(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】圧縮天然ガス燃焼及び排気システム
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20241210BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20241210BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20241210BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20241210BHJP
B01J 29/76 20060101ALI20241210BHJP
B01J 29/44 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
F01N3/28 301P
F01N3/10 A ZAB
F01N3/28 301E
F02D19/02
B01J35/57 L
B01J35/57 J
B01J29/76 A
B01J29/44 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529144
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-05-15
(86)【国際出願番号】 GB2022053286
(87)【国際公開番号】W WO2023118827
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ラージ、アグネス
(72)【発明者】
【氏名】ラジャラム、ラージ
(72)【発明者】
【氏名】スメドラー、グドムンド
(72)【発明者】
【氏名】トンプセット、デービッド
【テーマコード(参考)】
3G091
3G092
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA19
3G091AB02
3G091AB05
3G091BA14
3G091BA15
3G091GA06
3G091GB01X
3G091GB07W
3G091GB09W
3G091HA10
3G092AB08
4G169AA03
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA13A
4G169BA13B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CA09
4G169CA12
4G169CA13
4G169DA06
4G169EA18
4G169EA19
4G169EC28
4G169EE09
4G169FC08
4G169ZA11B
4G169ZA14A
4G169ZA14B
4G169ZC04
4G169ZF07A
4G169ZF07B
(57)【要約】
本発明は、圧縮天然ガス燃焼及び排気システムに関し、当該システムは、(i)天然ガス燃焼エンジンと、(ii)排気処理システムと、を備え、当該排気処理システムは、当該燃焼エンジンから排気ガスを受け取るための吸気口及び当該排気ガスを受け取り、処理するように配置された触媒物品を備え、当該触媒物品は、少なくとも第1のコーティン及び第2のコーティングを有する基材であって、当該第1のコーティングが白金族金属を含まず、CHA骨格型を有する銅含有ゼオライトを含み、当該第2のコーティングがパラジウム含有ゼオライトを含む、基材、を含み、当該第1のコーティングは、当該第2のコーティングの前に当該排気ガスに接触するように配置されている。本発明は更に、方法及び使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮天然ガス燃焼及び排気システムであって、
(i)天然ガス燃焼エンジンと、
(ii)排気処理システムであって、前記燃焼エンジンから排気ガスを受け取るための吸気口及び前記排気ガスを受け取り、処理するように配置された触媒物品を備え、前記触媒物品が、
少なくとも第1のコーティング及び第2のコーティングを有する基材であって、前記第1のコーティングが白金族金属を含まず、CHA骨格型を有する銅含有ゼオライトを含み、前記第2のコーティングがパラジウム含有ゼオライトを含む、基材、を含み、
前記第1のコーティングが、前記第2のコーティングの前に前記排気ガスに接触するように配置されている、排気処理システムと、
を備える、システム。
【請求項2】
前記第1のコーティングが、前記基材上にウォッシュコートとして提供され、1~50g/ft
3のウォッシュコート負荷を有する、及び/又は前記第2のコーティングが、前記基材上にウォッシュコートとして提供され、1~50g/ft
3のウォッシュコート負荷を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記CHA骨格型を有する銅含有ゼオライトが、
(i)15~30、好ましくは20~25のSAR、及び/又は
(ii)1~5重量%、好ましくは2~4%、最も好ましくは約3重量%のCu負荷、を有する、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1のコーティングが、ゾーン化された構成において前記第2のコーティングの上流にある、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記基材が入口端及び出口端を有し、任意選択で、前記第1のコーティングが前記入口端から延在し、前記第2のコーティングが前記出口端から延在している、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1のコーティングが、前記基材の軸方向長さの20~80%、好ましくは60~80%に延在している、及び/又は前記第2のコーティングが、前記基材の軸方向長さの20~80%、好ましくは20~40%に延在している、及び/又は前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングが共に基材を実質的に覆っている、請求項4又は請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のコーティング及び前記第2のゾーンが、前記基材の軸方向長さの少なくとも10%だけ重なり合っている、請求項4、5、又は6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1のコーティングが、層状構成で前記第2のコーティング上に配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記基材が、フロースルーモノリスである、請求項1~8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記パラジウムドープゼオライトが、少なくとも1500、好ましくは少なくとも2000、より好ましくは少なくとも2200のSARを有する、請求項1~9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
前記排気ガスが、10ppm未満のSOx含有量を有する、請求項1~10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
前記触媒物品の下流にSCR触媒を更に含む、請求項1~11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
前記天然ガス燃焼エンジンが、定置機関、好ましくはガスタービンである、請求項1~12のいずれかに記載のシステム。
【請求項14】
天然ガス燃焼エンジンからの排気を処理する方法であって、
前記排気を触媒物品と接触させることを含み、前記触媒物品が、
少なくとも第1のコーティング及び第2のコーティングを有する基材であって、前記第1のコーティングがCHA骨格型を有する銅ドープゼオライトを含み、前記第2のコーティングがパラジウムドープゼオライトを含む基材を含み、
前記第1のコーティングが、前記第2のコーティングの前に前記排気ガスに接触するように配置されている、方法。
【請求項15】
下流のパラジウム含有ゼオライト触媒を保護するための硫黄トラップとしての、排気システムにおける銅ドープCHAゼオライトの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮天然ガス燃焼及び排気システム、特に、NOx、CO、及びHCに対する改善されたライトオフ性能を有するゼオライト担持Pd触媒を有するものに関する。具体的には、本発明は、天然ガス中に存在する硫黄に鑑みて必要であるこれらの性能利益を実現するための上流硫黄トラップを有するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスは、伝統的にガソリン及びディーゼル燃料を使用する車両及び定置機関のための代替燃料として関心が高まっている。天然ガスは、主にメタン(典型的には70-90%)から構成され、エタン、プロパン及びブタンなどの他の炭化水素(いくつかの鉱床では20%まで)及び他のガスを様々な割合で含む。これは、油田又は天然ガス田から商業的に生産することができ、発電、工業用コージェネレーション及び家庭用暖房のための燃焼エネルギー源として広く使用されている。また、車両燃料として使用することもできる。
【0003】
天然ガスは、圧縮天然ガス(compressed natural gas、CNG)及び液化天然ガス(liquefied natural gas、LNG)の形態で輸送燃料として使用することができる。CNGは、3600psi(約248バール)に加圧されたタンクで運ばれ、単位体積当たりガソリンの約35%のエネルギー密度を有する。LNGは、CNGの2.5倍のエネルギー密度を有し、主に大型車両に使用される。LNGは-162°Cで液体形態に冷却され、その結果、体積は600分の1に減少するが、これはLNGがCNGより容易に輸送されることを意味する。バイオLNGは、天然(化石)ガスの代替物となり得るものであり、バイオガスから生産され、埋立地廃棄物又は肥料などの有機物からの嫌気性消化によって得られる。
【0004】
天然ガスは、多くの環境上の利点を有しており、すなわち、典型的には不純物をほとんど含有しないよりクリーンな燃焼燃料であり、従来の炭化水素燃料よりも炭素当たりのエネルギー(Bti)が高く、結果として二酸化炭素排出量が低く(温室効果ガス排出量が25%少ない)、ディーゼル及びガソリンと比較してPM及びNOxの排出量が低い。バイオガスは、このような排出を更に低減することができる。
【0005】
天然ガスを採用するための更なる推進力には、他の化石燃料と比較して高い存在量及びより低いコストが含まれる。
【0006】
天然ガスエンジンは、大型車両用及び小型車両用ディーゼルエンジンと比較して、非常に低いPM及びNOxを放出する(それぞれ、最大95%及び70%未満)。しかしながら、NGエンジンによって生成される排気ガスは、かなりの量のメタンを含有することが多い(いわゆる「メタンスリップ」)。これらのエンジンからの排出を制限する規制は、現在、Euro VI及び米国環境保護庁(Environmental Protection Agency、EPA)温室効果ガス法を含む。これらは、メタン、窒素酸化物(nitrogen oxide、NOx)及び粒子状物質(particulate matter、PM)の排出制限を課す。
【0007】
メタン燃料エンジンに使用される2つの主な動作モードは、化学量論的条件(λ=1)及び希薄燃焼条件(λ≧1.3)である。パラジウム系触媒は、両方の条件下でメタン酸化のための最も活性なタイプの触媒として周知である。化学量論的圧縮天然ガスエンジンと希薄燃焼圧縮天然ガスエンジンの両方について規制された排出制限は、それぞれパラジウム-ロジウム三元触媒(three-way catalyst、TWC)又は白金-パラジウム酸化触媒のいずれかを適用することによって満たすことができる。
【0008】
このPdベースの触媒技術の発展は、コスト並びに硫黄、水及び熱老化による触媒失活に関する課題を克服することに依存する。
【0009】
メタンは最も反応性の低い炭化水素であり、一次C-H結合を切断するのに高エネルギーが必要である。アルカンの発火温度は、一般に、燃空比の増加及びC-H結合強度と相関する炭化水素鎖長の増加とともに低下する。Pd系触媒では、メタン転化のライトオフ温度が他の炭化水素よりも高いことが知られている(「ライトオフ温度」とは、転化率が50%に達する温度を意味する)。
【0010】
化学量論的条件(λ=1)で動作するとき、TWCは、メタンを燃焼させるための効果的かつ費用効率の高い後処理システムとして使用される。200gft-3を超える高い総白金族金属(platinum group metal、pgm)担持量を有する大部分の二元金属Pd-Rh触媒は、この炭化水素の非常に低い反応性並びに熱及び化学的影響による触媒失活に起因して、寿命末期の全炭化水素(total hydrocarbon、THC)規制を満たすために、高レベルのメタン転化に必要とされる。高いpgm担持量の使用は、化学量論的CNGエンジンにおける全HC転化率を改善させる。しかしながら、高いメタン転化率は、エンジン較正に基づいて比較的低いpgmで達成することができ、すなわち、化学量論量付近又は化学量論量よりもリッチで動作するように空燃比を制御することで達成することができる。pgm担持量は、メタン及び非メタン転化に関する地域の法律要件に対応して変更することもできる。
【0011】
NOxの還元及びメタンの酸化もまた、非常に酸化性の条件下ではより困難である。希薄燃焼CNG用途では、より低い温度でのメタン燃焼のために、高い総pgm担持量(>200gft-3)でのPd-Ptが必要とされる。化学量論的エンジンとは異なり、過剰酸素の存在下でNOxを還元することができるように、還元剤も排気流に注入される必要がある。これは、通常、アンモニア(NH3)の形態であり、したがって、希薄燃焼用途は、化学量論的なものとは完全に異なる触媒系を必要とし、ここで、効率的なNOx還元は、わずかにリッチな又は化学量論的条件でCO又はHCを使用して達成することができる。
【0012】
低温におけるメタンの非反応(又は低反応)特性のために、主に排気温度が化学量論よりも低い希薄燃焼の場合、コールドスタート及びアイドル状態の間にメタン排出量の増加が生じる。より低い温度でのメタンの反応性を改善するための選択肢の1つは、高いpgm担持量を使用することであるが、これはコストを増加させる。
【0013】
天然ガス触媒、特にPd系触媒は、特に希薄条件下で水(5~12%)及び硫黄(潤滑油中<0.5ppm SO2)による被毒に悩まされる可能性があり、これは経時的な触媒の転化率の劇的な低下をもたらす。水による失活は、触媒表面上にヒドロキシル、カーボネート、ホルメート及び他の中間体が形成されるために顕著である。活性は可逆的であり、水が除去されると完全に回復することができる。しかしながら、これは、メタン燃焼供給物が、メタン中の高含有量のHに起因して高レベルの水を常に含有するので、非実用的である。
【0014】
H2Oは、空燃比、すなわちλに応じて、抑制剤又は促進剤のいずれかであり得る。化学量論的条件還元条件下で(λ>1)、H2Oは、CNGエンジン及びガソリンエンジンの両方において、水蒸気改質反応による炭化水素の酸化のための促進剤として作用することができる。しかしながら、λ>1で動作する希薄燃焼CNGでは、H2Oはメタン酸化の阻害剤として作用する。水抑制効果を理解し、H2Oの存在に対してより耐性のある触媒を設計することが重要である。これは、希薄燃焼CNGからのメタン排出を制御しようとするときの改善を可能にする。
【0015】
エンジン排気中の硫黄レベルは非常に低いが、Pd系触媒は、安定な硫酸塩の形成に起因して、硫黄曝露時に著しく失活する。硫黄被毒後に活性を回復させるための触媒の再生は困難であり、通常、高温、リッチ運転、又はその両方を必要とする。これは化学量論的運転では容易に達成可能であるが、希薄燃焼ではより困難である。希薄燃焼車両は、化学量論的車両よりもはるかに高い空燃比で動作し、リッチ動作に切り替えるためにはるかに高い濃度の還元剤の噴射を必要とする。不十分なエンジン過渡制御及び点火システムによる高レベルの失火事象から生じる熱失活は、触媒を破壊し、それに対応して高レベルの排気エミッションをもたらす。
【0016】
パラジウム含有触媒は、希薄及び化学量論的の両方の条件下で失活するが、硫黄被毒は、希薄運転における熱老化よりも劇的な影響を有する。硫黄被毒は、Pd触媒に少量のPtを添加することによって改善することができる。これは、硫酸パラジウムの形成による硫黄阻害が、Ptの添加により著しく低減され得るためである。しかしながら、Ptの添加は更にコストを増加させる。
【発明の概要】
【0017】
したがって、触媒のコストを増加させることなく、硫黄、水、及び熱老化等による触媒失活に取り組むことによってメタン排出を低減するために、天然ガス燃焼及び排気ガス処理用の改善されたシステムを提供することが望まれている。本発明の目的は、この問題に対処し、先行技術に関連する欠点に取り組み、あるいは少なくとも商業的に有用なその代替物を提供することである。
【0018】
第1の態様によれば、圧縮天然ガス燃焼及び排気システムであって、
(i)天然ガス燃焼エンジンと、
(ii)排気処理システムであって、当該燃焼エンジンから排気ガスを受け取るための吸気口及び当該排気ガスを受け取り、処理するように配置された触媒物品を備え、当該触媒物品が、
少なくとも第1及び第2のコーティングを有する基材であって、当該第1のコーティングが白金族金属を含まず、CHA骨格型を有する銅含有ゼオライトを含み、当該第2のコーティングがパラジウム含有ゼオライトを含む、基材、を含み、
当該第1のコーティングが、当該第2のコーティングの前に当該排気ガスに接触するように配置されている、排気処理システムと、
を備える、システム、が提供される。
【0019】
以下の節では、異なる態様/実施形態がより詳細に定義される。そのように定義された各態様/実施形態は、別途反対の意が明確に示されていない限り、任意の他の態様/実施形態又は複数の態様/実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示された任意の特徴は、好ましい又は有利であると示された任意の他の特徴又は複数の特徴と組み合わせることができる。
【0020】
燃料及び潤滑剤(CNGでは潤滑剤である)に由来する排気中の硫黄成分は、触媒を被毒する。SARの非常に高いゼオライト上に担持されたPdは、アルミナと比較して水の存在下で優れた活性を示すが、たとえ少量であっても硫黄に曝露されると高度に失活する。酸化触媒の上流で硫黄トラップ材料を使用することは、広い運転温度にわたって触媒失活を防止するための代替選択肢である。本発明は、硫黄の存在下で高い酸化性能を維持するための、パラジウム含有ゼオライト触媒用の硫黄トラップとしての銅含有ゼオライトの使用に関する。銅含有ゼオライトは、CNG系にみられるもの等の湿潤かつ硫黄を含有する条件下で硫黄を捕捉するのに特に有効である。実際、銅含有ゼオライトは、硫黄を効果的に捕捉して、そうしなければ非常に失活しやすい下流のパラジウム含有ゼオライトを保護する。
【0021】
本発明は、天然ガス燃焼エンジン及び排気処理システムを備える圧縮天然ガス燃焼及び排気システムに関する。
【0022】
天然ガス燃焼エンジンは、天然ガスを燃焼させるために使用されるエンジンである。好ましくは、天然ガス燃焼エンジンは、定置機関、好ましくはガスタービン又は発電システムである。定置用途では、天然ガス燃焼は、常に希薄又は化学量論的条件下で動作するように構成され得る。このようなシステムでは、燃焼条件及び燃料組成は、一般に、長い運転時間にわたって一定に保たれる。これは、移動用途と比較して、硫黄及び水分汚染物質を除去するための再生工程を有する機会が少ないことを意味する。したがって、本明細書に記載される利益は、定置用途に特に有益であり得る。すなわち、触媒を再生する機会が限られている場合に、高い硫黄及び水分耐性を有する触媒を提供することが特に望ましい。希薄及び化学量論的システムの両方のタイプを異なる用途の範囲にわたって使用できることが理解されるべきである。
【0023】
排気処理システムは、燃焼エンジンからの排気ガスを処理するのに適したシステムである。排気処理システムは、燃焼エンジンから排気ガスを受け取るための吸気口と、排気ガスを受け入れ、処理するように配置された触媒物品とを備える。
【0024】
触媒物品は、排気ガスシステムにおける使用に適した構成要素である。典型的には、そのような物品はハニカムモノリスであり、「レンガ」と呼ばれることもある。これらは、処理されるべきガスを触媒材料と接触させて排気ガスの成分の変換又は転化を行うのに適した高表面積構成を有する。触媒物品の他の形態も知られており、プレート構成、並びにラップされた金属触媒基材を含む。本明細書に記載される触媒物品は、これらの既知の形態の全てにおいて使用に適しているが、コストと製造の単純さとの良好なバランスを提供するので、ハニカムモノリスの形態をとることが特に好ましい。
【0025】
触媒物品は、天然ガス燃焼エンジンからの排気の処理のためのものである。すなわち、触媒物品は、天然ガス燃焼エンジンからの排気ガスの触媒処理のためのものであり、排気ガス規制を満たすようにガスの成分を大気に放出する前に転化又は変換するためのものである。天然ガスが燃焼されるとき、それによって二酸化炭素と水の両方が生成されるが、排気ガスはまた、排気ガスが大気に放出される前に触媒的に除去される必要がある量の追加のメタン(及び他の短鎖炭化水素)を含有する。排気ガスはまた、典型的には、蓄積して触媒を失活させ得るかなりの量の水及び硫黄を含有する。
【0026】
触媒物品は、少なくとも第1及び第2のコーティングを有する基材を含む。好ましくは、第1のコーティングは基材上のウォッシュコートとして提供される、及び/又は第2のコーティングは基材上のウォッシュコートとして提供される。好ましくは、基材は、フロースルーモノリスである。あるいは、基材は、直列に配置された第1のフロースルーモノリス及び第2のフロースルーモノリスを含んでいてもよく、当該第1のフロースルーモノリスは第1のコーティングを有し、当該第2のフロースルーモノリスは第2のコーティングを有する。
【0027】
第1のコーティングは、白金族金属を含まず、CHA骨格型を有する銅含有ゼオライトを含む。好ましくは、CHA骨格型を有する銅含有ゼオライトは、
(i)15~30、好ましくは20~25のSAR、及び/又は
(ii)1~5重量%、好ましくは2~4重量%、最も好ましくは約3重量%のCu負荷、を有する。
【0028】
この特定のゼオライトは、CNGエンジンから受け取った排気ガス中に存在する硫黄を効果的に捕捉する。
【0029】
好ましくは、第1のコーティングは、1~50g/ft3、より好ましくは5~40g/ft3、最も好ましくは10~30g/ft3のウォッシュコート負荷を有する。
【0030】
第2のコーティングは、パラジウム含有ゼオライトを含む。好ましくは、パラジウムドープゼオライトは、≧1200、好ましくは≧1300、例えば≧1500(例えば、≧1700)、より好ましくは≧2000、例えば≧2200のSARを有する。このようなパラジウム含有ゼオライトは、排気ガス中に水が存在するにもかかわらず、CNGエンジンからの排気ガスの処理について優れた活性を示すが、硫黄阻害を非常に受けやすい。
【0031】
好ましくは、第2のコーティングは、1~50g/ft3、より好ましくは5~40g/ft3、最も好ましくは10~30g/ft3のウォッシュコート負荷を有する。
【0032】
第1のコーティングは、第2のコーティングの前に排気ガスと接触するように配置される。この配置により、第2のコーティングによって受け取られる排気ガスが低減された硫黄含有量を有するように、排気ガス中に存在する硫黄を第1のコーティングが捕捉することが可能になる。その結果、第2のコーティング中のパラジウム含有ゼオライトの硫黄による失活が減少する。
【0033】
好ましくは、第1のコーティングは、ゾーン化された構成において第2のコーティングの上流にある。これにより、第1のコーティングが第2のコーティングの前に排気ガスと接触することが可能になる。
【0034】
好ましくは、基材は入口端及び出口端を有し、任意選択で、第1のコーティングは入口端から延在し、第2のコーティングは出口端から延在している。
【0035】
好ましくは、第1のコーティングは、基材の軸方向長さの20~80%、好ましくは60~80%に延在している、及び/又は第2のコーティングは、基材の軸方向長さの20~80%、好ましくは20~40%に延在している、及び/又は第1のコーティング及び第2のコーティングは共に基材を実質的に覆っている。
【0036】
好ましくは、第1のコーティング及び第2のゾーンは、基材の軸方向長さの少なくとも10%だけ重なり合う。好ましくは、第1のコーティング及び第2のゾーンは、基材の軸方向長さの25%以下だけ重なり合う。
【0037】
あるいは、第1のコーティングは、層状構成で第2のコーティング上に配置されてもよい。これにより、第1のコーティングが第2のコーティングの前に排気ガスと接触することが可能になる。
【0038】
排気ガスは、10ppm未満のSOx含有量を有し得る。
【0039】
好ましくは、システムは、触媒物品の下流にSCR触媒を更に含む。これは、排気ガスの他の要素を更に処理するのに役立つ。
【0040】
更なる態様によれば、天然ガス燃焼エンジンからの排気を処理する方法であって、
当該排気を触媒物品と接触させることを含み、当該触媒物品が、
少なくとも第1のコーティング及び第2のコーティングを有する基材であって、当該第1のコーティングがCHA骨格型を有する銅ドープゼオライトを含み、当該第2のコーティングがパラジウムドープゼオライトを含む、基材、を含み、
当該第1のコーティングが、当該第2のコーティングの前に当該排気ガスに接触するように配置される、方法、が提供される。
【0041】
好ましくは、この態様で説明される方法は、本明細書で説明されるシステムに適用することができる。したがって、システムについて好ましいものとして説明されるすべての特徴は、方法の態様にも等しく適用される。
【0042】
更なる態様によれば、下流のパラジウム含有ゼオライト触媒を保護するための硫黄トラップとしての、排気システムにおける銅ドープCHAゼオライトの使用が提供される。
【0043】
好ましくは、この態様で説明される使用は、本明細書で説明される方法及びシステムに適用することができる。したがって、システム及び方法について好ましいものとして説明されるすべての特徴は、使用の態様にも等しく適用される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
以下の非限定的な図に関連して本発明を更に説明する。
【
図1】本発明によって達成されるライトオフ性能の改善を示す。
【実施例】
【0045】
ここで、以下の非限定的な実施例に関連して本発明を更に説明する。
【0046】
ペレット化した触媒ビーズの充填床を通して、合成ガス混合物を流した。本明細書に記載のシステムを代表する実施形態では、銅含有ゼオライトを含むビーズ0.1gをパラジウム含有ゼオライトビーズ0.1gの上流に配置した。比較例では、銅含有ゼオライトビーズを不活性コーディエライトビーズ0.1gで置き換えた。
【0047】
銅含有ゼオライトは3重量%のCuを含有していた。銅含有ゼオライトのゼオライトは、SARが22であるCHA型ゼオライトであった。
【0048】
パラジウム含有ゼオライトは3重量%のPdを含有していた。パラジウム含有ゼオライトのゼオライトは、SARが2120であるZSM-5ゼオライトであった。
【0049】
合成ガス混合物は、空間速度100,000h-1で、約2ppmのSO2、4000ppmのCH4、100ppmのC2H6、35ppmのC3H8、1000ppmのCO、500ppmのNO、10%のO2、10%のH2O、7%のCO2、残部のN2を含んでいた。なお、合成ガス混合物は、約2ppmのSO2含有量を有する。
【0050】
図1は、CO、CH
4、及びNOの転化率%に対する温度(X軸)のプロットである。破線は、比較例のCO、CH
4、及びNO活性を示す。実線は、本発明の実施例のCO、CH
4、及びNO活性を示す。
【0051】
図1から分かるように、CO、CH
4、及びNOの転化率%は、比較例よりも本発明の実施例の方が著しく高い。例えば、本発明の実施例のCO転化についてのライトオフ温度(50%転化が達成される温度)は約170℃であり、比較例のCO転化についてのライトオフ温度は約235℃である。同様に、本発明の実施例のCH
4転化についてのライトオフ温度は370℃であり、比較例のCH
4転化についてのライトオフ温度は約440℃である。本発明の実施例のピークNO転化率は15%であり、これには約410℃で到達することが分かる。比較例では、NO転化が実質的に0%であることが実証された。
【0052】
したがって、
図1は、本発明の触媒によって達成される、CO及びCH
4の処理のための改善されたライトオフ性能及び改善されたNO活性を実証する。
【0053】
本発明の触媒は、そうしなければ下流のパラジウム含有触媒を失活させる排気ガス中に存在する硫黄を捕捉するのに特に有効である上流の銅含有ゼオライトの存在により、そのような改善された性能を示す。
【0054】
本発明の触媒によって示される改善された性能は、CNGエンジンからの排気ガスの処理に特に関連する。CNGエンジンによって生成された排気ガスは、かなりの量のメタンを含有し(いわゆる「メタンスリップ」)、効果的なメタン処理のためにパラジウム含有ゼオライトに依存している。しかしながら、比較例によって実証されるように、そのようなパラジウム含有ゼオライトは、CNGエンジンからの排気流中に存在する硫黄による被毒を受けやすい(硫黄は、通常CNGエンジンの潤滑剤中に存在するため)。本発明の触媒は、下流のパラジウム含有ゼオライトの硫黄被毒を低減し、これにより、メタン及びCOの処理のための改善されたライトオフ性能並びに改善されたNO活性が達成される。
【0055】
本明細書で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数の指示対象を含む。「含む(comprising)」という用語の使用は、そのような特徴を含むが他の特徴を除外しないものとして解釈されることが意図され、また、記載されたものに必然的に限定される特徴の選択肢を含むことが意図される。換言すれば、この用語はまた、文脈が明らかに他を示さない限り、「から本質的になる」(特定の更なる構成要素が、記載された特徴の本質的な特性に実質的に影響を及ぼさないという条件で存在し得ることを意味することが意図される)及び「~からなる」(構成要素がそれらの割合によるパーセンテージとして表された場合、これらが合計して100%になるように他の特徴が含まれ得ないが、任意の不可避不純物は考慮に入れることを意味することが意図される)限定を含む。
【0056】
種々の要素、層、及び/又は部分を説明するために「第1」、「第2」等の用語が本明細書で使用される場合があるが、要素、層、及び/又は部分は、これらの用語によって限定されるべきではないことを理解されたい。これらの用語は、ある要素、層、又は部分を、別の又は更なる要素、層、又は部分と区別するためにのみ使用される。「上」という用語は、別の材料の「上」にあると言われるある材料の間に介在層が存在しないように、「直接上」を意味することが意図されることが理解されるであろう。ある要素又は特徴の別の要素(複数可)又は特徴(複数可)に対する関係を説明するための記載を容易にするために、「下(under)」、「下方(below)」、「真下(beneath)」、「下部(lower)」、「上(over)」、「上方(above)」、「上部(upper)」等の空間的に相対的な用語が本明細書で使用される場合がある。空間的に相対的な用語は、図面に示された向きに加えて、使用又は動作中のデバイスの異なる向きを包含することが意図されることが理解されよう。例えば、本明細書に記載のデバイスを反転させた場合、他の要素又は特徴の「下」又は「下方」であると記載された要素は、他の要素又は特徴の「上」又は「上方」に配向される。したがって、例示的な用語「下」は、上及び下の両方の向きを包含することができる。デバイスは、別の向きであってもよく、本明細書で使用される空間的に相対的な記述子は、それに応じて解釈される。
【0057】
前述の詳細な説明は、説明及び例示の目的で提供されており、添付の特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書に示される現時点で好ましい実施形態の多くの変形例は、当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内に留まる。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮天然ガス燃焼及び排気システムであって、
(i)天然ガス燃焼エンジンと、
(ii)排気処理システムであって、前記燃焼エンジンから排気ガスを受け取るための吸気口及び前記排気ガスを受け取り、処理するように配置された触媒物品を備え、前記触媒物品が、
少なくとも第1のコーティング及び第2のコーティングを有する基材であって、前記第1のコーティングが白金族金属を含まず、CHA骨格型を有する銅含有ゼオライトを含み、前記第2のコーティングがパラジウム含有ゼオライトを含む、基材、を含み、
前記第1のコーティングが、前記第2のコーティングの前に前記排気ガスに接触するように配置されている、排気処理システムと、
を備える、システム。
【請求項2】
前記第1のコーティングが、前記基材上にウォッシュコートとして提供され、1~50g/ft
3のウォッシュコート負荷を有する、及び/又は前記第2のコーティングが、前記基材上にウォッシュコートとして提供され、1~50g/ft
3のウォッシュコート負荷を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記CHA骨格型を有する銅含有ゼオライトが、
(i)15~30、好ましくは20~25のSAR、及び/又は
(ii)1~5重量%、好ましくは2~4%、最も好ましくは約3重量%のCu負荷、を有する、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1のコーティングが、ゾーン化された構成において前記第2のコーティングの上流にある、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記基材が入口端及び出口端を有し、任意選択で、前記第1のコーティングが前記入口端から延在し、前記第2のコーティングが前記出口端から延在している、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1のコーティングが、前記基材の軸方向長さの20~80%、好ましくは60~80%に延在している、及び/又は前記第2のコーティングが、前記基材の軸方向長さの20~80%、好ましくは20~40%に延在している、及び/又は前記第1のコーティング及び前記第2のコーティングが共に基材を実質的に覆っている、請求項4又は請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1のコーティング及び前記第2のゾーンが、前記基材の軸方向長さの少なくとも10%だけ重なり合っている、
請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1のコーティングが、層状構成で前記第2のコーティング上に配置されている、
請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記基材が、フロースルーモノリスである、
請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記パラジウムドープゼオライトが、少なくとも1500、好ましくは少なくとも2000、より好ましくは少なくとも2200のSARを有する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記排気ガスが、10ppm未満のSOx含有量を有する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記触媒物品の下流にSCR触媒を更に含む、
請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記天然ガス燃焼エンジンが、定置機関、好ましくはガスタービンである、
請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
天然ガス燃焼エンジンからの排気を処理する方法であって、
前記排気を触媒物品と接触させることを含み、前記触媒物品が、
少なくとも第1のコーティング及び第2のコーティングを有する基材であって、前記第1のコーティングがCHA骨格型を有する銅ドープゼオライトを含み、前記第2のコーティングがパラジウムドープゼオライトを含む基材を含み、
前記第1のコーティングが、前記第2のコーティングの前に前記排気ガスに接触するように配置されている、方法。
【請求項15】
下流のパラジウム含有ゼオライト触媒を保護するための硫黄トラップとしての、排気システムにおける銅ドープCHAゼオライトの使用。
【国際調査報告】