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  • 特表-フッ化物除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】フッ化物除去方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20241210BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20241210BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241210BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241210BHJP
   B09B 3/35 20220101ALN20241210BHJP
   B09B 101/16 20220101ALN20241210BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B7/00 C
B09B3/35
B09B101:16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527660
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2022082115
(87)【国際公開番号】W WO2023088955
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】21208782.9
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523296461
【氏名又は名称】ノースボルト・レボルト・エービー
【氏名又は名称原語表記】NORTHVOLT REVOLT AB
【住所又は居所原語表記】Alstroemergatan 20,112 47 Stockholm,Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレムラジャビ、マフムード
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン、マリア
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ムスフィケ、イブリジャ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア・タブエンカ、アレハンドロ
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004CA04
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA19
4K001DB16
4K001DB23
5H031RR02
(57)【要約】
本開示は、酸性溶液からフッ化物を除去する方法であって、中和剤を使用してpHを選択的に増加させる一連の沈殿段階を含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性溶液からフッ化物を除去する方法であって、
a)フッ化物含有酸性浸出液を用意すること;
b)中和剤の添加によって工程a)の浸出液のpHを4~5に調整して、第1のフッ化物含有沈殿物を形成し、前記第1のフッ化物含有沈殿物を分離して、第1のフッ化物低減浸出液を得る第1の沈殿段階;
c)中和剤の添加によって前記第1のフッ化物低減浸出液のpHを5超~6以下に上昇させて、第2のフッ化物含有沈殿物を形成し、前記第2のフッ化物含有沈殿物を分離して、第2のフッ化物低減浸出液を得る第2の沈殿段階
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の沈殿段階において、前記浸出液のpHを4.2~4.7に調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の沈殿段階において、前記第1のフッ化物低減浸出液のpHを5.3~5.7に調整する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1及び前記第2の沈殿段階における中和剤は、同一又は異なり、NaOH、LiOH、KOH、NHOH、LiCO、Ni(OH)、Mn(OH)、Co(OH)、NiCoMn(OH)及びそれらの1以上の混合物から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1及び前記第2の沈殿段階における前記中和剤は、同一又は異なり、Ni(OH)、Mn(OH)、Co(OH)及びNiCoMn(OH)の1以上を少なくとも含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の沈殿段階において、前記浸出液にHPO及びKSiOのいずれが一方又は両者を追加する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1及び前記第2の沈殿段階を、独立して、30~60℃で行う、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の沈殿段階及び前記第2の沈殿段階の滞留時間が、独立して、2~12時間である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、
d)分離された前記第2のフッ化物含有沈殿物を前記第1の沈殿段階に戻してリサイクルすること
を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のフッ化物低減浸出液にアルカリ土類金属塩を添加して、無機フッ素化合物を沈殿させ、沈殿した前記無機フッ素化合物を分離して、第3のフッ化物低減浸出液を得る第3の沈殿段階を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アルカリ土類金属塩を100~240g/Lの濃度で添加する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アルカリ土類金属塩が、マグネシウム塩、好ましくはMgSO又はMgCOであり、前記無機フッ素化合物が、MgFである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2のフッ化物低減浸出液のpHを、前記第3の沈殿段階において維持する、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第3の沈殿段階を30~60℃で行う、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第3の沈殿段階の滞留時間が2~12時間である、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸性溶液からフッ化物を除去する方法に関する。この方法は、電池リサイクルの一部であってもよく、酸性溶液は、破砕した電池又は電池材料の液相酸性浸出によって用意されてもよい。
【背景技術】
【0002】
充電式電池は、二次電池とも称され、電力供給及びエネルギー貯蔵システムとして広く使用されている。政策立案者からの働きかけ及び世界的な認識の結果として、世界の電気自動車の数は今後数年で大幅に増加し、その影響として、二次電池の数もまた大幅に増える。二次電池は、さまざまな技術、例えば、ニッケル-カドミウム(NiCd)又はニッケル金属水素化物(NiMH)技術に基づくことができる。輸送部門において、二次リチウムイオン電池(LIB)は、最もよく使われる電力源になっている。LIBでは、通常、リチウム並びに金属であるニッケル、コバルト及び/又はマンガン(いわゆる「NCM金属」)を含むリチウム複合酸化物が活物質として使用される。
【0003】
LIBのような電池に含まれるリチウム、コバルト、ニッケル、アルミニウム、銅及びマンガンのような化学元素のいくつかは、一方では電気自動車及び電池に対する需要の高まりを、他方では資源不足を特に考慮しすると、貴重であることから、電池のリサイクルは、電池の経済的かつ環境に配慮した製造を達成するために極めて重要になる。主としてサイズを低減した電池材料(いわゆる「ブラックマス」)、あるいは混合水酸化物沈殿物(MHP)又は混合硫化物沈殿物(MSP)を含む供給原料を酸浸出させて、溶液に溶解したNi、Co及びMnのような有価金属を得ることを含む、電池から有価金属を抽出し、回収する多工程の処理及び化学的方法を使用する湿式精錬リサイクルは、最も費用対効果が高く有効なリサイクル方法であり、環境への配慮の観点からも好ましい。
【0004】
電池セル又は単に「セル」は、一般に、アノード、カソード、セパレータ及び電解質を含む。電解質は、イオンが酸化及び還元反応においてそれぞれ正極(カソード)と負極(アノード)との間で及びその逆に移動することを可能にする伝導体として働く。LIBは、放電中にリチウムイオンがアノードからカソードに移動する充電式電池の一種である。さらに、電池セルは、通常、電極、セパレータ及び電解質、集電体又は端子を収容するケーシング並びにポリマーガスケット、ベント又はバルブのようなさまざまな安全装置を含む。正端子は、例えばアルミニウムタブによってカソードに接続され、負端子は、例えば銅タブによってアノードに接続される。したがって、LIBのような電池は、多くの異なる材料、特に、ハウジングを構成するプラスチック及び金属、カソード及びアノード材料、セパレータ並びに電解質を含む。電解質は、多くの場合、フッ化物を含有する。LIBで使用する一般的な電解質塩は、LiPFのようなフッ化物を含有する塩である。この塩は、使用済み電池の機械的サイズ低減の後に最終的にブラックマスとなり、活物質及び不純物とともにリサイクルに提供される。この塩は、酸性溶液に溶解するので、溶液中にフッ化物が導入される。
【0005】
浸出貴溶液(PLS)中のフッ化物濃度が高レベルであると、処理設備の材料が限られ、資本的支出(キャペックス)と運営費(オペックス)に大きな影響を及ぼすことから、フッ化物を除去することは、電池リサイクルの湿式精錬工程における最大の課題の1つである。さらに、フッ化物は、リチウムを回収する前に除去しない場合、特にリチウムとやや溶けにくい塩(LiF)を形成する。LiFの形成は、リサイクルの後の段階において回収する、Ni、Co及びMn塩のような塩の品質を低下させる。したがって、リサイクル全体、特に電池リサイクルの環境への影響、オペックス及びキャペックスを最小限に抑えることが可能で、溶液を安全に取り扱うことができる濃度に低下させ、有価材料を回収する後続の工程をフッ化物に気を取られることなく実行できる、酸性溶液からフッ化物を大幅に除去できる方法が求められている。
【発明の概要】
【0006】
フッ化物除去方法に対するこのような要求を考慮し、酸性溶液からフッ化物を除去する単純かつ効率的な方法を提供することが本開示の一目的である。
【0007】
さらに、破砕した電池又は電池材料の液相酸性浸出によって用意された酸性浸出溶液からフッ化物を除去するとともに、NCM金属といった溶液に含まれる有価金属の損失を最小限に抑えるための単純かつ効率的な方法を提供することが本開示の一目的である。
【0008】
加えて、系に新たな化学的不純物を導入せず、フッ化物を取り扱い及び廃棄が容易である中性塩に変換することを可能にする、酸性溶液からフッ化物を効率的に除去する方法を提供することが本開示の一目的である。
【0009】
さらに、電池リサイクルのオペックス及びキャペックスを最小限に抑えることを可能にし、より環境に配慮しており、したがって、リチウムイオン二次電池の経済的かつ環境に配慮した製造を確保する、酸性溶液からフッ化物を除去する方法を提供することが本開示の一目的である。
【0010】
これらの目的の1つ以上は、独立請求項1に記載の酸性溶液からフッ化物を除去する方法によって解決できる。独立請求項1及び従属請求項を技術的に好適かつ目的に適った方式で組み合わせて、本発明の更なる態様を提供できる。
【0011】
本開示によれば、酸性溶液からフッ化物を除去する方法であって、
a)フッ化物含有酸性浸出液を用意すること;
b)中和剤の添加によって工程a)の浸出液のpHを4~5に調整して、第1のフッ化物含有沈殿物を形成し、第1のフッ化物含有沈殿物を分離して、第1のフッ化物低減浸出液を得る第1の沈殿段階;
c)中和剤の添加によって第1のフッ化物低減浸出液のpHを5超~6以下に上昇させて、第2のフッ化物含有沈殿物を形成し、第2のフッ化物含有沈殿物を分離して、第2のフッ化物低減浸出液を得る第2の沈殿段階
を含む、方法が提供される。
【0012】
中和剤の添加によって酸性フッ化物含有溶液のpHを連続的に増加させる、本開示の方法による一連の沈殿段階を適用することは、有利には、取り扱いが容易であり、容易に分離し、廃棄できる不溶性の中性フッ化物含有塩の形成をもたらし、それによって、フッ化物含有量が大幅に低減される。本明細書で開示する方法は、有利には、酸性溶液、特に、破砕した電池又は電池材料の液相酸性浸出によって用意された酸性浸出溶液からフッ化物を単純かつ効率的に除去するとともに、Ni、Co及びMnのような溶液に含まれる可能性がある有価金属の損失を最小限に抑えることを可能にする。本開示の方法により更に有利には、系に新たな不要な化学的又は金属不純物を導入しない薬剤、例えば、中和剤を使用することで、効率的なフッ化物除去を達成できる。これによって、有価な電池材料を回収する後続の工程を、フッ化物に気を取られることなく高収率で実行できる。したがって、本明細書で開示する方法は、電池リサイクルのオペックス及びキャペックスを最小限に抑えること並びに経済的かつ環境に配慮した電池製造を可能にする。
【0013】
以下、異なる側面を、図面を参照して説明する。以下の説明における図面は、本開示の一部の態様を示すにすぎず、当業者は、この図面から創造的努力なしに他の態様を更に導き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、3つの沈殿段階PS1、PS2及びPS3を含む、本開示の一態様による酸性溶液からフッ化物を除去する方法を示す概略的な流れ図である。第1の沈殿段階(PS1)では、工程A1において、ブラックマスの還元的酸性浸出から用意されたフッ化物含有浸出貴溶液(PLS;pH約0.5)を中和剤としてのニッケルマンガンコバルト水酸化物(NMC(OH))と混合して、浸出溶液のpHを4~5に増加させ、沈殿を開始させる。工程A1で使用するNMC(OH)の少なくとも一部は、第2の沈殿段階から戻してリサイクルされる。リチウムイオン電池から得たブラックマスの場合、PLSは、例えば、Ni、Mn、Co、Li、並びに不純物であるAl、Cu、Fe、Zn、Mg、K、P及びFを含有するが、これらには限定されない。次いで、濾過工程B1において、主にFe(OH)、Al(OH)、Cu(OH)、NMC(OH)、MgF、AlF錯体を含有する工程A1において形成された沈殿物(P1)を分離し、工程廃棄物として廃棄する。第1の沈殿段階における沈殿は、互いに連結した一連の反応槽において、30~60℃で2~6時間の滞留時間で実行できる。第2の沈殿段階(PS2)では、第1の沈殿段階において沈殿物P1を分離した後に得られ、フッ化物濃度が低減された浸出溶液PLS1を、工程A2において中和剤であるNMC(OH)及びNaOHと混合し、pHを5超~6以下に更に増加させて、沈殿を開始させる。次いで、濾過工程B2を行い、主にAl(OH)、Cu(OH)、MgF、AlF錯体及びNMC(OH)を含有する形成された沈殿物(P2)を分離する。工程B2で分離した沈殿物P2は、共沈したNMC(OH)を工程A1における中和剤として再利用するために、単離し、第1の沈殿段階に戻してリサイクルしてもよい。第2の沈殿段階における沈殿は、互いに連結した一連の反応槽において、30~60℃で2~6時間の滞留時間で実行できる。沈殿の第3段階(PS3)では、第2の沈殿段階において沈殿物P2を分離した後に得られ、フッ化物濃度が更に低減された浸出溶液PLS2を、工程A3において沈殿剤としてのMg(SO)と混合し、フッ化物を更に沈殿させる。主にMgFを含有する工程A3において形成された沈殿物(P3)を、濾過工程B3で分離し、工程廃棄物として廃棄する。第3の沈殿段階における沈殿は、5超~6以下のpH、好ましくは工程A2と同じpHで、互いに連結した一連の反応槽において、30~60℃で2~6時間の滞留時間で実行できる。第3の沈殿段階においてP3を分離した後に得られ、フッ化物濃度が更に低減された浸出溶液PLS3は、例えば、Ni、Mn、Co及びLiを含む有価な電池材料を回収するその後の工程に供してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
本出願の態様の技術的解決手段を、図面を参照してより詳細に説明する。説明される態様は、本出願の態様の全てではなく一部であることが明らかである。さまざまな態様の特徴を組み合わせて、明示的に説明又は図示されていない可能性がある本開示の更なる代表的な側面を形成することができる。当業者によって本発明の態様に基づいて創造的努力をすることなく得られる他の全ての態様は、本発明の保護範囲に属するものとする。さらに、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等物によって定義されることから、本明細書で使用される単語及び用語は、特定の態様を説明するために使用されるにすぎず、限定することを意図したものではないことが理解される。
【0016】
本明細書で開示するのは、酸性溶液からフッ化物を除去する方法であって、
a)フッ化物含有酸性浸出液を用意すること;
b)中和剤の添加によって工程a)の浸出液のpHを4~5に調整して、第1のフッ化物含有沈殿物を形成し、第1のフッ化物含有沈殿物を分離して、第1のフッ化物低減浸出液を得る第1の沈殿段階;
c)中和剤の添加によって第1のフッ化物低減浸出液のpHを5超~6以下に上昇させて、第2のフッ化物含有沈殿物を形成し、第2のフッ化物含有沈殿物を分離して、第2のフッ化物低減浸出液を得る第2の沈殿段階
を含む、方法である。
【0017】
本開示の方法の好ましい態様では、フッ化物含有酸性浸出液又は浸出溶液という用語は、本明細書では互換的に使用され、液相酸性浸出によって、特に、主に「ブラックマス」と一般的に称される破砕した電池又は電池材料を含有するフッ化物含有供給原料の液相酸性浸出によって用意される。より好ましくは、フッ化物含有供給原料は、ブラックマスである。ブラックマスは、好ましくはリチウムイオン電池、特に二次リチウムイオン電池を破砕して得られる。しかし、フッ化物含有供給原料は、他の供給源から得てもよく、例えば、混合水酸化物沈殿物(MHP)及び混合硫化物沈殿物(MSP)のようなフッ化物含有原材料若しくはリサイクル材料である供給原料、それらの組合せ、又はそれらとブラックマスの組合せであってもよい。
【0018】
本出願では、「電池」という用語は、電池セル、典型的には通常複数の電池セルを有する電池モジュール、及び典型的には複数の電池モジュールを含有する電池パックを含むことを意図している。さらに、本出願では、「電池」という用語は、使い捨て電池及び充電式電池を含むことを意図している。
【0019】
電池を破砕することは、通常、廃電池をその化学組成に従って選別することから始まり、次いで、それらを破砕又は細断して、サイズを低減した電池材料を得る、電池のリサイクルにおける一工程である。これまでに説明したように、電池は、電池ハウジングを構成するプラスチック及び金属、セパレータ、カソード及びアノード材料、並びに電解質を含むさまざまな材料を含む。破砕の後に、一連の濾過及びふるい分け工程を行って、プラスチック及び金属断片を分離し、最後に、生成物として、主に電解質、カソード材料及びアノード材料を含有するブラックマスを得る。しかし、ブラックマスの組成は、通常、原材料として使用する電池の種類及びそれに含まれる化学物質に応じて、また電池の選別が多くの場合困難である又は無視されることを理由に変動する。
【0020】
「カソード材料」及び「カソード活物質」という用語は、カソードの主要活性成分を構成する材料又は金属を表すために互換的に使用される。リチウムイオン電池では、通常、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及び/若しくはマンガン(Mn)(いわゆる「NCM金属」)を含むリチウム遷移金属複合酸化物又はリン酸鉄リチウム(LiFePO)がカソード材料として使用される。リチウム遷移金属複合酸化物の代表的な例は、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、リチウムニッケルコバルト酸化物(LiNiCo1-x(0<x<1)又はLiNi1-x-yCoAl(0<x≦0.2、0<y≦0.1))及びリチウムニッケルコバルトマンガン(NCM)酸化物(LiNi1-x-yCoMn(0<x+y<1))である。
【0021】
「アノード材料」及び「アノード活物質」という用語は、アノードの主要活性成分を構成する材料又は金属を表すために互換的に使用される。通常、リチウムイオン電池は、アノード材料として黒鉛粉末を使用する。しかし、本明細書では、「アノード材料」という用語は、天然及び人造黒鉛、活性炭、カーボンブラック、導電性添加剤、チタン酸リチウム(LTO)、表面機能化ケイ素、並びに高性能粉末状グラフェンも含むと理解される。
【0022】
リチウムイオン電池の電解質は、液体であり、通常、有機溶媒、例えば、炭酸アルキル、例えば、炭酸エチレン(EC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸プロピレン(PC)のような炭酸C~Cアルキルの混合物に溶解した、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビス(ビストリフルオロメタンスルホニル)(LiTFSl)又はフルオロアルキルリン酸リチウムのようなフッ化物を含有する塩を含有する。
【0023】
したがって、リチウムイオン電池を破砕して得たブラックマスは、通常、例えば、約28~40重量%のNi、Co及び/又はMn、約3~5重量%のLi、約30~40重量%の黒鉛、約2~5重量%のAl、Cu、Fe及び/又はMgといった金属性不純物、約1~2重量%の有機化合物、約1重量%のCa、P、Si、Zn、K及びNaといった他の不純物、並びに約1~2重量%のフッ化物を含有する。
【0024】
フッ化物含有供給原料の浸出は、酸性浸出又は酸焙焼のような、ただしこれらに限定されない、酸性浸出液を用意するのに好適であると当業者に公知の方法で行ってもよいが、溶媒として酸又は酸性溶液を使用する液相酸浸出が、フッ化物含有酸性浸出液を用意するために好ましい。
【0025】
ブラックマスのようなフッ化物含有供給原料の液相酸性浸出によって、電極材料、不純物及び電解質からの塩が溶液に溶解し、黒鉛、プラスチック片及び不溶解金属が不溶解画分として残る。したがって、破砕したリチウムイオン電池からのブラックマスの液相酸性浸出によって得られた浸出液は、リチウム(Li)並びに有価なカソード材料であるニッケル(Ni)、コバルト(Co)及び/又はマンガン(Mn)(「NCM金属」)を主成分として含む可能性があり、フッ化物(F)の他に、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、リン(P)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、カリウム(K)及びナトリウム(Na)の1以上を所望しない不純物として含む可能性があるが、これらに限定されない。これまでに説明したように、浸出液中の電極材料及び不純物のそれぞれの量及び濃度は、浸出に使用するブラックマス又は供給原料の組成、及び浸出中に適用される条件に応じて変動する。
【0026】
ブラックマスを浸出させるのにとりわけ好適である特に好ましい態様によれば、フッ化物含有酸性浸出液を用意する液相酸性浸出は、還元剤として硫酸(HSO)及び過酸化水素(H)を使用して大気圧で行われる。
【0027】
複数の態様では、用意される酸性浸出液のpHは、通常、1.5未満、例えば1未満、好ましくは0.5未満、例えば約0.3~0.5である。
【0028】
本開示の方法では、中和剤の添加によって工程a)のフッ化物含有酸性浸出液のpHを4~5に調整して、第1のフッ化物含有沈殿物を形成し、次いで、第1のフッ化物含有沈殿物を分離して、第1のフッ化物低減浸出液を得る、第1の沈殿段階b)を行う。より好ましくは、第1の沈殿段階において、浸出液のpHを4.2~4.7に調整する。pHをこの範囲内に調整することで、F及びFe又はAlのような所望しない不純物の最大沈殿収率を確保でき、同時に、最小量のNi、Co、Mnのような有価金属が共沈する。したがって、有価金属の損失量を最小限に抑えることができる。
【0029】
すなわち、第1の沈殿段階において、中和剤を使用して、浸出溶液のpHを4~5、好ましくは4.2~4.7に増加させて、沈殿を開始させ、次いで、形成された沈殿物を分離する。pHの増加とそれに伴う溶解度及び錯体化反応の変化を理由に、フッ化物を溶液から不溶性塩として特定の飽和レベルに達するまで沈殿させて、フッ化物濃度が低減された浸出液を上澄み液として残すことができる。フッ素塩が沈殿するだけでなく、酸性浸出液に含まれ、溶解している可能性がある他のカチオン及びアニオンの不溶性塩も沈殿又は共沈する可能性があることが理解される。したがって、第1のフッ化物含有沈殿物は、フッ素塩からなる可能性があるだけでなく、フッ素塩と1種以上の追加の塩の沈殿物又は共沈物である可能性もある。例えば、第1の沈殿段階b)において設定した特定のpH範囲では、存在する場合、特に不溶性水酸化物又はリン酸塩としてのFe、Al、Cu、Ni、Co及びMnの沈殿が追加的に発生する可能性があり、Fは、浸出液中に存在するカチオンに応じて、例えば、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)及び/又はフッ化アルミニウム(AlF)錯体として沈殿する可能性がある。
【0030】
したがって、本開示の方法では、工程a)において用意されるフッ化物含有酸性浸出液、又は工程a)において酸性浸出液を用意するために使用するフッ化物含有供給原料若しくはブラックマスは、フッ化物と不溶性塩を形成する金属カチオン、特に、Ni、Mn、Co、Al、Na及びMgの1以上を既に含有することが好ましい。あるいは、そのような1以上の金属カチオンは、例えば、中和剤の形態で酸性溶液に別個に添加してもよい。
【0031】
第1の沈殿段階で使用する中和剤は、好ましくは、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化アンモニウム(NHOH)、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化ニッケル(Ni(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化コバルト(Co(OH))、ニッケルコバルトマンガン水酸化物NiCoMn(OH)及びそれらの1以上の混合物から選択される。これらの中和剤を使用することで、有利には、浸出溶液への新たな金属不純物の導入も回避できる。
【0032】
より好ましくは、第1の沈殿段階で使用する中和剤は、水酸化ニッケル(Ni(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化コバルト(Co(OH))及びニッケルコバルトマンガン水酸化物(NiCoMn(OH))の1以上を少なくとも含む。これらの中和剤のいずれか1種を使用することが有利であり、その理由は、特に、NCM金属が工程a)の浸出溶液に最初に含有される場合、例えば、供給原料の液相酸性浸出の後、及びこの工程において中和剤として使用するNCM水酸化物自体がリサイクル材料である場合、有価なNCM金属であるNi、Co及びMnの損失を低減できるためである。
【0033】
本開示の方法の好ましい態様では、第1の沈殿段階b)において、浸出液に、中和剤の他に、リン酸(HPO)とケイ酸カリウム(KSiO)のいずれか一方又は両者を追加する。リン酸(HPO)の添加によって、鉄(Fe)及びアルミニウム(Al)を効率的に沈殿させることができ、その理由は、三価状態のリン酸塩としてのFe及びAlは、溶解度が低いためである。Fe及びAlをリン酸塩として沈殿させることは、水酸化物の形態での沈殿と比較して有利な可能性があり、その理由は、水酸化Al及びFeは、NCM金属及びリチウムを吸収する傾向があるためである。さらに、リン酸Al及びFeは、例えば濾過による分離及び洗浄が対応する水酸化物よりも容易で、回収が容易となる可能性がある。ケイ酸カリウム(KSiO)の添加により、溶解度が低く、容易に分離し、廃棄できるフルオロケイ酸カリウム(K(SiF))の形態でのフッ化物沈殿を増加させることができる。
【0034】
本開示の方法の好ましい態様では、第1の沈殿段階は、30℃~60℃、より好ましくは40℃~50℃で行われる。この温度では、沈殿の効率を高めることができる。
【0035】
本開示の方法の更なる好ましい態様では、第1の沈殿段階の滞留時間は、2~12時間、より好ましくは2~6時間、一層より好ましくは3~5時間である。これは、有利には、多量の沈殿物の形成を可能にする。
【0036】
すなわち、本開示の方法では、第1の沈殿段階における沈殿中の温度は、好ましくは30℃~60℃、より好ましくは40℃~50℃になるように制御される。あるいは又は追加的に、好ましくは追加的に、第1の沈殿段階における沈殿についての滞留時間は、好ましくは2~12時間、より好ましくは2~6時間、一層より好ましくは3~5時間に設定される。温度と時間は相関する、すなわち、温度が高くなると滞留時間が短くなり、温度が低くなると滞留時間が長くなることから、沈殿効率とエネルギー消費との間の最適な関係を調整できる。
【0037】
第1のフッ化物含有沈殿物の分離は、当業者に公知の方法で行ってもよい。例えば、第1のフッ化物含有沈殿物は、フィルター、遠心分離機又はサイクロンを使用する濾過によって、浸出液から分離してもよい。分離された沈殿物は、廃棄物として廃棄してもよく、又はそれに含有される金属の更なる回収のために、単離し、例えば水で洗浄してもよい。
【0038】
本開示の方法では、中和剤の添加によって工程b)の第1のフッ化物低減浸出液のpHを5超~6以下に上昇させて、第2のフッ化物含有沈殿物を形成し、次いで、第2のフッ化物含有沈殿物を分離して、第2のフッ化物低減浸出液を得る、第2の沈殿段階c)が行われる。より好ましくは、第2の沈殿段階において、第1のフッ化物低減浸出液のpHを5.3~5.7に調整する。pHをこの範囲内に調整することで、浸出液中のFe又はAlのような所望しない不純物の濃度を更に減少させることができる。
【0039】
すなわち、第2の沈殿段階において、中和剤を使用して、第1の沈殿段階から得られた第1のフッ化物低減浸出液のpHを5超~6以下、好ましくは5.3~5.7に更に増加させて、更なる沈殿を開始させる。pHの更なる増加とそれに伴う溶解度及び錯体化反応の変化を理由に、フッ化物を溶液から不溶性塩の形態で特定の飽和レベルに達するまで更に沈殿させて、フッ化物濃度が更に低減された第2のフッ化物低減浸出液を上澄み液として残すことができる。ここでも、第2の沈殿段階c)においてフッ素塩が沈殿するだけでなく、浸出液に含まれ、溶解している可能性がある他のカチオン及びアニオンの不溶性塩も沈殿又は共沈する可能性があることが理解される。したがって、第2のフッ化物含有沈殿物も、フッ素塩からなる可能性があるだけでなく、フッ素塩と1種以上の追加の塩の沈殿物又は共沈物である可能性もある。例えば、第2の沈殿段階c)において設定した特定のpH範囲では、存在する場合、特に不溶性水酸化物としてのFe、Al、Cu、Ni、Co及びMnの沈殿が追加的に発生する可能性があり、Fは、浸出液中に存在するカチオンに応じて、例えば、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)及び/又はフッ化アルミニウム(AlF)錯体として沈殿する可能性がある。
【0040】
第2の沈殿段階で使用する中和剤は、好ましくは、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化アンモニウム(NHOH)、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化ニッケル(Ni(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化コバルト(Co(OH))、ニッケルコバルトマンガン水酸化物NiCoMn(OH)及びそれらの1以上の混合物から選択され、より好ましくは、NaOH、LiCO、Ni(OH)、Mn(OH)、Co(OH)、NiCoMn(OH)及びそれらの1以上の混合物から選択される。これらの中和剤を使用することで、有利には、浸出溶液への新たな金属不純物の導入も回避できる。
【0041】
第1及び第2の沈殿段階で使用する中和剤は、独立して選択できる。すなわち、第2の沈殿段階で使用する中和剤は、第1の沈殿段階で使用する中和剤と同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
本開示の方法の更なる好ましい態様では、第2の沈殿段階で使用する中和剤は、水酸化ニッケル(Ni(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化コバルト(Co(OH))及びニッケルコバルトマンガン水酸化物(NiCoMn(OH))の1以上を少なくとも含む。これらの中和剤のいずれか1種を使用することが有利であり、その理由は、特に、NCM金属が浸出溶液に既に含有される場合、有価なNCM金属であるNi、Co及びMnの損失を低減できるためである。
【0043】
本開示の方法の複数の態様では、第2の沈殿段階c)において、沈殿効率を高めるために、第1のフッ化物低減浸出液に、NiCoMn(OH)、Ni(OH)、Mn(OH)及びCo(OH)の1以上に加えて、水酸化ナトリウム(NaOH)及び炭酸リチウム(LiCO)のいずれが一方又は両者を中和剤として添加する。
【0044】
本開示の方法の好ましい態様では、第2の沈殿段階は、30℃~60℃、より好ましくは40℃~50℃で行われる。この温度では、第2の沈殿段階における沈殿の効率を高めることができ、同時に、Ni、Mn及び/又はCoの塩の結晶化を阻害できる。
【0045】
本開示の方法の更なる好ましい態様では、第2の沈殿段階の滞留時間は、2~12時間、より好ましくは2~6時間、一層より好ましくは3~5時間である。これは、有利には、第2の沈殿段階における多量の沈殿物の形成を可能にする。
【0046】
すなわち、本開示の方法では、第2の沈殿段階における沈殿中の温度は、好ましくは30℃~60℃、より好ましくは40℃~50℃の範囲内に制御する。あるいは又は追加的に、好ましくは追加的に、第2の沈殿段階における沈殿についての滞留時間は、好ましくは2~12時間、より好ましくは2~6時間、一層より好ましくは3~5時間に設定される。温度と時間は相関する、すなわち、温度が高くなると滞留時間が短くなり、温度が低くなると滞留時間が長くなることから、第2の沈殿段階において沈殿効率とエネルギー消費との間の最適な関係を調整できる。
【0047】
しかし、第1及び第2の沈殿段階における温度及び滞留時間は、独立して選択できる。これは、第2の沈殿段階において設定した温度及び滞留時間が、第1の沈殿段階において設定した温度及び滞留時間と同一であっても異なっていてもよいことを意味する。
【0048】
第2のフッ化物含有沈殿物の分離は、当業者に公知の方法で行ってもよい。例えば、第2のフッ化物含有沈殿物は、フィルター、遠心分離機又はサイクロンを使用する濾過によって、第1のフッ化物低減浸出液から分離してもよい。分離された第2のフッ化物含有沈殿物は、廃棄物として廃棄してもよく、又はそれに含有される金属の更なる回収のために、単離し、例えば水で洗浄してもよい。しかし、あるいは、単離された第2のフッ化物含有沈殿物は、少なくとも一部が、第1の沈殿段階に戻してリサイクルしてもよい。これまでに説明したように、第2の沈殿段階における増加したpHに起因する、水酸化物としての、Ni、Co及びMnの顕著な量の共沈、並びに/又は第2の沈殿段階において適用されるより高いpHでの遅い反応速度に起因する、顕著な量の不溶解NMC水酸化物中和剤が存在する可能性がある。したがって、単離された第2のフッ化物含有沈殿物は、顕著な量のNMC水酸化物を含有する可能性があり、NMC含有量を回収し、NCM金属の損失を低減するために、NMC水酸化物の更なる洗浄又は分離なしに、少なくとも一部が、ただし、好ましくは全体が、中和剤として第1の沈殿段階に戻して循環してもよい。
【0049】
したがって、更なる好ましい態様では、本開示の方法は、分離された第2のフッ化物含有沈殿物を第1の沈殿段階に戻してリサイクルする工程d)を更に含む。
【0050】
第2の沈殿段階から得られた第2のフッ化物低減浸出液は、直接使用し、例えば有価な電池材料を回収するその後の工程に提供してもよい。しかし、AlFのような一部のフッ化物含有錯体は、第2の沈殿段階におけるpH増加に起因して分解し、Fを放出し、それによって、浸出液中に遊離Fイオンを残す傾向があることから、あるいは、第2のフッ化物低減浸出液は、所望の場合、Fをより溶解度の低い形態で更に沈殿させるために、更なる沈殿段階に供してもよい。これによって、浸出溶液中のフッ化物の濃度を更に低減できる。
【0051】
したがって、一態様によれば、本開示の方法は、第3の沈殿段階を更に含む。好ましくは、第3の沈殿段階において、第2のフッ化物低減浸出液にアルカリ土類金属塩を添加して、無機フッ素化合物を沈殿させ、次いでこれを分離して、第3のフッ化物低減浸出液を得る。
【0052】
この態様により更に好ましくは、無機フッ素化合物の沈殿を開始させ、フッ化物濃度を更に低減するために、アルカリ土類金属塩を100~240g/Lの濃度で添加する。
【0053】
この態様により更に好ましくは、フッ化物をやや溶けにくいフッ化マグネシウム(MgF)として沈殿させるために、アルカリ土類金属塩は、硫酸マグネシウム(MgSO)又は炭酸マグネシウム(MgCO)のようなマグネシウム塩である。したがって、この態様により沈殿する無機フッ素化合物は、MgFであり、これは、浸出溶液から容易に分離し、廃棄できることから有利である。
【0054】
この態様により更に好ましくは、第2のフッ化物低減浸出液のpHを、第3の沈殿段階において維持する。換言すれば、第3の沈殿段階における第2のフッ化物低減浸出液のpHを、第2の沈殿工程と同じになるように調整する。これによって、例えば、NCM金属の不要な沈殿又は共沈を防止できる。
【0055】
本開示の方法のこの態様により更に好ましくは、第3の沈殿段階は、30~60℃、より好ましくは40℃~50℃で行われる。この温度では、無機フッ素化合物の沈殿の効率を高めることができ、同時に、Ni、Mn及び/又はCoの塩の結晶化を阻害できる。
【0056】
この態様により更に好ましくは、第3の沈殿段階の滞留時間は、2~12時間、より好ましくは2~6時間、一層より好ましくは3~5時間である。これは、有利には、第3の沈殿段階における多量の沈殿物の形成を可能にする。
【0057】
すなわち、本開示の方法のこの態様では、第3の沈殿段階における沈殿中の温度は、好ましくは30℃~60℃、より好ましくは40℃~50℃になるように制御される。あるいは又は追加的に、好ましくは追加的に、第3の沈殿段階における沈殿についての滞留時間は、好ましくは2~12時間、より好ましくは2~6時間、一層より好ましくは3~5時間に設定される。温度と時間は相関する、すなわち、温度が高くなると滞留時間が短くなり、温度が低くなると滞留時間が長くなることから、第3の沈殿段階において沈殿効率とエネルギー消費との間の最適な関係を調整できる。
【0058】
沈殿した無機フッ素化合物の分離は、当業者に公知の方法で行ってもよい。例えば、沈殿した無機フッ素化合物は、フィルター又は篩を使用する濾過によって、第2のフッ化物低減浸出液から分離してもよい。単離された無機フッ素化合物は、次いで、廃棄物として廃棄してもよい。
【0059】
第3の沈殿段階において、得られた浸出液中の残留フッ化物の濃度を、浸出液のpH及び浸出液中の他のイオンの濃度に応じて、特定の飽和レベルに更に一層低減する。
【0060】
こうして得られた第3のフッ化物低減浸出液は、直接使用し、例えば、有価な電池材料を回収するその後の工程に提供してもよい。
【0061】
したがって、本明細書で開示する方法は、有利には、酸性溶液、特に酸性浸出溶液からフッ化物を単純かつ効率的に除去して、溶液の安全な取り扱いを実現する濃度未満とするとともに、浸出溶液に含まれる可能性がある有価な電極材料、例えばNCM金属の損失を最小限に抑えることを可能にする。したがって、電池材料を回収する後続の工程を、フッ化物に気を取られることなく高収率で実行できる。加えて、本明細書で開示する方法は、有利には、系に新たな化学的又は金属不純物を導入しないが、それでもなお、フッ化物を取り扱い及び廃棄が容易である中性塩に変換することを可能にする。したがって、本明細書で開示する方法は、電池リサイクルのオペックス及びキャペックスを最小限に抑えることを可能にし、経済的かつ環境に配慮した電池製造を実現する。
【0062】
更なる詳述なしに、当業者は、図面を含む本明細書を使用して、本発明を最大限に利用できると考えられる。本発明を、発明を実施するための最良の形態であるその好ましい態様に関して本明細書で説明してきたが、特許請求の範囲に記述されている本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、当業者に明らかとなるさまざまな変更を加えることができることが理解される。
【実施例
【0063】
本発明の概念を、オーバーヘッド撹拌機、磁気撹拌付きの加熱プレート、ガラスビーカー(ガラス反応器、1L)及びブフナー漏斗を使用して、固体と液体とを分離する方法を10サイクル行う、実験室規模の試験で実証した。
【0064】
これらのサイクルは、浸出、第1の不純物沈殿段階(不純物沈殿段階1)及び第2の不純物沈殿段階(不純物沈殿段階2)を含んでおり、第2の不純物沈殿段階からのケーク(リサイクルケーク)を第1の不純物沈殿段階に戻す。
【0065】
初めに、ブラックマスを、オーバーヘッド撹拌機を備えた反応器において、水、硫酸及び過酸化水素と混合することによって浸出した。この工程は、180分の反応時間、60℃で最適な浸出収率に達するまで行った。浸出の後に、第1の不純物沈殿段階を実施し、第2の不純物沈殿段階からのリサイクルケーク及びNMC-OHスラリーを4.5に近いpHに達するまで添加し、ホットプレートの温度を40℃に設定して、反応を4時間進行させた後、ブフナー漏斗で濾過した。第1の不純物沈殿段階の後に、第2の不純物沈殿段階を実施し、NMC-OHスラリーを5.5に近いpHに達するまで添加し、ホットプレートの温度を40℃に設定して、反応を4時間進行させた後、ブフナー漏斗で濾過した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1のとおり、各サイクルについて、浸出工程、不純物沈殿段階1及び不純物沈殿段階2のフッ化物含有量(F)をmg/L単位で明記し、不純物沈殿段階1(リサイクルされ、添加された)及び2において添加したニッケルマンガンコバルト水酸化物NMC(OH)をグラム(g)単位で明記し、また、各段階で到達したpHを明記した。この実施例は、実際の産業への実装ではなく本発明の概念を例示するためのものにすぎず、実装では、例えば、フッ化物レベルを更に低減する工程又は処理が追加されてもよいことに留意すべきである。
図1
【国際調査報告】