(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-12
(54)【発明の名称】酸化還元メディエータのカプセル化
(51)【国際特許分類】
C09D 11/037 20140101AFI20241205BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20241205BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20241205BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C09D11/037
H01M8/16
H01M4/88 C
H01M4/96 B
H01M4/96 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536426
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2022085838
(87)【国際公開番号】W WO2023111010
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524229451
【氏名又は名称】ビーイーエフシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソラン,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】セブロン,マリウス
(72)【発明者】
【氏名】ブサック,エリーゼ
(72)【発明者】
【氏名】トラッソ,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ブロッホ,ジャン-フランシス
(72)【発明者】
【氏名】ハモンド,ジュール
【テーマコード(参考)】
4J039
5H018
【Fターム(参考)】
4J039BA02
4J039BC63
4J039BE01
4J039DA02
5H018AA01
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE08
5H018EE16
5H018EE17
5H018HH03
5H018HH08
(57)【要約】
本発明は、印刷型生体電極を作製するための生体活性インク配合物の調製方法、及び生分解性酵素燃料電池へのそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体活性インク配合物を調製するための方法であって、前記方法が以下のステップ:
a)酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料をポリマー結合剤と水中で混合する;及び
b)オキシドレダクターゼを、ステップa)の前記混合物に混合して、前記生体活性インクを形成する、
を含む方法。
【請求項2】
生体電極を調製するための方法であって、前記方法が以下のステップ:
a)請求項1に記載の方法に従って生体インク配合物を調製する;
b)ステップa)の前記生体活性インクを基材上にコーティングする;及び
c)ステップb)のコーティングされた前記基材を乾燥させる
を含む方法。
【請求項3】
前記ポリマー結合剤が、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、又はポリアクリル酸からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料の前記酸化還元メディエータが、キノン類、フェロセン、ビオロゲン類、アジン類からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップb)の前記混合物が、3%未満の酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)の前記混合物が、0.1~5%のオキシドレダクターゼを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記コーティングするステップが、5~40μmの厚さで前記生体活性インク配合物の層を前記基材上に堆積させることによって行われる、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記基材が、炭素系材料又はセルロース系材料からなる群から選択される、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記基材が、紙基材上に集電材インクで予めコーティングされ、120℃で乾燥されたものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記乾燥させるステップが、25℃~40℃で行われる、請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法によって得られる、生体活性インク配合物。
【請求項12】
酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料、水中のポリマー結合剤、及びオキシドレダクターゼを含む、請求項11に記載の生体活性インク配合物。
【請求項13】
電極材料、特に生体電極としての、請求項11又は12に記載の生体活性インク配合物の使用。
【請求項14】
前記生体電極が、請求項11又は12のいずれかに記載の生体活性インク配合物を含む
、請求項2に記載の方法によって得られる生体電極。
【請求項15】
請求項14に記載の生体電極を含む、生分解性酵素燃料電池。
【請求項16】
請求項15に記載の生分解性酵素燃料電池を含む、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷型生体電極を作製するための生体活性インク配合物の調製のための、メソポーラスカーボンにカプセル化された酸化還元メディエータ(すなわち、酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料)の使用、及び生分解性酵素燃料電池へのそれらの使用に関する。
【0002】
以下の説明では、角括弧([])内の参照は、本文末尾の参考文献のリストを指す。
【背景技術】
【0003】
生物燃料電池(バイオ燃料電池)は、環境に優しく持続可能な電力を電子デバイスに、特にヘルスケア、環境モニタリング、バイオディフェンスなどの用途のための小型携帯デバイスに提供する魅力的な手段を提供する。酵素ベースの燃料電池は、微生物燃料電池よりも優れていることが多い電力密度を示しながら、生体液及び環境排出物(すなわち、グルコース及び酸素)中の豊富な基質を使用して動作することができることを考慮すると、これらは小型化されたウェアラブル又は埋め込み可能なデバイスを増強又は自己給電するための魅力的な提案を提供する[1、2、3]。更に、紙ベースのデバイスは、低質量であり、フォームファクターが小さく、柔軟性があるため、これらのタイプの用途のための提案として人気を得ており、様々な異なる表面に適合することを可能にしている。
【0004】
この技術の核心は、燃料の触媒作用を保証する一対の酸化還元酵素に基づいている。酸化還元酵素は、基質から補助基質へ電子を移動させることができる活性型酸化還元補因子を含むタンパク質構造(アポ酵素)を有する。酸化還元タンパク質がこれらの電子を電極と交換し、次いで、基質又は補助基質を置換することができる場合、これは、直接電子移動(direct electronic transfer、DET)プロセスと呼ばれる(
図1)。
【0005】
この現象は、30年以上前から知られており、多くのタンパク質で観察されているが、このDETを観察することが常に可能であるとは限らない。実際、研究対象の酸化還元タンパク質及び電極材料によっては、直接的な電子交換が常に有利であるわけではない。生体電極触媒現象を観察できるようにするために、電子輸送体として機能する酸化還元分子(低分子量であることが多い)を添加する必要がある。これは、媒介電子移動(mediated electron transfer、MET)であり、「シャトル」として使用される分子は、一般的に酸化還元メディエータと呼ばれる(
図1)。
【0006】
電子移動モード(DET又はMET)は、非常に多くの場合、使用される生体分子及び電極材料に固有である。
【0007】
バイオ燃料電池の開発において一般的に使用される非常に多種多様な酸化還元メディエータが存在する。最もよく知られているものの中で、金属錯体(オスミウム錯体、フェロセン)、キノン類、アジン類、又はビオロゲン型の誘導体がある。
【0008】
したがって、酸化還元メディエータとして好適な候補であるためには、酸化還元プローブは、いくつかの基準を満たさなければならない。
-このメディエータの電位は、生体触媒反応を熱力学的に有利にするものでなければならない。すなわち、その電位は、アノードにおける酵素の電位よりも高くなければならず、逆に、カソードにおける酵素の電位よりも低くなければならない。(
図2)。
-その酸化還元系は、可逆的でなければならない。
-酵素/メディエータ電子移動は、良好な電極触媒作用を可能にするために効率的でなければならない。
-酸化還元プローブの化学構造は、酵素と電極との間のメディエータの役割を果たすことができるように、タンパク質構造に埋め込まれている酵素の活性部位に「アクセス」することができるように、特定のサイズを考慮しなければならない。
【0009】
グルコースオキシダーゼ(glucose oxidase、GOx)は、当初、バイオテクノロジーの分野、特にバイオセンサの分野において広く使用されていた。数年後には、これはグルコース/O2バイオ燃料電池の話題の一角を占めるようになった。実際、異なる電極材料(カーボンナノチューブ、ナノ粒子、グラフェン、ナノファイバー)を使用して、この酵素を用いてアノード電極を作製することが可能であることがすぐに実証された。しかしながら、今日まで、この酵素を用いてDETを得ることは、そのサイズ及びそのアクセス困難なFAD/FADH2活性部位のため、依然として困難である。
【0010】
タンパク質を修飾することなくGOxを用いてDETを得ることが困難であることを考慮して、多くの研究が、1980年代後半から、酸化還元メディエータを使用する電子移動に焦点を当ててきた。バイオ燃料電池の生産において一般的に使用される非常に多種多様な酸化還元メディエータが存在する。最もよく知られているものの中で、金属錯体(オスミウム錯体、フェロセン)、キノン類、アジン類、又はビオロゲン型の誘導体がある。GOx以外の他の酵素も、例えば、乳酸オキシダーゼ又はサルコシンオキシダーゼなどの酸化還元メディエータの使用を必要とし得ることに留意されたい[4]。
【0011】
媒介は通常、水溶液中の両方の種(酵素とメディエータ)で起こる。
【0012】
これまでの研究において、フェロセン及び誘導体[5]、フェロ/フェリシアン化物[6]、並びにキノン誘導体[7]は、酸化還元メディエータとして応用されてきた。他の既知のメディエータとしては、メチレンブルー、プルシアンブルー、フェナジン、メチルバイオレット、及びトルイジンブルーが挙げられる[8]。しかしながら、通常、このようなメディエータには、それらの不溶性という問題がある。例えば、アノード反応のための酸化還元メディエータとしてのフェナントレンキノン(phenanthrenequinone、PQ、
図3)の使用は、この分子の水及びアルコールへの非常に低い溶解度によって制限され、したがって、過剰に添加することはできない。更に、溶液中でさえ、媒介信号は、酵素及び/又は電極表面から離れたメディエータの拡散に起因して、数時間後には失われる。この分子を水性配合物に組み込むことは、紙基材上に直接印刷するのにも問題がある。一方では、その不溶性のために良好な分散液を得ることを可能にせず、他方では、この構成において、PQの量の大部分が印刷時に紙中に拡散し、酵素との媒介のために失われる。記載されることが多い1つの戦略は、メディエータの溶解度を増加させるためのアセトニトリル(純品又は水との混合物)などの有機溶媒の添加である[9]。しかしながら、この戦略は、バイオベースの燃料電池用途には有効ではない。
【0013】
したがって、先行技術の酸化還元メディエータの不溶性による先行技術の欠点を有さない、新規な酸化還元メディエータ系を提供する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0014】
したがって、本発明者らは、酸化還元/メソポーラスカーボンナノ複合材料(本明細書で定義される溶融拡散蒸発戦略[10,11,12]によってメソポーラスカーボン構造内に捕捉された酸化還元メディエータを含む)を生体活性インク配合物に実装して、印刷型バイオアノードを作製することによって、技術的問題を解決した。メディエータのカプセル化は、インク中のメディエータの貯留を可能にする。生体電池のライフサイクルの間、メソ細孔の周りのメディエータの局所的過飽和が維持される。これにより、(i)ナノ
複合材料をメディエータリザーバとして使用することによって、少なくとも酵素/メディエータ比を150倍(インク配合物中でメディエータを単独で使用する場合と比較して)増加させ、(ii)有機溶媒の使用を回避し、溶液を環境に優しいものにすることが可能になる。したがって、メソポーラスカーボンの近接環境は、常にメディエータで飽和されており、紙(すなわち、電極の支持体)に常に移動しているメディエータは、メソポーラスカーボンに捕捉されたメディエータ放出によって常に補償される。メディエータのこのゆっくりとした漸進的な放出は、バイオアノードをより永続的にする(そのサイクル寿命の増加)。
【0015】
不溶性酸化還元メディエータをメソポーラスカーボン構造に組み込み、酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料を提供することが知られている。次いで、これらのナノ複合材料は、グルコース酸化のバイオアノードシートの実現のための電極材料として使用される。この材料の実現は、メソポーラスカーボンの存在下で、メディエータがその溶融点(T溶融)を超えるに至る熱処理を経るものであり、例えば、((T沸騰-T溶融)/4)+T溶融として評価されるものである[11]。このプロセスは、2つの段階に分けることができる。まず、酸化還元メディエータが溶融点に達し、炭素構造中のメソ細孔によって形成された空間を充填し始め、p-p相互作用を通じてメソポーラスカーボンの有効表面上に薄層を形成する。第2に、酸化還元メディエータの薄層が、p-p相互作用を通じて有効表面上に形成され、過剰なメディエータが気化される(
図4)。メソ細孔のサイズ及び炭素の比表面積に応じて、より多くの又はより少ない量のメディエータを構造に組み込むことができる。有利なことに、メディエータの酸化還元信号は、固定化溶液中の溶液としてそれを配合することと比較して、より長い時間持続する。この持続は、技術水準よりも長い期間にわたって触媒電流を観測することを可能にする。
【0016】
「酸化還元メディエータ」という用語は、例えば、キノン類(9,10-フェナントレンキノン(PQ)、ナフトキノン、1-10フェナントロリン-5,6ジオンなど)、フェロセン、ビオロゲン類(メチルビオロゲンなど)、アジン類(メチレンブルー、メチレングリーン、アズールA、トリジンブルー、及びチオニンなど)からなる群から選択される、水及び潜在的にアルコールに不溶性である酸化還元メディエータを指す。
【0017】
「メソポーラスカーボン」という用語は、多孔性のIUPAC分類に従って、2~50nmの範囲の細孔を有する材料を指す。活性炭及び分子ふるい炭素を含む従来の多孔性炭素材料は、一般的に、水酸化カリウムを通じた活性化又はハロゲンガスによる炭化物中の金属イオンの選択的エッチングを通じた、石炭、ポリマー、及び炭化物などの適切な炭素前駆体を用いる熱分解プロセスを使用して合成される[13]。主な製造業者は以下の通りである。Kuraray、BASF、Cabot Norit、Jacobi、Carbons Ingevity Corporation、Dow Corning、Toyo Tanso、Wacker Chemicals、Shin-Etsu、Momentive Performance Materials、Honeywell International、Axens、CECA(Arkema)、Zeolyst、Fujian Yuanli Active Carbon、Gelest、ADA-ES、Haycarb、Clariant、CHALCO、Huber。例えば、メソポーラスカーボンは、カーボンブラック(KB600JD、CAS番号:1333-86-4)からなる群から選択される。
【0018】
「溶融拡散蒸発戦略」という用語は、酸化還元メディエータ(例えば、PQ)とメソポーラスカーボンとの異なる重量比の混合物を、酸化還元メディエータの溶融点(T溶融)と沸騰点(T沸騰)との間で(すなわち、PQについては200℃と360℃との間で)、空気中(例えば、PQについては約240℃で)で3時間加熱することを意味する。溶融した酸化還元メディエータは、毛管力によって細孔内に吸収された。しかしながら、加
熱後には、酸化還元メディエータとメソポーラスカーボンとの間のp-p相互作用により、炭素細孔の表面に吸着された酸化還元メディエータのみが残存し、p-p相互作用のない酸化還元メディエータ残渣は、酸化還元メディエータの蒸気圧が高いため、空気流とともに蒸発し、除去された。したがって、冷却後、酸化還元メディエータの固化は、炭素粒子間の密接な接触を有する炭素粒子内に閉じ込められた酸化還元メディエータを形成した。
【0019】
「生体電極」という用語は、燃料(例えば、グルコース)を酸化又は脱水素し、それによって電子を生成するための、オキシドレダクターゼ(例えば、その活性部位が酵素のコアに位置しアクセスできないことがあるため、直接電子移動(DET)を可能にするために、酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料の形態の酸化還元メディエータを有する)、特にオキシダーゼ又はデヒドロゲナーゼから構成される電極を意味する。例えば、それはバイオアノードである。
【0020】
したがって、本発明の目的は、生体活性インク配合物を調製するための方法であって、前記方法は以下のステップ:
a)酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料をポリマー結合剤と水中で混合する;及び
b)オキシドレダクターゼを、ステップa)の混合物に混合して、生体活性インクを形成する
を含む。
【0021】
本発明の特定の実施形態によれば、オキシドレダクターゼは、オキシダーゼ、例えば、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼなどである。
【0022】
したがって、本発明の別の目的は、生体電極を調製するための方法であって、前記方法は以下のステップ:
a)上述のように生体インク配合物を調製する;
b)ステップa)の生体活性インクを基材上にコーティングする;及び
c)ステップb)のコーティングされた基材を乾燥させる
を含む。
【0023】
本発明の方法の特定の実施形態によれば、ポリマー結合剤は、水溶性ポリマー、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、又はポリアクリル酸からなる群から選択される。
【0024】
本発明の方法の特定の実施形態によれば、ステップb)の混合物は、5%未満の酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料、好ましくは、3%未満の酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料を含む。
【0025】
本発明の方法の特定の実施形態によれば、ステップb)の混合物は、約0.1~5%、0.3~4%、0.5~2%のオキシドレダクターゼ、好ましくは、約1%のオキシドレダクターゼを含む。
【0026】
本発明の方法の特定の実施形態によれば、コーティングするステップは、5~40μmの厚さを有する生体活性インク配合物の層を基材上に堆積させることによって行われる。
【0027】
本発明の方法の特定の実施形態によれば、基材は、バッキーペーパー(BP)などの炭素系材料又は紙などのセルロース系材料からなる群から選択される。具体的には、基材は
、紙基材上に集電材インクで予めコーティングされ、約200℃、好ましくは約150℃、更により好ましくは約120℃で乾燥される。
【0028】
本発明の方法の特定の実施形態によれば、乾燥するステップは、約25℃(室温)~40℃の温度で行われる。
【0029】
本発明の別の目的は、本発明の方法によって得られる生体活性インク配合物である。具体的には、生体活性インク配合物は、酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料、水中のポリマー結合剤、及びオキシドレダクターゼを含む。生体活性インク配合物は、電極材料、特に生体電極において使用することができる。
【0030】
本発明の別の目的は、本発明の方法によって得られる生体電極である。生体電極は、例えば、酵素バイオ燃料電池又は細菌燃料電池などの燃料電池に使用することができる。当該燃料電池は、例えば、電子デバイス、特にヘルスケア、環境モニタリング、バイオディフェンスなどの用途のための小型携帯デバイスなどのデバイスに使用することができる。また、生体電極は、バイオセンサ用途に使用することができる。
【0031】
したがって、本発明の別の目的は、本発明の生体電極を含む生分解性酵素燃料電池、及び当該生分解性酵素燃料電池を含む電子デバイスである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】基質の酸化中の、電気化学的に活性な酵素の活性部位と固体電極との間の、(A)直接電子移動(DET)及び(B)媒介電子移動(MET)の簡単な配置の概略図である。
【
図3】9,10-フェナントレンキノン構造を表す。
【
図5-1】(A)サイクル2の新しい電極の酸化還元応答を示すサイクリックボルタモグラムを表す。(正方形)KB600JD中にPQを有するアノード(円形)KB600JD中にPQを有さないアノード(三角形)KB600JD中にPQを有さないが活性化液中に飽和したPQを有するアノード。
【
図5-2】(B)サイクル92の劣化した電極の酸化還元応答を示すサイクリックボルタモグラムを表す。(正方形)KB600JD中にPQを有するアノード(円形)KB600JD中にPQを有さないアノード(三角形)KB600JD中にPQを有さないが活性化液中に飽和したPQを有するアノード。
【
図6】異なるPQ/KB600JD比を含有する電極の酸化還元応答を示すサイクリックボルタモグラムを表す。(十字)KB600JD中にPQを20%有するアノード(円形)KB600JD中にPQを70%有するアノード(正方形)KB600JD中にPQを120%有するアノード。
【
図7-1】(A)1~20サイクルのサイクリックボルタンペロメトリを表す。
【
図7-2】(B)20~50サイクルのサイクリックボルタンペロメトリを表す。
【
図7-3】(C)50サイクル後のサイクリックボルタンペロメトリを表す。
【
図8-1】(A)サイクル2を参照するバッキーペーパー(BP)を用いた電極F62D/F64Dの酸化還元応答を示すサイクリックボルタモグラムを表す。(円形)F64D(十字)BP(三角形)F62D
【
図8-2】(B)サイクル20を参照するバッキーペーパー(BP)を用いた電極F62D/F64Dの酸化還元応答を示すサイクリックボルタモグラムを表す。(円形)F64D(十字)BP(三角形)F62D
【実施例】
【0033】
実施例1:酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料の調製[9]
選択されたメディエータに対するプロトコル
9,10-フェナントレンキノン(PQ)/メソポーラスカーボン(カーボンブラック(KB600JD))ナノ複合材料を、溶融拡散-気化法に従って調製した。プロセス温度は、メディエータの溶融点と沸騰点との間に設定された。実験的に、2つの高温は、効率を低下させ、蒸気形態における材料の損失を引き起こした。
【0034】
【0035】
最初に、カーボンブラック(KB600JD)及び9,10-フェナントレンキノン(1:1の比率に対して各1g)を、実験室規模では手動で、又はより多くの量については3Dミキサーを用いて一緒に粉砕し、実験室規模では手動で、又はより多くの量については油圧プレスを用いてペレット化し、次いで240℃のオーブンで、空気中で3時間加熱した。9,10-フェナントレンキノンがその溶融点に達すると、それは、KB600JD炭素構造中のメソ細孔によって形成される空間を充填し始めた。次いで、p-p相互作用を通じて、KB600JD炭素構造の有効表面(BET法による比表面積の測定(m2/g))上に9,10-フェナントレンキノンの薄層を形成し、過剰なメディエータを蒸発させた。
【0036】
他の酸化還元メディエータ(例えば、フェロセン)は、それらの分解温度がそれらの溶融点及び沸騰点よりも高い限り、同じ方法で充填することができる。
【0037】
異なるメソポーラスカーボン
4つの異なる炭素を評価し、同じ比率の9,10-フェナントレンキノン(PQ)を担持させた。
【0038】
PQとメソポーラスカーボンとの重量比(1:1)の混合物を、空気中、240℃で3時間、PQの溶融点(200℃)と沸騰点(360℃)の間で加熱した。溶融したPQは毛管力によって細孔内に吸収された。しかしながら、加熱後には、PQとメソポーラスカーボンとの間のp-p相互作用により、炭素細孔の表面に吸着したPQのみが残存し、p-p相互作用のないPQ残渣は、PSの蒸気圧が高いため、空気流とともに蒸発し、除去された。したがって、冷却後、PQの凝固は、炭素粒子間の密接な接触を有する炭素粒子内に閉じ込められたPQを形成した。
【0039】
【0040】
メソ細孔径及び温度に対する質量損失
上述した手順と同じ手順を適用し、初期と処理後との間の重量比較を行った。
【0041】
【0042】
メソポーラスカーボンにおける9,10-フェナントレンキノン(PQ)の質量損失は、表面積と相関するようである。表面が少ないほど、PQの大部分が失われた。同様に、温度が高すぎるか又は溶融点から離れた場合、質量損失が急激に増加し、メディエータの大部分が失われ、蒸気の形態で構造から逃れた。
【0043】
実施例2:酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料を使用した結果
メソポーラスカーボン(ブラックカーボンKB600JD)中に9,10-フェナントレンキノン(PQ)を含む配合物及び含まない配合物
バイオアノード構成における酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料を試験するために、ナノ複合材料を含むスラリーを紙基材上に直接コーティングすることによって電極を作製した。
【0044】
スラリーは、酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料又はメソポーラスカーボン単独をポリマー結合剤と水中で混合することによって作られた。結合剤は、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、又はポリアクリル酸(水溶性ポリマー)であり得る。スラリーは、3%の酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料(又は3%のメソポーラスカーボン単独)、0.3%のポリマー、1%のGox酵素、及び95.7%の水を含有し、したがって生体活性インク配合物を形成した。40℃で乾燥させた後に電極を構成する均質層を得るために、分散液をドクターブレードで基材上にコーティングした。
【0045】
電気化学的特性評価は、3つの電極構成:作用電極=バイオアノード、対電極=白金ワイヤ、及びAg/AgCl参照電極におけるポテンシオスタットを用いて行われた。触媒電流は、各ボルタモグラムにおいて0.2Vで評価した。
【0046】
【0047】
図5Aは、新しい電極(サイクル2における)によるバイオアノードの活性を表した。サイクリックボルタモグラムは、PQを含有する電極又は含有しない電極の酸化還元応答を示した。示されたサイクリックボルタモグラムは、定常状態の動作で得られたものである(2mV.s-1の走査)。性能測定基準は、以下の通りであった。
-円形:KB600JD中に0%のPQを有するアノード→サイクル2における触媒ピーク電流=0.22mA
-正方形:KB600JD中にPQを有するアノード→サイクル2における触媒ピーク電流=0.27mA
-三角形:KB600JD中に0%のPQを有するが、活性化液中に飽和したPQ(3.6×10-5M)を有するアノード→サイクル2における触媒ピーク電流=0.11mA。
【0048】
結果は、PQを含有するメソポーラスが、PQを含まないメソポーラス又は活性化溶液中の直接のPQよりも高い触媒活性を示すことを示した。
【0049】
図5Bは、劣化した電極(サイクル92における)を有するバイオアノードの活性を表した。サイクリックボルタモグラムは、PQを含有する電極又は含有しない電極の酸化還元応答を示した。示されたサイクリックボルタモグラムは、定常状態の動作で得られたものである(2mV.s-1の走査)。性能測定基準は、以下の通りであった。
-円形:KB600JD中に0%のPQを有するアノード。サイクル92におけるメディエータピーク電流=0.1mA。
-正方形:KB600JD中にPQを有するアノード。サイクル92におけるメディエータピーク電流=0.15mA。
-三角形:KB600JD中に0%のPQを有するが、活性化液中に飽和したPQ(3.6×10-5M)を有するアノード。サイクル92におけるメディエータピーク電流=0.10mA。
【0050】
結果は、PQを含有するメソポーラスが、33時間の動作時間後に、PQを含まないメソポーラス又は活性化溶液中の直接のPQよりも高い触媒活性を依然として示すことを示した。
【0051】
KB/PQ比
炭素構造の部分的/完全な充填の効果を評価するために、いくつかの炭素とメディエータとの比率も実施された。
【0052】
上記と同じ調製物を調製したが、以下のようにPQとKB600JDとの比率を変えた。
【0053】
【0054】
電気化学的特性評価を上述のように行った。
【0055】
【0056】
図6は、異なるPQ/KB比を含有する電極の酸化還元応答を示すサイクリックボルタモグラムを表した。示されたサイクリックボルタモグラムは、定常状態の動作で得られたものである(2mV.s-1の走査)。性能測定基準は、以下の通りであった。
-十字:KB600JD中に20%のPQを有するアノード→サイクル9におけるメディエータピーク電流=0.12mA
-円形:KB600JD中に70%のPQを有するアノード→サイクル9におけるメディエータピーク電流=0.18mA
-正方形:KB600JD中に120%のPQを有するアノード→サイクル9におけるメディエータピーク電流=0.20mA
【0057】
予想通り、より高濃度のPQは、メディエータからのより高い電流応答を示した。
【0058】
実施例3:酸化還元メディエータ/メソポーラスカーボンナノ複合材料の酸化還元信号の持続性
比較例 F64DとF62D
上述したのと同じプロトコルを行ったが、この場合、上記で定義した配合物F64D及びF62Dの両方について、触媒電流及びメディエータ電流の両方の変化を追跡した。
【0059】
サイクル1と20の間:減少
結果は
図7Aに表される。
【0060】
サイクル20と50の間:増加
結果は
図7Bに表される。
【0061】
【0062】
有利なことに、メディエータ信号及び触媒電流は、両方のメディエータ濃度について、数時間の動作後に安定した。更に、KB/PQ比が1であるF62D配合物は、最初のサイクルでF64D配合物(0.66のKB/PQ)よりも高い触媒電流を示した。50サイクルから、両方の配合物は、同一の触媒電流を示した。
【0063】
F62D/F64DとBP(バッキーペーパー)との比較
バッキーペーパー(BP)電極は、技術水準による参照として考慮される。
【0064】
従来、メディエータは、ドロップキャスティングによって炭素電極の表面上に直接堆積されていた。乾燥後、酵素(Aspergillus niger由来のグルコースオキシダーゼ、Sigma Aldrich社製)を含有する溶液も同じ方法によって堆積させ、乾燥させた。当該参照BPにおいて使用された懸濁液は、0.25mMのPQを含有し、約4.16μg/cm2の乾燥堆積物に相当した。
【0065】
使用した酵素溶液を、約1.25mg/cm2の乾燥堆積物に相当する15.625mg/mlに濃縮した。
【0066】
次いで、酵素とメディエータとの比率は、300であった。
【0067】
F62D配合物は、PQ(1:1)で官能化された3%のKB炭素及び1%の酵素から構成された。この場合、堆積後、約1mg/cm2の酵素量及び約1.5mg/cm2のPQ量が得られた。
【0068】
次いで、酵素とメディエータとの比率は、0.66であった。
【0069】
F64D配合物については、酵素とメディエータとの比率は、1であった。
【0070】
【0071】
図8Aでは、同等の酵素負荷におけるバッキーペーパー電極を用いて、2つの比率を有する官能化メソポーラスカーボンを比較した。
図8Aは、新しい電極の触媒応答を示した。示されたサイクリックボルタモグラムは、定常状態の動作で得られたものである(2mV.s-1の走査)。性能測定基準は、以下の通りであった。
-F64D(比率0.66):触媒電流サイクル#2=0.07mA
-F62D(比率1):触媒電流サイクル#2=0.27mA
-アノードバッキーペーパー(比率300):触媒電流サイクル#2=0.07mA
【0072】
図8Bでは、本発明者らは、同等の酵素負荷におけるバッキーペーパー電極を用いて、2つの比率を有する官能化メソポーラスカーボンを比較した。
図8Bは、劣化した電極(7時間の活性)の触媒応答を示した。性能測定基準は、以下の通りであった。
-F64D(比率0.66):触媒電流サイクル#20=0.09mA
-F62D(比率1):触媒電流サイクル#20=0.17mA
-アノードバッキーペーパー(比率300):触媒電流サイクル#20=0.05mA
【0073】
印刷型アノードとは異なり、バッキーペーパー上へのドロップキャストによって作られた電極は、成長相又は安定化相を有さなかった。触媒信号は、着実に減少した。
【0074】
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