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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241210BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20241210BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20241210BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 B
H01F1/147 175
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537315
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 KR2022020774
(87)【国際公開番号】W WO2023121201
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0184551
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン, デヒュン
(72)【発明者】
【氏名】イ, サンウ
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジュンス
【テーマコード(参考)】
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K033AA02
4K033BA01
4K033BA02
4K033CA01
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA04
4K033CA07
4K033CA08
4K033CA09
4K033CA10
4K033FA01
4K033FA13
4K033HA01
4K033HA03
4K033LA01
4K033MA00
4K033MA01
4K033MA02
4K033MA03
4K033NA00
4K033NA01
4K033NA02
4K033NA03
5E041AA02
5E041AA19
5E041BC01
5E041BD10
5E041CA01
5E041HB11
5E041NN01
5E041NN14
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、磁気的特性向上の限界を解決して、磁性を向上させた方向性電磁鋼板を提供することである。
【解決手段】本発明は、方向性電磁鋼板及びその製造方法に関し、本発明の方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.0005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.005wt%以下、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.031~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、下記式1を満足する。
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Sn]、[Cu]、及び[Sb]はそれぞれ、Sn、Cu、及びSbの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.0005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.005wt%以下、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.031~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなることを特徴とする下記式1を満足する方向性電磁鋼板。
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Cu]及び[Sb]はそれぞれ、Cu及びSbの重量%を意味して、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【請求項2】
下記式2を満足することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
<式2>
│√[Cu]-0.2│<0.3
(上記式2中、[Cu]はCuの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【請求項3】
透磁率が15000以上であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.0005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.02~0.08wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.031~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、
下記式1を満足するスラブを加熱する段階、
加熱された前記スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、
熱処理により得られた前記熱延鋼板を冷間圧延する段階、
冷間圧延により得られた冷延鋼板を1次再結晶させる段階、及び
1次再結晶段階を経た前記冷延鋼板を2次再結晶させる段階を含むことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Sn]、[Cu]及び[Sb]はそれぞれ、Sn、Cu及びSbの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【請求項5】
前記スラブを再加熱する段階は、1,250℃以下で行うことを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延鋼板を製造する段階の後、
前記熱延鋼板を熱処理する段階を含み、
前記熱延鋼板を熱処理する段階は、1,000~1,150℃で行うことを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延鋼板を冷間圧延した後、1次冷間圧延を経た冷延鋼板を中間焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記中間焼鈍する段階の後に、2次冷間圧延段階をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記1次再結晶させる段階は、冷間圧延により得られた冷延鋼板を脱炭焼鈍及び窒化処理を同時に行うことを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記2次再結晶させる段階は、前記1次再結晶が完了する脱炭焼鈍温度以上1,230℃以下の温度で行われることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電磁鋼板に関し、より詳しくは、方向性電磁鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、圧延方向に対して鋼片の集合組織が{110}<001>のゴス集合組織(Goss texture)を示していて、一方向あるいは圧延方向に磁気的特性に優れた軟磁性材料であり、このような集合組織を発現するためには、製鋼での成分制御、熱間圧延でのスラブ再加熱及び熱間圧延工程因子制御、熱延板焼鈍熱処理、冷間圧延、1次再結晶焼鈍、2次再結晶焼鈍などの複雑な工程が要求され、これらの工程も非常に精密で厳格に管理されなければならない。
工程において、ゴス集合組織を発現する因子の一つであるインヒビター(Inhibitor)、例えば、1次再結晶粒の無分別な成長を抑制し、インヒビターが適正温度区間で分解されたり抑制力を失うことによって発生する現象である2次再結晶の発生時、ゴス集合組織のみが成長できるようにする結晶粒成長抑制剤の制御も重要である。最終焼鈍でゴス集合組織が得られるために、2次再結晶が起こる直前まですべての1次再結晶粒の成長が抑制されなければならず、そのための十分な抑制力を得るためには、成長抑制剤の量が十分に多くなければならず、分布が均一でなければならない。また、2次再結晶が高温の最終焼鈍工程中に起こるために、インヒビターは、熱的安定性に優れて容易に分解されてはならない。
【0003】
方向性電磁鋼板の品質は、磁束密度と鉄損で評価され、ゴス集合組織の精度が高いほど磁気的特性に優れている。磁束密度に優れ、鉄損が少なくて品質に優れた方向性電磁鋼板は、高効率の電力機器の製造が可能で、電力機器の小型化及び高効率化を得ることができる。
このような品質に優れた方向性電磁鋼板を製造するために、素鋼中のSi含有量を増大させることによって低鉄損化を提供したが、冷間圧延性の限界に直面する問題があり、問題を克服するために、浸珪を活用したり適正温度範囲での加熱により温間圧延を実施する技術を試みている。
浸珪を活用する方法において、SiClガスを化学蒸着法で鋼板に浸珪処理したり粉末冶金法により鋼板に浸珪処理する方法は、技術実現において高価な設備投資及びケイ素の高い含有量による目標厚さの達成が難しい問題がある。適正温度範囲での加熱による温間圧延を実施する技術において、加熱炉のような付帯設備が必要で商業性がない問題がある。
【0004】
また、電磁鋼板の磁気的特性を向上させる方法として、析出物による結晶粒成長抑制力を活用する技術とは異なり、析出物と類似水準の抑制力効果が得られる合金元素を添加することによって、2次再結晶高温焼鈍実施後にゴス集合組織の分率を増加させる技術、1次再結晶焼鈍過程で1次再結晶集合組織中のゴス集合組織の分率を高めて、2次再結晶高温焼鈍後にゴス集合組織の2次再結晶微細組織分率を増加させる技術、1次再結晶微細組織の組織不均一化に起因して磁気的特性の向上に全く役に立たない集合組織が成長できないように1次再結晶された結晶粒の大きさを均一に分布させる技術を活用することができる。
【0005】
上述の技術のうち、鋼板に合金成分を添加する方法において、1回の冷間圧延によって結晶成長の抑制力弱化を補強するために、ホウ素(B)及びチタン(Ti)を添加することを提案したが、ホウ素の場合、微小量の添加によって製鋼段階で制御が容易でなく、ホウ素を添加した後、鋼中で粗大なBNが形成されやすく、チタンも固溶温度が1,300℃以上のTiN又はTiCを形成することによって、2次再結晶後も存在して鉄損が増加する問題がある。
結晶粒成長抑制剤としてセレン(Se)及びホウ素(B)を添加することを提案したが、添加されたホウ素の効果は、素鋼中の窒素(N)が適当量含まれてこそ効果があり、窒素が10ppm未満では効果がない問題がある。結晶粒成長抑制剤としてMnSe及びSbを添加する場合、結晶粒成長抑制力が高くて高い磁束密度を得ることができるが、素材自体が弱くなって1回の冷間圧延が不能になって、中間焼鈍を経由する場合、2回の冷間圧延を行って製造コストが高くなり、高価なSeを使用することによって製造コストが高くなる問題がある。
結晶粒成長抑制のための技術として、スズ(Sn)とクロム(Cr)を複合添加し、1,200℃以下の温度でスラブを加熱、熱間圧延、中間焼鈍、1回又は2回の冷間圧延、脱炭焼鈍後にアンモニアガスを用いて窒化処理する方法は、酸可溶性アルミニウム(Al)と素鋼の窒素含有量により熱延板焼鈍温度を厳格に制御することによって、熱延板焼鈍工程が複雑になるだけでなく、酸素親和力が強いクロム(Cr)によって脱炭窒化焼鈍工程で形成される酸化層が非常に緻密に形成されるため、脱炭が容易でなく、窒化が難しくて、粒界偏析元素であるスズによっても脱炭と窒化が容易でない問題がある。
結晶成長抑制剤として銅(Cu)を添加する場合、銅による析出物の大きさ制御機能としてモリブデン(Mo)を提供しているだけで、スズやマンガンの含有量によっても析出物が粗大化され、不均一になる問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術的課題は、磁気的特性向上の限界を解決して、磁性を向上させた方向性電磁鋼板を提供することである。
本発明が解決しようとする他の技術的課題は、前記利点を有する方向性電磁鋼板を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.0005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.005wt%以下、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.031~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、下記式1を満足することを特徴とする。
【0008】
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Sn]、[Cu]及び[Sb]はそれぞれ、Sn、Cu及びSbの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【0009】
本発明の方向性電磁鋼板は、下記式2を満足する。
【0010】
<式2>
│√[Cu]-0.2│<0.3
(上記式2中、[Cu]はCuの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【0011】
本発明の方向性電磁鋼板は、透磁率が15000以上である。
【0012】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.0005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.02~0.08wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.031~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを加熱する段階、加熱された前記スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、熱処理により得られた前記熱延鋼板を圧延する段階、冷間圧延により得られた冷延鋼板を1次再結晶させる段階、及び1次再結晶段階を経た前記冷延鋼板を2次再結晶させる段階を含むことことを特徴とする。
【0013】
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Sn]、[Cu]、及び[Sb]はそれぞれ、Sn、Cu、及びSbの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【0014】
前記スラブを再加熱する段階は、1,250℃以下で行う。前記熱延鋼板を製造する段階の後、前記熱延鋼板を熱処理する段階を含み、前記熱延鋼板を熱処理する段階は、1,000~1,150℃で行う。
【0015】
前記熱延鋼板を冷間圧延した後、1次冷間圧延を経た冷延鋼板を中間焼鈍する段階をさらに含む。前記中間焼鈍する段階の後に、2次冷間圧延段階をさらに含む。
【0016】
前記1次再結晶させる段階は、冷間圧延により得られた冷延鋼板を脱炭焼鈍及び窒化処理を同時に行う。前記2次再結晶させる段階は、前記1次再結晶が完了する脱炭焼鈍温度以上1,230℃以下の温度で行われる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方向性電磁鋼板は、アンチモン、スズ、及び銅の含有量を制御することによって、鉄損と磁束密度が同時に向上して磁気的特性に優れた方向性電磁鋼板を提供することができる。
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、前述の利点を有する方向性電磁鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1、第2及び第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層及び/又はセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層又はセクションを、他の部分、成分、領域、層又はセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層又はセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層又はセクションと言及される。
ここで使用される専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/又は成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/又は成分の存在や付加を除外させるわけではない。
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これは直に他の部分の上にあるか、その間に他の部分が介在してもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及した場合、その間に他の部分が介在しない。
他に定義しなかったが、ここに使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的又は非常に公式的な意味で解釈されない。
【0019】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0020】
本発明の一実施例において、追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0021】
以下、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0022】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.005wt%以下、Sn:0.03~0.08wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.03~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなる。
【0023】
下記では、合金成分の限定理由を説明する。以下、重量%を%で表現する。
Si:2.0~6.0%
【0024】
シリコン(Si)は、電磁鋼板の基本組成で、素材の比抵抗を増加させて鉄損(core loss)を低くする役割を果たす。シリコンの含有量は、2.0~6.0%であってもよい。具体的には、シリコンの含有量は、2.0~5.0%であってもよい。シリコンの含有量は、範囲を満足することによって、方向性電磁鋼板は、2次再結晶の形成が安定化し、磁気的特性に優れ、作業性に優れることができる。
【0025】
シリコンの含有量が過度に多い場合、脱炭窒化焼鈍時、SiO及びFeSiO酸化層が過剰かつ緻密に形成されて、脱炭挙動を遅延させてフェライトとオーステナイトとの間の相変態が脱炭窒化焼鈍処理中に持続的に発生し、1次再結晶集合組織が激しく損なわれる。また、相緻密に形成された酸化層の形成により脱炭挙動遅延効果で窒化挙動が遅延して(Al、Si、Mn)N及びAlNのような窒化物が十分に形成できず、高温焼鈍時、2次再結晶に必要な十分な結晶粒抑制力を確保できなくなる。シリコンの含有量がさらに過剰な場合、電磁鋼板の機械的特性である脆性が増加し、靭性が減少して圧延過程中の板破断発生率が増加し、板間溶接性に劣ることによって、容易な作業性を確保できない問題がある。
【0026】
シリコンの含有量が過度に少ない場合、比抵抗が減少して渦電流損が増加して鉄損特性が劣化し、脱炭窒化焼鈍時、フェライトとオーステナイトとの間の相変態が活発になって、1次再結晶集合組織が激しく損なわれる。また、高温焼鈍時、フェライトとオーステナイトとの間の相変態が発生することによって、2次再結晶が不安定になるだけでなく、{110}ゴス集合組織が激しく損なわれる問題がある。
【0027】
Al:0.005~0.04重量%
【0028】
アルミニウム(Al)は、熱間圧延と熱延鋼板焼鈍時、微細に析出したAlN以外にも、冷間圧延後の焼鈍工程でアンモニアガスによって導入される窒素イオンが鋼中に固溶状態で存在するAl、Si、Mnと結合して(Al、Si、Mn)N及びAlN形態の窒化物を形成することによって、強力な結晶粒成長抑制剤の役割を果たす。アルミニウムの含有量は、0.005~0.04重量%であってもよい。
【0029】
アルミニウムの含有量が過度に多い場合、粗大な窒化物を形成することによって、結晶粒成長抑制力に劣る問題がある。アルミニウムの含有量が過度に少ない場合、(Al、Si、Mn)N及びAlN形態の窒化物の結晶粒成長抑制剤の個数及び体積が非常に低くて、結晶粒成長抑制剤としての十分な効果を期待できない問題がある。
【0030】
Mn:0.01~0.2重量%
【0031】
マンガン(Mn)は、Siと同様に、比抵抗を増加させて渦電流損を減少させることによって、全体鉄損を減少させる効果もあり、素鋼状態でSと反応してMn系硫化物を作るだけでなく、Siと共に窒化処理により導入される窒素と反応して(Al、Si、Mn)Nの析出物を形成することによって、1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を起こすのに重要な元素である。また、マンガンは、硫黄(S)と反応して硫化物(MnS)を形成することができ、硫化物は、銅硫化物(CuS)の形成、大きさ、分散に寄与する効果を有する。マンガンの含有量は、0.01~0.2%であってもよい。
【0032】
マンガンの含有量が過度に多い場合、鋼板の表面にFeSiOのほか、(Fe、Mn)及びMn酸化物が多量形成されて、高温焼鈍中に形成されるベースコーティング形成を妨げて表面品質を低下させ、高温焼鈍工程でフェライトとオーステナイトとの間の相変態を誘発するため、集合組織が激しく損なわれて磁気的特性が大きく劣化する問題がある。また、マンガンの含有量が過度に多い場合、硫黄との関係から、銅硫化物が非常に微細かつ過剰に形成されてインヒビター効果が過度に強くなることによって、適切な時期にゴス(Goss)方位結晶粒の2次再結晶を妨げることによって磁気的特性が大きすぎて、安定した2次再結晶を起こすのに問題がある。
【0033】
マンガンの含有量が過度に少ない場合、(Al、Si、Mn)Nの析出物が形成される個数及び体積が低いため、結晶粒成長抑制剤としての十分な効果を期待できない問題がある。また、マンガンの含有量が過度に少ない場合、硫黄との関係から、銅硫化物が粗大かつ不均一に形成されて、銅硫化物によるインヒビター効果が小さすぎる問題がある。
【0034】
N:0.01%以下
【0035】
窒素(N)は、アルミニウムと反応して窒化アルミニウム(AlN)を形成する重要な元素である。窒素により(Al、Si、Mn)N、AlN、(Si、Mn)Nのような窒化物を形成するために追加的に必要な窒素は、冷間圧延後の焼鈍工程でアンモニアガスを活用して鋼中に窒化処理を実施して補強することができる。
【0036】
窒素の含有量は、0.01%以下であってもよい。窒素の含有量が過度に多い場合、熱延後の工程で窒素拡散によるブリスター(Blister)、例えば、表面欠陥をもたらし、スラブ状態で窒化物が過度に多く形成されるため、圧延が難しくて工程の複雑度が高くなり、製造単価が上昇する問題がある。
【0037】
C:0.02~0.08%
【0038】
炭素(C)は、フェライト及びオーステナイト間の相変態を起こして結晶粒を微細化させ、延伸率を向上させるのに寄与する元素であって、脆性が強くて圧延性が良くない電磁鋼板の圧延性向上のために必須の元素である。ただし、最終製造される方向性電磁鋼板に残存する場合、磁気的時効効果によって形成される炭化物を鋼板中に析出させて磁気的特性を悪化させる元素である。したがって、最終製造される方向性電磁鋼板では、Cを0.01重量%以下さらに含むことができる。さらに具体的には、Cを0.005重量%以下さらに含むことができる。
【0039】
スラブ中の炭素の含有量は、0.02~0.08%であってもよい。スラブ中に炭素の含有量が過度に多い場合、脱炭焼鈍工程で十分な脱炭効果が得られず、別途の工程や設備を必要とする問題があり、十分な脱炭効果が得られないため、相変態現象による2次再結晶集合組織が激しく損なわれ、最終製品を電力機器に適用時、磁気時効による磁気的特性の劣化現象をもたらす問題がある。
【0040】
スラブ鋼中に炭素の含有量が過度に少ない場合、オーステナイト間の相変態が十分に起こらないため、スラブ及び熱間圧延微細組織の不均一化をもたらし、これによって冷間圧延性を低下させる問題がある。
【0041】
S:0.010%以下
【0042】
硫黄(S)は、マンガン硫化物(MnS)又は銅硫化物(CuS)の析出物がスラブ中に形成されて結晶粒成長を抑制する役割を果たす。硫黄の含有量は、0.010%以下であってもよい。
【0043】
硫黄の含有量が過度に多い場合、硫黄は、鋳造時、スラブの中心部に偏析して、後の熱延工程でマンガン硫化物又は銅硫化物の析出物が均一に析出できないため、微細組織が不均一になる問題がある。また、硫黄の含有量が過度に多い場合、マンガン硫化物又は銅硫化物の形成が不安定に発生するため、後述したスズ(Sn)又はアンチモン(Sb)による硫化物の制御が容易でない問題がある。
【0044】
P:0.0005~0.045%
【0045】
リン(P)は、結晶粒界に偏析して結晶粒界の移動を妨げ、同時に、結晶粒成長を抑制する補助的な役割が可能であり、微細組織の面から{110}<001>集合組織を改善する効果がある。リンの含有量は、0.0005~0.045%であってもよい。
【0046】
リンの含有量が過度に多い場合、電磁鋼板の脆性が増加するため、圧延性に劣る問題がある。リンの含有量が過度に少ない場合、リンの添加による結晶粒界の移動を妨げ、同時に、結晶粒成長を抑制できる効果が発現しない問題がある。
【0047】
Cr:0.01~0.2%
【0048】
クロム(Cr)は、熱延鋼板焼鈍板内に硬質相の形成を促進することによって、冷間圧延時、ゴス(Goss)集合組織の{110}<001>の形成を促進し、脱炭焼鈍過程中に炭素(C)の脱炭を促進することによって、炭素の含有量が高い場合に発生しうる問題であるオーステナイト相変態の維持時間が長くなって集合組織が損なわれる現象の発生を防止できるように、オーステナイト相変態の維持時間を減少させる役割を果たす。また、クロム(Cr)は、脱炭焼鈍過程中に形成される表面の酸化層形成を促進させることによって、結晶粒成長補助抑制剤として使用される合金元素のうちスズ(Sn)及びアンチモン(Sb)による酸化層形成が阻害される問題を克服することができる。クロムの含有量は、0.01~0.2%であってもよい。
【0049】
クロムの含有量が過度に多い場合、脱炭焼鈍過程中に酸化層の形成時より緻密な酸化層が形成されるように助長することによって、酸化層形成に劣り、脱炭及び浸窒まで妨げる問題がある。また、クロムの含有量が過剰な場合、クロムは高価な合金元素であるため、非経済的な問題がある。クロムの含有量が過度に少ない場合、前述したオーステナイト相変態の維持時間を減少させる効果や、酸化層の形成が阻害される問題を解決する効果がわずかである問題がある。
【0050】
Cu:0.031~0.25%
【0051】
銅(Cu)は、熱延時に剪断変形を促進させてゴス(Goss)方位結晶粒の分率を増大させる効果があるだけでなく、硫化物を形成して結晶粒成長抑制力を向上させてGoss方位結晶粒の2次再結晶時の集積度を増大させる役割を果たす。硫化物の形成時、銅硫化物単独で析出する場合もあるが、素鋼中のマンガンが含まれている場合、マンガン硫化物の析出にも影響を与え、素鋼中のアルミニウムが含まれている場合、アルミニウム窒化物にも影響を与えることができる。
【0052】
銅は、銅硫化物が優先析出しながらマンガン硫化物やアルミニウム窒化物の基地として作用して、含有量によりマンガン硫化物又はアルミニウム窒化物の挙動に影響を与えるのである。銅の含有量は、0.031~0.25%であってもよい。
【0053】
これによって、銅は、適正含有量を含む場合、2次再結晶が安定化し、2次再結晶が生じたゴス(Goss)方位結晶粒の集積度が向上することによって、高温焼鈍後、製品板の透磁率が向上できる。銅は、適正含有量を含まない場合、析出物が粗大で不均一に析出することによって、結晶粒成長抑制力が不均一になってゴス方位結晶粒の2次再結晶が不安定になったり、2次再結晶が生じたゴス方位結晶粒の集積度に劣る問題がある。
【0054】
具体的には、銅の含有量が過度に多い場合、銅硫化物が過度に粗大になることによって、結晶粒成長抑制力に劣る問題がある。銅の含有量が過度に少ない場合、ゴス方位結晶粒の分率増大の目標とした効果が発現しない問題があり、マンガン硫化物やアルミニウム窒化物の析出物の析出に与える影響が低い問題がある。
【0055】
Mo:0.01~0.05%
【0056】
モリブデン(Mo)は、粒界偏析元素であると同時に、基地金属の鉄(Fe)より相対的に大きく、融点が2,600℃程度と非常に高くて、結晶粒成長抑制力が非常に強いため、高温焼鈍時、ゴス方位結晶粒の2次再結晶及びゴス方位結晶粒の集積度の向上に効果的な元素である。熱間圧延時、剪断変形を促進させて、熱延集合組織内のゴス(Goss)方位結晶粒の分率を増大させる効果がある。モリブデンの含有量は、0.01~0.05%であってもよい。
【0057】
モリブデンの含有量が過度に多い場合、脱炭焼鈍過程で表層部での偏析が過度に強くなって、適切な酸化層形成を妨げ、1次再結晶微細組織を過度に微細にする問題がある。モリブデンの含有量が過度に少ない場合、前述したモリブデンの添加による効果が発現しない問題がある。
【0058】
Sb:0.01~0.05重量%
【0059】
アンチモン(Sb)は、結晶粒界に偏析して結晶粒と銅硫化物とマンガン硫化物のような析出物の成長を抑制して微細に析出させる効果があり、2次再結晶を安定化させる効果がある。しかし、融点が低くて1次再結晶焼鈍中に極表層部への拡散及び濃化が容易で、脱炭、酸化層形成及び窒化による浸窒を妨げる効果がある。
【0060】
アンチモンの含有量は、0.01~0.05%であってもよい。具体的には、アンチモンの含有量は、0.011~0.049%であってもよい。含有量範囲で、銅硫化物とマンガン硫化物を微細化させて、ゴス方位結晶粒の2次再結晶を強化させる効果がある。また、含有量範囲で2次再結晶が安定化し、2次再結晶が生じたゴス方位結晶粒の集積度が向上することによって、高温焼鈍後、製品板の透磁率が向上することを確認できる。
【0061】
アンチモンの含有量が過度に多い場合、脱炭、酸化層形成、及び窒化による浸窒を妨げる問題が深刻化する問題がある。アンチモンの含有量が過度に少ない場合、硫化物の微細化効果が発現しない問題がある。
【0062】
Sn:0.03~0.08%
【0063】
スズ(Sn)は、結晶粒界偏析元素として結晶粒界の移動を妨げ、熱延鋼板集合組織でゴス方位結晶粒の分率を増加させる効果がある。また、スズは、前述したアンチモンと類似して、銅硫化物、マンガン硫化物、及びアルミニウム窒化物を微細化させる効果があり、具体的には、硫化物を均一に分散析出させる効果がある。さらに、アルミニウム窒化物の析出時、微細で均一に析出させる効果がある。
【0064】
スズの含有量は、0.03~0.08%であってもよい。スズは、含有量範囲を満足することによって、2次再結晶が安定化し、2次再結晶が生じたゴス方位結晶粒の集積度が向上することによって、高温焼鈍後、製品板の透磁率が向上する効果がある。
【0065】
スズの含有量が過度に多い場合、結晶粒成長抑制力が過度に強くなって、安定した2次再結晶が得られない問題がある。スズの含有量が過度に少ない場合、銅硫化物、マンガン硫化物、又はアルミニウム硫化物が粗大で不均一に析出する問題がある。
【0066】
残部として鉄(Fe)を含む。また、不可避不純物を含むことができる。不可避不純物は、製鋼及び方向性電磁鋼板の製造過程で不可避に混入する不純物を意味する。不可避不純物については広く知られているので、具体的な説明は省略する。本発明の一実施例において、前述した合金成分以外に元素の追加を排除するのではなく、本発明の技術思想を害しない範囲内で多様に含まれる。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。
【0067】
一実施例において、方向性電磁鋼板は、下記式1を満足できる。
【0068】
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Cu]、[Sn]及び[Sb]はそれぞれ、Cu、Sn及びSbの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【0069】
上記式1は、方向性電磁鋼板の元素のうち銅及びスズに対する関係式を示したものである。上記式1の範囲を満足することによって、硫化物を含む析出物を微細で均一に析出させることができるという利点があり、上記式1の範囲を満足しないことによって、硫化物を含む析出物が粗大で不均一に析出して集積度が高いゴス(Goss)方位結晶粒を安定的に確保できない問題がある。
【0070】
一実施例において、方向性電磁鋼板は、下記式2を満足できる。
<式2>
【0071】
│√[Cu]-0.2│≦0.3
(上記式2中、[Cu]はCuの重量%を意味し、√は平方根を意味し、llは絶対値を意味する)
【0072】
上記式2は、方向性電磁鋼板の元素のうち銅元素の含有量に対する関係式である。上記式2の範囲を満足することによって、2次再結晶が安定化し、2次再結晶が生じたゴス(Goss)方位結晶粒の集積度が向上することによって、高温焼鈍後、製品板の透磁率が向上するという利点がある。上記式2の範囲を満足しない場合、銅の含有量が多くなって、銅硫化物が過度に粗大になることによって、結晶粒成長抑制力に劣る問題がある。
【0073】
一実施例において、方向性電磁鋼板は、透磁率が15000以上であってもよい。
【0074】
本発明の他の実施例による方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階、冷延鋼板を1次再結晶焼鈍する段階、及び1次再結晶焼鈍した冷延鋼板を2次再結晶焼鈍する段階を含む。
【0075】
まず、スラブを加熱する。スラブの合金組成については、方向性電磁鋼板の合金組成に関連して説明したので、重複する説明は省略する。具体的には、スラブは、重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.03~0.25wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.03~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及び不可避不純物からなる。
【0076】
再び製造方法に関する説明に戻れば、スラブを加熱時、1250℃以下に加熱することができる。これによって固溶されるAlとN、MとSの化学当量的関係により、Al系窒化物やMn系硫化物の析出物が不完全溶体化あるいは完全溶体化できるようにする。
【0077】
次に、スラブの加熱が完了すれば、熱間圧延を行って熱延鋼板を製造する。熱延鋼板の厚さは、1.0~3.5mmになる。
【0078】
以後、熱延板焼鈍を実施できる。熱延鋼板焼鈍する段階において、均熱温度は、800~1300℃になる。熱延鋼板焼鈍を実施すれば、熱延鋼板の不均一な微細組織と析出物を均質化することができるが、これを省略することも可能である。
【0079】
次に、熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する。冷間圧延する段階は、1回の冷間圧延又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を実施できる。冷延鋼板の厚さは、0.1~0.5mmになる。
【0080】
次に、冷延鋼板を1次再結晶焼鈍する。この時、1次再結晶焼鈍する段階は、脱炭段階及び窒化段階を含むことができる。脱炭段階及び窒化段階は、順序に関係なく行うことができる。例えば、脱炭段階の後、浸窒段階を行ったり、浸窒段階の後、脱炭段階を行うことができる。一実施例において、冷間圧延により得られた冷延鋼板を脱炭焼鈍及び窒化処理を同時に実施して1次再結晶させる段階を含むことができる。具体的には、脱炭段階及び浸窒段階を同時に行うことができる。脱炭段階において、Cを0.01重量%以下に脱炭することができる。さらに具体的には、Cを0.005重量%以下に脱炭することができる。
【0081】
窒化段階は、鋼板内窒化のためのものであって、鋼板に窒素イオンを導入する段階であって、結晶成長抑制剤の(Al、Si、Mn)N又はAlNのような析出物を析出する段階である。窒化段階を経て、方向性電磁鋼板の窒素が0.01%以下となるように窒化することができる。
【0082】
1次再結晶焼鈍する段階において、焼鈍温度は、800~950℃の範囲内で熱処理することができる。焼鈍温度の範囲が上限値を外れる場合、再結晶粒が粗大に成長して結晶成長駆動力が低下することによって、安定した2次再結晶が形成できない問題がある。焼鈍温度の範囲が下限値を外れる場合、脱炭時、過度に時間がかかる問題がある。
【0083】
1次再結晶焼鈍する段階は、窒素、水素、及びこれらの混合ガス雰囲気で行われる。例えば、ガス雰囲気は、アンモニアガス雰囲気であってもよい。ガス雰囲気は、湿潤雰囲気又は乾燥雰囲気で行われる。
【0084】
1次再結晶焼鈍する段階の後、鋼板に焼鈍分離剤を塗布することができる。例えば、焼鈍分離剤として、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を使用することができる。
焼鈍分離剤については広く知られているので、詳しい説明は省略する。
【0085】
次に、1次再結晶焼鈍した冷延鋼板を2次再結晶焼鈍する。
2次再結晶焼鈍の目的は、大きくみると、2次再結晶による{110}<001>集合組織の形成、1次再結晶焼鈍時に形成された酸化層とMgOとの反応によるガラス質被膜の形成で絶縁性付与、磁気特性を阻害する不純物を除去することである。2次再結晶焼鈍の方法としては、2次再結晶が起こる前の昇温区間では、窒素と水素との混合ガスに維持して粒子成長抑制剤の窒化物を保護することによって、2次再結晶がよく発達できるようにし、2次再結晶が完了した後、均熱段階では、100%水素雰囲気で長時間維持して不純物を除去する。
【0086】
2次再結晶焼鈍する段階は、900~1,250℃の温度で2次再結晶が完了できる。具体的には、2次再結晶焼鈍する段階は、1,230℃以下の温度で2次再結晶が完了できる。
【0087】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、鉄損及び磁束密度特性が特に優れている。本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、磁束密度(B)が1.90T以上であり、鉄損(W17/50)が0.80W/kg以下であってもよい。磁束密度(B)は、800A/mの磁場下で誘導される磁束密度の大きさ(Tesla)であり、鉄損(W17/50)は、1.7Tesla及び50Hzの条件で誘導される鉄損の大きさ(W/kg)である。
【0088】
以下、本発明の具体的な実施例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の具体的な一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0089】
実施例1~11及び比較例1~6
【0090】
Si:3.4wt%、C:0.061wt%、S:0.004wt%、N:0.004wt%、Sol-Al:0.030wt%、Sb:0.030wt%、Sn0.045wt%、P:0.030wt%、Cr0.04wt%、Mo0.02wt%及びCuの含有量を下記表1のように変化させ、残部がFe及び不可避不純物からなる方向性電磁鋼板を真空溶解した後、インゴットを製造した後、1,150℃の温度で加熱した後、厚さ2.3mmに熱間圧延した。熱間圧延によって製造された熱延鋼板は、1,050℃の温度で加熱した後、水に急冷した。
【0091】
加熱された熱延鋼板の熱延鋼板焼鈍板は、酸洗した後、0.23mmの厚さに1回冷間圧延する。冷間圧延する段階を経た、冷延鋼板を860℃の温度で湿潤雰囲気の水素、窒素、及びアンモニアの混合ガス雰囲気で200秒間維持して、窒素の含有量が180ppmとなるように同時脱炭窒化焼鈍熱処理した。
【0092】
冷延鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布して最終焼鈍し、最終焼鈍は、1,200℃までは25%窒素+75%水素の混合雰囲気で行い、1,200℃到達後に、100%水素雰囲気で10時間以上維持した後、炉冷した。下記表1は、Cu含有量の変化による、実施例1~11及び比較例1~6の鉄損、磁束密度、及び透磁率のような磁気的特性、式1、及び式2の値を示す。
【0093】
上記式1及び上記式2は、次の通りである。
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Cu]及び[Sb]はそれぞれ、Cu及びSbの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【0094】
<式2>
│√[Cu]-0.2│<0.3
(上記式2中、[Cu]はCuの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【0095】
【表1】
【0096】
表1をみると、Cuの含有量が0.03~0.23wt%含まれている場合、鉄損と磁束密度が、比較例に比べて、顕著に優れており、透磁率が15,000以上で、透磁率でも顕著な差があることを確認できる。
【0097】
実施例12~23及び比較例7~14
【0098】
Si:3.42wt%、C:0.063wt%、S:0.005wt%、N:0.005wt%、Sol-Al:0.029wt%、Sn:0.045wt%、P:0.031wt%、Cr:0.039wt%、Mo:0.011wt%及びSbとCuの含有量を下記表2のように変化させ、残部がFe及び不可避不純物からなる方向性電磁鋼板を真空溶解した後、インゴットを製造した後、1,145℃の温度で加熱した後、厚さ2.2mmに熱間圧延した。熱間圧延によって製造された熱延鋼板は、1,060℃の温度で加熱した後、水に急冷した。
【0099】
加熱された熱延鋼板の熱延鋼板焼鈍板は、酸洗した後、0.23mmの厚さに1回冷間圧延する。冷間圧延する段階を経た、冷延鋼板を870℃の温度で湿潤雰囲気の水素、窒素、及びアンモニアの混合ガス雰囲気で200秒間維持して、窒素の含有量が190ppmとなるように同時脱炭窒化焼鈍熱処理した。
【0100】
冷延鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布して最終焼鈍し、最終焼鈍は1,200℃までは25%窒素+75%水素の混合雰囲気で行い、1,200℃到達後に、100%水素雰囲気で10時間以上維持した後、炉冷した。下記表2は、Sb及びCu含有量の変化による、実施例12~23及び比較例7~14の鉄損、磁束密度、及び透磁率のような磁気的特性、式1、及び式2の値を示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2をみると、Sbの含有量が本発明の範囲を満足する実施例は、比較例に比べて、磁束密度が顕著に優れており、透磁率が15,000以上で、顕著な差を示していることを確認できる。
【0103】
実施例24~35及び比較例15~26
【0104】
Si:3.45wt%、C:0.061wt%、S:0.005wt%、N:0.004wt%、Sol-Al:0.029wt%、Sb0.03wt%、P:0.033wt%、Cr:0.045wt%、Mo:0.02wt%及びSnとCuの含有量を下記表3のように変化させ、残部がFe及び不可避不純物からなる方向性電磁鋼板を真空溶解した後、インゴットを製造した後、1,150℃の温度で加熱した後、厚さ2.2mmに熱間圧延した。熱間圧延によって製造された熱延鋼板は、1,040℃の温度で加熱した後、水に急冷した。
【0105】
加熱された熱延鋼板の熱延鋼板焼鈍板は、酸洗した後、0.23mmの厚さに1回冷間圧延する。冷間圧延する段階を経た、冷延鋼板を865℃の温度で湿潤雰囲気の水素、窒素、及びアンモニアの混合ガス雰囲気で200秒間維持して、窒素の含有量が200ppmとなるように同時脱炭窒化焼鈍熱処理した。
【0106】
冷延鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布して最終焼鈍し、最終焼鈍は、1,200℃までは25%窒素+75%水素の混合雰囲気で行い、1,200℃到達後に、100%水素雰囲気で10時間以上維持した後、炉冷した。下記表2は、Sb及びCu含有量の変化による、実施例24~35及び比較例15~26の鉄損、磁束密度、及び透磁率のような磁気的特性、式1、及び式2の値を示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表3をみると、Snの含有量が本発明の範囲を満足する実施例は、比較例に比べて、磁束密度が顕著に優れており、透磁率が15,000以上で、顕著な差を示していることを確認できる。
【0109】
このように、方向性電磁鋼板の磁気的特性向上の限界を解決するために、磁性を改善できる合金元素から構成された成分系、具体的には、Cu、Sb、及びSnを含む合金元素の成分含有量を制御可能であることを確認できる。
【0110】
本発明は、上記の実施形態及び/又は実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に記述した実施形態及び/又は実施例はすべての面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.0005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.005wt%以下、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.031~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなることを特徴とする下記式1を満足する方向性電磁鋼板。
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Sn]、[Cu]及び[Sb]はそれぞれ、Sn、Cu及びSbの重量%を意味して、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【請求項2】
下記式2を満足することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
<式2>
│√[Cu]-0.2│<0.3
(上記式2中、[Cu]はCuの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【請求項3】
透磁率が15000以上であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.0005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.02~0.08wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.031~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、
下記式1を満足するスラブを加熱する段階、
加熱された前記スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、
熱処理により得られた前記熱延鋼板を冷間圧延する段階、
冷間圧延により得られた冷延鋼板を1次再結晶させる段階、及び
1次再結晶段階を経た前記冷延鋼板を2次再結晶させる段階を含むことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Sn]、[Cu]及び[Sb]はそれぞれ、Sn、Cu及びSbの重量%を意味し、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【請求項5】
前記スラブを加熱する段階は、1,250℃以下で行うことを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延鋼板を製造する段階の後、
前記熱延鋼板を熱処理する段階を含み、
前記熱延鋼板を熱処理する段階は、1,000~1,150℃で行うことを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延鋼板を冷間圧延した後、1次冷間圧延を経た冷延鋼板を中間焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記中間焼鈍する段階の後に、2次冷間圧延段階をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記1次再結晶させる段階は、冷間圧延により得られた冷延鋼板を脱炭焼鈍及び窒化処理を同時に行うことを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記2次再結晶させる段階は、前記1次再結晶が完了する脱炭焼鈍温度以上1,230℃以下の温度で行われることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.0005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.02~0.08wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.031~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを加熱する段階、加熱された前記スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、熱処理により得られた前記熱延鋼板を圧延する段階、冷間圧延により得られた冷延鋼板を1次再結晶させる段階、及び1次再結晶段階を経た前記冷延鋼板を2次再結晶させる段階を含むことことを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.005wt%以下、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.03~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0075
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0075】
まず、スラブを加熱する。スラブの合金組成については、方向性電磁鋼板の合金組成に関連して説明したので、重複する説明は省略する。具体的には、スラブは、重量%で、Si:2.0~6.0wt%、酸可溶性Al:0.005~0.04wt%、Mn:0.01~0.2wt%、N:0.01wt%以下、P:0.005~0.045wt%、S:0.010wt%以下、Sb:0.01~0.05wt%、C:0.03~0.25wt%、Sn:0.03~0.08wt%、Cr:0.01~0.2wt%、Cu:0.03~0.25wt%、Mo:0.01~0.05wt%含み、残部がFe及び不可避不純物からなる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0093
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0093】
上記式1及び上記式2は、次の通りである。
<式1>
0.03<[Sn]<│√[Cu]+[Sb]-0.3
(上記式1中、[Sn]、[Cu]及び[Sb]はそれぞれ、Sn、Cu及びSbの重量%を意味して、√は平方根を意味し、││は絶対値を意味する)
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0106
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0106】
冷延鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布して最終焼鈍し、最終焼鈍は、1,200℃までは25%窒素+75%水素の混合雰囲気で行い、1,200℃到達後に、100%水素雰囲気で10時間以上維持した後、炉冷した。下記表は、Sb及びCu含有量の変化による、実施例24~35及び比較例15~26の鉄損、磁束密度、及び透磁率のような磁気的特性、式1、及び式2の値を示す。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0107
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0107】
【表3】
【国際調査報告】