IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サブイントロ リミテッドの特許一覧

特表2024-546179新規な抗ウイルス性のオレイン酸含有組成物
<>
  • 特表-新規な抗ウイルス性のオレイン酸含有組成物 図1
  • 特表-新規な抗ウイルス性のオレイン酸含有組成物 図2
  • 特表-新規な抗ウイルス性のオレイン酸含有組成物 図3
  • 特表-新規な抗ウイルス性のオレイン酸含有組成物 図4
  • 特表-新規な抗ウイルス性のオレイン酸含有組成物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】新規な抗ウイルス性のオレイン酸含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/201 20060101AFI20241210BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/235 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/427 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/505 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/7056 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/501 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241210BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K31/201 ZNA
A61K45/00
A61P31/12
A61P43/00 121
A61K31/5377
A61K31/235
A61K31/405
A61K31/675
A61K31/7068
A61K38/06
A61K31/427
A61K31/505
A61K31/215
A61K31/7056
A61K31/501
A61K9/08
A61K47/26
A61K9/10
A61K47/06
A61K9/12
A61P31/14
A61P31/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538282
(86)(22)【出願日】2022-12-23
(85)【翻訳文提出日】2024-08-16
(86)【国際出願番号】 GB2022053380
(87)【国際公開番号】W WO2023118896
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21217653.1
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】524236013
【氏名又は名称】サブイントロ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ガース ラペポート
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一洋
(72)【発明者】
【氏名】ジャグディープ シュール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA17
4C076AA22
4C076AA24
4C076BB25
4C076BB27
4C076CC35
4C076DD09E
4C076DD35
4C076EE23E
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA44
4C084DC50
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA56
4C084MA59
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC14
4C086BC41
4C086BC42
4C086BC73
4C086BC82
4C086DA38
4C086EA16
4C086EA17
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA56
4C086MA59
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA04
4C206GA02
4C206GA30
4C206HA31
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA33
4C206MA37
4C206MA76
4C206MA79
4C206NA05
4C206NA10
4C206NA14
4C206ZB33
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、特に、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物からなる群から選択される界面活性剤成分を、任意で抗ウイルス剤と共に含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤であって、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療又は予防における肺又は鼻への局所的投与用医薬品としての使用のための、前記液体医薬製剤を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分、並びに(ii)抗ウイルス剤を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤。
【請求項2】
前記界面活性剤成分は、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリソルベート80又はポリソルベート20の混合物、からなる群から選択される、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項3】
前記界面活性剤成分は、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩とポリソルベート80との混合物である、請求項2に記載の液体医薬製剤。
【請求項4】
前記オレイン酸は遊離酸の形態である、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体医薬製剤。
【請求項5】
前記抗ウイルス剤は、アピリモド、カモスタット、ナファモスタット、ウミフェノビル、レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル、ロピナビル、及びそれらいずれかの医薬として許容し得る塩から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体医薬製剤。
【請求項6】
前記抗ウイルス剤は、バロキサビル、エンシトレルビル、ファビピラビル(T-705)、オセルタミビル、オセルタミビルカルボキシレート、ピロダビル、ルピントリビル、リバビリン、ザナミビル、ラニナミビル、ラニナミビルオクタノアート、及びそれらいずれかの医薬として許容し得る塩から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体医薬製剤。
【請求項7】
前記抗ウイルス剤は、アピリモド又はその医薬として許容し得る塩、例えばそのメシル酸塩である、請求項5に記載の液体医薬製剤。
【請求項8】
前記アピリモドは遊離塩基の形態である、請求項7に記載の液体医薬製剤。
【請求項9】
前記アピリモドはそのメシル酸塩の形態である、請求項7に記載の液体医薬製剤。
【請求項10】
前記抗ウイルス剤は、カモスタット又はその医薬として許容し得る塩、例えばそのメシル酸塩である、請求項5に記載の液体医薬製剤。
【請求項11】
前記抗ウイルス剤は、ナファモスタット又はその医薬として許容し得る塩、例えばそのメシル酸塩である、請求項5に記載の液体医薬製剤。
【請求項12】
前記抗ウイルス剤はウミフェノビルである、請求項5に記載の液体医薬製剤。
【請求項13】
前記抗ウイルス剤はレムデシビルである、請求項5に記載の液体医薬製剤。
【請求項14】
前記抗ウイルス剤はモルヌピラビルである、請求項5に記載の液体医薬製剤。
【請求項15】
前記抗ウイルス剤は、ニルマトレルビル又はその医薬として許容し得る塩、例えばニルマトレルビルである、請求項5に記載の液体医薬製剤。
【請求項16】
前記抗ウイルス剤は、ニルマトレルビル又はその医薬として許容し得る塩、例えばニルマトレルビルであって、任意でリトナビルと組み合せて使用される、請求項5に記載の液体医薬製剤。
【請求項17】
前記抗ウイルス剤はロピナビルであって、任意でリトナビルと組み合せて使用される、請求項5に記載の液体医薬製剤。
【請求項18】
前記抗ウイルス剤は、オセルタミビル若しくはその医薬として許容し得る塩、例えばそのリン酸塩である、又はオセルタミビルカルボキシレート若しくはその医薬として許容し得る塩である、又は、ラニナミビル若しくはその医薬として許容し得る塩である、又はラニナミビルオクタノアート若しくはその医薬として許容し得る塩である、又は、ザナミビル若しくはその医薬として許容し得る塩である、請求項6に記載の液体医薬製剤。
【請求項19】
前記抗ウイルス剤はリバビリンである、請求項6に記載の液体医薬製剤。
【請求項20】
前記抗ウイルス剤はピロダビルである、請求項6に記載の液体医薬製剤。
【請求項21】
その中に前記抗ウイルス剤が配合されて溶解している溶液製剤である、請求項1~20のいずれか1項に記載の液体医薬製剤。
【請求項22】
前記抗ウイルス剤を微細に分割された形態の固体として含む懸濁製剤である、請求項1~20のいずれか1項に記載の液体医薬製剤。
【請求項23】
前記液体医薬製剤は水性製剤である、請求項1~22のいずれか1項に記載の液体医薬製剤。
【請求項24】
前記液体医薬製剤はミセル溶液の形態である、請求項23に記載の液体医薬製剤。
【請求項25】
前記液体医薬製剤は、加圧された液体製剤である、請求項1~22のいずれか1項に記載の液体医薬製剤。
【請求項26】
HFA134a、HFA227、HFA152a、HFO1234ze、HFO1234zf及びそれらの混合物から選択される、加圧された液体プロペラントを含む、請求項25に記載の液体医薬製剤。
【請求項27】
HFA134a、HFA152a、又はHFO1234zeを加圧された液体プロペラントとして含む、請求項26に記載の液体医薬製剤。
【請求項28】
請求項25~27のいずれか1項に記載の液体医薬製剤の複数用量を収容し、かつ計量バルブを備えているキャニスタ。
【請求項29】
前記製剤を肺へ投与するために適合されたアクチュエータを備えた、請求項28に記載のキャニスタを含む、計量式用量吸入器。
【請求項30】
請求項1~24のいずれか1項に記載の液体医薬製剤の複数用量を収容し、かつ該製剤を肺又は鼻へ局所的に送達するためのチャネル装置を備えるリザーバを含む、スプレー装置又はネブライザ装置。
【請求項31】
肺への局所的投与(例えば、経口吸入による)又は鼻への局所的投与のための医薬として使用するための、請求項1~27のいずれか1項に記載の液体医薬製剤。
【請求項32】
ウイルスによる感染症又はそのようなウイルスでの感染関連疾患の治療又は予防における使用のための、請求項31に記載の液体医薬製剤。
【請求項33】
SARS-CoV-2感染症及び/又はCOVID-19の治療又は予防における使用のための、請求項32に記載の液体医薬製剤。
【請求項34】
インフルエンザウイルス感染症及び/又はインフルエンザの治療又は予防における使用のための、請求項32に記載の液体医薬製剤。
【請求項35】
コロナウイルス感染症、例えば季節性コロナウイルス感染症、例えば229E感染症、及び/又は、コロナウイルス感染関連疾患、例えば季節性コロナウイルス感染関連疾患、例えば229E感染関連疾患、の治療又は予防における使用のための、請求項32に記載の液体医薬製剤。
【請求項36】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症及び/又はRSV感染関連疾患の治療又は予防における使用のための、請求項32に記載の液体医薬製剤。
【請求項37】
ヒトライノウイルス(HRV)感染症及び/又はHRV感染関連疾患の治療又は予防における使用のための、請求項32に記載の液体医薬製剤。
【請求項38】
ウイルス感染症又はウイルスによる感染関連疾患又はそのようなウイルスでの感染関連疾患の治療方法又は予防方法であって、それを必要とする対象へ、治療的又は予防的有効量の、請求項1~27のいずれか1項に記載の医薬製剤を、肺又は鼻へ局所的に投与することを含む、前記方法。
【請求項39】
前記ウイルスはSARS-CoV-2であり、前記そのようなウイルスでの感染関連疾患はCOVID-19である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ウイルスはインフルエンザであり、前記そのようなウイルスでの感染関連疾患はインフルエンザである、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記ウイルスはコロナウイルス、例えば季節性コロナウイルス、例えば229Eであり、前記ウイルス感染関連疾患はコロナウイルス感染関連疾患、例えば季節性コロナウイルス感染関連疾患、例えば229E感染関連疾患である、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記ウイルスは呼吸器合胞体ウイルス(RSV)であり、前記ウイルス感染関連疾患はRSV感染関連疾患である、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
前記ウイルスはヒトライノウイルス(HRV)であり、前記ウイルス感染関連疾患はHRV感染関連疾患である、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤であって、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療又は予防における肺又は鼻への局所的投与用医薬品としての使用のための、前記液体医薬製剤。
【請求項45】
前記ウイルス感染症はSARS-CoV-2感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患はCOVID-19である、請求項44に記載の使用のための液体医薬製剤。
【請求項46】
前記ウイルス感染症はインフルエンザウイルス感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患はインフルエンザである、請求項44に記載の使用のための液体医薬製剤。
【請求項47】
前記ウイルス感染症は、コロナウイルス感染症、例えば季節性コロナウイルス感染症、例えば229E感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患は、コロナウイルス感染症の関連疾患、例えば季節性コロナウイルス感染関連疾患、例えば229E感染関連疾患である、請求項44に記載の使用のための液体医薬製剤。
【請求項48】
前記ウイルス感染症は呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患はRSV感染症の関連疾患である、請求項44に記載の使用のための液体医薬製剤。
【請求項49】
前記ウイルス感染症はヒトライノウイルス(HRV)感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患はHRV感染症の関連疾患である、請求項44に記載の使用のための液体医薬製剤。
【請求項50】
ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療方法又は予防方法であって、それを必要とする対象へ、オレイン酸、並びに、オレイン酸及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、治療的又は予防的有効量の医薬製剤を、肺又は鼻へ局所的に投与することを含む、前記方法。
【請求項51】
前記ウイルス感染症はSARS-CoV-2感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患はCOVID-19である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記ウイルス感染症はインフルエンザウイルス感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患はインフルエンザである、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記ウイルス感染症はコロナウイルス感染症、例えば季節性コロナウイルス感染症、例えば229E感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患はコロナウイルス感染関連疾患、例えば季節性コロナウイルス感染関連疾患、例えば229E感染関連疾患である、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記ウイルス感染症は呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患はRSV感染症の関連疾患である、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
前記ウイルス感染症はヒトライノウイルス(HRV)感染症であり、前記ウイルス感染関連疾患はHRV感染症の関連疾患である、請求項50に記載の方法。
【請求項56】
前記液体医薬製剤は加圧された液体製剤である、請求項44~55のいずれか1項に記載の液体医薬製剤又は方法。
【請求項57】
前記液体医薬製剤は水性製剤である、請求項44~55のいずれか1項に記載の液体医薬製剤又は方法。
【請求項58】
オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤、並びに、該製剤を収容するキャニスタ、及び、スプレー装置及びネブライザ装置、及び計量式用量吸入器を含む、その関連態様に関する。本発明は又、SARS-CoV-2又はインフルエンザの感染症等のウイルス感染症及びウイルス感染関連疾患の治療又は予防における使用のための液体医薬製剤、並びに関連する治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(本発明の背景)
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)は、エンベロープ型ポジティブセンス一本鎖のRNAウイルスであり、コロナウイルス科ファミリーのベータコロナウイルス属メンバーである。SARS-CoV-2は、呼吸器疾患COVID-19(コロナウイルス疾患2019)の原因物質である。COVID-19は、軽症の上気道疾患から、重症の間質性肺炎、そして体液が肺内に漏出して生命を脅かす肺損傷である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)まで様々な重症度を特徴とする。COVID19罹患後症候群も又、肺線維症及び二次的致死性真菌感染/侵襲を伴う重要な態様である。
【0003】
現在、7種のコロナウイルスが、ヒトの疾患を引き起こすことが知られている。229E、OC43、NL63、及びHKU1ヒトコロナウイルス(hCoVs)種は、上気道及び下気道の軽症疾患を引き起こし、「一般的な風邪」症例の3分の1を占めると推定されている(Ludwig及びZarbockの文献、2020)。しかし、コロナウイルス種の高い有病率、広範な分布、遺伝的多様性、及び頻繁な異種間感染により、新規なヒト病原体が容易に出現する。従って、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、及び、更に最近の最も重要なSARS-CoV-2が、高い死亡率を伴うパンデミックを引き起こした。
【0004】
SARS-CoV-2の主要な感染様式は、上気道及び下気道の気道上皮被覆でのウイルス複製の結果である。最初のウイルス感染は、非常に微細な呼吸飛沫及びエアロゾル粒子を吸入すること、口、鼻、又は目の露出した粘膜上への直接的な飛沫及び噴霧によって呼吸飛沫及び粒子が付着すること、並びに、ウイルス含有呼吸性液体によって直接的に又はウイルスが付着している表面に触れてしまい間接的に汚染された手で粘膜に接触することの次に、初めて起きる(CDC:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html)。この疾患の初期段階のウイルスは、上気道内でウイルス複製を強固なレベルで確立した後に、肺内に移行してウイルス性肺炎を発症させ、他の臓器へと全身拡散する。入手可能な証拠は、疾患の重症度は気道内のウイルス量と関連しており、抗ウイルス剤での治療介入はウイルス量を低下させ、その結果、疾患重症度を低下させることを示唆している。
【0005】
一般に、エンベロープ型呼吸器系ウイルスは宿主細胞表面の受容体に付着して、エンドサイトーシス又はウイルス膜と宿主細胞膜との直接融合によって細胞内に侵入する。SARS-CoV-2による上気道及び下気道上皮細胞の感染は、ウイルスのスパイクタンパク質が宿主細胞の受容体であるアンジオテンシン変換酵素 2(ACE2)に結合することによって促進される。AXL、CD147、CD209/CD209L、ニューロピリン、DPP4等の他の受容体が、可能性のあるウイルス関連共受容体として特定された(Xieらの文献、Cantuti-Castelvetriらの文献)。続いて、頂端面においてTMPRSS等の宿主プロテアーゼによりスパイクタンパク質が活性化されることが、ウイルスのスパイクタンパク質がプロセシングされて、膜融合によりビリオンが細胞内へ侵入可能となるために必要である。
【0006】
最近の研究で、SARS-CoV-2は2つの異なる経路を介して宿主細胞としてのヒト肺上皮細胞に侵入できることが実証された。第一は、細胞表面上の直接的な膜融合(早期経路)であり、膜貫通型セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)又はその代わりのセリンプロテアーゼによる、スパイクタンパク質活性化に続いて起きる。第二は、エンドサイトーシスによる取り込み(後期経路)であり、これによりカテプシンLがエンドソーム-リソソームコンパートメント内でスパイクタンパク質を活性化する。重要なことは、TMPRSS2又はその代わりのセリンプロテアーゼが発現している場合は、早期侵入経路が優先されるのに対し、これらのプロテアーゼが存在しない場合は、そのウイルスは後期経路に依存することである(Murgoloらの文献、2021)。後期経路では、エンドソーム内でのプロセシング及びウイルス放出をもたらすのは、pHの低下及びタンパク質分解であり、それはウイルスのエンベロープを破壊して内部の遺伝物質を放出させるために必要である。PIKfyveは、ホスファチジルイノシトール-3-リン酸(PI(3)P)をリン酸化してPI(3,5)P2を生成するホスホイノシチドキナーゼである。PIKfyveはエンドソーム膜の成熟に重要な役割を果たし、それによってウイルスによる膜融合及び細胞質内への侵入を可能にする。
【0007】
SARS-CoV-2感染を治療するために、アピリモドを含むPIKfyve阻害剤の使用の可能性に関する様々な報告がある。WO2021/211738は、病原性感染の可能性を低下させるため、又はこの病原体の伝播を低減させるために有用な抗感染薬組成物を開示しており、この抗感染薬組成物は、アピリモドを含む群から選択される化合物を含む。WO2021/158635は、SARS-Cov-2等のコロナウイルス感染症を治療又は予防するための、アピリモド等のPIKfyve阻害剤及びその組成物を開示する。WO2016/161176は、それを必要とする個体へ、治療有効量の、一般式(I);
【化1】
の化合物であって、アピリモドを包含するものを投与することを含む、ウイルス感染症の治療方法を開示する。
【0008】
SARS-CoV-2を治療するための薬の有用性に関する楽観的な予測は、多くの場合、実際には外れたことが示された。例えば、初期の多くのスクリーニング実験では、SARS-CoV-2抗ウイルス剤を特定するためにVero E6細胞株を利用した。この細胞株はTMPRSS2が欠損し、かつACE2が高発現しているため、ウイルスの侵入はエンドサイトーシス経路に依存しており、そのためヒト上皮細胞の感染を予測するためには不完全なモデルである。更に又、追加的な非特異的エンドサイトーシス性ウイルス取り込み機構は、Vero E6細胞内へのビリオンの侵入を促進してしまう。このように、エンドソーム系及びリソソーム系を調節するクロロキン及びアピリモド等の多くの分子が、Vero E6細胞において強力なSARS-CoV-2治療薬として特定されたが、これらの観察はヒト肺上皮細胞には当てはまらないかもしれない(Hoffmannらの文献、2020)。
【0009】
有効なSARS-CoV-2抗ウイルス剤を特定するための更なる努力により、カモスタット(メシル酸塩として)がTMPRSS2及び関連プロテアーゼの遮断によりSARS-CoV-2感染を阻害できることが発見された(Hoffmannらの文献、2021)。更に又、レムデシビルが強力なSARS-CoV-2治療薬として再開発できることが立証された(Pruijssersらの文献、2020)。更に、抗凝血剤ナファモスタット(メシル酸塩として)は、易感染性細胞のSARS-CoV-2感染を阻害することが確認された(Hoffmannらの文献、2020)。或いは、新たなSARS-CoV-2抗ウイルス剤が設計されることもある。例えば、モルヌピラビルは、英国連邦で2021年11月に使用承認を受けた市販のSARS-CoV-2の経口治療薬であり、ウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼの機能を阻害する(Kabingerらの文献、2021)。同様に、ニルマトレルビルはSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼの阻害剤として開発された(Zhaoらの文献、2021)。ニルマトレルビルのHIVプロテアーゼ阻害剤リトナビルとの組み合せは、ニルマトレルビルの代謝を遅くするため、活性が延長されることが判明した(Zhaoらの文献、2021)。同様に、別のHIVプロテアーゼ阻害剤であるロピナビルは、特にロピナビルの血漿濃度を上昇させるリトナビルと組み合せて使用した時に、SARS-CoV-2に対する活性を有するであろうという対立的報告がある(Cattaneoらの文献、2020、Fordらの文献、2020)。
【0010】
インフルエンザウイルスには、インフルエンザA~Dウイルスの4種が含まれ、そのそれぞれが個別の属を、オルトミクソウイルス科内でそれぞれα-、β-、γ-、及びδ-インフルエンザウイルスを形成している。インフルエンザウイルスは、発熱、咽頭痛、頭痛、咳、及び倦怠感を特徴とする軽度から重度の呼吸器疾患を引き起こす、セグメント化されたゲノムを持つエンベロープ型ネガティブセンス一本鎖RNAウイルスである。インフルエンザウイルスは、侵入にエンドサイトーシス経路を利用する。ウイルスHAタンパク質が宿主のシアル酸受容体へ結合することが、エンドソーム取り込みによる細胞侵入の開始となる。続いてエンドソーム内の酸性化が、カテプシン等の細胞プロテアーゼを活性化させ、HAの立体構造変化が誘導され、エンドソーム膜融合が可能となり、その結果、ビリオンが細胞内に放出される。インフルエンザはエンドサイトーシス経路に依存して侵入することから、アピリモド等のPIKfyve阻害剤でインフルエンザウイルス感染症を治療できるかもしれないという推測が導かれた。WO2021/211738は、アピリモドを含み得る発明の抗感染薬組成物が、インフルエンザ感染症の治療に使用し得ると推測しているが、抗インフルエンザ活性の証拠は提示されていない。
【0011】
ウミフェノビルは、ロシア国及び中国で広く使用されている抗インフルエンザウイルス薬であり、臨床的に有意な重要性を有する。ウミフェノビルはウイルスHAタンパク質に結合して、膜融合の発生を可能にするHA内の立体構造変化を予防する(Kadam及びWilsonの文献、2017)。ウミフェノビルは又、SARS-CoV-2に対しても活性を有するかもしれないという対立的報告もある(Huangらの文献、2020)。
【0012】
ヒトの鼻腔及び気管支上皮におけるSARS-CoV-2の複製は、上皮繊毛の急速な喪失を引き起こし、粘液繊毛浄化の障害、気道の上皮完全性の低下、及び上皮タイトジャンクションの破壊を特徴とする(Haoらの文献、2020、Robinotらの文献、2020)。又、SARS-CoV-2が影響を及ぼす主要な組織バリアは、血液ガスバリア(BGB)又は肺胞-毛細血管バリアであると報告されている(Shirvalilooの文献、2021)。
【0013】
細胞変性感染には、上皮1 cm2当たり2.5~105ビリオン(virion)の高ウイルス量が必要である(Haoらの文献、2020)。上気道の繊毛上皮層の広範な損傷は、肺実質深部への拡散促進を先導する。
【0014】
このように、ウイルスが介在する上皮ジャンクション完全性の損傷は、宿主防御バリアの喪失を引き起こし、その結果は、炎症、体液漏出、及び正常な肺ガス移動の喪失、並びに細菌及び真菌類による二次感染である。
【0015】
吸入送達用及び鼻腔内送達用の医薬組成物に使用される従来の添加剤は、伝統的に、例えば抗アレルギー剤及び抗炎症剤等の活性医薬成分の送達を最適化するために供される医薬的に不活性な物質であると考えられてきた。ある種の天然及び合成界面活性剤は、界面活性化作用の影響を受けやすい脂質エンベロープ型ウイルスに対して抗ウイルス性を示し得ることが文献で報告されている。
【0016】
Kohnらの文献(1980年)は、オレイン酸等の不飽和脂肪酸が、センダイウイルス、ニューカッスル病ウイルス、インフルエンザAウイルス、シンドビスウイルス、ウエストナイルウイルス、及びヘルペスウイルス1に対してインビトロで殺ウイルス活性を示すが、ポリオウイルス、脳心筋炎ウイルス、又はシミアンウイルス40に対しては殺ウイルス活性を示さないことを教示している。この活性は、ウイルス脂質エンベロープに取り込まれることによってウイルス膜完全性の破壊が引き起こされる結果であると提案されている。しかし、この文献は、宿主細胞膜に対しても、ヒト肺若しくは鼻上皮細胞に対しても、又はコロナウイルス若しくはインフルエンザウイルスに対しても、これら分子の効果を考慮していない。
【0017】
Thormarらの文献(1987年)は、脂肪酸による生乳中のウイルスの不活化について調査している。この文献は、オレイン酸等の脂肪酸が、単純ヘルペスウイルス、VSV(水疱性口内炎ウイルス)、及びVisnaウイルスとインキュベーションした後のウイルス力価を低下させるが、ポリオウイルスでは力価を低下させないことを報告している。抗ウイルス性脂肪酸は、ウイルスエンベロープの完全性を破壊するために漏出が引き起こされ、高濃度ではエンベロープ及びウイルス粒子の完全な崩壊が起こるが、同様に組織培養細胞の形質膜の分解をも引き起こすため、細胞溶解及び細胞死がもたらされることが報告されている。しかし、この文献では、ヒトの肺若しくは鼻上皮細胞に対する、又はコロナウイルス若しくはインフルエンザウイルスに対する、これら分子の効果は考慮されていない。
【0018】
Andersonらの文献(1991年)は、ポリソルベート80が化合物ヒペリシンの抗ウイルス活性を増強することを教示している。しかし、ポリソルベート80自体は、ワクシニアウイルス株及び単純ヘルペスウイルス株に対して試験すると、直接的な抗ウイルス活性を持たないことが開示されている。
【0019】
Hilmarssonらの文献(2007年)は、オレイン酸が、牛乳又は果汁中でのインキュベーション後の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の力価を有意に低下させることを教示している。しかし、この研究は、オレイン酸等の長鎖不飽和脂肪酸の不安定性のせいで、ラウリルアルコール、ラウリン酸、モノラウリン、及びモノカプリン等の他の殺菌性化合物の方が、RSV、パラインフルエンザ、又はインフルエンザ感染症に対する局所製剤の活性成分として、より実行可能であることを教示している。更に又、この文献は、肺若しくは鼻上皮細胞に対する又はコロナウイルスに対する、オレイン酸又は類似の分子の効果は考慮していない。
【0020】
Chenらの文献(2019年)は、ポリソルベート80が、エンベロープ型ウイルスの不活化を誘導することはできないが、開裂してオレイン酸となることができ、オレイン酸は仮性狂犬病ウイルス及び異種指向性マウス白血病ウイルスに対して抗ウイルス活性を有するが、ブタパルボウイルスに対しては抗ウイルス活性を有さないことを実証したことを教示している。従って、ポリソルベート80は、製造プロセスにおいてTriton X-100の実行可能な代替品であることが示唆されている。しかし、この文献は、バイオ医薬品製造分野における抗ウイルス性界面活性剤の効果の考察に限定されており、宿主細胞膜に対する、又はコロナウイルス若しくはインフルエンザウイルスに対する界面活性剤の効果についてはいずれも考慮していない。
【0021】
別の知見では、オレイン酸が実際にウイルス量の増加を導く可能性が示唆されている:
Rainiらの文献(2021年)は、感染細胞へオレイン酸の補充は、ジカウイルス力価の増大を導くこと、ジカウイルス複製のための主要なプラットフォームは脂肪滴であるので、力価の増大は脂肪滴形成の誘導の結果であろうと教示している。
【0022】
このように、ポリソルベート80及びオレイン酸等の界面活性剤の抗ウイルス性効果に関しては、対立しておりかつ非特異的な文献が大量にある。
【0023】
ウイルス感染症、特にヒトの肺又は鼻上皮細胞を冒すものの治療及び予防のための医薬品の開発が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0024】
(発明の概要)
通常使用されている添加剤は、一般的に薬理学的に不活性であると考えられている。驚くべきことに、本発明者らは、これまで添加剤として使用されてきた特定の界面活性剤に関する新たな生物学的活性を発見した。
【0025】
従って、本発明は、特定の界面活性剤(複数可)及び抗ウイルス剤を含む、肺又は鼻への局所的投与に適し、抗ウイルス性を有する液体医薬製剤を提供する。本発明は、(i)オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分、並びに(ii)抗ウイルス剤を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤を提供する。
【0026】
本発明は又、オレイン酸、並びに、オレイン酸及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤であって、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の予防における肺又は鼻への局所的投与用医薬品としての使用のための、前記液体医薬製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
(図面の簡単な説明)
図1図1は、実施例2に記載の実験のプロトコルを示す。
図2図2は、アピリモド(メシル酸塩として)、界面活性剤(0.15% w/wポリソルベート80及び0.2% w/wオレイン酸)並びにそれらの組み合せによる頂端部側処理の、SARS-CoV-2感染した気液界面(ALI)培養した鼻腔上皮からの頂端部洗浄液内のSARS-CoV-2ウイルス量に対する効果を示す。これら処理の効果は、レムデシビルによる基底部側処理と比較される。
図3図3は、アピリモド(メシル酸塩として)、界面活性剤(0.15% w/wポリソルベート80及び0.2% w/wオレイン酸)並びにそれらの組み合せによる頂端部側処理の、経上皮電気抵抗(TEER)によって決定した、SARS-CoV-2が誘導する上皮完全性の低下に対する効果を示す。これら処理の効果は、レムデシビルによる基底部側処理と比較される。
図4図4は、頂端部側を処理した、オセルタミビルカルボキシレート(1μM)、界面活性剤(0.15%ポリソルベート80及び0.2%オレイン酸)並びにそれらの組み合せの、H1N1- A/Switzerland/7717739/2013(H1N1)感染した、気液界面培養した鼻腔上皮の頂端部洗浄液内のウイルス量に対する効果を、ビヒクル(水)処理した感染対照と比較して示す。H1N1インフルエンザウイルス粒子をRT-PCRで検出し、標準曲線から算出したゲノムコピー数を示した。オセルタミビルカルボキシレート(10μM)も又、アッセイ対照として、基底部側チャンバ内で処理した。
図5図5は、頂端部側を処理した、オセルタミビルカルボキシレート(1μM)、界面活性剤(0.15 %ポリソルベート80及び0.2 %オレイン酸)並びにそれらの組み合せの、H1N1-インフルエンザが誘導した上皮完全性の低下に対する効果を、ビヒクル(水)処理した感染対照と比較して示す。上皮完全性はTEER(経上皮電気抵抗)によって決定した。オセルタミビルカルボキシレート(10μM)も又、アッセイ対照として、基底部側チャンバ内で処理した。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
本発明は、多様な抗ウイルス剤の抗ウイルス活性を、特定の界面活性剤と組み合せて、及び、特定の界面活性剤と別々に、試験することによってなされた発見に基づく。本発明は、(i)オレイン酸とポリソルベート80との混合物を、特に抗ウイルス剤アピリモドと組み合せて頂端部側に投与することは、培養した鼻腔上皮のSARS-CoV-2による感染モデルでのウイルス量の低下に強力な効果を有し(実施例2、図 2を参照)、その効果は界面活性剤混合物とアピリモドとの間の相乗効果の証拠を備えていること;(ii)オレイン酸とポリソルベート80との混合物を、任意で抗ウイルス剤アピリモドと組み合せて頂端部側に投与することは、培養した鼻腔上皮のSARS-CoV-2による感染モデルでのバリア機能の改善に強力な効果を有すること(実施例2、図3を参照);(iii)オレイン酸とポリソルベート80との混合物を、抗ウイルス剤オセルタミビルカルボキシレートと組み合せて頂端部側に投与することは、培養した鼻腔上皮のインフルエンザウイルスH1N1による感染モデルでのウイルス量の低下に強力な効果を有し(実施例2、図4を参照)、その効果は界面活性剤混合物とオセルタミビルカルボキシレートとの間の相乗効果の証拠を備えていること;並びに、(iv)オレイン酸とポリソルベート80との混合物を、特に抗ウイルス剤オセルタミビルカルボキシレートと組み合せて頂端部側に投与することは、培養した鼻腔上皮のインフルエンザウイルスH1N1による感染モデルでのバリア機能の改善に強力な効果を有すること(実施例2、図5を参照)、の発見に基づく。
【0029】
本発明の液体製剤は、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む。代表的なポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルには、ポリソルベート80(例えば、Tween 80)及びポリソルベート20が含まれる。例えば、界面活性剤成分は、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、特にオレイン酸である。更に好適には、界面活性剤成分は、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩とポリソルベート20又はポリソルベート80との混合物、特にオレイン酸又はその医薬として許容し得る塩(例えばオレイン酸)とポリソルベート80との混合物である。
【0030】
通常、界面活性剤成分は、10~30000 ug/mL、例えば100~20000 ug/mL、例えば100~5000 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば、界面活性剤がオレイン酸又はその医薬として許容し得る塩の場合、オレイン酸は、1~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば、界面活性剤成分がオレイン酸又はその医薬として許容し得る塩と、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、例えばポリソルベート20又はポリソルベート80との混合物である場合、オレイン酸は、10~30000 ug/mL、例えば100~20000 ug/mL、例えば100~5000 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得、かつ、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、例えばポリソルベート20又はポリソルベート80は、10~20000 ug/mL、例えば100~15000 ug/mL、例えば100~5000 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩の、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルに対する、それぞれug/mLで測定される量の比は、約5:1~1:5、例えば 2:1~1:2である。上述の量及び比は、塩形態が使用される場合は遊離酸(オレイン酸)の当量に基づく。好適には、オレイン酸は、オレイン酸として(即ち、塩形態ではない)使用する。
【0031】
使用できるオレイン酸の医薬として許容し得る塩の形態には、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、そして特にナトリウム塩が含まれる。最も好適には、オレイン酸は遊離酸として使用される。
【0032】
本発明の液体医薬製剤は、肺又は鼻への局所的投与に適切であろう。本発明の液体医薬製剤は、吸入により投与してもよく、例えば、経口吸入により肺へ局所投与してもよく、又は鼻へ局所投与してもよい。肺又は鼻への投与に適切な本発明の製剤は、経口吸入により肺へ局所投与する又は鼻へ局所投与する場合、それによって咽頭への投与も含まれ得ることが理解されよう。
【0033】
ある実施態様では、本発明の液体医薬製剤は、抗ウイルス剤を含む。抗ウイルス剤には、例えばウイルス複製の阻害による直接的な抗ウイルス活性を有する物質、並びに、間接的な抗ウイルス活性、例えばウイルス取り込みの阻害による、例えば標的細胞のエンドソーム系及びリソソーム系を調節することによる、又は宿主免疫系を刺激して抗ウイルス応答を引き起こすことによる、間接的な抗ウイルス活性を有するものも含まれる。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、アピリモド(即ち、遊離塩基)又はその医薬として許容し得る塩、例えばそのメシル酸塩である。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、カモスタット又はその医薬として許容し得る塩、例えばそのメシル酸塩である。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ウミフェノビルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、オセルタミビル又はその医薬として許容し得る塩、特にオセルタミビルリン酸塩である。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、リバビリン又はその医薬として許容し得る塩、特にリバビリンである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ピロダビル又はその医薬として許容し得る塩、特にピロダビルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、レムデシビル又はその医薬として許容し得る塩、特にレムデシビルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、モルヌピラビル又はその医薬として許容し得る塩、特にモルヌピラビルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ニルマトレルビル等の、コロナウイルス3CLプロテアーゼ阻害剤又はその医薬として許容し得る塩、特にニルマトレルビルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ロピナビル又はその医薬として許容し得る塩、特にロピナビルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ニルマトレルビル又はその医薬として許容し得る塩、特にニルマトレルビルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ニルマトレルビル又はその医薬として許容し得る塩、特にニルマトレルビルであって、リトナビル又はその医薬として許容し得る塩、特にリトナビルと組み合せて使用されるものである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ロピナビル又はその医薬として許容し得る塩、特にロピナビルであって、リトナビル又はその医薬として許容し得る塩、特にリトナビルと組み合せて使用されるものである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、バロキサビル又はその医薬として許容し得る塩、特にバロキサビルマルボキシルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、エンシトレルビル又はその医薬として許容し得るもの、特にエンシトレルビルフマル酸塩である。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ファビピラビル(T-705)又はその医薬として許容し得る塩、特にファビピラビルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ザナミビル又はその医薬として許容し得る塩、特にザナミビルである。
【0034】
1の実施態様では、抗ウイルス剤は、オセルタミビル又はその医薬として許容し得る塩、特にオセルタミビルリン酸塩である。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、オセルタミビルカルボキシレート又はその医薬として許容し得る塩である。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ラニナミビル又はその医薬として許容し得る塩、特にラニナミビルである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ラニナミビルオクタノアートである。1の実施態様では、抗ウイルス剤は、ルピントリビル又はその医薬として許容し得る塩、特にルピントリビルである。
【0035】
本発明の液体医薬製剤が、SARS CoV-2感染症又はCOVID-19感染症の治療又は予防用である場合、好適には抗ウイルス剤は、アピリモド、カモスタット、ナファモスタット、ウミフェノビル、レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル、ロピナビル、及びそれらいずれかの医薬として許容し得る塩から選択される。或いは、好適には抗ウイルス剤は、エンシトレルビル、ファビピラビル、ルピントリビル、及びそれらいずれかの医薬として許容し得る塩から選択される。
【0036】
本発明の液体医薬製剤が、インフルエンザウイルス感染症又はインフルエンザの治療又は予防用である場合、好適には抗ウイルス剤は、カモスタット、ナファモスタット、ウミフェノビル、及びそれらの医薬として許容し得る塩から選択される。或いは、好適には抗ウイルス剤は、バロキサビル、ファビピラビル、オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ラニナミビルオクタノアート、及びそれらの医薬として許容し得る塩、特にオセルタミビル又はオセルタミビルカルボキシレート及びそれらの医薬として許容し得る塩から選択される。
【0037】
本発明の液体医薬製剤が、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症又はRSV感染関連疾患の治療又は予防用である場合、好適には抗ウイルス剤は、リバビリン及びその医薬として許容し得る塩から選択される。
【0038】
本発明の液体医薬製剤が、ヒトライノウイルス(HRV)感染症又はHRV感染関連疾患の治療又は予防用である場合、好適には抗ウイルス剤は、ピロダビル、ルピントリビル、及びそれらの医薬として許容し得る塩から選択される。
【0039】
本発明の液体医薬製剤が、コロナウイルス感染症、例えば季節性コロナウイルス感染症、例えば229E感染症であり、そのウイルス感染関連疾患はコロナウイルス感染関連疾患、例えば季節性コロナウイルス感染関連疾患、例えば229E感染関連疾患の治療又は予防用である場合、好適には抗ウイルス剤は、アピリモド、カモスタット、エンシトレルビル、ファビピラビル、ナファモスタット、ウミフェノビル、レムデシビル、ルピントリビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル、ロピナビル、及びそれらいずれかの医薬として許容し得る塩から選択される。
【0040】
関連する抗ウイルス剤及びリトナビルの合成の詳細は、次の文献から集めることができ、アピリモド:WO2003/047516、カモスタット:Senokuchiらの文献、ナファモスタット:EP0048433B1、ウミフェノビル:Chaiらの文献、レムデシビル:WO2017/184668、モルヌピラビル:US2020/0276219、ニルマトレルビル:Owenらの文献、ロピナビル:US5914332、リトナビル:US5541206、オセルタミビル:US5763483、ピロダビル:US5231184、リバビリン:USRE29835、バロキサビル:JPWO2016/175224、エンシトレルビル:Unohらの文献、ファビピラビル:US6800629、ルピントリビル:Dragovichらの文献、及びザナミビル:US5360817、各文献の内容はその全体が参照により本明細書中に組み込まれる。ニルマトレルビルは、PF07321332としても知られている。
【0041】
使用し得る塩基性化合物の医薬として許容し得る塩には、塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、及びメシル酸塩等の酸付加塩が含まれる。
【0042】
通常、抗ウイルス剤は、0.01~2000 ug/mL、例えば0.01~200 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、アピリモド(即ち、遊離塩基)又はその医薬として許容し得る塩(例えば、メシル酸塩)の場合、アピリモドは、2~200 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、カモスタット(即ち、遊離塩基)又はその医薬として許容し得る塩(例えば、メシル酸塩)の場合、カモスタットは、1~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ナファモスタット(即ち、遊離塩基)又はその医薬として許容し得る塩(例えば、メシル酸塩)の場合、ナファモスタットは、0.1~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ウミフェノビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、ウミフェノビルは、10~10000 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、レムデシビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、レムデシビルは、0.01~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、モルヌピラビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、モルヌピラビルは、0.01~10 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ニルマトレルビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、ニルマトレルビルは、0.01~10 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ロピナビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、ロピナビルは、1~1000 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、オセルタミビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、オセルタミビルは、0.01~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば、抗ウイルス剤が、オセルタミビルカルボキシレート又はその医薬として許容し得る塩の場合、オセルタミビルカルボキシレートは、0.01~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ピロダビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、ピロダビルは、0.1~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、リバビリン又はその医薬として許容し得る塩の場合、リバビリンは、1~1000 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、バロキサビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、バロキサビルは、0.01~10 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、エンシトレルビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、エンシトレルビルは、0.01~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ファビピラビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、ファビピラビルは、1~1000 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ザナミビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、ザナミビルは、0.01~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ラニナミビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、ラニナミビルは、0.01~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ラニナミビルオクタノアート又はその医薬として許容し得る塩の場合、ラニナミビルオクタノアートは、0.01~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ルピントリビル又はその医薬として許容し得る塩の場合、ルピントリビルは、0.01~100 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。
【0043】
リトナビル又はその医薬として許容し得る塩は、腸及び肝臓のチトクロムp450 3A4の強力な阻害剤であり、ニルマトレルビル又はロピナビル等の別の抗ウイルス剤の効果を増強するために、液体医薬製剤に含まれてもよい(Choyらの文献)。
【0044】
例えばリトナビル又はその医薬として許容し得る塩が含有される場合、リトナビルは、0.005~5 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。
【0045】
例えば抗ウイルス剤が、ニルマトレルビル又はその医薬として許容し得る塩であって、リトナビル又はその医薬として許容し得る塩と組み合せて使用される場合、ニルマトレルビルは、0.01~10 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得、かつリトナビルは、0.005~5 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。例えば抗ウイルス剤が、ロピナビル又はその医薬として許容し得る塩であって、リトナビル又はその医薬として許容し得る塩と組み合せて使用される場合、ロピナビルは、1~1000 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得、かつリトナビルは、0.25~250 ug/mLの濃度で製剤中に存在し得る。上述の量は、塩形態で使用される場合は抗ウイルス剤の遊離型(例えば、塩基/酸)の当量に基づく。
【0046】
液体医薬製剤は、その中に抗ウイルス剤が配合されて溶解している溶液製剤でもよい。溶液製剤の場合、抗ウイルス剤の可溶性形態が選択されるであろう。例えば、アピリモドのメシル酸塩は水に可溶である。
【0047】
或いは、水性医薬製剤は、抗ウイルス剤を微細に分割された形態の固体として含む懸濁製剤でもよい。固体が微細に分割された形態である場合、それは意図された送達経路、即ち肺又は鼻への送達に適したサイズであろう。
【0048】
ある実施態様では、液体医薬製剤は、その中に抗ウイルス剤が配合されて溶解又は懸濁され得る水性製剤でもよい。抗ウイルス剤を水性製剤に溶解させる場合(即ち、製剤が溶液製剤である場合)、抗ウイルス剤の可溶性形態を選択してもよい。例えば、アピリモドのメシル酸塩は水に可溶である。抗ウイルス剤の溶解は、極性有機溶媒、例えばアルコール、ポリオール又はポリエチレングリコール(PEG)、例えばエタノール等の溶媒を製剤中に含めることによって補助してもよい。抗ウイルス剤を水性製剤に懸濁させる場合、抗ウイルス剤の比較的不溶性の形態を選択してもよい。例えば、アピリモド塩基は水に比較的不溶である。このような懸濁製剤中では、抗ウイルス剤は、固体であって、意図された送達経路、即ち肺又は鼻への送達に適したサイズに微細に分割された形態でもよい。水性製剤の場合、製剤中に使用される水は滅菌水でもよい。水性製剤は、保存剤、緩衝剤及び浸透圧剤等の他の成分を任意に含み得る。保存剤の例には、エデト酸及びそのアルカリ塩、例えばEDTA二ナトリウム(「エデト酸二ナトリウム」又は「エデト酸二ナトリウム塩」とも称される)及びEDTAカルシウム(「エデト酸カルシウム」とも称される)、ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、塩化ベンザルコニウム、チメロサール、プロピレングリコール、ソルビン酸、及び安息香酸誘導体が含まれる。緩衝剤の例には、クエン酸塩/クエン酸緩衝剤等の弱有機酸ベースの緩衝剤が含まれる。浸透圧剤は、製剤のモル浸透圧濃度を増大し、患者の快適性を向上させる。浸透圧剤の例には、糖及び糖アルコール等のポリオール、例えばキシリトール及びグリセロールが含まれる。鼻への局所投与に適した水性製剤は、湿潤剤及び増粘剤、例えばヒアルロン酸又はその医薬として許容し得る塩を任意で含み得る。水性懸濁製剤は、界面活性剤、及び微結晶性セルロース/カルボキシメチルセルロースナトリウム(Avicel)等のセルロース誘導体、カラギーナン、並びにヒアルロン酸又はその医薬として許容し得る塩等の懸濁液の維持を補助する懸濁化剤を任意に含み得る。製剤中の界面活性剤成分は、懸濁化剤として作用し得るか、又は懸濁化剤の機能に寄与し得る。
【0049】
水性液体医薬製剤のpHは、通常は、広い範囲内、例えば4~8でもよい。
【0050】
ある実施態様では、水性液体医薬製剤は、界面活性剤分子の親水性の「頭部」領域が周囲の溶媒に接触し、その界面活性剤分子の「尾部」領域から形成されるミセル中心部に、疎水性の単一尾部領域が隔離されている、ミセル溶液でもよい。
【0051】
ある実施態様では、液体医薬製剤は、その中に抗ウイルス剤が配合されて溶解又は更に好ましくは懸濁された、加圧された液体製剤でもよい。加圧された液体懸濁製剤の場合、抗ウイルス剤の比較的不溶性の形態を選択し得る。例えば、アピリモドのメシル酸塩及びその塩基形態は、加圧されたヒドロフルオロアルカン等の液体には比較的不溶である。加圧された液体溶液製剤の場合、抗ウイルス剤の溶解は、極性有機溶媒、例えばエタノール等の溶媒を製剤内に含めることによって補助してもよい。懸濁製剤中では、抗ウイルス剤は、固体であって、微細に分割された形態であろう。製剤中の界面活性剤成分は、懸濁化剤として作用し得るか、又は懸濁化剤の機能に寄与して懸濁液の維持を補助し得る。固体が微細に分割された形態である場合、それは意図された送達経路、即ち肺又は鼻への送達に適したサイズであろう。
【0052】
通常、上記製剤中の微細に分割された形態の固体粒子は、1~10μmの範囲の空気動力学的質量中央径(MMAD)を有し得る。適切なサイズの粒子は、エアジェットミリング、スプレードライ、超臨界流体抽出法、又はナノミリングによって製造し得る。固体粒子のMMADは、次世代インパクター(NGI)を用いて決定できる(Marpleらの文献、2021)。
【0053】
加圧された液体製剤に使用される加圧される液体は、好適にはヒドロフルオロアルカン(HFA)又はヒドロフルオロオレフィン(HFO)等の揮発性非極性液体、例えばHFA134a、HFA227、HFA152a、HFO1234ze若しくはHFO1234zf又はそれらの混合物等、特にHFA134a、HFA152a、又はHFO1234zeである。
【0054】
幾つかの実施態様では、非加圧の液体医薬製剤を、鼻腔スプレー装置又は点鼻薬アプリケータを用いて鼻へ投与してもよい。鼻腔スプレー装置及び点鼻剤アプリケータは、当分野で公知であり、米国特許番号US2577321及び米国特許番号US6000580に開示されており、その各内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書で使用される場合、用語「点鼻剤アプリケータ」は、点鼻剤の投与に適した任意のディスペンサーをいう。鼻腔スプレー装置は、通常、計量された体積の液体を投与し、例えば、50~200μL、特に100μLの体積量を投与し得る。計量された体積量は、好適には各鼻孔に投与される(例えば、鼻孔あたり1回又は2回)。
【0055】
幾つかの実施態様では、非加圧の液体医薬製剤、特に水溶液の製剤等の水性製剤は、ネブライザ装置を使って投与し得る。ネブライザは、通常、スイッチが入っている間は連続式で又は呼吸作動式で、吸入用エアロゾルを生成する。ネブライザ装置は、手持ち及び携帯型でもよく、又は、家庭若しくは病院用(即ち、据え置き型)でもよい。定評のあるネブライザ製品には、Aeroneb(登録商標) 装置及びPari(登録商標)装置が含まれ、米国特許番号US9364618に開示されており、その各内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。ネブライザ装置は、例えば、小孔(通常、マイクロメートルサイズ)を有する、金属(通常、ステンレススチール)メッシュ又は膜の高周波振動によって均質なエアロゾルを生成することが公知の圧電式ネブライザ装置でもよい。生成されたエアロゾルは、適切なマウスピース又はノーズピースを用いて吸入により、肺又は肺及び鼻へ導くことができる。本発明の製剤を、経口吸入により肺へ局所投与する場合、又は鼻へ局所投与する場合、それにより製剤は咽頭へ投与することができる。
【0056】
加圧された製剤は、一般に、バルブ(例えば計量バルブ)で閉鎖され、かつ、マウスピースを備えたアクチュエータに適合しているキャニスタ(例えばアルミニウムキャニスタ)内に収容できる。
【0057】
キャニスタには、一般的に、HFAプロペラントの蒸気圧に耐えることができる容器、例えばプラスチック瓶若しくはプラスチックコーティングしたガラス瓶、又は、好ましくは金属缶、例えば任意で酸化コーティング、ラッカー塗装及び/若しくはプラスチックコーティングしたアルミニウム缶等であって、計量バルブで閉鎖された容器が含まれる。キャニスタは、WO 96/32151に記載のように、フルオロカーボンポリマー、例えばポリエーテルスルホン(PES)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のコポリマーでコーティングすると好ましいこともある。別の考えられるコーティング用ポリマーは、FEP(フッ素化エチレンプロピレン)である。計量バルブは、1作動ごとに計量された量の製剤を送達し、かつバルブを通過するプロペラントの漏出を防止するためにガスケットを組み込むように設計されている。ガスケットは、例えば低密度ポリエチレン、クロロブチル、黒色及び白色ブタジエン-アクリロニトリルゴム、ブチルゴム、並びにネオプレン等の任意の適切なエラストマー材料を含み得る。WO92/11190に記載の熱可塑性エラストマーバルブ及びWO95/102651に記載のEPDMゴムを備えたバルブが特に適切である。適切なバルブは、例えば、フランスのValois社(例えば、DF10、DF30、DF60)、英国のBespak pic社(例えば、BK300、BK356、BK357)、及び英国の3M-Neotechnic Ltd社(例えば、Spraymiser(商標))等の、エアロゾル業界で周知の製造者から市販されている。フランスのValois社のDF31バルブも又、好適である。
【0058】
バルブシール、特にガスケットシールは、好ましくは、特に内容物がエタノールを含む場合、製剤の内容物に対して不活性であり、かつその内容物への抽出耐性を有する材料で製造されるであろう。バルブ材料、特に計量チャンバの製造材料は、好ましくは、特に内容物がエタノールを含む場合、製剤の内容物に対して不活性であり、かつその内容物による歪みへの耐性を有する材料で製造されるであろう。計量チャンバの製造での使用に特に適した材料には、ポリエステル、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びアセタール、特にPBTが含まれる。計量チャンバ及び/又はバルブステムの製造材料は、薬剤が沈着しないように、フッ素処理、部分的フッ素処理、又はフッ素含有物質を含浸させることが望ましいであろう。バルブチャンバは、液体医薬製剤の分注されるべき用量及びその濃度に適したサイズ、例えば25~100μL、例えば25μL又は100μLであろう。
【0059】
医薬エアロゾル製造業の当業者に周知の、従来のバルク製造方法及び機械を、充填済みキャニスタの商業生産用の大規模バッチの調製のために採用することができる。従って、例えばバルク製造方法の一つでは、計量バルブをアルミニウム缶に圧着して空のキャニスタを形成する。医薬品、プロペラント及びその他の製剤成分を含む製剤が、容器にチャージされて加圧充填され、製品容器となる。通常、医薬用途のために調製されるバッチでは、各充填済みキャニスタは、重量を確認され、バッチ番号でコード化され、リリース試験前に貯蔵用トレイに梱包される。別のプロセスでは、液状化製剤のアリコートを、製剤が蒸発しないよう充分に冷えた条件下で開口キャニスタ内に投入し、次に計量バルブをキャニスタに圧着する。通常、医薬用途のために調製されるバッチでは、各充填済みキャニスタは、重量を確認され、バッチ番号でコード化され、リリース試験前に貯蔵用トレイに梱包される。
【0060】
各充填済みキャニスタは、使用前に適切なチャネル装置に装着して、患者の肺又は鼻腔に医薬品を投与するための計量式用量吸入器を形成することが便利である。適切なチャネル装置は、例えば、バルブアクチュエータ及び円筒状又は円錐様の通路を備え、それらを通して医薬品が充填済みキャニスタから計量バルブを介して患者の鼻又は口に送達され得るものであり、例えばマウスピースアクチュエータである。計量式用量吸入器は、1回の作動又は「パフ」当たり定量の単位用量の医薬品を、例えば1パフ当たり10~5000μg医薬品の範囲で、送達するように設計されている。
【0061】
通常の配置では、バルブステムは、膨張チャンバに通じるオリフィスを有するノズルブロック内に設置される。膨張チャンバは、マウスピース内に延びる出口オリフィスを有する。アクチュエータ(出口)オリフィス直径は、0.1~0.45 mmの範囲が一般的に好適であり、例えば、0.15、0.22、0.25、0.30、0.33、0.42 mmである。オリフィスの寸法は、ジェットの閉塞が発生するほど小さくするべきではない。
【0062】
アクチュエータのジェット長さは、通常、口腔内頬側投与(即ち、経口投与)用には、0.30~1.7 mmの範囲、例えば0.30、0.65、又は1.50 mmの範囲である。
【0063】
アクチュエータの精密な形状及び寸法は、肺又は鼻への局所的投与に適宜適合させ得る。
【0064】
本発明の態様は、肺又は鼻への局所的投与用医薬品としての使用のための、及び特にウイルスによる感染症又はそのようなウイルスでの感染関連疾患の治療又は予防における使用のための、本明細書に記載の液体医薬製剤である。1の実施態様では、液体医薬製剤は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療における使用のためのものである。別の実施態様では、液体医薬製剤は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の予防における使用のためのものである。
【0065】
更なる本発明の態様は、ウイルス感染症又はウイルスによる感染関連疾患又はそのようなウイルスでの感染関連疾患の治療方法又は予防方法であって、それを必要とする対象へ、治療的又は予防的有効量の、本明細書に記載の医薬製剤を、肺又は鼻へ局所的に投与することを含む。1の実施態様では、本方法は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療方法である。別の実施態様では、本方法は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の予防方法である。
【0066】
更なる本発明の態様は、肺又は鼻への局所的投与のための、及び特にウイルスによる感染症又はそのようなウイルスでの感染関連疾患の治療又は予防のための医薬品の製造のための、本明細書に記載の液体医薬製剤の使用である。
【0067】
本発明の態様は、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤であって、肺(例えば、経口吸入による)又は鼻への局所投与用医薬品として、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療又は予防における使用のための液体医薬製剤である。1の実施態様では、液体医薬製剤は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療における使用のためのものである。別の実施態様では、液体医薬製剤は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の予防における使用のためのものである。
【0068】
更なる本発明の態様は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療方法又は予防方法であって、それを必要とする対象へ、治療的又は予防的有効量の、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む医薬製剤を、肺(例えば、経口投与により)又は鼻へ局所的に投与することを含む、前記方法である。1の実施態様では、本方法は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療方法である。別の実施態様では、本方法は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の予防方法である。
【0069】
更なる本発明の態様は、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤の使用であって、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の予防において、肺(例えば、経口吸入による)又は鼻への局所投与のために使用される医薬品の製造のための使用である。
【0070】
更なる本発明の態様は、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、肺(例えば、経口吸入による)又は鼻への局所投与に適した、インビボでの上皮性バリア機能(特に、肺又は鼻上皮のバリア機能)の改善に使用するための液体医薬製剤である。
【0071】
更なる本発明の態様は、(i)オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分、並びに(ii)抗ウイルス剤を含む、肺(例えば、経口吸入による)又は鼻への局所投与に適した、インビボでの上皮性バリア機能(特に、肺又は鼻上皮のバリア機能)の改善に使用するための液体医薬製剤である。
【0072】
更なる本発明の態様は、対象の上皮性バリア機能(特に、肺又は鼻上皮のバリア機能)の改善方法であって、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む液体医薬製剤を、該対象の肺(例えば、経口吸入による)又は鼻の上皮へ局所投与することを含む、前記方法である。
【0073】
更なる本発明の態様は、対象の上皮性バリア機能(特に、肺又は鼻上皮のバリア機能)の改善方法であって、(i)オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分、並びに(ii)抗ウイルス剤を含む液体医薬製剤を、該対象の肺(例えば、経口吸入による)又は鼻の上皮へ局所投与することを含む、前記方法である。
【0074】
上記態様に関する例として、ウイルス感染症は、コロナウイルス感染である。上記態様に関する例として、ウイルス感染症はSARS-CoV-2感染症であり、そのウイルス感染関連疾患はCOVID-19である。上記態様に関する例として、ウイルス感染症は季節性コロナウイルス感染症、例えば229E感染症であり、そのウイルス感染関連疾患は季節性コロナウイルス関連疾患、例えば229E関連疾患である。上記態様に関する例として、ウイルス感染症はインフルエンザウイルス感染症であり、そのウイルス感染関連疾患はインフルエンザである。上記態様に関する例として、ウイルス感染症は呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症であり、そのウイルス感染関連疾患はRSV感染関連疾患である。上記態様に関する例として、ウイルス感染症はヒトライノウイルス(HRV)感染症であり、そのウイルス感染関連疾患はHRV感染関連疾患である。
【0075】
本明細書で使用される場合の「インフルエンザウイルス」には、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、インフルエンザCウイルス、及びインフルエンザDウイルス、例えばインフルエンザAウイルス又はインフルエンザBウイルス、が含まれる。
【0076】
ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の予防方法において、本液体医薬製剤は、それを必要とする対象に、好適には、ウイルス感染可能な曝露よりおおよそ1~3日前に、例えば、1日最大で1~4回、毎日投与してもよい。
【0077】
ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療方法において、それを必要とする対象への液体医薬製剤の最初の投与は、好適には、ウイルス感染への曝露から72時間以内、好適には48時間以内に行ってもよい。治療投与は、通常3~10日間、例えば5~10日間行ってもよい。
【0078】
本明細書に記載の方法においては、本液体医薬製剤は、1日1~4回の頻度で投与し得る。
【0079】
本明細書に記載の方法における使用のための、投与当たりの液体医薬製剤の好適な用量は、当業者によって決定し得る治療的又は予防的な有効量である。
【0080】
好適には、本明細書に記載の治療又は予防は、哺乳動物、特にヒトにおけるウイルス感染症又は疾患の治療又は予防のためのものである。
【0081】
本発明の別の態様は、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤に関する。好適には該製剤は水性製剤である。界面活性剤の好適な量及び濃度は上述されている。このような製剤は、ウイルス感染症又はウイルス感染関連疾患の治療又は予防における使用のためのものでもよい。本発明は又、それを必要とする対象へ、治療的又は予防的な有効量の該医薬製剤を投与することを含む、該感染/疾患の治療方法又は予防方法を提供する。本発明は又、肺又は鼻への局所的投与のための、及び特にウイルスによる感染症又はそのようなウイルスでの感染関連疾患の治療又は予防のための、医薬品の製造のための本明細書に記載の本製剤の使用を提供する。感染/疾患の例は上述されており、SARS-CoV-2/COVID-19及びインフルエンザウイルス感染症/インフルエンザが含まれる。製剤は、例えば経口吸入により肺へ局所的に、又は鼻へ局所的に投与し得る。
【0082】
本明細書で使用される「対象」は、好適にはヒト対象である。
【0083】
曝露後のウイルス感染症の治療処置は、疾患の予防へ導き得るため、ウイルス感染症の「治療」には、曝露後のウイルス感染関連疾患の予防が含まれる。
【0084】
本発明の製剤において、界面活性剤(複数可)及び抗ウイルス剤は、共製剤化された場合に望ましい医薬的及び生物学的特性を有する。しかし又、本製剤の成分は、別々の製剤で共投与されてもよい。従って、本発明は又、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤であって、抗ウイルス剤を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤と組み合せた使用のための液体医薬製剤を提供するものであり、それによって、界面活性剤成分を含む製剤及び抗ウイルス剤を含む製剤が共投与される。本発明は又、ウイルス感染症又はウイルスによる感染関連疾患又はそのようなウイルスでの感染関連疾患の治療方法又は予防方法であって、(i)オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩、並びに、オレイン酸又はその医薬として許容し得る塩及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物、からなる群から選択される界面活性剤成分を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤、並びに(ii)抗ウイルス剤を含む、肺又は鼻への局所的投与に適した液体医薬製剤を共投与することを含む、前記方法を提供する。
製剤は、例えば経口吸入により肺へ局所的に、又は鼻へ局所的に投与してもよい。この文脈における「共投与」とは、2つの製剤が、本質的に同じ時間に、例えば互いに同時又は数秒(例えば1~3秒)以内に投与されることを意味する。
【実施例
【0085】
(実施例)
本明細書で使用する略語を、下記に定義する(表1)。定義されていない略語は、それらの一般的に受け入れられている意味を伝えることを意図している。
(表1:略語)
【表1】
【0086】
(材料)
全ての出発材料及び溶媒は、市販品から得た。
【0087】
(実施例1A:鼻腔スプレー装置を用いた鼻への投与のためのアピリモドの液体医薬製剤の例)
下記水性懸濁製剤を調製し得る。
【表2】
【0088】
製剤は、ウイルス感染症、例えばSARS-CoV-2による感染症の予防又は治療のために、鼻腔スプレー装置を用いて鼻へ(例えば、鼻孔当たりスプレー量100 μL、1~2スプレー)投与してもよい。
【0089】
(実施例1B:鼻腔スプレー装置を用いた鼻への投与のためのザナミビルの液体医薬製剤の例)
下記水性懸濁製剤を調製し得る。
【表3】
【0090】
製剤は、ウイルス感染症、例えばインフルエンザによる感染症の予防又は治療のために、鼻腔スプレー装置を用いて鼻へ(例えば、鼻孔当たりスプレー量100 μL、1~2スプレー)投与してもよい。
【0091】
(実施例2:SARS-CoV-2に感染した気液界面(ALI)培養ヒト上皮細胞におけるウイルス量及び細胞完全性の評価-アピリモドを用いた研究)
(実験方法)
ヒトの鼻腔、気管、及び気管支の初代上皮細胞は、気液界面(ALI)で培養して分化させ、繊毛細胞、杯細胞、クラブ細胞、及び基底細胞から構成され、インビボでの細胞組織を忠実に反映した配置を有する、偽重層粘膜繊毛様気道上皮を形成することができる。ALIで培養した、このヒト気道上皮(HAE)のインビトロモデル(HAE-ALI)は、感染した上気道及び下気道でインビボ観察される、呼吸器系ウイルス-宿主細胞相互作用の多くの重要な特徴を忠実に再現しており、SARS-CoV-2を含む多くのヒト呼吸器系ウイルスの研究に使用されてきた。とりわけ、ALIでの分化は、頂端膜上のウイルス受容体ACE2の発現及び極性提示を劇的に増加させるだけでなく、TMPRSS 2の発現も高レベルになる。そのため、HAE-ALIはインビトロでSARS-CoV-2感染症を研究するために最適な細胞培養モデルである。
【0092】
ALI培養してプールしたドナーのヒト鼻腔上皮(Epithelix Sarl社(スイス国、ジュネーブ)より提供)を、製造者の指示に従ってCostar Transwellインサート(Corning社、米国、ニューヨーク州)内でMucilAir(商標)培地を用いて気液界面で維持し、先に報告されているように(Pizzornoらの文献, 2020, Cell Rep Med.1(4):100059)、SARS-CoV-2感染(VirNext社、リヨン大学)のために使用した。0日目に、SARS-CoV-2接種物(BetaCoV/France/IDF0571/2020株(受託ID EPI_ISL_411218)、100μL;MucilAir培養液で希釈して、最終感染多重度MOIを0.1にしたもの)を頂端面に1時間添加した(37℃/5% CO2)。ウイルス接種物を除去し、インサートを滅菌PBS(Ca2+/Mg2+含有)で洗浄した。
【0093】
図1に示すように、ALI培養物に、水に溶解させたアピリモド(メシル酸塩として)(2 mg/ml、50 μL)、界面活性剤(0.15 % w/wポリソルベート80及び0.2 % w/wオレイン酸)、又はアピリモド(メシル酸塩として)及び界面活性剤を、ウイルス接種の10分前に、そして更に0日目にウイルス接種物とともに60分間、頂端部側に投与し(その後、上述のとおりウイルス接種物とともに除去し)、そして同様に、1日目(接種後24時間)に頂端面に10分間再適用してから除去した。ビヒクル処理(水)を、各ウェルが同じ回数の操作を受けるように、対応する頂端面上で行った。更に、0日目及び1日目にレムデシビル(5μM)を基底部側チャンバに添加した。2日目(ウイルス接種後48時間)に、OptiMEM(商標)培地200 μLを各ウェルの頂端面に10分間(-80℃で保存した)添加することにより、サンプリングを行った。
【0094】
ウイルス量は、Pizzornoらの文献(Cell Rep Med.1(4):100059、2020)で報告されたように、RT-PCRで定量化した。QIAamp Viral RNA ミニキット(Qiagen社)を用いて、上清を溶解してウイルスRNAを抽出できる。ウイルスRNAはRT-qPCR(Express One-Step Superscript(商標)qRT-PCR kit、Invitrogen社)により定量できる。ウイルスゲノムの定量化に使用したSARS-CoV-2特異的プライマー及びプローブは下記の通りである:ターゲット ORF1b-nsp14 フォワードプライマー(HKU-ORF1b-nsp14F)
【化2】
リバースプライマー(HKU-ORF1b-nsp14R)
【化3】
プローブ(HKU-ORF1b-nsp141P)
【化4】
。Ctデータを決定し、遺伝子発現の相対的変化を2-ΔCt法を用いて計算し、ビヒクル処理した感染対照の平均値に対するゲノムコピー数(SARS-CoV-2のORF1b-nsp14遺伝子)の減少倍数として示した。
【0095】
経上皮電気抵抗(TEER)を測定し、気液界面培養された偽重層上皮のタイトジャンクション動態完全性を、SARS-CoV-2感染の前後の上皮損傷の指標として調査した。チョップスティック型電極を頂端部側チャンバ及び基底部側チャンバ内に設置し、TEERを専用のボルトオームメーター(TEER用EVOM2、上皮ボルト/オームメーター)を用いて測定し、オーム/cm2で表示した。
【0096】
(結果)
高レベルのSARS-CoV-2複製が、接種48時間後のウイルス対照からの頂端部洗浄液(RT-PCR:Ct=12.1)に検出された。各処置のウイルス量をモック対照(=1)のそれと比較すると、アピリモド単独ではウイルス量のわずかな効果(0.1 Log低下)しか示さず、界面活性剤ではウイルス量の1.3 Log低下を示した。しかし、アピリモド及び界面活性剤の組み合せは、ウイルス量の低下における相乗効果を示し、ウイルス感染の対照と比較して2.2 Log低下を導いた(図2参照)。アッセイ対照であるレムデシビル(5μM)は、文献(Pizzornoらの文献、2020, Cell Rep Med.1(4):100059)から予測された通り、ウイルス量の3.4 Log低下を示した。
【0097】
SARS-CoV-2感染は、ビヒクル処理したウイルス感染対照において、ウイルス接種後48時間のTEER値を有意に低下させた。ウイルスによる上皮の急速な損傷は、明確なタイトジャンクションが存在しない免疫組織化学結果によりゾニューラ・オクルディン-1(ZO-1)発現が消滅したこと、及び、繊毛が部分的に消失していることで実証された(Haoらの文献、2020, mBio, 11(6):e02852-20)。対照的に、アピリモド単独は、ウイルスが誘導するTEERの低下の一部阻害を示した(48%の効果)。しかし、界面活性剤、並びにアピリモド及び界面活性剤の組み合せは、TEERを完全に回復させただけでなく、TEERレベルを更に上昇させた(図3参照)。従って、これらによる処置は、ウイルスが誘導する細胞損傷から保護し、そして更に細胞修復又は細胞増殖によって上皮バリアを強化した。アッセイ対照であるレムデシビル(5μM)も又、文献(Pizzornoらの文献、2020, Cell Rep Med.1(4):100059)から予測された通り、81%保護した。
【0098】
抗ウイルス効果を、気液培養したヒト初代鼻腔上皮細胞を用いて評価した。この細胞は広範な粘膜繊毛分化を経た結果、正常なヒト鼻腔上皮で観察されるものと類似した形態学的特徴を持つ培養物を生じた。その結果、この細胞モデルは、ヒト鼻腔におけるSARS-CoV-2感染を厳密に模倣する。
【0099】
(実施例3:SARS-CoV-2に感染した気液界面(ALI)培養ヒト上皮細胞におけるウイルス量及び細胞完全性の評価-オセルタミビルカルボキシレートを用いた研究)
(実験方法)
ALI培養してプールしたドナーのヒト鼻腔上皮(Epithelix Sarl社(スイス、ジュネーブ)より取得)を、製造者の指示に従ってCostar Transwellインサート(Corning社、米国、ニューヨーク州)内でMucilAir(商標)培地を用いて気液界面で維持した。0日目に、H1N1 接種物(A/Switzerland/7717739/2013(H1N1)株、100μL;MucilAir培養液で希釈して4.85E3 ゲノムコピー数/mlにしたもの)を頂端面に1.5時間添加した(34℃/5% CO2)。ウイルス接種物を除去し、インサートを滅菌培養液で洗浄した。
【0100】
ALI培養物に、オセルタミビルカルボキシレート(1 μM)、界面活性剤(0.15 % ポリソルベート80及び0.2 % オレイン酸)、又は界面活性剤中のオセルタミビルカルボキシレートを、ウイルス接種の10分前に、そして更に0日目にウイルス接種物とともに90分間、頂端部側に投与し(その後、上述のウイルス接種物とともに除去し)、そして同様に、1日目(接種後24時間)に頂端面に10分間再適用してから除去した。ビヒクル処理(水)を、各ウェルが同じ回数の操作を受けるように、対応する頂端面上に行った。更に、0日目にオセルタミビルカルボキシレート(10 μM)を基底部側チャンバに添加した。1日目及び2日目(ウイルス接種後24時間及び48時間)に、培地200 μLを各ウェルの頂端面に20分間(-80℃で保存した)添加することにより、サンプリングを行った。オセルタミビルカルボキシレートは、市販品タミフル(登録商標)(オセルタミビルリン酸塩)の活性成分であるオセルタミビルの活性な代謝産物であり、投与後にインビボで生成される。
【0101】
QIAamp 96 virus QUAcube HTキット(Qiagen社)を用いて、上清を溶解してウイルスRNAを抽出した。ウイルスRNAは、qTOWER3検出システムを備えたRT-qPCR(QuantiTect Probe RT-PCR、Qiagen社)により定量できる。Ctデータを標準曲線に対して記録し、ゲノムコピー数/mlとして示した。経上皮電気抵抗(TEER)を、上記の通り測定した。
【0102】
(結果)
高レベルのH1N1複製が、接種24時間後のウイルス対照からの頂端部洗浄液に検出された。各処置のウイルス量をモック対照のそれと比較すると、オセルタミビルカルボキシレート単独ではウイルス量のわずかな効果(1.0 Log低下)しか示さず、界面活性剤ではウイルス量の低下は示されなかった。しかし、オセルタミビルカルボキシレート及び界面活性剤の組み合せは、ウイルス量の低下における相乗効果を示し、ウイルス感染の対照と比較して2.2 Log低下を導いた(図4参照)。アッセイ対照であるオセルタミビルカルボキシレート(10 μM、基底部側チャンバ内)は、ウイルス量の1.7 Log低下を示した。
【0103】
H1N1感染は、非感染対照と比較して、感染後24時間の経上皮電気抵抗(TEER:上皮完全性の指標として)値をわずかに低下させただけだったが、感染後48時間には非常に低下させた。感染後48時間では、オセルタミビルカルボキシレート単独は、H1N1によって低下したTEERレベルを完全に回復させ、界面活性剤単独は、TEERレベルを部分的に回復させたが、オセルタミビルカルボキシレート及び界面活性剤の組み合せは、TEERレベルを更に上昇させた(図5参照)。従って、これらの処置はウイルスが誘導する細胞損傷から保護し、そして更に、細胞修復又は細胞増殖によって上皮バリアを強化した。アッセイ対照であるオセルタミビルカルボキシレート(10 μM、基底側処理)も同様に、上皮完全性の損失に対して保護した。
【0104】
(生物学的データの概要)
アピリモド、界面活性剤及びそれらの組み合せのインビトロ抗ウイルス活性が、感染した鼻腔上皮におけるSARS-CoV-2ウイルス量の低下によって実証された。このアッセイシステムで、RT-PCRにより得られたウイルスゲノムの減少から、ウイルス複製の阻害が検出され、定量化された。界面活性剤は高度に活性であり、アピリモド及び界面活性剤の組み合せには、顕著かつ明白に相乗的な抗ウイルス効果があった。オセルタミビル及び界面活性剤の組み合せの優れた抗ウイルス効果も又、インフルエンザウイルス感染した鼻腔上皮において確認された。
【0105】
ビヒクル処理したウイルス感染対照では、SARS-CoV-2感染後又はインフルエンザ感染後の経上皮電気抵抗(TEER:上皮完全性の指標として)の値も又、有意に低下することが確認された。アピリモドの使用は、SARS-CoV-2が誘導するTEERの低下を部分的に阻害し、そして界面活性剤の使用、特にアピリモド及び界面活性剤の組み合せの使用は、SARS-CoV-2が誘導するTEERの低下を完全に阻害するか、又はTEERを上昇すらさせた。オセルタミビルカルボキシレート単独は、インフルエンザウイルス感染によって低下したTEERレベルを完全に回復させ、界面活性剤単独はTEERレベルを部分的に回復させたが、オセルタミビルカルボキシレート及び界面活性剤の組み合せはTEERレベルを更に上昇させた。これらの結果は、この処置がウイルスが誘導する細胞損傷から保護し、また細胞修復及び細胞増殖によってバリア完全性を増強することを示唆する。従って、この投与の治療効果及び予防効果の両方が明らかである。
【0106】
この結果は、本発明の、本明細書に記載のとおりオレイン酸を含む界面活性剤成分を含む液体医薬製剤、並びに特に、本明細書に記載のとおりオレイン酸を含む界面活性剤成分及びアピリモド又はオセルタミビルカルボキシレート等の抗ウイルス剤を含む液体医薬製剤は、肺又は鼻へ局所的に投与された時、SARS-CoV-2等のウイルス感染症及び、COVID-19又はインフルエンザ等のそれらの関連疾患の治療又は予防に有用であると予測されることを示す。
【0107】
SARS-CoV-2感染症においては、界面活性剤及び抗ウイルス剤、アピリモド及びオセルタミビルカルボキシレート、の組み合せがウイルス量の低下及びTEERの回復に最も強力であるが、界面活性剤単独でもウイルス量の低下及びTEERの回復に顕著な活性を有した。界面活性剤単独は又、インフルエンザウイルス感染症において、TEER回復の顕著な活性を有した。このTEER(バリア完全性の指標)の回復効果は、界面活性剤単独並びに界面活性剤及び抗ウイルス剤の組み合せを、ウイルス感染症を予防するため、及びウイルス感染症を治療するために使用することをサポートする。
【0108】
(参考文献)
【表4】
【0109】
(包括的宣言)
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、文脈上他に必要とされない限り、用語「comprise」、並びに「comprises」及び「comprising」等のバリエーションは、記載された整数、工程、整数群又は工程群を含むことを意味するが、他の整数、工程、整数群又は工程群を排除することを意図しないと理解されよう。本発明の明細書全体を通して言及された全ての特許、特許出願、及び参考文献は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。本発明は、上記に列挙された、好ましい及びより好ましい群、並びに、好適な及び更に好適な群、並びに、実施態様の群の全ての組み合せを包含する。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2024546179000001.xml
【国際調査報告】