(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】フォトニクス用途の化学浴堆積(CBD)を用いることによるPbSeナノ構造の製造
(51)【国際特許分類】
C30B 29/46 20060101AFI20241210BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20241210BHJP
C30B 19/08 20060101ALI20241210BHJP
C30B 31/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C30B29/46
C30B33/02
C30B19/08
C30B31/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530452
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 US2022050328
(87)【国際公開番号】W WO2023096823
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591203428
【氏名又は名称】イリノイ トゥール ワークス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】リチャード エス.キム
(72)【発明者】
【氏名】チュン フン パク
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE25
4G077CB02
4G077CG10
4G077EB01
4G077ED06
4G077FB03
4G077FC05
4G077FE03
4G077HA01
4G077HA02
(57)【要約】
均質で単結晶の導電性の狭バンドギャップPbSeナノ構造用の方法及びシステムが提供され、該方法及びシステムは、例えば石英基板上への化学浴堆積を使用して合成され、ナノ構造のサイズ及び/又は形状を選択する調整可能なヨウ素ドーピングプロセスを含む。単結晶PbSeナノ構造は、単離プロセス(例えば、エッチングプロセス)後に露出させることができ、(例えば、石英基板上の)複数のPbSeナノ構造にわたるヨウ素の濃度及び/又は分布は、熱処理を含む後処理ステップ中に調整することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶セレン化鉛(PbSe)ナノ構造を形成する方法であって、
基板を調製することと、
化学鉛及びセレン前駆体を調製することと、
化学浴堆積(CBD)プロセスを介して前記前駆体を前記基板に堆積させて、PbSe合金を含む薄膜を得ることと、
100℃を超える温度で前記薄膜を真空焼成して残留溶媒を除去することと、
前記薄膜を酸素化ガスにさらして再結晶化を誘発し、酸化物パッシベーション層を作製することと、
前記薄膜を所定の濃度のヨウ素を含む蒸気で所定の時間ドーピングすることと、
化学エッチング液又は電気化学エッチングプロセスを使用するナノ構造単離技術を前記薄膜に適用して、前記酸化物パッシベーション層及び多結晶PbSeの下にある単結晶PbSeナノ構造を露出させることと、
前記露出した単結晶PbSeを有する前記薄膜を後処理して、ヨウ素を前記PbSeナノ構造に再分布させることと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記堆積させることは、
ヨウ素を実質的に含まない多結晶PbSe酸化物の形態を含む第1の露出層と、
ヨウ素を含む前記単結晶PbSeナノ構造を含む第2の下地層と、
を含む2層のPbSe結晶層をもたらし、
前記単結晶PbSe中のヨウ素の量が、前記ドーピング中の時間又は温度のうちの1つ以上によって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記堆積させることは、
前記CBDプロセス中に、前記前駆体を第1の時間堆積させて前記第1の層を生成することと、
前記CBDプロセス中に、前記前駆体及び所定量のヨウ素を有するキャリア溶液を第2の時間堆積させて前記第2の層を生成することと、
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の時間又は第2の時間中に前記堆積用の時間を変化させることを更に含み、前記時間の変化は、前記単結晶PbSe薄膜の厚さ又は形態の変化に対応する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ構造単離技術を適用する前にアニーリングすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の時間又は前記第2の時間は、約30分である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の時間又は前記第2の時間は、必要とされる仕様に応じて変更することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記酸素化ガスは、酸素及び窒素の混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
PbSeナノ構造の結晶化を制御するために閾値温度を調整することを更に含み、前記閾値温度は、前記PbSeナノ構造のサイズ又は形状に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記PbSeナノ構造は、PbSeナノプリズム、PbSeナノプレート、PbSeナノリボン、又はPbSeナノディスクのうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記PbSeナノ構造は、前記酸化物層の下に、製造パラメーターに基づいて制御することができる種々の異なるサイズで形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記所定の温度は、約420℃に対応し、前記ナノ構造の略矩形形状をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
基板が、1つ以上の粗面を有する石英基板を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ヨウ素をドーピングすることは、キャリアとして窒素ガスを用いて炉内にヨウ素蒸気を導入することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記後処理の温度又は時間のうちの一方を調整することによって後処理して、前記PbSeナノ構造のサイズ及びヨウ素濃度の再分布を制御することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
冷却プロセスの速度、時間、又は温度を制御して、前記PbSeナノ構造の前記形状を制御することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
所定の時間又は温度でPbSeマトリックス全体にドーパントを均一又は均質に分布させることを含む1つ以上の追加のアニーリング手順を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記多結晶PbSe材料の前記エッチングは、フッ化水素(HF)溶液又はNaOH:IPA:DI水を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
多結晶結晶成長は、2つの一般的な堆積メカニズム、すなわち、イオンバイイオン成長、又は水酸化物クラスター成長のうちの一方によって生じさせることができる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
光導電性薄膜であって、
基板と、
前記基板上に配置された複数の単結晶セレン化鉛(PbSe)ナノ粒子と、
を含み、前記ナノ粒子は、閾値量のヨウ素ドーパントを含有する、
光導電性薄膜。
【請求項21】
前記薄膜は、前記薄膜に衝突する電磁放射線によって引き起こされる光励起又は熱励起によって変化する電気特性を有する、請求項20に記載の光導電性薄膜。
【請求項22】
前記薄膜と電気的に通信する回路を更に含む、請求項20に記載の光導電性薄膜。
【請求項23】
前記回路は、前記薄膜に衝突する前記電磁放射線によって引き起こされる光励起又は熱励起に応答して、前記薄膜の前記電気特性の変化を測定するように構成される、請求項22に記載の光導電性薄膜。
【請求項24】
前記電磁放射線は、赤外放射線を含む、請求項20に記載の光導電性薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2021年11月23日に出願された「Fabrication Of PbSe Nanostructures By Employing Chemical Bath Deposition (CBD) For Photonics Applications」と題する米国仮特許出願第63/282,389号の利益及び優先権を主張する。同第63/282,389号の全主題及び内容は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【背景技術】
【0002】
数多くの用途で、検出器として感光性材料が使用されている。しかし、従来の技術では、製造コストが高く複雑であり、吸収範囲が狭い場合がある。そのため、より低コストで複雑でないプロセスで製造され、感度が向上した感光性材料が望まれている。
【0003】
このようなシステムを、図面を参照して本出願の残りの部分で述べられる本開示と比較することによって、従来の手法及び伝統的な手法の更なる限界及び不利な点が当業者に明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0004】
例えば石英基板上への化学浴堆積を使用して合成される、均質で単結晶の導電性の狭バンドギャップPbSeナノ構造用のシステム及び/又は方法が提供され、該システム及び/又は方法は、ナノ構造のサイズ及び/又は形状を選択する調整可能なヨウ素ドーピングプロセスを含む。単結晶PbSeナノ構造は、エッチングプロセス後に露出させることができ、(例えば、石英基板上の)複数のPbSeナノ構造にわたるヨウ素の濃度及び/又は分布は、熱処理を含む後処理ステップ中に調整することができる。
【0005】
本開示のこれら及び様々な他の利点、態様及び新規の特徴、並びにそれらの図示される実施形態の詳細は、以下の説明及び図面からより十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の例示的な実施形態による、単結晶セレン化鉛(PbSe)ナノ構造を処理する例示的な方法を示す図である。
【0007】
【
図2A】本開示の態様によるPbSeナノ構造の画像である。
【0008】
【
図2B】本開示の態様による、PbSe材料の複数の可能なナノ構造角度又は結晶学的配向を有するマトリックスを示す図である。
【0009】
【
図3A】本開示の態様による、開示される方法によって作製されたPbSeナノ構造の画像である。
【0010】
【
図3B】本開示の態様による、
図3AのPbSeナノ構造の詳細な画像である。
【0011】
【
図4】本開示の態様による、PbSeナノ構造におけるキャリア濃度レベルを提供するグラフである。
【0012】
【
図5A】本開示の態様による、PbSeナノ構造のフォトルミネセンス測定レベルを提供するグラフである。
【
図5B】本開示の態様による、PbSeナノ構造のフォトルミネセンス測定レベルを提供するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図は必ずしも縮尺通りではない。必要に応じて、類似又は同一の参照符号が、類似又は同一の構成要素を指すために使用される。
【0014】
いくつかの例では、PbSeナノ構造は、基板調製、化学的調製及び溶媒との混合、化学堆積(例えば、化学浴堆積による)、真空焼成、薄膜酸化、薄膜ヨウ素化、アニーリング、ナノ構造単離(例えば、酸化物を除去する化学的及び/又は電気化学エッチング及び分離プロセス)、及び/又は後処理のうちの1つ以上からなる単結晶PbSeナノ構造を処理する方法によって作製される。
【0015】
本開示では、均質で単結晶の導電性の狭バンドギャップPbSeナノ構造が、例えば石英基板上への化学浴堆積を使用して合成され、本方法は、ナノ構造のサイズ及び/又は形状を選択する調整可能なヨウ素ドーピングプロセスを含む。単結晶PbSeナノ構造は、ナノ構造単離プロセス(例えば、エッチングプロセス)後に露出させることができ、(例えば、石英基板上の)複数のPbSeナノ構造にわたるヨウ素の濃度及び/又は分布は、熱処理を含む後処理ステップ中に調整することができる。
【0016】
開示される例では、ヨウ素ドーピングされたPbSeナノ構造が薄膜試料に適用され、これは、化学浴堆積、並びに酸素増感、ヨウ素化、及び1つ以上の後処理(例えば、熱処理及び/又は焼成)を含む技術を使用して合成される。開示されるPbSeナノ構造は、このようなナノ構造を作製する方法、ナノ構造を含む薄膜、及びこのようなナノ構造を使用する用途を含めて、PbSeナノ構造のサイズ、形状、配向、及び/又は層厚とセンサ自体の感度との間の相関を示す。例えば、ヨウ素ドーピングPbSe単結晶ナノ構造は、化学浴堆積、酸素増感、ヨウ素増感、ポストアニーリング、及び/又はエッチングプロセスのうちの1つ以上を含む、一連の表面処理後に作成される。得られた単結晶PbSeは、石英基板上の薄膜として提供され、例えば、ヨウ素濃度を高めて分布させることで、増強された感度及びより広い吸収特性を提供する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「ナノ」という用語は、ナノメートル(nm)スケールの測定値を指し、ナノスケールで測定される構造、粒子、距離、波長等を説明するために使用することができる。
【0018】
本明細書で利用される場合、「及び/又は」は、「及び/又は」によって結合されるリスト内の項目のうちの任意の1つ以上を意味する。例えば、「x及び/又はy」は、3つの要素の集合{(x),(y),(x,y)}の任意の要素を意味する。同様に、「x、y、及び/又はz」は、7つの要素の集合{(x),(y),(z),(x,y),(x,z),(y,z),(x,y,z)}の任意の要素を意味する。本明細書で利用される場合、「モジュール」という用語は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はそれらの1つ以上の任意の組み合わせで実装され得る機能を指す。本明細書で利用される場合、「例」又は「例示的」という用語は、非限定的な例、事例、又は例示として機能することを意味する。
【0019】
開示される例では、単結晶セレン化鉛(PbSe)ナノ構造を形成する方法が提供される。本方法は、基板を調製することと、化学鉛及びセレン前駆体を調製することと、化学浴堆積(CBD)プロセスを介して前駆体を基板に堆積させて、PbSe合金を含む薄膜を得ることと、100℃を超えるcxcxx ccFF43 xFF58v温度で薄膜を真空焼成して残留溶媒を除去することと、薄膜を酸素化ガスにさらして再結晶化を誘発し、酸化物パッシベーション層を作製することと、薄膜を所定の濃度のヨウ素を含む蒸気で所定の時間ドーピングすることと、化学エッチング液(及び/又は電気化学エッチングプロセス)を使用するナノ構造単離技術を薄膜に適用して、酸化物パッシベーション層及び多結晶PbSeの下にある単結晶PbSeナノ構造を露出させることと、露出した単結晶PbSeを有する薄膜を後処理して、ヨウ素をPbSeナノ構造に再分布させることとを含む。
【0020】
いくつかの例では、堆積させることは、ヨウ素を実質的に含まない多結晶PbSe酸化物の形態を含む第1の露出層と、ヨウ素を含む単結晶PbSeナノ構造を含む第2の下地層とを含む2層のPbSe結晶層をもたらし、単結晶PbSe中のヨウ素の量が、ドーピング中の時間又は温度のうちの1つ以上によって制御される。
【0021】
例では、堆積させることは、CBDプロセス中に、前駆体を第1の時間堆積させて第1の層を生成することと、CBDプロセス中に、前駆体及び所定量のヨウ素を有するキャリア溶液を第2の時間堆積させて第2の層を生成することとを含む。
【0022】
いくつかの例では、本方法は、第1の時間又は第2の時間中に堆積用の時間を変化させることを更に含み、時間の変化は、単結晶PbSe薄膜の厚さ又は形態の変化に対応する。
【0023】
いくつかの例では、本方法は、エッチングの前にアニーリングすることを更に含む。
【0024】
いくつかの例では、第1の時間又は第2の時間は、約30分である。
【0025】
いくつかの例では、第1の時間又は第2の時間は、必要とされる仕様に応じて変更することができる。
【0026】
いくつかの例では、酸素化ガスは、酸素及び窒素の混合物を含む。
【0027】
いくつかの例では、本方法は、PbSeナノ構造の結晶化を制御するために閾値温度を調整することを更に含み、閾値温度は、PbSeナノ構造のサイズ又は形状に対応する。
【0028】
いくつかの例では、PbSeナノ構造は、PbSeナノプリズム、PbSeナノプレート、PbSeナノリボン、又はPbSeナノディスクのうちの1つ以上を含む。
【0029】
いくつかの例では、PbSeナノ構造は、酸化物層の下に、製造パラメーターに基づいて制御することができる種々の異なるサイズで形成される。
【0030】
いくつかの例では、所定の温度は、約420℃に対応し、ナノ構造の略矩形形状をもたらす。
【0031】
いくつかの例では、基板は、1つ以上の粗面を有する石英基板を含む。
【0032】
いくつかの例では、ヨウ素をドーピングすることは、キャリアとして窒素ガスを用いて炉内にヨウ素蒸気を導入することを更に含む。
【0033】
いくつかの例では、本方法は、後焼成の温度又は時間のうちの一方を調整することによって後処理して、PbSeナノ構造のサイズ及びヨウ素濃度の再分布を制御することを更に含む。
【0034】
いくつかの例では、本方法は、冷却プロセスの速度、時間、又は温度を制御して、PbSeナノ構造の形状を制御することを更に含む。
【0035】
いくつかの例では、本方法は、所定の時間又は温度でPbSeマトリックス全体にドーパントを均一又は均質に分布させることを含む1つ以上の追加のアニーリング手順を更に含む。
【0036】
いくつかの例では、多結晶PbSe材料のエッチングは、フッ化水素(HF)溶液又はNaOH:IPA:DI水を使用する。
【0037】
いくつかの例では、多結晶結晶成長は、2つの一般的な堆積メカニズム、すなわち、イオンバイイオン成長(ion-by-ion growth)、又は水酸化物クラスター成長のうちの一方によって生じさせることができる。
【0038】
開示されるいくつかの例では、光導電性薄膜は、基板と、基板上に配置された複数の単結晶セレン化鉛(PbSe)ナノ粒子とを含み、ナノ粒子は、閾値量のヨウ素ドーパントを含有する。
【0039】
いくつかの例では、薄膜は、薄膜に衝突する電磁放射線によって引き起こされる光励起又は熱励起によって変化する電気特性を有する。
【0040】
いくつかの例では、薄膜は、薄膜と電気的に通信する回路を有する。
【0041】
いくつかの例では、回路は、薄膜に衝突する電磁放射線によって引き起こされる光励起又は熱励起に応答して、薄膜の電気特性の変化を測定するように構成される。
【0042】
いくつかの例では、電磁放射線は、赤外放射線を含む。
【0043】
本開示では、ナノレベルの厚さ及び平坦なコロイド合成セレン化鉛(PbSe)ナノ構造(例えば、ナノプリズム、ナノディスク、ナノロッド等)が、化学浴堆積プロセスを介して作成される。また、電磁エネルギー(例えば、赤外線及び/又は中赤外線(mid-IR)波長)の検出用の感光性PbSeナノ構造を調製する方法も開示される。
【0044】
開示される例では、開示される方法によって作製されるPbSeナノ粒子は、コレクタ及び/又は検出器として使用する感光性薄膜で採用され、種々の用途(例えば、赤外線検出器、直接センサ、プロセス制御、ガス分析、防御、及び/又は温度制御)で使用する低コストのナノサイズ単結晶薄膜を提供することができる。開示されたPbSeナノ粒子は、非限定的な例のリストとして、太陽電池、発光ダイオード、及び/又はレーザの製造を含む、他の用途、製品、及び/又は使用事例(例えば、検出を超えて)で使用することができる。
【0045】
PbSeは、イオン結合及び共有化学結合の両方を示す極性半導体であり、これらの結合を形成する核によって電子が不均等に共有される。しかし、得られたPbSe結晶では、共有結合が支配的である。結晶性PbSeは、面心立方格子構造を有し、約6.12Åの格子定数を有することができる(ただし、所望の特性に依存して、より小さい場合があり、又は大きい場合がある)。いくつかの例では、格子構造は、室温でバルク材料に対して約0.27eVの直接エネルギーバンドギャップを有することができ、3×1016cm-3の固有キャリア濃度を有することができる(ただし、所望の特性に応じて、より小さい又はより大きいバンドギャップ及び/又はキャリア濃度が提示される場合がある)。この狭いバンドギャップのために、この構造は、赤外線(IR)スペクトルの放射に対して感度が高い。このため、少なくとも部分的に、一部の鉛カルコゲニドは、IRセンサ、フォトレジスタ、フォトダイオード、IRレーザ、及び/又は熱電発電デバイスを含む、多種多様な用途において採用されている。例えば、PbSeは、約4ミクロン~約6ミクロンの範囲のIRスペクトルにおけるより長い波長での検出を提供する。
【0046】
単接合太陽電池の例では、衝撃を受けた材料のバンドギャップよりも大きい入射エネルギーを有する光子が吸収される。しかしながら、光子の余剰エネルギーは、熱緩和により熱として失われる。熱緩和によるエネルギー損失を低減し、それによって変換効率を増大させるために、種々のバンドギャップエネルギーの異なる半導体材料を使用することにで、多接合太陽電池を集積することができる。したがって、多接合太陽電池では、高エネルギー光子をより高い効率で収集することができる。
【0047】
しかしながら、多接合半導体の組成及び製造は、材料の使用量及び製造の複雑さを増すため、デバイスの全体的なコストを増加させる。一方、PbSeは、太陽スペクトルのより広い範囲の光吸収を可能にする狭いバンドギャップを有しており、これは、一部の半導体光起電力セルが吸収することができない低赤外領域において最も顕著である。さらに、PbSeナノ構造及び対応する薄膜の開示された製造は、光起電力セルに使用される従来の半導体材料よりも大幅に低コストである。
【0048】
加えて、PbSeは、より狭い光吸収範囲を有するものであっても、従来の太陽電池よりも大幅に薄い、わずか数ミクロンの厚さを有する材料又は層内で太陽放射を吸収することが可能な直接遷移型バンドギャップ半導体である。さらに、有利には、開示されたPbSeナノ構造は、(例えば、従来の半導体材料と比較して)低温で、化学浴堆積等の低コスト製造技術により、大面積で比較的簡単に製造することができる。
【0049】
本開示では、ナノ粒子(例えば、ナノプリズム及び/又はナノディスク等のナノ構造を含む)の混合物である多結晶PbSe薄膜が作製される。このような薄膜を使用して、太陽電池製品に使用される他の半導体材料の製造及び/又は保守に関連するコストを低減しながら、より広い範囲の電磁スペクトル(例えば、太陽スペクトル)からのエネルギー吸収を増加させることができる。
【0050】
加えて、ナノ粒子用の1つ以上のエッチング技術及び/又はアラインメント技術を採用することによって、特定の検出器及び/又は太陽電池用のコストの低い個々の粒子を作製することができる。いくつかの例では、PbSeナノ結晶において、キャリア増倍効果及び/又は量子サイズ効果が顕著である。例えば、キャリア増倍は、単一の入射光子から複数の励起子が生成されるプロセスである。例えば、PbSe量子ドットでは、最大7つの励起子を生成する単一の入射光子が観測されている。本開示では、これらの励起子を効果的に生成及び分離し得て、次いで、太陽電池の変換効率及び/又は検出器の感度の増加に寄与し得るPbSeナノ構造が提供される。いくつかの例では、PbSeのバンドギャップは、ナノ構造のサイズの減少とともに増加するため、量子閉じ込めの効果によりPbSe量子ドット内のバンドギャップの調整が可能になり、電磁スペクトルの1つ以上の特定の領域の標的を絞った吸収に役立つ。
【0051】
例示的なガスセンサ用途では、開示されたPbSeナノ構造は、二酸化炭素(CO2)又はアンモニア(NH3)測定用のセンサに使用することができ、これは、大気汚染を監視する必須の環境用途の一部である。PbSeナノ構造(例えば、ナノプリズム)は、単結晶構造及び小さいサイズを有するため、PbSeナノプリズムを使用するセンサは、スマートフォン又は他のデバイス等の小さいデバイスに直接一体化されて、屋内及び屋外で空気及び/又は環境汚染をリアルタイムで監視することができる。
【0052】
現在、非分散赤外線分光法等の一部の検出システムでは、かさばる大型の多結晶PbSe薄膜が使用されている。例えば、市販の薄膜検出器の検出限界は、0ppm~4000ppmの範囲のCO2濃度に対して約50ppmである。
【0053】
有利には、開示されたセンサは、より高度な感度、ひいては検出性を提供するものであり、費用対効果も高い。例えば、PbSeナノ構造を使用する大気汚染監視システムは、非限定的な例のリストとして、スマートフォン、パーソナル医療デバイス、タブレット、及び/又はウェアラブル消費者製品を含む種々のデバイスとの一体化のために小型化することができる。
【0054】
超音波処理及び遠心分離によるナノ構造の単離、DEPプロセスによるサイズ分離/操作
ナノ結晶又はナノ構造は、典型的には、極性溶媒の添加によって、その成長及び調製媒体から単離される。基板から機械的に剥離された鉛カルコゲニドナノ構造は、極性溶媒容器に注意深く移される。ナノ構造の収集には、溶媒中での超音波処理及び遠心分離による沈降が使用される。しかし、単分散ナノ構造を分離するために、誘電泳動(DEP:dieletrophoresis)等の他の技術を採用することもできる。この技術は、ナノ構造の双極子と電場の空間勾配との相互作用に起因する不均一な電場における誘電性又は分極性ナノ構造の移動に基づいている。鉛カルコゲニドは多様な誘電特性を有するため、DEPを使用して、ナノ結晶/ナノ構造中の異なるタイプの鉛カルコゲニドを操作、輸送、分離、及び選別することができる。DEPチップは、マイクロ流体チャネルを形成するギャップによって分離された電極、典型的にはマイクロアレイからなる。分離対象の鉛カルコゲニドナノ構造を導入し、適切な電場を印加して、標的ナノ構造をそのサイズ及び形状によって分離する。捕捉されたナノ構造の分離プロセスを監視するために、センサベースのDEPデバイスを使用して、ナノ構造含有溶液中の同時検出及び濃度変化が可能になり得る。相互接続された2つの電極デバイスは、ナノ構造の誘電捕捉を行い、媒体の伝導性(例えば、インピーダンス)の変化を測定するように設計されている。
【0055】
いくつかの開示された例では、
図1に示すように、基板調製102、化学的調製及び溶媒との混合104、化学堆積(例えば、化学浴堆積による)106、真空ベーキング108、薄膜酸化(例えば、酸素増感)110、薄膜ヨウ素化(例えば、ヨウ素増感)112、アニーリング114、ナノ構造単離(例えば、酸化物を除去する化学的及び/又は電気化学エッチング)116、及び/又は後処理118のうちの1つ以上からなる単結晶PbSeナノ構造(例えば、ナノプリズム等)を処理する方法100が提供される。本明細書で提供されるように、プロセスは、列挙されたように進行することができ、列挙されたアクションのうちの1つ以上が任意選択であり、及び/又は異なるように構成されて進行することができる。
【0056】
いくつかの例では、石英基板は、基板調製のステップにおいて、追加の又は任意選択のプラズマ洗浄及び/又は基板の1つ以上の表面を粗面化する表面処理を含み得る前洗浄に供される。ステップ4において、真空焼成は、所定の温度及び/又は温度範囲(例えば、約105℃)で所定の時間(例えば、約16時間)行われ、酸化プロセスは、初期真空焼成温度(例えば、約420℃)よりも高い所定の温度で行われる。いくつかの例では、ヨウ素増感は、所定の温度(例えば、450℃)で、キャリア溶液(例えば、窒素)及びヨウ素蒸気から構成される混合気体を用いて、石英チューブ加熱炉によって行うことができる。化学エッチングは、フッ化水素(HF)及び脱イオン(DI)水(例えば、NaOH:IPA:DI)の混合溶液中で実行され、これは、50:1(体積比当たり)のHF及び/又は1:25:50(体積比当たり)のDI水の溶液濃度を有することができる。開示された方法の結果として、ナノプリズムを含むPbSeナノ構造は、種々の異なるサイズを有する酸化物PbSe相の下に形成される。
【0057】
低コストなものを使用することによって、PbSeナノ構造を製造する全体的なコストが削減される。これら及び他の開示された方法、並びに得られたPbSeナノ構造生成物は、CBD法を使用する低コスト及び低温製造技術においてヨウ素ドーピングレベルの変化を伴う大量の単結晶ナノプリズムの製造を可能にするため、他の技術に対する利点を提供する。
【0058】
PbSeの成長メカニズム
ナノプリズム、ナノディスク及び/又はナノロッドを含むPbSeナノ構造を作製するために、多結晶及び/又はアモルファスPbSe層又は薄膜を最初に形成することができる。PbSe膜の成長速度は、錯体状態からのPb2+イオンの放出速度、並びに酢酸鉛三水和物(C4H6O4Pb・3H2O)及びセレノ尿素(CH4N2Se)の分解に主として依存する。PbSeは、Pb2+イオンとSe2-イオンとのイオン積がPbSeの溶液溶解度積(例えば、300Kで約10-38)を超えるときに形成される。したがって、鉛及びセレンイオンの濃度は、膜成長中に制御される。
【0059】
鉛カルコゲニドの堆積において、概して、鉛前駆体として作用する酢酸鉛三水和物と錯体を形成して、金属カチオンPb2+イオンの放出を制御するとともに、Pb(OH)2の沈殿が防止される。PbSeの場合、カルコゲニド前駆体であるセレノ尿素(CH4N2Se)の加水分解は、アニオンSe2-イオンを提供する。鉛カルコゲニドは、イオン積が溶解度積(例えば、300KでのPbSeについてKsp約10-38)よりも大きい場合に沈殿する。CBDプロセス中に大量の沈殿が予想される場合でも、基板に大量に付着することは予想されない。したがって、多結晶結晶成長は、2つの一般的な堆積メカニズム、すなわち、イオンバイイオン成長、又は水酸化物クラスター成長のうちの一方によって生じさせることができる。
【0060】
イオンバイイオン成長は、典型的には均一な核形成が生じるときに、イオン反応の結果として生じる。したがって、イオン間の衝突は、基板上に吸着される核を形成し、イオンバイイオン成長は、典型的には、より大きい結晶をもたらし、結晶サイズは、膜厚に正比例する。
【0061】
水酸化物クラスターの成長は、金属水酸化物の存在下で生じる。したがって、堆積メカニズムは、Pb(OH)2が沈殿物又はコロイドのいずれかとして存在する場合に生じさせることができる。水酸化物クラスタター成長は、典型的には、イオンバイイオン成長と比較して、より小さい結晶をもたらす。イオンバイイオン成長とは異なり、膜厚は、水酸化物クラスター成長からの結晶サイズに大きく影響しない。
【0062】
本開示は、PbSeの堆積用のSe2-イオンを提供するセレノ尿素の使用を記載しており、多結晶PbSe薄膜メカニズムは、イオンバイイオン成長に従う。したがって、PbSeは、イオン積が溶解度積よりも大きいという条件で、式1によって記載されるようなイオン性反応によって形成される。
Pb2++Se2-⇔PbSe
式1
【0063】
式1で与えられる化学反応は、溶液中の基板上へのPbSeの沈殿をもたらす。
【0064】
セレン化鉛の堆積
一旦形成されると、PbSeは、熱分解、真空蒸着、スパッタリング、化学気相堆積法(CVD:chemical vapor deposition)、分子線エピタキシー(MBE:molecular-beam epitaxy)、及び化学浴堆積(CBD)を含む種々の処理技術によって堆積させることができる。開示された例によれば、CBD技術は、比較的低い温度で実行可能な単純で低コストの技術である等、PbSeナノ構造を形成するのに特に有利である。
【0065】
PbSe薄膜の調製に使用される化学物質は、分析グレードのものであり、特に精製することなく使用することができる。いくつかの例では、酢酸鉛三水和物((CH3COO)Pb・3H2O)及びセレノ尿素(CH4N2Se)が、それぞれPb2+及びSe2-イオン源として使用される。クエン酸三ナトリウム(TSC)は、金属イオンの徐放用の錯化剤として作用し、したがって、ナノ結晶性PbSe薄膜の形成を容易にする。
【0066】
化学浴堆積を開始する前に、酢酸鉛溶液、セレノ尿素溶液、及び/又はヨウ素溶液が別々に調製され、これは、或る程度の時間前に(例えば、約24時間前に)行うことができる。セレノ尿素溶液を調製するために、初期量(例えば、約455.2グラム)の酢酸鉛三水和物結晶を容器(例えば、1000mlプラスチックボトル)に添加し、ボトルの重量が閾値量(例えば、約800グラム)に達するまでDI水をゆっくりと添加する。別の容器(例えば、2000mlビーカー)に所定量の流体(例えば、500mlのDI水)を提供し、これを加熱し(例えば、ホットプレート上の高い設定に配置し)、酢酸鉛を有する容器をその中に配置する。
【0067】
いくつかの例では、ホットプレートの上面において、測定値は約64℃である。熱供給は、約30分以内に酢酸鉛結晶を完全に溶解する。このステップが完了すると、酢酸鉛溶液のボトルは、30℃に設定された恒温槽内に保持される。セレノ尿素溶液の調製のために、1355グラムのDI水を2000mlのメスフラスコに加え、次いでこれをホットプレート上に配置する。ホットプレートダイアルを高にすると、水を沸騰させるのに約1時間かかる。フラスコの底は約90℃の温度に達している。フラスコ内の水分が10分間沸騰したところで、メスフラスコを水道水の入ったコンテナに入れ、70℃まで冷却する。
【0068】
冷却後、沸騰によるDI水の損失量を加えて、約1355グラムが確実に回収されるようにする。次に、約0.050kgのセレノ尿素をフラスコに注ぎ、セレノ尿素が完全に溶解するまで数回振盪する。セレノ尿素溶液の作製が完了したら、CBDに使用する前に、所定の期間、室温で暗環境に配置する。
【0069】
ヨウ素溶液の調製のために、13グラムのヨウ化カリウム(KI)結晶を含有する予め洗浄した250mlのメスシリンダーを、約50mlの脱イオン(DI)水と混合し、およそ50mlのイソプロパノールをメスシリンダーに添加する。結晶を完全に溶解させるために、約20分間供給される100%までの出力で超音波振動機にメスシリンダーを入れ、メスシリンダーを数回反転させることによって完全に混合する。完全に溶解していない場合、この工程を2回又は3回繰り返す。KI結晶の溶解が完了したら、DI水をメスシリンダーに250mlの目盛りまで加え、次いで、メスシリンダーを20回~25回反転させることによって完全に混合する。この溶液を室温で少なくとも一晩保存する。
【0070】
いくつかの例では、PbSeの堆積は、2つの層からなり、第1の層は、それに添加されるヨウ素をほとんど又は全く有さず、第2の層は、調整可能な量又は濃度のヨウ素でドーピングされており、これは、ドナー不純物と見なされる量でのドーピングを用いて、望ましいPbSeナノ構造(例えば、ナノプリズム)を作製するように制御される。したがって、キャリア濃度は、CBDプロセス中に所望の量のヨウ素を添加することによって変化させることができる。例では、一方又は両方の層は、所定の時間(例えば、1層当たり30分、合計1時間)化学浴堆積に供され、これは、リーチ層について同じであってもよいが、変化してもよい。堆積時間を変化させることによって、薄膜PbSeの厚さ及び形態が変化し、PbSe構造及び/又は特性の最適化が可能になる。
図4の例に示すように、キャリア濃度は、PbSeナノ構造(例えば、p型PbSe粒子)に適用される1つ以上の増感処理(例えば、酸素化及び/又はヨウ素化)の関数として変化する(例えば、低下する)。
【0071】
例では、1つ以上の基板が、DI水の容器内に搭載され、DI水中に浸漬されるタングステンランプによって基板を加熱するために使用され、ランプ電圧は、実験室製プログラムによって供給される。化学堆積中の溶液のピーク堆積温度は、徐々に90℃に達する。100mlの目盛付きビーカーへの酢酸鉛溶液の第1の量を測定し、別の250mlの目盛付きビーカーを使用して、セレノ尿素溶液の第2の量を別に調製する。単結晶PbSeナノプリズム成長に関して実験的に得られたデータに応じて、x量及びy量は変化し、典型的には、PbSe検出器用途に関して、x/y比は、75/150である。溶液パンの底部には、100rpm~300rpmで使用されるテフロンコーティングされた撹拌棒がある。各溶液の第1の量及び第2の量を、撹拌棒を含む溶液パンに同時に注ぎ、100mlのDI水を、タングステン(W)ランプバルブから、溶液混合物に面するパンの底部に取り付けられた基板に熱エネルギーを伝達する媒体として、基板パンに注ぐ。これは、熱エネルギーを間接的に基板に均一に伝達する1つの方法である。浴温度は、容器内の中間点深さに配置された熱電対によって測定される。堆積サイクルの終わりに、浴温度はピーク温度を中心とし、基板が載置されたパンは、溶液を含むコンテナから急激に取り外され、次いで、基板パンは、脱イオン水中に浸漬されるため、温度は、室温に戻る。
【0072】
第2の層の堆積のために、第1の層は、PbSe結晶マトリックスに組み込まれる化学堆積の完了時にドナー濃度を変化させる容器内のセレノ尿素及び酢酸鉛溶液に所与の量のヨウ素溶液を添加することによって繰り返される。いくつかの追加又は代替の例では、開示されたPbSe検出器のために添加されるヨウ素の量は、約12ml~60ml(例えば、約24ml)とすることができる。ヨウ素添加の欠落の仕方は、多結晶PbSe薄膜の形態、及びPbSe薄膜全体にわたるドーピング量の分布に影響を及ぼす。本発明では、ヨウ素溶液を添加した直後、実際のCBDを開始する前に、マグネチックスターラーを1分間回転させる。第2の層が完成すると、基板を含むパンは、温度が下がるまでDI水の容器に入れられ、その後、通常の洗浄手順が続く。
【0073】
調製されたPbSe薄膜は、本質的に多結晶構造であり、薄膜又は基板中に捕捉され得て、エッチングされた粗面形態を有する任意の種類の溶媒を除去するために、真空焼成ステップに供される。真空焼成ステップは、所定の温度(例えば、105℃)で所与の期間(例えば、一晩)行われる。この温度は、PbSe薄膜の結晶構造を変化させない。
【0074】
いくつかの例(ブロック110によって表される)では、酸化ステップの間に、最初にドーピングされたヨウ素は、薄膜の表面並びにPbSeマトリックスの内部で表面再結晶化現象を誘発し、ナノリボン、ナノロッド、及びナノディスクを含む一連の単結晶PbSeナノプリズムを形成する。酸化ステップでは、ガス(例えば、酸素及び/又は窒素)が使用され、垂直酸化石英管炉内に上から下にパージされる。例えば、酸素と窒素との混合ガスのガス比は、酸素流量が約1.05リットル/分、窒素流量が約1.95リットル/分に相当し得る約20%、75%に設定され、縦型炉内全体では約3.0リットル/分となる。管状炉内のピーク温度は、ナノ粒子のサイズ及び形状の要件に応じて調整することができるPbSeの結晶化の程度に関連する。ナノプリズムの矩形形状を取得する典型的なピーク炉温度は、約420℃であると考えられる(例えば、
図5A及び
図5Bを参照)。堆積された薄膜PbSe合金(Pb0.55、Se0.45の組成比を有する)は、Pbの融点(例えば、100℃)を超える高温にさらされるため、ナノ粒子の他の相(例えば、ナノプリズム、ナノリボン、及び/又はナノディスク)は、混合された固相及び液相によって成長することができる。その後の冷却により、粒子の形状(例えば、冷却速度、所望の温度に達するまでの時間、ガスの存在等)を決定することができる。
【0075】
いくつかの例では、(ブロック112によって表される)ドナー不純物としてヨウ素を使用するドーピングプロセスが続く。このブロックでは、単結晶PbSeナノ粒子(例えば、ナノプリズム、ナノリボン、ナノディスク)のキャリア濃度は、特定の用途の要件に応じて変えることができる。換言すれば、エネルギーバンド図における不純物レベルは、単純な管状炉内でヨウ素を添加することによって調整することができることが直接得られる。管状炉の中心ゾーンの設定温度は、管状炉内で高い露出温度(例えば、約395℃)をもたらす所定の点(例えば、約347℃)に設定することができる。
【0076】
いくつかの例では、ヨウ素結晶昇華プロセスは、ヨウ素蒸気を炉内に供給するために、ヨウ素結晶を含む実験室で作られた水循環グラハム管を用いて行われる。窒素ガスは、ヨウ素に富む蒸気を炉内に導入するキャリアとして使用される。窒素ガス溶液の適用は、溶液がヨウ素蒸気を運ばない場合、所定の速度(例えば、1.2標準立方フィート/時間(SCFH:standard cubic feet per hour)に設定することができ、溶液が蒸気を運ぶ場合、より高い所定の速度(例えば、12.0SCFH)に設定することができる。比較的高温でのヨウ素堆積時間を最適化することによって、PbSe結晶のドーピングレベルを調整することができる。例えば、ドーピング時間は、炉の中心でのピーク温度又はその付近で約70秒に設定することができる。
【0077】
いくつかの例では、ドーピング時間を変化させて、所与のドーピング濃度に対応する所望の感度を提供することができる。本明細書に開示されるように、ドーピングプロセスは、試料(例えば、石英基板)が(例えば、石英炉内で)熱処理されているときに実装される。
図2Aは、PbSe薄膜(したがって、その中に含まれるナノ構造)の画像を示しており、キャリア濃度レベルは、2つの増感プロセス条件(例えば、酸素化及び/又はヨウ素化)によって調整することができ、調整可能なパラメーターは、熱処理中(例えば、炉内)の温度、時間、及び/又は誘起ガス量の量及び/又は濃度のうちの1つ以上に対応する。本開示では、得られたPbSeナノ構造中のキャリア濃度は、2つの増感プロセスのうちの1つ以上のパラメーターを変更することによって、指数関数的な量だけ変更することができる。
図2Bは、PbSe材料についての多数の可能なナノ構造角度又は結晶学的成長配向を示している。
【0078】
いくつかの例では(ブロック114によって表される)、ヨウ素化後にナノ粒子の温度を低下させるためにアニーリングが行われる。
【0079】
PbSeナノ粒子の製造
この段階では、単結晶ナノ粒子は露出しておらず、多結晶PbSe薄膜内に埋め込まれ、及び/又は多結晶PbSe薄膜の下にあるため、ナノ粒子は、調査(例えば、SEM又は他の調査ツール下で)に対して検出可能ではない。
【0080】
開示される例(ブロック116によって表される)では、PbSeナノ粒子は、希釈されたフッ化水素(HF)溶液、希釈されたHF溶液(体積比でDI水:HF=50:1)、又はNaOH:IPA:DI水(体積比で1:25:50)の溶液等のエッチング液を使用する表面エッチングプロセスによって露出させることができる。開示された方法によって得られたナノ粒子の例を
図3Aに示している。
図3Bは、
図3AのPbSeナノ構造の画像内のPbSeナノプリズムを示しており、マトリックス内に提供されるような、角度プロファイル101及び110を有する粒子の形状をとる。
【0081】
SEM調査によって確認されるように、矩形形状のナノプリズムの場合、第1の寸法(例えば、長さ)は、400nm~約1ミクロンの範囲であると推定され、第2の寸法(例えば、厚さ)は、数nm~50nmの範囲であると推定される。エネルギー分散型X線分光法(EDS:energy-dispersive X-ray spectroscopy)分析下で、ドーパントとしてヨウ素を含有するPbSeナノ結晶/ナノ構造が提示される。例えば、
図3Bは、1ミクロン×1ミクロンのサイズを有する多数のナノ粒子を示している。これらの粒子は、溶液ベースの方法で収集することができる。
【0082】
いくつかの例では、(ブロック118によって表される)長期後焼成等の後処理は、以下の利点のうちの1つ以上を提供する所定の温度(例えば、約150℃)で実行される。ドーピングされたヨウ素は、後焼成ステップ中にサイズが成長することができるPbSeナノ粒子内に均一に再分布される。
【0083】
開示される方法は、CBD技術及びヨウ素ドーピングプロセスを使用して実質的に平坦なPbSeナノ構造(例えば、ナノプリズム、ナノプレート)を合成し、
図4の例示的なグラフに示すように、PbSeナノ構造の電気的特性を最終的に制御するように設計される。
【0084】
PbSeマトリックス全体にわたる実質的な数の単結晶PbSeナノプリズムは、薄膜の感度及び検出性能を増加させ、例えば、太陽電池、発光ダイオード、ガス分析、医療サービス、工業プロセス、排出監視、分光法、プロセス制御システム、熱撮像、防衛及びセキュリティ技術、及び/又は中波IR領域(例えば、3ミクロン~5ミクロン)におけるナノサイズ検出器等、検出以外の用途でも技術的な利点をもたらす。
【0085】
本開示は、PbSeを採用する薄膜光検出器等のPbSeの用途について言及しているが、開示される方法は、他のPb系カルコゲニド及び/又は半導体材料、及び/又は他の金属合金(例えば、他のポスト遷移金属を含む)に適用可能であり得る。
【0086】
図5A及び
図5Bは、本開示の態様による、PbSeナノ構造のフォトルミネセンス測定レベルを提供するグラフである。例えば、フォトルミネセンス(PL:photoluminescence)は、特定の材料の電子構造を試験するプロセスを介して測定することができる。PLは、電磁エネルギーが吸収され、次いで、吸収された電磁エネルギーとは異なる波長であり得る波長の範囲で放出されるときの現象である。
【0087】
いくつかの例では、単色エネルギー源(例えば、レーザ)が材料に向けられて、試料を励起する。このエネルギーに応答して励起された電子は、基底状態からより高い励起エネルギー状態に移動する。次いで、材料は、基底状態に戻るにつれて、フォノン(振動)及び光子(光)の組み合わせとしてエネルギーを放出する。センサは、スペクトル及び/又は空間分析のために放出された光を測定して、材料特性に関する情報を得ることができる。
【0088】
いくつかの例では、励起状態は伝導帯(CB:conduction-band)内にある。励起光子は、電子をCBへと高く励起するように示されるはずである。その後、非放射緩和によって、電子は伝導帯下端(CBM)に移動する。
【0089】
物質との相互作用中にエネルギー量が消費されるため、放出されたエネルギーは吸収されたエネルギーよりも少なくなる。放射再結合によって放出される光のエネルギーは、励起状態と平衡状態との間の遷移に関与する2つのエネルギー準位間の差に関連している。
【0090】
このプロセスは、非限定的な例のリストとして、欠陥検出、不純物レベルの測定、再結合メカニズム、材料品質の分析、バンドギャップエネルギーの決定、分子構造及び結晶化度等の種々の状況において情報を生成するために使用することができる。
【0091】
図5Aは、開示された方法によって調製されたナノプリズム材料に対して並置された非調製材料の両方についてのPL強度の例を示している。非調製材料は、低いレベル(例えば、10任意単位未満)に達したが、開示されたナノプリズム材料は、140任意単位に近いピークに達した。したがって、PL強度は、堆積された非調製材料よりも約140倍良好に増加し、PbSe結晶化度の程度が実質的に増強されることを示している。
図5Bは、
図5AのPLグラフのフィルタリング又は平滑化された線を示している。
【0092】
複数の例及び/又は実施形態がPbSeナノ構造に関して説明されるが、本明細書に開示される原理及び/又は利点は、特定のタイプの材料及び/又は用途に限定されない技術を採用することができる。
【0093】
本開示は、或る特定の実施形態を参照して説明されてきたが、当業者であれば、本開示の範囲から逸脱することなく、種々の変更を行うことができるとともに均等物に置き換えることができることを理解するであろう。加えて、本開示の範囲から逸脱することなく、本開示の教示に対して特定の状況又は材料を適応させるように多くの改変を行うことができる。したがって、本開示は、開示されている特定の実施形態に限定されず、むしろ、本開示は、添付の特許請求の範囲の適用範囲内に入る全ての実施形態を含むことが意図される。
【国際調査報告】