(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】抗C3抗体及びその抗原結合性断片並びに眼科疾患又は眼疾患を処置するためのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20241210BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241210BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241210BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241210BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241210BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241210BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241210BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241210BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241210BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P27/02
A61K39/395 N
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538430
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2022087260
(87)【国際公開番号】W WO2023118312
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524237571
【氏名又は名称】ツェーデーエァ-ライフ アクチェンゲゼルシャフト
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ボラス レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】グプタ パンカジ
(72)【発明者】
【氏名】ヘーラー シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ユングミヒェル シュテファニ
(72)【発明者】
【氏名】ライズナー クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ラインドル ソフィーア
(72)【発明者】
【氏名】リヒレ フィリップ ローベルト
(72)【発明者】
【氏名】シャイフェレ ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ソビエライ アンナ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE10
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB31
4C085DD61
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA21
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、補体C3を標的にする抗体及びその断片に関する。より具体的には、抗C3抗体及び種々の疾患又は障害の処置のための使用方法が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
請求項1に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項3】
- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項4】
- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含み、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
請求項1~2のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項5】
- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項6】
a.それぞれ配列番号20及び配列番号21のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;
b.それぞれ配列番号22及び配列番号23のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;又は
c.それぞれ配列番号24及び配列番号25のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項7】
抗原結合性断片が、一本鎖可変断片(scFv)、Fab断片、Fab’断片、Fv断片、ダイアボディ及び低分子抗体模倣物からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項8】
前記抗原結合性断片が一本鎖可変断片(scFv)である、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項9】
抗原結合性断片が、配列番号26、27、28、29、30及び31からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む一本鎖断片である、請求項8に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項10】
配列番号47に記載のヒト補体C3の残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478からなる群から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項11】
配列番号47に記載のヒト補体C3のアミノ酸残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478の全てに結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の抗C3抗体又は抗原結合性断片である、請求項10又は11に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項13】
古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)を含む補体活性化の経路を阻害し得る、請求項1~12のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項14】
補体C3及びC3bに結合し得る、請求項1~13のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項15】
C3転換酵素の形成を妨げ得る、請求項1~14のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項16】
ブルッフ膜に浸透し得る、請求項1~15のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項17】
ヒトC3に、K
D<50nMで、好ましくはK
D<15nMで、好ましくはK
D<10nMで、好ましくはK
D<7nMで、好ましくはK
D<1nMで、好ましくはK
D<0.5nMで、好ましくはK
D<0.2nMで、好ましくはK
D<0.15nMで、好ましくはK
D<0.10nMで、好ましくはK
D<0.05nMで、好ましくはK
D<0.04nMで、又はより好ましくはK
D<0.03nMで結合する、請求項1~16のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項18】
ヒトC3bに、K
D<50nMで、好ましくはK
D<15nMで、好ましくはK
D<10nMで、好ましくはK
D<7nMで、好ましくはK
D<1nMで、好ましくはK
D<0.5nMで、好ましくはK
D<0.2nMで、好ましくはK
D<0.15nMで、好ましくはK
D<0.10nMで、又はより好ましくはK
D<0.05nMで結合する、請求項1~17のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項19】
C3及びC3bに対するおよそ同等の結合親和性を有する、請求項1~18のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項20】
C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する約10
-4M又はこれより弱い結合親和性を有する、請求項1~19のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項21】
C3及びC3bに対する結合親和性と比較して、C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する弱い結合親和性を有する、請求項1~19のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項22】
C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する結合親和性を有さない、請求項1~19のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項23】
C3転換酵素増幅ループを阻害し得る、請求項1~19のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項24】
脈絡膜C3活性を阻害し得る、請求項1~19のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項25】
医薬として使用するための、請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片。
【請求項26】
医薬の製造に使用するための、請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片。
【請求項27】
眼科疾患又は眼疾患を処置するため、又は予防するために使用するための、請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片。
【請求項28】
眼科疾患又は眼疾患を処置するため、又は予防するための医薬の製造に使用するための、請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片。
【請求項29】
前記疾患が、網膜症、未熟児網膜症などの増殖性網膜症(PR)、虚血性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)及び非増殖性糖尿病性網膜症を含む糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、糖尿病黄斑虚血(DMI)、萎縮型AMD及び滲出型AMDを含む加齢性黄斑変性(AMD)、地図状萎縮(GA)、網膜色素変性症、遺伝性網膜ジストロフィー、近視性変性、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、眼内炎、ブドウ膜炎、嚢胞様黄斑浮腫、任意の網膜疾患に続発する脈絡膜新生血管膜、視神経症、緑内障、網膜剥離、中毒性網膜症、放射線網膜症、外傷性網膜症、薬剤性網膜脈管障害、網膜血管新生、ポリープ状脈絡膜脈管障害、網膜血管炎、網膜毛細血管瘤、後水晶体線維増殖症、脈絡網膜炎、フックスジストロフィー、黄斑部毛細血管拡張症、アッシャー症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)並びにシュタルガルト疾患からなる群から選択される、請求項27又は28に記載の使用のための抗体又は抗原結合性断片。
【請求項30】
前記眼科疾患又は眼疾患が、加齢性黄斑変性、地図状萎縮、血管新生緑内障及び糖尿病性網膜症からなる群から選択される、請求項27~29のいずれか1項に記載の使用のための抗体又は抗原結合性断片。
【請求項31】
前記眼科疾患又は眼疾患が地図状萎縮である、請求項27~30のいずれか1項に記載の使用のための抗体又は抗原結合性断片。
【請求項32】
補体古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)の活性を阻害することによって、又は脈絡膜局在化補体C3の活性を阻害することによって眼科疾患又は眼疾患を処置するために使用するための、請求項27~31のいずれか1項に記載の使用のための抗体又は抗原結合性断片。
【請求項33】
請求項1~24のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片を使用して、生物学的試料において補体C3と関連する障害を診断する方法。
【請求項34】
請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項35】
請求項請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片をコードする1種又は複数種のポリヌクレオチド及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項36】
前記抗体又はその抗原結合性断片が、投与の非経口経路、静脈内経路、硝子体内経路又は皮下経路によって投与される、請求項1~24のいずれかに記載の抗体若しくはその抗原結合性断片又は請求項34に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記抗体又はその抗原結合性断片が硝子体内経路によって投与される、請求項1~24のいずれかに記載の抗体若しくはその抗原結合性断片又は請求項34に記載の医薬組成物。
【請求項38】
請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片をコードする、単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチド。
【請求項39】
- 配列番号20、配列番号22又は配列番号24に記載の重鎖可変領域をコードする配列、及び
- 配列番号21、配列番号23又は配列番号25に記載の軽鎖可変領域をコードする配列
を含む、請求項38に記載の単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチド。
【請求項40】
請求項38又は39に記載の単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項41】
請求項38若しくは39に記載の単離されたポリヌクレオチド若しくは複数のポリヌクレオチド又は請求項40に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項42】
a.請求項41に記載の宿主細胞を得ること、及び
b.宿主細胞を培養すること
を含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を産生するための方法。
【請求項43】
抗体又はその抗原結合性断片を回収すること及び精製することをさらに含む、請求項42に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補体C3を標的にする抗体及びその断片に一般に関する。より具体的には、抗C3抗体及びその抗原結合性断片並びに種々の疾患又は障害の処置のための使用方法が開示される。抗C3抗体を含む医薬組成物も開示される。
【背景技術】
【0002】
加齢性黄斑変性(AMD)は、2種の主なクラス、萎縮型AMD及び滲出型AMDに一般に分類される。萎縮型AMDは、非滲出性AMDとしても公知であり、黄斑領域におけるドルーゼン(黄色沈着物)の存在によって特徴付けられる。滲出型AMDは、滲出性AMD又は新生血管AMDとしても公知であり、黄斑の下の脈絡膜からの異常な血管の成長によって特徴付けられる。この過程は、脈絡膜血管新生とも呼ばれ、新たな血管は、網膜内及び周辺に血液などの体液を漏出する場合がある。
地図状萎縮(GA)は、萎縮性AMD又は進行型萎縮型AMDとしても公知であり、黄斑における網膜色素上皮(RPE)及び光受容体の減少によって特徴付けられるAMDの進行型である。GAが網膜中心窩に作用すると、不可逆的な視力低下が生じる。初期ステージのGAを有する患者は、視力が影響を受ける前に視覚機能の欠損を典型的には経験する。
地図状萎縮の根底にある病態生理は、完全には理解されていない;しかし、補体活性の調節不全が寄与要因であると考えられている。C3a、C5a、C5b-9及び補体因子H(CFH)が挙げられるいくつかの補体活性化産物は、対照と比較してGA患者の硝子体試料、ブルッフ膜及び脈絡膜の他の部分におけるレベルの上昇を示した。加えて、CD59などの補体インヒビター(膜侵襲複合体(MAC)形成の膜結合インヒビター)及び膜補助因子タンパク質(MCP)(補体I因子(CFI)に対する補助因子活性を有する膜結合補体制御因子)は、GAにおいてレベルの低下が報告された。
GAの処置における1つの大きな課題は、補体活性の観察された調節不全が網膜の深い層において生じることである。現在、許容される有効性並びに患者の受容性及びコンプライアンスを伴うGAに対する適切な処置はない。
地図状萎縮などの眼科疾患又は眼疾患を効率的に処置する、及びかかる疾患を罹患している患者において視覚を回復させるか、又は視覚の低下を予防するための新規で改善された治療アプローチに対する満たされていないニーズがまだある。
【発明の概要】
【0003】
生得的なヒトの系は、補体経路から構成される。補体経路は、自然免疫と獲得免疫とを橋渡しし;免疫複合体及び炎症性傷害の産生物を処分する、化膿性の細菌感染に対する防御として作用する。補体は、血漿及び細胞表面におけるカスケード反応に30個を超えるタンパク質が関与する系である。補体系及びその補体成分は、種々の免疫過程に関与する。例えば、終末複合体又は膜侵襲複合体(MAC)とも呼ばれる補体C5b-9複合体は、膜透過性損傷を誘導することによって細胞死において重要な役割を果たす。
3種の公知の活性化経路:古典、レクチン及び代替経路がある。3種全ての経路は、C3転換酵素によるC3の切断及びC5転換酵素によるC5の続く切断をもたらし、C3a、C3b、C5a及びC5bを放出する。
補体C3は、13個の異なるドメインから構成され、分子サイズ185キロダルトンの大きなタンパク質である。補体活性化の際に、C3は、様々な部位でのタンパク質分解性切断及び構造的修飾を受ける。C3由来断片は、様々なエフェクター機能を発揮し、3種の補体経路への増幅ループを刺激する転換酵素を形成する。誤解をさけるために、他に示されない限り、本明細書で使用される場合、C3は、UniProt P01024のヒトの補体成分3及びそのタンパク質をコードする核酸配列を指す。ヒト補体C3の配列は、配列番号47に示され、UniProt P01024においてオンラインで入手可能である。
【0004】
C3bは、天然C3に由来し、C3の切断によって形成される2個の要素の大きい方である。
古典経路及びレクチン経路C3転換酵素、C4bC2aは、完全長C3をC3bとアナフィラトキシンC3aとに切断する。代替経路もC3b及びC3aを生成するが、代替経路C3転換酵素、C3bBbを利用する。さらに、追加的なC3分解産生物は、補体経路において生成され得る。補体I因子(CFI)は、C3bをiC3bに持続的に不活性化し得る血漿セリンプロテアーゼである。次いでiC3bは、CFIによってさらなる断片(C3dg及びC3c)に切断される。追加的C3タンパク質分解性産生物、C3dは、補体受容体2(CR2)に結合し、B細胞の細胞周期管理において重要な役割を果たし得る。C3由来タンパク質産生物と共に、補体経路としては、限定はしないが、C1、C2、C4、C4b、C4a、C5、C5b、C5a、C6、C7、C8、C9、C1q、C1r、C1s、B因子、D因子、P因子、H因子、I因子、CD46(MCP)、CD55(DAF)、CD59(MAC-IP)、CR1(CD35)、CR2(CD21)、CR3、CR4、C3aR、C5aR1、C5aR2、CRIg、C4BPα鎖、C4BPβ鎖、フィコリン-1、マンノース結合レクチン(MBL)、MBL関連セリンプロテアーゼ-1(MASP-1)及びMBL関連セリンプロテアーゼ-2(MASP-2)が挙げられる。補体経路及び種々の補体経路成分は、Noris et al. Semin Nephrol. 2013; 33(6): 479-492にさらに詳細に記載されている。
【0005】
近年の研究は、補体成分C3及びC5がAMDを有する患者におけるドルーゼンの主な構成物であることを実証した。ドルーゼンを覆うRPE細胞におけるそれらの存在、並びに膜侵襲複合体(MAC)C5b-9及び他の急性期反応物タンパク質の存在は、補体活性化及びMACの形成を引き起こし得る過程に関与すると推測される。
GAを罹患している患者において、脈絡膜及び網膜における補体系の増大し、制御されていない活性化が、脈絡毛細管の破壊、RPE細胞及び光受容体の両方の損傷及び減少を生じることが示された。本発明者らは、網膜におけるC3の中和が代替補体経路の増幅ループを遮断し、それにより細胞毒性の膜侵襲複合体の生成及び炎症誘発性補体成分(C3a、C3b、iC3b、C5a)の生成を低減し、GAを罹患している患者の臨床転帰を改善すると仮定し、例示する。
しかし、限定はしないが、RPEなどの血液網膜バリアーが挙げられるいくつかのバリアーのために眼への治療剤の送達が制限されていることから、眼科疾患又は眼疾患を処置することは特に困難である。RPEに浸透し、眼の脈絡膜に進入する能力は、薬物の治療可能性を増強する。
この臨床的状況に対処するために、本発明者らは、眼の脈絡膜領域のRPE及びブルッフ膜に浸透し得、それにより脈絡膜領域において補体C3を標的にし得る新規抗体及びその断片を開発した。本発明の抗体及びその断片は、眼科疾患又は眼疾患を罹患している患者の臨床転帰を改善する特性の増強を示す。
【0006】
一態様では、本発明は、可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
一実施形態では、本発明は、
- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0007】
別の実施形態では、本発明は、
- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0008】
別の実施形態では、本発明は、
- 配列番号20のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、
- 配列番号22のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号23のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
別の実施形態では、本発明は、
- 配列番号24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0010】
一実施形態では、本発明は、配列番号20、22又は24のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び配列番号21、23又は25のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
さらなる実施形態では、本発明は、
a.それぞれ配列番号20及び配列番号21のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;
b.それぞれ配列番号22及び配列番号23のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;又は
c.それぞれ配列番号24及び配列番号25のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖
を含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、一本鎖可変断片(scFv)、Fab断片、Fab’断片、Fv断片、ダイアボディ、低分子抗体模倣物(small antibody mimetic)からなる群から選択される。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、ポリペプチドリンカーによって連結されている可変重鎖及び可変軽鎖を含むか、又はそれからなる一本鎖可変断片(scFv)である。scFvは、N末端からC末端に、可変軽鎖、リンカー及び可変重鎖を含み得るか、又はそれからなり得る。scFvは、N末端からC末端に、可変重鎖、リンカー及び可変軽鎖を含み得るか、又はそれからなり得る。リンカーは、配列番号43~46及び56~65から選択された、好ましくは配列番号46のポリペプチドを含み得る。
【0011】
代替的実施形態では、抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、単一ドメイン抗体、例えばsdAb、sdFv、ナノボディ、V-Nar及びVHHからなる群から選択される。この特定の実施形態では、前記抗C3抗体又はその抗原結合性断片は可変重鎖を含む。一実施形態では、前記可変重鎖は、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含む。別の実施形態では、前記可変重鎖は、配列番号20、22又は24のアミノ酸配列を含む。
一実施形態では、前記抗原結合性断片は、一本鎖可変断片(scFv)、より好ましくはヒト化scFvである。
さらなる実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号26、27、28、29、30及び31からなる群から選択される配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一性を有するポリペプチドを含む一本鎖可変断片である。
さらなる実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号26、27、28、29、30及び31からなる群から選択される1種の配列を含む一本鎖可変断片である。
【0012】
さらなる実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号26、27、28、29、30及び31からなる群から選択される1種の配列からなる一本鎖可変断片である。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)を含む補体活性化の経路を阻害し得る。ある特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、CP、LP及びAP補体経路の活性をおよそ同等に阻害し得る。例えば、非限定的に、抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、CP経路の活性を少なくとも80%阻害し得、LPの活性を少なくとも80%阻害し得、及びAPの活性を少なくとも80%阻害し得る。ある特定の実施形態では、CP、LP及びAP補体経路の活性の阻害は、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも約90%又は少なくとも約95%である。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、補体C3及びC3bに結合し得る。
【0013】
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3転換酵素転換酵素の形成を妨げ得る。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、ブルッフ膜に浸透し得る。
特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、ヒトC3に、KD<50nMで、好ましくはKD<15nMで、好ましくはKD<10nMで、好ましくはKD<7nMで、好ましくはKD<1nMで、好ましくはKD<0.5nMで、好ましくはKD<0.2nMで、好ましくはKD<0.15nMで、好ましくはKD<0.10nMで、好ましくはKD<0.05nMで、好ましくはKD<0.04nMで、より好ましくはKD<0.03nMで結合する。
別の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、ヒトC3bに、KD<50nMで、好ましくはKD<15nMで、好ましくはKD<10nMで、好ましくはKD<7nMで、好ましくはKD<1nMで、好ましくはKD<0.5nMで、好ましくはKD<0.2nMで、好ましくはKD<0.15nMで、好ましくはKD<0.10nMで、より好ましくはKD<0.05nMで結合する。
【0014】
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3及びC3bに対するおよそ同等の結合親和性を有する。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する約10-4M以下の(すなわち、弱い)結合親和性を有する。
さらなる実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3及びC3bに対する結合親和性と比較して、C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する弱い結合親和性を有する。
特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する結合親和性を有さない。本明細書で使用される場合、「結合親和性を有さない」は、限定はしないが、ELISAアッセイなどの当技術分野において公知の1種又は複数種の結合親和性アッセイを用いて、バックグラウンドと比較して検出可能な結合親和性がないことを指す。
ある特定の実施形態では、本発明の抗体は、C3転換酵素の形成を妨げる様式で補体C3に結合し得る。特定の実施形態では、本発明の抗体は、C3転換酵素の活性を阻害する。特定の実施形態では、本発明の抗体は、C3転換酵素増幅ループを阻害し得る。
【0015】
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、脈絡膜C3活性を阻害し得る。
ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は、以下に列挙する特性のために、他の治療と比較してGA又は他の眼科疾患若しくは眼疾患を処置することにおいてさらに良好な有効性及び安全性を有すると期待される。
好ましい実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、補体C3上のエピトープに結合し得、かかる結合はC3転換酵素の形成を妨げる。
一実施形態では、本発明は、配列番号47に記載のアミノ酸領域内の少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、配列番号48に記載のアミノ酸領域に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
一態様では、本発明は、配列番号47に記載のヒト補体C3のアミノ酸366~アミノ酸478の残基内の少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0016】
一実施形態では、本発明は、配列番号47に記載のヒト補体C3の残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478からなる群から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
一実施形態では、本発明は、配列番号47に記載のヒト補体C3のアミノ酸残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478の全てに結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
一態様では本発明は、医薬として使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
一実施形態では、本発明は、網膜疾患又は眼科疾患の処置又は予防に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。好ましくは、前記網膜疾患又は眼科疾患は、補体C3媒介疾患又は障害である。より好ましくは、前記疾患は、症状又は疾患の発症、進行又は持続がC3の関与を必要とするあらゆる障害を指す。
別の実施形態では、本発明は、それを必要とする患者に応じて抗体又は抗原結合性断片の薬学的有効量を投与することを含む、1種又は複数種の網膜疾患又は眼科疾患を処置するための方法に関する。
【0017】
一態様では、本発明は、眼科疾患又は眼疾患を処置するため、又は予防するための医薬の製造のための前記抗C3抗体又は前記その抗原結合性断片の使用を提供する。
一態様では、本発明は、網膜症、未熟児網膜症などの増殖性網膜症(PR)、虚血性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)及び非増殖性糖尿病性網膜症を含む糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、糖尿病黄斑虚血(DMI)、萎縮型AMD及び滲出型AMDを含む加齢性黄斑変性(AMD)、地図状萎縮(GA)、網膜色素変性症、遺伝性網膜ジストロフィー、近視性変性、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、眼内炎、ブドウ膜炎、嚢胞様黄斑浮腫、任意の網膜疾患に続発する脈絡膜新生血管膜、視神経症、緑内障、網膜剥離、中毒性網膜症、放射線網膜症、外傷性網膜症、薬剤性網膜脈管障害、網膜血管新生、ポリープ状脈絡膜脈管障害、網膜血管炎、網膜毛細血管瘤、後水晶体線維増殖症、脈絡網膜炎、フックスジストロフィー、黄斑部毛細血管拡張症、アッシャー症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)並びにシュタルガルト疾患からなる群から選択される疾患の処置又は予防に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0018】
別の実施形態では、本発明は、加齢性黄斑変性、地図状萎縮、血管新生緑内障及び糖尿病性網膜症からなる群から選択される疾患の処置又は予防に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。さらに好ましい実施形態では、本発明は、地図状萎縮の処置又は予防に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
一態様では、本発明の抗体は、補体古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)の活性を阻害する。それにより、本発明は、補体古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)の活性を阻害することによって眼科疾患又は眼疾患を処置する方法に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。本発明は、脈絡膜局在性補体C3の活性を阻害することによって補体C3媒介疾患又は障害を処置する方法に使用するための、上に記載の抗原結合性タンパク質又はその断片も提供する。
一実施形態では、本発明は、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片を使用して生物学的試料において補体C3と関連する障害を診断する方法を提供する。
一態様では、本発明は、抗C3抗体又は抗原結合性断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0019】
一実施形態では、本発明は、抗C3抗体若しくはその抗原結合性断片又は抗C3抗体若しくはその抗原結合性断片を含む医薬組成物であって、前記抗体又はその抗原結合性断片が、投与の非経口経路、静脈内経路、硝子体内経路(IVT)又は皮下経路によって、好ましくは硝子体内経路によって投与される、抗C3抗体若しくはその抗原結合性断片又は抗C3抗体若しくはその抗原結合性断片を含む医薬組成物を提供する。
一実施形態では、本発明は、本発明による抗体又は抗原結合性断片をコードする1種又は複数種のポリヌクレオチド及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
一実施形態では、本発明は、本発明による抗体又は抗原結合性断片をコードする単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドを提供する。
一態様では、本発明は、
- 配列番号20、配列番号22若しくは配列番号24に記載の重鎖可変領域をコードする配列、及び/又は
- 配列番号21、配列番号23若しくは配列番号25に記載の軽鎖可変領域をコードする配列
を含む、単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドを提供する。
【0020】
一態様では、本発明は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30又は配列番号31に記載のscFvをコードする配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。
一実施形態では、本発明は、配列番号20、配列番号22若しくは配列番号24に記載の重鎖可変領域をコードする配列、及び/又は配列番号21、配列番号23若しくは配列番号25に記載の軽鎖可変領域をコードする配列を含む単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
一実施形態では、本発明は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30又は配列番号31に記載のscFvをコードする配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
一実施形態では、本発明は、配列番号20、配列番号22若しくは配列番号24に記載の重鎖可変領域をコードする配列、及び/又は配列番号21、配列番号23若しくは配列番号25に記載の軽鎖可変領域をコードする配列を含む単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドを含むウイルスベクターを提供する。
一実施形態では、本発明は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30又は配列番号31に記載のscFvをコードする配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含むウイルスベクターを提供する。
【0021】
一実施形態では、本発明は、配列番号20、配列番号22若しくは配列番号24に記載の重鎖可変領域をコードする配列、及び/又は配列番号21、配列番号23若しくは配列番号25に記載の軽鎖可変領域をコードする配列を含む発現ベクター又は単離されたポリヌクレオチド若しくは複数のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。
一実施形態では、本発明は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30又は配列番号31に記載のscFvをコードする配列を含む発現ベクター又は単離されたポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。
一実施形態では、本発明は、配列番号20、配列番号22若しくは配列番号24に記載の重鎖可変領域をコードする配列、及び/又は配列番号21、配列番号23若しくは配列番号25に記載の軽鎖可変領域をコードする配列を含む発現ベクター又は単離されたポリヌクレオチド若しくは複数のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を得ること;並びに宿主細胞を培養することを含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を産生するための方法を提供する。
【0022】
一実施形態では、本発明は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30又は配列番号31に記載のscFvをコードする配列を含む発現ベクター又は単離されたポリヌクレオチドを含む宿主細胞を得ることを含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片産生するための方法を提供する。
一実施形態では、抗C3抗体又はその抗原結合性断片産生するための方法は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を回収すること及び精製することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】カニクイザルにおいてscFvを用いた等モルのIVT注射後の良好な網膜浸透を示す図である。
図1Aは、scFv硝子体内注射(40nmol scFv、ブロルシズマブ、1mg)の網膜曝露レベルを示す。データ出典、ブロルシズマブBLA。
図1Bは、Fab硝子体内注射(40nMol Fab、ラニビズマブ、2mg)の網膜曝露レベルを示す。データ出典:Invest Ophthalmol Vis Sci. 2005 Feb;46(2):726-33。
【
図2】クローンIのヒト補体C3への結合を例示する図である。
図2Aは、配列番号47に記載のC3配列の一部である配列番号55を示し、エピトープ残基は太字、下線付きである。
図2Bは、C3c:クローンI複合体のEM構造を示し、C3c構造は灰色で、scFv構造は黒色リボン表示でそれぞれ示されている。最終的なEMマップは、0.214のコンターレベル(contour level)で半透明の表面として示される。
【
図3】ブタブルッフ膜を通じたクローンI及び比較化合物A2のin vitro拡散を示す図である。拡散は、ウッシングチャンバーにおいて72時間にわたって測定され、ブルッフ膜を通じて拡散した化合物量は、化合物総量(試料チャンバー及び拡散チャンバー)と比較した拡散チャンバー中で測定された化合物として示される。化合物総量は、100%に設定された。
【
図4】ブタブルッフ膜を通じた比較化合物A3及び比較化合物A2のin vitro拡散を示す図である。拡散は、ウッシングチャンバーにおいて72時間にわたって測定され、ブルッフ膜を通じて拡散した化合物量は、化合物総量(試料チャンバー及び拡散チャンバー)と比較した拡散チャンバー中で測定された化合物として示される。化合物総量は、100%に設定された。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
抗体又は免疫グロブリンの一般的な構造は当業者に周知であり、これらの分子は、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる、典型的には約15万ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つのジスルフィド結合によって重鎖に共有結合してヘテロ二量体を形成しており、このヘテロ二量体の2つの同一の重鎖の間の共有結合によるジスルフィド結合を介して、ヘテロ三量体分子が形成されている。軽鎖及び重鎖は1つのジスルフィド結合によって共に連結されているが、2つの重鎖の間のジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのアイソタイプによって変化する。各重鎖及び軽鎖はまた、一定間隔の鎖内ジスルフィド架橋を有する。各重鎖はアミノ末端に、可変ドメイン(VH=重鎖可変領域)と、それに続く3つ又は4つの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3、及びCH4)、並びにCH1とCH2との間のヒンジ領域を有する。各軽鎖は、2つのドメイン、すなわち、アミノ末端の可変ドメイン(VL=軽鎖可変領域)及びカルボキシ末端の定常ドメイン(CL)を有する。VLドメインはVHドメインと非共有結合によって結びついており、一方、CLドメインは通常、ジスルフィド結合を介してCH1ドメインに共有結合している。特定のアミノ酸残基が軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の境界面を形成していると考えられている(Chothia et al., 1985, J. Mol. Biol. 186:651-663)
【0025】
可変ドメイン内のある特定のドメインは、異なる抗体の間で大きく異なり、すなわち「超可変」である。これら超可変ドメインは、それぞれの特定の抗体の、その特異的抗原決定基に対する結合及び特異性に直接関与する残基を有している。軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの両方における超可変性は、相補性決定領域(CDR)又は超可変ループ(HVL)として知られている3つのセグメントに集中している。CDRは、Kabat et al., 1991, In: Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.における配列の比較によって定義され、一方、HVLは、Chothia and Lesk, 1987, J. Mol. Biol. 196: 901-917によって記載されている可変ドメインの三次元構造に従って、構造的に定義される。
所与のCDR又はFRの正確なアミノ酸配列境界は、追加的命名法、例えば、Honegger A and Pluckthun A, “Yet another numbering scheme for immunoglobulin variable domains: an automatic modeling and analysis tool,” J Mol Biol, 2001 Jun. 8; 309(3):657-70に記載のAho番号付けスキーム又はLefranc M P et al., “IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains,” Dev Comp Immunol, 2003 January; 27(1):55-77に記載の「IMGT」番号付けスキーム)を使用してさらに決定され得る。
【0026】
重鎖及び軽鎖のそれぞれにおける3つのCDRは、フレームワーク領域(FR)によって隔てられており、このフレームワーク領域が有する配列は、あまり可変的でない傾向にある。重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインのアミノ末端からカルボキシ末端まで、FR及びCDRは、以下の順序で並んでいる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。FRの、大部分がβ-シートの立体構造は、鎖のそれぞれにおけるCDRを、互いに、また他の鎖のCDRに接近させる。それによって得られた立体構造は抗原結合部位に関与するが(Kabat et al., 1991, NIH Publ. No. 91-3242, Vol. I, pages 647-669を参照されたい)、全てのCDR残基が必ずしも抗原の結合に直接関与するわけではない。
FR残基及びIg定常ドメインは、抗原の結合に寄与し得、及び/又は抗体のエフェクター機能を媒介し得る。一部のFR残基は、エピトープに直接的に非共有結合すること、1つ又は複数のCDR残基と相互作用すること、及び重鎖と軽鎖との間の境界面に影響することの、少なくとも3つの方法によって、抗原の結合に大きな影響を与えると考えられている。定常ドメインは、抗原の結合に直接は関与しないが、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)、補体依存性細胞傷害性(CDC)及び抗体依存性細胞ファゴサイトーシス(ADCP)における抗体の関与などの、様々なIgエフェクター機能を媒介する。
【0027】
脊椎動物の免疫グロブリンの軽鎖は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、2つの明らかに区別されるクラス、すなわちカッパ(κ)及びラムダ(λ)のうちの1種に割り当てられる。比較することによって、哺乳動物の免疫グロブリンの重鎖は、定常ドメインの配列に従って、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMという5つの主要なクラスのうちの1種に割り当てられる。IgG及びIgAは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に、それぞれさらに分けられる。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、α、δ、ε、γ、及びμとそれぞれ呼ばれる。ネイティブな免疫グロブリンのクラスのサブユニット構造及び三次元立体配置は周知である。
用語「抗体」、「抗C3抗体」、「ヒト化抗C3抗体」及び「バリアントヒト化抗C3抗体」は、本明細書において最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)、並びに、所望の生物活性、例えばC3への結合を示す、可変ドメイン及び他の抗体部分などの抗体断片を包含する。
【0028】
用語「モノクローナル抗体」(mAb)は、実質的に均質な抗体の集団の抗体を指す。すなわち、その集団における個々の抗体は、わずかな量で存在し得る天然に存在する突然変異を除いて、同一である。モノクローナル抗体は非常に特異的であり、単一の抗原決定基「エピトープ」に対して向けられている。したがって、修飾語「モノクローナル」は、同一のエピトープに対して向けられている抗体の実質的に均質な集団を示しており、任意の特定の方法による抗体の産生を要すると解釈されるものではない。モノクローナル抗体が、例えば、ハイブリドーマ法(Kohler et al., 1975, Nature 256:495)、又は当技術分野において公知の組換えDNA法(例えば米国特許第4,816,567号を参照されたい)、又はClackson et al., 1991, Nature 352: 624-628、及びMarks et al., 1991, J. Mol. Biol. 222: 581-597において記載されている技術を使用するファージ抗体ライブラリーを使用して組換えによって産生されたモノクローナルの単離方法を含む、当技術分野において公知の任意の技術又は方法論によって作製され得ることが理解されるべきである。
【0029】
キメラ抗体は、1つの種(例えば、マウスなどの非ヒト哺乳動物)に由来する抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域、並びに別の種(例えばヒト)の抗体の重鎖定常領域及び軽鎖定常領域からなり、また、第1の種(例えばマウス)に由来する抗体の可変領域をコードするDNA配列を、第2の種(例えばヒト)に由来する抗体の定常領域のDNA配列に連結し、連結した配列を有する発現ベクターで宿主を形質転換して、宿主がキメラ抗体を産生できるようにすることによって得ることができる。或いは、キメラ抗体はまた、重鎖及び/又は軽鎖の1つ又は複数の領域又はドメインが、別の免疫グロブリンクラス若しくはアイソタイプ由来の又はコンセンサス配列若しくは生殖細胞配列由来のモノクローナル抗体における対応する配列と同一である、前記配列に相同である、又は前記配列のバリアントである、抗体であり得る。キメラ抗体には、このような抗体の断片がその親抗体の所望の生物活性、例えば、同一のエピトープへの結合を示す場合に限り、当該抗体断片が含まれ得る(例えば、米国特許第4,816,567号、及びMorrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 6851-6855を参照されたい)。
【0030】
用語「抗体断片」、「抗原結合性断片」、「抗C3抗体断片」、「ヒト化抗C3抗体断片」、「バリアントヒト化抗C3抗体断片」は、可変領域又は機能的能力、例えば特異的なC3エピトープ結合が保持されている、完全長抗C3抗体の一部分を指す。抗体断片又は抗原結合性断片の例としては、限定はしないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fv、scFv及びscFv-Fc断片、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体、ミニボディ、抗体断片から形成されたダイアボディ、単一ドメイン抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ、VHH)断片並びに抗体断片から形成された多重特異的抗体が含まれる。
完全長抗体は、パパイン又はペプシンなどの酵素で処理して、有用な抗体断片を生成させることができる。パパイン消化を使用すると、それぞれが単一の抗原結合部位を有する「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合抗体断片、及び残りの「Fc」断片が生じる。Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖のCH1ドメインを有する。ペプシン処理では、2つの抗原結合部位を有し、かつ依然として抗原を架橋し得る、F(ab’)2断片が得られる。
【0031】
Fab’断片は、CH1ドメインのC末端にある抗体ヒンジ領域の1つ又は複数のシステインを含むさらなる残基の存在によって、Fab断片と異なる。F(ab’)2抗体断片は、ヒンジ領域内のシステイン残基によって連結されているFab’断片の対である。抗体断片の他の化学結合もまた公知である。
「Fv」断片は、固い非共有結合で結びついた1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる、完全な抗原認識及び結合部位を有する。この立体構造において、各可変ドメインの3つのCDRは相互作用して、VH-VL二量体の表面上に抗原結合部位を規定する。集合的に、6つのCDRは、抗原結合特異性を抗体に付与する。
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメイン及びVLドメインを含む一本鎖Fvバリアントであり、ここでこれらドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在する。一本鎖Fvは抗原を認識し得、これを結合し得る。scFvポリペプチドは、scFvによる抗原結合のための所望の三次元構造の形成を容易にするための、VHドメインとVLドメインとの間に位置するポリペプチドリンカーも必要に応じて有し得る(例えば、Pluckthun, 1994, In The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315を参照されたい)。かかるリンカーとしては、限定はしないが、反復GGGGSアミノ酸配列(配列番号43)又はそのバリアントが含まれる。かかるscFv分子は、一般構造:NH2-VL-リンカー-VH-COOH又はNH2-VH-リンカー-VL-COOHを有し得る。scFvは、抗体定常ドメイン領域を一般に含まないが、本発明のscFvは、限定はしないが、血清又は組織半減期の増大が挙げられるscFvの種々の特性を変更するために抗体定常ドメイン領域(例えば、抗体Fcドメイン)に連結又は付着され得る。scFvは、約25kDaの分子量及び約2.5nMの流体力学的半径(hydrodynamic radius)を一般に有する。
【0032】
一実施形態では、本発明の抗体及び抗体断片は、一本鎖抗体(scFv)又はFab断片である。scFv抗体のケースでは、選択されたVLドメインは、選択されたVHドメインに可動性リンカーによっていずれかの方向で連結され得る。本明細書において想定される可動性リンカーは、長さ少なくとも1アミノ酸のペプチド又はポリペプチドリンカーである。好ましくはリンカーは、長さ1~100アミノ酸である。より好ましくはリンカーは、長さ5~50アミノ酸、より好ましくは長さ10~40アミノ酸であり、さらにより好ましくはリンカーは、長さ15~30アミノ酸である。しばしば使用される低分子リンカーの非限定的例としては、GSミニリンカーと呼ばれるグリシン及びセリンアミノ酸の配列が挙げられる。リンカー配列の好ましい例は、(gly4ser)3(配列番号45)、(gly4ser)4(配列番号46)、(gly4ser)(配列番号44)、(gly3ser)(配列番号56)、gly3及び(gly3ser2)3(配列番号65)が挙げられる(glyxsery)zリンカーなどの様々な長さのGly/Serリンカーである。これらのリンカー中のアミノ酸の数は、変動する場合があり、例えば、それらは、4(例えば、GGGS)(配列番号56)、6(例えば、GGSGGS)(配列番号57)、7(例えば、GGGSGGS)(配列番号58)又はこれらの倍数、例えば、これら4、6若しくは7アミノ酸の2回又は3回以上の反復などであり得る。一実施形態では、本発明の抗体は、配列番号43(GGGGS)、配列番号44(GGGGSGGGGS)、配列番号45(GGGGSGGGGSGGGGS)及び配列番号46(GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)に記載の配列からなる群から選択されるリンカーを含む。特定の実施形態では、前記リンカーは、配列番号46である。前記リンカーは、Holliger et al. (1993), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448に記載のバリアントでもあり得る。本発明のために使用され得る他のリンカーは、Alfthan et al. (1995)、Protein Eng. 8:725-731、Choi et al. (2001), Eur. J. Immunol. 31:94-106、Hu et al. (1996), Cancer Res. 56:3055-3061、Kipriyanov et al. (1999), J. Mol. Biol. 293:41-56及びRoovers et al. (2001), Cancer Immunol. Immunother. 50:51-59によって記載されている。リンカーのさらなる例としては、以下の:7GSリンカー:SGGSGGS(配列番号59);8GSリンカー:9GSリンカー:GGGGSGGGS(配列番号60);18GSリンカー:GGGGSGGGGSGGGGGGGS(配列番号61);25GSリンカー:GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号62);30GSリンカー:GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号63);及び35GSリンカー:GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号64)が挙げられる。
【0033】
本開示によるscFvにおいて、VL及びVHの配置は、VL-リンカー-VH又はVH-リンカー-VLのいずれであってもよく、前者の方向が好ましいものである。しかし、単一VH又はVLドメイン抗体も検討される。Fab断片のケースでは、選択された軽鎖可変ドメインVLは、ヒトIgカッパ鎖の定常領域に融合され、一方、好適な重鎖可変ドメインVHは、ヒトIgGの第1の(N末端)定常ドメインCH1に融合される。定常ドメインのC末端で、又は可変ドメイン若しくは定常ドメインの他の部位で、鎖間ジスルフィド架橋が形成されてもよい。
本明細書で使用される場合、「VHH」、「ナノボディ」又は「重鎖抗体」は、ラクダ、ラマ、アルパカを含むラクダ科の種由来の単一の重鎖可変ドメインを含む抗原結合性タンパク質である。VHHは、約15kDaの分子量を一般に有する。
他の認識される抗体断片としては、抗原結合領域対を形成するためのタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)の対を含むものが含まれる。これら「直鎖状抗体」は、例えばZapata et al. 1995, Protein Eng. 8(10):1057-1062において記載されているように、二重特異的又は単一特異的であり得る。
ヒト化抗体又はヒト化抗体断片は、特定のタイプのキメラ抗体であるが、これには、所定の抗原に結合し得、かつ、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を実質的に有している1つ又は複数のFR、及び非ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を実質的に有している1つ又は複数のCDRを含む免疫グロブリンアミノ酸配列バリアント又はこの断片が含まれる。「移入」配列としばしば呼ばれるこの非ヒトアミノ酸配列は、典型的には、「移入」抗体ドメイン、特に可変ドメインに由来する。通常、ヒト化抗体は、ヒト重鎖又は軽鎖の可変ドメインのFRの間に挿入されている、非ヒト抗体の少なくともCDR又はHVLを含む。
【0034】
本発明は、マウス、ウサギ、ラマ又はキメラ抗体に由来し、ヒト生殖細胞系配列重鎖及び軽鎖可変ドメインのFRの間に挿入されたCDRを含有する特定のヒト化抗C3抗体を記載する。ある特定の非ヒトFR残基(例えば、マウス、ウサギ、ラマ又はキメラ抗体など由来)が、ヒト化抗体の機能に重要である場合があり、それによりある特定のヒト生殖細胞系配列重鎖及び軽鎖可変ドメイン残基が、対応する非ヒト配列のものと同じであるように改変されることは理解される。
本明細書で使用される場合、「本発明の抗体」及び「本発明の抗C3抗体」という表現は、本明細書において記載されるC3に対して向けられた抗体又はその抗原結合性断片を指す。一実施形態では、本発明の前記抗体はscFvである。具体的な実施形態では、本発明の抗体は、可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含み、ここでVHは、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにここでVLは、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む。
【0035】
一実施形態では、本発明は、ヒト化抗C3抗体又はその断片に関する。ヒト化抗体は、CDRの全て又はほぼ全てが非ヒト免疫グロブリンのCDRに対応する、少なくとも1つ、及び典型的には2つの可変ドメイン(例えばFab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fabc断片、及びFv断片に含まれている)のほぼ全てを含み、また、本明細書において具体的には、CDRは、ウサギ由来のものであり、FRは、ヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列又は生殖細胞系配列のFRである。別の態様では、ヒト化抗C3抗体はまた、免疫グロブリンFc領域の、典型的にはヒト免疫グロブリンのFc領域の、少なくとも一部分を含む。通常、抗体は、軽鎖と、重鎖の少なくとも可変ドメインとの両方を有する。抗体はまた、必要に応じて、重鎖のCH1領域、ヒンジ領域、CH2領域、CH3領域、及び/又はCH4領域の1つ又は複数を含み得る。
ヒト化抗C3抗体は、IgM、IgG、IgD、IgA、及びIgEを含む免疫グロブリンのあらゆるクラス、並びにIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2を含むあらゆるアイソタイプから選択され得る。例えば、定常ドメインは、ヒト化抗体が細胞傷害活性を示すことが望ましい場合には補体固定定常ドメインであり得、アイソタイプは典型的にはIgG1である。このような細胞傷害活性が望ましくない場合には、定常ドメインは、別のアイソタイプ、例えばIgG2のもの又は細胞傷害活性を欠いている、例えば、突然変異N297A又はL234AをL235Aと共に含有する改変IgG1配列であり得る。代替的なヒト化抗C3抗体は、2つ以上の免疫グロブリンクラス又はアイソタイプに由来する配列を含み得、所望のエフェクター機能を最適化するための特定の定常ドメインの選択は、当技術分野における通常の技術の範囲内である。具体的な実施形態では、本発明は、IgG1抗体、より詳細にはエフェクター機能の低減によって特徴付けられるIgG1抗体である抗体を提供する。
【0036】
ヒト化抗C3抗体又はscFvを含むその断片のFR及びCDR、又はHVLは、親配列に正確に対応する必要はない。例えば、移入CDR若しくはHVL、又はコンセンサス若しくは生殖細胞系FR配列における1つ又は複数の残基は、その結果生じるアミノ酸残基がいずれかの親配列における対応する位置にあるオリジナルの残基ともはや同一ではないが、それでも抗体がC3への結合機能を保持しているような、置換、挿入、又は欠失によって、改変されていてよい(例えば、突然変異生成されていてよい)。このような改変は、典型的には、大きいものではなく、保存的な改変である。通常、ヒト化抗体残基の少なくとも75%が、より頻繁には少なくとも90%、及び最も頻繁には95%超、又は98%超、又は99%超が、親コンセンサス又は生殖細胞系FR及び移入CDR配列の残基に対応する。
【0037】
用語「コンセンサス配列」及び「コンセンサス抗体」は、あらゆる特定のクラス、アイソタイプ、又はサブユニット構造の全ての免疫グロブリンにおける各位置の、例えばヒト免疫グロブリン可変ドメインの、最も頻繁に生じているアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を指す。コンセンサス配列は、特定の種又は多くの種の免疫グロブリンに基づき得る。「コンセンサス」配列、構造、又は抗体は、ある特定の実施形態で記載されているようなコンセンサスヒト配列を包含すること、及び、あらゆる特定のクラス、アイソタイプ、又はサブユニット構造の全てのヒト免疫グロブリンにおける各位置の最も頻繁に生じているアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を指すことが理解される。したがって、コンセンサス配列は、各位置で、1つ又は複数の既知の免疫グロブリンに存在するアミノ酸を有するアミノ酸配列を有するが、任意の単一の免疫グロブリンのアミノ酸配列全体を正確に複製したものでなくてもよい。可変領域のコンセンサス配列は、いかなる天然に産生される抗体又は免疫グロブリンからも得られない。Kabat et al., 1991, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.。重鎖及び軽鎖のコンセンサス配列のFR、並びにこれらのバリアントは、ヒト化抗C3抗体の調製に有用な配列を提供する。例えば、米国特許第6,037,454号及び米国特許第6,054,297号を参照されたい。
【0038】
ヒト生殖細胞系配列は、ヒト集団において天然に見られる。ヒト生殖細胞系配列は、可変(V)、多様性(D)及び連結(J)遺伝子セグメントによってコードされる抗体タンパク質分子に対応し、これらは再編成され、組換え遺伝子を形成する。VDJ組換えは、生殖細胞系レパートリーとして公知の、多いが究極的には有限の数の未変異抗体タンパク質の生成をもたらす。これら生殖細胞系遺伝子の組合せによって、抗体の多様性が生じる。抗体の軽鎖のための生殖細胞系抗体配列は、保存されたヒト生殖細胞系カッパ又はラムダv遺伝子及びj遺伝子に由来する。同様に、重鎖配列は、生殖細胞系v遺伝子、d遺伝子、及びj遺伝子に由来する(LeFranc, M-P, and LeFranc, G, “The Immunoglobulin Facts Book” Academic Press, 2001)。
「単離された」抗体は、その天然の環境の成分から同定され、分離され、かつ/又は回収されている抗体である。抗体の天然環境の夾雑成分は、抗体の診断的使用又は治療的使用に干渉し得る夾雑物質であり、酵素、ホルモン、又は他のタンパク質性若しくは非タンパク質性の溶質であり得る。一態様では、抗体は、抗体重量あたり少なくとも95%を超える単離まで精製される。
【0039】
用語「抗体の性能」は、in vivoでの抗体の抗原認識又は抗体の有効性に寄与する因子/特性を指す。好ましい実施形態では、それは、網膜細胞において細胞骨格の崩壊を妨げる抗体の能力を指す。抗体のアミノ酸配列における変化は、フォールディングなどの抗体の特性に影響し得、また、抗原への最初の抗体結合率(ka)、抗原からの抗体の解離定数(kd)、抗原に対する抗体の親和定数(Kd)、抗体の立体構造、タンパク質の安定性、及び抗体の半減期などの物理的因子に影響し得る。本明細書で使用される場合、用語「親和性」は、抗体の抗原結合部位とそれが結合するエピトープとの間の相互作用の強度を指す。当業者によって容易に理解される通り、抗体又は抗原結合性タンパク質親和性は、モル濃度(M)での解離定数(KD)として報告され得る。特定の抗原決定基に結合する抗原結合ドメインの能力は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)又は当業者によく知られている他の技術、例えば25℃で実施される表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore装置で分析される)(Liljeblad et al., Glyco J 17, 323-329 (2000))及び伝統的結合アッセイ(Heeley, Endocr Res 28, 217-229 (2002))などを通じて測定され得る。
【0040】
本明細書で使用される場合、2つの以上の核酸又はポリペプチド配列の文脈における用語「同一」又は「パーセント同一性」は、最大の対応となるように比較及びアラインした場合に同一の、又は特定のパーセンテージの同一ヌクレオチド若しくは同一アミノ酸残基を有する、2つの以上の配列又は部分配列を指す。パーセント同一性を決定するために、配列は、最適な比較を目的としてアラインされる(例えば、第2のアミノ酸配列又は核酸配列との最適なアラインメントのために、ギャップを、第1のアミノ酸配列又は核酸配列の配列に導入することができる)。対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置にあるアミノ酸残基又はヌクレオチドが次いで比較される。第1の配列内の位置に、第2の配列における対応する位置と同一のアミノ酸残基又はヌクレオチドが存在する場合は、分子はその位置で同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、配列が共有する同一の位置の数の関数である(すなわち、同一性%=同一の位置の数/位置の総数(例えば、オーバーラップしている位置)×100)。一部の実施形態では、比較される2つの配列は、任意に必要に応じてギャップを配列内に導入した後に、同一の長さである(例えば、比較対象の配列を超えて延びている追加の配列は排除する)。例えば、可変領域配列を比較する場合、リーダー配列及び/又は定常ドメイン配列は考慮されない。2つの配列間での配列比較では、「対応する」CDRは、両配列における同一の位置にあるCDR(例えば、各配列のCDR-H1)を指す。
【0041】
2つの配列間の同一性パーセント又は類似性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを使用して行うことができる。2つの配列の比較に利用される数学的アルゴリズムの好ましい非限定的な例は、Karlin and Altschul, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877におけるように修正された、Karlin and Altschul, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215:403-410のNBLASTプログラム及びXBLASTプログラムに組み込まれている。目的のタンパク質をコードする核酸に相同なヌクレオチド配列を得るために、score=100、wordlength=12でNBLASTプログラムを用いて、BLASTヌクレオチドサーチを行うことができる。目的のタンパク質に相同なアミノ酸配列を得るために、score=50、wordlength=3でXBLASTプログラムを用いて、BLASTタンパク質サーチを行うことができる。比較目的のためにギャップ化されたアラインメントを得るために、Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402において記載されているように、Gapped BLASTを利用することができる。或いは、PSI-Blastを使用して、分子間の遠位の関係を検出する反復サーチを行うことができる(Id.)。BLASTプログラム、Gapped BLASTプログラム、及びPSI-Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメーターを使用することができる。配列の比較に利用される数学的アルゴリズムの別の好ましい非限定的な例は、Myers and Miller, CABIOS (1989)のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列の比較のためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120重み付け残基表、ギャップ長ペナルティ12、及びギャップペナルティ4を使用することができる。配列分析のためのさらなるアルゴリズムが当技術分野において公知であり、これとしては、Torellis and Robotti, 1994, Comput. Appl. Biosci. 10:3-5において記載されているADVANCE及びADAM、並びにPearson and Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444-8において記載されているFASTAが含まれる。FASTA内で、ktupは、サーチの感度及び速度を設定する制御オプションである。ktup=2であれば、比較対象の2つの配列における類似の領域が、アラインされた残基の対を見ることによって発見され、ktup=1であれば、1回アラインされたアミノ酸が調べられる。ktupは、タンパク質配列では2若しくは1に、又はDNA配列では1~6に設定することができる。ktupが特定されていない場合のデフォルトは、タンパク質では2であり、DNAでは6である。或いは、タンパク質配列のアラインメントは、Higgins et al., 1996, Methods Enzymol. 266:383-402によって記載されているような、CLUSTAL Wアルゴリズムを使用して行ってよい。
【0042】
本明細書で使用される場合、「細胞」、「細胞系」、及び「細胞培養物」という表現は区別せずに使用され、全てのこのような指定はこれらの子孫を含む。したがって、「形質転換体」及び「形質転換細胞」は、初代対象細胞、及び移入の数に関わらずこれらに由来する培養物を含む。
処置目的での用語「哺乳動物」は、ヒト、飼育された動物及び家畜、並びに動物園、スポーツ、又はペットのための動物、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ、及びそれに類するものを含む、哺乳動物として分類される任意の動物を指す。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0043】
「疾患」又は「障害」は、本明細書で使用される場合、本明細書において記載されるヒト化抗C3抗体での処置の利益を受けるあらゆる状態である。これには、哺乳動物を問題の障害にさせる病理学的状態を含む、慢性及び急性の障害又は疾患が含まれる。
用語「硝子体内注射」は、当技術分野におけるその通常の意味を有し、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を患者の硝子体に導入することを指す。
用語「皮下投与」は、薬物容器からの比較的ゆっくりとした、持続した送達によって、動物又はヒト患者の皮膚の下に、好ましくは皮膚と下層組織との間のポケット内に、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を導入することを指す。皮膚をつまみ上げるか又は引っ張り上げ、下層組織から離すことによって、ポケットを作ることができる。
【0044】
用語「皮下注入」は、薬物容器からの比較的ゆっくりとした、持続した送達によって、限定はしないが30分以下又は90分以下を含む一定期間にわたり、動物又はヒト患者の皮膚の下に、好ましくは皮膚と下層組織との間のポケット内に、薬物を導入することを指す。必要に応じて、注入は、動物又はヒト患者の皮膚の下に移植された薬物送達ポンプの皮下移植によって行ってもよく、ここでポンプは、所定の量の薬物を所定の時間にわたり、例えば30分間、90分間、又は処置レジメンの長さにわたる時間にわたり、送達する。
用語「皮下ボーラス」は、動物又はヒト患者の皮膚の下への薬物投与を指し、ここで、ボーラス薬物送達はおよそ15分間未満であり、別の態様では5分未満、さらに別の態様では60秒未満である。またさらに別の態様では、投与は皮膚と下層組織との間のポケット内で行われ、ここで、ポケットは、皮膚をつまみ上げるか又は引っ張り上げ、下層組織から離すことによって作ることができる。
【0045】
用語「治療有効量」は、処置対象の障害の症候の1つ又は複数を緩和又は改善する抗C3抗体又はこの抗原結合性断片の量を指すために使用される。緩和又は改善を行うに当たり、治療有効量は、患者の有利な転帰をもたらす量である。有効性は、処置対象の状態に応じて、従来の方法で測定することができる。例えば、C3を発現する細胞によって特徴付けられる眼科疾患又は眼疾患では、有効性は、奏功率、例えば視覚の回復を決定することによって、又は疾患進行までの遅延時間を評価することによって、測定することができる。
用語「処置」及び「治療」及びそれに類するものは、本明細書で使用される場合、限定はしないが1つ又は複数の症候の軽減又は緩和、逆行、疾患又は障害の進行の遅延又は停止を含む、あらゆる臨床的に望ましい又は有益な効果をもたらす、疾患又は障害のための治療的及び予防的又は抑制的対策を含むことを意味する。したがって、例えば、処置という用語は、疾患又は障害の症候が始まる前又は始まった後に抗C3抗体又はこの抗原結合性断片を投与し、これによって、疾患又は障害の1つ又は複数の徴候を予防又は除去することを含む。別の例として、この用語は、疾患の臨床的兆候の後に抗C3抗体又はこの抗原結合性断片を投与して、疾患の症候と戦うことを含む。さらに、発症後及び臨床的症候が現れた後の、抗C3抗体又はこの抗原結合性断片の投与は、この投与が疾患又は障害の臨床的パラメーターに影響する場合、処置が疾患の改善をもたらしてももたらさなくても、本明細書で使用される「処置」又は「治療」を含む。さらに、単独の又は別の治療剤と組み合わせた本発明の組成物が、処置対象の障害の少なくとも1種の症候を、抗C3抗体組成物又はこの抗原結合性断片の使用の非存在下でのその症候と比較して軽減する又は改善する限りにおいて、結果は、障害の全ての症候が軽減されてもされなくても、根底にある障害の効果的な処置であると見なされるべきである。
【0046】
用語「包装挿入物」は、適応症、使用方法、投与方法、禁忌、及び/又はこのような治療薬の使用に関する警告についての情報を有する、治療薬のコマーシャルパッケージに慣例的に含まれる使用説明書を指すために使用される。
本発明の抗体
一実施形態では、本発明は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片に関する。特定の実施形態では、本発明は、ヒト化抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。さらなる実施形態では、本発明は、ヒト化モノクローナル抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0047】
最初の特徴付けにおいて、C3を標的にする抗体、特にC3を標的にするscFvのライブラリーが、生成された。本発明者らは、実施例4に例示される通り、これらのscFvをヒト化及び最適化した。本発明者らは、親和性を改善し、ヒト抗体において稀にしか存在しないアミノ酸を最適化するために、様々な変更を用いるCDR及びFRのさらなる操作にさらに進んだ。多様で徹底的な最適化ステップを通じて、本発明者らは、非常に有望な治療用分子、特に、本明細書で開示されるように特性が増強されたC3に対して向けられたヒト化scFvを開発した。
【0048】
本発明の抗体のCDRの配列は、下の表1に示される。表1は、Kabat命名法によるCDRを示す。
【表1】
一実施形態では、本発明は、可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0049】
特定の実施形態では、本発明は、可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、VHが、配列番号1のCDR-H1配列又は配列番号1のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列、配列番号2若しくは15のCDR-H2配列又はアミノ酸配列である配列番号2若しくは15に少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列、及び/或いは配列番号3のCDR-H3配列又は配列番号3のアミノ酸配列に少なくとも80%若しくは少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み;並びに/或いは、VLが、配列番号4のCDR-L1配列又は配列番号4のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列、配列番号5若しくは18のCDR-L2配列又は配列番号5若しくは18のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列、及び/或いは配列番号6のCDR-L3配列又は配列番号6のアミノ酸配列に少なくとも80%若しくは少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0050】
特定の実施形態では、本発明は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む
、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0051】
別の実施形態では、本発明は、
- 配列番号20、22若しくは24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び/又は
- 配列番号21、23若しくは25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
-
【0052】
さらに別の実施形態では、本発明は、
- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
別の実施形態では、本発明は、
- 配列番号20のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0053】
別の実施形態では、本発明は、
- 配列番号22のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号23のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
別の実施形態では、本発明は、
- 配列番号24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0054】
一実施形態では、本発明は、配列番号20、22又は24のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び配列番号21、23又は25のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
別の実施形態では、本発明は、
a.それぞれ配列番号20及び配列番号21のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;
b.それぞれ配列番号22及び配列番号23のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;又は
c.それぞれ配列番号24及び配列番号25のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖
を含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0055】
さらに別の実施形態では、本発明は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
a.抗体が「クローンI」と称される、配列番号20のアミノ酸配列を含む、好ましくはそれからなる可変重鎖及び配列番号21のアミノ酸配列を含む、好ましくはそれからなる可変軽鎖、
b.抗体が「クローンII」と称される、配列番号22のアミノ酸配列を含む、好ましくはそれからなる可変重鎖及び配列番号23のアミノ酸配列を含む、好ましくはそれからなる可変軽鎖、
c.抗体が「クローンIII」と称される、配列番号24のアミノ酸配列を含む、好ましくはそれからなる可変重鎖及び配列番号25のアミノ酸配列を含む、好ましくはそれからなる可変軽鎖
を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0056】
以下の表は、本発明による抗体のCDRを、様々な公知の命名法によって、例えば、Kabatによって;CCG(Chemical Computing Group、Almagro et al., Proteins 2011; 79:3050-3066及びMaier et al, Proteins 2014; 82:1599-1610に例示される)によって;Chothiaによって;及び/又はAhoによって示す。
表2は、本発明による抗体のCDRのアミノ酸配列をさらにまとめる。
【表2】
【0057】
したがって、特定の態様では、本発明は、可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1、7、8及び10からなる群から選択されるCDR-H1配列、配列番号2、9、11、15、16及び17からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3及び12からなる群から選択されるCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4及び13からなる群から選択されるCDR-L1配列、配列番号5、14、18及び19からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片に関する。
【0058】
具体的な態様では、本発明は、可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号7のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号8のCDR-H1配列、配列番号9のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号10のCDR-H1配列、配列番号11のCDR-H2配列及び配列番号12のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号13のCDR-L1配列、配列番号14のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号7のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号8のCDR-H1配列、配列番号16のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号10のCDR-H1配列、配列番号17のCDR-H2配列及び配列番号12のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号13のCDR-L1配列、配列番号14のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号7のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号8のCDR-H1配列、配列番号16のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号10のCDR-H1配列、配列番号17のCDR-H2配列及び配列番号12のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号13のCDR-L1配列、配列番号19のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片に関する。
【0059】
本発明による例示的可変重鎖及び可変軽鎖の配列は、表3に示される。
【表3】
【0060】
本発明の例示的scFvの配列は、表4に示される。
【表4】
【0061】
一実施形態では、本発明の抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、一本鎖可変断片(scFv)、Fab断片、Fab’断片、Fv断片、ダイアボディ、低分子抗体模倣物からなる群から選択される。代替的実施形態では、抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、単一ドメイン抗体、例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ、V-Nar及びVHHからなる群から選択される。この特定の実施形態では、前記抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、可変重鎖を含む。さらなる実施形態では、前記可変重鎖は、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含む。具体的な実施形態では、前記可変重鎖は、配列番号20、22又は24のアミノ酸配列を含む。
一実施形態では、本発明の抗体は、リンカーを含む、好ましくは配列番号46に記載のリンカー(GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)を含む、一本鎖断片である。
一実施形態では、本発明の抗体は、配列番号26、27、28、29、30及び31からなる群から選択される1種の配列を含む一本鎖断片である。
【0062】
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)を含む補体活性化の経路を阻害し得る。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、補体C3及びC3bに結合し得る。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3転換酵素の形成を妨げ得る。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、ブルッフ膜に浸透し得る。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3及びC3bに対するおよそ同等の結合親和性を有する。
【0063】
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する約10-4M以下の(すなわち、弱い)結合親和性を有する。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3及びC3bに対する結合親和性と比較して、C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する弱い結合親和性を有する。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する結合親和性を有さない。
【0064】
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3転換酵素増幅ループを阻害し得る。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、脈絡膜C3活性を阻害し得る。
本発明の抗C3抗体又は本発明によるその抗原結合性断片は、高親和性でヒトC3に結合する。本態様に関連する一実施形態では、本発明の抗C3抗体は、ヒトC3に、例えば、SPRによって決定すると、KD<50nMで、好ましくはKD<15nMで、好ましくはKD<10nMで、好ましくはKD<7nMで、好ましくはKD<1nMで、好ましくはKD<0.5nMで、好ましくはKD<0.2nMで、好ましくはKD<0.15nMで、好ましくはKD<0.10nMで、好ましくはKD<0.05nMで、好ましくはKD<0.04nMで、より好ましくはKD<0.03nMで結合する。一実施形態では、本発明の抗C3抗体は、実施例8において例示の通り、ヒトC3に、0.16~0.023nMの間に含まれるKDで結合する。
【0065】
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、ヒトC3bに、例えば、SPRによって決定すると、KD<50nMで、好ましくはKD<15nMで、好ましくはKD<10nMで、好ましくはKD<7nMで、好ましくはKD<1nMで、好ましくはKD<0.5nMで、好ましくはKD<0.2nMで、好ましくはKD<0.15nMで、好ましくはKD<0.10nMで、より好ましくはKD<0.05nMで結合する。さらなる実施形態では、本発明の抗C3抗体は、実施例8において例示の通り、ヒトC3に、0.15nM~0.05nMの間に含まれるKDで結合する。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3及びC3bに対する約10-8M~約10-14Mの結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、本発明による抗体は、C3及びC3bに対する約10-10M~約10-12Mの結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は、C3及びC3bに対する少なくとも約10-8M(より強い)、少なくとも約10-9M(より強い)、少なくとも約10-10M(より強い)、少なくとも約10-11M(より強い)又は少なくとも約10-12M(より強い)結合親和性を有する。一実施形態では、本発明による抗体は、C3及びC3bに対するおよそ同等の結合親和性を有する。例えば、非限定的に、本発明による抗体は、C3に対する約10-10Mの結合親和性、及びC3bに対する約10-10Mの結合親和性を有し得る。特定の実施形態では、本発明による抗体は、C3に対する約10-11Mの結合親和性、及びC3bに対する約10-11Mの結合親和性を有する。別の実施形態では、本発明による抗体は、C3に対する約10-12Mの結合親和性、及びC3bに対する約10-12Mの結合親和性を有する。
【0066】
代替的一実施形態では、C3に対する結合親和性は、C3bに対する結合親和性の10倍以内である。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、カニクイザルC3との交差反応性を示す。本発明者らは、本発明の抗体がカニクイザルC3にも結合することを実施例8において示した。カニクイザル(マカカ・ファシクラリス(Macaca fascicularis))C3は、ヒトC3と95.1%同一であり、交差反応性は関連動物モデルにおける本発明の抗C3抗体の前臨床及び毒性学試験を可能にする。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3疾患関連単一ヌクレオチド多型(SNP)、より正確にはC3 SNP P314L及びC3 SNP R102Gに対する結合親和性を有する。本発明者らは、本発明の抗体がヒトC3の疾患関連SNPに結合し、本発明の抗体が眼科疾患又は眼疾患を罹患している広範囲の患者を処置できることも実施例8において示した。
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の高い結合親和性は、硝子体内注射後のC3の中和時間の延長に寄与し、注射頻度の低減をさらに可能にする。さらに高い結合親和性は、より低い用量での投与をさらに可能にし、副作用の可能性を限定する。有利な結合親和性及び注射頻度の低減は、それを必要とする患者の処置の有効性を相当に改善する。
【0067】
その高い結合親和性、その有利な半減期及びその高度に濃縮されるその能力によって、本発明の抗C3抗体は、投薬間の間隔の延長を可能にする。患者に貴重な利益、特に、薬物の順守(drug observance)及びコンプライアンスの改善も提供する。
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、他の治療剤と比較して長い持続期間であり得る1カ月より長い治療的に有効な持続期間を有し得る。治療的に有効な持続期間の延長は、本発明の抗C3抗体又はその抗原結合性断片のモル濃度のためである可能性があり、7mMの高濃度に達する場合がある。
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、他の治療剤と比較して眼にさらに容易に注射され得る。一実施形態では、本発明の抗C3抗体は、PEGを含有せず、そのため実施例13において例示される通り、それらの粘度は低減している。したがって、本発明の抗C3抗体の粘度は、他の治療剤の粘度よりも低いと予測される。20センチポイズ(cP)以下である溶液などの粘度が低い溶液は、背圧の低減が理由でさらに容易に眼に注射される。
本発明者らは、安定性の改善によって例示される通り、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が、優れた医薬特性を示すことを示した。本発明者らは、実施例11において、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が熱安定性の改善を実際に示した。これらの結果は、本発明の抗体が生理学的温度でその天然の、かつ活性な立体構造を維持していることを例示する。より高い熱的転移中点(thermal transition midpoint)(Tm)が、低い温度でのタンパク質の安定性の改善を反映することは注目すべきである。それにより、本発明者らは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が熱安定性特性の改善を示し、治療有効性の改善に寄与する一方で、患者への注射用量及び頻度の低減を可能にすることを示した。加えて、Tmは、治療用産生物の有効期間の延長及び安定性の改善を示す。
【0068】
さらなる態様では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、実施例4及び12に記載される通り低い免疫原性リスクを有すると証明された。これらの結果は、本発明の抗体が、低い免疫原性リスク及び/又は抗薬物抗体(ADA)を生じる低いリスクを示すことから眼科疾患又は眼疾患の処置のために非常に好適で、有望であることを確認する。
補体系は、多数の炎症性疾患及び自己免疫疾患における組織傷害に関与する自然免疫系の重要な部分である。補体系は、30を超える細胞関連及び循環タンパク質(例えば、C1、C1q、C1r、C1s、C2、C3、C3a、C3b、C4、因子B、因子D、因子H、因子I)を含む。
補体を活性化する3種の主な経路、古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)がある。
【0069】
3種の補体経路は、異なる因子によって開始され、補体成分C3の切断をそれぞれ生じる。
古典経路は、抗原と正しいアイソタイプ又はサブクラスの特異的抗体との相互作用によって通常引き起こされ;免疫グロブリンM(IgM)、IgG3及びIgG1は、古典経路の最も効率的な活性化因子である。これは、C1複合体において立体構造の変化を誘導し、C4bC2b複合体を生成するC4及びC2の切断を可能にする。C4bC2bは、古典経路のC3転換酵素として作用する。
レクチン補体経路は、C型レクチン、マンナン結合レクチン(MBL;マンノース結合レクチンとしても公知)又はフィコリンと呼ばれる関連する一連のタンパク質(L-フィコリン、H-フィコリン及びM-フィコリン)の、微生物の表面に見出される糖タンパク質又はエンベロープ多糖に発現される末端糖への結合によって引き起こされる。
【0070】
代替経路は、内部のチオエステル基を露出させる循環C3のゆっくりとした加水分解、「C3ティックオーバー(tickover)」と称される現象によって開始される。代替経路特異的タンパク質因子B、因子D及びプロパージンの、加水分解されたC3への、又は補体切断断片C3bへの結合は、C3のさらなる活性化をもたらす。C3bの形態に切断されたC3は、次に、微生物の表面の多糖又はタンパク質と、又は内毒素(細菌性リポ多糖類)と相互作用でき、代替経路活性化を開始し、古典経路活性化の際に生じたのと同様にMACを生成する。
ある特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、1個又は複数個の補体経路、古典経路、代替経路及びレクチン経路を阻害するそれらの能力について選択される。ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は、3種全ての補体経路、古典経路、代替経路及びレクチン経路を阻害するそれらの能力について選択される。ある特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、眼において3種全ての補体経路を阻害し得る。
【0071】
典型的には、古典経路、代替経路及びレクチン経路を阻害することにおける本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の機能的な作用強度は、実施例7に記載の通り補体阻害アッセイ又は溶血アッセイによって決定され得る。作用強度は、IC50(最大半量阻害濃度)で表され得る。したがって、一実施形態では、本発明による抗体又はその断片は、
- 補体阻害アッセイによって測定されて70~80nMの間に含まれる作用強度で古典経路(CP)を阻害し、
- 補体阻害アッセイによって測定されて340~360nMの間に含まれる作用強度でレクチン経路(LP)を阻害し、及び
- 補体阻害アッセイによって測定されて60~70nMの間に含まれる作用強度で代替経路(AP)を阻害する。
3種全ての補体経路を阻害する本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の能力は、眼科疾患又は眼疾患の処置におけるそれらの治療潜在力をさらに改善する。一実施形態では、3種全ての補体経路を阻害する本発明の抗体の能力は、眼科疾患又は眼疾患、特にAMD又はGAの処置におけるそれらの治療潜在力をさらに改善する。理論に束縛されることなく、3種全ての補体経路を阻害することは、1種の活性経路の疾患促進効果が、他の不活化された経路を代償することを妨げることによって、本発明の抗C3抗体の治療潜在力を改善し得る。
【0072】
したがって、特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、眼の脈絡膜領域における3種全ての補体経路を阻害し得る。脈絡膜領域は、眼の後方を覆う血管を含有する層であり、網膜と強膜との間に位置する。脈絡膜領域は、4つの層、ハーラー層、サトラー層、脈絡毛細管及びブルッフ膜に分けられる。ブルッフ膜は、硝子体薄膜(vitreous lamina)としても公知であり、脈絡膜の最も内側の層であり、網膜色素上皮(RPE)に隣接する。ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は、ブルッフ膜に浸透できるか、又はそれにわたって拡散でき、限定はしないが、脈絡毛細管などの脈絡膜の他の層に進入できる。
網膜は、完全長免疫グロブリンなどの大きな分子が、より深い層に浸透することを妨げ得る実質的な物理的バリアーを有し、治療効果の低減を生じる場合がある(Jackson et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003;44(5): 2141-6)。対照的に、さらに小さな抗体誘導体は、網膜に深く浸透できる。約60kDa以下の分子量を有する例示的抗体誘導体は、限定はしないが、Fab、Fab’断片、scFab、scFv、Fv断片、ナノボディ、VHH、dAb、V-Nar、sdAb、sdFv並びに、一本鎖ダイアボディ(scDb)又はDARTなどの二特異性抗体及び二価抗体が挙げられる抗体断片である。ある特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、約60kDa以下、例えば、約55kDa、約50kDa、約45kDa、約40kDa、約35kDa、約30kDa、約25kDa、約20kDa、約15kDa以下の分子量を有する。
一実施形態では、scFvフォーマットは、3カ月の投薬頻度を可能にする。このことは、さらに頻繁な投与を必要とする眼科疾患又は眼疾患を処置するための既存の治療アプローチと比較して著しい改善を示す。したがって本発明のscFvは、患者のコンプライアンスをかなり改善する。
【0073】
本発明者らは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片(クローンI)が、特に、実施例2において記載の通り、比較化合物A2及び比較化合物A3と比較した場合に、ブルッフ膜を通じた高い拡散能力を示すことを実施例10において示した。したがって、一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、浸透を促進するのに十分低いそれらのサイズに部分的によってブルッフ膜に浸透できるか、又はそれにわたって拡散し得る。ある特定の実施形態では、本発明の抗体のサイズは、分子量によって測定される。ある特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、約60kDa未満である分子量を有する。ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は、約20kDa~約30kDa又は約10kDa~約20kDaである。ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は約25kDaである。ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は、約15kDaである。ある特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片のサイズは、それらの流体力学的半径によって測定される。ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は、約3.0nm以下の流体力学的半径を有する。ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は、約2.5nm以下の流体力学的半径を有する。ある特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、約2.0nm以下の流体力学的半径を有する。
【0074】
ヒト化及びアミノ酸配列バリアント
さらに、バリアント抗C3抗体及び抗体断片は、配列番号1~6、15及び18に示される配列において同定された一連のCDRに基づいて操作され得る。一部の実施形態では、抗C3抗体及び抗体断片の前記バリアントにおいて、CDRのアミノ酸配列は未変化のままあるが、周囲の領域、例えばFR領域が操作され得ることは理解される。抗C3抗体又はその断片のアミノ酸配列バリアントは、抗C3抗体DNAに適切なヌクレオチド変化を導入することによって、又はペプチド合成によって調製され得る。そのようなバリアントは、例えば、本明細書の実施例の抗C3抗体又はその断片のアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/又はそれへの挿入及び/又はその置換を含む。欠失、挿入及び置換のあらゆる組合せは、最終構築物が所望の特徴を保有する限り、最終構築物に達するように作製される。アミノ酸変化は、グリコシル化部位の数又は位置を変更することなど、ヒト化若しくはバリアント抗C3抗体又はその抗原結合性断片の翻訳後過程も変更する場合がある。
【0075】
抗体の別のタイプのアミノ酸バリアントは、抗体のオリジナルのグリコシル化パターンの改変を伴う。この文脈における用語「改変」は、抗体内で見られる1つ又は複数の糖質部分を欠失させること、及び/又は抗体内にそれまで存在していなかった1つ又は複数のグリコシル化部位を付加することを意味する。
一部の態様では、本発明は、本明細書において記載される抗C3抗体又はその抗原結合性断片のアミノ酸配列バリアントをコードする核酸分子を含む。抗C3抗体又はその抗原結合性断片のアミノ酸配列バリアントをコードする核酸分子は、当技術分野において公知の様々な方法によって調製される。これらの方法としては、限定はしないが、天然由来源(天然に存在するアミノ酸配列バリアントのケースで)からの単離、又は、事前に調製されたバリアントバージョンの若しくは非バリアントバージョンの抗C3抗体又はその抗原結合性断片のオリゴヌクレオチド媒介性の(若しくは部位特異的な)突然変異生成、PCR突然変異生成、及びカセット突然変異生成による調製が含まれる。
【0076】
ある特定の実施形態では、本発明の抗C3抗体は抗体断片である。抗体断片の産生のために開発された技術が存在する。断片は、インタクトな抗体のタンパク質分解性の消化を介して派生し得る(例えば、Morimoto et al., 1992, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117、及びBrennan et al., 1985, Science 229:81を参照されたい)。或いは、断片は、組換え宿主細胞において直接産生することができる。例えば、Fab’-SH断片は、大腸菌(E.coli)から直接回収することができ、また化学的に結合させてF(ab’)2断片を形成させることができる(例えば、Carter et al., 1992, Bio/Technology 10:163-167を参照されたい)。別のアプローチによって、F(ab’)2断片は、組換え宿主細胞の培養物から直接単離することができる。抗体断片を産生するための他の技術は、当業者に自明であろう。
抗C3抗体及びその抗原結合性断片は、改変を含み得る。本明細書において提供される抗体のバリアントは、フレームワークに、及び/又はCDRに欠失、置換、付加及び/又は改変を導入することによって生成され得る。次いで、抗体バリアントは、本明細書において記載される方法を使用して所望の機能について試験され得る。欠失、置換、付加、改変及び挿入のあらゆる組合せは、生成されたバリアントが適切な方法を使用してスクリーニングされ得る所望の特徴を有する限り、抗原結合性タンパク質又はその断片に作製され得る。
【0077】
本明細書で使用される場合、「保存的な置換」は、親抗体の機能的な特性を維持する改変を指す。例えば、保存的なアミノ酸置換としては、アミノ酸残基が類似の特性を有するアミノ酸残基を用いて置き換えられているものが挙げられる。例えば、アラニン(A)をバリン(V)によって置き換えること;アルギニン(R)をリシン(K)によって置き換えること;アスパラギン(N)をグルタミン(Q)によって置き換えること;アスパラギン酸(D)をグルタミン酸(E)によって置き換えること;システイン(C)をセリン(S)によって置き換えること;グルタミン酸(E)をアスパラギン酸(D)によって置き換えること;グリシン(G)をアラニン(A)によって置き換えること;ヒスチジン(H)をアルギニン(R)若しくはリシン(K)によって置き換えること;イソロイシン(I)をロイシン(L)によって置き換えること;メチオニン(M)をロイシン(L)によって置き換えること;フェニルアラニン(F)をチロシン(Y)によって置き換えること;セリン(S)をスレオニン(T)によって置き換えること;トリプトファン(W)をチロシン(Y)によって置き換えること;フェニルアラニン(F)をトリプトファン(W)によって置き換えること;及び/又はバリン(V)をロイシン(L)によって置き換えること並びに、逆もまた同じ。
【0078】
ある特定の実施形態では、インタクトな抗体よりも抗C3抗体断片を使用することが望ましい場合がある。その血清中半減期を増大させるために、抗体断片を修飾することが望ましい場合がある。これは、例えばサルベージ受容体結合エピトープを抗体断片に組み込むことによって、行うことができる。一方法では、抗体断片の適切な領域を改変する(例えば突然変異させる)ことができるか、又はエピトープをペプチドタグに組み込み、このタグを次いで、例えばDNA合成若しくはペプチド合成によって、抗体断片のいずれかの末端若しくは中央に融合することができる。例えば、国際公開第96/32478号を参照されたい。
他の実施形態では、本発明は、抗C3抗体又は抗原結合性断片の共有結合修飾を含む。共有結合修飾としては、システイニル残基、ヒスチジル残基、リジニル残基及びアミノ末端残基、アルギニル残基、チロシル残基、カルボキシル側基(アスパルチル若しくはグルタミル)、グルタミニル残基及びアスパラギニル残基、又はセリル残基、又はスレオニル残基の修飾が含まれる。別のタイプの共有結合修飾は、グリコシドを抗体に化学的又は酵素的に結合させることを伴う。このような修飾は、化学合成によって、又は適切な場合には、抗体又はその断片の酵素的若しくは化学的切断によって、行うことができる。抗体の他のタイプの共有結合修飾は、抗体又はその断片の標的アミノ酸残基を、選択された側鎖又はアミノ末端残基若しくはカルボキシ末端残基と反応し得る有機誘導体化剤と反応させることによって、分子に導入することができる。
【0079】
抗体又はその断片上に存在するあらゆる糖質部分の除去は、化学的又は酵素的に行うことができる。化学的な脱グリコシル化は、Hakimuddin et al., 1987, Arch. Biochem. Biophys. 259:52、及びEdge et al., 1981, Anal. Biochem., 118:131によって記載されている。抗体上の糖質部分の酵素切断は、Thotakura et al., 1987, Meth. Enzymol 138:350によって記載されているような様々なエンドグリコシダーゼ及びエキソグリコシダーゼの使用によって行うことができる。
別のタイプの有用な共有結合修飾は、米国特許第4,640,835号、米国特許第4,496,689号、米国特許第4,301,144号、米国特許第4,670,417号、米国特許第4,791,192号、及び米国特許第4,179,337号の1つ又は複数で示される様式での、様々な非タンパク質性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリオキシアルキレンの1種への、抗体の連結を含む。
本明細書において開示される配列にある一定のレベルの%同一性を有する配列を含むバリアントなどの、本明細書において記載されるバリアント抗体又はその抗原結合性断片は、上に記載される抗体又はその抗原結合性断片の機能的能力、例えば、古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)を含む補体活性化の経路を阻害し得る、補体C3及びC3bに結合し得る、C3転換酵素の形成を妨げ得る、並びに/又はブルッフ膜に浸透し得る特異的C3エピトープ結合を好ましくは保持する。
【0080】
エピトープ結合
一態様では、本発明は、特異的「C3エピトープ」を認識する抗体又はその抗原結合性断片を提供する。本明細書で使用される場合、用語「C3エピトープ」は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片に結合し得る分子(例えばペプチド)又は分子の断片を指す。これらの用語としてはさらに、例えば、本発明の抗体又は抗体断片のいずれかによって認識されるC3抗原決定基が含まれる。
C3抗原エピトープは、タンパク質、タンパク質断片、ペプチド、又はそれに類するものに含まれ得る。エピトープは、最も一般的には、タンパク質、短鎖オリゴペプチド、オリゴペプチド模倣体(すなわち、C3抗原の抗体結合特性を模倣する有機化合物)、又はこれらの組合せである。
エピトープ結合の文脈において、表現「アミノ酸領域X~Y内の結合・・・」は、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が、配列において特定されているアミノ酸領域内の少なくとも1個のアミノ酸残基に結合することを意味する。
【0081】
本発明の抗体又は抗原結合性断片は、配列番号47に記載のヒト補体C3のエピトープに結合する。一実施形態では、本発明の抗体は、配列番号48に記載のヒト補体C3cのD鎖のエピトープに結合する。配列番号48は、PDB:2A74_Dを参照してオンラインで入手可能である。
本発明の抗体又は抗原結合性断片は、配列番号47に記載のヒト補体C3のエピトープに結合する。別の実施形態では、本発明の抗体は、配列番号48に記載のヒト補体C3cのD鎖のエピトープに結合する。配列番号48は、PDB:2A74_Dを参照してオンラインで入手可能である。
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が、ヒト補体C3の固有のエピトープに結合することが見出された。一実施形態では、本発明の抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号47に記載のヒト補体C3のアミノ酸366~アミノ酸478の残基内の少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する。
【0082】
一実施形態では、本発明は、配列番号47に記載のヒト補体C3の残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478からなる群から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
一実施形態では、本発明は、配列番号47に記載のヒト補体C3の残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478の全てに結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。一実施形態では、本発明は、配列番号48に記載のヒト補体C3cのD鎖のアミノ酸344~アミノ酸456の残基内の少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片に関する。
一実施形態では、本発明は、配列番号48に記載のヒト補体C3cのD鎖の残基344、370~374、391~399、403、405、420、431及び456からなる群から選択される少なくとも1個の残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片に関する。
【0083】
一実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、配列番号48に記載のヒト補体C3cのD鎖の残基344、370~374、391~399、403、405、420、431及び456の全てに結合する。
一実施形態では、本発明は、配列番号48に記載のヒト補体C3cのD鎖のアミノ酸369~アミノ酸残基418内の少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片に関する。
別の実施形態では、本発明は、配列番号48に記載のヒト補体C3cのD鎖の残基369~379、389、391~401、403及び418からなる群から選択される少なくとも1個の残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片に関する。
別の実施形態では、本発明の抗体は、配列番号48に記載のヒト補体C3cのD鎖の残基369~379、389、391~401、403及び418の全てに結合する。
【0084】
配列番号47及び48の配列は、下の表5に示される。
【表5】
【0085】
特異的C3エピトープ結合が、本発明の抗体又はその抗原結合性断片の予想外の機能的な特性、例えば、C3及びC3bの両方への高い結合親和性、並びに古典経路(CP)、レクチン経路(LP)、及び代替経路(AP)を含む補体活性化の3種全ての経路での強力な阻害を生じる可能性は非常に高い。
治療用使用
一態様では、本発明は、医薬として使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片に関する。
【0086】
既に述べた通り、したがって本発明者らは、網膜におけるC3の中和が、全ての補体経路の増幅ループを遮断し、それにより細胞毒性の膜侵襲複合体の生成及び炎症誘発性補体成分(C3a、C3b、iC3b、C5a)の生成を低減し、地図状萎縮を罹患している患者の臨床転帰を改善することをここに示す。
結果として、本発明は、網膜疾患又は眼科疾患の処置又は予防に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0087】
一態様では、本発明は、眼科疾患又は眼疾患の処置又は予防に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。一態様では、本発明は、網膜症、未熟児網膜症などの増殖性網膜症(PR)、虚血性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)及び非増殖性糖尿病性網膜症を含む糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、糖尿病黄斑虚血(DMI)、萎縮型AMD及び滲出型AMDを含む加齢性黄斑変性(AMD)、地図状萎縮(GA)、網膜色素変性症、遺伝性網膜ジストロフィー、近視性変性、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、眼内炎、ブドウ膜炎、嚢胞様黄斑浮腫、任意の網膜疾患に続発する脈絡膜新生血管膜、視神経症、緑内障、網膜剥離、中毒性網膜症、放射線網膜症、外傷性網膜症、薬剤性網膜脈管障害、網膜血管新生、ポリープ状脈絡膜脈管障害、網膜血管炎、網膜毛細血管瘤、後水晶体線維増殖症、脈絡網膜炎、フックスジストロフィー、黄斑部毛細血管拡張症、アッシャー症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)並びにシュタルガルト疾患からなる群から選択される疾患の処置又は予防に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0088】
別の実施形態では、本発明は、加齢性黄斑変性、地図状萎縮、血管新生緑内障及び糖尿病性網膜症からなる群から選択される疾患の処置又は予防に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。さらに好ましい実施形態では、本発明は、地図状萎縮の処置又は予防に使用するための抗C3抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
好ましい実施形態では、本発明は、地図状萎縮の処置に使用するための抗C3 scFvであって、可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含み、VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、抗C3 scFvを提供する。特定の実施形態では、前記抗C3 scFvは、それぞれ配列番号20及び配列番号21のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖を含む。別の特定の実施形態では、前記抗C3 scFvは、それぞれ配列番号22及び配列番号23のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖を含む。さらなる特定の実施形態では、前記抗C3 scFvは、それぞれ配列番号24及び配列番号25のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖を含む。
【0089】
本発明者らは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が、先行技術において述べられ、実施例5に記載されるC3を標的にする他の「比較化合物」よりもさらに有利な特性を示すことを例示した。
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、APL2、NGM621及びZIMURA(登録商標)に基づく治療アプローチとは異なる。
APL-2又はペグセタコプランは、環状トリデカペプチドコンプスタチン(補体成分C3の阻害剤)のペグ化誘導体である。APL-2の活性成分は、APL-1である。本発明者らは、実施例5Aにおいて例示される比較目的のために代替化合物(比較化合物A1及び比較化合物A2)を開発した。
APL-2は、網膜に深く浸透することを困難にする350kDaに相当する大きな分子量及び約7.8nmの流体力学的半径を有する。APL-2は、おそらく3.5mMの低濃度が原因で1カ月だけの有効持続期間を有する。APL-2は、その粘度を増加させ、その眼への注射を困難にするPEG化分子である。したがって、さらに効率的にGAの進行を低減する必要がある。
【0090】
NGM621は、補体C3(C3)に強く結合し、補体活性化を阻害するヒト化IgG1モノクローナル抗体である。本発明者らは、実施例5Bに例示の通り、比較目的でこの化合物を開発した。NGM621は、古典経路及び代替経路を阻害し得るとして記載された。
ZIMURA(登録商標)(又はアバシンカプタドペゴル(avacincaptad pegol))は、C5a及びC5bへの補体因子C5切断を阻害するように設計される。ZIMURA(登録商標)は、C3に結合しない。
本発明者らは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片のフォーマットが、硝子体内注射あたりの眼に送達される薬物分子の量を改善することを実施例6Bに例示した。実際に、他の化合物と比較してscFvフォーマットがIVT注射あたりにより多い量の薬物を送達できることが例示される。このことは、scFvフォーマットがより大きな補体阻害を達成でき、治療効果を支えることを確認する。加えて、本発明者らは、Fab又はIgGと比較してscFvフォーマットがIVT注射後に良好な網膜浸透を可能にすることを示した。
【0091】
本発明者らは、実施例7に例示する通り、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の作用強度を、とりわけ、比較化合物A1などのコンプスタチン誘導体、及び比較化合物A3などのC3に対して向けられたIgGとの比較で比較した。本発明者らは、本発明の抗体が、比較化合物A1及び比較化合物A3と比較してさらに強力に古典、代替及びレクチン経路を阻害することを示した。本発明者らは、比較化合物A1と比較した場合に、本発明の例示的抗体又はその断片がCP及びLPを阻害することにさらに強力であることをさらに評価した。本発明者らは、阻害の作用強度において比較化合物A1と比較してAPが溶血アッセイにおいて改善されていることも示した。
本発明者らは、実施例8において、既存の化合物、比較化合物A1などのコンプスタチン誘導体及び比較化合物A3などのC3に対して向けられたIgGと比較して、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の結合親和性も例示した。例示的抗体の高い結合親和性は、硝子体内注射後のC3の中和時間の延長に寄与し、注射頻度の低減をさらに可能にする。改善された結合親和性及び注射頻度の低減は、患者の処置の有効性を相当に改善する。それは、患者に貴重な利益、特に、薬物の順守及びコンプライアンスの改善も提供する。
【0092】
加えて、本発明者らは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が、比較化合物A1などのコンプスタチン誘導体及び比較化合物A3などのC3に対して向けられたIgGと比較して、さらに高い親和性を有してヒトC3及びC3bに結合し、C3のさらに強力な阻害を可能にすることを示した。比較化合物A3と比較して、本発明の抗体は、さらに高い親和性でC3bに結合し、それにより、C3増幅ループにおけるC3bの生成、及び代替活性化経路によって生成され、既に沈着したC3b及びC3bの活性を遮断する。
本発明者らは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が、ヒトC3の疾患関連単一ヌクレオチド多型(SNP)に結合し、本発明の抗体が眼科疾患又は眼疾患を罹患している広範な患者を処置できることを確実にすることも実施例8に示した。本発明者らは、比較化合物A1のヒトC3の前記SNPへの結合親和性と比較して、前記結合親和性が改善されることをさらに示した。
【0093】
本発明者らは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片がブルッフ膜を超える透過を改善できる一方で、比較化合物A2及びZIMURA(登録商標)は浸透を示さず、比較化合物A3は低減した浸透を示すだけだったことを実施例10に例示する。大部分の補体活性は、RPE/ブルッフ膜/CC領域においてであることから、ブルッフ膜を通じた優れた組織浸透及び拡散は、C3経路を阻害する治療アプローチに不可欠である。
最終的に本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、実施例7に例示の通り高い親和性及び作用強度を有して全ての補体エフェクターを阻害する。これは、全ての経路におけるC3増幅ループ並びに既に形成されたC3bの活性及びC3「ティックオーバー」活性化によって生成されたC3bの活性の阻害をもたらす。結果は、全ての補体活性化経路及び全ての補体エフェクター機能の完全な阻害である。
【0094】
結論として、本発明者らは、GAを罹患している患者を処置するための非常に有望な治療戦略を開発し、比較化合物A2及び比較化合物A3に対する本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の優位性を示した。本発明者らは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が、
・ 硝子体内注射あたりの薬物の送達の改善を可能にし(実施例6B)、とりわけそのフォーマットに起因して等モルの硝子体内注射後の良好な網膜浸透を示す;
・ とりわけそのフォーマットに起因して改善された治療有効性持続期間を有し、投薬頻度の改善及び患者の順守の増強を確実にする;
・ 標的組織への良好な浸透を有し(実施例10)、RPE及びブルッフ膜に浸透する能力を有し、それにより眼科疾患又は眼疾患の処置におけるその治療潜在力を改善する;
・ 改善された作用強度及びさらに有効な補体遮断を有し、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が、高い親和性及び作用強度で全ての補体エフェクター機能を阻害することを確認する(実施例7及び8);
・ C3に対する改善された結合親和性を有し、硝子体内注射後のC3の中和の期間の延長に寄与し、注射頻度の低減をさらに可能にする(実施例8);
・ C3bに対する改善された結合親和性を有し、特に、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、C3及びC3bに同様の親和性で結合し、それによりC3増幅ループにおけるC3bの生成の阻害を確実にする(実施例8);並びに
・ ヒトC3の疾患関連SNPに対する改善された結合親和性を有し、本発明の抗体が眼科疾患又は眼疾患を罹患している多様な患者を処置できることを確実にする(実施例8);
・ 安定性の改善を示す(実施例11及び13);並びに
・ 低い免疫原性リスクを有する(実施例4及び12)
ことを実際に示した。
【0095】
加えて、本発明の特定の一実施形態では、抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、PEG化されない。本実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、ZIMURA(登録商標)又はAPL-2などの比較化合物に関して開示された臨床試験において観察された通り、血管新生を誘導するリスクの低減を示した。
全体として、本発明の抗体は、滲出型AMD、特にGAにおける最長の効果持続期間、モルあたりの薬物の患者による最良の順守の改善及び最良の網膜有効性を有する非常に有効な処置であると証明された。
一態様では、本発明は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、硝子体内、経口、非経口、皮下、腹腔内、肺内及び鼻腔内を含むあらゆる好適な手段によって投与される。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内又は皮下投与を含む。加えて、抗C3抗体は、パルス注入によって、特に抗体の用量を減少させて、好適に投与される。一態様では、投薬は、投与が短期であるか、又は長期であるかに一部応じて、注射、最も好ましくは静脈内注射又は皮下注射によって与えられる。一実施形態では、抗C3抗体は、眼に硝子体内注射を通じて投与される。
【0096】
疾患の予防又は処置のために、抗体の適切な投薬量は、上に定義される通り、処置される疾患の種類、疾患の重症度及び経過、抗体が予防目的で、又は治療目的で投与されるかどうか、先行する治療、患者の病歴及び抗体への応答並びに主治医の判断などの種々の要因に依存する。抗体は、患者に1回で、又は一連の処置にわたって適切に投与される。
一部の実施形態では、注射あたりで適用可能な本発明の抗体の用量範囲は、1mg/眼~20mg/眼、又は5mg/眼~20mg/眼の間又は10mg/眼~15mg/眼の間又は約15mg/眼である。
用語「抑制」は、本明細書において疾患の1個又は複数個の特徴を和らげること又は減少させることを意味して「改善」及び「緩和」と同じ文脈で使用される。
抗体組成物は、適正な医療行為に合致する様式で製剤化、投薬及び投与される。この文脈において考慮すべき要素としては、処置される特定の障害、処置される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与の方法、投与のスケジュール及び医師に公知の他の要素が挙げられる。投与される抗体の「治療有効量」は、このような考慮すべき事柄によって決定され、本発明の抗体によって対処される眼科疾患又は眼疾患を予防するか、改善するか、又は処置するために必要な最小量である。
【0097】
抗体は、問題の障害を予防するか、又は処置するために現在使用される1種又は複数種の薬剤と共に製剤化される必要はないが、製剤化されてもよい。そのような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗C3抗体の量、障害又は処置の種類及び上で考察された他の要素に依存する。これらは、本明細書の前記で使用されたのと同じ投薬量及び投与経路で、又はこれまでに使用された投薬量の約1~99%で一般に使用される。
具体的な態様では、本発明は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片及び薬学的に許容される担体及び少なくとも1種の追加的治療剤を含む医薬組成物も提供する。
処置の方法
別の態様では、本発明は、それを必要とする患者における眼科疾患又は眼疾患を処置するか、又は予防するためのあらゆる方法も包含し、前記方法は、本発明の抗C3抗体又はその抗原結合性断片の投与を含む。
【0098】
一部の実施形態では、本発明は、本発明による抗体又はその断片の薬学的有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む、眼科疾患又は眼疾患を処置する又は予防するための方法に関する。一実施形態では、前記疾患は、網膜症、未熟児網膜症などの増殖性網膜症(PR)、虚血性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)及び非増殖性糖尿病性網膜症を含む糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、糖尿病黄斑虚血(DMI)、萎縮型AMD及び滲出型AMDを含む加齢性黄斑変性(AMD)、地図状萎縮(GA)、網膜色素変性症、遺伝性網膜ジストロフィー、近視性変性、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、眼内炎、ブドウ膜炎、嚢胞様黄斑浮腫、任意の網膜疾患に続発する脈絡膜新生血管膜、視神経症、緑内障、網膜剥離、中毒性網膜症、放射線網膜症、外傷性網膜症、薬剤性網膜脈管障害、網膜血管新生、ポリープ状脈絡膜脈管障害、網膜血管炎、網膜毛細血管瘤、後水晶体線維増殖症、脈絡網膜炎、フックスジストロフィー、黄斑部毛細血管拡張症、アッシャー症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)並びにシュタルガルト疾患からなる群から選択される。
本明細書において記載される全ての開示された技術的特性は、処置の前記方法に適用可能である。
【0099】
医薬組成物及びその投与
抗C3抗体又はその抗原結合性断片を含む組成物は、眼科疾患又は眼疾患を有するか、又はそのリスクを有する対象に投与され得る。本発明は、C3関連疾患の予防又は処置のための医薬の製造における抗C3抗体又はその抗原結合性断片の使用をさらに提供する。本明細書で使用される場合、用語「対象」は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片が投与され得る、例えば、ヒト並びに、霊長類、げっ歯類及びイヌなどの非ヒト哺乳動物が挙げられるあらゆる哺乳動物患者を意味する。本明細書に記載される方法を使用する処置について具体的に意図される対象は、ヒトを含む。抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、単独又は他の組成物との組合せのいずれかで投与され得る。
種々の送達システムが公知であり、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を投与するために使用され得る。導入の方法として、これだけに限らないが、硝子体内、点眼剤、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外及び経口経路が挙げられる。抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、例えば、注入、ボーラス又は注射によって投与されてよく、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与されてよい。投与は、全身性又は局所であってよい。好ましい実施形態では、投与は、硝子体内注射によってである。かかる注射のための製剤は、例えば、予め充填されたシリンジ中に調製され得る。
【0100】
ある特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、眼内に投与される。網膜などの眼の様々な構造への治療化合物の送達は、課題である。課題としては、限定はしないが、いくつかの制限的な眼のバリアー、まばたき及び送達された化合物の洗い流しが挙げられる涙の仕組み、限定的な局所注射体積、限定的な局所生物学的利用率並びに、不純物及び夾雑物への低い許容度が挙げられる(例えば、Patel et al. World J Pharmacol. 2013; 2(2): 47-64;Morrison et al. Ther. Deliv. 2014; 5(12): 1297-1315を参照されたい)。本発明の抗体は、これらの課題を克服し得る。本発明の抗体は、約60kDa以下、好ましくは約25kDaの分子量を好ましくは有する。約60kDa以下の抗原結合性タンパク質の例としては、限定はしないが、scFv、VHH及びFab断片が挙げられる。約25kDa以下の抗原結合性タンパク質の例としては、限定はしないがscFv及びVHHが挙げられる。さらに小さいサイズのscFvは、注射あたりのさらなる治療化合物の送達を可能にする。これは、眼への高濃度の抗体を可能にする。本発明の抗体のさらに小さいサイズ、特にscFvは、疾患関連組織、すなわち眼の脈絡膜領域へのそれらの浸透も改善できる。本発明の抗体は、ハーラー層、サトラー層、脈絡毛細管及びブルッフ膜が挙げられる脈絡膜領域の1個又は複数個の層に浸透し得、それにより、脈絡膜領域のこれらの層内の補体C3及びC3bを標的にする。
【0101】
ある特定の実施形態では、眼内投与は、上脈絡膜薬物送達デバイス又は網膜下薬物送達デバイスなどの薬物送達デバイスを用いて達成される。上脈絡膜投与手順は、眼の上脈絡膜腔への薬物の投与を含み、マイクロニードルを備える微量注入器などの上脈絡膜薬物送達デバイスを使用して通常実施される(それぞれその全体が本明細書に参照により組み込まれる、例えば、Hariprasad, Retinal Physician; 2016; 13: 20-23;Goldstein, 2014, Retina Today 9(5): 82-87を参照されたい)。
ある特定の実施形態では、眼内投与は、硝子体内経路を介して達成される。硝子体内投与は、シリンジ及び27ゲージ~30ゲージ針を用いてしばしば実施される(例えば、Jiang et al.上記を参照されたい)。
投与のこれら全ての形態が、本発明の範囲内であるとして明らかに検討される一方で、投与の形態は、注射用、特に硝子体内注射用の溶液である。通常、注射用の好適な医薬組成物は、緩衝液(例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液又はクエン酸緩衝液)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、任意に安定剤(例えば、ヒトアルブミン)などを含んでよい。しかし、本明細書の教示に適合する他の方法では、本発明の抗体は、有害な細胞集団の部位に直接送達されてよく、それにより疾患組織の治療剤への曝露は増大する。
【0102】
代替的実施形態では、医薬組成物は、ヒトへの静脈内又は皮下投与のために適合された医薬組成物として、日常的手順に従って製剤化され得る。典型的には、注射による投与のための組成物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、医薬品は、可溶化剤及び、注射部位の痛みを和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔も含む場合がある。一般に、成分は、別々に、又は単位剤形中に合わせて混合されて、例えば、乾燥凍結乾燥粉剤又は水不含有濃縮物として、活性剤の量を表示しているアンプル又はサシェ(sachette)などの密閉シールされている容器中で供給される。医薬品が注入によって投与される場合、滅菌医薬品グレード水又は生理食塩水を含有する注入用ボトルに分注されてよい。医薬品が注射によって投与される場合、注射用滅菌水又は生理食塩水のアンプルは、成分が投与前に混合され得るように提供されてよい。
さらに、医薬組成物は、(a)本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片を凍結乾燥形態で含む容器、及び(b)注射用の薬学的に許容される希釈剤(例えば、滅菌水)を含む第2の容器を含む医薬品キットとして提供され得る。薬学的に許容される希釈剤は、凍結乾燥抗C3抗体又はその抗原結合性断片の復元又は希釈のために使用され得る。任意にかかる容器に伴うものは、医薬品又は生物学的産物の製造、使用及び販売を規制する行政機関によって規定された形態での表示であってよく、その表示はヒト投与のための製造、使用又は販売の機関による承認を反映する。
【0103】
眼科疾患又は眼疾患の処置又は予防に有効である本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の量は、標準的臨床技術によって決定され得る。加えて、in vitroアッセイは、最適な投薬量範囲の同定を補助するために使用されてもよい。製剤において使用され得る正確な用量は、投与の経路及び障害のステージにも依存し、開業医の判断及び各患者の状況によって決定されるべきである。有効量は、in vitro又は動物モデル試験系に由来する用量応答曲線から推定され得る。
例えば、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の毒性及び治療有効性は、ED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するための標準的な医薬品手順によって細胞培養又は実験動物において決定され得る。より大きな治療指数を示す抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、好ましい。
細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投薬量の範囲を明確にするために使用され得る。抗C3抗体又はその抗原結合性断片の投薬量は、毒性がわずかである又は毒性がないED50を含む循環濃度の範囲内に典型的にはある。投薬量は、使用される剤形及び利用される投与の経路に応じてこの範囲内で変動する場合がある。方法において使用される任意の抗C3抗体又はその抗原結合性断片について、治療有効用量は、細胞培養アッセイから最初に概算され得る。用量は、細胞培養において決定されたIC50(すなわち、症状の最大半量の阻害を達成する検査化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて処方され得る。かかる情報は、ヒトにおける有用な用量をさらに正確に決定するために使用され得る。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィー、ELISAなどによって測定され得る。
【0104】
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の硝子体内注射について、処置間のより長い間隔は一般に好ましい。その作用強度の改善により、本発明の抗C3抗体は、より長い間隔で投与され得る。
一実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、6週間ごと、好ましくは7週間ごと、好ましくは8週間ごと、好ましくは9週間ごと、好ましくは10週間ごと、好ましくは11週間ごと、より好ましくは12週間ごとに投与される。さらに好ましい実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、3カ月ごとに1回投与される。
眼に投与され得る体積が厳密に制限されることから、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が高濃度に製剤化され得ることは非常に重要である。さらに、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の作用強度は、強力な抗体がその効果を低用量でさえ発揮でき、それにより活性及び処置間の間隔も延長することから非常に重要である。
【0105】
本発明の抗体は、これだけに限らないが、20mg/ml、30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、110mg/ml、120mg/ml、130mg/m、140mg/ml、150mg/ml、160mg/ml、170mg/ml、180mg/ml、190mg/ml、200mg/mlを含む非常に高い用量に製剤化され得る。好ましくは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、製剤を約90mg/ml~180mg/mlの間、より好ましくは130mg/ml~160mg/mlの間に含まれる濃度で液体製剤中に製剤化され得る。好ましくは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、約150mg/mlの液体製剤中に製剤化され得る。
患者に投与され得る典型的投薬量は、約2.5mg/眼~20mg/眼の間、又は7.5mg/眼~15mg/眼の間である。特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、1眼あたり7.5mgの濃度で患者に投与され得る。別の特定の実施形態では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、1眼あたり15mgの濃度で患者に投与され得る。このような製剤のために使用され得る典型的緩衝成分は、例えば、酢酸ナトリウム、PS20及びトレハロース二水和物を含む。
【0106】
一部の実施形態では、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を含む医薬組成物は、結合剤にコンジュゲートされた又はコンジュゲートされていないかのいずれかの治療剤をさらに含み得る。
コンビナトリアル投与のための治療レジメンに関して、具体的な実施形態では、抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、治療剤と同時に投与される。別の具体的な実施形態では、治療剤は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片の投与に少なくとも1時間~数カ月に至って先立って又は続いて、例えば、抗C3抗体又はその抗原結合性断片の投与に少なくとも1時間、5時間、12時間、1日、1週間、1カ月又は3カ月先立って又は続いて投与される。
ポリヌクレオチド、ベクター、宿主細胞及び組換え方法
一態様では、本発明は、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片をコードする配列を含む単離されたポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを含むベクター及び宿主細胞並びに抗体の産生ための組換え技術を包含する。単離されたポリヌクレオチドは、例えば、全長モノクローナル抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子並びに抗体断片から形成された多重特異的抗体を含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片のあらゆる望ましい形態をコードし得る。
【0107】
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片をコードする配列を含むポリヌクレオチドは、当技術分野において公知の1種又は複数種の制御又は調節配列に融合されてよく、当技術分野において公知の好適な発現ベクター又は宿主細胞に含有されてよい。重鎖又は軽鎖可変ドメインをコードするそれぞれのポリヌクレオチド分子は、インタクトな抗体の産生を可能にするように、ヒト定常ドメインなどの定常ドメインをコードするポリヌクレオチド配列に独立して融合され得る。代替的に、ポリヌクレオチド又はその一部は、合わせて融合されてよく、一本鎖抗体の産生のための鋳型を提供する。
組換え産生のために、抗体又はその抗原結合性断片をコードするポリヌクレオチドは、クローニング(DNAの増幅)のために又は発現のために複製可能なベクターに挿入される。組換え抗体を発現するための多数の好適なベクターは、利用可能である。ベクター構成成分はこれだけに限らないが、以下:シグナル配列、複製開始点、1種若しくは複数種のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター並びに転写終結配列の1種又は複数種を一般に含む。
【0108】
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、前記抗体又はその断片が、シグナル配列、又は成熟タンパク質若しくはポリペプチドのアミノ末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドなどの異種性ポリペプチドに融合されている、融合ポリペプチドとしても産生され得る。選択される異種性シグナル配列は、典型的には宿主細胞によって認識及びプロセスされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。抗C3抗体シグナル配列を認識及びプロセスしない原核宿主細胞について、シグナル配列は、原核シグナル配列によって置換され得る。シグナル配列は、例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、リポタンパク質、熱安定性エンテロトキシンIIリーダーなどであってよい。酵母分泌のために、天然シグナル配列は、例えば、酵母インベルターゼアルファ因子(サッカロマイセス及びクルイベロマイセスα因子リーダーを含む)、酸性ホスファターゼ、C.アルビカンス(C.albicans)グルコアミラーゼ又はWO90/13646に記載されているシグナルから得られるリーダー配列を用いて置換され得る。哺乳動物細胞では、哺乳動物シグナル配列及びウイルス分泌リーダー、例えば、単純ヘルペスgDシグナルは、使用され得る。かかる前駆体領域についてのDNAは、ヒト化抗C3抗体又はその抗原結合性断片をコードするDNAにリーディングフレームでライゲーションされる。
【0109】
発現及びクローニングベクターは、ベクターが1種又は複数種の選択された宿主細胞中で複製できるようにする核酸配列を含む。一般にクローニングベクターでは、この配列は、ベクターが宿主染色体DNAと無関係に複製できるようにするものであり、複製開始点又は自己複製配列を含む。かかる配列は、種々の細菌、酵母及びウイルスについて周知である。プラスミドpBR322由来の複製開始点は、大部分のグラム陰性細菌について好適であり、2-νプラスミド開始点は、酵母に好適であり、種々のウイルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV及びBPV)は、哺乳動物細胞におけるクローニングベクターのために有用である。一般に複製開始点構成成分は、哺乳動物発現ベクターのためには必要でない(SV40開始点は、それが初期プロモーターを含有していることだけで、典型的に使用され得る)。
発現及びクローニングベクターは、発現の同定を促進する選択可能マーカーをコードする遺伝子を含有する場合がある。典型的な選択可能マーカー遺伝子は、抗生物質又は他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート若しくはテトラサイクリンに対する抵抗性を付与する、又は代替的に栄養要求性欠損補完物である、又は他の代替手段では複合培地に存在しない特定の栄養素を供給するタンパク質をコードする、例えば、桿菌についてのD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子。
【0110】
選択スキームの一例は、宿主細胞の増殖を停止するための薬物を利用する。異種性遺伝子を用いて良好に形質転換されるこれらの細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を産生し、それにより選択レジメンを生き残る。かかる優性選択の例は、薬物ネオマイシン、ミコフェノール酸及びハイグロマイシンを使用する。哺乳動物細胞のための一般的な選択可能マーカーは、ヒト化抗C3抗体をコードする核酸を取り込む能力がある細胞の同定を可能にするものであり、例えば、DHFR(ジヒドロ葉酸還元酵素)、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン-I及びII(霊長類メタロチオネイン遺伝子など)、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなど。DHFR選択遺伝子を用いて形質転換された細胞は、メトトレキサート(Mtx)、DHFRの競合的アンタゴニストを含有する培養培地中で全ての形質転換体を培養することによって最初に同定される。野生型DHFRが使用される場合適切な宿主細胞は、DHFR活性を欠損しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系である(例えば、DG44)。
代替的に、抗C3抗体、野生型DHFRタンパク質及び、アミノグリコシド3’-ホスホトランスフェラーゼ(APH)などの別の選択可能マーカーをコードするDNA配列を用いて形質転換された又は同時形質転換された宿主細胞(特に、内在性DHFRを含有する野生型宿主)は、アミノグリコシド抗菌薬、例えば、カナマイシン、ネオマイシン又はG418などの選択可能マーカーに対する選択剤を含有する培地での細胞増殖によって選択され得る。例えば、米国特許第4,965,199号を参照されたい。
【0111】
組換え産生が宿主細胞としての酵母細胞において実施される場合、酵母プラスミドYRp7に存在するTRP1遺伝子(Stinchcomb et al., 1979, Nature 282: 39)は、選択可能マーカーとして使用され得る。TRP1遺伝子は、トリプトファン中で増殖する能力を欠いている酵母の変異体株、例えばATCC番号44076又はPEP4-1のための選択マーカーを提供する(Jones, 1977、Genetics 85:12)。酵母宿主細胞ゲノム中のtrp1損傷の存在は、次に、トリプトファンの非存在下での増殖によって、形質転換を検出するための有効な環境を提供する。同様に、Leu2p欠損酵母株、ATCC20,622及び38,626などは、LEU2遺伝子を保有する公知のプラスミドによって補完される。
加えて、1.6μm環状プラスミドpKD1由来のベクターは、クリベロマイセス酵母の形質転換のために使用され得る。代替的に、組換え仔ウシキモシンの大規模産生のための発現システムは、K.ラクチス(K.lactis)について報告された(Van den Berg, 1990, Bio/Technology 8:135)。クリベロマイセスの工業用株による成熟組換えヒト血清アルブミンの分泌のための安定なマルチコピー発現ベクターも開示されている(Fleer et al., 1991, Bio/Technology 9:968-975)。
【0112】
発現及びクローニングベクターは、宿主生物によって認識され、抗C3抗体又はそのポリペプチド鎖をコードする核酸分子に作動可能に連結されているプロモーターを通常含有する。原核宿主を用いた使用のために好適なプロモーターとして、phoAプロモーター、β-ラクタマーゼ及びラクトースプロモーターシステム、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーターシステム及びtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーターが挙げられる。他の公知の細菌性プロモーターも好適である。細菌のシステムにおける使用のためのプロモーターは、ヒト化抗C3抗体をコードするDNAに作動可能に連結されたシャイン・ダルガーノ(Shine-Dalgamo)(S.D.)配列も含有する。
多数の真核プロモーター配列が公知である。実質的に全ての真核遺伝子は、転写が開始される部位からおよそ25~30塩基上流に位置するATリッチ領域を有する。多数の遺伝子の転写の開始から70~80塩基上流に見出される別の配列は、CNCAAT領域であり、式中Nは、任意のヌクレオチドであってよい。大部分の真核遺伝子の3’末端は、AATAAA配列であり、コード配列の3’末端へのポリAテールの付加のためのシグナルである可能性がある。これらの配列の全ては、真核発現ベクターに好適に挿入される。
【0113】
酵母宿主を用いた使用のために好適な促進配列の例は、3-ホスホグリセレートキナーゼ又は他の解糖酵素、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ及びグルコキナーゼについてのプロモーターを含む。
誘導性プロモーターは、増殖条件によって調節される転写の追加的有利点を有する。これらとして、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関連する酵素誘導体、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ並びにマルトース及びガラクトース利用に関与する酵素のための酵母プロモーター領域を含む。酵母エンハンサーも酵母プロモーターと共に有利に使用される。
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2など)、ウシパピローマウイルス、鳥類肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス及びサルウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから、例えば、アクチンプロモーター若しくは免疫グロブリンプロモーターの異種性哺乳動物プロモーターから、又はヒートショックプロモーターから得られたプロモーターによって、かかるプロモーターが宿主細胞システムと適合性である条件で調節される。
【0114】
SV40ウイルスの初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルス複製開始点も含有するSV40制限断片として好都合に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの最初期プロモーターは、HindIII E制限断片として好都合に得られる。ウシパピローマウイルスをベクターとして使用して哺乳動物宿主においてDNAを発現するためのシステムは、米国特許第4,419,446号に開示されている。このシステムの変法は、米国特許第4,601,978号に記載されている。単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの調節下でのマウス細胞におけるヒトp-インターフェロンcDNAの発現を開示しているReyes et al., 1982, Nature 297:598-601も参照されたい。代替的に、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列もプロモーターとして使用され得る。
【0115】
組換え発現ベクターにおいて使用され得る別の有用なエレメントは、エンハンサー配列であり、高等真核生物による本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片をコードするDNAの転写を増加させるために使用される。多数のエンハンサー配列が哺乳動物の遺伝子から現在公知である(例えば、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン及びインスリン)。しかし典型的には、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーが使用される。例として、複製起点(bp100~270)の後ろにあるSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後ろにあるポリオーマエンハンサー及びアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。真核プロモーターの活性化のための増強エレメントの記載についてYaniv, 1982, Nature 297:17-18も参照されたい。エンハンサーは、抗C3抗体コード配列の5’又は3’位でベクターにスプライスされ得るが、プロモーターから5’の部位に好ましくは位置する。
真核宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト又は他の多細胞生物由来の有核細胞)において使用される発現ベクターは、転写の終結のため、及びmRNAの安定化のために必要な配列も含み得る。そのような配列は、真核又はウイルスDNA又はcDNAの5’及び、時に3’非翻訳領域から一般に利用可能である。これらの領域は、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片をコードするmRNAの非翻訳部分中のポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含有する。1種の有用な転写終結構成成分は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。WO94/11026及びこれに開示される発現ベクターを参照されたい。一部の実施形態では、抗C3抗体は、CHEFシステムを使用して発現され得る(例えば、米国特許第5,888,809号を参照されたい)。
【0116】
本明細書のベクターにおいてDNAをクローニング又は発現するために好適な宿主細胞は、上に記載される原核生物、酵母又は高等真核生物細胞である。この目的のために好適な原核生物として、グラム陰性又はグラム陽性菌などの真正細菌、例えば、大腸菌類、例えば大腸菌(E.coli)、エンテロバクター、エルウィニア、クレブシレア、プロテウスなどの腸内細菌、サルモネラ、例えばサルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア、例えばセラチア・マルセセンス(Serratia marcescans)及び赤痢菌並びに桿菌、例えば枯草菌(B.subtilis)及びB.リケニフォルミス(B.licheniformis)(例えば、1989年4月12日公開DD266,710に開示されているB.リケニフォルミス41P)、シュードモナス、例えば緑膿菌(P.aeruginosa)及びストレプトマイセスが挙げられる。大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31,537)及び大腸菌W3110(ATCC27,325)などの他の株も好適であるが、1種の好ましい大腸菌クローニング宿主は、大腸菌294(ATCC31,446)である。これらの例は、限定ではなく例示である。
【0117】
原核生物に加えて、糸状性真菌又は酵母などの真核微生物は、抗C3抗体コードベクターのための好適なクローニング又は発現宿主である。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)又は一般的なパン酵母は、下等真核宿主微生物の内で最も一般的に使用されている。しかし、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クリベロミセス宿主、例えば、K.ラクチス、K.フラジリス(K.fragilis)(ATCC12,424)、K.ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC16,045)、K.ウィケラミ(K.wickeramii)(ATCC24,178)、K.ワルチイ(K.waltii)(ATCC56,500)、K.ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC36,906)、K.サーモトレランス(K.thermotolerans)及びK.マルキシアヌス(K.marxianus);ヤロウイア(EP402,226);ピキア・パルトリス(Pichia pastors)(EP183,070);カンジダ;トリコデルマ・レーシア(Trichoderma reesia)(EP244,234);アカパンカビ(Neurospora crassa);シュワンニオマイセス例えば、シュワンニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis);並びに糸状性真菌、例えば、ニューロスポラ、ペニシリウム、トリポクラジウム及び、アスペルギルス宿主、例えばA.ニデュランス(A.nidulans)及びクロコウジカビ(A.niger)などの多数の他の属、種及び株は、一般的に利用可能であり、本明細書において有用である。
【0118】
グリコシル化された抗C3抗体又はその抗原結合性断片の発現のために好適な宿主細胞は、多細胞生物由来である。無脊椎動物細胞の例は、植物及び昆虫細胞を含み、例えば、多数のバキュロウイルス株及びバリアント並びに、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(カ)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(カ)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)及びボンビックス・モリ(Bombyx mori)(カイコ)などの宿主由来の対応する許容昆虫宿主細胞が挙げられる。トランスフェクションのための種々のウイルス株は、公的に入手可能である、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1バリアント及びボンビックス・モリNPVのBm-5株、かかるウイルスは、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞のトランスフェクションのために使用可能である。
ワタ、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト及びタバコの植物細胞培養物も宿主として利用され得る。
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片は、ウイルスベクターに組み込まれていてもよい、すなわち抗C3抗体又はその抗原結合性断片をコードするポリヌクレオチドは、ウイルスベクターに導入され、次いでウイルスを用いた感染後に患者の身体で発現される。
【0119】
別の態様では、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片の発現は、脊椎動物細胞において実行される。培養物(組織培養)における脊椎動物細胞の増殖(propagation)は、日常的手順になっており、技術は広範に利用可能である。有用な哺乳動物宿主細胞系の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1系(COS-7、ATCC CRL1651)、ヒト胚性腎臓系(懸濁培養における増殖のためにサブクローニングされた293又は293細胞、(Graham et al., 1977, J. Gen Virol. 36: 59)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR1(CHO、Urlaub et al., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4216;例えば、DG44)、マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、1980、Biol. Reprod. 23:243-251)、サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL2)、イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL1442)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75)、ヒト肝細胞(Hep G2、HB8065)、マウス乳房腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51)、TR1細胞(Mather et al., 1982, Annals N.Y. Acad. Sci. 383: 44-68)、MRC5細胞、FS4細胞及びヒト肝細胞腫系(HepG2)である。
【0120】
宿主細胞は、抗C3抗体又はその抗原結合性断片産生のための上に記載される発現又はクローニングベクターを用いて形質転換され、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択する又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために好適なように改変された通常の栄養培地中で培養される。
【0121】
本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片を産生するために使用される宿主細胞は、種々の培地中で培養され得る。Ham’s F10(Sigma-Aldrich Co.、St.Louis、Mo.)、基礎培地((MEM)、(Sigma-Aldrich Co.)、RPMI-1640(Sigma-Aldrich Co.)及びダルベッコ変法イーグル培地((DMEM)、Sigma-Aldrich Co.)などの商業的に入手できる培地は、宿主細胞を培養するために好適である。加えて、Ham et al., 1979, Meth. Enz. 58: 44、Barnes et al., 1980, Anal. Biochem. 102: 255、米国特許第4,767,704号、米国特許第4,657,866号、米国特許第4,927,762号、米国特許第4,560,655号、米国特許第5,122,469号、WO90/103430及びWO87/00195の1つ又は複数に記載されるいずれの培地も宿主細胞のための培養培地として使用され得る。これらの培地のいずれも必要に応じて、ホルモン及び/又は他の増殖因子(インスリン、トランスフェリン又は上皮性増殖因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸など)、緩衝剤(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシンなど)、微量元素(マイクロモル範囲の最終濃度で通常存在する無機化合物と定義される)並びにグルコース又は同等のエネルギー供給源を補充され得る。他の補充物も当業者に公知である適切な濃度で含まれてもよい。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で以前使用されたものであり、当業者に明らかである。
【0122】
組換え技術を使用する場合、抗体又はその断片は、細胞内で、細胞膜周辺腔で産生される、又は培地に直接分泌される場合がある。抗体が細胞内で産生される場合、最初のステップとして細胞はタンパク質を放出するために破壊される場合がある。粒状のデブリ、宿主細胞又は溶解された断片は、例えば、遠心分離又は限外濾過によって除去され得る。Carter et al., 1992, Bio/Technology 10:163-167は、大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離するための手順を記載している。簡潔には、細胞ペーストは、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA及びフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で約30分間で解凍される。細胞デブリは、遠心分離によって除去され得る。抗体が培地に分泌される場合、かかる発現システムからの上清は、一般に、商業的に入手できるタンパク質濃縮フィルター例えば、Amicon又はMillipore Pellicon限外濾過装置を使用して最初に濃縮される。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤は、タンパク質分解を阻害するために前述のステップのいずれにおいても含まれてよく、抗生物質は、外来性の夾雑物の増殖を予防するために含まれてよい。宿主細胞から抗体を単離するために種々の方法が使用され得る。
【0123】
細胞から調製される抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析及び親和性クロマトグラフィーを、親和性クロマトグラフィーが典型的な精製技術として使用して精製され得る。親和性リガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトガンマ1、ガンマ2又はガンマ4重鎖に基づく抗体を精製するために使用され得る(例えば、Lindmark et al., 1983 J. Immunol. Meth. 62:1-13を参照されたい)。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプのために、及びヒトガンマ3のために推奨されている(例えば、Guss et al., 1986 EMBO J. 5:1567-1575を参照されたい)。親和性リガンドが付着するマトリクスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリクスも利用可能である。多孔質ガラス(controlled pore glass)又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリクスは、アガロースを用いて達成され得るよりも速い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)レジン(J.T.Baker、Phillipsburg、N.J.)は精製のために有用である。イオン交換カラム、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)でのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換レジン(ポリアスパラギン酸カラムなど)でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE及び硫酸アンモニウム沈殿での分画などのタンパク質精製のための他の技術も回収される抗体に応じて利用可能である。
【0124】
任意の予備的精製ステップに続いて、目的の抗体又はその断片及び夾雑物を含む混合物は、約2.5~4.5の間のpHで溶出緩衝液を使用して典型的には低塩濃度(例えば、約0~0.25M塩)で実施される低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供されてよい。
本明細書において定義される低、中程度及び高ストリンジェンシー条件下で、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片をコードする単離されたポリヌクレオチド配列によって表されるヌクレオチド配列の全て又は一部(例えば、可変領域をコードする部分)にハイブリダイズする核酸も同様に含まれる。ハイブリダイズする核酸のハイブリダイズする部分は、典型的には長さ少なくとも15(例えば、20、25、30又は50)ヌクレオチドである。ハイブリダイズする核酸のハイブリダイズする部分は、抗C3ポリペプチド(例えば、重鎖若しくは軽鎖可変領域)又はその相補体をコードする核酸の一部又は全ての配列と少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%同一である。本明細書に記載される種類のハイブリダイズする核酸は、例えばクローニングプローブ、プライマー、例えばPCRプライマー又は診断プローブとして使用され得る。
【0125】
一実施形態では、本発明は、配列番号20、配列番号22又は配列番号24に記載の重鎖可変領域をコードする配列、並びに配列番号21、配列番号23及び又は配列番号25に記載の軽鎖可変領域をコードする配列を含む、単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドに関する。
前記抗C3抗体及び抗体断片において、CDRをコードする核酸配列は未変化のままである(それらがコードするアミノ酸に関して未変化、コドンの縮重によるDNA配列の等価物は可能である)が、周辺領域、例えばFR領域は、操作され得ることは理解される。
製造品
別の態様では、上に記載される障害の処置のために有用な材料を含有する製造品が含まれる。製造品は、容器及び標識を含む。好適な容器として、例えば、ビン、バイアル、シリンジ及び試験管が挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの種々の材料から形成され得る。容器は、状態を処置するために有効である組成物を保持し、滅菌アクセスポートを有していてよい。例えば容器は、皮下注射針によって貫通することができるストッパーを有する静脈注射用溶液バッグ又はバイアルであってよい。組成物中の活性剤は、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片である。容器上の又はそれに付随する標識は、組成物が選択された状態の処置のために使用されることを示す。製造品は、リン酸緩衝食塩水などの薬学的に許容される緩衝剤、リンゲル液及びブドウ糖溶液を含む第2の容器をさらに含んでよい。他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ及び使用説明書を含む添付文書が挙げられる、商業的な及び使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含んでよい。
本発明は、本発明の範囲を限定することを意図しない続く実施例においてさらに記載される。
【実施例】
【0126】
(実施例1)
C3機序及び地図状萎縮の病因学
GAを有する患者において、補体系の増大した、制御されない活性化は、脈絡毛細管の破壊、RPE細胞の損傷及び最終的に光受容体の喪失を生じる。
疾患の病態生理学に関する補体活性化の関連性は、以下の点に基づく:
A.AMD患者の網膜における補体タンパク質の発現及び補体系の活性化
補体カスケードの全てのタンパク質が、網膜において局所的に様々な細胞型において発現されることを見出した。患者では、いくつかの補体因子(例えば、C3、CFB及びC5)のタンパク質レベルは、ドルーゼン及びGA病変において増加している。加えて、補体活性化産生物C3a、C4a、C3d、CBbのレベルの増加が、AMD患者の眼房水及び血漿において増加していることを見出した。膜侵襲複合体(MAC)についての免疫組織化学染色は、患者においてGA病変近くのブルッフ膜、RPE層及び脈絡毛細管における沈着の増加を示す。
【0127】
B.AMDの遺伝学
GWAS研究は、補体因子H(CFH)におけるY402H多型をAMDを発症する主なリスク因子として同定した。7倍に至るリスクの増加を、この突然変異についてホモ接合の個体において見出した。CFHは、補体系の主要な負の制御因子である。それは、C3転換酵素C3bBbの減衰を増強し、既に沈着したC3bのタンパク質分解性分解を制御する。Y402多型は、他のタンパク質へのCFHの結合の減少、及び補体活性化産生物のレベルの増加を生じ、並びにMACの沈着の増加がホモ接合性患者において見出された。加えて、他の補体遺伝子(例えば、CFB、C3、C7、C9)における多型はAMDの発症と関連した。
C.補体阻害剤を用いる臨床研究 C3阻害剤(APL-2)及びC5阻害剤(ZIMURA(登録商標))を用いる処置を含む既存の治療戦略は、第2相臨床試験においてGA病変の成長を低減させた。C3の阻害は、C3増幅ループを阻害し、それにより補体系の代替、古典及びレクチン経路を阻害する。
【0128】
(実施例2)
抗C3抗体ライブラリーの生成及び特徴付け
抗C3抗体を生成するために、3匹のニュージーランドホワイトウサギを天然ヒトC3タンパク質を用いて免疫化する。各動物は、フロイント完全アジュバント又は不完全アジュバントと共に様々な時点でC3タンパク質の4回の注射を受ける。各動物の免疫応答をELISAを用いて試験し、血清中の特異的抗体力価は優れた免疫応答を示す。
scFv抗体cDNAライブラリーを単離されたウサギPBMC及び脾臓リンパ球から抽出したRNAからPCR増幅を介して構築する。可変軽ドメイン及び重ドメインについてのコード配列を別々に増幅し、最終scFv産生物をもたらすように一連の重複PCRステップを通じて連結する。
ウサギ由来のscFvをコードする増幅したDNA配列を適切な制限酵素を使用して消化し、ファージミドベクターにライゲーションする。ファージミドベクターを、抗体ファージディスプレイライブラリー生成のために十分適する大腸菌(E.coli)TG1エレクトロコンピテント細胞に形質転換する。
【0129】
(実施例3)
3種全ての補体経路を阻害する抗C3抗体のスクリーニング
高い親和性を有する抗C3抗体をスクリーニングするために、ファージ上に提示されたscFvを天然ヒトC3に対する数ラウンドのバイオパニング(選択)にかけた。選択のストリンジェンシーを、バイオパニングにおいて使用するC3タンパク質の濃度を減少させるか、又は洗浄のストリンジェンシーを増加させるかのいずれかによって各ラウンドで増加させる。およそ380個のモノクローナルファージを選択し、ELISAアッセイにおいてC3に結合するそれらの能力についてスクリーニングする。
ファージELISAデータ及びDNAフィンガープリントに基づいて、提示されたscFvの選択を、Fabフォーマットの抗体タンパク質として組換え的に産生する。得られたタンパク質をヒトC3及びC3bに結合するそれらの能力について評価する。
【0130】
3種全ての補体経路を遮断する抗体を同定するために、抗体をWEISLAB(登録商標)Complement system Screen(Svar Life Science AB、Malmo、スウェーデン)を使用してヒト血清における機能的な古典、レクチン及び代替補体経路の定性的決定のための酵素イムノアッセイを使用してスクリーニングする。表6に示す通り、クローンIV(配列番号32)を3種全ての補体経路を阻害し得るとして同定した。
【表6】
【0131】
【0132】
(実施例4)
再フォーマット、ヒト化及び最適化作戦
再フォーマット及びヒト化:抗体のヒト化及びscFv抗体断片フォーマットへの再フォーマットのために、ウサギ由来クローンIV CDR配列をヒト生殖細胞系配列の軽鎖可変(VL)ドメイン及び重鎖可変(VH)ドメインに移植する。VHのヒト化ために、CDRをIMGT_hVH_3_30フレームワークに移植する。VLのヒト化のために、CDRをIMGT_hVL_4-69フレームワークに移植する。可変ドメインを(GGGGS)4リンカー(配列番号46)を使用して、VL-リンカー-VH様式で接続する。フレームワーク4のために、IGLJ2*01接合部(J)遺伝子を使用する。
再フォーマット及びヒト化したバリアントクローンV(配列番号33)は、古典及び代替補体経路を阻害するその能力を保持しているが、親分子クローンIVよりも低い結合親和性をC3及びC3bに示す。
追加的なウサギ由来アミノ酸を生殖細胞系配列を用いて置き換えることによってバリアントをさらに改変し、それによりクローンVI(配列番号34)を作る。ヒトC3及びC3bに対するその親和性は、親分子に匹敵し、構築物の熱安定性は11.7℃上昇した。
【0133】
クローンV及びクローンVI配列を続く表8にまとめる。
【表8】
【0134】
親和性成熟
ライブラリー構築:分子の親和性を改善するために、部位飽和ライブラリーをクローンVI(配列番号34)を鋳型として使用して構築する。ランダム化をCDR L1、L2、L3及びH3について実施する。
バイオパニング:軽鎖ランダム化を含むライブラリーを1つのライブラリーに統合する。同様に、重鎖ランダム化を含むライブラリーを別のライブラリーに統合する。軽鎖及び重鎖ライブラリーをヒトC3に対するバイオパニングに供する。ラウンド2、3及び4のバイオパニング(ROP2~4)において、クローンIVに対する50μg/mLでの競合作用を選択のストリンジェンシーを増加させるために導入し、親分子より高い親和性を有する結合剤の同定を可能にする。ROP2~4におけるファージELISAを介して同定されたヒットを配列決定に供する。ROP4からの最も有望な候補をscFvフォーマットで発現させ、精製する。
【0135】
ヒット特徴付け:ROP4において同定された全てのヒットは、CDR L3又はCDR H3中にアミノ酸置換を含む。
全てのヒットは、良好に発現され、精製された。ヒトC3及びC3bに対する最良の結合親和性を、それぞれ1.1nM、184pM及び1.3nMのC3親和性を有するクローンVII(配列番号35)、クローンVIII(配列番号36)及びクローンIX(配列番号37)について観察した。
【0136】
クローンVII及びクローンIXは、親分子クローンIVと同等の結合親和性及び補体阻害活性を示した。クローンVIIIは、クローンIVと比較してC3及びC3bへの結合親和性においておよそ10倍の増加、並びに補体阻害アッセイにおいて優れた性能を示した。
【0137】
クローンVII、VIII及びIXの配列を続く表9にまとめる。
【表9】
【0138】
scFvの安定化
scFvの安定化をジスルフィド架橋(VL 43C、VH 105C)の導入によって実施した。天然抗体は、定常軽鎖と定常重鎖CH1ドメインとの間に、軽鎖と重鎖との間の相互作用を強く安定化する保存された鎖間ジスルフィド架橋を有する。scFvにおけるこの鎖間ジスルフィド結合の欠如は、特に、高濃度で製剤化された場合には、可変ドメイン不安定化並びに二量体、三量体及びさらに高いオリゴマー種の形成をもたらし得る。したがって、ジスルフィド結合の存在は、scFvのVH/VL境界面を安定化できる。
【0139】
クローンVIの重鎖フレームワークの安定性を、フレームワーク置換を導入し、それにより、とりわけクローンX(配列番号38)を作ることによって調査した。クローンX及びそのジスルフィド結合安定化バリアントクローンXI(配列番号39)を37℃、タンパク質濃度>100mg/mLでの安定性研究において比較した。クローンXIの37℃での2週間のインキュベーションは、モノマーの純度の3.3%だけの低下を生じた一方で、親分子クローンXは、モノマー含有量が60.4%低下した(表10)。
【表10】
【0140】
クローンX及びXIの配列を続く表11にまとめる。
【表11】
【0141】
最終最適化
最も有望な親和性成熟置換及びジスルフィド結合安定化を、クローンXII(配列番号40)、クローンXIII(配列番号41)及びクローンXIV(配列番号42)において組み合わせた。
ヒトC3及びC3bに対する熱安定性及び親和性をDSF及びSPRアッセイによって決定する。クローンXII、クローンXIII及びクローンXIVは、それぞれ70.4℃、67.7℃及び67.2℃の融解温度を示した。ヒトC3及びC3bに対する結合親和性は、それぞれ、クローンXIIについて4.7nM及び4.8nM、クローンXIIIについて116pM及び110pM、クローンXIVについて129pM及び116pMであった。
【0142】
クローンXII、クローンXIII及びクローンXIVを補体阻害アッセイにおけるそれらの活性についても試験する。古典経路における補体阻害についてのIC50値は、クローンXII、クローンXIII及びクローンXIVについてそれぞれ0.098μM、0.06μM及び0.05μMであった一方で、親クローンIVは0.08μMのIC50を示した。代替経路における補体阻害についてのIC50値は、クローンXII、クローンXIII及びクローンXIVについてそれぞれ0.21μM、0.26μM及び0.25μMであった一方で、クローンIVは、0.28μMのIC50を示した。まとめると、クローンXIII及びクローンXIVは、クローンIVよりも優れた機能的な特性を示した。追加的に、クローンXIII及びクローンXIVを濃度依存性安定性研究において比較した。クローンXIIIは、モノマー含有量における低下を伴わずに150mg/mLまで濃縮でき、37℃での2週間のインキュベーション後に2.2%だけ低下した一方で、クローンXIVは、50mg/mLへの濃度で既に1.6%モノマー含有量が低下し、37℃での2週間のインキュベーション後にさらに2.3%低下した。
【0143】
クローンXII、クローンXIII及びクローンXIVの配列を続く表12にまとめる。
【表12】
【0144】
最終的ヒト化:EpiVaxを使用する免疫原性リスク予測は、クローンX(クローンXIIIの親構築物)について中程度のリスクを明らかにする。-39.36及び14.86のEpiVaxスコアをVH及びVLそれぞれについて決定した。加えて、クローンXIは、VHについて77%の、及びVLについて87%のヒト生殖細胞系配列同一性を示した。
クローンXIIIへのクローンIXの進展は、CDRループ改変を排他的に含み、それによりクローンXIのFRにおいて同定された傾向は、クローンXIIIにおいて未変化のままであった。したがって、フレームワーク領域において追加的な生殖細胞系化を実施する。
追加的に、コンピューターでの分析は、ヒト抗体レパートリーにおいて稀にしか存在せず、それにより、免疫原性リスクの増加を有する残基の同定を可能にする。これにより、免疫原性のリスクをさらに低減させるために、続く突然変異VH S61D、W62S、A63V及びY30S並びにVL T56Sを候補に含めた。
【0145】
本発明者らは、最終的なヒト化及び最適化作戦において、重要な翻訳後修飾(PTM)モチーフを欠いており、さらにヒト化(VL及びVHそれぞれについて86%及び89%のヒト配列同一性)及び親和性成熟させたクローンIIIを作った。
加えて、CDR L2での異性化モチーフ(DG)を、それが再フォールディング収率及び親和性に大きな影響を有したことから調査した。したがって、クローンIIIを突然変異E50Dを導入することによって改変し、クローンIIを生じた。クローンIIは、VL及びVHについてそれぞれ87%及び89%のヒト配列同一性を示した。
クローンIIの追加的バリアントをCDR H2全体の完全ヒト生殖細胞系配列への交換によって生成し(ヒト生殖細胞系に対するヒト配列同一性をVHにおいて追加的に7%増加させた)、それによりクローンIを作る。
それにより、本発明者らは、本発明の抗C3が、潜在的に異性化、脱アミド及び酸化を生じる傾向を有さないことを確実にした。本発明者らは、本発明による抗C3抗体又はその抗原結合性断片が、許容可能な粘度、強い保存安定性、C3、C3bに対する高い親和性を有し、古典、代替及びレクチン経路において同様の作用強度を示し、ブタブルッフ膜を通じた拡散を示し、顕著なT細胞活性化を示さないことをさらに確証した。
【0146】
本発明の例示的抗体は以下を含む:
- クローンI:配列番号20の可変重鎖及び配列番号21の可変軽鎖を含む;
- クローンII:配列番号22の可変重鎖及び配列番号23の可変軽鎖を含む;並びに
- クローンIII:配列番号24の可変重鎖及び配列番号25の可変軽鎖を含む。
免疫原性
本発明者らは、本発明のscFvの免疫原性をさらに評価した。本発明者らは、本発明による例示的抗体の予測される免疫原性を評価した:クローンI、クローンII及びクローンIII。
【0147】
この目的のために、本発明者らは、そのようなT細胞エピトープを予測するためにコンピューターツールを使用した(EpiVaxによって開発されたEpiMatrix)。
多数のヒト抗体単離物の配列をスクリーニングすることによって、EpiVaxは、制御潜在力を有すると考えられるいくつかの高度に保存されたHLAリガンドを同定した。実験的証拠は、これらのペプチドの多くが大部分の対象において積極的に免疫寛容原性であることを示唆する。これらの高度に保存された、制御性かつ無差別の(promiscuous)T細胞エピトープは、Tレギトープ(Tregitope)として公知である(De Groot et al. Blood. 2008 Oct 15;112(8):3303-11)。ヒト化抗体に含有されるネオエピトープの免疫原性の可能性は、顕著な数のTレギトープの存在下で効果的に調節され得る。
抗体免疫原性分析の目的のために、EpiVaxは、Tレギトープ調整EpiMatrixスコア及び抗治療抗体応答の対応する予測を含む。Tレギトープ調整EpiMatrixスコアを算出するために、TレギトープのスコアをEpiMatrixタンパク質スコアから差し引く。Tレギトープ調整スコアは、23種の市販の抗体のセットについて観察された臨床免疫応答とよく相関したことが示された(De Groot et al. Clin Immunol. 2009 May;131(2):189-201)。
【0148】
EpiMatrixスケールでの結果を、続く表13にまとめる。
【表13】
本発明抗体の配列は、EpiMatrixスケールで最も低くスコア化され、本発明のscFvが免疫原性について非常に限られた可能性を有することを示す。前記EpiMatrixスケールは、当業者に周知であり、とりわけ公表文献、Mufarrege et al. Clin Immunol., 2017 Mar;176:31-41の
図2において見出すことができる。
【0149】
(実施例5)
比較化合物の生成
A.APL-1サロゲート及びAPL-2サロゲート
比較目的のために、本発明者らは、以下の通りコンプスタチンのいくつかの誘導体を開発した:
・ APL-1サロゲート:PEG化モノコンプスタチン誘導体(本明細書以下で「比較化合物1」又は「化合物A1」として設計する)
・ APL-2サロゲート:PEG化二量体化コンプスタチン誘導体(本明細書以下で「比較化合物A2」又は「化合物A2」として設計する)。
【0150】
これらの化合物は、米国特許出願公開第20200282012号においてAPL-1及びAPL-2として開示されている。それらは、
・ Ricklin D, Lambris JD. Compstatin: a complement inhibitor on its way to clinical application. Adv Exp Med Biol. 2008;632:273-292. doi:10.1007/978-0-387-78952-1_20、及び
・ Mastellos DC, Ricklin D, Lambris JD. Clinical promise of next-generation complement therapeutics. Nat Rev Drug Discov. 2019;18(9):707-729. doi:10.1038/s41573-019-0031-6
においてさらに開示されている。
化合物A1は、コンプスタチン由来の抗C3環状ペプチドである。化合物A2は、化合物A1に基づいて、その循環半減期を延長し、血清におけるその溶解度を改善するようにさらに開発された。化合物A2は、直鎖状40kDa PEGリンカーを介して連結された2つのペプチド部分を含む。
【0151】
化合物A1及び化合物A2の配列を続く表14にまとめる。
【表14】
化合物A1及び化合物A2の構造及び配列に関する追加的データは、Adv Exp Med Biol. 2008; 632: 273-292において入手可能である。
【0152】
B.NGM621サロゲート
比較目的のために、本発明者らは、WO2019195136に開示されているNGM化合物を開発した。このNGM化合物は、好ましくはNGM621サロゲートとしてであり、本明細書以下で「比較化合物A3」又は「化合物A3」と称される。前記化合物A3は、続く特性を有する抗C3 IgGである。
【0153】
関連配列を続く表15に以下の通りまとめる。
【表15】
【0154】
本発明者らは上に述べた配列に基づいて、FabフォーマットでNGM621サロゲートをさらに開発した。前記化合物は、「化合物A3 Fab」と称される。
【0155】
(実施例6)
比較データ
A.様々な作用機序
本発明の例示的抗体及び比較化合物は、以下に要約する通り異なる作用機序及び異なる特性を有する:
- 本発明の抗体はC3及びC3bを阻害する、
- APL-2はC3及びC3bを阻害する、
- NGM621はC3を阻害する、並びに
- ZIMURA(登録商標)はC5を阻害する。
【0156】
本発明者らは、NGM621とは対照的に、本発明の例示的抗体、クローンIが、続く表16に例示する通り、同様の親和性でC3及びC3bに結合することを示した。
【表16】
【0157】
B.ScFvフォーマットは、IVT注射あたりでより多い薬物分子を送達できる
本発明者らは、続く表17に例示される通り、本発明による例示的抗体及び比較化合物A2、比較化合物A3及びZIMURA(登録商標)(データは文献において入手可能)の分子量(mass weight)、注射体積及び可能な用量を確立した。
【表17】
【0158】
本発明の抗体は、眼へのIVT投与あたりでより多い薬物量を提供することを証明し、眼においてより大きな補体阻害を達成することに寄与する。
C.ScFvフォーマットは、等モルの硝子体内注射後にFab又はIgGと比較してさらに良好な網膜浸透を可能にする。
本発明者らは、カニクイザル(cynomologus)での等モルの硝子体内注射後にscFv(ブロルシズマブ)及びFab(ラニビズマブ)の網膜浸透を比較した。データは、scFvフォーマットが、Fab又はIgGと比較して網膜浸透の改善を可能にすることを示す。したがって、scFvフォーマットでの本発明の抗体は、硝子体内投与では、Fabと比較して優れた網膜曝露レベルを達成すると期待される(
図1A及び1B)。
【0159】
(実施例7)
本発明のscFvの作用強度及びin vitro活性並びに比較化合物A1及び比較化合物A3との比較
本発明の例示的scFvの機能の作用強度及びそれらの間の比較を決定するために、以下のアッセイを実行する:膜侵襲複合体の生成を測定する補体阻害アッセイ及び溶血アッセイ
A.材料及び方法
a.補体阻害アッセイ
ヒト血清における補体系の阻害をモニターするために、本発明のscFv又は比較分子を、ヒト血清における機能的な古典、レクチン及び代替補体経路の定性的決定のためにWEISLAB(登録商標)Complement system Screen(Svar Life Science AB、Malmo、スウェーデン)を供給者の説明書に従って使用する酵素イムノアッセイを使用して試験する。生成されたC5b-C9新抗原の量は、補体経路の機能活性に比例する。本発明のscFv及び比較分子を濃度応答曲線において試験し、阻害についてのIC50をGraphPadPrismソフトウェア及び非線形4パラメーター曲線回帰を使用して算出する。
【0160】
b.溶血アッセイ
抗C3抗体断片を、ヒト血清において、古典経路(CP)又は代替経路(AP)活性化によって媒介される抗体感作ヒツジ赤血球の溶血を阻害するそれらの能力について評価する。このために、ヒト血清における補体系を活性化し、C3活性化及び続く膜侵襲複合体(MAC)の形成を生じるように、ヒツジ赤血球表面を溶血素(ウサギ抗ヒツジ抗体)を用いてコートする。MACは、ヒツジ赤血球の膜でアセンブルし、細胞溶解を生じる。溶解した赤血球から放出されるヘモグロビンのレベルをOD414nmで測定し、それは血清試料中に存在する補体活性に比例する。CP活性を阻害する抗C3分子の能力を決定するために、ヒト血清を古典経路(カルシウム及びマグネシウムイオンを必要とする)の最適な活性化のためにGVB++緩衝液(Complement technology)中に希釈した。抗C3試験試料の系列希釈物を各データ点(赤血球への添加前)について1%ヒト血清の最終濃度でこの溶液から調製する。試料を抗体感作ヒツジ赤血球と共に1時間、37℃でインキュベートし、放出されたヘモグロビンを遠心分離ステップ後に上清中で測定する。
ヒト血清試料において代替経路(AP)は、ウサギ赤血球によって自然に活性化される。AP活性化が高濃度の血清を必要とすることから、古典経路は、Ca2+イオンをキレートするために(APはMg2+イオンだけを必要とする)MgEGTAを用いて遮断される必要がある。AP活性化は、C3活性化及び続く膜侵襲複合体(MAC)の形成を生じる。MACは、ウサギ赤血球の膜上でアセンブルし、細胞溶解を生じる。溶解した赤血球から放出されるヘモグロビンのレベルをOD414nmで測定し、それは血清試料中に存在する補体活性に比例する。
【0161】
B.結果
結果を続く表18にまとめる。
【表18】
【0162】
本発明の例示的抗体(クローンI、クローンII及びクローンIII)は、化合物A1(化合物A2の活性成分)より強力である。重要なことに、本発明者らは、本発明の例示的抗体が、化合物A1と比較してさらに強力に古典及びレクチン経路を阻害することを示した。
クローンIは、化合物A1と同様の活性を代替経路に示す。
クローンIは、化合物A1と比較して、古典経路のさらに強力な阻害を示す。
クローンIは、化合物A1と比較して、レクチン経路のさらに強力な阻害を示す。
クローンI:本発明者らは、本発明の例示的抗体(クローンI)が、高い親和性及び作用強度を有して全ての補体エフェクター機能を阻害することを示した。
化合物A1:本発明者らは、本発明の抗体と比較した場合に、比較化合物A1が全ての補体エフェクター機能を低い親和性及び作用強度で阻害することを例示した。
NGM621:本発明者らは、NGM621サロゲート、比較化合物A3がC3b阻害を示さないことを示した。
ZIMURA(登録商標):ZIMURA(登録商標)化合物は、C5だけを標的にする。
【0163】
(実施例8)
ヒトC3及びC3bへの結合親和性並びに本発明の抗体、比較化合物A1及び比較化合物A3の結合親和性の比較
本発明者らは、本発明の例示的scFvのヒトC3への結合親和性、並びに化合物A1及び化合物A3のヒトC3及びC3bへの結合親和性を評価した。
A.材料及び方法
候補物の動力学的パラメーターを表面プラズモン共鳴(SPR)及びBiacore T100デバイスを使用して決定する。C3及びその様々なバリアント(表19)をHC30M SPRセンサーチップ(XanTec bionanalytics、ドイツ)上にEDC/スルホ-NHC連結化学を使用してリガンドとして固定する。動力学的パラメーターを決定するために5つの増加濃度の各分子(分析物)を、単一サイクル速度論(SCK)モードを使用して連続的に注射する。候補物の間の再生は、10mMグリシン*HCl、2M NaCl、pH3.5を用いて行う。データは、1:1ラングミュア結合モデルにフィットさせ、オン速度(ka)、オフ速度(kd)及び親和性(KD)の動力学的パラメーターを決定した。
【0164】
C3における単一ヌクレオチド多型(SNP)は、集団にわたって観察され、ある特定のSNPを、AMDを発症するリスクの増加と関連させてゲノムワイド関連解析(GWAS)において同定した。共通SNPバリアントとしては、集団のおよそ23.3%に存在するP314L、及び集団のおよそ26~29%に存在すると報告されたR102Gが挙げられる。より少なく集団の2.5%で存在する非常に稀なバリアントとしては、K155Q、R735W、S1619W、K65Q及びR161Wが挙げられる。
したがって、本発明者らは、本発明のscFvの最も一般的に存在するC3形態、すなわち、R102G及びP314Lへの結合親和性を測定した。野生型ヒトC3、ヒトC3 P314L及びヒトC3 R102GをExpiFectamine CHO Expression Kit(Thermo Fisher Scientific)を使用してCHO細胞株において発現させる。タンパク質は、N末端に6xHisタグを含むように発現させ、HisTrap Excel HPカラム(GE Healthcare)を使用して精製し、サイズ排除クロマトグラフィーステップ(SUPERDEX(登録商標)20010/300GL;GE Healthcare)が続く。
【0165】
B.結果
ヒトC3及びC3bにそれぞれ結合する本発明のscFv、化合物A1(化合物A2の活性成分)及び化合物A3の動力学的データ及び親和性データを続く表19に列挙する。
【表19】
【0166】
化合物A3は、インタクトなヒトC3への高い親和性(KD=0.34nM)を有してC3に結合するが、C3切断断片C3bへの顕著に低い親和性(100分の1未満)を示す。
反対に、本発明の例示的抗体は、化合物A3よりも高い親和性でC3に結合する。加えて、本発明の例示的抗体は、C3及びC3bに対するおよそ同等の結合親和性を有する。
本発明の抗体が、化合物A1及び化合物A3と比較して高い親和性でヒトC3及びC3bに結合し、C3のさらに強力な阻害を可能にすることは注目に値する。化合物A3と比較して、本発明の抗体は、高い親和性でC3bに結合し、それによりC3増幅ループにおけるC3bの生成並びに代替活性化経路によって生成された既に沈着したC3b及びC3bの活性を遮断する。
【0167】
【0168】
したがって、本発明者らは、クローンI、クローンII及びクローンIIIを含む本発明の抗体が、化合物A1よりも高い親和性をC3及びC3bに有し、2/3の補体活性化をさらに強力に阻害することを確認した。
例示的抗体の高い結合親和性は、硝子体内注射後のC3の中和の時間の延長に寄与し、注射頻度の低減をさらに可能にする。結合親和性の改善及び注射頻度の低減は、患者の処置の有効性をかなり改善する。これは、患者に貴重な利益、特に、薬物の順守及びコンプライアンスの改善も提供する。
本発明のscFvが、化合物A1よりも高い親和性で野生型C3並びに疾患関連SNP C3 P314Lに結合することはさらに注目に値する。
【0169】
(実施例9)
ヒト補体C3上の抗体結合エピトープの同定
タンパク質調製:補体成分C3cは、C3転換酵素及びI因子によるC3切断から生じる主な断片である。ヒト血漿から単離されたC3cを、Athens Research & Technology(製品番号16-16-030303)から購入し、PNGase Fを用いて脱グリコシルし、SUPERDEX(登録商標)200カラムでのサイズ排除クロマトグラフィーによって精製する。ピーク画分をプールし、Amiconフィルターデバイスを50kDaカットオフで使用して濃縮し、-80℃で保存する。
scFvの結晶化:0.1μlのタンパク質を、0.1M酢酸アンモニウム、0.1M塩化亜鉛、0.1M BIS-TRIS pH6.0及び15%w/v PEG Smear Highを含有する0.1μLのリザーバー溶液と混合することによってハンギングドロップ蒸気拡散法を使用して結晶を得る。板状の結晶が1日以内に現れる。結晶を30%v/vグリセリンを補充したリザーバー溶液を用いて凍結保護し、液体窒素において急速凍結する。
【0170】
データ回収及び構造決定:データをスイスのフィリゲンのSLSのbeamline X10SAで100Kで回収する。フレームあたり0.1°で3600フレームをEIGER X 16M検出器で回収する。データをautoPROCを用いて処理する。分子置き換えのモデルを、類似のscFvの予め決定されたX線構造を鋳型として使用してPHENIXソフトウェアスイート内のSCULPTORを用いて作成する。分子置き換えは、鋳型としてSCULPTORを用いて作成したscFvモデルを使用してPHASERを用いて実施する。構造をBuster、モデル構築を用いて精密化し、最小二乗法分析をCOOTを用いて行う。
Cryo-EM試料調製及びデータ回収:C3cをScFvと1:1.2の比で混合し、16時間、277Kでインキュベートし、SUPERDEX(登録商標)200 increaseカラムを用いて精製する。ピーク画分を36μMに濃縮し、EM-グリッド(Quantifoil-1.2/1.3 Au 300)にアプライする。cryo-EMグリッドをLeica GP(Leica Microsystems)を使用して作成する。グリッドを2秒、4℃、湿度85%でブロットし、液体窒素によって冷却した液体エタンに入れる。Cryo-グリッドをFalcon III検出器を用いて電圧200kVで操作するGlacios顕微鏡上でスクリーニングし、良好な品質のグリッドを300kVで操作するTitan Krios顕微鏡に移す。画像をピクセルあたり0.745Åの較正されたピクセルサイズを用いるエネルギーフィルターの後ろに備え付けたFalcon IV検出器(Thermo Fisher Scientific)を使用して超解像度モードで回収する。顕微鏡像を60e-/Å2の合計線量で曝露し、CryoSPARC v3.1.1を使用して処理する。スタックを運動補正し、2倍ビニングし、ピクセルあたり1.49Åのピクセルサイズを得る。
【0171】
Cryo-EM画像分析:合計1,914,120個の粒子を3622個の顕微鏡像からCryoSPARC鋳型ピッカーを使用して取る。取った粒子を348ピクセルのボックスサイズを用いて抽出し、CryoSPARCにおいて174ピクセルでビニングした。次に抽出した粒子を氷、夾雑物及び凝集物を除去するために、cryoSPARC-3.1.1.での3つのラウンドの2D分類に供し、421,628個の粒子を得る。明確に定義されたC3c-scFv密度を有するクラスをcryoSPARC-3.1.0におけるアブイニシオ再構築のために使用する。245,993個の粒子を2Dクラス0.9の閾値に基づいて選択し、1つのラウンドの均一の及び不均一の精密化に供する。粒子を348ピクセルのボックスサイズを用いて再抽出し、2つの1つのさらなるラウンド(two one further round)の均一の及び不均一の精密化を実施する。これは、2.55Åのフーリエシェル解像度(fourier shell resolution)をもたらした。
モデル構築:C3c(pdb 5FOB)及びscFvのX線構造をCHIMERAを活用してEM密度に組み入れ、PHENIXを用いて実空間精密化し、COOTで調査する。境界面分析をPYMOLを用いて行う。
【0172】
クローンIの構造をX線結晶学によって1.4Åの解像度で決定する。構造物は、非対称のユニットごとに分子2個を含有する。A鎖及びB鎖の2個のN末端残基、A鎖のリンカー残基115~132及びB鎖のリンカー残基114~133並びにB鎖のC末端残基253の残基を除いて、全ての残基を電子密度マップ内で良好に決定した。
EM-グリッドでの複合体分子の優先される方向が理由で、解像度は、C3cとscFvとの境界面では4~5Åに制限され、これはX線由来モデルのEMマップへの置き換えをまだ可能にする。scFvに6Å以内で近接する残基は、結合部位残基として決定され、ヒト補体C3(配列番号47)でのアミノ酸366、392~396、413~421、425、427、442、453、478に対応する。結果は、クローンIが、限定はしないが、コンプスタチン結合部位に部分的に重複するエピトープに結合することを示した。コンプスタチン誘導体と比較して本発明の分子によって示されたC3への結合親和性の増強は、この結合境界面の延長から生じると考えられる。これらの結果は、先行技術C3阻害剤と比較して異なるモードで本発明の分子がC3に結合することを示し、これは、古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)を含む3種全ての補体経路を阻害するその固有の能力に寄与すると考えられる。
【0173】
(実施例10)
in vitroでのBrM透過アッセイ及びBrM透過性
ブルッフ膜は、脈絡膜の最も内側の層を形成し、構造変化は、GA患者において補体活性化を引き起こすと考えられる。脈絡毛細管の補体駆動破壊がGAの病態生理学において主要な役割を果たすことから、ブルッフ膜を通じた優れた拡散は、この疾患を処置するための補体阻害剤の重要な特性である。
したがって、本発明者らは、in vitroでブルッフ膜を通じて拡散する本発明のscFvの能力を評価し、それを化合物A2及び化合物A3と比較した。
A.材料及び方法
ブタブルッフ膜試料をこの測定のために使用する。ブタの眼を動物の屠殺後6時間以内に屠殺場)から回収し、使用(同日)まで4℃で保存した。
【0174】
富化されたブルッフ膜(BrM)の調製:眼を使い捨てのペトリ皿に置き、眼球の周囲のあらゆる残存組織を除去する。メスを用いて眼球を虹彩に接して切開し、眼の前部並びに水晶体、硝子体及び網膜組織を眼杯から除く。覆っているRPE単層を含む富化されたブルッフ膜を眼杯の内側表面全体から穏やかに取り除き、PBSで満たしたペトリ皿に置き、液中に慎重に平らにする。その後、ブルッフ膜をウッシングチャンバーに移し、ウッシングチャンバーを閉じ、1個のコンパートメントを漏れ試験のために1ml PBSで満たす。5分後に、第2のコンパートメントにおいて顕著な液体の貯留が観察されなければ、膜はインタクトであると考えられる。4個の異なる眼からのブルッフの調製を各ウッシングチャンバーについて使用する。
試験試料を用いた富化されたブルッフ膜のインキュベーション:4個のウッシングチャンバー(ウッシングチャンバーあたり1ml)のために十分な、APL-2サロゲート(化合物A2など)及び抗C3 scFv又はAPL-2サロゲート(化合物A2など)及びNGM621サロゲート(化合物A3など)のPBS(+0.02% NaN3+プロテアーゼ阻害剤混合物(Complete Tablets、Mini EDTA-free、EASYpack;Roche))中のマスターミックスを、各化合物について最終濃度0.1mg/mlで調製する。ウッシングチャンバーあたり1mlのマスターミックスを1個のコンパートメント(試料チャンバーと呼ぶ)に加える。ウッシングチャンバーあたり1mlのPBS(+0.02%NaN3+プロテアーゼ阻害剤)を第2のコンパートメント(拡散チャンバーと呼ぶ)に加える。ウッシングチャンバーをパラフィルムでシールし、室温で、拡散を促進するように穏やかに振とうしながらインキュベートした。
【0175】
試料採取及び膜完全性分析:様々な時点(4時間、24時間、48時間及び72時間)での試料採取のために、単一のコンパートメント中の溶液を慎重に上下にピペット操作することによって混合し、90μlを各試料チャンバー及び拡散チャンバーから別々に回収チューブに移した。インキュベーション期間の最後に膜完全性試験をSphero Carboxyl Polystyrene Blue Particlesを使用して実施する:懸濁液をPBS中で1:10に希釈し、ウッシングチャンバーあたり200ulを1個のコンパートメント(試料チャンバーと呼ぶ)に加え、30分間インキュベートした。第2のコンパートメント中の青色粒子の蓄積を観察し、全体的な膜完全性を管理するためにカメラ画像を記録する。
試料分析:試料チャンバー及び拡散チャンバーから各溶液15μlを、ローディング対照としての同様の量の保存したマスターミックスと共に2個のプレキャストポリアクリルアミドゲル(NuPAGE Bis-Trisゲル)に有効にロードする。第1のゲルを、標準的SDS-PAGE及びタンパク質検出のためのクーマシーに基づく染色法によって分析する(抗C3 scFv)。第2のゲルをSDS-PAGE及びPEG検出のためのヨウ化バリウム染色によって分析する(化合物A2)。
【0176】
評価:SDSゲルの写真をImageJ2ソフトウェア(Fiji)を使用して分析する。バンドを定量し、それぞれのチャンバーにおいて試験化合物の%として表し、ここで100%は、同じウッシングデバイスの試料チャンバーの及び拡散チャンバーの合計バンド強度を指す。
B.結果
ブタBrMを通過する能力を、4個の異なるブタの眼由来のBrM調製物上で同時にインキュベートした本発明のscFv及び化合物A2などのコンプスタチン誘導体について比較した。APL-2サロゲートと比較して、顕著に多い量のscFvが、4個全ての膜調製物においてBrMを通過した。同様に、ブタBrMを通過する能力を、4個の異なるブタの眼由来のBrM調製物で同時にインキュベートしたNGM621サロゲート(化合物A3)及びAPL-2サロゲート(化合物A2)について比較した。
【0177】
本発明の例示的抗体(クローンI)は、化合物A2及び化合物A3と比較してブルッフ膜を通る優れた拡散能力を示した(
図3及び4)。
化合物A2:浸透しない
化合物A3:本発明による本発明者らの例示的抗体と比較して低減した浸透
ZIMURA(登録商標):分子は試験しなかった。APL-2と同じ大きな40kDa PEG部分を含有することから、同様の挙動が予測される。
【0178】
(実施例11)
本発明のscFvのタンパク質熱安定性
A.材料及び方法
使用する技術:DSF
示差走査蛍光定量法(DSF)は、温度の関数としての蛍光におけるモニター変化によってタンパク質アンフォールディングを測定する。
タンパク質アンフォールディングの温度(Tm)は、抗体の安定性、特に治療製品の保存中の凝集及び長期安定性に関係する。モノクローナル抗体CH2及びCH3ドメインの熱転移は、CH2ドメインアンフォールディングがCH3ドメインに先行して、アイソタイプ内の異なる抗体について典型的には不変である。
【0179】
B.結果
結果を続く表21にまとめる。
【表21】
高いT
m値は、所与の温度でわずかな分子がアンフォールド状態で存在することを意味する。それにより、高いT
m値は生理学的温度で活性立体構造を維持することから、高いT
m値は治療用タンパク質薬に関して有益である。
これらの結果は、本発明の例示的抗体の優れた医薬特性を確認する。特に、熱安定性特性の改善は、治療有効性の改善に寄与する一方で、患者への注射用量及び頻度の低減を可能にする。加えて、結果は、治療用製品での長い有効期間及び安定性の改善を示す。安定性の改善及び活性の延長は、硝子体内投与に高度に適する本発明の抗体の作製に寄与する。
【0180】
(実施例12)
免疫原性リスク:既存ADAについてのスクリーニング
本発明者らは、ブリッジングELISAを使用してクローンIに対する既存ADAに関して健康なヒトドナーの血清をスクリーニングする。健康なヒトドナー由来の血清に存在する既存ADAは、固定した抗C3 scFvの結合を受ける。次のステップでは、ADAは、ビオチンを用いて標識した同じ抗C3 scFvの結合を受け、HRPコンジュゲートストレプトアビジンによって検出される。
【0181】
A.材料及び方法
scFvを「Biotin Conjugation Kit (Fast、Type A)-Lightning-Link」キット(Expedeon/Abcam)を供給者の説明書に従って使用してビオチン標識する。未標識scFvをPBS中で0.5μg/mlに希釈し、1ウエルあたり50μlを96ウエルプレートに移し、一晩、4℃でインキュベートした。翌日、96ウエルプレートを洗浄緩衝液(3×320μl、PBS中0.05%Tween20、pH7.4)を用いて洗浄し、非特異的結合部位を300μl/ウエルのブロッキング緩衝液(SuperBlock Blocking Buffer;Thermo Fisher Scientific)を用いて30分間、室温でブロックする。次いでウエルを洗浄緩衝液(3×320μl/ウエル)を用いて洗浄する。
【0182】
健常者由来のヒト血清をPBS中、10%に希釈し、50μl/ウエルを96ウエルプレートに加え、プレートを1時間、室温でインキュベートする。次いで、プレートを洗浄緩衝液(3×320μl/ウエル)を用いて洗浄し、1ウエルあたり50μl/ウエルのビオチン化scFv(PBS中0.05μg/ml)を加え、1時間、室温でインキュベートする。
プレートを洗浄し(3×320μl/ウエルは緩衝液であった)、50μl/ウエルのストレプトアビジンPolyHRP40(SDT Reagenst;PBS中1:5000)を加え、30分間、室温でインキュベートする。
プレートを洗浄し(3×320μl/ウエルの洗浄緩衝液)、50μl/ウエルのTMB基質(Invitrogen)を加え、5分間、室温でインキュベートする。次いで、反応を50μl/ウエルの1N H2SO4の添加によって停止させる。吸収を450nmで測定する。既存ADAは、吸収の増加をもたらす。
B.結果
クローンIについて、既存ADAは、50個の血清試料のうちの9個において見出され、免疫原性の全般的に低いリスクを示した。これらの結果は、本発明の抗体が非常に好適であり、低い免疫原性リスクだけを有して眼科疾患又は眼疾患の処置のために有望であることを確認する。
【0183】
(実施例13)
高度に濃縮された製剤での本発明の抗体の生物物理学的特徴付け
保存安定性
クローンI、クローンII及びクローンIIIを保存安定性について試験する。試料を150mg/mlに濃縮し(Vivaspin20遠心デバイス、3800×gでの5kDa MWCO)、25℃及び40℃で最大4週間保存する。試料をオリゴマー化(SE-HPLC)及び化学的分解(IEX-HPLC)について分析する。開始値と比較するモノマー含有量におけるそれぞれの減少を表22に報告する。SE-HPLCによって決定した開始モノマー純度は、各クローンについて99.96%であった。IEX-HPLCによって決定した開始電荷純度は、クローンI、II及びIIIのそれぞれについて98.07%、97.16%及び96.76%であった。
クローンI、クローンII及びクローンIIIは、25℃及び40℃で優れたモノマー性及び電荷安定性を4週間のインキュベーション期間にわたって示した。
【0184】
高濃度での粘度
標準的な硝子体内針を介して薬物を送達するために必要な射出力(injection force)は、製品の粘度に依存し、医師による製品の安全な注射を可能にするように十分低い必要がある。したがって、完全に製剤化された製品において低い粘度、典型的には20℃で15mPa*秒未満が必要である。
粘度測定を保存安定性研究のために調製した試料を用いて実施する。完全に製剤化された試料(10mM His pH5.5、275mMショ糖、0.02% w/vポリソルベート20)に加えて、各候補物の粘度も最小限の製剤(10mMヒスチジンpH5.5)において測定する。これは、150mg/mlの最終薬物製品濃度の125%までの候補の薬物の加工性(例えば、濾過、ポンピング、ダイアフィルトレーションなど)を評価するために実施する。
【0185】
粘度は、20℃で1000秒-1のずり速度でコーンプレートレオメーターを使用して測定する。簡潔には、1,000秒-1までのずり速度の段階的な上昇を100個のデータ点を回収しながら行い、2000秒-1までのずり速度のさらなる上昇をさらに10個のデータ点を回収しながら続ける。最後に、開始速度へのずり速度の段階的な降下を行う。得られた粘度データを表22に示す。充填及びシリンジ通過性(syringeability)についての良好な薬物製品の取扱特性が全ての候補について観察された。
【0186】
>150mg/mLで製剤化されたクローンI、II及びIIIの粘度及び安定性特性を表22にまとめる。
【表22】
本発明者らは、本発明の例示的抗体が、高度に濃縮された製剤で並外れた安定性を示すことを示した。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-08-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
請求項1に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項3】
- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項
1に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項4】
- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項
1に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項5】
a.それぞれ配列番号20及び配列番号21のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;
b.それぞれ配列番号22及び配列番号23のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;又は
c.それぞれ配列番号24及び配列番号25のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖
を含む、請求項
1に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項6】
抗原結合性断片が、一本鎖可変断片(scFv)、Fab断片、Fab’断片、Fv断片、ダイアボディ及び低分子抗体模倣物からなる群から選択される、請求項
1に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項7】
前記抗原結合性断片が一本鎖可変断片(scFv)である、請求項
1に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項8】
抗原結合性断片が、配列番号26、27、28、29、30及び31からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む一本鎖断片である、請求項
7に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項9】
配列番号47に記載のヒト補体C3の残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478からなる群から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項10】
配列番号47に記載のヒト補体C3のアミノ酸残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478の全てに結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項11】
医薬
の製造のための、請求項1
、9及び10のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片
の使用。
【請求項12】
眼科疾患又は眼疾患を処置するため、又は予防するため
の医薬の製造のための、請求項1
、9及び10のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片
の使用。
【請求項13】
前記疾患が、網膜症、未熟児網膜症などの増殖性網膜症(PR)、虚血性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)及び非増殖性糖尿病性網膜症を含む糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、糖尿病黄斑虚血(DMI)、萎縮型AMD及び滲出型AMDを含む加齢性黄斑変性(AMD)、地図状萎縮(GA)、網膜色素変性症、遺伝性網膜ジストロフィー、近視性変性、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、眼内炎、ブドウ膜炎、嚢胞様黄斑浮腫、任意の網膜疾患に続発する脈絡膜新生血管膜、視神経症、緑内障、網膜剥離、中毒性網膜症、放射線網膜症、外傷性網膜症、薬剤性網膜脈管障害、網膜血管新生、ポリープ状脈絡膜脈管障害、網膜血管炎、網膜毛細血管瘤、後水晶体線維増殖症、脈絡網膜炎、フックスジストロフィー、黄斑部毛細血管拡張症、アッシャー症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)並びにシュタルガルト疾患からなる群から選択される、請求項
12に記載の使
用。
【請求項14】
前記眼科疾患又は眼疾患が、加齢性黄斑変性、地図状萎縮、血管新生緑内障及び糖尿病性網膜症からなる群から選択される、請求項
12に記載の使
用。
【請求項15】
前記眼科疾患又は眼疾患が地図状萎縮である、請求項
12に記載の使
用。
【請求項16】
請求項1
、9及び10のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片を使用して、生物学的試料において補体C3と関連する障害を診断する方法。
【請求項17】
請求項1
、9及び10のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項18】
請求項1
、9及び10のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片をコードする1種又は複数種のポリヌクレオチド及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項19】
前記抗体又はその抗原結合性断片が、投与の非経口経路、静脈内経路、硝子体内経路又は皮下経路によって投与される、請求項
11に記載の
使用。
【請求項20】
前記抗体又はその抗原結合性断片が、投与の非経口経路、静脈内経路、硝子体内経路又は皮下経路によって投与される、請求項12に記載の使用。
【請求項21】
前記抗体又はその抗原結合性断片が硝子体内経路によって投与される、請求項
12に記載の
使用。
【請求項22】
請求項1
、9及び10のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片をコードする、単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチド。
【請求項23】
- 配列番号20、配列番号22又は配列番号24に記載の重鎖可変領域をコードする配列、及び
- 配列番号21、配列番号23又は配列番号25に記載の軽鎖可変領域をコードする配列
を含む、請求項
22に記載の単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチド。
【請求項24】
請求項
22に記載の単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項25】
請求項
22に記載の単離されたポリヌクレオチド若しくは複数のポリヌクレオチ
ドを含む宿主細胞。
【請求項26】
請求項
24に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項27】
a.請求項
25に記載の宿主細胞を得ること、及び
b.宿主細胞を培養すること
を含み、
更に、任意に
c.抗体又はその抗原結合性断片を回収すること及び精製することを含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を産生するための方法。
【請求項28】
a.請求項26に記載の宿主細胞を得ること、及び
b.宿主細胞を培養することを含み、
更に、任意に
c.抗体又はその抗原結合性断片を回収すること及び精製することを含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を産生するための方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0186
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0186】
>150mg/mLで製剤化されたクローンI、II及びIIIの粘度及び安定性特性を表22にまとめる。
【表22】
本発明者らは、本発明の例示的抗体が、高度に濃縮された製剤で並外れた安定性を示すことを示した。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)を含む抗C3抗体又はその抗原結合性断片であって、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔2〕- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号15のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、又は
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2のCDR-H2配列及び配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びにVLが配列番号4のCDR-L1配列、配列番号18のCDR-L2配列及び配列番号6のCDR-L3配列を含む、
前記〔1〕に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔3〕- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、前記〔1〕~〔2〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔4〕- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含み、
- VHが、配列番号1のCDR-H1配列、配列番号2及び15からなる群から選択されるCDR-H2配列、配列番号3のCDR-H3配列を含み;並びに
- VLが、配列番号4のCDR-L1配列、配列番号5及び18からなる群から選択されるCDR-L2配列、並びに配列番号6のCDR-L3配列を含む、
前記〔1〕~〔2〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔5〕- 配列番号20、22又は24のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び
- 配列番号21、23又は25のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔6〕a.それぞれ配列番号20及び配列番号21のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;
b.それぞれ配列番号22及び配列番号23のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖;又は
c.それぞれ配列番号24及び配列番号25のアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖
を含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔7〕抗原結合性断片が、一本鎖可変断片(scFv)、Fab断片、Fab’断片、Fv断片、ダイアボディ及び低分子抗体模倣物からなる群から選択される、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔8〕前記抗原結合性断片が一本鎖可変断片(scFv)である、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔9〕抗原結合性断片が、配列番号26、27、28、29、30及び31からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む一本鎖断片である、前記〔8〕に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔10〕配列番号47に記載のヒト補体C3の残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478からなる群から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基に結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔11〕配列番号47に記載のヒト補体C3のアミノ酸残基366、392~396、413~421、425、427、442、453及び478の全てに結合する抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔12〕前記〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又は抗原結合性断片である、前記〔10〕又は〔11〕に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔13〕古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)を含む補体活性化の経路を阻害し得る、前記〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔14〕補体C3及びC3bに結合し得る、前記〔1〕~〔13〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔15〕C3転換酵素の形成を妨げ得る、前記〔1〕~〔14〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔16〕ブルッフ膜に浸透し得る、前記〔1〕~〔15〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔17〕ヒトC3に、K
D
<50nMで、好ましくはK
D
<15nMで、好ましくはK
D
<10nMで、好ましくはK
D
<7nMで、好ましくはK
D
<1nMで、好ましくはK
D
<0.5nMで、好ましくはK
D
<0.2nMで、好ましくはK
D
<0.15nMで、好ましくはK
D
<0.10nMで、好ましくはK
D
<0.05nMで、好ましくはK
D
<0.04nMで、又はより好ましくはK
D
<0.03nMで結合する、前記〔1〕~〔16〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔18〕ヒトC3bに、K
D
<50nMで、好ましくはK
D
<15nMで、好ましくはK
D
<10nMで、好ましくはK
D
<7nMで、好ましくはK
D
<1nMで、好ましくはK
D
<0.5nMで、好ましくはK
D
<0.2nMで、好ましくはK
D
<0.15nMで、好ましくはK
D
<0.10nMで、又はより好ましくはK
D
<0.05nMで結合する、前記〔1〕~〔17〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔19〕C3及びC3bに対するおよそ同等の結合親和性を有する、前記〔1〕~〔18〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔20〕C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する約10
-4
M又はこれより弱い結合親和性を有する、前記〔1〕~〔19〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔21〕C3及びC3bに対する結合親和性と比較して、C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する弱い結合親和性を有する、前記〔1〕~〔19〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔22〕C3a、iC3b、C4、C4b、C5及び/又はC5bに対する結合親和性を有さない、前記〔1〕~〔19〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔23〕C3転換酵素増幅ループを阻害し得る、前記〔1〕~〔19〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔24〕脈絡膜C3活性を阻害し得る、前記〔1〕~〔19〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片。
〔25〕医薬として使用するための、前記〔1〕~〔24〕のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片。
〔26〕医薬の製造に使用するための、前記〔1〕~〔24〕のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片。
〔27〕眼科疾患又は眼疾患を処置するため、又は予防するために使用するための、前記〔1〕~〔24〕のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片。
〔28〕眼科疾患又は眼疾患を処置するため、又は予防するための医薬の製造に使用するための、前記〔1〕~〔24〕のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片。
〔29〕前記疾患が、網膜症、未熟児網膜症などの増殖性網膜症(PR)、虚血性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)及び非増殖性糖尿病性網膜症を含む糖尿病性網膜症(DR)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、糖尿病黄斑虚血(DMI)、萎縮型AMD及び滲出型AMDを含む加齢性黄斑変性(AMD)、地図状萎縮(GA)、網膜色素変性症、遺伝性網膜ジストロフィー、近視性変性、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、眼内炎、ブドウ膜炎、嚢胞様黄斑浮腫、任意の網膜疾患に続発する脈絡膜新生血管膜、視神経症、緑内障、網膜剥離、中毒性網膜症、放射線網膜症、外傷性網膜症、薬剤性網膜脈管障害、網膜血管新生、ポリープ状脈絡膜脈管障害、網膜血管炎、網膜毛細血管瘤、後水晶体線維増殖症、脈絡網膜炎、フックスジストロフィー、黄斑部毛細血管拡張症、アッシャー症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)並びにシュタルガルト疾患からなる群から選択される、前記〔27〕又は〔28〕に記載の使用のための抗体又は抗原結合性断片。
〔30〕前記眼科疾患又は眼疾患が、加齢性黄斑変性、地図状萎縮、血管新生緑内障及び糖尿病性網膜症からなる群から選択される、前記〔27〕~〔29〕のいずれか1項に記載の使用のための抗体又は抗原結合性断片。
〔31〕前記眼科疾患又は眼疾患が地図状萎縮である、前記〔27〕~〔30〕のいずれか1項に記載の使用のための抗体又は抗原結合性断片。
〔32〕補体古典経路(CP)、レクチン経路(LP)及び代替経路(AP)の活性を阻害することによって、又は脈絡膜局在化補体C3の活性を阻害することによって眼科疾患又は眼疾患を処置するために使用するための、前記〔27〕~〔31〕のいずれか1項に記載の使用のための抗体又は抗原結合性断片。
〔33〕前記〔1〕~〔24〕のいずれか1項に記載の抗C3抗体又はその抗原結合性断片を使用して、生物学的試料において補体C3と関連する障害を診断する方法。
〔34〕前記〔1〕~〔24〕のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
〔35〕態様前記〔1〕~〔24〕のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片をコードする1種又は複数種のポリヌクレオチド及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
〔36〕前記抗体又はその抗原結合性断片が、投与の非経口経路、静脈内経路、硝子体内経路又は皮下経路によって投与される、前記〔1〕~〔24〕のいずれかに記載の抗体若しくはその抗原結合性断片又は前記〔34〕に記載の医薬組成物。
〔37〕前記抗体又はその抗原結合性断片が硝子体内経路によって投与される、前記〔1〕~〔24〕のいずれかに記載の抗体若しくはその抗原結合性断片又は前記〔34〕に記載の医薬組成物。
〔38〕前記〔1〕~〔24〕のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性断片をコードする、単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチド。
〔39〕- 配列番号20、配列番号22又は配列番号24に記載の重鎖可変領域をコードする配列、及び
- 配列番号21、配列番号23又は配列番号25に記載の軽鎖可変領域をコードする配列
を含む、前記〔38〕に記載の単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチド。
〔40〕前記〔38〕又は〔39〕に記載の単離されたポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
〔41〕前記〔38〕若しくは〔39〕に記載の単離されたポリヌクレオチド若しくは複数のポリヌクレオチド又は前記〔40〕に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
〔42〕a.前記〔41〕に記載の宿主細胞を得ること、及び
b.宿主細胞を培養すること
を含む、抗C3抗体又はその抗原結合性断片を産生するための方法。
〔43〕抗体又はその抗原結合性断片を回収すること及び精製することをさらに含む、前記〔42〕に記載の方法。
【国際調査報告】