(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-13
(54)【発明の名称】血小板減少症を治療するための製品及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20241206BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20241206BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241206BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20241206BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241206BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20241206BHJP
A61P 37/00 20060101ALI20241206BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241206BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20241206BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/705
C12N5/10
A61K39/00 H
A61K48/00
A61P7/00
A61P37/00
A61P37/02
A61P43/00 111
A61K35/17
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533806
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-06-05
(86)【国際出願番号】 CN2022139309
(87)【国際公開番号】W WO2023109903
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】202111534894.9
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522293490
【氏名又は名称】シャンハイ シンヴィダ バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】シュイ,イェンイェン
(72)【発明者】
【氏名】リィウ,ジュンリン
(72)【発明者】
【氏名】リィウ,イェンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,イェンホア
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZB071
4C084ZB072
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4C084ZB132
4C084ZC421
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4C085AA32
4C085BB11
4C085CC12
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZB07
4C087ZB13
4C087ZC42
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は血小板減少症を治療するための製品及び方法を提供する。本発明の技術案は、自己免疫機構による血小板減少症の問題を根本的に解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)抗血小板抗体に結合する競合抗原又は前記抗原を含む構築物若しくは組成物の調製、(b)反応性Bリンパ球を標的として除去する構築物若しくは組成物の調製、(c)血小板を上昇させる構築物若しくは組成物の調製、及び(d)免疫性血小板減少性紫斑病を緩和又は治療する構築物若しくは組成物の調製における、血小板表面抗原GpIbα、その切断体、その変異体、又はそれらをコードするポリヌクレオチドの応用。
【請求項2】
血小板表面抗原GpIbαの切断体、その変異体、又はそれらをコードするポリヌクレオチドであって、前記GpIbαの切断体又は変異体は、GpIbαタンパク質の細胞外領域に由来し、in vivoでの血小板自己免疫抗体の結合部位を有し;より好ましくは、前記切断体又は変異体は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8又は配列番号10、配列番号17、配列番号19又は配列番号21から選ばれる1つ又は複数に示されるアミノ酸配列のタンパク質を含むことを特徴とする。
【請求項3】
細胞外結合領域としての請求項2に記載の血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナルドメインを含み;好ましくは、前記細胞内シグナルドメインは、共刺激分子及び/又はシグナル伝達ドメインを含む、キメラ自己抗体受容体。
【請求項4】
前記膜貫通ドメインは、CD8又はCD28のヒンジ領域及び膜貫通領域を含み;好ましくは、前記膜貫通ドメインは、CD8のヒンジ領域及び膜貫通領域を含み;より好ましくは、前記ヒンジ領域は、配列番号11の291位~335位に示されるアミノ酸配列を有し、前記膜貫通ドメインは、配列番号11の336位~359位に示されるアミノ酸配列を有し;又は
前記細胞内シグナルドメインは、4-1BB、CD3ζ、FcεRIγ、CD27、CD28、CD134、ICOS又はGITRから選ばれる細胞内シグナル領域を含み;好ましくは、前記細胞内シグナル領域は、4-1BB及びCD3ζを含み;より好ましくは、前記4-1BBは、配列番号11の360位~401位に示されるアミノ酸配列を有し、前記CD3ζは、配列番号11の402位~513位に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項3に記載のキメラ自己抗体受容体。
【請求項5】
前記キメラ自己抗体受容体は、請求項2又は3に記載の血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体、CD8又はCD28のヒンジ領域及び膜貫通領域、4-1BB、CD3ζという順番で連結された構造を含み;好ましくは、前記キメラ自己抗体受容体は、配列番号11~配列番号15のいずれかに示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項3に記載のキメラ自己抗体受容体。
【請求項6】
(i)請求項3に記載のキメラ自己抗体受容体をコードするポリヌクレオチド、又は
(ii)請求項2に記載の血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体をコードするポリヌクレオチドを含む、発現構築物。
【請求項7】
免疫エフェクター細胞であって、請求項3に記載のキメラ自己抗体受容体のポリヌクレオチド若しくは請求項6の(i)発現構築物が導入され;あるいは請求項3に記載のキメラ自己抗体受容体を発現し;
好ましくは、前記免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞、NKT細胞又はサイトカイン誘導キラー細胞からなる群から選ばれる細胞又はそれらの組み合わせを含み;より好ましくは、前記免疫エフェクター細胞はT細胞であり;より好ましくは、前記T細胞は、ヘルパーT細胞、細胞毒性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、γδT細胞、Tメモリー幹細胞、又は多能性幹細胞由来のT細胞を含む、免疫エフェクター細胞。
【請求項8】
(a)抗血小板抗体又は遊離抗体を中和する組成物の調製、(b)反応性Bリンパ球を標的として除去する組成物の調製、(c)血小板を上昇させる組成物の調製、及び(d)免疫性血小板減少性紫斑病を緩和又は治療する組成物の調製における、請求項7に記載の免疫エフェクター細胞の応用。
【請求項9】
請求項7に記載の免疫エフェクター細胞を含む医薬組成物又は薬物ボックスであって、(a)抗血小板抗体又は遊離抗体を中和する、(b)反応性Bリンパ球を標的として除去する、(c)血小板を上昇させる、及び(d)免疫性血小板減少性紫斑病を緩和又は治療するための、医薬組成物又は薬物ボックス。
【請求項10】
(a)抗血小板抗体又は遊離抗体を中和する、(b)反応性Bリンパ球を標的として除去する、(c)血小板を上昇させる、又は(d)免疫性血小板減少性紫斑病を緩和又は治療するための方法であって、前記方法は、有効量の請求項7に記載の免疫エフェクター細胞を被験者に投与することを含む、方法。
【請求項11】
(a)抗血小板抗体又は遊離抗体を中和する、(b)反応性Bリンパ球を標的として除去する、(c)血小板を上昇させる、又は(d)免疫性血小板減少性紫斑病を緩和又は治療するための方法であって、前記方法は、有効量の請求項9に記載の医薬組成物を被験者に投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学及び薬学の分野に属し、より具体的には、本発明は血小板減少症関連疾患の治療における血小板表面抗原又はその切断体の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫性血小板減少症(又は特発性血小板減少症)は、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)とも呼ばれ、末梢血小板の減少により出血を引き起こす自己免疫疾患であり、出血性疾患の総数の約1/3を占める。現在、臨床ではITP患者の約1/3は薬物治療の効果が乏しく、最終的には死亡率の高い慢性ITP(cITP)に移行する。
【0003】
免疫性血小板減少症の主な発症機序は、生体内の自己反応性Bリンパ球が増殖し、血小板膜表面の特異的糖蛋白に対する自己抗体(PA Abs)を分泌することであり、ITP患者におけるこれらのPA Absの特異性が90%と高く、この抗体は血小板に結合することにより、脾臓の細網内皮系に血小板が貪食・除去され、正常な止血機能が損なわれる。同時に、PA Absは巨核球にも結合し、血小板の成熟と分化に影響を及ぼし、これがITPの発症につながる主な病因である。PA Abs陽性のITP患者は、陰性患者よりも出血リスクが高く、有効性と予後が悪い。
【0004】
ITPに対する現在の臨床治療は、主に患者の症状を改善することを目的としている。そのうち、第一選択治療としては、糖質コルチコイド、ガンマグロブリン、免疫グロブリン製剤の点滴、血小板輸血などがあるが、有効性には比較的に限界があり、副作用(ホルモン)が大きく、再発・難治性患者の割合が高く、かつ血液製剤の供給源が極めて乏しく、感染症のリスクがある。第二選択治療としては、免疫抑制剤の使用、脾臓摘出、血小板産生促進及びBリンパ球の非特異的除去(CD20抗体)などがあり、免疫抑制剤とCD20の使用は、もともと調節不全になっていた免疫系を無差別に破壊することになり、二次感染などの問題を引き起こすことがある。一方、血小板産生促進剤の刺激により産生された血小板は、抗原としてさらに自己免疫を活性化し続け、これで産生された血小板が迅速に除去され、有効性が不安定であるとともに血栓症と出血を誘発するという二重のリスクもあり、また、このような薬物は骨髄線維症、肝機能障害などの重篤な薬物の副作用を招く可能性もある。そのため、臨床ではより効果的な治療戦略を見つけることが急務となっている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、免疫性血小板減少症関連疾患の治療薬の調製における血小板表面抗原切断体の応用を提供することを目的とする。
【0006】
本発明はまた、前記切断体又はその変異体を用いて調製されるキメラ自己抗体受容体(CAAR)及びその応用を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の第一態様において、(a)抗血小板抗体に結合する競合抗原又は当該抗原を含む構築物若しくは組成物の調製、(b)反応性Bリンパ球を標的として除去する構築物若しくは組成物の調製、(c)血小板を上昇させる構築物若しくは組成物の調製、及び(d)免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)を緩和又は治療する構築物若しくは組成物の調製における、血小板表面抗原GpIbα、その切断体、その変異体、又はそれらをコードするポリヌクレオチドの応用を提供する。
【0008】
1つ又は複数の実施形態において、前記GpIbαの切断体又はその変異体は以下の特性を有する:in vivoでの血小板自己免疫抗体の結合部位を有し、好ましくは、前記GpIbαの切断体又はその変異体は、GpIbαタンパク質の細胞外領域に由来する。
【0009】
1つ又は複数の実施形態において、前記切断体は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号17、配列番号19又は配列番号21に示されるアミノ酸配列のタンパク質を含み;
1つ又は複数の実施形態において、前記構築物はキメラ自己抗体受容体(Chimeric AutoAntibody Receptor、CAAR)である。
【0010】
1つ又は複数の実施形態において、前記抗血小板抗体には、B細胞表面抗血小板BCR及び/又は遊離抗血小板抗体が含まれる。
【0011】
本発明の別の態様において、血小板表面抗原GpIbαの切断体、その変異体、又はそれらをコードするポリヌクレオチドを提供し、前記GpIbαの切断体又は変異体は、GpIbαタンパク質の細胞外領域に由来し、in vivoでの血小板自己免疫抗体の結合部位を有し;好ましくは、前記切断体又は変異体は、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)に結合する結合領域が突然変異して結合能力が低下した変異体であり;より好ましくは、前記切断体又は変異体では、配列番号2に対応するアミノ酸配列の233位がGからKに突然変異し(G233K);より好ましくは、前記切断体又は変異体は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8又は配列番号10、配列番号17、配列番号19又は配列番号21から選ばれる1つ又は複数に示されるアミノ酸配列のタンパク質を含むことを特徴とする。
【0012】
1つ又は複数の実施形態において、前記血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体は、血小板自己抗原を介して、反応性Bリンパ球によって発現される抗血小板抗体又は形質細胞によって分泌される遊離抗血小板抗体に結合することにより、前記抗体による血小板の殺傷を減少させ、血小板数を増加させる。
【0013】
1つ又は複数の実施形態において、前記結合は競合結合である。
【0014】
1つ又は複数の実施形態において、前記血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体は、抗原としてBリンパ球を再活性化してより多くの自己免疫抗体を産生することはしない。
【0015】
1つ又は複数の実施形態において、前記血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体は、競合抗原として血小板抗原に対して遊離自己抗体を分泌する形質細胞又は抗血小板BCRを発現するBリンパ球を特異的に殺傷する一方、正常なBCRを発現するBリンパ球には影響を与えない。
【0016】
1つ又は複数の実施形態において、前記除去は、減少、阻害、低下、溶解、又は遮断を含むが、これらに限定されなく;好ましくは、統計的に有意な減少、阻害、低下、溶解、又は遮断であり、例えば、反応性Bリンパ球及び/又は遊離抗血小板抗体を元の含有量の90%、80%、60%、50%、30%、20%、10%、5%、又は2%以下に低下することである。
【0017】
1つ又は複数の実施形態において、前記切断体は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号16、配列番号18、又は配列番号20のヌクレオチド配列、或いは配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号16、配列番号18、又は配列番号20の縮重ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる。
【0018】
1つ又は複数の実施形態において、前記変異体は、(1)前記切断体のアミノ酸配列を1つ又は複数(例えば、1~20;好ましくは1~15;より好ましくは1~10、例えば、5、3、1)のアミノ酸残基で置換、欠失又は付加することにより形成され、且つ前記切断体の機能を有するタンパク質;(2)前記切断体のアミノ酸配列と80%以上(好ましくは85%以上;より好ましくは90%以上;より好ましくは95%以上、例えば、98%、99%)の相同性を有し、前記切断体の機能を有するタンパク質;及び(3)前記切断体を含む融合タンパク質からなる。
【0019】
1つ又は複数の実施形態において、前記変異体のアミノ酸配列は、配列番号17、配列番号19又は配列番号21に示される通りである。
【0020】
1つ又は複数の実施形態において、前記結合能力の低下は、統計的に有意な低下であり、例えば、5%、10%、15%、20%、30%、50%、70%、80%、90%、95%の低下、又はそれ以上の低下である。
【0021】
本発明の別の態様において、細胞外結合領域としての前記血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナルドメインを含むキメラ自己抗体受容体を提供し;好ましくは、前記細胞内シグナルドメインは、共刺激分子及び/又はシグナル伝達ドメインを含む。
【0022】
1つ又は複数の実施形態において、前記膜貫通ドメインは、CD8又はCD28のヒンジ領域及び膜貫通領域を含み;好ましくは、前記膜貫通ドメインは、CD8のヒンジ領域及び膜貫通領域を含み;より好ましくは、前記ヒンジ領域は、配列番号11の291位(T)~335位(D)に示されるアミノ酸配列を有し、前記膜貫通ドメインは、配列番号11の336位(I)~359位(C)に示されるアミノ酸配列を有する。
【0023】
1つ又は複数の実施形態において、前記細胞内シグナルドメインは、4-1BB、CD3ζ、FcεRIγ、CD27、CD28、CD134、ICOS又はGITRから選ばれる細胞内シグナル領域を含み;好ましくは、前記細胞内シグナル領域は、4-1BB及びCD3ζを含み;より好ましくは、前記4-1BBは、配列番号11の360位(K)~401位(L)に示されるアミノ酸配列を有し、前記CD3ζは、配列番号11の402位(R)~513位(R)に示されるアミノ酸配列を有する。
【0024】
1つ又は複数の実施形態において、前記キメラ自己抗体受容体は、前記血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体、CD8又はCD28のヒンジ領域及び膜貫通領域、4-1BB、CD3ζという順番で連結された構造を含み;好ましくは、前記キメラ自己抗体受容体は、配列番号11~配列番号15のいずれかに示されるアミノ酸配列を有する。
【0025】
1つ又は複数の実施形態において、前記キメラ自己抗体受容体において、血小板表面抗原GpIbαの切断体は、配列番号11に示されるアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0026】
1つ又は複数の実施形態において、前記キメラ自己抗体受容体において、血小板表面抗原GpIbαの切断体は、好ましくは変異体であり、前記変異体は、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)に結合する結合領域が突然変異して結合能力が低下した変異体であり;より好ましくは、前記変異体において、配列番号2に対応するアミノ酸配列の233位がGからKに突然変異している(G233K)。
【0027】
1つ又は複数の実施形態において、前記キメラ自己抗体受容体は、抗原としてBリンパ球を再活性化してより多くの自己免疫抗体を産生することはしない。
【0028】
1つ又は複数の実施形態において、前記キメラ自己抗体受容体は、血小板抗原に対する遊離自己抗体を分泌する形質細胞又は抗血小板BCRを発現するBリンパ球を特異的に標的として殺傷するが、正常なBCRを発現するBリンパ球には影響を与えないため、自己免疫抗体による血小板の殺傷を減少させ、血小板数を増加させる。
【0029】
1つ又は複数の実施形態において、前記キメラ自己抗体受容体は、健康な細胞に対して毒性が限定的であり、又はまったく毒性がない。
【0030】
本発明の別の態様において、(i)前記キメラ自己抗体受容体をコードするポリヌクレオチド、又は(ii)前記血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体をコードするポリヌクレオチドを含む発現構築物を提供する。
【0031】
1つ又は複数の実施形態において、前記発現構築物は発現ベクターを含む。
【0032】
1つ又は複数の実施形態において、前記ベクターはRNAベクターである。
【0033】
1つ又は複数の実施形態において、前記発現ベクターはウイルスベクター又は非ウイルスベクターを含む。
【0034】
1つ又は複数の実施形態において、前記発現ベクターはウイルスベクターである。
【0035】
1つ又は複数の実施形態において、前記ウイルスベクターには、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターが含まれる(ただし、これらに限定されない)。
【0036】
1つ又は複数の実施形態において、前記ウイルスには、レンチウイルス、アデノウイルス又はアデノ随伴ウイルスが含まれる(ただし、これらに限定されない)。
【0037】
1つ又は複数の実施形態において、前記発現構築物は、前記キメラ自己抗体受容体のポリヌクレオチドに操作可能に連結されたプロモーターを含む。
【0038】
1つ又は複数の実施形態において、前記発現構築物は、前記血小板表面抗原GpIbαの切断体又はその変異体のポリヌクレオチドに操作可能に連結されたプロモーターを含む。
【0039】
1つ又は複数の実施形態において、前記プロモーターは構成的発現プロモーターである。
【0040】
1つ又は複数の実施形態において、前記プロモーターは時空間誘導性プロモーター、組織誘導性プロモーター等を含む誘導性発現プロモーターである。
【0041】
本発明の別の態様において、前記発現ベクターを含むウイルス(ただし、レンチウイルスに限定されない)を提供する。
【0042】
本発明の別の態様において、前記キメラ自己抗体受容体のポリヌクレオチド若しくは前記発現構築物が導入され、あるいは前記キメラ自己抗体受容体を発現する免疫エフェクター細胞を提供する。
【0043】
1つ又は複数の実施形態において、前記免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK)、NKT細胞又はサイトカイン誘導キラー細胞(CIK)からなる群から選ばれる細胞又はそれらの組み合わせを含み;より好ましくは、前記免疫エフェクター細胞はT細胞であり;より好ましくは、前記T細胞は、ヘルパーT細胞、細胞毒性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、γδT細胞、Tメモリー幹細胞、又は多能性幹細胞由来のT細胞を含む。
【0044】
1つ又は複数の実施形態において、前記T細胞は細胞傷害毒性を持つ免疫エフェクターT細胞である。
【0045】
1つ又は複数の実施形態において、前記免疫エフェクター細胞によって発現されるキメラ自己抗体受容体は、Bリンパ球上の自己抗体に基づくBリンパ球受容体(BCR)に対して高い親和性を有する。
【0046】
1つ又は複数の実施形態において、前記免疫エフェクター細胞は、免疫調節活性を有する、又は免疫エフェクター細胞の機能を増強できるサイトカインも発現し;好ましくは、前記サイトカインには、IL-12(免疫細胞の増殖を刺激する)、IL-15(免疫細胞を活性化する)、IL-21(免疫細胞の活性を増加させる)、IL-2(T細胞の分化と増殖を刺激し、維持する)、IL-4(免疫細胞の活性を調節する)、IL-7(免疫細胞の成熟、活性化、増殖、免疫調節を調節する)、IL-9(免疫細胞の成長又は活性を調節する)、IL-17(免疫細胞の活性化を促進する)、IL-18(免疫細胞の増殖を促進する)、IL-23(免疫細胞の増殖を促進する)が含まれるが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の別の態様において、(a)抗血小板抗体又は遊離抗体を中和する組成物の調製、(b)反応性Bリンパ球を標的として除去する組成物の調製、(c)血小板を上昇させる組成物の調製及び(d)免疫性血小板減少性紫斑病を緩和又は治療する組成物の調製における、前記免疫エフェクター細胞の応用を提供する。
【0048】
本発明の別の態様において、前記免疫エフェクター細胞を含み、(a)抗血小板抗体又は遊離抗体を中和する、(b)反応性Bリンパ球を標的として除去する、(c)血小板を上昇させる、及び(d)免疫性血小板減少性紫斑病を緩和又は治療するための医薬組成物又は薬物ボックスを提供する。
【0049】
1つ又は複数の実施形態において、前記医薬組成物はまた、薬学的に許容される医薬担体又は賦形剤を含む。
【0050】
1つ又は複数の実施形態において、前記薬物ボックスは、容器/包装体と、前記容器/包装体に入れられた前記免疫エフェクター細胞又は当該前記免疫エフェクター細胞を含む医薬組成物を含む。
【0051】
本発明の別の態様において、(a)抗血小板抗体又は遊離抗体を中和する、(b)反応性Bリンパ球を標的として除去する、(c)血小板を上昇させる、又は(d)免疫性血小板減少性紫斑病を緩和又は治療するための方法を提供し、前記方法は、有効量の前記免疫エフェクター細胞又は前記医薬組成物を被験者に投与することを含む。
【0052】
1つ又は複数の実施形態において、前記免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)は、さまざまな原発性又は続発性の原因によって引き起こされる疾患である。
【0053】
1つ又は複数の実施形態において、前記血小板低下症(減少症)の被験者とは、末梢血小板数が正常体の末梢血小板数よりも統計学的に少なく、例えば、1%、2%、3%、5%、8%、10%、12%、15%、20%、25%又はそれ以上に低下している被験者である。
【0054】
1つ又は複数の実施形態において、前記血小板低下症(減少症)の被験者は再発・難治性の被験者である。
【0055】
1つ又は複数の実施形態において、前記再発・難治性の被験者は少なくとも1種のITP治療を受けたことがある。
【0056】
本発明の他の態様は、本明細書の開示の結果として、当業者にとっては明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】凝集反応によって、CAAR-T細胞とvWFの凝集能に対するG233K点突然変異の影響を検出する。凝集反応によって、リストセチンの作用下でCAAR1、CAAR4、及びCAAR5突然変異体を安定的に発現するJurkat細胞とヒトvWFの凝集能を検出する。その結果、CAAR1、CAAR4、及びCAAR5を発現するJurkat細胞とvWFの凝集能は、変異していないJurkat細胞に比べて有意に低下した(光透過率が低下した)ことから、G233K点突然変異が、Jurkat-CAAR-T細胞とヒトvWFの結合能力を明らかに低下することが示された。
【
図2】抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞に対するCAAR-T細胞の結合能力をフローサイトメトリーでスクリーニングする。検出の結果、異なるCAAR-T細胞が抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞(Gvb1~Gvb4)を選択的に認識して結合し、CAAR2-T細胞及びCAAR3-T細胞に比べて、CAAR4-T細胞及びCAAR5-T細胞はGvb1~Gvb4の4つの陽性ハイブリドーマ細胞に対する結合能力がより強く、且つG233K点突然変異はCAAR-T細胞と抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞との特異的結合に影響を与えないことが示された。
【
図3】抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞に対するCAAR-T細胞の競合的殺傷効果をフローサイトメトリーで検出する。検出の結果、GpIbα-CAAR-T細胞は、いずれも異なる抗原エピトープを持つ陽性ハイブリドーマ細胞を選択的に認識して競合的に殺傷することができ、CAAR2-T細胞~CAAR5-T細胞に比べて、CAAR1-T細胞はGvb1~Gvb4の4つの陽性ハイブリドーマ細胞の全てに対して強い競合的殺傷効果を持つことが示された。
【
図4】LDH放出実験で抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞に対するCAAR-T細胞の殺傷溶解効果を検出する。検出の結果、同じET比で、CAAR1-T細胞はGvb1~Gvb4の4つの陽性ハイブリドーマ細胞の全てに対して殺傷効果を持ち、かつ細胞を溶解する能力が最も強く、CAAR1-T細胞は他のCAAR-T細胞よりも標的細胞に対する細胞溶解毒性が強いことが示唆された。
【
図5】抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞に対するCAAR-T細胞のサイトカイン(IL-2及びIFN-γ)の放出をELISAで検出する。検出の結果、CAAR1-T細胞はGvb1~Gvb4の4つの陽性ハイブリドーマ細胞の全てに対して殺傷効果を持ち、かつサイトカインIL-2及びIFN-γを放出する能力が最も強く、CAAR1-T細胞は他のCAAR-T細胞よりも標的細胞に対する傷害毒性が強いことが示唆された。
【
図6】Luciferase蛍光発現システムでin vivoでの標的細胞Gvb1に対するCAAR-Tの殺傷効果を視覚的に観察する。Gvb1細胞の増殖と転移をリアルタイムで検出するために、Gvb1細胞株ウイルスをパッケージングしてGFP蛍光レポーター遺伝子に安定トランスフェクトする。Gvb1-GFP細胞/マウス、CAAR-T細胞及び対照T細胞をそれぞれNCGマウスの尾静脈に注射する。マウスの生存状態を毎日観察し、7日目、14日目、21日目にマウスのin vivoでのGvb1-GFP蛍光レポーターを撮影する。撮影結果と統計データによると、14日目に対照群のNTDマウスはすでに顕著なGvb1-GFPの増幅と転移を示していた一方、CAAR-T細胞を注射した実験群のマウスは、対照群よりもGvb1-GFP細胞の増幅と転移が有意に低かった。21日目に対照群のNTDマウスはすでに顕著なGvb1-GFPの増幅と転移を示していた一方、CAAR-T細胞を注射した実験群のマウスは、対照群よりもGvb1-GFP細胞の増幅と転移が有意に低く、Gvb1細胞に対するCAAR-T細胞の明らかな殺傷効果が示された。
【
図7】異なる切断体を持つGpIbα-CAAR-T細胞の構築。ボランティアの末梢血から一定数のT細胞を調製・分離し、超清浄環境でT細胞を洗浄・活性化し、生存と増殖に必要なサイトカインを含む培地でT細胞を培養し、CD3抗体とCD28抗体を使用してin vitroでT細胞を活性化した。異なる切断体を含むGpIbα-CAAR遺伝子断片を、レンチウイルスベクターを用いて活性化T細胞に感染させ、一定期間培養した後、フローサイトメトリーの検出結果、異なる切断体断片のGpIbα-CAARレンチウイルスがいずれも一定の割合でヒトT細胞に感染でき、さらに異なる切断体を含むGpIbα-CAAR-T細胞を構築することができることが示された。
【発明を実施するための形態】
【0058】
広範かつ詳細な研究の結果、本発明者らは、免疫性血小板減少症(免疫性血小板減少性紫斑病)患者において、血小板表面抗原GpIbαに由来する細胞外タンパク質断片、複数の切断体及びその改変抗原断片が競合抗原として、in vivoで反応性Bリンパ球によって発現される自己免疫抗体(抗血小板抗体)及び形質細胞によって分泌される遊離抗体に血小板自己抗原と競合的に結合することができ、かつin vivoでの天然リガンドに結合せず、血液凝固に影響を及ぼさないことを初めて意外に発見し;競合抗原を用いて、キメラCAAR-T細胞とIgG1 Fc融合タンパク質をさらに調製し、血小板抗原に対して遊離自己抗体を分泌する形質細胞又は抗血小板BCRを発現するBリンパ球を特異的に殺傷することができる一方、正常なBCRを発現するBリンパ球には影響を与えないため、自己免疫抗体による血小板の殺傷を減らして血小板数を増加させ、自己免疫機構により血小板減少症の問題を根本的に解決し、かつこの競合抗原及びその改変キメラCAAR-T細胞又はFc融合タンパク質は、抗原としてBリンパ球を再活性化してより多くの自己免疫抗体を産生することはしない。これに基づいて、本発明を完成した。
【0059】
用語
特に断らない限り、本明細書において用いられる全ての科学技術用語は、本発明が属する分野における一般的な技術者が通常理解できる意味と同じ意味を有する。
【0060】
本発明において、量、持続時間などの測定可能な値に言及する場合、本明細書で使用する「約」は、規定値の±20%、±10%、±5%、±2%、又は±1%を包含することを意図し、また、場合によっては±0.5%や0.1%の誤差があることを意味する。
【0061】
本明細書で使用される場合、「限定毒性」とは、本発明の切断体(ペプチド)、ポリヌクレオチド、キメラ自己抗体受容体、又は細胞が、健康な細胞、非疾患細胞、非標的細胞、又はそれらの細胞集団に対して、in vitro又はin vivoで本質的に負の生物学的効果や生理学的症状を示さないことを意味する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「自己抗体」とは、自己抗原に対する特異的なBリンパ球によって産生される抗体を意味する。
【0063】
本明細書で使用される場合、「自己免疫疾患」は、自己抗原に対する抗体によって媒介される自己免疫応答に起因する障害又は病状と定義される。自己免疫疾患は、自己抗原又は自己抗原に対する自己抗体の不適切な産生及び/又は過剰産生を引き起こす。
【0064】
本明細書で使用される場合、「キメラ自己抗体受容体」又は「CAAR」は、T細胞又は細胞媒介性細胞毒性を有する他のエフェクター細胞型上で発現される改変受容体を意味する。CAARには、病原性自己抗体に特異的な抗原又はその断片が含まれる。CAARには、膜貫通ドメイン、細胞内ドメイン、シグナル伝達ドメインも含まれる。
【0065】
本明細書で使用される場合、「有効量」又は「治療有効量」は互換的に使用され、且つ本明細書に記載されるように特定の生物学的結果を達成するのに有効な化合物、製剤、材料又は組成物の量を意味する。
【0066】
本明細書で使用される場合、「操作可能に連結された」又は「操作的に連結された」とは、調節配列と異種核酸配列との間の機能的連結を意味し、後者の発現をもたらす。例えば、第1の核酸配列と第2の核酸配列が機能的関係にある場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列に操作可能に連結される。例えば、プロモーターがコード配列の転写又は発現に影響を与えると、プロモーターはコード配列に操作可能に連結される。通常、操作可能に連結されたDNA配列は連続しており、必要に応じて、同じリーディングフレーム内で2つのタンパク質コード領域を連結する。
【0067】
本明細書で使用される場合、「被験者」は、ヒトを含む哺乳類など、免疫応答を引き起こすことができる生物を含む。
【0068】
本明細書で使用される場合、「膜貫通ドメイン」とは、脂質二重層膜にまたがる分子の部分又は領域を意味する。
【0069】
本明細書で使用される場合、「被検試料」又は「被検サンプル」とは、検出される試料を意味する。本発明において、前記検出される試料は、血漿(例えば末梢血から)、血小板を含む分離サンプル、又は処理されたサンプル等であり得る。
【0070】
本明細書で使用される場合、「診断」という用語は、個人が特定の疾患、病状、又は症候群に罹患する可能性を評価及び/又は決定するために当業者によって使用される方法を意味する。「診断」という用語はまた、疾患、病状、又は症候群に罹患する傾向を検出すること、薬物治療の治療効果を決定すること、又は薬物治療に対する反応を予測することも包含する。本開示の診断方法は、単独で実施してもよいし、疾患、病状、又は症候群を分析するための他の診断方法及び/又は病期分類方法と組み合わせて実施してもよい。
【0071】
GpIbαの切断体
免疫性血小板減少症(免疫性血小板減少性紫斑病)のほとんどの患者では、血小板膜抗原エピトープに対する1つ又は複数の自己抗体が検出でき、その中でも、膜タンパク質GPIbαは自己抗体産生の主要な抗原エピトープの1つである。本発明は、in vivoで反応性Bリンパ球によって発現される自己免疫抗体(抗血小板抗体)及び形質細胞によって分泌される遊離抗体に血小板自己抗原と競合的に結合し、かつin vivoでの天然リガンドに結合せず、血液凝固に影響を及ぼさないGpIbαの細胞外領域の一連の切断体を提供する。前記GpIbαの切断体は、GpIbαタンパク質の細胞外領域に由来し、in vivoで自己免疫抗体の結合部位を有し;好ましくは、前記切断体は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号17、配列番号19又は配列番号21に示されるアミノ酸配列のタンパク質を含むことを特徴とする。
【0072】
本発明はまた、前記切断体の活性断片、誘導体及び類似体を含む。本明細書で使用される場合、「活性断片」、「誘導体」及び「類似体」という用語は、前記切断体と相同な生物学的機能又は活性を基本的に保持しているポリペプチドを意味する。
【0073】
本発明のタンパク質断片、誘導体又は類似体は、(i)1つ又は複数の保存的な又は非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的なアミノ酸残基)が置換され、当該置換されるアミノ酸残基が遺伝コードによりコードされてもよく、或いはコードされなくてもよいタンパク質、(ii)1つ又は複数のアミノ酸残基に置換基を有するタンパク質、或いは(iii)付加されたアミノ酸配列が当該タンパク質配列に融合されて形成されたタンパク質(例えば、リーダー配列、分泌配列、当該タンパク質を精製するための配列又はタンパク質構成配列、或いは融合タンパク質)であってもよい。本明細書の定義によれば、これらの断片、誘導体及び類似体は、当業者が周知する範囲である。
【0074】
本発明において、「GpIbα切断体」はまた、若干(通常は1-20個であり、好ましくは1-10個であり、より好ましくは1-8個、1-5個、1-3個又は1-2個である)のアミノ酸が欠失、挿入及び/又は置換され、及びC末端及び/又はN末端に1つ又は複数の(通常は20個以内であり、好ましくは10個以内であり、より好ましくは5個以内である)アミノ酸が付加、欠失されることで得られたものを含む(ただし、これらに限定されない)。例えば、本分野において、近い特性又は類似的な特性を持つアミノ酸で置換した場合、通常、タンパク質の機能が変化することはない。また、例えば、C末端及び/又はN末端に1つ又は複数のアミノ酸が付加された場合でも、通常、タンパク質の機能が変化することはない。
【0075】
好ましい実施形態において、本発明に記載されるGpIbα切断体又はその活性断片、誘導体及び類似体のアミノ酸配列において、好ましくは、個別の部位で変異が生じ、それによりvWFに結合するための結合領域に突然変異が生じ、結合能力が低下し;より好ましくは、前記変異体はG233K突然変異を有する。
【0076】
本明細書に記載されるポリペプチド配列は、好ましくは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8又は配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである。より好ましくは、G233K突然変異も存在する。前記G233K突然変異を含むポリペプチドは、配列番号17、配列番号19又は配列番号21に示される配列をさらに含む。
【0077】
本発明のGpIbα切断体のアミノ末端又はカルボキシル末端はまた、タンパク質タグとして1つ又は複数のポリペプチド断片を含むことができる。任意の適切なタグを本発明において使用することができる。例えば、前記タグはFLAG、HA、HA1、c-Myc、Poly-His、Poly-Arg、Strep-TagII、AU1、EE、T7、4A6、ε、B、gE、及びTy1であり得る。これらのタグはタンパク質の精製に使用できる。翻訳されたタンパク質を分泌・発現させる(例えば、細胞外に分泌する)ために、pelBシグナルペプチド等のシグナルペプチド配列を、前記GpIbα切断体のアミノ酸のアミノ末端に付加することができる。シグナルペプチドは、ポリペプチドが細胞から分泌される過程で切断され得る。
【0078】
本発明はまた、本発明のGpIbα切断体又はその保存的変異体タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を提供する。前記ポリヌクレオチドはDNA形態又はRNA形態であってもよい。DNA形態はcDNA、ゲノムDNA又は人工合成DNAを含む。DNAは一本鎖又は二本鎖であってもよい。DNAはコード鎖又は非コード鎖であってもよい。前記切断体の成熟タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、成熟タンパク質のみをコードするコード配列;成熟タンパク質のコード配列及び様々な付加的なコード配列;成熟タンパク質のコード配列(及び任意の付加的なコード配列)及び非コード配列を含む。成熟ポリペプチドをコードするコード領域配列は、実施例で提供されるポリヌクレオチドのコード領域配列と同じであってもよいし、又は縮重変異体であってもよい。本明細書で使用される場合、「縮重変異体」は、本発明において本発明の切断体をコードするが、実施例で提供されるポリヌクレオチドのコード領域配列とは異なる核酸配列を意味する。
【0079】
本発明はまた、本発明と同じアミノ酸配列を有するタンパク質又はタンパク質の断片、類似体及び誘導体をコードする上記ポリヌクレオチドの変異体にも関する。このポリヌクレオチドの変異体は、天然に存在する対立遺伝子変異体であっても、非天然に存在する変異体であってもよい。これらのヌクレオチド変異体には、置換変異体、欠失変異体、及び挿入変異体が含まれる。本分野で知られているように、対立遺伝子変異体は1つのポリヌクレオチドの交換形態であり、1つ又は複数のヌクレオチドの置換、欠失又は挿入であってもよいが、それによりコードされるタンパク質の機能を実質的に変更することはない。
【0080】
本発明のGpIbα切断体のヌクレオチドの全長配列或いはその断片は、通常、PCR増幅法、組換え法又は人工合成の方法により得られる。PCR増幅法について、本発明に開示された関連ヌクレオチド配列に応じてプライマーを設計し、増幅して関連配列を得る。また、人工合成の方法により関連配列を合成してもよい。その後、当該DNA配列を本分野における既知の様々な既存DNA分子(例えば、ベクター)と細胞に導入する。また、化学合成により突然変異を本発明のタンパク質配列に導入してもよい。
【0081】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、本発明のベクター又はGpIbα切断体コード配列で遺伝子操作された宿主細胞、及び組換え技術によって本発明の前記タンパク質を産生する方法にも関する。
【0082】
本発明のポリヌクレオチド配列を使用して、従来の組換えDNA技術によって組換えGpIbα切断体を発現又は産生することができる。一般に、(1)GpIbα切断体をコードする本発明のポリヌクレオチド(又は変異体)、又は当該ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターで、適切な宿主細胞を形質転換又は形質導入するステップと;(2)適切な培地で宿主細胞を培養するステップと;(3)培地又は細胞からタンパク質を分離・精製するステップを含む。
【0083】
本発明は、本明細書に記載のポリヌクレオチド、及びこれらの配列に操作的に連結された1つ又は複数の調節配列又はゲノムの相同組換えに必要な配列を含む核酸構築物もに関する。本発明に係るポリヌクレオチドは、前記ポリペプチド又はタンパク質の発現を確実にするために、様々な形態で操作されてもよい。核酸構築物をベクターに挿入する前に、発現ベクターの相違点又は要求に応じて核酸構築物を操作してもよい。組換えDNA方法でポリヌクレオチド配列を変更する技術は本分野で既知である。
【0084】
幾つかの実施形態において、前記核酸構築物はベクターである。前記GpIbα切断体のポリヌクレオチド配列は、組換え発現ベクターに挿入することができる。「組換え発現ベクター」という用語は、本分野で周知の細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルス、又は他のベクターを意味する。要するに、宿主体内で複製でき、安定である限り、任意のプラスミドやベクターを使用することができる。発現ベクターの重要な特徴は、通常、複製起点、プロモーター、マーカー遺伝子、及び翻訳制御エレメントを含むことである。
【0085】
当業者に周知の方法を用いて、GpIbα切断体のコードDNA配列と適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法は、in vitro組換えDNA技術、DNA合成技術、in vivo組換え技術などを含む。mRNA合成を案内するために、前記DNA配列を発現ベクターにおける適切なプロモーターに有効的に連結してもよい。発現ベクターは、翻訳開始に利用されるリボソーム結合部位と転写ターミネーターを更に含む。更に、発現ベクターは、好ましくは、形質転換された宿主細胞の選択のための表現型形質を提供するための1つ又は複数の選択マーカー遺伝子を含む。
【0086】
上記のような適切なDNA配列及び適切なプロモーター又は制御配列を含むベクターは、タンパク質を発現させるように、適切な宿主細胞の形質転換に利用できる。宿主細胞は、細菌細胞などの原核細胞、酵母細胞などの下等真核細胞、又は植物細胞、真菌細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞などの高等真核細胞であり得る。代表的な例としては、大腸菌、枯草菌、ストレプトマイセス属、アグロバクテリウムなどの原核細胞、酵母細胞(例えば、ピキア・パストリス、サッカロマイセス・セレビシエ)などの真菌細胞などが挙げられる。組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の従来の技術で行うことができる。得られた形質転換体を培養することにより、本発明の切断体を発現させることができる。
【0087】
キメラ自己抗体受容体(CAAR)
本明細書に記載のGPIbαの切断体は、細胞依存性血小板抗体を標的として殺傷効果を有するキメラの調製に使用することができ、このキメラは、CAAR-T細胞免疫療法薬などの構築に適用することができるが、これに限定されなく、反応性Bリンパ球を標的として殺傷し、自己抗体の力価を低下させる役割を発揮する。これで、PA Absを産生する反応性Bリンパ球を標的として除去するという臨床上のニーズを満たすことができる。
【0088】
従って、本発明は、免疫エフェクター細胞の表面上に発現されるCAARを提供し、前記CAARは、順次連結された細胞外結合領域、膜貫通領域、及び細胞内シグナル領域からなり、これらのドメインを組み合わせて、当該CAARを免疫エフェクター細胞に発現させることにより、免疫エフェクター細胞が反応性Bリンパ球(自己免疫疾患を引き起こすBリンパ球)に対して高度に特異的な細胞毒性効果を有するようになる。前記細胞外結合領域は、本発明の切断体又はその変異体を含む。
【0089】
前記細胞外結合領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域の間は、リンカーを含んでも含まなくてもよい。
【0090】
ヒンジ及び/又は膜貫通ドメインの例としては、T細胞受容体のα、β又はε鎖のヒンジ及び/又は膜貫通ドメイン、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、KIR、OX40、CD2、CD27、LFA-1(CD11a、CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD40、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、IL2Rβ、L2Rγ、IL7Rα、ITGA1、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、及び/又はNKG2Cが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
1つの好ましい実施形態において、CAARの膜貫通領域はCD8又はCD28などのタンパク質の膜貫通領域から選択することができる。ヒトCD8タンパク質は、αβ又はγδの2本の鎖からなるヘテロ二量体である。本発明の好ましい実施態様において、膜貫通領域は、CD8(CD8a)又はCD28の膜貫通領域から選ばれる。CD8ヒンジ領域(hinge)はフレキシブル領域であるため、CD8又はCD28膜貫通領域とヒンジ領域は、CAARの標的認識ドメインscFvと細胞内シグナル領域との連結に使用することができる。
【0092】
1つの好ましい実施形態において、膜貫通ドメインの核酸配列は、CD8ヒンジ及び/又は膜貫通ドメインをコードする。
【0093】
本発明のCAARの細胞質ドメイン又は他の細胞内シグナル領域(細胞内シグナルドメイン)は、CAARを有する免疫細胞の少なくとも1つの正常なエフェクター機能の活性化を担う。「エフェクター機能」とは、細胞特異化の機能を意味する。例えば、T細胞のエフェクター機能は、サイトカインの分泌を含む細胞溶解活性又は補助活性であり得る。従って、「細胞内シグナル領域」という用語は、エフェクター機能のシグナルを伝達し、細胞に特異化の機能を実行させるように指示するタンパク質の一部を意味する。細胞内シグナル領域全体を使用することもできるが、多くの場合、ドメイン全体を使用する必要はない。細胞内シグナル領域の切断部分について、そのような切断部分は、エフェクター機能のシグナルを伝達する限り、完全ドメインの代わりに使用することができる。従って、「細胞内シグナル領域」は、エフェクター機能のシグナルを伝達するのに十分な細胞内ドメインの任意の切断部分を含むことを意味する。
【0094】
本発明のCAARで使用するための細胞内シグナル領域の例としては、T細胞受容体(TCR)と共受容体の細胞質部分、並びにこれらのエレメントの任意の誘導体又は変異体、及び同じ機能的能力を有する任意の合成配列が挙げられるが、これらに限定されない。細胞内シグナル領域の例としては、1つ又は複数の分子又は受容体からの断片又はドメインを含み、例えば、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD86、共通FcRγ、FcRβ(FcεR1b)、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、 ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2Dが挙げられるが、これらに限定されなく、また、それらの誘導体、変異体又は断片、同じ機能的能力を有する共刺激分子の任意の合成配列、及びそれらの任意の組み合わせも含む。共刺激分子は、リンパ球が抗原に効果的に応答するのに必要な抗原受容体やそのリガンド以外の細胞表面分子である。
【0095】
1つの選択可能な実施形態において、細胞内シグナル領域はCD3ζ、FcεRIγ、CD27、CD28、4-1BB、CD134、ICOS、GITRタンパク質の細胞内シグナル領域、及びそれらの組み合わせから選択することができる。CD3分子は5つのサブユニットから構成され、そのうち、CD3ζサブユニット(CD3 zetaとも呼ばれ、Zと略す)にはTCR-CD3複合体の重要なシグナル伝達領域である3つのITAMモチーフが含まれる。FcεRIγは主にマスト細胞と好塩基球の表面に分布しており、1つのITAMモチーフを含み、構造、分布、機能においてCD3ζと類似する。また、CD28、4-1BB、CD134は共刺激シグナル分子であり、それぞれのリガンドに結合した後、それらの細胞内シグナルセグメントによって生成される共刺激効果により、免疫エフェクター細胞(主にTリンパ球)の継続的な増殖が引き起こされ、免疫エフェクター細胞からIL-2やIFN-γなどのサイトカインを分泌するレベルを上昇させることができ、同時にin vivoでCAAR免疫エフェクター細胞の生存サイクルを改善することができる。好ましい実施例において、CAARの細胞内シグナル領域は、CD3ζシグナルドメイン及び4-1BB共刺激ドメインを含む。
【0096】
本発明に記載のCAARにおいて、前記切断体は、ヒンジ領域配列及び膜貫通領域配列に操作的に連結されることにより、更に細胞内シグナル領域にも操作的に連結されることができる。
【0097】
本発明の実施例では、本発明者の好ましいCAARを提供する。また、本発明の最適化されたCAARに基づいて幾つかの変更又は修飾を施したCAARも本発明に含まれることを理解されたく、例えば、本発明のCAARは、切断体又はその変異体-CD8-CD3ζ、切断体又はその変異体-CD8-CD137-CD3ζ、切断体又はその変異体-CD28a-CD28b-CD3ζ、又は切断体又はその変異体-CD28a-CD28b-4-1BB-CD3ζの具体的な方法で順次連結されたものから得られるが、これらに限定されない。
【0098】
本発明の選択可能な実施形態として、CAARは細胞外抗原認識ドメインのN末端にリーダー配列も含み、リーダー配列は、CAARの細胞プロセッシング及び細胞膜への局在化の過程で、任意に抗原認識ドメイン(例えばscFv)から切断される。
【0099】
本発明はまた、前記CAARをコードする核酸を含む。本発明の核酸配列はDNA形態又はRNA形態であってもよい。DNA形態はcDNA、ゲノムDNA又は人工合成DNAを含む。DNAは一本鎖又は二本鎖であってもよい。DNAはコード鎖又は非コード鎖であってもよい。本発明のCAARタンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸コドンは縮重していてもよく、即ち、同一のアミノ酸配列をコードする複数の縮重核酸配列がすべて本発明の範囲に含まれる。対応するアミノ酸をコードする縮重核酸コドンは、本分野において周知である。
【0100】
本発明はまた、本発明と同じアミノ酸配列を有するポリペプチド又はポリペプチドの断片、類似体及び誘導体をコードする上記ポリヌクレオチドの変異体を含む。このポリヌクレオチドの変異体は、天然に存在する対立遺伝子変異体であっても、非天然に存在する変異体であってもよい。これらのヌクレオチド変異体には、置換変異体、欠失変異体、及び挿入変異体が含まれる。本分野で知られているように、対立遺伝子変異体は1つのポリヌクレオチドの交換形態であり、1つ又は複数のヌクレオチドの置換、欠失又は挿入であってもよいが、それによりコードされるポリペプチドの機能を実質的に変更することはない。
【0101】
本発明はまた、本発明の核酸、又は本発明の上記核酸を含む組換えプラスミド、又はそのプラスミドを含むウイルスを形質導入された遺伝子修飾免疫エフェクター細胞を提供する。前記細胞は、細胞又は前記細胞を含む細胞集団であり、好ましくはT細胞又はT細胞を含む細胞集団である。
【0102】
非ウイルス形質導入法及びウイルス形質導入法を含む、当技術分野で従来の核酸形質導入法を本発明で使用することができる。非ウイルスベースの形質導入法には、エレクトロポレーション法及びトランスポゾン法が含まれる。
【0103】
本発明はまた、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターを含む、免疫エフェクター細胞の表面上に発現されるCAARタンパク質をコードする上記の核酸を含む発現構築物(ベクター)を提供する。
【0104】
前記非ウイルスベクターシステム、例えば眠れる森の美女トランスポゾン(Sleeping Beauty system)やPiggyBacトランスポゾンなどのトランスポゾンシステムは、通常のエレクトロポレーションよりも形質導入效率が高く、nucleofectorトランスフェクターと眠れる森の美女トランスポゾンシステムの併用は既に報告されており[Davies JK.、et al. Cancer Res、2010、70(10): OF1-10.]、当該方法は高い形質導入效率を有するだけでなく、標的遺伝子の部位特異的な統合も実現できる。更に、mRNAトランスフェクション技術も適用可能である。
【0105】
例えば、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等、並びにこれらのウイルスベクターを基にして改変して形成されたウイルスベクターを含む、ウイルスパッケージングのための様々なベクターを本発明で使用することができる。本発明の1つの具体的な実施形態において、本発明で使用されるバックボーンベクターはレンチウイルスプラスミドベクターである。このベクターでは、CAAR分子の発現はEF1プロモーターによって転写発現が駆動され、CAARレンチウイルスベクタープラスミドは、ヘルパーパッケージングプラスミドの存在下でウイルス産生細胞(例えば、293T細胞)をコトランスフェクションすることによって、CAAR分子を有するレンチウイルスとしてパッケージングすることができる。また、本発明では特定のレンチウイルスベクターが好ましいが、最終的に活性のあるCAAR及びそれによって修飾された免疫エフェクター細胞が得られる限り、他のタイプのベクターも使用できることを理解されたい。
【0106】
本発明はさらに、ウイルスベクターでパッケージングされたウイルスを含む。前記ウイルスは、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどであってもよく、またこれらのウイルスを基にしてさらに改変して形成されたウイルスも含む。本発明のウイルスには、感染性を有するパッケージングされたウイルスも含まれるが、感染性を有するウイルスとしてパッケージングするために必要な成分を含むパッケージングされるウイルスも含まれる。本発明ではレンチウイルスを用いるのが好ましいが、外来遺伝子を免疫エフェクター細胞に形質導入するために使用できる、当技術分野で知られている他のウイルス及びそれに対応するプラスミドベクターも本発明で使用できることを理解されたい。
【0107】
本発明の一実施態様において、CAAR遺伝子修飾免疫エフェクター細胞を実現するための形質導入方法は、レンチウイルスなどのウイルスに基づく形質導入方法である。この方法は、形質導入効率が高い、外来遺伝子が安定に発現でき、及びin vitroで培養された免疫エフェクター細胞が臨床レベルの量に達するまでの時間を短縮できるという利点がある。このトランスジェニック免疫エフェクター細胞の表面では、形質導入された核酸が転写と翻訳によって表面に発現される。
【0108】
本発明に記載の免疫細胞はまた、外因性サイトカインのコード配列を保有することができ、前記サイトカインには、IL-12、IL-15、又はIL-21などが含まれるが、これらに限定されない。これらのサイトカインは免疫調節活性を有し、エフェクターT細胞及び活性化NK細胞の機能を増強することができる。従って、当業者であれば、これらのサイトカインの使用が前記免疫細胞のより良好な機能に役立つことを理解することができる。
【0109】
本発明に記載の免疫細胞はまた、安全スイッチを発現することができ、好ましくは、前記安全スイッチには、iCaspase-9、Truancated EGFR、又はRQR8が含まれる。前述したように、現在のCA療法は、その産生が複雑で、またサイトカインストーム(CRS)などの細胞活性に関連する有害事象などにより、まだ課題を抱えている。従って、安全スイッチを設定するなど、CAAR-Tを効果的に調節する薬剤や療法がより好ましい。
【0110】
医薬組成物
本発明の遺伝子修飾免疫エフェクター細胞は、組成物、特に医薬組成物の調製に適用することができる。有効量の前記免疫エフェクター細胞に加えて、前記組成物は薬学的に許容されるベクターを含むことができる。「薬学的に許容される」という用語は、分子本体及び組成物が動物又はヒトに適切に投与された場合に、好ましくない、アレルギー性の、又は他の有害反応を生じないことを意味する。
【0111】
本発明の切断体、又はそれを含む融合タンパク質は、抗原として使用することができ、また、医薬組成物などの組成物の調製に適用することもできる。有効量の前記切断体に加えて、前記組成物は薬学的に許容されるベクターを含むことができる。
【0112】
薬学的に許容されるベクター又はその成分として使用できるいくつかの物質の具体例は、プロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;アルギン酸;Tween(登録商標)などの乳化剤;ラウリル硫酸ナトリウムなどの湿潤剤;着色剤;香味料;打錠剤、安定剤;酸化防止剤;保存剤;非加熱原水;等張塩溶液;乳糖、ブドウ糖、ショ糖などの糖類;トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉などの澱粉;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース及びその誘導体;トラガントガム粉末;麦芽;ゼラチン;タルク;ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムなどの固体潤滑剤;硫酸カルシウム;ピーナッツ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ココア油などの植物油;リン酸塩緩衝液などが挙げられる。
【0113】
本発明の組成物は、必要に応じて種々の剤形にすることができ、患者のタイプ、年齢、体重、疾患の状態、投与方法などの要因に基づいて、医師が患者に有益な用量を決定して投与することができる。投与方法は、例えば、注射又は他の治療方法であり得る。
【0114】
「免疫有効量」、「抗自己抗体有効量」、「自己免疫疾患抑制有効量」又は「治療量」を考慮する場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、医師が年齢、体重、及び患者(被験者)の状態の個人差を考慮して決定することができる。通常、前記免疫エフェクター細胞を含む医薬組成物は、103-1010(例えば、104、105、106、107又は108)細胞/kgの用量で投与され、いくつかの実施形態では例えば105-108細胞/kgの用量で投与され得る。前記組成物は、これらの用量で複数回投与されることもできる。細胞は、免疫療法で一般的に知られている注入技術を用いて投与することができる。特定の患者に対する最適な用量と治療方案は、患者の疾患徴候を監視し、それに応じて治療を調整することによって、医療分野の当業者によって容易に決定することができる。
【0115】
本発明の組成物はまた、臨床医による使用のために適切な薬物ボックスに入れることができる。好ましくは、前記薬物ボックスは、本発明の組成物の使用方法を説明する説明書も含み得る。
【0116】
臨床診断/タイピング
本発明に記載のGPIbαの切断体は、免疫性血小板減少症(ITP)患者における自己抗体結合エピトープ及び相対力価を明らかにするための診断抗原を調製することができ、それによって異なる臨床サブタイプの患者を同定することができる。
【0117】
1つの選択可能な実施形態として、間接酵素免疫測定法の原理に基づいて、自己抗体の検出に使用できる試薬を設計することができる。例えば、本発明に記載の切断体を固相担体に連結させ、これに被検サンプル中の自己抗体を結合させて固相抗原-被検自己抗体複合体を形成し、次いでこの固相抗原-被検自己抗体複合体中の自己抗体に酵素標識二次抗体を結合させて固相抗原-被検自己抗体-酵素標識二次抗体複合体を形成し、基質を添加した後の吸光度を測定して被検自己抗体のレベルを決定する。
【0118】
前記切断体は、抗原タンパク質として、例えば、10nM~100uMの濃度で固相担体に固定化され、異なる抗原タンパク質に対して使用される濃度は同じであっても異なっていてもよい。好ましくは、前記切断体を、共有結合固定法を用いて固相担体の表面に固定化し、定量的検出のためのキャリブレーターとして特定の濃度のヒト抗タグペプチドを使用し、比色/蛍光/化学発光法を用いてシグナル強度を検出することによって自己抗体を検出する。前記検出に使用されるシグナル検出方法には、可視光比色法、蛍光発光法、化学発光法などが含まれるが、これらに限定されない。
【0119】
本発明の新規な発見に基づいて、ITPの診断、予後診断、又はタイピングのためのキットも提供される。
【0120】
一実施形態として、前記キットは、前記抗原タンパク質でコーティングされた固相担体を含む。この検出キットは、可視光比色法、蛍光発光法、化学発光法の検出に適するように設計できる。前記固相担体は、磁性粒子、微小球、プラスチックビーズ、液相チップ、マイクロウェルプレート、アフィニティー膜、スライドガラス、又は試験紙などであり得るが、これらに限定されない。例えば、共有結合固定法を用いて抗原タンパク質を固相担体に固定化する。好ましくは、可視光比色法、蛍光発光法、及び/又は化学発光法の検出は、96ウェルプレートなどのマイクロウェルプレートに抗原をコーティングすることによって達成される。
【0121】
前記抗原タンパク質を固定化する方法には、直接コーティング法と間接コーティング法がある。具体的な実施形態として、抗原を適切なプレミックスと混合・インキュベートすることによって抗原を活性化させた後、固相担体に添加してインキュベートし、ブロッキングする。また、間接コーティング法は、例えばビオチンとストレプトアビジンとの特異的反応により、抗原タンパク質を間接的に固相担体に固定化する。
【0122】
本発明によれば、前記キットはまた、希釈液(試料及び抗体希釈液など)、二次抗体、洗浄液、ヒト化タグペプチド抗体キャリブレーター、ヒト化タグペプチド抗体品質管理製品、基質、停止液、発光液などを含む。好ましくは、前記二次抗体は検出可能なマーカーを担持し、前記検出可能なマーカーは例えば西洋わさびペルオキシダーゼである。
【0123】
以下、具体的な実施例を参照しながら本発明を更に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものだけであり、本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例において具体的な条件が明記されていない実験方法は、一般的に、J. Sambrookら編、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、科学出版社に記載されているような従来の条件に従い、又はメーカーにより勧められた条件に従う。
【実施例1】
【0124】
GpIbαの異なる切断体の遺伝子断片の設計
In vivoでGpIbαと自己免疫抗体の結合部位を判定するためには、GpIbαと自己抗体の結合部位を調べて抗原-抗体結合部位を明らかにすることが考えられた。従って、ヒト由来のGpIbαの細胞外末端塩基配列に基づいて、特異的なプライマー配列を数セット設計し、PCR技術を用いてGpIbαの異なる抗原エピトープに対する切断体遺伝子断片を得た。GpIbα上の抗原エピトープがそれぞれ1H-290R、265P-414P、265P-509F、1H-509F、1H-414P(1#~5#)である5種類の切断体断片をスクリーニングし、具体的なヌクレオチド/アミノ酸配列は以下の通りであった。
【0125】
切断体1#:1H-290R(GPIbα-1#)のヌクレオチド配列が配列番号1に示され、アミノ酸配列が配列番号2に示され、G233K突然変異を含むアミノ酸配列が配列番号17に示され、対応するコード配列が配列番号16に示される。
切断体2#:265P-414P(GPIbα-2#)のヌクレオチド配列が配列番号3に示され、アミノ酸配列が配列番号4に示される。
切断体3#:265P-509F(GPIbα-3#)のヌクレオチド配列が配列番号5に示され、アミノ酸配列が配列番号6に示される。
切断体4#:1H-509F(GPIbα-4#)のヌクレオチド配列が配列番号7に示され、アミノ酸配列が配列番号8に示され、G233K突然変異を含むアミノ酸配列が配列番号19に示され、対応するコード配列が配列番号18に示される。
切断体5#:1H-414P(GPIbα-5#)のヌクレオチド配列が配列番号9に示され、アミノ酸配列が配列番号10に示され、G233K突然変異を含むアミノ酸配列が配列番号21に示され、対応するコード配列が配列番号20に示される。
【実施例2】
【0126】
異なる切断体のGpIbα-CAARレンチウイルスベクターの構築とスクリーニング
(1)第二世代CAR構造遺伝子の合成
CD8ヒンジと膜貫通領域、並びに4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ζシグナルドメインを含む細胞内セグメントをコードするCAR構造遺伝子のヌクレオチド断片をPCRによって取得した。第二世代CAR構造遺伝子と、先にスクリーニングされた、GpIbαの異なる抗原エピトープに対する切断体遺伝子断片を、オーバーラップPCRでスプライシングし、GpIbα-CAAR配列を得た。現在、以下のように1#~5#の5つの異なる切断体のGpIbα-CAAR断片が成功に構築された。
【0127】
CAAR1#:1H-290Rに対応するCAARのアミノ酸配列が配列番号11に示され、その内、1-290位はGpIbαの抗体認識配列であり、配列番号11の233位にG233K突然変異が生じ、291-335位はCD8ヒンジであり、336-359位はCD8膜貫通領域であり、360-401位は4-1BBであり、402-513位はCD3ζシグナルドメインであった。
CAAR2#:265P-414Pに対応するCAARのアミノ酸配列が配列番号12に示され、その内、1-150位は抗体認識配列(265P-414P配列)であり、151-373位はCD8ヒンジ、CD8膜貫通領域、4-1BB、CD3ζシグナルドメインであった。
CAAR3#:265P-509Fに対応するCAARのアミノ酸配列が配列番号13に示され、その内、1-245位は抗体認識配列(265P-509F配列)であり、246-468位はCD8ヒンジ、CD8膜貫通領域、4-1BB、CD3ζシグナルドメインであった。
CAAR4#:1H-509Fに対応するCAARのアミノ酸配列が配列番号14に示され、その内、1-509位は抗体認識配列(1H-509F配列)であり、配列番号14の233位にG233K突然変異が生じ、510-732位はCD8ヒンジ、CD8膜貫通領域、4-1BB、CD3ζシグナルドメインであった。
CAAR5#:1H-414Pに対応するCAARのアミノ酸配列が配列番号15に示され、その内、1-414位は抗体認識配列(1H-414P配列)であり、配列番号15の233位にG233K突然変異が生じ、415-637位はCD8ヒンジ、CD8膜貫通領域、4-1BB、CD3ζシグナルドメインであった。
(2)Pre-Lenti-EF1-GpIbα-CAARレンチウイルスベクターの構築
GpIbα-CAAR遺伝子配列を解析し、酵素切断部位を選択し、レンチウイルスベクターPre-Lenti-EF1-MCSのポリクローナル部位と一致させ、酵素切断、組換え、形質転換、クローン選択、菌液増幅、プラスミド抽出及びシークエンシングを経て、相同組換え法によりPre-Lenti-EF1-GpIbα-CAARレンチウイルスベクターを構築した。
【0128】
(3)GpIbα-CAARレンチウイルスのパッケージングと力価検出
293T細胞にGpIbα-CAAR:PsPAX2:PMD2G=3:2:1の割合でトランスフェクションを行い、48時間後と72時間後にウイルス上清を回収し、ウイルスをPEG8000で濃縮し、適量のウイルス濃縮液を取り、Takaraレンチウイルスキットを用いてウイルス力価を測定し、-80℃で凍結保存した。
【実施例3】
【0129】
GpIbα-CAAR-T細胞の調製
Ficoll密度勾配遠心法を用いてヒト末梢血PBMC細胞を得た。そして、免疫磁気ビーズ選別法を用いて、PBMCからT細胞を得た。得られたT細胞を、5μg/mLのCD3抗体とCD28抗体でコーティングしたT75培養フラスコに加え、1000U/mLのIL2と100U/mLのIFN-γを加えてT細胞を活性化した。2日後、ウイルスパッケージングのために、異なる切断体を含むGpIbα-CAARウイルス液を活性化T細胞に添加した。48h~72h培養した後、ウイルス液を除去し、フローサイトメトリーでウイルスの感染効率を検出し、GpIbα-CAAR-T細胞を調製した。また、活性化されたT細胞の一部を取り、CAAR をトランスフェクションせずに通常通りに培養及び増殖させ、陰性対照T細胞とした。
【実施例4】
【0130】
フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand Factor、vWF)の結合領域に突然変異を持つGpIbα-CAAR-T細胞の構築
(1)vWFとの結合領域に点突然変異を持つGpIbα-CAARプラスミドの構築
GpIbα-CAAR-T細胞を体内に注入した後に起こり得るオフターゲット効果を低減するために、本発明者らは、設計に成功したGPIbα-CAARプラスミドに基づいて、GpIbα上のvWFとの結合領域に点突然変異を実施し、GpIbαエピトープがvWF-A1機能ドメインに結合する233位のグリシン(G)をリジン(K)に突然変異させることによってGpIbα-CAAR-G233K突然変異体プラスミドを構築した。
【0131】
(2)GpIbα-CAAR-G233K突然変異体のWFに対する結合能力の検出
構築されたGpIbα-CAAR-G233K突然変異体プラスミドをレンチウイルスでJurkat細胞に感染させ、安定トランスフェクト細胞株を作製した。リストセチンの作用下、CAAR1、CAAR4、及びCAAR5突然変異体を安定的に発現するJurkat細胞をヒトvWFと相互作用させ、細胞の凝集能を検出した(測定結果は光透過率に応じて反映される)。
【0132】
結果は
図1に示されるように、vWFの存在下で、CAAR1、CAAR4、及びCAAR5突然変異体を発現するJurkat細胞の凝集レベルは、点突然変異していないJurkat細胞に比べて有意に低下した(光透過率が低下した)ことから、CAAR1、CAAR4、及びCAAR5突然変異体を安定的に発現するJurkat細胞がヒトvWFに結合する能力は明らかに低下することが示された。
従って、GpIbα-G233K突然変異体の発現は、注入後のin vivoでのCAAR-T細胞のオフターゲット効果を減少することができ、本発明は、vWFとの結合領域に突然変異を持つ突然変異体を有する一連のCAAR-T細胞を調製することに成功した。
【実施例5】
【0133】
抗ヒトGpIbαモノクローナルハイブリドーマ細胞の調製
(1)ヒト由来GpIbαタンパク質によるBALB/cマウスの免疫化
ヒト由来のGpIbαタンパク質を足蹠からBALB/cマウスに注射して免疫化させ、動物を免疫化する1回目の注射は完全フロイントアジュバントにGpIbα抗原を加えて乳化し、2回目又は3回目は不完全フロイントアジュバントを用い、又はアジュバントを使用せず、注射器で調製した抗原エマルジョンを片側からマウスの足蹠押し込んで注射した。一般に、各マウスに1回あたり50~100μgのタンパク質抗原を注射し、抗原量は1回あたり300μLを超えないようにし、最後の追加免疫後3日目に脾臓細胞を採取し融合する。
【0134】
(2)細胞融合によるハイブリドーマ細胞の調製
3回免疫したマウスの脾臓B細胞を、PEG-1500を用いて骨髄腫細胞SP2/0と細胞融合させ、HAT培地を用いてハイブリドーマ細胞のスクリーニングを行ったところ、成功に融合した細胞はHAT培地で成長することができたが、融合に失敗したB細胞は5~7日以内に死滅した。
【0135】
(3)モノクローナルハイブリドーマ細胞のスクリーニング
HAT培地中で生存したハイブリドーマ細胞を計数し、その濃度を約200細胞/mLに調整した。4mLの半固体培地を6ウェルプレートにプレーティングし、各ウェルに約500μLのハイブリドーマ細胞懸濁液を加えた。培養7日後、単一クローンを選定し、新しい6ウェルプレートに移して培養を継続し、細胞を徐々に増殖させた。
【0136】
(4)抗ヒトGpIbα陽性モノクローナルハイブリドーマ細胞の選択
モノクローナルハイブリドーマを分離し、Elisa法を使用してハイブリドーマ培養上清とGpIbαタンパク質との結合を検出し、Elisa結果が陽性であるハイブリドーマ細胞を選択した。前記ハイブリドーマ細胞は、抗ヒトGpIbα抗体(抗ヒト血小板抗体)を産生した。
【0137】
(5)抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞に対するGpIbα-CAAR-T細胞の結合の検証
前述のように設計した異なる切断体を持つGPIbα-CAAR-T細胞を、得られた抗GPIbα陽性ハイブリドーマ細胞と共インキュベートし、GpIbα-CAAR-T細胞と異なる抗原エピトープを持つモノクローナルハイブリドーマ細胞の培養上清中の抗体との相互結合能力をフローサイトメトリーで検出することにより、抗体との結合レベルを評価した。
【0138】
実験結果は
図2に示されるように、本発明者らが設計した異なるCAAR-T細胞は、異なる抗原エピトープを持つ抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞(Gvb1~Gvb4)に選択的に結合することができ、結合能力も異なった。その内、CAAR2-T細胞とCAAR3-T細胞はGvb4ハイブリドーマ細胞との結合能力を有し、CAAR4-T細胞とCAAR5-T細胞はいずれもGvb1~Gvb4の4つのハイブリドーマ細胞に強く結合することができ、かつG233K点突然変異は抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞に対するCAAR-T細胞の特異的結合に影響を与えなかったので、G233K点突然変異を含む異なるCAAR-T細胞はいずれも標的B細胞を認識する能力を保持しており、その中でCAAR1-T細胞は最も強い認識能力を持った。
【実施例6】
【0139】
抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞に対するGpIbα-CAAR-T細胞のin vitro殺傷効果
(1)競合的殺傷レベル実験
CellTrackerTM Deep Red Dye及びCellTrackerTM Red CMTPX Dyeを使用して、それぞれ抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞と陰性対照ハイブリドーマ細胞を標識した。両者を一定の割合で混合し、GpIbα-CAAR-T細胞を加えた。三者を16時間共培養した後、フローサイトメトリーを使用して蛍光標識の異なる2つのハイブリドーマ細胞の割合を検出し、標的細胞に対するCAAR-T細胞の殺傷効果を反映した。
【0140】
結果は
図3に示されるように、CAAR1-T~CAAR5-T(順に1#~5#CAAR-Tに対応)細胞は、いずれも異なる抗原エピトープを持つ陽性ハイブリドーマ細胞を選択的に殺傷することができ、陽性ハイブリドーマ細胞の割合を異なる程度で減少した。中でも、CAAR2-T細胞とCAAR3-T細胞はGvb4ハイブリドーマ細胞に対して殺傷効果を持ち、CAAR4-T細胞とCAAR5-T細胞はGvb1とGvb2ハイブリドーマ細胞に対して強い殺傷効果を持ち、CAAR1-T細胞はGvb1~Gvb4の4つの陽性ハイブリドーマ細胞の全てに対して強力な競合的殺傷効果を持ち、ブランク対照群と比較して、統計学的に有意差があった。これは、異なる抗原エピトープを持つCAAR-T細胞が抗GpIbα陽性標的細胞を特異的に認識して殺傷でき、中でもCAAR1-T細胞は全ての標的細胞に対して強い競合的殺傷効果を持つことを示した。
【0141】
(2)LDH放出レベルの検出
GpIbα-CAAR-T細胞の特異的細胞傷害毒性を評価するために、本発明者らは、異なる抗原エピトープを含むCAAR-T細胞と抗GpIbαハイブリドーマ細胞とを16時間共培養した後のLDHの放出を検証した。
【0142】
結果は
図4に示されるように、構築されたCAAR-T細胞は、GpIbαの異なる抗原エピトープに対する抗体を産生する陽性ハイブリドーマ細胞をよく認識することができ、かつある程度の殺傷効果を有した。その内、CAAR1-T細胞は、Gvb1~Gvb4の4つの陽性ハイブリドーマ細胞の全てに対して、異なるET比で殺傷効果を持ち、かつ細胞溶解効果はCAAR4-T細胞やCAAR5-T細胞よりも強かった。
【0143】
(3)サイトカイン放出レベルの検出
GpIbα-CAAR-T細胞と抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞を一定の割合で混合し、24時間共培養した後、Elisa法を用いて上清サンプル中のIL12とIFN-γの放出レベルを検出し、これにより標的細胞に対するCAAR-T細胞の殺傷能力を反映した。
【0144】
結果は
図5に示されるように、GpIbα-CAAR-T細胞は、抗GpIbα陽性標的細胞をよく認識することができ、それに対してある程度の殺傷効果を持った。その内、CAAR1-T細胞は、Gvb1~Gvb4の4つの陽性ハイブリドーマ細胞の全てに対して殺傷効果を持ち、かつIL-2とIFN-γの放出レベルはCAAR4-T細胞やCAAR5-T細胞よりも有意に増加した。CAAR1-T細胞は、他のCAAR-T細胞よりも標的細胞に対する傷害毒性が強いため、in vivoで反応性B細胞を標的として除去することができ、抗血小板抗体や遊離抗体の産生を低減できることが示唆される。
【実施例7】
【0145】
ヒト化ITPマウスモデルの構築とin vivo検証
ヒト化NSGマウスを用いて、ITPハイブリドーマ動物モデルを構築した。具体的には、6週齢のNSG(NOD-Prkdcscid il-2rgtm1/Bcgen)免疫不全マウスに放射線を照射して骨髄破壊し、その後ヒト臍帯血又は胎児肝造血幹細胞(HSC)骨髄を当該放射線照射を受けたマウスに移植し、ヒト由来の様々な種類の造血細胞又は免疫細胞を継続的に産生させることで、マウスのヒト化を完成した。その後、ヒト化マウスに1×106個の抗GpIbα陽性ハイブリドーマ細胞を腹腔から注射した。マウスの生存状態を毎日観察し、マウスの血小板数、末梢血中のPA Absレベル、骨髄中の巨核球数、凝固機能の変化などを定期的に検出し、これらの指標の変化により、マウスのITP動物モデルが確立に成功したか否かを判定した。
【0146】
成功に構築したITPハイブリドーママウスの尾静脈に一定数のGPIbα-CAAR-T細胞を選択的に注射し、マウスのin vivoでの抗GPIbα自己抗体の力価、血小板数、凝固指標の変化などを検出することにより、in vivoでハイブリドーマ細胞に対する異なる切断体を含むCAAR-T細胞の殺傷効果を総合的に判定し、CAAR-T細胞がマウスで誘導されたITP疾患モデルに対して改善効果があることが明らかになった。
図6の結果によると、14日目に対照群のNTDマウスはすでに顕著なGvb1-GFPの増幅と転移を示していた一方、CAAR-T細胞を注射した実験群のマウスは、対照群よりもGvb1-GFP細胞の増幅と転移が有意に低かった。21日目に対照群のNTDマウスはすでに顕著なGvb1-GFPの増幅と転移を示していた一方、CAAR-T細胞を注射した実験群のマウスは、対照群よりもGvb1-GFP細胞の増幅と転移が有意に低く、Gvb1細胞に対するCAAR-T細胞の明らかな殺傷効果が示された。
【実施例8】
【0147】
GpIbα-CAAR-T細胞の選択と応用
(1)T細胞の収集、分離及び活性化
Ficoll分離又は細胞アフェレーシスを用いてボランティア被験者から一定数のT細胞を取得し、超清浄環境でT細胞を洗浄・活性化し、生存と増殖に必要なサイトカインを含む培地でT細胞を培養した。in vitroでT細胞を活性化するのに最も一般的に使用されるのは、CD3抗体とCD28抗体であった。
【0148】
(2)異なる切断体を含むGpIbα-CAAR-T細胞の構築と選択
異なる切断体を含むGpIbα-CAAR遺伝子断片を活性化T細胞に形質導入する一般的な方法には、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、トランスポゾン、及びmRNAエレクトロポレーション技術などがある。本発明者らは、先に同定されたITP患者の自己抗体のタイプに基づいて、異なる切断体断片を含むGpIbα-CAAR-T細胞療法を特に選択した。
【0149】
(3)in vitroでのGpIbα-CAAR-T細胞増殖培養
遺伝子操作されたCAAR-T細胞をin vitroで一定の数まで刺激培養し、細胞の品質管理を行い、静脈から生体に注入するには、通常、数十億から数百億個のCAAR-T細胞が必要である。
図7は、異なる切断体を含むGpIbα-CAAR遺伝子断片を、レンチウイルスベクターを用いて活性化T細胞に感染させ、一定期間培養した後、フローサイトメトリーの検出結果、異なる切断体断片のGpIbα-CAARレンチウイルスがいずれも一定の割合でヒトT細胞に感染でき、さらに異なる切断体を含むGpIbα-CAAR-T細胞を構築することができることが示された。
【0150】
上述した実施例は、本発明のいくつかの実施形態を表現しただけであり、それらの説明は比較的具体的かつ詳細であるが、本発明の特許範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者にとって、本発明のアイデアを逸脱することなく、幾つかの変形や改善を行ってもよく、これらはすべて本発明の保護範囲に属することに留意されたい。従って、本発明の特許の保護範囲は添付の特許請求の範囲に決定されるべきである。同時に、各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。
【配列表】
【国際調査報告】