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特表2024-545935大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の治療用組成物
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  • 特表-大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の治療用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-13
(54)【発明の名称】大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/315 20060101AFI20241206BHJP
   A61K 36/52 20060101ALI20241206BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241206BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241206BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20241206BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241206BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20241206BHJP
【FI】
A61K36/315
A61K36/52
A61P29/00
A61P43/00 121
A61P1/00
A23L33/105
A23K10/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024560216
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-03
(86)【国際出願番号】 KR2022020955
(87)【国際公開番号】W WO2023128452
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0188175
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524215834
【氏名又は名称】エムテラ・ファーマ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ミウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム,シニョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジンギュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,セウン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドンヒョン
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
2B150AB10
2B150BC06
2B150DD32
2B150DD45
2B150DD57
4B018LE03
4B018MD48
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4C088AB12
4C088AB15
4C088AC04
4C088AC05
4C088CA08
4C088MA07
4C088MA17
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA66
4C088ZB11
4C088ZC75
(57)【要約】
本発明は、大青葉及びオニグルミの抽出物を含む炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。また、本発明は、前記抽出物を含む炎症性腸疾患の予防または改善用食品組成物または動物用飼料組成物に関する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大青葉及びオニグルミの抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
大青葉とオニグルミが、1:0.1~10の重量比で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項3】
大青葉とオニグルミが、1:0.5~2の重量比で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項4】
大青葉とオニグルミが、1:1の重量比で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項5】
前記組成物が、大青葉及びオニグルミのそれぞれの生薬から抽出された混合物を含むか、あるいは、大青葉及びオニグルミの生薬混合物から抽出された抽出物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項6】
前記オニグルミが、オニグルミの実であることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項7】
前記抽出物が、水、C1~C6のアルコール、及びそれらの混合溶媒からなる群から選択される溶媒で抽出されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項8】
前記抽出物が、0.01%~90%エタノール抽出物であることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項9】
前記抽出物が、60%~80%エタノール抽出物であることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項10】
前記抽出物が、70%エタノール抽出物であることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項11】
前記組成物が、体重または大腸の長さの減少を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項12】
前記組成物が、脾臓の重量または長さの増加を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項13】
大青葉及びオニグルミ抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または改善用食品組成物。
【請求項14】
大青葉及びオニグルミの抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または改善用動物用飼料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。また、本発明は、前記複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または改善用食品組成物、または動物用飼料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)は、腸に原因不明の慢性炎症を起こす疾患であり、悪化と好転を繰り返しながら進行する臨床経過を示し、潰瘍性大腸炎とクローン病が代表的である。炎症性腸疾患の発生原因や病態生理についてはいまだ明確に知られておらず、遺伝的要因、腸内細菌や食物などの環境的要因、免疫学的要因などが複合的に発生機序に関与するものと推定されている。腸免疫系の持続的または不適切な活性化は慢性粘膜炎症の病態生理に重要な役割を果たし、特に好中球、マクロファージ、リンパ球及び肥満細胞の浸潤により、結果的に粘膜破壊及び潰瘍が起こる。浸潤して活性化された好中球は活性酸素種及び活性窒素種の大きな原因となるが、これらの活性種は細胞毒性物質であり、架橋タンパク質、脂質及び核酸を分解する酸化的ストレスを引き起こし、上皮機能障害及び損傷をもたらす。
【0003】
炎症性腸疾患の根本的な治療法はいまだ確立されておらず、症状を緩和する薬剤が用いられている。主にプロスタグランジン(prostaglandins)の生成を抑制する5-アミノサリチル酸(5-aminosalicylic acid;5-ASA)系薬剤、例えばスルファサラジン(sulfasalazine)などを用いるか、ステロイド類の免疫抑制剤を用いる。
【0004】
スルファサラジンは、腹部膨満(fullness)、頭痛、発疹、肝疾患、白血球減少症、無顆粒球症、男性不妊などの副作用または逆効果をもたらすことが多い。また、スルファサラジンが腸の患部を切除した患者や、快方に向かっている患者に十分な再発抑制効果があるか否かは不明である。
【0005】
ステロイド類の免疫抑制剤は、副腎皮質ステロイドであり、短期的な効果は認められるが、長期的な予後を改善することはできない。また、感染性疾患、二次性副腎皮質不全、消化性潰瘍、糖尿病、精神障害、ステロイド性腎臓病などがもたらされる副作用の面から、急性の場合に限って用いられるという限界がある。
【0006】
いまだ信頼できる炎症性腸疾患治療療法がないので、副作用がなく、安価で治療効果に優れる新たな治療剤の開発が求められており、例えば天然物抽出物を用いた炎症性腸疾患の予防または治療用組成物(特許文献1)などが開発されている。
【0007】
一方、大青葉(Isatidis Folium)は、アブラナ科(Cruciferae)に属する二年草のタイセイ(Isatis indigotica Fortune)の葉であり、夏と秋に採取される。全草はタイセイ、根は板藍根といい、流行性感冒、肝炎、急性肺炎、黄疸などに効能があることが知られている。
【0008】
また、オニグルミ(鬼胡桃)(Juglans mandshurica Maxim.)は、クルミ科(Juglandaceae)に分類され、木または低木の形態で存在し、アメリカ、ユーラシアまたは南アジアに原産地をおいている。これは、中国原産のクルミの木に似ており、韓国の中部以北または中国の北東部等地において主として生育し、薬用植物、漢方薬材として用いられる。
【0009】
よって、本発明者らは、天然物を用いて炎症性腸疾患に優れた効果を有する新規な治療剤を開発すべく努力した結果、大青葉及びオニグルミの混合抽出物により炎症性腸疾患が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1710730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または改善用食品組成物を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または改善用動物用飼料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防または改善用動物用飼料組成物を提供する。
【0017】
前記大青葉とオニグルミは、1:0.1~10の重量比にて含まれてもよく、好ましくは、1:0.5~2の重量比にて含まれてもよく、さらに好ましくは、1:1の重量比にて含まれてもよい。
【0018】
前記組成物は、大青葉及びオニグルミそれぞれの生薬から抽出された混合物を含むか、あるいは、大青葉及びオニグルミの生薬混合物から抽出された抽出物を含んでもよい。
【0019】
前記オニグルミは、オニグルミ茎、オニグルミの実、オニグルミ根、またはオニグルミ葉であり得、好ましくは、オニグルミの実であってもよい。
【0020】
前記抽出物は、水、C1~C6のアルコール、及びそれらの混合溶媒からなる群から選択される溶媒で抽出されたものであってもよく、0.01%~90%エタノール抽出物であることが好ましく、60%~80%エタノール抽出物であることがより好ましく、70%エタノール抽出物であることが最も好ましい。
【0021】
または大腸の長さの減少を抑制することができ、脾臓の重量または長さの増加を抑制することができる。
【0022】
本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患を予防または治療するための組成物を提供する。
【0023】
また、本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患を予防または治療するための組成物の用途を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む組成物は、炎症性腸疾患に対して優れた治療効果を発揮し、炎症性腸疾患に対する新規な治療剤として用いることができる。
【0025】
また、本発明の組成物は、天然物の混合抽出物であるので副作用が少なく、安全であり、様々な原因の炎症性腸疾患を有する患者に非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の複合抽出物投与によるマウスの体重変化率を示す図である。
図2】本発明の複合抽出物投与によるマウスの大腸の長さを示す図である。
図3】本発明の複合抽出物投与によるマウスにおける陰性対照群と比較した各群の脾臓の重量及び長さを測定した脾臓率(spleen ratio)を示す図である。
図4】本発明の複合抽出物投与によるマウスの疾患活動性指数(DAI)を示す図である。
図5】本発明の複合抽出物投与によるマウスの疾患活動性指標(DAI)を大青葉抽出物とオニグルミの実抽出物を個別的に投与したときの比較図である。
図6】本発明の複合抽出物投与による炎症反応の指標であるミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase;MPO)活性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の実施形態及び実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は様々な形態で実施することができ、本明細書における実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0028】
本明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0029】
本発明は、大青葉及びオニグルミの複合抽出物を含む、炎症性腸疾患の予防、改善または治療用組成物を提供する。
【0030】
前記大青葉には、タイセイ(Isatis indigotica Fortune)の葉を乾燥させたものが含まれる。
【0031】
前記オニグルミは、オニグルミの茎、オニグルミの実、オニグルミの根またはオニグルミの葉であってもよく、好ましくは、オニグルミの実であってもよい。
【0032】
本発明において用いられる「複合抽出物」または「複合生薬抽出物」なる用語は、本発明の薬学組成物の有効成分であって、大青葉またはオニグルミの生薬から抽出された抽出物のそれぞれを含むか、あるいは、これらの生薬の混合物から抽出された抽出物を含んでもよい。
【0033】
本発明に用いられる抽出物は、当該技術分野で公知の通常の抽出溶媒により得ることができる。抽出溶媒としては、極性溶媒または非極性溶媒を用いることができる。極性溶媒としては、水、C1~C6のアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノールなど)、酢酸、前記極性溶媒の混合物が挙げられる。非極性溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、フルオロアルカン、ヘキサン、エーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、前記非極性溶媒の混合物が挙げられる。
【0034】
本発明の抽出物は、水、C1~C6のアルコール、及びそれらの混合溶媒からなる群から選択される溶媒で抽出されたものであってもよく、0.01%~90%エタノール抽出物であることが好ましく、60%~80%エタノール抽出物であることがより好ましく、70%エタノール抽出物であることが最も好ましい。
【0035】
本発明に用いられる抽出物は、熱水抽出、冷浸抽出、還流冷却抽出、超音波抽出または当該技術分野で公知の通常の抽出方法により抽出したものであってもよい。
【0036】
とは、当該技術分野において粗抽出物(crude extract)として通用するものを意味するが、広義には抽出物をさらに分画(fractionation)した分画物も含まれる。すなわち、抽出物には、前述した溶媒を用いて得られるものだけでなく、精製過程を経てそれらから得られるものが含まれる。例えば、一定の分子量カットオフ値を有する限外濾過膜を通過させて前記抽出物から得られる分画や、様々なクロマトグラフ(サイズ、電荷、疎水性または親和性による分離のために作製されたもの)による分離などのさらに行われる様々な精製方法により得られる分画も本発明の抽出物に含まれる。
【0037】
本発明に用いられる「予防」なる用語は、本発明に係る組成物の投与により胃腸疾患などを抑制または遅延させるあらゆる行為を意味し、「治療」なる用語は、前記組成物の投与により胃腸疾患が疑われるか、あるいはあるいは罹患している個体の症状を改善または有益に変化するあらゆる行為を意味する。本発明に用いられる「改善」なる用語は、本発明の抽出物を含む組成物の投与により治療される状態に関連するパラメータ、例えば、症状の重さをを少なくとも低減するあらゆる行為を意味する。
【0038】
本発明の薬学組成物は、目的とする方法に応じて非経口投与または経口投与することができ、投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率、疾患の重症度などによりその範囲が異なる。また、前記組成物の治療的に有効な量は、投与方法、標的部位、患者の状態により異なり、人体に用いる場合、投与量は、安全性と効率性を共に考慮して適量を決定すべきである。
【0039】
本発明の食品組成物は、機能性食品、乳製品、発酵製品または食品添加物であってもよい。
【0040】
前記機能性食品とは、人体に有用な機能性を有する原料や成分を用いて製造及び加工した食品を意味し、「機能性」とは、人体の構造及び機能に対して栄養素を調節するか、生理学的作用などの保健用途に有用な効果を得る目的で摂取することを意味する。
【0041】
本発明の動物飼料組成物は、あらゆる非ヒト動物、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ウマなどに摂取させることができる。
【0042】
本発明における「予防」とは、本発明による組成物の投与により疾患などを抑制または遅延させるあらゆる行為を意味し、「改善」とは、本発明の組成物の投与により治療される状態に関するパラメーター、例えば症状の程度を少なくとも減少させるあらゆる行為を意味し、「治療」とは、本発明の組成物の投与により疾患の発症個体及びその疑いのある個体の症状を好転または有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【実施例
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を説明するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0044】
[作製例]
大青葉及びオニグルミを含む複合抽出物の作製
洗浄及び乾燥した大青葉(Isatidis Folium)とオニグルミ(Juglans mandshurica Maxim.)の実を1:1の重量比にて混合した試料に10倍の70%エタノール水溶液を加え、常温で72時間抽出した。抽出後に、5μmのろ過紙で減圧ろ過し、次いで50~65℃で減圧濃縮して粉末状態の生薬抽出物を得た。
【実施例1】
【0045】
複合抽出物投与によるマウスの体重変化の評価
6週齢のC57BL/6N雄マウスを購入して1週間予備飼育し、その後ランダムに8匹ずつ計5群に分け、下記の表1に示すようにして実験を行った。
【0046】
滅菌水で希釈した2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(Dextran Sulfate Sodium;DSS)を全8日間飲水投与し、炎症性腸疾患治療剤である5-アミノサリチル酸(5-Aminosalicylic acid;5-ASA)または本発明の複合抽出物をDSS投与の2日前から全10日間経口投与した。
【0047】
【表1】
【0048】
体重減少現象は、炎症性腸疾患の代表的な症状であり(非特許文献1)、1日1回同じ時間(午前10時)に電子秤で前記マウスの体重を測定した。各群の体重の変化率は、1群当たり8匹のマウスの体重を合計し、8で割って求めた。2.5%DSS飲水投与の開始直前の平均体重を100%とし、毎日各群の平均体重を求めて体重変化率を測定した。2.5%DSSを飲水投与した陰性対照群と実験群の各集団においてステューダントのT検定(Student’s T test)を行い、その有意性を検証した。
【0049】
図1に示すように、複合抽出物投与による7日間のマウスの体重変化率を測定した結果、正常群は105.64±0.54%であったのに対して、陰性対照群は89.31±2.75%であり、正常群と比較して体重が減少した。また、陽性対照群は91.38±2.01%であったのに対して、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物30mg/kgを投与した群は93.18±1.67%であり、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物300mg/kgを投与した群は97.15±0.89%であって、陽性対照群と比較して体重の減少が抑えられた。特に、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物300mg/kgを投与した群において最も優れた効果を示しており、このことは、陽性対照群と比較して遥かに優れた効果を奏することを確認した。
【0050】
よって、本発明の大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物は、マウスの体重減少を抑制する効果を有することが分かる。
【実施例2】
【0051】
複合抽出物投与によるマウスの大腸の長さの評価
大腸の短小化と組織的変化は十分な相関関係があることが知られており、大腸の長さは通常炎症の程度の形態学的パラメーターとして用いられる。よって、本発明の複合抽出物投与によるマウスの大腸の長さを評価するために、実施例1のマウスを各投与最終日に屠殺し、大腸の長さを測定した。その平均の長さを図2に示す。
【0052】
図2に示すように、複合抽出物投与によるマウスの大腸の長さを測定した結果、正常群は7.48±0.30cmであったのに対して、陰性対照群は5.44±0.12cmであり、正常群と比較して大腸の長さが減少した。また、陽性対照群は5.28±0.08cmであり、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物30mg/kgを投与した群は5.15±0.12cm、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物300mg/kgを投与した群は6.09±0.06cmであった。特に、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物300mg/kgを投与した群において大腸の長さの減少が抑えられており、このことは、陽性対照群と比較して遥かに優れた効果を奏することを確認した。
【0053】
よって、本発明の大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物は、マウスの大腸の長さの減少を抑制する効果を有することが分かる。
【実施例3】
【0054】
複合抽出物投与によるマウスの脾臓炎症レベルの評価
炎症性腸疾患に関連して発生する代表的な病症としては脾臓炎(splenitis)が挙げられ、そのように脾臓に炎症が生じると、その特性上、脾臓の大きさが肥大化し(非特許文献2)、実際にDSS処理後に誘導されたIBDモデルにおいて脾臓が肥大化することが知られている(非特許文献3)。よって、本発明の複合抽出物投与によるマウスの脾臓炎症レベルを評価するために、実施例1のマウスを各投与最終日に屠殺し、陰性対照群と比較した各群の脾臓の重量及び長さを測定した。それを脾臓率(spleen ratio)で示す。
【0055】
図3に示すように、複合抽出物投与によるマウスの脾臓の重量及び長さを測定した結果、正常群と比較して陰性対照群の脾臓の重量及び長さが増加した。また、陽性対照群、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物30mg/kg投与群、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物300mg/kg投与群は、陰性対照群と比較して脾臓の重量及び長さが減少した。特に、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物300mg/kgを投与した群は最も大幅に減少しており、このことは、陽性対照群と比較してさらに優れた効果を奏することを示唆している。
【0056】
よって、本発明の大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物は、マウスにおいて炎症性腸疾患に伴う脾臓炎症によって脾臓が肥大化する症状を改善する効果を有することが分かる。
【実施例4】
【0057】
複合抽出物投与によるマウスの疾患活動性指標(DAI)の評価-そのI
実施例1の投与方法で処理した炎症性腸疾患動物モデルの炎症性腸疾患の程度を測定するために、体重変化、便の硬さ、便や肛門から肉眼的に観察される血便の有無を表2の疾患活動性指数(Disease Activity Index;DAI)ランクに従って投与期間中に毎日確認し、疾患活動性指数を測定した。その結果を図4に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
図4に示すように、複合抽出物投与によるマウスの疾患活動性指数を測定した結果、陰性対照群において疾患活動性指数が大幅に増加した。また、陰性対照群と比較して大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物30mg/kg投与群、及び大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物300mg/kg投与群において疾患活動性指標が減少し、特に、大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物300mg/kg投与群は、陽性対照群と比較して遥かに優れた減少効果を示している。
【実施例5】
【0060】
複合抽出物投与によるマウスの疾患活動性指標(DAI)の評価-そのII
複合抽出物が大青葉及びオニグルミの実の抽出物を個別的に用いたときと比較して相乗効果を有するか否かを評価するために、6週齢のC57BL/6N雄マウスを購入して1週間予備飼育し、その後ランダムに7匹ずつ計6群に分け、下記の表3に示すようにして実験を行った。
【0061】
【表3】
【0062】
滅菌水で希釈した2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(Dextran Sulfate Sodium;DSS)を全5日間飲水投与し、炎症性腸疾患の治療剤である5-アミノサリチル酸(5-Aminosalicylic acid;5-ASA)、大青葉の単独抽出物、オニグルミの実の単独抽出物または本発明の複合抽出物をDSS投与の2日前から全7日間経口投与した。
【0063】
また、表2において用いた方法と同様にして疾患活動性指標を測定した。投与してから5日が経った時点の結果を図5に示す。
【0064】
図5に示すように、陰性対照群において疾患活動性指標が大幅に増加しており、陰性対照群と比較して陽性対照群(5-ASA)、大青葉の単独抽出物50mg/kg投与群及び本発明の複合抽出物100mg/kg投与群において疾患活動性指標が減少し、オニグルミの実の単独抽出物50mg/kg投与群においては疾患活動性指標の減少効果がほとんど現れないことを確認した。
【0065】
結局のところ、オニグルミの実と大青葉の複合抽出物は、大青葉の単独抽出物と比較して有意な疾患活動性指標の減少効果を示しており、このことは、単独抽出物から予測できない顕著な効果であることが分かる。よって、本発明の複合抽出物は、大青葉の単独抽出物とオニグルミの実の単独抽出物の投与群と比較して、炎症性腸疾患誘導マウスモデルの疾患活動性指標を改善する優れた相乗効果を有することが分かる。
【実施例6】
【0066】
複合抽出物投与によるミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase;MPO)活性の評価
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は、好中球において主として見つかる酵素であって、組織におけるMPOの活性は好中球浸潤の指標になるため、炎症反応の指標であり、炎症性大腸炎による腸損傷の数値と相関性を示す。よって、本発明の複合抽出物投与によるMPOの活性を測定するために、実施例5の表3に示すようにして実験を行った。
【0067】
滅菌水で希釈した2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(Dextran Sulfate Sodium;DSS)を全5日間飲水投与し、炎症性腸疾患の治療剤である5-アミノサリチル酸(5-Aminosalicylic acid;5-ASA)、大青葉の単独抽出物、オニグルミの実の単独抽出物または本発明の複合抽出物をDSS投与の2日前から全7日間経口投与し、MPO活性を測定するために、マウスMPO ELISAキット(HK210-02,Hycult biotechnology)を用いた。大腸組織を冷たいPBSで洗浄し、組織の重量10mg当たりに溶解バッファー(200mM NaCl、5mM EDTA、10mM トリス、10%グリセリン、1mM PMSF、1mg/mL leupeptin及び28mg/mL aprotinin(pH 7.4))200μLを添加し、次いで組織ホモジナイザー(Mixer mill MM400,Retsch)を用いて30秒間均質化した。均質化した試料を1500Хgにて15分間遠心分離して上澄み液を得た後、当該上澄み液を用いてMPO活性を測定した。
【0068】
図6に示すように、正常群と比較して陰性対照群(DSS投与群)においてMPO活性が格段に高く現れ、陰性対照群と比較して陽性対照群(5-ASA 100mg/kg投与群)においてMPO活性が9.6%減少したことが分かった。
【0069】
また、大青葉の単独抽出物とオニグルミの実の単独抽出物の投与群においてMPO活性が16.9%及び6.3%減少し、本発明の複合抽出物である大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物100mg/kg投与群においてMPO活性が41.2%と最も大幅に減少したことが分かった。
【0070】
よって、本発明の大青葉及びオニグルミの実の複合抽出物は、大青葉の単独抽出物とオニグルミの実の単独抽出物の投与群と比較して、炎症性腸疾患誘導マウスモデルにおいてMPO活性を抑える卓越した相乗効果を有することが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】