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特表2024-546144ヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及びその突然変異体の使用
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  • 特表-ヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及びその突然変異体の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及びその突然変異体の使用
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/26 20060101AFI20241210BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C12P7/26 ZNA
C12N9/02
C12N15/53
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535717
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 CN2022136155
(87)【国際公開番号】W WO2023109530
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】202111517500.9
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】524224582
【氏名又は名称】元酉(広州)生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】李 爽
(72)【発明者】
【氏名】陳 東瑩
(72)【発明者】
【氏名】李 文
(72)【発明者】
【氏名】朱 晁誼
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC40
4B064CA06
4B064CA19
4B064DA01
4B064DA12
4B065AA58Y
4B065AA80X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA09
4B065CA28
4B065CA44
4B065CA47
(57)【要約】
ヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及びその突然変異体の使用を提供する。前記酸化還元酵素は、ウィッカーハミセス・アノーマルス(Wickerhamomyces anomalus M15)に由来し、ヌートカトールに対する変換能力が高く、部位特異的突然変異により能力のより高い酸化還元酵素突然変異体が得られる。ヌートカトールを触媒できる既存の酸化還元酵素と比較して、この酸化還元酵素及びその突然変異体は、優れた基質耐性、高い変換率、及び高い塩耐性を備え、ヌートカトンのインビトロ酵素触媒合成のための条件を提供し、ヌートカトールからのヌートカトン生成物の合成を触媒するための環境に優しい効率的な方法を実現する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及び/又はその突然変異体の使用であって、
前記酸化還元酵素は、名称がNRRLであり、アミノ酸配列が配列番号2で示され、
前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位及び第136位のアミノ酸のうちの一方又は両方の部位が突然変異したものである、ことを特徴とする使用。
【請求項2】
基質耐性、変換率、耐塩性の向上における前記酸化還元酵素突然変異体の使用であり、前記基質はヌートカトールである、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位及び第136位のアミノ酸のうちの一方又は両方の部位が突然変異したものであり、第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンR又はアラニンAに突然変異する、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンRに突然変異し、具体的なアミノ酸配列は、配列番号4で示される、ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記酸化還元酵素突然変異体では、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子配列は配列番号3で示される、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
酸化還元酵素NRRLのコード遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1又は配列番号3で示される、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の酸化還元酵素突然変異体。
【請求項8】
請求項7に記載の酸化還元酵素突然変異体をコードする遺伝子。
【請求項9】
請求項8に記載の遺伝子を含有する組換え発現ベクター又は組換え発現細胞。
【請求項10】
ヌートカトンの生合成における、請求項6に記載のコード遺伝子を含有する組換え発現ベクター又は組換え発現細胞、請求項9に記載の組換え発現ベクター又は組換え発現細胞の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物工学の技術分野に属し、特にヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及びその突然変異体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヌートカトン(Nootkatone、ノートカトンとしても知られる)は、ザボンの香りとわずかに苦い味を持つセスキテルペノイドで、最初はアラスカヒノキから抽出され、グレープフルーツ、柑橘類、その他の植物に含まれている。純粋なヌートカトンは白色からわずかに黄色の結晶で、グレープフルーツ、オレンジ、トロピカルフルーツ、その他の食品フレーバーやタバコのフレーバーを調和することがFDA及びEPAによって承認されている。スプレー形態のヌートカトンは、ローンスターダニ(lone star ticks)やシカダニ(deer ticks)に有効な殺虫剤であり、また、蚊、トコジラミ、シラミ等にも満足のいく殺虫効果がある。ヌートカトンは、揮発性が高く、人体に毒性がないため、環境に優しい殺虫剤と考えられている。2014年、CDCは、2社がヌートカトン系殺虫剤を生産することを正式に承認した。さらに、近年の研究では、ヌートカトンががん細胞の増殖を抑制し、神経炎症やアルツハイマー病に対して潜在的な治療効果があることが判明しており、その研究開発は、製薬業界の注目を集めており、その応用の将来性が期待できる。
【0003】
セスキテルペノイドの1種であるヌートカトンは、複雑な化学構造を持っているため、工業的に大規模に生産するのが困難である。現在、ヌートカトンの主な生産方法としては、物理的抽出法、化学合成法、生体触媒変換法の3つが挙げられる。グレープフルーツを原料として蒸留や抽出などのプロセスを経て分離されるヌートカトンは、有効濃度が低く、分離・精製などの工程が複雑で、季節や気候の変化に影響されやすいため、産業上のニーズに応えることができない。現在、工業的に最も一般的に使用されている方法は、比較的安価な前駆体物質であるバレンセン(valencene)を用いてヌートカトンを化学的に合成する方法であるが、その酸化反応には三酸化クロム、コバルトアセチルアセトナート、その他の重金属塩などの触媒が使用され、有毒な廃棄物が多く生成され、環境に優しい開発というコンセプトに違反する。ヌートカトンに対する市場の需要の高まりに応えるために、生体触媒変換法の使用は、原料に制限がなく、植物抽出プロセスによって引き起こされる高エネルギー消費、低収量、環境汚染などの問題を回避できるため、大きな利点がある。
【0004】
近年、微生物の代謝工学において大きな進歩が遂げられている。効率的な微生物細胞工場を構築し、その生理性能を向上させることで、安価な原料基質を高付加価値の目的製品に効率よく変換し、微生物発酵の生産コストを大幅に削減させることが期待できる。酵母や大腸菌などの微生物内で関連酵素を異種発現させることでヌートカトンを生産することは多くの注目を集めている。研究者らは、C.sinensisからバレンセンシンターゼ遺伝子を単離しており、この遺伝子は、大腸菌で効率的かつ機能的に発現することができ、また、その後のヌートカトンの生産に使用することもできる(Chappell J. et al. Novel sesquiterpene synthase gene and protein: US, US20120196340 A1[P]. 2006.(特許文献1))。さらに、P. sapidus由来のバレンセンジオキシゲナーゼ(ValOx)が大腸菌の細胞質で発現され、中間体の過酸化水素を介してバレンセンがヌートカトールとヌートカトンに変換されることを発見した(Zelena K . et al. Functional expression of a valencene dioxygenase from Pleurotussapidus in E. coli[J]. Bio Tec, 2012, 108:231-239.(非特許文献1))。モデル生物酵母は、現在最もよく使われている遺伝子発現宿主の1つであり、培養条件が簡単で、遺伝的背景が明確であり、遺伝子改変が容易であり、その中でも、海洋酵母は、陸生酵母よりも酢酸、ギ酸、フルフラール、バニリンや塩などの阻害性化合物の存在に対して著しく耐性があり、それらの中で、最も耐性のあるウィッカーハミセス・アノーマルスはWickerhamomyces anomalus M15で、その耐塩性はサッカロマイセス・セレビシエNCYC2592の1.6倍である(Greetham D . et al. Exploring the tolerance of marine yeast to inhibitory compounds for improving bioethanol production[J]. Sustainable Energy & Fuels, 2019, 3(3).(非特許文献2))。したがって、遺伝子工学的手段を使用して、高効率で環境耐性のあるヌートカトール脱水素酵素をさらに取得することは、依然としてこの技術分野の急務である。
【0005】
NCBIには、当初WICANDRAFT_92107(NCBIアクセッション番号:XP_019039214.1)と名付けられたウィッカーハミセス・アノーマルス(Wickerhamomyces anomalus NRRL Y-366-8)由来の仮説タンパク質が含まれており、この仮説タンパク質には、合計264個のアミノ酸が含まれており、そのコード遺伝子(NCBIアクセッション番号:XM_019186339.1)のヌクレオチド配列には合計795個のヌクレオチドが含まれている。これまでのところ、このタンパク質の実際の機能と使用を報告した文献はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第20120196340号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zelena K . et al. Functional expression of a valencene dioxygenase from Pleurotussapidus in E. coli[J]. Bio Tec, 2012, 108:231-239
【非特許文献2】Greetham D . et al. Exploring the tolerance of marine yeast to inhibitory compounds for improving bioethanol production[J]. Sustainable Energy & Fuels, 2019, 3(3).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の欠点及び不備を克服するために、本発明の目的は、耐えられる基質濃度が低く、変換率が低く、耐塩性が低く、しかも、工業的生産には好適ではないという、ヌートカトンの生合成における既存のアルコール脱水素酵素の問題を解決するために、ヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及びその突然変異体の使用を提供することである。
【0009】
本発明は、ウィッカーハミセス・アノーマルス(Wickerhamomyces anomalus M15)からヌートカトールに対する変換能力の高い酸化還元酵素を初めて取得し、部位特異的突然変異により能力のより高い酸化還元酵素突然変異体を取得した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、下記の技術案によって達成される。
【0011】
本発明は、ヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及び/又はその突然変異体の使用を提供する。
【0012】
本発明では、前記酸化還元酵素は、ウィッカーハモミセス・アノーマルス(Wickerhamomycesanomalus M15)に由来するNRRLであり、そのアミノ酸配列が配列番号2で示され、合計264個のアミノ酸を含む。
【0013】
本発明では、前記酸化還元酵素NRRLのコード遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1で示され、合計795個のヌクレオチドを含む。
【0014】
さらに、酸化還元酵素NRRLのコード遺伝子のコドン最適化後のヌクレオチド配列は、配列番号3で示される。
【0015】
本発明はまた、アミノ酸配列が配列番号2の第69位及び第136位のアミノ酸のうちの一方又は両方の部位が突然変異したものであり、さらに、第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンR又はアラニンAに突然変異したものである、酸化還元酵素突然変異体に関する。
【0016】
さらに、前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンRに突然変異し、具体的なアミノ酸配列は配列番号4で示される。
【0017】
好ましくは、前記酸化還元酵素突然変異体では、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子配列は、配列番号3で示される。
【0018】
本発明の別の態様では、前記アミノ酸配列の配列番号2は、1つ又は複数のアミノ酸の修飾、欠如又は追加により得られたアミノ酸配列であり、かつ、90%だけの相同性を有する配列も本発明の保護範囲内である。
【0019】
本発明では、前記酸化還元酵素及びその突然変異体のコード遺伝子を含有する組換え発現ベクターを提供し、好ましくは、前記組換えベクターは、前記酸化還元酵素及びその突然変異体を2μ高コピープラスミドYEp352と組み換えて得る組換え発現ベクターである。
【0020】
本発明では、本発明に記載の酸化還元酵素及びその突然変異体のコード遺伝子を含む組換え発現ベクターの組換え発現細胞を提供し、好ましくは、前記組換え発現細胞は、前記酸化還元酵素及びその突然変異体をベクターと組み換えて得る組換え発現ベクターを宿主細胞に変質転換して得る組換え発現細胞である。宿主細胞は、本発明では、好ましくはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomy cescerevisiae)、より好ましくはサッカロマイセス・セレビシエCEN. PK2-1 Ca菌株である。
【0021】
本発明では、また、ヌートカトンの製造方法に関する。
【0022】
本発明では、本発明に記載の酸化還元酵素及びその突然変異体のコード遺伝子を含む組換え発現ベクターの組換え発現細胞を利用してヌートカトンを生合成する2つの方法を提供する。
【0023】
全細胞インビトロ触媒法であって、前駆体物質であるヌートカトールを外部から添加し、本発明に記載の組換え発現細胞を利用してインビトロ変換を行うことによりヌートカトンを得る。前記反応基質はヌートカトールである。
【0024】
本発明に記載の変換効率は、一定時間内で前駆体物質であるヌートカトールを目的の生成物であるヌートカトンに転換する割合で表される。
【0025】
別の方法では、ヌートカトンは、生物学的発酵(すなわち、培地を入れた反応器で関連酵素を発現する組換え発現細胞を培養すること)によって製造される。
【0026】
好ましい実施例では、宿主細胞は、特にサッカロミセス・セレビシエPK2-1 Ca菌株(Saccharomyces cerevisiae CEN. PK2-1 Ca)から選択される真核細胞である。中国特許出願第201910271558.6号に記載されている技術を使用して、メバロン酸経路の制限因子rox1のノックアウトや、セスキテルペノイド前駆体FPPの下流分岐経路関連酵素erg9の発現強度のダウンレギュレーションを含むゲノム改変を宿主細胞に対して施すことで、前駆体物質FPPの供給量を増やす。そして、国際特許出願PCT/NL2010/050848号に記載のベイヒバ(Chamaecyparis nootkatensis)由来のバレンセンシンターゼValCを用いて、FPPをヌートカトンの前駆体物質であるバレンセンに変換する。次に、PCT国際出願公開公報第WO2006/079020号パンフレットに記載のヒヨスキャムス・ムティカス(Hyoscyamus muticus)由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼ(Cytochrome P450 monooxygenase、CYP450)HPO、及びUrban, Pdらによる1997年の文章に記載されているシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のシトクロム還元酵素AtCPR(Urban, P., et al. Cloning, yeastexpression, and characterization of the coupling of two distantly relatedArabidopsis thaliana NADPH-cytochrome P450 reductases with P450 CYP73A5.J. Biol. Chem. 1997, 272, 19176-19186.)によって、バレンセンをさらにヌートカトールに酸化する。さらに、本発明に記載の酸化還元酵素又はその突然変異体を利用して、ヌートカトールを所望の最終的な生成物のヌートカトンに変換する。
【0027】
本発明はまた、ヌートカトンの生合成における耐塩性の高いヌートカトール脱水素酵素としての前記酸化還元酵素及びその突然変異体の使用を保護する。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、従来技術と比較して、以下の利点及び効果を有する。
【0029】
(1)本発明は、ウィッカーハミセス・アノーマルス(Wickerhamomyces anomalus M15)由来の酸化還元酵素NRRLを提供する。この酵素は、ウィッカーハミセス・アノーマルス由来の、ヌートカトールを基質とする酸化還元酵素として初めて発見されたものである。また、本発明は、ヌートカトールからのヌートカトンの合成の触媒における酸化還元酵素NRRL及びその突然変異体の使用を国内外で初めて開示した。
【0030】
(2)本発明は、インビトロ酵素触媒によるヌートカトンの合成の条件を提供し、ヌートカトールからの対応するヌートカトンの合成を触媒するための環境に優しい効率的な方法を実現する。物理的抽出法や化学合成法によってヌートカトンを得る場合の、低収率、低効率、煩雑な操作、深刻な環境汚染、及び高コストの欠点を克服する。
【0031】
(3)ヌートカトールを触媒できる既存の酸化還元酵素と比較して、NRRL及びその突然変異体は、優れた基質耐性、高い変換率、及び高い塩耐性を備える。発見された柑橘類由来のABA2(NCBIアクセッション番号:HM036684.1)ヌートカトール脱水素酵素よりも効果が大幅に優れている。結果は、同じ条件下で、本発明に記載の酸化還元酵素を使用することによって得られる基質の目的への変換率がより高く、それぞれ柑橘類ABA2のほぼ3.8倍であることを示している。また、本発明によるヌートカトール脱水素酵素突然変異体のいくつかは、同じ条件下でヌートカトールの変換率が配列表配列番号2で示される酸化還元酵素のほぼ2.4倍であり、より優れた基質耐性を有し、また、さまざまな濃度(6%、9%、12%、15%、18%(W/V))でのNaClでの耐性が向上する。
【0032】
(4)本発明は、ヌートカトン合成のための重要なツール酵素を提供し、ヌートカトン合成産業に多大な経済的利益をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】プラスミドの構築及び反応の模式図。
図2】関連するアルコール脱水素酵素による全細胞触媒の気相検出結果を示すグラフ。
図3】ヌートカトンのGC-MS質量スペクトル。
図4】NRRLの遺伝子配列のコドン最適化前後の発現菌株の触媒性能の比較。
図5】酸化還元酵素突然変異体の基質変換効率。
図6】酸化還元酵素又は酸化還元酵素突然変異体の変換率に対する、さまざまな濃度のNaCl(W/V)の影響。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例及び図面を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0035】
以下の実施例は、本発明を説明するために過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。など、当業者であれば、本発明の構想から逸脱することなく、これに基づいて、発現ベクターの種類の変更、発現ベクターの構築方法の変更、宿主細胞の種類の変更などのいくつかの変更及び改良を行うことができる。これらはすべて本発明の保護範囲に属する。
【0036】
実施例で使用されるS. cerevisiaeCEN. PK2-1 Ca、S. c. PK2-Mは、いずれも「CN201910271558-バレンセンを生産するサッカロマイセス・セレビシエ工学菌及びその構築方法と使用」で開示されている。
【0037】
実施例におけるウィッカーハモミセス・アノーマルスWickerh amomycesanomalus M15は、非特許文献2に開示されている。
【0038】
(実施例1)
酸化還元酵素NRRLのクローニング及び発現ベクターの構築
ウィッカーハミセス・アノーマルスWickerhamomyces anomalus M15をYPD(グルコース20g/L、酵母エキス10g/L、ペプトン20g/L)液体培地5mLに接種し、30℃で対数増殖期まで培養した。全ゲノムDNAをYeast DNA Kitキット(Omega社から購入)を使用してウィッカーハミセス・アノーマルスから抽出した。
【0039】
ウィッカーハミセス・アノーマルス(Wickerhamomyces anomalus NRRL Y-366-8)に由来する仮説タンパク質[名称はWICANDRAFT_92107(NCBIアクセッション番号:XP_019039214.1)、合計264個のアミノ酸を含み、そのコード遺伝子(NCBIアクセッション番号:XM_019186339.1)のヌクレオチドには合計795個のヌクレオチドが含まれている]のコード遺伝子に対して特異的プライマーを1対設計し、各プライマーの5′末端にベクターと相同な塩基配列を導入したものを相同組換えクローニング法に用いて、YEp352発現ベクターを構築した。上記全DNA溶液0.5μL(約10ng)を鋳型とし、PCR酵素としてKOD FX(日本のTOYOBO社から購入)を用いて増幅し、目的の遺伝子断片、すなわち酸化還元酵素NRRL遺伝子断片を得た。配列決定の結果、そのヌクレオチド配列は配列番号1に、アミノ酸配列は配列番号2に示される。この配列をNCBIでアライメントした結果、ウィッカーハミセス・アノーマルス(Wickerhamomyces anomalus NRRL Y-366-8)に由来する上記仮説タンパク質と100%の相同性を持つことが判明した。
【0040】
ここで、具体的な増幅プライマーは以下のとおりである(下線付き配列はベクター配列と相同な塩基である)。
【化1】
【0041】
KOD-FX PCRシステムと条件は以下の表1に示すとおりである。
【表1】
【0042】
PCR反応終了後、アガロースゲル電気泳動によって遺伝子断片のサイズが正しいかどうかを確認し、オリゴヌクレオチド精製キット(Omega社から購入)を使用して増幅断片を精製し、微量分光光度計によって遺伝子断片の濃度を検出し、増幅して目的の遺伝子断片、すなわち酸化還元酵素NRRL遺伝子断片を得た。
【0043】
Yeast DNA Kitキットを使用してサッカロマイセス・セレビシエS. cerevisiae CEN. PK2-1 Caのゲノムを抽出した。ゲノムを鋳型として、TDH3-F/TDH3-Rプライマー対によってTDH3プロモーター断片を増幅し、ADH1-F/ADH1-Rプライマー対によってADH1ターミネーター断片を増幅した。
【0044】
使用されるプライマー配列は次のとおりである(下線付き配列は相同な塩基である)。
【化2】
【0045】
YEp352-F1/YEp352-R1プライマー対を使用して、Invitrogen社から購入したYEp352プラスミドベクター断片を増幅した。
【化3】
【0046】
ClonExpress II組換えクローニングキット(南京諾唯賛公司から購入)を用いて、得られたTDH3プロモーター断片、ADH1ターミネーター断片、及びYEp352プラスミドベクター断片に対して多断片相同組換えライゲーションを行い、ベクターYEp352-TDH3promoter-ADH1terminator(略してYEp352-TDH3-ADH1)を得た。
【0047】
YEp352-F2(5′-AGCTTTGGACTTCTTCGCC-3′)及びYEp352-R2(5′-TTTGTTTGTTTATGTGTGTT-3′)を用いてYEp352-TDH3-ADH1を増幅し、次に、ClonExpress II組換えクローニングキット(南京諾唯賛公司から購入)を用いて、YEp352-F2/R2を増幅したベクター断片と上記で得た目的の遺伝子に対して相同組換えライゲーションを行った。
【0048】
次に、化学方法を使用してライゲーション産物10μLをE.coli DH5αコンピテント細胞に形質転換し、LB/Amp(10g/Lトリプトン、5g/L酵母エキス、5g/L NaCl、15g/L寒天、121℃で20分間オートクレーブした。使用前に最終濃度1000mg/mLでアンピシリン(Ampicillin)を加えた)プレートに塗布し、37℃で12~16時間培養し、組換え株E. coli (YEp352-TDH3-NRRL-ADH1)を得た。構築したマップを図1に示す。組換え菌を選択して、100μg/mLアンピシリンを含むLB液体培地5mL(10g/Lトリプトン、5g/L酵母エキス、5g/L NaCl、121℃で20分間オートクレーブした。使用前に最終濃度1000mg/mLでアンピシリン(Ampicillin)を加えた)に接種し、37℃、220rpmで12時間培養した後、高速プラスミド少量抽出キット(天根(北京)股▲ふん▼有限公司から購入)を使用してプラスミドを抽出し、遺伝子配列決定のために工生物工程(上海)有限公司に送った。Snapgeneソフトウェアを使用して配列決定結果を分析し、前記酸化還元酵素遺伝子を含む組換えプラスミドYEp352-TDH3-NRRL-ADH1を得た。
【0049】
(実施例2)
組換え発現細胞の構築
酵母形質転換キットS.c. Easy Comp Transformation Kit(米国のInvitrogen社から購入)を利用して、実施例1で構築された組換え発現プラスミドYEp352-TDH3-NRRL-ADH1をサッカロマイセス・セレビシエS. cerevisiae CEN. PK2-1 Caコンピテント細胞に形質転換した。
【0050】
1)組換えプラスミド500ng及びSolution III(Transformation solution)250μLをコンピテント細胞25μLごとに加えた。
2)ボルテックスシェーカーで均一に振盪し、30℃の恒温インキュベーターに15分間放置した。
3)取り出したら、再度均一に振盪し、30℃で15分間放置し、この操作を2回繰り返した。
4)その後、組換え酵母細胞200μLを取り、栄養要求性プレートSD/ΔUra(6.7g/L YNB、2g/Lアミノ酸混合物、20g/Lグルコース、20mg/Lロイシン、20mg/Lトリプトファン)に均一に塗布し、30℃で2~4日間培養した。
単一のクローンがプレート上で成長すると、組換え発現細胞S. c. CEN. PK2-1 Ca(YEp352-TDH3-NRRL-ADH1)を得た。
【0051】
(実施例3)
細胞インビトロ触媒によるヌートカトンの製造
実施例2で得た組換え発現細胞S. c. CEN. PK2-1 Ca(YEp352-TDH3-NRRL-ADH1)をSD/ΔUra液体培地5mLを入れた試験管に移し、30℃、220rpmで24時間培養した。その後、初期OD600=0.05の接種量で、SD/ΔUra液体培地50mLを入れた250mL振盪フラスコに移し、30℃、220rpmで24時間培養した。次に、合計OD600が50の菌液を収集し、3000rpm、4℃で5分間遠心分離し、上清を廃棄した。その後、組換え発現細胞をリン酸カリウム緩衝液(50mM、pH7.4)に再懸濁させ、1mLにメスアップし、50 OD600/mLの反応液を得た。基質の最終濃度が2mMになるよう100mMヌートカトール溶液(ジメチルスルホキシドに溶解した1%(v/v)Triton-100を含む)20μLを加え、25℃、220rpmで24時間触媒した。
【0052】
生成物の検出方法は次のとおりである(以降の実施例の生成物の検出方法は実施例3と同じである)。
【0053】
反応終了後、反応液を2mL遠心分離管に移し、酢酸エチル1mLを加えて10分間振とうして抽出した後、最高速度で5分間遠心分離し、有機層と水層を分離し、上層の酢酸エチル500μLを1.5mL遠心分離管に取り、酢酸エチル500μLをさらに加えた。最後に、0.22μmの有機濾過膜で気相検出用のためにクロマトグラフィーボトルにろ過した。使用される気相はHewlett-Packard 5890IIガスクロマトグラフであり、クロマトグラフィーカラムは、仕様30m×0.10mm×0.10μmの5%Ph-Meシロキサンカラムであり、検出器は水素炎検出器(FID)であり、キャリアガスはNである。
【0054】
検出方法は次のとおりである。サンプル1μLをスプリット比15:1でスプリットして注入した。注入口の温度は250℃であり、検出器の温度は350℃であり、カラムの温度は100℃で5分間保持し、さらに、20℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持し、合計時間は15分である。
【0055】
使用される気相は、Hewlett-Packard 5890 IIガスクロマトグラフであり、クロマトグラフィーカラムは、仕様30m×0.25mm×0.25μmの石英キャピラリーカラムであり、検出器は、質量選択性検出器(MSD)である。その手順は上記と同じである。質量スキャン方法:イオンスキャンを選択。質量分析条件:電子衝撃(EI)イオン化源、電子エネルギー70eV。
【0056】
標準品をGC-FIDで検出したところ、ヌートカトンの保持時間は19.540分間であり、いくつかの候補アルコール脱水素酵素による全細胞触媒の気相検出結果は図2に示され、物質構造をGC-MSによりさらに定性的に分析した結果は図3に示される。標準品と比較したところ、サンプルのクロマトグラム及び質量スペクトルは標準品と一致するため、構築された組換え酵母菌株は、すべてバレンセンをヌートカトール及びヌートカトンに変換することができた。
【0057】
最後に、前記酸化還元酵素の組換え発現細胞S. c. CEN. PK2-1 Ca(YEp352-TDH3-NRRL-ADH1)によるヌートカトールの変換率は100%であった。
【0058】
同様に、本発明は、実施例1~3に記載の方法に従って、柑橘類由来の酸化還元酵素ABA2(NCBIアクセッション番号:HM036684.1)組換え発現細胞S. c. CEN. PK2-1 Ca(YEp352-TDH3-ABA2-ADH1)も構築し、そして、上記と同じ条件下でそれらの触媒能力をテストした。図2に示す検出結果のように、それぞれ実施例3に記載の変換効果の26%である。本発明に記載の酸化還元酵素の組換え発現細胞S. c. CEN. PK2-1 Ca(YEp352-TDH3-NRRL-ADH1)の同じ条件下における触媒効率は、ABA2に対応する組換え発現細胞の3.8倍である。これは、本発明に記載の酸化還元酵素がヌートカトールに対して良好な変換能力を有することを示している。
【0059】
(実施例4)
酸化還元酵素NRRLのコドン最適化
ヌートカトールからヌートカトンへの変換を触媒できる、スクリーニングされた酸化還元酵素NRRL配列を、サッカロマイセス・セレビシエのコドン適応度指数(CAI:condonadaptableindex)に従って評価した。徳泰生物社(http://www.detaibio.com/)ソフトウェアを利用して分析し、触媒性能が高く、CAIが低い酸化還元酵素のNRRL配列を、コドン最適化と配列決定のために生工生物工程公司(上海)に依頼した。実施例1及び実施例2に記載の方法に従って、コドン最適化されたNRRL(cp)配列をYEp352-TDH3-ADH1発現カセットに構築して、YEp352-TDH3-NRRL(cp)-ADH1プラスミドを得、さらに、組換え発現細胞S. c. CEN. PK2-1 Ca(YEp352-TDH3-NRRL(cp)-ADH1)を得た。ここで、NRRL(cp)のヌクレオチド配列を配列番号3に示す。
【0060】
実施例3に記載の方法に従って、元の配列の菌株とともに全細胞触媒実験をそれぞれ実施し、最適化前後の触媒性能の違いを評価した。図4の結果に示すように、基質の濃度が上昇すると、すべての菌株の基質変換率が低下する傾向がある。一方、コドン最適化されたNRRL(cp)菌株では、基質変換率の低下の度合が低く、基質の濃度が4及び6mMの場合、元の菌株と比較して、変換率は1.26倍上昇した。これは、コドン最適化により、宿主細菌におけるNRRL(cp)の発現レベルがある程度向上し、それによってその触媒性能がさらに向上することを示している。
【0061】
(実施例5)
酸化還元酵素NRRL突然変異体の製造
酸化還元酵素NRRLのタンパク質空間構造のシミュレーション解析により、その突然変異部位は、スレオニンTに突然変異した第69位のリジンKと、アルギニンR又はアラニンAに突然変異した第136位のグリシンGであることが判明した。
【0062】
配列番号3に示すNRRL最適化配列(NRRL(cp))に従って、部位特異的突然変異用の突然変異プライマーを設計し、遺伝子部位特異的突然変異法により、酸化還元酵素NRRL遺伝子を突然変異させ、新たな酸化還元酵素遺伝子を得た。組換えプラスミドYEp352-TDH3-NRRL(cp)-ADH1を鋳型として、高速PCR技術を使用し、ここで、組換えプラスミドのユニバーサルプライマーは次のとおりである。
YEp352-F3:5′-GTGACCGTCTCCGGGAGCTGCATGTG-3′
YEp352-R3:5′-CCGGAGACGGTCACAGCTTGTCTGTA-3′
【0063】
第69位に単一の突然変異を導入するためのプライマーは次のとおりである(下線付き配列は突然変異塩基である)。
【化4】
【0064】
上記のプライマーは、それぞれユニバーサルプライマーYEp352-F3/YEp352-R3と増幅され、増幅系と条件は表2に示される。
【0065】
【表2】
【0066】
PCR反応終了後、アガロースゲル電気泳動によって遺伝子断片のサイズが正しいかどうかを確認し、オリゴヌクレオチド精製キットを使用して増幅断片を精製し、微量分光光度計によって遺伝子断片の濃度を検出し、NRRL(cp):K69T-F/R、NRRL(cp):G136R-F/R、及びNRRL(cp):G136A-F/R DNA断片を得た。
【0067】
実施例1の方法を使用して、前記酸化還元酵素の単一点突然変異遺伝子を含む3つの組換えプラスミド:YEp352-TDH3-NRRL(cp)-K69T/G136R/G136A-ADH1を得た。
【0068】
(実施例6)
酸化還元酵素NRRLの二重部位突然変異体の製造
実施例5で構築された組換えプラスミドYEp352-TDH3-NRRL(cp)-K69T-ADH1を鋳型として、第136位に単一突然変異を導入し、二重部位突然変異体の構築を実現した。プライマーは、NRRL(cp):G136R-F/R、NRRL(cp):G136A-F/Rに示される。
【0069】
実施例1及び実施例5の方法を使用して、前記酸化還元酵素の二重点突然変異を含む2つの組換えプラスミド:YEp352-TDH3-NRRL(cp)-K69T-G136R/K69T-G136A-ADH1を得た。
【0070】
(実施例7)
酸化還元酵素突然変異体の触媒効率及び基質耐性
実施例2の組換え発現細胞の構築方法を用いて、構築した5つの組換え発現ベクターをサッカロマイセス・セレビシエS. c. CEN. PK2-1 Caコンピテント細胞に形質転換し、5つの組換え発現細胞を得た。次に、実施例3の全細胞インビトロ触媒法を使用して、対応する酸化還元酵素突然変異体の変換効率をテストした。
【0071】
図5の結果に示すように、元の酸化還元酵素NNRL(cp)と比較して、酸化還元酵素突然変異体は、ヌートカトールのインビトロ変換効率と基質耐性の大幅な向上を達成した。有益な突然変異部位は、NRRL(cp):K69T、NRRL(cp):G136R、NRRL(cp):G136A、NRRL(cp):K69T-G136R、NRRL(cp):K69T-G136Aである。同じ実験系で元の酸化還元酵素NRRL(cp)と比較した場合、上記の有益な突然変異体の酸化還元酵素の変換効率は107%(例えばNRRL(cp):G136R)から247%(例えばNRRL(cp):K69T-G136R)の範囲であった。テスト対象となる酸化還元酵素突然変異体の多くでは、表3の結果に示すように、この変換効率の向上は、基質耐性の向上とともに起こることが多く、このため、変換効率の向上が主にこれらの突然変異体の酵母における発現の向上によって引き起こされるものではないことを示している。
【0072】
表3は、SEQ ID NO.2と比較した修飾を伴う酸化還元酵素の基質耐性及び変換効率の概要を示す。
【0073】
【表3】
【0074】
:修飾された酸化還元酵素のアミノ酸残基の位置;残基コードは配列番号2のN末端スレオニン残基(=Met-1)から始まる。
:テスト方法は、実施例3を参照するが、投入されるヌートカトール基質の濃度が異なる点は相違する。
:野生型酸化還元酵素(=対照)を用いて得られた変換効率に対する修飾された酸化還元酵素(=サンプル)の変換効率、すなわち{(Nootkatone[サンプル]/基質濃度[サンプル])/(Nootkatone[対照]/基質濃度[対照])×100%。
:テスト条件下でも変換率60%以上を維持できる前記酵素の許容濃度
:酸化還元酵素野生型(SEQ ID NO.2)。
:()括弧内は、対応するアミノ酸への突然変異に使用されたコドンを示す。
【0075】
(実施例8)
酸化還元酵素突然変異体の耐塩性
実施例3の全細胞インビトロ触媒法に従って、3%、6%、9%、12%、15%、18%NaCl(W/V、g/100mL)を反応系に加え、25℃、220rpmで24時間触媒し、酸化還元酵素突然変異体の基質変換率に及ぼす影響を調べた。
【0076】
図6の結果に示すように、WT(未突然変異NRRL)は、3%NaCl(W/V)反応系で24h触媒した場合、その基質変換率が影響を受けておらず、6%、9%、12%、15%、18%NaCl(W/V)で24h処理した場合、基質触媒効率と耐性が高い上記5つの突然変異体:NRRL(cp):K69T、NRRL(cp):G136R、NRRL(cp):G136A、NRRL(cp):K69T-G136R、NRRL(cp):K69T-G136Aでは、NaCl(W/V)濃度の増加に伴い、基質変換率は低下する傾向にあるが、突然変異体の基質変換率はいずれもWTより高かった。このことから、突然変異体の耐塩性がWTと比較して向上したことが示された。
【0077】
上記の結果に基づいて、本発明に記載の酸化還元酵素突然変異体である最適突然変異体NRRL(cp):K69T-G136Rは、単一点突然変異又は二重点突然変異により、野生型酸化還元酵素よりも高い基質変換効率、基質耐性、及び耐塩性があり、産業応用の将来性も期待できる。
【0078】
(実施例9)
生物学的発酵による単純な炭素源を使用したヌートカトンの製造
中国特許出願第201910271558.6号に記載されている技術を使用して、宿主細胞S. c. CEN. PK2-1 Caに対してゲノム改変、つまり、メバロン酸経路の制限因子rox1をノックアウトし、セスキテルペノイド前駆体FPPの下流分岐経路関連酵素erg9の発現強度をダウンレギュレートすることによって、前駆体物質FPPの供給量を増やし、最終的にS. c. PK2-M菌株を得た。そして、国際特許出願第PCT/NL2010/050848号に記載のベイヒバ(Chamaecyparis nootkatensis)由来のバレンセンシンターゼValC遺伝子(NCBIアクセッション番号:JX040471)(この遺伝子の発現カセットにおけるプロモーターはPDC1、ターミネーターはSAG1)と、N末端制御領域が短縮されたサッカロマイセス・セレビシエ内因性HMG-CoA還元酵素tHMG1(メバロン酸経路の律速段階酵素)遺伝子(NCBIアクセッション番号:NM_001182434)(この遺伝子の発現カセットにおけるプロモーターはTEF1、ターミネーターはCYC1)を、実施例4で得られた組換え発現ベクターYEp352-TDH3-NRRL(cp)-ADH1に導入し、組換え発現ベクターYEp352-ValC-tHMG1-NRRL(cp)を得た。さらに、p414-TEF1p-Cas9-CYC1tベクター(Addgene社からの市販プラスミド)のTEF1p-Cas9-CYC1tを、特許WO2006/079020に記載されているヒヨスキャムス・ムティカス(Hyoscyamus muticus)由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼHPO遺伝子(NCBIアクセッション番号:EF569601)(この遺伝子の発現カセットにおけるプロモーターはHXT7、ターミネーターはTPI1)、及びUrban, Pdらによる1997年の文章に記載されているシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のチトクロム還元酵素AtCPR遺伝子(NCBIアクセッション番号:NM_118585)(この遺伝子の発現カセットにおけるプロモーターはHXT7、ターミネーターはTPI1)(Urban, P., et al. Cloning, yeast expression, and characterization of the coupling of two distantly related Arabidopsis thaliana NADPH-cytochrome P450 reductases with P450 CYP73A5.J. Biol. Chem. 1997, 272, 19176-19186.)に置き換え、組換え発現ベクターp414-HPO-AtCPRを得た。組換え発現ベクターYEp352-ValC-tHMG1-NRRL(cp)及びp414-HPO-AtCPRを一緒に構築されたFPP産生量の高い工学菌株S.c.PK2-Mに形質転換し、組換え発現細胞S. c. PK2-M(YEp352-ValC-tHMG1-NRRL(cp)及びp414-HPO-AtCPR)を得て、それを「PK2-VHN(cp)-HA」と略称した。
【0079】
PK2-VHN(cp)-HA菌株をSD/ΔTrp-Ura培地5mL(6.7g/L YNB、2g/Lアミノ酸混合物、20g/Lグルコース、20mg/Lロイシン)を入れた試験管に接種し、30℃、220rpmのシェーカーで約20時間培養し、菌液のOD600が1~3に達したら、SD/ΔTrp-Ura培地10mLを入れた50mL三角フラスコに移し、20%n-ドデカン(2mL)有機相を覆い、25℃、220rpmのシェーカーで96時間発酵させた。
【0080】
発酵終了後、上層のn-ドデカン有機相を500μLとり、等体積の酢酸エチルと混合し、実施例4に記載の気相検出法に従って生成物の検出を行った。
【0081】
最終的な発酵結果では、ヌートカトンの収量は24mg/Lで、全テルペン(バレンセン、ヌートカトール、ヌートカトンの合計)収量の20%を占めた。使用した酸化還元酵素を柑橘類由来のABA2に置き換えた場合、得られたヌートカトンの収量はわずか2.5mg/Lで、全テルペンの収量の2.6%を占めた。すなわち、本発明に記載の酸化還元酵素を使用することにより、ヌートカトンの発酵収量を9.6倍向上させることができ、純度を12倍向上させることができる。NRRL(cp):K69T-G136Rなどの酸化還元酵素突然変異体を使用すると、得られたヌートカトンの収量は42mg/Lに向上し、これは野生型酸化還元酵素の1.75倍であった。本発明に記載の酸化還元酵素は、これまでに報告されているアイソザイムよりも触媒性能が優れており、耐えられる基質濃度もより高くなることが証明されており、前記酸化還元酵素及びその突然変異体を用いることにより、ヌートカトンの発酵収量及び純度がより高い製品が得られ得る。
【0082】
上記実施例は本発明の好適な実施形態であるが、本発明の実施形態は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨及び原理を逸脱することなく行われる他の種々の変更、修正、置換、組み合わせ、簡素化などがすべて等価の置換方式であり、これらはすべて本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【0083】
(付記)
(付記1)
ヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及び/又はその突然変異体の使用であって、
前記酸化還元酵素は、名称がNRRLであり、アミノ酸配列が配列番号2で示され、
前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位及び第136位のアミノ酸のうちの一方又は両方の部位が突然変異したものである、ことを特徴とする使用。
【0084】
(付記2)
基質耐性、変換率、耐塩性の向上における前記酸化還元酵素突然変異体の使用であり、前記基質はヌートカトールである、ことを特徴とする付記1に記載の使用。
【0085】
(付記3)
前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位及び第136位のアミノ酸のうちの一方又は両方の部位が突然変異したものであり、第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンR又はアラニンAに突然変異する、ことを特徴とする付記1に記載の使用。
【0086】
(付記4)
前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンRに突然変異し、具体的なアミノ酸配列は、配列番号4で示される、ことを特徴とする付記3に記載の使用。
【0087】
(付記5)
前記酸化還元酵素突然変異体では、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子配列は配列番号3で示される、ことを特徴とする付記1~4のいずれか1つに記載の使用。
【0088】
(付記6)
酸化還元酵素NRRLのコード遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1又は配列番号3で示される、ことを特徴とする付記1~4のいずれか1つに記載の使用。
【0089】
(付記7)
付記1~5のいずれか1つに記載の酸化還元酵素突然変異体。
【0090】
(付記8)
付記7に記載の酸化還元酵素突然変異体をコードする遺伝子。
【0091】
(付記9)
付記8に記載の遺伝子を含有する組換え発現ベクター又は組換え発現細胞。
【0092】
(付記10)
ヌートカトンの生合成における、付記6に記載のコード遺伝子を含有する組換え発現ベクター又は組換え発現細胞、付記9に記載の組換え発現ベクター又は組換え発現細胞の使用。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2024546144000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌートカトンの生合成における酸化還元酵素及び/又はその突然変異体の使用であって、
前記酸化還元酵素は、名称がNRRLであり、アミノ酸配列が配列番号2で示され、
前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位及び第136位のアミノ酸のうちの一方又は両方の部位が突然変異したものである、ことを特徴とする使用。
【請求項2】
基質耐性、変換率、耐塩性の向上における前記酸化還元酵素突然変異体の使用であり、前記基質はヌートカトールである、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位及び第136位のアミノ酸のうちの一方又は両方の部位が突然変異したものであり、第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンR又はアラニンAに突然変異する、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記酸化還元酵素突然変異体のアミノ酸配列は、配列番号2の第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンRに突然変異し、具体的なアミノ酸配列は、配列番号4で示される、ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記酸化還元酵素突然変異体では、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子配列は配列番号3で示される、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
酸化還元酵素NRRLのコード遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1又は配列番号3で示される、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
名称がNRRLであり、アミノ酸配列が配列番号2で示される酸化還元酵素の突然変異体であって、
(1)配列番号2の第69位及び第136位のアミノ酸のうちの一方又は両方の部位が突然変異した、
(2)配列番号2の第69位及び第136位のアミノ酸のうちの一方又は両方の部位が突然変異し、第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンR又はアラニンAに突然変異した、
(3)配列番号2の第69位のアミノ酸がリジンKからスレオニンTに突然変異し、第136位のアミノ酸がグリシンGからアルギニンRに突然変異し、具体的なアミノ酸配列は、配列番号4で示される、
(4)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子配列は配列番号3で示される、又は、
(5)酸化還元酵素NRRLのコード遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1又は配列番号3で示される、
ことを特徴とする、酸化還元酵素突然変異体
【請求項8】
請求項7に記載の酸化還元酵素突然変異体をコードする遺伝子。
【請求項9】
請求項8に記載の遺伝子を含有する組換え発現ベクター又は組換え発現細胞。
【請求項10】
ヌートカトンの生合成における、請求項6に記載のコード遺伝子を含有する組換え発現ベクター又は組換え発現細胞、請求項9に記載の組換え発現ベクター又は組換え発現細胞の使用。
【国際調査報告】