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特表2024-546152免疫グロブリン分解酵素による切断に対抗するFc変異体
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  • 特表-免疫グロブリン分解酵素による切断に対抗するFc変異体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】免疫グロブリン分解酵素による切断に対抗するFc変異体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20241210BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241210BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241210BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20241210BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20241210BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20241210BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241210BHJP
   C12N 9/52 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K19/00
C07K16/46
C07K16/08
C07K16/30
C07K16/28
C12N9/52
A61K39/395 W
A61P35/00
A61P37/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535964
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-08-06
(86)【国際出願番号】 CN2022139441
(87)【国際公開番号】W WO2023109928
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】202111547070.5
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】521441168
【氏名又は名称】上海宝済薬業股▲ふん▼有限公司
【住所又は居所原語表記】No.28,Luoxin Road,Baoshan District,Shanghai 201908,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 征
(72)【発明者】
【氏名】徐 云霞
(72)【発明者】
【氏名】劉 彦君
(72)【発明者】
【氏名】呂 宝杰
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA34
4C085BA01
4C085BA51
4C085BB01
4C085BB36
4C085CC05
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
Fc変異体を含む分子を提供し、前記分子はIgG野生型Fcを含む分子と比べて、免疫グロブリン分解酵素に対して耐性があり、且つ前記分子は変異を有するヒトIgG Fc領域を含み、前記変異は位置G237(EUナンバリング)での1つ又は複数の置換又は欠失であり、前記置換は、G237Aであることが好ましい。また、前記分子をコードする核酸、前記核酸を含むベクター及び宿主細胞、並びに前記分子の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fc変異体を含む分子であって、
前記分子はIgG野生型Fcを含む分子と比べて、免疫グロブリン分解酵素に対して耐性があり、且つ前記分子は変異を有するヒトIgG Fc領域を含み、前記変異は位置G237(EUナンバリング)での1つ又は複数の置換又は欠失であり、前記置換はG237Aであることが好ましく、好ましくは、前記ヒトIgG Fc領域が少なくとも、配列番号19で示される配列を含む、分子。
【請求項2】
前記Fc分子は、プロテアーゼによる分解に対して耐性があり、前記プロテアーゼは、残基236と237(EUナンバリング)の間でIgG野生型Fcを含む分子を切断できる、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
前記分子は、野生型IgGと比べて、IdeS、IdeZ、IdeE、IdeZ2、IdeE2、IdeSORK、Xork及びそれらの変異体からなる群から選ばれる酵素による分解に対して耐性がある、請求項1又は2に記載の分子。
【請求項4】
前記分子のIgGは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4からなる群から選ばれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の分子。
【請求項5】
前記分子のADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能がIgG野生型Fcを含む分子と比べて促進又は増強されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の分子。
【請求項6】
ヒトIgG野生型Fc領域配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、S239D、I332E、G236A、S298A/E333A/K334A、S239D/I332E、S239D/A330L/I332E、G236A/S239D/I332E、G236A/A330L/I332E、G236A/S239D/A330L/I332E、F243L/R292P/Y300L、F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L、L235V/F243L/R292P/Y300L/P396L、P247I/A339Q、K326A/E333A、K326W/E333S、E333A/K334A、H268F/S324T/I332E、S239D/H268F/S324T/I332E、S267E/H268F/S324T/I332E、K326A/I332E/E333A、S239D/K326A/E333A、S267E/I332Eからなる群から選ばれ、好ましくは、前記置換は、S239D、I332E、S239D/I332Eからなる群から選ばれる、請求項5に記載の分子。
【請求項7】
N-グリカン修飾をさらに含み、前記N-グリカン修飾においてフコースの含有量が50%未満であり、好ましくは、10%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の分子。
【請求項8】
N-グリカン修飾をさらに含み、前記N-グリカン修飾において末端ガラクトース修飾の含有量が30%より高く、好ましくは、50%より高い、請求項1~7のいずれか一項に記載のFc分子。
【請求項9】
前記分子が、抗体又はFc融合タンパク質である、請求項1~8のいずれか一項に記載の分子。
【請求項10】
前記抗体が、ウイルス、細菌、腫瘍細胞、腫瘍間質、又は腫瘍血管系上の抗原に結合し、好ましくは、前記抗体が、COVID-19、CD38、CD20、FR5、BCMA、SLAM7、CD73、GPRCD5、CD3からなる群から選ばれる1つ又は2つの抗原に特異的に結合し、最も好ましくは、前記抗体がCD38に特異的に結合する、請求項9に記載の分子。
【請求項11】
前記抗体が、少なくとも1つの重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を含み、前記重鎖は、配列番号1で示されるHCDR1、配列番号2で示されるHCDR2、配列番号3で示されるHCDR3、又は、配列番号4で示されるHCDR1、配列番号5で示されるHCDR2、配列番号6で示されるHCDR3を含み、前記軽鎖は、配列番号7で示されるLCDR1、配列番号8で示されるLCDR2、配列番号9で示されるLCDR3、又は、配列番号10で示されるLCDR1、配列番号11で示されるLCDR2、配列番号12で示されるLCDR3を含む、請求項9又は10に記載の分子。
【請求項12】
前記抗体が、少なくとも1つの重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号13のアミノ酸配列で示される重鎖可変領域を含み、且つ、前記軽鎖は配列番号14のアミノ酸配列で示される軽鎖可変領域を含み、又は、前記重鎖は配列番号15のアミノ酸配列で示される重鎖可変領域を含み、且つ、前記軽鎖は配列番号16のアミノ酸配列で示される軽鎖可変領域を含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の分子。
【請求項13】
前記抗体のエピトープ結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv又は二硫化物によって接続されたFv断片である、請求項9~12のいずれか一項に記載の分子。
【請求項14】
前記分子のADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて弱化及び/又は解消されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の分子。
【請求項15】
ヒトIgG1野生型Fc配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、N297A、N297Q、N297G、L235A、L235A/E318A、L234A/L235A、G236R/L328R、S298G/T299A、L234F/L235E/P331S、E233P/L234V/L235A/G236del/S267K、L234A/L235A/P329G、L234F/L235E/D265Aからなる群から選ばれ、好ましくは、前記置換は、N297A、N297Q、N297G、L234A/L235A、L235A、L234F/L235E/P331Sからなる群から選ばれる、請求項14に記載のFc分子。
【請求項16】
FcRnに対する前記分子の親和性が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて上昇している、請求項1~15のいずれか一項に記載の分子。
【請求項17】
IgG1野生型Fcの配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、YTEKF、YTEKF+V264A、YTEKF+V264Eからなる群から選ばれる、請求項16に記載の分子。
【請求項18】
(i)細胞又は細胞に結合した標的分子に結合できる結合ドメインと、(ii)ヒトIgG1重鎖のCH2及びCH3定常ドメインのアミノ酸配列を有するFcドメインとを含み、ただし、EUナンバリングシステムによって定義された残基G237に置換又は欠失が生じた、分離された結合ポリペプチド分子であって、前記結合分子は標的細胞上の標的分子に結合でき、且つ、前記分子は、測定可能なCDC活性、又は必要なフェクター細胞によって媒介される標的細胞傷害活性を生じ、好ましくは、G237での置換がG237Aであることを特徴とする、結合ポリペプチド分子。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか一項に記載の分子又は請求項18に記載の結合ポリペプチド分子と、細胞毒性薬剤とを含む、免疫複合体。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか一項に記載の分子又は請求項18に記載の結合ポリペプチド分子をコードする、1種又は複数種の分離された核酸。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項22】
請求項20に記載の核酸又は請求項21に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項23】
請求項1~17のいずれか一項に記載の分子又は請求項18に記載の結合ポリペプチド分子の方法製造であって、
(a)前記分子又は前記結合ポリペプチド分子の発現に適する条件で請求項22に記載の宿主細胞を培養するステップと、
(b)任意に、ステップ(a)の培養物から前記分子又は前記結合ポリペプチド分子を回収するステップとを含む、方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法により産生された、分子又は結合ポリペプチド分子。
【請求項25】
請求項1~17のいずれか一項に記載の分子、請求項18に記載の結合ポリペプチド分子又は請求項19に記載の免疫複合体と、免疫グロブリン分解酵素とを含む医薬組成物であって、前記免疫グロブリン分解酵素は残基236と237(EUナンバリング)の間でIgG分子を切断でき、前記免疫グロブリン分解酵素は、IdeS、IdeZ、IdeE、IdeSORK、Xork及びそれらの酵素の変異体であることが好ましい、医薬組成物。
【請求項26】
請求項1~17のいずれか一項に記載の分子、請求項18に記載の結合ポリペプチド分子又は請求項19に記載の免疫複合体と、医薬担体とを含む、医薬組成物。
【請求項27】
薬物としての、請求項1~17のいずれか一項に記載の分子、請求項18に記載の結合ポリペプチド分子、請求項19に記載の免疫複合体又は請求項25若しくは26に記載の医薬組成物であって、好ましくは、前記薬物は疾患を治療するために用いられ、より好ましくは、前記疾患は、がん又は自己免疫疾患であり、最も好ましくは、前記がんは、多発性骨髄腫である、薬物。
【請求項28】
薬物の製造における、請求項1~17のいずれか一項に記載の分子、請求項18に記載の結合ポリペプチド分子、請求項19に記載の免疫複合体又は請求項25若しくは26に記載の医薬組成物の用途であって、前記薬物は、疾患、特にがん又は自己免疫疾患を治療するために用いられる、用途。
【請求項29】
薬物の製造における、請求項1~17のいずれか一項に記載の分子、請求項18に記載の結合ポリペプチド分子、請求項19に記載の免疫複合体又は請求項25若しくは26に記載の医薬組成物の用途であって、前記薬物は、CD38陽性細胞に対するADCC、ADCP、アポトーシスによって媒介される枯渇を誘導するために用いられる、用途。
【請求項30】
がん又は自己免疫疾患を持っている個体の治療方法であって、前記個体に有効量の請求項1~17のいずれか一項に記載の分子、請求項18に記載の結合ポリペプチド分子、請求項19に記載の免疫複合体又は請求項25若しくは26に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項31】
個体においてCD38陽性細胞に対するADCC、ADCPによって媒介される枯渇を誘導する方法であって、前記個体に有効量の請求項1~17のいずれか一項に記載の分子、請求項18に記載の結合ポリペプチド分子、請求項19に記載の免疫複合体又は請求項25若しくは26に記載の医薬組成物を投与して、CD38陽性細胞に対するADCC、ADCP、アポトーシスによって媒介される枯渇を誘導することを含む、方法。
【請求項32】
本明細書に記載の本発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に関し、具体的には、ヒトIgG Fc変異体及び前記変異体を含む分子に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンG(Immunoglobulin G、IgG)は、血清の主要な抗体成分で、血清免疫グロブリンの約75%を占めており、体内の免疫で主に保護的な役割を果たし、感染症を効果的に予防できる。保護的な役割を有するほかに、IgGは疾患にも関係している。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、免疫性(あるいは自発性)血小板減少症などの疾患では、IgG抗体が人体自身の分子と反応し、臓器移植ではIgGが急性移植拒絶反応を引き起こす。多発性骨髄腫などの一部の疾患では、50%の患者に血中IgGが非常に高く、治療用抗体の代謝と効果への影響が認められる。
【0003】
IdeS型免疫グロブリン分解酵素で血中IgGを分解して、人体自身のIgGの治療用抗体に対するマイナスの影響を解消できることが研究で明らかになった。また、血中IgGレベルを低下させることにより、治療用抗体の半減期を延長できる(Abdallah,H.M.&A.Z.X.Zhu.2020.Clin Pharmacol Ther 107(2):423-434)。IdeSは投与2時間後に、人体の血中IgGを完全に切断する効果が得られる(Winstedt,L. et al.,2015.PLoS One 10(7):e0132011)ため、IgGの干渉を効果的に解消する方法である。しかし、IdeSなどの免疫グロブリン分解酵素を投与した後、少なくとも4日間以内は、他の治療用抗体を一切使用できない。そこで、IdeSを使用して血中IgGの干渉を低下させると同時に、抗体を使用して治療できるよう、つまり、IdeSと治療用抗体の同時投与を可能にするために、IdeSによる切断に抵抗できる治療用抗体が必要になる。
【発明の概要】
【0004】
本発明の1つ又は複数の実施形態の詳細な内容は以下に示すとおりである。本発明の他の特徴、目的及び利点が明細書及び特許請求の範囲から明らかなものになるだろう。
【0005】
事項1.Fc変異体を含む分子であって、
前記分子はIgG野生型Fcを含む分子と比べて、免疫グロブリン分解酵素に対して耐性があり、且つ前記分子は変異を有するヒトIgG Fc領域を含み、前記変異は位置G237(EUナンバリング)での1つ又は複数の置換又は欠失であり、前記置換はG237Aであることが好ましく、好ましくは、前記ヒトIgG Fc領域が少なくとも、配列番号19で示される配列を含む、分子。
【0006】
事項2.前記Fc分子は、プロテアーゼによる分解に対して耐性があり、前記プロテアーゼは、残基236と237(EUナンバリング)の間でIgG野生型Fcを含む分子を切断できる、事項1に記載の分子。
【0007】
事項3.前記分子は、野生型IgGと比べて、IdeS、IdeZ、IdeE、IdeZ2、IdeE2、IdeSORK、Xork及びそれらの変異体からなる群から選ばれる酵素による分解に対して耐性がある、事項1又は2に記載の分子。
【0008】
事項4.前記分子のIgGは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4からなる群から選ばれる、事項1~3のいずれか一項に記載の分子。
【0009】
事項5.前記分子のADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能がIgG野生型Fcを含む分子と比べて促進又は増強されている、事項1~4のいずれか一項に記載の分子。
【0010】
事項6.ヒトIgG野生型Fc領域配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、S239D、I332E、G236A、S298A/E333A/K334A、S239D/I332E、S239D/A330L/I332E、G236A/S239D/I332E、G236A/A330L/I332E、G236A/S239D/A330L/I332E、F243L/R292P/Y300L、F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L、L235V/F243L/R292P/Y300L/P396L、P247I/A339Q、K326A/E333A、K326W/E333S、E333A/K334A、H268F/S324T/I332E、S239D/H268F/S324T/I332E、S267E/H268F/S324T/I332E、K326A/I332E/E333A、S239D/K326A/E333A、S267E/I332Eからなる群から選ばれ、好ましくは、前記置換は、S239D、I332E、S239D/I332Eからなる群から選ばれる、事項5に記載の分子。
【0011】
事項7.N-グリカン修飾をさらに含み、前記N-グリカン修飾においてフコースの含有量が50%未満であり、好ましくは、10%未満である、事項1~6のいずれか一項に記載の分子。
【0012】
事項8.N-グリカン修飾をさらに含み、前記N-グリカン修飾において末端ガラクトース修飾の含有量が30%より高く、好ましくは、50%より高い、事項1~7のいずれか一項に記載のFc分子。
【0013】
事項9.前記分子が、抗体又はFc融合タンパク質である、事項1~8のいずれか一項に記載の分子。
【0014】
事項10.前記抗体が、ウイルス、細菌、腫瘍細胞、腫瘍間質、又は腫瘍血管系上の抗原に結合し、好ましくは、前記抗体が、COVID-19、CD38、CD20、FR5、BCMA、SLAM7、CD73、GPRCD5、CD3からなる群から選ばれる1つ又は2つの抗原に特異的に結合し、最も好ましくは、前記抗体がCD38に特異的に結合する、事項9に記載の分子。
【0015】
事項11.前記抗体が、少なくとも1つの重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を含み、前記重鎖は、配列番号1で示されるHCDR1、配列番号2で示されるHCDR2、配列番号3で示されるHCDR3、又は、配列番号4で示されるHCDR1、配列番号5で示されるHCDR2、配列番号6で示されるHCDR3を含み、前記軽鎖は、配列番号7で示されるLCDR1、配列番号8で示されるLCDR2、配列番号9で示されるLCDR3、又は、配列番号10で示されるLCDR1、配列番号11で示されるLCDR2、配列番号12で示されるLCDR3を含む、事項9又は10に記載の分子。
【0016】
事項12.前記抗体が、少なくとも1つの重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号13のアミノ酸配列で示される重鎖可変領域を含み、且つ、前記軽鎖は配列番号14のアミノ酸配列で示される軽鎖可変領域を含み、又は、前記重鎖は配列番号15のアミノ酸配列で示される重鎖可変領域を含み、且つ、前記軽鎖は配列番号16のアミノ酸配列で示される軽鎖可変領域を含む、事項9~11のいずれか一項に記載の分子。
【0017】
事項13.前記抗体のエピトープ結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv又は二硫化物によって接続されたFv断片である、事項9~12のいずれか一項に記載の分子。
【0018】
事項14.前記分子のADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて弱化及び/又は解消されている、事項1~4のいずれか一項に記載の分子。
【0019】
事項15.ヒトIgG1野生型Fc配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、N297A、N297Q、N297G、L235A、L235A/E318A、L234A/L235A、G236R/L328R、S298G/T299A、L234F/L235E/P331S、E233P/L234V/L235A/G236del/S267K、L234A/L235A/P329G、L234F/L235E/D265Aからなる群から選ばれ、好ましくは、前記置換は、N297A、N297Q、N297G、L234A/L235A、L235A、L234F/L235E/P331Sからなる群から選ばれる、事項14に記載のFc分子。
【0020】
事項16.FcRnに対する前記分子の親和性が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて上昇している、事項1~15のいずれか一項に記載の分子。
【0021】
事項17.IgG1野生型Fcの配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、YTEKF、YTEKF+V264A、YTEKF+V264Eからなる群から選ばれる、事項16に記載の分子。
【0022】
事項18.(i)細胞又は細胞に結合した標的分子に結合できる結合ドメインと、(ii)ヒトIgG1重鎖のCH2及びCH3定常ドメインのアミノ酸配列を有するFcドメインとを含み、ただし、EUナンバリングシステムによって定義された残基G237に置換又は欠失が生じた、分離された結合ポリペプチド分子であって、前記結合分子は標的細胞上の標的分子に結合でき、且つ、前記分子は、測定可能なCDC活性、又は必要なフェクター細胞によって媒介される標的細胞傷害活性を生じ、好ましくは、G237での置換がG237Aであることを特徴とする、結合ポリペプチド分子。
【0023】
事項19.事項1~17のいずれか一項に記載の分子又は事項18に記載の結合ポリペプチド分子をコードする、核酸。
【0024】
事項20.事項19に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【0025】
事項21.事項19に記載の核酸又は事項20に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【0026】
事項22.事項1~17のいずれか一項に記載の分子又は事項18に記載の結合ポリペプチド分子の製造方法であって、
(a)事項21に記載の宿主細胞を提供するステップと、
(b)前記分子又は前記結合ポリペプチド分子の発現に適する条件で前記宿主細胞を培養するステップと、
(c)任意に、ステップ(b)の培養物から前記分子又は前記結合ポリペプチド分子を回収するステップとを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、免疫グロブリン分解酵素による変異抗体の分解である。Mが分子量記号であり、1~5が抗体1~3、5、6で、6~13が酵素切断後の抗体1~3、5、6、野生型、野生型、7である。IgGが全長抗体であり、scIgGが1つのFcを切り落とされた抗体であり、F(ab)は切断して得られたFab二量体であり、Fcは切断して得られたFc単量体である。
図2A図2Aは、異なる変異抗体のADCC活性である。
図2B図2Bは、異なる変異抗体のADCC活性である。
図2C図2Cは、異なる変異抗体のADCC活性である。
図3図3は、異なる変異抗体のADCP活性である。
図4図4は、異なる変異抗体のCDC活性である。
図5図5は、異なる変異抗体のアポトーシス誘導活性である。
図6図6は、CD38酵素の活性に対する異なる変異抗体の阻害率である。
図7図7は、移植腫瘍モデルに対する異なる抗体の抑制効果で、Abが投与抗体である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の目的は、従来技術の欠点に対して、IdeS型免疫グロブリン分解酵素による切断に抵抗できるFc変異体を提供することである。当該変異体を含むIgG、Fc融合タンパク質、Fc断片は、いずれもIdeS型免疫グロブリン分解酵素による切断に抵抗でき、単一の点変異だけで酵素切断に対抗する効果が得られる。
【0029】
本発明の目的は、以下の技術的解決手段によって達成される。
1.定義
「Fc」「Fc含有タンパク質」とは、少なくとも1つの免疫グロブリンCH2及びCH3ドメインを有する単量体、二量体又はヘテロ二量体タンパク質を指す。CH2及びCH3ドメインが、タンパク質(例えば、抗体)の二量体ドメインの少なくとも一部を形成できる。他のIgGサブクラスの類似するドメインは、IgGサブクラスの重鎖又は重鎖断片のアミノ酸配列とヒトIgG1のアミノ酸配列との比較により決定でき、詳しくは、以下のウェブサイトの掲載を参照できる(http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.html)。本明細書で「EUナンバリング」とは、ヒトIgG1抗体残基の番号を指す。本明細書でアミノ酸位置は全て「EUナンバリング」を用いる。
【0030】
用語「野生型Fc」とは、野生型Fc領域における参照ポリペプチド又は検討されるもの以外の変異を任意に含有する変異体を指す。用語「野生型」又は「WT」は、本明細書では、自然界で見つかるアミノ酸配列又はヌクレオチド配列であって、天然由来のもの(対立遺伝子変異を含む)で、しかも分子生物学技術によって意図的に修飾、例えば変異誘発されていないものを指す(Vidarsson,G. et al.(2014).Front Immunol 5:520)。例えば、「野生型Fc領域」とは、特に配列番号17のIgG1 Fc領域(G1m1、17アロタイプ)、配列番号18(G1m3アロタイプ)のIgG1 Fc領域を有するものを指す。
【0031】
用語「半減期」とは、Fc断片が投与対象患者の血清に出現したから、循環又は他の組織から半分除去されるまでの期間を指す。
【0032】
用語「Fcγ受容体」又は「FcγR」とは、CD64(FcγRI)、CD32(FcγRII)、CD16(FcγRIII)と呼ばれるIgG型免疫グロブリン受容体を指し、特に、発現された5種の受容体(FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIb)である。ヒトFcγRIIb(免疫細胞の活性化を抑制する受容体)の外に、いずれもフェクター細胞活性化受容体である(Muta T et al.,Nature,1994,368:70-73)。
【0033】
用語「フェクター細胞」とは、Fc受容体を備えるあらゆる細胞を指し、例えば、リンパ球、単球、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞、好酸球、好塩基球、肥満細胞、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、血小板である。
【0034】
用語「ADCC」とは、抗体依存性細胞傷害を指し、Fc受容体(FcR)を発現するフェクター細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす抗体媒介性細胞免疫応答である。主にADCCを媒介する細胞であるNK細胞はFcγRIIIだけを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII、FcγRIIIを発現できる。ADCCの検出方法は、PBMCを用いる方法、NK細胞を用いる方法、NK92レポーター遺伝子を用いる方法、Jurkatレポーター遺伝子を用いる方法などである。ADCCは、血中単球の存在下で測定される。ADCCの検出方法は、PBMCを用いる方法、NK細胞を用いる方法、NK92レポーター遺伝子を用いる方法、Jurkatレポーター遺伝子を用いる方法などである。ADCCは、血中単球の存在下で測定される。
【0035】
用語「ADCP」とは、抗体依存性細胞食作用を指し、IgのFcエフェクタードメインに結合された細胞食作用性免疫細胞(例えば、マクロファージ、好中球、樹状細胞)によって、抗体によって包み込まれた細胞が(完全に又は部分的に)取り込まれていくプロセスである。ADCPの検出方法は、PBMCを用いる方法、NK92レポーター遺伝子を用いる方法、Jurkatレポーター遺伝子を用いる方法などである。ADCPは、CD14 pos及び/又はCD11b pos血中単球の存在下で測定されてもよい。
【0036】
用語「C1q」とは、補体の古典的経路の活性化経路における最初のタンパク質を指し、補体タンパク質C1qが細胞表面又は細胞表面に結合した抗体に直接結合することにより活性化され、また、アポトーシス細胞の貪食の制御、内皮細胞の活性化、T細胞及びB細胞の制御などの作用も有する。
【0037】
用語「補体依存性細胞傷害」又はCDCとは、標的が抗体のFcエフェクタードメインに結合して一連の酵素反応を活性化させて、標的細胞膜において細孔を形成させる細胞死誘導メカニズムを指す。一般的に、抗原-抗体複合体、例えば抗体によって包み込まれた標的細胞上の複合体が補体成分Clqに結合してそれを活性化させた上で、補体カスケード反応を活性化させて標的細胞を死なせる。補体の活性化は、標的細胞の表面への補体成分の沈着をも引き起こし、白血球上の補体受容体(例えば、CR3)に結合することによりADCCに役立つ。CDCの検出方法として、例えば、ヒト血液に由来する補体と標的細胞を共インキュベートして、標的細胞に対する殺傷を検出することである。
【0038】
用語「免疫グロブリン分解酵素」「IdeS型免疫グロブリン分解酵素」とは、免疫グロブリンを切断できる酵素を指す。本発明で免疫グロブリン分解酵素は、特に酵素切断部位がIgGの位置G236とG237(EUナンバリング)の間であるIgG特異的分解プロテアーゼを指し、現在知られているのは、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスに由来するIdeZ、IdeZ2、IdeE、IdeE2(Lannergard,J.&B.Guss.2006.FEMS Microbiol Lett 262(2):230-235、Hulting,G. et al.(2009).FEMS Microbiol Lett 298(1):44-50)、化膿レンサ球菌に由来するIdeS(Wenig,K. et al.(2004).Proc Natl Acad Sci USA 101(50):17371-17376)、Streptococcus krosusに由来するIdeSORKなどである。それらが免疫グロブリンG(IgG)1~4を特異的に切断する。他の免疫グロブリンクラス、例えば、IgA、IgD、IgE、IgMを切断しない。それらの免疫グロブリン分解酵素はCH2ドメインのG236とG237の間で切断し、ヒトIgGをF(ab’)断片及びFc断片に切断する。それらの既知の酵素の変異体も、CN107532158A、CN107532156A、WO2022223818A1、WO2021254479A1、CN115443288Aに記載のように、同じ作用を発揮できる。
【0039】
用語「N-グリカン」「N-結合型グリカン」「糖タンパク質」「グリコシル化」及び「グリコフォーム」とは、N-結合型オリゴ糖、例えば、アスパラギン-N-アセチルグルコサミン結合によってポリペプチドのアスパラギン残基に結合されているオリゴ糖を指す。糖タンパク質に見出される主要な糖は、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びシアル酸(NANA、NGNAを含むSA、並びにアセチル化NANA又はアセチル化NGNAを含むその誘導体及び類似体)である。糖鎖工学的に操作されたピキア・パストリスにおいてシアル酸は、もっぱらN-アセチルノイラミン酸(NANA)である(Hamilton et al.,Science 313(5792),1441-1443,2006)。N-グリカンは共通のコア5糖Man3GlcNAc2を有し、ここで「Man」とはマンノースを指し、「Glc」とはグルコースを指し、「NAc」とはN-アセチルを指し、GlcNAcとはN-アセチルグルコサミンを指す。Nグリカンは、「トリマンノシルコア」「コア5糖」又は「オリゴマンノースコア」とも呼ばれるコア構造Man3GlcNAc2(「Man3」)に付加される周辺糖(例えば、GlcNAc、ガラクトース、フコース、シアル酸)の含む分岐(アンテナ)の本数に関して異なる。N-グリカンはその分岐成分によって分類される(例えば、高マンノース型、複合型又は混成型)。1つのN-グリカン末端は、最大4つのシアル酸をつけて修飾される。
【0040】
用語「G0」とは、ガラクトースもフコースも有しない複合二分岐オリゴ糖(GlcNAcManGlcNAc)を指し、「G1」とは、フコースを有せず1つのガラクトシル残基を含む複合二分岐オリゴ糖(GalGlcNAcManGlcNAc)を指し、「G2」とは、フコースを有せず2つのガラクトシル残基を含む複合二分岐オリゴ糖(GalGlcNAcManGlcNAc)を指し、「G0F」とは、1つのコアフコースを含みガラクトースを有しない複合二分岐オリゴ糖(GlcNAcManGlcNAcF)を指し、「G1F」とは、1つのコアフコース及び1つのガラクトシル残基を含む複合二分岐オリゴ糖(GalGlcNAcManGlcNAcF)を指し、「G2F」とは、1つのコアフコース及び2つのガラクトシル残基を含む複合二分岐オリゴ糖(GalGlcNAcManGlcNAcF)を指す。
【0041】
用語「混成型」N-グリカンとは、トリマンノシルコアの1,3マンノースアームの末端に少なくとも1つのGlcNAcを有し、且つトリマンノシルコアの1,6マンノースアームにゼロ又は2つ以上のマンノースを有するN-グリカンを指す。
【0042】
IgGは、血液中の主要な血清免疫グロブリンで、健常者の血中IgGレベルが約10g/Lである。それは2つの同じ重鎖及び2つの軽鎖からなる糖タンパク質であり、重鎖及び軽鎖が可変領域及び定常領域からなる。IgGは、その2つの重鎖の各Fc領域のCH2ドメインの位置Asn297に単一のN-結合型グリカンを含有している。当該共有結合された複合炭水化物は、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びマンノース(Mannose)を含有している1コア二分岐のペンタ多糖(penta-polysaccharide)からなる。Fcのグリコシル化修飾が抗体機能の発揮に関与する。フコースをノックアウトすると抗体のIgG修飾を大幅に高めることができる。末端のガラクトース修飾がCDC機能を向上させることができる。
【0043】
用語「免疫複合体」とは、1種又は複数種の治療剤を本発明に記載の変異体に複合させて得た分子を指し、前記治療剤は、例えば、細胞毒性薬剤、化学療法剤、薬物、成長抑制剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物若しくは動物に由来し酵素活性を有する毒素若しくはその断片)又は放射性同位体である。
【0044】
用語「酵素切断に対抗する」、プロテアーゼに対して「耐性」があるとは、免疫グロブリンIgG、又はFcを備える免疫グロブリン抗体断片構造が、上記の免疫グロブリン分解酵素によって切断されない特性を有することを指す。
【0045】
用語「ベクター」又は「発現ベクター」は、本明細書で用いる場合、所望の遺伝子を細胞に導入し、細胞の中で当該所望の遺伝子を発現させるための媒体(vehicle)として使用するベクターを意味する。そのようなベクターは、プラスミド、ファージ、ウイルス、レトロウイルスから選ばれてもよいということが当業者に知られている。一般的には、本発明に好適なベクターは、選択マーカー、所望の遺伝子のクローニングに役立つ適切な制限部位、真核生物又は原核生物細胞に入り及び/又はその中で複製する能力を含む。
【0046】
本明細書で使用される用語「形質転換」は、DNAをレシピエントの宿主細胞に導入することによって、遺伝子型を改変してレシピエントの細胞の改変を引き起こすと、広い意味で使用される。
【0047】
同様に、「宿主細胞」とは、形質転換によりベクターが導入されている細胞を指し、前記ベクターは組換えDNA技術により構築され且つ少なくとも1種の異種遺伝子をコードする。他に明確な説明がない限り、組換え宿主からポリペプチドを分離するための方法を記述する場合、用語「細胞」と「細胞培養物」は、Fc変異体の由来を指して入れ替えて使用される。言い換えれば、「細胞」からFc変異体を回収することは、ペレット化された細胞全体から、又は培地と浮遊細胞を同時に含有している細胞培養物から回収することを意味してもよい。
【0048】
2.酵素切断に対抗する変異
本発明のG237変異(EUナンバリング)を含むFc変異体は、上記の免疫グロブリン分解酵素と共存しても、酵素切断により分解されない。免疫グロブリン分解酵素による切断は、少なくともCH2ドメインを含むものに対する構造特異的な酵素切断である(Wenig,K. et al.,2004.Proc Natl Acad Sci USA 101(50):17371-17376)。ただし、CH2ドメインは、少なくともL235から始まる配列、例えば配列番号19を含む(Novarra,S. et al.,2016.MAbs 8(6):1118-1125)。したがって、本発明のFc変異体は、少なくともG237変異を有するCH2ドメインを含む。G237変異は当該部位での1つ又は複数の置換又は欠失であってもよく、前記置換は、G237Aであることが好ましい。
【0049】
本発明は、G237一点の変異だけで、免疫グロブリン分解酵素による切断に対抗する効果を実現できることを最初に見出した。当該効果を得られること関する報告がCN103260640Bに記載の複雑な組み合わせ変異しかなく、抗体IgG1 CH2ドメインのE233-L234-L235-G236でIgG2のP233-V234-A235を置換し、さらにS239D/I332E又はG237A/S239D/I332Eと組み合わせることである。
【0050】
IgG1以外の他のIgGアイソタイプ、例えば、IgG2、IgG3、IgG4などは、いずれも免疫グロブリン分解酵素が分解できる(Wenig,K. et al.,2004.Proc Natl Acad Sci USA 101(50):17371-17376)。本明細書に記載のいくつかの実施例では、本発明のFc断片で異なるIgGサブタイプに由来するFc断片、例えば、IgG2、IgG3、IgG4を使用してもよい。異なるアロタイプIgG2~4の野生型Fc配列(Vidarsson,G., et al.(2014).Front Immunol 5:520)は、位置G237で置換又は欠失が生じた後、いずれも酵素切断に対抗できる。
【0051】
本明細書に記載のいくつかの実施例では、抗体の定常領域に対してアミノ酸を置換してもよい。例えば、本発明のFc断片において異なるIgG1アロタイプ、熟知されるG1m17アロタイプ、G1m3アロタイプ若しくはG1m1アロタイプ、又はそれらの組み合わせが使用されてもよいし、又は異なるIgG2~4アロタイプ(Vidarsson,G. et al.(2014).Front Immunol 5:520)若しくはそれらの組み合わせが使用されてもよい。
【0052】
3.エフェクター機能の促進又は増強
ADCCなどは抗体が機能を発揮するための重要な作用の1つである。G237変異がそのようなエフェクター機能の弱化又は喪失を引き起こす恐れがある(Hezareh,M. et al.,2001.J Virol 75(24):12161-12168.)。本明細書に記載のいくつかの実施例では、分子のFc領域に対してアミノ酸の置換及び/又はグリコシル化修飾である改変を行って、G237変異によるエフェクター機能の弱化を向上させることができる。前記分子のADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて促進又は増強されている。
【0053】
いくつかの実施形態では、Fc領域に対するアミノ酸の置換は、野生型ヒトIgG1配列における1つ又は複数の置換を含み、前記置換は、S239D、I332E、G236A、S298A/E333A/K334A、S239D/I332E、S239D/A330L/I332E、G236A/S239D/I332E、G236A/A330L/I332E、G236A/S239D/A330L/I332E、F243L/R292P/Y300L、F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L、L235V/F243L/R292P/Y300L/P396L、P247I/A339Q、K326A/E333A、K326W/E333S、E333A/K334A、H268F/S324T/I332E、S239D/H268F/S324T/I332E、S267E/H268F/S324T/I332E、K326A/I332E/E333A、S239D/K326A/E333A、S267E/I332Eからなる群から選ばれ、好ましくは、前記置換はI332E、S239D/I332Eである。
【0054】
いくつかの実施形態では、Fc領域のグリコシル化修飾の特徴は、N-グリカン修飾を含み、且つ低下しているフコース修飾を有することであり、前記N-グリカン修飾においてフコースの含有量が50%未満であり、好ましくは、10%未満である。低下しているフコース修飾が抗体のADCC活性を向上できる。
【0055】
いくつかの実施形態では、Fc領域のグリコシル化修飾の特徴は、N-グリカン修飾を含み、且つ増加している末端ガラクトース修飾を有することであり、前記N-グリカン修飾において末端ガラクトース修飾の含有量が30%より高く、好ましくは、50%より高い。増加している末端ガラクトース修飾が抗体のCDC活性を向上できる。
【0056】
4.エフェクター機能の弱化又は解消
いくつかの実施形態では、Fc領域に対してアミノ酸を置換することにより、前記分子のADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて弱化及び/又は解消されている。前記置換は、N297A、N297Q、N297G、L235A、L235A/E318A、L234A/L235A、G236R/L328R、S298G/T299A、L234F/L235E/P331S、E233P/L234V/L235A/G236del/S267K、L234A/L235A/P329G、L234F/L235E/D265Aからなる群から選ばれ、好ましくは、前記置換はN297A、N297Q、N297G、L234A/L235A、L235A、L234F/L235E/P331Sから選ばれる。
【0057】
5.FcRnとの結合向上
FcRnに対するFcの親和性は、人体における抗体の代謝を制御する。いくつかの実施形態では、前記Fc変異体はFcRnに対するFcの親和性を向上できる変異を含み、FcRnに対する前記分子の親和性が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて上昇している。前記変異は、N434A、N434W、M252Y/S254T/T256E、M428L/N434S、M252Y/S254T/T256E/H433K/N434F、T250Q/M428L、T307Q/N434A、M252Y/V308P/N434Y、T307P/L309Q/Q311R、H285D/T307Q/A378V、L309D/Q311H/N434S、M252Y/T256D、T256D/T307Q、T256D/T307Wであることが好ましい。
【0058】
本発明で利用可能なFc変異体が他にもあり、前記変異体は、Dall’Acquaらによって記述された変異(WF,D.A. et al.,2002.Journal of immunology.169(9):5171-5180)、Shanらによって記述された変異(Shan,L. et al.,2016.PLoS One 11(8):e0160345)、Leeらによって記述された変異(Lee,C.H. et al.,2019.Nat Commun 10(1):5031)、Macknessらによって記述された変異(Mackness,B.C. et al.,2019.MAbs 11(7):1276-1288)、Christopheらによって記述された変異
などであり、ただしそれらに限定されない。
【0059】
いくつかの実施形態では、Fc分子は、野生型ヒトIgG1配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、YTEKF、YTEKF+V264A、YTEKF+V264Eからなる群から選ばれる。
【0060】
いくつかの実施形態では、Fc領域のグリコシル化修飾の特徴は、N-グリカン修飾を含み、且つ増加している末端シアル酸修飾を有することであり、前記シアル酸の含有量が20%より高く、好ましくは30%より高い。Fc領域のいくつかのアミノ酸置換はシアル酸修飾のレベルを上昇させることができ、前記アミノ酸置換は、F241A、F243A、V262E、V264A、V264E、E293DEL、E294DEL、Y300Aであることが好ましい。
【0061】
6.抗原結合ドメイン
本発明の分子は、免疫グロブリン分解酵素に対して耐性があり、当該分解酵素は、少なくともCH2ドメインを含むものに対する構造特異的な酵素切断である(Wenig,K. et al.,2004.Proc Natl Acad Sci USA 101(50):17371-17376)。ただし、CH2ドメインは、少なくともL235から始まる配列、例えば配列番号19を含む(Novarra,S. et al.,2016.MAbs 8(6):1118-1125)。したがって、本発明は、ヒトFc CH2ドメインを含むあらゆる抗体又は融合タンパク質を含む。抗体は、改変しているエフェクター機能、例えば、向上しているADCC、ADCP及び/又はCDCをさらに有してもよい。いくつかの実施形態では、低下しているエフェクター機能であってもよい。
【0062】
抗体結合ドメインは、当業者に知られる方法で産生してもよい。抗体結合ドメインの構造は、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、VHH、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、CDRなどであり、ただしそれらに限定されない。
【0063】
本発明の分子は標的化部分を含む。標的化部分は、腫瘍細胞表面抗原、酵素、ホルモン、受容体、サイトカイン、免疫細胞表面抗原、接着分子などから選ばれる。標的化部分は、非タンパク質性のもの、例えば、炭水化物、脂質、リポ多糖、有機分子、金属又は金属錯体をさらに有してもよい。一般的に、標的化分子が存在する場合、リンカーによってFcに結合され、前記リンカーは、ポリペプチドであってもよいし又はポリペプチドでなくてもよい。
【0064】
本発明の分子は標的化部分を含み、標的化部分がウイルス、細菌、腫瘍細胞、腫瘍間質、又は腫瘍血管系上の抗原に結合し、好ましくは、前記標的化部分が、COVID-19、CD38、CD20、FR5、BCMA、SLAM7、CD73、GPRCD5、CD3からなる群から選ばれる1つ又は2つの抗原に特異的に結合し、最も好ましくは、前記抗体がCD38に特異的に結合する。
【0065】
一実施形態では、本発明の標的化部分は少なくとも1つの重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号1、配列番号2及び配列番号3のアミノ酸配列で示される3つの相補性決定領域を含み、前記軽鎖は配列番号7、配列番号8及び配列番号9のアミノ酸配列で示される3つの相補性決定領域を含む。
【0066】
一実施形態では、前記重鎖は配列番号13で示される可変領域を含み、前記軽鎖は配列番号15で示される可変領域を含む。好ましくは、配列番号28で示される軽鎖、配列番号29、30で示される重鎖を含む。
【0067】
一実施形態では、本発明の標的化部分は少なくとも1つの重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号4、配列番号5及び配列番号6のアミノ酸配列で示される3つの相補性決定領域を含み、前記軽鎖は配列番号10、配列番号11及び配列番号12のアミノ酸配列で示される3つの相補性決定領域を含む。
【0068】
一実施形態では、前記重鎖は配列番号14で示される可変領域を含み、前記軽鎖は配列番号16で示される可変領域を含む。好ましくは、配列番号27で示される軽鎖、配列番号23、配列番号25で示される重鎖を含む。
【0069】
7.製造方法
一実施形態では、本発明は、本発明のFc変異体をコードする分離された核酸、前記核酸を含むベクター、並びに前記核酸及び/又はベクターを含む宿主細胞を提供する。一般的に、宿主細胞に導入するために、本明細書に開示されているFc変異体をコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに挿入し、前記宿主細胞は、所望の量の保護しようとするFc変異体、即ち、本発明のFc変異体を産生するために用いられてもよい。したがって、いくつかの態様では、本発明は、本明細書に開示されているポリヌクレオチドを含む発現ベクター、並びにそれらの発現ベクター及びポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。
【0070】
本発明は、また、G236A抗体の製造方法を提供する。方法は、上記のポリペプチド配列をコードする分離された核酸、核酸を含む発現ベクター、及び、核酸を含む宿主細胞を提供する。本発明のポリペプチドの生産方法も特徴的である。方法は、核酸によってコードされるポリペプチドの発現が可能な条件で、培地において宿主細胞を培養し、培養された細胞又は細胞の培地からポリペプチドを精製することを含む。
【0071】
様々な発現ベクター系が本発明の目的で利用可能である。例えば、1種のベクターは動物ウイルスに由来するDNA要素を利用し、前記動物ウイルスは、例えば、ウシパピローマウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス(RSV、MMTV若しくはMOMLV)又はSV40ウイルスである。またいくつかは、内部リボソーム結合部位を有するポリシストロン性系の使用に関わる。また、染色体にDNAが組み込まれた細胞は、トランスフェクトされた宿主細胞の選択を可能にする1種又は複数種のマーカーを導入することによって選択されてもよい。前記マーカーは栄養要求性宿主に原栄養性を持たせ、殺生物剤(例えば、抗生物質)耐性又は重金属(例えば、銅)に対する耐性を持たせることができる。選択マーカー遺伝子と発現しようとするDNA配列を直接接続させてもよいし、又は共形質転換によりそれを1つの細胞に導入してもよい。mRNAの最適な合成には他の要素が必要な場合もある。それらの要素として、シグナル配列、スプライシングシグナル、転写プロモーター、エンハンサー、終結シグナルが挙げられる。
【0072】
より一般的に、Fc変異体をコードするベクター又はDNA配列が作製されたら、発現ベクターを適切な宿主細胞に導入してよい。つまり、宿主細胞の形質転換が可能になる。宿主細胞へのプラスミドの導入は当業者に周知される様々な技術で行ってもよい。それらの技術は、トランスフェクション(電気泳動、電気穿孔を含む)、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム共沈殿、エンベロープのあるDNAある細胞との融合、マイクロインジェクション、完全なウイルスによる感染などであり、ただしそれらに限定されない。より好ましくは、電気穿孔によりプラスミドを宿主に導入する。形質転換を経た細胞をFc変異体の産生に適する条件で培養し、Fc変異体の発現を測定する。例示的な測定技術は、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)、表面プラズモン共鳴(SPR)又は蛍光活性化セルソーティング(FACS)、免疫組織化学などである。
【0073】
一実施形態では、本発明は、本発明のFc変異体の製造方法を提供し、前記方法は、野生型IgG1の野生型Fc断片を変異させて対応するFc変異体を得ることを含み、前記野生型Fc断片の配列は配列番号17又は18で示されるとおりである。
【0074】
一実施形態では、前記変異は、G237A、G237A/I332E、G237A/I332E/S239D、G237A/M252Y/S254T/T256E、G237A/M428L/N434S、G237A/M252Y/S254T/T256E/H433K/N434Fからなる群から選ばれる。
【0075】
一実施形態では、Fc変異体は、以下の手順により得る。
(i)本発明のFc変異体をコードする核酸を宿主細胞に導入する。
(ii)本発明のFc変異体の発現が可能な条件で培地において宿主細胞を培養する。
(iii)培養された細胞又は細胞の培地から本発明のFc変異体を精製する。
【0076】
一実施形態では、前記宿主細胞は、免疫原性を有するNGNA又はα-ガラクトースを産生しない。
【0077】
一実施形態では、本発明のFc変異体を発現させるための宿主細胞株は哺乳動物に由来し、当業者は所望の遺伝子産物の発現に最も適する特定の宿主細胞を決定できる。例示的な宿主細胞株は、DG44及びDUXB11(チャイニーズハムスター卵巣細胞株、DHFR)、SP2/0(マウス骨髄腫)、293(ヒト腎臓)などであり、ただしそれらに限定されない。一実施形態では、前記細胞株は、それによって発現されたFc変異体のグリコシル化を改変させており、例えば、アフコシル化である(例えば、PER.C6又はFUT8ノックアウトCHO細胞株)。一実施形態では、NS0細胞を使用してもよい。CHO細胞が特に好ましい。宿主細胞株は、一般的に、生物資源プロバイダーであるAmerican Tissue Culture Collectionから提供されてもよいし、又は開示している文献を通じて得てもよい。
【0078】
インビトロ生産ではスケールアップできるため大量の所望のFc変異体を得る。哺乳動物細胞培養技術は当分野で知られており、例えば、バイオリアクターでの均一な浮遊培養、又は、例えば、中空糸、マイクロカプセルの中で若しくはアガロースビーズ上での固定化若しくは捕捉式細胞培養が挙げられる。必要及び/又は所望により、通常の精製方法(例えば、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィーなど)によりFc変異体の溶液を精製してもよい。
【0079】
非哺乳動物細胞(例えば、酵母又は植物細胞)において本発明のFc変異体をコードする遺伝子を発現させてもよい。真核微生物のうち最もよく利用されるのはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、あるいはパン酵母(baker’s yeast)であり、他の様々な菌株も一般には利用可能である。
【0080】
細胞ベースの発現系のほかに、無細胞合成法又は化学合成方法でFc変異体を産生してもよい。いくつかの実施形態では、インビトロ化学合成でFc変異体を産生する。
【0081】
8.医薬組成物
本発明は、上記のポリペプチド又は核酸を含む医薬組成物を提供する。
【0082】
本発明は、また、(i)上記のポリペプチド若しくは核酸及び/又は上記の医薬組成物と、(ii)免疫グロブリン分解酵素とを含む、医薬製剤を提供する。前記免疫グロブリン分解酵素は、IdeS、IdeZ、IdeZ2、IdeE、IdeE2、IdeSORK、Xork及びそれらの変異体からなる群から選ばれる。
【0083】
前記医薬組成物は、非経口ボーラス投与(例えば、静脈内又は筋肉内)用に製剤化されてもよい。前記組成物として、例えば、油性又は水性担体における懸濁液、溶液又は乳剤の形態が用いられてもよく、しかも添加剤、例えば、懸濁剤、安定剤及び/又は分散剤が含まれる。又は、活性成分は、適切な担体(例えば、パイロジェンフリー水)と組み合わせるための粉末の形態であってもよい。
【0084】
本発明は、また、本明細書に開示されている変異体を含む免疫複合体を提供し、当該変異体が、1種又は複数種の治療剤、例えば、細胞毒性薬剤、化学療法剤、薬物、成長抑制剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物若しくは動物に由来し酵素活性を有する毒素若しくはその断片)又は放射性同位体に複合(化学的に結合)する。
【0085】
9.Fc変異体及び医薬組成物の使用
本発明は、本発明の分子及び/又は医薬組成物を用いて疾患を治療する方法を提供し、前記疾患は、がん又は自己免疫疾患であり、前記がんは、多発性骨髄腫である。
【0086】
本発明は、薬物の製造における本発明の分子及び/又は医薬組成物の用途を提供し、前記薬物は、疾患、特にがん又は自己免疫疾患を治療するために用いられる。前記薬物は、また、CD38陽性細胞に対するADCC、ADCP、アポトーシスによって媒介される枯渇を誘導するために用いられてもよい。
【0087】
本発明は、がん又は自己免疫疾患を持っている個体の治療方法を提供し、当該方法は、前記個体に有効量の本発明の分子及び/又は医薬組成物を投与することを含み、さらに、必要とする被験者に治療有効量の上記のポリペプチド又はポリペプチドをコードする核酸を投与することを含む。また、自己免疫疾患及び/又は腫瘍を治療する薬物の製造におけるポリペプチド又は核酸の用途を提供し、疾患は、CD38関連がん又は自己免疫疾患であることが好ましい。本発明の分離されたポリペプチド、核酸、発現ベクター、宿主細胞、医薬組成物又は実質的には本発明で示され記載されている自己免疫疾患及び/若しくは腫瘍を治療するための方法も特徴的であり、疾患は、CD38関連がん又は自己免疫疾患であることが好ましい。前記CD38関連がんは、固形腫瘍、B細胞リンパ腫又は多発性骨髄腫である。
【0088】
本発明は、個体においてCD38陽性細胞に対するADCC、ADCPによって媒介される枯渇を誘導する方法を提供し、当該方法は、前記個体に有効量の本発明の分子及び/又は医薬組成物を投与して、CD38陽性細胞に対するADCC、ADCP、アポトーシスによって媒介される枯渇を誘導することを含む。
【0089】
本発明のFc変異体は、以下の利点を有する。1)免疫グロブリン分解酵素による切断に対抗すること、2)免疫グロブリン分解酵素と同時に使用できること、3)免疫グロブリン分解酵素と同時に使用される場合、生物学的利用能が向上していること。
【0090】
当分野の常識に沿っている限り、上記の各好ましい条件を自由に組み合わせれば、本発明の好ましい例のそれぞれを得ることができる。
【0091】
本発明で使用される試薬及び原料は、いずれも市販品であってもよい。
【0092】
以下、実施例で本発明をさらに説明し、ただし本発明を実施例の範囲に限定するわけではない。以下の実施例で具体的な条件が明記されていない試験方法は、通常の方法及び条件で行うか、商品の説明書に従って選択する。
【0093】
実施例1:タンパク質の製造
配列の合成であった。表1でIdeS以外のアミノ酸配列をコードする塩基配列を合成し、哺乳動物細胞発現ベクターであるpcDNA3.1ベクターにおいて構築した。
【0094】
発現と精製であった。重鎖と軽鎖を1:2の比率で混合して一過性形質転換によりそれぞれExpiCHO-S細胞、フコース非修飾CHO細胞に導入した。トランスフェクション後6~8日目に液体を回収し、発現上清を9500rpmで20分間遠心分離して上清を収集した。Protein Aで精製し、エンドトキシンを1EU/mg未満に制限した。異なる番号の重鎖及びその変異体と軽鎖を共発現して野生型抗体、抗体1~6を得て、重鎖がそれぞれ配列番号20~26に対応し、使用する軽鎖配列が配列番号27であった。抗体7が配列番号28の軽鎖、配列番号29の重鎖に対応した。
【0095】
IdeS酵素の発現であった。コドン最適化を経てIdeS(配列番号31)をコードするポリヌクレオチド配列を合成し、N末端シグナルペプチド配列MRKRCYSTSAAVLAAVTLFVLSVDRGVIA(配列番号32)を加えた。配列合成後にpET32a発現ベクターに挿入し、正しい配列と確認した後、発現用の組換えプラスミドを得た。電気形質転換により変異体組換えプラスミドを大腸菌BL21 Star(DE3)に導入し、100μg/mLのアンピシリンを含むLBアガロースプレートに接種した。コロニーが出るまで37℃で一晩培養した。単一のコロニーをピッキングして、100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地200μLに接種し、37℃、250rpmで一晩培養した。100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地1mLに一晩の培養物を接種し、37℃で4時間培養した後、0.1mMのIPTGを加えて、30℃で引き続き一晩培養した。一晩の培養物を遠心分離して上清を収集した。SDS-PAGEを利用して変異体発現上清中の変異体タンパク質の濃度を評価した。
【0096】
イオン交換クロマトグラフィー、次に疎水性クロマトグラフィーを利用して上清を精製し、エンドトキシンを1EU/mg未満に制限し、最終的に純粋なタンパク質を得た。
【表1】
【0097】
実施例2:変異体の酵素切断への対抗に関する検出
SDS-PAGEにより異なる変異体のIdeSによって切断される効果を評価した。1:50の比率で、IdeSを2mg/mLの異なる変異体を含有している50μLの反応系に加えて切断反応を開始させ、37℃で30分間反応させた。サンプルと等量の非還元2×SDSローディング緩衝液を混合した後、75℃のウォーターバスで5分間保持して、SDS-PAGEで切断産物を検出した。
【0098】
切断の結果(図1)に示すように、抗体1~3、5、7がいずれも切断に対抗でき、抗体6が部分的に切断に対抗し、野生型は切断に対抗しなかった。
【0099】
実施例3:ADCC活性の検出
それぞれレポーター遺伝子、PBMCを用いて各変異体のADCC活性を検出した。レポーター遺伝子を用いる方法ではDaudi細胞を用い、密度を1×10細胞/mLに調整し、25μL/ウェルで96ウェルプレートにプレーティングした。1640培地で被験抗体を20μg/mLに希釈し、さらに6倍勾配で7回希釈して、8つの濃度勾配の薬物を得た。25μLの希釈済みの薬物を96ウェルプレートに加えた。1640培地をネガティブコントロール(NC)とした。96ウェルプレートを37℃の二酸化炭素インキュベーターに入れて45分間インキュベートした。レポーター遺伝子の入った細胞を加えて、二酸化炭素インキュベーターで6時間インキュベートした。インキュベーション終了後、各ウェルに75μLのホタルルシフェラーゼ基質溶液(Rhinogen(登録商標))を加え、マイクロプレートシェーカーにおいて振盪して均一に混合し、室温で5分間静置し、マイクロプレートリーダーで発光量(relative light unit、RLU)の値を読み取り、ソフトウェアGraphpadの4パラメータロジスティック回帰モデルを適用してデータを解析した。
【0100】
PBMCを用いる方法では、カルセインAM(Calcein-AM)(碧云天、カタログ番号C2012)を用いてDaudi細胞と20分間共インキュベートして、カルセインAM色素を標的細胞に導入し、カルセインの最終濃度は4μMであった。インキュベーション後の細胞を96ウェルプレートに接種し、2×10細胞/ウェルであった。1640培地で被験抗体を2000~0.02ng/mLの濃度範囲に希釈して、96ウェルプレートに加えた。各ウェルに5×10のPBMC細胞を加えて最終的にPBMC細胞とDaudi細胞の比率が25:1であった。1640培地をネガティブコントロール(NC)、トータルコントロールとした。加湿インキュベーターで37℃、4時間インキュベートした後、遠心分離して、上清を分けて励起波長490nm、発光波長515nmで、蛍光値を測定した。トータルコントロールは遠心分離せず、直接0.1%のTriton X-100で細胞を溶解し、遠心分離後に上清を分けて蛍光値を測定した。蛍光値から、標的細胞溶解率を算出した。
【0101】
結果(図2A)に示すように、野生型と比べて、抗体1が弱化しているADCC活性を有している。抗体2にはADCC活性がなく、抗体3、5は増強しているADCC活性を有している。EC50値を比較したところ、抗体1、3、5は野生型に対する活性の倍率がそれぞれ0.6、1.3、3.9であった。フコース(Fucose)非修飾抗体サンプル(図2B)については、EC50値を比較したところ、抗体3-Fucose、抗体5-Fucoseの野生型に対する活性の倍率がそれぞれ12.7、23.2で、コントロールよりはるかに高かった。PBMCを用いる方法では、野生型抗体、抗体3-Fucose、抗体7のEC50値がそれぞれ2.072ng/mL、0.6578ng/mL、2.095ng/mLで(図2C)、抗体3-Fucose、抗体7の野生型に対する活性の倍率がそれぞれ3.1、1.0であった。以下、抗体3-Fucoseを抗体8として記述した。
【0102】
実施例4:変異体の安定性の検出
変異体タンパク質に対して、Unchained Labs社のハイスループットタンパク質安定性分析システムUncleを用いて抗体の熱安定性を検出した。精製後の変異体サンプルを1.0mg/mLでローディングして検出した。Tm&Tagg with optional DLSプログラムを用いて、温度範囲を25~95℃に設定し、サンプルに1つの並行ウェルを設けた。結果パラメータTm(タンパク質の融解温度)、Tagg266(タンパク質の凝集温度)を分析することで、熱安定性を分析した。
【表2】
【0103】
結果(表2)に示すように、各抗体のTm値が50℃以上であった。抗体1、2、3はTm値が60℃以上で、安定性がより高い。G237A単独によるTm値の変化は無視できる。
【0104】
実施例5:ADCP活性の検出
抗体8、抗体7及びコントロールを10μg/mLから、5倍希釈して7つの濃度とした。Romas細胞をCFSEで標識した。単球(Monocyte)で刺激してマクロファージ(MΦ)を得て、8×10細胞/ウェルでプレーティングした(50μL)。マクロファージに50μLの希釈後のサンプルを加え、37℃で、5%のCOのインキュベーターで15分間インキュベートした。さらに1:5の比率で(マクロファージを含む細胞の量は8×10細胞/ウェル、Romas細胞の量は4×10細胞/ウェル)標識後のRomas細胞を加え、48ウェル細胞プレートにプレーティングし、37℃で、5%のCOインキュベーターで2.5時間インキュベートした。CD11b-APCで染色した後、フローサイトメトリー検出を行った。
【0105】
結果(図3)に示すように、抗体8、抗体7に強い食作用効果があった。当該変異は抗体のADCP活性にマイナス的な影響がないことを示した。
【0106】
実施例6:CDC活性の検出
0.5%のBSAを含む1640培地で抗体3を100μg/mLから5倍希釈し、9回で10の濃度を得た。希釈済みのサンプルを40μL/ウェルで30μLのDaudi細胞がプレーティングされた96ウェル細胞プレートに加え(5×10細胞/ウェル)、細胞プレートを4℃で1時間インキュベートした。健常者の血清を0.5%のBSAを含む1640培地で2倍希釈し、40μL/ウェルでサンプルウェルに加えて、37℃で2時間インキュベートした。残りの細胞生存率をCelltiter-Glo(商標)で検出した。
【0107】
結果(図4)に示すように、抗体8は野生型抗体と同じくCDC活性がなく、変異がCDC活性特性を変えなかった。一方抗体7にはCDC活性が保たれていて、野生型抗体に関する報告と一致した(Michael Karl Bauer,CD38:A Unique Target In Multiple Myeloma,2014)。
【0108】
実施例7:アポトーシス誘導能の検出
Daudi細胞を接種し、細胞密度を調整した後、750μL/ウェル(2×10細胞/ウェル)で24ウェルプレートにプレーティングした。1640培地に10%の血清(Sigma-Aldrich)、2mM L-グルタミンを添加して被験抗体を3~4μg/mLに希釈し、さらに10倍希釈し、5回で6つの濃度勾配のサンプルを得た。250μLの希釈済みのサンプルを24ウェルプレートに加え、1640培地をネガティブコントロール(NC)とした。24ウェルプレートを37℃で5%のCOインキュベーターに入れて20時間インキュベートし、終了後、1.5mL EPチューブに移して1000rpmで5分間遠心分離し、上清を捨て、200μLのPBSを加えて細胞を再懸濁した後、96ウェルV底ウェルプレートに移して、遠心分離して上清を除去した。Annexin V-FITCキットを使用して染色し、10~20分間インキュベートした後、フローサイトメータ検出を行い、GraphPad Prismでアポトーシス細胞の割合を分析した。
【0109】
結果(図5)に示すように、抗体8の細胞のアポトーシスを誘導する能力が野生型抗体に近かった。変異がアポトーシス誘導能に影響を与えなかった。一方抗体7にはアポトーシス誘導能が保たれている。
【0110】
実施例8:結合活性の検出
BLI法を用いて野生型抗体及び抗体3の標的CD38に対する、及び酸性条件下でヒトFcRnに対する親和性を検出した。結果(表3)に示すように、抗体8及び野生型抗体の2種のタンパク質に対する親和性と、CD38に対する親和性がいずれも3倍以内で、変異がFabの結合活性に影響を与えないことを示した。
【表3】
【0111】
実施例9:酵素活性阻害の検出
pH7.0の20mM Tris-HClでそれぞれ抗体8及び野生型抗体を40nMに希釈し、CD38タンパク質を10nMに希釈した。希釈後のCD38と抗体を1:1混合した後、抗体を加えていない希釈液をブランクコントロールとして、室温で遮光下15分間反応させた。反応終了後、100μLの最終濃度80μMのNGD(ニコチンアミドグアニンジヌクレオチド ナトリウム塩)を加えて室温で遮光下インキュベートし、60分間インキュベートした後、検出した。励起波長300nmと発光波長410nmでの蛍光シグナルを測定して酵素活性の阻害効果を判断した。RFU値が低いほど、阻害効果が高い。
【0112】
結果(図6)に示すように、抗体8のCD38酵素活性を阻害する能力が野生型抗体とほぼ一致しており、当該変異がCD38酵素の活性に対するFabの阻害機能に影響を与えないことを示した。抗体7には活性阻害がほぼなかった。
【0113】
実施例10:動物薬力学
Daudiマウスモデルを用いて本発明の変異体のインビボ活性を評価した。試験設計では7群を設け、図7に示すように上方から順に群1~群7であった。具体的には、対数増殖期の細胞を採取して、各huPBMC-NOG-Dkoマウスに無菌状態で右腋窩に5×10のDaudi細胞を皮下接種し、接種量がいずれも0.1mL/匹であった。細胞接種後10日間程度で、腫瘍体積が200mm程度になったとき、腫瘍体積によって56匹の動物をスクリーニングして1群8匹の動物でランダムに7群に分けた。群分けした当日に群3、群4、群6、群7の動物に単回腹腔内注射でIVIgを投与し(容量20mL/kg、用量1g/kg)、24時間後に群4、群7の動物に単回静脈注射でIdeSを投与した(容量10mL/kg、用量5mg/kg)。IdeS投与2時間後、静脈注射で抗体を投与した(容量10mL/kg、用量2mg/kg)。抗体初回投与の日を1日目とし、8日目及び15日目に群2~群7の動物に抗体を静脈注射し、溶媒コントロール群では静脈注射で対応する容量の生理食塩水を投与した。投与開始後、週2回、腫瘍体積を測定した。
【0114】
試験結果(図7)に示すように、抗体8単独投与と野生型抗体単独投与とで効果が同じであった。IgG(IVIg)の存在下、抗体の腫瘍治療効果が抑制された。抗体8と免疫グロブリン分解酵素の併用が抗体の治療効果に対するIgGの抑制を低下させて、治療用抗体の治療効果を顕著に増強させることができる。野生型抗体にこの効果はなかった。
【0115】
出願人は、本発明の上記の実施例で本発明の方法を詳しく説明しているが、本発明は上記の詳細な方法に限定されず、つまり、本発明は必ず上記の詳細な方法により実施されるわけではないと明言する。本発明のいかなる改良、本発明の製品の各原料の同等の置換及び副次的成分の添加、具体的な方式の選択などが、いずれも本発明の保護範囲及び開示の範囲に入るということは当業者に自明なはずである。
【表4】
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024546152000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-08-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fc変異体を含む分子であって、
前記分子はIgG野生型Fcを含む分子と比べて、免疫グロブリン分解酵素に対して耐性があり、且つ前記分子は変異を有するヒトIgG Fc領域を含み、前記変異は位置G237(EUナンバリング)での1つ又は複数の置換又は欠失であり、前記置換はG237Aであることが好ましく、
前記分子のIgGは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4からなる群から選ばれる、分子。
【請求項2】
前記Fc分子は、プロテアーゼによる分解に対して耐性があり、前記プロテアーゼは、残基236と237(EUナンバリング)の間でIgG野生型Fcを含む分子を切断できる、
前記分子は、野生型IgGと比べて、IdeS、IdeZ、IdeE、IdeZ2、IdeE2、IdeSORK、Xork及びそれらの変異体からなる群から選ばれる酵素による分解に対して耐性がある、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
前記分子のADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能がIgG野生型Fcを含む分子と比べて促進又は増強されている、または、
前記分子のADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて弱化及び/又は解消されている、または、
FcRnに対する前記分子の親和性が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて上昇している、請求項に記載の分子。
【請求項4】
ヒトIgG野生型Fc領域配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、S239D、I332E、G236A、S298A/E333A/K334A、S239D/I332E、S239D/A330L/I332E、G236A/S239D/I332E、G236A/A330L/I332E、G236A/S239D/A330L/I332E、F243L/R292P/Y300L、F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L、L235V/F243L/R292P/Y300L/P396L、P247I/A339Q、K326A/E333A、K326W/E333S、E333A/K334A、H268F/S324T/I332E、S239D/H268F/S324T/I332E、S267E/H268F/S324T/I332E、K326A/I332E/E333A、S239D/K326A/E333A、S267E/I332Eからなる群から選ばれ、ADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能がIgG野生型Fcを含む分子と比べて促進又は増強されている、または、
ヒトIgG1野生型Fc配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、N297A、N297Q、N297G、L235A、L235A/E318A、L234A/L235A、G236R/L328R、S298G/T299A、L234F/L235E/P331S、E233P/L234V/L235A/G236del/S267K、L234A/L235A/P329G、L234F/L235E/D265Aからなる群から選ばれ、好ましくは、前記置換は、N297A、N297Q、N297G、L234A/L235A、L235A、L234F/L235E/P331Sからなる群から選ばれる、ADCC、ADCP、CDCからなる群から選ばれるエフェクター機能が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて弱化及び/又は解消されている、または、
IgG1野生型Fcの配列における1つ又は複数の置換をさらに含み、前記置換は、YTEKF、YTEKF+V264A、YTEKF+V264Eからなる群から選ばれる、FcRnに対する前記分子の親和性が、IgG1野生型Fcを含む分子と比べて上昇している、請求項に記載の分子。
【請求項5】
前記置換は、S239D、I332E、S239D/I332Eからなる群から選ばれる、請求項4に記載の分子。
【請求項6】
前記置換がG237AおよびI332Eである、請求項1に記載の分子。
【請求項7】
N-グリカン修飾をさらに含み、前記N-グリカン修飾においてフコースの含有量が50%未満であり、または、N-グリカン修飾をさらに含み、前記N-グリカン修飾において末端ガラクトース修飾の含有量が30%より高く、請求項に記載の分子。
【請求項8】
前記分子が、抗体又はFc融合タンパク質である、
好ましくは、前記抗体が、ウイルス、細菌、腫瘍細胞、腫瘍間質、又は腫瘍血管系上の抗原に結合し、好ましくは、前記抗体が、COVID-19、CD38、CD20、FR5、BCMA、SLAM7、CD73、GPRCD5、CD3からなる群から選ばれる1つ又は2つの抗原に特異的に結合し、請求項に記載の分子。
【請求項9】
前記抗体が、少なくとも1つの重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を含み、前記重鎖は、配列番号1で示されるHCDR1、配列番号2で示されるHCDR2、配列番号3で示されるHCDR3、又は、配列番号4で示されるHCDR1、配列番号5で示されるHCDR2、配列番号6で示されるHCDR3を含み、前記軽鎖は、配列番号7で示されるLCDR1、配列番号8で示されるLCDR2、配列番号9で示されるLCDR3、又は、配列番号10で示されるLCDR1、配列番号11で示されるLCDR2、配列番号12で示されるLCDR3を含む、
好ましくは、前記抗体が、少なくとも1つの重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号13のアミノ酸配列で示される重鎖可変領域を含み、且つ、前記軽鎖は配列番号14のアミノ酸配列で示される軽鎖可変領域を含み、又は、前記重鎖は配列番号15のアミノ酸配列で示される重鎖可変領域を含み、且つ、前記軽鎖は配列番号16のアミノ酸配列で示される軽鎖可変領域を含む、請求項に記載の分子。
【請求項10】
前記抗体が、少なくとも1つの重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を含み、重鎖がSEQ ID NO: 21~26、およびSEQ ID NO: 29からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、請求項8に記載の分子。
【請求項11】
前記軽鎖がSEQ ID NO: 27~28からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、
好ましくは、抗体が、SEQ ID NO: 23のアミノ酸配列で示される重鎖、およびSEQ ID NO: 27のアミノ酸配列で示される軽鎖からなる;または、抗体が、SEQ ID NO: 29のアミノ酸配列で示される重鎖、およびSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列で示される軽鎖からなる、請求項10に記載の分子。
【請求項12】
(i)細胞又は細胞に結合した標的分子に結合できる結合ドメインと、(ii)ヒトIgG1重鎖のCH2及びCH3定常ドメインのアミノ酸配列を有するFcドメインとを含み、ただし、EUナンバリングシステムによって定義された残基G237に置換又は欠失が生じた、分離された結合ポリペプチド分子であって、前記結合分子は標的細胞上の標的分子に結合でき、且つ、前記分子は、測定可能なCDC活性、又は必要なフェクター細胞によって媒介される標的細胞傷害活性を生じ、好ましくは、G237での置換がG237Aであることを特徴とする、結合ポリペプチド分子。
【請求項13】
請求項に記載の分子細胞毒性薬剤とを含む、免疫複合体。
【請求項14】
請求項に記載の分子コードする、1種又は複数種の分離された核酸。
【請求項15】
請求項に記載の分子、請求項18に記載の結合ポリペプチド分子又は請求項19に記載の免疫複合体と、免疫グロブリン分解酵素とを含む医薬組成物であって、前記免疫グロブリン分解酵素は残基236と237(EUナンバリング)の間でIgG分子を切断でき、前記免疫グロブリン分解酵素は、IdeS、IdeZ、IdeE、IdeSORK、Xork及びそれらの酵素の変異体であることが好ましい、医薬組成物。
【国際調査報告】