(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-12
(54)【発明の名称】マグネシウム二次電池に用いる電解液、その調製方法及びマグネシウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20241205BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20241205BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241205BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/054
H01M10/0569
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541140
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 CN2022137121
(87)【国際公開番号】W WO2023151362
(87)【国際公開日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】202210134125.8
(32)【優先日】2022-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513322718
【氏名又は名称】清華大学
【氏名又は名称原語表記】TSINGHUA UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】1 Qinghuayuan, Haidian District, Beijing 100084, China
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】張 躍鋼
(72)【発明者】
【氏名】肖 建華
(72)【発明者】
【氏名】范 海燕
(72)【発明者】
【氏名】張 馨心
(72)【発明者】
【氏名】林 起源
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK05
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
(57)【要約】
本願は電解質塩と非水溶媒を含むマグネシウム二次電池に用いる電解液、その調製方法及びマグネシウム二次電池を提供する。
【解決手段】 電解液は電解質塩と非水溶媒を含み、電解質塩は[Mg
xM
2x-1P
y][Mg(OR
F)
3Q
z]を含み、xは1~6の間の整数を表し、yは1~6の間の整数を表し、zは0~6の間の整数を表し、Mは-1価イオンを表し、R
Fはそれぞれ独立して、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6の脂肪族炭化水素基、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC6~C12の芳香族炭化水素基を表し、PとQは錯化剤を表す。本願により提供された電解液は優れた電気化学的性能を有すると同時に、電解液と負極との間の界面安定性も高い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質塩と非水溶媒を含み、
前記電解質塩は[Mg
xM
2x-1P
y][Mg(OR
F)
3Q
z]を含み、
xは1~6の間の整数を表し、
yは1~6の間の整数を表し、
zは0~6の間の整数を表し、
Mは-1価イオンを表し、
R
Fはそれぞれ独立して、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6の脂肪族炭化水素基、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC6~C12の芳香族炭化水素基を表し、
PとQは錯化剤を表し、好ましくは、PとQは同じである、マグネシウム二次電池用電解液。
【請求項2】
前記電解質塩の陽イオンは[Mg
xM
2x-1P
y]
+を含み、陰イオンは[Mg(OR
F)
3Q
z]
-を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
MはF
-、Cl
-、Br
-、I
-、HMDS
-、CF
3
-、(CF
3SO
2)
2N
-のうちの1種類又は数種類を表し、好ましくは、F
-、Cl
-、Br
-、I
-のうちの1種類又は数種類であり、及び/又は、
R
Fは、それぞれ独立して、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6のアルキル基、フェニル基、C6~C12のアルキルフェニル基、C6~C12のフェニルアルキル基を表し、好ましくは、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、n-プロピルフェニル、t-ブチルフェニル、フェニルメチル、フェニルエチルを表し、及び/又は、
前記非水溶媒、前記錯化剤P、前記錯化剤Qはそれぞれ独立して、イオン液体、第1の有機溶媒のうちの1種類又は数種類を表し、好ましくは、前記非水溶媒、前記錯化剤P、前記錯化剤Qは同じである、請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
前記イオン液体は、イミダゾール系イオン液体、ピペリジン系イオン液体、ピロール系イオン液体のうちの1種類又は数種類を含み、
好ましくは、前記イミダゾール系イオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩のうちの1種類又は数種類を含み、
好ましくは、前記ピロール系イオン液体は、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩を含み、
好ましくは、前記ピペリジン系イオン液体は、N-ブチル-N-メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩を含み、及び/又は、
前記第1の有機溶媒は、エーテル系溶媒、イミダゾール系溶媒、ピリジン系溶媒、スルホン系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒のうちの1種類又は数種類を含み、
好ましくは、前記エーテル系溶媒は、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのうちの1種類又は数種類を含み、
好ましくは、前記ピリジン系溶媒は、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ジクロロピリジン、2-アミノピリジンのうちの1種類又は数種類を含み、
好ましくは、前記エステル系溶媒は、炭酸エチレン、酢酸エチルのうちの1種類又は数種類を含む、請求項3に記載の電解液。
【請求項5】
前記電解液における[Mg
xM
2x-1P
y][Mg(OR
F)
3Q
z]の濃度は0.1mol/L~1.2mol/Lであり、好ましくは、0.1mol/L~0.8mol/Lである、請求項1に記載の電解液。
【請求項6】
Mg(OR
F)
2、無水MgM
2及び非水溶媒を提供するステップS100と、
Mg(OR
F)
2、無水MgM
2及び非水溶媒を混合した後、25
oC~100
oCで反応させて電解液を得るステップS200と、を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解液の調製に用いる方法。
【請求項7】
S200において、反応時間は3h~48hである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
無水MgM
2に対するMg(OR
F)
2のモル比は1:(0.5~3.0)であり、好ましくは、1:(0.8~2.0)である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
Mg(OR
F)
2は以下の調製方法により得られ、
第2の有機溶媒にHOR
FとMgR
2を混合した後、0
oC~200
oCで反応させ、乾燥により第2の有機溶媒を除去し、Mg(OR
F)
2を得、
MgR
2はマグネシウムアルコキシド又はマグネシウムアルキル塩を表し、
好ましくは、MgR
2はマグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムプロポキシド、ジブチルマグネシウム又はエチル塩化マグネシウムから選択され、
好ましくは、前記第2の有機溶媒は、エーテル系溶媒、イミダゾール系溶媒、ピリジン系溶媒、スルホン系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒のうちの1種類又は数種類を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電解液、又は請求項6~9のいずれか1項に記載の方法により調製された電解液を含む、マグネシウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2022年02月14日に提出された、名称が「マグネシウム二次電池に用いる電解液、その調製方法及びマグネシウム二次電池」である中国特許出願第202210134125.8号の優先権を主張し、当該出願の全ての内容は本明細書中に参考として援用される。
【0002】
本願は電気化学の技術分野に関し、具体的には、マグネシウム二次電池に用いる電解液、その調製方法及びマグネシウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
充電可能な二次電池の開発は再生可能エネルギーの貯蔵問題を解決する鍵である。近年、金属マグネシウムは埋蔵量が豊富で、コストが安く、環境に優しく、物理化学的性質が安定し、理論的な体積比容量が高い(3833mAh/cm3)等の利点を持つため、金属マグネシウム等を負極とするマグネシウム二次電池は、現在極めて発展の見通しがある新型エネルギー貯蔵システムの1つとなっている。しかし、現在、マグネシウム二次電池の発展は非常に緩やかであり、その中で電解液はその発展を制約する重要な要素の1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに鑑み、マグネシウム二次電池に適用する電解液を提供する必要がある。
【0005】
本願は、マグネシウム二次電池に用いる電解液、その調製方法及びマグネシウム二次電池を提供し、電解液は優れた電気化学的性能を有すると同時に、電解液と負極との間の界面安定性も高い。
【0006】
本願の第1の態様は、電解質塩及び非水溶媒を含むマグネシウム二次電池に用いる電解液を提供し、電解質塩は[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]を含み、ここで、xは1~6の間の整数を表し、yは1~6の間の整数を表し、zは0~6の間の整数を表し、Mは-1価イオンを表し、RFはそれぞれ独立して、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6の脂肪族炭化水素基、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC6~C12の芳香族炭化水素基を表し、PとQは錯化剤を表す。
【0007】
本願の発明者は、マグネシウム二次電池の電解液の研究において、電解液に[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]が含まれる場合、電解液は優れた電気化学的性能を有することができ、同時に電解液と負極との間の界面安定性も高く、さらにそれを用いたマグネシウム二次電池は優れた電気化学的性能と長いサイクル寿命を有することができることを意外に発見した。
【0008】
本願の何れかの実施形態において、電解質塩の陽イオンは[MgxM2x-1Py]+を含み、陰イオンは[Mg(ORF)3Qz]-を含む。
【0009】
本願の何れかの実施形態において、PとQは同じである。
【0010】
本願の何れかの実施形態において、MはF-、Cl-、Br-、I-、HMDS-、CF3
-、(CF3SO2)2N-のうちの1種類又は数種類を表す。好ましくは、MはF-、Cl-、Br-、I-のうちの1種類又は数種類を表す。
【0011】
本願の何れかの実施形態において、RFは、それぞれ独立して、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6のアルキル基、フェニル基、C6~C12のアルキルフェニル基、C6~C12のフェニルアルキル基を表す。好ましくは、RFは、それぞれ独立して、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、n-プロピルフェニル、t-ブチルフェニル、フェニルメチル、フェニルエチルを表す。
【0012】
本願の何れかの実施形態において、非水溶媒、錯化剤P、錯化剤Qはそれぞれ独立してイオン液体、第1の有機溶媒のうちの1種類又は数種類を表す。
【0013】
本願の何れかの実施形態において、イオン液体は、イミダゾール系イオン液体、ピペリジン系イオン液体、ピロール系イオン液体のうちの1種類又は数種類を含む。
【0014】
本願の何れかの実施形態において、イミダゾール系イオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩のうちの1種類又は数種類を含む。
【0015】
本願の何れかの実施形態において、ピロール系イオン液体は、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩を含む。
【0016】
本願の何れかの実施形態において、ピペリジン系イオン液体は、N-ブチル-N-メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩を含む。
【0017】
本願の何れかの実施形態において、第1の有機溶媒は、エーテル系溶媒、イミダゾール系溶媒、ピリジン系溶媒、スルホン系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒のうちの1種類又は数種類を含む。
【0018】
本願の何れかの実施形態において、エーテル系溶媒は、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのうちの1種類又は数種類を含む。
【0019】
本願の何れかの実施形態において、ピリジン系溶媒は、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ジクロロピリジン、2-アミノピリジンのうちの1種類又は数種類を含む。
【0020】
本願の何れかの実施形態において、エステル系溶媒は、炭酸エチレン、酢酸エチルのうちの1種類又は数種類を含む。
【0021】
本願の何れかの実施形態において、非水溶媒、錯化剤P及び錯化剤Qは同じである。
【0022】
本願の何れかの実施形態において、電解液における[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]の濃度は0.1mol/L~1.2mol/Lである。好ましくは、[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]の濃度は0.1mol/L~0.8mol/Lである。
【0023】
本願の第2の態様では、本願の第1の態様における電解液の調製に用いられる電解液の調製方法を提供し、Mg(ORF)2、無水MgM2及び非水溶媒を提供するステップS100と、Mg(ORF)2、無水MgM2及び非水溶媒を混合した後、25oC~100oCで反応させて電解液を得るステップS200とを含む。
【0024】
本願の何れかの実施形態において、S200では、反応時間は3h~48hである。
【0025】
本願の何れかの実施形態において、無水MgM2に対するMg(ORF)2のモル比は1:(0.5~3.0)であり、好ましくは1:(0.8~2.0)である。
【0026】
本願の何れかの実施形態において、Mg(ORF)2は以下の調製方法により得られる。第2の有機溶媒にHORFとMgR2を混合した後、0oC~200oCで反応させ、乾燥により第2の有機溶媒を除去した後、Mg(ORF)2を得た。ここで、MgR2はマグネシウムアルコキシド又はマグネシウムアルキル塩を表す。
【0027】
本願の何れかの実施形態において、MgR2はマグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムプロポキシド、ジブチルマグネシウム又はエチル塩化マグネシウムから選択される。
【0028】
本願の何れかの実施形態において、第2の有機溶媒は、エーテル系溶媒、イミダゾール系溶媒、ピリジン系溶媒、スルホン系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒のうちの1種類又は数種類を含む。
【0029】
本願の第3の態様では、本願の第1の態様の電解液又は本願の第2の態様の方法を用いて調製された電解液を含むマグネシウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本願は以下の有益な効果を有する。
本願の電解液は優れた電気化学的性能を有すると同時に、本願の電解液と負極との間の界面安定性も高い。
本願の電解液の調製方法は工程が簡単であり、マグネシウム二次電池の商業化のニーズを満たすことができる。
本願の電解液を用いるマグネシウム二次電池は優れた電気化学的性能と長いサイクル寿命を有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本願の実施例における技術的解決手段をより明瞭に説明するために、以下は本願の実施例に使用する必要な図面に対して簡単に説明するが、明らかに、以下に記載した図面は本願のいくつかの実施形態に過ぎず、当業者にとって創造的労働を要しない前提でも図面に基づいて他の図面を得ることもできる。
【
図1】比較例1により調製された電解液の質量分析結果を示し、
図1(a)は電解液における陰イオン部分の分析結果であり、
図1(b)は電解液における陽イオン部分の分析結果である。
【
図2】実施例1により調製された電解液における陰イオン部分の質量分析結果を示す。
【
図3】実施例1、比較例2により調製された電解液とTHF溶媒のラマンスペクトル測定結果の比較図を示し、Iは実施例1により調製された電解液を示し、IIは比較例2により調製された電解液を示し、IIIはTHF溶媒を示す。
【
図4】実施例1により調製された電解液が組立てられたMg//Pt半電池の線形走査LSV曲線図を示す。
【
図5】実施例1により調製された電解液が組立てられたMg//Pt半電池のサイクリックボルタンメトリーCV曲線図を示す。
【
図6】実施例1により調製された電解液が組立てられたMg//Mg対称半電池の循環沈降溶解電位曲線図を示す。
【
図7】実施例1により調製された電解液が組立てられたMg//Mg対称半電池の等価回路がナイキスト(Nyquist)図にフィッティングすることにより得られた電気化学的インピーダンススペクトロスコピーを示す。
【
図8】実施例1により調製された電解液が組立てられたマグネシウムイオン電池の初サイクルの充放電曲線図を示す。
【
図9】実施例1により調製された電解液が組立てられたマグネシウムイオン電池の循環曲線図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本願の発明目的、技術的解決手段及び有益な技術的効果をより明瞭になるために、以下に実施例に合わせて本願をさらに詳しく説明する。理解すべきことは、本明細書に記載する実施例は単に本願を解釈するためのものであり、本願を限定することを意図したものではない。
【0033】
簡略化のために、本文はいくつかの数値範囲のみが明示的に開示されている。しかしながら、任意の下限は、任意の上限と組み合わせて明記されない範囲を形成することができ、そして任意の下限は、他の下限と組み合わせて明記されない範囲を形成することができる。同様に任意の上限は、任意の他の上限と組み合わせて明記されない範囲を形成することができる。さらに、明記されないが、範囲の端点間の各点又は単一の数値は、何れも当該範囲に含まれる。したがって、各点又は単一の数値は、自体の下限又は上限として、任意の他の点又は単一の数値と組み合わせて、又は他の下限又は上限と組み合わせて、明記されない範囲を形成することができる。
【0034】
なお、本文の記載において、特に断りのない限り、「以上」、「以下」は本数を包含するものであり、「1種類又は数種類」、「1つ又は複数」における「数種類(個)」は、2種類(個)以上を意味するものである。
【0035】
本願において、用語「脂肪族炭化水素基」とは、脂肪族化合物の基本的特性を有する鎖状基を意味し、アルキル基、アルケニル基、アルキン基を含む。上記基は、直鎖構造であってもよく、分岐構造であってもよい。各実施例において、C1~C6の脂肪族炭化水素基、即ち脂肪族炭化水素基は、1~6個の炭素原子を含有することができる。
【0036】
本願において、用語「芳香族炭化水素基」は、芳香族性質を有する炭素環系を意味し、その炭素環構造は単環、多環又は複環であってもよく、炭素環構造には置換基を含有してもよく含有しなくてもよく、ここで、前記置換基はアルキル基、アルケニル基、アルキン基のうちの1種類又は数種類であってもよく、前記置換基の数は1つであってもよく複数であってもよい。各実施形態において、C6~C12の芳香族炭化水素基、即ち芳香族炭化水素基は、6~12個の炭素原子を含有することができる。
【0037】
本願において、用語「一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6の脂肪族炭化水素基」は、C1~C6の脂肪族炭化水素基における少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されることを意味する。
【0038】
本願において、用語「一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC6~C12の芳香族炭化水素基」とは、C6~C12の芳香族炭化水素基における少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換され、ここで、炭素環構造上の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されてもよく、炭素環構造に接続された置換基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキン基のうちの1つ又は複数であってもよい)の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換されてもよく、炭素環構造及びその上に接続された置換基における少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換されてもよい。例を挙げると、「一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたメチルフェニル」は、フッ素原子がメチル基、ベンゼン環構造の少なくとも1つに位置することができることを表す。
【0039】
本明細書の各所において、化合物の置換基は群又は範囲で開示される。このような記載は、これらの群と範囲のメンバーのそれぞれの個別のサブ組合せを含むことが明確に意図される。例を挙げると、用語「C1~C6脂肪族炭化水素基」は、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C1~C6、C1~C5、C1~C4、C1~C3、C1~C2、C2~C6、C2~C5、C2~C4、C2~C3、C3~C6、C3~C5、C3~C4、C4~C6、C4~C5及びC5~C6脂肪族炭化水素基を個別に開示することが明確に意図される。
【0040】
マグネシウム二次電池は、主に正極、負極及び電解液から構成され、ここで、前記正極はマグネシウムイオンをインターカレーションとデインターカレーションすることができる正極材料を含み、前記負極は通常金属マグネシウム又はマグネシウム合金等である。マグネシウム二次電池の動作原理は通常次の通りである。電池が充電される場合、マグネシウムイオンは正極材料からデインターカレーションし、電解液を介して負極にマグネシウム元素の形で負極表面に沈降し、電池が放電される場合、マグネシウムイオンは負極から溶出し、電解液を介して正極表面に移動した後正極材料にインターカレーションする。
【0041】
マグネシウムイオンが高い電荷密度と低い還元電位(-2.37V vs.標準水素電極)を有するため、ほとんどの有機溶媒と電解質は金属マグネシウム等と反応することができ、且つ負極表面にマグネシウムイオンを効果的に伝導できないパッシベーション層を形成し、金属マグネシウムの可逆沈降溶解に影響を与え、マグネシウム二次電池の運転を著しく阻害した。また、金属マグネシウム等はさらに、不純物(例えば、微量の水、酸素、二酸化炭素等)の影響を受けやすく、長時間の充放電過程では、負極と電解質界面が不安定になりやすく、マグネシウムイオンの伝導が妨げられ、さらに、電池の充放電の過電位が大きく、金属マグネシウムの沈降溶解が不均一になり、ひいては電池内の短絡等の問題につながる可能性がある。
【0042】
現在、マグネシウム二次電池の電解液の開発はまだ初期段階にあり、従来の電解液は主にグリニャール試薬系、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)系、トリフルオロメタンスルホニルイミド(TFSI)系、全無機マグネシウム塩系、ホウ素系等を含む。しかし、これらの電解質は、通常調製工程が複雑で、電解質塩の溶解度が低く、電気化学的特性が不安定である等の問題が存在し、マグネシウム二次電池の開発を妨げている。
【0043】
これに鑑み、マグネシウム二次電池の商業化のニーズを満たすために、調製工程が簡単で、電気化学的特性に優れ、負極との間の界面安定性が高い電解液を提供する必要がある。
【0044】
本願の実施形態における第1態様では、電解質塩と非水溶媒を含むマグネシウム二次電池に用いる電解液を提供する。前記電解質塩は[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]を含み、ここで、xは1~6の間の整数を表し、yは1~6の間の整数を表し、zは0~6の間の整数を表し、Mは-1価イオンを表し、RFはそれぞれ独立して一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6の脂肪族炭化水素基、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC6~C12の芳香族炭化水素基を表し、PとQは錯化剤を表す。
【0045】
本願の電解液において、前記電解質塩の陽イオンは[MgxM2x-1Py]+を含み、陰イオンは[Mg(ORF)3Qz]-を含む。いくつかの実施例において、前記電解質塩の陽イオンは[MgxM2x-1Py]+を含み、陰イオンは[Mg(ORF)3Qz]-を含む。
【0046】
本願の発明者は、マグネシウム二次電池の電解液の研究において、単独の無水マグネシウム塩MgM2(例えば、MgCl2等)は、非水溶媒中で解離して陽イオンを形成しにくく、負極表面にマグネシウムイオンを伝導できる固体電解質中間相(即ちSEI)も形成しにくいため、MgM2を用いた電解液は、優れた電気化学的性能を有することが困難であることを発見した。単独のマグネシウム塩Mg(ORF)2は、非水溶媒中で解離して陽イオンと陰イオンを形成することができるが、それによって調製された電解液はイオン導電率が低く、優れた電気化学的特性を有することも困難である。
【0047】
本願の発明者は、マグネシウム二次電池の電解液の研究において、電解液に[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]が含まれる場合、電解液は優れた電気化学的性能を有することができ、同時に電解液と負極との間の界面安定性も高く、さらにそれを用いたマグネシウム二次電池は優れた電気化学的性能と長い循環寿命を有することができることを意外に発見した。メカニズムは明らかではないが、本願の発明者が推測する理由は以下のいくつかを含む。
1.[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]は電解液の中で高い溶解度を有し、且つ電解液の非水溶媒の作用下で解離して安定した高いマグネシウムイオン輸送性能を有する陽イオン[MgxM2x-1Py]+と陰イオン[Mg(ORF)3Qz]-を形成することができ、それによって本願の電解液に高いイオン導電率を有させることを確保し、さらにマグネシウムイオンの効率的な伝送を確保する。
2.[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]は負極の表面に低インピーダンス、マグネシウムイオンを伝導でき且つ性能が安定したSEIを形成するのに役立ち、一方では、マグネシウムイオンの効率的な伝送を確保し、電解液が金属マグネシウムを可逆沈降溶解する能力を向上させ、さらに電解液に優れた電気化学的特性を有させることを確保する。他方では、負極と電解質との間の界面を安定させ、金属マグネシウム等と不純物(例えば、微量の水、酸素、二酸化炭素等)との直接接触を低減し、さらに、電池の充放電過電位が大きく、金属マグネシウムの沈降溶解の不均一、ひいては電池内の短絡等の問題の発生確率を低減することができる。
3.[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]と正極材料は良い互換性を有し、電解液の電気化学的窓口を増やすのに役立つ。
【0048】
xは1~6の間の整数を示し、即ち、xは1、2、3、4、5又は6を表すことができる。好ましくは、xは1、2、3又は4を表す。さらに、xは1、2又は3を表す。
【0049】
yは1~6の間の整数を表し、即ち、yは1、2、3、4、5又は6を表すことができる。好ましくは、yは1、2、3又は4を表す。さらに、yは1、2又は3を表す。
【0050】
zは0~6の間の整数を表す。いくつかの実施例において、zは0を表すことができる。いくつかの実施例において、zは1~6の間の整数を表し、即ち、zは1、2、3、4、5又は6を表すことができ、好ましくは、zは1、2、3又は4を表し、さらに、zは1、2又は3を表す。
【0051】
Mは-1価イオンを表す。いくつかの実施例において、MはF-、Cl-、Br-、I-、HMDS-(ヘキサメチルジシラザンイオン、[(CH3)3Si]2N-)、CF3
SO3
-(OTf-)、(CF3SO2)2N-(TFSI-)のうちの1種類又は数種類を表すことができる。好ましくは、MはF-、Cl-、Br-、I-のうちの1種類又は数種類を表す。さらに、MはCl-を表す。
【0052】
RFはフッ素含有有機基を表す。ここで、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6の脂肪族炭化水素基は、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6のアルキル基、C1~C6のアルケニル基、C1~C6のアルキン基を含み、好ましくは、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6のアルキル基を含む。一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC6~C12の芳香族炭化水素基はフェニル基、C6~C12のアルキルフェニル基、C6~C12のアルケニルフェニル基、C6~C12のアルキンフェニル基、C6~C12のフェニルアルキル基、C6~C12のフェニルアルケニル基、C6~C12のフェニルアルキン基を含み、好ましくは、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC6~C12の芳香族炭化水素基はフェニル基、C6~C12のアルキルフェニル基、C6~C12のフェニルアルキル基を含む。
【0053】
いくつかの実施例において、RFはそれぞれ独立して一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたC1~C6のアルキル基、フェニル基、C6~C12のアルキルフェニル基、C6~C12のフェニルアルキル基を表す。好ましくは、RFは、それぞれ独立して、一部がフッ素化又は全てがフッ素化されたメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、フェニル、メチルフェニル(オルト、メタ、パラを含む)、エチルフェニル(オルト、メタ、パラを含む)、n-プロピルフェニル(オルト、メタ、パラを含む)、t-ブチルフェニル(オルト、メタ、パラを含む)、フェニルメチル、フェニルエチルを表す。さらに、RFは、それぞれ独立して全てがフッ素化されたメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、フェニル、メチルフェニル(オルト、メタ、パラを含む)、エチルフェニル(オルト、メタ、パラを含む)、n-プロピルフェニル(オルト、メタ、パラを含む)、t-ブチルフェニル(オルト、メタ、パラを含む)、フェニルメチル、フェニルエチルを表す。
【0054】
いくつかの実施例において、[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]における3つのRFは同じである。
【0055】
PとQは錯化剤を表す。ここで、錯化剤Pと-1価イオンMは同時に配位して+1価陽イオン基[MgxM2x-1Py]+を形成し、錯化剤Qとフッ素含有基-ORFは同時に配位して-1価陰イオン基[Mg(ORF)3Qz]-を形成する。
【0056】
いくつかの実施例において、錯化剤Pと錯化剤Qは同じであってもよい。この場合、[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]は解離して陽イオン[MgxM2x-1Py]+と陰イオン[Mg(ORF)3Qz]-をより形成しやすく、形成される陽イオン[MgxM2x-1Py]+と陰イオン[Mg(ORF)3Qz]-もより安定である。
【0057】
いくつかの実施例において、非水溶媒、錯化剤P及び錯化剤Qは同じであってもよい。好ましくは、錯化剤Pと錯化剤Qは、非水溶媒に由来することができる。
【0058】
いくつかの実施例において、非水溶媒、錯化剤P、錯化剤Qはそれぞれ独立してイオン液体、第1の有機溶媒のうちの1種類又は数種類を表す。
【0059】
イオン液体は、イミダゾール系イオン液体、ピペリジン系イオン液体、ピロール系イオン液体のうちの1種類又は数種類を含むが、これらに限定されない。例として、イミダゾール系イオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩のうちの1種類又は数種類を含むことができる。例として、ピロール系イオン液体は、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩を含むことができる。例として、ピペリジン系イオン液体は、N-ブチル-N-メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩を含むことができる。
【0060】
例として、第1の有機溶媒は、エーテル系溶媒、イミダゾール系溶媒、ピリジン系溶媒、スルホン系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒のうちの1種類又は数種類を含むが、これらに限定されない。例として、エーテル系溶媒は、ジオキソラン、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのうちの1種類又は数種類を含むことができる。例として、ピリジン系溶媒は、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ジクロロピリジン、2-アミノピリジンのうちの1種類又は数種類を含むことができる。例として、エステル系溶媒は、炭酸エチレン、酢酸エチルのうちの1種類又は数種類を含むことができる。
【0061】
いくつかの実施例において、好ましくは、錯化剤Pと錯化剤Qはそれぞれ独立してエーテル系溶媒を表す。さらに、錯化剤Pと錯化剤Qはそれぞれ独立して、ジオキソラン、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのうちの1種類又は数種類を表す。
【0062】
いくつかの実施例において、電解液における[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]の濃度は0.1mol/L~1.2mol/Lである。例えば、[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]の濃度は、0.1mol/L、0.2mol/L、0.3mol/L、0.4mol/L、0.5mol/L、0.6mol/L、0.7mol/L、0.8mol/L、0.9mol/L、1.0mol/L、1.1mol/L、1.2mol/L又は以上の何れの数値からなる範囲である。好ましくは、[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]の濃度は0.1mol/L~0.8mol/Lである。
【0063】
勿論、本願の電解液は、[MgxM2x-1Py][Mg(ORF)3Qz]以外の他の電解質塩を除外するものではなく、他の電解質塩は、例えば、グリニャール試薬系、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)系、トリフルオロメタンスルホニルイミド(TFSI)系、全無機マグネシウム塩系、ホウ素系等の本技術分野で公知のマグネシウム二次電池の電解液に適用する電解質塩でありうる。
【0064】
本願の実施形態における第2の態様では電解液の調製方法を提供し、Mg(ORF)2、無水MgM2及び非水溶媒を提供するステップS100と、Mg(ORF)2、無水MgM2及び非水溶媒を混合した後、25oC~100oCで反応させて電解液を得るステップS200とを含む。
【0065】
本願の実施形態における第2の態様の調製方法は本願の実施形態における第1の態様の何れかの実施例の電解液を調製することができる。なお、上記の調製方法によって調製された電解液に関連するパラメータは、本願の実施形態における第1の態様の各実施例により提供される電解液を参照することができる。
【0066】
本願の電解液の調製方法は工程が簡単であり、マグネシウム二次電池の商業化のニーズを満たすことができる。
【0067】
いくつかの実施例において、S200では、反応時間は3h~48hであってもよいが、本願はこれに限定されない。
【0068】
いくつかの実施例において、無水MgM2に対するMg(ORF)2のモル比は1:(0.5~3.0)であってもよい。例えば、無水MgM2に対するMg(ORF)2のモル比は1:0.5、1:0.8、1:1.0、1:1.2、1:1.4、1:1.6、1:1.8、1:2.0、1:2.2、1:2.4、1:2.6、1:2.8、1:3.0又は以上の何れの数値からなる範囲であってもよい。好ましくは、無水MgM2に対するMg(ORF)2のモル比は1:(0.8~2.0)である。
【0069】
いくつかの実施例において、Mg(ORF)2は以下の調製方法により得られる。第2の有機溶媒にHORFとMgR2を混合した後、0oC~200oCで反応させ、乾燥により第2の有機溶媒を除去した後、Mg(ORF)2を得た。ここで、MgR2はマグネシウムアルコキシド又はマグネシウムアルキル塩を表す。
【0070】
好ましくは、反応時間は6h~72hであるが、本願はこれに限定されない。
【0071】
好ましくは、MgR2はマグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムプロポキシド、ジブチルマグネシウム又はエチル塩化マグネシウムから選択される。
【0072】
好ましくは、第2の有機溶媒は、エーテル系溶媒、イミダゾール系溶媒、ピリジン系溶媒、スルホン系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒のうちの1種類又は数種類を含む。例として、エーテル系溶媒は、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルのうちの1種類又は数種類を含むことができる。例として、ピリジン系溶媒は、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ジクロロピリジン、2-アミノピリジンのうちの1種類又は数種類を含むことができる。例として、エステル系溶媒は、炭酸エチレン、酢酸エチルのうちの1種類又は数種類を含むことができる。
【0073】
本願の実施形態における第3の態様では、本願の実施形態における第1の態様の電解液、又は本願の実施形態における第2の態様の方法を用いて調製された電解液を含むマグネシウム二次電池を提供し、それにより本願のマグネシウム二次電池は優れた電気化学的性能と長い循環寿命を有することができる。
【0074】
いくつかの実施例において、マグネシウム二次電池は正極、負極及びセパレータをさらに含む。
【0075】
正極は、マグネシウムイオンをインターカレーションとデインターカレーションすることができる正極材料を含み、好ましくは、正極材料は遷移金属硫化物、遷移金属酸化物、遷移金属ホウ化物、ポリ陰イオンリン酸塩のうちの1種類又は数種類を含むが、これらに限定されない。例として、遷移金属硫化物はTiS2、MoS2、WS2、VS2、HfS2、ZrS2、NbS3、VS4、MgaMo3S4(0<a<2)、Mo6S8のうちの1種類又は数種類を含むことができる。例として、遷移金属酸化物はV2O5、V6O13、MnO2、Mn2O3、MoO3、WO3のうちの1種類又は数種類を含むことができる。例として、遷移金属ホウ化物はTiB2、MoB2、ZrB2のうちの1種類又は数種類を含むことができる。
【0076】
負極は金属マグネシウム、マグネシウム合金のうちの1種類又は数種類を含むが、これらに限定されない。例として、マグネシウム合金はマグネシウムアルミニウム合金、マグネシウム銀合金、マグネシウム銅合金のうちの1種類又は数種類を含むことができる。
【0077】
セパレータは正極と負極の間に設置され、主に正極と負極の短絡を防ぐ役割を果たす。本願はセパレータの種類に特に制限されなく、任意の公知の優れた化学的安定性及び機械的安定性を有する多孔質構造膜を用いることができる。例として、セパレータは、PEフィルム、PPフィルム、不織布、ガラス繊維フィルム(例えば、GF/Bフィルム)、又はその多層複合フィルムを含むが、これらに限定されない。
【0078】
いくつかの実施例において、マグネシウム二次電池はマグネシウム硫黄二次電池であってもよい。好ましくは、正極材料はTiS2、MoS2、WS2、VS2、HfS2、ZrS2、NbS3、VS4、MgaMo3S4(0<a<2)、Mo6S8のうちの1種類又は数種類を含むが、これらに限定されない。
【0079】
以下、実施例に合わせて本願をさらに説明する。本願の開示内容の範囲内で様々な修正及び変化を行うことが当業者にとって明らかであるので、これらの実施例は単に論述的な説明のためのものであることを理解すべきである。特に明記されない限り、以下の実施例に報告される全ての部、百分率及び比は、全て質量基準であり、実施例に使用される全ての試薬は、市販又は常法に従って合成して取得したものであり、且つ処理なしに直接使用することができ、実施例に使用される機器は全て市販により取得することができる。
【0080】
(比較例1)
25oCの環境下で、酸素と水の含有量が1ppm未満のアルゴンガス雰囲気グローブボックスにおいて、パーフルオロ-t-ブタノールHOC(CF3)3とマグネシウムメトキシドMg(OCH3)2をモル比3:1で適量のテトラヒドロフラン(THF)中で24h攪拌反応させ、乾燥によりTHFを除去した後、パーフルオロ-t-ブタノールマグネシウム塩Mg(pftb)2を得た。調製されたパーフルオロ-t-ブタノールマグネシウム塩Mg(pftb)2を適量のTHFに溶解して電解液を得た。ここで、Mg(pftb)2の濃度は0.3mol/Lである。
【0081】
(比較例2)
25oCの環境下で、酸素と水の含有量が1ppm未満のアルゴンガス雰囲気グローブボックスにおいて、無水塩化マグネシウムMgCl2を適量のTHFに溶解して電解液を得た。ここで、MgCl2の濃度は0.3mol/Lである。
【0082】
(実施例1)
比較例1と同じ方法により調製してパーフルオロ-t-ブタノールマグネシウム塩Mg(pftb)2を得た後、25oCの環境下で、調製されたパーフルオロ-t-ブタノールマグネシウム塩Mg(pftb)2と無水塩化マグネシウムMgCl2をモル比3:1で適量のTHFに澄むまで24h攪拌反応させ、[Mg2Cl3・6THF][Mg(pftb)3]を含む電解液を得た。ここで、[Mg2Cl3・6THF][Mg(pftb)3]の濃度は0.3mol/Lである。
【0083】
図1は比較例1により調製された電解液の質量分析結果を示し、
図1(a)は電解液における陰イオン部分の分析結果であり、
図1(b)は電解液における陽イオン部分の分析結果である。
図1の質量分析結果は、パーフルオロ-t-ブタノールマグネシウム塩Mg(pftb)
2がTHF中で解離して陰イオンと陽イオンを形成できることを明らかにする。
【0084】
図2は実施例1により調製された電解液における陰イオン部分の質量分析結果を示す。
図2と
図1との比較から分かるように、[Mg
2Cl
3・6THF][Mg(pftb)
3]が解離して陰イオン[Mg(pftb)
3]
-を形成した。
【0085】
図3は実施例1、比較例2により調製された電解液とTHF溶媒のラマンスペクトル測定結果の比較図を示し、Iは実施例1により調製された電解液を表し、IIは比較例2により調製された電解液を表し、IIIはTHF溶媒を表す。
図3のラマンスペクトル測定結果は、[Mg
2Cl
3・6THF][Mg(pftb)
3]が解離して陽イオン[Mg
2Cl
3・6THF]
+を形成したことを明らかにする。
【0086】
図2と
図3の測定結果に合わせて、実施例1により調製された電解液は同時に陰イオン[Mg(pftb)
3]
-と陽イオン[Mg
2Cl
3・6THF]
+を含み、それにより、本願の発明者はパーフルオロ-t-ブタノールマグネシウム塩Mg(pftb)
2、無水塩化マグネシウムMgCl
2とTHFとの反応メカニズムは以下のように推測する。
【0087】
【0088】
本願の電解液の酸化安定性と金属マグネシウムを沈降・溶解する能力を検出するために、本願の発明者は実施例1で調製された電解液がMg//Pt半電池(GF/Bフィルムをセパレータとする)における線形走査LSV曲線とサイクリックボルタンメトリーCV曲線を測定し、測定結果はそれぞれ
図4と
図5に示す。
図4と
図5の測定結果は、実施例1で調製された酸化安定性窓が3.0V(vs.Mg
2+/Mg)より大きく、且つ金属マグネシウムの効率的な可逆沈降溶解を実現できることを明らかにする。
【0089】
金属マグネシウムと電解液との間の界面安定性を検出するために、本願の発明者はさらに、実施例1で調製された電解液がMg//Mg対称半電池(GF/Bフィルムをセパレータとする)における循環沈降溶解電位曲線と等価回路がナイキスト図にフィッティングすることにより得られた電気化学的インピーダンススペクトロスコピーを測定し、測定結果はそれぞれ
図6と
図7に示す。
【0090】
図6から分かるように、Mg//Mg対称半電池は長時間の充放電サイクル中の分極電位が小さく、明らかな波動、短絡及び失効等の問題はない。
図6の測定結果は、実施例1で調製された電解液が長い沈降溶解寿命を有することを明らかにする。
図7から分かるように、Mg//Mg対称半電池の固体電解質中間相の抵抗R
SEIは6.2Ωであり、電荷移動抵抗R
ctは23.5Ωである。
図7の測定結果により、実施例1で調製された電解液が長い沈降溶解寿命を有する原因は、金属マグネシウム表面に安定で、低インピーダンス且つマグネシウムイオンを効率的に伝導できるSEIが形成されているためであることを明らかにする。
【0091】
上記
図1~
図7の測定結果により、本願の電解液は優れた電気化学的性能を有することができると同時に、本願の電解液と負極との間の界面安定性も高いことを明らかにする。
【0092】
本願の電解液がマグネシウムイオン電池(全電池)における応用の潜在力を説明するために、本願の発明者は、金属マグネシウムを負極、Mo
6S
8を正極、GF/Bをセパレータとして、実施例1で調製された電解液と共にマグネシウムイオン電池を組立て、その充放電性能を測定した。
図8はマグネシウムイオン電池の初サイクルの充放電曲線図を示し、
図9はマグネシウムイオン電池のサイクル曲線図を示す。
図8から分かるように、マグネシウムイオン電池は高い充放電の電圧プラットフォームを有する。
図9から分かるように、マグネシウムイオン電池は、128.8mA/gの大電流密度でも高い放電容量(60mAh/gより大きい)とクーロン効率を有し、800サイクル以上の安定した充放電が可能である。
図8と
図9の測定結果により、本願の電解液はマグネシウムイオン電池に応用され、マグネシウムイオン電池はさらに長い循環寿命の利点を有することができることを明らかにする。
【0093】
上記は本願の具体的な実施形態に過ぎず、本願の保護範囲を限定するものではなく、如何なる当業者が本願に開示された技術範囲内で、様々な等価の変化又は置換は容易に想到でき、これらの変化又は置換は何れも本願の保護範囲内に属すべきである。したがって、本願の保護範囲は、特許の請求範囲に準じるべきである。
【国際調査報告】