IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-546015耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法
<>
  • 特表-耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 図1
  • 特表-耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241210BHJP
   C22C 38/34 20060101ALI20241210BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/34
C21D9/46 R
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527352
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 KR2022016307
(87)【国際公開番号】W WO2023090670
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】10-2021-0158941
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ,カヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョンフン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ムンス
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EB02
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FF03
4K037FG00
4K037FG10
4K037FJ07
4K037JA07
(57)【要約】
【課題】合金成分と製造工程を最適化し、耐食性と磁気的性質を向上させたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.0005%以上0.035%以下、N:0.005%以上0.05%以下、Si:0.1%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:16.0%以上20.0%以下、Mo:0%超過0.5%以下、Nb:0%超過0.5%以下、Ti:0.005%以上0.30%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が20以上であることを特徴とする。
式(1):Cr+(3*Mo+10*N+Si+Nb+Ti)/Mn
(前記式(1)において、Cr、Mo、N、Si、Nb、Ti、Mnは、各元素の重量%を意味する)。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.0005%以上0.035%以下、N:0.005%以上0.05%以下、Si:0.1%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:16.0%以上20.0%以下、Mo:0%超過0.5%以下、Nb:0%超過0.5%以下、Ti:0.005%以上0.30%以下、残りはFeおよび不可避な不純物からなり、
下記式(1)の値が20以上であることを特徴とする耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
式(1):Cr+(3*Mo+10*N+Si+Nb+Ti)/Mn
(前記式(1)において、Cr、Mo、N、Si、Nb、Ti、Mnは、各元素の重量%を意味する)。
【請求項2】
50Hz周波数帯域で最大透磁率(magneticpermeability)値が1,000以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
孔食電位(pitting potential)が200mV以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
表面結晶粒径が30μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
重量%で、C:0.0005%以上0.035%以下、N:0.005%以上0.05%以下、Si:0.1%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:16.0%以上20.0%以下、Mo:0%超過0.5%以下、Nb:0%超過0.5%以下、Ti:0.005%以上0.30%以下、残部はFeおよび不可避な不純物からなり、
下記式(1)の値が20以上のスラブを製造する段階、
前記スラブを1100~1300℃で再加熱する段階、
前記再加熱したスラブを熱間圧延し、熱延焼鈍して、熱延鋼板を製造する段階、および
前記熱延鋼板を冷間圧延し、冷延焼鈍後、酸洗して、冷延鋼鈑を製造する段階を含むことを特徴とする耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
式(1):Cr+(3*Mo+10*N+Si+Nb+Ti)/Mn
(前記式(1)において、Cr、Mo、N、Si、Nb、Ti、Mnは、各元素の重量%を意味する)。
【請求項6】
下記式(2)の値が50以上であることを特徴とする請求項5に記載の耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法:
式(2):[熱延焼鈍温度(℃)*熱延焼鈍時間(min)+1.1*(冷延焼鈍温度(℃)*冷延焼鈍時間(min))]/冷延圧下率(%)。
【請求項7】
前記熱延焼鈍は、950~1150℃で1.5~2.5分間行うことを特徴とする請求項5に記載の耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記冷延焼鈍は、1000~1200℃で1~2分間行うことを特徴とする請求項5に記載の耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
前記冷延焼鈍は、圧下率60~75%で行うことを特徴とする請求項5に記載の耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法に係り、より詳しくは、合金成分と製造工程を最適化し、耐食性と磁気的性質を向上させたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、スマートフォン、半自律走行自動車などの技術分野の発達に伴い、様々な電子機器を使用するにつれて、電磁波の利用が急増した。これによって、電子機器間の電磁波による干渉が増加した。電磁波の干渉は、機器の誤作動を誘発したり機器の精密制御を難しくする。電磁波干渉による電子機器の誤作動を防止するためには、磁場を遮蔽できる素材で重要部品を取り囲まなければならない。
一方、フェライト系ステンレス鋼は、透磁率が比較的高いながらも、耐食性を備えているので、耐食性と遮蔽機能が同時に必要な用途に多様に使用できる素材である。しかしながら、従来、高耐食性と高透磁率を同時に満足させることができる技術は多くなかった。
【0003】
特許文献1では、Si、Ti、Nb、Alの含有量の制御を通じて耐食性が向上したフェライト系ステンレス鋼を提供しようとした。しかしながら、電子機器に活用するための高透磁率を確保できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国特許第10-2302386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、合金成分と製造工程を最適化し、耐食性と磁気的性質を向上させたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.0005%以上0.035%以下、N:0.005%以上0.05%以下、Si:0.1%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:16.0%以上20.0%以下、Mo:0%超過0.5%以下、Nb:0%超過0.5%以下、Ti:0.005%以上0.30%以下、残りはFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が20以上であることを特徴とする。
式(1):Cr+(3*Mo+10*N+Si+Nb+Ti)/Mn
前記式(1)において、Cr、Mo、N、Si、Nb、Ti、Mnは、各元素の重量%を意味する。
【0007】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、50Hz周波数帯域で最大透磁率(magnetic permeability)値が1,000以上であることがよい。
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、孔食電位(pitting potential)が200mV以上であることができる。
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、表面結晶粒径が30μm以上であることが好ましい。
【0008】
本発明による耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.0005%以上0.035%以下、N:0.005%以上0.05%以下、Si:0.1%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:16.0%以上20.0%以下、Mo:0%超過0.5%以下、Nb:0%超過0.5%以下、Ti:0.005%以上0.30%以下、残りはFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が20以上のスラブを製造する段階、前記スラブを1100~1300℃で再加熱する段階、前記再加熱したスラブを熱間圧延し、熱延焼鈍して、熱延鋼板を製造する段階、および前記熱延鋼板を冷間圧延し、冷延焼鈍後、酸洗して、冷延鋼鈑を製造する段階を含むことを特徴とする。
式(1):Cr+(3*Mo+10*N+Si+Nb+Ti)/Mn
前記式(1)において、Cr、Mo、N、Si、Nb、Ti、Mnは、各元素の重量%を意味する。
【0009】
本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、下記式(2)の値が50以上であることがよい。
式(2):[熱延焼鈍温度(℃)*熱延焼鈍時間(min)+1.1*(冷延焼鈍温度(℃)*冷延焼鈍時間(min))]/冷延圧下率(%)。
本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法において、前記熱延焼鈍は、950~1150℃で1.5~2.5分間行うことができる。
【0010】
本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法において、前記冷延焼鈍は、1000~1200℃で1~2分間行うことが好ましい。
本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法において、前記冷延焼鈍は、圧下率60~75%で行うことがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、合金成分と製造工程を最適化し、耐食性と磁気的性質を向上させたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】式(1)による孔食電位の変化を示すグラフである。
図2】式(2)による最大透磁率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態による耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.0005%以上0.035%以下、N:0.005%以上0.05%以下、Si:0.1%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:16.0%以上20.0%以下、Mo:0%超過0.5%以下、Nb:0%超過0.5%以下、Ti:0.005%以上0.30%以下、残りはFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が20以上であることを特徴とする。
式(1):Cr+(3*Mo+10*N+Si+Nb+Ti)/Mn
前記式(1)において、Cr、Mo、N、Si、Nb、Ti、Mnは、各元素の重量%を意味する。
【0014】
以下では、本発明の実施形態を添付の図面を参照して詳しく説明する。
以下の実施形態は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施形態に限定されず、他の形態で具体化することができる。図面は、本発明を明確にするために、説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現することがある。
【0015】
明細書全体において、任意の部分がある構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対する記載がない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
単数の表現は、文脈上 明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
以下、本発明の実施形態における合金成分含有量の数値限定理由について説明する。以下では、特別な言及がない限り、単位は、重量%である。
【0016】
本発明の一実施形態による耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.0005%以上0.035%以下、N:0.005%以上0.05%以下、Si:0.1%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:16.0%以上20.0%以下、Mo:0%超過0.5%以下、Nb:0%超過0.5%以下、Ti:0.005%以上0.30%以下、残りはFeおよび不可避な不純物をからなる。
【0017】
C(炭素)の含有量は、0.0005%以上0.035%以下である。
Cの含有量が多くなれば、不純物が増加するので、Cの含有量を低減する必要がある。ただし、Cの含有量が低すぎると、精錬費が高くなる。これを考慮して、Cは、0.0005%以上添加することができる。しかしながら、Cの含有量が過剰な場合には、延伸率が低下し、軟性-脆性遷移温度(DBTT,Ductile-Brittle Transition Temperature)が上がって衝撃特性が悪くなる。これを考慮して、C含有量の上限は、0.035%であることがよい。
【0018】
N(窒素)の含有量は、0.005%以上0.05%以下である。
Nの含有量が少なすぎる場合には、TiN晶出が少なくなって、スラブの等軸晶率が低くなる。これを考慮して、Nは、0.005%以上添加することがよい。しかしながら、Nの含有量が過剰な場合には、延伸率が低下し、衝撃特性が悪くなる。これを考慮して、N含有量の上限は、0.05%であることがよい。
【0019】
Si(シリコン)の含有量は、0.1%以上2.0%以下である。
Siは、フェライト相形成元素であり、硬度を増加させることができる。これを考慮して、Siは、0.1%以上添加することがよい。しかしながら、Siの含有量が過剰な場合には、 延伸率が低下し、Si系介在物が増加し、加工性が低下するおそれがある。これを考慮して、Si含有量の上限は、2.0%に制限することが好ましい。
【0020】
Mn(マンガン)の含有量は、0.1%以上0.5%以下である。
Mnの含有量が少なすぎる場合には、微細なMnS析出物が形成され、結晶粒の微細化による磁性弱化を誘発することになる。これを考慮して、Mnは、0.1%以上添加することがよい。しかしながら、Mnの含有量が過剰な場合には、析出物の分率が増加するので、かえって磁性が低下するおそれがある。これを考慮して、Mn含有量の上限は、0.5%に制限することが好ましい。
【0021】
Cr(クロム)の含有量は、16.0%以上20.0%以下である。
Crは、Siとともにフェライト相安定化元素であり、フェライト相の確保に主な役割をするだけでなく、耐食性を向上させるために必須に添加される元素である。これを考慮して、Crは、16.0%以上添加することがよい。しかしながら、Crの含有量が過剰な場合には、スラブ内デルタ(δ)フェライト形成を助長し、伸び率および衝撃靭性が低下し、熱延スティッキング(sticking)欠陥が発生するおそれがある。これを考慮して、Cr含有量の上限は、20.0%に制限することが好ましい。
【0022】
Mo(モリブデン)の含有量は、0%超過0.5%以下である。
Moは、Crと共にフェライトを安定化し、耐食性の改善に効果的な元素である。しかしながら、Moは、結晶粒の微細化による磁性弱化を誘発することがある。これを考慮して、Mo含有量の上限は、0.5%に制限することが好ましい。
【0023】
Nb(ニオブ)の含有量は、0%超過0.5%以下である。
Nbの含有量が過剰な場合には、Nb系析出物が過度に増加し、結晶粒径が十分に大きくならないことがある。したがって、Nb含有量が過剰な場合には、透磁率が低下する問題が発生するおそれがある。これを考慮して、Nb含有量の上限は、0.5%以下に制限することがよい。
【0024】
Ti(チタン)の含有量は、0.005%以上0.30%以下である。
Tiは、析出を起こして強度を向上させるのに効果的な元素である。これを考慮して、Tiは、0.005%以上であることができる。しかしながら、Ti含有量が過剰な場合には、結晶粒の微細化による透磁率の低下を誘発することがある。これを考慮して、Ti含有量の上限は、0.30%に制限することが好ましい。
【0025】
本発明の残部の成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあり、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者なら誰でも知ることが出来るので、そのすべての内容を特に本明細書では言及しない。
【0026】
本発明の一実施形態による耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、下記式(1)の値が20以上である。
式(1):Cr+(3*Mo+10*N+Si+Nb+Ti)/Mn
前記式(1)において、Cr、Mo、N、Si、Nb、Ti、Mnは、各元素の重量%を意味する。
【0027】
図1は、式(1)による孔食電位の変化を示すグラフである。
図1を参照すると、式(1)の値が大きいほど孔食電位が大きくなることが分かる。特に、高耐食性の確保のための孔食電位値を200mV以上に維持させるためには、式(1)の値が20以上になるように合金成分の範囲を制御することがよい。
【0028】
本発明の一実施形態による耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、50Hz周波数帯域で最大透磁率(magnetic permeability)値が1,000以上である。
後述するように、ステンレス鋼の磁気的性質に影響を及ぼす主な工程因子である熱延焼鈍温度、熱延焼鈍時間、冷延圧下率、冷延焼鈍温度および冷延焼鈍時間を制御することによって、最大透磁率値を1,000以上に確保することができる。
【0029】
本発明の一実施形態による耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、表面結晶粒径が30μm以上である。
表面結晶粒径が微細であるほど、磁気的性質が劣るおそれがある。したがって、本発明は、Mn、Mo、NbおよびTiなどの含有量を最適化して、表面結晶粒径を30μm以上に制御することによって、磁気的性質を向上させたものである。
【0030】
次に、本発明による耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
本発明の一実施形態による耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.0005%以上0.035%以下、N:0.005%以上0.05%以下、Si:0.1%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:16.0%以上20.0%以下、Mo:0%超過0.5%以下、Nb:0%超過0.5%以下、Ti:0.005%以上0.30%以下、残りはFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が20以上のスラブを製造する段階、前記スラブを1100~1300℃で再加熱する段階、前記再加熱したスラブを熱間圧延し、熱延焼鈍して、熱延鋼板を製造する段階、および前記熱延鋼板を冷間圧延し、冷延焼鈍後、酸洗して、冷延鋼鈑を製造する段階を含むことがよい。
式(1):Cr+(3*Mo+10*N+Si+Nb+Ti)/Mn
前記式(1)において、Cr、Mo、N、Si、Nb、Ti、Mnは、各元素の重量%を意味する。
【0031】
前記各合金組成の成分範囲および前記式(1)の数値限定理由は、上述したとおりであり、以下では、各製造段階についてより詳細に説明する。
まず、前記合金組成および前記式(1)を満たすスラブを製造した後、一連の再加熱、熱間圧延、熱延焼鈍、冷延焼鈍および酸洗する工程を経ることができる。
次に、製造したスラブを1100~1300℃で再加熱することがよい。
再加熱温度が低い場合には、スラブ鋳造中に生成された粗大な析出物を再分解しにくいことがある。これを考慮して、再加熱温度は、1100℃以上であることがよい。しかしながら、再加熱温度が高すぎる場合には、内部結晶粒があまりにも粗大化するおそれがある。これを考慮して、再加熱温度の上限は、1300℃に制限する。
【0032】
本発明の一実施形態による耐食性および磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法では、下記式(2)の値が50以上であることがよい。
式(2):[熱延焼鈍温度(℃)*熱延焼鈍時間(min)+1.1*(冷延焼鈍温度(℃)*冷延焼鈍時間(min))]/冷延圧下率(%)
【0033】
図2は、式(2)による最大透磁率の変化を示すグラフである。
図2を参照すると、式(2)の値が大きいほど最大透磁率が大きくなることが分かる。したがって、磁気的性質に影響を及ぼす主な工程因子である熱延焼鈍温度、熱延焼鈍時間、冷延圧下率、冷延焼鈍温度および冷延焼鈍時間を含む前記式(2)の値を50以上に制御することによって、ステンレス鋼の磁気的性質を向上させることができる。
【0034】
一方、前記熱延焼鈍は、950~1150℃で1.5~2.5分間行うことができる。
熱延焼鈍温度が低かったり実行時間が短い場合には、結晶粒が十分に大きくならず、磁気的性質に悪影響を与えることがある。しかしながら、熱延焼鈍温度が高すぎるか、実行時間が非常に長い場合には、結晶粒の粗大化によって強度が低下するおそれがある。これを考慮して、前記熱延焼鈍は、950~1150℃で1.5~2.5分間行うことがよく、より好ましくは、1000~1100℃で2~2.5分間行うことである。
【0035】
前記冷延焼鈍は、1000~1200℃で1~2分間行うことができる。
冷延焼鈍温度が低かったり実行時間が短い場合には、結晶粒が十分に大きくならず、磁気的性質に悪影響を与えることになり、伸び率が低下するおそれがある。しかしながら、冷延焼鈍温度が高すぎるか、実行時間が非常に長い場合には、結晶粒の粗大化によって強度が低下するおそれがある。これを考慮して、前記冷延焼鈍は、1000~1200℃で1~2分間行うことがよく、より好ましくは、1100~1200℃で1.5~2分間行うことである。
【0036】
一方、前記冷延焼鈍は、圧下率60~75%で行うことができる。
圧下率が低下すると、結晶粒径が大きくなって、磁気的特性の観点から有利であるが、圧下率が小さすぎると、加工性の観点から不利になることがある。したがって、前記冷延焼鈍は、圧下率60~75%で行うことが好ましい。
【0037】
以下では、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を例示して具体化するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。これは、本発明の権利範囲が特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるためである。
{実施例}
【0038】
下記の表1に示した様々な合金成分範囲を有するスラブを溶解炉で製造した。製造したスラブを1250℃で再加熱した後、下記の表2に示した熱延焼鈍温度、熱延焼鈍時間、冷延焼鈍温度、冷延焼鈍時間および冷延圧下率の条件を適用し、冷延鋼鈑を製造した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
下記の表3には、式(1)の値、式(2)の値、孔食電位および最大透磁率を示した。
式(1)の値は、下記式(1)の値を計算して示した。
式(1):Cr+(3*Mo+10*N+Si+Nb+Ti)/Mn
前記式(1)において、Cr、Mo、N、Si、Nb、Ti、Mnは、各元素の重量%を意味する。
式(2)の値は、下記式(2)の値を計算して示した。
式(2):[熱延焼鈍温度(℃)*熱延焼鈍時間(min)+1.1*(冷延焼鈍温度(℃)*冷延焼鈍時間(min))]/冷延圧下率(%)
【0042】
孔食電位は、電位可變器(Potentiostat)を用いて測定した。この際、ステンレス鋼をNaCl溶液に浸漬し、20mV/minの電圧を印加したとき、電流が100μAに到達する電位(pitting potential)を測定した値を示した。ここで、前記NaCl溶液の温度は30℃であり、濃度は3.5%に設定した。なお、孔食電位値が高いほど、耐食性に優れることを意味する。
最大透磁率は、Brockhaus社製のSingle Sheet Testを用いて測定した。なお、最大透磁率が高いほど磁気的性質に優れると評価することができる。
【0043】
【表3】
【0044】
表3を参照すると、実施例1および2は、本発明において特定する合金組成の成分範囲、式(1)、製造工程および式(2)を満たしており、孔食電位が200mV以上、最大透磁率が1000以上を満たした。しかしながら、比較例1~4は、式(1)の値が20以上を満足しなかった。このため、比較例1~4は、孔食電位が200mV以上を満足しなかった。すなわち、比較例1~4は、耐食性が劣っていた。
また、比較例1~3および比較例5~7は、式(2)の値が50以上を満足しなかった。このため、比較例1~3および比較例5~7は、最大透磁率が1000以上を満足しなかった。すなわち、比較例1~3および比較例5~7は、磁気的性質が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の一実施形態によれば、合金成分と製造工程を最適化し、耐食性と磁気的性質を同時に向上させたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供できることから、産業上の利用可能性が認められる。
図1
図2
【国際調査報告】