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特表2024-545975好酸球を検出するための試薬、好酸球及びその細胞質内容物並びヒドロキシドコサヘキサエン酸の応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】好酸球を検出するための試薬、好酸球及びその細胞質内容物並びヒドロキシドコサヘキサエン酸の応用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20241210BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241210BHJP
【FI】
G01N33/48 M
A61K31/202
A61P11/00
A61P9/00
A61P9/12
A61K45/00
A61K35/17
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513762
(86)(22)【出願日】2022-10-17
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 CN2022125577
(87)【国際公開番号】W WO2024065892
(87)【国際公開日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】202211173739.3
(32)【優先日】2022-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506032129
【氏名又は名称】中国医学科学院基礎医学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲ジン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲シン▼ 岩江
(72)【発明者】
【氏名】舒 ▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 佳▲ウェイ▼
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA25
2G045CA15
2G045FA37
2G045FB03
2G045FB12
4C084AA17
4C084MA02
4C084MA05
4C084NA20
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA421
4C084ZA422
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZC781
4C084ZC782
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087CA03
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA42
4C087ZA59
4C087ZC78
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206DA05
(57)【要約】
本発明は、好酸球を検出するための試薬、好酸球及びその細胞質内容物ならびに脂質代謝産物であるヒドロキシドコサヘキサエン酸の応用に関するものであり、医療及び医薬の技術分野に属する。本発明は、好酸球を検出する試薬の肺動脈性肺高血圧症の診断及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予後リスクの判定のための製品の調製における応用を提供する。末梢血中のEOS割合を検出することで、肺動脈性肺高血圧症の診断や肺動脈性肺高血圧症の予後リスクを判断できる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
好酸球を検出する試薬の肺動脈性肺高血圧症の診断及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予後リスクの判定のための製品の調製における応用。
【請求項2】
前記検出は、末梢血中の好酸球の割合を検出することを含むことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項3】
EOS及び/又はEOS細胞質内容物の肺動脈平滑筋の増殖及び/又はマイグレイションを抑制するための医薬品の調製における応用。
【請求項4】
EOS及び/又はEOS細胞質内容物の肺動脈平滑筋の恒常性を維持するための医薬品の調製におけるの応用。
【請求項5】
EOS及び/又はEOS細胞質内容物の肺動脈性肺高血圧症を治療するための医薬品の調製における応用。
【請求項6】
ヒドロキシドコサヘキサエン酸の肺血管平滑筋の増殖を抑制するための医薬品の調製におけるの応用。
【請求項7】
ヒドロキシドコサヘキサエン酸の肺動脈性肺高血圧症を治療するための医薬品の調製における応用。
【請求項8】
前記ヒドロキシドコサヘキサエン酸には、14-ヒドロキシドコサヘキサエン酸及び/又は17-ヒドロキシドコサヘキサエン酸が含まれることを特徴とする請求項6又は7に記載の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療及び医薬の技術分野に属し、詳しくは、好酸球を検出するための試薬、好酸球及びその細胞質内容物並び脂質代謝物ヒドロキシドコサヘキサエン酸の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Hypertension、略してPH)は、様々な病因や発症機序により平均肺動脈圧が進行的に上昇する肺循環の疾患群であり、現在、安静時、海抜0mでの右心カテーテル法によって測定された平均肺動脈圧が25mmHg以上のものをその診断基準と定義されている。肺動脈性肺高血圧症の進行過程では、肺血管固有細胞の機能障害や各種免疫細胞の異常浸潤により、肺血管の収縮や肺血管のリモデリングを起こし、肺血管の肥厚、狭窄や肺動脈圧の上昇を引き起こし、最終的には右心不全と右心機能欠陥に進行していく。
【0003】
現在、臨床で使用されている標的薬は、主に血管を拡張することで肺血管抵抗を低下させ、肺動脈性肺高血圧症を緩和するが、根本的に血管を逆転的にリモデリングすることはできないため、血管リモデリングを効果的に改善し、肺動脈性肺高血圧症の治療のためにできるだけ早く臨床に投入できる薬剤をスクリーニングすることが依然として急務である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、好酸球(Eosinophil、略してEOS)を検出するための試薬、好酸球及びその細胞質内容物ならびに脂質代謝産物であるヒドロキシドコサヘキサエン酸(hydroxydocosahexaenoicacid、HDHA)の応用を提供することを目的とする。本発明は、好酸球を検出する試薬を利用して、肺動脈性肺高血圧症の診断及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予後リスクの判定を実現できる。
【0005】
本発明は、好酸球を検出する試薬の肺動脈性肺高血圧症の診断及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予後リスクの判定のための製品の調製における応用を提供する。
【0006】
好ましくは、前記検出は、末梢血中の好酸球の割合を検出することを含む。
【0007】
本発明はまた、EOS及び/又はEOS細胞質内容物の肺動脈平滑筋の増殖及び/又はマイグレイションを抑制するための医薬品の調製における応用を提供する。
【0008】
本発明はまた、EOS及び/又はEOS細胞質内容物の肺動脈平滑筋の恒常性を維持するための医薬品の調製における応用を提供する。
【0009】
本発明はまた、EOS及び/又はEOS細胞質内容物の肺動脈性肺高血圧症を治療するための医薬品の調製における応用を提供する。
【0010】
本発明はまた、ヒドロキシドコサヘキサエン酸の肺動脈性高血圧症を治療するための医薬品の調製における応用を提供する。
【0011】
本発明はまた、ヒドロキシドコサヘキサエン酸の肺動脈平滑筋の増殖を抑制するための医薬品の調製における応用を提供する。
【0012】
好ましくは、前記ヒドロキシドコサヘキサエン酸には、14-ヒドロキシドコサヘキサエン酸及び/又は17-ヒドロキシドコサヘキサエン酸が含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、肺動脈性肺高血圧症の診断及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予後リスクの判定のための製品の調製における好酸球検出試薬の応用を提供する。本発明は、EOSが肺動脈性肺高血圧症の発生と密接に関連していることを発見したので、EOSをPH病状の状況を表すためのバイオマーカーとして使用し、PHを診断するための関連製品の調製に応用することを提案する。末梢血の血算検査におけるEOS割合は、減少すると、肺動脈高血圧症及び肺動脈高血圧症の予後不良のリスクを提示する。本発明の応用は、肺動脈性肺高血圧症の診断、肺動脈性肺高血圧症の予後リスクの判定を実現できる。
【0014】
試験結果は、肺動脈性肺高血圧症の進行に伴い、マウスの末梢血中のEOS割合が減少し、肺組織へのEOSの浸潤が増加し、EOSが肺動脈性肺高血圧症に対して保護効果を奏し;EOSの内容物は、肺血管リモデリング過程中に最も重要な固有細胞である肺動脈平滑筋細胞の増殖及び/又はマイグレイションを抑制でき、EOS細胞質内容物は、肺動脈平滑筋の恒常性を維持する保護役割を果たす。EOSとその細胞質内容物は、肺動脈性肺高血圧症に治療効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の実施形態又は先行技術における技術案をより明確に説明するために、以下、実施形態で使用する図面について簡単に紹介するが、明らかに、以下の説明における図面は、本発明のいくつかの実施形態に過ぎず、当業者にとって、創造的な努力なしにこれらの図面から他の図面を取得できる。
図1】本発明によって提供される肺動脈性肺高血圧症患者の末梢血におけるEOS割合及びそれと疾患の重症度との相関関係の実験結果の模式図であり;ここで、Aは、肺動脈性肺高血圧症患者と健常者末梢血のサンプル中のEOS割合を示す図であり;Bは、肺動脈性肺高血圧症患者の末梢血サンプル中のEOS割合とNYHA心機能クラスとの関係図であり;Cは、肺動脈性肺高血圧症患者の末梢血サンプル中のEOS割合とBMPR2変異との関係図であり;
図2】本発明によって提供される肺動脈性肺高血圧症の動物モデルにおけるEOS割合の実験結果の模式図であり;ここで、Aは、低酸素とSugenの組み合わせにより誘発されたマウス肺動脈性肺高血圧症モデルの末梢血におけるEOS割合及び、フローサイトメトリーの典型的な図であり;Bは、低酸素とSugenの組み合わせにより誘発されたマウス肺動脈性肺高血圧症モデルの肺組織におけるEOS割合及びフローサイトメトリーの典型的な図であり;
図3】本発明によって提供されるEOSノックアウトが低酸素とSugenの組み合わせにより誘発された肺動脈性肺高血圧症を悪化させる実験結果の模式図であり、ここで、Aは、正常対照及び肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウスの右心室収縮期血圧の結果図であり;Bは、正常対照及び肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウスの右心肥大指数の結果図であり;Cは、正常対照及び肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウスの肺血管抗α-平滑筋アクチン免疫蛍光染色の典型的な模式図であり;野生型マウスは実験対照群であり;
図4】本発明によって提供されるEOSが肺動脈平滑筋細胞の機能異常を抑制する実験結果の模式図であり、ここで、Aは、成長因子PDGFbb誘導及びEOSへ条件培地の投与後の肺動脈平滑筋細胞の増殖状況の結果図であり;Bは、成長因子PDGFbb誘導及びEOSへ条件培地の投与後の肺動脈平滑筋細胞のマイグレイション状況の結果図であり;
図5】本発明によって提供されるEOSノックアウトが低酸素とSugenの組み合わせにより誘発されたマウス肺組織における脂肪酸代謝に対する影響の実験結果の模式図であり;ここで、Aは、肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウス肺組織のターゲットメタボロミクスの主成分分析結果であり;Bは、肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウス肺組織の脂質代謝産物の示差的な発現のヒートマップであり;Cは、肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウス肺組織の脂質代謝産物の定量分析の結果;野生型マウスは実験対照群であり;
図6】本発明によって提供される肺動脈平滑筋細胞の増殖に対する14-HDHA及び17-HDHAの抑制効果の実験結果の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、肺動脈性肺高血圧症の診断及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予後リスクの判定のための製品の調製における好酸球検出試薬の応用を提供する。
【0017】
本発明において、好酸球は、肺動脈性肺高血圧症の同定及び/又は補助診断に使用される製品を調製するためのバイオマーカーとして使用できる。本発明において、前記検出は、好ましくは末梢血中の好酸球の割合を検出することを含む。本発明において、前記製品はキットを含むことが好ましい。
【0018】
本発明において、前記検出サンプルは、好ましくは末梢血を含む。末梢血血算検査におけるEOS割合が、健常対照と比較して、低減させる場合、肺動脈性肺高血圧症のリスク及び/又は肺動脈高血圧症の予後不良のリスクを示している。本発明において、前記低減させる割合は、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。本発明の臨床試験データに示されるように、男性の正常対照の平均値は2.668であり、男性患者の平均値は1.78で、33%減少し、女性の正常対照の平均値は2.024であり、女性患者の平均値は1.404で、30%減少した。
【0019】
本発明において、前記肺動脈性肺高血圧症は、好ましくは、低酸素とSugenの組み合わせにより誘発された肺動脈性肺高血圧症を含む。
【0020】
本発明の実施例の結果は、肺動脈性肺高血圧症患者では末梢血中のEOS割合が低下になり、且つ末梢血中のEOS割合が低下するほど、肺動脈性肺高血圧症患者の病状が深刻にであり、EOSが肺動脈性肺高血圧症の診断を補助できることを示した。末梢血中のEOS割合は、またBMPR2変異のリスクを示すことができ、末梢血中のEOS割合が低いほど、BMPR2変異のリスクが高く、予後不良のリスクが高いことを示した。動物実験では、肺動脈性肺高血圧症の進行に伴い、マウスの末梢血中のEOS割合が減少し、肺組織へのEOSの浸潤が増加し、EOSは肺動脈性肺高血圧症を保護する効果を奏し、肺動脈性肺高血圧症に診断や判断補助することができ、末梢血中のEOS割合が低いほど、病状が深刻であることを示した。EOSノックアウト後、マウスの右心室収縮期血圧と右心室肥大指数が大幅に増加し、肺動脈平滑筋層が大幅に厚くなり、EOSが肺動脈性肺高血圧症の進行において保護の役割を果たし、EOSは補助診断インジケータとして使用できることを示した。好酸球の割合の検出方法は、血算検査で行うことができる。
【0021】
本発明はまた、肺動脈平滑筋の増殖及び/又はマイグレイションを抑制するための医薬品の調製におけるEOS及び/又はEOS細胞質内容物の応用を提供する。
【0022】
本発明はまた、肺動脈平滑筋の恒常性を維持するための医薬品の調製におけるEOS及び/又はEOS細胞質内容物の応用を提供する。
【0023】
本発明はまた、肺動脈性肺高血圧症を治療するための医薬品の調製におけるEOS及び/又はEOS細胞質内容物の応用を提供する。
【0024】
EOSの基礎研究では、ライセートにはEOSの細胞質内容物全体が含まれていると考えられている。本発明の実施例では、ライセートの添加により、EOS細胞質内容物の効果を証明できる。試験の結果は、EOSが肺動脈性肺高血圧症の進行において保護の役割を果たし、EOSの内容物は、肺動脈平滑筋の増殖及び/又はマイグレイションを抑制でき、EOSの細胞質内容物は、肺動脈平滑筋の恒常性を維持する保護の役割を果たして、肺動脈高血圧症の治療に役割を果たすことができる。
【0025】
本発明はまた、肺動脈高血圧症を治療するための薬剤の調製における脂質代謝産物ヒドロキシドコサヘキサエン酸(HDHA)の応用を提供する。HDHAは、in vitroで肺血管リモデリングでの最も重要な構成細胞である平滑筋細胞の増殖を効果的に抑制し、また、好中球などの炎症細胞の浸潤を抑制し;in vivo実験でも、好酸球をノックアウトすると、肺血管リモデリングと末梢炎症が悪化することが示され、DHAの自然な代謝産物であるHDHAは、他の薬剤と比較して副効果が少なく安全であり、また、免疫恒常性を維持し、同時に平滑筋の増殖を抑制するできることが明らかになった。本発明において、前記ヒドロキシドコサヘキサエン酸は、14-ヒドロキシドコサヘキサエン酸(14-HDHA)及び/又は17-ヒドロキシドコサヘキサエン酸(17-HDHA)を含むことが好ましい。EOSの下流代謝物である14-HDHA及び17-HDHAは、肺動脈性肺高血圧症に治療効果を奏する。
【0026】
本発明はまた、肺血管平滑筋の増殖を抑制するための薬剤の調製における脂質代謝産物ヒドロキシドコサヘキサエン酸(HDHA)の応用を提供する。本発明において、前記ヒドロキシドコサヘキサエン酸は、14-ヒドロキシドコサヘキサエン酸及び/又は17-ヒドロキシドコサヘキサエン酸を含むことが好ましい。14-HDHAと17-HDHAはEOSの下流脂質代謝産物に属し、14-HDHAと17-HDHAのレベルはEOSをノックアウト後に有意に減少する。低い濃度の14-HDHA及び/又は17-HDHA刺激は、肺動脈平滑筋細胞の増殖を効果的に抑制でき、本発明におけるより低い濃度は、好ましくは10~20nM、より好ましくは10nM又は20nMである。EOSの下流代謝物である14-HDHA及び/又は17-HDHAの投与は、肺血管平滑筋の増殖を効果的に抑制できるため、PH治療薬の調製に使用できる。
【0027】
本発明をさらに説明するために、本発明によって提供される好酸球の薬剤、好酸球及びそれらの細胞質内容物ならびに脂質代謝産物ヒドロキシドコサヘキサエン酸の適用を、図面及び実施例を参照して以下に説明するが、それらは本発明の保護範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0028】
肺動脈性肺高血圧症患者及び動物モデルにおける末梢血のEOSの割合は減少し、肺動脈性肺高血圧症患者の疾患の重症度に関連している。
【0029】
1.1被験者集団とサンプル収集
被験者は、中国医学科学院阜外医院に登録された特発性又は遺伝性の肺動脈性肺高血圧症患者123人及び年齢及び性別が一致した健常対照119人で構成される単一施設の臨床コホートである。特発性又は遺伝性肺動脈性肺高血圧症患者の診断基準:海面安静時、右心カテーテル検査で検出される平均肺動脈圧が25mmHg以上、肺動脈楔入圧が15mmHg以下。除外:(1)アレルギー、感染症、自己免疫疾患の患者;(2)肺疾患(腫瘍、感染症、線維症など)、自己免疫疾患及び(3)18歳未満の青少年。
【0030】
空腹の患者と健常対照者の静脈血を採取し、エチレンジアミン四酢酸で抗凝固した。本発明の全ては、まず北京協和医学院機構倫理委員会(2018043)及び阜外医院(承認番号:2017-877)の承認を得た。すべての被験者は、コホートに含まれる前にインフォームドコンセントフォームに署名した。
【0031】
1.2低酸素とSugenの組み合わせにより誘発された肺動脈性肺高血圧症のマウスからの末梢血の採取
8~10週齢で体重25g以上のC57/B6J雄マウスを、酸素濃度10%の低酸素チャンバーに入れ、週に1回Sugen5416を皮下注射し、20mg/kg/回の用量で合計3回注射し、低酸素チャンバーにて3週間飼育し、麻酔したマウスの右心室圧を測定し、右室圧が30mmHg以上になった時点でモデリングが完了した。健常対照及びと肺動脈高血圧症のマウスの末梢血を収集し、エチレンジアミン四酢酸で抗凝固した。
【0032】
1.3マウス肺組織単個細胞浮遊液の調製及びフローサイトメトリー分析
中性プロテアーゼ(5U/mL、Worthington)+I型コラゲナーゼ(200U/mL、Vetec)+エラスターゼ(0.02U/mL、Sigma)+DNA酵素(0.3U/mL、Progema)を用いて肺組織消化液を調製し、肺組織の右側の最初の葉を消化液で切り刻み、37℃で25分間十分に振とうした後、等量の完全培地(10%FBSを含む基本培地)で消化を終了し、赤血球分裂後、遠心分離し、再懸濁し、100μLを取り、フルオレセイン結合標的抗体(CD45-FITC、CD11b-APC、SiglecF-PE)を加え、室温で遮光して30分間インキュベートした。インキュベーション後PBSを加えて余分な抗体を洗い流し、遠心分離し、サンプルをセルストレーナーにかけ、BD Accuri C6にローディングした。
【0033】
1.4結果分析
結果を図1及び図2に示した。図1は、肺動脈性肺高血圧症患者の末梢血におけるEOS割合及びそれと疾患の重症度との相関分析の実験結果の模式図であり;ここで、Aは、肺動脈性肺高血圧症患者と健常者群の末梢血サンプル中のEOS割合であり;Bは、肺動脈性肺高血圧症患者の末梢血サンプル中のEOS割合とNYHA心機能クラスとの関係であり;Cは、肺動脈性肺高血圧症患者の末梢血サンプル中のEOS割合とBMPR2変異との関係である。図2は、肺動脈性肺高血圧症の動物モデルにおけるEOS割合の実験結果の模式図であり;ここで、Aは、低酸素とSugenの組み合わせにより誘発されたマウス肺動脈性肺高血圧症モデルの末梢血におけるEOS割合及び、フローサイトメトリーの典型的な図であり;Bは、低酸素とSugenの組み合わせにより誘発されたマウス肺動脈性肺高血圧症モデルの肺組織におけるEOS割合及び、フローサイトメトリーの典型的な図である。
【0034】
肺動脈性肺高血圧症患者の末梢サンプルとその疾患関連指標を分析することにより、本発明では、肺動脈性肺高血圧症患者では、末梢血中のEOSの割合が減少し(図1のA)、且つ末梢血中のEOSの割合が低いほど肺動脈性肺高血圧症患者の病状が深刻である(図1のB)ことが発見され、これは、EOSが肺動脈性肺高血圧症の診断を補助でき、末梢血中のEOSの割合が低いほど、疾病のリスクが高く、病状が深刻であることが示され;BMPR2変異を有する患者では、末梢血中のEOSの割合がさらに低く(図1のC)、これは、末梢血中のEOSの割合が低いほど、BMPR2変異のリスクが高く、予後不良のリスクも高いことが示される。同時に、低酸素とSugenの組み合わせにより誘発されたマウス肺動脈性肺高血圧症モデルの末梢血及び肺組織サンプルを検出することより、本発明は、肺動脈性肺高血圧症の進行に伴い、マウスの末梢血中のEOSの割合が減少し、肺組織へのEOSの浸潤が増加し(図2)、EOSは肺動脈性肺高血圧症を保護する効果を奏し、肺動脈性肺高血圧症の診断又は判断を補助でき、末梢血中のEOSの割合が低いほど、病状深刻であることを示している。
【実施例2】
【0035】
EOSノックアウトマウスの肺動脈性肺高血圧症モデルの構築及び機能評価
2.1低酸素とSugenの組み合わせにより誘発されたマウスのPHモデルの構築
8~10週齢、体重25g以上の雄マウスを酸素濃度10%の低酸素チャンバーに入れ、Sugen5416を週1回で皮下注射し、用量は20mg/kg/回であり、合計3回注射し、低酸素チャンバーに3週間飼育を持続し、麻酔したマウスに対して右心室圧測定を行い、右心室圧が30mmHg以上になるとモデリングが完了する。
【0036】
(1)対照群1:正常酸素野生型:4匹のマウスを正常酸素状態で3週間飼育し、1日目から7日ごとにDMSOを皮下注射し、合計3回注射した。
【0037】
(2)対照群2:正常酸素状態でのEOSノックアウト:4匹のマウスを正常酸素状態で3週間飼育し;1日目から7日ごとにDMSOを皮下注射し、合計3回注射した。
【0038】
(3)モデリンググループ1:低酸素とSugenを組み合わせた野生型:7匹のマウスを低酸素環境で3週間飼育し;1日目から7日ごとにSugen5416(溶媒としてDMSO)を皮下注射し、合計3回注射した。
【0039】
(4)モデリンググループ2:低酸素とSugenを組み合わせたEOSノックアウト:9匹のマウスを低酸素環境で3週間飼育し、1日目から7日ごとにSugen5416(溶媒としてDMSO)を皮下注射し、合計3回注射した。
【0040】
2.2マウスの右心室収縮期血圧の測定
マウスの胸腔を露出させない条件で、PowerLab装置の圧力変換器に接続された22ゲージの針を、2%トリブロモエタノールで腹腔内麻酔したマウスの右心室に、xiphocostalの角度から挿入し、圧力センサーが表示する波形を使用して、針の位置を決定する。波形が安定したら、右室収縮期血圧を記録した。
【0041】
2.3右心室肥大指数の決定
血行動態の測定が完了した後、胸部を開き、予め冷却した生理食塩水で洗浄した後、心臓と肺全体を取り出した。心臓は房室溝に沿って心房と大血管の根元を取り除き、後室間溝に沿って右心室の自由壁を分離し、余分な水分を吸収した後、右心室の自由壁(RV)及び左心室+心室中隔(LV+S)の重量を量り、右心室肥大指数=RV/LV+Sを計算した。
【0042】
2.4肺組織の免疫蛍光染色
左肺組織を採取し、4℃の10%中性ホルムアルデヒドで固定した後、グルコースで72時間沈殿させ、OCTに包埋した。すべての肺組織は、同じ向き(横断面)に埋め込まれた。肺組織を厚さ5μmに切断した。4℃で抗α平滑筋アクチン一次抗体を用いて一晩インキュベートし、スライドを洗浄した後、対応するHRP結合二次抗体を滴下染色し、室温の加湿ボックス内で30分間インキュベートし、洗浄後、DAPIを滴下して封入し、撮影した。
【0043】
2.5結果分析
結果を図3に示し、図3はEOSノックアウトが低酸素とSugenの組み合わせにより誘発された肺動脈性肺高血圧症を悪化させる実験結果の模式図であり、ここで、Aは、正常対照及び肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウスの右心室収縮期血圧であり;Bは、正常対照及び肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウスの右心肥大指数であり;Cは、正常対照及び肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウスの肺血管抗α-平滑筋アクチン免疫蛍光染色の典型的な模式図であり;野生型マウスは実験対照群であった。
【0044】
通常の条件下では、野生型(対照群1)とEOSノックアウト群(対照群2)のマウスは、右心室収縮期血圧(図3のA)、右心肥大指数(図3のB)、及び肺動脈平滑筋層の厚さ(図3のC)に違いがなかった。低酸素とSugenの組み合わせにより誘発された肺動脈性肺高血圧症のモデリング条件下では、EOSのノックアウト後、モデリンググループ1と比較して、モデリンググループ2のマウスでは右心室収縮期血圧と右心室肥大指数が大幅に増加した(図3のAとB)。同時に、本発明は、モデリング群1と比較して、モデリング群2のマウスの肺動脈平滑筋層が有意に厚くなっていることを発見した(図3のC)。図3によると、EOSの欠如後、マウスの肺動脈高血圧症が悪化し、EOSが肺動脈高血圧症の進行において保護の役割を果たしており、EOSが補助診断指標として使用できることを示唆している。
【実施例3】
【0045】
肺血管平滑筋細胞の増殖及びマイグレイション機能の測定
3.1肺動脈平滑筋細胞の刺激
肺動脈平滑筋細胞は、24時間血清飢餓後、成長因子PDGFbb、及び勾配EOS細胞ライセートを追加して刺激し、それぞれが未処理対照群、PDGFbb刺激群、PDGFbb+10EOSライセート群(図中では10EOSと表記)、PDGFbb+10EOSライセート群(図中では10EOSと表示)、PDGFbb+10EOSライセート群(図中では10EOSと表示)及びPDGFbb+10EOSライセート群(図中では10EOSと表示)であり、上記各群に対応する培地はまとめてEOS条件培地と呼ばれ、未処理の対照群は平滑筋細胞培地のみを含み、PDGFbb刺激群は成長因子PDGFbbを含む平滑筋細胞培地であり、他の4つの群は成長因子PDGFbb及びEOSライセートを含む平滑筋細胞培養培地である。
【0046】
3.2肺動脈平滑筋細胞CCK8増殖測定
肺動脈平滑筋細胞を96ウェルプレートに5000細胞/ウェルで播種し、24時間血清飢餓後、実験設計に従って、対応する条件培地に追加し、ウェルあたり100μLの培地であり、刺激の24時間後に各ウェルに10μLのCCK8ストック溶液を追加し、2時間インキュベートし、マイクロプレートリーダーで450nmと570nmの吸光度を読み取り、標準曲線を描き、細胞増殖の割合を計算した。
【0047】
3.3肺動脈平滑筋細胞スクラッチ及びTranswellマイグレイション実験
スクラッチ試験:肺動脈平滑筋細胞を6ウェルプレートに播種し、24時間血清飢餓した。顕微鏡下で観察して細胞密度が約100%になった時、P200ピペットチップでウェルプレートに対して垂直にスクラッチし、PBSで洗浄して浮遊細胞を除去した後、実験設計に従って対応する条件培地に加え、1ウェルあたり1mLの培地であり、0時間及び24時間刺激して撮影し、創傷治癒面積を計算した。
【0048】
Transwell実験:肺動脈平滑筋細胞をトランスウェルチャンバーの上部チャンバーに播種し、200μLの血清フリー基礎培地を各ウェルに添加し、下部チャンバーに実験設計に従って、対応する条件培地を加え、1ウェルあたり600μLの培地であり、24時間の刺激後、メタノール固定し、クリスタルバイオレット染色及び撮影し、マイグレイション細胞数を計算した。
【0049】
3.4結果分析
結果を図4に示し、図4はEOSが肺動脈平滑筋細胞の機能異常を抑制する実験結果の模式図であり、ここで、Aは、成長因子PDGFbb誘導及びEOSへ条件培地の投与後の肺動脈平滑筋細胞の増殖状況であり、EOSライセートの濃度が高くなるほど、肺動脈平滑筋細胞の増殖がより強く抑制され;Bは、成長因子PDGFbb誘導及びEOSへ条件培地の投与後の肺動脈平滑筋細胞のマイグレイション状況であり、EOSライセートの濃度の増加に伴い、創傷治癒の程度が減少し、Transwell膜貫通細胞の数が減少した。
【0050】
PDGFbbが肺動脈平滑筋細胞の異常な増殖とマイグレイションを誘導した後、勾配EOSライセートの投与は、細胞の増殖とマイグレイションを有意に抑制でき、同時に、本発明は、抑制効果がEOSライセートの濃度勾配とともに増加することを発見し、即ち、EOSライセートの濃度が高いほど、抑制効果が高くなり(図4)、EOSの内容物は、肺動脈平滑筋の増殖とマイグレイションを抑制でき、EOSの細胞質内容物は肺動脈平滑筋の恒常性を維持する保護の効果を奏することが示された。
【実施例4】
【0051】
EOS下流の脂質代謝産物の発現差異及び役割の検出
4.1低酸素とSugenの組み合わせにより誘発されたマウス肺動脈性肺高血圧症のマウスモデルの肺組織のサンプリング
8~10週齢、体重25g以上の雄マウスを酸素濃度10%の低酸素チャンバーに入れ、Sugen5416を週1回皮下注射し、用量は20mg/kg/回であり、合計3回注射し、低酸素チャンバーに3週間飼育し、マウスに麻酔をかけて、右心室圧を測定し、右心室圧を向上させ、30mmHgを超えた時点でモデリングを終了した。右心室を灌流した後、マウス肺組織を採取し、液体窒素中で凍結した。
【0052】
(1)野生型モデリンググループ:低酸素とSugenを組み合わせた野生型:9匹のマウスを低酸素環境で3週間飼育し、Sugen5416を1日目から7日ごとに注射し、合計3回注射した。
【0053】
(2)EOSノックアウトモデリンググループ:低酸素とSugenを組み合わせてEOSをノックアウト:9匹のマウスを低酸素環境で3週間飼育し、Sugen5416を1日目から7日おきに皮下注射し、合計3回注射した。
【0054】
4.2マウス肺組織のターゲットメタボロミクスの測定
凍結組織サンプルを採取し、重量を測定し、品質管理サンプル用に準備した後、Agilent超高速液体クロマトグラフィーとトリプル四重極質量分析計で検出及び分析し、MassHunterソフトウェアによって生データを処理し、デフォルトのパラメーターを使用し、且つ手動で検査することにより、各化合物及び内部標準物質の積分面積データが取得された。各化合物の標準物質と内部標準物質のピーク面積比を用いて、当該化合物の濃度に対して回帰分析して、10ポイントの定量的標準曲線を取得し、標準曲線を使用して、テスターにローディングされた試験サンプルの各対象物質の含有量を計算及び出力し、且つ元のサンプル(肺組織サンプル1グラムあたり)の含有量を計算した。統合データ解析法により主成分を分析し、ヒートマップ描画し、脂質小分子代謝物の定量分析を行った。
【0055】
4.3HDHAの増殖抑制に対する効果の測定
肺動脈平滑筋細胞を96ウェルプレートに5000細胞/ウェルで播種し、血清飢餓24時間後、それぞれ無処理対照群(平滑筋細胞培地)、PDGFbb刺激群(成長因子PDGFbbを含む平滑筋細胞培地)、PDGFbb+14-HDHA群(成長因子PDGFbb及び14-HDHAを含む平滑筋細胞培地)及びPDGFbb+17-HDHA群(成長因子PDGFbb及び17-HDHAを含む平滑筋細胞培地)をそれぞれ設置し、2種類の脂質小分子の10nMと20nMの濃度勾配をそれぞれ設定し、各ウェルに100μLの培地であり、24時間刺激後に各ウェルに10μLのCCK8ストック溶液を加え、2時間インキュベートし、マイクロプレートリーダーで450nmと570nmの吸光度を読み取り、標準曲線を描き、細胞増殖率を計算した。
【0056】
4.4結果の分析
結果を図5及び図6に示し、図5はEOSノックアウトが低酸素とSugenの組み合わせにより誘発されたマウス肺組織における脂肪酸代謝に対する影響の実験結果の模式図であり;ここで、Aは、肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウス肺組織のターゲットメタボロミクスの主成分の分析であり;Bは、肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウス肺組織の脂質代謝産物の示差的な発現のヒートマップであり;Cは、肺動脈性肺高血圧症下のEOSノックアウト/野生型マウス肺組織の脂質代謝産物の定量分析であり、野生型マウスは実験対照群であった。図6は、肺動脈平滑筋細胞の増殖に対する14-HDHA及び17-HDHAの抑制効果の実験結果の模式図である。
【0057】
低酸素とSugenの組み合わせにより肺動脈を誘導したマウスでは、EOSをノックアウトした後、野生型対照群と比較してアラキドン酸、DHA、及びEPAなどの脂肪酸の代謝は大幅に変更された(図5のA及びB)。同時に、本発明は、小分子脂質代謝産物である14-HDHA及び17-HDHAのレベルが、EOSのノックアウト後に有意に減少することを発見した(図5のC)。In vitro内で肺動脈平滑筋細胞を14-HDHA及び17-HDHAの刺激を与えた後、低濃度で肺動脈平滑筋細胞の増殖を効果的に抑制でき(図6)、EOSの下流代謝物である14-HDHA及び17-HDHAは、肺動脈性肺高血圧症に治療効果があった。
【実施例5】
【0058】
EOSの下流代謝物14-HDHA及び17-HDHAの肺動脈性肺高血圧症に対する治療効果
5.1低酸素とSugenの組み合わせにより誘導されたマウスPHモデルの確立及び14-HDHA及び17-HDHAの治療効果の評価
8~10週齢、体重25g以上の雄マウスを酸素濃度10%の低酸素チャンバーに入れ、Sugen5416を週1回皮下注射し、用量は20mg/kg/回であり、合計3回注射し、低酸素チャンバーに3週間飼育し、マウスに麻酔をかけて、右心室圧を測定し、右心室圧が30mmHg以上になるとモデリングを終了した。低酸素状態の第2週から、3日ごとに腹腔に14-HDHA及び17-HDHAをそれぞれ注射し、モデル化の終了まで続き、モデル化が終了した時に右心室収縮期血圧、右心肥大指数、及び肺動脈平滑筋層の厚さを評価した。
【0059】
5.2低酸素とSugenの組み合わせにより誘導されたラットPHモデルの確立及び14-HDHAと17-HDHAの治療効果の評価
約200gのSDラットにSugen5416を1回皮下注射(用量20mg/kg)した後、酸素濃度10%の低酸素チャンバーに素早く入れ、飼育を3週間持続した。3週間後、2週間正常酸素状態に置いてモデリングを完成した。3週間の低酸素状態の後の正常酸素段階では、モデリングの終了まで3日ごとに腹腔に14-HDHA及び17-HDHAを注射し、モデル化が終了した時に右心室収縮期血圧、右心肥大指数、及び肺動脈平滑筋層の厚さを評価した。
【0060】
5.3結果の分析
通常の条件下では、溶媒を投与した対照組のマウス(ラット)と14-HDHA又は17-HDHAを投与したマウス(ラット)は、右心室収縮期血圧、右心室肥大指数、及び肺動脈平滑筋層の厚さに有意差がなかった。低酸素とSugenの組み合わせにより肺動脈性肺高血圧症を誘導するモデリング条件下では、14-HDHA又は17-HDHAを投与されたマウス(ラット)は、溶媒対照組のマウス(ラット)よりも右心室収縮期血圧及び右心室肥大指数が有意に低く、肺動脈平滑筋層は有意に薄くなっている。これは、マウス(ラット)の肺動脈性肺高血圧症は、14-HDHA又は17-HDHAの補給後に改善されたことがわかり、における14-HDHA及び/又は17-HDHAの治療効果が示唆され、14-HDHA又は17-HDHA肺動脈性肺高血圧症の治療薬の調製に使用できることが示唆されている。
【0061】
上記の実施形態は本発明を詳細に説明したが、本発明の一部の実施形態にすぎず、すべての実施形態ではなく、本実施形態に従って進歩性を有しない前提で他の実施形態を得ることができ、これらの実施形態はすべて本発明の保護範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-02-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
1.3マウス肺組織単個細胞浮遊液の調製及びフローサイトメトリー分析
中性プロテアーゼ(5U/mL、Worthington)+I型コラゲナーゼ(200U/mL、Vetec)+エラスターゼ(0.02U/mL、Sigma)+DNA酵素(0.3U/mL、Promega)を用いて肺組織消化液を調製し、肺組織の右側の最初の葉を消化液で切り刻み、37℃で25分間十分に振とうした後、等量の完全培地(10%FBSを含む基本培地)で消化を終了し、赤血球分裂後、遠心分離し、再懸濁し、100μLを取り、フルオレセイン結合標的抗体(CD45-FITC、CD11b-APC、SiglecF-PE)を加え、室温で遮光して30分間インキュベートした。インキュベーション後PBSを加えて余分な抗体を洗い流し、遠心分離し、サンプルをセルストレーナーにかけ、BD Accuri C6にローディングした。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
2.4肺組織の免疫蛍光染色
左肺組織を採取し、4℃の10%中性ホルムアルデヒドで固定した後、グルコースで72時間沈殿させ、OCTに包埋した。すべての肺組織は、同じ向き(横断面)に埋め込まれた。肺組織を厚さ5μmに切断した。4℃で抗α平滑筋アクチン一次抗体を用いて一晩インキュベートし、スライドを洗浄した後、対応するAlexa594結合二次抗体を滴下染色し、室温の加湿ボックス内で30分間インキュベートし、洗浄後、DAPIを滴下して封入し、撮影した。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の肺動脈性肺高血圧症及び/又は肺動脈性肺高血圧症の予後リスクを判定する方法であって、好酸球の割合を検出することを含むことを特徴とする方法
【請求項2】
前記検出は、末梢血中の好酸球の割合を検出することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法
【請求項3】
肺動脈平滑筋の増殖及び/又はマイグレイションに関連する疾患の治療薬の調製に使用される細胞および/またはその細胞質の内容物であって、前記細胞および/またはその細胞質の内容物がEOS及び/又はEOS細胞質内容物であることを特徴とする細胞および/またはその細胞質の内容物
【請求項4】
肺動脈平滑筋の恒常性を維持するための医薬品を調製に使用される細胞および/またはその細胞質の内容物であって、前記細胞および/またはその細胞質の内容物がEOS及び/又はEOS細胞質内容物であることを特徴とする細胞および/またはその細胞質の内容物
【請求項5】
肺動脈性肺高血圧症の治療薬の調製に使用される細胞および/またはその細胞質の内容物であって、前記細胞および/またはその細胞質の内容物がEOS及び/又はEOS細胞質内容物であることを特徴とする細胞および/またはその細胞質の内容物
【請求項6】
肺血管平滑筋増殖に関連する疾患の治療薬の調製に使用される化合物であって、前記化合物がヒドロキシドコサヘキサエン酸であることを特徴とする化合物
【請求項7】
肺動脈性肺高血圧症の治療薬の調製に使用される化合物であって、前記化合物がヒドロキシドコサヘキサエン酸であることを特徴とする化合物
【請求項8】
前記ヒドロキシドコサヘキサエン酸には、14-ヒドロキシドコサヘキサエン酸及び/又は17-ヒドロキシドコサヘキサエン酸が含まれることを特徴とする請求項6又は7に記載の医薬品
【国際調査報告】