(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】増強されたレオロジー特性を有する低張性ゲル形成製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/10 20170101AFI20241210BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241210BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241210BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20241210BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241210BHJP
A61P 27/00 20060101ALI20241210BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20241210BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241210BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K47/10
A61K9/08
A61K47/18
A61K9/14
A61P27/06
A61K9/06
A61P27/00
A61P27/04
A61P35/00
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534242
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 US2022080579
(87)【国際公開番号】W WO2023107831
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】エンサイン, ローラ
(72)【発明者】
【氏名】シュエ, タン ヘン
(72)【発明者】
【氏名】ヘインズ, ジャスティン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA16
4C076AA29
4C076BB24
4C076CC04
4C076CC10
4C076CC29
4C076CC32
4C076DD19R
4C076DD29
4C076DD38
4C076DD49R
4C076EE23
4C076EE32
4C076EE49
4C076FF17
4C076FF31
4C076FF35
4C076FF39
4C084AA17
4C084MA17
4C084MA21
4C084MA28
4C084MA43
4C084MA58
4C084NA12
4C084ZA332
4C084ZB082
4C084ZB322
4C084ZC412
(57)【要約】
改善された低張性ゲル化ビヒクルは、薬物のための可溶化剤として、および眼への持続性の薬物送達を提供する手段として記載される。低張性ゲル形成組成物への少量の低分子量PEGの添加は、眼球表面における溶液の粘性を増強し、涙液層破壊時間を長期化し、眼球の快適性を増大させる。薬物をより高濃度で可溶化すると、身体の組織への薬物透過が増強される一方で、低張性ゲル化ビヒクルは、増大された吸収のためのより大きい表面積にわたる薬物の分布ならびに低減した副作用およびより長い作用持続時間のための持続した放出をさらに改善することが発見された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療剤、予防剤、診断剤または栄養補助剤を眼に送達するための製剤であって、前記製剤は、
粘膜表面または上皮表面への適用のためのゲル形成ポリマーであって、等張性条件および室温と体温との間の温度(約25~約37℃)下で前記ポリマーの臨界ゲル濃度(CGC)未満の濃度であるように製剤化される、ゲル形成ポリマー、
全体の重量/容積(w/v)において約0.1%~約1.0%の間(両端の値を含む)の量の低分子量ポリエチレングリコール(PEG)、ならびに
必要性のある個体の粘膜表面または上皮表面への送達に適した前記ポリマーの薬学的に受容可能な低張性製剤を形成するための賦形剤、
を含み、
必要に応じて、治療剤、予防剤、栄養補助剤、または診断剤を含む、
製剤。
【請求項2】
前記ゲル形成ポリマーは、温度感受性ゲル形成ポリマーである、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記温度感受性ゲル形成ポリマーは、30℃未満、好ましくは21℃未満である下限臨界溶液温度を有する、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記ゲル形成ポリマーは、水性賦形剤中で、10%より大きくかつ18%未満の間である、請求項1~3のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項5】
前記ゲル形成ポリマーは、ポロキサマーである、請求項1~4のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項6】
前記ゲル形成ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)(プルロニック(登録商標)F127)である、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
前記ゲル形成ポリマーは、10%~16%の間のF127である。請求項1~6のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
前記PEGは、PEG 100、PEG 200、PEG 300、PEG 400、PEG 600、PEG 800、およびPEG 1,000からなる群より選択される1種またはこれより多くのものである、請求項1~7のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項9】
前記PEGは、PEG 400である、請求項1~8のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項10】
前記PEGは、約0.01% w/v~約1% w/vの間(両端の値を含む)の量にある、請求項1~9のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項11】
前記PEGは、約0.4% w/vの量にある、請求項1~10のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項12】
保存剤ありまたはなしで製剤化されたポロキサマーF127、PEG400およびホウ酸緩衝液を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項13】
72mOsmまたは150mOsmのいずれかで、0.01% 塩化ベンザルコニウム(「BAK」)などの保存剤ありまたはなしで製剤化された、約12%ポロキサマーF127、0.4% PEG400および1mM ホウ酸緩衝液を含む、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
前記製剤は、前記治療剤、前記予防剤、または前記診断剤を前記粘膜表面または前記上皮表面において少なくとも1時間の期間にわたって放出する、請求項1~13のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項15】
前記製剤は、前記治療剤、前記予防剤、または前記診断剤を前記粘膜表面または前記上皮表面において少なくとも24時間の期間にわたって放出する、請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
前記ゲル形成ポリマーは、前記粘膜表面または前記上皮表面上への投与時に均一に厚みのある層を形成する、請求項1~15のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項18】
前記粘膜表面または前記上皮表面は、前記眼の眼球表面である、請求項1~17のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項19】
前記製剤は、治療剤、予防剤、または診断剤の有効濃度を、前記眼の内部の上皮組織において1週間より長く保持する、請求項18に記載の製剤。
【請求項20】
前記眼の内部の上皮組織は、角膜、房水、強膜、結膜、虹彩、水晶体、網膜、および網膜色素上皮からなる群より選択される、請求項19に記載の製剤。
【請求項21】
乾燥散剤、ゲル、または液体、好ましくは、点眼剤の形態での投与のための、請求項1~20のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項22】
前記製剤は、投与のための単一または複数の投与単位において提供される、請求項21に記載の製剤。
【請求項23】
治療剤、予防剤、栄養補助剤、または診断剤を含み、
ここで前記薬剤は、タンパク質もしくはペプチド、低分子、糖もしくはポリサッカリド、脂質、糖脂質、糖タンパク質、核酸、そのオリゴマーもしくはポリマー、または低分子である、請求項1~22のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項24】
前記薬剤は、ステロイド、緑内障の薬剤、チロシンキナーゼインヒビター、免疫抑制剤、抗線維症薬剤、抗感染剤、酸化的損傷および/またはニトロソ化損傷を防止する抗酸化剤、ホルモンならびに化学療法剤からなる群より選択される、請求項1~23のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項25】
薬剤を被験体の粘膜表面または上皮表面に投与するための方法であって、前記方法は、請求項1~24のいずれかに記載の製剤を、前記被験体の必要性のある粘膜表面または上皮表面に投与する工程を包含する、方法。
【請求項26】
前記粘膜表面または前記上皮表面は、眼の眼球表面である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記方法は、前記眼の1またはこれより多くの疾患または障害を処置または防止する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記疾患または前記障害は、緑内障、ドライアイ症候群(DES)、黄斑変性、糖尿病網膜症、強皮症、およびがんからなる群より選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記製剤は、前記被験体の眼へと点眼剤として投与され、好ましくはここで前記製剤は、前記眼の表面において、約0.01mm~2mmの間(両端の値を含む)の厚みのゲルを形成し、好ましくは約50mOsm/L~約280mOsm/Lの間(両端の値を含む)の張度を有する、請求項26~28のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月8日出願のLaura Ensign、Tung Heng Henry HsuehおよびJustin Hanesによる米国仮特許出願第63/287,415号(「Hypotonic Gel-forming Formulations with Enhanced Rheological Properties」)(その開示は、それらの全体において本明細書に参考として援用される)の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府支援の研究または開発に関する陳述
本発明は、National Institutes of Healthによって授与された助成金番号EY031041の下での政府支援を得て行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般に、増強された薬物送達、特に、眼の表面のような上皮表面での薬物送達のための製剤の分野にある。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
眼は、特有の解剖学的構造および生理を有する非常に複雑な構造である。眼の内部の解剖学的構造は、眼の全体の領域のうちのおよそ1/3を占める前眼部(anterior (front) segment)およびその領域の残り2/3を構成する後眼部(posterior (rear) segment)を含む。角膜、結膜、房水、虹彩、毛様体、および水晶体のような組織は、前眼部を構成する一方で、後眼部は、強膜、脈絡膜、網膜色素上皮、神経網膜、視神経、および硝子体液を含む。
【0005】
前眼部および後眼部はともに、種々の眼疾患および障害によって影響を及ぼされる。そのうちの多くは、緑内障、アレルギー性結膜炎、前部ぶどう膜炎および白内障、加齢黄斑変性(AMD)、および糖尿病網膜症を含め、視力を脅かす。眼疾患を処置するための多くの治療剤が利用可能であるが、眼の内部への有効量の薬物の送達はしばしば、不快なかつ潜在的に危険な侵襲性の技術(例えば、眼内注射)を必要とする。
【0006】
眼の粘膜表面を通る薬物の持続送達は、多くの眼疾患(感染症、炎症性疾患、および変性性眼状態が挙げられる)の処置および防止を改善するための潜在的可能性を有する。しかし、旧来の可溶性投与形態を使用して持続性の予防的または治療的な薬物濃度を達成することは、薬物の分解、急速な排出および急速な全身性の吸収に起因して困難なままである。
【0007】
眼への治療剤の送達のための1つの機序は、眼球表面上への局所的薬剤の適用による、例えば、人工涙膜の形成によるものである。上記涙膜(角膜および結膜を浸している液層)は、眼球表面の快適性、機械的、環境的および免疫的な保護、および上皮の健康状態を担う;それは、視力のための滑らかな屈折性の表面を形成する。涙液は、眼の表面をコーティングすることによって乾燥を防ぎ、眼を外部刺激からも防御している。眼の表面に血管は存在しないので、酸素および栄養素は、涙液によって表面の細胞へと輸送される。さらに、眼に入った異物は、涙液によって洗い流される。
【0008】
前眼部への薬物送達の近年のアプローチは、透過および粘性増強剤での従来の局所液剤の調節、ならびに従来の局所製剤(例えば、懸濁物、エマルジョン、および軟膏剤)の開発を含む。薬物送達のために眼をコーティングするゲルの使用がまた、想定されている(例えば、米国公開番号2021/0196837および同2021/0177751を参照のこと)。種々のナノ製剤がまた、前眼部の眼球薬物送達のために導入されており、薬物放出デバイスおよびナノ製剤は、後眼部送達(posterior ocular delivery)のために、例えば、慢性硝子体網膜疾患を処置するために開発されている最中である。しかし、多くの局所製剤は、不十分なレオロジー特性(例えば、高い粘着性、および不十分な粘性)を有し、まばたきする際の不快感およびゲルの破壊をもたらす。
【0009】
特に、慢性疾患および障害の反復または長期の処置に関する侵襲性の、視力破壊的な(vision-disruptive)、または不快な手順なしに、粘膜表面を通じて上皮細胞への効果的な薬物送達を提供する増強された送達システムに関する切迫したニーズが未だに存在する。また、粘膜表面における予防剤、治療剤または診断剤の保持および持続性の放出を提供する粘膜送達のための組成物に関する未だ満たされていないニーズが存在する。
【0010】
従って、本発明の目的は、低減した粘着性を揺する、眼の増大した快適性および潤滑のための薬物送達組成物を提供することである。
【0011】
また、本発明の目的は、病原体進入への物理的バリアを提供する、眼への活性薬剤の送達のための組成物を提供することである。
本発明のさらなる目的は、粘膜表面を経て上皮組織へと送達するための改善された組成物を提供することである。この組成物は、粘膜表面を介する上皮組織への予防剤、治療剤または診断剤の保持および持続性の放出を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0196837号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2021/0177751号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要旨
少量の低分子量ポリエチレングリコール(「PEG」)を低張性ゲル形成組成物に添加すると、眼球表面での溶液の粘性を増強し、涙液層破壊時間(tear break-up time)を長期化し、かつ眼球の快適性を増大させることが発見された。眼疾患および障害を処置するために、粘膜表面を有する上皮組織への、特に、眼への薬物の効果的な送達のための改善された特性を有する組成物が、開発された。上記組成物は、点眼剤の形態において眼への適用に必要とされる低粘性を維持しながら、眼球表面への低減した接着および低粘着性を有する、低分子量PEGと組み合わせた低張性ゲル形成ポリマーを含む。上記製剤は、治療剤、予防剤、栄養補助剤(nutraceutical agent)、および/または診断剤、等張性条件および室温と体温との間の温度(約25~約37℃)の下でポリマーの臨界ゲル濃度(CGC)を下回る濃度にあるように製剤化された粘膜表面または上皮表面への適用のためのゲル形成ポリマー、合計の重量/溶液(w/v)で約0.1%~約1.0%の間(両端の値を含む)の量にある低分子量PEG、ならびに必要性のある個体の粘膜表面または上皮表面への送達に適した上記ポリマーの薬学的に受容可能な低張性製剤を形成するための賦形剤を含む。
【0014】
好ましくは、上記ゲル形成ポリマーは、水性賦形剤中、10%超~18%未満の間である。好ましい実施形態において、上記ゲル形成ポリマーは、ポロキサマー、例えば、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)(プルロニック(登録商標)F127)である。いくつかの実施形態において、上記ゲル形成ポリマーは、10%~16%の間のプルロニック(登録商標)F127である。好ましいPEGは、PEG 100、PEG 200、PEG 300、PEG 400、PEG 600、PEG 800、PEG 1,000、PEG 2,000であり、最も好ましくは、PEG 400である。好ましい実施形態において、上記PEGは、約0.01% w/v~約1% w/vの間(両端の値を含む)、好ましくは、0.4% w/vの量にある。
【0015】
いくつかの実施形態において、送達されるべき上記治療剤、予防剤、栄養補助剤、または診断剤は、水溶性である。他の実施形態において、送達されるべき上記治療剤、予防剤、栄養補助剤、または診断剤は、水溶性に乏しい。いくつかの実施形態において、上記薬剤は、タンパク質もしくはペプチド、低分子、糖もしくはポリサッカリド、脂質、糖脂質、糖タンパク質、核酸、そのオリゴマーもしくはポリマー、または低分子である。送達のために好ましい薬剤としては、ステロイド、緑内障の薬剤(glaucoma agent)、チロシンキナーゼインヒビター、免疫抑制剤、抗線維症薬剤(anti-fibrotic agent)、抗感染剤、ホルモンもしくは化学療法剤が挙げられる。
【0016】
上記製剤は、上記治療剤、予防剤、または診断剤を、粘膜表面または上皮表面において、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも24時間の期間にわたって放出する。好ましくは、上記ゲル形成ポリマーは、上記粘膜表面または上皮表面への投与時に、均一に厚みのある層を形成する。
【0017】
例示的な粘膜表面または上皮表面としては、眼球の、口腔の、咽頭の、食道の、肺の、耳の、鼻の、口内の、舌の、膣の、子宮頸管の、泌尿生殖器の、消化管の(alimentary)、および肛門直腸の表面が挙げられる。好ましい実施形態において、上記粘膜表面または上皮表面は、眼の眼球表面であり、上記製剤は、上記治療剤、予防剤、または診断剤の有効な濃度を、眼の内部の上皮組織において、1週間超にわたって、例えば、角膜、房水、強膜、結膜、虹彩、水晶体、網膜、および網膜色素上皮のような上皮組織のうちのいずれか1つにおいて保持する。
【0018】
一般に、投与のための上記製剤は、乾燥散剤、ゲル、または液体の形態にある。いくつかの実施形態において、上記製剤は、投与のために単一投与単位または複数投与単位において提供される。
【0019】
上皮表面、好ましくは粘膜表面への、またはその必要性において上記低張性ゲル形成製剤を投与する方法がまた、記載される。上記方法は、眼の1またはこれより多くの疾患または障害を処置または防止するために、眼の眼球表面に投与するために特に適している。例示的な疾患または障害としては、緑内障、ドライアイ症候群(DES)、黄斑変性、糖尿病網膜症、強皮症、およびがんが挙げられる。眼に投与される場合、上記製剤は、被験体の眼に点眼剤として、好ましくは、上記製剤の約10μl~約100μlの間(両端の値を含む)の量において投与される。いくつかの実施形態において、上記方法は、必要な場合に、1回またはこれより多く、例えば、毎時間、毎日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごと、毎週、2週間ごと、またはより少ない頻度で反復される。上記製剤は、代表的には、約0.01mm~2mmの間(両端の値を含む)、または約0.5mm~1.5mmの間(両端の値を含む)の厚みを有する眼の表面でゲルを形成する。いくつかの実施形態において、眼の表面においてゲルを形成する前の上記製剤は、約50mOsm/L~約280mOsm/Lの間(両端の値を含む)の張度を有する。いくつかの実施形態において、上記製剤から形成されるゲルは、水吸収が起こりかつ平衡が再度確立された後に、等張性に近い張度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1A~1Bは、0~1% グリセリンが添加された16%(w/v) プルロニック(登録商標)F127のレオロジー特性の棒グラフであり、接着(0~1.2J/m
2)(
図1A)および最大粘着(0~1.0N)(
図1B)(n=3~6)を示す。
【0021】
【
図2】
図2A~2Bは、0~1% PEG 300が添加された16%(w/v) プルロニック(登録商標)F127のレオロジー特性の棒グラフであり、接着(0~1.2J/m
2)(
図2A)および最大粘着(0~1.0N)(
図2B)(n=3~6)を示す。*p<0.05。
【0022】
【
図3】
図3A~3Bは、0~1% PEG 400が添加された16%(w/v) プルロニック(登録商標)F127のレオロジー特性の棒グラフであり、接着(0~1.2J/m
2)(
図3A)および最大粘着(0~0.8N)(
図3B)(n=3~6)を示す。*p<0.05。
【0023】
【
図4】
図4A~4Bは、添加剤なしの、または以下の添加剤:0.4% PEG 300、0.4% PEG 400、0.4% PEG 400+0.3% ポリグリセロール(「PG」)、デキストラン70、1% カルボキシメチルセルロース(「CMC」)、0.5% ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(「PS80」)および0.4% PGサンプルをそれぞれ含む(n=3~6)16%(w/v) プルロニック(登録商標)F127の接着(0~1.2J/m2)(
図4A)および最大粘着(0~1.0N)(
図4B)を示すレオロジー特性の棒グラフである。*p<0.05。
【0024】
【
図5】
図5は、16% プルロニック(登録商標)F127(白抜きの四角付きの線)の、および16% プルロニック(登録商標)F127 + 0.4% PEG 400(黒塗りの丸付きの線)、それぞれの各々に関して温度(15~42℃)にわたる粘性(10
1~10
5 mPa.s)を示す線グラフである。
【0025】
【
図6】
図6A~6Bは、ボトルから最初の液滴を排出するために必要な力の棒グラフであり、室温(
図6A)、および33℃(
図6B)それぞれにおいて、塩類溶液、12% プルロニック(登録商標)F127、12% F127 + 0.3% PEG400、および18% プルロニック(登録商標)F127、それぞれを含むサンプルに関する圧搾力(0~20N)を示す。*33℃において、18% F127はゲルを形成し、液滴ではなくゲルの帯として押し出された。
【0026】
【
図7】
図7は、ボトルから最初の液滴を排出するために必要な力の棒グラフであり、塩類溶液、12% プルロニック(登録商標)F127、12% プルロニック(登録商標)F127 + 0.3% PEG 300、12% プルロニック(登録商標)F127 + 0.3% PEG 400、BROMSITE(登録商標)(「ブロムフェナク眼用液剤、0.075%」)、およびSYSTANE(登録商標)Ultra(Alcon潤滑点眼剤、ここで活性成分は、それぞれ、ポリエチレングリコール400(0.04%)およびプロピレングリコール(0.3%)である)を含むサンプルに関する圧搾力(0~25N)を示す。*ブロムフェナク眼用液剤、0.075%(「BROMSITE(登録商標)」)は、塩類溶液より有意に高い圧搾力を必要とした(p<0.05)。
【0027】
【
図8】
図8は、ニュージーランドホワイトウサギの眼において測定した場合の涙液層破壊時間(TBUT)の棒グラフであり、それぞれ、塩類溶液、SYSTANE
(登録商標)、GENTEAL
(登録商標)(カルボキシメチルセルロース、デキストラン、グリセリン、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール400(PEG 400)、ポリソルベート、ポリビニルアルコール、ポビドン、またはプロピレングリコールを含む潤滑点眼剤)、および12% F127 + 0.4% PEG400を含む各サンプルに関するTBUT(0~60秒)を示す。盲検化した(masked)観察者によって行われた2回の独立した測定で1群あたりn=4の異なる眼; 塩類溶液と比較して*p<0.05、全ての他の製剤と比較して、#p<0.05。
【0028】
【
図9】
図9A~9Hは、6ヶ月まで室温において保存剤なしのOcuGel(n=3)安定性のグラフである。(9A)pH、(9B)吸光度(AU)、(9C)粘性(mPa*s、剪断速度100 s
-1)、(9D)重量オスモル濃度(mOsm/kg)、(9E)BAK濃度(% w/v)、および(9F)ポロキサマー407分子量(Mw)、(9G)多分散性ならびに(9H)OcuGel製剤における% w/vの測定値。
【0029】
【
図10】
図10A~10Gは、3ヶ月までの室温におけるOcuGel(n=3)安定性のグラフである。(10A)pH、(10B)吸光度(AU)、(10C)粘性(mPa*s、剪断速度100 s
-1)、(10D)重量オスモル濃度(mOsm/kg)、および(10E)ポロキサマー407分子量(Mw)、(10F)多分散性および(10G)上記製剤における% w/vの測定値。
【0030】
【
図11】
図11は、種々の重量オスモル濃度(72~300mOsm/kg)において、0.2% HAの添加ありまたはなしのOcuGel(12% ポロキサマー407、0.4% PEG400、1mM ホウ酸緩衝液、0.01% BAK)をNZWウサギに投与し、処置なし、塩類溶液、およびSYSTANE(登録商標)HYDRATION PFと比較して、投与の90分後にフルオレセインベースの涙液層破壊時間(TBUT)として測定したグラフである。72mOsm/kgのOcuGelと比較して、*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
I. 定義
本明細書で一般的に使用される得場合、「薬学的に受容可能な」とは、確実な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症なしに、妥当な利益/リスク比で釣り合う、ヒトおよび動物の組織と接触した状態での使用に適した化合物、物質、組成物、および/または投与形態に言及する。
【0032】
「生体適合性の(biocompatible)」および「生物学的に適合性の(biologically compatible)」とは、本明細書で使用される場合、一般に、任意の代謝産物またはその分解生成物とともに、レシピエントに対して概して非毒性でありかつ上記レシピエントに対していかなる顕著な有害効果をも引き起こさない物質に言及する。概して、生体適合性の物質は、個体に投与された場合に、顕著な炎症、免疫または毒性の応答を誘発しない物質である。
【0033】
用語「ゲル」および「ヒドロゲル」とは、本明細書で使用される場合、水に不溶性である微細に分散したポリマー鎖の膨潤した、水含有ネットワークであって、ここで上記ポリマー分子が外部相または分散相中にあり、水(または水性溶液)が内部相または分散相を形成するものをいう。上記鎖は、化学的に架橋され得る(化学的ゲル)か、または物理的に架橋される(物理的ゲル)。化学的ゲルは、共有結合を介して接続されるポリマー鎖を有するのに対して、物理的ゲルは、非共有結合的結合または凝集力(例えば、ファン・デル・ワールス相互作用、イオン相互作用、水素結合、または疎水的相互作用)によって連結されたポリマー鎖を有する。
【0034】
上記ポリマー鎖は、代表的には、親水性であるか、または親水性ポリマーブロックを含む。「ゲル形成ポリマー」は、ホモポリマー、コポリマー、およびこれらの組み合わせを含み、臨界ゲル濃度(CGC)でまたはこれを上回って存在する場合に水性媒体中で物理的ヒドロゲルを形成し得る任意の生体適合性のポリマーを記載するために使用される。
【0035】
「臨界ゲル濃度(critical gel concentration)」または「CGC」とは、本明細書で使用される場合、ゲル形成のために必要なゲル形成ポリマーの最小濃度(例えば、この濃度で溶液からゲルへの(ゾル-ゲル)遷移が起こる)に言及する。上記臨界ゲル濃度は、多くの因子(特定のポリマー組成、分子量、温度、および/または他のポリマーもしくは賦形剤の存在が挙げられる)に依存し得る。
【0036】
用語「温度感受性ゲル形成ポリマー(thermosensitive gel-forming polymer)」とは、温度変化に伴って1またはこれより多くの特性変化を示すゲル形成ポリマーに言及する。例えば、いくつかの温度感受性ゲル形成ポリマーは、ある特定の温度を下回ると水溶性であるが、温度が増大するにつれて水に不溶性になる。用語「下限臨界溶液温度(lower critical solution temperature)(LCST)」とは、その温度を下回ると、ゲル形成ポリマーおよび溶媒が完全に混和性でありかつ単一相を形成する温度をいう。例えば、「ポリマー溶液のLCST」とは、上記ポリマーがその温度(すなわち、LCST)またはそれより低い温度において溶液中で均一に分散されるが、上記溶液温度がLCSTを超えて増大すると、凝集し、第2の相を形成することを意味する。
【0037】
「親水性の」とは、本明細書で使用される場合、有機溶媒と比較した場合、水に対してより大きな親和性を、従って水における大きな溶解度を有する分子に言及する。化合物の親水性は、水(または緩衝化水性溶液)と水と非混和性の有機溶媒(例えば、オクタノール、酢酸エチル、塩化メチレン、またはメチルtert-ブチルエーテル)との間のその分配係数を測定することによって定量され得る。平衡化後に、有機溶媒中より水中に上記化合物のより大きな濃度が存在すると、上記化合物は親水性とみなされる。
【0038】
「疎水性の」とは、本明細書で使用される場合、水と比較して、有機溶媒に対してより大きな親和性、従って有機溶媒における大きな溶解度を有する分子に言及する。化合物の疎水性は、水(または緩衝化水性溶液)と水と非混和性の有機溶媒(例えば、オクタノール、酢酸エチル、塩化メチレン、またはメチルtert-ブチルエーテル)との間のその分配係数を測定することによって定量され得る。平衡化後に、水中より有機溶媒中に上記化合物のより大きな濃度が存在すると、上記化合物は疎水性とみなされる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「ocugel」とは、72mOsmまたは150mOsmのいずれかの保存剤(例えば、0.01% 塩化ベンザルコニウム(「BAK」)ありまたはなしで製剤化された、12% F127、0.4% PEG400および1mM ホウ酸緩衝液に言及する。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「処置すること」とは、処置されている疾患、状態、または障害と関連する1もしくはこれより多くの症状または副作用を阻害する、緩和する、防止する、または排除することを含む。
【0041】
用語「低減する(reduce)」、「阻害する(inhibit)」、「緩和する(alleviate)」または「減少する(decrease)」は、コントロール(他の処置なし、または有効性の既知の程度での処置のいずれか)に対して使用される。当業者は、各実験のために使用するべき適切なコントロールを容易に特定する。例えば、化合物で処置された被験体または細胞における応答の減少は、上記化合物で処置されていない被験体または細胞における応答と比較される。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」または「治療上有効な量」とは、処置されている疾患状態の1もしくはこれより多くの症状を処置、阻害、もしくは緩和するか、または所望の薬理学的および/または生理学的効果を別の方法で提供するために十分な投与量を意味する。正確な投与量は、被験体に依存する変数(例えば、年齢、免疫系の健康状態など)、疾患または障害、および投与されている処置のような種々の要因に応じて変動する。有効量は、コントロールに対して相対的であり得る。このようなコントロールは、当該分野で公知であり、本明細書で考察され、例えば、薬物、もしくは薬物組み合わせの投与の前にまたはそれらの投与の非存在下での上記被験体の状態であり得るか、または薬物組み合わせの場合には、上記組み合わせの効果は、上記薬物のうちの一方のみの投与の効果と比較され得る。
【0043】
「賦形剤」とは、治療上または生物学的に活性な化合物ではない化合物を含むために、本明細書で使用される。よって、賦形剤は、薬学的にまたは生物学的に受容可能なまたは関連するべきであり、例えば、賦形剤は、上記被験体に対して概して非毒性であるべきである。「賦形剤」は、単一のこのような化合物を含み、複数の化合物を含むことも意図される。
【0044】
用語「容量オスモル濃度(osmolarity)」とは、本明細書で一般的に使用される場合、1リットルあたりの溶解した構成要素の総数に言及する。容量オスモル濃度は、モル濃度に類似しているが、溶液中に溶解した種の総モル数を含む。1 Osm/Lという容量オスモル濃度は、溶液1Lあたりに溶解した構成要素が1モル存在することを意味する。いくつかの溶質(例えば、溶液中で解離しているイオン性の溶質)は、その溶液中の溶質1モルあたり、1モルより多い溶解した構成要素に寄与する。例えば、NaClは、溶液中でNa+およびCl-へと解離するので、溶液中で溶解したNaClの1モルあたり、溶解した構成要素2モルを提供する。生理学的な容量オスモル濃度は、代表的には、約280~約310mOsm/Lの範囲にある。
【0045】
用語「張度(tonicity)」とは、本明細書で一般的に使用される場合、半透膜によって2種の溶液の分離から生じる浸透圧勾配に言及する。特に、張度は、細胞が外部溶液に曝される場合に、細胞膜にわたって作り出される浸透圧を記載するために使用される。細胞膜を横断し得る溶質は、最終的な浸透圧勾配に寄与しない。細胞膜を横断しない溶解した種のみが、浸透圧差、従って、張度に寄与する。用語「高張性(hypertonic)」とは、本明細書で一般的に使用される場合、上記細胞の内部に存在するより高濃度の溶質を有する溶液に言及する。細胞が高張性溶液へと浸漬される場合、溶質の濃度とバランスを取るために、水が細胞から外側に流れる傾向がある。用語「低張性」とは、本明細書で一般に使用される場合、上記細胞の内側に存在するより低濃度の溶質を有する溶液に言及する。細胞が低張性溶液へと浸漬される場合、溶質の濃度とバランスを取るために、水が細胞の中へと流れる。用語「等張性(isotonic)」とは、本明細書で一般に使用される場合、細胞膜にわたる浸透圧勾配が本質的にバランスをとられている溶液に言及する。等張性製剤は、ヒト血液と本質的に同じ浸透圧を有するものである。等張性製剤は、一般に、約250~350mOsmの浸透圧を有する。
【0046】
「ゲル形成濃度(gel-forming concentration)」とは、溶液からゲルへと相シフトを受けるポリマーの濃度に言及する。臨界ゲル化濃度(CGC)は、ゲル化に必要な最小のゲル化剤濃度に相当する。
【0047】
II. 増強された低張性ゲル形成組成物
好ましくはポロキサマーを含み、改善されたレオロジー特性を有するヒドロゲル形成ポリマーの低張性製剤は、上皮組織への治療剤、診断剤、予防剤、または他の薬剤の増強された送達のために開発された。上記製剤は、眼への治療剤、診断剤、予防剤、または他の薬剤の増強された送達に特に適している。他の適切な上皮組織としては、口腔表面、咽頭表面、食道表面、肺表面、眼球表面、耳表面、鼻表面、口内表面、舌表面、膣表面、子宮頚部表面、泌尿生殖器表面、消化管表面、肛門直腸表面、および/または皮膚表面が挙げられる。好ましい実施形態において、上記上皮組織または表面は、膣および直腸表面である。これらの組織の多くにおいて、上皮細胞は、粘膜コーティングの下にある。
【0048】
上記ポリマーは、それらの通常の臨界ゲル化濃度(CGC)より小さい濃度で投与される。そのCGCに等しいかまたはこれを上回る濃度で眼のような粘膜表面の表面上へと投与されるポロキサマーゲルは、表面上にボーラスへとアセンブルする。眼球表面上では、ゲルのボーラスは、まばたきによって急速に除去される。対照的に、低張性で投与されるポロキサマー溶液からの流体は、ポロキサマーがそのCGCを下回る濃度にある場合、眼の表面全体にわたって均一な薄いゲルコーティングを形成し、それによって、粘膜表面と密接に会合した状態の薬物レザバを維持し、眼への薬剤の送達を増強しかつ促進する。さらなる低分子量ポリオキシエチレンオキシドポリマー(例えば、PEG 300またはPEG400)の存在は、眼球表面への接着を低減し、眼の快適性および潤滑を改善し、まばたきするおよび涙を流すことによる破壊への増強された抵抗性を提供する。水が組織へと吸収されるにつれて、上記ポロキサマーは濃縮され、上皮組織表面近くでゲルを形成し、それによって、組織表面上の(例えば、ゲル化ポリマーがそれらのCGCにおいてまたは上回る濃度で投与されることによる旧来の熱ゲル化法に伴って起こる場合に、主に内腔で形成するゲルのボーラスではなく)薬物分子を徐放性ゲルの中に捕捉する。内因性のムチン糖ポリマーは、ゲル化するために必要とされるゲル化剤の濃度およびその得られるゲル/ムチン混合物の孔構造を含む、低張性ゲル化剤のゲル化特性に影響を及ぼす。粘膜適用後に、上記低張性ゲル化ビヒクルは、ひだまたは眼瞼の内側を含む上皮をコーティングする。
【0049】
例は、高分子量PEG(1000 Dもしくはこれより大きいか、または2000 Dもしくはこれより大きい)ではなく、低分子量ポリエチレングリコール(例えば、およそ0.1%~1.0% w/wのPEG300またはPEG400)のようなポリマーの添加が、眼の粘膜表面へのゲルの接着を低減することを明らかに示す。接着の低減は、低分子量PEGの非存在下での同等のゲルと比較して、粘性を維持しながら、眼へと投与される上記製剤の涙液層破壊時間(保持)を長期化する。従って、眼球投与のためのヒドロゲル形成ポリマーの低張性製剤への低分子量PEGの添加は、改善された可撓性および/または低減された粘着性を提供することによって、眼の表面での得られたヒドロゲルの滞留時間を増強する。
【0050】
低減された粘着性を有するが、貯蔵条件下でゲル化しない、均一なゲルコーティングを上皮表面上に形成し得るヒドロゲル形成ポリマーの改善された低張性製剤は、低張性キャリア中に1種もしくはこれより多くのゲル形成ポリマー、低分子量PEGを含み、必要に応じて、1種もしくはこれより多くのさらなる賦形剤および/または1種もしくはこれより多くの治療剤、予防剤、または診断剤を含む。
【0051】
代表的には、上記ヒドロゲルは、眼球表面全体を覆う薄いコーティングを形成する。上記コーティングのサイズおよび厚みは、適用される材料の量および眼球表面のサイズ/形状に依存する。いくつかの実施形態において、上記ヒドロゲルは、眼の表面において薄いゲルを形成し、それは、厚みが約0.01mm~約2mmの間(両端の値を含む)、または約0.5mm~1.5mmの間(両端の値を含む);例えば、厚みが約0.01mm、0.05mm、0.1mm、0.15mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.mm、0.9mm、1.0mm、1.5mm、もしくは2mm、または厚みが2mm超である。いくつかの実施形態において、上記ゲルは、均一な厚みを有する、眼球表面全体をコーティングするフィルムを形成する。他の実施形態において、上記ゲルは、眼球表面を、厚みが不均一な、例えば、凹形または凸形のコンホメーションを有するフィルムでコーティングする。いくつかの実施形態において、上記眼球表面でのゲルフィルムは、病原体が眼の表面に接触することを防止する。例えば、いくつかの実施形態において、上記ゲルフィルムは、細菌、ウイルス、真菌または原生動物病原体が眼に接触することを防止する。
【0052】
A.ヒドロゲル形成ポリマー
上記低張性ゲル形成組成物は、1種またはこれより多くのゲル形成ポリマーを含む。ゲル形成ポリマーは、上記ポリマーの通常の臨界ゲル濃度(CGC)(例えば、上記ポリマー溶液が37℃へと加温した場合に試験管中でゲル化する濃度)を下回る濃度において利用される。
【0053】
温度感受性または熱応答性ヒドロゲルは、以下の基準が満たされる場合にゾル-ゲル遷移を受ける溶液を形成する:
1)臨界ゲル化濃度(CGC)にあるか、またはこれを上回る、および
2)臨界ゲル化温度にあるか、またはこれを上回る。
【0054】
生物医学的適用のために使用される温度感受性ゲル化剤(それらのCGCにあるかまたはこれを上回る)は、室温において液体であるが、体温においてゲルを形成する。温度の増大は、ポリマー鎖の再配列およびアラインメントを誘導し、三次元構造へのゲル化をもたらす。この現象は、一般に、上記ポリマー鎖の親水性部分 対 疎水性部分の比によって支配される。一般的な特徴は、疎水性のメチル、エチル、またはプロピル基の存在である。
【0055】
これらの基準に合う温度感受性ポリマーは、そのCGCを下回る濃度の範囲の低張性溶液中で、粘膜組織および/または上皮組織へと局所投与されて、均一なゲルコーティングをインビトロで形成し得る。
【0056】
使用され得る温度感受性ゲル形成ポリマーの例としては、以下が挙げられる:ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレントリブロックコポリマー(例えば、CTFA名称 ポロキサマー407(CAS 9003-11-6、分子量9,840~14,600g/molによって示されるもの、ポリオキシエチレンの重量パーセンテージは、およそ70%; BASFからLUTROL(登録商標)F127)(F127)として入手可能)、およびポロキサマー188(CAS 9003-11-6、分子量7680~9510g/mol、ポリオキシエチレンの重量パーセンテージは、およそ80%; BASFからLUTROL(登録商標)F68)として入手可能)が挙げられるが、これらに限定されない); ポロキサマーは、商品名 プルロニック(登録商標)によっても公知である(例えば、プルロニック(登録商標)F98(CAS 9003-11-6、分子量13000g/mol、ポリオキシエチレンの重量パーセンテージは、およそ80%; BASFから入手可能); BASFからTETRONIC(登録商標)として入手可能なエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドに基づくTetronics四官能性ブロックコポリマー; ポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド); ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド); ポリ(N-ビニルカプロラクタム); ポリ(N-アルキルアクリルアミド); ポリ(N-ビニルアルキルアミド); ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド); ポリエチレンオキシドメタクリレートポリマー; ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)-ポリエチレングリコールトリブロックコポリマー(PLGA-PEG-PLGAおよびPEG-PLGA-PEG); ポリカプロラクトン(PCL)-ポリエチレングリコールトリブロックコポリマー(PCL-PEG-PCLおよびPEG-PCL-PEG); キトサン; ならびにこれらの組み合わせ。
【0057】
上記ヒドロゲルは、個々のゲル形成ポリマーから、またはゲル形成剤の組み合わせとして、形成され得る。例えば、ポロキサマーおよび別のゲル形成ポリマー(例えば、tetronicポリマー)は、所望の特徴を獲得するために組み合わせて使用され得る。さらに、同じゲル形成剤の種々の形態(例えば、ポロキサマー188およびポロキサマー407)は、所望の特徴を獲得するために組み合わされ得る。
【0058】
上記ポリマーは、37℃へと加熱された場合に、試験管中でゲルを形成する水性溶液中の濃度より低い濃度において提供される。上記濃度は、CGCがインビボで達成されるために十分な流体を吸収するために、平衡に対して十分高いが、CGCを下回らねばならない。よって、ゲル化は、粘膜上皮表面上/その近辺で、例えば、眼の表面で優先的に起こり得る。ゲル化が起こるためにかかる時間の範囲は、粘膜表面(水吸収の能力および速度)、投与される溶液の張度(より低張性の溶液は、より急速な流体吸収を駆動する)、および投与されるポリマーの濃度(ポリマー濃度が低すぎれば、ポリマーをそのCGCへと濃縮するために十分な流体吸収が起こらない)に依存する。ゲル化は、一般に、例えば、点眼剤として、眼の表面上への投与の際に、1~20秒(両端の値を含む)以内に起こる。例えば、いくつかの実施形態において、ゲル化は、眼の表面上への投与後に、1秒未満以内で、または1~2秒、2~3秒、3~4秒、4~5秒、5~6秒、6~7秒、7~8秒、8~9秒、9~10秒以内で、または5秒未満で、または10秒未満で起こる。
【0059】
ポリマーの濃度およびさらなる構成要素(例えば、内因性ムチン)の存在は、ゲル化の適用範囲(coverage)および速度および程度に影響を及ぼす。先の研究は、精製ブタ胃ムチン(1%)またはヒト子宮頸管粘液と混合した18% プルロニック(登録商標)F127ゲル(1:1比)が、ウイルスサイズ(約100nm)のナノ粒子(ポリエチレングリコールでコーティングしたポリスチレンナノ粒子、PSPEG)を、18% F127ゲル単独と同程度効果的には捕捉しないことを示した。対照的に、24% F98ゲルは、ムチンまたはヒト子宮頸管粘液と混合した場合に、PSPEG粒子をより効果的に捕捉した。しかし、低張性ゲル化剤でのインビボウイルス捕捉は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV、約120nm)および単純ヘルペスウイルス(HSV、約180nm)を含むウイルスの捕捉時に、より効果的であった。18% プルロニック(登録商標)F98を含み、24%のCGCを有する低張性溶液の投与は、腟において引き続いて投与したHIVの効果的な捕捉を生じる。同様に、10%および15% F127を含み、18%のCGCを有する低張性溶液はまた、捕捉を含め、HIVのMSDを減少するにあたって効果的であった。さらに、15% プルロニック(登録商標)F127および18% プルロニック(登録商標)F98はともに、マウス腟粘液において、引き続いて投与したHSVの拡散を低減した。1秒のタイムスケールにおいて個々のウイルスMSDの分布は、ウイルスの捕捉(左側へのシフト)が、15% プルロニック(登録商標)F127と比較して、低張性 18% プルロニック(登録商標)F98ビヒクルによって形成されるゲルにおいてより均一であることを例証した。結腸直腸における低張性ゲル化剤によるウイルス捕捉のさらなる試験では、12% プルロニック(登録商標)F98(CGC 24%)がゲル化ビヒクルの30分後に投与したPSPEGナノ粒子を効果的に捕捉しないが、18% プルロニック(登録商標)F98がマウス結腸直腸においてPSPEGナノ粒子の捕捉に効果的であることが見出された。重要なことには、これらの例は、低張性ゲル化剤が異なる粘膜表面に投与される場合に形成するゲルの差異を例証し、この場合には、ゲル化する前に、結腸直腸粘液と比較して、膣粘液と混合する。
【0060】
従って、いくつかの実施形態において、上記ゲル形成ポリマーは、1%~50%の間、例えば、5%~20%の間(両端の値を含む)、例えば、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%または20%の量において上記製剤内に存在する。代表的には、眼球表面への投与のための製剤は、等張性条件および室温~体温の間の温度(約25℃~約37℃(両端の値を含む))下でのポリマーの臨界ゲル濃度(CGC)を下回る濃度であるヒドロゲル形成ポリマーの量を含む。
【0061】
好ましいヒドロゲル形成ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)(プルロニック(登録商標)F127;「F127」)である。いくつかの実施形態において、眼への投与のための製剤は、CGCを下回る濃度の、例えば、5%~18%の間(両端の値を含む)、例えば、約8%~約15%の間、約10%~約14%の間、または約11%~約13%の間(両端の値を含む)のプルロニック(登録商標)F127を含む。特定の実施形態において、上記プルロニック(登録商標)F127は、およそ12%の量で存在する。
【0062】
B. 低張性キャリア
上記ゲル形成組成物は、低張性キャリアを含む。上記低張性キャリアは、代表的には、好ましくは、ヒト被験体の眼へと投与された場合に刺激の徴候をほとんどまたは全く引き起こさない生体適合性のキャリアである。上記キャリアは、合成および半合成のキャリアを含む、天然に存在し得るまたは天然に存在し得ないものである。好ましいキャリアは、水ベースである。他の溶液(糖ベースの(例えば、グルコース、マンニトール)溶液および種々の緩衝液(リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES)が挙げられる)がまた、使用され得る。
【0063】
低張性溶液が上皮表面(例えば、眼の表面)に適用される場合、体液シフトが起こり、水が上皮組織へと動く。これは、上皮細胞の膨潤を引き起こし得る。いくらかの場合には、浸透圧差が大きすぎる場合、上皮細胞は破裂し、組織刺激または上皮膜の破壊を引き起こし得る。
【0064】
低張性溶液とは、これが投与される上皮表面による水吸収を引き起こす溶液に言及する。低張性溶液の例としては、Tris[ヒドロキシメチル]-アミノメタンヒドロクロリド(Tris HCl、10~100mM、pH6~8)、(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES、10~100mM、pH6~8)およびPBSの希釈溶液(例えば、1000ml H2O中、0.2g KCl、0.2g KH2PO4、8g NaCl、および2.16g Na2HPO4・7H2Oを含む溶液)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
低張性キャリアは、溶解したゲル形成ポリマーを上皮表面に集中させ、上記表面上での均一なゲル形成を生じる。上記低張性キャリアは通常、主要な構成要素として水を含む。上記低張性キャリアは、水であり得るが、水および水と混和性の有機溶媒の混合物がまた、使用され得る。適切な水と混和性の有機溶媒としては、アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノール);ケトン(例えば、アセトン);エーテル(例えば、ジオキサン);およびエステル(例えば、酢酸エチル)が挙げられる。
【0066】
従って、いくつかの実施形態において、上記低張性キャリアは、1またはこれより多くの容量オスモル濃度改変賦形剤を含む蒸留水である。塩化ナトリウムは、溶液が低張性である場合に、容量オスモル濃度を調節するために最も頻繁に使用される賦形剤である。低張性溶液を調節するために使用される他の賦形剤としては、グルコース、マンニトール、グリセロール、プロピレングリコールおよび硫酸ナトリウムが挙げられる。容量オスモル濃度改変賦形剤としては、薬学的に受容可能な塩(例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、および緩衝液を作製するための他の塩(例えば、りん酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、塩化カルシウム、および硫酸マグネシウム)が挙げられ得る。張度を調節するために使用される他の賦形剤としては、グルコース、マンニトール、グリセロール、またはプロピレングリコールが挙げられ得る。
【0067】
いくつかの実施形態において、上記低張性キャリアは、その粘膜表面において有効な等張性の点(流体がその下にある組織によって吸収も分泌もされない濃度)より低い容量オスモル濃度を有する。上記等張性の点は、その上皮表面での能動的なイオン輸送に依存して、異なる粘膜表面および異なる緩衝液に関して変動する。例えば、NaClの0.9%溶液(生理食塩水)は、血液および涙液と等浸透圧である。ヒト涙液は、280~320mOsm/Lの範囲の重量オスモル濃度を有する一方で、角膜前涙膜の水性層の容量オスモル濃度は、およそ300mOsm/Lである。従って、いくつかの実施形態において、上記溶液は、280mOsm/Lもしくはこれより小さい、例えば、50mOsm/L~280mOsm/L、100mOsm/L~280mOsm/L、150mOsm/L~250mOsm/L、200mOsm/L~250mOsm/L、220mOsm/L~250mOsm/L、220mOsm/L~260mOsm/L、220mOsm/L~270mOsm/L、または220mOsm/L~280mOsm/Lの張度を有する。
【0068】
ナトリウムベースの溶液に関する腟における等張性の点は、約300mOsm/Lであるが、結腸直腸では、それは、約450mOsm/Lである。いくつかの実施形態において、上記溶液は、結腸直腸の粘膜表面において低張性であり、400mOsm/Lもしくはこれより小さい、例えば、50mOsm/L~400mOsm/L;350mOsm/Lもしくはこれより小さい、例えば、50mOsm/L~350mOsm/L;または300mOsm/Lもしくはこれより小さい、例えば、50mOsm/L~280mOsm/Lの張度を有する。いくつかの実施形態において、上記溶液は、腟の粘膜表面において低張性であり、300mOsm/Lもしくはこれより小さい、例えば、50mOsm/L~280mOsm/Lの張度を有する。
【0069】
上記低張性キャリアとしては、1もしくはこれより多くの薬学的に受容可能な酸、1もしくはこれより多くの薬学的に受容可能な塩基、またはこれらの塩が挙げられ得る。薬学的に受容可能な酸としては、臭化水素酸、塩酸、および硫酸、ならびに有機酸(例えば、メタンスルホン酸、酒石酸、およびリンゴ酸)が挙げられる。薬学的に受容可能な塩基としては、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)およびアルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)の水酸化物、ならびに有機塩基(例えば、薬学的に受容可能なアミン)が挙げられる。上記低張性キャリアは、薬学的に受容可能な緩衝液(例えば、クエン酸緩衝液またはリン酸緩衝液)を含み得る。
【0070】
C. ポリオキシアルキレングリコール(PEOまたはPEG)
改善された低張性ゲル形成組成物は、ずり減粘ポリマーとして1またはこれより多くのさらなるPEGを含む。好ましい実施形態において、上記1またはこれより多くのさらなるPEGは、低分子量PEGである。
【0071】
剪断なしの下で増大した粘性は、眼の粘膜表面上で増大した滞留時間をもたらす一方で、まばたきする際のずり減粘は、快適性および潤滑を最大化する。従って、これらの特性を有するゲル化物質は、まばたきの際の除去に耐えると同時に、眼の表面上で有利な潤滑特性を有する。いくつかの例では、1またはこれより多くの低免疫原性および生体適合性のポリマーが、剪断なしおよび/またはまばたきする際のずり減粘の下で、粘性を増大させるためのゲル化ビヒクルへと組み込まれる。いくつかの例では、従来からずり減粘特性を明らかに示す濃度範囲におけるずり減粘ポリマーはまた、上記組成物に含まれる。上記ずり減粘ポリマーは、代表的には、少量(0.01%~2%(両端の値を含む))の水溶性の低免疫原性かつ生体適合性のポリマーを含む。好ましいずり減粘ポリマーは、低分子量ポリエチレングリコール(PEG)である。例示的なPEGは、約100 Da~約10,000 Da(両端の値を含む)の分子量を有する(例えば、PEG 200、PEG 300、PEG 400、PEG 600、PEG 800、PEG 900、およびPEG 1,000)。好ましい実施形態において、PEGは、約100 Da~約5,000 Da(両端の値を含む)の分子量;約100 Da~約2,000 Da(両端の値を含む);約100 Da~約1,000 Da(両端の値を含む);約100 Da~約800 Da(両端の値を含む);および約200 Da~約500 Da(両端の値を含む)を有する。いくつかの実施形態において、1またはこれより多くのPEGは、合計の0.1%~1%、重量:容積(w:v)の間(両端の値を含む)の量、例えば、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%および1.0%において改善された低張性ゲル形成組成物内に存在する。好ましい実施形態において、低分子量PEGは、合計の0.4% 重量:容積(w:v)の量で存在する。
【0072】
いくつかの実施形態において、上記製剤は、眼の上へボトルまたは他のディスペンサーから直接的に排出される点眼剤としての使用のためのものである。代表的には、点眼剤としての使用のための製剤は、例えば、滴の排出のために必要とされる圧搾力を増大させないタイプのおよび量の潤滑剤を含み、その結果、上記点眼剤は、溶液のボトルから直接的に眼へと投与するための滴として、例えば、滴の形態において、塩類溶液または別の等張性溶液の類似のサイズの滴を同じボトルから排出するために必要とされるものに類似の圧搾力を使用して排出され得る。例えば、いくつかの実施形態において、滴の排出のために必要とされる圧搾力は、10ニュートン(N)~20Nの間、例えば、約11N、12N、13N、14N、15N、16N、17N、18N、19N、または約20Nである。好ましい実施形態において、上記低張性ゲル形成製剤の滴を上記ボトルから排出するために必要とされる圧搾力は、およそ15N~17Nの間(両端の値を含む)である。
【0073】
製剤への低分子量PEGの添加はまた、眼球表面への上記製剤の投与の際に涙液層破壊時間(TBUT)を増大させる。一般に、>10秒は、ヒト被験体における正常なTBUT(例えば、10秒、11秒、12秒)であると考えられ、5~10秒が最低限度(marginal)であり、<5秒は、TBUTにとって短時間と考えられる。短い涙液層破壊時間は、不十分な涙膜の徴候であり、かかる時間が長いほど、涙膜はより安定である。従って、いくつかの実施形態において、製剤へのPEGの添加は、PEGなしの市販の製剤を投与することと関連するTBUTと比較して、1秒(S)~10Sの間(両端の値を含む)、涙液層破壊時間(TBUT)を増大させる。例えば、いくつかの実施形態において、インビボでの投与後のTBUTは、正常時間、または正常時間より約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%大きい。正常TBUTは、ヒトでは、一般に>10秒である。好ましい実施形態において、上記TBUTは、インビボで眼への上記製剤の投与後に15~60秒の間、20~50秒の間、25~45秒の間、30~40秒の間(両端の値を含む)であるように延ばされる。
【0074】
D. さらなる薬剤
代表的には、上記低張性ゲル形成組成物は、眼に送達されるべき1またはこれより多くの薬剤を含む。例としては、治療剤、予防剤、および/または診断剤が挙げられる。生物学的に活性な薬剤は、処置(例えば、治療剤)、防止(例えば、予防剤)、診断(例えば、診断剤)のために、または疾患もしくは病気の治癒もしくは軽減をもたらすか、身体の構造もしくは機能を変化させるために使用される物質、またはプロドラッグ(これは、所定の生理学的環境に配置された後に生物学的に活性またはより活性になる)である。これらは、低分子薬物((例えば、2000、1500、1000、750、または500原子質量単位(amu)未満の分子量)、ペプチドもしくはタンパク質、糖もしくはポリサッカリド、ヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド(例えば、アプタマー、siRNA、およびmiRNA)、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、またはこれらの組み合わせであり得る。
【0075】
上記薬剤は、Martindale: The Complete Drug Reference, 第37版(Pharmaceutical Press, London, 2011)に記載されるもののうちの1またはこれより多くのものを含み得る。
【0076】
1つの実施形態において、送達されるべき薬剤は、水の中では不十分にしか溶解性でないが、ゲル化ポリマーを含むキャリア中で溶解性である。他の実施形態において、上記薬剤は、水溶性である。データはまた、水溶性薬物、例えば、ブリモニジン酒石酸塩(これは、およそ2~3mg/mLまで溶解性である)で利益が得られることを示す。
【0077】
上記低張性ゲル形成製剤は、処置されている疾患状態の1またはこれより多くの症状を処置する、阻害する、または緩和するために、治療上有効な量の治療剤を含み得る。上記低張性ゲル形成組成物は、疾患または障害の1またはこれより多くの症状を防止するために、有効量の予防剤を含み得る。
【0078】
1. 治療剤
いくつかの実施形態において、上記製剤は、1またはこれより多くの治療剤を含む。送達されるべき治療剤としては、抗感染剤(抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤)、眼の障害(緑内障、ドライアイ)の処置のための薬剤、抗炎症剤、新生血管形成および/または線維症のインヒビター、神経活性剤(neuroactive agent)、または疾患(例えば、異常な新生血管形成もしくはがん)の処置のための化学療法剤が挙げられ得る。例示的な薬剤としては、ブリンゾラミド、シクロスポリンA、ブリモニジン酒石酸塩、モキシフロキサシン、ブデソニド、スニチニブ、およびアクリフラビンが挙げられる。
【0079】
いくつかの実施形態において、上記製剤は、1またはこれより多くのタンパク質治療剤を含む。好ましい実施形態において、上記製剤は、1またはこれより多くの短い治療用ペプチドを含む。有用なタンパク質の例としては、ホルモン(例えば、インスリン、成長ホルモン(ソマトメジンを含む)、および生殖ホルモンが挙げられる。他の有用な薬物の例としては、神経伝達物質(例えば、L-DOPA)、降圧剤または塩排泄利尿薬、例えば、Searle Pharmaceuticalsのメトラゾン、炭酸脱水酵素インヒビター、例えば、Lederle Pharmaceuticalsのアセタゾラミド、グリブリドのようなインスリン様薬物、スルホニルウレアクラスの血中グルコース低下薬物、合成ホルモン(例えば、Brown PharmaceuticalsのAndroid FおよびICN PharmaceuticalsのTESTRED(登録商標)(メチルテストステロン))が挙げられる。代表的な抗増殖薬剤としては、血管新生インヒビター、抗VEGF化合物;スニチニブ(スーテント(登録商標))のようなレセプターチロシンキナーゼ(RTK)インヒビター;ソラフェニブ(ネクサバール(登録商標))、エルロチニブ(タルセバ(登録商標))、パゾパニブ、アキシチニブ、およびラパチニブのようなチロシンキナーゼインヒビター;トランスフォーミング増殖因子-αまたはトランスフォーミング増殖因子-βインヒビターが挙げられる。1つの実施形態において、上記活性薬剤は、スニチニブである。
【0080】
いくつかの実施形態において、上記薬剤は、網膜疾患(例えば、変性性網膜疾患)の処置または防止のための薬剤である。例示的な薬物タイプとしては、酸化的損傷およびニトロソ化損傷を除去および防止する抗酸化剤分子、抗感染剤、コルチコステロイド、鎮痛薬、栄養補助剤が挙げられる。好ましい実施形態において、上記薬剤は、黄斑変性を処置するための低分子薬物である。例示的な薬物としては、キサントフィル(ルテイン)、ベルテポルフィン(ビスダイン)、ナタマイシン(ナタシン)、スルファセトアミド眼用(sulfacetamide ophthalmic)(Bleph-10)、ペガプタニブ(マクジェン)、セファロスポリン(セフトリアキソン)、およびコルチコトロピンが挙げられる。
【0081】
2. 診断剤
いくつかの実施形態において、上記製剤は、診断剤を含む。これらの薬剤はまた、予防的に使用され得る。診断剤の例としては、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、および放射性核種、x線画像化剤、および造影剤が挙げられる。他の適切な造影剤の例としては、放射線不透過性のガスまたはガス放出化合物が挙げられる。
【0082】
例示的な診断剤としては、蛍光色素および近赤外色素のような色素、SPECT画像化剤、PET画像化剤および放射性同位体が挙げられる。
【0083】
III. 改善された低張性ゲル形成組成物の方法および調製
低分子量PEGを含む低張性ゲル形成組成物は、粘膜表面および/または上皮表面上への投与のための液体として調製され得る。上記製剤は、眼への治療剤、診断剤、予防剤、または他の薬剤の増強された送達に特に適している。
【0084】
薬物可溶化は、貯蔵の際の増強された物理的安定性、身体への増大した薬物透過、および患者に投与される場合のより再現性の高い薬物用量を含む潜在的利点を提供する。
【0085】
上皮組織または上皮表面
【0086】
水に不溶性の薬物は、吸収の欠如に起因して、粘膜表面(例えば、眼の表面など)への送達が特に困難である。上記製剤は、水への溶解性が不十分な治療剤を送達するために特に適している。水溶性の薬物はまた、持続した様式で粘膜表面に送達するのが困難である。従って、ゲル化物質はまた、例えば、副作用を低減しかつより長期間の有効性を提供することができるより持続した薬物吸収を提供することによって、水溶性薬物の粘膜送達を改善するためのビヒクルとして使用され得る。
【0087】
さらに、粘膜表面は、感染および外来粒状物からの正常な防御機序として迅速に取り除かれ、再生される。薬物可溶化を改善すると、粘膜透過が改善され得、疎水性薬物の分布、透過、および保持の改善は、治療効果を改善するための有望なストラテジーである。温度感受性ゲル化特性をも有する物質へと水溶解度の低い種々の薬物および薬物複合体を可溶化する方法は、米国公開番号2021/0196837、および同2021/0177751に記載される。
【0088】
いくつかの実施形態において、上記製剤は、眼の表面上への投与のための液体として調製され得る。ゲル形成液体またはポリマーは、ミセルを形成することによって不溶性薬物を可溶化する。粉末は、凍結乾燥することによって作製され得、使用時に再構成され得る。
【0089】
上記製剤はまた、薬学的に受容可能な希釈剤、保存剤、可溶化剤、安定化剤、乳化剤、佐剤および/またはキャリアを含み得る。安定化剤(例えば、SPAN(登録商標)20(ソルビタンラウレート、CAS番号1338-39-2)は、溶解を促進し得、再凝集を防止し得る。他の例示的な安定化剤としては、ポリソルベートまたはTWEENS(登録商標)、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65およびポリソルベート80、およびポリグリセロールエステル(PGE)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシルステアレート(poloxyl stearate)、脂肪酸(例えば、オレイン酸)およびプロピレングリコールモノステアレート(PGMS)が挙げられる。いくつかの場合には、上記組成物は、1またはこれより多くの安定化剤を含む。
【0090】
投与製剤は、代表的には、適切なアプリケーター(例えば、点眼剤分与器)中に単一もしくは複数の液体または乾燥した投与単位として調製される。当業者は、薬物貯蔵および適用のための多くの選択肢(例えば、貯蔵中に種々の構成要素を分離して保持するために使用され得るデュアルチャンバーデバイス)を知っている。複数の投与単位は、代表的には、粉末を装填したバレル、およびその上に投与量増分を有するプランジャーを含む。これらは、代表的には、貯蔵および流通のために密封され、滅菌されたパッケージングの中で滅菌およびパッケージされる。Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 第22版もまた参照のこと。
【0091】
投与単位の投与器(dosage unit administrator)は、薬物が送達されるべき解剖学的位置(例えば、1またはこれより多くの点眼剤による眼球内投与)に適合するように設計される。例示的実施形態において、上記製剤は、約10μl~約200μlの間(両端の値を含む)の各滴(例えば、50μl/滴)を押し出すための、約0.01ml~約2.5mlの間(両端の値を含む)の全容積を有する液剤である。
【0092】
IV. 改善された低張性ゲル形成組成物を使用する方法
上記低張性ゲル形成組成物は、原則として、ゲルを形成するために、任意の水吸収性表面(眼球表面を含む)、および他の粘膜組織に適用され得る。好ましくは、上記製剤は、治療的、予防的、診断的、または栄養的な効果の必要性のある被験体の上皮表面(例えば、眼球表面)上の粘膜コーティングに、液体として適用される。上記ゲル形成組成物は、上記低張性溶液、または上記低張性溶液を形成する試薬が上記表面と接触する限り、当業者に公知の任意の多くの方法において上皮表面(例えば、眼球表面)に適用され得る。適切な上皮表面としては、眼球表面、口腔表面、咽頭表面、食道表面、肺表面、耳の表面、鼻表面、口内表面、舌表面、膣表面、子宮頚部表面、泌尿生殖器表面、消化管表面、肛門直腸表面、および/または皮膚表面が挙げられる。
【0093】
上記ゲル形成組成物を低張性製剤として適用することによって、水が上記上皮組織へと吸収される。水吸収は、上記表面での上記ゲル形成ポリマーの濃縮を提供し、眼の表面での均一なゲル形成を生じる。上記ゲルは、バリア、レザバ、またはこれらの組み合わせとして作用し得る。上記ゲル形成組成物中の薬剤または賦形剤は、上記ゲル中に捕捉され得、上記ゲルの下の眼の表面においてまたはその中に放出され得る。
【0094】
上記組成物が適用され得る例示的な上皮表面としては、眼球表面、ならびに口腔表面、咽頭表面、食道表面、肺表面、耳の表面、鼻表面、口内表面、舌表面、膣表面、子宮頚部表面、泌尿生殖器表面、消化管表面、肛門直腸表面、および/または皮膚表面が挙げられる。
【0095】
いくつかの例では上記低張性ゲル形成組成物は、適用部位においてまたはその付近で、長期間にわたって、例えば、20秒より長く、30秒より長く、40秒、50秒、60秒、70秒、80秒、90秒、100秒、または100秒より長く、例えば、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、または10分、1時間までまたは1時間より長く、例えば、2時間、2時間より長く、1日より長く、2日より長く、3日より長く、4日より長く、5日より長く、6日より長く、または1週間より長く、有効濃度の1またはこれより多くの活性薬剤を保持する。いくつかの実施形態において、1またはこれより多くの活性薬剤の長期化した眼球内の滞留時間は、適用部位においてまたはその付近で、眼において多くの細胞タイプのうちの1つの周りまたはその内部のものである。1つの実施形態において、1またはこれより多くの活性薬剤の長期化した眼球内の滞留時間は、約1週間である。
【0096】
いくつかの場合において、上記低張性ゲル形成組成物は、ゲル形成ビヒクルなしに(例えば、塩類溶液中で)送達される活性薬剤と比較して、1もしくはこれより多くの活性薬剤の濃度を、適用部位においてまたはその付近で、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、50倍、100倍、または100倍を超えて増大させる。
【0097】
A. 投与方法
上記低張性ゲル形成組成物が眼に適用される場合、活性薬剤の増大した濃度を有する粘膜部位としては、角膜、房水、強膜、結膜、虹彩、水晶体、網膜、および網膜色素上皮のうちの1またはこれより多くのものが挙げられる。
【0098】
上記方法は、1もしくはこれより多くの疾患もしくは障害を処置もしくは防止する、または必要性のある被験体において1もしくはこれより多くの疾患もしくは障害の1もしくはこれより多くの症状を処置もしくは防止するために、使用され得る。いくつかの実施形態において、上記方法は、被験体において所望の生理学的目標または変化を達成するために、有効量の薬剤を送達する。例示的な生理学的変化としては、被験体において、例えば、被験体の眼において1またはこれより多くの生体マーカーの量の変動が挙げられる。上記変化および/または処置の所望の転帰は、処置の有効性を評価する、ならびに任意の所定の点で必要とされる処置の量および程度を決定するためにモニターされ得る。
【0099】
いくつかの実施形態において、上記改善された低張性ゲル形成組成物は、ゲル形成ビヒクルなしで(例えば、塩類溶液中で)送達される活性薬剤と比較して、活性薬剤(例えば、アクリフラビンおよびスニチニブリンゴ酸塩)を網膜のおよび/または脈絡膜の新生血管形成を、10%、20%、30%、40%、50%、または50%を超えて低減するために有効な量において網膜および/または脈絡膜に送達する。
【0100】
他の例では、上記低張性ゲル形成組成物は、ゲル形成ビヒクルなしで(例えば、塩類溶液中で)送達される活性薬剤と比較して、2倍、3倍、4倍、5倍、または5倍を超えて、視神経傷害後の網膜神経節細胞の生存を増大させるために、ならびに/または視神経障害後の網膜神経節細胞においてγ-シヌクレインおよび/もしくはβIIIチューブリンの発現を増大させるために有効な量において活性な神経保護薬剤(例えば、スニチニブリンゴ酸塩)を網膜に送達する。
【0101】
さらなる例では、上記低張性ゲル形成組成物は、ゲル形成ビヒクルなしで(例えば、塩類溶液中で)送達されるものと比較して、2時間未満、4時間未満、6時間未満、8時間未満、10時間未満、12時間未満、または24時間未満以内で、眼内圧(IOP)を10%、20%、30%、40%、50%、または50%を超えて低下させるために有効な量において活性薬剤(例えば、ブリンゾラミド)を眼に送達する。
【0102】
他の例では、上記低張性ゲル形成組成物は、ゲル形成ビヒクルなしで(例えば、塩類溶液中で)送達されるものと比較して、2時間未満、4時間未満、6時間未満、8時間未満、10時間未満、12時間未満、または24時間未満以内で、涙液生成を10%、20%、30%、40%、50%、または50%を超えて増大させるために有効な量において活性薬剤(例えば、シクロスポリンA)を眼に送達する。
【0103】
いくつかの実施形態において、治療剤、予防剤、栄養補助剤または診断剤を含む低張性ゲル形成組成物の製剤は点眼剤として、被験体の眼へと投与される。いくつかの実施形態において、眼への投与は、例えば、眼における薬剤の十分な濃度を提供するために、処置レジメンの一部として1回またはこれより多く反復される。従って、いくつかの実施形態において、眼への投与は、毎時間、毎日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごと、毎週、2週間ごと、またはそれより少ない頻度から選択される時間において反復される。
【0104】
B. 処置されるべき疾患
いくつかの実施形態において、上記低張性ゲル形成組成物は、1もしくはこれより多くの疾患もしくは障害の処置または防止のために、上皮を横断する1もしくはこれより多くの活性薬剤の送達のために、1もしくはこれより多くの粘膜上皮表面に投与される。代表的には、1もしくはこれより多くの活性薬剤を含む上記低張性ゲル形成組成物は、上記疾患または障害の処置のために、眼への1もしくはこれより多くの活性薬剤の送達のために、眼の表面にわたってヒドロゲルフィルムを形成するために、疾患または障害を有する被験体の眼の表面に投与される。
【0105】
いくつかの実施形態において、上記方法は、緑内障、ドライアイ症候群(DES)、黄斑変性、糖尿病網膜症、強皮症、およびがんを含む疾患または障害を処置または防止する。好ましい方法は、被験体の眼において黄斑変性を処置または防止する。
【0106】
1. 黄斑変性
いくつかの実施形態において、上記低張性ゲル形成組成物は、被験体の眼において黄斑変性の処置のために被験体の眼の表面に投与される。
【0107】
加齢黄斑変性(AMD)は、視野の中央部に影響を及ぼす一般的な状態である。それは通常、先ず、50代および60代、またはより高齢で人々に影響を及ぼす。黄斑変性には2つの基本的なタイプ:「ドライ型」および「ウェット型」が存在する。黄斑変性の症例のうちのおよそ85%~90%が「ドライ型」(萎縮型)である一方で、10~15%が「ウェット型」(滲出型)である。
【0108】
いくつかの実施形態において、上記低張性ゲル形成組成物は、被験体の眼においてドライ型黄斑変性の処置のために、被験体の眼の表面に投与される。ドライ型黄斑変性は、50歳を超える人々の間で一般的な眼の障害である。それは、黄斑の菲薄化に起因して、中心部分の視力のかすみまたは低減を引き起こす。黄斑は、網膜の一部であり、直接的な視線における鮮明な視界を担っている。
【0109】
早期のドライ型AMDの処置は、一般には、黄斑の細胞を支持するために抗酸化剤の多い健康的な食事での栄養治療である。AMDがさらに進行するが、なおもドライ型である場合、健康的な色素を増大させ得、細胞構造を支持し得るある特定のビタミンおよびミネラルをより多量に添加するために、サプリメントが処方される。従って、いくつかの実施形態において、1またはこれより多くの栄養補助剤を含む上記低張性ゲル形成組成物が、被験体の眼においてドライ型黄斑変性の処置のために、被験体の眼の表面に投与される。
【0110】
他の実施形態において、上記低張性ゲル形成組成物は、被験体の眼においてウェット型黄斑変性の処置のために、被験体の眼の表面に投与される。黄斑変性の「ウェット型」において、異常な血管(脈絡膜の新生血管形成またはCNVとして公知)が、網膜および黄斑の下で増殖する。次いで、これらの新たな血管は、出血して流体を漏出し得、黄斑を膨らませるか、またはその正常では平坦な位置から持ち上がらせるので、中心視野をゆがませるかまたは破壊する。これらの状況下では、視力喪失が急激かつ重篤であり得る。VEGFは、頭字語である。現在、ウェット型加齢黄斑変性の最も一般的かつ効果的な臨床的処置は、VEGFのインヒビター(抗VEGF)を使用する抗血管内皮増殖因子(抗VEGF治療)である。VEGFは、新しい血管の増殖を支持する分子である。ウェット型AMDの症例では、VEGFは、網膜の裏側にある脈絡膜層において新たな弱い血管の増殖を促進し、それらの血管は、血液、脂質、および血清を網膜層へと漏出させる。その漏出(出血)は、網膜において瘢痕化を引き起こし、光受容体である桿体および錐体を含む黄斑細胞を殺滅させる。従って、いくつかの実施形態において、1またはこれより多くの抗VEGF薬剤を含む上記低張性ゲル形成組成物が、被験体の眼においてウェット型黄斑変性の処置のために被験体の眼の表面に投与される。
【0111】
他の実施形態において、上記低張性ゲル形成組成物は、スターガルト病の処置のために被験体の眼の表面に投与される。スターガルト病は、劣性遺伝子によって引き起こされる、若年者において見出される黄斑変性の一形態である。
【0112】
2. ドライアイ症候群(DES)
いくつかの実施形態において、上記低張性ゲル形成組成物は、被験体の眼においてドライアイ症候群(DES)の処置のために被験体の眼の表面に投与される。
【0113】
ドライアイ症候群(DES)(乾性角結膜炎(KCS)、またはドライアイ疾患としても公知)は、眼が十分な涙液を作らないか、または涙液があまりにも早く蒸発する場合に起こる一般的な状態である。他の関連する症状としては、刺激、充血、目やに、および疲れ目(easily fatigued eye)が挙げられる。かすみ目も起こり得る。症状は、軽度かつ時々起こるものから重篤かつ継続的なものまでの範囲に及ぶ。角膜の瘢痕化は、処置されない場合に起こり得る。角膜は、光を取り込み、水晶体を経て網膜上へと焦点を結ぶ、眼の透明な外側のドームを含む。角膜は、無血管組織であり、その栄養素の大部分を涙液、空気、および眼の内側の流体から受け取る。
【0114】
ドライアイは、眼が十分な涙液を生成しない場合、または涙液があまりにも早く蒸発する場合のいずれかで起こる。これは、コンタクトレンズの使用、マイボーム腺の機能不全、妊娠、シェーグレン症候群、ビタミンA欠乏症、ω-3脂肪酸欠乏症、レーシック手術、およびある特定の薬物療法(例えば、抗ヒスタミン剤)、ある種の血圧の薬物療法、ホルモン補充療法、および抗うつ剤から生じ得る。慢性結膜炎(例えば、煙草の煙への曝露または感染症に由来する)がまた、上記状態をもたらし得る。診断は、大部分は上記症状に基づくが、多くの他の試験が使用され得る。
【0115】
処置選択肢としては、眼瞼の炎症を低減する薬物(例えば、抗生物質)、角膜炎症を制御する薬物(例えば、免疫抑制薬シクロスポリン(レスタシス)またはコルチコステロイド)、または涙液刺激薬物(tear-stimulating drug)(例えば、コリン作動薬(ピロカルピン、セビメリン))が挙げられる。従って、いくつかの実施形態において、1もしくはこれより多くの抗生物質、抗炎症剤またはコリン作動性薬剤を含む上記低張性ゲル形成組成物は、被験体の眼においてDESの処置のために被験体の眼の表面に投与される。
【0116】
本発明は、以下の非限定的な例を参照することによってさらに理解される。
【実施例】
【0117】
実施例1: ゲル形成点眼製剤にPEGを添加すると、涙液層破壊時間が増大する
方法および材料
材料
エンドトキシン非含有超純水、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)(F127)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC) 米国薬局方(USP)参照標準、フルオレセインナトリウム、ポリエチレングリコール400(PEG400) USP参照標準、ポリエチレングリコール300(PEG300) USP参照標準 (PEG400)、プロピレングリコール(PG)、およびポリソルベート80(PS80)を、Sigma Aldrichから購入した。生理食塩水(0.9% NaCl)、Systane(登録商標)ULTRA点眼剤潤滑剤高性能、およびGenTeal(登録商標)Tears Lubricant眼用軟膏剤を、Alconから購入した。
【0118】
レオロジーサンプル
レオロジー試験用のサンプル調製のために、16%(w/v) F127および他の添加剤(0.025~1% PEG300、PEG400、およびグリセリン; 0.4% PG、0.5% PS80、1% CMC)を、再構成の前に一緒に混合し、精製水と混合した。16% F127をインビトロ試験のために使用して、ゲル状態での特徴付けを可能にしたのに対して、インビボ試験は、低張性12%ゲル形成製剤を使用したことに注意のこと。
【0119】
涙液層破壊時間(TBUT)サンプル
涙液層破壊時間(TBUT)試験のために、5mg/mL フルオレセインナトリウム粉末を、混合する前に種々の製剤(塩類溶液、GenTeal(登録商標)Tears、Systane(登録商標)ULTRA、12% F127、0.4% PEG400含有)に添加した。全ての製剤を、Benchmark Scientificウェービングロッカー(30°傾斜角および30rpm速度、4℃)で3日間混合することによって各実験のために新たに調製した。全ての製剤を、光への曝露を回避するために包装したままにし、使用しない場合には、4℃で貯蔵した。
【0120】
点眼剤ボトル力測定
製剤を、7mL容積で調製し、10mL 点眼用ボトル(Steri-Dropper)に移した。50N能力を有するFG-3005 Digital Force Gaugeシステム(Nidac)を、ボトル圧搾力を測定するために使用した。フォースゲージをシリンジポンプ(NE300)に固定し、これは、ボトルを圧搾するための一定の前方変位を提供した。フォースプローブを、逆向きにしたボトル(これは、金属クランプによって緩く固定した)の底から1.5cmで垂直に配置した。フォースプローブを、1mm/sの一定速度で動かして、ボトルを圧搾した。その力を、最初の液体1滴がボトルの先端から分与された時に記録した。33℃および37℃で行った測定に関しては、システム全体を、加熱したオーブンに入れ、測定を行う前に15分間平衡化させた。
【0121】
レオロジー試験
PP25プローブを有するAnton Paarコーンおよびプレートレオメーター(モデルMCR 302)を、最大粘着力および接着を測定するために使用した。上記プローブを、サンプルと接触した状態で配置し、次いで、制御された速度でサンプルから垂直に離れるように動かして、垂直抗力を測定した。曲線上のピーク力は、最大粘着力と見做される一方で、接着は、力曲線下の面積である。サンプル(200μL)を、Drummond Wiretrol 200μLワイヤプランジャーピペットを使用して、レオメーターサンプルホルダーに移した。サンプルを、プローブとサンプルホルダーとの間に1mmのギャップを設けて60秒間、特定の温度において平衡化した。合計100の点を線形勾配モードで、60秒間隔で測定した(最初を-0.005mm/sとして設定し、最後を-0.5mm/sとして設定した)。特定されない場合、各サンプル群あたりn=3~6を測定し、各サンプルを個々に調製した。最終データを、Antron Parr RheoCompassからエクスポートした。最大粘着力および接着を、GraphPad Prism 9で計算した。温度勾配粘性実験に関しては、負荷ギャップを0.3mmに設定した。0.25分の温度変化(線形勾配モード)で、合計で26の点を、さらなるパラメーター ガンマ=1(1/s)および15~40℃の温度勾配(n=3)とともに選択した。温度(℃)および粘性(mPa*s)測定値を含む生データを、Anton Parr RheoCompassソフトウェアからエクスポートし、GraphPad Prism 9で分析/プロットした。2つの群の統計分析を、両側スチューデントのt検定を使用して行った。複数群の比較のために、一元配置ANOVAとDunnettの多重比較検定を使用した。統計分析を、GraphPad Prism 9を使用して行った。
【0122】
涙液層破壊時間(TBUT)
プルロニック(登録商標)F127を、0.4% PEG400を含む12% w/vで低張性に製剤化した。いくつかの市販の点眼剤(生理食塩水およびSYSTANEおよびGENTEAL製品ラインの潤滑点眼剤を含む)、ならびに0.4% PEG400有する12% F127は、可視化目的で添加した0.5 mg/mL フルオレセインナトリウムを有した。涙液層破壊時間(TBUT)を、健常ニュージーランドホワイトウサギにおいて行った(盲検化した観察者によって2回の独立した測定を行って、1群あたりn=4の異なる眼)。フルオレセインを含む点眼剤を、タオルで優しく包んだ意識のあるウサギに、50μL 容積で投与した。投与後、眼瞼を手動で2回閉じさせて、涙膜および薬剤を行き渡らせた。次いで、眼を優しく開かせたままにし、TBUTを測定および記録した。TBUTを、2名の個体が、上記製剤が何であるかを知らせることなく、盲検化した様式で同意しかつ時間を確認することによってスコア付けした。示されるように、0.4% PEG400を有する上記低張性 12% F127は、最高性能の市販の潤滑点眼製剤と比較して、TBUTにおいて有意な増大を明らかに示した(*p<0.05)。複数群の比較のために、一元配置ANOVAとDunnettの多重比較検定を使用した。統計分析を、GraphPad Prism 9を使用して行った。
【0123】
結果
最大粘着力に対するグリセリンの効果
プルロニック(登録商標)F127を、16% w/vで製剤化して、37℃でのインビトロゲル化およびゲルレオロジー特性の評価を促進するために、臨界ゲル濃度(CGC)を上回って保持した。種々の量のグリセリン(0.2~1%、0%は、添加剤なしのF127を表す)を添加して、F127ゲルの(
図1A)接着および(
図1B)最大粘着力に対する効果を特徴づけた(n=3~6)。グリセリンの添加は、測定可能な効果を有しなかった。
【0124】
最大粘着力に対するPEG300の効果
プルロニック(登録商標)F127を、16% w/vで製剤化して、37℃でのインビトロゲル化およびゲルのレオロジー特性の評価を促進するために、臨界ゲル濃度(CGC)を上回って保持した。種々の量のPEG300(0.2~1%、0%は添加剤なしのF127を表す)を添加して、F127ゲルの(
図2A)接着および(
図2B)最大粘着力に対する効果を特徴づけた(n=3~6)。最大粘着力は、0.4~1% PEG300の添加で有意に低減した。
【0125】
最大粘着力に対するPEG400の効果
プルロニック(登録商標)F127を16% w/vで製剤化して、37℃でのインビトロゲル化およびゲルレオロジー特性の評価を促進するために、臨界ゲル濃度(CGC)を上回って保持した。種々の量のPEG400(0.025~0.1%、0%は、添加剤なしのF127を表す)を添加して、F127ゲルの(
図3A)接着および(
図3B)最大粘着力に対する効果を特徴づけた(n=3~6)。最大粘着力は、0.1%~1% PEG400の添加に伴って有意に低減した。
【0126】
最大粘着力に対するPEG300およびPEG400の効果
プルロニック(登録商標)F127を、16% w/vで製剤化して、37℃でのインビトロゲル化およびゲルレオロジー特性の評価を促進するために、臨界ゲル濃度(CGC)を上回って保持した。種々の潤滑および粘滑物質を添加して、F127ゲルの(
図4A)接着および(
図4B)最大粘着力に対する効果を特徴づけた(n=3~6)。PEG300およびPEG400の添加は、最大粘着を低減し、最も顕著な効果は、PEG400で観察された。
【0127】
粘性の変化
プルロニック(登録商標)F127を16% w/vで製剤化して、インビトロゲル化およびゲルレオロジー特性の評価を促進するために、臨界ゲル濃度(CGC)を上回って保持した。一定のストレス温度勾配を15~40℃にわたって行って、0.4% PEG400の添加のありおよびなしでの温度に伴う粘性の変化を評価した。温度の関数としての粘性プロフィールは、0.4% PEG400の存在によって有意に影響を及ぼされなかった(
図5)。従って、PEG400の添加に伴う最大粘着力の低減は、F127の熱可逆的ゲル化挙動に影響を及ぼさない。
【0128】
圧搾力に対する効果
塩類溶液、12% F127、0.3% PEG400を有する12% F127、および18% F127を標準的な点眼用ボトルに添加して、(
図6A)室温または(
図6B)衣類のポケットの中での保管を模倣する33℃において最初の液滴を排出するために必要とされる圧搾力を測定した。*33℃では、18% F127はゲルを形成し、液滴ではなくゲルの帯として押し出された。対照的に、12% F127での製剤(CGCを下回る)は、速すぎるゲル化を防止する。
【0129】
塩類溶液、12% F127、0.3% PEG300を有する12% F127、0.3% PEG400を有する12% F127、BromSite、およびSystane ULTRAを標準的な点眼用ボトルに添加して、室温での最初の液滴を排出するために必要とされる圧搾力を測定した(
図7)。BromSiteのみが、塩類溶液より有意に高い圧搾力を必要とした(p<0.05)のに対して、F127製剤は、塩類溶液から区別不能であった。
【0130】
涙液層破壊時間に対するPEG400の効果
プルロニック(登録商標)F127を、12% w/v(インビボで薄い均一なゲル層を提供する(がインビトロでゲルを形成しない)ことが示された臨界ゲル濃度(CGC)を下回る濃度)で低張性に製剤化した。いくつかの市販の点眼剤(生理食塩水、ならびにSystaneおよびGenTeal製品ラインからの潤滑点眼剤を含む)、ならびに0.4% PEG400を有する12% F127は、可視化目的で添加した0.5mg/mL フルオレセインナトリウムを有した。涙液層破壊時間(TBUT)を、健常ニュージーランドホワイトウサギにおいて行った(盲検化した観察者によって2回の独立した測定を行って、1群あたりn=4の異なる眼)。
図8に示されるように、0.4% PEG400を有する低張性12% F127は、最高性能の市販の潤滑点眼製剤と比較して、TBUTにおいて有意な増大を明らかに示した。
【0131】
実施例2: 安定性試験および無菌試験
材料および方法
12% F127、0.4% PEG400および1mM ホウ酸緩衝液を含むOcuGelを、72mOsmまたは150mOsmのいずれかで、0.01% 塩化ベンザルコニウム(「BAK」)ありまたはなしで製剤化した。pH測定のために、300μLの各サンプルを1.5mL エッペンドルフ(登録商標)に移し、微小電極を有するMettler Toledo EL20 pHメーターで測定した。
【0132】
吸光度測定に関しては、200μLの各サンプルを、NuncTM MicroWellTM 96ウェルマイクロプレートに移し、λ=490nmでの吸光度を吸光度プレートリーダー(Synergy MTXリーダー)で測定した。PP25並行プレート測定システム(Anton Parr)を有するModular Compact Rheometer(MCR302)を使用して、サンプル粘性(mPa*s)を測定した。ワイヤプランジャーを有するDrummond WIRETROL(登録商標)II 200μLを使用して、200μLのサンプルを37℃架台上に分散させた。PP25プローブの場所を、上記製剤と上記プローブとの間の1分間の温度平衡化とともに0.5mmで設定した。最初1(1/s)および最後100(1/s)を伴う線形勾配モードを、合計で10の測定点(各々、10秒の測定期間を有する)とともに設定した。次いで、100(1/s)での粘性値(mPa*s)を、安定性比較のために各時点で報告した。
【0133】
重量オスモル濃度測定に関しては、Vapro浸透圧計システム(ELITechGroup)を使用して、サンプルの重量オスモル濃度を測定した。
【0134】
BAK濃度を、上記製剤中に含まれる場合には、高速液体クラマトグラフィー(HPLC、Prominence LC2030, Shimadzu)およびLUNA(登録商標)5μm C18 100Å、00G-422-E0カラム(Phenomenex)で測定した。アセトニトリルおよび水を、75:25の比で移動相として使用した。サンプルを、流速1mL/分で40℃においてC18逆相カラムを通して均一濃度で溶離した。UV吸光度を205nmでモニターし、曲線下面積(AUC)を使用して、BAK濃度を計算した。
【0135】
F127分子量(Mw)を測定するために、100μLの上記製剤を-80℃で凍結し、凍結乾燥した。0.1% LiBr溶液(1.2mL)を有するDMFをサンプルに添加し、ボルテックスして溶解させた。有機カラム(organic column)(Agilent, 10 aem MIXED-Bカラム)を有するゲル透過クロマトグラフィーシステム(1260 Infinity II series, Agilent Technologies)を使用して、1mL/分流速および33バール付近に設定した圧力でF127を分離および検出した。Mwおよび多分散性(PD)値を、Alginateソフトウェア(バージョン1.4)を使用して計算した。
【0136】
保存剤ありおよびなしのOcuGelを、小さいバッチで製剤化し、無菌濾過し、バイオセーフティキャビネットの中で滅菌済み点眼用ボトルの中にアリコートに分けた。点眼用ボトルに蓋をし、熱収縮ラップシーラーで包み、室温において安全なキャビネットの中で貯蔵した。時点(0、3ヶ月)あたり10個のボトルを、室温において遮光キャビネットの中で貯蔵した。各時点で、その10個のボトルを、<USP 71>ガイドラインに従ってプール化および無菌試験のために、Pace Analytical(登録商標)Life Sciencesへ輸送した。
【0137】
安全性試験
急性: OcuGel(12% ポロキサマー 407, 0.4% PEG400, 1mM ホウ酸緩衝液, 0.01% BAK, pH7.4)を小さいバッチで製剤化し、無菌濾過し、バイオセーフティキャビネットの中で滅菌済み点眼用ボトルの中にアリコートに分けた。
【0138】
全ての動物を、Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに従って取り扱いおよび処置した。雄性および雌性同数のニュージーランドホワイトウサギを、局所急性毒性試験において使用した。
【0139】
急性投与試験のために、n=4のウサギに、1時間ごとに、50μLのOcuGelを右眼に、および50μLのSYSTANE(登録商標)ULTRAを左眼に8時間投与した。最後の用量の後に、認定眼科医が上記ウサギに麻酔をかけ、眼球評価を行った。
【0140】
角膜新生血管形成を、0~2スケール(0は正常機能を示し、2は重篤に傷害または炎症していることを示す)で等級をつけた。瞳孔対光反射、結膜充血、および結膜分泌物を、0~3スケール(ここで0は正常機能を示し、3は重篤に傷害または炎症しているとして示される)で等級をつけた。結膜腫脹、角膜混濁(重症度)、角膜混濁(corneal)(面積)、前房内細胞、虹彩の併発(iris involvement)、前部硝子体細胞(anterior vitreous cell)、眼瞼分泌物、眼瞼腫脹、眼瞼血管分布、マイボーム腺機能、およびフルオレセイン染色を、0~4スケール(0は正常機能を示し、4は重篤に傷害または炎症しているとして示される)で等級をつけた。検査後、ウサギが完全に覚醒するまで、それらをホームケージにおいて詳細にモニターした。
【0141】
慢性: OcuGel(12% ポロキサマー407、0.4% PEG400、1mM ホウ酸緩衝液、0.01% BAK、pH7.4)を、小さいバッチで製剤化し、無菌濾過し、バイオセーフティキャビネットの中で滅菌済み点眼用ボトルの中にアリコートに分けた。全ての動物を、Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに従って取り扱いおよび処置した。雄性および雌性同数のニュージーランドホワイトウサギを、局所急性毒性試験において使用した。急性投与試験のために、n=4のウサギに、50μLのOcuGelを右眼に、および50μLのSYSTANE(登録商標)ULTRAを左眼に、1日あたり3回、14日間にわたって投与した。7日目および14日目の最後の用量後、認定眼科医が上記ウサギに麻酔をかけ、眼球評価を行った。角膜新生血管形成を、0~2スケール(0は正常機能を示し、2は重篤に傷害または炎症していることを示す)で等級をつけた。瞳孔対光反射、結膜充血、および結膜分泌物を、0~3スケール(ここで0は正常機能を示し、3は重篤に傷害または炎症しているとして示される)で等級をつけた。結膜腫脹、角膜混濁(重症度)、角膜混濁(面積)、前房内細胞、虹彩の併発、前部硝子体細胞、眼瞼分泌物、眼瞼腫脹、眼瞼血管分布、マイボーム腺機能、およびフルオレセイン染色を、0~4スケール(0は正常機能を示し、4は重篤に傷害または炎症しているとして示される)で等級をつけた。検査後、ウサギが完全に覚醒するまで、それらをホームケージにおいて詳細にモニターした。
【0142】
涙液層破壊時間(TBUT)測定
12% F127、0.4% PEG400、1mM ホウ酸緩衝液、および0.01% BAKを含むOcuGelを、0.2% HA(2 MDa)ありまたはなしで、種々の重量オスモル濃度(100mOsm/kg、150mOsm/kg、200mOsm/kg、250mOsm/kg、300mOsm/kg)で製剤化し、pH7~7.4に調節した。生理食塩水およびSystane(登録商標)Hydration PFを、比較対象物として使用した。TBUTを、健常ニュージーランドホワイトウサギにおいて行った(n=3)。種々の製剤を、先ず局所投与した(50μL)。90分後、50μLの2% フルオレセイン二ナトリウム(pH7.4)を、処置した眼に投与した。投与後、眼瞼を手動で2回閉じさせて、涙膜および薬剤を行き渡らせた。次いで、眼を優しく開かせたままにし、TBUTを測定および記録した。TBUTを、2名の個体が、上記製剤が何であるかを知らせることなく、盲検化した様式で同意しかつ時間を確認することによってスコア付けした(n=3の独立した動物)。データは、平均±SDである。統計分析を、OcuGel 72mOsm/kg群に関して一元配置ANOVAと多重比較によって行った。
【0143】
結果
室温安定性および無菌試験
OcuGel(12% ポロキサマー407、0.4% PEG400、1mM ホウ酸緩衝液、0.01% BAK)を、小さいバッチで製剤化し、無菌濾過し、バイオセーフティキャビネットの中で滅菌済み点眼用ボトルの中にアリコートに分けた。点眼用ボトルに蓋をし、熱収縮ラップシーラーで包み、室温において安全なキャビネットの中で貯蔵した。時点(0、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月)あたり3個のボトルを、室温において遮光キャビネットの中で貯蔵した。各時点に関して、サンプルを、pH、吸光度、粘性、重量オスモル濃度、BAK濃度、およびポリマー分子量に関して特徴づけた。
【0144】
図9A~9Hは、保存剤なしのOcuGel(n=3)の3ヶ月までの室温における安定性のグラフである。(9A)pH、(9B)吸光度(AU)、(9C)粘性(mPa*s、剪断速度100 s-1)、(9D)重量オスモル濃度(mOsm/kg)、(9E)BAK濃度(% w/v)、および(9F)ポロキサマー407分子量(Mw)、(9G)多分散性ならびに(9H)OcuGel製剤における% w/vの測定値。
【0145】
図10A~10Gは、OcuGel(n=3)の6ヶ月までの室温における安定性のグラフである。(10A)pH、(10B)吸光度(AU)、(10C)粘性(mPa*s、剪断速度 100 s-1)、(10D)重量オスモル濃度(mOsm/kg)、および(10E)ポロキサマー407分子量(Mw)、(10F)多分散性ならびに(10G)上記製剤における% w/vの測定値。
【0146】
pHは、7.0~7.4の範囲内のままであり(
図9A、10A)、吸光度は、0.04~0.06 AUの範囲中のままであり(
図9B、10B)、粘性は、20~30mPa*sの範囲中のままであり(
図9C、10C)、重量オスモル濃度は、70~80mOsm/kgの範囲中のままであり(
図9D、10D)、BAK濃度は、0.009~0.011%(w/v)内のままであり(
図9E)、ポロキサマー407分子量(Mw)は、12,000~13,000Da内のままであり(
図9F、10E)、ポロキサマー407多分散性(PD)は、1.0~1.2内のままであり(
図9G、10F)、ポロキサマー407濃度は、11.5~12.5%(w/v)内のままであった(
図9H、10G)。
【0147】
無菌性
表1は、BAK保存剤ありのOcuGelが、(A)0および(B)ヶ月で<USP 71>に関する無菌要件を満たしたこと、および保存剤なしのOcuGelが、(C)3ヶ月で<USP 71>に関する無菌要件を満たしたことを示す。試験した全てのOcuGel製剤は、USP <71>に従う無菌試験に合格した。
【0148】
前臨床安定性試験
急性毒性試験に関して(表2)、ならびに7日目(表3)および14日目(表4)での慢性試験において示された等級分けは、いずれの処置レジメンでも眼球の刺激の顕著な証拠は本質的に示されなかった。
【0149】
涙液層破壊時間(TBUT)
OcuGel(12% ポロキサマー407、0.4% PEG400、1mM ホウ酸緩衝液、0.01% BAK)を、種々の重量オスモル濃度(72~300mOsm/kg)において、0.2% HAの添加ありおよびなしで製剤化し、NZWウサギに投与した。フルオレセインベースのTBUTを、投与後90分で評価した。
【0150】
図11は、種々の重量オスモル濃度(72~300mOsm/kg)において、0.2% HAの添加ありまたはなしでのOcuGel(12% ポロキサマー407、0.4% PEG400、1mM ホウ酸緩衝液、0.01% BAK)をNZWウサギに投与し、投与後90分でフルオレセインベースの涙液層破壊時間(TBUT)として測定し、処置なし、塩類溶液、およびSYSTANE(登録商標)HYDRATION PFと比較したグラフである。72mOsm/kgでのOcuGelと比較して、*p<0.05。
【0151】
図11に示されるように、TBUTは、塩類溶液およびSystane(登録商標)Hydration PF群において処置されていないウサギのベースラインレベルへと戻った。対照的に、全てのOcuGelで処置した動物は、OcuGel+HA 250mOsm/kg群を除いて、90分で処置されていない動物と比較して、増大したTBUTを有した。しかし、より高い重量オスモル濃度(250mOsm/kgおよび300mOsm/kgを含む)を有するHA製剤は、72mOsmのOcuGelと比較して、低減したTBUTを有した。データは、HAのようなさらなる潤滑ポリマーを添加した場合を含め、長時間持続する表面潤滑効果、およびこれらの利益を達成するための低張性製剤の重要性を裏付けた。
【0152】
表1~4は、上記製剤の無菌性および安全性を明らかに示す。
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
当業者は、慣用的な実験法のみを使用して、本明細書に記載される発明の具体的な実施形態に等価なものを認識するか、または確認し得る。このような等価なものは、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
【国際調査報告】