(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ホットスタンピング用素材
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241210BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20241210BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20241210BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/46 G
C21D1/18 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534626
(86)(22)【出願日】2022-12-12
(85)【翻訳文提出日】2024-08-06
(86)【国際出願番号】 KR2022020150
(87)【国際公開番号】W WO2023106899
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0177000
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】シン、ヌリ
(72)【発明者】
【氏名】ソ、ヨンギ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ジヒ
(72)【発明者】
【氏名】チョン、サンベ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FE03
4K037FE05
4K037FG00
4K037FG01
4K037FH00
4K037FJ05
4K037GA05
(57)【要約】
炭素(C):0.28~0.50重量%、シリコン(Si):0.15~0.70重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、リン(P):0.05重量%以下、硫黄(S):0.01重量%以下、クロム(Cr):0.1~0.5重量%、ホウ素(B):0.001~0.005重量%、添加剤:0.1重量%以下、及び残り鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含む鋼板、及び該鋼板内に分布された微細析出物を含み、該添加剤は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つを含み、該微細析出物は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか1つの窒化物または炭化物を含み、水素をトラップし、該微細析出物の直径平均の標準偏差を、該微細析出物の直径平均で除した値である直径平均変動係数は、0.7以下であるホットスタンピング用素材である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素(C):0.28~0.50重量%、シリコン(Si):0.15~0.70重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、リン(P):0超過0.05重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、クロム(Cr):0.1~0.5重量%、ホウ素(B):0.001~0.005重量%、添加剤:0超過0.1重量%以下、及び残り鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含む鋼板と、
前記鋼板内に分布された微細析出物と、を含み、
前記添加剤は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つを含み、
前記微細析出物は、前記チタン(Ti)、前記ニオブ(Nb)及び前記バナジウム(V)のうち少なくともいずれか1つの窒化物または炭化物を含み、水素をトラップし、
前記微細析出物の直径平均の標準偏差を、前記微細析出物の直径平均で除した値である直径平均変動係数は、0.7以下である、ホットスタンピング用素材。
【請求項2】
ホットスタンピング後、1,680MPa以上の引っ張り強度、40°以上の曲げ角、0.5wppm以下の活性化水素量を示す、請求項1に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項3】
前記微細析出物の直径平均は、0.006μm以下である、請求項1に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項4】
前記微細析出物の90%以上が、0.01μm以下の直径を有する、請求項3に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項5】
前記微細析出物の60%以上が、0.005μm以下の直径を有する、請求項4に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項6】
前記微細析出物の単位面積(100μm
2)当たり個数は、25,000個以上であり、30,000個以下である、請求項1に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項7】
直径が0.01μm以下である微細析出物の単位面積(100μm
2)当たり個数は、23,000個以上であり、29,000個以下である、請求項6に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項8】
直径が0.005μm以下である微細析出物の単位面積(100μm
2)当たり個数は、15,200個以上であり、29,000個以下である、請求項7に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項9】
前記微細析出物の個数平均の標準偏差を、前記微細析出物の個数平均で除した値である個数変動係数は、0.8以下である、請求項1に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項10】
炭素(C):0.28~0.50重量%、シリコン(Si):0.15~0.70重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、リン(P):0超過0.05重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、クロム(Cr):0.1~0.5重量%、ホウ素(B):0.001~0.005重量%、添加剤:0超過0.1重量%以下、及び残り鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含む鋼板と、
前記鋼板内に分布された微細析出物と、
を含み、
前記添加剤は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つを含み、
前記微細析出物は、前記チタン(Ti)、前記ニオブ(Nb)及び前記バナジウム(V)のうち少なくともいずれか1つの窒化物または炭化物を含み、水素をトラップし、
前記微細析出物の個数平均の標準偏差を、前記微細析出物の個数平均で除した値である個数変動係数は、0.8以下である、ホットスタンピング用素材。
【請求項11】
ホットスタンピング後、1,680MPa以上の引っ張り強度、40°以上の曲げ角、0.5wppm以下の活性化水素量を示す、請求項10に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項12】
前記微細析出物のうち、直径が0.01μm以下である微細析出物の個数平均の標準偏差を、前記直径が0.01μm以下である微細析出物の個数平均で除した値である第1個数変動係数は、0.8以下である、請求項10に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項13】
前記微細析出物のうち、直径が0.005μm以下である微細析出物の個数平均の標準偏差を、前記直径が0.005μm以下である微細析出物の個数平均で除した値である第2個数変動係数は、0.8以下である、請求項12に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項14】
前記微細析出物の単位面積(100μm
2)当たり個数は、25,000個以上であり、30,000個以下である、請求項10に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項15】
直径が0.01μm以下である微細析出物の単位面積(100μm
2)当たり個数は、23,000個以上であり、29,000個以下である、請求項14に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項16】
直径が0.005μm以下である微細析出物の単位面積(100μm
2)当たり個数は、15,200個以上であり、29,000個以下である、請求項15に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項17】
前記微細析出物の直径平均は、0.006μm以下である、請求項10に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項18】
前記微細析出物の90%以上が、0.01μm以下の直径を有する、請求項17に記載のホットスタンピング用素材。
【請求項19】
前記微細析出物の60%以上が、0.005μm以下の直径を有する、請求項18に記載のホットスタンピング用素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンピング用素材に係り、さらに詳細には、ホットスタンピング部品のすぐれた機械的物性及び水素遅れ破壊特性を確保しうるホットスタンピング用素材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに使用される部品には、軽量化及び安定性のための高強度鋼が適用される。なお、該高強度鋼は、重量対比で、高強度特性を確保しうるが、強度が増大することにより、プレス成形性が低下され、加工中、素材の破断が生じるか、あるいはスプリングバック現象が発生し、複雑であって精密な形状の製品成形に困難が伴う。
【0003】
そのような問題点を改善させるための方案として、代表的なものとして、ホットスタンピング工法があるが、それに対する関心が高くなりながら、ホットスタンピング用素材に対する研究も活発になされている。例えば、韓国公開特許公報第10-2017-0076009号発明に開示されているように、ホットスタンピング工法は、ホウ素鋼板を適正温度に加熱し、プレス金型内において成形した後、急速冷却し、高強度部品を製造する成形技術である。該韓国公開特許公報第10-2017-0076009号発明によれば、高強度鋼板で問題になる、成形時の亀裂発生または形状凍結不良のような問題が抑制され、良好な精度の部品を製造することが可能である。
【0004】
しかしながら、ホットスタンピング鋼板の場合、ホットスタンピング工程で流入された水素及び残留応力により、水素遅れ破壊が生じる問題点がある。それと係わり、韓国公開特許公報第10-2020-0061922号は、ホットスタンピングブランクを高温加熱する前、プリヒーティングを施し、ブランクの表面に薄い酸化層を形成することにより、高温加熱工程における水素流入を遮断し、水素遅れ破壊を最小化させることを開示している。しかしながら、水素流入を完全に遮断することが不可能であるが、流入された水素を制御することができず、水素遅れ破壊となってしまう憂いがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施例は、前述の問題点を含み、さまざまな問題点を解決するためのものであり、ホットスタンピング部品の高強度、高耐性のすぐれた機械的物性、及び向上された水素遅れ破壊特性を確保しうるホットスタンピング用素材、並びにその製造方法を提供しうる。しかしながら、そのような課題は、例示的なものであり、それにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例によるホットスタンピング用素材は、炭素(C):0.28~0.50重量%、シリコン(Si):0.15~0.70重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、リン(P):0.05重量%以下、硫黄(S):0.01重量%以下、クロム(Cr):0.1~0.5重量%、ホウ素(B):0.001~0.005重量%、添加剤:0.1重量%以下、及び残り鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含む鋼板;並びに上記鋼板内に分布された微細析出物;を含み、前記添加剤は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つを含み、前記微細析出物は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つの窒化物または炭化物を含み、水素をトラップし、前記微細析出物の直径平均の標準偏差を、前記微細析出物の直径平均で除した値である直径平均変動係数は、0.7以下である。
【0007】
前記ホットスタンピング用素材は、ホットスタンピング後、1,680MPa以上の引っ張り強度、40°以上の曲げ角、0.5wppm以下の活性化水素量を示しうる。
【0008】
前記微細析出物の直径平均は、0.006μm以下でもある。
【0009】
前記微細析出物の90%以上が、0.01μm以下の直径を有しうる。
【0010】
前記微細析出物の60%以上が、0.005μm以下の直径を有しうる。
【0011】
前記微細析出物の単位面積(100μm2)当たり個数は、25,000個以上であり、30,000個以下でもある。
【0012】
直径が0.01μm以下である微細析出物の単位面積(100μm2)当たり個数は、23,000個以上であり、29,000個以下でもある。
【0013】
直径が0.005μm以下である微細析出物の単位面積(100μm2)当たり個数は、15,200個以上であり、29,000個以下でもある。
【0014】
前記微細析出物の個数平均の標準偏差を、前記微細析出物の個数平均で除した値である個数変動係数は、0.8以下でもある。
【0015】
本発明の一実施例によるホットスタンピング用素材は、炭素(C):0.28~0.50重量%、シリコン(Si):0.15~0.70重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、リン(P):0.05重量%以下、硫黄(S):0.01重量%以下、クロム(Cr):0.1~0.5重量%、ホウ素(B):0.001~0.005重量%、添加剤:0.1重量%以下、及び残り鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含む鋼板;並びに前記鋼板内に分布された微細析出物;を含み、前記添加剤は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つを含み、前記微細析出物は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つの窒化物または炭化物を含み、水素をトラップし、前記微細析出物の個数平均の標準偏差を、前記微細析出物の個数平均で除した値である個数変動係数は、0.8以下である。
【0016】
前記ホットスタンピング用素材は、ホットスタンピング後、1,680MPa以上の引っ張り強度、40°以上の曲げ角、0.5wppm以下の活性化水素量を示しうる。
【0017】
前記微細析出物のうち、直径が0.01μm以下である微細析出物の個数平均の標準偏差を、前記直径が0.01μm以下である微細析出物の個数平均で除した値である第1個数変動係数は、0.8以下でもある。
【0018】
前記微細析出物のうち、直径が0.005μm以下である微細析出物の個数平均の標準偏差を、前記直径が0.005μm以下である微細析出物の個数平均で除した値である第2個数変動係数は、0.8以下でもある。
【0019】
前記微細析出物の単位面積(100μm2)当たり個数は、25,000個以上であり、30,000個以下でもある。
【0020】
直径が0.01μm以下である微細析出物の単位面積(100μm2)当たり個数は、23,000個以上であり、29,000個以下でもある。
【0021】
直径が0.005μm以下である微細析出物の単位面積(100μm2)当たり個数は、15,200個以上であり、29,000個以下でもある。
【0022】
前記微細析出物の直径平均は、0.006μm以下でもある。
【0023】
前記微細析出物の90%以上が、0.01μm以下の直径を有しうる。
【0024】
前記微細析出物の60%以上が、0.005μm以下の直径を有しうる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施例によれば、ホットスタンピング部品の高強度、高耐性のすぐれた機械的物性、及び向上された水素遅れ破壊特性を確保しうるホットスタンピング用素材、並びにその製造方法を具現しうる。ここで、そのような効果により、本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施例によるホットスタンピング用素材の一部を図示するTEM(transmission electron microscope)イメージである。
【
図2A】本発明の一実施例による、微細析出物が分散された様子の一部を概略的に図示する図である。
【
図2B】本発明の一実施例による、微細析出物が分散された様子の一部を概略的に図示する図である。
【
図3A】微細析出物に水素がトラップされた様子の一部を概略的に図示する例示図である。
【
図3B】微細析出物に水素がトラップされた様子の一部を概略的に図示する例示図である。
【
図4】本発明の一実施例による、ホットスタンピング用素材の製造方法を概略的に図示するフローチャートである。
【
図5】本発明の実施例及び比較例の巻き取り温度による引っ張り強度及び曲げ応力を比較して示したグラフである。
【
図6A】実施例の巻き取り温度による4点屈曲試験(4point bending test)の結果を図示するイメージである。
【
図6B】比較例の巻き取り温度による4点屈曲試験(4point bending test)の結果を図示するイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、多様な変換を加えることができ、さまざまな実施例を有しうるが、特定実施例を図面に例示し、詳細な説明によって詳細に説明する。本発明の効果、特徴、及びそれらを達成する方法は、図面と共に詳細に後述されている実施例を参照すれば、明確になるであろう。しかしながら、本発明は、以下で開示される実施例に限定されるものではなく、多様な形態によって具現されうる。
【0028】
以下、添付された図面を参照し、本発明の実施例について詳細に説明が、図面を参照して説明するとき、同一であるか、あるいは対応する構成要素は、同一図面符号を付し、それらに係わる重複説明は、省略する。
【0029】
以下の実施例において、第1、第2のような用語は、限定的な意味ではなく、1つの構成要素を、他の構成要素と区別する目的で使用されている。
【0030】
以下の実施例において、単数の表現は、文脈上、明白にそれに限って意味しない限り、複数の表現を含む。
【0031】
以下の実施例において、「含む」または「有する」というような用語は、明細書上に記載された特徴または構成要素が存在するということを意味するものであり、1以上の他の特徴または構成要素が付加される可能性を事前に排除するものではない。
【0032】
以下の実施例において、膜、領域、構成要素のような部分が、他の部分の「上」または「上部」にあるとするとき、他の部分の真上にある場合だけではなく、その中間に、さらに他の膜、領域、構成要素などが介在されている場合も含む。
【0033】
図面においては、説明の便宜のために、構成要素が、その大きさが誇張されていたり縮小されていたりもする。例えば、図面に示された各構成の大きさ及び厚みは、説明の便宜のために任意に示されているので、本発明は、必ずしも図示されているところに限定されるものではない。
【0034】
ある実施例が、違って具現可能である場合、特定の工程順序は、説明される順序と異なるように遂行されもする。例えば、連続して説明される2つの工程が実質的に同時に遂行されもし、説明される順序と反対の順序にも進められる。
【0035】
本明細書において、「A及び/またはB」は、Aであるか、Bであるか、A及びBである場合を示す。そして、「A及びBのうち少なくとも一つ」は、Aであるか、Bであるか、A及びBである場合を示す。
【0036】
以下の実施例において、膜、領域、構成要素などが連結されているとするとき、膜、領域、構成要素が直接連結されている場合、または/及び膜、領域、構成要素の中間に、他の膜、領域、構成要素が介在されて間接的に連結されている場合も含む。例えば、本明細書において、膜、領域、構成要素などが電気的に連結されているとするとき、膜、領域、構成要素などが直接電気的に連結されている場合、及び/またはその中間に、他の膜、領域、構成要素などが介在され、間接的に電気的連結されている場合を示す。
【0037】
以下、添付された図面を参照し、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明の一実施例によるホットスタンピング用素材の一部を図示するTEM(transmission electron microscope)イメージである。
【0039】
図1に図示されているように、本発明の一実施例によるホットスタンピング用素材1は、鋼板10、及び鋼板10内に分布された微細析出物20を含むものでもある。
【0040】
ホットスタンピング用素材1は、鋼板10が含む合金元素の含量、及び微細析出物20の析出挙動が事前設定された条件を満足するように制御されうる。それを介し、ホットスタンピング後の成形部品は、高強度、高耐性のすぐれた機械的特性、及び向上された水素遅れ破壊特性を有しうる。一実施例において、ホットスタンピング用素材1は、ホットスタンピング後、1,680MPa以上の引っ張り強度を示し、望ましくは、1,680MPa以上であり、2,300MPa未満の引っ張り強度を示しうる。また、40°以上の曲げ角、0.5wppm以下の活性化水素量を示しうる。ここで、「曲げ角」は、圧延方向(RD:rolling direction)のV-ベンディング角を意味しうる。
【0041】
鋼板10は、所定の合金元素を所定含量含むように鋳造されたスラブにつき、熱延工程及び/または冷延工程を進めて製造された鋼板でもある。鋼板10は、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)、クロム(Cr)、ホウ素(B)、及び残部の鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含むものでもある。また、一実施例において、鋼板10は、添加剤として、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つをさらに含むものでもある。または、鋼板10は、所定含量のカルシウム(Ca)をさらに含むものでもある。
【0042】
一実施例において、鋼板10は、炭素(C):0.28~0.50重量%、シリコン(Si):0.15~0.70重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、リン(P):0超過0.05重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、クロム(Cr):0.1~0.5重量%、ホウ素(B):0.001~0.005重量%、添加剤として、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち1種以上の和:0超過0.1wt%以下、及び残り鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含むものでもある。
【0043】
炭素(C)は、鋼板10内のオステナイト安定化元素として作用する。炭素は、鋼板10の強度及び硬度を決定する主要元素であり、ホットスタンピング工程以後、鋼板10の引っ張り強度(例えば、1,680MPa以上の引っ張り強度)を確保し、焼け入れ性特性を確保するための目的で添加されうる。そのような炭素は、鋼板10全体重量につき、約0.28wt%ないし約0.50wt%で含まれるものである。炭素の含量が約0.28wt%未満である場合、硬質相(マルテンサイトなど)確保が困難であり、鋼板10の機械的強度を満足させ難いのである。それと反対に、炭素の含量が約0.50wt%を超える場合、鋼板10の脆性発生または曲げ性能低減の問題が引き起こされうる。
【0044】
シリコン(Si)は、鋼板10内のフェライト安定化元素として作用しうる。シリコン(Si)は、固溶強化元素であり、鋼板10の延性を向上させ、低温域炭化物の形成を抑制することにより、オステナイト内の炭素濃化度を向上させうる。また、シリコンは、熱延、冷延、熱間プレス組織均質化(パーライト、マンガン偏析帯制御)及びフェライト微細分散の核心元素である。シリコンは、マルテンサイト強度不均質制御元素として作用し、衝突性能を向上させる役割を行う。そのようなシリコンは、鋼板10全体重量につき、約0.15wt%ないし約0.70wt%含まれるものである。シリコンの含量が0.15wt%未満である場合、上述した効果を得難く、最終ホットスタンピングマルテンサイト組織において、セメンタイトの形成及び粗大化が発生しうるが、鋼板10の均一化効果が微々たるものであり、V-ベンディング角を確保することができなくなりもする。それと反対に、シリコンの含量が約0.70wt%を超える場合、熱延負荷、冷延負荷が増大し、熱延赤型スケールが過多になり、鋼板10のメッキ特性が低下されうる。
【0045】
マンガン(Mn)は、鋼板10内のオステナイト安定化元素として作用する。マンガンは、熱処理時、焼け入れ性及び強度の増大目的で添加されうる。そのようなマンガンは、鋼板10全体重量につき、約0.5wt%ないし約2.0wt%含まれるものである。マンガンの含量が約0.5wt%未満である場合、結晶粒微細化効果が十分ではなく、焼け入れ性不十分により、ホットスタンピング後、成型品内の硬質相分率が不十分になる。なお、マンガンの含量が約2.0wt%を超える場合、マンガン偏析またはパーライトバンドにより、延性及び耐性が低下され、曲げ性能低下の原因になり、不均質微細組織が発生しうる。
【0046】
リン(P)は、鋼板10の耐性低下を防止するために、鋼板10全体重量につき、0超過約0.05wt%以下で含まれるものである。リンの含量が約0.05wt%を超える場合、リン化鉄化合物が形成され、耐性及び溶接性が低下され、製造工程において、鋼板10にクラックが誘発されうる。
【0047】
硫黄(S)は、鋼板10全体重量につき、0超過約0.01wt%以下含まれるものである。硫黄の含量が約0.01wt%を超過すれば、熱間加工性、溶接性及び衝撃特性が低下され、巨大介在物生成により、クラックのような表面欠陥が生じうる。
【0048】
クロム(Cr)は、鋼板10の焼け入れ性及び強度を向上させる目的で添加されうる。クロムは、析出硬化を介する結晶粒微細化及び強度確保を可能にしうる。そのようなクロムは、鋼板10全体重量につき、約0.1wt%ないし約0.5wt%含まれるものである。クロムの含量が約0.1wt%未満である場合、析出硬化効果が低調であり、それと反対に、クロムの含量が0.5wt%を超える場合、Cr系析出物及びマトリックス固溶量が増大して耐性が低下され、原価上昇により、生産費が増大しうる。
【0049】
ホウ素(B)は、フェライト変態、パーライト変態及びベイナイト変態を抑制し、マルテンサイト組織を確保することにより、鋼板10の焼け入れ性及び強度を確保する目的で添加されうる。また、ホウ素は、結晶粒界に偏析されて粒界エネルギーを低くし、焼け入れ性を増大させ、オステナイト結晶粒成長温度上昇により、結晶粒微細化効果を有しうる。そのようなホウ素は、鋼板10全体重量につき、約0.001wt%ないし約0.005wt%で含まれるものである。ホウ素が前記範囲で含まれるとき、硬質相粒界脆性発生を防止し、高耐性と曲げ性とを確保しうる。ホウ素の含量が約0.001wt%未満である場合、焼け入れ性効果が不足し、それと反対に、ボロンの含量が約0.005wt%を超える場合、固溶度が低く、熱処理条件により、結晶粒界において容易に析出され、焼け入れ性が劣化されるか、あるいは高温脆化の原因にもなり、硬質相粒界脆性発生により、耐性及び曲げ性が低下されうる。
【0050】
添加剤は、微細析出物20形成に寄与する窒化物または炭化物の生成元素である。具体的には、該添加剤は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つを含むものでもある。チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は、窒化物形態または炭化物形態の微細析出物20を形成することにより、ホットスタンピング、焼き入れした部材の強度を確保しうる。また、それらは、Fe-Mn系複合酸化物に含有され、耐遅れ破壊特性向上に有効な水素トラップサイトとして機能し、耐遅れ破壊性を改善させるのに必要な元素でもある。そのような添加剤は、合わせて、鋼板10全体重量につき、0超過約0.1wt%以下で含まれるものである。該添加剤の含量が約0.1wt%を超過すれば、降伏強度の上昇が過度に大きくなりうる。
【0051】
チタン(Ti)は、熱間プレス熱処理後、析出物形成による焼け入れ性強化及び材質上昇の目的で添加されうる。また、高温において、Ti(C,N)のような析出相を形成し、オステナイト結晶粒微細化に効果的に寄与する。そのようなチタンは、鋼板10全体重量につき、約0.01wt%ないし約0.05wt%含まれるものである。チタンが前述の含量範囲で含まれれば、連鋳不良及び析出物粗大化を防止し、鋼材の物性を容易に確保し、鋼材表面におけるクラック発生のような欠陥を防止しうる。なお、チタンの含量が約0.05wt%を超過すれば、析出物が粗大化され、延伸率及び曲げ性の下落が生じうる。
【0052】
ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は、マルテンサイトパケットサイズ(packet size)低減による強度及び耐性の増大を目的に添加されうる。ニオブ及びバナジウムそれぞれは、鋼板10全体重量につき、約0.01wt%ないし約0.05wt%含まれるものである。ニオブ及びバナジウムが前述の範囲で含まれるとき、熱間圧延工程及び冷間圧延工程において、鋼材の結晶粒微細化効果にすぐれ、製鋼/連鋳時、スラブのクラック発生と、製品の脆性破断発生とを防止し、製鋼性粗大析出物生成を最小化させうる。
【0053】
なお、添加剤がチタン(Ti)及びニオブ(Nb)を含む場合、チタン(Ti)及びニオブ(Nb)は、合わせて、鋼板10全体重量につき、約0.02wt%ないし約0.09wt%含まれるものでもあるが、それに限定されるものではない。
【0054】
カルシウム(Ca)は、介在物形状制御のために添加されうる。そのようなカルシウムは、鋼板10全体重量につき、約0.003wt%以下で含まれるものである。
【0055】
微細析出物20は、鋼板10内に分布され、水素をトラップする役割を行うことができる。すなわち、微細析出物20は、ホットスタンピング用素材1の製造過程または製造後、内部に流入された水素に対するトラップサイトを提供することにより、ホットスタンピング加工された製品の水素遅れ破壊特性を向上させうる。一実施例において、微細析出物20は、添加剤の窒化物または炭化物を含むものでもある。具体的には、微細析出物20は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つの窒化物または炭化物を含むものでもある。
【0056】
そのような微細析出物20の析出挙動は、工程条件を調節することによって制御しうる。例えば、工程条件のうち、巻き取り温度(CT:coiling temperature)範囲を調節することにより、微細析出物20の個数、微細析出物20間の平均距離、微細析出物20の直径のような析出挙動を制御しうる。工程条件に係わる説明は、
図4を参照して後述する。微細析出物20の析出挙動は、事前設定された条件を満足するように制御されうる。また、そのような微細析出物20の析出挙動は、工程条件(例えば、巻き取り温度(CT範囲)を介して制御しうる。例えば、微細析出物20の単位面積当たり個数、単位面積当たり個数分布の均一度を示す個数変動係数(C1)、微細析出物20間の平均距離、微細析出物20の直径、単位面積当たり直径分布の均一度を示す直径平均変動係数(C2、C21、C22)などが、事前設定された条件を満足するように制御しうる。工程条件に係わる説明は、
図4及び
図5を参照して後述する。個数変動係数(C1)、直径平均変動係数(C2、C21、C22)に係わる析出挙動条件については、実施例及び比較例を介してさらに詳細に後述する。
【0057】
なお、そのような微細析出物20の析出挙動は、TEM(transmission electron microscope)イメージを分析する方法によって測定しうる。具体的には、試片について事前設定された個数ほど、任意の領域に係わるTEMイメージを獲得する。獲得されたイメージから、イメージ分析プログラムなどを介して微細析出物20を抽出し、抽出された微細析出物20につき、微細析出物20の個数、微細析出物20間の平均距離、微細析出物20の直径などを測定しうる。
【0058】
一実施例において、微細析出物20の析出挙動測定のために、測定対象試片に対する前処理として、表面複製法(replication method)を適用しうる。例えば、1段階レプリカ法、2段階レプリカ法、抽出レプリカ法などが適用されうるが、前述の例示に限定されるものではない。
【0059】
または、微細析出物20の直径測定時、微細析出物20の形態の不均一性を考慮し、微細析出物20の形状を円に換算し、微細析出物20の直径を算出しうる。具体的には、特定の面積を有する単位ピクセルを利用して抽出された微細析出物20の面積を測定し、微細析出物20を、測定された面積と同一面積を有する円に換算し、微細析出物20の直径を算出しうる。
【0060】
または、微細析出物20間の平均距離は、平均自由経路(mean free path)を介して測定しうる。具体的には、微細析出物20間の平均距離は、粒子面積分率と単位長さ当たり粒子個数とを利用して算出されうる。例えば、微細析出物20間の平均距離は、以下のような数式1のような相関関係を有しうる。
【0061】
【数1】
(λ:粒子の間平均距離、AA:粒子面積分率、NL:単位長さ当たり粒子個数)
微細析出物20の析出挙動を測定する方法は、前述の例示に制限されるものではなく、多様な方法が適用されうる。
【0062】
そのような微細析出物20の析出挙動は、ホットスタンピング後の成形部品の機械的特性及び水素遅れ破壊特性に大きい影響を与える。以下、
図2Aないし
図3Bを参照し、微細析出物20の析出挙動によるホットスタンピング後の成形部品の機械的特性及び水素遅れ破壊特性の改善効果差について説明する。
【0063】
図2A及び
図2Bは、本発明の一実施例による微細析出物が分散された様子の一部を概略的に図示する図面である。
【0064】
具体的には、
図2Aには、鋼板10内部に分散されている微細析出物20の大きさ及び分布が、相対的に不均一である場合が図示されており、
図2Bには、鋼板10内部に分散されている微細析出物20の大きさ及び分布が、相対的に均一な場合が図示されている。
【0065】
図2Aを参照すれば、微細析出物20が、鋼板10内部において、均一ではなく、偏向的に分散されている。それにより、鋼板10内部の一部領域には、相対的に多くの個数の微細析出物20が凝集されている領域が存在しうる。また、相対的に多くの個数の微細析出物20が凝集されている領域には、相対的にさらに多くの欠陥(例えば、転位など)が凝集されうる。それだけではなく、
図2Aのように、微細析出物20の大きさが均一ではない場合、相対的に大きい微細析出物20に、相対的にさらに多くの欠陥(例えば、転位など)が凝集されうる。すなわち、欠陥も、鋼板10内部において、均一ではなく、偏向的に分布しうる。
【0066】
このように、特定領域に相対的にさらに多くの欠陥(例えば、転位など)が凝集される場合、当該領域は、破断ノッチ(notch)として作用し、不均一な応力分布及び応力集中を誘発し、強度及び曲げ性のような機械的特性を低下させるという問題がある。
【0067】
一方、
図2Bを参照すれば、相対的に均一な大きさの微細析出物20が、鋼板10内部に均一に分散されている。それにより、欠陥(例えば、転位など)は、鋼板10内部において、相対的に均一に分布され、前述のノッチとして作用する領域が生じることを最小化させたり防止させたりしうるという効果がある。
【0068】
一実施例において、鋼板10内部に分散されている微細析出物20の単位面積当たり個数は、事前設定された範囲を満足するように制御されうる。具体的には、鋼板10内部に分散されている微細析出物20の単位面積(100μm2)当たり個数は、25,000個以上であり、30,000個以下でもある。すなわち、微細析出物20は、鋼板10内部に、25,000個/100μm2以上であり、30,000個/100μm2以下に形成されうる。
【0069】
また、鋼板10内部に分散されている微細析出物20のうち、直径が0.01μm以下である微細析出物20の単位面積(100μm2)当たり個数は、23,000個以上であり、29,000個以下でもある。すなわち、微細析出物20は、鋼板10内部に23,000個/100μm2以上であり、29,000個/100μm2以下に形成されうる。
【0070】
また、鋼板10内部に分散されている微細析出物20のうち、直径が0.005μm以下である微細析出物20の単位面積(100μm2)当たり個数は、15,200個以上であり、29,000個以下でもある。すなわち、微細析出物20は、鋼板10内部において、15,200個/100μm2以上であり、29,000個/100μm2以下に形成されうる。
【0071】
微細析出物20の単位面積当たり個数が、前述の範囲を満足すれば、ホットスタンピング後に要求される引っ張り強度(例えば、1,680MPa以上)を確保し、成形性ないし曲げ性を向上させうる。例えば、微細析出物20の個数が25,000個/100μm2未満であるか、直径が0.01μm以下である微細析出物20の個数が23,000個/100μm2未満であるか、あるいは直径が0.005μm以下である微細析出物20の個数が15,200個/100μm2未満である場合、強度が低下されうる。なお、微細析出物20の個数が、30,000個/100μm2を超えるか、あるいは直径が0.01μm以下である微細析出物20の個数が、29,000個/100μm2を超えるか、あるいは直径が0.005μm以下である微細析出物20の個数が、29,000個/100μm2を超える場合、成形性ないし曲げ性が低下されうる。
【0072】
以下において、単位面積(100μm2)当たり全体微細析出物、大きさ(直径)別の微細析出物個数分布の均一度を示す個数平均の変動係数を第2変動係数(C2)と称しうる。第2変動係数(C2)は、個数平均の標準偏差を、個数平均で除した値と定義されうる。一実施例において、第2変動係数(C2)は、約0.8以下を満足しうる。第2変動係数(C2)が約0.8を超える場合、曲げ性が低下されうる。具体的には、微細析出物の個数分布が不均一である場合、微細析出物が少なく分布する領域において、初期オステナイト結晶粒サイズ(PAGS:prior austenite grain size)の微細化を介するブロック境界(block boundary)の密度低下が低減され、それにより、十分なスリップバンド(slip band)を確保し難いという問題が生じうる。従って、第2変動係数(C2)が約0.8を超える場合、成形性及び曲げ性が低下されうる。第2変動係数(C2)を介する個数分布に係わる析出挙動については、後述する比較例及び実施例を介し、さらに詳細に説明する。
【0073】
一実施例において、隣接する微細析出物20間の平均距離は、事前設定された範囲を満足するように制御されうる。ここで、「平均距離」は、微細析出物20の平均自由経路を意味し、それを測定する方法に係わる詳細な内容は、後述する。
【0074】
具体的には、微細析出物20間の平均距離は、約0.15μm以上であり、約0.4μm以下でもある。微細析出物20間の平均距離が約0.15μm未満である場合、成形性ないし曲げ性が低下され、一方、約0.4μmを超える場合、強度が低下されうる。
【0075】
前述の微細析出物20の直径は、水素遅れ破壊特性改善に大きい影響を与えうる。以下、
図3A及び
図3Bを参照し、微細析出物20の直径による水素遅れ破壊特性改善効果差について説明する。
【0076】
図3A及び
図3Bは、微細析出物20に水素がトラップされた様子の一部を、概略的に図示する図面である。
【0077】
具体的には、
図3Aには、直径が相対的に大きい微細析出物20に、水素がトラッピングされた様子が図示されており、
図3Bには、直径が相対的に小さい微細析出物20に、水素がトラッピングされた様子が図示されている。
【0078】
図3Aのように、微細析出物20の直径が相対的に大きい場合、1つの微細析出物20にトラッピングされる水素原子の個数が増加しうる。すなわち、鋼板10内部に流入された水素原子が均一に分散されず、1つの水素トラップサイトに、複数個の水素原子がトラップされる確率が増大するようになりうる。1つの水素トラップサイトにトラップされた複数個の水素原子は、互いに結合し、水素分子(H
2)を形成しうる。形成された水素分子は、内部圧力発生確率を増大させ、結果として、ホットスタンピング加工された製品の水素遅れ破壊特性を低下させうる。
【0079】
それと異なり、
図3Bのように、微細析出物20の直径が相対的に小さい場合、1つの微細析出物10に、複数個の水素原子がトラップされる確率が低減するようになりうる。すなわち、鋼板10内部に流入された水素原子は、互いに異なる水素トラップサイトにトラップされることにより、相対的に均一に分散しうる。それにより、水素原子が互いに結合することができなくなることにより、水素分子による内部圧力発生確率が低減され、ホットスタンピング加工された製品の水素遅れ破壊特性が向上されうる。
【0080】
本発明の一実施例によるホットスタンピング用鋼板1は、水素遅れ破壊特性を向上させるために、鋼板10内部に分散されている微細析出物20の直径平均が、事前設定された範囲を満足するように制御されうる。具体的には、鋼板10内部に分散されている微細析出物20の直径平均は、約0.006μm以下でもある。また、鋼板10内部に分散されている微細析出物20の約90%以上が、約0.01μm以下の直径を有しうる。また、鋼板10内部に分散されている微細析出物20の約60%以上が、約0.005μm以下の直径を有しうる。
【0081】
以下において、単位面積(100μm2)当たり全体微細析出物の大きさ(直径)の変動係数を、第1変動係数(C1)と称しうる。第1変動係数(C1)は、全体微細析出物の直径平均の標準偏差を、直径平均で除した値と定義されうる。一実施例において、第1変動係数(C1)は、約0.7以下を満足しうる。第1変動係数(C1)が約0.7を超える場合、引っ張り強度及び水素遅れ破壊特性が低下されうる。具体的には、微細析出物の大きさ(直径)分布が不均一である場合、不均一な直径分布が、転位移動の妨害要素として作用し、強度が低下されうる。すなわち、ホットスタンピング後の鋼板に外部衝撃が加えられた場合、大きさ(直径)が大きい微細析出物が密集された部分が、転位集積による破断ノッチとして作用しうる。また、微細析出物にトラップされる水素量が不均一であり、水素間結合による局所的な水素分圧上昇により、水素遅れ破壊特性が低下されうる。第1変動係数(C1)を介する直径分布に係わる析出挙動については、後述する比較例及び実施例を介し、さらに詳細に説明する。
【0082】
なお、微細析出物20の微細化は、ホットスタンピング後の成形部品の曲げ特性を改善させうる。一実施例において、微細化された微細析出物20は、結晶粒成長の妨害要素として作用し、初期オステナイト結晶粒サイズ(PAGS)を微細化させうる。初期オステナイト結晶粒サイズ(PAGS)が微細化されるほど、マルテンサイトパケットサイズ及びマルテンサイトラス(lath)相サイズが低減しうる。それにより、パケット内のブロック境界間隔が低減され、ブロック密度が増大しうる。そのようなブロック境界は、マルテンサイト組織の外部衝撃による変形時、スリップバンドとして作用しうるが、微細析出物20の微細化は、さらに多くのスリップバンドを確保しうるようにし、曲げ特性向上に寄与しうる。
【0083】
図4は、本発明の一実施例によるホットスタンピング用素材製造方法を概略的に図示するフローチャートである。
【0084】
図4に図示されているように、本発明の一実施例によるホットスタンピング用素材製造方法は、再加熱段階(S100)、熱間圧延段階(S200)、冷却/巻き取り段階(S300)、冷間圧延段階(S400)、焼きなまし熱処理段階(S500)及びメッキ段階(S600)を含むものでもある。
【0085】
参照として
図4には、S100段階ないしS600段階が、独立した段階として図示されているが、S100段階ないしS600段階のうち一部は、1つの工程でもって遂行され、必要によっては、一部が省略されることも可能である。
【0086】
まず、ホットスタンピング用素材1を形成する工程の対象になる半製品状態のスラブを準備する。該スラブは、炭素(C):0.28~0.50重量%、シリコン(Si):0.15~0.70重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、リン(P):0超過0.05重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、クロム(Cr):0.1~0.5重量%、ホウ素(B):0.001~0.005重量%、添加剤:0超過0.1重量%以下、及び残り鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含むものでもある。このとき、添加剤は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち少なくともいずれか一つを含むものでもある。例えば、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及び/またはバナジウム(V)それぞれの含量は、約0.010重量%ないし約0.050重量%でもある。
【0087】
再加熱段階(S100)は、熱間圧延のために、前記スラブを再加熱する段階である。再加熱段階(S100)においては、連続鋳造工程を介して確保されたスラブを、所定の温度範囲で再加熱することにより、鋳造時、偏析された成分を再固溶することになりうる。
【0088】
スラブ再加熱温度(SRT:slab reheating temperature)は、オステナイト微細化及び析出硬化効果の極大化のために、事前設定された温度範囲内に制御されうる。このとき、スラブ再加熱温度(SRT)範囲は、スラブ再加熱時、微細析出物20の平衡析出量を基準に、添加剤(Ti、Nb及び/またはV)が全固溶される温度範囲(約1,000℃以上)に含まれるものである。スラブ再加熱温度(SRT)が、添加剤(Ti、Nb及び/またはV)の全固溶温度範囲に達していない場合、熱間圧延時、微細組織制御に必要な駆動力が十分に反映されず、要求される析出量制御を介するすぐれた機械的物性確保効果を得ることができない。
【0089】
一実施例において、スラブ再加熱温度(SRT)は、約1,200℃ないし約1,250℃に制御されうる。スラブ再加熱温度(SRT)が約1,200℃未満である場合には、鋳造時、偏析された成分が十分に再固溶されえず、合金元素の均質化効果を大きいものと見難く、チタン(Ti)の固溶効果を大きいものと見難いという問題点がある。なお、スラブ再加熱温度(SRT)は、高温であればあるほど、均質化に有利であるが、約1,250℃を超える場合には、オステナイト結晶粒度が増大し、強度確保が困難であるだけではなく、過度な加熱工程により、鋼板の製造費用だけ上昇しうる。
【0090】
熱間圧延段階(S200)は、S100段階で再加熱されたスラブを、所定の仕上げ圧延温度(FDT:finishing delivery temperature)範囲で熱間圧延し、鋼板を製造する段階である。一実施例として、仕上げ圧延温度(FDT)範囲は、約840℃ないし約920℃に制御されうる。仕上げ圧延温度(FDT)が840℃未満である場合、異常領域圧延による混粒組織が発生し、鋼板の加工性確保が困難であり、微細組織不均一により、加工性が低下される問題があるだけではなく、急激な相変化により、熱間圧延中に通板性の問題が生じうる。それと反対に、仕上げ圧延温度(FDT)が920℃を超える場合には、オステナイト結晶粒が粗大化されうる。また、TiC析出物が粗大化され、最終部品性能が低下される危険性がある。
【0091】
なお、再加熱段階(S100)及び熱間圧延段階(S200)においては、エネルギーが不安定な粒界において、微細析出物20の一部が析出されうる。このとき、粒界において析出された微細析出物20は、オステナイトの結晶粒成長を妨害する要素として作用し、オステナイト微細化を介する強度向上の効果を提供しうる。なお、S100段階及びS200段階で析出される微細析出物20は、平衡析出量基準で、約0.007wt%レベルでもあるが、それに限定されるものではない。
【0092】
冷却/巻き取り段階(S300)は、S200段階で熱間圧延された鋼板を、所定の巻き取り温度(CT)範囲で冷却させて巻き取り、鋼板内に微細析出物20を形成する段階である。すなわち、S300段階においては、スラブが含む添加剤(Ti、Nb及び/またはV)の窒化物または炭化物を形成することにより、微細析出物20が形成される。なお、該巻き取りは、微細析出物20の平衡析出量が最大値に逹するように、フェライト域において進められうる。このように、結晶粒再結晶が完了した後、フェライトに組織変態されるとき、粒界だけではなく、粒界内においても、微細析出物20の粒子サイズが均質に析出されうる。
【0093】
一実施例として、巻き取り温度(CT)は、約700℃ないし約780℃でもある。巻き取り温度(CT)は、炭素(C)の再分配に影響を及ぼしうる。そのような巻き取り温度(CT)が約700℃未満である場合には、過冷による低温相分率が高くなり、強度が増大し、冷間圧延時、圧延負荷が深化する憂いがあり、延性が急激に低下される問題点がある。反対に、巻き取り温度が約780℃を超える場合には、異常結晶粒子成長や、過度な結晶粒子成長により、成形性及び強度の劣化が生じる問題がある。
【0094】
そのように、本実施例によれば、巻き取り温度(CT)範囲を制御することにより、微細析出物20の析出挙動を制御しうる。巻き取り温度(CT)範囲によるホットスタンピング用素材1の特性変化に係わる実験例は、
図5、
図6A及び
図6Bを参照し、後述する。
【0095】
冷間圧延段階(S400)は、S300段階で巻き取られた鋼板をアンコイリング(uncoiling)して酸洗い処理した後、冷間圧延する段階である。このとき、該酸洗いは、巻き取られた鋼板、すなわち、前述の熱延過程を介して製造された熱延コイルのスケールを除去するための目的で実施されることになる。なお、一実施例として、冷間圧延時、圧下率は、30%ないし70%に制御されうるが、それに制限されるものではない。
【0096】
焼きなまし熱処理段階(S500)は、S400段階で冷間圧延された鋼板を、約700℃以上の温度で焼きなまし熱処理する段階である。一具体例において、該焼きなまし熱処理は、冷延板材を加熱し、加熱された冷延板材を所定の冷却速度で冷却する段階を含む。
【0097】
メッキ段階(S600)は、焼きなまし熱処理された鋼板に対し、メッキ層を形成する段階である。一実施例として、メッキ段階(S600)において、S500段階で焼きなまし熱処理された鋼板上に、Al-Siメッキ層を形成しうる。
【0098】
具体的には、メッキ段階(S600)は、鋼板を、約650℃ないし約700℃の温度を有するメッキ浴に浸漬させ、鋼板の表面に溶融メッキ層を形成する段階、及び前記溶融メッキ層が形成された鋼板を冷却させ、メッキ層を形成する冷却段階を含むものでもある。このとき、該メッキ浴は、添加元素としてSi、Fe、Al、Mn、Cr、Mg、Ti、Zn、Sb、Sn、Cu、Ni、Co、In、Biなどが含まれるものであるが、それらに限定されるものではない。
【0099】
そのように、S100段階ないしS600段階を介して製造されたホットスタンピング用素材1に対し、ホットスタンピング工程を遂行することにより、前述の微細析出物20の析出挙動に係わる条件を満足し、それにより、要求される強度及び曲げ性を満足するホットスタンピング部品を製造しうる。一実施例として、前述の含量条件及び工程条件を満足するように製造されたホットスタンピング用素材1は、ホットスタンピング後、1,680MPa以上の引っ張り強度、50°以上の曲げ性、及び0.8wppm以下の活性化水素量を有しうる。
【0100】
以下においては、実施例及び比較例を介し、本発明についてさらに詳細に説明する。しかしながら、下記の実施例及び比較例は、本発明についてさらに具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施例及び比較例によって限定されるものではない。下記の実施例及び比較例は、本発明の範囲内において、当業者によって適切に修正、変更されうる。
図5は、本発明の実施例及び比較例の巻き取り温度による引っ張り強度及び曲げ応力を比較して示したグラフであり、
図6A及び
図6Bは、実施例及び比較例の巻き取り温度による4点屈曲試験(4point bending test)の結果を図示するイメージである。
【0101】
実施例(CT700)及び比較例(CT800)は、下記表1のような組成を有するスラブにつき、前述のS100段階ないしS600段階を遂行して製造されたホットスタンピング用素材1をホットスタンピングして製造された試片である。このとき、実施例(CT700)及び比較例(CT800)は、ホットスタンピング用素材1の製造過程において、同一の含量条件及び工程条件を適用するが、巻き取り温度(CT)のみを変数として差別適用して製造された試片である。具体的には、実施例(CT700)及び比較例(CT800)は、表1のような組成を有するスラブにつき、スラブ再加熱温度(SRT):1,230℃、仕上げ圧延温度(FDT):900℃、熱間圧延時の圧下率:95%、焼きなまし熱処理温度:780℃、メッキ浸漬温度:660℃の条件で製造されたホットスタンピング素材を、950℃において270秒間加熱した後、ホットスタンピングして製造された試片である。
【0102】
【0103】
具体的には、実施例(CT700)は、700℃の巻き取り温度(CT)を適用して製造されたホットスタンピング用素材1をホットスタンピングして製造された試片であり、比較例(CT800)は、800℃の巻き取り温度(CT)を適用して製造されたホットスタンピング用素材1をホットスタンピングして製造された試片である。
【0104】
ここで、
図5を共に参照して説明する。
図5は、実施例(CT700)及び比較例(CT800)の引っ張り強度及び曲げ応力を測定して示されたグラフである。
【0105】
図5を参照すれば、引っ張り強度の場合、実施例(CT700)の引っ張り強度は、比較例(CT800)の引っ張り強度より強く、衝撃特性に影響を及ぼす曲げ応力も、実施例(CT700)の曲げ応力が比較例(CT800)の曲げ応力と対比して改善されていることを確認しうる。
【0106】
それは、下記表2で確認しうるように、実施例(CT700)の場合が、比較例(CT800)に比べ、微細析出物20の析出量の増加、及びそれによる水素捕集能が向上されたためである。
【0107】
下記表2は、実施例(CT700)と比較例(CT800)との平衡析出量、活性化水素量の測定値、及び曲げビーム応力腐食試験(bent-beam stress corrosion test)結果である。ここで、平衡析出量とは、熱力学的に平衡状態をなすときに析出されうる析出物の最大個数を意味し、そのような平衡析出量が多いほど、析出される析出物の個数が増加する。また、活性化水素量は、鋼板10内に流入された水素のうち、微細析出物20にトラップされた水素を除いた水素量を意味する。
【0108】
そのような活性化水素量は、加熱脱ガス分析(thermal desorption spectroscopy)方法を利用して測定されうる。具体的には、試片を事前設定された加熱速度で加熱し、昇温させ、特定温度以下において、試片から放出される水素量を測定しうる。このとき、特定温度以下において、試片から放出される水素は、試片内に流入された水素のうち、トラップされえず、水素遅れ破壊に影響を与える活性化水素とに理解されうる。
【0109】
【0110】
表2は、微細析出物の平衡析出量が異なるサンプルそれぞれにつき、4点屈曲試験を行った結果と、加熱脱ガス分析方法を利用して測定した活性化水素量と、を示す。
【0111】
ここで、4点屈曲試験は、試片を腐食環境に露出させた状態を再現して製造されたものに対し、特定地点において、弾性限界以下レベルの応力を加え、応力腐食亀裂の発生いかんを確認する試験方法である。このとき、該応力腐食亀裂は、腐食と、持続的な引っ張り応力とが同時に作用するときに生じる亀裂を意味する。
【0112】
具体的には、表2の4点屈曲試験結果は、サンプルそれぞれに対し、空気中において、1,000MPaの応力を100時間印加し、破断発生いかんを確認した結果である。また、活性化水素量は、前述の加熱脱ガス分析方法を利用して測定されたものであり、サンプルそれぞれにつき、20℃/分の加熱速度でもって、常温で500℃まで昇温させつつ、350℃以下において、試片から放出される水素量を測定した値である。
【0113】
表2を参照すれば、微細析出物20の平衡析出量の場合、実施例(CT700)の平衡析出量は、0.040wt%であり、比較例(CT800)の平衡析出量は、0.029wt%と測定された。すなわち、実施例(CT700)が、比較例(CT800)と対比させ、さらに多くの微細析出物20が形成されることにより、さらに多くの水素トラップサイトを提供しうることを確認しうる。
【0114】
なお、4点屈曲試験結果の場合、実施例(CT700)は、破断されず、比較例(CT800)は、破断された。また、活性化水素量の場合、実施例(CT700)の活性化水素量は、約0.453wppmであり、比較例(CT800)の活性化水素量は、約0.550wppmと測定された。それと係わり、活性化水素量が相対的にさらに低い実施例(CT700)は、破断されず、活性化水素量が相対的にさらに高い比較例(CT800)は、破断されたことを確認しうる。それは、実施例(CT700)が比較例(CT800)と対比し、水素遅れ破壊特性が向上されたと理解されうる。
【0115】
すなわち、実施例(CT700)は、比較例(CT800)と対比させ、微細析出物20の析出量が増大し、それにより、活性化水素量が低減された。それは、実施例(CT700)において、内部にトラップされた水素の量が、比較例(CT800)と対比して増加したことを意味し、その結果、水素遅れ破壊特性が向上されたと理解されうる。
【0116】
図6A及び
図6Bは、それぞれ実施例(CT700)及び比較例(CT800)に対し、4点屈曲試験を施工した結果を図示するイメージである。具体的には、
図6Aは、実施例(CT700)に対し、4点屈曲試験を施行した結果であり、
図6Bは、比較例(CT800)に対し、実施例(CT700)と同一条件を適用し、4点屈曲試験を施行した結果に対応する。
【0117】
図6A及び
図6Bに図示されているように、実施例(CT700)の場合、4点屈曲試験結果、試片が破断されない一方、比較例(CT800)の場合、試片が破断されたことを確認しうる。
【0118】
それは、
図6Aの実施例(CT700)の場合、700℃の巻き取り温度(CT)を適用して製造されたホットスタンピング用素材1をホットスタンピングして製造された試片であり、0.01μm以下の直径を有する微細析出物20が、単位面積(100μm
2)当たり23,000個以上であり、29,000個以下に形成され、微細析出物20間の平均距離が0.15μm以上であり、0.4μm以下を満足する。従って、実施例(CT700)は、鋼板10内に流入された水素を効率的に分散させ、トラッピングして水素遅れ破壊特性が向上され、引っ張り強度及び曲げ特性が向上されたことを確認しうる。
【0119】
それと反対に、
図6Bの比較例(CT800)の場合、800℃の巻き取り温度(CT)を適用して製造されたホットスタンピング用素材1をホットスタンピングして製造された試片であり、微細析出物20の析出量が十分ではなく、微細析出物20の直径が粗大化され、水素結合による耐圧発生確率が増大する。従って、比較例(CT800)は、鋼板10内に流入された水素を効率的に分散トラッピングすることができず、引っ張り強度、曲げ特性及び水素遅れ破壊特性が低下されたことを確認しうる。
【0120】
すなわち、同一成分で構成されても、巻き取り温度(CT)の差により、ホットスタンピング素材1がホットスタンピング工程を経た後に有する強度、曲げ性及び水素遅れ破壊特性などに差が生じる。それは、巻き取り温度(CT)により、微細析出物20の析出挙動に差が生じるためである。従って、前述の本発明の実施例による含量条件及び工程条件を適用すれば、高強度を確保し、曲げ性及び水素遅れ破壊特性を向上させうる。
【0121】
以下の表3ないし表6は、複数の試片につき、微細析出物20の析出挙動の差による引っ張り強度、曲げ性及び水素遅れ破壊特性を数値化したものである。具体的には、表3ないし表6には、複数の試片につき、析出挙動(微細析出物の個数、微細析出物間の平均距離、微細析出物の直径など)の測定値と、ホットスタンピング後に有する特性(引っ張り強度、曲げ性及び活性化水素量)の測定値とが記載されている。
【0122】
なお、複数の試片は、それぞれ950℃に加熱し,300℃以下まで、30℃/s以上の冷却速度で冷却した後、引っ張り強度、曲げ性及び活性化水素量を測定したものである。このとき、引っ張り強度及び活性化水素量は、前述の4点屈曲試験及び加熱脱ガス分析方法を基に測定されたものであり、曲げ性は、ドイツ自動車産業協会(VDA:Verband Der Automobilindustrie)の規格であるVDA238-100により、V-ベンディング角を測定したものである。
【0123】
また、微細析出物の析出挙動(微細析出物の個数、微細析出物間の平均距離、微細析出物の直径など)は、前述のTEMイメージ分析を介して測定された。また、微細析出物の析出挙動は、0.5μm*0.5μmの面積を有する任意の領域について測定し、単位面積(100μm2)を基準に換算し、測定した。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
表3ないし表6は、試片Aないし試片Vに対する、微細析出物の析出挙動(微細析出物の個数、微細析出物間の平均距離、微細析出物の直径など)の測定値と、ホットスタンピング以後に有する特性(引っ張り強度、曲げ性及び活性化水素量)の測定値を示す。
【0129】
試片Aないし試片Kは、表3に図示された含量条件を満足するスラブにつき、前述の工程条件を適用し、S100段階ないしS600段階を介して製造したホットスタンピング用素材をホットスタンピングして製造された試片である。このとき、試片Aないし試片Kは、スラブ再加熱温度(SRT):1,230℃、仕上げ圧延温度(FDT):900℃、熱間圧延時圧下率:95%、巻き取り温度(CT):780℃、焼きなまし熱処理温度:780℃、メッキ浸漬温度:660℃の条件で製造されたホットスタンピング素材を、950℃において270秒間加熱した後、ホットスタンピングして製造された試片である。すなわち、試片Aないし試片Kは、前述の微細析出物の析出挙動条件を満足する試片である。
【0130】
具体的には、試片Aないし試片Kは、微細析出物が鋼板内に、25,000個/100μm2以上であり、30,000個/100μm2以下に形成され、全体微細析出物の平均直径は、0.006μm以下であり、全体微細析出物間の平均距離は、0.15μm以上であり、0.4μm以下を満足する。また、鋼板内に形成される微細析出物のうち90%以上が、0.01μm以下の直径を有し、直径が0.01μm以下である微細析出物の個数は、23,000個/100μm2以上であり、29,000個/100μm2以下を満足する。また、鋼板内に形成される微細析出物のうち60%以上が、0.005μm以下の直径を有し、直径が0.005μm以下である微細析出物の個数は、15,200個/100μm2以上であり、29,000個/100μm2以下を満足する。
【0131】
そのような本発明の析出挙動条件を満足する試片Aないし試片Kは、引っ張り強度、曲げ性及び水素遅れ破壊特性が向上されたことを確認しうる。具体的には、試片Aないし試片Kは、ホットスタンピング後、引っ張り強度が1,680MPa以上を満足し、ホットスタンピング後、曲げ性が40°以上を満足し、ホットスタンピング後、活性化水素量が0.5wppm以下を満足する。
【0132】
なお、試片Lないし試片Vは、表5に図示された含量条件を満足するスラブにつき、前述の工程条件を適用し、S100段階ないしS600段階を介して製造されたホットスタンピング用素材をホットスタンピングして製造された試片である。このとき、試片Lないし試片Vは、スラブ再加熱温度(SRT):1,230℃、仕上げ圧延温度(FDT):900℃、熱間圧延時の圧下率:95%、巻き取り温度(CT):790℃、焼きなまし熱処理温度:780℃、メッキ浸漬温度:660℃の条件で製造されたホットスタンピング素材を、950℃において270秒間加熱した後、ホットスタンピングして製造された試片である。すなわち、試片Lないし試片Vは、前述の微細析出物の析出挙動条件のうち、少なくとも一部を満足させることができない試片であり、引っ張り強度、曲げ性及び/または水素遅れ破壊特性が、試片Aないし試片Kと対比し、落ちるということを確認しうる。
【0133】
試片Lの場合、直径0.01μm以下の微細析出物個数が22,998個である。それは、直径0.01μm以下の微細析出物個数条件の下限に達していない。それにより、試片Lの引っ張り強度は、相対的に低い1,671MPaに過ぎないことを確認しうる。
【0134】
試片Mの場合、全体微細析出物個数が24,999個であり、直径0.01μm以下の微細析出物個数が22,874個である。それは、全体微細析出物個数条件の下限、及び直径0.01μm以下の微細析出物個数条件の下限に達していない。それにより、試片Mの引っ張り強度は、相対的に低い1,664MPaに過ぎないことを確認しうる。
【0135】
試片Nの場合、直径0.01μm以下の微細析出物個数が29,005個である。それは、直径0.01μm以下の微細析出物個数条件の上限を超える。それにより、試片Nの曲げ性は、相対的に低い37°に過ぎないことを確認しうる。
【0136】
試片Oの場合、全体微細析出物個数が30,009個である。それは、全体微細析出物個数条件の上限を超える。それにより、試片Oの曲げ性は、相対的に低い35°に過ぎないことを確認しうる。
【0137】
試片Pの場合、全体微細析出物平均直径が0.0071μmである。それは、全体微細析出物平均直径条件の上限を超える。それにより、試片Pの活性化水素量は、相対的に高い0.505wppmと測定され、水素遅れ破壊特性が相対的に低下されたことを確認しうる。
【0138】
それは、直径0.005μm以下の微細析出物の比率条件の下限に達していない。それにより、試片Qの活性化水素量は、相対的に高い0.514wppmと測定され、水素遅れ破壊特性が相対的に低下されたことを確認しうる。
【0139】
試片Rの場合、直径0.005μm以下の微細析出物の比率が59.9%である。それは、直径0.005μm以下の微細析出物の比率条件の下限に達していない。それにより、試片Rの活性化水素量は、相対的に高い0.502wppmと測定され、水素遅れ破壊特性が相対的に低下されたことを確認しうる。
【0140】
試片Sの場合、直径0.005μm以下の微細析出物の比率が59.7%である。それは、直径0.005μm以下の微細析出物の比率条件の下限に達していない。それにより、試片Sの活性化水素量は、相対的に高い0.504wppmと測定され、水素遅れ破壊特性が相対的に低下されたことを確認しうる。
【0141】
試片Tの場合、全体微細析出物間の平均距離が0.14μmである。それは、全体微細析出物間の平均距離条件の下限に達していない。それにより、試片Tの曲げ性は、相対的に低い38°に過ぎないことを確認しうる。
【0142】
試片Uの場合、全体微細析出物平均距離が0.41μmである。それは、全体微細析出物平均距離条件の上限を超える。それにより、試片Uの引っ張り強度は、相対的に低い1,678MPaに過ぎないことを確認しうる。
【0143】
試片Vの場合、直径0.005μm以下の微細析出物個数が15,112個である。それは、直径0.005μm以下の微細析出物個数条件の下限に達していない。それにより、引っ張り強度は、相対的に低い1,671MPaに過ぎないことを確認しうる。
【0144】
以下、表7を使用し、微細析出物20の析出挙動によるホットスタンピング後の成形部品の引っ張り強度及び水素遅れ破壊特性の改善効果差について説明する。以下の微細析出物の析出挙動は、前述のTEMイメージ分析を介して測定された。微細析出物の析出挙動は、0.5μm*0.5μmの面積を有する10個の任意の領域について測定し、単位面積(100μm2)を基準に換算し、以下、「平均」というのは、任意の領域に係わる析出挙動値の平均を意味する。前記任意の領域における全体析出物個数を算出し、それらの平均値を、「全体析出物個数平均」と称する。同様に、前記任意の領域における平均自由経路を介し、微細析出物間の平均距離を算出し、それらの平均値を、「析出物間距離平均」と称する。前述の任意領域の直径10nm以下の微細析出物、及び直径5nm以下の微細析出物それぞれの個数を、単位面積(100μm2)を基準に換算し、それらの平均値を算出した後、前述の「全体析出物個数平均」に対する比率を、「10nm以下の比率平均」及び「5nm以下の比率平均」と称する。
【0145】
前述の任意領域における全体微細析出物間の直径の平均を、「全体析出物直径平均」と称し、それら値の標準偏差を、「直径平均の標準偏差」と称する。直径平均変動係数、すなわち、第1変動係数(C1)は、前記直径平均の標準偏差を、前記直径平均で除した値と定義した。本発明において、第1変動係数(C1)は、0.8以下でもある。
【0146】
【0147】
表7は、複数の試片につき、微細析出物の析出挙動による引っ張り強度及び水素遅れ破壊特性を数値化したものである。具体的には、表7には、複数の試片(X1~X12)につき、微細析出物の析出挙動として、全体微細析出物の個数平均、微細析出物間の平均距離、特定直径以下の微細析出物の平均比率、全体微細析出物の直径平均、前記直径平均の標準偏差、第1変動係数(C1)に対する測定値と、それによるホットスタンピング以後に有する特性であり、引っ張り強度及び活性化水素量に対する測定値とが記載されている。特に、直径平均の変動係数である第1変動係数(C1)による引っ張り強度及び水素遅れ破壊特性の観点で説明する。
【0148】
試片X1ないし試片X12は、炭素(C):0.28~0.50重量%、シリコン(Si):0.15~0.70重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、リン(P):0超過0.05重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、クロム(Cr):0.1~0.5重量%、ホウ素(B):0.001~0.005重量%、添加剤として、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち1種以上の和:0超過0.1wt%以下、及び残り鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含むスラブに対し、前述の工程条件を適用し、S100段階ないしS600段階を介して製造されたホットスタンピング用素材をホットスタンピングして製造された試片である。このとき、試片X1ないし試片X12は、スラブ再加熱温度(SRT):1,230℃、仕上げ圧延温度(FDT):900℃、熱間圧延時の圧下率:95%、巻き取り温度(CT):780℃、焼きなまし熱処理温度:780℃、メッキ浸漬温度:660℃の条件で製造されたホットスタンピング素材を、950℃において270秒間加熱した後、ホットスタンピングして製造された試片である。なお、試片X1ないし試片X12は、第1変動係数(C1)に係わる析出挙動だけではなく、前述の第2変動係数(C2)に係わる析出挙動も満足しうる。すなわち、試片X1ないし試片X12は、前述の微細析出物の析出挙動条件を満足する試片である。
【0149】
具体的には、試片X1ないし試片X12の全体微細析出物の個数は、25,000~30,000個/μm2であり、隣接した微細析出物間の平均距離は、0.15μm以上であり、0.40μm以下であり、直径0.01μm以下の微細析出物の比率は、それぞれ90%以上であり、直径0.005μm以下の微細析出物の比率は、60%以上であり、全体微細析出物の直径平均は、0.006μm以下を満足する。
【0150】
ただし、試片X1ないし試片X8は、第1変動係数が0.7以下である条件を満足し、試片X9ないし試片X12は、第1変動係数が0.7超過であり、本発明の第1変動係数による析出挙動条件を満足することができない。第1変動係数が0.7以下である試片X1ないし試片X8は、第1変動係数が0.7超過である試片X9ないし試片X12より、引っ張り強度及び水素遅れ破壊特性にすぐれるということを確認しうる。具体的には、試片X1ないし試片X8は、ホットスタンピング後、引っ張り強度が1,700MPa以上であり、活性化水素量が0.4wppm以下であり、試片X9ないし試片X12は、ホットスタンピング後、引っ張り強度は、1,680MPaないし1,700MPa(1,700MPa未満)であり、活性化水素量は、0.4wppmないし0.5wppmであるところと対比させ、試片X1ないし試片X8が、試片X9ないし試片X12と対比し、引っ張り強度及び水素遅れ破壊特性にすぐれる。
【0151】
特に、試片X1ないし試片X4は、全体析出物個数平均が25,000個以上であり、27,500個以下であり、そのうち、直径10nm以下の微細析出物の比率平均は、90%ないし92%であり、直径5nm以下の微細析出物の比率平均は、60%ないし63%であり、全体析出物の個数及び直径が10nmまたは5nm以下の微細析出物の比率も低いので、ホットスタンピング後、引っ張り強度や水素遅れ破壊特性確保が非常に困難である条件でもある。それにもかかわらず、試片X1ないし試片X4は、第1変動係数が0.7以下であるという本発明の析出挙動条件を満足するので、試片X9ないし試片X12と対比させ、相対的に高い引っ張り強度及び水素遅れ破壊特性を有する。
【0152】
なお、試片X12は、全体析出物個数平均が29,424個と多い方であり、直径が10nm及び5nm以下である微細析出物の比率も、それぞれ97.1%及び91.4%と高い方であり、引っ張り強度及び水素遅れ破壊特性の確保に相対的に有利な条件でもある。それにもかかわらず、試片X12は、第1変動係数が0.7以下であるという本発明の析出挙動条件を満足することができないので、試片X1ないし試片X8と対比させ、相対的に低い引っ張り強度及び水素遅れ破壊特性を有する。
【0153】
以下、表8を使用し、微細析出物20の析出挙動による、ホットスタンピング後の成形部品の曲げ性改善効果差について説明する。以下の微細析出物の析出挙動は、前述のTEMイメージ分析を介して測定された。微細析出物の析出挙動は、0.5μm*0.5μmの面積を有する10個の任意領域について測定し、単位面積(100μm2)を基準に換算し、以下、「平均」というのは、任意の領域に係わる析出挙動値の平均を意味する。前述の任意領域における全体析出物個数、直径10nm以下の微細析出物個数、直径5nm以下の微細析出物個数を測定した後、単位面積(100μm2)を基準に換算し、それらそれぞれの平均値を、「全体析出物個数平均」、「10nm以下析出物個数平均」、「5nm以下析出物個数平均」と称し、それぞれの標準偏差を測定した。前記任意の領域における平均自由経路を介し、微細析出物間の平均距離を算出し、それらの平均値を、「析出物間距離平均」と称する。
【0154】
個数変動係数、すなわち、第2変動係数(C2)は、前記個数平均の標準偏差を、前記個数平均で除した値と定義した。本発明において、第2変動係数(C2)は、0.8以下でもある。第2変動係数(C2)は、直径10nm以下の微細析出物の個数変動係数である第2-1変動係数(C21)、及び直径5nm以下の微細析出物の個数変動係数である第2-2変動係数(C22)を含む。
【0155】
第2-1変動係数(C21)は、全体微細析出物のうち、直径が0.01μm以下である微細析出物の個数平均の標準偏差を、直径が0.01μm以下である微細析出物間の個数平均で除した値と定義され、第2-1変動係数(C21)は、0.8以下でもある。以下、第2-1変動係数(C21)は、「第1個数変動係数」と称されうる。第2-2変動係数(C22)は、全体微細析出物のうち、直径が0.005μm以下である微細析出物の個数平均の標準偏差を、直径が0.005μm以下である微細析出物間の個数平均で除した値と定義され、第2-2変動係数(C22)は、0.8以下でもある。以下、第2-2変動係数(C22)は、「第2個数変動係数」と称されうる。
【0156】
【0157】
表8は、複数の試片につき、微細析出物の析出挙動による曲げ角を数値化したものである。具体的には、表8には、複数の試片(Y1~Y14)につき、微細析出物の析出挙動として、全体微細析出物、直径10nm以下の微細析出物、及び直径5nm以下の微細析出物それぞれの個数平均、前記個数平均の標準偏差、微細析出物個数の変動係数である第2変動係数(C2)に対する測定値と、それによるホットスタンピング以後に有する特性として、曲げ角に対する測定値とが記載されている。特に、個数平均の変動係数である第2変動係数(C2)による曲げ性の観点から説明する。
【0158】
試片Y1ないし試片Y14は、炭素(C):0.28~0.50重量%、シリコン(Si):0.15~0.70重量%、マンガン(Mn):0.5~2.0重量%、リン(P):0超過0.05重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、クロム(Cr):0.1~0.5重量%、ホウ素(B):0.001~0.005重量%、添加剤として、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)のうち1種以上の和:0超過0.1wt%以下、及び残り鉄(Fe)と、その他不可避な不純物と、を含むスラブにつき、前述の工程条件を適用し、S100段階ないしS600段階を介して製造されたホットスタンピング用素材をホットスタンピングして製造された試片である。このとき、試片Y1ないし試片Y14は、スラブ再加熱温度(SRT):1,230℃、仕上げ圧延温度(FDT):900℃、熱間圧延時の圧下率:95%、巻き取り温度(CT):780℃、焼きなまし熱処理温度:780℃、メッキ浸漬温度:660℃の条件で製造されたホットスタンピング素材を、950℃において270秒間加熱した後、ホットスタンピングして製造された試片である。なお、試片Y1ないし試片Y14は、後述する第2変動係数(C2)に係わる析出挙動だけではなく、前述の第1変動係数(C1)に係わる析出挙動も満足しうる。すなわち、Y1ないしY14は、前述の微細析出物の析出挙動条件を満足する試片である。
【0159】
具体的には、試片Y1ないし試片Y14の全体微細析出物の個数は、25,000~30,000個/μm2であり、隣接した微細析出物間の平均距離は、0.15μm以上であり、0.40μm以下であり、直径10nm以下の微細析出物の個数は、23,000~29,000個/μm2で、直径5nm以下の微細析出物の個数は、15,200~29,000個/μm2である。表8には、示されていないが、試片Y1ないし試片Y14は、直径0.01μm以下の微細析出物の比率は、それぞれ90%以上であり、直径0.005μm以下の微細析出物の比率は、60%以上であり、全体微細析出物の直径平均は、0.006μm以下を満足する。
【0160】
ただし、試片Y1ないし試片Y8は、第2変動係数が0.8以下である条件を満足し、試片Y9ないし試片Y14は、第2変動係数が0.8超過であり、本発明の第2変動係数による析出挙動条件を満足することができない。第2変動係数が0.8以下である試片Y1ないし試片Y8は、第1変動係数が0.8超過である試片Y9ないし試片Y14より曲げ性にすぐれるということを確認しうる。具体的には、試片Y9ないし試片Y14は、ホットスタンピング後曲げ角(゜)が40°ないし50°であり、試片Y9ないし試片Y14は、ホットスタンピング後、曲げ角が50°以上60°未満であるところと対比させ、試片Y1ないし試片Y8が、試片Y9ないし試片Y14より曲げ性にすぐれる。
【0161】
試片Y9の場合、第2変動係数(C2)、第2-1変動係数(C21)及び第2-2変動係数(C22)が、それぞれ0.82、0.81及び0.81であり、個数変動係数(C2、C21、C22)条件の上限(0.8)を超える。それにより、試片Y9の曲げ性は、相対的に低い44°に過ぎないことを確認しうる。
【0162】
試片Y10ないし試片Y12の場合、第2変動係数(C2)が0.81ないし0.85であり、第2変動係数(C2)条件の上限を超える。それにより、試片Y10ないし試片Y12の曲げ性は、相対的に低い42°ないし45°に過ぎないことを確認しうる。試片Y13の場合、第2-1変動係数(C21)が0.82であり、第2-1変動係数(C21)条件の上限を超える。それにより、試片Y13の曲げ性は、相対的に低い43°に過ぎないことを確認しうる。試片Y14の場合、第2-2変動係数(C22)が0.82であり、第2-2変動係数(C22)条件の上限を超える。それにより、試片Y14の曲げ性は、相対的に低い41°に過ぎないことを確認しうる。
【0163】
特に、試片Y5ないし試片Y8は、単位面積(100μm2)当たり全体析出物個数平均が28,000個以上であり、30,000個以下と多い方であり、そのうち、直径10nm以下の微細析出物、及び直径5nm以下の微細析出物の個数も、相対的に多い方であり、曲げ性確保が困難な条件でもある。それにもかかわらず、試片Y5ないし試片Y8は、第2変動係数が0.8以下であるという本発明の析出挙動条件を満足するので、試片Y9ないし試片Y14と対比させ、相対的に高い曲げ性を有する。
【0164】
なお、試片Y9ないし試片Y14は、全体析出物、直径が10nm以下、及び直径が5nm以下である微細析出物の個数が多い方であり、曲げ性確保に相対的に有利な条件でもある。それにもかかわらず、試片Y9ないし試片Y14は、第2変動係数が0.8以下であるという本発明の析出挙動条件を満足することができないので、試片Y1ないし試片Y8と対比させ、相対的に低い曲げ性を有する。
【0165】
結果として、前述の本発明の含量条件及び工程条件を適用したホットスタンピング用素材の製造方法でもって製造されたホットスタンピング用素材は、ホットスタンピングを経た後、前述の微細析出物の析出挙動条件を満足し、そのような微細析出物の析出挙動条件を満足するホットスタンピング製品は、引っ張り強度、曲げ性及び水素遅れ破壊特性が向上されたことを確認した。特に、本発明の実施例によるホットスタンピング用素材は、析出挙動条件のうち、直径平均変動係数及び/または個数変動係数を満足し、微細析出物の個数や大きさ(直径)が均一に分布されることにより、ホットスタンピング後の成形部品の引っ張り強度、曲げ性及び水素遅れ破壊特性がさらに向上されていることを確認しうる。
【0166】
本発明は、図面に図示された実施例を参照し、説明されたが、それらは、例示的なものに過ぎず、当該技術分野において通常の知識を有する者であるならば、それらから、多様な変形、及び均等な他の実施例が可能であるという点を理解するであろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって定められるものである。
【国際調査報告】