(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ヒト蝸牛有毛細胞を生成する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241210BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241210BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20241210BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241210BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
C12N5/0735
C12M1/00 A
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534272
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 US2022081292
(87)【国際公開番号】W WO2023108136
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520477485
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・インディアナ・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋野 惠里
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,スティーブン・ティー
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
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4B065BB04
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB34
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
多能性幹細胞からヒト蝸牛有毛細胞の生成のための方法が、本明細書に提供される。より具体的には、ヒト多能性幹細胞から、内耳有毛細胞、感覚ニューロン及び支持細胞を含む三次元細胞オルガノイドを生成するための方法が、本明細書に提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト蝸牛有毛細胞を生成する方法であって、
(a)約5日間にわたってソニックヘッジホッグの活性化因子を含む培地中でヒト多能性幹細胞に由来するPAX2b+内耳前駆細胞を培養するステップ;並びに
(b)続いて、ステップ(a)の後、約4日間にわたって、ソニックヘッジホッグの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞を培養するステップ;
(c)PRESTIN、NR2F1、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3又はGNG8の内耳マーカーのうちの1種以上を発現するヒト蝸牛有毛細胞に細胞を分化させるのに十分な時間量にわたってステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)及びステップ(b)におけるソニックヘッジホッグの活性化因子は、パルモルファミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
パルモルファミンの濃度が約1nM~約1mMである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Wnt阻害剤がIWP-2である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
IWP-2の濃度が約1nM~約1mMである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
内耳前駆細胞が、ステップ(a)の開始の約39日後に開始して、約50日間にわたってチロキシンと共に培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
培地中のチロキシンの濃度が約250ng/mlである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
十分な時間量が、ステップ(a)の開始後、約89日であり、培地が、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
十分な時間量が、ステップ(a)の開始後、約139日であり、培地が、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
蝸牛有毛細胞が、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1から選択される2種以上のマーカーを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
細胞が、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1を発現する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
細胞が、ステップ(a)の開始の約98日後にHES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される1種以上のさらなるマーカーをさらに発現する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される2種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される3種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
内耳前駆細胞が、
(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びTGF-ベータ阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;
(b)約4日間にわたって、FGF-2、TGF-ベータ阻害剤及びBMP-4阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;
(c)約4日間にわたってGSK-3阻害剤、BMP-4阻害剤及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;並びに
(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でGSK-3阻害剤を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b
+内耳前駆細胞を産生するステップ
の方法によって多能性幹細胞から誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項17】
BMP-4の濃度が約100pg/mlより高い、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
BMP-4の濃度が約500pg/mlより高い、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
BMP-4の濃度が約100pg/ml~約1000pg/mlである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
BMP-4の濃度が約500pg/ml~約1000pg/mlである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;
(b)約4日間にわたって、FGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;
(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;
(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b
+前駆細胞を生成するステップ
を含む、方法。
【請求項22】
(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞を培養するステップ;
(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;
(g)少なくとも約78日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップ
をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(g)における培地が、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;
(b)約4日間にわたって、FGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;
(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;
(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養するステップ;
(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞をさらに培養するステップ;
(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;
(g)少なくとも約78日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップ
を含む、方法。
【請求項25】
ステップ(g)における培地が、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;
(b)約4日間にわたって、FGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;
(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;
(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養するステップ;
(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞をさらに培養するステップ;
(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;
(g)約28日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養するステップ;
(h)約50日間にわたってチロキシンを含む培地中でステップ(g)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップ
を含む、方法。
【請求項27】
ステップ(g)における培地が、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1~19又は22~27のいずれか一項に記載の方法によって生成されるヒト蝸牛有毛細胞。
【請求項29】
請求項28に記載の蝸牛有毛細胞を含むオルガノイド。
【請求項30】
(a)ソニックヘッジホッグの活性化因子;及び
(b)Wnt阻害剤
を含む、キット、プラットフォーム、又はシステム。
【請求項31】
(c)FGF-2;
(d)TGF-ベータ阻害剤;
(e)BMP-4阻害剤;及び
(f)GSK-3阻害剤
をさらに含む、請求項30に記載のキット、システム、又はプラットフォーム。
【請求項32】
(g)チロキシン
をさらに含む、請求項30又は31に記載のキット、システム、又はプラットフォーム。
【請求項33】
(h)人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞
をさらに含む、請求項30~32のいずれか一項に記載のキット、システム、又はプラットフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年12月9日に出願された米国仮特許出願第63/287,761号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府に支援された研究に関する陳述
本発明は、米国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency)によって授与されたW81XWH-18-1-0062、並びに米国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって授与されたDC015788及びDC013204の下での政府支援と共に為された。米国連邦政府は、本発明において、一定の権利を有する。
【0003】
配列表
配列表は、本出願に添付され、27,822バイトのサイズであり、2022年12月9日に作成された、配列表名「144578_00353.xml」のxmlファイルとして提出される。配列表は、Patent Centerを介して電子的に提出され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
開示される技術は一般に、ヒト多能性幹細胞の蝸牛有毛細胞への分化を指示するための方法を対象とする。
【背景技術】
【0005】
ヒトの内耳は、蝸牛器官及び前庭器官で構成され、それぞれ、2種類の構造的に異なる機械感受性有毛細胞を含有する。胚形成の間に、蝸牛器官は、耳胞の最腹側の領域に由来するが、前庭器官は、隣接するより背側の領域に由来する。胚形成中のモルフォゲン勾配のバランスは、内耳末端器官の同一性を決定付けると考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マウス又はヒト多能性幹細胞の凝集体から内耳感覚上皮を生成する以前の方法は、誘導される有毛細胞が天然の前庭有毛細胞の構造的及び機能的特性を単に担持するため、蝸牛細胞型を産生しない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本開示の態様において、ヒト蝸牛有毛細胞を生成する方法が提供される。一部の実施形態において、方法は、(a)約5日間にわたってソニックヘッジホッグの活性化因子を含む培地中でヒト多能性幹細胞に由来するPAX2b+内耳前駆細胞を培養するステップ;並びに(b)続いて、ステップ(a)の後、約4日間にわたって、ソニックヘッジホッグの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞を培養するステップ;(c)PRESTIN、NR2F1、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3又はGNG8の内耳マーカーのうちの1種以上を発現するヒト蝸牛有毛細胞に細胞を分化させるのに十分な時間量にわたってステップ(b)の細胞をさらに培養するステップを含む。一部の実施形態において、ステップ(a)及びステップ(b)におけるソニックヘッジホッグの活性化因子は、パルモルファミンである。一部の実施形態において、パルモルファミンの濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、Wnt阻害剤は、IWP-2である。一部の実施形態において、IWP-2の濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、ステップ(a)の開始の約39日後に開始して、約50日間にわたってチロキシンと共に培養される。一部の実施形態において、培地中のチロキシンの濃度は、約250ng/mlである。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約89日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約139日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、蝸牛有毛細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1から選択される2種以上のマーカーを発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1を発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にHES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される1種以上のさらなるマーカーをさらに発現する。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される2種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される3種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びTGF-ベータ阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたって、FGF-2、TGF-ベータ阻害剤及びBMP-4阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってGSK-3阻害剤、BMP-4阻害剤及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;並びに(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でGSK-3阻害剤を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b+内耳前駆細胞を産生するステップの方法によって多能性幹細胞から誘導される。一部の実施形態において、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞である。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/ml~約1000pg/mlである。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/ml~約1000pg/mlである。
【0008】
本開示の別の態様において、方法が提供される。一部の実施形態において、方法は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたって、FGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b+前駆細胞を生成するステップを含む。一部の実施形態において、方法は、(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞を培養するステップ;(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;(g)少なくとも約78日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップをさらに含む。一部の実施形態において、ステップ(g)における培地は、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない。
【0009】
本開示の別の態様において、さらなる方法が提供される。一部の実施形態において、方法は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたってFGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養するステップ;(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞をさらに培養するステップ;(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;(g)少なくとも約78日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップを含む。一部の実施形態において、ステップ(g)における培地は、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない。
【0010】
本開示の別の態様において、さらなる方法が提供される。一部の実施形態において、方法は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたってFGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養するステップ;(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞をさらに培養するステップ;(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;(g)約28日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養するステップ;(h)約50日間にわたってチロキシンを含む培地中でステップ(g)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップを含む。一部の実施形態において、ステップ(g)における培地は、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない。
【0011】
本開示の別の態様において、ヒト蝸牛有毛細胞が提供される。一部の実施形態において、ヒト蝸牛有毛細胞は、(a)約5日間にわたってソニックヘッジホッグの活性化因子を含む培地中でヒト多能性幹細胞に由来するPAX2b+内耳前駆細胞を培養するステップ;並びに(b)続いて、ステップ(a)の後、約4日間にわたって、ソニックヘッジホッグの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞を培養するステップ;(c)PRESTIN、NR2F1、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3又はGNG8の内耳マーカーのうちの1種以上を発現するヒト蝸牛有毛細胞に細胞を分化させるのに十分な時間量にわたってステップ(b)の細胞をさらに培養するステップによって生成される。一部の実施形態において、パルモルファミンの濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、Wnt阻害剤は、IWP-2である。一部の実施形態において、IWP-2の濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、ステップ(a)の開始の約39日後に開始して、約50日間にわたってチロキシンと共に培養される。一部の実施形態において、培地中のチロキシンの濃度は、約250ng/mlである。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約89日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約139日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、蝸牛有毛細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1から選択される2種以上のマーカーを発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1を発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にHES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される1種以上のさらなるマーカーをさらに発現する。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される2種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される3種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びTGF-ベータ阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたって、FGF-2、TGF-ベータ阻害剤及びBMP-4阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってGSK-3阻害剤、BMP-4阻害剤及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;並びに(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でGSK-3阻害剤を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b+内耳前駆細胞を産生するステップの方法によって多能性幹細胞から誘導される。一部の実施形態において、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞である。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/ml~約1000pg/mlである。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/ml~約1000pg/mlである。
【0012】
一部の実施形態において、ヒト蝸牛有毛細胞は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたってFGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b+前駆細胞を生成するステップによって生成される。一部の実施形態において、方法は、(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞を培養するステップ;(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;(g)少なくとも約78日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップをさらに含む。一部の実施形態において、ステップ(g)における培地は、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない。
【0013】
一部の実施形態において、ヒト蝸牛有毛細胞は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたってFGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養するステップ;(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞をさらに培養するステップ;(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;(g)少なくとも約79日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップによって生成される。一部の実施形態において、ステップ(g)における培地は、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない。
【0014】
一部の実施形態において、ヒト蝸牛有毛細胞は、(a)約5日間にわたってソニックヘッジホッグの活性化因子を含む培地中でヒト多能性幹細胞に由来するPAX2b+内耳前駆細胞を培養するステップ;並びに(b)続いて、ステップ(a)の後、約4日間にわたって、ソニックヘッジホッグの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞を培養するステップ;(c)PRESTIN、NR2F1、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3又はGNG8の内耳マーカーのうちの1種以上を発現するヒト蝸牛有毛細胞に細胞を分化させるのに十分な時間量にわたってステップ(b)の細胞をさらに培養するステップによって生成される。一部の実施形態において、パルモルファミンの濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、Wnt阻害剤は、IWP-2である。一部の実施形態において、IWP-2の濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、ステップ(a)の開始の約39日後に開始して、約50日間にわたってチロキシンと共に培養される。一部の実施形態において、培地中のチロキシンの濃度は、約250ng/mlである。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約89日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約139日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、蝸牛有毛細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1から選択される2種以上のマーカーを発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1を発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にHES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される1種以上のさらなるマーカーをさらに発現する。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される2種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される3種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びTGF-ベータ阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたって、FGF-2、TGF-ベータ阻害剤及びBMP-4阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってGSK-3阻害剤、BMP-4阻害剤及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;並びに(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でGSK-3阻害剤を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b+内耳前駆細胞を産生するステップの方法によって多能性幹細胞から誘導される。一部の実施形態において、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞である。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/ml~約1000pg/mlである。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/ml~約1000pg/mlである。
【0015】
本開示の別の態様において、オルガノイドが提供される。一部の実施形態において、オルガノイドは、(a)約5日間にわたってソニックヘッジホッグの活性化因子を含む培地中でヒト多能性幹細胞に由来するPAX2b+内耳前駆細胞を培養するステップ;並びに(b)続いて、ステップ(a)の後、約4日間にわたって、ソニックヘッジホッグの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞を培養するステップ;(c)PRESTIN、NR2F1、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3又はGNG8の内耳マーカーのうちの1種以上を発現するヒト蝸牛有毛細胞に細胞を分化させるのに十分な時間量にわたってステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ、蝸牛有毛細胞を含む。一部の実施形態において、パルモルファミンの濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、Wnt阻害剤は、IWP-2である。一部の実施形態において、IWP-2の濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、ステップ(a)の開始の約39日後に開始して、約50日間にわたってチロキシンと共に培養される。一部の実施形態において、培地中のチロキシンの濃度は、約250ng/mlである。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約89日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約139日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、蝸牛有毛細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1から選択される2種以上のマーカーを発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1を発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にHES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される1種以上のさらなるマーカーをさらに発現する。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される2種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される3種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びTGF-ベータ阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたって、FGF-2、TGF-ベータ阻害剤及びBMP-4阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってGSK-3阻害剤、BMP-4阻害剤及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;並びに(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でGSK-3阻害剤を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b+内耳前駆細胞を産生するステップの方法によって多能性幹細胞から誘導される。一部の実施形態において、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞である。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/ml~約1000pg/mlである。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/ml~約1000pg/mlである。
【0016】
一部の実施形態において、オルガノイドは、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたって、FGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b+前駆細胞を生成するステップによって生成される蝸牛有毛細胞を含む。一部の実施形態において、方法は、(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞を培養するステップ;(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;(g)少なくとも約78日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップをさらに含む。一部の実施形態において、ステップ(g)における培地は、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない。
【0017】
一部の実施形態において、オルガノイドは、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたってFGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養するステップ;(e)約5日間にわたってCHIR99021及びパルモルファミンを含む培地中でステップ(d)の細胞をさらに培養するステップ;(f)約4日間にわたってCHIR99021、パルモルファミン、及びIWP-2を含む培地中でステップ(e)の細胞をさらに培養するステップ;(g)少なくとも約78日間にわたって培地中でステップ(f)の細胞をさらに培養して、ヒト蝸牛有毛細胞を生成するステップによって生成された蝸牛有毛細胞を含む。一部の実施形態において、ステップ(g)における培地は、CHIR99021、パルモルファミン、又はIWP-2を含まない。
【0018】
一部の実施形態において、オルガノイドは、(a)約5日間にわたってソニックヘッジホッグの活性化因子を含む培地中でヒト多能性幹細胞に由来するPAX2b+内耳前駆細胞を培養するステップ;並びに(b)続いて、ステップ(a)の後、約4日間にわたって、ソニックヘッジホッグの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞を培養するステップ;(c)PRESTIN、NR2F1、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3又はGNG8の内耳マーカーのうちの1種以上を発現するヒト蝸牛有毛細胞に細胞を分化させるのに十分な時間量にわたってステップ(b)の細胞をさらに培養するステップによって生成された蝸牛有毛細胞を含む。一部の実施形態において、パルモルファミンの濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、Wnt阻害剤は、IWP-2である。一部の実施形態において、IWP-2の濃度は、約1nM~約1mMである。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、ステップ(a)の開始の約39日後に開始して、約50日間にわたってチロキシンと共に培養される。一部の実施形態において、培地中のチロキシンの濃度は、約250ng/mlである。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約89日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、十分な時間量は、ステップ(a)の開始後、約139日であり、培地は、ステップ(a)の開始の約11日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含有しない。一部の実施形態において、蝸牛有毛細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1から選択される2種以上のマーカーを発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、NR2F1、GATA3、及びINSM1を発現する。一部の実施形態において、細胞は、ステップ(a)の開始の約98日後にHES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される1種以上のさらなるマーカーをさらに発現する。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される2種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、方法は、ステップ(a)の開始の約98日後にPRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される3種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びTGF-ベータ阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたって、FGF-2、TGF-ベータ阻害剤及びBMP-4阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってGSK-3阻害剤、BMP-4阻害剤及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;並びに(d)約2日間にわたってコーティングされたプレート上でGSK-3阻害剤を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b+内耳前駆細胞を産生するステップの方法によって多能性幹細胞から誘導される。一部の実施形態において、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞である。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/mlより高い。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約100pg/ml~約1000pg/mlである。一部の実施形態において、BMP-4の濃度は、約500pg/ml~約1000pg/mlである。
【0019】
本開示の別の態様において、キット、プラットフォーム、及びシステムが提供される。一部の実施形態において、キット、システム又はプラットフォームは、(a)ソニックヘッジホッグの活性化因子;及び(b)Wnt阻害剤を含む。一部の実施形態において、キット、システム、又はプラットフォームは、(c)FGF-2;(d)TGF-ベータ阻害剤;(e)BMP-4阻害剤;及び(f)GSK-3阻害剤をさらに含む。一部の実施形態において、キット、システム、又はプラットフォームは、(g)チロキシンをさらに含む。一部の実施形態において、キット、システム、又はプラットフォームは、(h)人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1a-1】a~l、PAX2-2A-nGFP/POU4F3-2A-ntTomato(PAX2
nG/POU4F3
nT)多重リポーターhESCは、内耳オルガノイドへの内耳前駆細胞及び有毛細胞の分化を正確に再現する。a、PAX2-2A-nGFP及びPOU4F3-2A-ntdTomato CRISPR設計の概略図。2対の1kbホモロジーアームを、内耳主要PAX2bスプライスバリアント及びPOU4F3の唯一のスプライスバリアントの終止コドンを挟むようにPCRによって生成した。PAX2構築物は、正確に標的化されたクローンの陽性選択のために含まれるfloxed PGK-ピューロマイシンカセットを含有し、その後、CREリコンビナーゼ発現ベクターのトランスフェクション後にCRE組換えによって除去された。POU4F3構築物は、FLPoに挟まれたPGK-ピューロマイシンカセットを含有し、その後、FLPoリコンビナーゼ発現ベクターのトランスフェクション後に除去された。ウイルスp2A配列を、多シストロン性mRNA転写物に由来する別々の遺伝子産物を生成するように含有させた。核局在化配列を、適切に局在化された可視化のために含有させた。単一ガイドRNAを使用して、挿入効率を最大化し、オフターゲット活性を最小化した。
【
図1a-2】a、PAX2-2A-nGFP及びPOU4F3-2A-ntdTomato CRISPR設計の概略図。2対の1kbホモロジーアームを、内耳主要PAX2bスプライスバリアント及びPOU4F3の唯一のスプライスバリアントの終止コドンを挟むようにPCRによって生成した。PAX2構築物は、正確に標的化されたクローンの陽性選択のために含まれるfloxed PGK-ピューロマイシンカセットを含有し、その後、CREリコンビナーゼ発現ベクターのトランスフェクション後にCRE組換えによって除去された。POU4F3構築物は、FLPoに挟まれたPGK-ピューロマイシンカセットを含有し、その後、FLPoリコンビナーゼ発現ベクターのトランスフェクション後に除去された。ウイルスp2A配列を、多シストロン性mRNA転写物に由来する別々の遺伝子産物を生成するように含有させた。核局在化配列を、適切に局在化された可視化のために含有させた。単一ガイドRNAを使用して、挿入効率を最大化し、オフターゲット活性を最小化した。
【
図1b-1l】b、内耳オルガノイド発生中のPAX2
nG及びPOU4F3
nTリポーター発現の略図。c~f、複数の発生中の内耳オルガノイドを含有する全凝集体のライブ画像は、PAX2
nGリポーター発現の時空間進行及びPAX2+上皮の初期形態形成を示す。g~h、内耳特異的マーカーFBXO2を同時発現するが、POU4F3
nT発現を含まない小胞に組織化されたPAX2
nG+上皮を示すhESC由来凝集体の代表的な画像。i~i’、上皮小胞に局在化した強力なPOU4F3
nT+点を示す後期段階(D96)の凝集体のライブ画像。j~l、内耳オルガノイド中のPOU4F3
nT+細胞はまた、有毛細胞マーカーMYO7A、ATOH1及びSOX2を発現し、SOX2+支持上皮の内腔表面に位置する。スケールバー、200μm(c~g、h、i、i’)、50μm(g’、h’)、10μm(j~l)。
【
図2a-2c】内耳オルガノイド誘導プロトコールの最適化。a、本発明者らの元のプロトコール対最適化されたプロトコールの比較の略図。b、元のプロトコール対最適化されたプロトコールの下で培養された本発明者らのPAX2
nG/POU4F3
nT多重リポーターhESC系に由来する内耳オルガノイドを含有する全細胞凝集体のライブ画像。c、最適化された培養プロトコール対元の培養プロトコールにおける培養結果の定量的比較。n=20(緑色のヒストグラム)、13(赤色のヒストグラム)の1群あたり別々の実験に由来する生体試料。Welchの両側t検定
***P=0.000132、
****P=0.000013(嚢胞数)、P<0.000001(直径)、スケールバー、200μm。
【
図3a】a~f、PUR+IWP2処置はヒト内耳オルガノイドにおける内耳前駆細胞の腹側化を促進する。a、マウス内耳発生中の既知の腹側化及び背側化シグナル並びにヒト内耳オルガノイド系へのこの原理の適用の略図。
【
図3b】b~d、ヒト内耳オルガノイドにおけるFACS選別されたPAX2
nG+内耳前駆細胞のD20 scRNA-seq分析。PUR+IWP2、PUR及びCTRL試料に由来する内耳前駆細胞のUMAP投影図(b)。フィーチャープロット(Feature Plot)は、背側内耳マーカーは主にPUR及びCTRL内耳前駆細胞中で発現されるが、腹側内耳マーカー及びSHHシグナル伝達成分は主にPUR+IWP2細胞に限定されることを示す。
【
図3c】これと一致して、ボルケーノプロット(Volcano plot)(c)は、PUR+IWP2とCTRL内耳前駆細胞との間で示差的に発現される背側及び腹側内耳マーカー遺伝子を示す。PUR+IWP2及びCTRL内耳前駆細胞において上方調節される遺伝子の遺伝子セットエンリッチメント分析(それぞれ、バブルプロットにおいて0より上及び下)
【
図3d】遺伝子発現の転写後調節、クロマチン改変及びヘッジホッグシグナル伝達と関連する遺伝子が、内耳オルガノイド中の腹側化された内耳前駆細胞において富化されていることを示す。
【
図3e】PUR+IWP2オルガノイド対CTRLオルガノイドにおいてNR2F1及びSUlF1の顕著により高い発現を示すD25試料の代表的な画像。
【
図3f】PUR+IWP2対CTRLオルガノイドにおいてPAX2及びNR2F1(又はSULF1)を同時発現する小胞の定量的分析;n=8の1群あたり別々の実験に由来する生体試料;Welchの両側t検定
*P=0.0013(NR2F1)、
*P=0.0089(SULF1);値は平均±SEMである。スケールバー、200μm。
【
図4a】a~g、腹側化された内耳オルガノイド中のPOU4F3
nT+細胞は蝸牛有毛細胞マーカーを発現する。a~d、D109 PUR+IWP2及びCTRL内耳オルガノイドから単離されたPOU4F3
nT+細胞のUMAP投影図(a)。
【
図4b】フィーチャープロットは、注釈された有毛細胞集団中での公知の蝸牛及び前庭マーカー遺伝子の示差的発現を示す(b)。
【
図4c】ボルケーノプロット(c)は、PUR+IWP2有毛細胞とCTRL有毛細胞との間で示差的に発現される蝸牛及び前庭有毛細胞マーカー遺伝子を確認する。さらに、NR2F1、TMPRSS3、CD164L2、ZBBX及びSKOR1などの以前は認識されていなかった遺伝子は、PUR+IWP2有毛細胞とCTRL有毛細胞との間で示差的に発現される。
【
図4d】クラスターにわたる遺伝子発現を示すヒートマップ(d)。
【
図4e】PUR+IWP2内耳オルガノイドとCTRL内耳オルガノイドとの間のNR2F1及びGATA3の示差的発現を検証する代表的な免疫組織化学。
【
図4f】PUR+IWP2対CTRL内耳オルガノイドにおけるNR2F1陽性有毛細胞又はGATA3陽性有毛細胞及び支持細胞のパーセンテージの比較;n=9の別々の実験に由来する生体試料;Welchの両側t検定
****P<0.000001;値は平均±SEMである。
【
図4g】NR2F1及びGATA3は、GW18でヒト蝸牛における外及び内有毛細胞の両方において発現される。スケールバー、20μm (e、g)。
【
図5a-5o】a~q、腹側化されたオルガノイドに由来する有毛細胞は蝸牛有毛細胞の構造特性を示す。a~h’、PUR+IWP2毛束の走査電子顕微鏡写真(a~b、f~g)は、蝸牛有毛細胞表現型に特徴的な増大する高さ及び直径の凹型の行に編成された比較的短い不動毛を示す。対照的に、CTRL毛束の走査電子顕微鏡写真(c~e、h~h’)は、天然の前庭有毛細胞に特徴的な同等の直径のものである凸型の行に編成された伸長した不動毛を示す。i~k’、PUR+IWP2処置された有毛細胞の共焦点顕微鏡画像(i~i’)は、短いF-アクチン+毛束及び基底部に位置する核を有する長方形の体細胞を示すが、CTRL有毛細胞のもの(j~k’)は、伸長したF-アクチン
+毛束及び球根状であることが多い又はフラスコ型の体細胞を示す。CTRL有毛細胞は、D200でも前庭形態を保持する(j)。p~q、PUR+IWP2有毛細胞(l~m)対CTRL有毛細胞(j~k’)における個々の不動毛の高さ及び直径の不動毛の定量的分析;n=50の別々の実験に由来する生体試料;Welchの両側t検定
****P<0.00001;値は平均±SEMである。スケールバー、10μm(c、i、j、k)、1μm(a、b、d~h、k’)。
【
図5p】腹側化されたオルガノイドに由来する有毛細胞は蝸牛有毛細胞の構造特性を示す。
【
図5q】腹側化されたオルガノイドに由来する有毛細胞は蝸牛有毛細胞の構造特性を示す。
【
図6a】a~h、腹側化されたオルガノイドに由来する有毛細胞のサブ集団はPRESTINを発現し、蝸牛外有毛細胞に特徴的な電位依存性電流を示す。a~b、PRESTIN+有毛細胞は、PUR+IWP2内耳オルガノイドにおいて時間と共に増加する。異なる年齢群間でPRESTINを発現する有毛細胞のパーセンテージの比較と共に、D102、-150、及び-200でのPUR+IWP2試料中のPRESTINに関する代表的な免疫組織化学は、培養物中で時間と共に膜性PRESTINを発現する有毛細胞の数の増加を示す。対照的に、PRESTINは、D110又は-200でCTRL有毛細胞中で検出不能である。
【
図6b】PRESTIN+有毛細胞は、PUR+IWP2内耳オルガノイドにおいて時間と共に増加する。異なる年齢群間でPRESTINを発現する有毛細胞のパーセンテージの比較と共に、D102、-150、及び-200でのPUR+IWP2試料中のPRESTINに関する代表的な免疫組織化学は、培養物中で時間と共に膜性PRESTINを発現する有毛細胞の数の増加を示す。対照的に、PRESTINは、D110又は-200でCTRL有毛細胞中で検出不能である。
【
図6c】ダイアモンドナイフによって切断したtdTomato陽性試料のライブ画像。
【
図6d】d~h、hESC由来有毛細胞における電位依存性電流。A型(d)及びB型(e)細胞における電圧ステッププロトコール(下のトレース)に対する典型的な全細胞電流応答(上のトレース)。
【
図6e】hESC由来有毛細胞における電位依存性電流。A型(d)及びB型(e)細胞における電圧ステッププロトコール(下のトレース)に対する典型的な全細胞電流応答(上のトレース)。
【
図6f】hESC由来有毛細胞における電位依存性電流。A型(f)及びB型(h)細胞における電圧ステップの終わりでの平均定常状態電流振幅。負の内向き電流のピーク振幅(g)。
【
図6g】hESC由来有毛細胞における電位依存性電流。A型(f)及びB型(h)細胞における電圧ステップの終わりでの平均定常状態電流振幅。負の内向き電流のピーク振幅(g)。
【
図6h】hESC由来有毛細胞における電位依存性電流。A型(f)及びB型(h)細胞における電圧ステップの終わりでの平均定常状態電流振幅。負の内向き電流のピーク振幅(g)。全データは、平均±標準誤差として示される。細胞の日齢:d138~d164。スケールバー、10μm(a)、200μm(c)。
【
図7a-7c】チロキシン処置は蝸牛オルガノイド中のPRESTIN+HCの数を増加させる。(a)プレスチン陽性HCの数は、オルガノイドが250ng/mLのチロキシンで処置された場合に増加する。(b)チロキシン処置されたオルガノイド及び処置されていないオルガノイドにおける経時的なプレスチン+HCの定量化。(c)チロキシン処置されたHCは、未熟HCマーカーSOX2を下方調節するが、SOX2発現はSC中で維持され、蝸牛成熟化の事象を要約する。
【
図8a】a~g、PAX2-2A-nGFP(PAX2
nG)リポーターhESC系の生成及び検証。a~b、PAX2アイソフォームの略図(a)及びPAX2bが幹細胞由来内耳オルガノイド中で発現される最も豊富なアイソフォームであることを示すRT-PCRデータ(b)。
【
図8b】PAX2アイソフォームの略図(a)及びPAX2bが幹細胞由来内耳オルガノイド中で発現される最も豊富なアイソフォームであることを示すRT-PCRデータ(b)。
【
図8c】(
図1a)に示されるプライマーセットを使用するPCR増幅は、PAX2遺伝子座での2A-nGFPカセットの両アレルの挿入(c)を示し、これはサンガー配列決定法によって確認された(d)。
【
図8d】(
図1a)に示されるプライマーセットを使用するPCR増幅は、PAX2遺伝子座での2A-nGFPカセットの両アレルの挿入(c)を示し、これはサンガー配列決定法によって確認された(d)。
【
図8e】未分化のPAX2
nGhESCの免疫蛍光は、複数の多能性マーカーの発現及び構成的PAX2
nGリポーター発現の非存在を示す。
【
図8f】切片化されたPAX2
nGhESC由来内耳オルガノイドの代表的な免疫組織化学は、D20までに内耳マーカーPAX8、並びにD25までにSOX10及びFBXO2を同時発現する上皮小胞に局在化したPAX2
nGの発現を示す。PAX2
nGの発現は持続的であり、D70でのライブイメージングによって検出することができる。SOX2/MYO7A+有毛細胞は、D70でPAX2
nG+小胞の内腔表面上で検出することができる。
【
図8g】上から10個の予測されたオフターゲットCRISPR部位に関する配列決定の結果は、周囲の遺伝子座での挿入も欠失もないことを示す。スケールバー、50μm(e)、200μm(f)。
【
図9a】a~h、PAX2-2A-nGFP/POU4F3-2A-ntdTomato(PAX2
nG/POU4F3
nT)リポーターhESC系の生成及び検証。a~b、POU4F3遺伝子座のPCR増幅は、2A-ntdTomatoリポーターカセットの両アレルの挿入を示す(a)。
【
図9b】サンガー配列決定は、POU4F3終止コドンのすぐ下流へのリポーターカセットの正確な挿入及び配向性を示す(b)。
【
図9c-9f】c~d、POU4F3
nTリポーター発現は、D60及びD100での小胞の内腔表面上の細胞に限定される。e、D80の内耳オルガノイドから単離された、解離したPOU4F3
nT+細胞の固定細胞懸濁液は、tdTomato+核並びにF-アクチン+膜及び不動毛を示す。f~f”、POU4F3
nThESCに由来するD110の内耳オルガノイドの免疫組織化学は、tdTomato+点がPCP4+有毛細胞の核を標識し、抗体標識されたPOU4F3と完全に共局在化することを示す。
【
図9g】上から10個の予測されたオフターゲットCRISPR部位に関する配列決定の結果は、周囲の遺伝子座に挿入も欠失もないことを示す。
【
図9h】PAX2
nG/POU4F3
nThESC系は正常な核型分析結果を示す。スケールバー、200μm(c、d)、10μm(e)、100μm(f)。
【
図10a】a~c、非神経外胚葉の誘導及び下流の蝸牛オルガノイド形成のためのBMP4濃度の最適化。a、0日目に適用された種々の濃度の組換えBMP4の下での経時的な細胞凝集体の代表的なライブ画像。別途、培養物は、内耳及び蝸牛分化プロトコールについて記載された条件で維持された。
【
図10b】20日目でのライブ画像におけるGFP+領域画分の定量化;n=4の条件あたりの凝集体;一元配置分散分析、Dunnetの多重比較検定、
*P<0.01。
【
図10c】55日目でのTdTomato発現細胞凝集体の母比率。スケールバー、200μm(a)。
【
図11a-11g】D20のCTRL、PUR、及びPUR+IWP2内耳オルガノイドにおけるPAX2
nG細胞のscRNA-seq分析。a、全凝集体からPAX2
nG+細胞を単離するために使用されるFACSゲーティング戦略。b、細胞クラスターはSeuratによって生成され、UMAPを使用して可視化された。c、注釈したクラスター内のマーカー遺伝子の相対発現を示すドットプロット。d、内耳前駆細胞、神経芽細胞及びサイクリング細胞の標準マーカーを示すフィーチャープロット。e、色付きの細胞は、各クラスター内の条件の分布を示す。スタックされたヒストグラムは、条件による各クラスターの組成を示す。f、D25のオルガノイド切片の代表的な免疫組織化学は、条件間のOTX2及びDLX3の示差的発現を示す。g、免疫組織化学によるPUR+IWP2条件とCTRL条件との間のOTX2及びDLX3発現の定量的比較;n=5の1群あたりの別々の実験に由来する生体試料;Welchの両側t検定
**P<0.01;
***P<0.0001;値は平均±SEMである。スケールバー、200μm。
【
図12a】a~j、タンパク質キナーゼA阻害は有毛細胞分化を促進することができない。a、10μMのH89のみ、又はPUR若しくはPUR+IWP2と組み合わせた10μMのH89で処置された又は処置されていないD25の内耳オルガノイドに関する局所的に発現される内耳マーカーOTX2、GATA3、及びDLX3の代表的な免疫組織化学。
【
図12b】SHH経路におけるH89の提唱される役割の略図。
【
図12c-12h】c、単一のPOU4F3
nT+内耳オルガノイドを示す、H89及びPURで処置されたD102の細胞凝集体のライブ画像。d、少数のPOU4F3
nT+点を示す、D102のPUR+H89処置された凝集体の代表的な画像。e、SOX2+上皮の内腔表面上でPOU4F3
nT+核を有するMYO7A+有毛細胞を示す、H89+PURで処置されたD102の内耳オルガノイドの免疫組織化学。f、蝸牛外有毛細胞マーカーLMOD3の検出可能な発現を示す、H89+PURで処置されたオルガノイドにおける有毛細胞の共焦点画像。g~h、ファロイジンで染色されたD102のH89+PUR処置された内耳オルガノイドの免疫組織化学は、前庭のような長さ及び形態を有する毛束を示す。
【
図12i】異なる処置群間でのOTX2、GATA3及びDLX3発現の定量的比較;n=5の1群あたり別々の実験に由来する生体試料;
*P<0.01;値は平均±SEMである。
【
図12j】異なる処置群間での、tdTomato発現凝集体のパーセンテージ(左のy軸)、及び凝集体あたりの総tdTomato陽性領域(右のy軸)の定量的比較;n=12の1群あたり別々の実験に由来する生体試料;Welchの両側t検定
*P<0.01;ns、有意でない;値は平均±SEMである。スケールバー、200μm(a~d)、20μm(e~g)、5μm(h)。
【
図13a】a~g、D80のCTRL及びPUR+IWP2内耳オルガノイドにおけるFACS選別されたPOU4F3
nT+細胞のscRNA-seq分析。a、POU4F3
nt+細胞の注釈したクラスターを示すUMAP投影図。
【
図13b】内耳及び神経マーカー遺伝子の分布を示すフィーチャープロット。
【
図13c】注釈したクラスター内のマーカー遺伝子の相対発現を示すドットプロット。
【
図13d】それぞれ、マゼンタ及びブルーで示されたPUR+IWP2有毛細胞とCTRL有毛細胞との間で示差的に発現された遺伝子を描写するボルケーノプロット。
【
図13g】それぞれ、マゼンタ及びブルーで示された、クラスターマップにわたる、及びPUR+IWP2有毛細胞とCTRL有毛細胞との間の蝸牛及び前庭遺伝子発現の分布を示すバイオリンプロットを伴うフィーチャープロット。
【
図14a】a~h、D109のCTRL及びPUR+IWP2内耳オルガノイドにおけるFACS選別されたPOU4F3
nT+細胞のscRNA-seq分析。a、PUR+IWP2及びCTRL条件における解離された109日目の内耳オルガノイドからPOU4F3
nT+細胞を単離するために使用されるFACSゲーティング戦略。
【
図14b】クラスターマップにわたるマーカー遺伝子の分布を示すフィーチャープロット。
【
図14c】GATA3及びMEIS2の発現パターンを示す二重フィーチャープロット。
【
図14d】PUR+IWP2条件におけるPOU4F3
nT+細胞の擬似時間分析は、有毛細胞様又は支持細胞様運命のいずれかを採用するLGR5+細胞に関する分岐した軌道を示す。
【
図14e】それぞれ、マゼンタ及びブルーで示された、PUR+IWP2条件とCTRL条件との間の蝸牛及び前庭マーカー遺伝子の分布を描写するバイオリンプロット。
【
図14f】PUR+IWP2及びCTRL条件において上方調節される遺伝子の遺伝子セットエンリッチメント分析(それぞれ、バブルプロットにおいて0より上及び下。)は、電位依存性カチオンチャネル活性と関連する遺伝子セットが、CTRLオルガノイドと比較した場合、PUR+IWP2内耳オルガノイドの有毛細胞において上方調節されることを示す。
【
図14g】PUR+IWP2内耳オルガノイドとCTRL内耳オルガノイドとの間のINSM1及びNDGR1の示差的発現を示す代表的な免疫組織化学。
【
図14h】PUR+IWP2及びCTRL内耳オルガノイドにおけるINSM1及びNDGR1の発現レベルの定量的比較;n=5の1群あたりの別々の実験に由来する生体試料;Welchの両側t検定
*P=0.001468、
***P<0.000012;値は平均±SEMである。スケールバー、20μm。
【
図15a-15g】a~m、PUR+IWP2及びCTRL内耳オルガノイド中の有毛細胞は異なる毛束形態を示す。a~c’’’、チップリンク(tip link)のアセンブリーを含む毛束組織の発生進行を示す、PUR+IWP2処置細胞に由来する毛束の走査電子顕微鏡写真。d~d’、PUR+IWP2有毛細胞の先端面上の不動毛の直径の増大を示す走査電子顕微鏡写真。e~f、D110及び-200でのPUR+IWP2処置有毛細胞の先端面上の短いF-アクチン+不動毛を示す共焦点顕微鏡画像。g、D200でPUR+IWP2有毛細胞と接触するTUJ1+神経突起プロセス。
【
図15h-15m】h~k、各毛束内で一貫した直径の不動毛を有する長い点の形態を示す、CTRL毛束の走査電子顕微鏡写真。l~l’、CTRL有毛細胞の表面上の長い点のF-アクチン+不動毛を示す共焦点顕微鏡画像。m~m’、-200日目でCTRL有毛細胞と接触するTUJ1+神経突起プロセス。スケールバー、1μm(a、b、c、d)、500nm(a’、c’、d’、j、k)、100nm(c”、c’’’)、10μm(e’、h、i、l’、m’)、20μm(e、f、g、l、m)。
【
図16a-16e】ヒト内耳オルガノイド発生の時系列は、ヒト胎児内耳発生のものを密接に反映する。天然のヒト蝸牛発生中の発生事象及び本研究において観察されたヒト蝸牛オルガノイド発生中の発生事象のタイミングを描写する略図。a~c”、ヒトGW13蝸牛の低倍率蝸牛軸切片(a)並びに内有毛細胞及び外有毛細胞の存在(b~b’)並びにこの段階での蝸牛有毛細胞におけるPRESTIN発現の欠如(c~c”)を示す免疫蛍光画像。d~e”、ヒトGW18蝸牛の低倍率蝸牛軸切片(d)及び外有毛細胞中での膜性PRESTIN発現を示す免疫蛍光画像(e~e”)。スケールバー、1000μm(a、d)、50μm(b、c、e)、20μm(b’、c’、e’)。
【
図17】内耳オルガノイドプロトコールの例示的な時系列。
図17に描写される例示的なプロトコールは、D0での凝集した幹細胞から始まり、D11~D13でPax2b
+内耳前駆細胞及び培養物中で約100日後にPRESTIN
+蝸牛有毛細胞をもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、ヒト多能性幹細胞から蝸牛有毛細胞を生成するための次世代オルガノイド系を開発した。このインビトロモデル系を使用して、聴覚障害並びに、難聴を含む、蝸牛有毛細胞の機能障害又は喪失を伴う疾患及び障害を処置するための療法をより適切に研究することができる。本発明者らは、ヒト多能性幹細胞の、聴覚を伝達することができる蝸牛有毛細胞への分化を指令するための方法を開発した。本発明者らは、マウス又はヒト多能性幹細胞の凝集体から内耳感覚上皮を生成するための方法を以前に開発したが、この系の大きな限界は、誘導される有毛細胞が天然の前庭有毛細胞の構造的及び機能的特性を単に担持するため、蝸牛細胞型の非存在であった。ここで、聴覚障害及び治療モダリティをより適切に研究するための両方のインビトロモデル系のために使用することができる、ヒト多能性幹細胞から蝸牛有毛細胞を生成するための次世代オルガノイド系が提供される。
【0022】
多能性幹細胞からインビトロで蝸牛有毛細胞を誘導する方法
本開示の一態様において、ヒト蝸牛有毛細胞を生成する方法が提供される。一部の実施形態において、ヒト蝸牛有毛細胞を生成する方法は、(a)少なくとも3~5日間にわたってソニックヘッジホッグの活性化因子を含む培地中でヒト多能性幹細胞に由来するPAX2
+内耳前駆細胞を培養するステップ;並びに(b)続いて、ステップ(a)の細胞を、GATA3、NR2F1、INSM1又はPRESTINの蝸牛有毛細胞マーカーのうちの1種以上を発現するヒト蝸牛有毛細胞に細胞を分化させるのに十分な時間量にわたって、ソニックヘッジホッグの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞を培養するステップを含む。好ましくは、ヒト蝸牛有毛細胞は、聴覚を伝達することができる。
図6d~6fを参照されたい。
【0023】
PAX2b
+内耳前駆細胞は、多能性幹細胞に由来してもよい。好適には、PAX2b
+細胞は、10~13日目までにヒト多能性幹細胞から誘導される(0日目は分化培地の開始である、例えば、
図2a及び3aを参照されたい。)。そのような場合、PAX2b
+内耳前駆細胞は、約18日目から約22日目までソニックヘッジホッグのアゴニストと共に培養される。次いで、細胞は、約18日目から約22日目までWnt阻害剤と共に培養される。SHHのアゴニストへのWnt阻害剤のその後の添加により、本方法は、驚くべきことに、細胞を、GATA3、NR2F1又はINSM1を発現する蝸牛有毛細胞に分化させることができる。所与のマーカー、例えば、GATA3、NR2F1又はINSM1の発現を、任意の公知の技術、例えば、RNA配列決定、定量的PCR(qPCR)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などによって測定することができる。PAX2b
+内耳前駆細胞は、(a)コーティングされたプレート上で約3日間にわたってFGF-2、BMP-4、及びSB431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(b)約4日間にわたって、FGF-2、SB431542及びLDN193189を含む培地中でステップ(a)の細胞をさらに培養するステップ;(c)約4日間にわたってCHIR99021、LDN193189、及びFGF-2を含む培地中でステップ(b)の細胞をさらに培養するステップ;約2日間にわたってコーティングされたプレート上でCHIR99021を含む培地中でステップ(c)の細胞をさらに培養して、PAX2b
+内耳前駆細胞を生成するステップによって分化させることができる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「蝸牛有毛細胞」とは、聴覚を伝達する蝸牛の細胞を指す。正常なヒト蝸牛には、2種類の蝸牛有毛細胞、内有毛細胞及び外有毛細胞が存在する。外有毛細胞は、電気運動性の特性を有する-細胞の長さを入ってくる音声信号に同期させることによって、音声信号の機械的増幅を提供する。この効果は、「蝸牛増幅器」と呼ばれ、哺乳動物の耳の周波数選択性を改善すると考えられる。外有毛細胞は、SLC26A5遺伝子によってコードされる運動タンパク質PRESTINの発現を特徴とする。内有毛細胞は、蝸牛の液体中の音響振動を検出し、それらを、聴覚神経を介して脳へ中継される電気信号に変換する。本明細書で誘導される蝸牛有毛細胞は、GATA3、INSM1、NR2F1、HES6、TMPRSS3、GNG8、又はPRESTINから選択される1種以上のマーカーを使用して検出され得る。一部の実施形態において、蝸牛有毛細胞は、GATA3、INSM1、NR2F1、HES6、TMPRSS3、GNG8、又はPRESTINから選択される2種以上のマーカーを発現し、一部の代替的な実施形態において、該細胞は、GATA3、INSM1、NR2F1、HES6、TMPRSS3、GNG8、又はPRESTINから選択される3種以上のマーカー又は4種以上のマーカーを発現する。一実施形態において、蝸牛有毛細胞は、GATA3、NR2F1、INSM1及びPRESTINの4種のマーカーを発現し、一部の実施形態において、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される1種以上のマーカーをさらに発現する。
【0025】
対照的に、「前庭有毛細胞」は、平衡及び重力の感覚を伝達する有毛細胞である。前庭器官は、三半規管並びに卵形嚢及び球形嚢を含む。発生中に、蝸牛は、耳胞の最も腹側の領域から誘導されるが、前庭構造は、より背側の耳領域を起源とする(したがって、背側内耳マーカーを発現する。)。
【0026】
したがって、蝸牛の内耳細胞は、前庭器官の内耳細胞と比較して「腹側化された」と称される。したがって、一部の実施形態において、本明細書に開示される発明は、背側/前庭有毛細胞を生成した以前の方法とは反対に、腹側化された有毛細胞を生成する新規方法を提示する。
【0027】
本発明の方法は、ヒト多能性幹細胞の凝集体に適用され、ソニックヘッジホッグ及びWntシグナル伝達のモジュレーションが、幹細胞由来内耳前駆細胞が腹側内耳マーカーを発現するのを促進することを見出した。驚くべきことに、これらの腹側化された内耳前駆細胞の一部は、蝸牛有毛細胞とよく似た形状に整列された不動毛で構成される短い毛束を有する有毛細胞を生じる。さらに、これらの腹側化された有毛細胞は、蝸牛において外有毛細胞又は内有毛細胞を規定する複数のマーカーを発現する。これらの結果は、初期の形態形成シグナルが、蝸牛遺伝子発現の確立だけでなく、蝸牛感覚上皮に関連する構造特性を規定するのに十分なものであることを示す。
【0028】
次に、本発明者らは、ソニックヘッジホッグ(SHH)経路の時限的活性化と共に、タンパク質キナーゼA(PKA)、骨形態形成タンパク質(BMP)及び/又はウィングレス(WNT、又はWnt)シグナル伝達の同時抑制が、腹側内耳遺伝子の上方調節を促進し、長期培養物中で蝸牛有毛細胞の生成をもたらし得ることを発見した。簡単に述べると、内耳前駆細胞は、少なくとも3~5日間にわたってソニックヘッジホッグシグナル伝達の活性化因子(SHHの活性化因子)を含む培地中で培養される。次に、細胞は、細胞を、GATA3、INSM1、NR2F1又はPRESTINの蝸牛有毛細胞マーカーのうちの1種以上を発現するヒト蝸牛有毛細胞に分化させるのに十分な時間量にわたって、SHHの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中で培養される。一部の実施形態において、蝸牛有毛細胞は、PRESTINを発現する。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、約13日目から約22日目まで、例えば、約10、9、8、7、6、5、4、3、又は2日間にわたって、SHHの活性化因子と共に培養される。一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、約18日目から約22日目まで、例えば、約6、5、4、3、2、又は1日間にわたって、Wnt阻害剤と共に培養され、0日目は、TGF-ベータ阻害剤、FGF2、任意選択的に、BMP-4を含む培地中で凝集した幹細胞の培養の開始である(
図2aを参照されたい。)。本開示では、培養D0は、多能性幹細胞からの内耳前駆細胞の生成の開始時に始まることが理解されるべきである(
図2Aを参照されたい。)。
【0029】
本発明者らは、開示される方法を実施する場合に、長期培養物(例えば、50日を超える。)が、成熟蝸牛有毛細胞のマーカー、例えば、PRESTINを発現する細胞を産生することを発見した。したがって、一部の実施形態において、SHHの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中での細胞の培養に続いて、細胞は、オルガノイド成熟化培地(OMM)中でさらに培養される。OMMは、0.5xN2 Supplement(Thermo Fisher、17502048)、0.5xB27マイナスビタミンA(Thermo Fisher、12587010)、1xGlutaMAX(Thermo Fisher、35050061)、0.1mM β-メルカプトエタノール(Thermo Fisher、21985023)、及びノルモシンを補った、Advanced DMEM:F12(Thermo Fisher、12634028)及びNeurobasal Medium(Thermo Fisher、21103049)の50:50混合物を含む。一部の実施形態において、細胞は、例えば、約50、60、70、80、90、100、150日以上にわたって、OMM中でさらに培養される。一部の実施形態において、細胞は、約100日を超えて、又は約150日を超えて培養される。一部の実施形態において、長期培養は、例えば、mRNA又はタンパク質の発現によって測定された場合、PRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される1種以上のマーカーを発現する細胞をもたらす。マーカーの検出は、標的分子の発現を検出するための当業界で公知の任意のアッセイ、例えば、免疫蛍光(IF)、免疫組織化学(IHC)、蛍光又は発光リポーター、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、RNA配列決定(RNA-seq)、単一細胞RNAseq(scRNA-seq)などを使用して実施され得る。
【0030】
SHHの例示的な活性化因子としては、限定されるものではないが、化合物SAG(3-クロロ-N-[trans-4-(メチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[[3-(4-ピリジニル)フェニル]メチル]-ベンゾ[b]チオフェン-2-カルボキサミドジヒドロクロリド)及びパルモルファミン、タンパク質スムーズンドのアゴニスト、(9H-プリン-6-アミン、9-シクロヘキシル-N-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-2-(1-ナフタレニルオキシ)-が挙げられる。一部の実施形態において、SHHの活性化因子は、パルモルファミンである。好適な濃度は、当業界で公知である。一部の実施形態において、SHHの活性化因子は、培養培地中で約1nM~約1mMの濃度を有し、好適には、パルモルファミンである。
【0031】
例示的なWnt阻害剤としては、限定されるものではないが、IWP-2(N-(6-メチル-2-ベンゾチオアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド)、Wnt-C49(2-(4-(2-メチルピリジン-4-イル)フェニル)-N-(4-(ピリジン-3-イル)フェニル)アセトアミド)、IWP L6(2-[(4-オキソ-3-フェニル-6,7-ジヒドロチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)スルファニル]-N-(5-フェニルピリジン-2-イル)アセトアミド)、及びIWP 12(2-[(3,6-ジメチル-4-オキソ-6,7-ジヒドロチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)スルファニル]-N-(6-メチル-1,3-ベンゾチアゾール-2-イル)アセトアミド)が挙げられる。一部の実施形態において、Wnt阻害剤は、IWP-2である。当業者であれば、好適な濃度を決定することができる。例えば、一部の実施形態において、Wnt阻害剤は、培養培地中で約1nM~約1mMの濃度である。Wnt阻害剤は、IWP-2であってよく、約1nM~1mMの濃度で使用される。
【0032】
例示的なTGF-ベータ阻害剤としては、SB-431542、ガルニセルチブ(LY2157299)、LY2109761、SB525334、SB505124、GW788388、LY364947、RepSox(E-616452)、TGFβRI-IN-3、R-268712、BIBF-0775、TP0427736HCl、A-83-01、SD-208、及びバクトセルチブ(TEW-7197)が挙げられる。TGF-ベータ阻害剤は、好ましくは、SB-431542であってもよい。
【0033】
上記のように、SHHの活性化因子とWnt阻害剤との両方と共に培養された細胞を、最初の22日を超えてさらに培養してもよく、例えば、細胞を、少なくとも50日間にわたって、あるいは、約100日間を超えてさらに培養してもよく、約22~25日目後の培地は、約22~25日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤を含まない。一部の実施形態において、細胞は、さらなるアゴニスト又は阻害剤を含まない培地に移動させる前に洗浄される。一部の実施形態において、細胞は、さらなるアゴニスト又は阻害剤を含まない培地中で約150日を超えて培養される。
【0034】
本発明者らは、チロキシン、例えば、250ng/mlのチロキシンの存在下での約50日目から約100日目までの細胞の培養は、細胞中でのPRESTIN発現の増加をもたらすことを発見した。したがって、細胞を、チロキシンの存在を除いて、約22~25日後にさらなるアゴニスト又は阻害剤の非存在下で培養することができる。そのような長期的培養後の細胞は、蝸牛有毛細胞マーカー、例えば、PRESTINを発現する。さらに、細胞は、蝸牛有毛細胞と関連する、PRESTIN、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択されるマーカーのうちの2種以上、あるいは、3種以上のマーカー、あるいは、4種以上のマーカー、あるいは、5種以上のマーカー、あるいは、6種全部のマーカーを発現する。
【0035】
一部の場合、細胞外マトリックスタンパク質の半固体組成物は、Geltrex(登録商標)基底膜マトリックスなどの市販の生成物である。Geltrex(登録商標)基底膜マトリックスは、StemPro(登録商標)hESC SFM又はEssential 8(商標)培地系を使用するヒト多能性幹細胞適用と共に使用するのに好適である。他の場合、半固体組成物は、例えば、ラミニン、エンタクチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、コラーゲン、Matrigel(商標)、又はそれらの組合せなどの2種以上の細胞外マトリックスタンパク質を含む。
【0036】
一部の実施形態において、本開示の方法は、「内耳前駆細胞」を生成するための方法から始まる。内耳前駆細胞は、PAX2(例えば、PAX2
+内耳前駆細胞。)、より具体的には、ヒト内耳の発生において、PAX2bの発現を特徴とする(
図8)。細胞が内耳前駆細胞になるように誘導される前に、細胞は、一部の実施形態において、凝集される。凝集体を形成させるために、多能性幹細胞の集密培養物を、Matrigel(登録商標)などの表面から、クランプ、凝集体、又は単一細胞に化学的、酵素的又は機械的に解離させることができる。一部の実施形態において、本開示の細胞を凝集させるために使用される培地は、好適なマトリックス、例えば、組換えヒトビトロネクチン-N、コラーゲン、マトリゲルなどの上に、100μg/mlノルモシンを補ったEssential 8 Flex Medium(Thermo Fisher、A2858501)(E8fn)を含む。一部の実施形態において、解離した細胞(クランプ、凝集体、又は単一細胞として。)は、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)/F12、mTeSR(商標)(StemCell Technologies;Vancouver、British Columbia、カナダ)、及びTeSR(商標)などのタンパク質非含有基本培地中、表面上にプレーティングされる。TeSR(商標)の全構成成分及び使用方法は、Ludwigらに記載されている。例えば、Ludwig Tら、「Feeder-independent culture of human embryonic stem cells」、Nat.Methods 3:637~646頁(2006);及びLudwig Tら、「Derivation of human embryonic stem cells in defined conditions」、Nat.Biotechnol.24:185~187頁(2006)(それぞれ、あたかもその全体が記載されたかのように参照により本明細書に組み込まれる。)を参照されたい。本明細書における使用にとって好適な他のDMEM製剤としては、例えば、X-Vivo(BioWhittaker、Walkersville、Md.)及びStemPro(登録商標)(Invitrogen;Carlsbad、Calif.)が挙げられる。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「多能性細胞」は、3種全部の胚葉、すなわち、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉の細胞に分化することができる細胞を意味する。多能性細胞の例としては、胚性幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞が挙げられる。本明細書で使用される場合、「iPS細胞」とは、そのそれぞれの分化した元の体細胞と実質的に遺伝的に同一であり、本明細書に記載されるように、ES細胞などのより高い効力の細胞と類似する特徴を示す細胞を指す。これらの細胞は、非多能性(例えば、多分化能又は体。)細胞を再プログラミングすることによって取得され得る。本明細書に開示される分化方法にとって好適な多能性幹細胞(PSC)としては、限定されるものではないが、ヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)、非ヒト霊長類胚性幹細胞(nhpESC)、非ヒト霊長類人工多能性幹細胞(nhpiPSC)が挙げられる。
【0038】
iPS細胞に再プログラミングするための対象特異的体細胞は、生検又は他の組織試料採取法によって目的の標的組織から取得又は単離され得る。一部の場合、対象特異的細胞は、使用前にインビトロで操作される。例えば、対象特異的細胞を拡大し、分化させ、遺伝的に改変し、ポリペプチド、核酸、若しくは他の因子と接触させ、凍結保存する、又はそうでなければ改変することができる。
【0039】
本明細書に記載される方法において使用される多能性幹細胞を培養するための規定の培地及び基質条件は、当業界で周知である。一部の例示的な実施形態において、本明細書に開示される方法に従って分化させようとする多能性幹細胞は、製造業者のプロトコールに従って、Corning(登録商標)Synthemax(登録商標)表面、又は一部の場合、Matrigel(登録商標)基質(BD Biosciences、NJ)上、mTESR(登録商標)-1培地(StemCell Technologies,Inc.、Vancouver、Calif.)、又はEssential 8(登録商標)培地(Life Technologies,Inc.)中で培養される。
【0040】
一部の実施形態において、多能性幹細胞の凝集体は、任意選択的に、Rhoキナーゼ(ROCK)阻害剤の存在下で培養される。ROCK阻害剤などのキナーゼ阻害剤は、単一細胞及び細胞の小さい凝集体を保護することが公知である。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2008/0171385号明細書;及び参照により本明細書に組み込まれる、Watanabe Kら、「A ROCK inhibitor permits survival of dissociated human embryonic stem cells」、Nat.Biotechnol.25:681~686頁(2007)を参照されたい。ROCK阻害剤は、化学的に規定された表面上で多能性細胞の生存を有意に増加させることが以下に示される。本明細書の使用にとって好適なROCK阻害剤としては、限定されるものではないが、(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジンジヒドロクロリド(非公式名:H-1152)、1-(5-イソキノリンスルホニル)ピペラジンヒドロクロリド(非公式名:HA-100)、1-(5-イソキノリンスルホニル)-2-メチルピペラジン(非公式名:H-7)、1-(5-イソキノリンスルホニル)-3-メチルピペラジン (非公式名:イソH-7)、N-2-(メチルアミノ)エチル-5-イソキノリン-スルホンアミドジヒドロクロリド(非公式名:H-8)、N-(2-アミノエチル)-5-イソキノリンスルホンアミドジヒドロクロリド(非公式名:H-9)、N-[2-p-ブロモ-シンナミルアミノ)エチル]-5-イソキノリンスルホンアミドジヒドロクロリド(非公式名:H-89)、N-(2-グアニジノエチル)-5-イソキノリンスルホンアミドヒドロクロリド(非公式名:HA-1004)、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンジヒドロクロリド(非公式名:HA-1077)、(S)-(+)-2-メチル-4-グリシル-1-(4-メチルイソキノリニル-5-スルホニル)ホモピペラジンジヒドロクロリド(非公式名:グリシルH-1152)及び(+)-(R)-trans-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド(非公式名:Y-27632)が挙げられる。キナーゼ阻害剤を、細胞が生存し、表面に付着したままになる十分に高い濃度で提供することができる。約3μM~約10μMの阻害剤濃度が、開示される方法にとって好適であり得る。より低濃度において、又はROCK阻害剤が提供されない場合、未分化の細胞は典型的には、剥離するが、分化した細胞は規定の表面に付着したままになる。
【0041】
内耳前駆細胞の形成を誘導するために、凝集した多能性幹細胞は、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)シグナル伝達の阻害剤、例えば、SB-431542、骨形態形成タンパク質(BMP-4)及び低濃度の線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)を含む培地中で約3日間培養される。本発明者らは、分化プロトコールのこの段階で凝集した幹細胞をBMP-4と共に培養することは、凝集体の培養開始後D55でPOU4F3
+細胞の割合を増加させることを発見した(
図10a)。さらに、BMP-4の濃度は、POU4F3
+細胞の割合に影響し(
図10b、10c)、約100pg/mlより高い、約200pg/mlより高い、約300pg/mlより高い、約400pg/mlより高い、約500pg/mlより高い、約600pg/mlより高い、約700pg/mlより高い、約800pg/mlより高い、約900pg/mlより高くてもよい。BMP-4の濃度は、約100pg/ml~約500pg/ml、例えば、約200、300、400、若しくは500pg/ml、又は約500pg/ml~約1000pg/ml、例えば、約500、600、700、800、900若しくは1000pg/mlであってもよい。次いで、細胞は、骨形成タンパク質4(BMP-4)シグナル伝達の阻害剤、例えば、LDN193189、及び高濃度のFGF-2を含む培地中で約4日間培養された後、細胞は、高濃度のFGF-2、BMP-4シグナル伝達阻害剤、及びグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)の阻害剤、例えば、CHIR99021を含む培地中で約4日間培養される。
図2aを参照されたい。
【0042】
一部の実施形態において、内耳前駆細胞は、(i)コーティングされたプレート上で約0日目から3日目まで、FGF-2及びTGF-ベータ阻害剤、例えば、SB-431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(ii)3日目~7日目にわたって、FGF-2、TGF-ベータ阻害剤及びBMP-4阻害剤、例えば、LDN193189を含む培地中でステップ(i)の細胞を培養するステップ;(iii)7日目~11日目にわたってGSK-3阻害剤、例えば、CHIR99021、BMP-4阻害剤を含む培地中でステップ(ii)の細胞を培養するステップ;並びに(iv)11~18日目にわたってコーティングされたプレート上でGSK3阻害剤を含む培地中でステップ(iii)の細胞を培養して、PAX+内耳前駆細胞を産生するステップの方法によって多能性幹細胞から誘導される。
【0043】
細胞組成物
本開示の別の態様において、細胞組成物が提供される。一部の実施形態において、組成物は、本明細書に記載の方法によって生成されたヒト蝸牛有毛細胞又はヒト蝸牛有毛細胞を含むオルガノイドを含む。例えば、ヒト蝸牛有毛細胞は、(a)少なくとも3~5日間にわたってソニックヘッジホッグの活性化因子を含む培地中でヒト多能性幹細胞に由来するPAX2
+内耳前駆細胞を培養するステップ;並びに(b)続いて、GATA3又はNR2F1の内耳マーカーのうちの1種以上を発現するヒト蝸牛有毛細胞に細胞を分化させるのに十分な時間量にわたって、ソニックヘッジホッグの活性化因子及びWnt阻害剤を含む培地中でステップ(a)の細胞を培養するステップによって生成される。蝸牛有毛細胞は、PRESTINを発現してもよい。ステップ(b)の細胞は、少なくとも50日間、あるいは、少なくとも100日間、あるいは、少なくとも150日間にわたってSSHの活性化因子又はWNT阻害剤を含まない培地中でさらに培養されてもよく、蝸牛有毛細胞は、PRESTIN、NR2F1、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8から選択される2種以上のマーカーを発現する。蝸牛有毛細胞は、PRESTIN、NR2F1、GATA3及びINSM1を発現してもよい。細胞は、HES6、TMPRSS3又はGNG8のうちの1種以上をさらに発現してもよい。これらの蝸牛有効細胞は、聴覚を伝達することができる。例えば、
図6d~6hを参照されたい。
【0044】
内耳前駆細胞は、(i)コーティングされたプレート上で0日目から3日目まで、FGF-2及びTGF-ベータ阻害剤、例えば、SB-431542を含む培地中で多能性幹細胞を培養するステップ;(ii)3日目~7日目にわたって、FGF-2、TGF-ベータ阻害剤及びBMP-4阻害剤、例えば、LDN 193189を含む培地中でステップ(i)の細胞を培養するステップ;(iii)7日目から11日目までGSK-3阻害剤、例えば、CHIR99021、BMP-4阻害剤を含む培地中でステップ(ii)の細胞を培養するステップ;並びに(iv)11日目から18日目までコーティングされたプレート上でGSK-3阻害剤を含む培地中でステップ(iii)の細胞を培養して、PAX+内耳前駆細胞を産生するステップの方法によって多能性幹細胞から誘導することができる。
【0045】
キット、プラットフォーム、及びシステム
本開示の態様において、キット、システム、及びプラットフォームが提供される。キット、システム、又はプラットフォームは、ソニックヘッジホッグの活性化因子、Wnt阻害剤、FGF-2、TGF-ベータ阻害剤、BMP-4阻害剤、GSK-3阻害剤、チロキシン、及び人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞のうちの1種以上を含んでもよい。キット、システム、又はプラットフォームはまた、固相支持体、ラミニン、エンタクチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、コラーゲン、Matrigel(商標)、又はそれらの組合せを含んでもよい。
【0046】
その他
文脈によって別途特定又は指摘されない限り、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「the」は、「1つ以上(one or more)」を意味する。例えば、「分子(a molecule)」は、「1つ以上の分子(one or more molecules)」を意味すると解釈されるべきである。
【0047】
本明細書で使用される場合、「約」、「およそ」、「実質的に」及び「有意に」は、当業者により理解され、また、それらが使用される文脈に応じてある程度まで変化する。それが使用される文脈を考慮しても当業者に明確でないこの用語が使用される場合には、「約」及び「およそ」とは、特定の用語のプラス又はマイナス10%以下を意味し、「実質的に」及び「有意に」は特定の用語のプラス又はマイナス10%を超えることを意味する。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「含む(include)」及び「含むこと(including)」は、用語「含む(comprise)」及び「含むこと(comprising)」と同じ意味を有する。用語「含む(comprise)」及び「含むこと(comprising)」は、特許請求の範囲に記載される構成要素への追加の構成要素のさらなる含有を許容する「オープン」な暫定的な用語であると解釈されるべきである。用語「からなる(consist)」及び「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲に記載される構成要素以外の追加の構成要素の含有を許容しない「クローズド」な暫定的な用語であると解釈されるべきである。用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、部分的にクローズドであり、特許請求される主題の性質を根本的に変更させない追加の構成要素のみの含有を許容すると解釈されるべきである。
【0049】
本明細書に記載の全ての方法は、本明細書で別途指摘しない限り、又は文脈によって別途明確に否定されない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書で提供される任意及び全ての例、又は例示的言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明の説明をより容易にすることを意図するものであり、別途特許請求されない限り、本発明の範囲に対して制限を課すものではない。本明細書における言語は、本発明の実施にとって必須であるものとしてあらゆる特許請求されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0050】
本明細書で引用された刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、あたかもそれぞれの参考文献が参照により組み込まれたかのように個別に、かつ具体的に示され、その全体が本明細書に記載されたのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0051】
本発明を実行するために本発明者らに公知の最良の様式を含む、本発明の好ましい態様は、本明細書に記載される。これらの好ましい態様の変形は、前述の説明を読む際に当業者に明らかになってもよい。本発明者らは、必要に応じて、そのような変形を用いることを当業者に期待し、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されるもの以外に本発明が実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用可能な法律によって許容されるような本明細書に添付される特許請求の範囲に記載される主題の全ての改変物及び等価物を含む。さらに、別途本明細書で指摘されない限り、又は別途文脈によって明確に否定されない限り、そのあらゆる可能な変形中の上記の要素の任意の組合せが本発明によって包含される。
【実施例】
【0052】
[実施例1] ヒト多能性幹細胞からの高忠実度蝸牛オルガノイドの操作
ヒト内耳は、身体の中で最も複雑な器官の1つであり、カタツムリ状の蝸牛及び前庭末端器官を含む3つの直交する半規管を有する。前者には、整然と列を成して配置された2つの異なる種類の機械感受性有毛細胞(HC)が存在する。内耳の形態形成は、胎児発生中の編み込まれたシグナル伝達事象によって調整される1~3。胚形成の間の内耳発生は、時間に関して99%を超える誤差なく成功する。実際、ほぼ10%の成人が中等度から深刻な難聴を有するが、誕生時の発生率は0.2%未満であり、これは、大多数の感音性難聴が、発生初期の内耳の中での細胞の出産後死滅又は機能障害の結果生じることを意味する4。
【0053】
インビトロでのヒト内耳発生の複雑なプロセスを要約するために、本発明者らは、マウス又はヒト多能性幹細胞の凝集体から内耳感覚上皮を生成するための規定の3D培養系を以前に確立した5~8。これらのいわゆる「内耳オルガノイド」は、感覚様ニューロンによって刺激される支持細胞層及び機能的有毛細胞を担持する。しかしながら、これらのオルガノイドは、天然の前庭有毛細胞のものと同等の構造的、生化学的及び機能的特性を有するが、任意の蝸牛細胞型を産生することができない有毛細胞を一貫して生成する。ヒト内耳発生をより適切にモデリングするために、本発明者らは、聴覚刺激の適切な検出にとって必須である蝸牛における2つの機械感受性有毛細胞である、外有毛細胞及び内有毛細胞を含有する新しいオルガノイド系を確立することを目標とした。
【0054】
結果
多重リポーターhESC系は培養最適化の増強を提供する
培養物中の内耳前駆細胞及び有毛細胞の誘導をモニタリングし、本発明者らの以前に公開されたプロトコール
5、8の効率を改善するために、本発明者らは、CRISPR/Cas9ゲノム操作技術を使用して、PAX2-2A-nGFP/POU4F3-2A-ntdTomatoリポーターヒト胚性幹細胞(hESC)系を生成した。PAX2は、インビボでの内耳前駆細胞の初期マーカーであるが、POU4F3発現は有毛細胞に非常に特異的であり、培養効率の後期読み出しを提供する。本発明者らは、PAX2bがヒト内耳オルガノイド組織において最も豊富に発現されるPAX2アイソフォームであることを初めて確認した(
図8a~b)。高忠実度Cas9
9及びこのアイソフォームの終止コドンを標的とするsgRNAを使用して、本発明者らは、内因性PAX2コード配列のすぐ下流に2A-nGFPカセットにノックインした。2A-ntdTomatoカセットを、親細胞系として確立されたPAX2-2A-nGFP hESCを使用してPOU4F3終止コドンの下流のPOU4F3遺伝子座に同様にノックインした(
図1a~b)。得られた多重リポーター細胞系は、オルガノイド培養12日目(D12)あたりから開始して核GFPを用いてPAX2+内耳前駆細胞を標識し、D35あたりから開始して核tdTomatoを用いてPOU4F3+有毛細胞を標識する(
図1c~m;
図8~9)。hESCリポーター系を使用して、本発明者らは、内耳誘導を最適化するための基本培地、低分子処置のタイミング及び持続期間を確立し、体系的に変化させた(
図2)。さらに、全ての内耳系列の分化は、非神経内胚葉を確立するためにBMPシグナル伝達を必要とするが、本発明者らは、本発明者らの蝸牛オルガノイド培養物が効率的な内耳誘導及びその後の有毛細胞生成のためのこのパラメーターに特に感受性であることを見出した(
図10)。最適化の後、有毛細胞を産生する凝集体の数は、本発明者らの以前のプロトコール
8、10に対して倍化し、凝集体あたりの有毛細胞の数は20倍増加した。
【0055】
SHH及びWNT経路の逐次的モジュレーションによる内耳オルガノイドの腹側化
内耳発生中に、蝸牛構造は、耳胞の最も腹側の領域から誘導されるが、前庭構造は、より背側の耳領域を起源とする1。本発明者らの培養プラットフォームは、自己誘導性分化及びパターン形成に一部依拠し、以前に報告された内耳オルガノイドプロトコールと同様、本発明者らの最適化された基本制御(CTRL)培養系は、前庭表現型の有毛細胞を一貫して生成する。本発明者らは、胚発生においてと同様に、耳胞に対して外因性のシグナルが、蝸牛誘導にとって必要であり得るとの仮説を立てた。神経管の底板及び下部の脊索から分泌されるシグナル伝達分子であるソニックヘッジホッグ(SHH)は、腹側耳胞のパターン形成にとって必須である。SHHは、マウス及びニワトリにおいて耳胞を腹側化し、蝸牛構造を誘導するのに必要かつ十分である11、12。より最近の研究により、これらの以前の報告が裏付けられ、SHH経路の活性化がcAMP依存性タンパク質キナーゼA(PKA)の阻害をもたらし、それにより、標的GLI3の下流でSHHのタンパク質分解的プロセシングを減少させ、腹側関連遺伝子の発現を調節することが示された12。対照的に、WNT及びBMPシグナル伝達経路は、内耳発生中の背側遺伝子発現の誘導において役割を果たすことが示された13、14。
【0056】
これらの以前のマウス遺伝学研究に基づいて、本発明者らは、SHH経路の時限的活性化が、PKA、BMP及び/又はWNTシグナル伝達の同時的抑制と共に、腹側内耳遺伝子の上方調節を促進し、長期培養物中での蝸牛有毛細胞の生成をもたらし得るとの仮説を立てた(
図3a)。この仮説を検査するために、本発明者らは、低分子SHHアゴニストであるパルモルファミン(PUR)のみの存在下で、又はBMP(LDN)、WNT(IWP2)、及びPKA(H89)の阻害剤と組み合わせたパルモルファミンの存在下で、hESC由来凝集体を培養した(
図3a)。簡潔にするために、ここで提示される順列は包括的なものではなく、SHH活性化のみ(PUR)、又はWNT阻害と組み合わせたSHH活性化(PUR+IWP2)からの結果を含む。
【0057】
本発明者らは、CTRL、PUR又はPUR+IWP2条件下で生成された凝集体に由来するD20のPAX2-nGFP+選別された細胞に対して高効率単一細胞RNA配列決定(scRNA-seq)分析を実施した。それぞれの条件は、条件あたり1つのバッチで、別々に分析された。合計37,073個の細胞を収集し、各バッチに由来する細胞を混合し、一緒にクラスター化した。Seurat v3.2に実装されたような偏りのないクラスタリングは、PUR+IWP2条件に由来するEPCAM/FBXO2+内耳前駆細胞が異なるクラスターを形成するが、PUR及びCTRL内耳前駆細胞は一緒にクラスター化することを示した(
図3b;
図11)。全部で3種の条件に由来する内耳前駆細胞が単離され、その後の条件間の示差的発現分析は、DLX5、MSX1、GPR166、及びACSL4などの背側内耳マーカーはPUR及びCTRL処置細胞に大まかに限定されるが、OTX1/2、NR2F1/2、EDN3、及びRSPO3を含む腹側内耳マーカーはPUR+IWP2条件に集中していることを示した。さらに、SULF1、LRP2、GAS1、及びPTCH1などのSHH経路に関与する遺伝子はPUR+IWP2処置細胞において高度に発現されたが、その発現はCTRL及びPUR処置された前駆細胞において減弱された(
図3c)。これと一致して、遺伝子セットエンリッチメント分析(GSEA)
15は、未処置のCTRL内耳前駆細胞と比較した場合、PUR+IWP2処置された内耳前駆細胞において、ヘッジホッグ経路と関連する遺伝子セットの富化及び標準WNT経路と関連する遺伝子セットの下方調節を示した。さらに、PUR+IWP2処置された内耳前駆細胞の分析は、遺伝子発現の転写後調節のための複数の富化された遺伝子セット、クロマチン改変、並びにZNF711、MORC2、GCM2及びBARHL1などの転写因子をコードする公知の遺伝性難聴遺伝子の標的から構成される遺伝子セットを示した(
図3d)。
【0058】
本発明者らは、D25オルガノイドを使用してNR2F1、SULF1、及びOTX2に関する免疫蛍光と共にscRNA-seqデータを実証した(
図3e;
図11)。本発明者らは、PUR及びIWP2を用いた逐次処置後のhESC由来内耳前駆細胞のより効率的な腹側化が、少なくとも部分的には、SHHの下流の遺伝子標的のモジュレーションに起因すると結論付けた。本発明者らは、単独の、又はPUR及びIWP2と組み合わせた、細胞透過性PKA阻害剤である低分子H89の効果を検査したが、これらの処置はいずれも、有毛細胞の誘導において有効ではなかった(
図12)。
【0059】
腹側化された内耳オルガノイドにおける内耳前駆細胞は蝸牛有毛細胞を生じる
PUR+IWP2処置された凝集体及びCTRL凝集体を、D22から前方へ外因性シグナル伝達分子又は増殖因子を含まない規定の培養培地中で増殖させた。PUR+IWP2処置されたHCとCTRL HCとの間で転写プロファイルを比較するために、D80及び-109のPOU4F3-ntdT+選別細胞をscRNA-seqによって分析した。本発明者らは、高及び低POU4F3発現細胞を収集するために非ストリンジェントなFACSゲーティング戦略を用いて、それぞれ、D80及び-109の試料について、3,332個(合計17,668個の細胞のうちの18.9%。)及び4,582個の有毛細胞(合計16,044個の細胞のうちの28.6%。)からの配列データの回収を得た。D20のscRNA-seqデータと同様、細胞を偏りのないクラスタリングにかけた場合、CTRL有毛細胞からPUR+IWP2有毛細胞が分離した(
図4a~b;
図13~14)。2つの条件間で発現された遺伝子の差異を示すボルケーノプロットは、GATA3、INSM1、HES6、TMPRSS3及びGNG8を含む、いくつかの公知の蝸牛有毛細胞マーカー
16~19を同定し、その発現はD109でCTRL有毛細胞に対してPUR+IWP2処置された有毛細胞において有意により高かった(
図4c;
図14)。PUR+IWP2及びCTRL有毛細胞のGSEAは、電位依存性カチオンチャネル活性と関連する遺伝子セットはPUR+IWP2有毛細胞において上方調節されるが、繊毛及び微小管関連遺伝子はCTRL有毛細胞において上方調節されることを示した(
図14)。
【0060】
本発明者らのscRNA-seqデータと一致して、PUR+IWP2処置されたオルガノイドの免疫蛍光は、POU4F3+細胞が、NR2F1及びGATA3などの、有意により高いレベルの蝸牛有毛細胞マーカータンパク質を発現し(
図4e~f)、これが妊娠週数(GW)18でヒト胎児蝸牛の有毛細胞にて確認されたことを示した(
図4g)。
【0061】
PUR+IWP2オルガノイドとCTRLオルガノイドとの間の誘導される有毛細胞の先端面での毛束の構造特性を比較するために、走査電子顕微鏡観察を実施した(
図5a~h)。表皮板の中央の運動毛の出現から、典型的には、マウス内耳において見られる、不動毛の階段パターンの発達までの、毛束の構造的発達
20が、オルガノイド有毛細胞において観察された(
図15)。本発明者らはまた、個々の不動毛間でチップリンク様構造も検出した(
図15)。これらの暫定的な特性は、マウス蝸牛における毛束の発達を要約する。D110~200のCTRLオルガノイドにおいて、本発明者らは、前庭有毛細胞に特徴的な、毛束の長い点の配置を一貫して観察した。極めて対照的に、毛束の長さは、PUR+IWP2処置された試料において有意に短く、不動毛は線状又は凹形状に配置されることが多く、マウス蝸牛における内有毛細胞の先端面での不動毛とよく似ていた(
図5a~h;
図15)。高解像度共焦点顕微鏡観察は、PUR+IWP2処置された有毛細胞と、未処置のCTRL有毛細胞との間で不動毛の配置及び全体の長さの差異を示すことによってこれらの結果を実証した(
図5i~l)。さらに、個々の不動毛の直径及び長さは、PUR+IWP2処置された毛束において正に相関していた。対照的に、個々のCTRL不動毛の直径は、その変化する長さに沿って均一であった(
図5m;
図15)。PUR+IWP2有毛細胞と対照有毛細胞との間の毛束のこれらの構造的差異は、哺乳動物内耳における蝸牛有毛細胞と前庭有毛細胞との間で観察された構造的差異と一致している。
【0062】
PUR+IWP2処置された有毛細胞の同一性を評価するために、本発明者らは、蝸牛外有毛細胞のホールマークであるPRESTIN
21の発現を試験した。膜局在化PRESTINは、早くもD102で一部の試料中で検出可能であり(HCの0.33%)、発現は培養物が加齢するにつれてより広くなる。D150及びD200には、それぞれ、全てのPUR+IWP2処置された有毛細胞の12.6%及び16.8%が、膜局在化PRESTINを発現する(
図6a~b)。対照的に、PRESTINは、D200まで、いかなるCTRL有毛細胞中でも検出不能であった(
図6a)。hESC由来有毛細胞の機能的発生を評価するために、本発明者らは、強力なtdTomatoリポーターを示す細胞中で電位依存性イオン伝導率の従来の全細胞パッチクランプ記録を実施した(
図6c)。2つの機能的に異なる種類の細胞が、K
+に基づく細胞内溶液を用いて同定された。第1群(A型)の細胞がより頻繁に観察され(78%)、成熟蝸牛外有毛細胞と同様
22、内向き電流の実質的な不在及び速い外向き電流を特徴としていた(
図6d、f)。あまり頻繁ではない(22%)細胞(B型)は、遅い外向きの電流(
図6e、h)及び顕著な速い内向きの電流(
図6g)を示し、未熟な内有毛細胞におけるK
+及びNa
+電流とよく似ていた
22。両方の種類の細胞が、類似する逆転電位を有し(平均=-34.7mV、-17.5~-55.5mVの範囲。)、静止電位で活性化されたKCNQ型の速いK
+電流の証拠を示さなかった
22。
【0063】
以前の研究は、甲状腺ホルモンが有毛細胞成熟化にとって必須であること、及びチロキシンによる出生後置換がPAX8欠損マウスにおいて内耳表現型をレスキューすることを示した
31。さらに、甲状腺ホルモンは、slc26a5プロモーター領域中のチロキシン応答エレメントによって直接的にPRESTIN発現を調節することが示された
32。本発明者らは、本発明者らの蝸牛オルガノイド培養物中でのPRESTIN発現の開始の遅延及び不完全なHC成熟化が、少なくとも部分的には、甲状腺低下性培養条件に起因し得ると推論した。培養50日目(蝸牛培養物中でのHCの最初の出現のあたり。)からD100まで250ng/mLのT4で処置した培養物は、D100で、又はD150でも、補給しなかった培養物よりもはるかに多くのPRESTIN+HCを有していた(約80%対約1%対約13%)(
図6a、
図7a、b)。さらに、SOX2発現もT4で処置したHCにおいて下方調節されたが(
図7c)、支持細胞又は非補給HCにおいては下方調節されず、これは、甲状腺ホルモンシグナル伝達が蝸牛オルガノイド培養物の成熟化にとっても必要とされることを示唆している。
【0064】
考察
内耳オルガノイドのための既存のプロトコールは、天然の前庭有毛細胞のものと類似する構造的、分子的、及び生理学的特性を有する有毛細胞のみを得るものである。この実験例は、他方で、オルガノイドにおいて蝸牛有毛細胞型を誘導するための手段の開発を証明する。耳胞の背腹軸をわたる勾配SHH濃度は内耳発生の間の主な腹側化の合図と考えられるため、本発明者らは、D20のオルガノイドにおける遺伝子発現の変化に対する、強力なスムーズンドアゴニストPURの効果を最初に検査した。SHH経路のみの増大では、腹側内耳マーカー発現の促進にとって十分ではなかった。以前の報告はPKA活性がSHH経路のメディエーターであることを示唆しているため、腹側化条件をさらに強化するために、本発明者らは、PKA阻害剤H89を適用した。PUR及びH89による併用処置は腹側内耳マーカー、OTX2及びGATA3の発現を促進したが、この処置はPOU4F3+有毛細胞を誘導する効率を大きく低下させ、本発明者らにこの手法を断念させた。同時に、本発明者らは、hESC由来凝集体を、最初の5日間はWNT阻害剤IWP2で同時処置し、PURによる処置を行った。この処置は、背側内耳マーカーを抑制しながら、腹側内耳マーカーの有意な上方調節をもたらした。本発明者らはまた、CTLR又はPUR処置された試料中ではなく、PUR+IWP2処置された試料において、SULF1、LRP2、GAS1及びPTCH1などのSHHの下流のエフェクターの有意な上方調節も観察したが、内耳前駆細胞の腹側化が、WNTシグナル伝達によって拮抗されるリガンド受容体及び下流のエフェクターの上方調節を含む、SHH経路活性化の閾値を必要とすることを示唆している。
【0065】
D80及び-109の試料の本発明者らのscRNA-seq分析は、PUR+IWP2処置された有毛細胞及び未処置の対照有毛細胞が異なる転写プロファイルを示すことを示した。これらの2つの細胞集団間で示差的に発現される遺伝子のうち、NR2F1及びGATA3が、D80と-109との両方においてPUR+IWP2処置された有毛細胞中で最も高く発現されたが、転写経路におけるコアエレメントのための潜在的な候補としてのこれらの2つの遺伝子が蝸牛分化をもたらすことを示唆している。GATA3は、前庭組織に対して蝸牛において主に発現されることが示されたが23、24、蝸牛の特定化におけるオーファン核受容体NR2F1/2の役割に関してはほとんど知られていない。NR2F1の標的化された不活化は、発生中のマウス蝸牛において過剰の有毛細胞及び支持細胞をもたらし、これはNotchシグナル伝達成分の調節異常と関連している25。NR2F1/2はリガンド依存性転写因子として機能すると考えられ、そのため、蝸牛細胞型に分化する能力を有する多能性内耳前駆細胞を提供するためのマスタードライバー(master driver)として作用することができる。しかしながら、NR2F1/2がOTX2発現の直接的調節によって耳胞の背腹パターン形成において必須の役割を果たすことが示されたことは注目に値する26。
【0066】
本発明者らは、外又は内蝸牛有毛細胞として腹側化された内耳オルガノイド中で誘導された有毛細胞をさらに分類することを求めた。構造的には、これらの有毛細胞は、典型的には、哺乳動物蝸牛の内有毛細胞において見られる、変化する直径を担持する短い不動毛を有するU型の毛束を示す27、28。しかしながら、マウスにおける外有毛細胞分化にとって必須のジンクフィンガー転写因子29であるINSM1は、PUR+IWP2処置されたオルガノイドの有毛細胞において主に発現されるが、内有毛分化のためのパイオニア因子30であるTBX2の発現はPUR+IWP2と対照有毛細胞との間で有意に異ならない。さらに、本発明者らの電気生理学的記録は、D138~164のPUR+IWP2オルガノイドにおける2つの異なる有毛細胞集団を同定した。これらの有毛細胞の約78%が、内向き電流の実質的な不在及び速い外向き電流を特徴としたが、これは、マウス蝸牛において内有毛細胞ではなく天然の外有毛細胞と類似している。これは、外有毛細胞マーカーPRESTINを発現する有毛細胞の集団がより少なく観察されることと矛盾しているように見える。D109でのscRNA-seqは、わずか1.6%のPUR+IWP2有毛細胞が、PRESTINをコードするSLC26A5を発現し、わずか6.4%のこれらの有毛細胞が、内有毛細胞マーカーであるVGLUT3をコードするSLC17A8を発現することを示した31。PRESTIN+有毛細胞の割合はD102から200までPUR+IWP2オルガノイドにおいて時間と共に増加するため(0.33%~16.8%まで)、本発明者らの結果は、多くの誘導された有毛細胞が、scRNA-seq実験を実施した場合に完全な表現型成熟化に達しなかったことを集合的に示唆する。
【0067】
本発明者らの転写及び構造分析に基づくと、hESC由来蝸牛オルガノイド発生の時間経過は、ヒト蝸牛発生のものとかなり類似し、D110の蝸牛オルガノイドはGW18でのヒト胎児蝸牛とほぼ一致している(
図16)。さらに、マーカー発現の順序も、MYO7A発現に先行するATOH1発現を示す蝸牛オルガノイドにおいて正確に要約される。PRESTINは、GW18ではヒト胎児蝸牛の外有毛細胞において検出されるが、GW13では存在しない。同様に、PRESTINは、D200ではPUR+IWP2処置されたオルガノイド中の有毛細胞の約16%において検出されるが、D102ではほとんど検出不能である。これらの結果は、本研究において本発明者らが確立した蝸牛オルガノイドが、妊娠第3期でのヒト蝸牛と同等の発生段階に到達することができることを示唆する。
【0068】
本発明者らは、SHH及びWNT経路のモジュレーションが、腹側内耳表現型を示す多能性内耳前駆細胞を提供し、その後、その一部は、2種類の蝸牛有毛細胞、内及び外有毛細胞の構造的、転写的及び機能的特性を示す有毛細胞を生じ、インビトロでヒト胎児発生の妊娠第3期に対応する段階に成熟することを実証している。さらに、scRNA-seq分析は、蝸牛及び前庭多様化にとって必須の重要な転写経路のための以前には認識されていなかった候補としてNR2F1を同定する。転写経路と構造的発達との間のクロストークの基礎となる機構を解明し、内有毛細胞対外有毛細胞の生成を制御するための手段を確立するためには、さらなる調査が必要である。本発明者らが本研究において確立した蝸牛オルガノイドは、ヒト蝸牛発生の生物学を調査し、遺伝性難聴の病因を解明し、重度の難聴を処置するための治療標的を同定するための強力なヒトモデルとして役立つと期待される。
【0069】
材料及び方法
CRISPR/Cas9を用いたPAX2/POU4F3リポーターhESC系の確立
3D培養物中での内耳前駆細胞の誘導をモニタリングするために、本発明者らは、CRISPR/Cas9ゲノム操作技術を使用して、内因性PAX2遺伝子座に2A-eGFP-nls(2A-nGFP)蛍光リポーターを組み込むことによって、PAX2リポーターhESC系を生成した。終止コドンの位置に基づいて、PAX2スプライスバリアントを、PAX2b、PAX2c、及びPAX2d型として分類することができる32~34。PCR増幅を、D40のヒト内耳オルガノイドに由来するcDNAライブラリー上で、並びにサイズ参照のためのPAX2b、PAX2c、及びPAX2d合成cDNA gBlock(IDT)上で実施した。PCRアンプリコンのアガロースゲル電気泳動、次いで、抽出された最も明るいバンドのサンガー配列決定検証は、PAX2bがヒト内耳オルガノイド中の最も豊富な型のPAX2アイソフォームであることを示した。したがって、gRNA及びホモロジーアームは、PAX2b終止コドン遺伝子座を標的とするように設計された。PAX2-2A-eGFP-nls-pA-loxP-PGK-Puro-pA-loxPドナーベクターを構築するために、PAX2b終止コドンを挟む2つの1kbのホモロジーアームを、WA25 hESC(WiCell)ゲノムDNAからPCR増幅した。Gibsonアセンブリー35を使用して、2つのホモロジーアームを、2A-eGFP8、36、nls-stop-bGHポリA(gBlock、IDT)、及びloxP-PGK-Puro-pA-loxP DNA断片8、36、並びに線状化されたpUC19プラスミド骨格と、最終ドナーベクター中で接続した。PAX2b終止コドンを標的とするgRNA(5’-ATGACCGCCACTAGTTACCG-3’(配列番号29))を、U6プロモーター(Addgene #71814)の制御下で発現プラスミド中にクローニングした37。PAX2-2A-nGFPドナーベクター、PAX2b gRNAプラスミド、並びに高忠実度Cas9発現プラスミド(SpCas9-HF1、Addgene #72247)9を、P3 Primary Cell 4D-Nucleofector Xキット及びProgram CB-150を使用して、4D Nucleofector(Lonza)と共にWA25 hESC中にトランスフェクトした。ヌクレオフェクション後、細胞生存率の改善のための1xRevitaCell(Thermo Fisher)、及びより高いHDR効率のための1μMのScr7(Xcessbio)を含有するE8fn培地中に細胞をプレーティングした38。0.5μg/mLのピューロマイシン選択を、ヌクレオフェクションの48時間後から開始して14日間にわたって実施した。2つのloxP部位によって挟まれたPGK-Puroサブカセットを、Creリコンビナーゼ発現ベクター(Addgene #13775)のヌクレオフェクションによるピューロマイシン選択後にゲノムから除去した。クローン細胞系を、解離した単一のhESCの低密度播種(1~3個の細胞/cm2)、次いで、5~7dの拡大後のhESCコロニーの単離によって確立した。クローン細胞系の遺伝子型を、PCR増幅、次いで、ゲル電気泳動、及びTOPOベクター(Thermo Fisher)中にクローニングされた全PCRアンプリコン又は個々のPCRアンプリコンのサンガー配列決定によって分析した。両アレルの2A-nGFPを組み込んだ細胞系を、その後の実験のために使用した。gRNAの上から10個の予測されたオフターゲット部位を、確立された細胞系のゲノムDNAからPCR増幅し(約1kb)、サンガー配列決定を行って、オフターゲット突然変異について試験した。
【0070】
PAX2-2A-nGFP/POU4F3-2A-ntdTomato多重リポーター細胞系を構築するために、POU4F3-2A-ntdTomatoノックインCRISPRを、PAX2-2A-nGFP遺伝子バックグラウンド上で実施した。POU4F3-2A-tdTomato-nls-bGHポリA-frt-PGK-Puro-pA-frtドナープラスミドを、Gibsonアセンブリーによって以下のDNA断片を接続することによって構築した:WA25ゲノムDNA、2A-tdTomato gBlock DNA、nls-stop-bGH pA gBlock DNA、frt-PGK-Puro-frt gBlock DNA(IDT)、及び線状化されたpUC19骨格から増幅したPOU4F3終止コドンを挟む2つの1kbホモロジーアーム。完成したドナープラスミドを、POU4F3終止コドン遺伝子座を標的とする合成sgRNA(5’-ATTCGGCTGTCCACTGATTG-3’(配列番号30))(Synthego)、及び高忠実度Cas9タンパク質(HiFi Cas9 v3、IDT)から構成されるリボ核タンパク質複合体と共にPAX2-2A-nGFP親hES細胞系にトランスフェクトした。また、P3 Primary Cell 4D-Nucleofector Xキット及びProgram CB-150を使用する4D Nucleofector(Lonza)を用いてトランスフェクションを実施した。ヌクレオフェクション後、1xRevitaCell(Thermo Fisher)及び1μMのScr7(Xcessbio)を含有するE8fn培地中に細胞をプレーティングした。0.5μg/mLのピューロマイシン選択を、ヌクレオフェクションの48時間後から開始して9日間にわたって実施した。frtに挟まれたPGK-Puroカセットを、FLPoトランスフェクション(Addgene #13793)によって除去した。クローン細胞系の単離及び遺伝子型決定手順は、PAX2-2A-nGFP CRISPRのものと同じであった。下流の実験のために選択された最終的な多重細胞系は、PAX2遺伝子座に両アレル2A-nGFPノックイン及びPOU4F3遺伝子座に両アレル2A-ntdTomatoノックインを有し、KaryoLogic Inc.(Research Triangle Park、North Carolina)によって核型決定された。
【0071】
オルガノイド培養
PAX2-2A-nGFP/POU4F3-2A-ntdTomato hESC(22~50回継代)を、組換えヒトビトロネクチン-N(Thermo Fisher、A14700)でコーティングした6ウェルプレート上で、100μg/mlノルモシンを補ったEssential 8 Flex Medium(Thermo Fisher、A2858501)(E8fn)中で維持及び継代した。ヒト内耳オルガノイドを、大きな改変を有する本発明者らの以前のプロトコール8、10に基づいてhESCから誘導した。簡単に述べると、hESCを、StemPro Accutase(Thermo Fisher、A1110501)を用いて解離させ、20μMのY-27632(Stemgent、04-0012-02)を含有する100μLのE8fn中、低接着96ウェルU底プレート上にウェルあたり3500個の細胞で分配し、120gで5分間、強制的に凝集させた。4時間を超えるインキュベーションの後、100μLのE8fnを各ウェルに添加した。非神経上皮の誘導を、以下のように、分化の0日目にマークして、凝集の48時間後に行った:凝集体を、HEPES緩衝剤を含むDMEM:F12(DFH)(Thermo Fisher、11320033)中で徹底的に洗浄し、4ng/mL-1のFGF-2(StemCell Technologies、780003)、10μMのSB-431542(Stemgent、04-0010-05)、及び2%の増殖因子低減(GFR)Matrigel(Corning、354230)を含有するノルモシンを含む100μLのE6培地(Thermo Fisher、A1516401)(E6n)中、新しい96ウェルU底プレートに移した。分化の3日目に、50ng/mLのFGF-2及び200nMのLDN-193189(Stemgent、04-0074-02)を含有する25μLのE6nを、各ウェルに添加した。培養培地を、7及び9日目に、3μMのCHIR99021(Reprocell、04-0004-10)、200nMのLDN、及び50ng/mLのFGF-2を含有するE6nと交換した。11日目に、凝集体を洗浄し、1%のGFR Matrigel及び3μMのCHIR99021を含有するオルガノイド成熟化培地(OMM)中、Nunc Delta表面6ウェル培養皿に移した。OMMは、0.5xN2 Supplement(Thermo Fisher、17502048)、0.5xB27マイナスビタミンA(Thermo Fisher、12587010)、1xGlutaMAX(Thermo Fisher、35050061)、0.1mM β-メルカプトエタノール(Thermo Fisher、21985023)、及びノルモシンを補った、Advanced DMEM:F12(Thermo Fisher、12634028)及びNeurobasal Medium(Thermo Fisher、21103049)の50:50混合物からなる。対照培養物を、13及び15日目に培地交換して、18日目までOMM+3μM CHIR99021中で維持した後、残りの培養物についてはOMM中で維持した。処置培養物に、13~22日目まで1μMのパルモルファミン(Stemgent、04-0009)、及び18~22日目までIWP-2(Tocris、3533)を補った、15、18、及び20日目に培地交換した後、残りの培養物についてOMM中で維持した。
【0072】
免疫組織化学分析
凝集体を、室温で30分又は4℃で一晩、4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定した標本を、段階的な一連のスクロースを用いて凍結保護した後、組織凍結培地中に埋め込んだ。凍結組織ブロックを、Leica CM-1860クリオスタット上で12μmの低温切片に切片化した。免疫染色のために、0.1%Triton X-100 1xPBS溶液中の10%ヤギ又はウマ血清を、ブロッキングのために使用し、0.1~1%Triton X-100 1xPBS溶液中の3%ヤギ又はウマ血清を、一次/二次抗体インキュベーションのために使用した。本研究において使用された一次抗体は、表1に列挙される。Alexa Fluorコンジュゲート化抗マウス、ウサギ、又はヤギIgG(Thermo Fisher)を、二次抗体として使用した。DAPIを含むProLong Gold Antifade Reagent(Thermo Fisher)を使用して、試料をマウントし、細胞核を可視化した。
【0073】
ホールマウント免疫蛍光のために、AbScale組織洗浄プロトコール39を、凝集体試料に適用した。インキュベーション及び洗浄ステップを、ローター上で実施し、インキュベーションステップを別途記述しない限りローター上、37℃で実施した。4%パラホルムアルデヒドを用いて試料を一晩固定した後、試料をScale S0溶液中で6時間インキュベートした後、Scale A2中で16時間、ScaleB4溶液中で24時間、及びScaleA2溶液中で8時間インキュベートした。その後、試料を、室温で4時間、0.1M PBS中でインキュベートし、AbScale溶液中で16時間、10%正常ウマ血清(Vector Laboratories)を用いてブロッキングを実施した。3%正常ウマ血清を含有するAbScale溶液中での一次抗体とのインキュベーションを48時間実施した後、AbScale溶液で15、30、60、及び120分間逐次的洗浄を行い、3%正常ウマ血清を含有するAbScale溶液中で24時間、フルオロフォアコンジュゲート化二次抗体と共にインキュベートした。RTで30分間、AbScaleで3回及び室温で30分間、AbScale Rinse溶液で2回すすいだ後、試料を、室温で1時間、4%パラホルムアルデヒドで再固定し、0.1M PBSで2回洗浄し、ScaleS4溶液中で16時間インキュベートした。染色された試料を、シリコーンガスケットを有するポリ-L-オルニチン被覆カバースリップ(Fisher Scientific)上に少量のScaleS4溶液と共にマウントした。試料のイメージングを、Leica Dive Confocal/Multiphoton Microscope又はNikon A1R HD25共焦点顕微鏡上で実行した。三次元再構築を、Imaris 8ソフトウェアパッケージ(Bitplane)及びNIS Elements Advanced Researchアプリケーション(Nikon)を使用して実施した。
【0074】
免疫組織化学データの定量化
処置した試料及び対照試料を、それぞれの比較のために同一の試薬及びプロトコールを同時に使用して免疫染色のためにプロセシングした。条件下で同一の画像獲得パラメーターを使用する、Nikon A1R-HD25共焦点顕微鏡、又はLeica DMI8広視野蛍光顕微鏡のいずれかを使用して、画像を獲得した。Nikon GI3スイートを使用して生画像を分析し、又はTIFF形式でエクスポートし、ImageJを使用して分析した。標識された組織特異的マーカー及び目的の遺伝子に対応する同時シグナルについて領域を分析することにより、同時発現分析を実施した。平均グレー値及び全共局在化領域を収集した。
【0075】
統計分析を、GraphPad Prism 9中で実施した。全てのデータセットを、両側Welchのt検定を使用して分析した。データ収集及び分析を、盲検により実施しなかった。
【0076】
走査電子顕微鏡
分化のD81とD141との間のPOU4F3-ntdTomato+点が豊富な凝集体を、4℃で一晩、ナトリウムカコジレート緩衝剤(Electron Microscopy Sciences)中の2.5%グルタルアルデヒドで固定した。固定された試料を、Nikon SMZ18ステレオ蛍光顕微鏡下で切断して、ntdTomato+細胞を含有する小胞の内腔表面を露出させ、室温で1時間、1%の四酸化オスミウム(Electron Microscopy Sciences)で後固定した。次いで、試料を、段階的な一連のエタノールによって脱水し、Leica EM CPD300臨界点乾燥装置中に移した。臨界点乾燥後、試料を、アルミニウムスタブ上にマウントし、Denton Vacuum Desk V試料調製システムでスパッタコーティングした。試料を、5kVの加速電圧でJOEL JSM-7800F電界放出型走査電子顕微鏡上で見た。
【0077】
代表データ及び再現性
別途記述しない限り、画像は、少なくとも3つの別々の実験から得られた標本の代表である。凝集体の免疫組織化学分析のために、本発明者らは典型的には、各実験において各条件に由来する6~15個の凝集体を切片化した。
【0078】
scRNA-seq及び生データのプロセシング
PAX2nG+(D20の試料)又はPOU4F3nT+(D80及び-109の試料。)細胞を単離し、scRNA-seq分析のために使用した。条件あたり30~45個の凝集体を、DPBS中の0.5mM EDTA(Thermo Fisher)で洗浄した後、37℃で30分間、オービタルシェーカー上で、次いで、振とうせずに40~50分、DPBS中の1X TrypLE(Life Technologies)中の1.1mM EDTAと共にインキュベートした。インキュベーション中に、試料を、振とうし、P1000チップを用いて時々穏やかにピペッティングしながら、Nunclon Sphera 24ウェルプレート(Thermo Fisher)上で機械的に解離させた。ほとんどの細胞、特に、リポーター発現を有するものが完全に解離されたことを確認した後、それらを100μm及び40μmの細胞ストレーナー(Falcon)によって逐次的に濾過した後、2mlのチューブ(Eppendorf)中に移した。100x gで5分間スピンダウンした後、解離した細胞を、1X DPBS中の2%ウシ胎仔血清(Thermo Fisher)からなるFACS緩衝剤中に再懸濁した。細胞を、40μm細胞ストレーナーによって再度濾過し、5mlの丸底ポリプロピレンチューブ(Falcon)中に収集した。死滅した細胞を、1:500に希釈したヨウ化プロピジウム(PI、Invitrogen)で染色した。同時に、PI染色を行わないサイズ対照細胞を、上記プロトコールを使用して野生型hESCから作製した凝集体を使用して調製した。細胞を氷上で保存し、選別の前に光から保護した。PI陰性及びGFP(又はtdTomato)陽性集団を収集し、SORP Aria(BD Biosciences)を使用して浄化した。
【0079】
全試料に関するscRNA-seqを、cDNAライブラリー構築のための10X Genomics Chromium 3’v3プラットフォーム及び配列決定のためのNovaSeq 6000システム(Illumina)を使用して実施した。各試料について、Chromium NextGEM Single Cell 3’Reagent Kits User Guideに従って、12,000~18,000個の細胞を単一細胞マスターミックスに添加した。単一細胞マスターミックスを、単一細胞ゲルビーズ及び分配オイルと共に、Single Cell Chip G上に分注し、チップを、バーコード化及びcDNA合成のためにChromium Controller中にロードした。得られたcDNAライブラリーを、28bp+91bpのペアエンド型配列決定のためのカスタムプログラムを実行するNovaSeq 6000システムを用いて配列決定し、細胞あたり40,000を超えるリードのリード深度を得た。
【0080】
IllumnaのCellRanger v4.0.0プログラムを使用して、BCLファイルを生成し、これを逆多重化し、bcl2fastq変換ソフトウェア(Illumina)によってFASTQファイルに変換した。次いで、FASTQファイルをSTAR(Spliced Transcripts Alignment to a Reference)アライナーを使用してGRCh38-3.0.0参照ゲノムとアラインメントさせた。マッピングされたリードを細胞バーコードによって分類し、単一細胞遺伝子発現を、ユニーク分子識別子(UMI)を使用して定量化し、得られたフィルタリングされた遺伝子バーコード(計数)マトリックスを下流の分析のための入力物として使用した。
【0081】
scRNA-seqのデータ分析
フィルタリングされた計数マトリックスを、各データセットについて個別に前処理し、ミトコンドリア遺伝子計数の数が、検出された分子の総数の12.5パーセントを超えていた細胞を除去した。第2の前処理ステップは、異常なハウスキーピング遺伝子発現を示す細胞を除去した:対数変換されたRPL27発現±平均から2標準偏差離れた細胞を除去した。前処理の後、データセットを条件にわたって融合し、各時点に関して1つの組み合わせたデータセットを得た。融合後、生の計数データをPearson残差に変換し、異種配列決定深度から得られる技術的変動を効率的に制御する、Seurat40中のSCTransform関数を使用して、遺伝子発現レベルを正規化した。それぞれ、クラスタリング及び共有最近傍グラフ構築にとって必要とされる分解の値及びk.paramパラメーターを変化させることによって、Seuratの教師なしクラスタリングワークフローを使用して、50個を超える異なるクラスターパーティションを生成した。次いで、最も高いシルエット指数を有するクラスターパーティションを、さらなる分析のために選択した41。クラスターの同一性を、標準マーカーの発現に基づいて手動で決定した。
【0082】
関連集団(例えば、内耳前駆細胞、有毛細胞。)を、クラスターの同一性に基づいて単離し、処置群間の比較を、DESeq2及びzingeR42を使用して実施した。細胞レベルの重み-scRNA配列決定に特有のドロップアウト事象について調整するために必要とされる-を、zingeRを用いて算出した。処置群間の示差的発現を、DESeq2を使用して決定し、Benjamini-HochbergのP<0.05を示す遺伝子を統計的に有意と考えた。DESeq2分析の結果を、遺伝子セットエンリッチメント分析のためのプラットフォームであるiDEA15に渡し、示差的に発現される遺伝子を、MSigDBデータベース43から取得した遺伝子セットと比較した。遺伝子転写調節データベース(GTRD)を使用して、本発明者らのデータが比較される573個の転写因子標的遺伝子セットを定義した44。これらの遺伝子セットは明確に定義されているが、それらはあらゆる可能な転写因子の包括的な一覧を構成するわけではない。
【0083】
電気生理学的分析
D138~164のhWSC由来オルガノイドを、最初に明視野及び落射蛍光照明(TE2000-U、Nikon)中でイメージングして、tdTomato陽性細胞を有する耳胞の局在化を決定した。次いで、オルガノイドを、ダイアモンドナイフで切片化して、耳胞を露出させた。切片を、特注の記録チャンバーに入れ、そこでそれをデンタルフロスの2本の縒り糸によって保持した。以下の無機塩(mM):NaCl(137)、KCl(5.4)、CaCl2(1.26)、MgCl2(1.0)、Na2HPO4(1.0)、KH2PO4(0.44)、MgSO4(0.81)を含有するLeibovitz’s L-15細胞培養培地(カタログ#21083027、Gibco/ThermoFisher、米国)中、室温(20~25℃)で記録を実施した。高開口数(NA)対物レンズ(60x、1.0NA)及び落射蛍光装置を備えた正立顕微鏡(E600FN、Nikon)を用いて細胞を見た。明るいtdTomatoシグナルを示す細胞のみを、記録のために選択した。記録の間に、オルガノイド切片を、L-15培地で連続的に灌流した。全細胞パッチクランプ記録のためのピペットに、KCl(12.6)、KGlu(131.4)、MgCl2(2)、EGTA(0.5)、K2HPO4(8)、KH2PO4(2)、Mg2-ATP(2)、及びNa4-GTP(0.2)(括弧内はmM)を含有する細胞内溶液を充填した。溶液を、KOHを用いてpH7.3~7.4に調整し、D-グルコースを用いて320mOsmに調整した。非補償型ピペット抵抗は、典型的には、浴中で測定した場合、5~8MOhmであった。全細胞電流応答を、pClampソフトウェア(Molecular Devices、米国)によって制御されたMultiClamp 700Bパッチクランプ増幅装置を用いて記録した。
【0084】
ヒト組織の倫理、収集及び免疫蛍光
真空吸引を使用して人工妊娠中絶から得られた組織から、Leiden University Medical Center(オランダ)で、ヒト胎児蝸牛を収集し、プロセシングした。手順の前に、産科的超音波検査を実施して、妊娠週数(GW)及び妊娠日数を決定した。GW13での一方の蝸牛及びGW18での他方の蝸牛を、本研究において使用した。新鮮な試料をPBS中に収集し、4℃で一晩、PBS中の4%パラホルムアルデヒド中で固定し、脱灰し、以前に記載されたように、パラフィン中に包埋した45。パラフィンブロックを、Leicaロータリーミクロトームを使用する矢状面によって5μmの厚さの切片に切断した。連続切片をキシレン中で脱パラフィン化し、下降系列のエタノール(100%、90%、70%、50%)中で再水和し、蒸留水中ですすいだ。その後、抗原回収のために沸騰しているポットを使用して98℃で12分間、0.01Mクエン酸ナトリウム緩衝剤(pH6.0)中で切片を処理した後、免疫蛍光のためにプロセシングした。本研究において使用された一次抗体は、表1に列挙される。染色された試料を、Zeiss LSM900共焦点顕微鏡上で見て、イメージングした。ヒト胎児組織の使用は、Medical Ethical Committee of the Leiden Univesity Medical Center(プロトコール番号08.087)によって認可された。インフォームドコンセント文書は、WMAヘルシンキ宣言のガイドラインに従って取得された。
【0085】
【0086】
【配列表】
【国際調査報告】