(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-12
(54)【発明の名称】生物学的材料を分析するための界面活性剤
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20241205BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536416
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 EP2022086592
(87)【国際公開番号】W WO2023117863
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519186543
【氏名又は名称】スティラ テクノロジーズ
【氏名又は名称原語表記】Stilla Technologies
【住所又は居所原語表記】1 Mail du Professeur Georges Mathe,94800 Villejuif,France
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ウルスギ,シルヴァン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX01
(57)【要約】
本発明は、特に、生物学的材料を分析する方法、および、マイクロ流体デバイスで使用するための連続油相に関する。本出願人は、分子生物学に適合し、デジタルPCRの性能を向上させ、ならびに、サンプルの無駄およびデッドボリュームを制限する、新規のカテゴリーである界面活性剤およびオイル/界面活性剤システムを確かに特定した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的材料を分析する方法であって、
シリコーンオイルを含む連続油相と、
分散された水相と、
ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体である界面活性剤と、を含む上記生物学的材料を含むエマルジョンを形成する工程;
上記エマルジョン中の上記生物学的材料を処理する工程;および、
上記エマルジョン中の上記生物学的材料を検出する工程を含み、
上記界面活性剤のブロック[A]は、式(I)のブロックに相当し、
【化1】
式中、R
1はC
1~C
18アルキルであり、mは10~100に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]は、式(II)のブロックに相当し、
【化2】
式中、qは2~18に含まれ、nは1~50に含まれ、R
2は以下の化合物からなる群から選択され:
式(III)
【化3】
式(IV)
【化4】
式(V)
【化5】
および、
式(VI)
【化6】
式中、r、s、t、u、vおよびwは1~32に含まれ、R
3は、-OH、-O-CH
3および-O-CH
2CH
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤のブロック[C]は、式(VII)のブロックに相当し、
【化7】
式中、pは5~300に含まれ、
末端基は、-H、-CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択され、ならびに、
上記界面活性剤の一般式は、[A]-[B]-[C]、[B]-[C]-[A]、[C]-[A]-[B]、[B]-[A]-[C]、[A]-[C]-[B]および[C]-[B]-[A]から選択される、方法。
【請求項2】
デジタルPCR、より好ましくは液滴中のデジタルPCRにおける油相としてのシリコーンオイルおよび界面活性剤の使用であって、
上記界面活性剤は、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体であり、
上記界面活性剤のブロック[A]は、式(I)のブロックに相当し、
【化8】
式中、R
1はC
1~C
18アルキルであり、mは10~100に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]は、式(II)のブロックに相当し、
【化9】
式中、qは2~18に含まれ、nは1~50に含まれ、R
2は以下の化合物からなる群から選択され:
式(III)
【化10】
式(IV)
【化11】
式(V)
【化12】
および、
式(VI)
【化13】
式中、r、s、t、u、vおよびwはそれぞれ1~32に含まれ、R
3は、-OH、-O-CH
3および-O-CH
2CH
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤のブロック[C]は、式(VII)のブロックに相当し、
【化14】
式中、pは5~300に含まれ、
末端基は、-H、-CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択され、ならびに、
上記界面活性剤の一般式は、[A]-[B]-[C]、[B]-[C]-[A]、[C]-[A]-[B]、[B]-[A]-[C]、[A]-[C]-[B]および[C]-[B]-[A]から選択される、使用。
【請求項3】
シリコーンオイルと界面活性剤とを含む、マイクロ流体デバイス用の連続油相であって、
上記界面活性剤は、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体であり、
上記界面活性剤のブロック[A]は、式(I)のブロックに相当し、
【化15】
式中、R
1はC
1~C
18アルキルであり、mは10~100に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]は、式(II)のブロックに相当し、
【化16】
式中、qは2~18に含まれ、nは1~50に含まれ、R
2は以下の化合物からなる群から選択され:
式(III)
【化17】
式(IV)
【化18】
式(V)
【化19】
および、
式(VI)
【化20】
式中、r、s、t、u、vおよびwは1~32に含まれ、R
3は、-OH、-O-CH
3および-O-CH
2CH
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤のブロック[C]は、式(VII)のブロックに相当し、
【化21】
式中、pは5~300に含まれ、
末端基は、-H、-CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤の一般式は、[A]-[B]-[C]、[B]-[C]-[A]、[C]-[A]-[B]、[B]-[A]-[C]、[A]-[C]-[B]および[C]-[B]-[A]から選択され、ならびに、
組成物は、上記連続油相の総重量に対して、少なくとも0.5重量%の界面活性剤を含む、連続油相。
【請求項4】
シリコーンオイルと界面活性剤とを含有する少なくとも1つのチャンバーを含む、マイクロ流体デバイスであって、
上記界面活性剤は、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体であり、
上記界面活性剤のブロック[A]は、式(I)のブロックに相当し、
【化22】
式中、R
1はC
1~C
18アルキルであり、mは10~100に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]は、式(II)のブロックに相当し、
【化23】
式中、qは2~18に含まれ、nは1~50に含まれ、R
2は以下の化合物からなる群から選択され:
式(III)
【化24】
式(IV)
【化25】
式(V)
【化26】
および、
式(VI)
【化27】
式中、r、s、t、u、vおよびwは1~32に含まれ、R
3は、-OH、-O-CH
3および-O-CH
2CH
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤のブロック[C]は、式(VII)のブロックに相当し、
【化28】
式中、pは5~300に含まれ、
末端基は、-H、-CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択され、ならびに、
上記界面活性剤の一般式は、[A]-[B]-[C]、[B]-[C]-[A]、[C]-[A]-[B]、[B]-[A]-[C]、[A]-[C]-[B]および[C]-[B]-[A]から選択される、マイクロ流体デバイス。
【請求項5】
上記界面活性剤のブロック[A]が式(I)のブロックに相当し、
【化29】
式中、R
1がC
12アルキルであり、mが10~35に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]が式(II)のブロックに相当し、
【化30】
式中、qが3であり、nが1~15に含まれ、R
2が式(III)の化合物であり、
【化31】
式中、rが6~9に含まれ、R
3が-OHであり、
上記界面活性剤のブロック[C]が式(VII)のブロックに相当し、
【化32】
式中、pが75~175に含まれ、
末端基が、H、CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択される、請求項1に記載の方法、請求項2に記載の使用、請求項3に記載の連続油相、および請求項4に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
上記界面活性剤のブロック[A]が式(I)のブロックに相当し、
【化33】
式中、R
1がC
16アルキルであり、mが25~75に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]が式(II)のブロックに相当し、
【化34】
式中、qが3であり、nが1~5または5~15に含まれ、R
2が式(V)の化合物であり、
【化35】
式中、uが1であり、tが10であり、R
3が-OHであり、
上記界面活性剤のブロック[C]が式(VII)のブロックに相当し、
【化36】
式中、pが100~300に含まれ、
末端基が、H、CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択される、請求項1に記載の方法、請求項2に記載の使用、請求項3に記載の連続油相、および請求項4に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
上記シリコーンオイルの粘度が25℃で0.7~5.0センチストークスに含まれている、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法、使用、連続油相、マイクロ流体デバイス。
【請求項8】
上記シリコーンオイルがデカメチルテトラシロキサンを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法、使用、連続油相、マイクロ流体デバイス。
【請求項9】
上記シリコーンオイルが、当該シリコーンオイルの総重量に対して少なくとも60重量%のデカメチルテトラシロキサンを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法、使用、連続油相、マイクロ流体デバイス。
【請求項10】
上記シリコーンオイルが、オクタメチルトリシロキサンおよび/またはドデカメチルペンタシロキサンをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法、使用、連続油相、マイクロ流体デバイス。
【請求項11】
上記連続油相が、上記シリコーンオイルの総重量に対して、1~10重量%のオクタメチルトリシロキサンおよび/または1~10重量%のドデカメチルペンタシロキサンを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法、使用、連続油相、マイクロ流体デバイス。
【請求項12】
上記生物学的材料が細胞または核酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
上記生物学的材料を処理する上記工程が、好ましくはデジタルPCRによって、上記生物学的材料を増幅することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
上記界面活性剤がABE 3642である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法、使用、連続油相、マイクロ流体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法のための材料の分野に関連し、マイクロ流体デバイス用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代半ば、微細加工技術の進歩により、数ミクロンという小さなサイズのデバイスの製造が可能になった。マイクロマシニング、フォトリソグラフィ、ケイ素基板およびガラス基板のエッチング、これらすべてが、試薬および分子を選別することができ、化学反応を分割でき、そして、水性および油性流体の混合物用の液滴発生器として機能することができる流路のネットワークを作り出した。これらのマイクロ流体デバイスは、単一細胞アッセイ、タンパク質および核酸等の高分子の研究、ならびに、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の生化学的アッセイの実行に適している。
【0003】
2000年代初頭までに、油中水型エマルジョンは、生物学的材料をナノリットル/ピコリットルのスケールの液滴に分割することを目的とした応用の可能性について研究されていた。重要な進歩は、油性連続相において界面活性剤を使用することによって、不連続な水相の導入後に形成される液滴の完全性を維持することであった。オイルで満たされたマイクロ流体デバイスに界面活性剤を使用することで、液滴は広くなったチャネルまたはリザーバーに貯留することができ、破壊または融合することなく互いに接触することができる。オイルおよび界面活性剤で満たされたチャネルの広範な流体ネットワークを設計し、プラグまたは液滴の意図的な混合を調整することによって、生化学反応を媒介することができる。
【0004】
フッ素系界面活性剤と組み合わせたフッ素系オイルは、水性液滴内で生体分子を取り扱うのに特に有用である(Holtze et al., Biocompatible surfactants for water-in-fluorocarbon emulsions, 2008, 8(10), 1632-1639)。
【0005】
しかしながら、フッ素系油を含有するエマルジョンは、当該技術分野で特定されている種々の欠点に悩まされる可能性がある。例えば、水性液滴は一般的にフッ素系油中で浮遊し(フッ素系油の密度は水の密度よりも高い)、液滴の形成および操作が複雑になる可能性がある。場合によっては、PCRミックスの沈殿を目視で検査する必要があり、エマルジョンは液滴を熱源に近づけるために液滴の下の余分なオイルを除去する必要が生じる可能性があり、および/または、入口ウェル内のPCRミックスの位置はマイクロ流体チップの傾きに敏感である可能性がある。
【0006】
さらに、浮遊する液滴は、特に加熱されたときに、エマルジョンの上方の空気にさらされることによって損傷を受け易くなる可能性があり、PCRミックスは蒸発に敏感であるため、サンプルの沈殿とサンプル分析との間に時間的な制約が生じ、場合によっては蒸発を防止するためのシーリングオイルの使用が必要となる。
【0007】
それゆえ、シリコーンオイルとシリコーン界面活性剤とを含む連続相に配置された水性液滴を含むエマルジョンを記載するWO2014/145582等の代替システムが提案されており、当該シリコーン界面活性剤は、一般式[シリコーン骨格][アルキル]x[ポリエーテル]y[ポリシロキサン]zによって記載され、xは0~5であり、yは1~35であり、zは2~50である。
【0008】
また、WO2017070363には、シリコーンオイルと、シリコーンオイルに可溶化されたシロキサンブロック共重合体とを含むマイクロ流体デバイス用の充填剤流体が開示されており、シロキサンブロック共重合体は水性液体と実質的に非混和性である。
【0009】
しかしながら、分子生物学に適合する好適な界面活性剤/オイルシステムを特定することは、デジタルPCRの性能を向上させるための大きな目標である。
【0010】
分子生物学への適合性とは、システムがPCR等の分子生物学で使用される主要な反応プロトコルに障害を与えないことを意味する。
【0011】
デジタルPCRの性能は、特に、液滴の安定性(液滴が互いに接触するときに混合し合体することを実質的に防ぐことを意味する)、PCRミックスの所与量に対する液滴の数の増加、その結果生じる分析される量の増加、そして最終的には浮遊する液滴の回避を包含する。
【0012】
また、マイクロ流体チップをロードするとき、PCRミックスの沈殿および位置決めを単純化し、PCRミックスの蒸発を防いでサンプルの無駄を防ぎ、最終的にデッドボリューム、すなわち分析できないサンプル量を最小化することも重要な目標である。
【発明の概要】
【0013】
本出願人は、分子生物学に適合し、デジタルPCRの性能を向上させ、ならびに、サンプルの無駄およびデッドボリュームを制限する、新規のカテゴリーである界面活性剤およびオイル/界面活性剤システムを特定した。
【0014】
本出願人は、本発明に係る界面活性剤が、他の界面活性剤と比較して、液滴が互いに接触するときに混合し合体することを防止し、液滴数および分析される量を増加させることを実際に実証した。
【0015】
この液滴数および分析される量の増加は、デジタルPCRの定量精度および異なる集団間の蛍光シグナルの分離性を保証し、デジタルPCRの堅牢性および精度を決定する重要なパラメーターとなる。
【0016】
さらに、本発明に係るオイル/界面活性剤システムの密度比は、フッ素系システムと比較して反転しているため、チップローディング(chip loading)が容易になり、サンプルの無駄を防ぎ、デッドボリュームを最小限に抑えることができる。これらは、アッセイ精度および再現性に関して大きな改善である。
【0017】
最後に、シリコーンオイルはフッ素系オイルと比較して密度比が反転しているため、PCRミックスも蒸発から保護され、チップローディングと処理との間の操作時間を延長することができる。
【0018】
〔詳細な説明〕
(生物学的材料の分析方法)
一実施形態において、本発明は、生物学的材料を分析する方法であって、
シリコーンオイルを含む連続油相と、
分散された水相と、
ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体である界面活性剤と、を含む上記生物学的材料を含むエマルジョンを形成する工程;
上記エマルジョン中の上記生物学的材料を処理する工程;および、
上記エマルジョン中の上記生物学的材料を検出する工程を含み、
上記界面活性剤のブロック[A]は、式(I)のブロックに相当し、
【化1】
式中、R
1はC
1~C
18アルキルであり、mは10~100に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]は、式(II)のブロックに相当し、
【化2】
式中、qは2~18に含まれ、nは1~50に含まれ、R
2は以下の化合物からなる群から選択され:
式(III)
【化3】
式(IV)
【化4】
式(V)
【化5】
および、
式(VI)
【化6】
式中、r、s、t、u、vおよびwは1~32に含まれ、R
3は、-OH、-O-CH
3および-O-CH
2CH
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤のブロック[C]は、式(VII)のブロックに相当し、
【化7】
式中、pは5~300に含まれ、
末端基は、-H、-CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択され、ならびに、
上記界面活性剤の一般式は、[A]-[B]-[C]、[B]-[C]-[A]、[C]-[A]-[B]、[B]-[A]-[C]、[A]-[C]-[B]および[C]-[B]-[A]から選択される、方法に関する。
【0019】
(デジタルPCRにおける油相としてのシリコーンオイルおよび界面活性剤の使用)
一実施形態において、本発明は、デジタルPCRにおける油相としてのシリコーンオイルおよび界面活性剤の使用であって、
上記界面活性剤は、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体であり、
上記界面活性剤のブロック[A]は、式(I)のブロックに相当し、
【化8】
式中、R
1はC
1~C
18アルキルであり、mは10~100に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]は、式(II)のブロックに相当し、
【化9】
式中、qは2~18に含まれ、nは1~50に含まれ、R
2は以下の化合物からなる群から選択され:
式(III)
【化10】
式(IV)
【化11】
式(V)
【化12】
および、
式(VI)
【化13】
式中、r、s、t、u、vおよびwはそれぞれ1~32に含まれ、R
3は、-OH、-O-CH
3および-O-CH
2CH
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤のブロック[C]は、式(VII)のブロックに相当し、
【化14】
式中、pは5~300に含まれ、
末端基は、-H、-CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択され、ならびに、
上記界面活性剤の一般式は、[A]-[B]-[C]、[B]-[C]-[A]、[C]-[A]-[B]、[B]-[A]-[C]、[A]-[C]-[B]および[C]-[B]-[A]から選択される、使用に関する。
【0020】
(マイクロ流体デバイス用の連続油相)
一実施形態において、本発明は、シリコーンオイルと界面活性剤とを含む、マイクロ流体デバイス用の連続油相であって、
上記界面活性剤は、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体であり、
上記界面活性剤のブロック[A]は、式(I)のブロックに相当し、
【化15】
式中、R
1はC
1~C
18アルキルであり、mは10~100に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]は、式(II)のブロックに相当し、
【化16】
式中、qは2~18に含まれ、nは1~50に含まれ、R
2は以下の化合物からなる群から選択され:
式(III)
【化17】
式(IV)
【化18】
式(V)
【化19】
および、
式(VI)
【化20】
式中、r、s、t、u、vおよびwは1~32に含まれ、R
3は、-OH、-O-CH
3および-O-CH
2CH
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤のブロック[C]は、式(VII)のブロックに相当し、
【化21】
式中、pは5~300に含まれ、
末端基は、-H、-CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤の一般式は、[A]-[B]-[C]、[B]-[C]-[A]、[C]-[A]-[B]、[B]-[A]-[C]、[A]-[C]-[B]および[C]-[B]-[A]から選択され、ならびに、
組成物は、上記連続油相の総重量に対して、少なくとも0.5重量%の界面活性剤を含む、連続油相に関する。
【0021】
(マイクロ流体デバイス)
一実施形態において、本発明は、シリコーンオイルと界面活性剤とを含有する少なくとも1つのチャンバーを含む、マイクロ流体デバイスであって、
上記界面活性剤は、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体であり、
上記界面活性剤のブロック[A]は、式(I)のブロックに相当し、
【化22】
式中、R
1はC
1~C
18アルキルであり、mは10~100に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]は、式(II)のブロックに相当し、
【化23】
式中、qは2~18に含まれ、nは1~50に含まれ、R
2は以下の化合物からなる群から選択され:
式(III)
【化24】
式(IV)
【化25】
式(V)
【化26】
および、
式(VI)
【化27】
式中、r、s、t、u、vおよびwは1~32に含まれ、R
3は、-OH、-O-CH
3および-O-CH
2CH
3からなる群から選択され、
上記界面活性剤のブロック[C]は、式(VII)のブロックに相当し、
【化28】
式中、pは5~300に含まれ、
末端基は、-H、-CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択され、ならびに、
上記界面活性剤の一般式は、[A]-[B]-[C]、[B]-[C]-[A]、[C]-[A]-[B]、[B]-[A]-[C]、[A]-[C]-[B]および[C]-[B]-[A]から選択される、マイクロ流体デバイスに関する。
【0022】
(界面活性剤)
本発明によれば、界面活性剤は、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体である。
【0023】
一実施形態において、界面活性剤のブロック[A]は、式(I)のブロックに相当し、
【化29】
式中、R
1はC
1~C
18アルキルであり、mは10~100に含まれている。
【0024】
上記一般式中、特に断りのない限り、アルキルは、1、2、3、4、5、6、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18個の炭素原子を含有する直鎖または分岐基を示す。好適なアルキルラジカルの例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシル等である。したがって、C1~C18アルキルは、1~18個の炭素原子を含有するアルキル基に相当する。
【0025】
一実施形態において、mは10~35、好ましくは10~17、または17~25に含まれている。
【0026】
一実施形態において、mは25~75に含まれている。
【0027】
一実施形態において、R1はC12アルキルである。
【0028】
一実施形態において、R1はC16アルキルである。
【0029】
一実施形態において、R1はC12アルキルであり、mは10~35、好ましくは10~17または17~25に含まれている。
【0030】
一実施形態において、R1はC16アルキルであり、mは25~75に含まれている。
【0031】
一実施形態において、界面活性剤のブロック[B]は、式(II)のブロックに相当し、
【化30】
式中、qは2~18に含まれ、nは1~50に含まれ、R
2は以下の化合物からなる群から選択され:
式(III)
【化31】
式(IV)
【化32】
式(V)
【化33】
および、
式(VI)
【化34】
式中、r、s、t、u、vおよびwは、は1~32に含まれ、R
3は、-OH、-O-CH
3および-O-CH
2CH
3からなる群から選択される。
【0032】
一実施形態において、qは3である。
【0033】
一実施形態において、nは1~15、好ましくは1~5に含まれている。
【0034】
一実施形態において、nは5~15に含まれている。
【0035】
一実施形態において、r、s、t、u、vおよびwは1~18、好ましくは1~12、より好ましくは6~9に含まれている。
【0036】
一実施形態において、r、s、t、u、vおよびwは独立して1または10に等しい。
【0037】
一実施形態において、R3は-OHである。
【0038】
一実施形態において、R
2は式(III)の化合物である。
【化35】
【0039】
一実施形態において、R
2は式(V)の化合物である。
【化36】
【0040】
一実施形態において、R
2は式(III)の化合物である。
【化37】
式中、rが6~9に含まれ、R
3が-OHである。
【0041】
一実施形態において、R
2は式(V)の化合物である。
【化38】
式中、tが10であり、uが1であり、R
3が-OHである。
【0042】
一実施形態において、界面活性剤のブロック[C]は、式(VII)のブロックに相当し、
【化39】
式中、pが5~300に含まれている。
【0043】
一実施形態において、pは5~200、好ましくは75~175、より好ましくは95~140に含まれている。
【0044】
一実施形態において、pは100~300に含まれている。
【0045】
一実施形態において、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体は、-H、-CH3および-Si(CH3)3からなる群から選択される末端基を含む。
【0046】
一実施形態において、末端基は、-CH3または-Si(CH3)3である。
【0047】
一実施形態において、界面活性剤は、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック重合体であり、
上記界面活性剤のブロック[A]が式(I)のブロックに相当し、
【化40】
式中、R
1がC
12アルキルであり、mが10~35に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]が式(II)のブロックに相当し、
【化41】
式中、qが3であり、nが1~15に含まれ、R
2が式(III)の化合物であり、
【化42】
式中、rが6~9に含まれ、R
3が-OHであり、
上記界面活性剤のブロック[C]が式(VII)のブロックに相当し、
【化43】
式中、pが75~175に含まれ、
末端基が、H、CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択される。
【0048】
一実施形態において、界面活性剤は、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック重合体であり、
上記界面活性剤のブロック[A]が式(I)のブロックに相当し、
【化44】
式中、R
1がC
16アルキルであり、mが25~75に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]が式(II)のブロックに相当し、
【化45】
式中、qが3であり、nが1~5または5~15に含まれ、R
2が式(V)の化合物であり、
【化46】
式中、uが1であり、tが10であり、R
3が-OHであり、
上記界面活性剤のブロック[C]が式(VII)のブロックに相当し、
【化47】
式中、pが100~300に含まれ、
末端基が、H、CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択される、
【0049】
一実施形態において、界面活性剤の一般式は、[A]-[B]-[C]である。
【0050】
一実施形態において、界面活性剤の一般式は、[B]-[C]-[A]である。
【0051】
一実施形態において、界面活性剤の一般式は、[C]-[A]-[B]である。
【0052】
一実施形態において、界面活性剤の一般式は、[B]-[A]-[C]である。
【0053】
一実施形態において、界面活性剤の一般式は、[A]-[C]-[B]である。
【0054】
一実施形態において、界面活性剤の一般式は、[C]-[B]-[A]である。
【0055】
一実施形態によれば、本発明に係るシステムで使用できる界面活性剤は、Gelest(登録商標)社からABE 3642(CAS番号212335-52-9)の商品名で市販されている界面活性剤、Siltech Corporation社からSilube(登録商標)J208-812(CAS番号212335-52-9)の商品名で市販されている界面活性剤、およびSiltech Corporation社からSilube(登録商標)T310-A-16(CAS番号145686-34-6)の商品名で市販されている界面活性剤からなる群から選択することができる。
【0056】
好ましい実施形態において、Gelest(登録商標)社からABE 3642(CAS番号212335-52-9)の商品名で市販されている界面活性剤を、本発明に係る界面活性剤として使用することができる。
【0057】
好ましい実施形態において、界面活性剤は、界面活性剤のブロック[A]を15~50重量%、好ましくは18~50重量%、より好ましくは20~40重量%含む。
【0058】
好ましい実施形態において、界面活性剤は、界面活性剤のブロック[B]を3~10重量%含む。
【0059】
好ましい実施形態において、界面活性剤は、界面活性剤のブロック[A]を20~40重量%、界面活性剤のブロック[B]を3~10重量%、および界面活性剤のブロック[C]を残りの重量、含む。
【0060】
一実施形態において、界面活性剤は、界面活性剤のブロック[A]を30~35重量%、界面活性剤のブロック[B]を7~10重量%、および界面活性剤のブロック[C]を残りの重量、含む。
【0061】
一般的に、重量%はRMN 1H分析によって推定される。
【0062】
(連続油相)
本発明によれば、連続油相はシリコーンオイルを含む。
【0063】
本明細書で使用するシリコーンオイルは、ケイ素原子と酸素原子が交互に結合した骨格構造を有し、ケイ素原子に炭化水素が結合している分子を包含する。ケイ素原子は、炭化水素部分等の種々の部分によって置換されていてもよい。
【0064】
ケイ素オイルは、その粘度に応じて、また任意に、連続油相が使用されるマイクロ流体デバイスの設計に応じて選択してもよい。
【0065】
粘度は、当業者に公知の任意の方法で測定することができる。一般的に、粘度は、回転粘度計等の慣例の粘度計を使用して測定することができる。一般的に、粘度計は、低粘度材料に適合した粘度計であり得る。例えば、LVT、LVDV-E、DV1MLV、DV2TLV、DV3LTV等のBrookfield粘度計(AMETEK Brookfield, 11 Commerce Blvd., Middleboro, MA 02346 USA)を、Brookfield低粘度付属品と共に使用することができる。
【0066】
一実施形態において、連続油相は、25℃で0.5~500センチストークスの粘度を有するシリコーンオイルを含む。
【0067】
一実施形態において、連続油相は、25℃で0.5~100センチストークスの粘度を有するシリコーンオイルを含む。
【0068】
一実施形態において、連続油相は、25℃で0.5~50センチストークスの粘度を有するシリコーンオイルを含む。
【0069】
一実施形態において、連続油相は、25℃で0.5~10センチストークスの粘度を有するシリコーンオイルを含む。
【0070】
一実施形態において、連続油相は、25℃で0.7~5センチストークスの粘度を有するシリコーンオイルを含む。
【0071】
一実施形態において、連続油相の粘度は、25℃で0.8~4.0センチストークス、好ましくは25℃で0.9~3.0センチストークス、より好ましくは25℃で1.0~2.0センチストークスに含まれている。
【0072】
一般的に、連続油相の粘度は25℃で1.1~1.5センチストークスである。
【0073】
25℃で0.7~5センチストークスの粘度を有するシリコーンオイルは、例えば特許出願WO2020/109379およびWO2020/109388に記載されているOpal(商標)マイクロ流体デバイスで使用するときに特に有利である。
【0074】
一実施形態において、シリコーンオイルは、デカメチルテトラシロキサンを含む。
【0075】
別の実施形態において、シリコーンオイルは、シリコーンオイルの総重量に対して少なくとも60重量%のデカメチルテトラシロキサン、好ましくはシリコーンオイルの総重量に対して70重量%のデカメチルテトラシロキサン、より好ましくはシリコーンオイルの総重量に対して80重量%のデカメチルテトラシロキサン、さらに好ましくはシリコーンオイルの総重量に対して90重量%のデカメチルテトラシロキサンを含む。
【0076】
別の実施形態において、シリコーンオイルは、オクタメチルトリシロキサンおよび/またはドデカメチルペンタシロキサンをさらに含む。
【0077】
一実施形態において、連続油相は、1~10重量%のオクタメチルトリシロキサンおよび/または1~10重量%のドデカメチルペンタシロキサンを含む。
【0078】
一実施形態において、Gelest(登録商標)社から市販されている製品DMS-T01.5(CAS番号:63148-62-9)をシリコーンオイルとして使用することができる。
【0079】
一実施形態において、連続油相は、本発明に係る界面活性剤を含む。
【0080】
一実施形態において、連続油相は、連続油相の総重量に対して、0.5~5重量%の前述で定義した界面活性剤、好ましくは、連続油相の総重量に対して、0.5~2.5重量%の前述で定義した界面活性剤、より好ましくは、連続油相の総重量に対して、0.5~1.5重量%の前述で定義した界面活性剤を含む。
【0081】
一実施形態において、連続油相は、組成物の総重量に対して、前述に定義した界面活性剤を約1.0重量%含む。
【0082】
好ましい実施形態において、連続油相は、少なくとも60%のデカメチルテトラシロキサンを含むシリコーンオイルと、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体界面活性剤である界面活性剤と、を含み、
上記界面活性剤のブロック[A]が式(I)のブロックに相当し、
【化48】
式中、R
1がC
12アルキルであり、mが10~35に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]が式(II)のブロックに相当し、
【化49】
式中、qが3であり、nが1~15に含まれ、R
2が式(III)の化合物であり、
【化50】
式中、rが6~9に含まれ、R
3が-OHであり、
上記界面活性剤のブロック[C]が式(VII)のブロックに相当し、
【化51】
式中、pが75~175に含まれ、
末端基が、H、CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択される。
【0083】
別の好ましい実施形態において、連続油相は、少なくとも60%のデカメチルテトラシロキサンを含むシリコーンオイルと、ブロック[A]、[B]および[C]を含むブロック共重合体界面活性剤である界面活性剤と、を含み、
上記界面活性剤のブロック[A]が式(I)のブロックに相当し、
【化52】
式中、R
1がC
16アルキルであり、mが25~75に含まれ、
上記界面活性剤のブロック[B]が式(II)のブロックに相当し、
【化53】
式中、qが3であり、nが1~5または5~15に含まれ、R
2が式(V)の化合物であり、
【化54】
式中、uが1であり、tが10であり、R
3が-OHであり、
上記界面活性剤のブロック[C]が式(VII)のブロックに相当し、
【化55】
式中、pが100~300に含まれ、
末端基が、H、CH
3および-Si(CH
3)
3からなる群から選択される。
【0084】
(分散された水相)
一実施形態において、分散された相は、水、および、任意の水混和性共溶媒(例えば、エーテルグリコールおよびポリエーテルグリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、短鎖有機アルコール、アセトン、短鎖脂肪酸、グリセロール短鎖有機アミン、過酸化水素、または有機酸および無機酸、等)を含む。
【0085】
一実施形態において、分散相は、生物学的反応を実施するための試薬および生物学的材料を含む。
【0086】
(生物学的材料)
生物学的材料とは、限定されないが、生物、器官、組織、細胞(真核細胞および原核細胞を含む)、ウイルスまたはウイルス粒子、核酸(二本鎖および一本鎖DNAまたはRNAを含む)、プラスミド、タンパク質、ペプチド、抗体、酵素、ホルモン、成長因子、炭水化物および脂質、ならびにそれらの誘導体、組み合わせまたはポリマーを指す。本発明に係る「生物学的材料」は、天然起源または合成起源の材料であってもよい。「生物学的材料」は、限定されないが、血液、尿、脳脊髄液、精液、唾液、喀痰、便、組織または細胞等の生物学的試料から直接抽出、回収または取得してもよい。
【0087】
好ましい実施形態において、生物学的材料とは核酸を指す。
【0088】
(エマルジョンおよび液滴の集団)
「エマルジョン」とは、少なくとも2つの液体を含む組成物を指し、それぞれの液体は他方において実質的に非混和性であり、液体の一方(「分散相」と示す)は他方の液体(「連続相」と示す)中に分割されている。エマルジョンの分散相は、一般的に、コロイド、ミセル、カプセルおよび/または液滴の形態で懸濁されている。分散相および連続相は、一般的には完全に非混和性である。エマルジョンは、一般的に、1種以上の界面活性剤および/または乳化剤をエマルジョンに含有させることにより安定化される。
【0089】
一実施形態において、本発明はまた、シリコーンオイルおよび界面活性剤を含む連続油相中に分散された水相を含む液滴の集団に関する。
【0090】
「分散された水相」、「連続油相」および「界面活性剤」と題された前述の段落で詳述したすべての特徴は、エマルジョンおよび液滴の集団にも適用する。
【0091】
(デジタルPCR)
一実施形態において、生物学的材料を処理する工程は、好ましくはデジタルPCRによって、より好ましくは液滴中でのデジタルPCRによって、生物学的材料を増幅することを含む。
【0092】
デジタルPCRは以下の3つの技術を包含していると考えてもよい。
【0093】
・マイクロアレイにおけるデジタルPCR
マイクロ流体ベースのデジタルPCRがよく知られるようになり、より広く実践されるようになったため、2006年にFluidigm Corporationはこの技術を集積マイクロ流体回路として商品化した。BioMarkシステムは1275デジタルアレイという12個のパネルであるチップをベースにしており、各パネルは反応流体を765個の6-nLチャンバーに分割した。12のキャリアインプットを通してPCR反応ミックスをロードした後、チップはサーモサイクル(thermocycle)され、蛍光が検出され、シグナルはDigital PCR Analysisソフトウェアによって処理および分析された。
【0094】
・マイクロ液滴におけるデジタルPCR
反応あたりのコスト制限に対処しながら、スループットおよび感度をさらに向上させる代替的アプローチは、チャンバーベースのシステムよりも多くのパーティションを提供するフローフォーカシング(flow-focusing)によって、ピコリットルサイズの微小液滴リアクターを生成することであった。液滴はマイクロ流体システムで生成され、液滴内で1分子デジタルPCRを実行するためにサーモサイクルされ、エンドポイント増幅はリアルタイムの蛍光曲線で検出および定量される。これらの液滴ベースのラボオンチップシステムは、RNAゲノムの単一コピーを検出するための逆転写PCR(RT-PCR)の実行、および、単一液滴内での複数のターゲットに向けたマルチプレックス反応の実行にも適応された。
【0095】
この技術は、例えばQuantaLife, Inc.が2011年にQX100 ddPCR(商標)システムとして商品化した。ddPCR(商標)プラットフォームで使用されるマイクロ流体消耗品は、1チップあたり8サンプルまで対応可能で、1サンプルあたり14,000~16,000の液滴を生成した。
【0096】
・クリスタルデジタルPCR(Crystal Digital PCR)(商標)
先進的なデジタルPCR装置であるNaica(登録商標)システムは2016年にStilla Technologiesから発売された。このシステムは、液滴結晶とも呼ばれる液滴の大きな2Dアレイに、閉じ込め勾配を使用してサンプルを分割することでデジタルPCRを実施する。PCR反応は液滴結晶を構成する25~30,000個の液滴のそれぞれで起こり、エンドポイントで結晶の高解像度画像を撮影することにより蛍光リードアウト(read-out)が実施される。
【0097】
したがって、本明細書で使用される場合、用語「デジタルPCR」は、マイクロアレイにおけるデジタルPCR、マイクロ液滴におけるデジタルPCRおよびクリスタルデジタルPCR(商標)を包含するが、これらに限定されるものではなく、用語「液滴におけるデジタルPCR」は、マイクロ液滴におけるデジタルPCRおよびクリスタルデジタルPCR(商標)を包含する。
【0098】
一実施形態において、生物学的材料を処理する工程は、好ましくはデジタルPCRによって、より好ましくは液滴中のデジタルPCRによって、生物学的材料を増幅することを含む。
【0099】
(マイクロ流体デバイス)
本発明に係るシリコーンオイル/界面活性剤システムは、液滴チャンバーを含むマイクロ流体デバイスにおいて有利である。
【0100】
本発明に係るオイル/界面活性剤システムの密度比は、フッ素系システムと比較して反転しているため、PCRミックスが液滴チャンバーの近くに沈み、サンプルの無駄を防ぎ、デッドボリュームを最小限に抑えるため、チップローディングが容易になる。
【0101】
本発明に係るシステムは、例えば特許出願WO2020/109379およびWO2020/109388に記載されているOpalマイクロ流体デバイスにおいて特に有利である。
【0102】
Opalマイクロ流体デバイスは、少なくとも1つの入り口マイクロチャネル、1つの液滴チャンバー、1つの出口チャネル、およびサンプルの液滴を受け取るように構成されたローディングウェルを含む。
【0103】
フッ素系システムの場合、PCRミックスはマイクロ流体チップのローディングウェル内で浮遊する。そのため、PCRミックスがマイクロ流体チップ内に適切に注入されているかを確認するために、当該ミックスの沈殿(deposition)を検査する必要がある場合がある。さらに、ローディングウェル内の液滴の浮遊性により、ウェル内のミックス位置はチップの傾きに敏感である。
【0104】
逆に、本発明に係るシステムの場合、PCRミックスはマイクロ流体チップのインジェクターに近接したローディングウェル内に沈む。したがって、ミックス位置は傾斜の影響を受け難く、ミックスピペッティング後の検査は不要である。したがって、チップローディングが容易になる。
【0105】
さらに、密度比の反転により、PCRミックスも蒸発から保護されるため、チップローディングと処理との間の操作時間を延長することができ、シーリングオイルを分注する補助工程を省くことができる。これはまた、サンプルの無駄を防ぎ、デッドボリュームを最小化するための大きな改善でもある。
【0106】
本発明を以下の実施例によりさらに説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものとしていかなる意味においても解釈されるべきではない。
【実施例】
【0107】
[材料および方法]
(実施例1および2で使用したプロトコル)
・試薬である、PCRミックス(バッファAとB)、オリゴマスターミックス、H2O、およびDNAストックを解凍する。
・各チューブを十分にボルテックスし、少なくとも10秒間遠心する。
・以下のミックスを調製する。
【0108】
3つのOpalチップを使用し、3色ランの48の反応物には以下の設定を使用する。各反応の条件が確実に等しくなるように、48サンプルすべてのPCRミックスをバッチ混合で設定する。
【0109】
【0110】
・反応ミックスをボルテックスし、遠心分離する。
・各入口ポートにおいて7μLのOpalチップを使用する。
・「Opalテンプレート_PCR_45サイクル」プログラムを使用して、naica(登録商標)ジオード(Geode)で使用する。
・Prism3リーダーでチップを読みとる。
・Crystal Minerでデータを開き、3つのチャネルすべてでクラスター分離を確認し、試験した界面活性剤/オイル混合物のdPCRでの使用適合性を評価するための他の基準もすべて確認する。
【0111】
(実施例3で使用したプロトコル:3-プレックスアッセイ)
・試薬である、PCRミックス(バッファAとB)、オリゴマスターミックス、H2O、およびDNAストックを解凍する。
・各チューブを十分にボルテックスし、少なくとも10秒間遠心する。
・以下のミックスを調製する。
【0112】
3つのOpalチップを使用し、3色ランの48の反応物には以下の設定を使用する。各反応の条件が確実に等しくなるように、48サンプルすべてのPCRミックスをバッチ混合で設定する。
【0113】
【0114】
・反応ミックスをボルテックスし、遠心分離する。
・各入口ポートにおいて5μLのOpalチップを使用する。
・PCR45サイクルプログラムを使用して、naica(登録商標)ジオードで使用する。
・Prism3リーダーでチップを読みとる。
・Crystal Minerでデータを開き、3つのチャネルすべてでクラスター分離を確認し、試験した界面活性剤/オイル混合物のdPCRでの使用適合性を評価するための他の基準もすべて確認する。
・定量性および分離性のデータをエクセルファイルでエクスポートする。
【0115】
(実施例3で使用したプロトコル:6-プレックスアッセイ)
・試薬である、PCRミックス(バッファAとB)、オリゴマスターミックス、H2O、およびDNAストックを解凍する。
・各チューブを十分にボルテックスし、少なくとも10秒間遠心する。
・以下のミックスを調製する。
【0116】
3つのOpalチップを使用し、6色ランの48の反応物には以下の設定を使用する。各反応の条件が確実に等しくなるように、48サンプルすべてのPCRミックスをバッチ混合で設定する。
【0117】
【0118】
・反応ミックスをボルテックスし、遠心分離する。
・各入口ポートにおいて5μLのOpalチップを使用する。
・PCR45サイクルプログラムを使用して、naica(登録商標)ジオードで使用する。
・Prism6リーダーでチップを読みとる。
・Crystal Minerでデータを開き、3つのチャネルすべてでクラスター分離を確認し、試験した界面活性剤/オイル混合物のdPCRでの使用適合性を評価するための他の基準もすべて確認する。
・定量性および分離性のデータをエクセルファイルでエクスポートする。
【0119】
[結果]
(実施例1:液滴分析)
PCR実験の最初の設定において、8つの異なる界面活性剤をデカメチルテトラシロキサン中5%w/wの濃度で使用した。
【0120】
各界面活性剤につき4チャンバー(4回の繰り返し)について得られた結果を以下の表に示す。
【0121】
【0122】
試験した他の界面活性剤と比較して、ABE 3642は、液滴数および分析される量が有利に増加させた。2番目の実験セットでは、参照とするABE 3642とともに、3つの新規の界面活性剤が、デカメチルテトラシロキサン中1%w/w(以下に詳述)で、前述で使用された同じ手順に従ってスクリーニングされた。
【0123】
各界面活性剤につき16チャンバー(16回の繰り返し)について得られた結果を以下の表に示す。
【0124】
【0125】
最良の結果が得られたのはABE 3642であり、これは最も多くの液滴を得ることができるため、分析される量も最も多くなる。Silube J208-812およびSilube T310-A16も安定した油中水滴の生成に好適である一方、CMS-222では1%w/wでも0.1%w/wでも安定した液滴は観察されなかった。
【0126】
CMS-222は、下記式で表されるシロキサンブロック共重合体である。この界面活性剤では安定した液滴を得ることができない。
【化56】
【0127】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明に係る界面活性剤内の[B]ブロックのポリエチレングリコール鎖は、液滴が互いに接触するときに混合および合体することを防止するための重要なパラメーターであり、したがって他の界面活性剤と比較して液滴数および分析される量を増加させるための重要なパラメーターであるという仮説が成り立つ。本発明に係る界面活性剤内の[A]ブロックのアルキル鎖は、潜在的に、液滴が互いに接触するときに混合および合体することを防止するための重要なパラメーターでもあり、したがって、他の界面活性剤と比較して液滴数および分析される量を増加させるための重要なパラメーターでもある。
【0128】
ブロック[A]の界面活性剤の重量割合が界面活性剤の20重量%~40重量%の範囲にあり、ブロック[B]の界面活性剤の重量割合が界面活性剤の3重量%~10重量%の範囲にある場合に、最良の結果が得られた。
【0129】
(実施例2:界面活性剤濃度)
ABE 3642界面活性剤は、Opalチップにおいてデカメチルテトラシロキサン中0.05%~10%の濃度範囲で試験した。
【0130】
【0131】
2D単分子層の安定性は、界面活性剤濃度が0.5%w/w以上(上表に記載)のときに観察されるが、5%w/wを超える濃度は生体適合性に有害である可能性がある(界面活性剤濃度が高過ぎることによりPCRが阻害される可能性がある)。
【0132】
(実験例3:分子生物学的適合性実験)
液滴数に加えて、dPCRによる定量精度、および、異なる集団間の蛍光シグナルの分離可能性も評価した。これらの実験はすべて、デカメチルテトラシロキサン中1%(w/w)のABE 3642を使用して行った。
【0133】
定量精度は、フッ素系ケミストリーで満たされたOpalチップによって得られた結果との比較によって直接評価した。
【0134】
各チャネルについて、ネガティブである液滴(negative droplet)とポジティブである液滴(positive droplet)との間に満足のいく分離性が観察された(naica(登録商標)Digital PCR suiteのCrystal Minerソフトウェアによって計算された分離性指標>4)。フッ素系化合物で満たされたチップで得られた基準濃度と比較して、定量のずれは観察されなかった。
【0135】
上述の3-プレックスアッセイに加えて、6-プレックスアッセイも実施し、オイル/界面活性剤混合物と他の生物学的対象物との適合性を確認した。この6-プレックスアッセイでは、Phage Lambda(青色チャネル)、PhiX174(青緑色チャネル)、pUC18 MCS L1(緑色チャネル)、pBR 322(黄色チャネル)、Entero Cloaca(pUC57をベースにしたカスタムプラスミド、赤色チャネル)、およびALB(赤外線チャネル)を使用した。定量精度は、標的濃度との比較により評価した。
【0136】
6つのチャネルすべてについて、ネガティブである液滴とポジティブである液滴との間に十分な分離性が観察された(分離性>4)。目標濃度と比較して、定量のずれは観察されなかった。
【0137】
(実施例4:チップローディングとチップ処理との間の使用時間の評価)
フッ素系システム(Opalチップ)およびケイ素系システム(DMS-T01.5中の1%のABE 3642)の比較試験を行い、チップローディングと処理との間のインキュベーション時間の影響を評価した。このために、各チップのチャンバーにPCR混合物を2分間隔でロードし、最初にロードしたチャンバーではチップロードとPCRとの間に26分間のインキュベーションを行い、最後にロードしたチャンバーでは直ちにPCRを行った。化学システムあたり2つのチップを、3-プレックスアッセイ検証および実施例3に記載された関連プロトコルで処理した。
【0138】
フッ素系システムでは、注入前のPCRの蒸発によると思われるが、インキュベーション時間により算出された濃度において明らかな増加が観察されたのに対し、ケイ素系システムでは算出された濃度は安定したままであった(すなわち、フッ素系システムでは26分後に緑チャネルで25%の増加が観察されたが、ケイ素系システムではずれは観察されなかった)。
【0139】
フッ素系システムとの比較研究に加え、ケイ素系システム(DMS-T01.5中のABE 3642 1%)を使用して、チップローディングとPCRとの間のインキュベーション時間の延長について評価した。チップは同時にロードされ、室温で6時間または10時間インキュベートした後にdPCRで処理された。算出された濃度の変化を、ロードした直後にチップを処理したときの結果と比較して評価した。これらの試験には、3-プレックスバリデーションアッセイ、および、実施例3で記載した関連プロトコルも使用した。
【0140】
24チャンバーについて結果が得られた。液滴が10K未満のチャンバーは分析前に除外した。
【0141】
【0142】
チップローディングおよびdPCR処理の間、室温で6時間および10時間インキュベートした後、3つのチャネルで定量において10%未満のわずかなずれが観察された。
【0143】
これらの結果は、本発明に係るケイ素系ケミストリーシステムにより、チップローディングおよび処理の間の操作時間を、従来技術のフッ素系システムとは反対に延長できることを立証している。
【国際調査報告】