(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】無方向性電気鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241210BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20241210BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20241210BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241210BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 175
C22C38/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537361
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-07-29
(86)【国際出願番号】 KR2022020902
(87)【国際公開番号】W WO2023121267
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0184496
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン, ジェワン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ, ヒョン ドン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジュンス
【テーマコード(参考)】
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K033AA01
4K033CA00
4K033CA01
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA04
4K033CA05
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4K033FA14
4K033HA01
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4K033HA03
4K033HA04
4K033KA00
4K033KA03
5E041BD09
5E041CA04
5E041HB11
5E041NN01
5E041NN06
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、鋼成分を調整し、冷延板焼鈍の雰囲気条件を調整することにより、モーター製造時のラスト発生が抑制された無方向性電気鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の無方向性電気鋼板は、重量%で、Si:2.5~4.5%、Mn:0.04~1.4%、Al:0.2~1.1%、Bi:0.0005~0.003%、Zr:0.0005~0.003%、As:0.0005~0.004%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、鋼板の表面から内部方向にOを5%含む最内部までの長さが5μm以下であることを特徴とする。
【選択図】図なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.5~4.5%、Mn:0.04~1.4%、Al:0.2~1.1%、Bi:0.0005~0.003%、Zr:0.0005~0.003%、As:0.0005~0.004%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
鋼板の表面から内部方向にOを5%含む最内部までの長さが0.5μm以下であることを特徴とする無方向性電気鋼板。
【請求項2】
Sn:0.001~0.08重量%、Sb:0.001~0.08重量%、P:0.001~0.03重量%のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電気鋼板。
【請求項3】
Cr:0.010~0.150重量%、Cu:0.01~0.20重量%、S:0.004重量%以下、C:0.004重量%以下、N:0.004重量%以下、及びTi:0.004重量%以下のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電気鋼板。
【請求項4】
前記無方向性電気鋼板は、湿度50%以上、温度15℃以上の環境で48時間以内に露出された場合、ラストが発生しないことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電気鋼板。
【請求項5】
鉄損W15/50(W/kg)が下記式1で計算される値以下であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電気鋼板。
[式1]
2.9-2×(0.5-t)-0.58×([Si]-2.5)-0.45×([Al]-0.2)
(式1中、tは電気鋼板の厚さ(mm)を示し、[Si]及び[Al]はそれぞれ鋼板内Si及びAlの含有量(重量%)を示す。)
【請求項6】
前記無方向性電気鋼板は、磁歪劣化程度(λ
0-p,p-λ
0-p,e)/λ
0-p,e値が0.25以下であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電気鋼板。
(前記λ
0-p,eは放電加工による磁歪であり、前記λ
0-p,pはパンチング加工による磁歪である)
【請求項7】
重量%で、Si:2.5~4.5%、Mn:0.04~1.4%、Al:0.2~1.1%、Bi:0.0005~0.003%、Zr:0.0005~0.003%、As:0.0005~0.004%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造するステップ、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造するステップ、及び
前記冷延板を焼鈍する冷延板焼鈍ステップ、を含み、
前記冷延板焼鈍ステップにおいて、焼鈍温度600℃以上の温度で酸素分圧は10mmHg以下であり、露点が10℃以下の雰囲気で行うことを特徴とする無方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記熱延板を製造するステップの後、熱延板を焼鈍する1次熱延板焼鈍ステップ及び2次熱延板焼鈍ステップをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の無方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記1次熱延板焼鈍ステップは、980~1150℃で60~150秒維持するステップであり、
前記2次熱延板焼鈍ステップは、900~950℃で60~90秒維持するステップであることを特徴とする請求項8に記載の無方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷延板焼鈍ステップは、亀裂温度が800~1070℃であることを特徴とする請求項7に記載の無方向性電気鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電気鋼板及びその製造方法に係り、より詳細には、本発明例は、鋼成分を調整し、冷延板焼鈍の雰囲気条件を調整することで、モーター製造時のラスト発生が抑制された無方向性電気鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鋼板は、変圧機、モーター、電気機器用素材に使用される製品であり、機械的特性など加工性を重要視する一般炭素鋼とは異なり、電気的特性を重要視する機能性製品である。要求される電気的特性としては、鉄損が低いこと、磁束密度、透磁率及占積率が高いことなどがある。
電気鋼板は、再び方向性電気鋼板と無方向性電気鋼板に分けられる。方向性電気鋼板は、2次再結晶と呼ばれる非正常結晶粒成長現象を利用して、Goss集合組織({110}<001>集合組織)を鋼板全体に形成させ、圧延方向の磁気特性に優れた電気鋼板である。無方向性電気鋼板は、圧延板上のすべての方向に磁気的特性が均一な電気鋼板である。
二重無方向性電気鋼板は、すべての方向に均一な磁気的特性を持っており、一般的にモーターコア、発電機の鉄芯、電動機、小型変圧機の材料として使用される。無方向性電気鋼板の代表的な磁気的特性は、鉄損と磁束密度で、無方向性電気鋼板の鉄損が低いほど、鉄芯が磁化される過程で失される鉄損が減少し、効率が向上し、磁束密度が高いほど、同じエネルギーでより大きい磁気鋼を誘導することができ、同じ磁束密度を得るためには少ない電流を印加することができるので、銅損を減少させてエネルギー効率を向上させることができる。しかし、通常の冶金学的技術に基づいた無方向性電気鋼板の特性向上は限界に達しており、加工後、応力除去焼鈍を行わない無方向性電気鋼板の鉄損の劣化程度は、厳しい鉄損を要求するエネルギー効率関連規制と電気エネルギー生産、伝達、変換及び利用関連産業の要求条件を満足させることができない。それに伴い、追加の磁性特性向上のための技術の必要性が増大している。
【0003】
一方、モーターの製造において、無方向性電気鋼板は、様々な方式で加工される。最も多く使用される方法の一つは、無方向性電気鋼板をパンチングやブランキングなどの方式を単独あるいは組み合わせて、所望の形状及びサイズに加工した後、積層する方法である。この時、原素材である無方向性電気鋼板の表面で酸化が発生したり、あるいは加工されたせん断/破断面で酸化が発生したりして、ラストが発生する場合、これによりショーテージと呼ばれるモーター製造工程上の不良が発生する可能性がある。
鉄損が低く、磁束密度が高い最高級無方向性電気鋼板の場合、その成分含有量においてSiの含有量が高く、母材に起因するラスト発生確率が高い。最近、エネルギー効率規制の強化に伴い、より高い効率を有するモーター製造において、ラストの発生が抑制された無方向性電気鋼板の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、無方向性電気鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明の目的は、鋼成分を調整し、冷延板焼鈍の雰囲気条件を調整することにより、モーター製造時のラスト発生が抑制された無方向性電気鋼板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の無方向性電気鋼板は、重量%で、Si:2.5~4.5%、Mn:0.04~1.4%、Al:0.2~1.1%、Bi:0.0005~0.003%、Zr:0.0005~0.003%、As:0.0005~0.004%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、鋼板の表面から内部方向にOを5%含む最内部までの長さが0.5μm以下であることを特徴とする。
【0006】
本発明の無方向性電気鋼板は、Sn:0.001~0.08重量%、Sb:0.001~0.08重量%、P:0.001~0.03重量%のうち1種以上をさらに含む。
【0007】
本発明の無方向性電気鋼板は、Cr:0.010~0.150重量%、Cu:0.01~0.20重量%、S:0.004重量%以下、C:0.004重量%以下、N:0.004重量%以下、及びTi:0.004重量%以下のうち1種以上をさらに含む。
【0008】
本発明の無方向性電気鋼板は、湿度50%以上、温度15℃以上の環境で48時間以内に露出される場合、ラストが発生しない場合がある。
【0009】
本発明の無方向性電気鋼板は、鉄損W15/50(W/kg)が下記式1で計算される値の以下である。
【0010】
[式1]
2.9-2×(0.5-t)-0.58×([Si]-2.5)-0.45×([Al]-0.2)
(式1中、tは電気鋼板の厚さ(mm)を示し、[Si]及び[Al]はそれぞれ鋼板内Si及びAlの含有量(重量%)を示す。)
【0011】
本発明の無方向性電気鋼板は、磁歪劣化程度(λ0-p,p-λ0-p,e)/λ0-p,e値が0.25以下である。
(前記λ0-p,eは放電加工による磁歪であり、前記λ0-p,pはパンチング加工による磁歪である)
【0012】
本発明の無方向性電気鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~4.5%、Mn:0.04~1.4%、Al:0.2~1.1%、Bi:0.0005~0.003%、Zr:0.0005~0.003%、As:0.0005~0.004%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造するステップ、熱延板を2回~4回酸洗する酸洗ステップ、酸洗された熱延板を冷間圧延して冷延板を製造するステップ、及び冷延板を焼鈍する冷延板焼鈍ステップを含むことを特徴とする。
【0013】
冷延板焼鈍ステップで、焼鈍温度600℃以上の温度で、酸素分圧は10mmHg以下であり、露点が10℃以下である雰囲気で行う。
【0014】
熱延板を製造するステップの後、熱延板を焼鈍する1次熱延板焼鈍ステップ及び2次熱延板焼鈍ステップをさらに含む。
【0015】
1次熱延板焼鈍ステップは、980~1150℃で60~150秒維持するステップであり、2次熱延板焼鈍ステップは、900~950℃で60~90秒維持するステップである。
【0016】
冷延板焼鈍ステップは、亀裂温度が800~1070℃である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の無方向性電気鋼板は、モーター製造時のラスト発生が抑制され、同時に鋼板の磁性が優れており、最終的に無方向性電気鋼板が使用されたモーター効率を向上させることができる。
【0018】
本発明の無方向性電気鋼板は、パンチング及びせん断加工後に、残った残留応力が磁歪に及ぼす影響が小さい無方向性電気鋼板を提供することができる。
【0019】
また、本発明によれば、鉄損に優れた無方向性電気鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1、第2及び第3などの用語は、様々な部分、成分、領域、層及び/又はセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層又はセクションを他の部分、成分、領域、層又はセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で説明する第1部分、成分、領域、層又はセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、第2部分、成分、領域、層又はセクションとして言及することができる。
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される単数形は、文言が明確に反対の意味を示さない限り、複数形も含む。本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素及び/又は成分を具体化するものであり、他の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素及び/又は成分の存在又は付加を排除するものではない。
ある部分が他の部分「上」又は「の上」にあると記載されている場合、それはまさに他の部分上又は他の部分の上にある可能性があり、又はその間に他の部分を伴う可能性がある。対照的に、ある部分が他の部分の「直上」にあると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
特に定義されていないが、ここで使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書で定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に合致する意味を持つものと追加的に解釈され、定義されない限り、理想的又は非常に正式な意味に解釈されない。
【0021】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0022】
本発明の一実施形態において、追加元素をさらに含むという意味は、追加元素の追加量だけ残部である鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0023】
以下、本発明の実施例について、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実施することができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0024】
本発明の一実施例による無方向性電気鋼板は、重量%で、Si:2.5~4.5%、Mn:0.04~1.4%、Al:0.2~1.1%、Bi:0.0005~0.003%、Zr:0.0005~0.003%、As:0.0005~0.004%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
【0025】
まず、無方向性電気鋼板の成分限定の理由から説明する。
【0026】
Si:2.5~4.5重量%
ケイ素(Si)は、鋼の非抵抗を増加させ、鉄損中の渦流損失を下げるために添加される主要元素である。Siが添加量が少なすぎると、鉄損が劣化する問題が発生する。したがって、Siの含有量を増やすことが鉄損側面からは有利だが、Siが添加量が多すぎると、材料の脆性が増加し、巻取り及び冷間圧延中に板破断が発生し、圧延生産性が急激に低下する可能性がある。したがって、前述の範囲でSiを含むことができる。より具体的に、Siを2.5~3.7重量%含むことができる。
【0027】
Mn:0.04~1.40重量%
マンガン(Mn)は、材料の非抵抗を高め、鉄損を改善し、硫化物を形成させる役割を果たす。Mnの添加量が少なすぎると、硫化物が微細に析出し、磁性を低下させる可能性がある。逆に、Mnが多すぎると、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長し、磁束密度が低下する可能性がある。したがって、前述の範囲でMnを含むことができる。より具体的に、Mnを0.30~1.00重量%含むことができる。
【0028】
Al:0.2~1.1重量%
アルミニウム(Al)は、Siと共に非抵抗を増加させ、鉄損を減少させる重要な役割を果たし、また、圧延性を改善して、冷間圧延時の作業性を良くする。Alの添加量が少なすぎると、高周波鉄損低減に効果がなく、AlNの析出温度が低くなり、硝酸塩が微細に形成されて磁性を低下させる可能性がある。逆に、Alが多すぎると、硝酸塩が過多に形成され、磁性を劣化させ、製鋼と連続鋳造などのすべての工程上に問題を発生させ、生産性を大きく低下させる可能性がある。したがって、前述の範囲でAlを含むことができる。より具体的に、0.5~0.8重量%含むことができる。
【0029】
Bi:0.0005~0.0030重量%
ビスマス(Bi)は、偏析元素として結晶粒界に偏析することにより、結晶粒界強度を低下させ、電位が結晶粒界に固着される形状を抑制する。これにより、せん断(Shearing)及びパンチング(Punching)加工時に加工応力の増加を抑制し、加工応力によって磁性が劣位になる加工応力深さを低減させる効果があるが、その添加量が多すぎると、結晶粒成長を抑制して磁性を低下させる可能性がある。したがって、前述の範囲でBiを添加することができる。より具体的に、Biを0.0010~0.0025重量%含むことができる。
【0030】
Zr:0.0005~0.0030重量%及びAs:0.0005~0.0040重量%
ジルコニウム(Zr)又はヒ素(As)は、析出物の形成に寄与し、微細析出物の形成を抑制し、加工による残留応力を引き起こす微細析出物の密度を下げる役割を果たすことができるので、Zrの含有量は、0.0005~0.0030重量%、Asの含有量は、0.0005~0.0040重量%であることができる。より具体的に、Zrの含有量は0.0010~0.0025重量%、Asの含有量は0.0010~0.0030重量%であることができる。
【0031】
本発明の一実施例による無方向性電気鋼板は、Sn:0.001~0.08重量%、Sb:0.001~0.08重量%、P:0.001~0.03重量%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0032】
Sn:0.001~0.080重量%
錫(Sn)は、結晶粒界及び表面に偏析して材料の集合組織を改善し、表面酸化を抑制する役割を果たすので、磁性を向上させるために添加することができる。Snの添加量が少なすぎると、その効果が微々である。Snの添加量が多すぎると、結晶粒界偏析が激しくなり、表面品質が劣化し、硬度が上昇して冷延板破断を引き起こし、圧延性が低下する可能性がある。したがって、前述の範囲でSnを添加することができる。より具体的に、Snを0.005~0.050重量%さらに含むことができる。
【0033】
Sb:0.001~0.080重量%
アンチモン(Sb)は、結晶粒界及び表面に偏析して材料の集合組織を改善し、表面酸化を抑制する役割を果たすので、磁性を向上させるために添加することができる。Sbの添加量が少なすぎると、その効果が微々である。Sbの添加量が多すぎると、結晶粒界偏析が激しくなり、表面品質が劣化し、硬度が上昇して冷延板破断を引き起こし、圧延性が低下する可能性がある。したがって、前述の範囲でSbを添加することができる。より具体的に、Sbを0.005~0.050重量%さらに含むことができる。
【0034】
P:0.001~0.030重量%
リン(P)は、材料の非抵抗を高める役割を果たすだけでなく、粒界に偏析して集合組織を改善し、非抵抗を増加させ、鉄損を下げる役割を果たす。Pの添加量が少なすぎると、偏析量が少なすぎて、集合組織改善効果がない場合がある。Pの添加量が多すぎると、磁性に不利な集合組織の形成をもたらし、集合組織改善の効果がなく、粒界に過度に偏析して圧延性及び加工性が低下し、生産が困難になる可能性がある。したがって、前述の範囲でPを添加することができる。より具体的に、Pを0.005~0.015重量%含むことができる。
【0035】
本発明の一実施例による無方向性電気鋼板は、Cr:0.010~0.150重量%、Cu:0.01~0.20重量%、S:0.004重量%以下、C:0.004重量%以下、N:0.004重量%以下、及びTi:0.004重量%以下のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0036】
Cr:0.010~0.150重量%
クロム(Cr)は、焼鈍条件を適切に調整すると、表面に偏析する。前述の範囲でCrを含むことで偏析が適切に行われる。範囲より少ないと表面偏析効果がなく、多すぎると材料の脆性が強化され、問題が発生する可能性がある。より具体的に、Cr:0.010~0.100重量%さらに含むことができる。
【0037】
Cu:0.01~0.20重量%
銅(Cu)は、Mnと一緒に硫化物を形成する役割を果たす。Cuがさらに添加される場合、添加量が少なすぎると、CuMnSが微細に析出し、磁性を劣化させる可能性がある。Cuが多すぎると、高温脆性が発生し、連続鋳造や熱延時にクラックを形成する可能性がある。より具体的に、Cuを0.01~0.10重量%さらに含むことができる。
【0038】
S:0.004重量%以下
硫黄(S)は、母材内部に微細な硫化物を形成して結晶粒成長を抑制し、鉄損を弱化させるので、低いほど好ましく、含有量が0.004重量%超える場合、Mnなどと結合して結晶粒成長を抑制したり、加工後の磁性の劣化程度を大きくしたりすることができる。より具体的に、Sを0.0001~0.0030重量%さらに含むことができる。
【0039】
C:0.004重量%以下
炭素(C)は、焼鈍時にフェライト結晶粒成長を抑制し、加工時の磁性の劣化程度が大きくなり、Tiなどと結合して磁性を劣位させることができるので、0.004重量%以下とすることができる。より具体的に、Cを0.0001~0.0030重量%含むことができる。
【0040】
N:0.004重量%以下、
窒素(N)は、Al、Tiなどと結合して母材内部に微細で長い析出物を形成するだけでなく、その他の不純物と結合して微細な硝酸塩を形成し、結晶粒成長を抑制するなど、鉄損を悪化させるため、0.004重量%以下でさらに含むことができる。より具体的に、Nを0.0001~0.003重量%さらに含むことができる。
【0041】
Ti:0.004重量%以下
チタン(Ti)は、鋼内析出物形成傾向が非常に強い元素であり、母材内部に微細な炭化物又は硝酸塩を形成して結晶粒成長を抑制するため、多く添加するほど炭化物と硝酸塩が多く形成され、鉄損を悪化させるなど磁性を劣位させるため、0.004%以下でさらに含むことができる。より具体的に、Tiを0.0001~0.0030重量%さらに含むことができる。
【0042】
本発明の一実施例による無方向性電気鋼板は、Mo:0.03重量%以下、B:0.0050重量%以下、Ca:0.0050重量%以下、及びMg:0.0050重量%以下のうち1種以上をさらに含むことができる。
これらは、不可避的に含まれるC、S、Nなどと反応して微細な炭化物、硝酸塩又は硫化物を形成し、磁性に悪影響を及ぼす可能性があるため、前述のように上限を限定することができる。
【0043】
残部はFe及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物については、製鋼ステップ及び無方向性電気鋼板の製造工程過程で混入される不純物であり、これは当該分野で広く知られているので、具体的な説明は省略する。本発明の一実施例で前述した合金成分以外に元素の追加を排除するのではなく、本発明の技術思想を損なわない範囲内で様々に含めることができる。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。
【0044】
本発明の一実施例による無方向性電気鋼板は、鋼板の表面から内部方向にOを5%含む最内部までの長さが0.5μm以下であることができる。鋼板の表面は、絶縁皮膜が存在しない場合、鋼板の最外面を意味し、鋼板基材表面に絶縁皮膜が存在する場合、鋼板基材と絶縁皮膜の境界面を意味する。Oを5%含む最内部までの長さの測定方法は、特に限定されず、グロー放電分光法(GDS)を使用することができる。長さは鋼板の測定位置に応じて異なる場合があり、測定誤差を減らすために5つ以上の位置で測定し、その平均値を長さとすることができる。より具体的に、鋼板の表面から内部方向にOを5%含む最内部までの長さが0.05~0.5μmであることができる。
【0045】
鋼板の表面にOが多量に浸透した場合、Oを介して追加の酸素が浸透し、モーター製造時にラストが発生するようになる。一方、本発明の一実施例では、モーター製造時にラストが発生しない。即ち、湿度50%以上、温度15℃以上の環境で48時間以内に露出する場合、ラストが発生しない。ラストは、主構成がFe系酸化物で、赤色であるという点で、銀灰色光を帯びた一般鋼板と区分され、本発明の一実施例で305mm×30mm以上の面積を有する鋼板を前述の環境に露出し、1000μm大きさ以上のラストが存在することを確認することで判定可能である。
【0046】
本発明の一実施例による無方向性電気鋼板は、鉄損W15/50(W/kg)が下記式1で計算される値の以下であることができる。
【0047】
[式1]
2.9-2×(0.5-t)-0.58×([Si]-2.5)-0.45×([Al]-0.2)
(式1中、tは電気鋼板の厚さ(mm)を示し、[Si]及び[Al]はそれぞれ鋼板内Si及びAlの含有量(重量%)を示す。)
【0048】
鉄損は、鋼板の厚さが小さいほど、Si及びAl含有量が多いほど小さいことが一般に知られている。本発明の一実施例では、鋼板の厚さ、Si、Al含有量を反映しても、その反映値に比べ、鉄損がさらに低くなる。これは、鋼組成の調整とともに、冷延板焼鈍時に低い酸素分圧及び低い露点で焼鈍することにより、得ることができる。鉄損(W15/50)は50HZの周波数に1.5Tの磁束密度を誘起した時の鉄損である。より具体的に、圧延方向及び圧延垂直方向に測定した鉄損の平均値でありうる。
【0049】
無方向性電気鋼板は、磁歪劣化程度(λ0-p,p-λ0-p、e)/λ0-p,e値が0.25以下であることができる。
(前記λ0-p,eは、放電加工による磁歪であり、前記λ0-p,pは、パンチング加工による磁歪である)
【0050】
具体的に、磁歪劣化程度値は、0.01~0.23、より具体的に0.05~0.17でありうる。
【0051】
前記λ0-p,pの値は7.0×10-6以下であってもよい。具体的に、3.0×10-6~6.65×10-6、より具体的に3.26×10-6~5.37×10-6であってもよい。
【0052】
本発明の一実施例による無方向性電気鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~4.5%、Mn:0.04~1.4%、Al:0.2~1.1%、Bi:0.0005~0.003%、Zr:0.0005~0.003%、As:0.0005~0.004%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造するステップ、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造するステップ、及び冷延板を焼鈍する冷延板焼鈍ステップ、を含む。
【0053】
まず、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。スラブ内の各組成の添加比率を限定した理由は、前述の無方向性電気鋼板の組成限定理由と同じであるため、繰り返しの説明を省略する。後述する熱間圧延、冷間圧延、冷延板焼鈍などの製造過程において、スラブの組成は実質的に変動しないため、スラブの組成と無方向性電気鋼板の組成が実質的に同一である。
【0054】
熱延板を製造するステップの前に、スラブを1100~1250℃の温度範囲で0.1~3時間加熱するスラブ加熱ステップをさらに含むことができる。スラブ加熱温度が高すぎると、スラブ内に存在するAlN、MnSなどの析出物が再固溶された後、熱間圧延及び焼鈍時に微細析出され、結晶粒成長を抑制し、磁性を低下させる可能性がある。具体的に、1150~1200℃の温度範囲で0.5~3時間加熱するステップをさらに含むことができる。
【0055】
熱延板を製造するステップで、熱延板の厚さは1.6~3.0mmであることができる。具体的に、熱延板の厚さは1.8mm~2.5mmであることができる。
【0056】
本発明の一実施例で、熱延板を製造するステップの後、熱延板を焼鈍する1次熱延板焼鈍ステップ及び2次熱延板焼鈍ステップをさらに含むことができる。
【0057】
1次熱延板焼鈍ステップと2次熱延板焼鈍ステップを含む連続焼鈍ステップであってもよい。1次熱延板焼鈍ステップは、980~1150℃で60~150秒間行うことができる。具体的に、前記1次熱延板焼鈍ステップは、1030~1100℃で60~100秒間行うことができる。
【0058】
2次熱延板焼鈍ステップは、900~950℃で60~90秒間行うことができる。
【0059】
次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。熱延板の厚さに応じて異なって適用されるが、70~95%の圧下率を適用して最終厚さが0.2~0.7mmになるように冷間圧延することができる。圧下率を合わせるために1回冷間圧延又は中間焼鈍を間に置いた2回以上の冷間圧延を行うことができる。冷間圧延は3~7パスで行うことができる。
【0060】
冷延板を製造するステップの後、冷延板を焼鈍する。冷延板焼鈍ステップで、焼鈍温度600℃以上の温度で、酸素分圧は10mmHg以下であり、露点が10℃以下の雰囲気で行う。これにより、最終的に製造される電気鋼板のO浸透を抑制することができ、これはモーター製造時のラスト発生を抑制する役割を果たす。焼鈍温度600℃以上の温度で酸素浸透が本格的に行われるため、600℃以上での酸素分圧及び露点温度を限定する。より具体的に、酸素分圧は1~9mmHgであり、露点は-50~5℃であることができる。
【0061】
冷延板を焼鈍するステップは、800~1070℃で亀裂することができ、亀裂時間は10秒~5分であることができる。より具体的に、900~1050℃であってもよい。
【0062】
その後、絶縁層を形成するステップをさらに含むことができる。絶縁層形成方法については、無方向性電気鋼板の技術分野で広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0063】
以下、本発明の好ましい実施例及び比較例を記載する。しかし、下記の実施例は、本発明の好ましい一実施例であって、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例
下記表1のような組成のスラブを約1120℃まで加熱した。下記表2にまとめた厚さに熱間圧延した。空気中で冷却した熱延鋼板は、下記表2にまとめた温度で90秒間1次熱延板焼鈍を行い、930℃で80秒間2段熱延板焼鈍を行った。熱延板焼鈍が完了した素材を酸洗した後、表2にまとめた厚さに冷間圧延した。その後、下記表2にまとめた亀裂温度で冷延板焼鈍を行った。
【0065】
鉄損はエプスタイン試験で測定した。この時、エプスタイン試験片は、それぞれ305mm×30mmの大きさを有する。
【0066】
鋼板の表面から内部方向にOを5%含む最内部までの長さは、試片5個所をGDSで測定し、酸素含有量が5%である最内部の位置を測定した。
【0067】
前記の試片を湿度50%以上、温度15℃以上の恒温恒湿装置で48時間以上放置した試片を肉眼で観察し、ラスト有無を判断した。
【0068】
また、磁歪を測定するために磁歪測定用試片をそれぞれせん断及び放電加工を通して加工し、50Hz、1.5Tでの磁歪を測定した。この時、磁歪は圧延方向(RD方向)及び圧延直角方向(TD方向)の平均値を使用し、磁歪値は50Hz、1.5Tの磁場をかけることができる機器を通じて測定し、(長さ変化量/元の試片の長さ)で定義される。放電加工で加工した試片の磁歪値をλ0-p,e、せん断及びパンチング加工による磁歪値をλ0-p,pとし、磁歪の劣化程度値を(λ0-p,p-λ0-p,e)/λ0-p、eで定義した。
【0069】
せん断及びパンチング加工は、クリアランスを(Clearance)5%に設定し、せん断及びパンチング加工で試片を採取した。前記クリアランスとは、せん断機又はパンチング機の上部金型と下部金型との間の間隔を被加工材の板の厚さで割った値を意味する。
【0070】
放電加工されたEpstein試片は、310mmx35mm試片でせん断加工された試片を305mmx30mmに放電加工して製造した。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
表1~表3に示すように、合金成分及び製造工程条件を満たす発明例は、ラストが発生せず、鉄損値に優れて磁歪の劣化程度も小さいことが確認できた。
【0075】
一方、比較例1~13は、冷延板焼鈍時の酸素分圧又は露点温度が適切に調整されず、ラストが発生することが確認できた。比較例14~18は、Bi、Zr及びAsが適切に含まれておらず、鉄損が比較的に劣化し、パンチング加工によるパンチング及びせん断加工後の残留応力が磁歪に及ぼす影響が大きいことを確認することができた。
【0076】
本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、異なる様々な形態で製造することができ、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は、本発明の技術思想や本質的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施することができることを理解できるであろう。したがって、前記で説明した実施例は、すべての点で例示的なものであり、限定的ではないと理解されるべきである。
【国際調査報告】