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特表2024-546116オルガノイドの生成方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】オルガノイドの生成方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20241210BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20241210BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20241210BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/09
C12N5/0783
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534373
(86)(22)【出願日】2022-12-08
(85)【翻訳文提出日】2024-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2022084924
(87)【国際公開番号】W WO2023104946
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】21213133.8
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509228260
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ファティ・エンヘメド
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QR77
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AC14
4B065BA21
4B065BB18
4B065BC45
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、天然のインビボの状況を忠実に模倣する環境で細胞の3D培養又は共培養を可能にするオルガノイドの調製のための方法を提供する。オルガノイドは液体パールから調製される。これは、薬物の試験及びスクリーニング並びに個別化医療を含めて、様々な用途で使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)3D細胞培養のための液体パールを製造又は提供する工程;
(2)液体パール内部の懸濁液に細胞を導入して、オルガノイドを得る工程;及び
(3)得られたオルガノイドを培養する工程
を含み、
3D細胞培養のための液体パールが、
(a)疎水性フュームドシリカでペトリディッシュの表面をコーティングする工程;
(b)細胞培養培地中のメチルセルロース溶液の体積vをピペッティングし、これをペトリディッシュのコーティングされた表面に配置する工程;及び
(c)ペトリディッシュに穏やかなオービタル振盪を加えて、液体パールを形成する工程
を含む方法によって生成される、オルガノイドを生成するための方法。
【請求項2】
3D細胞培養のための液体パールを生成するために使用される方法が、
(d)工程(c)で形成された液体パールをピペッティングし、これをU底マルチウェルプレートのウェルに配置する工程
を更に含む、請求項1に記載のオルガノイドを生成するための方法。
【請求項3】
細胞培養培地中のメチルセルロース溶液が、0.1~1.5%(w/v)の間のメチルセルロース、特に0.1~0.7%(w/v)の間のメチルセルロース、好ましくは0.3%(w/v)のメチルセルロースを含み、及び/又は細胞培養培地がダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である、請求項1又は請求項2に記載のオルガノイドを生成するための方法。
【請求項4】
工程(b)において、細胞培養培地中のメチルセルロース溶液の体積vが、50μL~250μLの間に含まれる、請求項1から3のいずれか一項に記載のオルガノイドを生成するための方法。
【請求項5】
工程(b)の細胞懸濁液において、細胞が1×102細胞/mL~1×109細胞/mLの、特に1×103細胞/mL~5×108細胞/mLの、又は1×104細胞/mL~1×107細胞/mLの、又は1×105細胞/mL~5×106細胞/mLの濃度範囲で懸濁させられる、請求項1から4のいずれか一項に記載のオルガノイドを生成するための方法。
【請求項6】
懸濁液中の細胞が、ヒト又は哺乳動物起源の幹細胞、前駆細胞又は分化細胞である、請求項1から5のいずれか一項に記載のオルガノイドを生成するための方法。
【請求項7】
懸濁液中の細胞が、健康な又は病的な生物学的組織又は体液由来の初代細胞、二次細胞又は不死化細胞である、請求項6に記載のオルガノイドを生成するための方法。
【請求項8】
懸濁液中の細胞が、疾患に罹患した患者、特にがん患者に由来する、請求項7に記載のオルガノイドを生成するための方法。
【請求項9】
工程(2)において、液体パールの内部に導入される細胞懸濁液の体積が2μL~30μLの間に含まれる、請求項1から8のいずれか一項に記載のオルガノイドを生成するための方法。
【請求項10】
(1')第1のオルガノイドが第1の細胞表現型又は細胞組成物を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して第1の液体パールの内部中の第1のオルガノイドを生成するか、又は請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して生成される第1の液体パールの内部中の第1のオルガノイドを提供する工程;
(2')第2のオルガノイドが第2の細胞表現型又は細胞組成物を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して、第2の液体パール内部中の第2のオルガノイドを生成するか、又は請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して生成される第2の液体パールの内部中の第2のオルガノイドを提供する工程;
(3')第1の細胞表現型又は細胞組成物及び第2の細胞表現型又は細胞組成物が異なる、第1の液体パールを第2の液体パールに近接させて配置して、第1と第2の液体パールを融合させて、ヘテロタイプオルガノイドを含む融合液体パールにする工程
を含む、ヘテロタイプオルガノイドを生成するための方法。
【請求項11】
(4')第3のオルガノイドが第3の細胞表現型又は細胞組成物を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して第3の液体パールの内部中の第3のオルガノイドを生成するか、又は請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を使用して生成される第3の液体パールの内部中の第3のオルガノイドを提供する工程;
(5')第3の液体パールを工程(3')で得られたヘテロタイプオルガノイドを含む融合液体パールに近接させて配置して、第3の液体パールと融合液体パールを融合させて、ヘテロタイプオルガノイドを含むより大きな融合液体パールにする工程
を更に含む、請求項10に記載のヘテロタイプオルガノイドを生成するための方法。
【請求項12】
がん様オルガノイドを生成するために使用され、第1の細胞表現型の細胞ががん細胞であり、第2の細胞表現型の細胞が、上皮細胞、免疫細胞、内皮細胞及び線維芽細胞からなる群から選択される、請求項10に記載のヘテロタイプオルガノイドを生成するための方法。
【請求項13】
がん様オルガノイドを生成するために使用され、第1の細胞表現型の細胞ががん細胞であり、第2の細胞表現型の細胞が、内皮細胞、特に血管内皮細胞であり、第3の細胞表現型の細胞が、免疫細胞、特にナチュラルキラー細胞である、請求項11に記載のヘテロタイプオルガノイドを生成するための方法。
【請求項14】
(I)オルガノイドの内部で細胞が薬剤と接触している、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法若しくは請求項10から13のいずれか一項に記載の方法を使用してオルガノイドを生成するか、又は請求項1から9のいずれか一項に記載の方法若しくは請求項10から13のいずれか一項に記載の方法を使用して生成されるオルガノイドを提供する工程;
(II)オルガノイド中の細胞の特性に対する薬剤の効果を評価する工程
を含む、オルガノイド中の細胞の特性に対する薬剤の効果を評価する方法。
【請求項15】
細胞の特性が、生存、成長、増殖、分化、遊走、形態、シグナリング、代謝活性、遺伝子発現、細胞間相互作用及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載のオルガノイド中の細胞の特性に対する薬剤の効果を評価する方法。
【請求項16】
薬剤が、異なる細胞表現型の細胞であるか、又は合成若しくは天然の化合物若しくは分子である、請求項14又は請求項15に記載のオルガノイド中の細胞の特性に対する薬剤の効果を評価する方法。
【請求項17】
ハイスループットである、及び/又は自動化されている、請求項14から16のいずれか一項に記載のオルガノイド中の細胞の特性に対する薬剤の効果を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2021年12月8日に出願された欧州特許出願第EP21213133.8号に対して優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養研究の大部分は2次元(2D)表面で実施されている。これらの従来の2D細胞培養システムは、基礎細胞生物学の理解を著しく向上させたが、これは、細胞生物学の新しい課題、並びに医薬的アッセイ及び薬物スクリーニングには不十分であり、適さないことが判明した(Aggarwalら、Biochemical Pharmacology、2009、78(9):1083~1094頁;Hait、Nat.Rev.Drug Discov.、2010、9(4):253~254頁)。実際に、2D細胞培養システムは、細胞の形態、成長速度、接触形状、輸送特性及び多数の他の細胞機能に影響を及ぼすことが知られている、インビボの状況の複雑且つダイナミックな環境の再現に達しない。
【0003】
特に、2D環境は、がん細胞が存在する3Dインビボ環境を正確に模倣しない。2D細胞培養の制限としては、インビボ環境で生じる細胞間及び細胞-細胞外基質(ECM)間シグナリングがないことが挙げられ、そのようなシグナルは、がん細胞の分化及び増殖並びに様々な細胞機能に必須である(Bissellら、Curr.Opin.Cell Biol.、2003、15:753~762頁)。2D細胞システムでは、低酸素の領域、異種細胞集団(間質細胞を含む)、変化する細胞増殖ゾーン(静止状態対複製中)、可溶性シグナル勾配並びに様々な栄養素及び代謝廃棄物の輸送が考慮されない(Jainら、PNAS、2001、28(26):14748~14750頁)。更に、2D-培養細胞では、個々の薬物標的が発現されない可能性があり、又は細胞シグナリングのレベルがインビボで見られるものと同等でない可能性がある(Ghoshら、J.Cell Physiol.、2005、204(2):522~531頁)。結果として、不自然な2D環境は、化学療法剤に対するがん細胞の予測される応答に関して不正確なデータを提供する可能性がある(Gurskiら、Oncol.Issues、2010、25:20~25頁)。実際に、2D細胞モデルを使用して、がん治療のための薬物候補の脱落率(attrition rates)はおよそ95%であると計算され(Kolaら、Nat.Rev.Drug Discov.、2004、3(8):711~715頁;de Booら、Lab Anim.、2005、33(4):369~377頁;Knight、Lab.Anim.、2007、35(6):641~659頁;Hutchinson及びKirk、Nat.Rev.Clin.Oncol.、2011、8(4):189~190頁)、これは、臨床に結びつかなかったインビトロ薬効値、及び予期しない毒性問題が原因である。これにより、前臨床及び臨床試験に費やされた数億ドルが失われる結果となる。
【0004】
3次元(3D)細胞培養方法は、可能な限り最もインビボに似た構造を生成することを目的に開発され;したがって、薬物の研究開発におけるその使用は、単層培養とインビボ動物モデル研究の間のギャップを埋める潜在的な架け橋として示唆されている(Mazzoleniら、Genes Nutr.2009、4:13~22頁;Yamadaら、Cell、2007、130:601~610頁)。3D環境では、2D環境で成長するものと対照的に、細胞が、形態的及び生理的変化によりさらされる傾向がある。3D細胞培養はまた、組織内で観察される細胞機能を正確に再現する共培養で、2つの又は2つより多い異なる細胞集団を同時に増殖させる可能性を与える。3D細胞培養システムは、細胞培養表面を修飾し、したがって、細胞がその表面に付着するのを防止することによって、3D培養形成を促進する方法;懸濁液中での細胞の成長を支持する懸滴方法;細胞が互いに接着して3Dスフェロイドを形成するように促す回転システム;細胞外支持体を提供し、3D細胞成長を可能にする3Dスキャフォールド及びマトリックス;並びに3D細胞培養を支持するマイクロ流体システムを含む。
【0005】
従来の2D細胞培養よりも大いに好ましいが、3Dアプローチには、生成に時間がかかること、費用が比較的高いこと、再現性に乏しいこと、及びハイスループットスクリーニング機器と適合性がないことを含めて、多くの制限がある。したがって、向上した3D細胞培養システム、特に、スクリーニングに適合し、がん創薬において生理的に適切な有効性及び毒性のデータを早期に提供し、並びに最終的に、薬物試験のための費用対効果が大きく且つ患者特異的なインビトロモデルにつながり得るシステムの必要性が当技術分野で依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Aggarwalら、Biochemical Pharmacology、2009、78(9):1083~1094頁
【非特許文献2】Hait、Nat.Rev.Drug Discov.、2010、9(4):253~254頁
【非特許文献3】Bissellら、Curr.Opin.Cell Biol.、2003、15:753~762頁
【非特許文献4】Jainら、PNAS、2001、28(26):14748~14750頁
【非特許文献5】Ghoshら、J.Cell Physiol.、2005、204(2):522~531頁
【非特許文献6】Gurskiら、Oncol.Issues、2010、25:20~25頁
【非特許文献7】Kolaら、Nat.Rev.Drug Discov.、2004、3(8):711~715頁
【非特許文献8】de Booら、Lab Anim.、2005、33(4):369~377頁
【非特許文献9】Knight、Lab.Anim.、2007、35(6):641~659頁
【非特許文献10】Hutchinson及びKirk、Nat.Rev.Clin.Oncol.、2011、8(4):189~190頁
【非特許文献11】Mazzoleniら、Genes Nutr.2009、4:13~22頁
【非特許文献12】Yamadaら、Cell、2007、130:601~610頁
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、がん細胞に3次元オルガノイドを自然に生成させるパール(pearls)の形態の疎水性構造体中で培養し、細胞成長を評価するためのシステムを開発した。がん細胞は、メチルセルロースを含む培地の液滴からなり、疎水性フュームドシリカの粒子でコーティングされた液体パール中で増殖する。フュームドシリカシェルは、内部の液体と周辺環境の間の最適なガス交換を確実にする。3D-システムは、インキュベーション体積を低減するのに役立ち、これにより、得られたオルガノイドがハイスループット用途に適したものになる。更に、並置された液体パールの自然発生的な融合によって、異なる細胞表現型(例えば、血液、内皮、がん性組織)の共培養が達成され得る。融合によって得られた新しいオルガノイドは、培養された及び/又は前処理された異なる細胞表現型を含み、「ヌード」マウス(すなわち、免疫系を欠くマウス)へのがん細胞の腹膜注射の動物モデルと同等である。したがって、そのような共培養オルガノイドを含む24ウェルプレートは、24匹のマウスの同等物に相当するが、わずか100cm2の面積しか占めず、高い費用及び動物実験の倫理的問題と関係しない。
【0008】
したがって、本発明は、
(1)3D細胞培養のための液体パールを生成する工程;
(2)液体パール内部の懸濁液に細胞を導入して、オルガノイドを得る工程;及び
(3)得られたオルガノイドを培養する工程
を含み、
3D細胞培養のための液体パールが、
(a)疎水性フュームドシリカでペトリディッシュの表面をコーティングする工程;
(b)細胞培養培地中のメチルセルロース溶液の体積vをピペッティングし、これをペトリディッシュのコーティングされた表面に配置する工程;及び
(c)ペトリディッシュに穏やかなオービタル振盪を加えて、液体パールを形成する工程
を含む方法によって生成される、オルガノイドを生成するための方法を提供する。
【0009】
ある特定の実施形態では、3D細胞培養のための液体パールを生成するために使用される方法は、
(d)工程(c)で形成された液体パールをピペッティングし、これをU底マルチウェルプレートのウェルに配置する工程
を更に含む。
【0010】
ある特定の実施形態では、細胞培養培地中のメチルセルロース溶液は、0.1~1.5%(w/v)の間のメチルセルロース、特に0.1~0.7%(w/v)の間のメチルセルロース、好ましくは0.3%(w/v)のメチルセルロースを含み、及び/又は細胞培養培地はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である。
【0011】
ある特定の実施形態では、工程(b)において、細胞培養培地中のメチルセルロース溶液の体積vは、50μL~250μLの間に含まれる。
【0012】
ある特定の実施形態では、工程(b)の細胞懸濁液において、細胞は、1×102細胞/mL~1×109細胞/mLの、特に1×103細胞/mL~5×108細胞/mLの、又は1×104細胞/mL~1×107細胞/mLの、又は1×105細胞/mL~5×106細胞/mLの濃度範囲で懸濁させられる。
【0013】
ある特定の実施形態では、懸濁液中の細胞は、ヒト又は哺乳動物起源の幹細胞、前駆細胞又は分化細胞である。
【0014】
ある特定の実施形態では、懸濁液中の細胞は、健康な又は病的な生物学的組織又は体液由来の初代細胞、二次細胞又は不死化細胞である。
【0015】
ある特定の実施形態では、懸濁液中の細胞は、疾患に罹患した患者、特にがん患者に由来する。
【0016】
ある特定の実施形態では、方法の工程(2)において、液体パールの内部に導入される細胞懸濁液の体積は2μL~30μLの間に含まれる。
【0017】
別の態様では、本発明は、
(1')第1のオルガノイドが第1の細胞表現型又は細胞組成物を含む、上記の方法を使用して第1の液体パールの内部中の第1のオルガノイドを生成するか、又は上記の方法を使用して生成された第1の液体パールの内部中の第1のオルガノイドを提供する工程;
(2')第2のオルガノイドが第2の細胞表現型又は細胞組成物を含む、上記の方法を使用して第2の液体パール内部中の第2のオルガノイドを生成するか、又は上記の方法を使用して生成された第2の液体パールの内部中の第2のオルガノイドを提供する工程;
(3')第1の細胞表現型又は細胞組成物及び第2の細胞表現型又は細胞組成物が異なる、第1の液体パールを第2の液体パールに近接(close proximity)させて配置して、第1と第2の液体パールを融合させて、ヘテロタイプオルガノイドを含む融合液体パールにする工程
を含む、ヘテロタイプオルガノイドを生成するための方法を提供する。
【0018】
ある特定の実施形態では、方法は、
(4')第3のオルガノイドが第3の細胞表現型又は細胞組成物を含む、上記の方法を使用して第3の液体パールの内部中の第3のオルガノイドを生成するか、又は上記の方法を使用して生成された第3の液体パールの内部中の第3のオルガノイドを提供する工程;
(5')第3の液体パールを工程(3')で得られたヘテロタイプオルガノイドを含む融合液体パールに近接させて配置して、第3の液体パールと融合液体パールを融合させて、ヘテロタイプオルガノイドを含むより大きな融合液体パールにする工程
を更に含む。
【0019】
ある特定の実施形態では、方法は、がん様オルガノイドを生成するために使用され、第1の細胞表現型の細胞はがん細胞であり、第2の細胞表現型の細胞は、上皮細胞、免疫細胞、内皮細胞及び線維芽細胞からなる群から選択される。
【0020】
ある特定の実施形態では、方法は、がん様オルガノイドを生成するために使用され、第1の細胞表現型の細胞はがん細胞であり、第2の細胞表現型の細胞は、内皮細胞、特に血管内皮細胞であり、第3の細胞表現型の細胞は、免疫細胞、特にナチュラルキラー細胞である。
【0021】
更に別の態様では、本発明は、
(I)オルガノイドの内部で細胞が薬剤と接触している、上記の方法を使用してオルガノイドを生成するか、又は上記の方法を使用して生成されたオルガノイドを提供する工程;及び
(II)オルガノイド中の細胞の特性に対する薬剤の効果を評価する工程
含む、オルガノイド中の細胞の特性に対する薬剤の効果を評価する方法を提供する。
【0022】
ある特定の実施形態では、細胞の特性は、生存、成長、増殖、分化、遊走、形態、シグナリング、代謝活性、遺伝子発現、細胞間相互作用及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0023】
ある特定の実施形態では、薬剤は異なる細胞表現型の細胞であるか、又は合成若しくは天然の化合物若しくは分子である。
【0024】
ある特定の実施形態では、方法はハイスループットである、及び/又は自動化されている。
【0025】
本発明のこれら及び他の目的、利点及び特色は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読めば、当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ペトリディッシュにおけるビーズ獲得の概要を示す図である。(1)懸濁液中にがん性細胞を含む(又は含まない)100μL培地の液滴をフュームドシリカの薄層上に沈着させる;(2)穏やかなオービタル撹拌によって、フュームドシリカで液滴をコーティングする;(3~5)形成されたビーズをカットコーンでピペッティングする;(6)最後に、丸底ウェルの96ウェルプレート中にビーズを沈着させる。
図2】用途の様々な例を示す図である。左:抗がん免疫活性化試験:免疫細胞をパール中で活性化し、次いでその後、後者を、がん性オルガノイドを含むパールと融合させる。中央:オルガノイドのカートリッジ成長曲線における、培養時間(活性分子の添加から0;2;4;6;及び8日後)の関数としての抗がん剤の用量効果曲線(0;1μM;10μM及び100μM)。右:96ウェルプレートにおける成長キネティクス及び96ウェルプレート中のパールの写真。
図3】動物モデルに最も近い多表現型オルガノイド培養を示す図である。左から右:がん性オルガノイドをパール中で生成し、次いで、内皮細胞を含むパールと融合させる。一旦融合すれば、上皮細胞の存在下でがん性オルガノイドの運命を追跡するために、図2に記載されているように、共培養物を活性化免疫細胞に融合させることができる。
図4】3D培養細胞の生存率に対する植物のエタノール抽出物の効果を示す図である。105細胞/mLで播種した膵臓がん細胞を注入し、150μLの体積の液体パール中で24時間成長させ、次いで、エタノール抽出物#138-10D(80μg/ml)、ビヒクル又はゲムシタビン(80μM)に曝露した。24時間のインキュベーション後、細胞を標識した(カルセイン-AM=緑色-生細胞及びヨウ化プロピジウム=赤色-死細胞)。イメージングサイトメトリーによって、2つのチャネルの合成画像を解析した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
前述のように、本発明は、天然のインビボ細胞環境をより忠実に模倣するオルガノイド、特に共培養オルガノイドを生成するための方法を提供する。オルガノイドの生成は、液体パールの調製から始める。
【0028】
I-液体パールの調製方法
用語「液体マーブル」及び「液体パール」は本明細書で互換的に使用される。これらは、疎水性粉末の層でカプセル化された流体の小滴を指す。液体パールは、一般に、小滴の表面を自発的に覆う疎水性粒子のベッド又は層の上で少量の液体(数十又は数百マイクロリットルほど)を回転させることによって形成される。そのシェルの疎水性が理由で、液体パールは、ガラス球体として固体面上を回転することができ、一方で、依然とし、泡ボール(foam ball)として変形させることもできる。換言すれば、液体パールは、固体面への接着の低減及び内部移行した液体を漏出しない移動を示す。
【0029】
本発明による3D細胞培養のための液体パールを調製するための方法は、
(a)疎水性フュームドシリカでペトリディッシュの表面をコーティングする工程;
(b)細胞培養培地中のメチルセルロース溶液の体積vをピペッティングし、これをペトリディッシュのコーティングされた表面に配置する工程;及び
(c)ペトリディッシュに穏やかなオービタル振盪を加えて、液体パールを形成する工程
を含む。
【0030】
一般に、方法は、
(d)工程(c)で形成された液体パールをピペッティングし、これをU底マルチウェルプレートのウェルに配置する工程
を更に含む。
【0031】
1.疎水性フュームドシリカ及びペトリディッシュのコーティング
本明細書で使用する場合、用語「疎水性シリカ」は、表面に化学的に結合した疎水性基を有する二酸化ケイ素(シリカとして一般に知られている)の形態を指す。疎水性基は、一般に、アルキル又はポリジメチルシロキサ鎖である。火炎熱分解プロセスを使用して疎水性シリカが生成される場合、これは、「疎水性フュームドシリカ」又は「疎水性発熱性シリカ」と呼ばれ、三次粒子に固まる分枝した鎖状3次元二次粒子中に融合した非晶質疎水性シリカの顕微の小滴からなる。疎水性フュームドシリカは、極度に低いかさ密度及び高い表面積を有する粉末である。これは、その光拡散特性が理由で、化粧品で使用され、練り歯磨きのような製品中の軽い研磨材として使用される。他の用途としては、シリコンエラストマー中の賦形剤並びに塗料、コーティング剤、印刷用インク、接着剤及び不飽和ポリエステル樹脂中の粘性調節剤が挙げられる。フュームドシリカは、EU-OSHA(欧州労働安全衛生機構)、IARC(国際がん研究機関)又はNTP(米国国家毒性プログラム)によって、発癌物質として列挙されていない。
【0032】
本発明において、任意の疎水性フュームドシリカを使用することができる。フュームドシリカの製造者の例としては、限定されないが、Evonik Industries社(Germany)、Cabot社(US)、Wacker Chemie AG社(Germany)、株式会社トクヤマ(Japan)、Orisil社(Ukraine)、ICMD社(Australia)、Henan Xunyu Chemical社(China)及びApplied Material Solutions株式会社(US)が挙げられる。本発明における使用に適した疎水性フュームドシリカの例としては、限定されないが、以下の商標の下で商品化されている製品が挙げられる:CAB-O-SIL(登録商標)TS-530(Cabot社製)、REOLOSIL(登録商標)(株式会社トクヤマ製)、AEROSIL(登録商標)200(Evonik社製)、HDK-N20(登録商標)(ICMD Australia社製)、ORISIL(登録商標)200(Orisil社製)及びXYSIL(登録商標)200(Henan Xunyu Chemical社製)。
【0033】
3D細胞培養のための液体パールを調製するための方法の第1の工程は、疎水性フュームドシリカでペトリディッシュの表面をコーティングすることにある。本明細書で使用する場合、用語「ペトリディッシュ」は、その技術分野で理解される意味を有し、細胞を培養することができる成長培地を保持するために一般に使用される、浅い透明なふた付きディッシュを指す。ペトリプレート又は細胞培養ディッシュとも呼ばれるペトリディッシュは、最も一般的なタイプの培養プレートである。ペトリディッシュは、通常円柱状であり、たいていは、30~200mmの範囲の直径及び1:10~1:4の範囲の高さ対直径比を有する。四角ばったバージョンも利用可能である。当業者が理解するように、ペトリディッシュの代わりに、表面が平らな異なる容器を使用することができる。
【0034】
疎水性フュームドシリカでペトリディッシュの表面をコーティングすることは、疎水性フュームドシリカの粒子の層でペトリディッシュの表面の少なくとも一部を覆うことを意味する。当業者が認識するように、ペトリディッシュの表面をコーティングするために使用される疎水性発熱性シリカの量は、調製されることが意図される液体パールの数に依存する。更に、所与の数の液体パールを調製した後、ペトリディッシュの表面をコーティングするために、疎水性フュームドシリカを再供給することができる。
【0035】
例えば、本発明者らは、6cmの直径を有するペトリディッシュ中で疎水性フュームドシリカのおよそ1~2mmの薄層を使用して、最大で6個までのパールを一度に形成した。一旦パールが形成され、取り出されたら、同じペトリディッシュ中で、最大で6個までのパールの第2の調製を行うことができる。第3の調製を開始する前に、疎水性フュームドシリカの新しい層をペトリディッシュに好ましくは添加する。
【0036】
2.細胞培養培地中のメチルセルロース溶液
本発明において、液体パールの液相は、細胞培養培地中のメチルセルロース溶液からなる。より具体的には、液相は、細胞培養培地中の0.1~2%(w/v)の間のメチルセルロースを、特に、細胞培養培地中に0.1~1.5%(w/v)の間のメチルセルロースを、例えば、0.1~0.7%(w/v)の間、例えば、0.1%(w/v)、0.2%(w/v)、0.3%(w/v)、0.4%(w/v)、0.5%(w/v)、0.6%(w/v)又は0.7%(w/v)等を含む。ある特定の好ましい実施形態では、液体パールの調製で使用される液相は、細胞培養培地中の約0.3%(w/v)のメチルセルロースを含む。
【0037】
用語「メチルセルロース(methylcellulose)」及び「メチルセルロース(methyl cellulose)」は、本明細書で互換的に使用され、アルカリ及びメチルクロリドで植物繊維を処理することによって得られる、セルロースの部分的メチルエーテル(CAS番号:9004-67-5)を指す。メチルセルロースは、乳化剤、起泡剤、増粘剤及び/又はゲル化剤として用いられる、コードE461の食品添加物である。欧州の法律は、メチルセルロースを「適量(quantum satis)」食品添加物(最大許可用量なし)として認定している。したがって、これは、食品使用における安全性を実証するすべての毒物学的評価を受けている。メチルセルロースは、膨張性下剤として便秘を治療するためにヒトの医薬でも使用されており、ドライアイの疾患、状態及び症状の治療、管理、予防及び改善のための点眼液の製造でも使用されている。メチルセルロースは、薬物カプセルの製造でも使用され;食用に適しかつ無毒のその特性は、菜食主義者にゼラチンの使用の代替物を提供する。メチルセルロースは細胞培養培地中で可溶性である。本発明の実施において、液体パールの形成におけるその使用の目的は、細胞培養培地の粘性を増強することである。これは、液体パール中で培養される細胞に、インビボの細胞外構造を最もよく模倣し、液体パールをインタクトに維持するのに役立つ半固体マトリックスを提供する。
【0038】
用語「細胞培養培地」及び「基本培地」は、本明細書で互換的に使用される。これらは、共培養細胞を含めた培養細胞の成長及び/又は生存を支持するのに必要な栄養素(無機塩、糖、アミノ酸、場合により、ビタミン、有機酸及び/若しくは緩衝剤又は他のよく知られている細胞培養栄養素)を含む培養培地を指す。細胞培養培地は、成長因子を更に含んでもよいし、含まなくてもよい。多種多様の市販の基本培地が当業者によく知られており、該培地としては、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)、イスコフ改変ダルベッコ培地及びハム培地が挙げられる。ある特定の好ましい実施形態では、細胞培養培地は、多くの異なる哺乳動物細胞の成長を支持するために広く使用されている基本培地であるダルベッコ改変イーグル最少必須培地(DMEM)である。当技術分野で知られているように、DMEMは、無機塩、必須及び非必須アミノ酸、ビタミン、グルコース及びピルビン酸ナトリウムを含む。DMEMは、高グルコースタイプ(4500mg/Lグルコースを含む)であってもよいし、低グルコースタイプ(1000mg/Lグルコースを含む)であってもよい。低グルコースタイプDMEMは単にDMEMと呼ばれる。
【0039】
液体パールの生成に適した、細胞培養培地中のメチルセルロース溶液は、当技術分野で知られている任意の適切な方法を使用して調製することができる。ある特定の実施形態では、細胞培養培地中のメチルセルロース溶液は、メチルセルロース原液から調製される。
【0040】
A.メチルセルロース原液
メチルセルロース原液は、細胞培養培地中のメチルセルロースの溶液であり、メチルセルロースが、0.5~2.5%w/vの間、好ましくは1.0~2%w/vの間に含まれる濃度、例えば、約1.0%w/v、約1.1%w/v、約1.2%w/v、約1.3%w/v、約1.4%w/v、約1.5%w/v、約1.6%w/v、約1.7%w/v、約1.8%w/v、約1.9%w/v又は約2.0%w/vの濃度で存在する。より好ましくは、本発明による原液中に、メチルセルロースは約1.5%w/vの濃度で存在する。
【0041】
メチルセルロース原液は、任意の適切な方法を使用して調製することができる。例えば、1.5%w/vの濃度のメチルセルロース原液は、以下の工程を含む方法を使用して調製することができる:
(i)60oCのウォーターバス中で体積vのDMEMを20分間加熱する工程;
(ii)得られる混合物中のメチルセルロースの濃度が3%w/vになるように質量mのメチルセルロースを加熱したDMEMに添加し、メチルセルロースが溶解するまで、得られた混合物を磁気によって撹拌する工程;
(iii)20%ウシ胎仔血清並びに1%ペニシリン及びストレプトマイシンが補充された体積vの冷却高グルコースDMEMを添加する工程;
(iv)均一な溶液を得るために、工程(iii)で得られた混合物を磁気によって4℃で一晩撹拌する工程;
(v)均一な溶液を室温で遠心分離する工程;並びに
(vi)上清を回収する工程。
【0042】
工程(ii)では、メチルセルロースの溶解は、一般に、5~10分の撹拌後に得られる。
【0043】
工程(iii)では、冷却高グルコースDMEMは、約4℃で保存された高グルコースDMEMに相当する。
【0044】
遠心分離工程(工程(v))は、2000gで、2時間室温で実施することができる。
【0045】
体積Vは、一般に、10~200mLの間に含まれる。例えば、体積Vは50mL、75mL又は100mLでありうる。しかし、方法は、必要に応じてスケールアップ又はスケールダウンすることができることを理解されたい。工程(ii)のDMEMの体積Vが50mLであり、工程(iii)の高グルコースDMEMの体積Vが50mLである場合、メチルセルロースの質量mは1.5gである。
【0046】
回収した上清は、一定分量に分割し、4℃で保存することができる。これらの保存条件下で、メチルセルロース原液は最大で1年間使用することができる。
【0047】
前記方法の趣旨を逸脱することなく、上記の方法の変形を考え出し、開発することができることを当業者は認識するであろう。
【0048】
B.細胞培養培地中のメチルセルロース溶液
本発明による液体パールを生成するために使用される溶液は、細胞培養培地で、好ましくは高グルコースDMEMでメチルセルロース原液を希釈することによって、調製される。メチルセルロース原液の濃度に応じて、適切な希釈比を計算する方法を当業者なら知っている。例えば、1.5%w/vの濃度のメチルセルロース原液を使用して、20mLの原液を80mLの高グルコースDMEMで希釈して、0.3%w/vの濃度のメチルセルロース溶液を得ることができる。
【0049】
本明細書に記載の細胞培養培地中のメチルセルロース溶液は、一般に、調製後1日又は数日(例えば、2、3、4又は5日)以内に使用され、4℃で保存される。
【0050】
3.液体パールの調製
3D細胞培養のための液体パールの調製方法の工程(b)では、細胞培養培地中の体積vのメチルセルロース溶液は、ピッペッティングされ、疎水性フュームドシリカでコーティングされたペトリディッシュの表面に配置される。体積vは、一般に、数十又は数百マイクロリットル内である。ある特定の好ましい実施形態では、体積vは50μL~250μLの間で構成され、例えば、約100μL、約150μL、約200μL又は約250μLである。
【0051】
細胞培養培地中のメチルセルロース溶液の小滴が、コーティングされたペトリディッシュ上に配置された後、ペトリディッシュに穏やかなオービタル振盪を加える(方法の工程(c))。用語「オービタル振盪」は、振動を引き起こさない円形振盪運動を指す。「穏やかなオービタル振盪」は、約25rpm~約500rpm、例えば、約50rpm~約250rpm等、特に約50~約100の範囲の低速の円形振盪運動を指す。好ましくは、ペトリディッシュに加えられる穏やかなオービタル振盪は、75rpmの速度を有する。当技術分野で知られているように、オービタルシェーカー装置を使用してペトリディッシュにオービタル振盪を加えることができる。オービタルシェーカー装置は、プラットフォーム上で容器を混合又は撹拌するための科学的用途で特に使用される混合又は撹拌装置である。特に、オービタルシェーカー装置は、プラットフォームのx-y平面にある上面のすべての点が、共通の半径を有する円形の軌道で動くような方法で、プラットフォームを移動する。実験室用オービタルシェーカーは、例えば、Sigma-Aldrich社、Thermo Fisher Scientific社、VWR社、Cole-Parmer社等から市販されている。
【0052】
オービタル振盪運動は、液体小滴に疎水性フュームドシリカの粒子上を回転させ、これが液体小滴の表面を自発発生的に覆うことによって、液体パールの形成を誘導する。オービタル振盪は、液体パールが形成されるのに必要な時間にわたって、一般に、5~30秒の間、例えば、10~20秒の間の持続時間にわたって実施される。
【0053】
一旦液体パールが形成されれば、これは、好ましくは短くしたコーン(cone)を使用して、ピペッティングされ、U底マルチウェルプレートのウェルに配置される。U底ウェルは、丸形の底面を有するウェルである(すなわち、これは、平底ウェルと対照的に、縁がない)。マルチウェルプレートの型式は、一般に使用される型式、特にマイクロウェルプレート、例えば、24ウェルマイクロプレート、48ウェルマイクロプレート、96ウェルマイクロプレート等から選択することができる。ある特定の実施形態では、液体パールは、マイクロプレートの各ウェルに配置される。
【0054】
II-オルガノイド及び3D細胞培養
上記のように調製された液体パールは、特に、オルガノイド、特にがん様オルガノイドを生成するためのミニチュアバイオリアクターとして、様々な用途で使用することができる。用語「オルガノイド」、「3Dオルガノイド」及び「多細胞オルガノイド」は、本明細書で互換的に使用される。これは、3D成長を可能にするように培養された細胞の凝集体、クラスター又は集合体を指す。オルガノイドは実質的に球状であり、安定であり、崩壊させることなしに、持ち上げる又は新しい場所に移動させることができる。オルガノイドは単一細胞タイプ(ホモタイプオルガノイド)を含むことができ、又はこれは1つを超える細胞タイプ(ヘテロタイプオルガノイド)を含むことができる。
【0055】
したがって、本発明は、
(1)本明細書に記載の方法を使用して3D細胞培養のための液体パールを生成するか、又は本明細書に記載の方法を使用して生成された液体パールを提供する工程;
(2)液体パール内部の懸濁液に細胞を導入して、オルガノイドを得る工程;及び
(3)得られたオルガノイドを培養する工程
を含む、オルガノイドを生成するための方法に関する。
【0056】
1.オルガノイドの獲得
A.細胞
オルガノイドにおける3D培養のために液体パールの内部に導入することができる細胞としては、培養で維持することができる任意の細胞が挙げられる。
【0057】
本発明において使用される細胞は、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞、又は実験動物を含めた動物(例えば、霊長類、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ブタ等)由来の細胞である。多くの好ましい実施形態では、細胞はヒト起源のものである。哺乳動物細胞は、任意の臓器、体液又は組織(例えば、脳、肝臓、皮膚、肺、腎臓、膵臓(島細胞を含める)、心臓、筋肉(心筋を含める)、骨、軟骨、腱、骨髄、血管、角膜、血液、羊水、臍帯血、膀胱、前立腺、食道、胃等)に由来しうる。オルガノイド中で培養される細胞は、正常若しくは健康な生物学的組織若しくは体液に、又は疾患若しくは疾病に罹患した生物学的組織若しくは体液に、例えば、腫瘍に由来する体液若しくは組織等に由来しうることが理解される(以下を参照されたい)。
【0058】
当業者が認識するように、オルガノイド中で培養される細胞は単離された細胞である。用語「単離された細胞」又は「単離された細胞の集団」は、自然界では天然に存在しない任意の細胞又は細胞の集団、すなわち、その天然の環境から取り出されている、及び/又は例えば、細胞による物質(例えば、目的の遺伝子若しくはタンパク質)の産生のために、任意の方法で、選択された、改変された、形質転換された(例えば、遺伝子操作された)、成長させられた、若しくは操作された、任意の細胞又は細胞の集団を意味する。
【0059】
本明細書で使用する場合、用語「細胞」は、幹細胞、前駆細胞及び分化細胞を含むことが意図される。
【0060】
本明細書で使用する場合、用語「幹細胞」は、持続性自己複製の能力並びに分化した後代(すなわち、異なるタイプの特殊化した細胞)を生じさせる可能性を有する、比較的未分化の細胞を指す。本発明によるオルガノイド中で成長可能な幹細胞の例としては、限定されないが、胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹細胞が挙げられる。用語「胚性幹細胞」は、胚盤胞と呼ばれる初期(4~5日齢)胚の一部である内部細胞塊と呼ばれる一群の細胞に由来する幹細胞を指す。「ヒト胚性幹細胞」は、一般に、1週齢未満である受精胚に由来する、ヒト起源の胚性幹細胞である。インビトロでは、胚性幹細胞は無限に増殖することができ、これは、成体幹細胞にはない特性である。用語「成体幹細胞」及び「体性幹細胞」は、本明細書で互換的に使用される。これらは、細胞分裂によって増えて、死にかけている細胞を補充し、損傷組織を再生する、発生後に体全体にわたって見出される未分化細胞を指す。これらは、多くの異なる種類の組織を形成することができる細胞から、特定の組織又は臓器の細胞のほんの一部を形成するより特殊化した細胞まで及ぶ。胚性幹細胞と異なり、体性幹細胞は、若年、成体の動物及びヒトに見出される。用語「人工多能性幹細胞」は、非多能性細胞(例えば、成体体細胞)から人工的に生成された多能性幹細胞のタイプを指す。人工多能性幹細胞は、任意の分化細胞を形成する能力の点で胚性幹細胞と同一であるが、胚に由来しない。用語「ヒト人工多能性幹細胞」及び「ヒトiPS細胞」は本明細書で互換的に使用される。これらは、ヒト起源の人工多能性幹細胞を指す。典型的に、ヒト人工多能性幹細胞は、任意の成体体細胞(例えば、線維芽細胞)におけるOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc遺伝子の誘導性発現によって得ることができる。
【0061】
用語「前駆細胞」及び「前駆体細胞」は本明細書で互換的に使用される。これらは、胎児又は成体組織で生じ、部分的に特殊化した細胞を指す。これらの細胞は分裂し、分化細胞を生じさせる。前駆細胞又は前駆体細胞は、幹細胞に由来する一過性の増幅した細胞集団に属する。幹細胞と比較して、これらは、自己複製及び分化の能力が制限されている。自己複製(または増殖)のそのような能力は、例えばKi-67核抗原等の増殖マーカーの発現によって実証される。更に、前駆細胞は特定の分化プロセスに深く関与しているので、前駆細胞も特異的なマーカーを発現する。本発明のオルガノイド中で増殖することができる前駆細胞の例としては、限定されないが、造血前駆細胞、内皮前駆細胞、神経前駆細胞、間葉前駆細胞、骨形成前駆細胞、間質前駆細胞等が挙げられる。
【0062】
本明細書で使用する場合、用語「分化細胞」は、特定の機能について特殊化し、他の種類の細胞を生成する能力を有さない細胞を指す。本発明のオルガノイド中で増殖することができる成体分化細胞の例としては、限定されないが、基底細胞、上皮細胞、血小板、リンパ球、T細胞(Tリンパ球)、B細胞(Bリンパ球)、ナチュラルキラー細胞、網状赤血球、顆粒球、単球、肥満細胞、神経細胞、神経芽細胞、膠芽腫、巨大細胞、樹状細胞、マクロファージ、卵割球、内皮細胞、間質細胞、クッパー細胞、ランゲルハンス細胞、沿岸細胞、組織細胞、例えば、筋細胞及び脂肪細胞、骨芽細胞、線維芽細胞等が挙げられる。
【0063】
本発明によるオルガノイドにおける3D培養に適した細胞は、初代細胞(すなわち、生きている組織若しくは臓器から直接的に単離若しくは採取された細胞)、二次細胞(すなわち、生きている組織若しくは臓器から得られた細胞の培養及び拡大に由来する細胞)又は不死化細胞(すなわち、樹立された細胞株)でありうる。したがって、樹立された細胞株(癌(例えば、原発性若しくは転移性)細胞株又は非がん細胞株)由来の細胞は、商業的リソースから(例えば、アメリカ培養細胞系統保存機関、Manassas、VA)から購入することができる。あるいは、多細胞オルガノイドを生成するために使用される細胞は、エクスビボ生物試料から単離されるか若しくはエクスビボ生物試料に由来してもよく、又は志願者若しくは患者から得られてもよい。したがって、細胞は、生検、外科標本、吸引、ドレナージ又は細胞含有液のうちのいずれかに由来してもよい。適切な細胞含有液としては、血液、リンパ液、皮脂腺液、尿、脳脊髄液又は腹膜液のうちのいずれかが挙げられる。細胞は、継代培養の中間工程なしで対象から直接得ることができ、又は初代培養を生成するための中間培養工程を最初に受けることができる。生物学的組織及び/又は細胞含有液から細胞を採取するための方法は、当技術分野でよく知られている。一般に、細胞は、細胞懸濁液を形成する前に、最初に互いから解離又は分離される。細胞の解離は、当技術分野で知られている任意の従来の手段によって、例えば、機械的及び/又は化学的に、例えば、酵素による処理によって、達成することができる。好ましくは、細胞は、死んでいる及び/若しくは死にかけている細胞並びに/又は細胞残屑を除去するように処理される。
【0064】
タンパク質、核酸又は目的の別の生成物を発現又は産生するように、本発明において使用される細胞を遺伝子操作することができる。細胞は、再プログラム化細胞から分化することができ、又は分化細胞から分化転換することができる。あるいは、又は更に、目的の遺伝子、例えば、成長因子若しくは受容体を発現する遺伝子を含むように、又は欠陥遺伝子を含むように、又は更に、成体体細胞からヒト人工幹細胞を調製するためにOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc遺伝子を含むように、細胞を操作することができる。
【0065】
B.細胞懸濁液及び液体パールの内部へのその導入
オルガノイドは、液体パールの内部に細胞懸濁液を導入することによって生成される。本明細書で使用する場合、用語「細胞懸濁液」は、細胞が液体培地中に懸濁している(すなわち、浮遊している)、細胞と液体培地の混合物を指す。当業者が認識するように、細胞懸濁液は、任意の適切な濃度の細胞を含むことができる。一般に、細胞の適切な濃度は、導入を妨げることなしに(例えば、導入システムを詰まらせることなしに)、細胞懸濁液が液体パール中に導入される(例えば、注入される)のを可能にするほど十分に低いものである。細胞の適切な濃度は、オルガノイドの内部で3D細胞培養を可能にするほど十分に高いものでもある。使用される細胞の性質に応じて、当業者は、本発明において使用される最適な細胞濃度範囲を容易に決定することができる。ある特定の実施形態では、細胞は、1×102細胞/mL液体培地~1×109細胞/mL液体培地、例えば1×103細胞/mL~5×108細胞/mL又は1×104細胞/mL~1×107細胞/mL又は更に1×105細胞/mL~5×106細胞/mLの濃度範囲で懸濁される。細胞濃度を決定するための方法は、当技術分野で知られており、例えば、血球計数器で細胞を数えることができる。
【0066】
細胞が懸濁状態である液体培地は、等張性、低張性又は高張性でありうる。一般に、液体培地は水性である。ある特定の実施形態では、液体培地は、緩衝剤並びに/又は少なくとも1つの塩若しくは塩の組み合わせ(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、塩化物塩、及び/若しくは酢酸塩)を含む。液体培地は、生理的pHで維持されるように緩衝化されている。いくつかの実施形態では、液体培地のpHは、約5~約8,5、例えば、約6~約8又は約6.5~約7.5の範囲である。様々なpH緩衝剤を使用して、所望のpHを達成することができる。適切な緩衝剤としては、限定されないが、Tris、MES、Bis-Tris、ADA、ACES、PIPES、MOPSO、Bis-Trisプロパン、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、MOBS、TAPSO、HEPPSO、POPSO、TEA、HEPPS、トリシン、Gly-Gly、ビシン及びリン酸緩衝剤(例えば、数ある中でも、リン酸ナトリウム又はナトリウム-リン酸カリウム)が挙げられる。液体培地は、数ある中でも、約10mM~約100mMの緩衝剤、約25mM~約75mMの緩衝剤又は約40mM~約60mMの緩衝剤を含むことができる。液体培地中で使用される緩衝剤のタイプ及び量は、用途ごとに変動する可能性がある。液体保存は、ヒト血清アルブミン(例えば、0.1~10%)を含むことができる。
【0067】
使用前に、細胞クラスターを形成させ、凝集体形成を最小にするために、細胞懸濁液を例えば200gで5分間遠心分離することができる。
【0068】
液体パールの内部への小体積の細胞懸濁液の導入は、任意の適切な方法を使用して行うことができる。ある特定の実施形態では、細胞懸濁液は注入によって導入される。注入される体積は、一般に、2μL~30μLの間、好ましくは約5~約10μLの間に含まれるが、約15μL又は約20μL又は約25μLであってもよい。
【0069】
細胞培養培地中のメチルセルロース溶液中の細胞懸濁液で液体パールを調製することによって、液体パール中に細胞を導入することができることを当業者は認識するであろう。しかし、この場合、細胞の凝集にはより長い時間がかかる。
【0070】
C.オルガノイド培養
一旦オルガノイドが形成されれば、適切な培養条件を使用して、3D細胞培養が行われる。本明細書で使用する場合、用語「培養する」は、細胞生存率又は増殖を支持する環境及び条件下である期間にわたってインキュベートすることによって、細胞又は細胞の集団を増殖させる又は育てることを指す。したがって、本明細書で使用する場合、用語「適切な培養条件」は、オルガノイド中で培養される細胞の生存及び増殖を支持する培養条件を指す。そのような培養条件は当技術分野で知られているか、又は当業者が容易に決定及び最適化することができる。培養条件は、2D培養で使用されるものと同じであり、培養培地は、培養細胞の表現型に適合される。
【0071】
オルガノイドは、一般に、調製の直後に、又は培養の工程に続いて使用される。
【0072】
2.ヘテロタイプ又は共培養オルガノイド
本明細書に開示される液体パールの特別な利点は、インビボでのこれらの多細胞凝集体の天然の形成に酷似している方法で、複数の異なる細胞タイプが多細胞凝集体(共培養オルガノイド)へ集合することを可能にすることである。したがって、本発明によるオルガノイドは、1つを超える細胞表現型、例えば、2つの異なる細胞表現型又は3つの異なる細胞表現型を含むことができ、オルガノイドを生成するためにどの細胞表現型が使用されるかの決定は、その意図された用途に依存することを理解されたい。本発明は、ヘテロタイプオルガノイドを生成する方法を提供する。用語「ヘテロタイプオルガノイド」及び「共培養オルガノイド」は、本明細書で互換的に使用される。これらは、1つを超える細胞表現型を含むオルガノイドを指す。
【0073】
第1のバージョンでは、ヘテロタイプオルガノイドを生成するための方法は、
(1)本明細書に記載の方法を使用して3D細胞培養のための液体パールを生成するか、又は本明細書に記載の方法を使用して生成された液体パールを提供する工程;
(2)液体パール内部の懸濁液に細胞を導入して、ヘテロタイプオルガノイドを得る工程であって、細胞懸濁液が1つを超える細胞表現型を含む工程;及び
(3)得られたヘテロタイプオルガノイドを培養する工程
を含む。
【0074】
第2のバージョンでは、ヘテロタイプオルガノイドを生成するための方法は、
(1')第1のオルガノイドが第1の細胞表現型又は細胞組成物を含む、本明細書に記載の方法を使用して第1のオルガノイドを生成するか、又は本明細書に記載の方法を使用して生成された第1のオルガノイドを提供する工程;
(2')第2のオルガノイドが第2の細胞表現型又は細胞組成物を含む、本明細書に記載の方法を使用して第2のオルガノイドを生成するか、又は本明細書に記載の方法を使用して生成された第2のオルガノイドを提供する工程;
(3')第1の細胞表現型又は細胞組成物及び第2の細胞表現型又は細胞組成物が異なる、第1のオルガノイドを第2のオルガノイドに近接させて配置して、第1と第2のオルガノイドを融合させて、ヘテロタイプオルガノイドにする工程
を含む。
【0075】
この方法は、
(4')第3のオルガノイドが第3の細胞表現型又は細胞組成物を含む、本明細書に記載の方法を使用して第3のオルガノイドを生成するか、又は本明細書に記載の方法を使用して生成された第3のオルガノイドを提供する工程;
(5')第3のオルガノイドを工程(3')で得られたヘテロタイプオルガノイドに近接させて配置して、第3のオルガノイドとヘテロタイプオルガノイドを融合させて、より大きなヘテロタイプオルガノイドにする工程
を更に含むことができる。
【0076】
A.細胞表現型及び細胞組成物
ヘテロタイプオルガノイドは、少なくとも2つのオルガノイドの融合によって生成され、少なくとも2つのオルガノイドは、異なる細胞表現型又は細胞組成物を含む。本明細書で使用する場合、用語「細胞表現型」は、共通の形態上又は表現型上の特色を有する細胞を特定するために使用される分類を指す。細胞は、同じ遺伝子型のものでもよいが、含まれる遺伝子の差次的な調節が理由で、異なる細胞タイプのものでもよい。細胞表現型の例としては、限定されないが、ベータ細胞、神経細胞、心筋細胞、巨核球細胞、内皮細胞、上皮細胞、赤血球、リンパ球、単球、マクロファージ、顆粒球、肝細胞、腎形成細胞、脂肪生成細胞、骨芽細胞、破骨細胞、肺胞細胞、心細胞、腸細胞、腎細胞、網膜細胞、メラニン形成細胞、角化細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、胚性幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞、骨格筋芽細胞等が挙げられる。例えば、ヒト心臓微小環境を模倣するヘテロタイプオルガノイドを開発することを目的に、第1のオルガノイドは心臓筋細胞(第1の細胞タイプ)を使用して調製することができ、第2のオルガノイドは心臓線維芽細胞(第2の細胞タイプ)を使用して調製することができる。あるいは、第1のオルガノイドはヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(第1の細胞表現型)を使用して調製することができ、第2のオルガノイドは心臓線維芽細胞(第2の細胞表現型)を使用して調製することができる。
【0077】
本明細書で使用する場合、用語「細胞組成物」は、異なる表現型の複数の細胞を指す。例えば、細胞組成物は生物学的組織検体に由来してもよく、したがって、組織中に存在する細胞表現型の混合物を含む。あるいは、細胞組成物は、異なる表現型の少なくとも2つの細胞集団の混合物から生じ得る。したがって、本明細書に記載の融合の方法を使用して調製されたヘテロタイプオルガノイドは、細胞組成物、すなわち、少なくとも2つの異なる細胞表現型の混合物を含む。例えば、ヘテロタイプ心臓オルガノイドは、ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(第1の細胞表現型)及び心臓線維芽細胞(第2の細胞表現型)の細胞組成物を含む第1のオルガノイドとヒト冠動脈内皮細胞(第3の細胞表現型)を使用して調製された第2のオルガノイドとの融合によって得ることができる。
【0078】
ヘテロタイプオルガノイドの生成で使用される異なる細胞表現型は、融合によって生じるオルガノイドの意図された使用に依存することを当業者は認識するであろう。好ましくは、異なる細胞表現型の細胞は、天然の環境をよりよく模倣するために、インビボに存在するものに近似する比で培養される。そのような比は当業者に知られているか、又は容易に決定することができる。
【0079】
B.オルガノイドの融合
共培養オルガノイド又はより大きなオルガノイドを形成するための2つのオルガノイドの融合は、第1のオルガノイドを第2のオルガノイドに近接させて配置することによって、又はより詳細には、第1のオルガノイドを含む第1の液体パールを第2のオルガノイドを含む第2の液体パールに近接させて配置することによって、開始される。
【0080】
2つのオルガノイドに関して本明細書で使用する場合、用語「融合」は、それぞれオルガノイドを含む隣接した液体パールが合併又は合体して、第1及び第2のオルガノイドの内容物を包含するより大きな液体パールを形成するプロセスを指す。得られたオルガノイドの体積は、第1のオルガノイド又は第2のオルガノイドの体積より大きい。一般に、2つの液体パールの融合によって得られたオルガノイドは、100μL~700μLの間、例えば、200μL~600μLの間又は300μL~500μLの間又は350μL~450μLの間の体積を有する。
【0081】
本明細書で使用する場合、用語「近接(close proximity)」は、2つの液体パール間の融合を可能にする距離を指す。当業者は、そのような距離を決定する方法を知っている。ある特定の実施形態では、近接は、並んでいること又は隣接していること(すなわち、第1の液体パールの外部表面の少なくとも一部が、第2の液体パールの外部表面の少なくとも一部と直接接触している構成)を意味する。他の実施形態では、近接は、50μm未満、例えば、約10μm、約20μm、約30μm、約40μm又は約50μmである、第1の液体パールの外部表面と第2の液体パールの外部表面の間の分離距離を意味する。ある特定の実施形態では、近接は、マルチウェルプレートの同じウェルに第1の液体パールと第2の液体パールが存在することを意味する。
【0082】
2つの液体パールは、当技術分野で知られている任意の適切な方法を使用して、近接させて配置させることができる。例えば、第1の液体パールをマイクロディスペンサー又はマイクロマニピュレータに取り付けられたキャプラリーチューブでピックアップし、これをマルチウェルプレートの第2の液体パールを含むウェルに移すことができる。次いで、融合に十分な期間、例えば、数秒又は数分(例えば、1分、2分、5分、10分、15分、30分、45分)にわたって、又は1時間以上、3時間以上、6時間以上、12時間以上、24時間以上若しくはそれ以上にわたって、液体パールの対を融合させることができる。
【0083】
3.がん性オルガノイド又は患者由来オルガノイド
細胞間情報伝達プロセス及びその調節は、がんとの闘い(contest)において非常に重要であり、がん細胞は、集団的に、腫瘍微小環境(TME)を組成する、正常な上皮細胞、免疫細胞、内皮細胞及び線維芽細胞を含めた様々な非がん性細胞と相互作用し、情報交換する。オルガノイド等の3D共培養システムは、がん細胞とTMEを構成する他の細胞の間の相互作用をモデル化するための有望なツールを提供する。したがって、本発明による方法は、がん性若しくはがん様オルガノイド又は患者由来オルガノイド(がん細胞が患者の腫瘍組織又は体液に由来する場合に、より特異的に使用される用語)を生成するために使用することができる。
【0084】
A.がん細胞
がん性オルガノイド又は患者由来オルガノイドは、がん細胞を含む。本明細書で使用する場合、用語「がん細胞」は、腫瘍又はがんに由来する細胞又は不死化細胞株を指す。用語「がん細胞」は、がん様特性、例えば、制御できない複製、成長シグナルの自己充足(self-sufficiency)、抗成長シグナルに対する非感受性、転移能力、プログラム細胞死(例えば、アポトーシス)を受ける能力の喪失、及び/又は持続性血管新生を示す細胞も指すことができる。用語「がん細胞」は、前悪性、悪性、前転移性、転移性及び非転移性の細胞を包含することを意図する。
【0085】
ある特定の実施形態では、がん様オルガノイドの調製で使用されるがん細胞は、固形腫瘍に由来する。したがって、がん細胞は、中皮腫細胞、黒色腫細胞、腺腫細胞、癌腫細胞、腺癌細胞、腺管癌細胞、横紋筋肉腫細胞、骨肉腫細胞、神経芽腫細胞、星状細胞腫細胞又は膠芽腫細胞でありうる。癌腫細胞は、腺癌、副腎皮質癌腫、結腸腺癌、結腸直腸腺癌、結腸直腸癌、腺管細胞癌、肺癌、甲状腺癌、肝細胞癌、上咽頭癌又は特定不能の癌腫に由来しうる。がん細胞は、黒色腫(例えば、悪性黒色腫)又は非黒色腫性皮膚癌に由来しうる。がん細胞は、類腱腫、線維形成性小円形細胞腫瘍;内分泌腫瘍、ユーイング肉腫、胚細胞腫瘍(例えば、精巣がん、卵巣がん、絨毛癌、内胚葉洞腫瘍、胚細胞腫等)、肝芽腫、神経芽腫;非横紋筋肉腫軟部組織肉腫;骨肉腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫又はウィルムス腫瘍に由来しうる。がん細胞は、聴神経腫瘍;星状細胞腫(例えば、グレードI毛様細胞性星状細胞腫、グレードII低悪性度星状細胞腫、グレードIII未分化星状細胞腫又はグレードIV多形神経膠芽腫);脊索腫;頭蓋咽頭腫;神経膠腫(例えば、脳幹神経膠腫;上衣腫;混合型神経膠腫;視神経膠腫;又は上衣下腫);膠芽腫;髄芽腫;髄膜腫;転移性脳腫瘍;乏突起神経膠腫;松果体芽腫;下垂体腫瘍;原始神経外胚葉性腫瘍;又は神経鞘腫に由来しうる。がん細胞は、膵臓がん、乳がん、脳腫瘍、腎臓がん、前立腺、子宮頸がん、肝臓がん、結腸直腸がん、卵巣がん、結腸がん、精巣がん、甲状腺がん、肺がん又は乳がんに由来しうる。ある特定の実施形態では、これらのタイプの固形がん/腫瘍に由来するがん細胞は、細胞株由来である。
【0086】
ある特定の実施形態では、がん細胞は非固形腫瘍由来である。がん細胞は、白血病細胞、急性骨髄性白血病細胞、急性骨髄性白血病細胞、急性T細胞白血病細胞、急性リンパ性白血病細胞、ヘアリーセル白血病細胞、急性前骨髄球性白血病細胞、リンパ腫細胞、バーキットリンパ腫細胞、B細胞慢性リンパ性白血病細胞、非ホジキンリンパ腫細胞、ホジキンリンパ腫細胞又は多発性骨髄腫細胞でありうる。ある特定の実施形態では、がん細胞は腫瘍幹細胞又はがん幹細胞である。ある特定の実施形態では、これらのタイプの非固形がんに由来するがん細胞は細胞株である。
【0087】
がん細胞株は当技術分野で知られている。がん細胞株の例としては、限定されないが、癌腫株(例えば、5637、BT-20、BT-474、CAMA-1、HCC2218、SW527、MDA-MB-453、MDA-MB-4355、T-47D、ZR-75-1、UACC-812、HCC1419、RKO、LS411N、T84、KATO III、NCI-N87、SNU-16、A-498、Caki-1、Bel-7402、Bel-7404、HEP-3B、HepG2、A-427、A549、SW1573、NCI-H358、NCI-H460、NCI-H292、NCI-H82、NCI-H226、NCI-H526);骨肉腫細胞株(例えば、KHOS/NP、MNNG/HOS、Saos-2、U-2 OS、SJSA-1);星状細胞腫細胞株(例えば、CCF-STTG1);膠芽腫細胞株(例えば、DBTRG-05MG、U87 MG、T98G);神経芽腫細胞株(例えば、SK-N-SH、SK-N-AS);腺癌細胞株(例えば、MCF-7、MDA-MB-231、MDA-MB-436、SK-BR-3、HeLa、Caco-2、COL0205、COL0320/DM、DLD-1、HCT-15、SK-CO-1、SW48、SW480、HCT-8、AGS、769-P、786-0、ACHN、SK-HEP-1、Calu-3、NCI-H1395、NCI-H1975、SK-LU-1、NCI-H2122);平滑筋芽細胞腫細胞株(例えば、G-402);白血病細胞株(例えば、CML-T1、CTV-1、JVM-2、K562、MHH-CALL2、NALM-6、8E5、CCRF-SB、CEM/C1、CEM/C2、CEM-CM3、CCRF-HSB-2、KG-1、KG-1a、CCRF-CEM、MOLT-3、SUP-B15、TALL-104、Loucy、RS4;11、REH、AML-193、THP-1、MOLM-13、Kasumi-1、Kasumi-3、BDCM、HL-60、I 2.1、I 9.2、J.ガンマ1.WT、J.RT3-T3.5、P116、P116.c139[P116.c39]、D1.1、J45.01、MV-4-11、Kasumi-4、MEG-01、KU812、Mo、JM1、GDM-1、CESS、ARH-77);及び中皮腫細胞株(例えば、MSTO-211H)が挙げられる。
【0088】
ある特定の実施形態では、がん細胞は患者の腫瘍から得られる。当業者に知られている技法を使用して、患者の腫瘍からがん細胞を得ることができる。がん細胞は、外科標本、吸引、ドレナージ又は細胞含有液(例えば、血液、リンパ液、皮脂腺液、尿、脳脊髄液若しくは腹膜液)のうちのいずれか1つに由来してもよい。いくつかの実施形態では、患者の腫瘍の生検が得られる。生検は、任意の臓器又は組織、例えば、皮膚、肝臓、肺、心臓、結腸、腎臓、骨髄、歯、リンパ節、毛髪、脾臓、脳、乳房又は他の臓器に由来してもよい。患者から腫瘍試料を単離するために、当業者に知られている任意の生検技法を使用することができ、例えば、開放生検(open biopsy)、非開放生検(close biopsy)、コア生検、切開生検、摘出生検又は穿刺吸引生検である。腫瘍生検は、がん細胞を単離する前に、30分から数時間(1時間~24時間)、数日(2日~7日)、数週間(1週間~3週間)、数か月(1か月~3か月又はそれ以上)に及ぶ期間にわたって、保存することができる。あるいは、がん細胞は、腫瘍生検が患者から得られた直後に得られる。
【0089】
ある特定の実施形態では、がん様オルガノイドの調製で使用されるがん細胞は、がん幹細胞からなるか、又はがん幹細胞を含む。用語「がん幹細胞」は、幹細胞と通常関連する特徴を有する、腫瘍又は血液がん内で見出されるがん細胞の亜集団を指す。これらの細胞は、非腫瘍原性である大量のがん細胞と対照的に、腫瘍原性(腫瘍形成性)である。ほとんどすべての腫瘍タイプにそのような細胞が存在するという証拠が増加している。がん幹細胞は、幹細胞の特性、例えば、自己複製及び複数の細胞タイプに分化する能力を有する。これは、別個の集団として腫瘍中に存在し続け、腫瘍量の大部分を形成し、表現型的に疾患を特徴づける分化細胞を生じさせる。がん幹細胞は、発癌、がん転移及びがんの再発に基本的に関与することが実証されている。がん幹細胞はまた、腫瘍開始細胞、がん幹様細胞、幹様がん細胞、高度腫瘍原性細胞又は超悪性細胞と呼ばれることも多い。がん幹細胞の特定及び単離の方法は報告されている。当技術分野で知られているように、がん幹細胞は、腫瘍様塊(すなわち、がん幹細胞の培養及び拡大のモデル)として知られるオルガノイドを生成するために使用することができる。腫瘍様塊の例としては、限定されないが、マンモスフェア、ニューロスフェア、カーディオスフェア(cardiospheres)、コンドロスフェア(chondrospheres)、オステオスフェア(osteospheres)、グリオーマスフェア(gliomaspheres)、ヘパトスフェア(hepatospheres)等が挙げられる。
【0090】
B.他の細胞
腫瘍微小環境における正常細胞とがん細胞の間の相互作用は腫瘍抑制的である可能性があり、すなわち、がんに対して免疫反応を誘導する可能性があるが、最終的に腫瘍促進的になることが多い。全体的に見て、腫瘍微小環境内の相互作用は、がんの進行を促進する。したがって、腫瘍微小環境を用いて細胞間相互作用を理解すること又はインビボ腫瘍微小環境の細胞間相互作用を模倣することは、がん生物学への洞察だけでなく、新しい治療剤を特定する可能性も提供する。したがって、がん細胞に加えて、本発明の方法に従って生成されるがん様オルガノイドは、免疫細胞、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞及びこれらの任意の組み合わせを更に含むことができる。
【0091】
本明細書で使用する場合、用語「免疫細胞」は、抗原の特異的な認識に関与する、造血起源の細胞を指す。免疫細胞としては、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞並びにリンパ球(B細胞及びT細胞)が挙げられる。免疫細胞は、腫瘍微小環境(TME)において相反する機能を有し、腫瘍促進活性と抗腫瘍活性の両方を有する。本発明において使用される免疫細胞は、前述のように、(対象から得られた)初代細胞、二次細胞又は樹立された細胞株由来の細胞であってもよい。がん様オルガノイドを調製するために使用される免疫細胞は、活性化されていてもよいし、活性化されていなくてもよい。免疫細胞活性化の方法は当技術分野で知られている。
【0092】
インビボでは、がん細胞は内皮細胞と相互作用して、腫瘍微小環境中で血管を伸ばす。本明細書で使用する場合、用語「内皮細胞」は、血管及びリンパ管の内表面に並ぶ細胞を指す。ある特定の好ましい実施形態では、本発明において使用される内皮細胞は血管内皮細胞である。がん様オルガノイドを調製するために使用される内皮細胞は、前述のように、(対象から得られた)初代細胞、二次細胞又は樹立された細胞株由来の細胞であってもよい。例えば、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を使用することができる。HUVECは、臍帯の静脈から単離された初代細胞である。これは、内皮細胞の機能を研究するためのモデルシステムであり、低酸素症、炎症、酸化ストレス、感染への応答及び正常な血管新生と腫瘍関連血管新生の両方を含めた用途がある。
【0093】
がん細胞に対する正常細胞の効果は、がんに対する自己防御に関する魅惑的な機構を提供する。例えば、単一上皮細胞が、がん遺伝子によって形質転換され、正常な上皮細胞で取り囲まれている場合に、形質転換細胞は、多くの場合、頂端に押し出され、それにより、上皮から排除される(Hoganら、Int.J.Biochem.Cell Biol.、2011、43:496~503頁;Kajitaら、J.Cell Sci.、2010、123:171~180頁)。別の例では、正常な乳房上皮細胞又はその馴化培地は、共培養乳がん細胞の成長を弱める(Dong-Le Bourhisら、J.Int.J.Cancer、1997、71:42~48頁;Spinkら、Cell Biol.Int.、2006、30:227~238頁)。本明細書で使用する場合、用語「上皮細胞」は、細胞間マトリックスがほとんどない密に詰められた細胞の薄い連続的な保護層である、上皮の細胞を指す。上皮組織は、体全体にわたる臓器及び血管の外表面、並びに多くの内臓の腔の内面に並ぶ。がん様オルガノイドを調製するために使用される上皮細胞は、前述のように、(対象から得られた)初代細胞、二次細胞又は樹立された細胞株由来の細胞であってもよい。
【0094】
微小環境の防止的効果とは逆に、一旦がん細胞が自己防御機構を無効にし、腫瘍を形成し始めると、周囲の細胞、例えば、線維芽細胞は、がん細胞の更なる成長を助長する能力を獲得する(Kalluriら、Nat.Rev.Cancer、2006、6:392~401頁;Bhowmickら、Nature、2004、432:332~337頁)。乳癌由来の線維芽細胞は、正常な乳房線維芽細胞よりも顕著にがん細胞の成長を促進し、これは、がんと周囲の線維芽細胞の共進化を示唆するものである(Orimoら、Cell、2005、121:335~348頁)。この支持的機構は、原発位置と転移性領域の両方で見られる(Mathotら、Cancer Sci.、2012、103:626~631頁)。本明細書で使用する場合、用語「線維芽細胞」は、結合組織(皮膚、腱及び他の丈夫な組織)で見出される特定のタイプの細胞を指す。線維芽細胞は、細胞外基質及びコラーゲンを合成し、動物組織のための構造フレームワーク(間質)を生成し、創傷の治癒で重要な役割を果たす。がん様オルガノイドを調製するために使用される線維芽細胞は、正常な線維芽細胞又はがん関連線維芽細胞であってもよい。これは、前述のように、(対象から得られた)初代細胞、二次細胞又は樹立された細胞株由来の細胞であってもよい。
【0095】
特定の実施形態では、本発明による方法を使用して生成されるヘテロタイプがん様オルガノイドは3タイプの細胞を含み、第1の表現型の細胞はがん細胞であり、第2の表現型の細胞は内皮細胞、特に、血管内皮細胞であり、第3の表現型の細胞は免疫細胞、特にナチュラルキラー細胞である。
【0096】
がん様オルガノイドの生成で使用される異なる細胞表現型は、融合によって生じるオルガノイドの意図された使用に依存することを当業者は認識するであろう。好ましくは、異なる表現型の細胞は、腫瘍の天然の環境をよりよく模倣するために、インビボに存在するものに近似する比で培養される。そのような比は当業者に知られているか、又は容易に決定することができる。
【0097】
本発明の方法を使用して形成される、がん様オルガノイドを含めたヘテロタイプオルガノイドは、起源の組織(例えば、がん様オルガノイドの場合は腫瘍)のものを実質的に模倣するという特徴を示すことを特徴としうる。したがって、1つ又は複数の多細胞オルガノイドの抗原プロファイル、遺伝子プロファイル、腫瘍生物学、腫瘍構造、ガス濃度、サイトカインの発現、成長因子の発現及び細胞接着プロファイルの少なくとも1つは、起源の組織のものと実質的に同一でありうる。したがって、がん様オルガノイドを含めたヘテロタイプオルガノイドは、例えば、組織化、成長、生存率、細胞生存、細胞死、代謝及びミトコンドリアの状態、酸化ストレス及び放射線照射応答並びに薬物応答に関して、天然の細胞系のものと実質的に同様の又は同一の挙動を示す。
【0098】
III-オルガノイドの使用及び用途
本明細書に記載の方法に従って調製される多細胞オルガノイドは、限定されないが、細胞相互作用の検査(例えば、細胞移植療法又は薬物試験目的のために)、バイオマーカーの特定、腫瘍プロファイリング、薬物スクリーニング(例えば、候補化合物の特定及び/又は試験、薬物動態プロファイリング、薬力学的プロファイリング、有効性研究、細胞毒性研究、化合物の浸透研究、治療的抵抗性研究)、モノクローナル抗体を含めた抗体の生成、個別化又はオーダーメード療法のため等を含めて、研究、診断及び/又は治療目的のために、多くの用途で使用することができる。
【0099】
1.細胞間相互作用、薬物のスクリーニング及び開発
特に、本発明は、
(I)オルガノイドの内部で細胞が薬剤と接触している、本明細書に記載の方法を使用してオルガノイドを生成するか、又は本明細書に記載の方法を使用して調製されたオルガノイドを提供する工程;及び
(II)オルガノイド中の細胞の特性に対する薬剤の効果を評価する工程
を含む、オルガノイド中の細胞の特性に対する薬剤の効果を評価する方法に関する。
【0100】
様々な方法のうちのいずれかを使用して、細胞を薬剤と接触させることができる。したがって、オルガノイドの調製及び場合により培養後に、薬剤をオルガノイドに(例えば、注入によって)加えることができる。あるいは、液体パールの形成に使用される細胞培養培地中のメチルセルロース溶液に薬剤を添加することができる(工程(b)を参照されたい)。あるいは、オルガノイドを生成するために使用される細胞懸濁液を薬剤と接触させてから、液体パールの内部に導入することができる(工程(2)を参照されたい)。あるいは、2つの液体パールの融合によって薬剤を細胞と接触させることができ、第1の液体パールはオルガノイドを含み、第2の液体パールは薬剤を含む(工程(3')を参照されたい)。薬剤の性質及び評価することが意図される効果に応じて、最も適切な方法を当業者は選択することができる。
【0101】
本発明によるオルガノイドを使用して評価することができる細胞(又は複数の細胞又は細胞集団)の特性は、生存、成長、増殖、分化、遊走、形態、シグナリング、代謝活性、遺伝子発現、細胞間相互作用及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択することができる。細胞の1つ又は複数の特性の評価は、細胞オルガノイドから、又は瞬間凍結若しくは化学固定技法によって固定されたオルガノイドから、当技術分野で知られている任意の適切な方法を使用して行うことができる。例えば、顕微鏡又は画像解析によって、任意の細胞生存、成長、増殖、分化、遊走及び形態を評価することができる。特性は、適切なマーカーを使用して検出することができる。例えば、検出可能な程度に標識されたタンパク質、レポーター並びに/又は細胞成分及びマーカーのシングルステップ標識の発現によって、細胞構造、多細胞の組織化及び他の読み出し情報を、例えば蛍光顕微鏡によって直接的に可視化することが可能になる。遺伝子発現は、機能ゲノム(例えば、マイクロアレイ)技法等によって、評価することができる。所与の特性を評価するための適切な技法を当業者は選択することができることが理解される。
【0102】
この方法によって、例えば、異なる細胞表現型が同じオルガノイド中に存在する場合に、特定の細胞表現型が別の細胞表現型の機能にどのように影響を及ぼすかの評価が可能になることが理解されよう。したがって、ある特定の実施形態では、薬剤は更なる細胞又は細胞組成物であり、更なる細胞又は細胞組成物の効果が評価される。例えば、本発明の方法は、複雑な組織微小環境における細胞間相互作用を研究し、腫瘍の進行及び転移に対する結果的に生じた効果を特定するために使用することができる。
【0103】
当業者が認識するように、本明細書に記載の方法を使用して、いかなる種類の薬剤も試験することができる。薬剤は合成又は天然の化合物であってもよく;これは、単一分子又は異なる分子の混合物若しくは複合体であってもよい。これは、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣薬、ペプトイド、ポリペプチド、サッカリド、ステロイド、RNA薬剤(例えば、mRNA又はsiRNA)、抗体、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド、小分子等を含めた多種多様な化学物質クラスのうちのいずれかに属しうる。本明細書で使用する場合、用語「小分子」は、任意の天然又は合成の有機又は無機の低分子量の化合物又は因子を指す。好ましい小分子は、50ダルトン超且つ2,500ダルトン未満の分子量を有する。より好ましくは、小分子は、600~700ダルトン未満の分子量を有する。更により好ましくは、小分子は350ダルトン未満の分子量を有する。
【0104】
薬剤は薬物又は生理活性物質であってもよい。薬剤は、特定の細胞機能の阻害剤であってもよい。この方法によって、細胞の遺伝子又はタンパク質の機能を、例えば、その遺伝子又はタンパク質の阻害剤である薬剤を使用することによって、評価することが可能になることが理解されよう。例えば、薬剤は、化学的阻害剤、ペプチド阻害剤、siRNA分子若しくはshRNAコンストラクト又は遺伝子ノックダウンをもたらすことができる任意の薬剤のうちのいずれかであってもよい。細胞の遺伝子又はタンパク質の機能への更なる洞察を提供するために、(例えば、選択性が異なる)1種より多い阻害剤を使用することが望ましい可能性もある。同様に、複数のオルガノイドをそれぞれの様々な薬剤(例えば、RNAi阻害剤)に曝露することによって、この方法体系をスケールアップして、ゲノム又はプロテオームアレイの細胞機能をより大規模に研究することができる。
【0105】
本明細書に開示されるオルガノイドは、創薬に適した確固たるツールを構成することが理解される。したがって、方法は、細胞の1つ又は複数の特性をモジュレートする薬剤を潜在的な治療剤として特定する工程を含む。
【0106】
ある特定の実施形態では、方法は、単一の薬剤又は少数の薬剤を試験するために使用することができる。他の実施形態では、方法は、薬剤(すなわち、候補化合物)のコレクション又はライブラリーをスクリーニングするために使用される。本明細書で使用する場合、用語「コレクション」は、化合物、分子又は薬剤の任意のセットを指し、一方で、用語「ライブラリー」は、構造類似体である化合物、分子又は薬剤の任意のセットを指す。
【0107】
細菌、真菌、植物及び動物の抽出物の形態の天然化合物のコレクションは、例えば、Pan Laboratories社(Bothell、WA)又はMycoSearch社(Durham、NC)から入手可能である。本発明の方法を使用してスクリーニングすることができる候補化合物のライブラリーは、調製することができるか、又はいくつかの会社から購入できるかのいずれかである。合成化合物ライブラリーは、例えば、Comgenex社(Princeton、NJ)、Brandon Associates社(Merrimack、NH)、Microsource社(New Milford、CT)及びAldrich社(Milwaukee、WI)から市販されている。候補化合物のライブラリーはまた、例えば、Merck社、Glaxo Welcome社、Bristol-Meyers-Squibb社、Novartis社、Monsanto/Searle社及びPharmacia UpJohn社を含めて、大きな化学会社によって開発されており、該化学会社から市販されている。更に、天然のコレクション、合成的に生成したライブラリー及び化合物は、従来の化学的、物理的及び生化学的手段によって、容易に改変される。化合物ライブラリーは、従来の方法又は自動化合成方法又は独自の合成方法によって、調製することができる(例えば、DeWittら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1993、90:6909~6913頁;Zuckermannら、J.Med.Chem.1994、37:2678~2685頁;Carellら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1994、33:2059~2060頁;Myers、Curr.Opin.Biotechnol.1997、8:701~707頁を参照されたい)。候補化合物は、ペプトイドライブラリー、空間的にアドレス指定可能な並列固相又は溶液相ライブラリー(spatially addressable parallel solid phase or solution phase libraries);デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー方法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー方法;及びアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー方法を含めて、当技術分野で知られているコンビナトリアルライブラリー方法における多数のアプローチのうちの他のいずれかによって、得ることもできる。
【0108】
特定の一実施形態では、薬剤は、薬物様化合物又は薬物様化合物の開発のためのリード化合物である。用語「薬物様化合物」は当業者によく知られており、例えば、医薬の活性成分として、医薬での使用に適したものにすることができる特徴を有する化合物を指す。薬物様化合物は、特定の1つのタンパク質又は複数のタンパク質との選択的相互作用の特色を更に示してもよく、標的細胞膜又は血液/脳関門を透過するために利用可能である及び/又は標的細胞膜又は血液/脳関門を透過することができてもよいが、これらの特色は必須ではないことが理解されよう。用語「リード化合物」は、当業者に同様によく知られており、それ自体は、薬物としての使用に適していない(例えば、これは、その意図された標的に対して弱い効力しかない、その作用が非選択的である、不安定である、難溶性である、合成するのが難しい、又はバイオアベイラビリティが不十分であることが理由である)が、より望ましい特徴を有する可能性がある他の化合物の設計の出発点を提供することができる、化合物を指す。したがって、一実施形態では、方法は、上に列挙した特性の少なくとも1つをモジュレートすることが示されている薬剤を改変する工程、及び改変された薬剤が上に列挙した特性の少なくとも1つをモジュレートする能力を試験する工程を更に含む。
【0109】
ハイスループット操作ができるアッセイが特に好ましいことが理解される。したがって、アッセイは、マルチウェルプレート中に含まれる複数のオルガノイドに対して実施することができる。ある特定の実施形態では、アッセイは自動化されるか又は半自動化される。したがって、一実施形態では、上に列挙した細胞特性の1つ又は複数の評価は自動化される。
【0110】
ある特定の好ましい実施形態では、細胞(又は複数の細胞又は細胞集団)は、上記のように、がん様オルガノイド中に設置される。したがって、方法は、がん細胞の様々な特性を評価するために、又は例えば、がん細胞の浸潤又は遊走に対する特定の薬剤(例えば、候補薬物)の効果を決定するために、使用することができる。しかし、幹細胞、内皮細胞及び免疫細胞を含めて、他の細胞表現型の特性も評価することができること、並びに方法は、幹細胞生物学、血管新生、免疫生物学、毒性研究及び組織工学のいずれか1つ又は複数において、等しく適用されることが理解される。例えば、転移性微小腫瘍、例えば、肝細胞をともなう腫瘍細胞又は骨髄細胞をともなう腫瘍細胞を再構築することは、本発明の範囲内である。
【0111】
典型的に、スクリーニング方法では、細胞は、約1fM~約10mMの範囲の濃度の薬剤に曝露される。好ましくは、使用される濃度は約10pM~約100μMの間である。本発明から逸脱することなく、他の濃度を試験することは、当然ながら可能である。更に、各薬剤は、異なる濃度で並行して試験することができる。インキュベーションは、任意の適切な時間長、例えば、数分~数時間又は数日の間、特に、5時間~72時間の間、一般に、12時間~48時間の間にわたって維持することができる。一実施形態では、薬剤が放出される速度(例えば、徐放)を制御するために、薬剤をビーズ内に含むことができる。
【0112】
2.個別化医療
がんの異種性は、患者間で治療応答の変動性を引き起こす。高精度の腫瘍学は、この問題に対処するために登場し、予後マーカー及び治療剤を特定することによって個人に合わせた治療計画を作り出すことに焦点を合わせている。個別化医療は、薬物及び正確な投薬量を選択するために、並びに治療手順を最適化するために、特定の患者の疾患に関する情報を得る。それが調製された元の腫瘍のゲノム的及び組織学的特色を再現する腫瘍様オルガノイドは、したがって、個別化癌医療に利用することができる(Sachsら、Cell、2018、172:373~386頁;Gaoら、Cell、2014、159:176~187頁;Kopperら、Nat.Med.,2019、25:838~849頁;Tiriacら、Cancer Discov.、2018、8:1112~1129頁;Fujiiら、Cell Stem Cell、2016、18:827~838頁;Driehuisら、Cancer Discov.、2019、9:852~871頁)。したがって、患者の腫瘍から調製された腫瘍様オルガノイドは、抗がん薬のスクリーニング、免疫療法の最適化及び特定の予後バイオマーカーにとって、とてつもない可能性を有する(Montazeriら、Trends Biotechnol.、2018、36:358~371頁)。したがって、薬物のスクリーニング及び開発に有用であることに加えて、本明細書に記載の方法を使用して患者の腫瘍から調整されたオルガノイドは、個別化医療にも有用でありうる。例えば、腫瘍様オルガノイドを使用して、潜在的な薬物治療の安全性又は有効性を試験することができるので、個々の患者の治療のカスタマイゼーション(または、個別化)を援助しうる。
【0113】
以下の図及び実施例によって本発明を更に例示する。しかし、これらの実施例及び図は、本発明の範囲を制限するものとして決して解釈されるべきでない。
【実施例
【0114】
以下の実施例は、本発明を製造及び実施する好ましい様式の一部を説明する。しかし、実施例は例示目的のためのみであり、本発明の範囲を制限することを意図しないことを理解されたい。更に、実施例中の説明が過去形で提示されない限り、この文章は、明細書の残りの部分と同様に、実験が実際に行われたことを示唆することも意図しないし、データが実際に得られたことを示唆することも意図しない。
【0115】
(実施例1)
大麻(Cannabis Sativa)抽出物は、ヒト膵臓3Dがんモデルにおいてアポトーシスを誘導する:その中に存在する主要な抗酸化分子の重要性
材料及び方法
第1の工程では、4対1の比で1.2%のメチルセルロース溶液(MC)が補充されたDMEM高グルコース完全培地を使用して、パールを充填する培地を調製する。スフェロイドの生成のために、フュームドシリカでコーティングされた6ウェルプレート上に150μLのパール培地を分注し、次いで、10,000細胞/mLの密度のAspc-1細胞を各パール中に直接注入した。次いで、注入されたパールを加湿インキュベーター中で37℃及び5%CO2でインキュベートした。
【0116】
24時間後、異なる抽出物(終濃度80μg/mL)を含む50μLの完全培地を各パール中に注入し、更に48時間インキュベートした。細胞生存率を評価するために、パールを96ウェルプレート中に移し、製造者の説明書に従って、カルセインAM(Thermofisher社、France)及びヨウ化プロピジウム(Life technology社、Fischer scientific社)を注入して、30分間インキュベートした。最後に、がん性オルガノイドを含むパールをCeligo イメージサイトメーター(Cyntellect株式会社、San Diego、CA、USA)で解析した。
【0117】
結果
#138-10D抽出物の処理に対する膵臓がん性細胞の応答
機構的な研究に先立って、本研究の第1の工程は、ヒト膵臓がん細胞を液体パール中のがん性3Dオルガノイドとして培養するので、ゼログラフ(xerograph)ヌードマウスモデルに最も近いモデルにおいて、#138-10D抽出物の可能性を推定することであった。そのような活性をヒト抗がん療法で使用される薬物と比較するために、ゲムシタビンが最もよい候補であると考えられ、なぜならば、これは、膵臓がんの患者で主として使用されているからである。
【0118】
得られた結果を図4に示す。
【0119】
結論
液体パール中で24時間にわたって生成された膵臓がん性オルガノイドは、膵臓がんに対して第一選択治療として単独で療法で使用される80μMゲムシタビンと同等の様式で、48時間のインキュベーション後に、#138-10D抽出物の処理に応答することが分かった(図4)。40μM CBDの同等濃度に相当する80μg/mLの濃度の#138-10D抽出物で類似した結果が観察された。興味深いことには、膵臓がんの患者で広く使用されている販売薬物である、薬物の1つであるゲムシタビンは、本発明者らの実験条件において、80μMの濃度でのみ、AsPC-1細胞に対して活性であった。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】