(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-13
(54)【発明の名称】コロナウイルス科ウイルスによる感染症の処置または予防のためのウイルス様粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20241206BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241206BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20241206BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241206BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20241206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241206BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
A61K35/76
A61P31/14
A61K39/00 G
A61K48/00
A61K39/00 B
A61K39/215
A61P43/00 121
C12N7/01 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514081
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-08
(86)【国際出願番号】 EP2022074302
(87)【国際公開番号】W WO2023031322
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518095998
【氏名又は名称】ソルボンヌ ユニヴェルシテ
(71)【出願人】
【識別番号】518095987
【氏名又は名称】アンスティチュート ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ レシェルシュ メディカル (アンセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】507139834
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリック-オピト ドゥ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】524078653
【氏名又は名称】コンセホ ナシオナル デ インベスティガシオネス シエンティフィカス イ テクニカス (コニセット)
(71)【出願人】
【識別番号】524078066
【氏名又は名称】ウニベルシダッド カトリカ デ コルドバ (ウセセ)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラッツマン、ダヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ルハン、ウーゴ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA45
4C084AA13
4C084MA52
4C084MA59
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4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC751
4C085AA03
4C085BA71
4C085CC08
4C085DD62
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4C085GG10
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA52
4C087MA59
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、新しいウイルス様粒子(VLP)、該ウイルス様粒子(VLP)を含む薬学的組成物、およびコロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスによる感染症を予防または処置するために該ウイルス様粒子(VLP)を使用する方法に関する。有利には、これらのVLPは、経口または経鼻投与されるワクチンとして使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス様粒子(VLP)であって、少なくとも:
-ジアルジア属(Giardia)種、テトラヒメナ属(Tetrahymena)種、ゾウリムシ属(Paramecium)種およびエントアメーバ属(Entamoeba)種からなる群において選択される微生物の可変表面タンパク質(VSP)、VSP様タンパク質またはそれらの断片と、
-コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスのウイルスタンパク質またはその断片と
をその表面にディスプレイする、ウイルス様粒子(VLP)。
【請求項2】
前記微生物が、ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)、テトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)、ヨツヒメゾウリムシ(Paramecium tetraurelia)、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)からなる群から選択される、請求項1に記載のVLP。
【請求項3】
前記VSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片、好ましくは前記VSPの細胞外領域が、水疱性口内炎ウイルスGタンパク質(VSV-G)の膜貫通領域と融合されている、請求項1または2に記載のVLP。
【請求項4】
前記コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスが、コロナウイルスであり、好ましくは、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERS-CoVおよびこれらの変異体からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のVLP。
【請求項5】
前記ウイルスタンパク質が、スパイク(S)タンパク質、膜(M)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質およびヌクレオカプシド(N)タンパク質からなる群から選択され、好ましくはSタンパク質である、請求項1~4のいずれか一項に記載のVLP。
【請求項6】
前記VLPが、
‐ ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)のVSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片と、
‐ SARS-CoV-2のSタンパク質またはその断片と
をその表面にディスプレイする、請求項1~5のいずれか一項に記載のVLP。
【請求項7】
前記VLPが、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルス由来の、好ましくはSARS-CoV-2由来の前記Nタンパク質またはその断片に、そのカルボキシ末端が融合したGagタンパク質をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のVLP。
【請求項8】
Sタンパク質が融合前に安定化されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のVLP。
【請求項9】
前記VLPが、その表面に少なくとも2つの異なるウイルスタンパク質、好ましくはSタンパク質およびMタンパク質をディスプレイする、請求項1~8のいずれか一項に記載のVLP。
【請求項10】
医薬として使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載のVLP。
【請求項11】
コロナウイルス科(Coronaviridae family)からのウイルスによる感染症の処置または予防において使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載のVLP。
【請求項12】
コロナウイルス科(Coronaviridae family)からのウイルスによる感染症に対するワクチンとして使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載のVLP。
【請求項13】
前記VLPが患者/患畜に経口または鼻腔内投与される、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用のためのVLP。
【請求項14】
前記VLPが、前記コロナウイルス科(Coronaviridae family)からのウイルスに対する、皮下または筋肉内注射によってワクチンを以前に受けたことがある患者/患畜への追加免疫として投与される、請求項10~13のいずれか一項に記載の使用のためのVLP。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載のVLPを含む薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しいウイルス様粒子(VLP)、該ウイルス様粒子(VLP)を含む薬学的組成物、およびコロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスによる感染症を予防または処置するために該ウイルス様粒子(VLP)を使用する方法に関する。有利には、これらのVLPは、経口または経鼻投与されるワクチンとして使用され得る。
【背景技術】
【0002】
2019年以前には、6つのコロナウイルス-ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)および中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)のみが、ヒトにおいて病気を引き起こすことが知られていた。
【0003】
2019年に、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされるコロナウイルス疾患2019(COVID-19)がパンデミックとして出現し、2019年12月から2021年6月までの間に世界中で390万人を超える命を奪い、約1億8000万の症例が確認された。SARS-CoV-2は、ヒトに重症疾患を引き起こす傾向があるベータコロナウイルスであり、これが、致死的となり得る肺炎を含む呼吸器感染症の巨大で急速に拡散する大流行の理由である。
【0004】
COVID-19に対するいくつかの異なるワクチンが短期間で開発され、2021年初頭に入手可能となった。しかしながら、世界中でSARS-CoV-2の多くの変異体が急速に出現したため、ワクチン接種された集団において誘導される免疫応答の質および持続性を改善する必要性が依然として存在する。特に、効率的な細胞性および/または液性免疫応答、特に粘膜応答などの強固な免疫応答を生成する方法がなお必要とされている。
【0005】
さらに、今日利用可能なCOVID-19に対するすべてのワクチンは注射によって送達され、安全性、患者の受容性および罹病の問題を引き起こし、特に資源の乏しい発展途上国において、集団予防接種の費用を増大させ、安全性を低下させる。したがって、特に経口投与によるワクチン接種の簡単な方法が、なお真に必要とされている。実際、経口送達は、他の投与経路を上回る、特に非経口ワクチンと比較した多くの顕著な利点(例えば、簡単な投与および改善された安全性)を提供する。しかしながら、経口経路がワクチンを送達する理想的な手段であるとしても、経口経路は、消化管によってもたらされる多数の障壁のために最も困難でもある。タンパク質ワクチンによる効果的な免疫化を可能にするためには、抗原を保護し、取り込みを増強し、免疫応答を活性化しなければならない。最近、本発明者らは、原虫の可変表面タンパク質(VSP)ならびにインフルエンザウイルスヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼなどのモデル表面抗原をディスプレイする経口投与された生物工学的に作製されたウイルス様粒子(VLP)が、マウスをインフルエンザ感染から防御する免疫応答を生成し得ることを示した(Serradell et al.,Nat.Commun.10:361(2019))。しかしながら、今日まで、COVID-19に対する経口ワクチンは入手可能でない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、その表面に原虫の可変表面タンパク質(VSP)およびコロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスのポリペプチド抗原をディスプレイする新しいウイルス様粒子(VLP)を提供することによって、上記のニーズを満たすと考えられる。
【0007】
予測不能なことに、各VSP/エンベロープタンパク質の組み合わせは、免疫原としてのそれらの性能に影響を及ぼし得る独自の構造的特殊性を有するので、本発明者らは、経口または経鼻投与などの粘膜経路を介して、強固な免疫応答を誘導するために、またはコロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスに対する以前に誘導された免疫応答を増強するために、このようなVLPを使用することができることを示した。さらに、驚くべきことに、本発明者らは、このアプローチが粘膜免疫を誘導することができ、これはSARS-CoV-2感染および拡散を制御するのに特に有用であることを示した。
【0008】
したがって、一局面において、本発明は、ウイルス様粒子(VLP)、特にレトロウイルス由来のウイルス様粒子であって、少なくとも:
-ジアルジア属(Giardia)、テトラヒメナ属(Tetrahymena)、ゾウリムシ属(Paramecium)およびエントアメーバ属(Entamoeba)の種からなる群において選択される微生物の可変表面タンパク質(VSP)、VSP様タンパク質またはそれらの断片と、
-コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスのウイルスタンパク質またはその断片と
をその表面にディスプレイするウイルス様粒子(VLP)、特にレトロウイルス由来のウイルス様粒子に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で使用される場合、「ウイルス様粒子」(VLP)という用語は、ウイルスの立体構造を模倣する、ウイルス粒子に似た構造体を指す。本発明によるウイルス様粒子は、ウイルスゲノムの全部または一部を欠いており、典型的にはおよび好ましくは、ウイルスゲノムの複製および感染成分の全部または一部を欠いているので、非複製的である。本明細書で使用される「非複製的」という用語は、VLP中に含まれるまたはVLP中に含まれないゲノムを複製することができないことを指す。VLPは、一般に1つまたは複数のウイルスタンパク質から構成される多タンパク質構造体である。VLPは、適切な状況下でウイルス構造タンパク質の発現時に形成(または「自己集合」)することができる。VLPは、産生プロセス中に生ウイルスが存在する必要なしに産生され得るので、弱毒化ウイルスを使用して調製されたワクチンの欠点のいくつかを克服する。多種多様なVLPを調製することができる。例えば、エンベロープタンパク質および/または表面糖タンパク質ありまたはなしのいずれかで、単一または複数のカプシドタンパク質を含むVLPを産生することができる。いくつかの事例では、VLPはエンベロープに包まれておらず、ただ1つの主要なカプシドタンパク質の発現によって集合する。他の事例では、VLPはエンベロープに包まれており、対応する天然ウイルスに見られる複数の抗原タンパク質を含むことができる。VLPは、典型的には、それらの対応する天然ウイルスに類似しており、多価抗原をディスプレイすることができる。
【0010】
VLPの状況での表面糖タンパク質の提示は、他の形態の抗原提示、例えばVLPと会合していない可溶性抗原と比較して、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスのウイルスタンパク質などの抗原タンパク質に対する中和抗体の誘導にとって有利である。中和抗体は、ほとんどの場合、三次構造または四次構造を認識し、これは、多くの場合、エンベロープ糖タンパク質のような抗原タンパク質をそれらの天然のウイルス立体構造で提示することを必要とする。VLPの表面におけるエンベロープ糖タンパク質の適切な提示は、ほとんど予測不能である。いくつかのエンベロープ糖タンパク質は、それらの膜および/または細胞質尾部を別のウイルスタンパク質、例えば水疱性口内炎ウイルスG糖タンパク質(VSV-G)のものと交換するなど、より良好な発現のためにそれらの操作を必要とし得る。しかしながら、野生型ウイルスにおいてエンベロープが多量体として発現される場合、これは、タンパク質の構造、特にその四次構造に影響を及ぼし得る。さらに、同じ膜上へのVSPとエンベロープ糖タンパク質の同時発現は、エンベロープ糖タンパク質の構造を改変し、したがって中和抗体(Nab)の引き金を引くその能力を改変する相互作用をもたらし得る。
【0011】
本明細書で使用される場合、「可変表面タンパク質」、「VSPタンパク質」または「VSP」という用語は、ジアルジア属(Giardia)寄生生物の表面全体を覆い、宿主免疫系によって認識される主要抗原であるポリペプチドを指す。VSPタンパク質は、いくつかのVSPにおいてCXCモチーフ、ジアルジア属(Giardia)特異的ジンクフィンガーモチーフ、およびGGCYモチーフの存在を含むいくつかの特定の特徴を有する複数の「CXXC」モチーフ(Xは任意のアミノ酸である)を有するシステインに富むタンパク質である(Nash,Mol.Microbiol.45:585-590(2002);Adam et al.,BMC Genomics 10:424(2010))。より正確には、VSPタンパク質は、サイズが20から200kDaまで変化する1型膜内在性タンパク質であり、可変アミノ末端システインリッチ領域(宿主/寄生生物界面に相当し、タンパク質消化および低pHに対する耐性をタンパク質に付与する細胞外ドメイン)と、疎水性膜貫通領域および免疫系によって検出されない5アミノ酸のみを含む短いサイトゾル尾部(CRGKA)を含む保存されたカルボキシ末端領域とを有する。1つのVSPタンパク質のみが、各寄生生物の表面上で、任意の与えられた時間に発現される(Nash,Philos.Trans.R.Soc.Lond.B.Biol.Sci.352:1369-1375(1997))。ジアルジア属(Giardia)VSP、より具体的にはジアルジア属(Giardia)VSPの細胞外ドメインは、複数のCXXCモチーフ、好ましくは3~20アミノ酸、より具体的には5~8アミノ酸のいくつかのアミノ酸によって隔てられた複数のCXXCモチーフを含む。したがって、いくつかの態様において、VSPは、ジアルジア属(Giardia)由来のVSPまたはVSP様タンパク質の断片、類似体または誘導体であり、VSPは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39または40個のCXXCモチーフを含む。いくつかの態様において、VSPは、ジアルジア属(Giardia)VSP由来の少なくとも約40、少なくとも約50、少なくとも約60、少なくとも約70、少なくとも80、約90または少なくとも約100個のCXXCモチーフを含む。
【0012】
本発明の文脈内で、「可変表面タンパク質」、「VSPタンパク質(VSP protein)」または「VSPタンパク質(VSP proteins)」という用語は、ジアルジア属(Giardia)VSPタンパク質、特にランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)の完全なレパートリーの任意のVSPを含む。実際には、ジアルジア属(Giardia)寄生生物は、集合体AのVSPをコードする約200の遺伝子のレパートリーをコードし(例えば、Morrison et al.,Science 317:1921-1926(2010);Adam et al.,BMC Genomics 10:424(2010)を参照)、Svardのグループの2つの報告は、VSP集合体BおよびEに由来する分離株のVSPレパートリーを記載した(Jerlstrom-Hultqvist et al.,BMC Genomics 11:543(2010);Franzen et al.,PLoS Pathog.5(8):cl000560(2009))。VSPの細胞外ドメインは、寄生生物が上部小腸の厳しい環境を生き残ることを可能にする。VSPは、可変なpH(特定のVSPに対して作られたモノクローナル抗体による立体構造エピトープに対する反応性は、pH2~12で不変である)、ならびにトリプシンおよびいくつかの他のプロテアーゼによる消化に対して極めて耐性である。さらに、VSPは、腸粘膜に付着した状態を保つ(Rivero et al.,Nat.Med.16(5):551-7(2010))。
【0013】
ジアルジア属(Giardia)VSPまたは他の微生物のVSP様タンパク質などの、少なくとも1つのCXXCモチーフ(Cはシステイン残基を表し、Xは任意のアミノ酸残基を表す)を含むポリペプチドはまた、遺伝子操作によってインビトロで生成され、異種の系で産生され得ることにさらに留意しなければならない。したがって、野生型寄生生物には見られないアミノ酸変異を有するポリペプチド(例えば、ジアルジア属(Giardia)VSPの変異体)を含む、化学的にまたは細胞産生されたポリペプチドが包含される。したがって、VSPは、固相合成、液相合成または遺伝子工学などの当技術分野における任意の周知の手順によって調製され得る。
【0014】
本発明において使用されるVSPは、化学修飾を受けることができる。化学修飾は、インビボでの酵素分解に対する保護が増加した、および/または膜バリアを横切る能力が増加したVSPを得、それにより、VSPの半減期を増加させ、VSPの生物学的活性を維持または改善することを目的とし得る。VSPを修飾するために、当技術分野で公知の任意の化学修飾を本発明に従って使用することができる。このような化学修飾には、以下のものに限定されないが、以下のものが含まれる。
(a)例えば、N末端アシル化(好ましくはアセチル化)もしくは脱アミノ化、またはC末端カルボキシル基のアミドもしくはアルコール基への修飾などの、VSPタンパク質のN末端および/またはC末端への修飾;(b)2つのアミノ酸間でのアミド結合における修飾:2つのアミノ酸を連結するアミド結合の窒素原子またはアルファ炭素におけるアシル化(好ましくはアセチル化)またはアルキル化(好ましくはメチル化);
(c)例えば、2つのアミノ酸を連結するアミド結合のアルファ炭素におけるアシル化(好ましくはアセチル化)またはアルキル化(好ましくはメチル化)などの、2つのアミノ酸を連結するアミド結合のアルファ炭素における修飾。
(d)例えば、1つまたは複数の天然に存在するアミノ酸(Lエナンチオマー)を対応するD-エナンチオマーで置き換えることなどの、キラリティの変化;
(e)(C末端からN末端への)アミノ酸鎖の反転と一緒に、1つまたは複数の天然に存在するアミノ酸(L-エナンチオマー)が対応するD-エナンチオマーと置き換えられるレトロインバージョン;および/または
(f)1つまたは複数のアルファ炭素が窒素原子で置き換えられているアザペプチド。
【0015】
本明細書で使用される「可変表面タンパク質」、「VSPタンパク質」または「VSP」という用語は、ジアルジア属(Giardia)由来の「VSP」タンパク質、他の生物に見出されるVSPおよびVSP様タンパク質のホモログ(例えば、オルソログおよびパラログ)ならびにそれらの断片、変異体および誘導体も含む。第1の科または種のVSPタンパク質またはVSPコード遺伝子に関して使用される「ホモログ」という用語は、機能的、構造的またはゲノム分析によって、第1の科または種の元のVSPタンパク質またはVSPコード遺伝子に対応する第2の科または種のVSPタンパク質またはVSPコード遺伝子であると決定された、第2の科または種の別個のVSPタンパク質またはVSPコード遺伝子を指す。本明細書で使用される場合、「ホモログ」という用語は、共通の祖先DNA配列から受け継がれた基準VSPタンパク質またはVSPコード遺伝子に関連する任意のVSPタンパク質またはVSPコード遺伝子を指す。ホモログという用語は、オルソログおよびパラログの両方を含む。「オルソログ」という用語は、種分化によって共通の祖先遺伝子から進化した異なる種のVSPホモログを指す。典型的には、オルソログは、それらの一次構造の相違(変異)にもかかわらず、同じまたは類似の機能を保持する。「パラログ」という用語は、共通の祖先遺伝子の遺伝的重複によって進化した同じ種内のVSPホモログを指す。多くの場合、パラログは関連する機能を示す(が、必ずしも同一の機能を示さない)。特定の種が、別の種と共有される祖先DNA配列から複数の関連遺伝子を進化させている限りにおいて、オルソログという用語はパラログという用語を包含することができる。ほとんどの場合、ホモログは、機能的、構造的またはゲノム類似性を有する。遺伝子プローブおよびPCを使用して、酵素または遺伝子のホモログを容易にクローニングすることができる技術は公知である。クローニングされた配列のホモログとしての同一性は、機能的アッセイを使用して、および/または遺伝子のゲノムマッピングによって確認することができる。
【0016】
「VSP様タンパク質」またはその断片は、ジアルジア属(Giardia)と配列相同性および生化学的特性を共有するジアルジア属(Giardia)以外の微生物に由来するポリペプチド、特に複数のCXXCモチーフ、好ましくは5~8つのアミノ酸によって隔てられた複数のCXXCモチーフを含有するポリペプチドの中から選択され得る。実際、ジアルジア属(Giardia)VSP配列の細胞外ドメイン(クエリ)と他のVSP様分子配列のアラインメントによって、ゾウリムシ属(Paramecium)、テトラヒメナ属(Tetrahymena)およびエントアメーバ属(Entamoeba)の種に属するタンパク質中に、とりわけ5~8つのアミノ酸によって隔てられた複数のCXXCモチーフの存在が観察された。したがって、エントアメーバ属(Entamoeba)の種の表面キナーゼ、ならびにゾウリムシ属(Paramecium)の種およびテトラヒメナ属(Tetrahymena)の種の表面タンパク質の一次配列の代表的な断片は、(pH、温度およびタンパク質消化に対する耐性を担うジアルジア属(Giardia)VSPと比較して)VSP様構造中の、CXXCモチーフを含有する保存されたドメインを予測する。
【0017】
本発明において、「ジアルジア属(Giardia)」、「テトラヒメナ属(Tetrahymena)」、「ゾウリムシ属(Paramecium)」および「エントアメーバ属(Entamoeba)」という用語は、微生物の属を指し、それらの各々は、異なる宿主に感染すると思われる様々な種を含む。例えば、ジアルジア属(Giardia)は、ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)(腸鞭毛虫(Giardia intestinalis)または十二指腸鞭毛虫(Giardia duodenalis)とも呼ばれる)、ジアルジア・エンテリカ(Giardia enterica)、ジアルジア・ムリス(Giardia muris)、ジアルジア・シモンジ(Giardia simondi)、ジアルジア・ボビス(Giardia bovis)、ジアルジア・カニス(Giardia canis)、ジアルジア・キャティ(Giardia cati)およびジアルジア・ミクロチ(Giardia microti)を含むが、これらに限定されない。
【0018】
一態様において、本発明は、微生物がランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)、テトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)、ヨツヒメゾウリムシ(Paramecium tetraurelia)および赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)からなる群から選択される、上で定義されたVLPに関する。
【0019】
一態様において、微生物は、ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)である。別の態様において、微生物は、テトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)である。別の態様において、微生物は、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)である。別の態様において、微生物は、ヨツヒメゾウリムシ(Paramecium tetraurelia)である。
【0020】
本明細書で使用される場合、「タンパク質の断片」という用語は、一般に、本用語がVSPまたはウイルスタンパク質を指すかどうかにかかわらず、任意の指定されたタンパク質またはポリペプチドの少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、600、700、800、900または1000個の連続するまたは不連続なアミノ酸を含む任意のポリペプチドを包含する。「タンパク質の断片」という用語が本発明に従って抗原に適用される場合には、そのような断片は、インビボで抗体の産生またはT細胞の刺激を誘導することが可能であるべきである。したがって、タンパク質の断片は、少なくとも1つの免疫原性エピトープを含むべきである。「タンパク質の断片」という用語が、本発明に従って、他の微生物のVSPまたはVSP様タンパク質に適用される場合には、そのような断片は、細胞、特に粘膜細胞、より具体的には腸の上皮細胞に付着し、最終的にそれ自体で免疫応答を誘導する能力を保持することが可能であるべきである。
【0021】
好ましい態様において、(細胞外ドメインは、ジアルジア属(Giardia)VSPタンパク質の複数のCXXCモチーフを含むアミノ末端のシステインリッチ領域であるので)VSPは、ジアルジア属(Giardia)VSPの細胞外ドメインまたはその断片である。実際、ジアルジア属(Giardia)VSPの細胞外ドメインは、pH、温度およびタンパク質消化に耐性のドメインである。したがって、別の好ましい態様において、本発明によるポリペプチドは、ジアルジア属(Giardia)VSPの細胞外ドメインまたはその断片のみを含む。したがって、このような態様においては、ジアルジア属(Giardia)VSPの膜貫通領域および細胞質尾部は排除される。ペプチドシグナルも除去され得ることに留意されたい。
【0022】
一態様において、本発明は、上で定義されたVLPであって、VSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、配列番号72、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、配列番号94、配列番号95、配列番号96、配列番号97、配列番号98、配列番号99、配列番号100、配列番号101、配列番号102、配列番号103、配列番号104、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、配列番号112、配列番号113、配列番号114、配列番号115、配列番号116、配列番号117、配列番号118、配列番号119、配列番号120、配列番号121、配列番号122、配列番号123および配列番号124からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、またはこれらからなる、VLPに関する。
【0023】
特定の態様において、本発明は、上で定義されたVLPであって、VSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、またはこれらからなる、VLPに関する。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0024】
本発明において、VSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片は、VLPの表面に露出されている。これに関して、VSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片は、エンベロープタンパク質もしくはその断片、合成リンカーなどの様々な構造への結合を通じて、または抗体を含む化学反応もしくは酵素反応を通じて露出され得る。
【0025】
一態様において、VLPは、VSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片に融合されたエンベロープタンパク質の膜貫通ドメインの少なくとも一部を含むエンベロープタンパク質をディスプレイする。
【0026】
一態様において、VLPは、例えばVSVエンベロープタンパク質またはその断片との遺伝的または化学的融合によって、VLPの表面に露出されたVSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片と融合した、水疱性口内炎ウイルス(VSV)由来のエンベロープタンパク質またはその断片(例えば、VSV G糖タンパク質の膜貫通(TM)領域および/または細胞質尾部(CT))などのウイルスのエンベロープタンパク質をディスプレイする。
【0027】
一態様において、本発明は、VSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片、好ましくはVSPの細胞外領域がVSV-G糖タンパク質の膜貫通領域と融合されている、上で定義されたVLPに関する。
【0028】
一態様において、VSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片は、配列番号125を含むかまたは配列番号125からなる。
【表2】
【0029】
一態様において、本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae)科ウイルスのウイルスタンパク質またはその断片がVSV-G糖タンパク質の膜貫通領域と融合されている、上で定義されたVLPに関する。
【0030】
別の特定の態様において、エンベロープは官能化されていてもよく、それにより、共有結合または非共有結合相互作用を通じた、エンベロープへの関心対象の任意の選択された分子の結合が可能になる。官能化されたエンベロープは、リンカーを含み得、リンカーは、関心対象の任意の選択された分子の(特異的な)結合を可能にする。一例として、エンベロープはアビジンまたはビオチン部分を含み得、アビジンまたはビオチン部分への分子の特異的結合を可能にする。
【0031】
真核細胞中でのカプシドタンパク質Gagの発現が、ゲノムを含まないレトロウイルス粒子を生成するのに十分である。一態様において、VLPは、レトロウイルスまたはレンチウイルスのGagタンパク質(マウス白血病ウイルス(MLV)もしくはHIV Gagタンパク質、またはそれらの断片など)、さらにより好ましくは修飾されたレトロウイルスGagタンパク質を含む。
【0032】
本発明において、VLPは、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスのウイルスタンパク質またはその断片をディスプレイする(すなわち、VLPの外面に含む)。
【0033】
実際、本発明のVLPは、消化管において大規模な分解を受けることなく、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルス由来の抗原タンパク質の、粘膜内への正しい送達を促進する。このウイルスタンパク質(またはその断片)は、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスに対する免疫応答を誘導するための抗原として使用される。コロナウイルス科(coronaviridae)のウイルスには、レトウイルス亜科(letovirinae)およびオルトコロナウイルス亜科(orthocronavirinae)が含まれる。レトウイルス亜科(letovirinae)には、アルパレトウイルス(alpaletovirus)が含まれる。オルトコロナウイルス亜科(orthocronavirinae)には、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、デルタコロナウイルスおよびガンマコロナウイルスが含まれる。例えば、コロナウイルスは、SARS-CoVおよびSARS-CoV-2(COVID-19とも呼ばれる)を含む重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、中東呼吸器症候群関連(MERS)コロナウイルス、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)およびこれらの変異体からなる群から選択され得る。
【0034】
一態様において、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスは、コロナウイルスであり、好ましくは、SARS-CoV、SARS-CoV-2、MERS-CoV、HCoV-OC43、HCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-HKU1およびこれらの変異体からなる群から選択される。
【0035】
最も好ましい態様において、コロナウイルスは、SARS-CoV-2またはその変異体である。
【0036】
SARS-CoV-2は、多くの変異体を有する。ほとんどの変化は、ウイルスの特性にほとんどあるいは全く影響を有さない。しかしながら、いくつかの変化は、ウイルスがどの程度容易に広がるか、関連する疾患の重症度、または治療薬、診断ツールもしくはその他の公衆衛生および社会的手段の性能などの、ウイルスの特性に影響を及ぼし得る。
【0037】
一態様において、SARS-CoV-2の変異体は、世界保健機関(WHO)によって名付けられた、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、ゼータ、イータ、シータ、イオタおよびカッパ変異体を含む群から選択される。
【0038】
一態様において、本発明は、ウイルスタンパク質がSARS-CoV-2の構造タンパク質である、上で定義されたVLPに関する。SARS-CoV-2の構造タンパク質は、スパイク(S)タンパク質、膜(M)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質およびヌクレオカプシド(N)タンパク質である。
【0039】
SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質(またはSタンパク質)は、宿主細胞表面受容体ACE2へのウイルス付着を媒介し、ウイルス膜と宿主細胞膜間での融合を補助することによってウイルス侵入を促進する。これは、最も露出されたおよび免疫原性のウイルスタンパク質である。SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質は、2つのフューリン様プロテアーゼ切断部位を有する三量体高分子である。これらの部位の1つは、SARS-CoV-2に特徴的な多塩基性残基を有するS1サブユニットとS2サブユニットとの境界にある。他の切断部位は、S2サブユニット内に位置する。
【0040】
SARS-CoV-2膜糖タンパク質(またはMタンパク質)は、β-コロナウイルス全体にわたって保存されている。SARS-CoV-2膜糖タンパク質(またはMタンパク質)は、三重膜貫通ドメインを有し、スパイクの設置を促進する。
【0041】
SARS-CoV-2エンベロープタンパク質(またはEタンパク質)は、β-コロナウイルス全体にわたって保存されている。SARS-CoV-2エンベロープタンパク質(またはEタンパク質)は、五量体化して、ビロポリンと呼ばれる、膜を横切るイオン孔を形成する小さな膜内在性タンパク質である。SARS-CoV-2エンベロープタンパク質(またはEタンパク質)は、ウイルスの集合および放出に不可欠である。
【0042】
SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(またはNタンパク質)は、感染の初期段階で発現され、最も豊富なタンパク質である。SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(またはNタンパク質)は、ウイルスRNAに結合することによってリボ核タンパク質のコアを形成する。SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(またはNタンパク質)は、RNAが細胞内に入り、細胞成分と相互作用するのを助ける。
【0043】
一態様において、本発明は、ウイルスタンパク質がSタンパク質、Mタンパク質、Eタンパク質およびNタンパク質、好ましくはSタンパク質からなる群から選択される、上で定義されたVLPに関する。
【0044】
非限定的な例において、本発明は、
-Sタンパク質が、配列番号126、配列番号127、配列番号128、配列番号129、配列番号130および配列番号131からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはこれらからなり、
-Mタンパク質が、配列番号132からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはこれからなり、および
-Nタンパク質が、配列番号133からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはこれからなる
上で定義されたVLPに関する。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0045】
一態様において、本発明のVLPは、
-ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)のVSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片、および
-SARS-CoV-2のSタンパク質またはその断片
をその表面にディスプレイする。
【0046】
一態様において、本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスのウイルスタンパク質がグリコシル化されている、上で定義されたVLPに関する。
【0047】
一態様において、本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスのウイルスタンパク質がSARS-CoV-2のSタンパク質であり、前記Sタンパク質がグリコシル化されている、上で定義されたVLPに関する。
【0048】
グリコシル化の調節は、免疫回避のために病原体によってしばしば利用される。「自己の」グリカンでタンパク質免疫原上のエピトープを覆い隠すことは、その下に存在するタンパク質表面を液性免疫監視から遮蔽することもできる。ウイルス抗原にグリコシル化を適用することは、抗体の結合エピトープ中にグリカンを組み込む広く中和する抗体の誘発を改善するための効率的な戦略である。
【0049】
一態様において、本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスタンパク質のウイルスタンパク質が融合前立体構造で安定化されている、上で定義されたVLPに関する。
【0050】
一態様において、本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルスのウイルスタンパク質がSARS-CoV-2のSタンパク質であり、前記Sタンパク質が融合前立体構造で安定化されている、上で定義されたVLPに関する。
【0051】
融合前立体構造にあるウイルスタンパク質は、ウイルスのエンベロープが、ウイルスが感染する細胞の膜と融合する前の立体構造状態にある。融合前安定化されたウイルスタンパク質は、それらの野生型対応物と比較して優れた免疫原であることが多い。さらに、融合前安定化は、おそらくは、より安定した融合後構造を採る傾向から生じる誤った折り畳みを防止することによって、ウイルス融合糖タンパク質の組換え発現を増加させる傾向がある。
【0052】
一態様において、本発明のVLPは、少なくとも2つの異なるウイルスタンパク質、好ましくはSおよびMタンパク質をその表面にディスプレイする。
【0053】
一態様において、本発明のVLPは、少なくとも3つの異なるウイルスタンパク質、好ましくはS、MおよびNタンパク質をその表面にティスプレイする。
【0054】
一態様において、本発明のVLPは、そのカルボキシ末端に、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルス由来のさらなる抗原に融合したGagタンパク質をさらに含む。一態様において、本発明のVLPは、Gagタンパク質に融合されたNタンパク質またはその断片をさらにディスプレイする。特定の態様において、Nの第1(aa5~102)および第2の半分(aa242~353)がGagタンパク質に融合される。一態様において、本発明のVLPは、コロナウイルス科(Coronaviridae)ウイルス由来の、好ましくはSARS-CoV-2由来のNタンパク質またはその断片に、そのカルボキシ末端が融合されたGagタンパク質をさらに含む。これは、融合されたNタンパク質またはその断片に対するさらなる優れたT細胞応答を提供する。
【0055】
好ましい態様において、本発明のVLPは、
-ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)のVSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片、
-好ましくは融合前立体構造で安定化された、SARS-CoV-2のSタンパク質またはその断片、および
-場合により、Gagタンパク質に融合されたSARS-CoV-2のNタンパク質またはその断片
を、その表面にディスプレイする。
【0056】
好ましい態様において、本発明のVLPは、
-ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)のVSP、VSP様タンパク質またはそれらの断片、
-好ましくは融合前立体構造で安定化された、SARS-CoV-2のSタンパク質またはその断片、
-SARS-CoV-2のMタンパク質またはその断片、および
-場合により、Gagタンパク質に融合されたSARS-CoV-2のNタンパク質またはその断片
を、その表面にディスプレイする。
【0057】
本発明のVLPに対して上で与えられたすべての態様および特徴は、前記VLPを含む以下に記載される本発明の他の局面に準用される。
【0058】
別の局面において、本発明は、上で定義されたVLPを有効成分として含む薬学的組成物に関する。
【0059】
一態様において、本発明の薬学的組成物はワクチンである。
【0060】
一態様において、本発明の薬学的組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容され得る賦形剤をさらに含む。
【0061】
「薬学的に許容され得る」は、必要に応じて哺乳動物、特にヒトに投与したときに有害なアレルギー反応または他の不都合な反応を生じない分子実体および組成物を指す。薬学的に許容され得る賦形剤は、任意の種類の非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、封入材料または製剤補助剤を指す。
【0062】
このような薬学的に許容され得る賦形剤には、水、塩、緩衝剤、アジュバント、担体または組成物の有効性を改善するために望ましい他の物質が含まれるが、これらに限定されない。薬学的組成物の調製における使用に適した薬学的材料の例は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Osol,A,ed.,Mack Publishing Co.,(1990))を含む多数の情報源に提供されている。
【0063】
さらに、薬学的組成物は、追加のアジュバントまたは免疫原性もしくは生物学的に活性な作用物質を含み得る。例えば、薬学的組成物は、アルミニウム、特にリン酸アルミニウム、AS03、MF59およびAS04から選択されるアジュバントをさらに含むことができる。
【0064】
しかしながら、本発明の有利な特徴は、アジュバントの非存在下でさえ、組成物の高い免疫原性であるので、他の態様において、薬学的組成物はアジュバントを欠いている。アジュバントの非存在は、さらに、ワクチン接種における安全上の懸念を表す望ましくない炎症性T細胞応答の発生を最小限に抑える。
【0065】
本発明の薬学的組成物は、好ましくは経口投与または粘膜投与のために製剤化される。経口投与または粘膜投与のために使用される用量は、様々なパラメータの関数として、特に関連する病態の様式の関数として、または処置の所望の期間の関数として適合させることができる。薬学的組成物は、任意の適切な粘膜に投与され得、投与には、(消化器系の粘膜を介した)経口投与、経鼻投与、経膣投与、舌下投与、眼投与、直腸投与、泌尿器(urinal)投与、乳房内(intramammal)投与、肺投与、耳投与(すなわち、耳を介して)および頬側投与、好ましくは頬側投与または舌下投与(口腔粘膜投与)が含まれる。好ましい態様において、薬学的組成物は、経口または経鼻投与用に製剤化される。
【0066】
製剤化されると、薬学的組成物は、投与製剤と適合する様式で、および治療上有効な量で投与される。製剤は、例えば経口投与または粘膜投与のための錠剤または他の固体の種類、徐放カプセル;および現在使用されている任意の他の形態などの様々な剤形で容易に投与される。したがって、薬学的組成物は、スプレー、エアロゾル、混合物、懸濁液、分散液、エマルジョン、ゲル、ペースト、シロップ、クリーム、軟膏、インプラント(耳、眼、皮膚、鼻、直腸および膣)、乳房内調製物、膣坐剤(vagitories)、坐剤または子宮坐剤(uteritories))の形態であり得る。ある態様において、リポソームの使用が企図される。リポソームの形成および使用は、当業者に公知である。
【0067】
より具体的には、薬学的組成物は、VLP、特にその表面にディスプレイされているウイルスタンパク質が、必要に応じて上部消化管の酵素的および化学的分解に耐性であるように製剤化される。
【0068】
別の局面において、本発明は、医薬として使用するための上で定義されたVLPに関する。
【0069】
本発明は、ウイルス感染症の予防および/または処置を必要とする対象におけるウイルス感染症の予防および/または処置の方法であって、有効量の上で定義されたVLPを前記対象に投与する工程を含む、方法にも関する。
【0070】
本発明は、医薬の製造における上で定義されたVLPの使用にも関する。
【0071】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、げっ歯類、ネコ、イヌおよび霊長類などの哺乳動物を意味する。好ましくは、本発明による対象はヒトである。
【0072】
本発明の文脈において、本明細書で使用される「処置する」または「処置」という用語は、このような用語が適用される疾患もしくは感染症、またはこのような疾患もしくは感染症の1つもしくは複数の症候を元に戻し、緩和し、その進行を阻害し、または予防することを意味する。
【0073】
本発明の意味の範囲内で、疾患または感染症に関する「予防する」または「予防」という用語は、前記疾患または感染症の発生のリスクの減少を意味することを意図している。
【0074】
「有効量」は、対象に治療的または予防的利益を付与するために必要なVLPの最小量を意図する。例えば、哺乳動物に対する有効量は、感染症症候、疾患進行または感染症に関連する生理的状態もしくは感染症に屈することへの耐性の改善を誘導し、改善し、またはその他引き起こすような量である。
【0075】
別の局面において、本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae family)のウイルスによる感染症の処置または予防において使用するための上で定義されたVLPに関する。
【0076】
本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae family)のウイルスによる感染症の予防および/または処置を必要とする対象におけるコロナウイルス科(Coronaviridae family)のウイルスによる感染症の予防および/または処置の方法であって、有効量の上で定義されたVLPを前記対象に投与する工程を含む、方法にも関する。
【0077】
本発明は、コロナウイルス科(コロナウイルス科(Coronaviridae family)のウイルスによる感染症を予防および/または処置するための医薬の製造における上で定義されたVLPの使用にも関する。
【0078】
別の局面において、本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae family)のウイルスによる感染症に対するワクチンとして使用するための上で定義されたVLPに関する。
【0079】
本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae family)のウイルスに対する対象のワクチン接種(または免疫化)の方法であって、有効量の上で定義されたVLPを前記対象に投与する工程を含む方法にも関する。
【0080】
本発明は、コロナウイルス科(Coronaviridae family)のウイルスに対するワクチンの製造における、上で定義されたVLPの使用にも関する。
【0081】
1つの好ましい態様において、薬学的組成物は粘膜経路によって投与される。
【0082】
一態様において、本発明のVLPは、患者/患畜に経口投与または鼻腔内投与される。
【0083】
一態様において、本発明のVLPは、皮下または筋肉内注射によって、コロナウイルス科(Coronaviridae family)のウイルスに対するワクチン、好ましくはアデノウイルスをベースとするワクチンを以前に受けたことがある患者/患畜に追加免疫として投与される。
【0084】
一態様において、本発明のVLPは、患者/患畜に2回投与される。
【0085】
一態様において、本発明のVLPは、患者/患畜に3回以上投与される。
【0086】
一態様において、患者/患畜は、本発明のVLPの第1の投与および本発明のVLPの第2の投与を受け、両投与は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間、より好ましくは少なくとも3~4週間間隔が空けられる。
【0087】
一態様において、VLPは、気道消化管の、特に気管支および肺胞中の粘膜表面による免疫グロブリンA(IgA)の産生を誘導するために、患者/患畜に投与される。IgAの産生は、例に示されているように、気管支肺胞洗浄液中のIgAを検出することにより測定することができる。
【0088】
以下の図面および例は、本発明を作製および使用する方法の完全な開示および説明を当業者に提供するために記載されており、本発明者らが本発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではなく、以下の実験が実施されたすべてのまたは唯一の実験であることを表すことを意図するものでもない。本発明の特定の態様を参照しながら本発明を説明してきたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更が行われ得、均等物が置き換えられ得ることが当業者によって理解されるべきである。さらに、特定の状況、材料、組成物、方法、1つの方法工程または複数の方法工程を本発明の目的、精神および範囲に適合させるために、多くの修正が行われ得る。このような修正はすべて、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【
図1】マウスにおけるスパイクの異なる変異体の免疫原性。Swt:SARS-CoV-2のS野生型(元の武漢株Acc.No.NC_045512およびその変異体D614G)。Sst1:S人工サブタイプ1(K986P/V987P、682RRAR-685GSAS(modFurinCS))。Sst2:S人工サブタイプ2(T791C/A879C、682RRAR-685GSAS(modFurinCS))。Sst3:S人工サブタイプ3(S884C/A893C、682RRAR-685GSAS(modFurinCS))。Sst4:S人工サブタイプ4(G885C/Q913C、682RRAR-685GSAS(modFurinCS))。Sst5:S人工サブタイプ5(S884C/Q913C、682RRAR-685GSAS(modFurinCS))。
【
図2】ハムスターにおける異なるワクチン製剤の経口投与に対する血清抗体応答。
【
図3】ハムスターにおける異なるワクチン製剤の筋肉内投与に対する血清抗体応答。
【
図5】SARS-CoV-2侵入に対する中和抗体。
【
図6】筋肉内にワクチン接種されたハムスターの経口追加免疫後の気管支肺胞IgA。
【
図7】SARS-CoV-2で攻撃されたワクチン接種されたハムスター。
【実施例】
【0090】
例
SARS-CoV-2に対する熱安定的な、経口投与される、エンベロープに包まれたウイルス様粒子(e-VLP)ワクチンを設計および評価するために、以下の実験を実施した。
【0091】
e-VLPは、強固な中和免疫応答を誘導するのに特に適している。実際、e-VLPは、e-VLPが由来する細胞と同じ脂質膜を有する。同様に、VLPが発現するウイルスエンベロープタンパク質は、感染した細胞の脂質膜上でウイルスエンベロープタンパク質が有するのと同じ立体構造、およびウイルス自体と同じ立体構造を有する。中和抗体(Nab)の多くは、立体配置構造を標的とするので、e-VLPはNab誘導に特に適している。さらに、e-VLPは、腸内寄生生物であるランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)由来の可変表面タンパク質(VSP)とともに利用することができ、e-VLPに経口投与後の耐性を与える。
【0092】
M発現ありまたはなしで、様々な形態のSタンパク質を発現するVSPで装飾されたe-VLP(VSP-e-VLP)を作製し、試験した。予想外なことに、SおよびMの融合前の安定化された形態を発現するVSP-e-VLPは、マウスおよびハムスターにおいてSARS-CoV-2に対する強固な粘膜Nabを誘発し、これはウイルス攻撃からの完全な保護につながることが見出された。このようなワクチンは、初回-追加ワクチン戦略において、または効率的な同種追加免疫を許容しないプラットフォーム(アデノウイルスプラットフォームなど)をベースとする既存のワクチンおよび疾患の重篤な形態に対して非常に効率的であるが、感染症をもたらさないmRNAベースのワクチンに対する追加免疫として、SARS-CoV-2に対する武器の一部となり得る。
【0093】
材料および方法
ウイルス。1mLあたり0.3%ウシ血清アルブミン(BSA)および1μgのL-1-トシルアミド-2-フェニルエチルクロロメチルケトン処理されたトリプシンを含有するOpti-MEM I(Invitrogen)中、37℃で、VeroE6細胞中でSARS-CoV-2分離株を増殖させた。SARS-CoV-2を用いたすべての実験は、CIDIE CONICET(アルゼンチン)のバイオセーフティレベル3(BSL3)封じ込め実験室で、またはソルボンヌ大学(フランス)の強化されたBSL3封じ込め実験室で行われた。
【0094】
実験動物。免疫化実験および攻撃実験のために、以前の経験に基づいて群サイズを選択し、同じ性の同腹仔を無作為に割り当てた。各実験およびすべての手順のための動物の数は、実験動物の管理および使用に関する施設委員会(Institutional Committee for Care and Use of Experimental Animals)によって承認されたプロトコルに従った。群あたり1ヶ月齢の5匹の雌および5匹の雄のSPFゴールデンシリアンハムスターを攻撃実験において使用し、群あたり6ヶ月齢の5匹の雌および5匹の雄のゴールデンシリアンハムスターを免疫化研究において使用した。攻撃実験のために、ケタミン-キシラジン麻酔下で、群あたり10匹のハムスターに、鼻腔内経路を介して105PFUのSARS-CoV-2(100μL中)またはPBS(モック)を接種した。感染前にベースライン体重を測定し、体重を28日間監視した。動物は、採血中に危害を加えられなかった。
【0095】
中和アッセイ。Vero E6細胞におけるマイクロ中和アッセイによって、ウイルス中和抗体価について、鼻腔内に接種されたハムスターから14dpiに採取された血清を試験した。簡潔にまとめると、50倍連続希釈された(1:50~1:5000)血清試料を100 TCID50のSARS-CoV-2ウイルスと混合し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、混合物をVero E6細胞に添加し、37℃で72時間さらにインキュベートした。細胞傷害効果の50%を阻害する最大希釈として、中和抗体価を定義した。
【0096】
VLP発現プラスミド。pGagについては、プラスミドpBL36-HCVからの酵素消化によって、そのC末端Pol配列を持たないMLV GagのGagカプシドタンパク質(Uniprot:P0DOG8.1)をコードするcDNA配列を得て、phCMV発現ベクターにクローニングした。SARS-CoV-2スパイクタンパク質変異体については、cDNA配列もphCMV発現ベクターにクローニングした。すべてのプラスミドを配列決定によって確認した。
【0097】
VLPの生成、生産、精製および検証。形質移入試薬としてPEIを使用して、pGag、pGag-N1、pGag-N2、pSおよびその変異体、ならびにpMプラスミドDNAで、HEK293細胞またはHEK293-1267細胞のいずれかの一過性形質移入によってVLPを生産した。T175フラスコ中において70%コンフルエンスで、3:1のPEI:DNA質量比でフラスコあたり70μgの全DNAで細胞を形質移入した。VLP含有上清を形質移入の72時間後に回収し、0.45μm孔径の膜を通してろ過し、遠心フィルターデバイス(Centricon(登録商標)Plus-70-100K、Millipore)中で20倍濃縮し、SW41T Beckmanローター(25,000rpm、4時間、4℃)中の20%スクロースクッションを通した超遠心分離によって精製した。無菌TNE緩衝液(50mM Tris-HCl pH7.4、100mM NaCl、0.1mM EDTA)中にペレットを再懸濁した。Bradford法を用いてタンパク質を測定した。ウエスタンブロッティングのために、10% SDS-PAGEによってタンパク質を分離し、PVDF膜上に転写した後、特異的な一次抗体とインキュベートした。アルカリホスファターゼがコンジュゲートされた二次抗体を使用し、BCIP/NBT基質によって二次抗体を検出した。
【0098】
免疫化。ゴールデンシリアンハムスターを4時間絶食させ、次いで、2回、100μgの異なるVLPを毎週投与して経口的に免疫化した。皮下免疫化については、2回、10μgの異なるVLPを毎週投与した。陰性対照群(ナイーブ)の動物は、ビヒクルのみで経口免疫化を受けた。免疫化の間、動物は麻酔を受けなかった。
【0099】
流体採取。ハムスターの後眼窩洞から血液を毎週採取し、血清を分離し、-80℃で保存した。プロテアーゼ阻害剤を含む1mLのPBSの注入-吸引によって、気管を通じて気管支肺胞洗浄(BAL)を収集した。
【0100】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)試験。インビトロで生産された死滅した全ウイルスのホモジネートでプレートを増感させることによって、ELISAによってスパイクタンパク質に対するIgGおよびIgA抗体のレベルを決定した。精製されたタンパク質:ヒトコロナウイルスHCoV-229Eスパイクタンパク質(S1+S2 ECD)(Sino Biological,Inc.40605-V08B)およびSARS-CoV-2スパイクタンパク質(Active Trimer)R&D Cat.#10549-CV)を用いて、スパイクの定量を行った。以下の二次抗体を使用した:マウス抗ハムスターIgGカクテル、クローン:G94-56、G70-204(BD Biosciences、カタログ番号#554009)。マウス抗ハムスターIgM、クローン:G188-9、(BD Biosciencesカタログ番号554035)。ハムスター免疫グロブリンA(IgA)ELISAキット(MyBiosourcesカタログ番号MBS029668)。マウスモノクローナル(H6)抗SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質(Abcam.カタログ番号ab273169)。
【0101】
統計解析。インビトロタンパク質分解濃度測定実験に対して、対応のない両側スチューデントのt検定を使用した。それぞれテューキー多重比較検定またはボンフェローニ事後検定を用いてデータセットに対して一元配置または二元配置のANOVAを行うために、Prism(GraphPad Software)を使用した。すべての図は、平均±平均値の標準誤差を示す。統計学的に有意な差は、各グラフにおいて、*p<0.05、**p<0.01および***p<0.001として示されており、ns=有意でない。
【0102】
例I-マウスにおけるSの異なる変異体の免疫原性
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(S)を用いて実験を行った。オープン構造の受容体結合ドメイン(RBD)を安定化するためのスパイクタンパク質(または「Sst」と呼ばれるサブタイプ)および前融合状態で安定化されたSタンパク質のいくつかの変異体を設計した。いくつかの点変異:Cys-分子クランプ、フューリン切断部位除去およびPro置換を使用した。次いで、記載したようにVLPを生産し、正しい組成について検証した。e-VLPをBalb/cマウスに経口投与し、血清およびBAL IgのレベルをELISAによって決定した(
図1)。
【0103】
注目すべきことに、フューリン切断部位を欠き(modFurinCS)、2つのPro置換を有するスパイク変異体は、高レベルの抗体を誘発するのに最も効率的であった。両性のOb/Ob、Db/Dbおよび老齢マウスで行われた同一の実験は同様の結果を示し(図示せず)、基礎となる状態、マウスの性別または年齢にかかわらず、VSP-e-VLPの経口投与が群間で変化しないことを示した。したがって、ゴールデンシリアンハムスターモデルにおける免疫化および攻撃実験のためにe-VLPに含めるために、Sの最も効果的な変異体、すなわちSst1を選択した。
【0104】
例II-異なるワクチン製剤の経口投与に対する抗体応答
SARS-CoV-2 SのC末端細胞質尾部(CT)は、S糖タンパク質の適切なグリコシル化のために重要であることが知られている。このため、受容体結合ドメイン(RDB)の近くに多数のグリコシル化部位が存在するので、Sのグリコシル化の差が効率的なNabの生成に影響を及ぼすはずであると仮定された。この理由から、小胞体(ER)保持を消失するようにCTを改変した(modCT)。さらに、SARS-CoV-2のエンベロープ膜タンパク質Mをe-VLP中に組み込んだ。実際、Mは、グリコシル化の最初の段階を改善するためにSをERに保持することが知られており、その後、そこで最終的なグリコシル化が達成されるゴルジ装置全体を移動する間、SのCTに付着された状態を保つ。それがe-VLP中にMを含める主な理由であったが、その後の報告は、Covid-19に罹患した後に回復した患者におけるこのタンパク質のいくつかのエピトープに対する特異的T細胞応答を示した。したがって、e-VLPのエンベロープ中へのMの組み込みは、Sの適切なグリコシル化だけでなく、ウイルスに対するより強い細胞応答の産生にも利益をもたらし得る。したがって、Mあり/なしおよび改変されたCTあり/なしのe-VSPを生成した。ジアルジア属(Giardia)由来のVSPがVLP表面上に組み込まれた経口投与用のe-VLPおよびVSPがない筋肉内注射用のe-VLPも、両免疫化経路を比較するために生産した。
【0105】
経口投与された製剤は、異なるe-VLPを装飾するジアルジア属(Giardia)VSPの非存在は一切の免疫応答を回避することを示し、上部小腸に沿ったVLPの破壊によるものである可能性が最も高い(
図2Aおよび2B)。さらに、SのCTの改変は、野生型CTを有するSと比較して、動物において生成される血清IgGまたはIgAのいずれかを誘導する上で有害であるようであった。しかしながら、MがVSP-e-VLP中に組み込まれた場合、IgGおよびIgA血清抗体力価は増大した。
【0106】
例III-異なるワクチン製剤の筋肉内投与に対する抗体応答。
ハムスターに筋肉内(i.m.)投与されたVSP-e-VLPは、血清中の高レベルの両Igを誘導し、e-VLP上のジアルジア属(Giardia)VSPの存在は、普通のe-VLPより高いレベルの抗体を促進した(
図3)。予想通り、血清IgGのレベルはIgAのレベルよりも高かった。すべての筋肉内投与された製剤において、個々の動物間で重要な変動が見られた。しかしながら、他のワクチン製剤によって得られた値または回復期患者から得られた血漿中の値と比較すれば、これらの値は許容可能であった。
【0107】
これらの動物において経口または筋肉内のいずれかで投与された同じ製剤間で観察された差は、経口経路は動物間でより高い程度の変動を示すことが予想されるが、それは異なる製剤間ほど可変的でなく、生成されたIgの種類によって説明され得ることを示唆している。特に、筋肉内投与は、添加されたアジュバントの非存在下で行われたことを考えると、VSP-e-VLPの高い免疫原性は、TLR-4を活性化することが実証されているVSPのアジュバント特性によって説明することができる。VSPを欠くe-VLPのより低い免疫原性は、VLPの微粒子特性およびVLPの表面上の抗原の反復的曝露のみに依存し得る。
【0108】
これらの結果は、e-VLPの表面上のVSPの存在は経口投与されたときに粒子の破壊を回避するために不可欠であるが、普通のe-VSPはアジュバントの非存在下で注射によって投与されたときにかなりの応答を生成し、VSPが存在すると強く増加した応答であることを明確に示している。
【0109】
例IV-気管支肺胞洗浄IgA応答
経口的にまたは製剤の注射によって免疫された動物においてIgAの存在を分析すると、筋肉内に免疫された動物は、VSP、Mおよび安定化されたSを含有するe-VLPバージョンのみが気管支肺胞洗浄液中に高力価のIgAを示した経口投与された動物と比較して、一貫して低レベルのIgA力価を有することが認められた(
図4)。同じく、これらの結果は、e-VLP製剤の高い免疫原性、および経口投与のために粒子を保護し、免疫賦活化するためにVSPが決定的に重要であることを確認する。
【0110】
例V-SARS-CoV-2侵入に対する中和抗体
さらに、経口および筋肉内投与された選択されたe-VLPのいずれにも存在するIgAは、BAL中の高レベルのNabを示し、VSPおよびMが粒子に含まれた場合にそれらのレベルは増大した(
図5)。注目すべきことに、野生型Sタンパク質および安定化されたSタンパク質はいずれも、同等の力価のNabを生成することが可能であり、既にヒトに投与されている異なる市販のワクチンにわたって既に観察されている現象である。
【0111】
例VI-筋肉内投与後の経口追加免疫
VSP-e-VLPは熱安定的であり、数サイクルの凍結/解凍にさえ耐えるので、ワクチン注射用の冷凍用品が不足している世界の地域で使用するのに極めて適している。実際、ほとんどの国が既に大規模なワクチン接種キャンペーンを開始しているにもかかわらず、現在のワクチンの高いレベルの冷蔵、筋肉内投与されたワクチンの殺菌免疫の欠如、または筋肉内投与のための訓練された人員の必要性によって引き起こされる厄介な問題のために、SARS-CoV-2による感染症が世界のほとんどの地域で続いている。
【0112】
これらの理由のため、注射によって以前にワクチン接種された動物に経口追加免疫を適用した。これらの動物では、VSP、安定化されたSおよびMを含有する製剤の第3の用量は、筋肉内に2つの用量を与えたのみのものと比較して、BAL中のIgAのレベルの6倍の増加を誘導した(
図6)。
【0113】
例VII-SARS-CoV-2攻撃
最後に、選択されたVSP-e-VLP製剤で免疫した動物をSARS-CoV-2で攻撃し、ハムスターの応答を決定した。この事例では、VSP偽型化ありまたはなしで、安定化されたSおよびMが粒子上に存在するe-VLPの製剤のみを試験した。
【0114】
結果は、VSP-e-VLPによる経口免疫化が、注射によって免疫され、次いで経口的に追加免疫を行われた動物と同様に、感染後2週間の間、動物の体重減少を防ぐことを示した。反対に、ハムスターの実験的感染症について報告されているように、対照動物はその期間中に体重を減少させ、その後すぐに回復した。筋肉内でのみ免疫された動物では、中間の状況が観察され得る(
図7)。
【0115】
VIII-結論
これらの実験結果は、経口投与後にSARS-CoV-2に対するNAbを生成するなどのために、SARS-CoV-2エンベロープタンパク質をジアルジア属(Giardia)VSPとともにe-VLP上に同時発現させることが可能であることを初めて示す。普通のe-VLPはAb応答を生成しなかったが、VSP-e-VLPは筋肉内投与に対する応答の範囲でAb応答を生成した。VSPがSARS-CoV-2 Envタンパク質の適切な立体構造を維持しながらSARS-CoV-2 Envタンパク質を分解から保護することを示すので、これは注目に値する。
【0116】
さらに、これらの結果はまた、分解からの保護をもたらすだけでなく、強力なアジュバント効果も有するVSPの二重特性も示す。実際、ワクチンが筋肉内投与される場合、VSP-e-VLPは常に、それらの普通のe-VLPより高い力価の抗体をもたらした。注目すべきことに、SARS-CoV-2 VLPは筋肉内投与後に良好なNab応答を生成することが最近報告されたが、粘膜部位でのIgAの報告は存在しない。
【0117】
その容易さに加えて、経口投与は、より良好な粘膜免疫を誘発するという利点も有することが知られている。これは実際にここでも当てはまり、血漿のレベルは高いが、経口投与後にのみBAL IgAも検出可能である。ウイルスの伝播を低下させるはずであるので、これは、SARS-CoV-2に対するワクチンにとって明らかな利点である。この線で、それ以外には感染から保護されているように見えたワクチン接種されたマカクのBAL中に、SARS-CoV-2がなお検出された。
【0118】
本研究では、特異的T細胞応答を試験しなかった。しかしながら、e-VLPはこのような応答を強固に誘導することが知られており、実際、VSP-HA-VLPを使用すると、強力なCTLがHAを発現する腫瘍細胞を死滅させることができた(Serradell et al.,Nat.Commun.10:361(2019))。さらに、ここでのIgGおよびIgA応答はT細胞依存性であることが周知であり、したがって、優れた抗体応答は優れたT細胞応答を証明する。
【0119】
この線で、ウイルス粒子/VLPの形成および放出を誘導するレトロウイルスタンパク質前駆体であるGAGへのウイルスペプチドの融合が、このペプチドに対するさらなる強力なT細胞応答の生成を可能にすることが以前に示された。大きな断片もしくはSARS-CoV-2 N構造タンパク質、または一続きの免疫優性ペプチドのGagへの融合は、明らかに、VSP-e-VLPの免疫原性をさらに増強するための手段であろう。
【0120】
SARS-CoV-2 VSP-e-VLPは、おそらく投与の初回-追加免疫スキームを用いて、独立型ワクチン(stand-alone vaccine)として使用され得る。VSP-e-VLPは熱安定的であり、室温でその特性を保持するので、熱安定的なワクチンから恩恵を受ける国でのワクチン接種にとって特に有利であり得る。VSP-e-VLPは、他のワクチン設計のための追加免疫としても使用され得る。
【0121】
この線で、現在使用されているワクチンによって与えられる保護の持続期間はなお不明である。感染した患者の追跡調査は、少なくとも一部の患者については、Nabの持続性および保護の期間が数ヶ月であり得ることを示している。ウイルス変異体の出現に加えて、これらにより、ワクチン接種者の免疫応答を定期的に増強することが必要になる可能性がある。いくつかのワクチン設計、特にアデノウイルスベクターに基づくものでは、同じベクターの再投与は、ベクターに対して生成される免疫応答のためにあまり効率的ではないことがあり得る。これらの理由のため、VSP-e-VLPによる追加免疫は特に興味深いものであり得る。他のワクチン設計については、特に他の年に反復投与が必要とされる場合、経口投与されるワクチンはより許容され得る。
【0122】
総合すると、それぞれのワクチン設計に特有の問題(欠点の中でも特に、熱安定性、副作用、粘膜免疫誘導の欠如、ベクターに対する免疫原性)に鑑みると、SARS-CoV-2に対して複数のワクチンを利用できることにより、パンデミックを抑制する機会がより多く保証される。
【0123】
その結果、熱安定的な経口投与されるe-VLPワクチンは、このウイルスに対する武器にとって貴重な新戦力となるであろう。
【配列表】
【国際調査報告】