(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】TVパムナット部品用黒鉛鋼線材、黒鉛鋼、その製造及び切削加工方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241210BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20241210BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20241210BHJP
C21D 1/26 20060101ALI20241210BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/60
C21D8/06 A
C21D1/26 B
B23B1/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535601
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 KR2022020239
(87)【国際公開番号】W WO2023113430
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0178347
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ, サンウ
(72)【発明者】
【氏名】イム, ナムソク
(72)【発明者】
【氏名】パク, セウォン
【テーマコード(参考)】
3C045
4K032
【Fターム(参考)】
3C045AA10
4K032AA01
4K032AA06
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA32
4K032AA35
4K032BA02
4K032CA01
4K032CA02
4K032CD01
4K032CD02
4K032CD05
4K032CF02
(57)【要約】
【課題】本発明は、産業用部品の製作のための黒鉛鋼の成分設計及び切削加工条件を提供し、黒鉛鋼の製造のための鋼線材、黒鉛鋼及び黒鉛化熱処理の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】TVパムナット部品用黒鉛鋼線材の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるビレットを製造する段階、前記ビレットを加熱する段階、前記加熱されたビレットを熱間圧延して線材に製造する段階、及び前記線材を冷却する段階、を含み、前記加熱する段階は、1050±100℃範囲で60分以上維持して熱処理することを含み、前記熱間圧延して線材に製造する段階は、900~1150℃の温度範囲で熱間圧延することを含み、前記冷却する段階は、0.1~10.0℃/sの冷却速度で500℃まで冷却することを含み、前記冷却する段階以後、空冷する段階をさらに含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなることを特徴とするTVパムナット部品用黒鉛鋼線材。
【請求項2】
パーライトの面積分率が95%以上であることを特徴とする請求項1に記載のTVパムナット部品用黒鉛鋼線材。
【請求項3】
重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるビレットを製造する段階、
前記ビレットを加熱する段階、
前記加熱されたビレットを熱間圧延して線材に製造する段階、及び
前記線材を冷却する段階、を含むことを特徴とするTVパムナット部品用黒鉛鋼線材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱する段階は、1050±100℃範囲で60分以上維持して熱処理することを含むことを特徴とする請求項3に記載のTVパムナット部品用黒鉛鋼線材の製造方法。
【請求項5】
前記熱間圧延して線材に製造する段階は、900~1150℃の温度範囲で熱間圧延することを含むことを特徴とする請求項3に記載のTVパムナット部品用黒鉛鋼線材の製造方法。
【請求項6】
前記冷却する段階は、0.1~10.0℃/sの冷却速度で500℃まで冷却することを含むことを特徴とする請求項3に記載のTVパムナット部品用黒鉛鋼線材の製造方法。
【請求項7】
前記冷却する段階以後、空冷する段階をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載のTVパムナット部品用黒鉛鋼線材の製造方法。
【請求項8】
重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、
微細組織で、フェライト基地に黒鉛粒が分布されており、黒鉛化率が90%以上であり、パーライト分率が10%未満であることを特徴とするTVパムナット部品用黒鉛鋼。
【請求項9】
前記黒鉛化率が99%以上であることを特徴とする請求項8に記載のTVパムナット部品用黒鉛鋼。
【請求項10】
重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.020%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなる線材を製造する段階、及び
前記製造された線材を黒鉛化熱処理する段階、を含むことを特徴とするTVパムナット部品用黒鉛鋼の製造方法。
【請求項11】
前記黒鉛化熱処理する段階は、700~800℃の温度範囲で5時間以上熱処理することを含むことを特徴とする請求項10に記載のTVパムナット部品用黒鉛鋼の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載のTVパムナット部品用黒鉛鋼をCNC複合旋盤及びCAM自動旋盤のうち選択されるいずれか一つで切削加工することを特徴とする切削加工方法。
【請求項13】
前記CNC複合旋盤は、切削速度が1500RPM以上であり、移送速度は、0.03mm/rev以上であることを特徴とする請求項12に記載の切削加工方法。
【請求項14】
前記CAM自動旋盤は、切削速度が1500RPM以上であり、移送速度は、0.03mm/rev以上であることを特徴とする請求項12に記載の切削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TVパムナット部品用黒鉛鋼線材、黒鉛鋼、その製造及び切削加工方法に係り、より詳しくは、産業用部品製造のための切削加工方法を提示し、それに対する黒鉛鋼線材、黒鉛鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パムナット(PEM nut)はセルフクリンチングナットとも呼ばれ、薄板や板金などの材料を接続するために使用される。丸みを帯びた形状で、エンボス加工された歯車と、一端にガイド溝がある。高強度のめねじを薄板にクリンチングで取り付けられるナットである。
一般的に、切削性が要求される機械部品などの素材としては、Pb、Bi、Sなどの切削性付与元素を添加した快削鋼が利用される。鋼材の切削性を向上させるために、鋼中にPb、Biなど低融点切削性付与元素を添加して液体金属臭化現象を利用するか、多量のMnSを鋼中に形成させているが、このような快削鋼は、切削加工時に表面粗度、チップ処理性、工具寿命など鋼の切削性が非常に優秀である。
【0003】
しかし、切削性に最も優れたPb添加快削鋼の場合には、切削作業時に有毒性フューム(fume)などの有害物質を排出するので、人体に非常に有害であり、鋼材のリサイクルにも非常に不利であるという問題がある。したがって、これを代替するためにS、Bi、Te、Snなどの添加が提案されたが、鋼材の製造時に亀裂の発生が起こりやすく、生産が非常に難しいという問題があるか、熱間圧延時に亀裂の発生を引き起こすという点から問題が多いことが知られてきた。
【0004】
前記のような問題を解決するために開発された快削鋼が黒鉛快削鋼である。黒鉛快削鋼は、フェライト基地あるいはフェライト及びパーライト基地の内部に微細黒鉛粒を含む鋼であって、内部の微細黒鉛粒が切削時にクラック供給源として作用してチップブレーカーの役目をすることによって切削性も良好な性質を有している鋼である。
【0005】
ところが、このような黒鉛快削鋼の長所にもかかわらず、現在も黒鉛快削鋼は商用化されていない。これは、鋼に炭素を添加すれば、黒鉛が安定相であるにもかかわらず、準安定相であるセメンタイトとして析出するので、別途の長期間の熱処理なしには黒鉛を析出させることが困難であり、このような長期間の熱処理過程で脱炭が起こり、最終製品の性能に悪影響を及ぼすという弊害が発生するからである。
【0006】
それだけでなく、黒鉛化熱処理を通じて黒鉛粒を析出させたとしても、不規則な形状に不均一に分布している場合、切削時に物性分布が不均一なのでチップ処理性や表面粗度が非常に悪くなり、工具寿命も短縮されて黒鉛快削鋼の長所を得にくい。したがって、熱処理時間を大幅短縮しながらも、熱処理時に微細黒鉛鋼が基地内に均一に分布し得るようにする黒鉛快削鋼の鋼線材及び切削性に優れた切削加工方法(すなわち、CNC複合旋盤、 CAM自動旋盤)が提供される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2015-0057400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、産業用部品の製作のための黒鉛鋼の成分設計及び切削加工条件を提供し、黒鉛鋼の製造のための鋼線材、黒鉛鋼及び黒鉛化熱処理の製造方法の提供を目的とする。
【0009】
しかし、本願が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及しなかったまた他の課題は、下の記載から通常の技術者に明確に理解されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の黒鉛鋼線材は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなる。
【0011】
本発明の黒鉛鋼線材の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるビレットを製造する段階、前記ビレットを加熱する段階、前記加熱されたビレットを熱間圧延して線材に製造する段階、及び前記線材を冷却する段階を含む。
【0012】
本発明の黒鉛鋼は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、微細組織で、フェライト基地に黒鉛粒が分布されており、黒鉛化率が90%以上であり、パーライト分率が10%未満である。
【0013】
本発明の黒鉛鋼の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.20~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなる線材を製造する段階、及び前記製造された線材を黒鉛化熱処理する段階を含む。
【0014】
本発明の切削加工方法は、前記黒鉛鋼をCNC複合旋盤及びCAM自動旋盤のうち選択されるいずれか一つで切削加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明による黒鉛快削鋼は、切削性能に優れているので、TVパムナットなど小型部品の素材に適用が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の黒鉛鋼線材は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなる。
【0017】
以下では、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、多様な他の形態に変形され得、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態によって限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有した者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0018】
本出願で用いる用語は、ただ特定の例示を説明するために用いられるものである。例えば、単数の表現は、文脈上明白に単数である必要がない限り、複数の表現を含む。
【0019】
以下で、特に言及しない限り、単位は、重量%である。また、ある部分がある構成要素を「含む」と記載するとき、これは特に反対する記載のない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0020】
一方、別に定義しない限り、本明細書で使用する全ての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者が一般的に理解できるものと同一の意味を有すると見なければならない。したがって、本明細書で明確に定義しない限り、特定用語が過度に理想的や形式的な意味として解釈されてはいけない。例えば、本明細書で単数の表現は、文脈上明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0021】
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるときその数値で又はその数値に近接した意味で用いられ、本発明の理解を助けるために正確であるか絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために用いられる。
【0022】
以下、本発明に該当する切削性能に優れたTVパムナット部品用黒鉛鋼線材、黒鉛鋼及びその製造方法とそれの切削加工方法について詳しく説明する。
【0023】
<黒鉛鋼線材>
【0024】
本発明の黒鉛鋼線材は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなる。
【0025】
炭素(C):0.60~0.79重量%
【0026】
炭素は、黒鉛粒を形成するために必須的な元素である。前記炭素の含量が0.60重量%未満である場合には、切削性の向上効果が不十分であり、黒鉛化の完了時にも黒鉛粒の分布が不均一であり、一方、その含量が0.79重量%を超過する場合、黒鉛粒が粗大に生成され、縦横比が大きくなって、切削性、特に表面粗度が低下する恐れがある。したがって、前記炭素含量の上限は、0.79重量%であることが好ましい。
【0027】
シリコン(Si):2.0~2.5重量%
【0028】
シリコンは、溶鋼の製造時に脱酸剤として必要な成分であり、鋼中のセメンタイトを不安定にして炭素が黒鉛として析出されるようにする黒鉛化促進元素であるので積極添加する。本発明でこのような効果を示すためには、2.0重量%であることが好ましい。一方、その含量が過多な場合、その効果が飽和するだけでなく、固溶強化効果によって硬度が増加して切削時に工具の摩耗が加速化され、非金属介在物の増加による脆性を誘発し、熱間圧延時に過度な脱炭を誘発する恐れがある。したがって、前記シリコン含量の上限は、2.5重量%であることが好ましい。
【0029】
マンガン(Mn):0.7~1.3重量%
【0030】
マンガンは、鋼材の強度及び衝撃特性を向上させ、鋼中で硫黄と結合してMnS介在物を形成して切削性の向上に寄与する。本発明でこのような効果を示すためには、0.7重量%以上含まれることが好ましい。一方、その含量が過多な場合、黒鉛化を阻害して黒鉛化の完了時間が遅延される恐れがあり、強度及び硬度を上昇させて切削性を低下させ得る。したがって、前記マンガン含量の上限は、1.3重量%であることが好ましい。
【0031】
硫黄(S):0.2~0.5重量%
【0032】
硫黄は、マンガンと結合してMnS介在物の生成を誘導して切削性を向上させ得る。ただし、硫黄が過多に含有される場合、鋼中で炭素の黒鉛化を阻害するだけでなく、結晶粒界に偏析して靭性を低下させ、低融点硫化物を形成させて熱間圧延性を阻害することがあり、圧延により延伸されたMnSによって機械的な異方性が現われ得る。したがって、本発明では、硫黄により物性が阻害されないとともに切削性を向上させ得るようにその含量を適切に調節することが好ましい。具体的に、硫黄の含量が0.2重量%未満であるときは、MnSなどの介在物量が十分に生成されないため切削性が劣位するので、それ以上で管理しなければならない。しかし、硫黄の含量が0.5重量%を超過するときは、表面欠陥などの品質欠陥が発生する可能性が生ずるので、それ以下に管理する。
【0033】
アルミニウム(Al):0.01~0.05重量%
【0034】
アルミニウムは、シリコンの次に黒鉛化を促進させる元素である。これは、アルミニウムが固溶Alとして存在するとき、セメンタイトを不安定にするからであり、したがって、固溶Alとして存在する必要がある。本発明でこのような効果を示すためには、0.01重量%以上含まれることが好ましい。一方、その含量が過多な場合、その効果が飽和するだけでなく、連鋳時にノズルの詰まりを誘発させ得、オーステナイト粒界にAlNが生成されてこれを核とした黒鉛が粒界に不均一に分布するようになる。したがって、前記アルミニウム含量の上限は、0.05重量%であることが好ましい。
【0035】
チタン(Ti):0.005~0.020重量%
【0036】
チタンは、アルミニウムなどのように窒素と結合してTiN、AlNなどの窒化物を生成するが、このような窒化物は、恒温熱処理時に黒鉛生成の核として作用する。しかし、AlNなどは、生成温度が低いため、オーステナイトが形成された後に粒界に不均一に析出することに比べ、TiNは、生成温度がAlNより高いため、オーステナイトの生成が完了する前に晶出するので、オーステナイトの粒界及び粒内に均一に分布するようになる。したがって、TiNを核生成部位として生成された黒鉛粒も微細であるとともに均一に分布するようになる。このような効果を示すためには、0.005重量%以上含まれることが好ましいが、その含量が0.020%を超過して添加される場合、粗大な炭窒化物となって黒鉛の形成に必要な炭素を消耗することで黒鉛化を阻害させ得る。したがって、前記チタン含量の上限は、0.020重量%であることが好ましい。
【0037】
窒素(N):0.003~0.015重量%
【0038】
窒素は、チタン、アルミニウムと結合してTiN、AlNなどを生成するようになるが、特に、AlNなどの窒化物は、主にオーステナイト粒界に形成される。黒鉛化熱処理時にこのような窒化物を核として黒鉛が形成されて黒鉛の不均一な分布を誘発させ得るので、適正量の添加が必要である。窒素添加量が過多で窒化物の形成元素と結合できずに固溶窒素として鋼中に存在するようになると、強度を高めてセメンタイトを安定化させて黒鉛化を遅延させる有害な作用をするようになる。したがって、黒鉛の核生成部位として作用する窒化物を形成させるのに消耗され、固溶窒素としては残らないようにするという理由で、本発明では、0.003重量%を下限に、0.015重量%を上限に制限した。
【0039】
リン(P):0.0001~0.015重量%
【0040】
リンは、少量含まれる場合、鋼の粒界を脆弱にして切削性に役に立つ。ただし、過量含有される場合、固溶強化效果によりフェライトの硬度を増加させ、鋼材の靭性及び遅れ破壊抵抗性を減少させ、表面欠陥の発生を助長するので、その含量を0.0001~0.015量%の範囲で可能な限り低く管理することが好ましい。特に、その上限を管理することが重要であり、本発明では、その上限を0.015重量%で管理する。
【0041】
その他の成分
【0042】
本発明の残り成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るので、これを排除することはできない。ただし、本発明では、ボロン(B)や酸素(O)は、実質的に含まないことが好ましい。これら不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものであるので、そのすべての内容を特別に本明細書で言及しない。
【0043】
<微細組織>
【0044】
また、本発明によると、黒鉛鋼線材は、パーライトの面積分率が90%以上であり、フェライトの面積分率が10%未満であってもよいが、パーライトの面積分率が95%以上であり、フェライトの面積分率が5%未満であることが好ましい。本発明で、黒鉛粒は、パーライトが分解されて生ずるので、パーライトの面積分率が低いと、黒鉛粒の分率も低いため不均一な分布を示すようになって好ましくない。パーライトの面積分率は、高いほうが均一で微細な黒鉛粒を確保するに有利であるので、その上限を特に限定しない。
【0045】
後述する黒鉛鋼線材の製造方法、黒鉛鋼、黒鉛鋼の製造方法及び切削加工方法は、上述した黒鉛鋼線材に対して記述した内容を全て適用することができ、重複される部分に対しては詳細な説明を省略したが、その説明が省略されても同一に適用され得る。
【0046】
<黒鉛鋼線材の製造方法>
【0047】
本発明の黒鉛鋼線材の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなるビレットを製造する段階、前記ビレットを加熱する段階、前記加熱されたビレットを熱間圧延して線材に製造する段階、及び前記線材を冷却する段階を含む。
【0048】
加熱工程
【0049】
また、本発明の前記加熱する段階は、1050±100℃範囲で60分以上維持して熱処理することを含むことができる。
【0050】
ビレットを熱間圧延する前に1050±100℃範囲で60分以上維持する。ビレットの加熱温度が950℃未満では、圧延中に負荷が増加して圧延生産性が低下し得るので、低い加熱温度で不利な面がある。加熱温度が1150℃を超過する場合には、費用が上昇するだけでなく、脱炭が加速化して脱炭層が厚くなって最終製品にまで残るので好ましくない。加熱維持時間を60分以上にした理由は、60分未満では線材の圧延のためのビレットの外内部の均一な温度分布を確保しにくいからである。
【0051】
圧延工程
【0052】
また、本発明の前記熱間圧延して線材に製造する段階は、900~1150℃の温度範囲で熱間圧延することを含むことができる。
【0053】
線材の圧延温度を900~1150℃の範囲にした理由は、900℃未満では、熱間圧延時に表面キズが発生しやすく、圧延負荷量が増加して圧延が困難であり、1150℃超過の場合には、AGS(Austenite Grain Size)が粗大化して線材圧延後の黒鉛化熱処理時間が長くなり得るからである。
【0054】
冷却工程
【0055】
また、本発明の前記冷却する段階は、0.1~10.0℃/sの冷却速度で500℃まで冷却することを含むことができ、具体的には、750~900℃温度区間で0.1~10.0℃/sの冷却速度で500℃まで冷却するものであってもよい。
【0056】
また、本発明の前記冷却する段階以後に空冷する段階を含むことができる。
【0057】
冷却速度が10.0℃/s超過の場合には、マルテンサイトのような硬質相が発生して線材圧延の次工程である冷間伸線中に断線が発生し得るので好ましくなく、0.1℃/s未満の冷却速度では、硝石相が過度に生成されてパーライトの分率が減るか結晶粒のサイズが粗大化して、黒鉛化熱処理後に生成された黒鉛粒が不均一な分布を有することがあるので好ましくない。
【0058】
<黒鉛鋼>
【0059】
本発明の黒鉛鋼は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、微細組織で、フェライト基地に黒鉛粒が分布されており、パーライト分率が10%未満であり、黒鉛化率が90%以上であるものを含む。
【0060】
本発明の黒鉛鋼の黒鉛化率は、好ましくは、95%以上であってもよく、より好ましくは、99%であってもよい。
【0061】
一方、黒鉛化率とは、鋼に添加された炭素含量に対する黒鉛状態で存在する炭素含量の比を意味するものであって、下記関係式1により定義される。
【0062】
〔関係式1〕
黒鉛化率(%)=(1-未分解パーライト内の炭素含量/鋼中の炭素含量)×100
【0063】
(ここで、未分解パーライトがない場合、黒鉛化率は100%となる)
【0064】
前記黒鉛化率が90%以上であるというのは、添加された炭素が大部分黒鉛を生成するのに消耗されたという意味であって、未分解されたパーライトが存在しない、すなわち、フェライト基地に黒鉛粒が分布する微細組織を有することを意味する。このとき、フェライト内の固溶炭素及び微細炭化物に固溶された炭素量は極めて少ないので考慮しない。
【0065】
<黒鉛鋼の製造方法>
【0066】
本発明の黒鉛鋼の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.60~0.79%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.7~1.3%、硫黄(S):0.2~0.5%、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):0.003~0.015%、リン(P):0.0001~0.015%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなる線材を製造する段階、及び前記製造された線材を黒鉛化熱処理する段階を含む。
【0067】
また、本発明によると、前記黒鉛化熱処理する段階は、700~800℃の温度範囲で5時間以上、好ましくは、5~20時間の間熱処理することを含むことができる。
【0068】
前記線材を700~800℃の範囲で5時間以上熱処理を維持すれば、黒鉛化率90%以上に到逹することができる。700℃未満では、黒鉛化熱処理時間が長くなって20時間を超過し、800℃超過では、黒鉛化時間が長くなるので好ましくない。
【0069】
<切削加工方法>
【0070】
本発明の切削加工方法は、本発明による黒鉛鋼をCNC複合旋盤及びCAM自動旋盤のうち選択されるいずれか一つで切削加工することを特徴とする。
【0071】
また、本発明によると、前記CNC複合旋盤は、切削速度が1500RPM以上、移送速度は、0.03mm/rev以上であってもよく、前記CAM自動旋盤も切削速度が1500RPM以上、移送速度は、0.03mm/rev以上であってもよい。
【0072】
前記製作された黒鉛快削鋼の鋼線材を切削業者が切削して産業用小型部品、例えば、TVパムナット部品などに製作することになる。一般快削鋼レベルの切削性能を保有しなければ、市場進入が不可能となる。これを克服するために、本発明では、CNC複合旋盤及び/又はCAM方式自動旋盤の切削速度を1500RPM以上、移送速度は、0.03mm/rev以上の条件で切削加工により製造される方法を提示する。前記CNC複合旋盤及び/又はCAM方式自動旋盤の切削速度1500RPM未満及び/又は移送速度0.03mm/rev未満にすると、切削性能が落ちるようになる。切削速度と移送速度は、速いほど切削性能に優れ、一般快削鋼と同等のレベルを示すことができる。
【0073】
以下、本発明を実施例を通じてより具体的に説明する。
【0074】
下記実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものであり、本発明は、ここで提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化できる。
【0075】
<実施例>
【0076】
下記表1に示したような組成を有するビレットを加熱温度1050℃条件で90分間維持し、高速線材圧延して19mmの直径を有する実施例1~11及び比較例1~7の線材を製造した。
【0077】
【0078】
また、前記線材の製造時、圧延後に冷却して線材を製作した後、微細組織内のパーライト面積分率を測定し、このとき、冷却開始温度、冷却速度及びパーライト面積分率を下記表2に示した。
【0079】
また、前記製作された線材を黒鉛化熱処理し、このとき、黒鉛化熱処理維持時間及び黒鉛化率を測定して下記表2に示した。黒鉛化熱処理温度は、「温度-50℃」で一定に適用して黒鉛化熱処理が実施された。
【0080】
【0081】
前記表2で、(100%-黒鉛化率)の組織は、MnS介在物、パーライト及び一部の通常存在する介在物などで構成され、黒鉛化組織は、フェライト及び黒鉛粒で構成される。
【0082】
パーライト分率及び黒鉛化分率は、前記表2のように線材及び黒鉛化の製造条件下で達成されることを確認することができる。
【0083】
また、TVパムナット用部品の製作のために、切削加工条件別実施例と比較例を下記表3と4に示した。表3は、CNC旋盤加工条件であり、表4は、旋盤加工条件である。
【0084】
【0085】
【0086】
前記表3及び4で、切削性は、一般快削鋼の切削性能を基準とした数値である(100%は同等のレベルを意味する)。
【0087】
以下、表1~4を参照して実施例及び比較例を評価する。
【0088】
実施例1~11は、本発明の合金組成範囲及び0.1~10℃/sの冷却速度を満足することで、黒鉛鋼線材のパーライトの面積分率が95.1%以上であり、黒鉛化率が97.5%以上であることを確認することができる。一方、冷却速度が0.1~10℃/sの範囲を脱する比較例1~7は、黒鉛鋼線材のパーライトの面積分率が93.0~94.2%に過ぎず、黒鉛化率も75~86%に過ぎないことを確認することができる。
【0089】
また、CNC複合旋盤及びCAM自動旋盤の切削速度が1500RPM以上、移送速度は、0.03mm/rev以上の条件を満足する実施例1~11は、素材切削加工を通じて一般快削鋼と同等のレベル(一般快削鋼対比100%)の切削性能を保有するものとして評価され、前記切削速度及び移送速度条件を満足しない比較例1~7は、一般快削鋼に比べて80~95%の切削性能に過ぎないことを確認することができる。
【0090】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、当該技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明による黒鉛快削鋼は、フューム(fume)の発生がなく、切削性能に優れているので、TVパムナットなど小型部品の素材に適用が可能であるところ、産業上の利用可能性が認められる。
【国際調査報告】