IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ディープ ライト ヴィジョン アーベーの特許一覧

特表2024-546084光音響断層撮影法において信号強度を改善するためのスローライト増幅器および方法
<>
  • 特表-光音響断層撮影法において信号強度を改善するためのスローライト増幅器および方法 図1
  • 特表-光音響断層撮影法において信号強度を改善するためのスローライト増幅器および方法 図2
  • 特表-光音響断層撮影法において信号強度を改善するためのスローライト増幅器および方法 図3
  • 特表-光音響断層撮影法において信号強度を改善するためのスローライト増幅器および方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】光音響断層撮影法において信号強度を改善するためのスローライト増幅器および方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/10 20060101AFI20241210BHJP
   H01S 3/23 20060101ALI20241210BHJP
   H01S 3/16 20060101ALI20241210BHJP
   G01N 21/00 20060101ALI20241210BHJP
   G01N 29/24 20060101ALI20241210BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20241210BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61B 8/13 20060101ALI20241210BHJP
   G01N 21/17 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
H01S3/10 D
H01S3/23
H01S3/16
G01N21/00 A
G01N29/24
A61B5/1455
A61B5/00 A
A61B8/13
G01N21/17 610
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532678
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-23
(86)【国際出願番号】 EP2022084147
(87)【国際公開番号】W WO2023099705
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】2151467-4
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524156401
【氏名又は名称】ディープ ライト ヴィジョン アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クロル、 ステファン
(72)【発明者】
【氏名】リッペ、 ラース
【テーマコード(参考)】
2G047
2G059
4C038
4C117
4C601
5F172
【Fターム(参考)】
2G047AA12
2G047BC13
2G047CA04
2G047EA05
2G047GD01
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB12
2G059DD15
2G059EE02
2G059GG01
2G059JJ30
2G059LL02
4C038KK01
4C038KL05
4C038KL07
4C038KM01
4C038KY03
4C117XB01
4C117XD03
4C117XD22
4C117XE37
4C601DE16
4C601EE03
4C601EE04
4C601HH13
5F172AE01
5F172AF04
5F172AL07
5F172DD01
5F172EE01
5F172NQ47
(57)【要約】
カスケード型スローライト増幅器およびこのカスケード型スローライト増幅器を備えているシステムが記載されている。このカスケード型スローライト増幅器は、ユニットを備えており、各ユニットが、イオンをドープして少なくとも1つの増幅ゾーンを供給するように光学的に構成されている少なくとも1つのホスト結晶を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユニットを備えるカスケード型スローライト増幅器において、
前記ユニットのそれぞれが、イオンをドープして少なくとも1つの増幅ゾーンを供給するように光学的に構成されているホスト結晶を備えている、カスケード型スローライト増幅器。
【請求項2】
前記ユニットが、時間フィルタゾーンを備えている、請求項1に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項3】
前記ゾーンのそれぞれが、単結晶により構成され、
前記ユニットが、少なくとも2つの結晶を結合させることにより得られる、請求項1または請求項2に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項4】
単結晶が、前記増幅ゾーンおよび前記時間フィルタゾーンを備えている、請求項2に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項5】
複数の前記ユニットが結合されているチェーンを備えている、請求項1~請求項4の何れか1項に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項6】
前記チェーンが、複数の前記増幅ゾーンおよび複数の前記時間フィルタゾーンを備え、
前記時間フィルタゾーンのうちの1つが、前記増幅ゾーンのそれぞれに後続している、請求項5に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項7】
前記チェーンが、単結晶から構成されている、請求項5または請求項6に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項8】
前記チェーンの最後段の時間フィルタが、周波数シフタとして機能している、請求項5~請求項7の何れか1項に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項9】
前記増幅ゾーンが、狭帯域増幅器である、請求項1~請求項8の何れか1項に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項10】
前記増幅ゾーンが、2段増幅器である、請求項1~請求項8の何れか1項に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項11】
前記チェーンの前記増幅ゾーンが、逐次的にポンピングされ、
前記チェーンの前記増幅ゾーンが、自然放射増幅光(ASE)が入力信号よりも低いような増幅レベルを有している、請求項5~請求項10の何れか1項に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項12】
2つの増幅ゾーン間に配置されている前記時間フィルタゾーンが、時間バッファとして機能している、請求項6~請求項11の何れか1項に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項13】
前記増幅が、利得帯域幅外の強い抑制を有し、増大したスローライト効果を有している、請求項1~請求項12の何れか1項に記載のカスケード型スローライト増幅器。
【請求項14】
増幅器段を再生成するためのシステムにおいて、
請求項1~請求項13の何れか1項に記載のカスケード型スローライト増幅器と、電源と、前記電源と前記カスケード型スローライト増幅器の前記増幅ゾーンとに接続されているコネクタと、を備え、
前記コネクタが、電場を用いて前記増幅器段を再生成するために1つまたは複数の前記増幅ゾーンにわたって前記電場を供給するように構成されている、増幅器段を再生成するためのシステム。
【請求項15】
光散乱媒体における光を局所化するためのシステムであって、
周波数を有している光信号を光散乱媒体内に伝送するように構成されている光源と、前記光散乱媒体に音場を生成するように構成されている超音波装置と、請求項14に記載の増幅器段を再生成するためのシステムを備えている光学サブシステムと、前記光散乱媒体を横断した前記光信号を収集するように構成されている収集光ガイドと、を備え、
使用中に、前記システムが、前記光信号が様々な光モードを介して前記光散乱媒体を横断する増幅器周回を提供し、いくつかのモードが前記音場と相互作用し、これによって、前記音場と相互作用する前記モードでは、そのパワースペクトルの一部が周波数シフトし、前記収集光ガイドにより収集された前記光が、前記光学サブシステムへと伝送され、前記増幅器段を再生成するためのシステムが、周波数シフトしたモードを増幅して、全ての他のモードを抑制した後に、前記増幅したモードを前記光信号の前記周波数に戻してから、前記光散乱媒体内へと伝送する、光散乱媒体における光を局所化するためのシステム。
【請求項16】
前記超音波装置の繰り返し周波数が、前記増幅器周回の時間に対してタイミングを調整されている、請求項15に記載の光散乱媒体における光を局所化するためのシステム。
【請求項17】
前記超音波装置の前記繰り返し周波数を漸進的に変化させることによって、前記音場を前記光散乱媒体内により深くシフトさせ、
前記増幅したモードが、前記増幅周回毎に前記光散乱媒体内のより深い前記超音波場をたどる、請求項16に記載の光散乱媒体における光を局所化するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、光音響断層撮影法において検出信号を増大させるための方法に関する。
特に、本発明は、どのようにして自然放射増幅光からの雑音を制限しつつ信号を大きく増幅させることができるかに関する。
さらに、本発明は、信号光をイメージング媒体内に再び接続して、モード選択を介してさらに大きい信号増幅を可能にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
濁った不透明な光散乱媒体内、つまり、光を散乱させる光散乱媒体内に光を照射する能力は、生物医学的用途等を含む多くのセッティングにおいて重要である。
光画像化は、高感度の分子コントラストを簡単かつ非侵襲的に提供する。
従来の光学顕微鏡検査法は、数十マイクロメートル程度の浅い層を通る光が透過することに依存している。
共焦点顕微鏡検査法は、侵達深さを0.1mm程度まで拡張する一方、光干渉断層撮影は、0.5mm程度の深さまで到達することができる。
これは、拡散散乱光の抑圧に依存する高分解能光撮影法(limit of high-resolution optical imaging modalities)のほぼ限界値である。
さらなる深さにおいて、拡散光散乱は、光線場と光散乱媒体との相互作用に多大な影響を及ぼす。
特定の深さにおける光線の減衰は、光散乱媒体の散乱によって大きく決定される。
この基本的な様相が意味しているのは、最も好ましい波長であっても、光を検出することができる最大の侵達深さは、一般的な生物組織においては、10cm程度に制限されている。
【0003】
約1ミリメートルから数センチメートルまでの拡散散乱領域では、他の光学分析および光学撮影法が展開されている。
1つの例は、血中の酸素飽和度を決定するためのパルスオキシメトリーである。
光画像化の1つの例は、拡散光断層撮影であり、例えば、内因性組織コントラストを用いて、投与蛍光造影剤または投与蛍光剤を用いて行うことができる。
一般的に、拡散散乱のため、これらの手法を用いた空間的な位置特定は、数ミリメートルから1センチメートル程度に制限される。
また、検出された光においては、光強度が非常に低いため、検出手法は、多くの場合、非効率的、煩雑であり、高度かつ高価な装置を必要とする。
【0004】
光を用いて濁った不透明な光散乱媒体を探針検査する際の空間的な位置特定を改善するために、光音響断層撮影手法が考案されている。
この光音響断層撮影法においては、レーザパルスの吸収に起因する、生体組織の僅かな加熱によって、局所的に放射される音波が、超音波トランスデューサにより検出される。
光音響断層撮影法は、超音波は生体組織における光波よりも散乱が数桁小さいことを利用している。
このようにして、音波の発生源の空間的な位置特定を1ミリメートル程度以下とすることができる。
【0005】
生体組織における光相互作用の局所化を改善するために音響を使用する別の例は、例えば、非特許文献1に記載されている音響光子タグ付け(acoustic photon tagging)の使用である。
生体組織のインソニフィケーション(insonifying tissue)と、この生体組織内にレーザ光を向けることによって、音場が占めている領域を通過するレーザ光のみが音響周波数により周波数シフトすることになる。
そして、この周波数シフトした光のみを光学的に検出することによって、音場と光が相互作用したことを把握することができ、光と比較して小さく局所化されたボリュームを占めるようにすることができる。
【0006】
しかし、この光音響断層撮影手法は、音場に到達してこの音場と相互作用する光の量によって依然として制限されている。
従って、超音波の集束と相互作用する光の量を改善するための方法および装置は、有利となる。
【0007】
この光強度の増加は、非特許文献2に記載されているように、数桁高い強度を所望の位置で可能にする波面整形(wavefront shaping)により達成することができる。
この波面整形を行う同様の手法は、非特許文献3に記載されているように、光増幅器を通る周回(roundtrip)における競合モード(mode competition)によるものである。
【0008】
別のタイプの光増幅器は、カスケード型増幅器または多段増幅器であり、各段(each stage)は、ドープした結晶を用いて信号を増幅する。
これらのタイプの増幅器は、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4に記載されている。
【0009】
従って、周波数シフトした光のみを増幅させる反復的な手法は、光場の強度を光音響相互作用点で高速で増加させる。
生体組織から収集される散乱光の増幅から生じる問題は、大量の信号を捨てることなしには、自然放射増幅光(amplified spontaneous emission (ASE))を捨てることができないことである。
ASEに対する従来の対処策には、低増幅または角度選択段の介在を用いることが含まれるが、これらは両方とも上記適用において欠点となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】中国特許出願公開第110895377号
【特許文献2】米国特許第5872650号
【特許文献3】日本特許出願公開第2010205903号
【特許文献4】米国特許出願公開第2003156605号
【特許文献5】スウェーデン特許出願公開第2151298号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Gunther & S. Anderson-Engels (2017, October), Review of current methods of acousto-optical tomography for biomedical applications, Frontiers of Optoelectronics, 10(3), 211-238.
【非特許文献2】I. M. Vellekoop and A. P. Mosk, "Focusing coherent light through opaque strongly scattering media," Opt. Lett. 32, 2309-2311 (2007)
【非特許文献3】M. Nixon, O. Katz, E. Small, Y. Bromberg, A. A. Friesem Y. Silberberg and N. Davidson, "Real-time wavefront shaping through scattering media by all-optical feedback". Nature Photon 7, 919-924 (2013)
【非特許文献4】Q. Li, A. Kinos, A. Thuresson, L. Rippe and S. Kroell, "Using electric fields for pulse compression and group-velocity control", Phys. Rev. A 95, 032104 (2017)
【非特許文献5】Q. Li, Y. Bao, A. Thuresson, A. Nilsson, L. Rippe and S. Kroell, "Slow-light-based optical frequency shifter", Phys. Rev. A 93, 043832 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明は、光音響断層撮影法においてスローライトを増幅して信号強度を改善するために、添付の特許請求の範囲に記載の装置、システムまたは方法を提供することにより、例えば、上述したような、技術における1つまたは複数の欠陥、不利な点または問題点を、それぞれまたはそれらの任意の組み合わせにおいて軽減し、緩和し、または除去することを好ましくは追求する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1態様は、カスケード型スローライト増幅器に関する。
このカスケード型スローライト増幅器は、ユニットを備えており、各ユニットが、イオンをドープして少なくとも1つの増幅ゾーンを供給するように光学的に構成されている少なくとも1つのホスト結晶を備えている。
【0014】
そして、前記ユニットは、少なくとも1つの時間フィルタゾーンを備えてよい。
【0015】
また、各ゾーンは、単結晶により構成されてよく、ユニットが、少なくとも2つの結晶を結合させることにより得られる。
【0016】
そして、単結晶は、少なくとも1つの増幅ゾーンおよび少なくとも1つの時間フィルタゾーンを備えてよい。
【0017】
また、カスケード型スローライト増幅器が、複数のユニットが結合されているチェーンを備えてよい。
【0018】
そして、チェーンは、複数の増幅ゾーンおよび複数の時間フィルタゾーンを備えてよく、各増幅ゾーンに、時間フィルタゾーンのうちの1つが後続している。
【0019】
さらに、チェーンは、単結晶から構成されてよい。
【0020】
また、チェーンの最後段の時間フィルタは、周波数シフタとして機能してよい。
【0021】
また、増幅ゾーンは、狭帯域増幅器であってよい。
【0022】
また、増幅ゾーンは、2段増幅器であってよい。
【0023】
また、チェーンの増幅ゾーンは、逐次的にポンピングされてよく、チェーンの増幅ゾーンは、自然放射増幅光(ASE)が入力信号よりも低いような増幅レベルを有している。
【0024】
また、2つの増幅ゾーン間に配置されてよい時間フィルタゾーンは、時間バッファとして機能してよい。
【0025】
また、増幅は、利得帯域幅外の強い抑制を有してよく、増大したスローライト効果を有している。
【0026】
本発明のさらなる態様において、増幅器段を再生成するためのシステムが記載されている。
本システムは、本発明に係るカスケード型スローライト増幅器を含んでいる。
また、本システムは、電源および電源とカスケード型スローライト増幅器の増幅ゾーンとに接続されているコネクタを含んでいる。
コネクタが、電場を用いて増幅器段を再生成するために、1つまたは複数の増幅ゾーンにわたって電場を供給するように構成されていてよい。
【0027】
本発明の別の態様において、光散乱媒体における光を局所化するためのシステムが記載されている。
本システムは、周波数を有している光信号を光散乱媒体内に伝送するように構成されている光源を含んでよい。
また、本システムは、光散乱媒体に音場を生成するように構成されている超音波装置および本明細書に記載の増幅器段を再生成するためのシステムを含んでよい。
【0028】
さらに、本システムは、光散乱媒体を横断した光信号を収集するように構成されている収集光ガイドを含んでよい。
使用中に、システムが、光信号が様々な光モードを介して光散乱媒体を横断する増幅器周回を提供し、いくつかのモードが、音場と相互作用し、これによって、音場と相互作用するモードでは、そのパワースペクトルの一部が周波数シフトし、収集光ガイドにより収集された光が、光学サブシステムへと伝送され、増幅器段を再生成するためのシステムが、周波数シフトしたモードを増幅して、全ての他のモードを抑制した後に、増幅したモードを光信号の周波数に戻してから、光散乱媒体内へと伝送する。
【0029】
そして、超音波装置の繰り返し周波数が、増幅器周回の時間に対してタイミングを調整されていてよい。
【0030】
また、超音波装置の繰り返し周波数を漸進的に変化させてよく、これによって、音場を光散乱媒体内により深くシフトさせ、これによって、増幅したモードが、増幅周回毎に、光散乱媒体内のより深い超音波場をたどる。
【0031】
「スローライト」という用語は、伝搬が行われる媒体との相互作用によって実質的に遅くなる伝搬パルスを参照している。
「スローライト」は、真空中の光の速度よりも数桁遅い、非常に低い光の群速度を有している場合があり、例えば、群速度は、光の速度cの数千倍または数百万倍小さい場合がある。
【0032】
例えば、「スローライト」は、c/10より小さい群速度、例えば、c/10未満等を有している場合があり、ここで、c(=3x10m/s)は、真空中の光の速度である。
例えば、これは、スローライト増幅器では、増幅中の光パルスの群速度が300km/s未満、例えば、30km/s未満であることを意味している。
【0033】
本明細書で用いられる「光」という用語は、人間の目に可視である光に限定されるものではなく、紫外領域および赤外領域の波長も含む。
【0034】
本明細書で用いられる「備える」という用語は、記載の特徴、整数、ステップ、または構成要素の存在を示すものとして解釈され、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、構成要素またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明の実施形態が実現できるこれらおよび他の態様、特徴は、図面を参照して、以下の本発明の実施形態の説明から明らかとなり解明される。
【0036】
図1】信号レベルをブーストする光増幅ループを備える、音響光子タグ付けを用いたイメージングのための設定の模式的な実施形態を示す。
図2】カスケード型スローライト増幅器の模式的な構成を示す。
図3】スローライト2準位増幅器に関して反転分布後の周波数に対する吸収を示す。
図4】スローライト増幅器の周波数に対する吸収と、どのようにしてシュタルク効果を用いてイオン分布をシフトさせることによって増幅を継続的に再生成するかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
添付の図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
しかし、本発明は、多数の異なる形態において具現化することもでき、本明細書において記載されている実施形態に限定されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本発明が詳細で完全であるように提供され、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるものである。
【0038】
以下の発明は、光散乱媒体における光相互作用の局所化を改善するために適用可能である本光学サブシステム1-4の実施形態に焦点を置く。
本発明は、生体組織、例えば、脳、心臓、女性の乳房、筋組織等の深部の酸素飽和度の測定に適用可能であってよい。
その一方、本記載は、この用途に限定されず、光散乱媒体における光相互作用を局所化することが有用である多数の他のシステムに適用することができる。
【0039】
本発明は、一般に、先願である「光散乱媒体内の光を局所化するためのシステムおよび方法」という名称の特許文献5の補完を成しており、特許文献5は参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
図1において、システム1は、特許文献5で特定されているシステムの一例である。
先願と同様に、システム1は、周波数f1の光源1-2(例えば、レーザ)と、音場1-3を光散乱媒体1-1内へと出射する周波数f2の超音波装置1-10とを有している。
レーザは、本発明の焦点である光学サブシステム1-4を介して、生体組織内に接続することができる。
光学サブシステム1-4からの光は、光散乱媒体1-1へと照射導波管1-5を介して、光散乱媒体1-1内に向けることができる。
光散乱媒体1-1において、光は、光散乱媒体1-1を相異なる光モード1-6を介して横断し、あるモード、例えば、モード1-6-2は、音場1-3と相互作用し、別のモード、例えば、モード1-6-1およびモード1-6-3は、音場1-3と相互作用しない。
音場と相互作用する光は、そのパワースペクトルの一部が周波数f3=f1+n*f2(nは、整数)に周波数シフトする。
その一方、この光は、音場1-3での局所的な吸光による損失を被る。
そして、光は、収集導波管1-7で収集することができ、この収集導波管1-7は、光を光学サブシステム1-4にガイドする。
光学サブシステム1-4は、周波数シフトした光を増幅し、その後に、この周波数シフトした光を元の光源1-2の周波数に戻し、この光の大部分を照射導波管1-5内へと再び注入する。
しかし、この光のごく一部分は、検出器1-9で監視することができる監視信号1-8として、光学サブシステム1-4から取り出すことができる。
【0041】
再び注入した増幅光は、音場1-3を横断している光モード1-6と内在的に接続されているため、順に、光学サブシステム1-4、照射導波管1-5、光散乱媒体1-1、収集導波管1-7、光学サブシステム1-4等とシステムをループして複数回周回する光には、音場1-3を横断している光モード1-6が有利である。
【0042】
また、複数回周回する際、光学サブシステム1-4における増幅の競合には、光散乱媒体1-1を通した損失が最小であるモード1-6-2が有利である。
【0043】
これら両方の効果、つまり、音場1-3と相互作用する増幅モードのみの効果とこれらのモード間の競合の効果により、照射導波管1-5を通して光散乱媒体1-1内へと注入した同じ光の強度で、より多量の光が音場1-3に到達することができるようになる。
これにより、より高い強度の信号の読み出しが可能になる。
また、周回間の音場1-3の微小な移動により、この高い強度が生体組織内の音場をたどることが可能になる。
これにより、イメージ取得の際に強度が光散乱媒体1-1内の様々なプローブ点で構築されるのを待つことの回避と、より大きい深さの全体的なイメージングとの両方が可能になる。
【0044】
光学サブシステム1-4は、カスケード型スローライト増幅器2を含んでよく、その一例が、図2に示されている。
このカスケード型スローライト増幅器2は、イオンをドープした少なくとも1つのホスト結晶を含んでよく、または、スプライスまたはサンドイッチした複数のそのような結晶であってよい。
また、このドーパントイオンの分布(pupulation)において、そのイオン分布は、空間的に連続する増幅ゾーン2-1とフィルタゾーン2-2を含むように空間的およびスペクトル的に処理されている。
フィルタゾーンは、先願の特許文献5に記載されているスローライトフィルタを含むことができる。
【0045】
スローライトフィルタは、光源1-2の元の周波数で強い吸光を有するイオンをドープした少なくとも1つのホスト結晶から構成されてよい。
このイオンがホスト結晶の他の原子を置き換わると、イオンは、その結晶格子を僅かに歪ませることがある。
これらのイオンの個々の吸収は、強く、周波数が狭いが、ドープしたイオンの集合全体では異なる結晶場が見られ、相互に関連して吸収する周波数が僅かに変化することがある。
多数の異なるイオンクラスにより、ホスト結晶のドープしたイオンの集合体の全吸収プロファイルが得られ、その周波数は、音場により生じるいかなる周波数シフトよりも数桁広い。
【0046】
この吸収プロファイルでは、光ポンピング技術を用いて、異なる永続的なスペクトル構成を構築することが可能である。
この光ポンピングは、イオンのエネルギ準位を分裂させるための電場および/または磁場を印加してまたは印加せずに行うことができる。
この修正された吸収プロファイルの副作用は、周波数シフトした光の群速度が数桁減少することがある。
従って、時間ゲーティングによって、音場によりシフトした光を元の光周波数からさらに識別することができる。
【0047】
増幅ゾーンは、イオンの分布を瞬間的に反転させることにより作成することができる。
そのような状態において、反転したイオンは、誘導放出によって場を増幅する。
また、増幅器を通して、光場の伝搬に対して分布の反転のタイミングを調整することにより、自然放射増幅光(ASE)による雑音の寄与を減少させることができる。
さらに、電場を印加することによって、望まれる波長での増幅の欠乏を回避することができる。
【0048】
上述のように、元の光周波数f1と音場によってシフトした周波数f3との両方を有する光は、収集導波管1-7に入る。
この光は、カスケード型スローライト増幅器から構成されている光学サブシステム1-4へと案内される。
f1とf3との間の周波数の差は、10Hz程度であってよい。
増幅のためにf3のみを選択するためには、f1が同時に増幅されないように、非常に鋭い光学遷移を用いる必要がある。
このような鋭い利得プロファイルは、イオンをドープした結晶、例えば、Pr:YSO等において実現することができる。
結晶にドープした各イオンは、非常に鋭い光学遷移を各々有する一方で、結晶の不均一性によってそれらの遷移中心周波数は、シフトする。
結晶にドープした全てのイオンの集合体は、10Hzを超えない広い周波数スパンをカバーすることができる非常に高い吸収を有する。
同時に、単一イオンをこの集合体内でターゲットにすることができ、これを用いて、光ポンピング手法によって、10Hz程度のイオン遷移の線幅の分解能を有するスペクトル領域の構成を作成することができる。
【0049】
スローライトフィルタは、上記および特許文献5に記載したように、集合体のイオンを他の長寿命の基底状態に移動させることによって、これらの材料において構築することができる。
しかし、イオンを励起状態へと励起することもでき、この励起状態も、また、遷移の長い狭線幅に起因して、多くの場合は、長寿命、例えば、10-5s~10-2sを有する。
分布の半分超を励起状態とすることができれば、入射光が放出を誘導し、光増幅が生じる。
通常の光増幅器では、イオンが連続的に高い状態へと励起されるため、この反転分布は、3つ以上のエネルギ準位を必要とする。
光ポンピングを介した連続的な励起により、半分が励起状態であり半分が基底状態である定常分布構成が、誘導放出によって生成される。
そのような分布は、吸収と増幅が同量であるため、光学的利得を示さない。
しかし、いわゆる、パイパルスを印加することにより、総分布を同時かつ即時に反転させることができる。
周波数3-2に対して吸収3-1がプロットされている図3に例示されているように、そのような反転分布は、吸収も反転させる。
この負吸収は、増幅と同義である。
また、その一方では、負吸収により、吸収の勾配が大きくなるため分散が大きくなる。
そのような反転分布を有する増幅段内では、スローライト効果は、通常のスローライトフィルタよりもさらに大きくなる。
増幅の対象ではない光、すなわち、周波数f1の光は、増幅の対象である光、すなわち、周波数f3の光から時間微分することができる。
【0050】
本明細書において上述したように、光増幅器の問題は、自然放射増幅光(ASE)である。
分布が反転すると、自然放出光も、増幅器での放出を誘導する。
自然放出が入力信号よりも大きい場合、増幅段後の増幅光は、ASEの雑音によって支配される。
これにより、増幅が増大すると自然放出が増大するため、各段で適用できる増幅量が制限される。
複数のスローライト増幅段をカスケード式に配置することにより、増幅を各段においてASEが問題となる限界値未満に抑えることができる。
任意のスローライトフィルタを増幅段間に配置すると、増幅段後の時間バッファおよび周波数クリーナとして機能する。
また、時間バッファにより、次の増幅段の反転分布が可能になる。
【0051】
解決すべき最後の問題は、増幅が、反転分布に比例するため、イオンの総分布にも比例するという点に由来する。
増幅を最大化するには多数のイオンを反転させる必要があるが、このことは、増幅段および周波数当たりのイオンの数によって制限される。
増幅段の物理的な長さを増加させるか、または、ドーパントレベルが低い場合にはドーパント濃度を増加させるかの何れかによって、分布を増加させることができる。
増幅に寄与するイオンの数を増加させるための第3の手法は、電場を印加することによる。
外部電場の影響を受けると、イオンは、シュタルク効果を受け、その遷移周波数がシフトする。
このシフトにより、各々のイオンのシュタルク係数に応じて、その遷移中心周波数が、増加または減少する。
まず、広い周波数領域でイオンを反転させ、次に、電場を印加することにより、電場を増幅段にわたって継続的に傾斜付ける(ramp)ことによって、反転領域の中心の増幅を維持することができる。
【0052】
例えば、3-3等の周波数領域で継続的に増幅を有するためには、目標の周波数の上下の周波数で2つの強い光場を印加することができる。
このことは、図4に例示され、図4でも周波数4-2に対して吸収4-1がプロットされているが、ここでは、吸収が、逆の符号のシュタルク係数を有する2つのイオン分布4-3に分割されている(非特許文献4)。
強い光場4-4は、増幅した光場4-5の両側に印加され、イオン分布を反転させる。
次に、電場は、シュタルク効果によって、相異なるイオン分布4-3を反対方向に移動させる。
2つの分布は、周波数空間で結合して、信号の光場4-5の増幅を生成する。
この手法により、増幅器を通る各周回について、完全に反転した分布、つまり、最大の増幅を継続的に供給することが可能になる。
仮にこの反転分布の再生成を実行しない場合には、定常分布状態、つまり、半分が励起状態で半分が基底状態に達し、パイパルスによっては最終的な分布配置が変化しない状態になるまで、周回毎に増幅は緩やかに減少していく。
【0053】
光パルスがその透過窓内を伝搬している間にスローライトフィルタに適切な電場を印加すると、この光パルスの周波数をシフトさせることができる(非特許文献5)。
そのような電場を最後段のフィルタゾーン2-3に印加することによって、光の周波数f3を元の周波数f1に戻すことができる。
これにより、光の周波数状態は、その入力値にリセットされるが、そのモード構成が、除去されることはない。
図4に記載されている再生成とこの周波数シフタとの両方を図1の光学サブシステム1-4として実装する増幅器チェーンを用いることにより、等しい増幅率で光散乱媒体1-1を通る複数の増幅周回が可能になる。
従って、これらの周回により、上述したように、モード1-6-2を透過する光の構築が可能になる。
増幅器チェーンの様々なゾーンにわたって電場を促進するために、増幅器を備える1つまたは複数の結晶を、例えば、金属電極を介して、1つまたは複数の電源に接続することができる。
【0054】
増幅器周回時間(つまり、順に1-4、1-5、1-1、1-7、1-4とシステムをループするために光が要する時間であり、増幅器のスローライト効果によって数マイクロ秒である場合がある)に対して音響パルスの繰り返し周波数のタイミングを調整することにより、音場1-3と相互作用する光モード1-6-2が増幅される一方、他のすべてのモードは、抑制される。
これが達成されると、パルス繰り返し周波数を増加させることにより、増幅器周回毎に音場1-3が、生体組織内に深くシフトする。
この認められる空間シフトが、2回の増幅器周回の間の音場の重なりが十分に大きいようなものである場合、高い光の強度は、生体組織内へと継続的に下げられている間でも、音場の位置で維持される。
この強度が維持されている一方で、ある周回で主に音場1-3とその深い端で相互作用するモードでは、その周波数シフトした光の部分がその次の周回で増加するため、これらのモードは、モード競合においてより強くなり、より強い増幅が得られる。
その結果、音場1-3の浅い端と相互作用するモードは、その後の周回で競合に負け、ある周回で最も強いモードは、次に減少することになる。
【0055】
このようにして、音響パルスの繰り返し周波数と増幅器周回が不一致であることによって、より高い光場が生体組織の深部の音場に到達することができるようになり、イメージング深さを効果的に大きくすることが可能になる。
【0056】
以上、本発明の実施形態に基づいて説明した。
しかし、上記以外の実施形態を本発明の範囲内で同様に可能である。
ハードウェアまたはソフトウェアを用いて本方法を実施して、上記とは異なる方法ステップを本発明の範囲内で提供することができる。
本発明の様々な特徴およびステップを上記以外の組み合わせで組み合わせることができる。
本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0057】
本明細書および特許請求の範囲で用いられている不定冠詞「a」および「an」は、特段の記載がない限り「少なくとも1つの」を意味する。
本明細書および特許請求の範囲で用いられている「および/または」の文言は、「何れか一方またはその両方」のように連結される要素、つまり、ある場合には結合的に存在し他の場合には非結合的に存在する要素を意味する。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】