラリー層の写真を示す。
図6】実施例1のカソードを有するリチウムイオン電池の充放電サイクル数(充電率1C、放電率1C)に対する初期容量(%)に関連する容量の依存性を示す。
図7】実施例2及び3のカソードを有するリチウムイオン電池の充放電サイクル数(充電率1C、放電率1C)に対する初期容量(%)に関連する容量の依存性を示す。
図8】実施例3の分散物の単層及び二層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を示す。
図9】実施例4のカソードを有するリチウムイオン電池の充放電サイクル数(充電率0.5C、放電率1C)に対する初期容量(%)に関連する容量の依存性を示す。
図10】コーン・アンド・プレートのレオメーターセル(左側が測定プレート、右側が測定コーン、コーン角1°)において、実施例5の分散物に1Hzの周波数で100%振幅を有する振動剪断歪みが加えられた分散物の分離を示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
実施例1
分散物は、ML(1+4)100℃55ムーニー単位の粘度を有する部分水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)3496を0.8重量%含有し、ニトリル単位の含有量は34重量%であり、ポリブタジエン単位の残留含有量は18重量%であり、共役ジエン単位の水素化によって得られた単位の含有量は48重量%である。分散物はまた、0.4重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物を含有する。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として用いた。分散物を製造するために使用される単層カーボンナノチューブは、Tuball(商標)SWCNTである。SWCNTの直径は、1.2~2.1nmの範囲であり、平均直径は1.54nmである(直径は、乾燥懸濁物のTEMによって決定され、懸濁物の光吸収スペクトルにおける吸収バンドS1-1の位置によって決定された)。532nmでのラマン分光法は、単層カーボンナノチューブに典型的な約1580cm-1での強いG線及び他の同素体形態の炭素及び単層カーボンナノチューブの欠陥に典型的な約1330cm-1でのD線を示す。G/D線強度比は80.5である。窒素吸着等温線から決定された比表面積は、1220m/gである。使用したSWCNTの透過型電子顕微鏡写真については、図1を参照されたい。分散物を製造するためのSWCNTを、ロシア特許第2717516号明細書に記載の方法によって塩素でさらに修飾した。エネルギー分散分光法は、管状SWCNT中の塩素含有量が0.25重量%であることを示す。%。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)により、SWCNTが0.46重量%の鉄の不純物を含有することが示される。HNBRに対する単層カーボンナノチューブの重量比は0.5である。
【0070】
必要な割合のNMP、HNBR及びSWCNTを混合し、Chaoli GJB500高圧ホモジナイザーに分散させる段階(D)とゲート撹拌機によって約2s-1の剪断速度でゆっくり撹拌しながら65リットルタンクに静置する段階(R)の交互段階を8回繰り返すことによって、分散物を製造した。分散は、60MPaの圧力、300kg/hの分散移行流速、及び約2.3・10-1のホモジナイザーバルブノズル内の剪断速度で行った。測定された消費電力は16kWであり、段階(D)における比入力エネルギーは約53W・h/kgであった。段階(R)での分散物のタンク滞留時間は約13分であった。
【0071】
カーボンナノチューブの束の数のサイズ分布を、0.001重量%のSWCNT濃度に水で希釈した分散物の動的光散乱(DLS)によって求めた。Malvern Zetasizer ZSデバイスを使用してDLSによって得られた希薄分散物中の粒子(ナノチューブ及びその凝集物)の体積分率の流体力学的直径分布を、図2の丸印の曲線によって示す。図2は、ナノチューブ及びその凝集物の体積分率のサイズ分布が二峰性であり、流体力学的直径が100~1000nm及び4~7μmの範囲であることを示す。1つ目の最も強い最大値は、Dhm=380nmのモードを有するナノチューブ及びその凝集物の体積分率の対数正規流体力学的直径分布によって説明され、2つ目のモードDh2mは約5μmである。
【0072】
コーン角1°及び振動周波数1Hzのコーン・アンド・プレートセル上のAnton Paar MCR302レオメーターで行われた複素弾性率測定は、5~10%の剪断歪みに対応する0.05~0.1°の範囲の振動振幅で、損失弾性率G”が53~75Paであり、これは相対的に静止した分散物の高い粘度を意味し、位相角は27.5°であり、これは分散物を粘弾性非理想流体として特徴付けることを示した。
【0073】
分散物は、図3において円(曲線1)として与えられる剪断速度(s-1)の関数としての粘度(Pa・s)によって特徴付けられる。粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度に対する粘度の依存性は、0.093s-1~47s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.15であり、流動一貫性指数は22.5Pa・s0.15である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は100Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では1.95Pa・s未満である。べき乗則の外挿により、100s-1の剪断速度で0.8Pa・sの分散物粘度を推定することができる。
【0074】
主な分散物パラメータを要約表に示す。
【0075】
分散物を使用して、98.83重量部の活物質LiNiCoAlO(NCA)、29.82重量部のNMP溶媒、1重量部のポリフッ化ビニリデンバインダー、1重量部のアセチレンブラック、0.12重量部のArlanxeo水素化ニトリルブタジエンゴム、及び0.06重量部の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。
【0076】
カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-Solef 5130ポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダー1g及びNMP 9gを含有する溶液10gを分散物15gに添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する-段階(1)の前に実施される追加のバインダー及び溶媒を添加する段階;
-得られた混合物を98.83gの活物質LiNiCoAlO(NCA)と30分間混合する-段階(1);
-1gのアセチレンブラック及びさらに6gのNMP溶媒を得られた混合物に添加する-段階(1)の後に実施される、導電性添加剤及び溶媒を添加する追加の段階;
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する-段階(2)。
【0077】
単層カーボンナノチューブ及びHNBRの両方が存在することにより、得られたカソードスラリーもまた、図4の丸印(曲線1)によって示されるように、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有する。流動挙動指数nは0.19であり、流動一貫性指数は33.1Pa・s0.16である。依存性近似は、スラリー粘度が100s-1の剪断速度で0.8Pa・s未満であるという推定を可能にし、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1未満の剪断速度では、粘度は33Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0078】
貯蔵中のスラリーの安定性は、直径30mmの50mlの円筒形試験管にスラリーを貯蔵した後のスラリー層の高さに沿った固体粒子含有量の分布の変化によって決定した。この目的のために、スラリーを試験管内に置き、蓋で閉じ、標準的な条件下(大気圧、25℃)で7日間維持した。その後、試験管の上部3分の1、中部3分の1及び下部3分の1をピペットで採取し、試料中の溶媒及び固体不揮発性成分の重量分率を乾燥により求めた。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中の溶媒含有量は22.8重量%であり、1週間の貯蔵後、溶媒含有量は下部3分の1において23.2重量%、中部において22.7重量%、上部において22.5重量%であった。初期溶媒含有量との差は2.相対%を超えず、後述する比較例8に記載のスラリーよりも大幅に小さく、得られるスラリーの安定性が高いことを示している。スラリーを使用して、7日間の貯蔵後にカソードを製造することができる。
【0079】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体に塗布し(段階3)、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ(段階4)、カソードを3.8g/cmの必要密度まで圧縮することによって製造した。集電体に塗布したカソードスラリー層の写真を図5に示す(左の写真)。カソード特性は、Liアノード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPFの1M溶液であって追加の1%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.02A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の210mA・h/gである。
【0080】
一酸化ケイ素を活物質として有する得られたカソード及びアノードから、4.3mg/cmの荷重でリチウムイオン電池を組み立てた。厚さ25μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPFの1.2M溶液に10%v/vのフルオロエチレンカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は1500mA・hであった。充放電サイクル数(充電電流1500mA、放電電流1500mA)に対する容量(初期容量と呼ぶ)の依存性を図6に示す。電池容量は、400サイクル後に初期容量の86%であり、800サイクル後に初期容量の80%である。
【0081】
充放電サイクルにおける最終電池生成物の結果として生じる高い安定性は、分散レベルでの、達成された技術的結果、すなわち、カソードスラリーレベルでの、カソードスラリー製造プロセスにおける加工性と組み合わされた分散物安定性、すなわち、カソードレベルでの、カソードスラリー安定性(剥離なし)及び集電体に適用された場合の加工性(材料が集電体上に広がることのないコーティングの滑らかな縁部を含む)、すなわち、カソードの高品質、サイクル中の高い比容量及び高い安定性を裏付けている。
【0082】
本発明の実施形態
実施例2
分散物は、ML(1+4)100℃39ムーニー単位の粘度を有する低粘度水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)3404を0.6重量%含有し、ニトリル単位の含有量は34重量%であり、ポリブタジエン単位の残留含有量は0.9重量%未満であり、水素化ポリブタジエン単位の含有量は65重量%である。分散物はまた、0.4重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物を含有する。溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)であり、これは、89℃の引火点を有する有機溶媒である。分散物を製造するために使用される単層カーボンナノチューブは、Tuball(商標)-99 SWCNTである。SWCNTの直径は、1.2~2.1nmの範囲であり、平均直径は1.58nmである(直径は、乾燥懸濁物のTEMによって決定され、懸濁物の光吸収スペクトルにおける吸収バンドS1-1の位置によって決定された)。532nmでのラマン分光法は、単層カーボンナノチューブに典型的な1580cm-1での強いG線及び他の同素体形態の炭素及び単層カーボンナノチューブの欠陥に典型的な約1330cm-1でのD線を示す。G/D線強度比は56である。窒素吸着等温線から決定された比表面積は、1160m/gである。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)により、SWCNTが0.4重量%のFe(第8族金属)の不純物を含有することが示される。スラリー中のHNBRに対する単層カーボンナノチューブの重量比は0.667である。
【0083】
分散物は、必要な割合のNMP、HNBR、及びSWCNTを混合し、NETZSCH Omega 500高圧ホモジナイザー中で65MPaの圧力及び300kg/hの分散移行速度で10倍分散させることによって製造した(段階D)。ノズル内の推定剪断速度は約9・10-1である。消費電力は8kWであり、段階(D)における比入力エネルギーは約27W・h/kgであった。各2つの分散段階(D)の間で、分散物を50リットルタンクに静置し、ゲート撹拌機によって約1s-1の剪断速度で10分間ゆっくりと撹拌した(段階R)。
【0084】
カーボンナノチューブの束の数のサイズ分布を、0.001重量%のSWCNT濃度に水で希釈した分散物の動的光散乱(DLS)によって求めた。Malvern Zetasizer ZSデバイスを使用してDLSによって得られた希薄分散物中の粒子(ナノチューブ及びその凝集物)の体積分率の流体力学的直径分布を、図2の三角印の曲線によって示す。図2は、ナノチューブ及びその凝集物の体積分率のサイズ分布が二峰性であり、流体力学的直径が100~1000nm及び4~8μmの範囲であることを示す。1つ目の最も強い最大値は、Dhm=500nmのモードを有するナノチューブ及びその凝集物の体積分率の対数正規流体力学的直径分布によって説明され、2つ目のモードDh2mは約6.5μmである。
【0085】
分散物は、図3において四角印として与えられる剪断速度(s-1)の関数としての粘度(Pa・s)によって特徴付けられる。流動挙動指数nは0.22であり、流動一貫性指数は15.3Pa・s0.22である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は65Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では1.54Pa・s未満である。べき乗則の外挿により、100s-1の剪断速度で0.41Pa・sの分散物粘度を推定することができる。
【0086】
コーン角1°及び振動周波数1Hzのコーン・アンド・プレートセル上のAnton Paar MCR302レオメーターで行われた複素弾性率測定は、5~10%の剪断歪みに対応する0.05~0.1°の範囲の振動振幅で、損失弾性率G”が38~50Paであり、これは相対的に静止した分散物の高い粘度を意味し、位相角は23°~25°であり、これは分散物を粘弾性非理想流体として特徴付けることを示した。
【0087】
主な分散物パラメータを要約表に示す。
【0088】
分散物を使用して、75.3重量%の活物質LiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMС811)、23.9重量%のNMP溶媒、0.79重量%のポリフッ化ビニリデンバインダー、0.012重量%のHNBR、及び0.008重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。HNBRに対する単層カーボンナノチューブの重量比は0.67である。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-NMP中10重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含有する溶液10gを分散物2.53gに添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する-段階(1)の前に実施される追加のバインダー及び溶媒を添加する段階;
-得られた混合物を95gの活物質NCM811及び追加で18gのNMP溶媒と混合する-段階(1);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する-段階(2)。
【0089】
単層カーボンナノチューブ及びHNBRの両方が存在することにより、得られたカソードスラリーもまた、図4の四角印によって示されるように、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有する。流動挙動指数nは0.16であり、流動一貫性指数は17.6Pa・s0.16である。46.5s-1の剪断速度で測定された粘度は0.69Pa・sであり、100s-1の剪断速度への依存性外挿は約0.37Pa・sの粘度推定値を与え、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1未満の剪断速度では、粘度は17.6Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0090】
貯蔵中のスラリーの安定性は、直径30mmの50mlの円筒形試験管にスラリーを貯蔵した後のスラリー層の高さに沿った固体粒子含有量の分布の変化によって決定した。この目的のために、スラリーを試験管内に置き、蓋で閉じ、標準的な条件下(大気圧、25℃)で7日間維持した。その後、試験管の上部3分の1、中部3分の1及び下部3分の1をピペットで採取し、試料中の溶媒及び固体不揮発性成分の重量分率を乾燥により求めた。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中の溶媒含有量は23.9重量%であり、1週間の貯蔵後、溶媒含有量は上部3分の1において24.4重量%、中部において23.7重量%、下部において23.5重量%であった。初期溶媒含有量との差は2相対%を超えず、後述する比較例8に記載のスラリーよりも大幅に小さく、得られるスラリーの安定性が高いことを示している。
【0091】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体に塗布し(段階3)、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ(段階4)、カソードを3.7g/cmの必要密度まで圧縮する(段階5)ことによって製造した。カソード特性は、Liカソード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPFの1M溶液であって追加の5%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.02A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の185mA・h/gである。
【0092】
グラファイトを活物質として有する得られたカソード及びアノードから、リチウムイオン電池を組み立てた。厚さ25μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPFの0.8M溶液に1%v/vのビニルカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は1520mA・hであった。充放電サイクル数(充電電流1500mA、放電電流1500mA)に対する容量(初期容量と呼ぶ)の依存性を図7の点2のセットに示す。電池容量は、500サイクル後に初期容量の90%を超える。
【0093】
実施例3
分散物は実施例2に記載のものと同様であるが、1.2~2.8nmの直径及び1.8nmの平均直径を有する単層及び二層カーボンナノチューブの混合物を含有する(直径は、乾燥懸濁物のTEMによって、及びラマンスペクトルにおけるラジアルブリージングモード(RBM)線の位置によって決定された)。波長532nmの光のラマンスペクトルにおけるG/D線の強度比は34である。単層カーボンナノチューブと一緒に束ねられた二層カーボンナノチューブの利用可能性は、図8に提供される電子顕微鏡写真によって確認される。分散物中のカーボンナノチューブの濃度は0.4重量%である。分散物はまた、0.6重量%の水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)3406を含有する。スラリー中のHNBRに対する単層及び二層カーボンナノチューブの重量比は0.667である。
【0094】
分散物は、必要な割合のNMP、HNBR、並びにSWCNT及びDWCNTの混合物を混合し、NETZSCH Omega 500高圧ホモジナイザー中で65MPaの圧力及び300kg/hの分散移行速度で32倍分散させることによって製造した(段階D)。ノズル内の推定剪断速度は約9・10-1である。消費電力は8kWであり、段階(D)における比入力エネルギーは約27W・h/kgであった。各2つの分散段階(D)の間で、分散物を50リットルタンクに静置し、ゲート撹拌機によって約1s-1の剪断速度で10分間ゆっくりと撹拌した(段階R)。
【0095】
分散物は、図3において菱形(曲線3)として与えられる剪断速度(s-1)に対する粘度(Pa・s)の依存性によって特徴付けられる。粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度に対する粘度の依存性は、0.093s-1~46.5s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.13であり、流動一貫性指数は7.3Pa・s0.13である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は37Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では0.6Pa・s未満である。
【0096】
コーン角1°及び振動周波数1Hzのコーン・アンド・プレートセル上のAnton Paar MCR302レオメーターで行われた複素弾性率測定は、5~10%の剪断歪みに対応する0.05~0.1°の範囲の振動振幅で、損失弾性率G”が35~40Paであり、これは相対的に静止した分散物の高い粘度を意味し、位相角は20°~26°であり、これは分散物を粘弾性非理想流体として特徴付けることを示した。
【0097】
主な分散物パラメータを要約表に示す。
【0098】
分散物を使用して、73.9重量%の活物質LiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMС811)、25.2重量%のNMP溶媒、0.75重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダー、0.09重量%の水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)3406、並びに0.06重量%の単層及び二層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-ポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダー6g及びNMP94gを含有する溶液100gを分散物120gに添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する-段階(1)の前に実施されるバインダー及び溶媒を添加する段階;
-得られた混合物を300gの活物質LiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMС811)と混合し、30分間撹拌し、292.8gの活物質LiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMС811)を得られた混合物に添加する-段階(1);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する-段階(2)。
【0099】
スラリーを製造するために使用される分散物中の単層/二層カーボンナノチューブ並びにHNBRの両方により、得られたカソードスラリーもまた、図4(菱形印、曲線3)に示されるように、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有する。流動挙動指数nは0.1であり、流動一貫性指数は13Pa・s0.1である。46.5s-1の剪断速度で測定された粘度は0.41Pa・sであり、100s-1の剪断速度への依存性外挿は約0.21Pa・sの粘度推定値を与える。このような低粘度は、集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1未満の剪断速度では、粘度は13Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0100】
スラリーの貯蔵安定性は、直径30mmの50mlの円筒形試験管にスラリーを貯蔵した後、スラリー層の高さに沿って固体粒子含有量の分布を変化させることによって決定した。この目的のために、スラリーを試験管内に置き、蓋で閉じ、標準的な条件下(大気圧、25℃)で7日間維持した。その後、試験管の上部3分の1、中部3分の1及び下部3分の1をピペットで採取し、試料中の溶媒及び固体不揮発性成分の重量分率を乾燥により求めた。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中の溶媒含有量は25.2重量%であり、1週間の貯蔵後、溶媒含有量は上部3分の1において25.7重量%、中部において25.0重量%、下部において24.8重量%であった。初期溶媒含有量との差は2相対%を超えず、後述する比較例8に記載のスラリーよりも大幅に小さく、得られるスラリーの安定性が高いことを示している。
【0101】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体に塗布し(段階3)、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ(段階4)、カソードを3.8g/cmの必要密度まで圧縮する(段階5)ことによって製造した。カソード特性は、Liアノード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPFの1M溶液であって追加の5%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.02A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の197mA・h/gである。
【0102】
グラファイトを活物質として有する得られたカソード及びアノードから、リチウムイオン電池を組み立てた。厚さ25μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPFの0.8M溶液に1%v/vのビニルカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は1650mA・hであった。充放電サイクル数(充電電流1650mA、放電電流1650mA)に対する容量(初期容量と呼ぶ)の依存性を図7の点3のセットに示す。電池容量は、500サイクル後に初期容量の85%を超える。
【0103】
実施例4
分散物は、ML(1+4)100℃63ムーニー単位の粘度を有する水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)3406を0.3重量%含有し、ニトリル単位の含有量は34重量%であり、ポリブタジエン単位の残留含有量は0.9重量%未満であり、共役ジエン単位の水素化によって得られた単位の含有量は65重量%であり、ジメチルスルホキシド(DMSO)中の0.9重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物を含有する。実施例1と同様に、塩素で修飾されたTuball(商標)SWCNTを使用して分散物を製造した。SWCNTの直径は1.2~2.1nmの範囲に分布し、平均直径は1.54nmであり、G/D線強度比は81であり、窒素吸着等温線から決定された比表面積は1220m/gであり、管球SWCNT中の塩素の含有量は0.24重量%である。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)により、SWCNTが0.46重量%のFe(第8族金属)の不純物を含有することが示される。使用した単層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真については、図1を参照されたい。スラリー中のHNBRに対する単層カーボンナノチューブの重量比は3である。
【0104】
分散物は、必要な割合のDMSO、HNBR及びSWCNTを混合し、消費電力32kW、ローター直径190mm、ローターとステーターの間のギャップ700μm、及びローター速度2940rpmで回転脈動装置(RPA)内で分散させ、100リットルのタンク内で40kHzの周波数及びソノトロード1600Wの音響入力電力で超音波処理し、220リットルのタンク内でアンカー撹拌機によって30rpm及び約2s-1の剪断速度でゆっくり撹拌しながら静置する、交互段階を15回繰り返すことによって製造した。RPA、超音波分散装置、及びタンクの間の分散物循環の速度は、1000kg/hであり;約32W・h/kgのエネルギーが分散段階(D)でRPA中の分散物に適用され;約1.8W・h/kgが超音波処理段階(D)で分散物に適用され;約2s-1の剪断速度での分散物の平均タンク滞留時間は、段階(R)で約13分である。
【0105】
単層カーボンナノチューブを凝集させて束にする。サイズ分布(カーボンナノチューブ及びその凝集物)を、分散物の0.001重量%のSWCNT濃度に希釈した分散物の動的光散乱(DLS)によって求めた。ナノチューブ束の体積分率の分布は二峰性であり、流体力学的直径は300~1100nm及び4~8μmの範囲である。1つ目の最も強い最大値は、Dhm=520nmのモードを有する束の体積分率の対数正規流体力学的直径分布によって説明され、2つ目のモードDhm2は約5.5μmである。
【0106】
分散物粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度に対する粘度の依存性は、0.093s-1~186s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.16であり、流動一貫性指数は21Pa・s0.16である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は98Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では1.8Pa・s未満である。
【0107】
コーン角1°及び振動周波数1Hzのコーン・アンド・プレートセル上のAnton Paar MCR302レオメーターで行われた複素弾性率測定は、5~10%の剪断歪みに対応する0.05°~0.1°の範囲の振動振幅で、損失弾性率G”が74~102Paであり、これは相対的に静止した分散物の高い粘度を意味し、位相角は41°~50°であり、これは分散物を粘弾性非理想流体として特徴付けることを示した。
【0108】
主な分散物パラメータを要約表に示す。
【0109】
分散物を使用して、71.4重量%の活物質LiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMС622)、28.5重量%のDMSO、0.021重量%の水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)3406、及び0.064重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-120gの活物質LiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMС622)を20gの分散物及び60gのDMSOと混合し(段階(1)で追加量の溶媒を導入する)、30分間撹拌し、さらに80gの活物質LiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMС622)を得られた混合物に添加する-段階(1);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する-段階(2)。
【0110】
HNBRに対する単層カーボンナノチューブの重量比は1である。単層カーボンナノチューブ及びHNBRの両方が存在することにより、得られたカソードスラリーは、剪断速度に対する粘度の急激に顕著な依存性を有する。流動挙動指数は0.14であり、流動一貫性指数は22Pa・s0.14である。46.5s-1の剪断速度で測定された粘度は0.82Pa・sであり、100s-1の剪断速度への依存性外挿は約0.42Pa・sの粘度推定値を与え、これは集電体プレートへの適用のためのプロセス容量を提供する。1s-1未満の剪断速度では、粘度は22Pa・sを超え、これにより、使用前の貯蔵中のスラリー安定性、及び乾燥前の集電体上のスラリー層の安定性が保証される。
【0111】
スラリーの貯蔵安定性は、直径30mmの50mlの円筒形試験管にスラリーを貯蔵した後、スラリー層の高さに沿って固体粒子含有量の分布を変化させることによって決定した。この目的のために、スラリーを試験管内に置き、蓋で閉じ、標準的な条件下(大気圧、25℃)で7日間維持した。その後、試験管の上部3分の1、中部3分の1及び下部3分の1をピペットで採取し、試料中の水及び固体不揮発性成分の重量分率を乾燥により求めた。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中のDMSO含有量は28.5重量%であり、1週間の貯蔵後、溶媒含有量は下部3分の1において27.8重量%、中部において28.4重量%、上部において29.3重量%であった。初期溶媒含有量との差は、3相対%を超えず、これは、得られたスラリーの高い安定性を示す。
【0112】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体に塗布し(段階3)、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ(段階4)、カソードを3.6g/cmの必要密度まで圧縮する(段階5)ことによって製造した。カソード特性は、Liアノード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPF6の1M溶液であって追加の5%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.017A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の176mA・h/gである。
【0113】
グラファイトを活物質として有する得られたカソード及びアノードから、リチウムイオン電池を組み立てた。厚さ25μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPFの0.8M溶液に1%v/vのビニルカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は1200mA・hであった。充放電サイクル数(充電電流600mA、放電電流1200mA)に対する容量(初期容量と呼ぶ)の依存性を図9に示す。電池容量は、400サイクル後に初期容量の80%を超える。
【0114】
実施例5
分散物は、ML(1+4)100℃67ムーニー単位の粘度を有する部分水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)LT 2057を0.4重量%含有し、ニトリル単位の含有量は21重量%であり、ポリブタジエン単位の残留含有量は5.5重量%であり、共役ジエン単位の水素化によって得られた単位の含有量は73.5重量%であり、ジメチルアセトアミド(DMAA)中の0.4重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物を含有する。多段階化学処理に供して硝酸中で4時間沸騰させたTuball(商標)SWCNTを使用して分散物を製造した。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)は、SWCNT中のFe含有量が600ppm又は0.06重量%であることを示す。電位差滴定は、このような処理後のSWCNT表面が約0.62重量%のカルボキシル基を含有することを示す。SWCNTの直径は1.2~2.1nmの範囲に分布し、平均直径は1.60nmであり、G/D線強度比は24であり、窒素吸着等温線から決定された比表面積は1280m/gである。スラリー中のHNBRに対する単層カーボンナノチューブの重量比は1である。
【0115】
分散物は、必要な割合のDMAA、HNBR、及びSWCNTを混合し、NETZSCH Omega 500高圧ホモジナイザー中で45MPaの圧力及び500kg/hの分散移行速度で6倍分散させることによって製造した。ノズル内の推定剪断速度は約10-1である。消費電力は5.8kWであり、段階(D)における比入力エネルギーは約11.6W・h/kgであった。各2つの分散段階の間で、分散物を65リットルタンクに静置し、ゲート撹拌機によって約3s-1の剪断速度で7分間ゆっくりと撹拌した。
【0116】
粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度に対する粘度の依存性は、0.093s-1~186s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.26であり、流動一貫性指数は14.5Pa・s0.26である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は56Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では1.7Pa・s未満である。
【0117】
分散物中の単層カーボンナノチューブを凝集させて束にする。カーボンナノチューブの束の数のサイズ分布を、0.001重量%のSWCNT濃度にNMPで希釈した分散物の動的光散乱(DLS)によって求めた。Malvern Zetasizer ZSデバイスを使用してDLS法によって得られた分散物中の粒子(ナノチューブそれらの束)の数の流体力学的直径分布を、図2の四角印の曲線によって示す。図2は、ナノチューブ及びその凝集物の体積分率のサイズ分布が三峰性であり、流体力学的直径が100~600nm、600~1100nm、及び5~9μmの範囲であることを示す。1つ目の最も強い最大値は、Dhm=295nmのモードを有するナノチューブ及びその凝集物の体積分率の対数正規流体力学的直径分布によって説明され、約900nmのモードDh2mを有する2つ目の最大値、及び約6.5μmの3つ目のモードDh3mは、30μmを超える長さを有する単層カーボンナノチューブの大きな凝集物(束)を示す。
【0118】
10μmを超えるサイズの単層カーボンナノチューブ凝集物の利用可能性は、図10(左側が測定プレート、右側が測定コーン)に示すように、コーン・アンド・プレートのレオメーターセル、例えば、100%以上の相対剪断歪み振幅でコーン角1°のコーン・アンド・プレートのレオメーターセルにおいて、周波数1Hzの振動剪断歪みで、分散物を、低含有量の単層カーボンナノチューブを含む溶媒と、単層カーボンナノチューブ及びHNBRの高濃度ゲルとに迅速に分離することによって明らかになる。
【0119】
主な分散物パラメータを要約表に示す。
【0120】
分散物を使用して、60.8重量%の活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMС11)、38.2重量%のジメチルアセトアミド(DMAA)溶媒、0.91重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダー、0.024重量%の水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)LT 2057、及び0.024重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-ポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダー7.5g及びDMAA 265gを含有する溶液272.5gを分散物50gに添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する-段階(1)の前に実施されるバインダー及び溶媒を添加する段階;
-得られた混合物を300gの活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMС11)と混合し、30分間撹拌し、別の200gの活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMС11)を得られた混合物に添加する-段階(1);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する-段階(2)。
【0121】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体に塗布し(段階3)、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ(段階4)、カソードを3.5g/cmの必要密度まで圧縮する(段階5)ことによって製造した。カソード特性は、Liアノード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPFの1M溶液であって追加の5%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.015A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の151mA・h/gである。
【0122】
グラファイトを活物質として有する得られたカソード及びアノードから、リチウムイオン電池を組み立てた。厚さ25μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPFの0.8M溶液に1%v/vのビニルカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は950mA・hであった。500回の充放電サイクル後の電池容量は初期容量の85.3%を超える(充電電流950mA、放電電流950mA)。
【0123】
実施例6
分散物は、ML(1+4)100℃67ムーニー単位の粘度を有する部分水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)LT 2057を2重量%含有し、ニトリル単位の含有量は21重量%であり、ポリブタジエン単位の残留含有量は5.5重量%であり、共役ジエン単位の水素化によって得られた単位の含有量は73.5重量%であり、エチレンカーボネート中の0.2重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物を含有する。分散物を製造するために使用される単層カーボンナノチューブは、Tuball(商標)SWCNTである。SWCNTの直径は1.2~2.1nmの範囲に分布し、平均直径は1.54nmであり、G/D線強度比は63であり、窒素吸着等温線から決定された比表面積は1240m/gである。分散物を製造するためのSWCNTを、ロシア特許第2717516号明細書に記載の方法によって塩素でさらに修飾した。エネルギー分散分光法は、管状SWCNT中の塩素含有量が0.15重量%であることを示す。%。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)は、SWCNT中のFe含有量が0.68重量%であることを示す。スラリー中のHNBRに対する単層カーボンナノチューブの重量比は0.1である。
【0124】
分散物は、エチレンカーボネート4890g、HNBR 100g及びSWCNT 10gを50℃でサーモスタットされたタンク内で混合し、分散物に2分間浸漬した超音波周波数22kHz及び音響パワー800Wを有するソノトロードを用いた35回の超音波分散段階(D)と、各々2分続く34回の静止段階(R)とを交互に行い、その間、超音波はオフにされ、分散物をブレードインペラによって0.5s-1未満の剪断速度でゆっくりと撹拌することによって製造された。各段階(D)での比入力エネルギーは約5.3W・h/kgであった。
【0125】
単層カーボンナノチューブを凝集させて束にする。カーボンナノチューブの束の数のサイズ分布を、0.001重量%のSWCNT濃度に希釈した分散物の動的光散乱(DLS)によって求めた。分散物中の粒子(ナノチューブ及びそれらの束)の体積分率の流体力学的直径分布は広く、流体力学的直径は200nm~3μmの範囲であり、Dhm=380nmのモードを有する。
【0126】
分散物粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、40+/-1℃(エチレンカーボネート融点より高い)の一定温度で測定した。剪断速度に対する粘度の依存性は、0.093s-1~100s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって説明される。流動挙動指数nは0.03であり、流動一貫性指数は3.4Pa・s0.03である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は20.3Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では0.2Pa・s未満である。
【0127】
主な分散物パラメータを要約表に示す。
【0128】
分散物を使用して、65.93重量%の活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMС111)、32.6重量%のエチレンカーボネート溶媒、0.67重量%の水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)LT 2057、及び0.07重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-73.35gの分散物を100gの活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMС11)と50℃の温度で混合し、30分間撹拌し、別の48.35gの活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMС11)を得られた混合物に添加する-段階(1);
-50℃の温度で16時間撹拌して均一なスラリーを製造する-段階(2)。
【0129】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体に塗布し、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ、カソードを3.5g/cmの必要密度まで圧縮することによって製造した。カソード特性は、Liアノード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPFの1M溶液であって追加の5%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.015A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の152mA・h/gである。
【0130】
グラファイトを活物質として有する得られたカソード及びアノードから、リチウムイオン電池を組み立てた。厚さ25μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPFの0.8M溶液に1%v/vのビニルカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は2230mA・hであった。500回の充放電サイクル後の電池容量は初期容量の85.8%を超える(充電電流2230mA、放電電流2230mA)。
【0131】
実施例7
分散物は、ML(1+4)100℃55ムーニー単位の粘度を有する部分水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)3496を0.2重量%含有し、ニトリル単位の含有量は34重量%であり、ポリブタジエン単位の残留含有量は18重量%であり、共役ジエン単位の水素化によって得られた単位の含有量は48重量%であり、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)とジメチルスルホキシド(DMSO)とを1:1 wt比で含有する溶液中の2重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物を含有する。分散物を製造するために使用される単層カーボンナノチューブは、Tuball(商標)SWCNTである。SWCNTの直径は1.2~2.1nmの範囲に分布し、平均直径は1.62nmであり、G/D線強度比は46であり、窒素吸着等温線から決定された比表面積は580m/gである。Ar中5%酸素流の熱重量測定データは、950℃での材料酸化後の灰分が約20重量%であることを示す。灰分は、主として酸化鉄Feを含有する。X線回折データは、SWCNTがナノ分散金属鉄相を含有することを示している。エネルギー分散型分光データは、SWCNT中のFe含有量が14.2重量%であることを示し、これは灰分重量データと一致する。スラリー中のHNBRに対する単層カーボンナノチューブの重量比は10である。
【0132】
必要な割合の水、ポリビニルピロリドン及びSWCNTを混合し、この分散物を、30MPaの圧力でChaoli GJB500高圧分散機(段階(D))と、この分散物が静止している65リットルタンク(段階(R))との間で、約2s-1の剪断速度でゲート撹拌機によってゆっくり撹拌しながら、200kg/hの分散移行速度で32倍循環させることによって、分散物を製造した。分散機における推定剪断速度は150000s-1を超え、測定された電力消費は11.4kWであった。分散サイクルにおける比入力エネルギーは、約57W・h/kgである。段階(R)における平均タンク滞留時間は約20分であった。
【0133】
分散物中の単層カーボンナノチューブを凝集させて束にする。サイズ分布(カーボンナノチューブ及びその凝集物)を、分散物の0.001重量%のSWCNT濃度に希釈した分散物の動的光散乱(DLS)によって求めた。ナノチューブ束の体積分率の分布は二峰性であり、流体力学的直径は300~1100nm及び5~9μmの範囲である。1つ目の最も強い最大値は、Dhm=560nmのモードを有する束の体積分率の対数正規流体力学的直径分布によって説明される。
【0134】
分散物粘度は、SC4-21スピンドルを備えたBrookfield DV2-TLV粘度計を使用して、25℃の一定温度で測定した。剪断速度に対する粘度の依存性は、0.093s-1~100s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって説明される。流動挙動指数nは0.37であり、流動一貫性指数は12Pa・s0.37である。1/6.3s-1未満の低剪断速度の領域における分散物粘度は38Pa・sを超え、18.6s-1を超える剪断速度の領域では1.9Pa・s未満である。
【0135】
コーン角1°及び振動周波数1Hzのコーン・アンド・プレートセル上のAnton Paar MCR302レオメーターで行われた複素弾性率測定は、5~10%の剪断歪みに対応する0.05~0.1°の範囲の振動振幅で、損失弾性率G”が90~112Paであり、これは相対的に静止した分散物の高い粘度を意味し、位相角は32°~35°であり、これは分散物を粘弾性非理想流体として特徴付けることを示した。
【0136】
主な分散物パラメータを要約表に示す。
【0137】
分散物を使用して、57.04重量%の活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMС11)、1:1の重量比のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒及びジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒の41.4重量%の混合物、1.17重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダー、0.01重量%の水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)LT 2057、及び0.09重量%の単層カーボンナノチューブを含有するカソードスラリーを製造した。カソードスラリーは、以下の一連の段階によって製造された:
-ポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダー7.5g及びNMP溶媒とDMSO溶媒との混合物700gを1:1の重量比(6.82g)で含有する702gの溶液を添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合する-段階(1)の前に実施される追加のバインダー及び溶媒を添加する段階;
-得られた混合物を700gの活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMС11)と混合し、30分間撹拌し、別の273.5gの活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMС11)を得られた混合物に添加する-段階(1);
-16時間撹拌して均一なスラリーを製造する-段階(2)。
【0138】
リチウムイオン電池カソードは、得られたスラリーを集電体に塗布し(段階3)、塗布したスラリーをカソードが形成されるまで乾燥させ(段階4)、カソードを3.5g/cmの必要密度まで圧縮する(段階5)ことによって製造した。カソード特性は、Liアノード及びLi参照電極を有するセルと、プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の1:1:1の体積比の混合物中のLiPFの1M溶液であって追加の5%v/vのビニルカーボネートを有する電解質とを組み立てることによって決定した。カソード材料の0.015A/gの放電電流におけるカソードの初期比容量は、カソード材料の149mA・h/gである。
【0139】
グラファイトを活物質として有する得られたカソード及びアノードから、リチウムイオン電池を組み立てた。厚さ25μmのポリプロピレンセパレータを使用した。プロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート溶媒の体積比1:1:1の混合物中のLiPFの0.8M溶液に1%v/vのビニルカーボネートを追加して、電解質として使用した。放電率0.1Cでの初期電池容量は3500mA・hであった。700回の充放電サイクル後の電池容量は初期容量の82.4%を超える(充電電流3500mA、放電電流3500mA)。
【0140】
実施例8(比較例)。
分散物は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中、1.2重量%の単層カーボンナノチューブ及びその凝集物を含有する。実施例1及び4の分散物を製造するために使用したものと同じSWCNT Tuball(商標)単層カーボンナノチューブを用いて分散物を製造した:平均直径が1.54nm;波長532nmのラマンスペクトルにおけるG/D線の強度比が80;比表面積が1220m/g;塩素含有量は0.25重量%;鉄不純物含有量が0.46重量%。分散物はHNBRを含有しない。実施例1と同様にして分散物を製造した。
【0141】
分散物は、図3において暗い三角(曲線8)として与えられる剪断速度(s-1)に対する粘度(Pa・s)の依存性によって特徴付けられる。剪断速度に対する粘度の依存性は、0.093s-1~93s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって十分に説明される。流動挙動指数nは0.63であり、流動一貫性指数は3.0Pa・s0.63である。流動挙動指数は、SWCNT及びHNBRの両方を含有する分散物よりもはるかに高い。これは、剪断速度に対する粘度の依存性がより平坦であることに現れている。約1/6.3s-1の低剪断速度の領域における分散物粘度は約13Pa・sであり、約18.6s-1の剪断速度の領域では約2.2Pa・sである。したがって、高剪断速度での粘度は、SWCNT及びHNBRの両方を含有する分散物よりも著しく高く、低剪断速度では、SWCNT及びHNBRの両方を含有する分散物よりもはるかに低い。以下の実施例9は、観察された差は、分散物にHNBRを添加する単純な添加効果によって説明することはできないが、分散物のレオロジー特性に対するSWCNT及びHNBRの両方を有する相乗効果に起因することを実証する。
【0142】
コーン角1°及び振動周波数1Hzのコーン・アンド・プレートセル上のAnton Paar MCR302レオメーターで行われた複素弾性率測定は、5~10%の剪断歪みに対応する0.05°~0.1°の範囲の振動振幅で、損失弾性率G”が21~26Paであり、これは相対的に静止した分散物の不十分な粘度を意味し、位相角は14°~17°であることを示した。
【0143】
分散物を使用して、分散物が水素化ニトリルブタジエンゴムを含有することを除いて、実施例1と同様の組成及び製造順序でカソードスラリーを製造した。分散物中のSWCNTの濃度がより高いため、カソードの活物質に対するSWCNTの同じ比を維持するために添加される分散物の量は3倍少なく、対応する量の溶媒を追加で導入した。
【0144】
カソードスラリーを一連の段階によって製造した:9gのNMP中、1gのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含有する別の10gの溶液を、5gの分散物に添加し、オーバーヘッド撹拌器上で30分間混合し;得られた混合物を98.83gの活物質LiNiCoAlO(NCA)と30分間混合し;得られた混合物にアセチレンブラック1g及び溶媒15gを添加し、16時間撹拌して、均一なスラリーを製造する。
【0145】
得られたアノードスラリーの粘度の剪断速度に対する依存性を、図4の暗い三角(曲線8)によって示す。この依存性は、流動挙動指数n=0.43及び流動一貫性指数4.7Pa・s0.43であるOstwald-de Waeleべき乗則によって記述される。スラリー粘度は、剪断速度約1s-1で約4.7Pa・sである。この粘度は、スラリー貯蔵安定性研究及びカソード適用実験によって示されるように、貯蔵中のカソードスラリーの剥離がなく、スラリーを集電体に適用することによって得られるカソードが高品質であるという必要な技術的結果を達成するのに十分ではない。
【0146】
スラリーの貯蔵安定性は、直径30mmの50mlの円筒形試験管にスラリーを貯蔵した後、スラリー層の高さに沿って固体粒子含有量の分布を変化させることによって決定した。この目的のために、スラリーを試験管に置き、蓋で閉じ、標準的な条件下(大気圧、25℃)で7日間維持し、実施例1に記載された手順と同様に分析した。厚さ約4mmの濁った上清層が、7日間でスラリー表面に形成された。本実施例のカソードスラリーについて、初期スラリー中の溶媒含有量は22.3重量%であり、1週間の貯蔵後、溶媒含有量は上部3分の1において34.0重量%、中部において17.5重量%、下部において15.4重量%であった。カソードスラリーの著しい剥離があり、7日後の塗布を妨げた。
【0147】
得られたカソードスラリーを用いてカソードを製造しようとする場合、カソードスラリーを用いた集電体の高品質のコーティングを得ることは不可能である(図5(右側の写真)参照)。HNBRを含まない得られた分散物、及びこの分散物を用いて製造したカソードスラリーは、必要な技術的結果を得ることができない。
【0148】
実施例9(比較例)。
分散物は、部分水素化ニトリルブタジエンゴムTherban(登録商標)3496を1.2重量%含有し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中、ニトリル単位の含有量は34重量%であり、ポリブタジエン単位の残留含有量は18重量%であり、共役ジエン単位の水素化によって得られた単位の含有量は48重量%である。実施例1の分散物の製造に用いたものと同じ水素化ニトリルブタジエンゴムを用いて、溶液/分散物を製造した。
【0149】
分散物は、図3において明るい三角(曲線9)として与えられる剪断速度(s-1)に対する粘度(Pa・s)の非常に弱い依存性によって特徴付けられる。明確にするために、曲線の溶液粘度値に係数100を掛ける。剪断速度に対する粘度の依存性は、0.093s-1~100s-1の範囲のOstwald-de Waeleべき乗則によって近似することができる。流動挙動指数nは0.89であり、流動一貫性指数は6.1mPa・s0.89である。流動挙動指数は非常に高く、すなわち、溶液挙動はニュートン流体に近い。
【0150】
HNBR溶液(比較例9)及びHNBRを含まないSWCNT分散物(比較例8)における剪断速度に対する粘度の依存性と、SWCNT及びHNBRの両方を含有する分散物の剪断速度に対する粘度の依存性との比較から、分散レオロジーに対するSWCNT及びHNBRの同時存在の相乗効果が示される。
表.実施例1~9の分散物の組成及び特性の概要
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、液相、カソードスラリー、及びリチウムイオン電池カソード中の単層及び/又は二層カーボンナノチューブ並びにそれらの凝集物の分散物を製造するために使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】