(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-13
(54)【発明の名称】医療機器からの薬物の指向的および一時的な放出
(51)【国際特許分類】
A61L 31/10 20060101AFI20241206BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20241206BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20241206BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20241206BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20241206BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20241206BHJP
A61L 33/04 20060101ALI20241206BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20241206BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20241206BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20241206BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20241206BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20241206BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20241206BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20241206BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20241206BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20241206BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20241206BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241206BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20241206BHJP
A61K 31/4465 20060101ALI20241206BHJP
A61K 31/4365 20060101ALI20241206BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20241206BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20241206BHJP
A61K 31/616 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
A61L31/10
A61L31/12 100
A61L31/16
A61L29/08 100
A61L29/16
A61L29/12 100
A61L33/04
A61L31/06
A61L27/44
A61L27/34
A61L27/18
A61L27/54
A61L31/04 110
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L27/16
A61P7/02
A61P29/00
A61P43/00 105
A61K31/436
A61K31/4465
A61K31/4365
A61K31/573
A61K38/05
A61K31/616
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540061
(86)(22)【出願日】2022-12-28
(85)【翻訳文提出日】2024-08-16
(86)【国際出願番号】 IN2022051132
(87)【国際公開番号】W WO2023126965
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202121029892
(32)【優先日】2022-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524248175
【氏名又は名称】ナノ セラピューティクス プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイシュナヴ、ラジェッシュ
(72)【発明者】
【氏名】キレ、アチュート
(72)【発明者】
【氏名】バンデリ、ロヒット
(72)【発明者】
【氏名】バハブ、アレーシャ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C081AB01
4C081AB11
4C081AC08
4C081AC09
4C081AC10
4C081BA05
4C081CA062
4C081CA172
4C081CC01
4C081CE02
4C081CE03
4C081CG04
4C081DA06
4C081DC04
4C081DC11
4C081EA06
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA14
4C084BA24
4C084BA32
4C084DC35
4C084MA05
4C084MA67
4C084NA05
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZA541
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086CB29
4C086DA10
4C086DA17
4C086GA13
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA67
4C086NA05
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZA54
4C086ZB11
4C086ZB21
(57)【要約】
本開示は、医療機器からの薬物の指向的および一時的な放出のための多重層ポリマー系に関する。多重層ポリマー系内の選択された層に薬物を組み込むことにより、所望の方向に所望の時間枠にわたって薬物を放出することが可能になる。2つ以上の薬物が送達される場合、各薬物の方向、持続時間および放出速度を互いに独立して制御することができる。これらの多重層ポリマー系は、そのまま使用することができるか、または薬物溶出冠動脈ステントシステムならびに頸動脈、肝動脈、腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈および腎動脈ステント留置などの様々な末梢ステントシステムに取り付けることができる。製造方法も記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ポリマー層中の少なくとも1つの疎水性薬物と、いかなる薬物も含まない疎水性ポリマー層とを含み、前記疎水性薬物が反管腔領域に優先的に放出される、多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項2】
ステント、グラフト、バルーン、カテーテル、フィルタまたはメッシュ状構造から選択される、請求項1に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項3】
a)前記生物医療機器上にコーティングされた疎水性ポリマー層と、b)疎水性ポリマーおよび疎水性薬物を含有する層とを含み、前記疎水性薬物が前記反管腔領域に優先的に放出される、請求項1に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項4】
a)前記生物医療機器上にコーティングされた疎水性ポリマー層と、b)疎水性ポリマーおよび疎水性薬物を含有する層とを含み、前記疎水性薬物の20%未満が14日間で前記反管腔領域に放出される、請求項1に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項5】
a)前記生物医療機器上にコーティングされた疎水性ポリマー層と、b)続いてa)上にコーティングされた疎水性ポリマー層とを含み、親水性薬物の10%未満が24時間で前記反管腔領域に放出される、請求項1に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項6】
a)前記生物医療機器上にコーティングされた親水性薬物および親水性ポリマーを含有する層と、続いてb)a)上にコーティングされた疎水性ポリマー層と、続いてc)b)上にコーティングされた疎水性ポリマーおよび疎水性薬物を含有する層とを含み、1%未満の疎水性薬物が24時間まで前記管腔領域に放出される、請求項1に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項7】
32~74%の疎水性薬物が21日間で前記反管腔領域に放出される、請求項6に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項8】
21~28%の疎水性薬物が21日間で前記管腔領域に放出される、請求項6に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項9】
68~98%の親水性薬物が9日間で前記管腔領域に放出される、請求項6に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項10】
a)前記機器上にコーティングされた親水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層と、b)a)上にコーティングされた疎水性ポリマー層と、c)b)上にコーティングされた疎水性ポリマーおよび疎水性薬物を含有する層とを含み、40~46%の親水性薬物が30日間で前記管腔領域に放出される、請求項1に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項11】
40~65%の疎水性薬物が30日間で前記反管腔領域に放出される、請求項10に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項12】
a)前記生物医療機器上にコーティングされた親水性薬物および親水性ポリマーを含有する層と、b)a)上にコーティングされた親水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層と、c)b)上にコーティングされた疎水性ポリマーおよび疎水性薬物を含有する層とを含み、前記反管腔領域に親水性薬物が放出されない、請求項1に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項13】
a)前記機器上にコーティングされた親水性薬物および親水性ポリマーを含有する層と、b)b)上にコーティングされた親水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層と、c)b)上にコーティングされた疎水性ポリマー層と、d)c)上にコーティングされた疎水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層とを含み、前記疎水性薬物が少なくとも24時間まで前記管腔領域に放出されない、請求項1に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項14】
75%の疎水性薬物が反管腔領域に30日間にわたって放出される、請求項13に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項15】
64%の親水性薬物が30日間で前記管腔領域に放出される、請求項12に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項16】
前記親水性ポリマー層中の前記親水性薬物と前記疎水性ポリマー層中の前記親水性薬物とが異なる、請求項12に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項17】
前記疎水性ポリマーが、ポリ-εカプロラクトン(PCL)、ポリラクチドコ-εカプロラクトン(PLCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリラクチドコ-グリコリド(PLGA)、およびそれらのブレンドから選択される、請求項1に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項18】
前記親水性ポリマーがポリビニルピロリドンである、請求項6に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項19】
a)生物医療機器上にコーティングされた疎水性ポリマーおよび親水性薬物を含有する層と、b)a)上にコーティングされた疎水性ポリマーブレンドおよび疎水性薬物を含有する層とを含む多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器であって、哺乳動物に投与された前記生物医療機器が少なくとも10日間まで血栓形成を阻害する、多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項20】
a)生物医療機器上にコーティングされた疎水性ポリマーおよび親水性薬物を含有する層と、b)a)上にコーティングされた疎水性ポリマーブレンドおよび疎水性薬物を含有する層とを含む多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器であって、哺乳動物に投与された前記生物医療機器が少なくとも10日間まで新生内膜成長を阻害する、多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項21】
a)生物医療機器上にコーティングされた疎水性ポリマーおよび親水性薬物を含有する層と、b)a)上にコーティングされた疎水性ポリマーブレンドおよび疎水性薬物を含有する層とを含む多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器であって、哺乳動物に投与された前記生物医療機器が10~28日間内皮化を示す、多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項22】
前記疎水性薬物が、抗増殖剤、抗炎症剤、抗生物質、生物活性分子、血管拡張剤および血管弛緩剤のクラスから選択される、請求項1および請求項19に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項23】
前記抗増殖薬が、シロリムス(ラパマイシン)、エベロリムス、タクロリムス、ピメクロリムス、パクリタキセルおよびドセタキセルならびにそれらの薬学的に許容される塩から選択される、請求項22に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項24】
前記抗炎症薬が、アスピリン、セレコキシブ、ロフェコキシブピロキシカム、イブプロフェン、ケトプロフェン、インドメタシン、ジクロフェナク、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロンおよびそれらの薬学的に許容される塩から選択される、請求項22に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項25】
前記親水性薬物が、抗血栓薬、抗血小板剤、トロンビン阻害剤、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIbIIIa)阻害剤、アデノシン二リン酸(ADP)阻害剤のクラスから選択される、請求項1および請求項19に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【請求項26】
前記抗血栓薬が、アスピリン、クロピドグレル、チロフィバンHCl、およびアルガトロバン、ならびにそれらの薬学的に許容される塩から選択される、請求項25に記載の多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本開示の優先権は、2022年1月2日に出願された「Directional and temporal release of drugs from medical devices」と題する仮出願に由来し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、多重ポリマー層を有する生物医療機器からの薬物の指向的および一時的な放出に関する。具体的には、本発明は、所望の期間にわたる薬物の放出をステントの近傍の好ましい領域に合わせることに関する。より具体的には、本発明は、ステントの最適な性能のために、その存在が必要とされない、および/または特定の期間にわたって望ましくない場合がある、ステントの近傍の領域への薬物の放出を最小化/阻害することに関する。
【背景技術】
【0003】
閉塞動脈の治療として、より侵襲的なバイパス手術を可能な限り置き換えるために、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)とも呼ばれるバルーン血管形成術が1960年代初期に導入された。しかしながら、処置を受けている患者はしばしば血管の再閉鎖を経験した。血管閉鎖は、短期間(急性再閉塞)および/または長期間(再狭窄)であり得る。再狭窄は、機械的反射、すなわち、動脈壁の弾性反発、および/または血管壁の損傷、および/または血管形成術によって引き起こされる動脈壁の損傷に対する自然治癒反応の結果であり得る。2つのプロセスの正味の結果は、血管の閉塞をもたらし得る内膜過形成である。再狭窄は、血栓症または異常な組織成長のいずれかのために3~6ヶ月以内に起こり得る。バルーン血管形成後のすべての再狭窄は、対処する必要がある主要な問題の1つであった。
【0004】
1980年代に導入されたベアメタルステント(BMS)は、再狭窄の問題に部分的に対処した。BMSは、拡張した血管が経時的に再狭窄するのを防ぐために、拡張した血管への長期的な支持を提供することを意図していた。これはしばしば血栓形成をもたらした。ステント上に形成された血栓は、ステントから離脱する可能性があり、血管系の他の場所で閉塞をもたらす可能性がある。これを克服するために、患者は、最大2ヶ月間のアスピリンおよびクロピドグレルの投与を含む侵襲的な抗血栓性および抗血小板レジメンに供された。しかしながら、抗血栓性レジメンは、ステント留置処置または必要とされ得る他の付随的処置に伴う損傷を治癒する患者の能力を損なう。これは、冠動脈ステント留置伴う侵襲的な抗血栓療法を排除する方法を必要とした。
【0005】
活性内皮細胞(EC)の増殖を制御し、それらの遊走を加速し、ステント表面を覆うことによって状況を緩和するために、薬物溶出ステント(DES)が導入された。ECが連続した密集した膜を形成すると、それらは亜酸化窒素(NO)を放出し、SMCの増殖を妨げた。薬物溶出ステントの別の目的は、平滑筋細胞(SMC)の増殖を阻害することであり、これはステントの表面からのパクリタキセルなどの抗増殖剤またはシロリムスなどの免疫抑制剤の局所放出によって達成された。
【0006】
しかしながら、薬物溶出ステントの使用は、二重抗血小板療法(DAPT)の中断後に血栓症により動脈の再凝固を引き起こすことが多く、DAPTを3ヶ月~12ヶ月以上延長しなければならなかった。DAPTで処置されている患者は、継続的なモニターを必要とした。これはまた、他の医学的状態のためにDAPTを中止しなければならない場合に問題を引き起こした。
【0007】
他の理由の中でも、遅発性血栓症は、ECによるステントの不完全なコーティングに起因し、長期間にわたって金属表面またはポリマーコーティングが血液と接触したままとなり、その間に血小板付着が起こり、血栓の形成が生じ得る。これはまた、薬物層からの薬物の不完全な放出に起因する可能性があり、これは、遊走し、ステントおよびコーティング層の表面を被覆しようとするECの増殖を阻害するであろう。ステントストラットの厚さはまた、ECの増殖を妨げる可能性がある。ECの増殖速度は、ECが乗り越えなければならない障害物の高さと負に相関する。コーティング層の厚さを増加させることによって、コーティングされたステントの厚さが全体的に増加し、ステント表面からのコーティングの亀裂、剥離、または脱落の問題をもたらし得る。これらの問題に対処するための従来の取り組みの概要を以下に提示する。
【0008】
米国特許第5,873,313号明細書は、加圧エアブラシを使用したヘパリンの微粒子による医療機器のスプレーコーティングを記載している。
【0009】
米国特許第5,716,981号明細書は、ポリマー担体およびパクリタキセルでコーティングされたステントを開示している。米国特許第6,479,654号明細書、同第6,475,779号明細書および同第6,363,938号明細書は、血管新生剤を送達するためのステントの使用を記載している。米国特許第6,071,514号明細書および同第5,383,928号明細書は、抗血栓剤(抗血小板剤)の送達を開示している。米国特許第6,071,514号明細書および同第5,383,928号明細書。米国特許第6,273,908号明細書は、抗凝固剤の送達を開示している。
【0010】
米国特許第6,663,662号明細書は、その中に組み込まれた薬物の溶出速度を低下させるためのポリマー拡散バリア層を組み込んだ多重層医療機器コーティングを記載している。
【0011】
米国特許出願公開第2002/0082680号明細書は、ストラットの開口部内に積み重ねられた薬物を含む多重層を有する拡張可能な医療機器を記載している。各層は、機器からの薬物の放出速度を調整するために異なるサイズの薬物粒子を含有する。
【0012】
米国特許第6,770,729号明細書は、コーティング層からのその制御放出を可能にするために、ポリマーおよび生物活性材料を含む医療機器コーティングを開示している。
【0013】
米国特許出願公開第2005/0095267号明細書は、薬物の溶解度を改善するためのナノ粒子薬物コーティングを有する埋め込み型医療機器を記載している。
【0014】
米国特許出願公開第20050010170号明細書は、薬物およびポリマーを含む第1の均一溶液を埋め込み型医療機器に適用し、続いて薬物およびポリマーを含む第2の均一溶液をその上に適用することを記載している。2つのポリマー溶液中の薬物濃度は異なる。
【0015】
米国特許出願公開第2004/0073294号明細書は、薬物溶液からステントの孔に薬物を装填するためのシステムおよび方法を記載している。充填されたステントをオーブン内で乾燥させ、次いで、次の堆積物を同様の様式で適用して、所望の薬物放出プロファイルを達成する。
【0016】
米国特許出願公開第2006/0222755号明細書は、ステントの孔の中に薬剤を装填することを開示しており、薬剤は、打ち抜きによって装填される薄膜の形態である。薬物の多重層シートは、薬物、薬物/ポリマー、およびポリマーの層を組み込むことによって形成することができる。多重層シートは、層中に異なる組成または異なる濃度の同じ薬物の層を用いて、または異なる時間に異なる薬物を放出するように、異なる薬物を各層に組み込むことによって、形成することができる。
【0017】
米国特許第7,169,179号明細書は、複数の薬物を血管に指向的に送達するための開口部を有するステントを開示している。薬剤および/または血管拡張剤を血管に送達するための、異なる量、異なる方向および異なる速度での、抗再狭窄剤、抗血栓剤、抗血小板剤、抗増殖剤、抗新生物剤、免疫抑制剤、血管新生剤、抗炎症剤、または抗血管新生剤などの異なる薬物の送達が開示された。
【0018】
米国特許出願公開第2011/0045055号明細書は、機器が埋め込まれた後に所定の時間にわたって1つ以上の薬物の放出を遅延させることができる埋め込み型または挿入可能な医療機器を開示している。これは、最初は薬物の放出をほとんどまたは全く許容しない一時的なバリア層を組み込んだ後、バリア層の破壊の結果として所定の速度に従って薬物を放出することによって達成される。
【0019】
米国特許第7927650号明細書は、ステントからの薬物の送達のためのコーティングの使用に関連する問題を記載している。表面コーティングは、薬物放出動態に対する実際の制御をほとんど提供し得ない。コーティングは、典型的には5~8μと非常に薄い。ステントの表面積は、比較すると非常に大きいので、薬物は、周囲の組織に放出するための非常に短い拡散経路を有する。コーティングの厚さを増加させることにより、放出動態に対するより良好な制御を提供することができ、より高い薬物負荷を可能にするが、ステント表面からのコーティングの亀裂、剥離および脱落のリスクを有する。この特許は、粉末形態の薬物をステント機器の孔の中に装填し、続けてそれを溶媒で処理して孔の中の薬物の接着を確実にすることを開示した。
【0020】
米国特許第8,734,829号明細書は、基材と、薬物を含有する基材上の領域と、薬物含有領域上に配置されたナノ多孔質ポリマー層と、ナノ多孔質ポリマー層上に配置された微孔質非ポリマー層とを含有する医療機器を開示している。
【0021】
米国特許出願公開第2014/0288122号明細書は、約25μg/kgのチロフィバンのボーラス注射を患者に投与し、ボーラス注射後、約0.15μg/kg/分の速度で約12時間~約72時間の間のチロフィバンの静脈内注入を患者に投与することによる、患者の血小板凝集を阻害する方法を開示している。
【0022】
米国特許第8932345号明細書は、医療機器コーティングの異なる領域から異なる速度で薬物を放出する医療機器コーティングを開示している。2つ以上の異なる粒子サイズの薬物を含む粒子は、埋め込み型機器の表面上の単層内に組み込まれる。薬物濃度は、コーティングの第2の領域よりもコーティングの第1の領域において高い。そのようなコーティングは、スプレーコーティング溶液の液滴サイズがコーティングプロセス中に変更されるプロセスによって形成される。
【0023】
米国特許出願公開第2021/0361449号明細書は、薬剤溶出性ステント、薬剤溶出性ステントを作製する方法、使用する方法、および薬物溶出ステントの長期安定性を変化させる方法であって、ステントフレームワークと、薬物含有層と、薬物含有層に埋め込まれた薬物と、ステントフレームワーク上に配置され、薬物含有層を支持する生体適合性ベース層とを含み得る、方法を記載している。薬物含有層の厚さは変化し得る。薬物含有層は、ステント移植後45~60日の間に溶解し得る。
【0024】
臨床的観点から、管腔領域における血餅形成は、ステント移植の数時間以内に起こる急性ステント血栓症、および、ステント移植の最大30日またはそれ以上後に起こり得る亜急性ならびに遅発性ステント血栓症に起因し得る。二重抗血小板療法は、血栓症を克服するために施すことができるが、出血の増加をもたらすことが知られている。DAPTは、頭蓋内生物医療機器の場合の問題に対処するのにあまり有効ではないと報告されている。一部の患者集団はDAPTに抵抗性である。
【0025】
チロフィバンは、血小板GP IIb/IIIa阻害剤であり、強力な抗血小板凝集薬である。全身投与後、血小板凝集を最大96%阻害することができ、これは主要有害心イベント(MACE/MACCE)の発生率を減少させることができるが、出血のリスクを増加させる。チロフィバンの冠動脈内注射は、急性心筋インターベンション(Acute myocardial intervention、AMI)患者におけるステント留置中の血小板凝集ならびに微小循環機能不全、ならびに遅延経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を予防する。管腔領域における生物医療機器を介した局所的なチロフィバンHClの持続放出は、急性、亜急性および遅発性血栓症ならびに出血リスクを予防するであろう。
【0026】
機能不全の血管内皮は、抗血栓性およびアテローム産生抑制性の特性(薬剤)の非存在下でステント再狭窄をもたらす。この内皮機能不全は、血管平滑筋細胞(VMSC)増殖の引き金となる。その結果、VMSCが過剰に増殖し、経時的に血管の閉塞をもたらす。薬物溶出ステントは、ベアメタルステントと比較して再狭窄の割合を低下させるが、DESは、特にDAPTの非存在下またはDAPTが中断された場合に、遅発性および超遅発性ステント血栓症のより高いリスクと関連し得るという懸念がある。
【0027】
シロリムスは、VMSC増殖を抑制する免疫抑制剤である。反管腔領域における長期間にわたるシロリムスの持続放出は、VMSCの血管内への過剰増殖を制限するのに役立つであろう。これは、シロリムスの管腔領域への喪失を制限することによって達成することができる。したがって、生物医療機器からのチロフィバンおよびシロリムスの両方の指向的および一時的な放出が必要とされている。そのような送達システムは、抗血栓剤、血管拡張剤、管腔領域の血管弛緩剤および抗増殖剤、抗炎症剤、ステロイド剤、血管拡張剤、血管弛緩剤、反管腔領域の脂質低下剤の放出のための他のコーティングされた生物医療機器におけるさらなる用途を見出すであろう。
【発明の概要】
【0028】
ここで、驚くべきことに、薬物の指向的および一時的な放出が多重ポリマー層でコーティングされたステントによって達成され得ることが見出された。より具体的には、薬物の放出は、その存在が必要とされないかまたは望ましくない可能性がある領域において最小化または阻害され得ることが見出された。これは、その存在が望ましい領域への薬物の放出の持続時間を延長するのに役立つ。さらに、多重ポリマー層からの薬物放出動態を制御することができる。
【0029】
本開示の様々な実施形態を以下に説明するが、これは本開示を例示するものであり、本開示の範囲を限定するものではない。
【0030】
1.本開示の一実施形態によれば、多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器は、少なくとも1つの親水性薬物および1つの疎水性薬物を含み、疎水性薬物は少なくとも1つの疎水性ポリマー層に含まれる。
【0031】
2.本開示の一実施形態によれば、多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器は、ステント、グラフト、バルーン、カテーテル、フィルタまたはメッシュ状構造、他の同様の血管内機器から選択される。
【0032】
3.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、2つの疎水性ポリマーを連続的にコーティングすることによって形成される二重層を含み、水溶性薬物の放出は、(ポリマーの固有粘度に反映されるように)前記薬物が組み込まれる分子量によって制御される。
【0033】
4.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、水溶性薬物を含有する親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、薬物の放出は、(親水性ポリマーのK値に反映されるように)分子量によって制御される。
【0034】
5.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、2つの疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、水溶性薬物の放出は、薬物が組み込まれるポリマーの疎水性によって改変される。
【0035】
6.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、疎水性薬物は、反管腔領域において優先的に放出される。
【0036】
7.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、管腔領域において累積的に放出される疎水性薬物は、6時間で5%未満である。
【0037】
8.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、管腔領域において累積的に放出される疎水性薬物は、24時間で6%未満である。
【0038】
9.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、管腔領域において累積的に放出される疎水性薬物は、14日で20%未満である。
【0039】
10.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、24日の期間にわたる疎水性薬物の累積的な放出は約50%である。
【0040】
11.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する2つの疎水性ポリマーのブレンドをコーティングすることによって形成される二重層を含み、24日の期間にわたる疎水性薬物の累積的な放出は75%である。
【0041】
12.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーと親水性ポリマーとのブレンドをコーティングすることによって形成される二重層を含み、24日の期間にわたる疎水性薬物の累積的な放出は77%である。
【0042】
13.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマー層で親水性薬物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングすることによって形成される二重層を含み、24時間で反管腔領域において累積的に放出される親水性薬物は10%未満である。
【0043】
14.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、1%未満の疎水性薬物は、管腔領域において24時間まで累積的に放出される。
【0044】
15.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、親水性薬物は管腔領域において優先的に放出される。
【0045】
16.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、32~74%の疎水性薬物は、21日間で反管腔領域において累積的に放出される。
【0046】
17.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、21~28%の疎水性薬物は、21日間で管腔領域において累積的に放出される。
【0047】
18.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、68~98%の親水性薬物は、9日間で管腔領域において累積的に放出される。
【0048】
19.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、40~46%の親水性薬物が、30日間で管腔領域において累積的に放出される。
【0049】
20.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、40~65%の疎水性薬物が、30日間で反管腔領域において累積的に放出される。
【0050】
21.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、親水性薬物は反管腔領域において放出されない。
【0051】
22.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングし、続けて疎水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層をコーティングすることによって形成される4層を含み、疎水性薬物は管腔領域において少なくとも24時間まで放出されない。
【0052】
23.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングし、続けて疎水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層をコーティングすることによって形成される4層を含み、75%の疎水性薬物は、反管腔領域において30日間にわたって累積的に放出される。
【0053】
24.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングし、続けて疎水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層をコーティングすることによって形成される4層を含み、親水性薬物の64%は、管腔領域において30日間で累積的に放出される。
【0054】
25.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングし、続けて疎水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層をコーティングすることによって形成される4層を含み、親水性ポリマー層中の親水性薬物と疎水性ポリマー層中の親水性薬物とは異なる。
【0055】
26.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、水溶性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物および疎水性ポリマーのブレンドを含むコーティングによって形成される二重層を含み、哺乳動物に投与されたステントは、少なくとも10日間まで血栓形成を阻害する。
【0056】
27.本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物および疎水性ポリマーのブレンドを含むコーティングによって形成される二重層を含み、哺乳動物に投与されたステントは、新生内膜成長を少なくとも10日間まで阻害する。
【0057】
28.本開示の一実施形態によれば、本開示のコーティングされたステントは、水溶性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物および疎水性ポリマーのブレンドを含む別のコーティングによって形成される二重層を含み、哺乳動物に投与されたステントは、10日前および28日前に内皮化を示す。
【0058】
29.本開示の一実施形態によれば、親水性ポリマーはポリビニルピロリドンである。
【0059】
30.本開示の一実施形態によれば、親水性薬物は、抗血栓剤、抗凝固剤、抗血小板剤、血管拡張剤、血管弛緩剤、抗高血圧剤、細胞、抗体、ペプチド、エラスチン、および血液適合性促進剤のクラスから選択される。
【0060】
31.本開示の一実施形態によれば、アルガトロバン、イノガトラン、メラガトランおよびそれらの薬学的に許容される誘導体から選択される抗血栓剤。
【0061】
32.本開示の一実施形態によれば、ワルファリン/クマリンおよびその誘導体、ビタミンK拮抗薬、ヘパリンおよびその誘導体、低分子量ヘパリン(LMWH)およびその誘導体、例えば、ベミパリン、ナドロパリン、レビパリン、エノキサパリン、パルナパリン、セルトパリン、ダルテパリン、チンザパリン、合成五糖誘導体(Synthetic pentasugar derivatives)(第Xa因子阻害剤)、例えば、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス、イドラビオタパリヌクスから選択される抗凝固剤。
【0062】
33.本開示の一実施形態によれば、不可逆的シクロオキシゲナーゼ阻害剤のクラス、例えばアスピリン、トリフルニサル(ジスグレン)から選択される抗血小板薬;
34.本開示の一実施形態によれば、アデノシン二リン酸(ADP)受容体阻害剤のクラス、例えばカングレロール、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロール、チクロピジンから選択される抗血小板薬;
35.本開示の一実施形態によれば、ホスホジエステラーゼ阻害剤のクラス、例えばシロスタゾールから選択される抗血小板薬。
【0063】
36.本開示の一実施形態によれば、プロテアーゼ活性化受容体1(PAR-1)拮抗薬のクラス、例えばボラパクサールから選択される抗血小板薬。
【0064】
37.本開示の一実施形態によれば、糖タンパク質IIB/IIIA阻害剤のクラス、例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバンなどから選択される抗血小板薬。
【0065】
38.本開示の一実施形態によれば、アデノシン再取り込み阻害剤のクラス、例えばジピリダモールから選択される抗血小板薬。
【0066】
39.本開示の一実施形態によれば、トロンボキサン阻害剤/トロンボキサンシンターゼ阻害剤のクラス、例えばテルトロバンから選択される抗血小板薬。
【0067】
40.本開示の一実施形態によれば、利尿薬、β遮断薬から選択される抗高血圧剤。ACE阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬。α遮断薬、α-2受容体アゴニスト。
【0068】
41.本開示の一実施形態によれば、一酸化窒素およびその誘導体または前駆体、プロスタグランジン、アデノシン、ミノキシジルなどから選択される血管拡張剤、
42.本開示の一実施形態によれば、ヒドララジン、ミノキシジルから選択される血管弛緩剤。
【0069】
43.本開示の一実施形態によれば、ヘパリン表面コーティングなどのような、凝固機構、溶血機構に作用する化合物の群から選択される血液適合性促進剤。
【0070】
44.本開示の一実施形態によれば、疎水性ポリマーは、ポリ-εカプロラクトン(PCL)、ポリラクチドコ-εカプロラクトン(PLCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリラクチドコ-グリコリド(PLGA)から選択される。
【0071】
45.本開示の一実施形態によれば、疎水性薬物は、抗増殖剤、抗炎症剤、抗生物質、生物活性分子、血管拡張剤および血管弛緩剤のクラスから選択される。
【0072】
46.本開示の一実施形態によれば、抗増殖/細胞増殖抑制/細胞増殖抑制化学療法剤、例えばラパマイシン、エベロリムス、ゾタロリムス、パクリタキセルなどから選択される抗増殖剤、
47.本開示の一実施形態によれば、アスピリン、ナプロキセン、Cox2阻害剤、例えばセレコキシブ、ロフェコキシブおよびステロイド、例えばデキサメタゾンから選択される抗炎症薬、
48.本開示の一実施形態によれば、一酸化窒素およびその誘導体または前駆体、プロスタグランジン、アデノシン、ミノキシジルなどから選択される血管拡張剤、
49.本開示の一実施形態によれば、ヒドララジン、ミノキシジルから選択される血管弛緩剤。
【0073】
本発明の目的および利点は、添付の図面に従って読まれる以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】例1の二重層コーティングステント1a、1bおよび1cからの回転ボトル装置を用いたチロフィバンHClの放出の図である。
【
図2】例2の二重層コーティングステント2a、2bおよび2cの回転ボトル装置およびチューブ装置からのアスピリン、チロフィバン塩酸塩およびクロピドグレル硫酸塩の放出の図である。
【
図3a】例3の二重層コーティングステント3aおよび3bの回転ボトル装置およびチューブ装置からのチロフィバンHClの放出の図である。
【
図3b】例3の二重層コーティングステント3cおよび3dの回転ボトル装置およびチューブ装置からのチロフィバンHClの放出の図である。
【
図4】例4の二重層コーティングステント4a、4b、4cおよび4dの回転ボトル装置およびチューブ装置からのシロリムス、エベロリムスおよび酢酸デキサメタゾンの放出を示す図である。
【
図5】例5の二重層コーティングステント5a、5b、および5cの回転ボトル装置およびチューブ装置からのシロリムス、エベロリムスおよび酢酸デキサメタゾンの放出を示す図である。
【
図6】例6の二重層コーティングステント6a、6bおよび6cの回転ボトル装置からのエベロリムスおよびシロリムスの放出を示す図である。
【
図7】例7の二重層コーティングステント7の回転ボトル装置およびチューブ装置からの酢酸デキサメタゾンの放出の図である。
【
図8】例8の二重層コーティングステント8a、8bおよび8cの回転ボトル装置およびチューブ装置からのクロピドグレル硫酸塩、アルガトロバンおよびチロフィバンHClの放出を示す図である。
【
図9】例9の三重層コーティングステント9a、9b、9cおよび9dの回転ボトル装置およびチューブ装置からのシロリムスの放出を示す図である。
【
図10】例9の三重層コーティングステント9a、9b、9cおよび9dの回転ボトル装置およびチューブ装置からのチロフィバンHClおよびアスピリンの放出を示す図である。
【
図11】例10の三重層コーティングステント10a、10b、10cおよび10dの回転ボトル装置およびチューブ装置からのチロフィバンHClの放出を示す図である。
【
図12】例10の三重層コーティングステント10a、10b、10cおよび10dの回転ボトル装置およびチューブ装置からのシロリムスの放出を示す図である。
【
図13】例11の三重層コーティングステント11a、11bおよび11cの回転ボトル装置およびチューブ装置からのチロフィバンHClおよびアスピリンの放出を示す図である。
【
図14】例12の4層コーティングステント12の回転ボトル装置およびチューブ装置からのチロフィバン塩酸塩およびシロリムスの放出を示す図である。
【
図15】例13の4層コーティングされたステント13の回転ボトル装置およびチューブ装置からのチロフィバンHCl、アスピリンおよびシロリムスの放出を示す図である。
【
図16】例14の単層コーティングステント14の回転ボトル装置およびチューブ装置からのシロリムスおよびチロフィバンの放出を示す図である。
【
図17】回転ボトル装置からのシロリムスおよびチロフィバンHClの放出を示す図である。
【
図18】ブタに投与した、シロリムスおよびチロフィバンHClを含有する多重ポリマー層でコーティングされたステントの組織病理学的評価の図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
本明細書における「実施形態」または「一実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、特性、または機能が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書の様々な箇所における「一実施形態では」という句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すとは限らない。
【0076】
本明細書における「好ましい実施形態」への言及は、詳細に説明された特定の特徴、構造、特性、または機能を意味し、それによって本発明の明確な説明のために既知の構成および機能を省略する。
【0077】
本発明の特定の実施形態の前述の説明は、例示および説明の目的で提示されている。それらは網羅的であること、または本発明を開示された正確な形態に限定することを意図するものではなく、上記の教示に照らした多くの修正および変形が明らかに可能である。
【0078】
バルーン血管形成は、多くの状況においてバイパス手術に対する低侵襲性の代替物として浮上した。バルーン血管形成に関連する問題は、ベアメタルステントによって、続いて薬物溶出ステントによって軽減された。しかしながら、薬物溶出ステントには依然として限界がある。これらを克服するためのアプローチは、先行技術に要約されている。この背景において、驚くべきことに、薬物放出動態は多重ポリマー層でコーティングされたステントから制御され得ることがここで見出された。本開示によれば、放出の方向は、疎水性ポリマー層の選択および多重層内のその位置によって制御される。薬物放出の持続時間は、薬物が組み込まれるポリマー層の選択によって制御される。本開示の様々な様相を示すが、これに限定されない詳細な説明を、後続の段落で提供する。
【0079】
定義
本明細書で使用される場合、「指向的な放出」は、管腔領域または反管腔領域のいずれかにおいて、医療機器の表面から動脈の所望の方向または片側に向かって薬物を放出することを指す。複数の薬物の場合、放出の方向は異なっていてもよく、または同じであってもよい。
【0080】
本明細書で使用される場合、「一時的な放出」は、所望の時間枠にわたる医療機器の表面からの薬物の制御放出を指す。2つ以上の薬物が使用される場合、所望の時間枠は互いに異なる。所望の時間枠は、異なる状況において同じ薬物に対して異なり得る。
【0081】
本明細書で使用される場合、「優先的に放出される」という語句は、所望の領域における薬物の放出が別の領域における放出よりも大きいことを意味する。
【0082】
本明細書で使用される場合、「疎水性ポリマー」は、水と混和しない溶媒からコーティングすることができるポリマーを指す。
【0083】
疎水性モノマーと親水性モノマーの両方を含有する乳酸とグリコール酸のコポリマーの場合、乳酸含有量が高いコポリマーは、乳酸含有量が低いコポリマーよりも疎水性が高いと考えられる。
【0084】
本明細書で使用される場合、「親水性ポリマー」は、水混和性である溶媒からコーティングすることができるポリマーを指す。
【0085】
当業者には、ポリマーの分子量がそれらの固有粘度に直接関係することが知られている。ポリビニルピロリドンの場合、より高いK値はより高い分子量を示す。
【0086】
本明細書で使用される場合、疎水性薬物という用語は、水と混和しない溶媒に可溶な薬物を指す。
【0087】
本開示の様々な実施形態を以下に説明するが、これは本開示を例示するものであり、本開示の範囲を限定するものではない。
【0088】
本開示の一実施形態によれば、多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器は、少なくとも1つの親水性薬物および1つの疎水性薬物を含み、疎水性薬物は少なくとも1つの疎水性ポリマー層に含まれる。
【0089】
本開示の一実施形態によれば、多重ポリマー層でコーティングされた生物医療機器は、ステント、グラフト、バルーン、カテーテル、フィルタまたはメッシュ状構造、他の同様の血管内機器から選択される。
【0090】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、2つの疎水性ポリマーを連続的にコーティングすることによって形成される二重層を含み、水溶性薬物の放出は、(ポリマーの固有粘度に反映されるように)前記薬物が組み込まれる分子量によって制御される。
【0091】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、水溶性薬物を含有する親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、薬物の放出は、(親水性ポリマーのK値に反映されるように)分子量によって制御される。
【0092】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、2つの疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、水溶性薬物の放出は、薬物が組み込まれるポリマーの疎水性によって改変される。
【0093】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、疎水性薬物は、反管腔領域において優先的に放出される。
【0094】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、管腔領域において累積的に放出される疎水性薬物は、6時間で5%未満である。
【0095】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、管腔領域において累積的に放出される疎水性薬物は、24時間で6%未満である。
【0096】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、管腔領域において累積的に放出される疎水性薬物は、14日で20%未満である。
【0097】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される二重層を含み、24日の期間にわたる疎水性薬物の累積的な放出は約50%である。
【0098】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する2つの疎水性ポリマーのブレンドをコーティングすることによって形成される二重層を含み、24日の期間にわたる疎水性薬物の累積的な放出は75%である。
【0099】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーと親水性ポリマーとのブレンドをコーティングすることによって形成される二重層を含み、24日の期間にわたる疎水性薬物の累積的な放出は77%である。
【0100】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、疎水性ポリマー層で親水性薬物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングすることによって形成される二重層を含み、24時間で反管腔領域において累積的に放出される親水性薬物は10%未満である。
【0101】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、1%未満の疎水性薬物は、管腔領域において24時間まで累積的に放出される。
【0102】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、親水性薬物は管腔領域において優先的に放出される。
【0103】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、32~74%の疎水性薬物は、21日間で反管腔領域において累積的に放出される。
【0104】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、21~28%の疎水性薬物は、21日間で管腔領域において累積的に放出される。
【0105】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、68~98%の親水性薬物は、9日間で管腔領域において累積的に放出される。
【0106】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、40~46%の親水性薬物は、30日間で管腔領域において累積的に放出される。
【0107】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、40~65%の疎水性薬物は、30日間で反管腔領域において累積的に放出される。
【0108】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングすることによって形成される三重層を含み、親水性薬物は反管腔領域において放出されない。
【0109】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングし、続けて疎水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層をコーティングすることによって形成される4層を含み、疎水性薬物は管腔領域において少なくとも24時間まで放出されない。
【0110】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングし、続けて疎水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層をコーティングすることによって形成される4層を含み、75%の疎水性薬物は、反管腔領域において30日間にわたって累積的に放出される。
【0111】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングし、続けて疎水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層をコーティングすることによって形成される4層を含み、親水性薬物の64%は、管腔領域において30日間で累積的に放出される。
【0112】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物および親水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて親水性薬物および疎水性ポリマーを含む組成物をコーティングし、続いて疎水性ポリマー層をコーティングし、続けて疎水性薬物および疎水性ポリマーを含有する層をコーティングすることによって形成される4層を含み、親水性ポリマー層中の親水性薬物と疎水性ポリマー層中の親水性薬物とは異なる。
【0113】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、水溶性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物および疎水性ポリマーのブレンドを含むコーティングによって形成される二重層を含み、哺乳動物に投与されたステントは、少なくとも10日間まで血栓形成を阻害する。
【0114】
本開示の一実施形態によれば、本開示の多重ポリマー層でコーティングされたステントは、親水性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物および疎水性ポリマーのブレンドを含むコーティングによって形成される二重層を含み、哺乳動物に投与されたステントは、新生内膜成長を少なくとも10日間まで阻害する。
【0115】
本開示の一実施形態によれば、本開示のコーティングされたステントは、水溶性薬物を含有する疎水性ポリマーをコーティングし、続いて疎水性薬物および疎水性ポリマーのブレンドを含む別のコーティングによって形成される二重層を含み、哺乳動物に投与されたステントは、10日前および28日前に内皮化を示す。
【0116】
本開示の一実施形態によれば、親水性ポリマーはポリビニルピロリドンである。
【0117】
本開示の一実施形態によれば、親水性薬物は、抗血栓剤、抗凝固剤、抗血小板剤、血管拡張剤、血管弛緩剤、抗高血圧剤、細胞、抗体、ペプチド、エラスチン、および血液適合性促進剤のクラスから選択される。
【0118】
本開示の一実施形態によれば、アルガトロバン、イノガトラン、メラガトランおよびそれらの薬学的に許容される誘導体から選択される抗血栓剤。
【0119】
本開示の一実施形態によれば、ワルファリン/クマリンおよびその誘導体、ビタミンK拮抗薬、ヘパリンおよびその誘導体、低分子量ヘパリン(LMWH)およびその誘導体、例えば、ベミパリン、ナドロパリン、レビパリン、エノキサパリン、パルナパリン、セルトパリン、ダルテパリン、チンザパリン、合成五糖誘導体(Synthetic pentasugar derivatives)(第Xa因子阻害剤)、例えば、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス、イドラビオタパリヌクスから選択される抗凝固剤。
【0120】
本開示の一実施形態によれば、不可逆的シクロオキシゲナーゼ阻害剤のクラス、例えばアスピリン、トリフルニサル(ジスグレン)から選択される抗血小板薬;
本開示の一実施形態によれば、アデノシン二リン酸(ADP)受容体阻害剤のクラス、例えばカングレロール、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロール、チクロピジンから選択される抗血小板薬;
本開示の一実施形態によれば、ホスホジエステラーゼ阻害剤のクラス、例えばシロスタゾールから選択される抗血小板薬。
【0121】
本開示の一実施形態によれば、プロテアーゼ活性化受容体1(PAR-1)拮抗薬のクラス、例えばボラパクサールから選択される抗血小板薬。
【0122】
本開示の一実施形態によれば、糖タンパク質IIB/IIIA阻害剤のクラス、例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバンなどから選択される抗血小板薬。
【0123】
本開示の一実施形態によれば、アデノシン再取り込み阻害剤のクラス、例えばジピリダモールから選択される抗血小板薬。
【0124】
本開示の一実施形態によれば、トロンボキサン阻害剤/トロンボキサンシンターゼ阻害剤のクラス、例えばテルトロバンから選択される抗血小板薬。
【0125】
本開示の一実施形態によれば、利尿薬、β遮断薬から選択される抗高血圧剤。ACE阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬。α遮断薬、α-2受容体アゴニスト。
【0126】
本開示の一実施形態によれば、一酸化窒素およびその誘導体または前駆体、プロスタグランジン、アデノシン、ミノキシジルなどから選択される血管拡張剤、
本開示の一実施形態によれば、ヒドララジン、ミノキシジルから選択される血管弛緩剤。
【0127】
本開示の一実施形態によれば、ヘパリン表面コーティングなどのような、凝固機構、溶血機構に作用する化合物の群から選択される血液適合性促進剤。
【0128】
本開示の一実施形態によれば、疎水性ポリマーは、ポリ-εカプロラクトン(PCL)、ポリラクチドコ-εカプロラクトン(PLCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリラクチドコ-グリコリド(PLGA)から選択される。
【0129】
本開示の一実施形態によれば、疎水性薬物は、抗増殖剤、抗炎症剤、抗生物質、生物活性分子、血管拡張剤および血管弛緩剤のクラスから選択される。
【0130】
本開示の一実施形態によれば、抗増殖/細胞増殖抑制/細胞増殖抑制化学療法剤、例えばラパマイシン、エベロリムス、ゾタロリムス、パクリタキセルなどから選択される抗増殖剤。
【0131】
本開示の一実施形態によれば、アスピリン、ナプロキセン、Cox2阻害剤、例えばセレコキシブ、ロフェコキシブおよびステロイド、例えばデキサメタゾンから選択される抗炎症薬。
【0132】
本開示の一実施形態によれば、一酸化窒素およびその誘導体または前駆体、プロスタグランジン、アデノシン、ミノキシジルなどから選択される血管拡張剤。
【0133】
本開示の一実施形態によれば、ヒドララジン、ミノキシジルから選択される血管弛緩剤。
【0134】
薬物コーティングの手順
1.2.75×12mm(OD×長さ)のサイズの清浄なL605電解研磨ステント(electro polished stent)バイアルから皮下針を使用して取り出し、コーティング機の2つの照合部(collates)に取り付ける前の初期重量を記録した。
【0135】
2.溶液をスプレーガンカップに注ぎ、コーティング機を始動させ、コーティング溶液の流れをモニターした。
【0136】
3.完全にコーティングした後、ステントを照合部から慎重に除去した。コーティングされたステントは、コーティングが損傷を受けないように取り扱われるべきである。コーティングされたステントを秤量天秤皿上に置き、その重量を測定した。
【0137】
4.次いで、ステントをそれぞれのバイアルに入れ、乾燥目的でー27±2Hgおよび室温で最低12時間真空オーブン内に保った。バイアルの内部に真空を作り出すことができるように、バイアルキャップに孔を開けた。
【0138】
5.乾燥プロセスの後、ステントを真空オーブンから取り出し、秤量した。
【0139】
6.反管腔層(abluminus layer)コーティングのために、ステントをマンドレルに取り付け、工程2、3、4および5を繰り返した。
【0140】
チューブ中の薬物放出の手順
バルーン上にクリンプされたコーティングされたステントを、シリコーンチューブに挿入した。インフレーション機器を用いて圧力を加えることによって拡張させた。このチューブを、放出媒体として使用されるpH7.4の4mlのリン酸緩衝生理食塩水を含有するガラスチューブに浸漬した。溶解装置にガラスチューブを装填した。装置を10RPMおよび250℃に設定した。放出媒体から1mlの試料を0.25時間、0.5時間、1時間、3時間、6時間、24時間、48時間およびその後の複数の等距離の時点で、さらなる放出が観察されなくなるまで取り出した。各サンプリングの直後に1mlの緩衝媒体を交換した。UV検出器を使用したアリコートのHPLC分析から、4ml中の薬物の量を計算した。続いて、各時点での薬物放出の累積量および薬物放出の%を計算した。
【0141】
薬物放出を、チロフィバンHClについては吸光度226nmで、アスピリンについては240nmで、シロリムスについては276nmで、エベロリムスについては277nmで、クロピドグレル硫酸塩については240nmで、酢酸デキサメタゾンについては254nmで、およびアルガトロバンについては254nmで記録することによって、モニターした。
【0142】
回転ボトル装置における薬物放出の手順
コーティングされたクリンプされたステントを、4mlの放出媒体(pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水)を含有するガラスチューブに挿入し、ステントを、インフレーション機器を使用して圧力を加えることによって拡張させた。ガラスチューブを回転ボトル装置に装填した。装置を10RPMおよび250℃に設定した。放出媒体から1mlの試料を、0.25時間、0.5時間、1時間、3時間、6時間、24時間、48時間およびその後24時間毎に、さらなる放出が観察されなくなるまで取り出した。各サンプリングの直後に1mlの緩衝媒体を交換した。UV検出器を使用したアリコートのHPLC分析から、4ml中の薬物の量を計算した。続いて、各時点での薬物放出の累積量および薬物放出%を計算した。
【0143】
この実験条件下(回転ボトル装置)で放出された薬物は、インビボ条件下で管腔領域および反管腔領域の両方に放出された薬物の量を表す。反管腔領域で放出されるであろう薬物の量を、回転ボトル実験中に同時に放出された薬物からチューブ実験中に放出された薬物を差し引くことによって計算する。
【0144】
これらおよび他の実施形態は、いくつかの実施形態の以下の詳細な説明を考慮すると、当業者および他の者には明らかであろう。しかしながら、この概要および詳細な説明は、様々な実施形態のいくつかの例を例示するにすぎず、特許請求される本発明を限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【実施例】
【0145】
いくつかの例および実装のみが開示されている。記載された例および実装に対する変形、修正、および強化、ならびに他の実装は、開示された内容に基づいて行うことができる。
【0146】
例は、本明細書において以下に記載されており、本開示を実施する際に利用することができる異なる量および種類の反応物および反応条件の例示である。しかしながら、本開示は、例で使用されるもの以外の量および種類の反応物および反応条件で実施することができ、得られた機器は、上記の開示による、および以下に指摘するような様々な特性および用途を有することは明らかであろう。
【0147】
例1
3つのステント1a、1b、1cを、薬物チロフィバンHCl、ならびにそれぞれ固有粘度(IV)1.07、1.3および1.9のポリ-ε-カプロラクトンポリマーを含有する3つの溶液でスプレーコーティングした。溶液をジクロロメタン:メタノール(90:10体積/体積)中で作製した。ポリマー薬物比は3:1であった。溶液のポリマー含有量は(0.09重量/体積%)であった。ステント上のチロフィバンHCl負荷は75~100μgであった。ステントを乾燥させ、ジクロロメタンに溶解したポリ-ε-カプロラクトンポリマー(IV1.07)(0.09重量/体積%)でさらにスプレーコーティングした。コーティングされたポリマーの重量は250~300μgであった。ステントを乾燥させ、回転ボトル装置(RBA)を使用して薬物放出実験を行い、HPLCによってモニターした。時間に対する累積薬物放出を
図1に示す。
【0148】
例2
3つのステント2a、2b、2cを、a)アスピリンb)チロフィバンHClおよびc)クロピドグレル硫酸塩をそれぞれ含有するメタノール中のポリビニルピロリドン(K90)溶液(0.09重量/体積%ポリマー)でスプレーコーティングした。ポリマー:薬物比は3:1であった。薬物負荷は75~100μgの範囲であった。ステントを完全に乾燥させた。その後、ステント2aおよび2bをポリ-ε-カプロラクトン(PCL、IV1.9)でスプレーコーティングし、ステント2cをジクロロメタン中のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.3)溶液(0.09重量/体積%ポリマー)でスプレーコーティングした。ステント上のポリ-ε-カプロラクトン負荷は、250~300μgの範囲であった。ステントを乾燥させ、薬物の放出を、回転ボトル装置(RBA)およびチューブ装置を使用して行った。薬物放出をHPLCによってモニターした。時間の関数としての累積薬物放出を
図2に示す。
【0149】
例3
ポリマー/チロフィバンHCl比が3:1であるポリマー溶液から、チロフィバンHClを4つのステント3a、3b、3c、3dに充填した。ステント3aをコーティングするために使用される溶液は、メタノール中のポリビニルピロリドン(K30)(0.09重量/体積%)を含有し、ステント3bは、メタノール中のポリビニルピロリドン(K12)(0.09重量/体積%)を含有し、ステント3cは、ジクロロメタン-メタノール(90:10v/v)中0.09重量/体積%のポリ(D,Lラクチド-コグリコリド)(50:50:)(HFIP、ヘキサフルオロイソプロパノール中IV-0.65)を含有し、ステント3dは、ジクロロメタン-メタノール(90:10v/v)中0.09重量/体積%のポリ(L-ラクチド-コ-ε-カプロラクトンコポリマー(80:20)(クロロホルム中IV-1.12)を含有した。ステント上のチロフィバンHCl負荷は75~100μgの範囲であった。ステントを乾燥させた。次いで、ステント3aおよび3cを、(0.09重量/体積%)ポリマーを含有するポリ-ε-カプロラクトン(クロロホルム中IV1.9)溶液を使用してコーティングした。ステント3bを、ジクロロメタンに溶解したポリ(D,Lラクチド-コグリコリド)75:25(MW-75000)(0.09重量/体積%ポリマー)でコーティングし、ステント3dを、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV-1.07)でコーティングした。ステントを乾燥させた。チロフィバンHCl放出実験を、回転ボトル装置(RBA)およびチューブ装置を使用して行い、放出をHPLCによってモニターした。累積放出対時間を
図3aおよび
図3bに示す。
【0150】
例4
4つのステント4a、4b、4cおよび4dをスプレーコーティングした。ステント4a、4bを、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)でスプレーコーティングした。4cを、ジクロロメタンに溶解した0.09%重量/体積%のポリ(D,Lラクチド-コグリコリド)コポリマー75:25(MW-75000)でスプレーコーティングし、4dを、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)でコーティングした。ポリマー負荷は250~300μgの範囲であった。ステントを乾燥させた。ステント4aを、ジクロロメタンに溶解したポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)およびエベロリムス(ポリマー-薬物比3:1)を含有する溶液(0.09重量/体積%ポリマー)でスプレーコーティングした。ステント4bおよび4cを、ジクロロメタンに溶解したポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)およびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1)を含有する溶液(0.09重量/体積%ポリマー)でスプレーコーティングした。ステント4dを、ジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)に溶解したポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)コポリマー75:25(MW-75000)および酢酸デキサメタゾン(ポリマー-薬物比3:1重量/重量)を含有する0.09%重量/体積%の溶液でスプレーコーティングした。ステントを乾燥させ、薬物放出実験を、回転ボトル装置(RBA)およびチューブ装置を使用して行った。薬物放出をHPLCによってモニターした。累積放出対時間の結果を
図4に示す。
【0151】
例5
3つのステント5a、5bおよび5cをスプレーコーティングした。ステント5aを、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)およびエベロリムス(ポリマー-薬物比3:1)を含有する薬物ポリマー溶液でコーティングした。ステント5bを、ジクロロメタンメタノール(90:10体積/体積)に溶解した0.09重量/体積%のポリマーのポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)および酢酸デキサメタゾン(ポリマー-薬物比3:1)を有する薬物ポリマー溶液でスプレーコーティングし、ステント5cを、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のPLGA 75:25(MW-75000)およびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1)を含有する薬物ポリマー溶液でスプレーコーティングした。ステント上の薬物負荷は75~100μgの範囲であった。ステントを乾燥させた。3つすべてのステントを、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)でさらにスプレーコーティングした。ステントを乾燥させ、薬物放出実験を、回転ボトル装置(RBA)ならびにチューブ装置を使用して行った。放出をHPLCによってモニターした。時間の関数としての累積薬物放出を
図5に示す。
【0152】
例6
3つのステント6a、6bおよび6cをスプレーコーティングした。ステント6aおよび6bを、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)でスプレーコーティングし、ステント6c)を、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のPLGA 75:25(MW-75000)でスプレーコーティングした。試料を乾燥させ、さらにスプレーコーティングした。ステント6aを、1:1の重量比のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)およびポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(IV0.65)、ならびにエベロリムス(ポリマー-薬物比3:1)を含有する、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のポリマーを使用した薬物ポリマー溶液でスプレーコーティングした。ステント6bを、重量比1:1のポリ-ε-カプロラクトンPCL(IV1.07)およびポリビニルピロリドン(K30)、ならびにエベロリムス(ポリマー-薬物比3:1)を含有する、ジクロロメタン-メタノール90:10体積/体積に溶解した0.09重量/体積のポリマーを使用した、薬物ポリマー溶液でスプレーコーティングした。ステント6cを、ジクロロメタンおよびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1)に溶解した0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)でコーティングした。ステント上の薬物負荷は75~100μgの範囲であった。ステントを乾燥させた。薬物放出実験を、回転ボトル装置(RBA)を使用して行い、放出をHPLCによってモニターした。時間の関数としての累積薬物放出を
図6に示す。
【0153】
例7
ステント7を、ジクロロメタンに溶解したポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)75:25(MW-75000)および酢酸デキサメタゾン(ポリマー-薬物比3:1)を含有する薬物ポリマー溶液(0.09重量/体積%ポリマー)でスプレーコーティングした。薬物負荷は86μgであった。ステントを乾燥させ、ジクロロメタンに溶解した0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)でさらにスプレーコーティングした。ステントを乾燥させ、回転ボトル装置(RBA)およびチューブ装置を使用して、酢酸デキサメタゾン放出実験を行った。放出をHPLCによってモニターした。時間の関数としての累積放出を
図7に示す。
【0154】
例8
3つのステント8a、8bおよび8cをスプレーコーティングした。ステント8aを、ジクロロメタン-メタノール90:10体積/体積)およびクロピドグレル(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)でスプレーコーティングした。ステント8bを、ジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)およびアルガトロバン(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)溶液でスプレーコーティングした。ステント8c)を、ジクロロメタン-メタノール90:10体積/体積およびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1中の0.09重量/体積%のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(75:25)(MW-75000)でスプレーコーティングした。薬物負荷は75~100μgの範囲であった。ステントを乾燥させ、ジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)溶液でさらにスプレーコーティングした。ステントを乾燥させた後、薬物放出実験を、回転ボトル装置(RBA)およびチューブ装置を使用して行い、薬物放出をHPLCによってモニターした。累積薬物放出対時間の結果を
図8に示す。
【0155】
例9
4つのステント9a、9b、9cおよび9dをスプレーコーティングした。ステント9aを、メタノールおよびアスピリン(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリビニルピロリドン(K90)溶液でスプレーコーティングした。ステント9bを、メタノールおよびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリビニルピロリドン(K90)溶液でスプレーコーティングした。ステント9cを、メタノールおよびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリビニルピロリドン(K30)溶液でスプレーコーティングした。ステント9dを、メタノールおよびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリビニルピロリドン(K12)溶液でスプレーコーティングした。ステントにおける薬物負荷は、(75μg~100μg)の範囲であった。ステントを乾燥させ、すべてのステントを、ジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)溶液でスプレーコーティングした。コーティングされたポリマーの重量は、250~300μgの範囲であった。9bを除く3つのステントを乾燥させ、ジクロロメタンおよびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)でさらにスプレーコーティングした。ステント9bを、ジクロロメタンおよびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.3)溶液でスプレーコーティングした。ステントを乾燥させ、薬物の放出を、HPLCを使用してモニターした。放出実験は、回転ボトルとチューブ実験の両方を使用して行った。累積放出対時間の結果を
図9および
図10に示す。
【0156】
例10
4つのステント10a、10b、10cおよび10dを以下のようにコーティングした。ステント10aを、ジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)およびチロフィバン塩酸塩(ポリマー-薬物比、3:1)中の0.09重量/体積%のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(75:25、MW75000)溶液でスプレーコーティングした。薬物負荷は82μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、これをジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリεカプロラクトン(IV1.9)溶液でスプレーコーティングした。堆積したポリマーは262μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、これをジクロロメタンおよびシロリムス(ポリマー-薬物比、3:1)中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.3)溶液でスプレーコーティングした。シロリムス負荷は86μgであった。
【0157】
ステント10bを、ジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)およびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(50:50、IV0.65)溶液でスプレーコーティングした。ステントを乾燥させた。チロフィバンHCl負荷は91μgであった。次いで、これをジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)溶液でスプレーコーティングした。堆積したポリマーは285μgであった。ステントを再び乾燥させた。これを、ジクロロメタンおよびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)溶液でスプレーコーティングした。堆積したシロリムスは79μgであった。
【0158】
ステント10cを、ジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)およびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比、3:1重量/重量)中の、0.09重量/体積%のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(50:50、IV0.65)溶液でスプレーコーティングした。薬物負荷は96μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、これを、1:1の重量比のエステル末端ポリ(D,L-ラクチド(クロロホルム中IV-0.65dl/g)およびポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)を含有する、ジクロロメタン中の0.09重量/体積のポリマー溶液でスプレーコーティングした。ポリマー負荷は250~300μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、これを、ジクロロメタンおよびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1重量/重量)中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)の溶液でスプレーコーティングした。薬物負荷は83μgであった。
【0159】
ステント10dを、ジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)およびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比、3:1重量/重量)中の、0.09重量/体積%のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(50:50、IV0.65)溶液でスプレーコーティングした。薬物負荷は87μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、これをジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリ(L-ラクチド-コ-ε-カプロラクトンコポリマー(80:20)(IV-1.12)でスプレーコーティングした。ポリマー負荷は250~300μgであった。ステントを乾燥させた。さらにこれを、ジクロロメタンおよびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)溶液でスプレーコーティングした。シロリムス負荷は93μgであった。ステントを乾燥させた。
【0160】
すべてのステントからのチロフィバンHClおよびシロリムスの放出を、HPLCによってモニターした。放出実験は、回転ボトル装置およびチューブ実験を用いて行った。累積薬物放出対時間の結果を
図11および
図12に示す。
【0161】
例11
3つのステント11a、11bおよび11cをコーティングした。
【0162】
ステント11aを、メタノールに溶解したポリビニルピロリドン(K90)およびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1)の溶液(0.09重量/体積%ポリマー)でスプレーコーティングした。チロフィバンHCl含有量は42μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、これをジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)中の0.09重量/体積%)のポリεカプロラクトン(IV1.07)およびアスピリン(ポリマー-薬物比3:1)溶液でスプレーコーティングした。アスピリン負荷は46μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、ステントを、ジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリεカプロラクトン(IV1.9)のポリマー溶液でスプレーコーティングした。ポリマー負荷は289μgであった。ステントを乾燥させた。回転ボトル装置(RBA)ならびにチューブ装置を使用して薬物放出実験を行い、放出をHPLCによってモニターした。
【0163】
ステント11bを、メタノールおよびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリビニルピロリドン(K90)溶液でスプレーコーティングした。チロフィバンHCl含有量は45μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、これをジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)およびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1重量/重量)中のポリεカプロラクトン(IV1.07)n(0.09重量/体積%)でスプレーコーティングした。チロフィバンHCl負荷は40μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、ステントを、ジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.9)溶液でスプレーコーティングした。ポリマー負荷は293μgであった。ステントを乾燥させた。回転ボトル装置(RBA)ならびにチューブ装置を使用して薬物放出実験を行い、放出をHPLCによってモニターした。
【0164】
ステント11cを、メタノールおよびチロフィバンHCl(3:1のポリマー-薬物比3:1重量/重量)中の0.09重量/体積%のポリビニルピロリドン(K12)溶液でスプレーコーティングした。チロフィバンHCl負荷は48μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、これを、ジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)およびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1重量/重量)中の0.09重量/体積%のポリεカプロラクトン(IV1.07)溶液でスプレーコーティングした。チロフィバンHCl負荷は42μgであった。ステントを乾燥させた。次いで、これをジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリεカプロラクトン(IV1.9)溶液でスプレーコーティングした。ポリマー負荷は273μgであった。ステントを乾燥させた。回転ボトル装置(RBA)ならびにチューブ装置を使用して薬物放出実験を行い、放出をHPLCによってモニターした。
【0165】
これらの3つのステントについての時間の関数としての薬物の累積放出を
図13に示す。
【0166】
例12
ステント12を4層のポリマーでスプレーコーティングした。第1の層を、メタノールおよびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリビニルピロリドン(K12)溶液の噴霧によって堆積させた。チロフィバンHCl負荷は(42μg)であった。ステントを乾燥させた後、第2の層を、ジクロロメタン-メタノール(90:10体積/体積)およびチロフィバンHCl(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ-ε-カプロラクトン(IV1.07)溶液を噴霧することによって堆積させた。チロフィバンHCl負荷は(49μg)であった。第3の層を、ジクロロメタン中の0.09重量/重量%のポリ-ε-カプロラクトン(1.9IV)溶液によりスプレーコーティングした。ポリマー負荷は292μgであった。第4の層を、ジクロロメタンおよびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(75:25)(MW-75000)溶液によりスプレーコーティングした。シロリムス負荷は(93μg)であった。ステントを乾燥させた。薬物放出実験を、回転ボトル装置(RBA)およびチューブ装置を使用して行い、薬物放出をHPLCによってモニターした。時間の関数としての薬物の累積放出を
図14に示す。
【0167】
例13
ステント13を、4層のポリマーでスプレーコーティングした。ステントを、最初にメタノールおよびチロフィバンHCl(ポリマー薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリビニルピロリドン(K90)溶液でコーティングした。チロフィバンHCl負荷は(41μg)であった。ステントを乾燥させた。次いで、ジクロロメタン-メタノール(90:10v/v)およびアスピリン(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリεカプロラクトン(IV1.07)溶液をスプレーコーティングした。アスピリン負荷は(39μg)であった。ステントを乾燥させた。第3の層を、ジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリεカプロラクトン(1.9IV)の溶液によりスプレーコーティングした。ステントを乾燥させた。第4の層を、ジクロロメタンおよびシロリムス(ポリマー-薬物比3:1)中の0.09重量/体積%のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(75:25)コポリマー(MW-75000)溶液によりスプレーコーティングした。シロリムス負荷は(75~100μg)であった。ステントを乾燥させた。薬物放出実験を、回転ボトル装置(RBA)およびチューブ装置を使用して行い、薬物放出をHPLCによってモニターした。時間の関数としての累積薬物放出を
図15に示す。
【0168】
例14
ステント14を、ジクロロメタン中の0.09重量/体積%のポリ(L-ラクチド-コ-カプロラクトン、80:20、IV-1.12)溶液を使用したポリマー-薬物組成物の単層でスプレーコーティングし、使用した薬物は、チロフィバンHClおよびエベロリムス(5:3の比)であった。ポリマー-薬物比は3:1であった。チロフィバンHCl負荷は150μgであり、エベロリムス負荷は90μgであった。ステントを乾燥させた。薬物放出実験を、回転ボトル装置(RBA)およびチューブ装置を使用して行い、薬物放出をHPLCによってモニターした。時間の関数としての累積薬物放出を
図16に示す。
【0169】
例15:
例10からの教示に従って、多重ポリマー層でコーティングされたステントを製造した。回転ボトル装置からのシロリムスおよびチロフィバンHClの放出データを
図17に示す。ステントをまた、28日間までの効果を研究する亜慢性研究のためにブタモデルに移植した。移植および組織病理観察の詳細を以下に示す。
【0170】
動物移植
1.臨床的に健康な体重53.4Kgの動物の成体雄Ankamaliブタを、馴化のために移植日の7日前に拘束ケージに移し、標準的な維持プロトコル下に置いた。
【0171】
2.ベースライン血液学/生化学のために、およびベースライン凝固パラメータ-血小板数、凝固時間(CT)および出血時間(BT)の評価のために、ステント移植の前に第1の全血試料を収集した。
【0172】
3.移植は、体重1kg当たり3mg(300IU)の全身ヘパリン化下で行った。
【0173】
4.ヘパリンは手順後に反転しなかった。
【0174】
5.観察期間中、二重抗血小板療法(DAPT)または低分子量ヘパリンは投与しなかった。
【0175】
6.血液学/生化学ならびにCT、BT、APTT、ACTおよび血小板数などの凝固パラメータの評価のために、術後日(10日間の追跡調査)に第2の血液試料を採取した。
【0176】
7.28日間の最後に、動物を麻酔し、OTに移行した。
【0177】
8.血液学/生化学、ならびに出血時間(BT)および凝固時間(CT)などの凝固パラメータの評価のために、術後28日目(28日間の追跡調査)に第3の血液試料を採取した。
【0178】
9.血管開存性を評価するために、ヘパリン(1.5mg/Kg)下で確認の血管造影図をとった。
【0179】
10.過剰用量の静脈内麻酔薬チオペントンナトリウムを使用して動物を安楽死させた。
【0180】
11.心臓をin situで灌流固定した。
【0181】
12.詳細な剖検を行い、ステント化された血管セグメントを、標準プロトコルに従って組織病理学的評価および組織形態計測評価に供した。
【0182】
そのように投与されたチロフィバンHClの効果を以下に要約する。
【表1】
【0183】
チロフィバンHClを静脈内注射すると、凝固時間および出血時間は通常3~4倍増加する。この場合、凝固および出血時間の増加は30~40%であった。
【0184】
ブタモデルの右冠動脈(RC近位(RC Proximal))における10日後(A、B)の移植されたステントの画像は、新生内膜成長がないことを示している(
図18)。新しい内皮細胞層が存在しないことは、反管腔領域におけるシロリムスの活性を示す。ブタモデルの右冠動脈(RC近位)における28日後(C、D)の移植されたステントの画像。新しい内皮細胞層の成長は、反管腔領域にシロリムスが存在しないことを示す。ステントの内面は血流に開放されている。10日の終わりに血栓または血餅が存在しないことは、血栓形成を防ぐ管腔領域におけるチロフィバンの放出を示す。28日の終わりまでに、管腔領域に新たな細胞増殖が現れ、ステントの内皮化を示す。
【0185】
組織病理学的評価および組織形態計測評価の結果を
図18に示す。
【0186】
実施形態は、本発明の原理およびその実際的な応用を最もよく説明し、それによって当業者が本発明および意図される特定の使用に適する様々な修正を伴う様々な実施形態を最もよく利用できるように選択および記載された。
【0187】
状況が示唆するかまたは好都合にし得る場合、均等物の様々な省略および置き換えが企図されるが、それらは本発明の範囲から逸脱することなく適用または実装を網羅することを意図していることが理解される。
【国際調査報告】