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特表2024-545811磁気共鳴撮像のための高周波磁場を均一化するための装置
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  • 特表-磁気共鳴撮像のための高周波磁場を均一化するための装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-12
(54)【発明の名称】磁気共鳴撮像のための高周波磁場を均一化するための装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A61B5/055 390
A61B5/055 350
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535883
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2022087107
(87)【国際公開番号】W WO2023118220
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】2114224
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513109429
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス-マルセイユ
(71)【出願人】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】515322183
【氏名又は名称】エコール・サントラル・ドゥ・マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE CENTRALE DE MARSEILLE
(71)【出願人】
【識別番号】523319586
【氏名又は名称】マルチウェーブ・テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルガラ-ゴメス タニア デル ソコッロ
(72)【発明者】
【氏名】エノク シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】マンベルティ ロクサーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アブデッダイム レダ
(72)【発明者】
【氏名】デュボワ マルク
(72)【発明者】
【氏名】コベル フランク
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB34
4C096AD10
4C096AD19
4C096CC05
4C096CC40
4C096FC20
(57)【要約】
本発明は、体積アンテナによって放射される所与の波長の磁気共鳴撮像用の高周波磁場を均一化するための装置(2、4)であって、高周波磁場の波長の50%~75%の全長を有する少なくとも1つの連続金属トラック(8)を備え、金属トラックは、互いに平行な方向に延在する2つの端部セグメントと、2つの端部セグメントの間に延在し、均一化装置(2、4)に電気双極子特性を提供するように少なくとも1つの少なくとも部分的に直線接続部分(14)によって互いに直列に接続された互いに同一のいくつかの局所変形部を備える主要部分と、を備え、均一化装置は、高周波磁場の波長に対応する周波数よりも高い基本周波数を有する、装置に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積アンテナによって放射される所与の波長の磁気共鳴撮像のための高周波磁場を均一化するための装置(2、4)であって、高周波磁場の波長の50%~75%の全長を有する少なくとも1つの連続金属トラック(8)を備え、前記金属トラック(8)は、前記高周波磁場の波長の4%~10%の幅面積(L)及び前記高周波磁場の長さの10%~25%の高さ(H)を有するパターンを形成し、前記金属トラックは、互いに平行な方向に延在する2つの端部セグメントと、前記2つの端部セグメントの間に延在し、電気双極子特性を有する均一化装置(2、4)を提供するように少なくとも1つの少なくとも部分的に直線接続部分(14)によって互いに直列に接続された互いに同一のいくつかの局所変形部を備える主要部分と、を備え、前記均一化装置は、前記高周波磁場の前記波長に対応する前記周波数より高い基本周波数を有することを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記パターンが、互いに直列に接続された複数の2次ヒルベルト曲線(16)、互いに直列に接続されたいくつかの2次コッホ曲線(16’)、又は互いに直列に接続されたいくつかの2次ミンコフスキー曲線(16”)によって形成される、請求項1に記載の均一化装置(2、4)。
【請求項3】
前記2次ヒルベルト曲線(16)、2次コッホ曲線(16’)又は2次ミンコフスキー曲線(16”)が、いくつかの整列された少なくとも部分的に直線接続部分(14)に沿って右/左に交互に分布される、請求項2に記載の均一化装置(2、4)。
【請求項4】
少なくとも1つの少なくとも部分的に直線接続部分(14)が、十字形パターン(18)を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の均一化装置(2、4)。
【請求項5】
前記パターンが、4~10センチメートルの幅(L)と、10~25センチメートルの高さ(H)とを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の均一化装置(2、4)。
【請求項6】
前記金属トラック(8)が、誘電体基板(10)上に配置される、請求項1から5のいずれか一項に記載の均一化装置(2、4)。
【請求項7】
誘電体基板が、0.1ミリメートル~1ミリメートルの厚さを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の均一化装置(2、4)。
【請求項8】
前記基板が、前記高周波磁場の前記波長に対応する前記周波数で評価して、0.05未満の誘電損失係数を含む、請求項6又は7に記載の均一化装置(2、4)。
【請求項9】
高周波磁場を放射するように構成された体積アンテナと、請求項1から8のいずれか一項に記載の均一化装置(2、4)とによって形成された、アセンブリ。
【請求項10】
前記体積アンテナが、撮像される身体の領域の周りに配置されるように構成されたバードケージアンテナである、請求項9に記載のアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、磁気共鳴撮像技術のための高周波磁場放射システムに関する。
【0002】
磁気共鳴撮像(MRI)装置は、強力な磁石を使用して静的主磁場を生成し、1つ以上の送信アンテナを使用して高周波(RF)励起場を生成する。RF励起場は、撮像対象(例えば、人体又はその一部)を貫通し、撮像対象に存在する原子核(例えば、陽子)と相互作用して原子核を励起する。この相互作用が最適であるためには、RF励起場は原子核と共鳴しなければならず、これを達成するために、RF励起場は、関与する原子核のラーモア周波数と呼ばれる特定の周波数で放射される。
【0003】
ラーモア周波数は、主磁場の増加関数であり、したがって、陽子(すなわち水素核)の場合、1.5Tの主磁場では約64MHzであり、7Tの磁場では約300MHzである。原子核が平衡状態に戻ると、原子核は、MRIスキャナによって測定されるRF信号を放射し、MRI画像として知られる対象の画像を再構成するのに必要なデータを提供する。
【0004】
MRI装置は、1.5~3Tの主磁場を有する「低磁場」及び「高磁場」装置と、最大7T以上の主磁場を有する「超高磁場」装置とに分けられる。非常に強力な磁場の使用は、MRI画像を提供するために使用されるRF信号測定の信号対雑音比(SNR)の著しい増加を可能にするが、これはラーモア周波数の増加を伴い、したがってRF励起場に必要な波長の減少を伴う。
【0005】
低磁場及び高磁場の臨床装置は、RF励起場を身体全体にわたってかなり均一に調査される原子核に送信するために、いわゆる身体アンテナを装備している。
【0006】
波長が短すぎるRF励起場(300MHzで人体では11cm)が単一のアンテナによって身体全体に均一に送信されることを必要とする超高磁場MRI装置の場合、身体アンテナの使用はもはや不可能である。
【0007】
その場合、戦略は、「バードケージ」タイプの体積アンテナが使用される、頭部などの身体の特定の部分専用のアンテナ(本明細書では「体積アンテナ」と呼ばれる)を使用することからなり得る。
【0008】
この場合、使用される体積アンテナは、縮小された寸法の領域における測定のために必要とされるRF励起場の送信を確実にするが、撮像される領域の縮小にもかかわらず、上述の不均一性の問題が残る可能性がある。このような問題は、体幹(胸部、腹部又は骨盤)に適用される高磁場MRIでも起こり得る。
【0009】
RF励起場の均一性(したがって、RF場によって誘導される励起のおかげで得られる画像の品質)を改善するために、体積アンテナと撮像される身体の部分との間に挿入される誘電体パッドを使用することが知られており、人体の当該部分にRF励起場を均一に分布させる。
【0010】
そのような誘電体パッドは、水などの溶媒、及びより高い誘電率を有する材料の粒子から作製されて、それらをより薄く、より快適に使用することができる。しかしながら、水の蒸発及び粒子の沈降のために、これらの誘電体パッドは比較的短い耐用年数を有する。使用中のそれらの繰り返される取り扱い(人体部分と体積アンテナとの間の配置)は、粒子の沈降を加速し、したがって、誘電体パッドの耐用年数を短縮する。
【0011】
欧州特許第3550321号明細書は、異なる組成物を有する誘電体パッドを記載している。これは、極性溶媒、分注剤及び誘電性化合物を含む誘電体パッドである。この組成物の目的は、粒子沈降の問題を低減し、誘電体パッドにおける粒子分布を改善することである。しかしながら、これらのクッションは非常にかさばり、撮像装置と撮像される身体の部分との間の潜在的に小さい空間で使用することを困難にする。このような誘電体パッドは、患者に穴を開けたり、その液体をこぼしたりする危険性があり、したがって健康を害する。
【0012】
最後に、磁気レンズのようにRF場を集中させるために、負の透磁率を有するメタ表面を使用することが知られている。メタ表面は、マイクロストリップアンテナによって放射される電磁場の磁気成分によって励起される磁気双極子を形成する、金属トラックを含むことができる。しかしながら、これらのメタ表面は、表面アンテナに最も適しており、特にバードケージタイプの体積アンテナでの使用には最適ではない。
【0013】
本発明は、上述の困難を克服することを可能にする、MRI装置のためのRF励起場を均一化するための1つ以上の装置を備えるシステムを説明する。
【0014】
本発明の目的は、体積アンテナによって放射される所与の波長の磁気共鳴撮像のための高周波磁場を均一化するための装置であって、高周波磁場の波長の50%~75%の全長を有する少なくとも1つの連続金属トラックを備え、金属トラックは、高周波磁場の波長の4%~10%の幅及び高周波磁場の長さの10%~25%の高さを有するパターンを形成し、金属トラックは、互いに平行な方向に延在する2つの端部セグメントと、2つの端部セグメントの間に延在し、互いに同一のいくつかの局所変形部を備え、電気双極子特性を有する均一化装置を提供するように少なくとも1つの少なくとも部分的に直線接続部分によって互いに直列に接続された主要部分と、を備え、均一化装置は、高周波磁場の波長に対応する周波数より高い基本周波数を有する、装置である。
【0015】
上述したような均一化装置の使用は、MRI装置の体積アンテナによって放射される高周波磁場を再分布させ、したがって、撮像される身体の部分における高周波磁場の分布の均一性を改善することを可能にする。高周波磁場のより大きな均一性は、より良好なコントラストを有するMRI画像をもたらす。
【0016】
均一性装置はまた、MRI装置の表面アンテナアレイの受信チャネルによって撮像される身体部分内の原子核によって生成されるRF信号の受信に干渉しない。また、高周波磁場は、身体に有害なレベルまで増加しない。
【0017】
少なくとも1つの少なくとも部分的に直線部分によって直列に接続された、上述のようないくつかの局所変形部の使用は、均一化装置自体から比較的遠い撮像される身体の部分の1つ以上のゾーンにおいて均一化を達成することを可能にする。換言すれば、均一化装置を1つの領域に配置することができ、それでも遠隔領域において最適な結果を達成することができる。その結果、均一化装置は、体積アンテナに取り付けることができ、依然として所望の結果を達成することができる。これにより、MRIスキャンが実行されるたびに均一化装置を取り扱う必要がなくなる。
【0018】
連続構造を形成するために本発明に従って直列に接続された上述のようないくつかの局所変形部の使用は、金属トラックの電気双極子挙動を改善するためにそれらの電気双極子効果を組み合わせることを可能にし、したがって、均一化装置による高周波磁場の均一化を改善する。
【0019】
最後に、上述した均一化装置の形状は、均一化装置自体の帯域幅と均一化装置の放射効率との間の最適な妥協を達成することを可能にする。換言すれば、上述のように金属トラックを配置することによって、高い放射効率を維持しながら、(動作周波数が体積アンテナの帯域幅と重複することを確実にするために)均一化装置のための最も広い可能な帯域幅が達成され、いくつかの装置は、一方又は他方を好むように選択する。例えば、従来技術の装置は、高い品質係数を達成することができるが、帯域幅は狭く(品質係数は、利得がその最高である周波数を帯域幅で除算したものに等しい)、その結果、体積アンテナに結合することが困難であり、局所環境に非常に敏感な均一化装置がもたらされる。逆に、品質係数が低すぎる場合、結果は、不十分な共鳴及び低い補正効率を有する均一化装置となる。
【0020】
本明細書では、高周波磁場の波長に対応し、以下の式によって後者に関連付けられる高周波磁場の周波数について述べる。
[数式1]
f=c/λ
式中、fは高周波磁場の周波数であり、λは高周波磁場の波長であり、cは真空中の光の速度である。
【0021】
この説明では、高周波磁場の周波数は、MRIスキャナで使用されるラーモア周波数である。
【0022】
本明細書によれば、パターンの表面は、金属トラックが刻まれる領域、例えば長方形領域又は正方形領域の表面である。
【0023】
単独で又は組み合わせて採用される均一化装置の他の任意選択の特徴によれば、
-局所変形部は規則的な間隔で配置され、
-端部セグメントは整列され、
-パターンは、直列に接続されたいくつかの2次ヒルベルト曲線、直列に接続されたいくつかの2次コッホ曲線、又は直列に接続されたいくつかの2次ミンコフスキー曲線によって形成される。とりわけ、これらの形状は、構造がラーモア周波数で電気双極子のように共鳴することを可能にする。このような曲線を使用することにより、所与の全長の金属トラックを折り畳みながら、これらの共鳴特性を維持することが可能になり、
-2次ヒルベルト曲線、2次コッホ曲線、又は2次ミンコフスキー曲線が、いくつかの整列された少なくとも部分的に直線接続部分に沿って交互の右/左パターンで分布され、
-少なくとも1つの少なくとも部分的に直線接続部分は、十字形パターンを含む。十字形パターンの存在は、均一化装置の性能を向上させ、
-パターンは、幅が4~10センチメートル、高さが10~25センチメートルである。これらは、7Tの静的主磁場強度に対する最適サイズ間隔である。
-金属トラックは誘電体基板上に配置される。これは、金属トラックの機械的構造を維持する。
-誘電体基板は、0.1~1ミリメートルの厚さである。これにより、特に複雑な幾何形状を有するアンテナに対して、設置が容易な薄い可撓性構造が得られ、
-基板は、高周波磁場の波長に対応する周波数で評価して、0.05未満の誘電損失係数を有する。これは、基板による高周波磁場の吸収を制限することによって、均一化装置の効率を最適化する。本明細書において、誘電損失係数(又は損失角)は、マイクロ波分野の当業者に知られている意味を有する無次元量である。誘電材料の場合、それは材料の複素誘電率の虚部と実部との間の比にほぼ等しい。誘電損失係数は、特に、考慮される高周波磁場の周波数に依存する。
【0024】
本発明の別の目的は、高周波磁場を放射するように構成された体積アンテナと、本発明による均一化装置とによって形成されるアセンブリである。
【0025】
有利には、体積アンテナは、撮像される身体の領域の周りに配置されるように構成されたバードケージタイプのアンテナである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明は、単に例として与えられる以下の説明を読み、添付の図面を参照することにより、より良く理解されるであろう。
図1】本発明による均一化装置の2つの例を示す。
図2】本発明による金属トラックのいくつかの例を示す。
図3】本発明に係る均一化装置の例による高周波励起場の分布を示すシミュレーション結果を示す。
図4】両側構成を実装する均一化装置の例を用いた高周波励起場の分布を示す実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において、いくつかの要素は、視認性の理由から、一定の縮尺で示されていないことに留意されたい。更に、視認性の理由から、同じ参照番号を有する要素の一部のみが参照される。
【0028】
図1及び図2は、本発明による装置2及び4の例を示す。これらの均一化装置は、磁気共鳴撮像(MRI)装置用の高周波磁場(以下、「RF場」と呼ぶ)放射システムで使用するように設計されている。頭部6は、身体部分に対する均一化装置2及び4の配置及び寸法の大きさの順序を示すために概略的に示されている。
【0029】
放射システムは、1つ以上のRF場放射体積アンテナと、1つ以上のRF場均一化装置とを備える。そのようなシステムは、撮像される身体の一部(例えば、頭部6)の周囲に適合し、身体のこの部分において、原子核をそこで励起するために、所与の周波数で均一なRF場を放射するように構成される。
【0030】
撮像される身体の部分は、支持体上に配置されてもよく、支持体の周囲に体積アンテナが配置される。配置は、体積アンテナを配置スライドに沿ってスライドさせることによって実行することができる。
【0031】
ラーモア周波数と呼ばれる、撮像される身体部分の原子核を励起するために使用されるRF場の周波数は、励起される原子核のタイプ及びMRI装置の主磁場に依存する。ラーモア周波数は、例えば、約7Tの主磁場内の水素原子核の場合、約300MHzであり得る。したがって、使用されるRF場の波長は、例えば、約1メートルであり得る。
【0032】
図1は、RF場「均一化パッド」としても知られる、本発明による高周波磁場を均一化するための装置の2つの例を示す。これらの例では、装置は、誘電体基板10上に配置された金属トラック8を備える。後でより詳細に説明するように、金属トラック8は、互いに平行な方向に延在する2つの端部セグメント(端部セグメントは、図2に示す例では互いに整列されている)と、2つの端部セグメントの間に延在し、説明する例では規則的な間隔で配置され、均一化装置に電気双極子特性を提供するように少なくとも1つの少なくとも部分的に直線接続部分14によって互いに直列に接続された、互いに同一のいくつかの(少なくとも2つの)局所変形部を含む主要部分と、を含む。
【0033】
各局所変形部は、それを形成する構造全体を含む単一の2次元平面に含まれ、それ自体又は任意の他の局所変形部と交差しない開曲線を形成する。局所変形部の曲線は、角度を形成し得、又は湾曲部分であり得る。
【0034】
規則的な間隔で作られ、パターンの中心の周りの対称性に関していくつかの局所変形部を囲む2つの端部セグメントの存在は、パターンの中心で最大振幅を得ることを可能にし、したがって中心に置かれた磁場を有することを可能にする(実際、端部セグメントでの電流は低いが、局所変形部での共鳴周波数の増加が観察される)。
【0035】
金属トラック8は連続的であり、全長(金属トラック8の「全長」とは、完全に展開されたトラックの長さを意味する)は、好ましくは、MRI装置によって使用されるRF場の波長の50%~75%である。実際には、金属トラックが、撮像される身体の部分を覆うのに十分な大きさの表面積を占有することを確実にすることを目的とする。
【0036】
金属トラック8は、RF場波長の4%~10%の幅Lと、RF場長の10%~25%の高さHとを有するパターンを形成する。図2は、本発明による金属トラックの一例における金属トラックの高さH及び幅Lを示す。これらは、それぞれ、金属トラックの長手方向に最も離れた2点間の距離、及び金属トラックの横方向に最も離れた2点間の距離である。例えば、真空中の電磁波の波長が1メートルに等しい場合、パターンの幅Lは4センチメートル~10センチメートルであり、高さHは10センチメートル~25センチメートルである。これらの間隔は、7Tで脳MRIに使用される体積アンテナに最適である。
【0037】
特に、この寸法は、表面が脳又は骨盤領域などの撮像される身体の部分を覆うことを可能にする。特に、装置が脳MRIに適用される場合、当該寸法は、バードケージアンテナが均一化装置なしで使用される場合にRF場が一般的にあまり存在しない領域である側方又は側頭葉において装置が有効であることを確実にする。
【0038】
場合によっては、単一の金属トラック8によって覆われた表面よりも大きい領域を撮像することが必要な場合がある。したがって、誘電体基板10上に存在する金属トラック8の数は変化し得る。金属トラック8の各々は、上記範囲内の寸法を有する。
【0039】
好ましくは、金属トラック8は、数学的定義に従って、上述のように直列に接続されたいくつかの2次ヒルベルト曲線16、好ましくは6つの2次ヒルベルト曲線を形成する(すなわち、パターンが形成される)。この形状は、構造がラーモア周波数で電気双極子のように共鳴することを可能にする。ヒルベルト曲線の使用は、所与の全長の金属トラックを折り畳みながら、これらの共鳴特性を維持することを可能にする。実際には、ヒルベルト曲線幾何形状の使用は、所与の全長の金属トラックが、同じ全長(巻かれていない長さに対応する)を保持しながら、表面上でそれが占有する2次元空間を低減するように折り畳まれ得ることを意味する。特に、これは、本発明による金属トラックが、金属トラックによって占有される表面の寸法よりも大きい波長のRF場を放射するバルクアンテナと相互作用することを可能にする。
【0040】
2次ヒルベルト曲線16は、いくつかの整列した少なくとも部分的に直線接続部分14に沿って右/左に交互に分布させることができ、十字形パターン18は、少なくとも部分的に直線接続部分14に配置することができる。図1には、均一化装置2及び4の両方について左/右の交互が示されており、均一化装置2は、2つの2次ヒルベルト曲線16の間の各接続部分14に十字形パターン18を備え、十字形パターン18は均一化装置2の性能を向上させる。対称性の存在は、体積アンテナと相互作用することができる電気双極子の特性を均一化装置2又は4に与えるのに役立つ。
【0041】
いくつかの2次ヒルベルト曲線の代わりに、2次コッホ曲線16’又は2次ミンコフスキー曲線16”によって局所変形部を形成することができ、上記と同じ効果が得られる。曲線の数、それらの配置、又は十字形パターンの存在は、2次ヒルベルト曲線16について説明したものと同一であり得る。
【0042】
上に示した曲線の3つの例は、本発明によるパターンを作成する可能性の優先的であるが限定的ではないケースを示す。
【0043】
金属トラック2又は4は、誘電体基板10上に配置、例えば印刷することができる。これは、金属トラックの機械的構造を維持する。この誘電体基板10は、金属トラック2又は4を含むのに十分な大きさである。その厚さは、0.1~1ミリメートル、例えば0.5ミリメートルとすることができる。これにより、特に複雑な幾何形状を有するアンテナに対して、設置が容易な薄い可撓性構造が得られる。
【0044】
誘電体基板10は、高周波磁場の波長に対応する周波数で評価される、0.05未満の誘電損失係数を備えてもよい。これは、基板による高周波磁場の吸収を制限することによって、均一化装置の効率を最適化する。本明細書において、誘電損失係数(又は損失角)は、マイクロ波分野の当業者に知られている意味を有する無次元量である。誘電材料の場合、それは材料の複素誘電率の虚部と実部との間の比にほぼ等しい。誘電損失係数は、特に、考慮される高周波磁場の周波数に依存する。
【0045】
本発明によれば、均一化装置2又は4は、RF場の波長に対応する周波数よりも高い、例えば、MRI装置によって使用されるラーモア周波数(例えば、7T超高磁場MRI装置については300MHz、又は3T高磁場MRI装置については125MHz)よりも高い基本周波数を有する。これは、装置が使用されているときに、人体の存在が基本周波数をRF場周波数より低くすることを防止する。これにより、装置がRF場と共鳴することなくRF場を均一化することを可能にする。
【0046】
図3は、本明細書による装置の例によるRF励起場の分布についてのシミュレーション結果を示す。
【0047】
特に、シミュレーションは、脳撮像の場合における300MHzのRF場(7T超高磁場MRI装置で使用されるものに対応する)の分布をモデル化する。
【0048】
シミュレーションは、1つ(中央列)又は2つ(右列)の均一化装置2又は4を備える直交バードケージアンテナのパラメータを使用する(均一化装置2は図3において参照されるが、参照4であってもよい)。
【0049】
使用される頭部モデルは、このタイプのシミュレーションにおいて従来から使用されているSAM(特定の人体模型)ファントムモデルである。SAMモデルは、人体の特性(誘電率:42、導電率:0.99S/m及び密度1000kg/m3)に近い標準化された特性を有するダミーである。
【0050】
シミュレーションは、CST Microwave Studio(登録商標)シミュレーションソフトウェアを使用して実行され、RF磁場分布及び比吸収率(SAR)を評価する。SAR(W/kgとして表される)は、人間の体組織によって吸収され、次いで熱の形態で放散される電磁力の量を定量化する。この量は、典型的には、患者に対する放射線装置の使用に関する安全基準を評価するために当業者によって使用される。
【0051】
特に、図3は、以下3つの場合における脳内のRF場分布のシミュレーションを示す。
-均一化装置なし(左列)。
-単一の均一化装置、この例では脳の右側頭領域(中央列)の片側に配置された均一化装置2又は4を用いた。
-2つの均一化装置2又は4(右列)を用いた。
【0052】
金属トラック8は、上述の範囲内の寸法を有する。
【0053】
3つの構成の各々について、上部正中冠状面(22、22’、22”)及び下部正中矢状面(24、24’、24”)が示される。黒色で輪郭が描かれた領域は、異なる脳領域に対応する関心領域26を示す。
【0054】
例えば矢印28によって表される領域は、RF場の均一性の欠如に起因してRF場が非常に弱い影領域の例を示す。1つ以上の実施形態によれば、本発明の装置は、撮像される身体の部分全体にわたるRF場の分布を均一化することによって、これらの影領域28を除去することを目的とする。
【0055】
図3は、本発明による均一化装置の追加が、RF励起場の均一化を通して信号を再導入することによって、脳内の影領域28を除去することを示す(これは、正中冠状面22及び22’’だけでなく正中矢状面24及び24’’を比較することによって明確に見ることができる)。
【0056】
更に、小脳領域におけるRF場の均一性は、均一化装置2又は4の存在によって過度に影響されない。この態様は、誘電材料に基づく従来技術における既知のパッドとは異なる点で注目に値する。
【0057】
異なる装置構成に対する異なる脳領域におけるRF場値の統計的平均の結果が、以下の表1に示される。
【0058】
【表1】
【0059】
それらは、側頭領域におけるRF場振幅の平均値の明らかな改善(片側構成について+45%、両側構成について+56%)を示す。
【0060】
CST Microwave Studio(登録商標)シミュレーションソフトウェアを使用して、ファントムモデルの脳で吸収される電磁力を計算することもできる。関心のある量は、比吸収率(SAR)であり、その値は、身体の一部の全体積にわたって平均化することができ(全体値)、又は10gの組織に等しい体積における最大値(局所値)である。
【0061】
以下の表2は、本発明の異なる実施形態による装置の異なる構成についてシミュレートされたSAR結果を示す。表2の結果は、両側構成の場合に局所SARが約45%増加することを示している。
【0062】
この効果は、装置と頭部との間の距離のわずかな増加によって相殺することができる。それは、影領域における信号増加と局所SARとの間の妥協である。
【0063】
以下の表2は、アンテナと撮像領域が近接している場合であっても、脳撮像の局所SARが低いままであることを示している。
【0064】
【表2】
【0065】
脳MRIの状況における300MHzのRF場の分布に対する装置の効果を示す実験的試験も、本発明による装置の均一化機能を検証するために実行された。
【0066】
図4に示す測定値は、イン・ビボ試験の結果である。均一化装置2又は4は、図3に示す試験のように配置される。
【0067】
これらの実験的試験では、使用されるアンテナは、7T超高磁場MRI装置で脳を撮像することを目的とした送信/受信チャネルを有する直交バードケージアンテナである。金属トラック8が印刷され、その寸法は上述のものに対応する。
【0068】
図4は、本発明による片側構成を実装する装置の例を用いたRF励起場分布の実験結果を示す。
【0069】
特に、図4は、異なる測定構成について上述した脳ファントムモデルにおけるフリップ角(RF場振幅に比例する量)を測定した結果を示す。
-均一化装置なし(上段30)。
-2つの均一化装置(中央段32)を用いた。
【0070】
図4の第3の段34は、2つの構成間の相対的な信号利得を視覚化するために、上述の2つの段間の比較を示す。
【0071】
各測定構成について、結果は、矢状断面(左列)、冠状断面(中央列)及び軸方向断面(右列)に提示される。
【0072】
結果は、各側頭葉において約50%~60%の増加を伴う、RF場振幅に対する装置の非常に肯定的な効果を示す。
【0073】
参考文献
2、4:均一化装置
6:頭部
8:金属トラック
10:基板
14:直線接続部分
16:2次ヒルベルト曲線
16’:2次コッホ曲線
18’:2次ミンコフスキー曲線
18:十字形パターン
22、22’、22”:正中冠状面
24、24’、24”:正中矢状面
26:関心領域
28:影領域
30:均一化装置なしで測定
32:均一化装置による測定
34:測定値の比較
L:パターン幅
H:パターン高さ
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】