(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】MIRNA抑制剤を利用した血管平滑筋細胞増殖性疾患の診断、予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241210BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20241210BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20241210BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241210BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20241210BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20241210BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20241210BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241210BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20241210BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20241210BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20241210BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241210BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241210BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/7088
A61K31/711
A61P9/10 101
A61P9/12
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/06
A61P9/08
A61P9/10
A61P9/10 103
A61K48/00
G01N33/50 P
G01N33/53 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527420
(86)(22)【出願日】2022-11-09
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 KR2022017553
(87)【国際公開番号】W WO2023085772
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0153320
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519463570
【氏名又は名称】バステラ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VASTHERA CO.LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】カン、サン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】イ、サン-ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】キム、イェリン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G045CB01
2G045DA14
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
4C084AA17
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA421
4C084ZA451
4C084ZC411
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA42
4C086ZA45
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、miRNA(microRNA)抑制剤を有効成分として含む血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療用薬学組成物;miRNAを検出できる製剤を含む血管平滑筋細胞増殖性疾患診断用キット;前記疾患診断の情報提供方法;及び治療方法に関する。本発明は、平滑筋細胞の増殖性疾患に関与するmiRNAのsubset、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pを発掘し、これらmiRNAは、対照群に比べて損傷動脈で5倍以上に顕著に発現が増加し、特に、miR-370-3pは動脈硬化患者の管状組織で高発現を確認することにより、これと関連した疾患の診断に有用であり、さらにそれを用いた血管平滑筋細胞増殖性疾患の治療用途としても活用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
miRNA(microRNA)抑制剤を有効成分として含む血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記miRNAは、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5pまたはmiR-410-3pからなる群から選択された一つ以上である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記miRNA抑制剤は、損傷動脈で上方発現したmiRNAを抑制することにより試験管内血管平滑筋細胞機能及び生体内新生内膜増殖を調節するものである、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記miRNA抑制剤は、miRNAに特異的なsiRNA、アプタマー(aptamer)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及び化合物で構成された群から選択されたいずれか一つ以上である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記血管平滑筋細胞増殖性疾患は、血管狭窄症、血管再狭窄症、粥状動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、心不全症、心筋梗塞症、狭心症、不整脈症、高血圧性心疾患症、先天性心疾患症、脳卒中及び末梢血管狭窄症からなる群から選択された疾患である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項6】
miRNAを検出できる製剤を含む血管平滑筋細胞増殖性疾患診断用キット。
【請求項7】
前記miRNAは、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5pまたはmiR-410-3pからなる群から選択されたものである、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記キットは、マイクロアレイ、アプタマー・チップ・キット、エライザ(ELISA,enzyme linked immunosorbent assay)キット、SAGE(Serial Analysis of Gene Expression)キット、qRT-PCR(quantitative real time PCR)キットまたはそれらの組み合わせからなる群から選択されたものである、請求項6に記載のキット。
【請求項9】
分離した生物学的試料でmiRNAの発現水準を測定する段階;及び
対照群で前記miRNAの発現水準が増加すると、血管平滑筋細胞増殖性疾患にかかる危険があると判定する段階を含む血管平滑筋細胞増殖性疾患診断の情報提供方法。
【請求項10】
前記miRNAは、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5pまたはmiR-410-3pからなる群から選択されたものである、請求項9に記載の情報提供方法。
【請求項11】
前記生物学的試料でmiRNA標的遺伝子の発現水準が対照群に比べて減少するかどうかを判定する段階をさらに含む、請求項9に記載の情報提供方法。
【請求項12】
前記分離した生物学的試料は、動脈硬化症患者の血液または管状組織切片である、請求項8に記載の情報提供方法。
【請求項13】
miRNA発現抑制剤及び薬学的に許容可能な担体を含む血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療用薬学組成物をこれを必要とするヒトを除いた個体に投与することを含む、血管平滑筋細胞増殖性疾患の治療方法。
【請求項14】
前記miRNAは、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5pまたはmiR-410-3pからなる群から選択されたものである、請求項13に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、miRNA(microRNA)抑制剤を有効成分として含む血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療用薬学組成物;miRNAを検出できる製剤を含む血管平滑筋細胞増殖性疾患診断用キット;前記疾患診断の情報提供方法;及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正常の動脈血管は、健康な内皮細胞(EC)の単層と収縮性平滑筋細胞(平滑筋細胞)の二つの主な細胞類型で構成される。しかし、血流障害と結合された低密度リポタンパク質の内部蓄積はECに炎症を起こすことがあり、単球/マクロファージは炎症があるEC病変に付着してEC単層に浸透し、脂質粒子を吸収して泡沫細胞となる。生成されたマクロファージ駆動泡沫細胞と動脈硬化病変の免疫細胞は、逆分化及び繊維性キャップ形成のために平滑筋細胞を刺激する多くの成長因子とサイトカインを分泌する。初期炎症反応を含む全粥状形成過程は、結局、動脈内腔の閉塞をもたらすようになる。現在、動脈硬化症の患者で閉鎖された動脈を復旧できる唯一の方法は、血管成形術とステント手術を併行することであるが、手術後には内皮損傷により主な合併症である血栓症が生じ、これは、ステント内再狭窄という追加の新生内膜の増殖を誘発する。このような再狭窄合併症の過程は、再び動脈硬化の後期段階で逆分化された平滑筋細胞の増殖及び移動と類似し、したがって、これは、如何なる標的接近法も動脈硬化を予防するための正しい解決策になり得ないことを示唆する。
【0003】
microRNA(略称miRNA)は、1993年に線虫でlin-4遺伝子を研究していた中に発見された後、miRNAの翻訳調節因子としての機能が過去数十年間に多くの関心を集めてきた。miRNAのユニークな特徴は、3’UTRにおいて種々の遺伝子の発現を同時に調節することであり、実際に、種々の研究で血管平滑筋細胞の成長を調節する血管miRNAを見出して特性化することを試みた(Farina、2020 #2619;Torella、2018 #2618;Ji、2007 #2617)。それにもかかわらず、げっ歯類とヒトの共通の血管miRNAのゲノム全体に対するスクリーニングはなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような背景下に、本発明者らは、動脈平滑筋細胞の過増殖及び移動に関連した血管miRNAをスクリーニングすべく鋭意努力研究した結果、平滑筋細胞の増殖を示す標準動物モデルを用いて動脈平滑筋細胞の増殖及び移動を調節する重要な4つのmiRNAを確認し、特に、miR-370-3pが粥状動脈硬化症において非常に重要な平滑筋細胞の増殖性疾患に関連した新たなmiRNAであることを確認することにより、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの目的は、miRNA(microRNA)抑制剤を有効成分として含む血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療用薬学組成物を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、miRNAを検出できる製剤を含む血管平滑筋細胞増殖性疾患診断用キットを提供することにある。
【0006】
本発明の他の一つの目的は、血管平滑筋細胞増殖性疾患診断の情報提供方法を提供することにある。
本発明の他の一つの目的は、miRNA発現抑制剤を含む前記薬学組成物をこれを必要とするヒトを除いた個体に投与することを含む血管平滑筋細胞増殖性疾患の治療方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、血管平滑筋細胞の増殖性疾患に関与するmiRNAのsubset、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pを発掘し、これらmiRNAは、対照群に比べて損傷動脈において5倍以上に顕著に発現が増加し、特に、miR-370-3pは、動脈硬化患者の管状組織で高発現を確認することにより、前記疾患の診断に有用に使用され、さらに、それを用いた血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療用途としても活用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1a】バルーン損傷動脈動物モデルからシャム対照群(sham control)と比較して動脈損傷3日及び5日に差異発現したmiRNAに対するヒートマップ分析である。
【
図1b】差異発現したmiRNA中の発現量が5倍以上変化を示した8個の上方制御されたmiRNAと2個の下方制御されたmiRNAを示したグラフである。
【
図1c】
図1bの上方制御された8個のmiRNA中、6個がヒト平滑筋細胞において著しく発現したことを確認したグラフである。
【
図2a】上方制御されたmiRNAの役割を確認するために、miRNA抑制剤でトランスフェクションされたヒト血管平滑筋細胞を用いて確認した結果、miR-132-3p及びmiR-370-3pが平滑筋細胞の増殖に有意な抑制効果を示し、miR-130b-5p、miR-132-3p及びmiR-410-3pが単球の付着を顕著に抑制することを確認したグラフである。
【
図2b】miR-132-3p及びmiR-370-3p抑制剤が細胞周期G1段階で細胞周期停止を誘導し、ヒト血管平滑筋細胞の時間依存的増殖を抑制することを示したグラフである。
【
図2c】miR-132-3p及びmiR-370-3p抑制剤が細胞周期G1段階で細胞周期停止を誘導し、ヒト血管平滑筋細胞の時間依存的増殖を抑制することを示したグラフである。
【
図2d】miR-132-3p及びmiR-370-3p抑制剤がサイクリン依存性キナーゼ抑制剤であるp21及びp27の水準を顕著に増加させることを示したグラフである。
【
図2e】miR-132-3p抑制剤がSMA水準を回復させることにより、平滑筋細胞が収縮表現型に転換されたことを通じて、miR-132-3pが平滑筋細胞表現型転移に関与することを確認したグラフである。
【
図2f】F-アクチンフィラメントを通じてヒト血管平滑筋細胞の合成表現型がmiR-132-3p抑制剤により収縮表現型に変形されたことを再度確認したグラフである。
【
図3a】選択された4個のmiRNAのIn situ ハイブリダイゼーション(in situ hybridization)を通じた動脈発現水準を確認した結果、miR-132-3p及びmiR-370-3pはバルーン損傷動脈で顕著に増加し、miR-130b-5p及びmiR-410-3pはバルーン損傷により誘導されることを確認したものである。
【
図3b】選択された4個のmiRNA抑制剤のカテーテル媒介局所的壁内伝達が対照群に比べてバルーン損傷病変で新生内膜増殖を顕著に退行させることを確認した写真及びグラフである。
【
図3c】miRNA中でもmiR-130b-5p抑制剤が再内皮化(re-endothelialization)を通じてEC単層の回復を促進することにより、ECにおける抗増殖効能を示すものである。
【
図4a】損傷動脈において差異的に発現した遺伝子(differentially-expressed genes,DEGs)をプロファイリングしたものである。
【
図4b】ヒートマップ分析を通じて上方制御及び下方制御されたDEGを確認したものである。
【
図4c】real time PCRを通じて、選択された4個のmiRNAの予想標的遺伝子のシャム対照群に比べてバルーン損傷頸動脈で下方制御されたことを確認したグラフである。
【
図4d】real time PCRを通じて、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3p miRNAそれぞれの標的遺伝子がSOCS2、BMP7、TSPAN2及びSMAD6であることを確認したグラフである。
【
図5a】動脈硬化症II型及びIV型病変があるヒト患者の管状組織切片においてmiR-370-3pの高発現を確認したものである。
【
図5b】血清刺激を通じてmiR-370-3pとBMP7との関係を調査したものであり、血清刺激はmiR-370-3p発現を誘導したが、BMP7発現は減少させた。
【
図5c】miR-370-3p抑制を通じて血管平滑筋細胞においてBMP7タンパク質水準が増加することを確認したものである。
【
図5d】miR-370-3p模倣体がヒトBMP7-3’UTRのmiR-370-3p標的領域内の2個の連続ヌクレオチドを突然変異させた陰性対照群ではない野生型UTRを含有するルシフェラーゼ発現を減少させることを確認したものである。
【
図5e】BMP7処理による血管平滑筋細胞においてSMAD1/5/9リン酸化誘導を確認したものである。
【
図5f】siRNAトランスフェクションによりBMP7が減少することによりmiR-370-3p抑制剤により抑制された平滑筋細胞増殖が回復することを立証したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
これを具体的に説明すると、次の通りである。ただし、下記の具体的な記述により本発明の範疇が制限されるとは見られない。即ち、本発明で開示されたそれぞれの説明及び実施形態はそれぞれの異なる説明及び実施形態にも適用されることができ、本発明で開示された多様な要素のすべての組合せが本発明の範疇に属する。
【0010】
本発明の一態様として、前述した目的を達成するために、本発明は、miRNA(microRNA)抑制剤を有効成分として含む血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、miRNA(microRNA)抑制剤の血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療用途を提供する。
本出願において、用語「miRNA」は、microRNA、マイクロRNAなどと記載することができ、生物の遺伝子発現を制御する役割をするsmall RNAであり、具体的には、ターゲットmRNA 3’UTR(untranslated region)との相補的な塩基対配列によるターゲットmRNA翻訳の抑制を通じて、遺伝子発現過程で重要な調節の役割をする20~25個のヌクレオチドを含むsmall RNAである。前記miRNAは、増殖、分化、アポトーシスなどを含む細胞機能において重要な役割をし、あらゆる動物に存在する進化的に保存された調節物質であり、一部のmiRNAは、そのプロモーター部位と関連したエピジェネティックな調節機構(ヒストン修飾、DNAメチル化など)を通じて遺伝子発現調節を起こすことができる。
【0012】
本発明で用いるmiRNAは、平滑筋細胞の過増殖、表現型の転移、移動などを調節するものであり、バルーン損傷動脈モデルを通じて具体的には、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pを決定した。また、これらの核心標的遺伝子をさらに確認し、特に、miR-370-3pは、粥状動脈硬化症に関連した新たなmiRNAであることを発見したものであり、本発明者らにより最初に糾明された。
【0013】
本発明の用語、「miRNA抑制剤」とは、細胞内における各miRNAの発現または活性を減少させる製剤を意味するものであり、前記各miRNAに直接的に作用するか、または上位調節因子に間接的に作用して標的遺伝子の発現を調節するmiRNAを遮断することを意味する。本発明において、前記miRNA抑制剤は、損傷動脈において上方発現したmiRNAを抑制することにより、血管平滑筋細胞機能及び生体内新生内膜増殖を調節することを意味し、具体的には、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5pまたはmiR-410-3pに対するそれぞれの抑制剤を意味するが、これに制限されるものではない。
【0014】
本発明において、前記miRNA抑制は、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5pまたはmiR-410-3pのそれぞれに特異的な抑制剤を使用することができ、具体的には、各miRNAに特異的なsiRNAアプタマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムまたは化合物であってもよいが、これに制限されるものではない。本発明の目的上、前記化合物は、生体内新生内膜増殖と関連したmiRNAを抑制させる化合物であれば、いずれも使用することができる。
【0015】
前記損傷動脈は、本発明の目的上、発現が動脈平滑筋細胞の過増殖に関連した血管miRNAをスクリーニングするために、人為的に動脈を損傷させたものであり、具体的には、ラット頸動脈をバルーンを通じて損傷させるモデルを製作して実験に用いた。
【0016】
本発明の一実施例では、損傷動脈において差異発現するmiRNAを確認した結果、対照群に比べて損傷3日目及び5日目に差異的に発現した62個のmiRNA中、ヒト大動脈平滑筋細胞におけるこれらの発現を確認し、最終6個の上方制御されたmiRNAを確認した(
図1)。
【0017】
前記用語、「上方制御された」とは、特定miRNAの転写とプロセッシングが増加することにより成熟したmiRNA(mature miRNA)が増加することを意味し、本発明では、対照群と比較して損傷動脈モデルで生合成が増加したことを意味する。本発明の目的上、発現が増加したことは、具体的には、対照群に比べて5倍以上に顕著に増加したことを意味するが、これに制限されるものではない。
【0018】
本出願において、用語「血管平滑筋細胞」とは、血管内壁を構成する細胞であり、収縮と弛緩を通じて血圧を一定に維持する機能をする細胞を意味する。正常血管では、平滑筋細胞が分化しながら収縮及び弛緩に必要なタンパク質を作って細胞増殖を止めるが、機能に問題が生じて逆分化する場合、血管が狭くなって動脈硬化及び血管再狭窄などの疾患を起こすようになる。このような血管疾患は、血管平滑筋細胞の機能と密接な関連があり、したがって、血管平滑筋細胞モデルは血管疾患研究において主な細胞モデルである。
【0019】
本出願において、用語「増殖」とは、生物や組織細胞などが細胞分裂をしてその数を増やすことで、通常、多細胞生物の体内で細胞が増加することを意味する。本発明において、前記細胞増殖は、血管平滑筋細胞の増殖を意味し、このような血管平滑筋細胞の過多な増殖は、動脈硬化症病変の進行に重要な要素である。
【0020】
本出願において、用語「血管平滑筋細胞増殖性疾患」とは、血管平滑筋細胞の過度な増殖により発生する疾患を意味する。前記血管平滑筋細胞増殖性疾患は、血管平滑筋細胞の増殖により直接的に発生する血管狭窄症(stenosis)、血管再狭窄症(restenosis)、粥状動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症だけでなく、これら疾患により2次的に誘発するか、症状が深刻化する心血管系疾患である心不全症、心筋梗塞症、狭心症、不整脈症、高血圧性心疾患症、先天性心疾患症、脳卒中または末梢血管狭窄症などを含むことができる。
【0021】
本発明において、前記血管平滑筋細胞増殖性疾患は、具体的には、血管狭窄症、血管再狭窄症、粥状動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症であってもよい。
前記血管狭窄症は、血管壁が損傷した後、炎症、血疔、平滑筋細胞の過度な増殖などにより血管の内部が異常に狭くなり、血流量が減少する疾患である。血管再狭窄症は、血管狭窄症が再発することであり、主に、血管の狭窄を解決するために、血管内腔(lumen)を拡張したり、詰まった血管を再開通させるなどの血管手術後に発生する場合が多い。ステント(stent)/バルーン血管形成術(balloon angioplasty)のような血管形成術、冠動脈バイパス術(coronary artery bypass surgery)のような血管迂回術(vascular bypassまたはvascular graft)などの血管手術は、手術自体で血管に損傷を加えたり、炎症を起こしながら血管狭窄を起こす。粥状動脈硬化症は、動脈の内層に脂肪が沈着したり繊維化している疾患であり、動脈硬化の進行と血管拡張のために、ステント挿入後に発生する血管再狭窄症は、全て血管平滑筋細胞の増殖、移動、細胞外基質分泌によることが知られている。
【0022】
本発明の用語、「予防」とは、本発明による薬学組成物の投与により血管平滑筋細胞増殖性疾患の発病を抑制させるか、または遅延させるあらゆる行為を意味し、「治療」とは、前記薬学組成物の投与により血管平滑筋細胞増殖性疾患の疑いのある、及び発病個体の症状が好転したり有益に変更されるあらゆる行為を意味する。
【0023】
本発明の薬学組成物は、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5pまたはmiR-410-3pの活性及び/又は発現を阻害することにより、これと関連した疾患を予防または治療することができる。
【0024】
本発明による薬学組成物は、有効成分としてmiR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5pまたはmiR-410-3p抑制剤を組成物の総重量を基準として0.1~75重量%、より好ましくは1~50重量%で含有することができる。
【0025】
また、前記薬学組成物は、miRNA抑制剤の生体内伝達効率を上げるために、当業界に知られている多様な核酸伝達体(ウイルス性または非ウイルス性伝達体)と複合体の形態をさらに含むことができる。前記ウイルス性伝達体としては、具体的には、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスがmiRNAをコードするベクターを細胞内核に伝達し、miRNA抑制剤を発現するのに使用される。また、非ウイルス性伝達体としては、金、炭素、シリカのような無機物質を用いてサイズと形態を調節できる無機ナノ粒子基盤の伝達体、特定の細胞特異的に効果的伝達のために、特に変形が多くなったPLGAとPEIのようなポリマー基盤伝達体、脂質二重層で形成されており、内相が水となっていて核酸などを封入して伝達できるリポソームなどを利用した脂質輸送体は、miRNA抑制剤を保護して血液循環時に安定性を向上させることができる。
【0026】
前記薬学組成物は、個別治療剤として投与したり、他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次または同時に投与することができる。そして、単一または多重投与することができる。前記の要素をすべて考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果を得る量を投与することが重要であり、当業者により容易に決定することができる。
【0027】
また、前記薬学組成物は、目的とする方法により非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができ、投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路及び時間によって異なるが、当業者により適切に選択することができる。
【0028】
本発明の一実施例では、試験管内における血管平滑筋細胞機能を調節する上方制御されたmiRNAを確認した結果、miR-132-3p及びmiR-370-3pが血管平滑筋細胞増殖において有意な抑制効果を示し、miR-130b-5p、miR-132-3p及びmiR-410-3pにより血管平滑筋細胞に対する単球付着が顕著に抑制されることを確認し、増殖関連のmiR-132-3p及びmiR-370-3pに対する深層調査を通じて、それぞれ表現型転移と増殖信号を調節する可能性があることを確認した(
図2)。
【0029】
また、本発明の一実施例では、生体内における新生内膜増殖を調節する上方制御されたmiRNAを確認するために、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pの動脈発現水準を調査した結果、miR-132-3p及びmiR-370-3pの発現がシャム対照群に比べてバルーン損傷頸動脈で顕著に増加し、miR-130b-5p及びmiR-410-3pもバルーン損傷により実質的に誘導され、前記miRNAの抑制剤は、対照群に比べてバルーン損傷病変で新生内膜増殖を顕著に退行させ、miR-130b-5p抑制剤は、再内皮化と呼ばれる単層の回復を促進することを示すことにより、これら4個のmiRNAが血管内炎症及び増殖のような動脈恒常性で明確な役割をすることを確認した(
図3)。
【0030】
また、本発明の一実施例では、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pの核心標的遺伝子を確認するために、損傷動脈で二つの時点に差異的に発現した遺伝子(DEGs)を用いて標的予測データベースを通じてラットとヒトで共通して予測したDEGを各miRNAの標的遺伝子として選択し、これら標的遺伝子が損傷動脈で下方制御されたことを確認することにより、前記miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pの各核心標的遺伝子がSOCS2(Suppressor of Cytokine Signalling 2)、BMP7(Bone morphogenetic protein 7)、TSPAN2(Tetraspanin-2)及びSMAD6(SMAD family member 6)であることを明らかにした(
図4)。
【0031】
また、本発明の一実施例では、不安定型狭心症、第2型糖尿病及び高脂血症患者の血液からmiR-370が検出されたため、平滑筋細胞増殖においてmiR-370/BMP(bone morphogenic protein)-7軸の生物学的重要性を調査した結果、動脈硬化症II型及びIV型病変があるヒト患者の管状組織切片でmiR-370-3pの高発現を確認した。したがって、miR-370が粥状動脈硬化症に関連した新たなmiRNAであることを確認し、ヒト血管平滑筋細胞ではmiR-370抑制を通じてBMP7タンパク質の水準を増加させ、BMP7処理は、ヒト平滑筋細胞でSMAD1/5/9リン酸化を顕著に誘導し、BMP7の枯渇がmiR-370抑制剤による平滑筋細胞増殖抑制を妨害することにより、miR-370依存的BMP7の発現は、平滑筋細胞成長と損傷した動脈で発生する新生内膜増殖の前提条件であることを確認した(
図5)。
【0032】
したがって、本発明のmiR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pの細胞増殖抑制効果に基づいて血管平滑筋細胞で前記miRNA抑制剤を含ませることにより、血管平滑筋細胞増殖性疾患を予防または治療するのに用いられることを予想することができる。
【0033】
本発明の他の一態様として、前述した目的を達成するために、本発明は、miRNAを検出できる製剤を含む血管平滑筋細胞増殖性疾患診断用キットを提供する。
前記「miRNA」及び「血管平滑筋細胞増殖性疾患」は、上述した通りである。
【0034】
本出願において、用語「診断」とは、病理状態の存在または特徴を確認したことを意味する。本発明の目的上、前記診断は、血管平滑筋細胞増殖性疾患に関し、目的とする患者から血管平滑筋細胞の過増殖または移動があったかどうかを客観的に判別する行為を意味すると解釈することができる。
【0035】
本発明の診断キットは、検体内のmiR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pまたはこれらの標的遺伝子を定性的及び/又は定量的に検出するために用いられる。
【0036】
前記キットは、具体的には、マイクロアレイ、アプタマー・チップ・キット、エライザ(ELISA,enzyme linked immunosorbent assay)キット、ブロット(blotting)キット、免疫沈降キット、免疫蛍光検査キット、タンパク質チップキット、RT-PCRキット及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができ、より具体的には、RT-PCTキットであってもよいが、miRNAまたはその標的遺伝子発現水準を測定できる限り、これに制限されるものではない。
【0037】
本発明のもう一つの態様として、前述した目的を達成するために、本発明は、a)分離した生物学的試料でmiRNAの発現水準を測定する段階;及びb)対照群で前記miRNAの発現水準が増加すると、血管平滑筋細胞増殖性疾患にかかる危険があると判定する段階を含む血管平滑筋細胞増殖性疾患診断の情報提供方法を提供する。
【0038】
前記「血管平滑筋細胞増殖性疾患」及び「診断」は、上述した通りである。
前記分離した生物学的試料でmiRNAの発現水準を測定する段階は、具体的には、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5pまたはmiR-410-3pの発現水準を意味し、さらに具体的には、miR-370-3pの発現水準を測定したことを意味する。
【0039】
前記情報提供方法は、前記分離した生物学的試料でmiRNAの標的遺伝子の発現水準が対照群に比べて減少するかどうかを判定する段階をさらに含むことができ、具体的には、前記標的遺伝子は、BMP7を意味する。
【0040】
また、前記miRNAまたはその標的遺伝子の発現水準を測定する製剤を含むことができる。前記発現水準を測定する製剤は、miRNAまたはその標的遺伝子に特異的に結合して認識できるようにするか、または増幅させる製剤を意味する。具体的な例として、前記miRNAまたはその標的遺伝子に特異的に結合する抗体、プライマーまたはプローブであってもよいが、これらに限定されるものではなく、当業者であれば、発明の目的に合うように適切な製剤を選択できるはずである。
【0041】
前記製剤は、前記miRNAまたはその標的遺伝子の発現水準の測定のために、直接または間接的に標識することができる。具体的には、前記標識には、リガンド、ビード(bead)、放射性核種、酵素、基質、補因子、抑制剤、蛍光物質(fluorescer)、化学発光物質、磁性粒子、ハプテン及び染料などが用いられるが、これに制限されない。具体的な例として、前記リガンドには、ビオチン、アビジン及びストレプトアビジンなどが含まれ、前記酵素には、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ及びベータガラクトシダーゼなどが含まれ、前記蛍光物質には、フルオレセイン、クマリン、ローダミン、フィコエリトリン及びスルホローダミン酸クロリド(テキサスレッド:Texas red)などが含まれるが、これに制限されない。このような検出可能な標識物として公知の標識物の大部分を使用することができ、当業者であれば、発明の目的に合うように適切な標識物を選択することができるはずである。
【0042】
前記用語「プライマー」とは、短い遊離3’末端ヒドロキシル基(free 3’ hydroxyl group)を有する塩基配列であり、相補的なテンプレート(template)と塩基対(base pair)を形成でき、鋳型鎖のコピーのための開始地点として機能をする短い配列を意味する。本発明において、前記miRNA増幅に使用されるプライマーは、適切なバッファー中の適切な条件(例えば、4個の他のヌクレオシドトリホスフェート及びDNA、RNAポリメラーゼまたは逆転写酵素のような重合剤)及び適当な温度下に鋳型指示DNA合成の開始点として作用できる一本鎖オリゴヌクレオチドであってもよいが、前記プライマーの適切な長さは、使用目的に応じて変わり得る。前記プライマー配列は、前記遺伝子のmiRNAのポリヌクレオチドまたはその相補的なポリヌクレオチドと完全に相補的である必要はなく、ハイブリダイズする程度に十分に相補的であれば、使用可能である。
【0043】
前記用語「プローブ」とは、miRNAと特異的結合を成し得る、ラベリング(labeling)された核酸断片またはペプチドを意味する。具体的な例として、オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)プローブ、一本鎖DNA(single stranded DNA)プローブ、二本鎖DNA(double stranded DNA)プローブ、RNAプローブ、オリゴペプチド(oligonucleotide peptide)プローブ、ポリペプチドプローブ(polypeptide)などの形態で製作することができる。
【0044】
本発明において前記分離した生物学的試料は、具体的には、動脈硬化症II型及びIV型病変がある患者の血液または管状組織切片であることを意味し、前記管状組織は、さらに具体的には、詰まった動脈血管から掻き取られた組織を意味するが、これに制限されるものではない。
【0045】
miR-370-3pは、不安定型狭心症、第2型糖尿病及び高脂血症患者の血液から検出されており、前記動脈硬化症患者の管状組織切片で高発現を確認することにより、粥状動脈硬化症に関連した新たなmiRNAであることを確認した。
【0046】
本発明の前記疾患の発病の有無判別に必要な情報を提供する方法は、血管平滑筋細胞増殖性疾患、具体的には、粥状動脈硬化症の発病が疑わしい個体の血液または管状組織からmiRNAまたはその標的遺伝子の発現水準を定量分析する段階を含むことができる。
【0047】
前記用語、「個体」は、例えば、血管平滑筋細胞増殖性疾患が発病する可能性があるか、または発病したラット、家畜、ヒトなどを含む哺乳動物を制限なく含むことができる。
本発明のもう一つの態様として、前述した目的を達成するために、本発明は、血管平滑筋細胞増殖性疾患診断用製剤を製造するためのmiRNAまたはmiRNA標的遺伝子の発現水準を測定する製剤の用途を提供することができる。
【0048】
前記「血管平滑筋細胞増殖性疾患」、「診断」及び「miRNA」は、上述した通りである。
本発明のもう一つの態様として、前述した目的を達成するために、本発明は、前記miRNA発現抑制剤及び薬学的に許容可能な担体を含む血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療用薬学組成物をこれを必要とする個体に投与することを含む、血管平滑筋細胞増殖性疾患の治療方法を提供することができる。
【0049】
前記「血管平滑筋細胞増殖性疾患」、「予防」、「治療」及び「miRNA」は、上述した通りである。
本発明において、前記発現抑制剤は、各miRNAに相補的に結合するsiRNA(small interfering RNA)、アプタマーまたはアンチセンスRNAであることを意味するが、これに制限されるものではない。
【0050】
本出願において、用語「個体」とは、本発明の血管平滑筋細胞増殖性疾患を保有するか、または発病した、ヒトを含むあらゆる動物を意味する。本発明の薬学組成物を個体に投与することにより前記疾患の予防及び治療効果を得ることができる。
【0051】
前記本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与する。
本出願において、用語「投与」とは、如何なる適切な方法で対象に本発明の薬学組成物を導入することを言い、投与経路は、目的組織に到達できる限り、非経口の多様な経路を通じて投与することができる。
【0052】
前記薬学組成物は、目的または必要に応じて当業界において使用される通常の方法、投与経路、投与量に応じて適切に個体に投与することができる。投与経路の例としては、非経口、皮下、腹腔内、肺内、及び鼻腔内に投与することができ、非経口の注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が含まれる。また、当業界に公知となった方法により適切な投与量及び投与回数を選択することができ、実際に投与される本発明の薬学組成物の量及び投与回数は、治療しようとする症状の種類、投与経路、性別、健康状態、食事、個体の年齢及び体重、及び疾患の重症度のような多様な因子により適切に決定することができる。
【0053】
本発明における用語、「薬学的に有効な量」とは、医学的用途に適用可能な合理的な受恵/リスクの比率で血管透過性の増加を抑制または緩和するのに十分な量を意味し、有効用量の水準は、個体の種類及び重症度、年齢、性別、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野によく知られている要素により決定することができる。例えば、前記投与は、1日に0.01~500mg/kgで、具体的には、10~100mg/kgの用量で投与することができ、前記投与は、1日に1回または数回に分けて投与することもできる。
【0054】
本発明の組成物は、個別治療剤として投与するか、または他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次または同時に投与することができる。そして単一または多重投与することができる。前記要素をすべて考慮し、副作用なしに最小限の量で最大効果を得ることができる量を投与することが重要であり、当業者により容易に決定することができる。
【0055】
本発明の組成物は、血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療のために単独で使用することができ、手術、ホルモン治療、薬物治療及び生物学的反応調節剤を使用する方法と併用することができる。
【0056】
本発明のもう一つの態様として、前述した目的を達成するために、本発明は、損傷動脈において損傷後3日及び5日に差異的に発現した遺伝子(Differentially Expressed Genes,DEGs)をプロファイリングする段階を含む血管平滑筋細胞増殖または移動を抑制するmiRNAの標的遺伝子スクリーニング方法を提供する。
【0057】
前記「損傷動脈」、「血管平滑筋細胞」、「増殖」及び「miRNA」は、上述した通りである。
前記スクリーニング方法は、具体的には、1)損傷動脈において損傷後3日及び5日に差異的に発現した遺伝子(Differentially Expressed Genes,DEGs)をプロファイリングする段階;2)前記DEGsを用いて標的予測データベースを通じてmiR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pに対するin silico標的プロファイリングする段階;3)二個以上のデータベースにおいてラットとヒトで共通して予測したDEGを各miRNAの標的遺伝子として選択する段階;及び4)前記選択された標的遺伝子が損傷動脈において下方制御されたことを確認する段階を含む。
【0058】
前記1)段階のプロファイリングは、遺伝子発現プロファイリングを意味し、二個以上のサンプル間の種々の遺伝子の発現水準を同時に比較することができる。遺伝子発現を分析するにおいて、ノーザン・ブロッティング(northern blotting)、マイクロアレイ(microarray)分析、RNAシーケンシングなどを利用することができ、本発明では、RNAシーケンシングを通じて全体遺伝子発現変化を確認したが、これに制限されるものではない。
【0059】
前記2)段階の標的予測データベースは、miRNAの標的遺伝子を予測するためのものであり、miRNAの機能は、大概miRNAが調節する遺伝子を通じて分かり、miRNAは、2018年10月を基準にhuman miRNA 38,589個(mature miRNA)がデータベース化している(miRBase database,version 22.1)。標的遺伝子の3’UTRとmiRNAのseedをalignmentして予測することができ、構造的な特徴を付け加えたり、進化的に保存された結合部位などを追加することにより予測正確度を高めている。このような予測結果を提供するプログラムとしては、DIANA-microT、MicroInspector、MiRanda、PicTar、RNA22、RNAhybrid、TargetBoost、TargetScan、miRDB、miRmapなどがある。本発明では、TargetScan、miRDB及びmiRmapを使用したが、これに制限されるものではない。
【0060】
前記3)段階の標的遺伝子は、具体的には、miRNAがmRNAと相補的な結合を通じて細胞内発現を調節できる遺伝子を意味し、一つのmiRNAの標的遺伝子は、数多く存在する。
【0061】
前記4)段階のスクリーニングは、遺伝子スクリーニングを意味し、ライブラリー内に存在する標的遺伝子を選び出すことを意味する。スクリーニング方法には、ハイブリダイゼーションを利用したスクリーニング、抗体を利用したスクリーニング、遺伝子発現の差異を利用したスクリーニング、特定のタンパク質との結合を利用したスクリーニングなどが存在し、本発明では、遺伝子発現の差異を利用したスクリーニングを利用したが、これに制限されるものではない。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例により限定されるものではない。
【0063】
実験例1.頸動脈バルーン損傷モデルの製作
基礎飼育後、1週間環境に適応させた生後10週齢の雄性アルビノラット(Sprague-Dawley rats)を用いて頸動脈バルーン損傷モデルを製作した。
【0064】
具体的には、ラット左総頸動脈にフォガティバルーン塞栓除去カテーテル(Fogarty balloon embolectomy catheter)を用いてバルーン損傷を生成した。左外頸動脈を露出させて周辺動脈枝は電気凝固した後、外頸動脈の横切開を通じてカテーテルを挿入し、切断部位から1cm内側に位置させて膨張させた後、総頸動脈に沿って前後に動かして頸動脈を損傷させた。miRNA抑制剤のカテーテル媒介動脈内伝達のために、トランスフェクション複合体(200nM miRNA/10μl Lipofectamin RNAimax in 200μl Opti-MEM)を損傷した頸動脈内腔に注入して15分間培養した。カテーテルを除去する前に内腔を食塩水で一回洗浄し、カテーテルを除去した後には穿孔された部位を封印し、総頸動脈のclapを解いて血流を再確立した。特に明示が無い限り、ラットはその後最大14日間ケージで回復した。
【0065】
実験例2.組織病理学的分析
バルーン損傷ラットを麻酔させ、3.7%ホルムアルデヒドを含有したヘパリン化食塩水で経心潅流(transcardiac perfusion-fixation)固定後、総頸動脈を切除した。血管をパラフィン包埋し、回転式ミクロトーム(Leica RM2255)で切断した。総頸動脈の中間部位から2個の連続組織切片(厚さ4μm)を得、haematoxylin & eosinで染色した。内腔、内部弾性層及び外部弾性層領域は、NIH Image v 1.62を用いて測定した。内膜及び内側領域はそれぞれ内部弾性領域から内腔領域を除き、外部弾性領域から内部弾性領域を除くことにより決定した。分析のために、ラット当たり2個の連続切片から得た値の平均を求めた。
【0066】
実験例3.RNAシーケンシング
small RNA及びmRNAシーケンシングを行うために、メーカーのプロトコルによりQIAzol Lysis Reagent(Qiagen)を用いてラットの頸動脈組織から全体RNAを分離した。シャム対照群(sham control)の場合、全RNAの量を増加させるために、3個の頸動脈組織をプールした。全RNA抽出物の純度と完全性は、それぞれNanoDrop 8000分光光度計(Thermo Scientific)及びBioanalyzer(Agilent Technologies)で測定し、RIN値が8より大きいサンプルをシーケンスプロセスに用いた。
【0067】
まず、small RNAシーケンシングのために、TruSeq Small RNA Prepキット(Illumina社)を用いてsmall RNAライブラリーを準備した。簡単には、1μgの全RNAは3’及び5’ RNAアダプターでライゲーションした。逆転写PCRはcDNAコンストラクトを生成し、強化(enriching)するために3’及び5’アダプターにアニーリングするプライマーを用いて行った。cDNAライブラリーは、Pippin prep電気泳動プラットフォーム(Sage Science)で精製し、ライブラリーの品質は、2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)で検証した。small RNAシーケンシングは、1X51の設定でHiseq 2500システム(Illumina)を用いて行った。
【0068】
次に、mRNAシーケンシングのために、TruSeq RNA Prepキットv2(Illumina社)を用いてmRNAシーケンシングライブラリーを準備した。簡単には、mRNAサンプルはpoly-T oligo-attached magnetic beadを用いて1μgの全RNAから精製し、断片化したmRNAはランダムヘキサマーでプライミングし、逆転写した。mRNA鋳型を除去し、第二鎖cDNAを合成した。3’ A-テーリング及び5’末端リペアリングの後、DNAシーケンシングアダプターをcDNAテンプレートにライゲーションした。その後、テンプレートを増幅するためにPCRを行った。ライブラリーの品質は、2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)で検証し、mRNAシーケンシングは、2X101設定でHiseq 2500システム(Illumina)を用いて行った。
【0069】
実験例4.細胞培養
一次ヒト血管平滑筋細胞(human aortic SMC,HASMC)は、Lonza社から購入し、成長因子及び抗生剤(cat.No.cc-4149,Lonza)が含まれた5%ウシ胎児血清を含む平滑筋細胞成長培地(SmGM)で継代培養して増殖させた。ヒト血管平滑筋細胞は、主に、継代数5~7の実験に用いた。HEK293T細胞は、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEMで培養し、すべての培養は37℃で5%CO2を含む加湿インキュベーターで維持させた。
【0070】
mirVana miRNA模倣体または抑制剤(Invitrogen,USA)及びsiRNA(Bioneer,Korea)は、リポフェクタミンRNAimax(Invitrogen社)を使用してトランスフェクションさせた。
【0071】
細胞を6ウェルプレートに1×105cells/wellの密度で分注した。24時間後、miRNA模倣体(それぞれ0.1 nM)、miRNA抑制剤(それぞれ10~150nM)またはsiRNA(それぞれ100nM)を含むトランスフェクション複合体を培養プレートに添加した後、トランスフェクション24時間後に新たな培養培地で交換した。
【0072】
実験例5:リアルタイム定量PCR(Real-time quantitative PCR)
全RNAは、メーカーのプロトコルによりQIAzol Lysis Reagent(Qiagen)を使用して培養されたヒト血管平滑筋細胞及びラットの頸動脈組織から分離した。MiRNAの検証のために、TaqMan MicroRNA Reverse Transcription KitとTaqMan MicroRNA Assays(Applied Biosystems)の特定のRTプライマーを使用して分離した全RNA40ngで個別cDNAsを合成した。成熟したmiRNAの発現水準は、メーカーのプロトコルによりTaqMan Universal Master Mix IIとTaqMan MicroRNA Assays(Applied Biosystems)の特定のFAM基盤のプローブ及びプライマーを使用して定量的リアルタイムPCRを通じて定量化した。
【0073】
miRNAの熱サイクリング条件は、次の通りである。95℃で10分間初期酵素活性化させた後、95℃で15秒変性、60℃で60秒アニーリング及び伸長を40回繰り返して増幅させた。
【0074】
U87、snoRNA及びU6は、ラットの頸動脈に対する内部対照群として使用し、U6はヒト血管平滑筋細胞に対する内部対照群として使用した。
mRNAの検証のために、ImProm-II RT system(Promega社)を使用して分離した全RNA1μgで逆転写を行った。定量的リアルタイムPCRは、遺伝子特異的プライマー(全部Qiagen社)及びSYBR Green(Roche社)を使用して行った。
【0075】
mRNAの熱サイクリング条件は、次の通りである。95℃で15分間初期変性の後、94℃で15秒変性、55℃で30秒アニーリング及び72℃で30秒伸長を40回繰り返して増幅させた。
【0076】
溶融曲線分析は、PCR終了時に行い、β-アクチンまたは18S RNAをハウスキーピング遺伝子として使用した。CFX ConnectリアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad社)を使用して成熟したmiRNA及び転写体の水準を検出した。相対的遺伝子発現は、ΔΔCt値で決定した。
【0077】
実験例6:免疫ブロット分析
ヒト血管平滑筋細胞を冷たいリン酸塩緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄し、液体窒素で速かに凍結させた。前記細胞は、20mM HEPES(pH 7.0)、1% Triton X-100,150mM NaCl、10%グリセロール、1mM EDTA(pH 8.0)、2mM EGTA(pH 8.0)、1mM DTT、5mM Na3VO4、5mM NaF、1mM AEBSF、5μg/ml aprotinin、及び5μg/ml leupeptinを含む溶解緩衝液で溶解させた。12,000×gで10分間遠心分離した後、精製された溶解物を変性ポリアクリルアミドゲルで30μgずつ分離し、ニトロセルロースメンブレンに移した。前記メンブレンは、4℃で0.05% Tween(登録商標)-20及び5% BSAを含むTris緩衝食塩水(TBS)溶液で1次抗体と共に一晩中インキュベーションした。次に、前記メンブレンを0.05% Tween(登録商標)-20及び5%脱脂乳を含有するTBS溶液で1:3000で希釈したHRP接合二次抗体と共に1時間インキュベーションした。免疫反応性バンドは、WESTSAVE up ECLソリューション(cat.No.LF-QC0101,Abfrontier,Korea)を使用して視角化した。
【0078】
実験例7:細胞増殖及び細胞周期の分析
細胞増殖の分析のために、miRNA抑制剤-トランスフェクションされたヒト血管平滑筋細胞(miRNA inhibitor-transfected HASMC)を96wellプレートに2,000cells/wellの密度で播種し、表示された時間成長させた後、WST-1試薬(10μl/well)と共に37℃で1時間培養した。生存細胞数は、450nmで吸光度を測定して推定した。
【0079】
細胞周期の分析のために、ヒト血管平滑筋細胞(1×105細胞)を48時間トランスフェクション後に回収した。前記細胞を固定させ、-20℃で一晩中70%エタノール透過処理し、37℃で1時間100μg/ml RNase Aで処理した後、10μg/ml propidium iodideで染色した。細胞内DNA含量は、FACSCaliburシステム(BD biosciences社)で測定し、G0/G1二倍体細胞の百分率はModfit LTソフトウェア(Verity Software House社)を使用して分析した。
【0080】
実験例8:免疫蛍光染色
組織染色は、バルーン損傷頸動脈のパラフィン切片をキシレンを用いて脱パラフィン化し、エタノールで再水和した。前記再水和された組織切片は、抗原復旧(antigen retrieval)のために、クエン酸基盤抗原unmaskingソリューション(Vector Laboratories)で20分間ボイリングした。二重免疫蛍光法の場合、前記組織切片を5%正常ロバ血清が含まれたPBS-T(0.3% Triton X-100 in PBS)で1時間ブロッキングした。その後、前記サンプルを4℃で一晩中FITC-接合された抗vWF抗体(1:50希釈、Abcam)と共にインキュベーションした。PBS-Tで三回洗浄した後、サンプルをCy3接合された抗SMA抗体(1:200希釈、Sigma Aldrich)と共に暗い室温で2時間インキュベーションした。
【0081】
F-アクチン染色は、ヒト血管平滑筋細胞を15分間3.7%ホルムアルデヒドで固定し、室温で15分間PBS-Tで透過させた。前記細胞は、室温で60分間Alexa Fluor 488接合phalloidin(cat. no A12379,Invitrogen)でラベリングした。
【0082】
TUNEL分析は、前記固定された細胞を4℃で2分間透過性溶液(0.1% Triton X-100,0.1%クエン酸ナトリウム)と共にインキュベーションし、In Situ Cell Death Detection Kit(Roche Diagnostics)のTUNEL反応混合物と共に37℃で60分間インキュベーションした。
【0083】
Nuclear DNAはDAPIでラベリングし、蛍光イメージはLSM880 Airyscan共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)を使用して得た。
実験例9:トランズウェル移動分析(Transwell migration assay)
化学走性細胞移動(chemotactic cell migration)は、24wellトランズウェル培養チャンバー(Costar;8mM気孔サイズ)を使用して測定した。上部チャンバーは、ゼラチンB(1mg/ml)でコーティングし、1時間エアドライした。ヒト血管平滑筋細胞を24時間miRNA抑制剤でトランスフェクションさせ、18時間血清欠乏させた後、基底培地を用いて6,000cell/チャンバーの密度で上部チャンバーに再びプレーティングした。完全培地を下部チャンバーに添加し、トランズウェルチャンバーを37℃で24時間インキュベーションした。メンブレン上側から移動していない細胞を除去し、通過して膜の下方に付着した細胞を固定し、0.6% hematoxylinと0.5% eosinで染色した。4個の部分で染色された細胞の数を数えて平均を出した。
【0084】
実験例10:単球付着分析(Monocyte adhesion assay)
ヒト血管平滑筋細胞を24時間miRNA抑制剤でトランスフェクションさせ、96wellプレート(4,000cell/well)に再びプレーティングした。その後、ヒト血管平滑筋細胞を18時間TNF-α(10ng/ml)で刺激した。別途に、単球U937細胞(1×106cell/well)を24時間IFN-γ(50μg/ml)で刺激した。活性化したU937細胞を4μM tetramethylrhodamine ethyl ester,perchlorate(cat.No.T-669,Molecular Probes)で30分間ラベリングし、ラベリングされたU937細胞(1×105cell/well)をconfluentヒト血管平滑筋細胞に添加し、37℃で1時間インキュベーションした。結合されていないU937細胞をPBSで三回洗浄してスムーズに除去し、付着したU937細胞はZOE Fluorescent Cell Imager(Bio-Rad)を用いて検出してカウントした。
【0085】
実験例11:ルシフェラーゼレポーター分析
miR-370-3pの標的遺伝子の予測のために、ヒトBMP7遺伝子(hBMP7-3’UTR)の全長3’UTR配列を含むレポータープラスミドpMirTargetをOrigene社(cat.No.SC218118)から購入した。hBMP7-3’UTRのmiR-370-3p標的領域#1(ヌクレオチド229-235)内の2個の連続ヌクレオチドを突然変異させて陰性対照群とした。レポーターの分析のために、HEK293T細胞を24wellプレートにプレーティングし、レポータープラスミドで6時間トランスフェクションさせた。その後、前記細胞を48時間miR-370-3p模倣体でトランスフェクションさせ、溶解させてタンパク質分析した。同一の量の細胞溶解物をルシフェラーゼ分析に適用した。発光信号(luminescence signal)はVICTOR Multilabel Plate Reader(Perkin Elmer)で測定した。
【0086】
実験例12:In situ ハイブリダイゼーション(In situ hybridization)
動脈組織内におけるmiR-370-3p発現は、メーカーのプロトコルによりmiRCURY LNA miRNA in situ hybridization(ISH) Optimization Kits(Qiagen社)で検出した。5’及び3’ DIG-modified has-miR-370-3p miRCURY LNA miRNA Detection Probeはハイブリダイゼーションに使用した。簡単には、固定された動脈組織の4μmパラフィン切片を脱パラフィン化し、再水和した。ヌクレアーゼは37℃で10分間proteinase Kで非活性化し、ハイブリダイゼーションはmiRNA検出プローブ(それぞれ40nM)と共にプローブのRNA Tm値より30℃低い温度で1時間インキュベーションして行った。スライドは、各アニーリング温度でsaline-sodium citrate(SSC)ハイブリダイゼーション緩衝液の連続希釈液で洗浄し、免疫検出は、alkaline phosphatase-conjugated anti-DIG antibody(cat.No.11093274910,Roche)を60分間室温でインキュベーションして行った。前記スライドを37℃で2時間0.2 nM Levamisolを含むNBT/BCIP(cat.No.11697471001,Roche)基質溶液と共にインキュベーションして発色させた。また、scrambleプローブを連続組織切片にアニーリングしたものをコントロールとして用い、細胞核はNuclear Fast Redでラベリングした。
【0087】
実験例13:統計分析
特に明示しない限り、データは、二グループ間のStudent’s t-test及び種々のグループに対するTurkey’s testを用いてone-way ANOVAで分析した。P<0.05を統計的に有意であると見なした。
【0088】
実施例1:損傷動脈において差異発現するmiRNAの確認
以前の研究で調査されたラット頸動脈バルーン損傷モデルから損傷時間による新生内膜肥厚の組織学的分析を基盤に、バルーン損傷後3日目及び5日目の二つの時点を選択し、平滑筋細胞逆分化及び増殖の開始を指示するmiRNAを確認した。
【0089】
具体的には、全体RNAサンプルを準備し、適切な精製手続きを通じてsmall RNAsとメッセンジャーRNAsに分離して精製した。両RNAプール(pools)は、ライブラリー構成及びHiSeq基盤シーケンシングし、small RNAシーケンシングデータは、先にRSEMソフトウェアで分析した。
【0090】
その結果、
図1に示されるように、62個のmiRNAがシャム対照群(sham control)と比較して二つの時点で差異的に発現した(
図1A)。血管系との関連性だけでなく、新規性の側面で前記miRNAを一つずつ検査し、miRNA-specific real-time PCRによる定量的検証のために、50個のmiRNAを選択した。その結果、12個の上方制御されたmiRNAと6個の下方制御されたmiRNAがシャム対照群と比較して損傷した動脈の5倍以上の変化が示され、miRNAの1/5は損傷後3日に一時的に下方制御され、これは、早期反応(early-response)miRNAとしての可能性を意味する。ヒトデータベースから確認されていないか、またはラットとヒトとの間に種子配列が一致していない一部のmiRNAは除外し、残りのmiRNA候補中、miR-221-3p、miR-21-5p及びmiR-146a-5pのようなmiRNAは平滑筋細胞増殖症(hyperplasia)として知られており{Sun、2011 #2627;Liu、2009 #2623;Ji、2007 #2625}、げっ歯類モデルを用いた選別戦略の妥当性を裏付けた。
【0091】
8個の上方制御されたmiRNAと2個の下方制御されたmiRNAを含む上位10個のmiRNAは損傷した頸動脈で5倍以上の劇的な発現変化を示した(
図1B)。そのヒト関連性を調べてみるために、合成表現型を有する培養された1次ヒト血管平滑筋細胞におけるこれらの発現水準を確認した結果、qPCR分析を通じて8個の上方制御されたmiRNA中の6個がヒト平滑筋細胞で著しく発現したことを確認した(
図1C)。
【0092】
このように、げっ歯類モデルを用いたmiRNAスクリーニングを通じて新生内膜増殖に関連した一部知られた候補を含むmiRNAの下位集合を発見した。
実施例2.試験管内平滑筋細胞機能を調節する上方制御されたmiRNA
平滑筋細胞生物学において上方制御されたmiRNAの役割を決定するために、miRNA抑制剤としてトランスフェクションされたヒト血管平滑筋細胞を用いて試験管内において三類型の細胞基盤の分析を行った。
【0093】
平滑筋細胞増殖において、miR-132-3pとmiR-370-3pは、有意な抑制効果を示し(
図2A)、炎症の兆候としての、ヒト血管平滑筋細胞に対する単球付着は、miR-130b-5p、miR-132-3p及びmiR-410-3pの3個のmiRNAにより顕著に抑制された。このような細胞分析を基盤に、増殖関連のmiRNA、即ち、miR-132-3p及びmiR-370-3pに対する深層調査を行った。両miRNA抑制剤はいずれもG1段階で細胞周期停止を誘導してヒト血管平滑筋細胞の時間依存的増殖を持続的に抑制し(
図2B及び2C)、これと一貫して、サイクリン依存性キナーゼ抑制剤であるp21及びp27の水準は、両miRNA抑制剤により顕著に増加した(
図2D)。しかし、このようなmiRNA抑制は、ヒト血管平滑筋細胞で細胞アポトーシスを伴わず、これは、平滑筋細胞増殖の細胞増殖抑制を示唆する。
【0094】
損傷した動脈組織において、逆分化による収縮性状態で合成状態への平滑筋細胞の表現型転移は、増殖依存的新生内膜増殖症(proliferation-dependent neointimal hyperplasia)に先行しなければならないことにより、miR-132-3pとmiR-370-3pが表現型転移に関与するかどうかを調査した。
【0095】
生体内動脈環境を模倣する最も簡単な方法として、ラミニンでコーティングされたプレートの高い合流点で培養してヒト血管平滑筋細胞の収縮性表現型を誘導した。高い合流点の平滑筋細胞が低い合流点でリプレーティング(re-plated)された時、細胞は、合成表現型に少しずつ変形された。前記実験例6の免疫ブロット分析を通じて、miR132-3p抑制剤のトランスフェクションが低い合流点により消えたSMA水準を回復させることを確認した(
図2E)。実際に、F-アクチンフィラメントの免疫蛍光染色は、低い合流点でヒト血管平滑筋細胞の合成表現型がmiR-132-3p抑制剤により収縮性表現型に変形されたことを立証した(
図2F)。
【0096】
したがって、miR-132-3pとmiR-370-3pがそれぞれ表現型転移と増殖信号を調節する可能性があることを確認した。
実施例3.生体内新生内膜増殖を調節する上方制御されたmiRNA
バルーン損傷モデルを通じて生体内miRNAの効能を評価するために、前記実験例12のようにIn situ ハイブリダイゼーション(in situ hybridization)を通じて4個の機能性miRNAの動脈発現水準を調査した。
【0097】
その結果、染色イメージは、2個の増殖関連のmiRNA(miR-132-3p及びmiR-370-3p)の発現がシャム対照群に比べてバルーン損傷頸動脈で顕著に増加したことを示し(
図3A)、他の二つの炎症関連のmiRNA(miR-130b-5p及びmiR-410-3p)もバルーン損傷により実質的に誘導された。バルーン損傷を受けたラット動脈で前記4個のmiRNAの生体内機能を評価した。
【0098】
miRNA抑制剤のカテーテル媒介局所的壁内伝達は、対照群と比較してバルーン損傷病変で新生内膜増殖を顕著に減少させ(
図3B)、EC及び平滑筋細胞マーカーとしてフォン・ヴィレブランド(vWF)及びSMAに対する頸動脈の免疫蛍光染色はmiR-130b-5p抑制剤が、いわゆる再内皮化(re-endothelialization)と呼ばれるEC単層の回復を促進することを示し(
図3C)、miR-130b-5pは、平滑筋細胞とは異なり、ECで抗増殖機能を行った。
【0099】
これを通じて、前記4個のmiRNAが血管内炎症及び増殖のような動脈恒常性で著しい役割をすることを確認した。
実施例4.機能的miRNAの標的遺伝子の確認
次に、実施例3で選択されたmiRNAの生物学的結果を把握するために、mRNAシーケンシングを行い、バルーン損傷したラットの頸動脈で差異的に発現した遺伝子(DEGs)をプロファイリングした。
【0100】
その結果、
図4に示されるように、シャム対照群と比較して損傷後3日及び5日に3,699DEGsが有意に変更されたことを確認した(
図4a)。ヒートマップ分析は、上方制御されたDEGsと下方制御されたDEGsがそれぞれ半々であることが示された(
図4b)。このようなDEGsを用いて標的予測データベース(TargetScan,miRDB及びmiRmap)を通じて前記選択されたmiR-132-3p/miR-370-3p and miR-130b-5p/miR-410-3pに対するin silico標的プロファイリングを行い、一つ以上のデータベースでラットとヒトの両方に対して共通して高い予測点数(TargetScan<-0.1,miRDB>70,miRmap>70)を示したDEGsが各miRNAの予想標的として選択された。遺伝子オントロジー(GO)enrichment analysisは、同族miRNA(cognate miRNA)と機能的に関連する標的遺伝子プールをさらに特定し、次いで、リアルタイムPCRを通じて選択された遺伝子中、シャム対照群に比べてバルーン損傷頸動脈で下方制御された遺伝子を確認した(
図4c)。ヒト関連性のために、miRNA抑制剤でトランスフェクションしたヒト血管平滑筋細胞で前記の表的遺伝子の発現をさらに調査した。
【0101】
その結果、リアルタイムPCRを通じてそれぞれのmiRNAに対する核心標的遺伝子を明らかにし、SOCS2、BMP7、TSPAN2及びSMAD6がそれぞれmiR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pに対する特異的標的であることを確認した(
図4d)。
【0102】
実施例5.平滑筋細胞増殖に必須MiR-370/BMP7軸
特に、不安定型狭心症、第2型糖尿病及び高脂血症患者の血液からmiR-370が検出されたため[Hoekstra、2010 #2635;Motawae、2015 #2636;Gao、2012 #2637]、平滑筋細胞の増殖においてmiR-370/BMP(bone morphogenic protein)-7軸の生物学的重要性を調査するために、ヒト細胞及び動脈組織でmiR-370の検出を試みた。
【0103】
In situ ハイブリダイゼーションを通じて動脈硬化症II型及びIV型病変があるヒト患者の管状組織切片でmiR-370-3pの高発現を確認し(
図5a)、これは、miR-370が粥状動脈硬化症に関連した新たなmiRNAであることを確認した。その後、培養されたヒト血管平滑筋細胞でmiR-370とBMP7の関係を調査し、実際に、血清刺激はmiR-370-3pの発現を誘導したが、反対にBMP7の発現を減少させた(
図5b)。これと一貫して、ヒトBMP7遺伝子の3-UTR領域を使用したレポーター分析は、突然変異UTRではない野生型UTRを含有するルシフェラーゼの発現がmiR-370模倣体により確かに減少したことを示した(
図5d)。また、ウェスタンブロット分析は、miR-370抑制がヒト平滑筋細胞のBMP7タンパク質の水準を増加させたことを明確に示した(
図5d)。
【0104】
このような結果は、BMP7遺伝子がヒト平滑筋細胞で真正なmiR-370標的であることを集合的に確認させたものである。組換えBMP7の処理は、以前に平滑筋細胞増殖を抑制することが報告されたため[Lagna、2007 #2641;Dorai、2000 #2640]、平滑筋細胞増殖でmiR-370/BMP7軸の関与を調べてみた。直接的な証拠として、BMP7処理は、ヒト血管平滑筋細胞でSMAD1/5/9リン酸化を顕著に誘導し(
図5E)、これは、平滑筋細胞でBMP7の抗分裂効果を示唆することである。また、細胞増殖分析は、BMP7枯渇がmiR-370抑制剤により抑制された平滑筋細胞増殖を回復させることを立証し(
図5F)、したがって、miR-370依存的BMP7発現調節は、平滑筋細胞成長と損傷した動脈で発生する新生内膜増殖の前提条件であることを確認した。
【0105】
これを総合すると、本発明のmiRNA抑制剤、具体的には、miR-132-3p、miR-370-3p、miR-130b-5p及びmiR-410-3pのそれぞれの抑制剤は、平滑筋細胞に対する増殖抑制効果を有し、これを通じて平滑筋細胞で前記miRNA抑制剤を含ませることにより、血管平滑筋細胞増殖性疾患の予防または治療に効果があることを予想することができる。
【0106】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は前記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【国際調査報告】