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特表2024-546003非脆性コーティングによるガラス強度および破壊靭性の改善
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】非脆性コーティングによるガラス強度および破壊靭性の改善
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/30 20060101AFI20241210BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C03C17/30 A
C09D183/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526820
(86)(22)【出願日】2022-08-04
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 EP2022071979
(87)【国際公開番号】W WO2023083507
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】102021129250.6
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.iPhone
(71)【出願人】
【識別番号】522429930
【氏名又は名称】エクサージー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】EXXERGY GMBH
【住所又は居所原語表記】Am Wasserbogen 28, 82166 Grafelfing (DE)
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】ヨルダス,ビュレント
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ザウアー,トーマス ツェー.
【テーマコード(参考)】
4G059
4J038
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC16
4G059FA05
4J038DL051
4J038GA07
4J038HA212
4J038JA19
4J038JC38
4J038KA03
4J038KA04
4J038MA08
4J038NA11
4J038PC03
(57)【要約】
本発明は、水および触媒の存在下における1種以上のアルコキシシランと1種以上の金属酸化物および/または金属アルコキシドとの加水分解重縮合生成物を含む、ガラス強度および破壊靭性を改善するためのコーティングおよびその調製に関する。本発明は、損傷したシリカ含有材料を修復するためのコーティングの使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス強度およびガラスの破壊靭性を改善するためのコーティングを調製する方法であって、前記方法が、
a)20重量%以下の水、95重量%以下のアルコールおよび1重量%以下の触媒の存在下で、5~95重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、40重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドとを含む組成物、
b)20~100重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、80重量%以下のアルコールと、20重量%以下の水と、1重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)50重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、100重量%以下の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
を混合することを含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である、方法。
【請求項2】
ガラス強度およびガラスの破壊靭性を改善するためのコーティングを調製する方法であって、前記方法が、
a)20重量%以下の水および60~95重量%のアルコールの存在下で、25重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドを含む組成物、
b)5~95重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、5~70重量%のアルコールと、20重量%以下の水と、0.5重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)10~50重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、10~90重量%の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
を混合することを含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である、方法。
【請求項3】
前記触媒が、硝酸、王水、フッ化水素酸またはこれらの組み合わせである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Rが、C1~18アルキル、C1~18ヘテロアルキル、C1~18アルコキシ、C2~18アルケン、フェニル、R-(CH-およびR-O-(CHまたはそれらの異性体もしくは多価体から選択され、Rが、C1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体であり、Rが、水素、C1~18アルキル、(CO)-(R-、C2~18アルケンまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、Rが、C1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、nが、0~10の整数であり、mが、0~10の整数である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記1種以上のアルコキシシランが、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルシラン、メトキシエチルシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシランおよびトリエチルメトキシシランから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または前記1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドが、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、銅、銀、金、パラジウム、白金、亜鉛、コバルト、ロジウム、イリジウム、セレン、テルルおよびポロニウムの、酸化物および/またはアルコキシドから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記1種以上のアルコキシシランが、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたはγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランであり、かつ前記1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドが、ホウ素アルコキシド、チタンアルコキシドおよびケイ素アルコキシドまたはそれらの混合物から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法によって調製されたコーティング。
【請求項9】
a)10重量%以下の水、30重量%以下のアルコールおよび1重量%以下の触媒の存在下で、50~85重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、35重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドとを含む組成物、
b)20~100重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、80重量%以下のアルコールと、20重量%以下の水と、1重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)50重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、100重量%以下の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
の混合物を含むコーティングであって、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である、コーティング。
【請求項10】
ガラス強度およびガラスの破壊靭性を改善するための、請求項8または9に記載のコーティングの使用であって、ガラスの表面の亀裂を修復することによって、ガラス強度および破壊靭性が改善される、使用。
【請求項11】
損傷したシリカ含有材料を修復するための、請求項8または9に記載のコーティングの使用。
【請求項12】
前記シリカ含有材料が、ガラス、セラミック、ガラスセラミック、石英、セメント、コンクリートおよびシリカを含有する任意の他の材料を含む、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
1つ以上のさらなるコーティングが、耐摩耗性、耐薬品性、複屈折、屈折率の変更、硬度の増加、光起電装置または半導体装置の電圧誘起劣化からの保護、機械的強度の増加の制御、疎水化の改善による撥水、撥油性の改善、汚損、風化および/または破損点でのエネルギー放出に由来する損傷に対する保護、殺真菌特性、抗菌特性および/または抗ウイルス特性を可能にするために塗布される、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記1つ以上のコーティングが、ディップコーティング、スプレーコーティング、蒸着、噴霧、プラズマ外部蒸着、化学蒸着、プラズマ誘起蒸着、浸透、浸漬、懸濁および/またはプラズマ強化蒸着によって塗布される、請求項10~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記1つ以上のコーティングが、制御された雰囲気中で、大気圧より低いかまたは高い圧力によって、および/または大気温度より高いかまたは低い温度で塗布される、請求項10~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記制御された雰囲気が、-20℃(253K)未満、-50℃(223K)以下、-78.5℃(194.7K)以下、-195.8℃(77.35K)以下、27K以下または4Kの露点を有する調整された空気を含む、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記制御された雰囲気が、工業用または特殊ガスを含む、請求項15または16に記載の使用。
【請求項18】
前記圧力が、950hPa、500hPa未満、100hPa未満、10hPa未満、1hPa未満、0.1Pa未満、10-6Pa未満、またはさらには10-9Pa未満の絶対圧力を含む、請求項15~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
未使用のコーティングが、ガラス表面またはシリカ含有材料から除去される、請求項10~18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記未使用のコーティングが、コーティングされたガラスもしくはコーティングされたシリカ含有材料を溶媒に浸漬するかまたはコーティングされたガラスもしくはコーティングされたシリカ含有材料を溶媒ですすぐことによって除去される、請求項10~19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記ガラス強度の改善が、50~5000%、5000%超または10000%超である、請求項10~20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
失透が回避される、請求項10~21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記損傷が、物理的および/または化学的衝撃によって引き起こされる、請求項11に記載の使用。
【請求項24】
前記コーティングを塗布する前に、任意にエッジを含むガラス表面が、フッ酸、機械的エッジ研削、火炎研磨、レーザー処理および/または任意の他のエッジ処理技術で前処理される、請求項10~23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記コーティングを塗布する前に、前記ガラスが、転移温度(T)より少なくとも300K低い温度に曝される、請求項10~24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
硬化のために、少なくとも30℃の温度を、コーティングされたガラスまたはコーティングされたシリカ含有材料に適用する、請求項10~25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
コーティングされたガラスまたはコーティングされたシリカ含有材料が、亜音速、音速、超音速、赤外線、可視領域、紫外線領域、極紫外線領域および/または極紫外線領域よりも低い波長を含む適切な周波数および/または波長の波、および/または物理特性に応じて反応パートナー間の所望の反応を引き起こす任意の他の適切な周波数および/または波長の波に曝され、いずれかの周波数が、ガラス基板へのコーティングの硬化を可能にする、請求項10~26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
コーティングされたガラスまたはコーティングされたシリカ含有材料が、コーティングの前または後に焼き戻しに曝される、請求項10~27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
コーティングの塗布前に、溶融状態のガラスが、より薄いガラスを生成するための熱形成プロセスの直後に延伸される、請求項10~28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記シリカ含有材料が、多孔質材料または粉末の形態であり、浸透または浸漬の前に予備プレスされているかまたは室温を実質的に超える温度に曝されているかにかかわらず、プリプレグ内で、細孔全体にわたってまたは多孔質材料または粉末クラスター内において部分的または全体的にコーティングで浸漬されている、請求項11~29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
請求項10~30のいずれか一項に記載の使用によって調製されたシリカ含有材料から製造されたガラス製品または製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ガラス強度およびガラスの破壊靭性を改善するためまたは損傷したガラスもしくはシリカ含有材料を修復するための方法およびシステムに関する。特に、本発明は、水および触媒の存在下で、1種以上のアルコキシシランと1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または金属もしくは半金属のアルコキシドとの加水分解重縮合生成物を含むコーティングのこれらの目的のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスが、大気中の水分(例えば、温暖な気候において、極端に寒く乾燥した冬の天候では77ppm(0.1g/Nmは-30℃で20%の相対湿度に相当)まで、極端に湿度の高い夏の天候では90,000ppm(115g/Nmは+60℃で100%の湿度に相当)まで)と、水またはヒドロキシルが化学的に活性であり、かつ2つの末端Si-OH結合を生成することによってSi-O-Si結合を切断する高い形成温度とに曝されると、構造が弱くなり、調査したすべての亀裂の亀裂先端でヒドロキシルを見つけ、これらの亀裂を最終的に破壊に導くメカニズムが確立されて、ガラス強度が大幅に低下する。上記の挙動は、高温形成中の非常に短い時間内(例えば、ミリ秒または秒以内)に生成される表面微小亀裂の存在および大気湿度によって促進される亀裂の伝播に起因する。
【0003】
産業界では、イオン交換(化学焼戻し)、熱焼戻し、ラミネートなどを含む、ガラス強度を改善するために様々な方法が使用されている。これらの方法はすべて、様々な欠点および限界を有する。例えば、広く使用されているイオン交換および熱焼き戻しの方法は、特定のガラス厚さ未満では機能せず、組成に制限がある。
【0004】
ガラスを成形(溶融ガラス温度)から急速に冷却して室温にするか、またはガラス転移温度であるT(硬質ガラス温度)よりも大幅に低い温度に冷却することにより、液体から「固体」状態への平衡(周囲)温度に向かう遷移において、「外側」表面と急速に収縮する内部との間に巨大な応力が設定されることによって生じた欠陥を修復することによって、これらの応力は、そのような応力によって開始される微小表面亀裂を生成することによって解放され、周囲空気中に存在する水分子が亀裂伝播の主原因となり、これらすべての作用が、ガラス製品の強度を最大200倍、言い換えれば、理論的機械的強度の100%から実際には理論的機械的強度の約0.5%に低下させる。
【0005】
保護圧縮層を形成する3つの従来の方法は、圧縮層が形成されるガラスの物理的な厚さに依存する。ガラスが薄くなるにつれて、圧縮層が意味を持つ限界を通過する。カバーガラスは0.7mmであったが、0.4mm、さらには0.2mmに向かっている。これらの厚さの減少は、イオン交換の有用性の限界に近づいている。さらに、iPhoneなどのスマートフォンの例では、電子回路はアルカリを含まない特殊なガラスに印刷されている。化学焼戻しにおいて主要な役割を果たすのは、まさにアルカリ、例えば、これらに限定されないが、リチウム、ナトリウムおよびカリウムである。しかし、これらの同じイオンは、大型フラットスクリーンディスプレイに必要とされるトランジスタ、液晶および電子回路を攻撃する。通常の典型的な板ガラス単一シート基板(典型的にはソーダ石灰またはホウ素ケイ酸塩)は、伝統的に3mm~15mmの厚さで製造されるが、3mm未満に向かって減少傾向にある。厚さ2mm以下の板ガラスに対して、焼戻しは物理的限界に達しつつあり、例えば、3mm未満のガラスはESGとして焼戻しすることが困難であるため、厚さ2mmまでのより薄いガラスに対しては、TVGが従来可能な焼戻しグレードである。
【0006】
無機コーティングは、本質的に脆く、最終的に、使用中にそれ自体の微小亀裂を発生する傾向がある。一方、非脆性有機コーティングは、柔らかいため、使用中の摩耗による光学的劣化を受けやすい傾向がある。今日まで、ガラス表面上のヒドロキシル基(OH)を分解してO-Si-O(または他の)共有結合への架橋を可能することによって、ガラスマトリックスとの共有結合を生成し、それによって欠陥を修復する能力を有する市販のコーティングはない。同一材料で硬さと非脆性を両立させることは極めて困難である。
したがって、ガラス製品の強度を改善することによって高温成形において導入された欠陥からガラス表面を修復し、同時に十分な耐摩耗性を提供するコーティングが必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本明細書で提供される第1の態様は、ガラス強度およびガラスの破壊靭性を改善するためのコーティングを調製する方法であって、この方法は、
a)20重量%以下の水、95重量%以下のアルコールおよび1重量%以下の触媒の存在下で、5~95重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、40重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと含む組成物、
b)20~100重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、80重量%以下のアルコールと、20重量%以下の水と、1重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)50重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、100重量%以下の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
を混合することを含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である、方法である。
【0008】
本明細書で提供される第2の態様は、ガラス強度およびガラスの破壊靭性を改善するためのコーティングを調製する方法であって、この方法は、
a)20重量%以下の水および60~95重量%のアルコールの存在下で、25重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドを含む組成物、
b)5~95重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、5~70重量%のアルコールと、20重量%以下の水と、0.5重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)10~50重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、10~90重量%の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
を混合することを含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である、方法である。
【0009】
本発明の一実施形態において、触媒は、硝酸、王水もしくはフッ化水素酸またはそれらの組み合わせである。
【0010】
本発明の一実施形態において、Rは、C1~18アルキル、C1~18ヘテロアルキル、C1~18アルコキシ、C2~18アルケン、フェニル、R-(CH-、シクロアルキルおよびアリール基、ならびにR-O-(CH、またはそれらの異性体もしくは多価体から選択され、Rは、C1~18アルキルもしくはシクロアルキル、またはそれらの異性体もしくは多価体であり、Rは、水素、C1~18アルキル、(CO)-(R-、C2~18アルケン、またはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、Rは、C1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、nは、0~10の整数であり、mは、0~10の整数である。
【0011】
本発明のさらなる実施形態において、1種以上のアルコキシシランは、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルシラン、メトキシエチルシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシランおよびトリエチルメトキシシランから選択される。
【0012】
本発明のさらなる実施形態において、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、銅、銀、金、パラジウム、白金、亜鉛、コバルト、ロジウム、イリジウム、セレン、テルル、もしくはポロニウム、または他の種の酸化物および/またはアルコキシドから選択される。
【0013】
本発明のさらなる実施態様において、アルコキシシランは、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたはγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランであり、金属アルコキシドは、ホウ素アルコキシド、チタンアルコキシドおよびケイ素アルコキシド、またはそれらの混合物から選択される。
【0014】
第3の態様において、本発明は、本明細書で提供される方法によって調製されるコーティングに関する。
【0015】
第4の態様において、本発明は、
a)10重量%以下の水、30重量%以下のアルコールおよび1重量%以下の触媒の存在下で、50~85重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、35重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドとを含む組成物、
b)20~100重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、80重量%以下のアルコールと、20重量%以下の水と、1重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)50重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、100重量%以下の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
の混合物を含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である、コーティングに関する。
【0016】
第5の態様において、本発明は、ガラス強度およびガラスの破壊靭性を改善するための本明細書で提供されるコーティングの使用であって、ガラス強度および破壊靭性は、ガラスの表面の亀裂を修復することによって改善される、使用に関する。
【0017】
第6の態様において、本発明は、任意のガラスを含むがこれに限定されない損傷したシリカ含有材料を修復するための本明細書に提供されるコーティングの使用に関する。
【0018】
一実施形態において、本発明は、シリカ含有材料が、ガラス、セラミック、ガラスセラミック、石英、セメントおよびコンクリートを含む、本明細書で提供される使用に関する。
【0019】
一実施形態において、本発明は、1つ以上のさらなるコーティングが、耐磨耗性、耐薬品性、複屈折、屈折率の変更、硬度の増加、光起電装置または半導体装置の電圧誘起劣化からの保護、機械的強度の増加の制御、疎水化の改善による撥水、撥油性の改善、汚損、風化および/または破損点でのエネルギー放出に由来する損傷に対する保護のために塗布される、本明細書で提供される使用に関する。
【0020】
さらなる実施形態において、本発明は、1つ以上のコーティングが、ディップコーティング、スプレーコーティング、蒸着、噴霧、プラズマ外部蒸着、化学蒸着、プラズマ誘起蒸着、浸透、浸漬、懸濁および/またはプラズマ強化蒸着によって塗布される、本明細書で提供される使用に関する。
【0021】
さらなる実施形態において、本発明は、1つ以上のコーティングが、制御された雰囲気中で、大気圧より低いかまたは高い圧力によって、および/または大気温度より高いかまたは低い温度で塗布される、本明細書で提供される使用に関する。
【0022】
さらなる実施形態において、本発明は、制御された雰囲気が、-20℃(253K)未満、-50℃(223K)以下、-78.5℃(194.7K)以下、-195.8℃(77.35K)以下、27K以下または4Kの露点を有する調整された空気を含む、本明細書で提供される使用に関する。
【0023】
さらなる実施形態において、本発明は、制御された雰囲気が、工業用または特殊ガスを含む、本明細書で提供される使用に関する。
【0024】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明に含まれる工程のいずれかの間の圧力が、周囲圧力以下の圧力、950hPa以下、500hPa未満、100hPa未満、10hPa未満、1hPa未満、0.1Pa未満、10-6Pa未満、またはさらには10-9Pa未満の絶対圧力を含む、本明細書で提供される使用に関する。
【0025】
さらなる実施形態において、本発明は、未使用のコーティングが、ガラス表面から除去される、本明細書で提供される使用に関する。
【0026】
さらなる実施形態において、本発明は、未使用のコーティングが、コーティングされたガラスを溶媒に浸漬するかまたはコーティングされたガラスを溶媒ですすぐことによって除去される、本明細書で提供される使用に関する。
【0027】
さらなる実施形態において、本発明は、ガラス強度の改善が、50~5000%、5000%超または10000%超である、本明細書で提供される使用に関する。
【0028】
さらなる実施態様において、本発明は、失透が回避される、本明細書で提供される使用に関する。
【0029】
さらなる実施形態において、本発明は、損傷が、物理的および/または化学的衝撃によって引き起こされる、本明細書で提供される使用に関する。
【0030】
さらなる実施形態において、本発明は、コーティングを塗布する前に、任意にエッジを含むガラス表面が、フッ酸、機械的エッジ研削、火炎研磨、レーザー処理および/または任意の他のエッジ処理技術で前処理される、本明細書で提供される使用に関する。
【0031】
さらなる実施形態において、本発明は、コーティングを塗布する前に、ガラスが、転移温度(T)より少なくとも300K低い温度に曝される、本明細書で提供される使用に関する。
【0032】
さらなる実施形態において、本発明は、硬化のために、少なくとも30℃の温度を、コーティングされたガラスまたはコーティングされたシリカ含有材料に適用する、本明細書で提供される使用に関する。
【0033】
さらなる実施形態において、本発明は、コーティングされたガラスまたはコーティングされたシリカ含有材料が、亜音速、音速、超音速、赤外線、可視領域、紫外線領域、極紫外線領域および/または極紫外線領域よりも低い波長を含む適切な周波数および/または波長の波、および/または物理特性に応じて反応パートナー間の所望の反応を引き起こす任意の他の適切な周波数および/または波長の波に曝され、いずれかの周波数が、ガラス基板、シリカ含有材料へのコーティングの硬化を可能にする、本明細書で提供される使用に関する。
【0034】
さらなる実施形態において、本発明は、ガラスまたはコーティングされたシリカ含有材料が、コーティングの前または後に焼き戻しに曝される、本明細書で提供される使用に関する。
【0035】
一実施形態において、本発明は、シリカ含有材料が、多孔質材料または粉末の形態であり、細孔全体にわたってまたは粉末クラスター内において部分的または全体的にコーティングで浸漬されている、本明細書で提供されるコーティングの使用に関する。
【0036】
第7の態様において、本発明は、本明細書に記載の使用によって調製されたシリカ含有材料から製造されたガラス製品または製品に関する。
【0037】
さらなる実施形態において、物理的または化学的な表面損傷を有する新しいボトル(容器)または返却可能なボトル(容器)は、本明細書に記載のいずれかの選択された使用によって調製することによって修復させることができ、その結果、そのようなボトルは、少なくとも1つのさらなるサイクル、例えば、別の5サイクルまたは10サイクル、またはそれ以上のサイクルのために再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1a図1aは、酸触媒の存在下での特定のアルコキシシランと水との反応スキームを示す。
図1b図1bは、図1aの反応生成物と特定のチタンアルコキシドとの反応を示す。
図2図2は、ガラス表面上の本発明のコーティングの化学結合の概略図(a)およびホウ素配位変化によるナトリウムイオンの固定化の概略図(b)である。
図3図3は、コーティングされていないサンプルおよびコーティングされたサンプルの強度分布曲線を示す。
図4図4は、スズ表面および空気表面をコーティングしたときにフロートガラスサンプルの「コーンクラック荷重」法で測定される強度が増加することを示すグラフを示す。
図5a図5aは、コーティングされていないガラスの破壊パターンを示す。
図5b図5bは、本発明に従ってコーティングされたガラスの例示的な破壊パターンを示す。
図6図6は、コーティングされたガラスおよびコーティングされていないガラスからのナトリウム浸出を示し、コーティングはホウ素を含有する。
図7図7は、本発明のゾルゲル法を用いて全体的に製造されたガラスのサンプルを示す。
図8図8は、ビッカース圧痕試験によって損傷したガラスを示す(顕微鏡下での異なる照明)。
図9図9は、コーティングなし(左)およびコーティングあり(右端)のビッカース圧痕サンプル画像、および平均破損試験結果を示す。
図10図10は、フロートガラスサンプル上のビッカース圧痕の表面分析である。
図11図11は、(1)機械的に引き起こされた欠陥のないコーティングされていないガラス、(2)機械的に引き起こされた欠陥のあるコーティングされたガラス、および(3)欠陥の適用後にコーティングされた機械的に引き起こされた欠陥のあるガラスサンプルの破損試験の値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、本明細書で提供されるコーティングの形態のゾル-ゲル組成物を提供し、これは、真のガラス非晶質ネットワークに変態して、急冷および膨張差によって導入された欠陥を修復する有機-無機ポリマーである。特に、本発明は、ガラス強度およびガラスの破壊靭性を改善するためのコーティングを調製する方法であって、この方法は、
a)20重量%以下の水、95重量%以下のアルコールおよび1重量%以下の触媒の存在下で、5~95重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、40重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと含む組成物、
b)20~100重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、80重量%以下のアルコールと、20重量%以下の水と、1重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)50重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、100重量%以下の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
を混合することを含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である、方法に関する。
【0040】
一実施形態において、この方法は、
a)15重量%以下の水、50重量%以下のアルコールおよび1重量%以下の触媒の存在下で、20~80重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、30重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドとを含む組成物、
b)30~100重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、60重量%以下のアルコールと、10重量%以下の水と、1重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)30重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、100重量%以下の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
を混合することを含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である。
【0041】
さらに別の実施形態において、この方法は、
a)10質量%以下の水、40質量%以下のアルコールおよび1質量%以下の触媒の存在下で、50~80重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、25質量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドとを含む組成物、
b)40~100重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、50重量%以下のアルコールと、10重量%以下の水と、1重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)25重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、100重量%以下の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
を混合することを含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である。
【0042】
さらに別の実施形態において、この方法は、
a)5~10重量%の水、30重量%以下のアルコールおよび1重量%以下の触媒の存在下で、60~75重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、20重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドとを含む組成物、
b)50~100重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、40重量%以下のアルコールと、5重量%以下の水と、1重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)20重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、100重量%以下の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
を混合することを含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である。
【0043】
組成物a)、b)、及びc)の個々の絶対重量は、a)+b)+c)の相対重量を100%とした場合の総合計重量となり、a)、b)及びc)の占有率は、それぞれ個々に、典型的には、a)については20~70重量%、b)については5~40重量%、c)については0~50重量%の範囲である。本発明の一実施形態において、組成物は、組成物a)が30~65重量%、組成物b)が5~35重量%、組成物c)が50重量%以下の比率で使用される。例えば、組成物は、組成物a)が40~65重量%、組成物b)が10~35重量%、組成物c)が50重量%以下の比率で使用される。別の実施形態において、組成物は、組成物a)が40~45重量%、組成物b)が10~15重量%、組成物c)が10~50重量%の比率で使用される。組成物a)、b)およびc)の量の合計は100重量%である。
【0044】
本発明は、成形温度で水分含有空気と接触するとすぐに、水が化学的に活性である場合に、ガラスとの化学結合を形成し、Si-O-Si結合を破壊して表面構造の弱点である末端Si-OH結合を形成し、この取り扱いによって表面微小亀裂の発生を強制することによって、ガラス強度が急激に低下することを認識する。既知の実施されたガラス強化方法は、破壊が起こり得る前に超えなければならない圧縮表面層を生成することによって機能する。本発明は、過去5,000年間に製造された全てのガラスに共通する表面欠陥を実際に修復するための第1の方法を記載する。本明細書において提供されるコーティングの使用は、ガラス強度および破壊靭性を顕著に改善する。コーティングは、塗布時にガラスの表面に共有結合し、既存の表面微小亀裂および将来のそれらの形成を排除するとともに、取り扱いおよび大気水分による強度劣化を回避する。表面亀裂または欠陥は、小さい、例えば、マイクロメートルスケールまたはナノメートルスケール、またはそれよりもさらに小さい直径を有するので、コーティングが表面亀裂に浸透した後、熱硬化前に溶媒で除去することができ、表面は新しいガラスのように無傷であるが、微小亀裂は、硬化中にガラスに変換されて表面欠陥を修復するのに十分なポリマーを保持し、すなわち、1つ以上のコーティングとガラス材料との間の共有結合の形成によってガラスマトリックスに組み込まれる。したがって、理論に縛られることを望まないが、コーティングとガラスとの間の共有結合は、ガラス表面上の(末端)ヒドロキシル基(OH-)を分解することによる化学反応によって形成され、[-O-Si-]共有結合または任意の他の共有結合への架橋を可能にする。言い換えれば、コーティングされていないガラス表面の末端ヒドロキシル基は、1つ以上のコーティングとの化学反応によって分解され、1つ以上のコーティングの反応部分とヒドロキシル基の分解から生じるガラス表面の酸素原子との間に共有結合が形成される。本発明のコーティング(コーティング溶液)はいずれも、ガラス表面の微小亀裂に浸透し、ガラスマトリックスの末端ヒドロキシル基に付着し、次の段階でこれらのヒドロキシル基が分解され、新たな化学共有結合が生成される。さらに、コーティングは、脆くない(それ自体の表面亀裂を発生させない)という驚くべき特性を有するが、実質的には、未変化のガラス表面と同程度に硬く、耐摩耗性である。したがって、コーティング、すなわちハイブリッドコポリマー(有機元素および無機元素のポリマー)の使用は、亀裂の伝播を防止するのに十分な延性を有する最大の硬度を提供する。コーティングは、コーティングおよび硬化を促進するために可溶性であるというさらなる利点を有する。
【0045】
真のガラスを製造する際の1つの制限要因は、冷却時に最初の結晶が形成されるか、または加熱時に最後の結晶が溶解する液相線温度である。ガラスを製造するために使用することができる金属酸化物の周期表およびリストのうち、失透することなく(すなわち、結晶化することなく)実行可能なガラスを形成するこれらの金属酸化物の量には大きな制限がある。本発明は、薄膜またはバルクガラス製品に組み込むことができる金属酸化物の入手可能性および濃度を大幅に増加させる。真の非晶質ガラスへの変換は500℃以下で起こるので、これは失透が懸念される温度よりも低い。この新しい材料は、真の無機ガラスを研究している科学者がこれまで利用できなかった非常に高い屈折率または他の物理的特性を有するガラスを製造することができる。一例を図7から取ることができ、ここで、左のガラスは、64%の空隙を有するが、50Å未満の直径を有するアルミナゾル-ゲルである(右のサンプルは、より透明性を与えるためにイソプロピルアルコールに浸漬され、写真は、浸漬直後に撮影された。エタノールは、分子サイズがより小さいのためさらに良好である)。したがって、本発明によれば、失透は回避されるかまたは排除さえされる。このサンプルは、コーティングなしのゾル-ゲル法を専ら用いて製造された。しかし、この製法は、失透または結晶化するため、通常のガラス溶融プロセスでは不可能である非常に高いAl含有量のコーティングを製造するために使用できることを示している。
【0046】
本発明によれば、ガラスの機能性および汎用性を、他の材料に置き換えることができる程度まで高めることができる。一例として、ガラスの機械的強度の増加により、容器ガラスの壁の厚さを大幅に減少させることができ、それにより重量を減少させることができ、容器を製造するためのエネルギーの量が実質的に減少するので、顕著なカーボンフットプリントの減少をもたらす。重量の減少は、我々の惑星に存在し汚染しているプラスチックボトルが、使われなくなるか、または大部分が少なくとも置き換えられる可能性にも寄与する。さらに、ガラス溶融面積の単位当たりにより多くの容器を製造することができるので、ガラス炉の生産性は大幅に向上する。
【0047】
さらなる実施形態において、コーティングを塗布する前に、ガラス基板の表面をフッ化水素酸で処理して、ガラス表面の第1の層を除去し、微小亀裂の深さを減少させ、末端Si-OH結合の一部を除去する。この実施形態では、この処理の後に塗布されるコーティングが、亀裂浸透の改善された有効性をもたらし、機械的強度のさらなる改善された増加をもたらす。
【0048】
本発明では、上記または本明細書に記載のいずれも、以下に定義されるシリカ含有材料にも適している。
【0049】
本発明の1つの態様において、損傷したシリカ含有材料を修復することも可能である。そのようなシリカ含有材料は、ガラス、セラミック、ガラスセラミック、石英、セメントおよびコンクリートであってもよいが、これらに限定されない。シリカ含有材料は、任意の適切な形態、例えば、固体形態、圧縮または焼結粉末、または多孔質材料であってよいが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、シリカ含有材料はガラスである。そのようなシリカ含有材料を修復するプロセスにおいて、表面上の亀裂および/または損傷、または-表面への任意の出口を有する-シリカ含有材料の実質的な深さへの損傷は、本明細書に記載された本発明のコーティングを使用して修復することができ、その結果、ガラスは、ガラス強度および破壊靭性などの以前の特性の少なくとも大部分を回復するか、またはこれらの特性がさらに改善される。本発明によれば、例えば、物理的および/または化学的衝撃によって引き起こされる損傷を修復することができる。
このような損傷の非限定的な例は、例えば、ひょう玉、砂利、岩石、石の衝撃または他の物理的物体による衝撃、温度差衝撃、例えば交互応力による疲労破壊、またはガラス、窓、光起電性パネル、自動車ガラス(例えばフロントガラス)、容器ガラス、管状ガラス、クリスタルガラス、食器ガラス、耐熱ガラス、ガラスセラミック、光学ガラス、または任意の他のガラス基板、石英基板、セラミック基板、またはセメントまたはコンクリート含有基板への任意の他の物理的衝撃によって生じる破壊である。本発明の別の態様において、リターナブルボトル(容器)の様々な使用サイクル中に生じる表面損傷、そのような表面欠陥は、本発明を適用することによって表面欠陥を修復することによってボトル(容器)の元の機械的強度を回復することができるように修復することができる。
他の衝撃によって引き起こされる損傷も本発明によって包含される。
【0050】
上述したように、本発明のコーティングを塗布し、必要に応じて硬化させると、損傷したシリカ含有材料の特性を大幅に、ほぼ完全にまたは完全に回復させることができる。例えば、ガラスの機械的強度は、以前に損傷したガラスの残りの機械的強度に対して少なくとも50%、例えば少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%、またはさらには100%超回復させることができる。他のシリカ含有材料についても同様である。
【0051】
本発明のコーティングにより、損傷したシリカ含有材料を、肉眼で見える範囲内でおよび/または顕微鏡などの拡大装置の可視範囲内でさえも修復することができる。
【0052】
本発明の方法の第1の工程において、組成物a)は、適切な容器中で成分を混合することによって調製される。水の存在下、触媒を用いてアルコキシシラン化合物を部分的に加水分解する。本発明の方法のこの工程および他の全ての工程における水は、脱イオン水、蒸留水、多重蒸留水(例えば、いわゆる「再蒸留」水)、重水などの任意の水であってよい。多くても化学量論的な量の水、例えば反応基1モル当たり1モルの水が使用される。
触媒は、この種の化学反応に適した任意の触媒から選択することができる。本発明において、触媒は、反応中に消費されてもよい。例えば、触媒は、限定されるものではないが、硝酸、王水、塩酸、硫酸およびそれらの混合物などの(化学反応)開始剤または酸を包含する。好ましい実施形態において、触媒は、硝酸または王水またはフッ化水素酸またはそれらの組み合わせである。
【0053】
この反応は、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または金属もしくは半金属のアルコキシドおよび/またはシランと反応するヒドロキシル基の形成をもたらす。
【0054】
加水分解反応は、系に導入されたすべての水を消費するのに十分な時間、すなわち、次の反応段階のために溶液中に遊離水が残らないように十分な時間を与えなければならない。この反応は短時間で添加されたすべての水を消費し、末端のヒドロキシ結合を形成する。2つの反応の間の時間が過度であると、加水分解されたアルコキシシランがゆっくりと自己重合して均質性に悪影響を与えるので、避けるべきである。本発明の一実施形態によれば、アルコキシシランと水との間の反応時間は、60分未満、例えば30分未満、例えば20分未満、15分未満、10分未満、5分未満、または1分未満であってもよい。例えば、反応時間は、5~10分、例えば、6~10分、または8~10分であってもよい。一実施形態において、反応時間は10分未満である。さらなる実施形態において、組成物a)を一晩放置してもよい。
【0055】
一般に、工程a)は、室温などの環境条件下で実施することができる。好ましい実施形態において、工程a)は、制御された雰囲気下、例えば、水蒸気を含まない雰囲気下、酸素を含まない雰囲気下、または後述の不活性雰囲気下で実施することができる。
【0056】
第2の工程では、組成物b)を予備混合し、本発明の方法の工程a)で得られた混合物に徐々に添加する。部分的に加水分解されたアルコキシシランの著しい自己重合を防止するために、金属もしくは半金属の酸化物および/または金属もしくは半金属のアルコキシドは、臨界時間内に導入されなければならない。図1bは、図1aで得られた化合物とTi(OCとの間の例示的な反応を示す。このような状況下では、例えば、チタンアルコキシドが溶液中に導入されると、それはグリシドキシプロピルトリメトキシシランのヒドロキシル基とのみ反応することができ、それによってコポリマー鎖中の有機成分および無機成分を結合させる。これにより、ハイブリッドポリマー溶液(可溶型)中の有機基と無機基との間に酸化物結合が形成される。異なる実施形態では、組成物b)は、予備混合されず、成分がガラスセラミック基板のガラスに塗布されるときに、純粋な組成物b)を組成物a)の純粋な噴霧ミストに噴霧するかまたはその逆を行うことによって、組成物a)に混合される。
【0057】
この段階では、反応の最初の部分の終わりに混合物中に遊離水が存在してはならないことが重要である。そうでなければ、金属アルコキシドは遊離水と反応し、別々に凝縮または沈殿する。第二に、そして重要なこととして、加水分解されたアルコキシシランがゆっくりと自己重合して均質性に悪影響を与えるので、2つの反応の間の時間を過度にすることは避けるべきである。反応の第2の部分は、最小時間が必要であるが、反応の第1の部分とは異なり、最大時間は必要ではない。コポリマーからの残りのアルコキシ結合のほとんどは、さらなる水の添加によっていつでも行うことができる。さらに水を添加すると、過剰な有機基が除去され、酸化物ネットワークのより長い鎖の形成が促進されることにより、硬くて耐摩耗性のある構造が形成される。しかしながら、水の添加には限界があり、例えば、全容積の約50%であり、この系は、溶媒が水に不溶性であるために、溶液の濁りを引き起こすことなく許容することができる。
【0058】
この結合の後、図1bに示された生成物は完全に加水分解可能であり、水をさらに添加しても分離または沈殿の恐れなしに、均一な無機-有機コポリマーを生成する。得られたポリマーは、水およびアルコールに可溶であるため、ガラス上に所望の膜厚を堆積させるために任意の濃度に希釈することができる。
【0059】
本発明の方法の工程b)は、60分未満、例えば30分未満、例えば20分未満、15分未満、10分未満、5分未満、または1分未満で実施することができる。例えば、反応時間は、5~10分、例えば、6~10分、または8~10分間であってもよい。工程a)に関しては、反応は、室温のような環境条件で行うことができる。好ましい実施形態において、工程b)は、水蒸気を含まない雰囲気下または不活性雰囲気下、例えば、後述する酸素を含まない雰囲気下または不活性雰囲気下で実施することができる。
【0060】
第3の工程では、組成物c)を添加し、反応混合物を撹拌する。この第3の工程c)は、本発明の調製方法における任意の工程であってもよい。
【0061】
工程c)は、60分未満、例えば30分未満、例えば20分未満、15分未満、10分未満、5分未満、または1分未満で実施することもできる。例えば、反応時間は、5~10分、例えば、6~10分間、または8~10分間であってもよい。工程a)およびb)に関しては、反応は、室温などの環境条件下で実施することができる。好ましい実施形態において、工程a)は、水蒸気を含まない雰囲気下、不活性雰囲気下、例えば、後述の酸素を含まない雰囲気下または不活性雰囲気下で実施することができる。
【0062】
別の態様において、本発明は、ガラス強度およびガラスの破壊靭性を改善するためのコーティングを調製する方法であって、この方法は、
a)20重量%以下の水および60~95重量%のアルコールの存在下で、25重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドを含む組成物、
b)5~95重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、5~70重量%のアルコールと、20重量%以下の水と、0.5重量%以下の触媒と含む組成物、ならびに、
c)10~50重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、10~90重量%の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
を混合することを含み、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である、方法に関する。
【0063】
本発明のこの態様では、一般に、上述したものと同じ反応条件が使用される。組成物a)、b)、及びc)の個々の絶対重量は、a)+b)+c)の相対重量を100%とした場合の総合計重量となり、a)、b)及びc)の占有率は、それぞれ個々に、典型的には、a)については20~70重量%、b)については5~40重量%、c)については0~50重量%の範囲である。本発明の一実施形態において、組成物は、組成物a)が30~65重量%、組成物b)が5~35重量%、組成物c)が50重量%以下の比率で使用される。例えば、組成物は、組成物a)が40~65重量%、組成物b)が10~35重量%、組成物c)が50重量%以下の比率で使用される。別の実施形態において、組成物は、組成物a)が40~45重量%、組成物b)が10~15重量%、組成物c)が10~50重量%の比率で使用される。組成物a)、b)およびc)の量の合計は100重量%である。
【0064】
本発明のこの態様の一実施形態において、組成物a)を調製し、以下に記載するコーティング技術によって塗布し、続いて硬化させる。次の工程では、組成物b)を調製し、組成物c)を徐々に添加する。次いで、組成物b)およびc)の混合物を、下記のコーティング技術によって組成物a)でコーティングされたガラスに塗布し、続いて硬化させる。
一実施形態では、組成物a)が塗布され、次いで組成物b)およびc)の混合物が塗布され、硬化工程が実施される。
【0065】
上記の態様の一実施形態において、組成物a)またはb)は、50~90重量%の1種以上のアルコキシシランを含む。上記の態様の一実施形態において、組成物a)またはb)は、65~75重量%の1種以上のアルコキシシランを含む。
【0066】
上記の態様の一実施形態において、組成物a)、b)またはc)は、存在する場合、1~30質量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドを独立して含む。上記の態様の一実施形態において、組成物a)、b)またはc)は、存在する場合、5~25重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドを独立して含む。
【0067】
本明細書で提供される態様の一実施形態において、触媒は、0.1~1重量%の量で存在する。本明細書で提供される態様の一実施形態において、触媒は、0.1~0.5重量%の量で存在する。
【0068】
本明細書で提供される態様の一実施形態において、存在する水の量は、0重量%超であり、本明細書で提供される範囲内である。
【0069】
上記の態様の一実施形態において、組成物a)は、20~70重量%存在する。上記の態様の一施形態において、組成物a)は、30~65重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物a)は、40~65重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物a)は、40~66重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物a)は、40~50重量%存在する。
【0070】
上記の態様の一実施形態において、組成物b)は、5~40重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物b)は、5~35重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物b)は、10~35重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物b)は、10~30重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物b)は、10~25重量%存在する。
【0071】
上記の態様の一実施形態において、組成物c)は、0~50重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物c)は、5~50重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物c)は、10~50重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物c)は、15~50重量%存在する。上記の態様の一実施形態において、組成物c)は、20~50重量%存在する。
【0072】
上記の量の任意の組み合わせは、本発明によって包含される。
【0073】
本明細書で提供される本発明において使用されるアルコキシシランは、一般に、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または金属もしくは半金属のアルコキシドと反応することができる、すなわち、反応性基を有するかまたは水との反応により反応性基を提供することができる任意のアルコキシシランであってよい。一実施形態において、1種以上のアルコキシシランは、一般式RSi(OR4-xから選択されてよい。
【0074】
Rは、限定されるものではないが、例えば、C1~18アルキル、C1~18ヘテロアルキル、C1~18アルコキシ、C2~18アルケン、フェニル、R-(CH-およびR-O-(CH-、またはそれらの異性体もしくは多価体などの有機ラジカルから選択されてよい。
【0075】
1~18アルキル基は、例えば、1~18個の炭素原子、1~15個の炭素原子、1~12個の炭素原子、1~10個の炭素原子、1~6個の炭素原子、1~4個の炭素原子、1~3個の炭素原子、2個の炭素原子または1個のみの炭素原子を有する飽和直鎖または分岐非環状炭化水素である。アルキル基は、これらに限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、t-ペンチル、ネオ-ペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、およびオクタデシル、またはそれらの異性体もしくは多価体からなる群から選択されてよい。アルキル基は、さらなるアルキル基、水素、ハロゲン、および/または-CNなどで任意に置換されてよい。
【0076】
1~18ヘテロアルキル基は、1個以上の炭素原子が、酸素、硫黄および/またはケイ素からなる群から独立して選択されるヘテロ原子によって置換されている、上記で定義されたC1~18アルキル基である。
【0077】
1~18アルコキシ基は、酸素に特異的に結合した、上記で定義されたアルキル基である。代表的なアルコキシ基としては、これらに限定されないが、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシおよびn-ブトキシが挙げられる。
【0078】
2~18アルケン基は、2~18個の炭素原子を有し、1個以上の炭素-炭素二重結合を有する不飽和炭化水素であり、例えば、-CH=CH、-CH=CH-CH、-CH-CH=CH、-CH=CH-CH-CH、-CH=CH-CH=CHなどであるが、これらに限定されない。アルケン基は、任意に、さらなるアルキル基、水素、ハロゲン、および/または-CNなどで置換されていてもよい。
【0079】
上記式中のRは、水素、C1~18アルキル、(CO)-(R-もしくはC2~18アルケン、またはそれらの異性体もしくは多価体であってよい。一実施形態において、Rは、(CO)CH-O-(CH-であってよい。
【0080】
は、C1~18アルキル、またはその異性体もしくは多価体から独立して選択されてよい。
【0081】
Xは、0~3の整数であってよく、例えば、xは、1、2または3であってよい。nは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10のような0~10の整数であってよい。mは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10のような0~10の整数であってよい。
【0082】
好ましい一実施形態において、低鎖ポリマー分子を使用して、微小亀裂へのより良好な浸透を可能にする。さらなる実施形態において、低鎖ポリマーコーティング材料を最初に導入して、微小亀裂の先端への最良の浸透を可能にし、その後、第1のコーティングの上に、残りの裂け目を均等に充填する第2のコーティングを導入することができる。この技術を適用することにより、反応する「パートナー」、すなわち、末端Si-OH結合を有するコーティングされた化合物の可能な限り最大の被覆率が得られる。この点に関して、「低鎖ポリマー分子」は、15個未満の炭素原子、10個未満の炭素原子、8個未満の炭素原子、5個未満の炭素原子またはさらにそれ未満のような18個未満の炭素原子を有するアルキル基、ヘテロアルキル基、アルコキシ基またはアルケン基を有してよい。
【0083】
一実施形態において、1種以上のアルコキシシランは、(1)β-グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたは(2)γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのグリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルシラン、メトキシエチルシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシランおよびトリエチルメトキシシランから選択される。一実施形態において、アルコキシシランは、グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。好ましい実施形態において、アルコキシシランは、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。これらの化学物質は、多種多様であり、多くの化学物質供給業者から購入することができる。
【0084】
1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドは、一般に、1種以上のアルコキシシランと反応することができる任意の金属化合物から選択されてよい。例えば、これらの化合物の金属成分は、これらに限定されないが、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、銅、銀、金、パラジウム、白金、亜鉛、コバルト、ロジウム、イリジウム、セレン、テルル、またはポロニウムから選択されてよい。一実施形態において、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドは、アルミニウム、ケイ素および/またはチタンの酸化物および/またはアルコキシドから選択される。一実施形態において、金属は、チタンおよび/またはケイ素である。
アルコキシ基のアルキル部分は、これらに限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、t-ペンチル、ネオ-ペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、およびオクタデシル、またはそれらの異性体もしくは多価体から選択されてよい。さらなる一実施形態において、金属アルコキシドは、これらに限定されないが、B(OCH、B(OC、B(OC、Ti(OCH、Ti(OC、Ti(OC、Ti(OC、Zr(OC、Zr(OC、Zr(OC、Al(OC、Al(OC、Al(OC、Si(OCH、Si(OC、Si(OC、CHSi(CHまたは(CHSi(OCH)Cl、または上記で概説した金属の代わりに任意の他の金属であるものであってよい。アルキル基は、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のようなハロゲンで任意に置換されていてもよい。一実施形態において、アルコキシシランは、上記で定義された金属および/または半金属の酸化物および/または金属および/または半金属のアルコキシドのいずれかから選択される少なくとも2種の異なる金属化合物と反応する。一実施形態において、少なくとも2種の異なる金属化合物のうちの1種は、ケイ素化合物である。
【0085】
一実施形態において、上記の1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドは、セリウムの酸化物および/またはアルコキシドではない。一実施形態において、上記の1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドは、スズの酸化物および/またはアルコキシドではない。一実施形態において、上記の1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドは、アルミニウムの酸化物および/またはアルコキシドではない。
【0086】
一実施形態において、アルコキシシランは、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランであり、1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドは、チタンアルコキシドおよび/またはケイ素アルコキシドから選択される。例えば、アルコキシシランは、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランであってよく、1種以上の金属アルコキシドは、これらに限定されないが、B(OCH、Ti(OC、Ti(OC、Si(OCH、Si(OC、CHSi(CH、または(CHSi(OCH)Cl、または上記で概説した任意の他の金属から選択されてよい。
【0087】
一実施形態において、アルコキシシランは、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランであり、1種以上の金属アルコキシドは、B(OCH、Ti(OC、Ti(OC、Si(OCH、Si(OC、CHSi(CH、または(CHSi(OCH)Clである。
【0088】
さらなる一実施形態において、使用されるコーティングは、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとチタンアルコキシドとの加水分解重縮合の生成物である。
【0089】
提供されるコーティングは、それぞれの金属化合物がアルコキシ結合のみを有するのではなく、いくつかのアルキル結合を含む場合、疎水性にすることができる。これらの化合物のアルキル結合は、不活性であり、疎水性を有する末端の安定な基として残っている。疎水性は、前駆体コーティング溶液中に可溶性または分散性のフッ素化合物を含めることによっても、コーティングに誘導することができる。この分野で一般的に使用されるフッ素化合物、例えば、フッ素化アルキル基またはアルコキシ基を本発明のコーティングに使用することができるが、これらに限定されない。
【0090】
本発明に従って使用される例示的なコーティングは、限定されるものではないが、以下のものであってよい。
【0091】
【表1】
【0092】
コーティングは、コーティングが親水性または疎水性のいずれを有するかに応じて、適切な溶媒に可溶である。一実施形態において、溶媒は、有機溶媒である。一実施形態において、溶媒は、親水性溶媒である。溶媒の非限定的な例は、アルコールまたは水であり、必要に応じて界面活性剤によって増強される。一実施形態において、溶媒は、エタノール、プロパノール、水またはそれらの混合物であってよく、任意に界面活性剤を含んでもよい。溶媒の量は、コーティングの粘度および/または濃度および/または表面張力を適合させるために使用される。溶液の粘度および/または濃度および/または表面張力を制御することにより、表面欠陥の先端への浸透を制御することができる。
【0093】
コーティングの粘度は、所望の粘度を有する(出発)成分を具体的に選択することによっても制御することができる。一実施形態において、上述のガラス表面の亀裂への浸透は、コーティングまたはコーティング溶液の粘度を低下させることによって増大させることができる。
【0094】
本明細書で提供されるコーティングは、透明で非脆性であるが、実質的に基板ガラス表面と同程度に硬く耐摩耗性の膜としてガラス表面に堆積する可溶性有機-無機コポリマーの構造を提供する。
【0095】
上記に加えて、ガラス中に亀裂が形成されないことに関する好ましい影響は、溶融、ゴブ形成(または溶融ガラスの大気への他の曝露)、熱間成形(例えば、プレス、ブロー、フローティング、アップドロー、ダウンドロー、オーバーフロー溶融、チューブ延伸、ロッド延伸)のプロセス工程から、最終的にコーティングを塗布することを通じて、大気中のどこにも水蒸気(典型的には、周囲または圧縮空気中の湿度から)が存在しないようにすることによって期待することができる。水分子がガラス表面に存在しないようにすることによって、微小亀裂の形成を制限することができる。理論に縛られることを望むものではないが、ケイ素原子(4価)の完全な価電子帯を満たすために必要とされるヒドロキシル基は、4番目の原子価を完成させるために表面に(OH)基を必要とするので、水蒸気の存在は、亀裂の伝播を促進する可能性があると考えられる。水蒸気が存在しなければ、その原子価を満たすことはできず、理論によれば、亀裂が伝播するためにはかなり大きな力が必要である。例えば、大気中に存在する少量の水であっても、亀裂の伝播を引き起こすと考えられており、水が存在しないか、または少なくとも非常に低濃度であると、亀裂の伝播が大きく制限される可能性がある。
【0096】
コーティングによる亀裂の伝播は、とりわけ、コーティングが亀裂の先端まで亀裂を貫通して最大の効果を生み出すことによって防止される。
【0097】
一実施形態において、損傷したシリカ含有材料の表面は、そのエッジを含めてまたは含めずに、前処理される。前処理は、コーティングの接着性を改善し、および/またはガラス表面の微小亀裂の深さおよび/または微小亀裂の半径を減少させることができる。前処理は、任意の適切な(化学的)材料を用いて行うことができる。例えば、このような前処理は、フッ化水素酸を用いて、機械的エッジ研削を用いて、火炎研磨を用いて、レーザー処理を用いて、および/または任意の他のエッジ処理技術を用いて、または任意の他の適切な方法によって実施することができる。シリカ含有材料を前処理することによって、コーティングは、シリカ含有材料中の微小亀裂の表面に、より効果的にかつより完全に浸透することができ、さらに、特にシリカ含有材料のエッジに与えられる機械的欠陥を低減することができる。
【0098】
一実施形態において、シリカ含有(化合物を含むが、これに限定されない)材料は、多孔質材料または粉末の形態、例えば、ルースまたは圧縮(圧縮、プリプレグ、焼結など)された形態で、細孔全体または粉末クラスター内に部分的または全体的にコーティングに浸漬される。材料または粉末の浸漬は、細孔間、粒子間、または基板部品間の空隙の完全な浸漬を可能にするために、1秒を超えて、10秒を超えて、1分を超えて、1時間を超えて、1日を超えて、または1週間を超えて、またはそれ以上長く行ってもよい。次いで、浸漬された材料は、最終製品を調製するために、本明細書に記載されるように、形成され、硬化され、加熱され、さらにプレスされ、または焼結されてよい。粉末または多孔質材料は、浸透または浸漬の前にプリプレグ材料に形成されてよい。
【0099】
一実施形態において、シリカ含有材料、好ましくはガラスは、コーティングを塗布する前に、ガラス表面の微小亀裂の深さまたは半径のいずれか、または両方を減少させるために、転移温度T未満またはその付近またはそれ以上の適切な温度まで熱処理される。適切な温度は、転移温度T未満の少なくとも300Kである。他の実施形態において、転移温度T未満の適切な温度は、少なくとも100K、125K、150Kまたはそれ以上である。一実施形態では、衝撃冷却を適用することができる。衝撃冷却を伴うまたは伴わない熱処理は、コーティングが、ガラス基板中の微小亀裂の表面に、より効果的かつより完全に浸透することを可能にし得る。さらに、この方法は、ガラス基板の本体内の欠陥(例えば、粒子)を均質化または溶解さえも可能にし得る。
【0100】
一実施形態において、シリカ含有材料の不均一なエッジをもたらす切断または同様の方法から生じる任意の機械的欠陥は、コーティングを塗布する前に、化学エッチング、火炎研磨、規定されたエッジ研磨、または任意の他のエッジ平滑化方法、またはそれらの任意の組み合わせのいずれかで前処理される。
【0101】
本明細書で提供されるコーティングを使用すると、コーティングされていないガラス製品と比較して、ガラスの機械的強度が改善される。この増加は、使用されるコーティングに依存して制御可能であり、最小で50%の機械的強度の増加を提供し得る。一実施形態において、強度は、100%を超えて、150%を超えて、250%を超えて、300%を超えて、500%を超えて、1000%を超えて、1500%を超えて、2000%を超えて、5000%を超えて、または10000%さえも超えて増加される。ガラス強度は、元の未処理のガラス基板に対して、0.5倍超、1倍超、1.5倍超、2.5倍超、3倍超、5倍超、10倍超、15倍超、20倍超、50倍超、さらには100倍超増加する。この改善は、溶融、成形および冷却後の未処理ガラスのベースラインとなる機械的強度に関する。機械的強度の増加の制限は、安全性に関連する懸念によってのみ制限される可能性がある。機械的強度が増加すると、破断点で放出されて得られる利用可能なエネルギーが、より激しいエネルギー放出およびより小さなガラスセグメントまたは粒子のシャワーリングをもたらす。本発明によれば、機械的強度の改善を100%までの精度で容易に制御することができる。機械的強度の変化は、3点または4点のガラスプローブ、リング-オン-リングプローブ、器具が破壊するまでの任意の流体構築圧力による静水圧、単位時間当たりの力の増加(2つの異なるガラス集団の比較)、または他の方法などの当業者に公知の任意の方法によって測定することができる。化学結合の有効性は、定量的オージェ電子顕微鏡、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)技術、または当業者に公知の任意の他の方法によって証明することができる。
【0102】
一実施形態において、ガラス強度(および靭性)の改善は、50~5000%、例えば、50~4500%、50~4000%、50~3500%、50~3000%、または50~2500%である。一実施形態において、ガラス強度の改善は、5000%を超えるか、または10000%さえも超える。シリカ含有材料の強度の改善は、新しく製造されたシリカ含有材料または損傷したシリカ含有材料(新品または中古)を、本発明のコーティング組成物を用いて修理することによって達成することができる。また、延性が増加し、脆性が低下し得る。
【0103】
コーティングされたガラスは、少なくとも150MPaのガラス強度(および靭性)を有する。例えば、コーティングされたガラスは、少なくとも150MPa、200MPa、少なくとも250MPa、少なくとも500MPaまたはそれ以上の強度を有する。他の実施形態において、ガラス強度は、少なくとも120MPa、少なくとも100MPaまたは少なくとも75MPaであってよい。強度パラメータは、本明細書に記載される他のシリカ含有材料にも適用される。
【0104】
延性の増加に伴うガラス強度の増加は、コーティングされたガラスが高い温度差、例えば、周囲温度または高温から極低温への冷却、または極低温から周囲温度または高温への逆に耐えることを可能にし得る。例えば、コーティングされたガラスは、ガラスを周囲温度から非常に低い温度まで冷凍する場合または0℃未満の温度に保持されたガラスを非常に短い時間で解凍する場合に、50K超、100K超、150K超、200K超、または250K超の温度差に容易に耐えることができる。例示的な実施形態において、-78℃(195K)または-196℃(77K)または-269℃(4K)で保存され、非常に短い時間で室温に温められるバイアル(例えば、薬学的ワクチンのためのバイアル)は、ガラス強度およびガラス表面の延性の両方が本発明の適用によって有意に増加するので、破損しない。
【0105】
コーティングの屈折率は、コポリマー中の金属成分の相対濃度を調整することによって所望の値に調整することができる。
【0106】
本明細書で提供されるコーティングによってコーティングされたガラスは、ASTM-F735によって定義されるバイエル摩耗試験において300サイクル後に4%以下のヘイズを有してもよい。
【0107】
延性の増加に伴うガラス強度の増加は、コーティングされたガラスが、異なる角度で多かれ少なかれ高速でガラスに衝突する固体物体に由来するより高い衝撃力に耐えるか、または少なくともそれを可能にし得る。例示的な実施形態において、光起電ガラスパネル、太陽熱ガラスパネルもしくは管、または窓ガラスは、破損または他の損傷なしに、より大きなひょう玉または石がより高速でこれらのパネルに衝突することに耐える。さらなる例示的な実施形態において、コーティングされたガラスは、コーティングされたガラスに衝撃を与える弾丸、破城槌、または他の衝撃装置などの暴力的な行為によって引き起こされるより高い衝撃に耐える。
【0108】
延性の増加に伴うガラス強度の増加は、容器ガラス(ガラスボトル、ガラスジャー、飲料用ガラス、または閉鎖または開放された中空容積を有する他の任意のガラスを含むが、これらに限定されない)が、容器内部からの著しく高い圧力に耐えるか、または衝撃からの著しく高い力に耐えることを可能にし得る。例示的な実施形態において、二酸化炭素を含有する液体で充填されたボトル(容器)は、例えば周囲温度の上昇により、高い圧力または過剰な圧力を受けやすくなる可能性があり、したがって、ガラスボトル(容器)は、未処理ガラスと同じ圧力までより小さい壁厚で製造することができるか、または非常に高い圧力に耐えることができる。上記段落[0056]と同様に、効果を特定のガラスに限定することなく、例えば、ボトル、ジャー、または飲用グラスのような容器は、通常の衝撃で破損する対象のコーティングでコーティングされていないワイングラスと比較して、全く損傷することがないか、または少なくともわずかな損傷しか受けずに、床上への落下に耐えることができる。また、再利用可能なボトル(容器)は、本発明のコーティングでコーティングすることができ、したがって、ボトル(容器)を再び溶融して新しいボトル(容器)を形成する必要が生じる前に、デポジットまたは再利用システムにおいてはるかに長く使用することができる。デポジットまたは再利用システムにおけるこの延長は、エネルギーおよび原材料を節約することができる。
【0109】
コーティング中の追加のケイ素の存在は、コーティングとガラスとの間のより良好な結合を促進してもよく、屈折率を低下させて基板ガラスへのより良好な適合を得るとともに、コーティングのガラス表面へのより良好な接着性を得るという追加の利点を有してよい。これは、ケイ素アルコキシドが、過剰な水の下であっても、いくつかのアルコキシ結合を保持し、これらの結合が熱処理中にガラス表面のヒドロキシル結合と反応するという事実による。例えば、図2は、ガラス表面上のコーティングの化学結合の概略図であり、コーティングのガラスへの共有結合(a)およびホウ素配位変化によるナトリウムイオンの固定化を示す。
【0110】
本発明によれば、1つ以上のコーティングをガラス基板に塗布してよい。2つ以上のコーティングが塗布される場合、追加のコーティングは、異なる特性を有してよく、ガラス基板に異なる機能性または強化された機能性を提供してよい。例えば、異なるコーティングは、異なる強度を提供することができる。一実施形態において、1つのコーティング層は、第2のコーティングのためのより多くの共有結合を可能にするために、追加の酸素部位、またはこれらに限定されないが、硫黄、セレン、テルル、ポロニウム、銅、もしくはイッテルビウムなどの他の架橋2価種を提供してもよい。第2のコーティングまたはそれ以上のコーティングは、例えば、汚れ、風化、および/または破損力でのエネルギー放出による損傷に対して追加の保護を提供してもよく、または追加の耐摩耗性および/または耐薬品性を提供してもよい。第2のコーティングまたはさらなるコーティングでは、化学結合を選択的に形成して、亀裂の先端から表面まで層ごとにオングストローム以上の水準でコーティングを形成する結合の最良の均一性を確保し、ガラスの強度をさらに制御することができる。一実施形態において、耐摩耗性は、第2のコーティングまたはさらなるコーティングによって改善することができる。したがって、第2のコーティングまたはそれ以上のコーティングは、(1)汚損、風化および/または破損点でのエネルギー放出に由来する損傷に対する保護、(2)耐摩耗性の改善、(3)複屈折の改善、(4)屈折率の変更、(5)硬度の増加、(6)光起電装置または半導体装置の電圧誘起劣化からの保護、(7)-50%/+100%の精度内での、機械的強度の増加の設計強度への制御、(8)殺真菌特性、抗菌特性および/または抗ウイルス特性、および/または(9)疎水性による撥水、および/または疎油性による撥油、グリースなどを提供してよい。
【0111】
もう1つの重要な態様は、ガラス表面へのコーティングの塗布に関する。コーティングが亀裂の先端に到達するためには、酸素、窒素または水分子、あるいはアルゴン原子(または大気中に含まれる他の種)からの最も重要な拘束力がこれを妨げないことが望ましい。したがって、例えばヘリウム、水素、ネオン、乾燥空気、窒素、アルゴン、酸素、オゾン、二酸化炭素のような工業用ガスまたは特殊ガスによる制御された雰囲気または真空が、亀裂の先端へのコーティングの浸透を促進するのに有利である。一実施形態において、制御された雰囲気は、ヘリウム、水素、ネオン、酸素および/またはオゾンを使用することを特徴とする。一実施形態において、制御された雰囲気は、酸素を含まないことを特徴とする。真空は、950hPa以下、好ましくは500hPa未満、より好ましくは100hPa未満、さらにより好ましくは10hPa未満またはそれ未満の絶対圧力であってよい。一実施形態において、真空は、1hPa未満であってよく、または経済的に正当であるならば、より好ましくは、0.1Pa未満、または10-6Pa未満、または10-9Pa未満であってよい。制御された雰囲気は、塗布空間および/またはガラス出口から熱間成形装置までの空間に適用してよい。
【0112】
追加的または代替的に、化学溶液を溶媒の沸点よりわずかに低く加熱すること、および/またはガラス基板を十分に高い温度に加熱することは、亀裂を開くとともに、粘度を低下させ、コーティングの浸透を増加させて、より良好な浸透を可能にし、したがって、表面欠陥の修復を可能にする。上記に加えて、または上記に代えて、化学溶液を沸点以上に加熱することは、化学溶液を気体状態に変換するか、もしくは化学溶液をプラズマ状態にすることさえあり、および/またはガラス基板を十分に高い温度に加熱することは、亀裂を開くとともに、粘度をさらに低下させ、コーティングの浸透を増加させて、より良好な浸透を可能にし、したがって、表面欠陥の修復を可能にする。
【0113】
コーティングは、当業者に公知の種々の方法によって塗布することができる。例えば、コーティングは、液体(ゲルを含む)、気体、またはプラズマ状態のいずれかから塗布してよい。コーティングは、固体状態から、おそらくナノ粉末の形態で塗布できる可能性がある。コーティングは、この技術分野で使用される任意の適切な塗布技術で塗布することができる。一実施形態において、コーティングは、これらに限定されないが、浸漬コーティング、スプレーコーティング、ローラーコーティング、蒸着(CVD、PECVDなど)、噴霧、プラズマ外部蒸着、化学蒸着および/またはプラズマ誘起蒸着(PICVDなど)によって塗布することができる。コーティングは、コンクリートまたはセメント、あるいは溶媒または溶媒混合物を利用する任意の他の材料のようなある種の材料のための出発材料として使用されるHOのような適切な溶媒に添加され得る。これは、材料内のコーティングの完全かつ均一な分布を可能にする。
【0114】
例えば、ディップコーティングが適用される場合、引き上げ速度は、20mm/分~15,000mm/分(250mm/s)の範囲、例えば、50mm/分~10,000mm/分または100mm/分~1,000mm/分の範囲である。引き上げ速度が速いと、典型的には、より厚いコーティング膜が生成され、引き上げ速度が遅すぎると、引き上げ中にガラス基板表面上のコーティングが重合する可能性がある。したがって、理想的な引き上げ速度は、粘度、化合物の反応時間などの様々な要因に依存する。ディップコーティングプロセスの典型的な厚さは、1~10ミクロン、例えば3~7ミクロンである。厚さは、(実質的に)1ミクロン未満であり得、可能な限り低いコーティング厚さが所望される。
【0115】
一実施形態において、上記の組成物a)およびb)は、その後、上記の方法のいずれかによって塗布することができる。一実施形態において、組成物a)およびb)は、1つのスプレーノズルまたは2つ以上の異なるスプレーノズルのいずれかを用いて、スプレーコーティングまたは噴霧によって塗布することができる。この実施形態において、コーティングは、同時に、または引き続きのコーティング工程において塗布されてもよい。1つのスプレーノズルが適用される場合、化合物は、ノズル入口の前で予備混合される必要がある。2つ以上のスプレーノズルが適用される場合、化合物は、ノズル入口の前で予備混合されるか、または個々の組成物a)、b)および/またはc)は、別々のスプレーがガラス基板表面の手前またはガラス基板表面上で併合するように別々のノズルを通して注入される。各組成物a)、b)および/またはc)に対して別々のノズルを通して後続のコーティング工程を適用することも同様に適用することができる。ノズルが組成物を別々に噴霧する場合、任意のノズルを通して個々の組成物a)、b)またはc)に加えて、(i)a)およびb)、(ii)a)およびc)または(iii)b)およびc)の任意の予備混合された組み合わせをノズル入口に供給することができる。任意のノズルは、最適な噴化に対応する個々の形状を有してよい。一実施形態において、霧化は、いかなるキャリア種も使用せずに、圧力を用いて実現することができる。別の実施形態では、霧化は、圧縮空気または加圧ガスもしくは加圧ガス混合物、例えば、これらに限定されないが、窒素などの不活性ガスを用いて実現することができる。例えば、機械的または他のトリムワークまたは固定具、電気機械装置、またはプラズマのような他の霧化技術も可能である。
【0116】
コーティングの塗布は、触媒、例えば、限定されるものではないが、水、好ましくは脱イオン水、より好ましくは蒸留水、さらにより好ましくは多重蒸留水、例えば、いわゆる「二蒸留水」の使用によって補助され、例えば、コーティングとガラス基板上の亀裂中のヒドロキシル基との反応速度を増加させる。そのような触媒は、特定の種の存在であってもよく、または例えば温度、圧力、プラズマなどのような特定のプロセスパラメータであってもよい。
【0117】
微小亀裂の一部または全てを修復させるための反応に必要な共有結合を形成するための化学反応に必要とされない未使用または残留コーティングは、コーティングが塗布された後、結合および修復が効果的に行われるのに十分なコーティングが以前の亀裂内に残るように、例えば、コーティングされたガラスを水および/またはアルコールなどの適切な溶媒に浸漬するか、またはコーティングされたガラスを水および/またはアルコールなどの適切な溶媒ですすぐことによって除去(すなわち、回収)されることも本明細書に含まれる。適切な溶媒は、水、エタノール、イソプロパノール、またはそれらの混合物であり得るが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、使用される溶媒は、エタノールである。したがって、コーティングは、微小亀裂を修復する反応に必要な量を除いて残されず、その結果、コーティングが節約され、コーティングされていないものと本質的に同じ視覚的特性を示す無傷なガラスを可能にしながら、同じ強度の増加をもたらす。
【0118】
塗布後、コーティングを乾燥させて溶媒および過剰な水を除去し、次いで加熱してコーティングの連続的な縮合または沈殿重合を促進し、硬化させて緻密なガラス状膜にする。熱処理は、上記のコーティング方法とは無関係に行われる。熱処理は、適当な温度で適当な時間行えばよい。例えば、コーティングされたガラスは、100~500℃、例えば、100~400℃、100~300℃、または100~200℃で、30分間、60分間、2時間、または2時間を超えて熱処理されてよいが、これらに限定されない。プロセス温度が150℃より高く、さらに200℃より高いと、処理および/または硬化時間が短くなる可能性があり、これは一般的に好ましい。乾燥工程は、950hPa、好ましくは500hPa未満、より好ましくは100hPa未満、さらにより好ましくは10hPa未満またはそれ未満の絶対圧力の真空を使用することによって補助されてもよい。
【0119】
コーティングの塗布後、コーティングは硬化される。一実施形態において、塗布されたコーティングの硬化は、30℃を超える温度、例えば、50℃を超える温度、80℃を超える温度、100℃を超える温度、120℃を超える温度、130℃を超える温度、150℃を超える温度、200℃を超える温度、または300℃さえも超える温度で行われる。硬化温度は、硬化を達成するのに十分な時間の間適用される。例えば、硬化は、少なくとも100ms、200msもしくはそれ以上のようなミリ秒、少なくとも10秒、30秒、45秒もしくはそれ以上のような秒、または少なくとも1分、2分、3分、5分、10分、20分、30分もしくはそれ以上のような分に続く期間に実施してよい。
【0120】
別の実施形態において、硬化は、コーティングされたシリカ含有材料、好ましくはガラスを、適切な周波数および/または波長の特定の波に曝すことによって引き起こされる。適切な波長範囲/放射線の非限定的な例は、例えば、亜音速、音速または超音速範囲、可視範囲、紫外線範囲、極紫外線範囲、赤外線範囲、マイクロ波範囲、または分子を反応させる特定の相関波長(例えば、分子反応物群の個々の固有振動数)に応答する任意の他の異なる範囲などの超音波である。
【0121】
別の実施形態において、コーティングされたシリカ含有材料は、コーティングの前または後に焼き戻しに曝される。
【0122】
本発明の方法の一実施形態において、組成物a)および組成物b)、または組成物a)および組成物b)と組成物c)との混合物を、ガラス表面に順次塗布し、また順次硬化させてもよい。
【0123】
いくつかの熱間成形プロセスでは、水蒸気含有量が全くないか、または非常に少ない、絶対圧力が950hPa以下の制御された雰囲気または真空を生成することが可能であり、例えば、-20℃(253K)未満、より好ましくは-50℃(223K)以下、より好ましくは-78.5℃(194.7K)以下、経済的に正当化される場合には、より好ましくは-195.8℃(77.35K)以下、より好ましくは-246℃(27K)以下、より好ましくは-269℃(4K)以下の露点を有する調整された空気を、溶融ガラスの出口から成形装置全体またはさらにはアニーリング炉を通して生成することが可能であり、それによって、水がガラス表面と反応するのを可能な限り防止し、したがって、代わりに、ガラス表面と反応する化学物質の結果を改善する。
さらに、水蒸気の存在の欠如または顕著な減少は、亀裂形成プロセス中の亀裂の伝播を防止することができ、したがって、亀裂の深さおよびその結果生じる体積がより小さくなり、亀裂から生じる空隙へのコーティングの「浸透抵抗」が大幅に低減されるので、必要とされるコーティング材料が少なくなり得る。
【0124】
本発明では、バッチ貯蔵、バッチ混合、バッチ充填、適用可能であればバッチ予熱、溶融、精製、ゴブ形成、熱間成形などからコーティングの塗布までのプロセス工程のいずれか、またはバッチ貯蔵からコーティングの塗布までのプロセス全体の全部または一部を、任意に、非常に低い水蒸気圧(水蒸気分圧)を有する制御された雰囲気(上記のように)中で行うことができる。
【0125】
コーティングの使用は、すべてのガラス用途および製品に利益をもたらす。例えば、コーティングは、限定されるものではないが、例えば、飲料、蒸留酒、食品、医薬品;板ガラス(例えば、自動車、建築、太陽光発電、太陽熱)、電子機器(例えば、コンピュータディスプレイ、ラップトップディスプレイ、スマートフォン、ウエハレベルパッケージング);鏡または鏡基板、航空宇宙用途、天文学用途、眼科装置、光学装置、光学または他の通信用繊維、織物強化繊維、絶縁繊維、管および/またはロッドガラス(例えば、医薬品包装、太陽熱、太陽光発電、照明管用)、マスクブランク(マイクロリソグラフィー用)、ガラス、セラミック、ガラス-セラミック、または複合膜(例えば、電池、燃料電池用)、例えば、高精度反射器用のプレスガラス、LED用途またはOLED用途、浸出に対する保護としてのガラス粉末、または廃棄ガラス化ガラス(例えば、灰ガラス化、核廃棄物ガラス化)用の容器に適用することができる。
【0126】
本発明は、特定の種類のガラスに限定されず、任意のガラスおよび任意の目的に適用することができる。適切なガラスの種類には、ソーダ石灰、ホウ珪酸塩、アルミノ珪酸塩、オパールガラス、サファイア、フッ化カルシウム、カルコゲナイトガラス、シリカ(純粋またはドープ)、ガラスセラミック、セラミック、純粋石英または混ざり物のある石英、ガラス結晶または石英結晶、任意の種類のガラスまたはセラミックまたはガラスセラミックおよび少なくとも1つの他の材料からなる複合材料などが含まれるが、これらに限定されない。例えば、コーティングは、最低で450℃の高温、1100℃を超える温度、または1400℃を超える温度で溶融する全てのガラスに塗布することができる。一般に、上限温度に関して制限はない。すなわち、コーティングは、コーティングを塗布するのに適した温度に到達した時点で、すなわちコーティングが分解することなしに、溶融ガラスまたは成形ガラスに塗布されてよい。したがって、コーティングは、例えば、コーティング材料の分解が起こらない限り、転移温度(T)±300℃またはその付近で製造または形成されたすべてのガラス、または1200℃未満、1000℃未満、850℃未満、600℃未満、450℃未満、300℃未満、または150℃未満の温度でゾル-ゲル法を適用することによって製造されたすべてのガラスに塗布することができ、そのようなコーティングは、適切な温度に達したときに塗布される。一実施形態において、コーティングは、450℃未満の温度で塗布されてよい。
【0127】
一実施形態において、本発明のコーティングは、ポリマー基材には塗布されない。一実施形態において、本発明のコーティングは、ポリカーボネートには塗布されない。一実施形態において、本発明のコーティングは、アクリレートには塗布されない。
【0128】
本発明は、任意の熱間成形技術、特に限定されないが、プレスブロー(例えば、個々のセクション機械、NNPB(ナローネック圧力ブロー))、ブローブロー法、フロートガラス、圧延板ガラス、管成形(例えば、ダナー法、Vello法などによる管延伸)、プレス、アップドロー、ダウンドロー、オーバーフロー溶融、プレス、マウスブロー、鋳造、カルーセル型機械、管から容器への変換、およびガラス温度およびガラス温度分布を制御するための温度冷却または加熱装置などの、限定されないが、あらゆる可能な調製方法にも適している。
【0129】
一実施形態において、コーティングの塗布前に、溶融状態のガラスは、より薄いガラスを生成するため、および/またはガラス欠陥を低減するために、熱間成形プロセスの直後に延伸される。
【0130】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載されるコーティングを有するガラスまたはシリカ含有製品に関する。
【0131】
ガラス製品上のコーティングは、それぞれの目的に適した厚さを有することができる。例えば、コーティングは10ミクロン未満の厚さを有してよい。一実施形態において、コーティングは、5ミクロン未満、例えば3ミクロン未満または2ミクロン未満、またはさらには1ミクロン未満の厚さを有してよい。さらに薄いコーティングを塗布してもよい。コーティングは、コーティング溶液の粘度および/または濃度および/または表面張力、コーティングをガラスに塗布する時間、温度、雰囲気の制御、周囲圧力または上で規定した絶対圧力の真空などのいくつかの方法で制御し得る。一般に、より低い粘度は、コーティング液が微小亀裂に浸透する有効性に寄与し、その結果、より多くの反応パートナーが得られ、したがって、より多くの共有結合が形成される。
【0132】
コーティングをできるだけ薄くすることが一般的に好ましい。
【0133】
さらなる態様において、本発明は、本明細書で提供される方法によって調製されるコーティングに関する。
【0134】
さらに別の態様において、本発明は、
a)10重量%以下の水、30重量%以下のアルコールおよび1重量%以下の触媒の存在下で、50~85重量%の、一般式RSi(OR4-x (式中、Rは、有機ラジカルであり、Rは、水素およびC1~18アルキルまたはそれらの異性体もしくは多価体から独立して選択され、xは、0~3の整数である)の1種以上のアルコキシシランと、35重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドとを含む組成物、
b)20~100重量%の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、80重量%以下のアルコールと、20重量%以下の水と、1重量%以下の触媒とを含む組成物、ならびに
c)50重量%以下の、1種以上の金属もしくは半金属の酸化物および/または1種以上の金属もしくは半金属のアルコキシドと、100重量%以下の水と、100重量%以下のアルコールとを含む組成物
の混合物を含むコーティングであって、
a)、b)、c)およびそれらの混合物の重量割合は、それぞれ合計で100重量%である、コーティングに関する。
【0135】
本発明のこの態様において、上述の情報および特定の実施形態も適用される。
【0136】
さらに別の態様において、本発明は、本明細書で提供される1つ以上のコーティングをガラスに塗布することを含む、ガラスの(機械的)強度を改善する方法に関する。1つ以上のコーティングは、上記のように塗布される。この方法は、本明細書で提供される1つ以上のコーティングを調製する工程をさらに含んでよい。
【0137】
上記のすべての実施形態は、任意の可能な方法で組み合わせることができる。
特にガラスに関する実施形態は、本明細書に記載された他のシリカ含有材料にも適用される。
【実施例
【0138】
本発明をより詳細に説明し、本明細書の理解を助けるために、以下の非限定的な実施例は、本明細書の範囲を十分に説明するために提供され、その範囲を具体的に限定するものと解釈されるべきではない。
【0139】
実施例I
透明で、硬く、脆くないコーティング溶液を以下のように調製する。
100gのグリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【化1】
を100gのエチルアルコールCOHと混合する。この混合物に8gの水および0.3gの硝酸HNOを加えて10分間攪拌する。この手順では、化合物のメトキシ基を加水分解してヒドロキシ基に変換する。この後、40グラムのチタンエトキシドTi(OCも加えて、さらに10分間撹拌してヒドロキシル結合と反応させ、酸素を介してチタン化合物をグリシドキシプロピルシランの分子構造に化学的に結合させる。この手順によってチタンと有機成分とが化学的に結合すると、分離した縮合または沈殿を引き起こす恐れなしに追加の水を加えることができる。この水は、系のさらなる重合を引き起こして長鎖にし、構造から過剰な有機物を除去することによってコーティングの硬度をもたらす。
【0140】
多数の10cm×10cm、厚さ2mmのフロートガラスサンプルをこの溶液に浸漬することによってコーティングし、130℃で30分間熱処理する。それらの耐摩耗性は、ASTM F-735バイエル摩耗試験方法によって300サイクル試験され、コーティングされていないガラス表面の耐摩耗性と実質的に同程度である約1.0であることが見出された。これらのサンプルの強度は、ペンシルベニア州立大学で通常のリングオーバーリング法および「コーンクラック荷重」法によっても測定された。その結果を図3に示す。コーティングされていないガラスは、約100MPaの平均値を有する50~150MPaの典型的なベル型の強度分布を示した。一方、コーティングされたサンプルの試験では、約200~350MPaの範囲の強度分布が得られ、平均強度は約250MPaであり、強度は2.5倍増加した。図4は、ガラスサンプルの平均コーンクラック荷重の平均値と範囲の比較である。ガラスの「スズ側」(すなわち、ガラスが浮遊するスズ浴と接触するフロートガラスの底部)は、上記の現象および他の現象によって与えられた微細な欠陥のために、「空気側」(すなわち、フロートガラスの頂部)よりも著しく低い亀裂抵抗を有することが分かる。さらに重要なことは、スズ浴から出た後にガラスが引っ張られる表面を支持するスチールローラーの欠陥である。これらのローラーは、下部ガラス表面に擦り傷を生じさせることがある。スチールローラーの欠陥のいくつかは、切断プロセス中のガラス片によって引き起こされることがある。
【0141】
実施例II
チタンエトキシドの代わりにチタンイソプロポキシドTi(OCを使用したことを除いて、実施例Iと同様に耐摩耗性非脆性コーティング溶液を調製する。耐摩耗性および強度の結果はほぼ同じであった。
【0142】
実施例III
チタンエトキシドTi(OCの代わりにジルコニウムアルコキシドZr(OCおよびアルミニウムアルコキシドAl(OCを使用したことを除いて、実施例Iと同様に多数のコーティング溶液を調製した。
【0143】
実施例IV
100グラムのグリシドキシプロピルトリメトキシシランを100グラムのエチルアルコールCOHと混合する。この混合物に、8グラムの水および0.3グラムの硝酸を加えて、10分間撹拌する。次いで、40グラムのチタンイソプロポキシドTi(OCおよび5グラムのケイ素エトキシドSi(OCも加えて、さらに10分間撹拌し、それらをグリシドキシプロピルトリメトキシシランと重合させる。これが行われた後、150グラムの水および30グラムのエタノールを加えて、構造をより大きい分子サイズへとさらに重合させるとともに、構造から有機末端結合の大部分を除去する。
【0144】
この溶液をガラスサンプルにも塗布し、強度および耐摩耗性を試験した。実施例Iに示したのと同様の結果が得られた。
【0145】
実施例V
ケイ素を3グラムのケイ素メトキシドSi(OCHから導入したことを除いて、実施例IVと同様にコーティング溶液を調製した。結果は、実施例IVに示したものと同様であった。
【0146】
ガラスの厚さの関数としてガラスの強度に対するコーティングの効果を調査するために、実施例IVのように溶液を調製し、種々の厚さを有するフロートガラスサンプル上にコーティングした。ガラスが薄くなるにつれて、コーティングの有効性は増加した。コーティングは、ガラスの厚さが3mmの場合、ガラスの平均強度を130MPaから約250MPaへと増加させたが、ガラスの厚さが2mmの場合、300MPa以上へと増加させた。
【0147】
実施例VI
ケイ素エトキシドSi(OCの代わりに3グラムのケイ素メトキシドSi(OCHを使用したことを除いて、実施例IVと同様にコーティング溶液を調製する。結果は、実施例IVに示したものと同様であった。
【0148】
実施例VII
ケイ素メトキシドの代わりに4グラムのメチルトリメトキシシランCHSi(OCHをチタンイソプロポキシドと共に添加することを除いて、実施例IVと同様にコーティング溶液を調製する。得られたガラス上のコーティングは、ガラスを同様に強化するだけでなく、それを疎水性にして、追加の特性および水に関連した汚染および化学的影響に対する保護を提供する。
【0149】
実施例VIII
ケイ素エトキシドの代わりに2グラムのジメチルメトキシクロロシラン(CHSi(OCH)ClをチタンイソプロポキシドTi(OCと共に添加したことを除いて、実施例IVと同様にコーティング溶液を調製する。得られたコーティングは、ガラスを強化するだけでなく、疎水性でもあった。
【0150】
実施例IX
コーティング溶液を実施例IVのように調製する。溶液中に2グラムの市販のフッ素化合物を添加することによって疎水性を導入した。強度増加の結果は、コーティングが疎水性および疎オイル性(疎油性)であるという追加の特性を有することを除いて、実施例IおよびIVと同様であった。
【0151】
実施例X
以下の表1および2は、本明細書で提供されるコーティング(全てのコーティングされた例は本発明のコーティングの範囲内にある)の使用がガラス強度の改善をもたらすことを示すさらなる実験的証拠を提供する。
【0152】
【表2】
【0153】
【表3】
【0154】
実施例XI
図5aおよび5bは、本発明によるガラスの強化の例を示す。コーティングされていないサンプル(図5a)は、破壊に必要なエネルギーが比較的低い証拠である比較的中程度の破壊パターンを示す。ここでは、約79MPa(約11,600psi)の低い力が破壊パターンを生じさせた。対照的に、コーティングされたサンプル(図5b)は、破壊に必要な衝撃が比較的高く、したがってガラスの機械的強度が改善された証拠である比較的顕著な破壊パターンを示す。ここでは、約364MPa(約53,000psi)のより高い力が必要であった。表面コーティングの厚さは、約2.4ミクロンであった。
【0155】
実施例XII
図6は、コーティングされたガラスおよびコーティングされていないガラスの(ナトリウム)の脱アルカリ分析であり、コーティングは、末端シリカヒドロキシル結合-Si-OHを取り、反応後、例えば-O-Si-O-の代わりにホウ素-O-B-O-で酸素を架橋する。グラフは、60℃(140°F)で250ccのHOに浸漬された4.5インチ×4.5インチの透明なフロートガラスサンプルからの累積ナトリウム浸出を示す。グラフから分かるように、コーティングされていないガラスとは対照的に、改質された(コーティングされた)表面から浸出するナトリウムは本質的にない。
【0156】
実施例XIII
10~20Nを用いたビッカース圧痕法により機械的に損傷されたガラス表面は、ガラスに深刻な表面損傷を与える(図8は、顕微鏡を用いた異なる照明条件下で、意図的にビッカース圧痕により機械的に損傷されたソーダ石灰フロートガラスプローブを示す)。次に、本発明のコーティング溶液をガラス表面に塗布する。コーティングの際、30℃を超える温度で60分未満で硬化が起こる。図9は、コーティングなしのビッカース圧痕を有するソーダ石灰ガラスおよびホウケイ酸ガラスを左側に示し、ビッカース圧痕後のコーティングを有するソーダ石灰ガラスを右側に示し、さらに破壊試験結果の平均値を示したものである。図10は、ビッカース圧痕の表面構造の詳細な分析を示す。上面図は、デジタル顕微鏡からのコンピュータアニメーション化されたデジタル3-D画像上のビッカース圧痕の形態を示す。中央左側の垂直面は、下部に示すように、圧痕角度が解析された解析済み平面を意味する(ここでは、垂直および水平スケールが異なる)。ビッカース圧痕のV角は148.26°であり、ビッカース圧痕の深さは11.67μmである。中央右側は、図8の右下の画像と同じ画像である。
【0157】
図9に見られるように、以前の損傷は肉眼では見ることができず、顕微鏡下でも以前の損傷はほとんど見えない。さらに、ガラスの機械的強度は、損傷を受けていないガラスの元の値の水準に戻り、損傷を受けていないコーティングされていない元のガラスよりも10%未満低くなり、場合によっては、損傷を受けていない元のガラスと比較してより高い値にさえ戻る。図11は、(1)機械的に引き起こされた欠陥のないコーティングされていないガラス、(2)機械的に引き起こされた欠陥のあるコーティングされていないガラス(部分的に異なる温度で処理された)、および(3)機械的に引き起こされた欠陥のあるガラスサンプルであって、欠陥の適用後にコーティングされたもの(コーティング溶液1:グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、EtOH、HO、Ti(OC;コーティング溶液2:グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、EtOH、Si(OCH、HO、Ti(OC;コーティング溶液3:グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、EtOH、B(OCH、HO、Ti(OC;全て本明細書に開示された量)、および異なる温度に曝されたものについての破損試験の詳細な値を概説する。
【0158】
図11に見られるように、機械的に引き起こされた表面欠陥を修復するプロセスは、以下のとおりであった。(1)損傷のないサンプルセットを機械的破損について試験した。(2)サンプルセットをビッカース圧痕で事前に損傷したが、コーティングしなかった。その後、室温に保つか、または120℃、135℃もしくは150℃で30分間熱処理した後、機械的破損試験に供した。(3)他のすべてのサンプルは、最初にビッカース圧痕で事前に損傷した後、機械的破損試験に供する前に異なる溶液(処方)でコーティングした。添付の表1~表3は、試験に用いた溶液(処方)1、2および3の一般的な処方を示す。溶液1~3のいずれかを混合した後、概説したように、サンプルを120、135または150℃の硬化温度に曝した。溶液2および3ならびに135℃については、溶液を混合してから2時間後に、溶液をガラス基板に塗布した。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9
図10
図10-1】
図11
【国際調査報告】