(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】点眼製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/375 20060101AFI20241210BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20241210BHJP
A61K 31/14 20060101ALI20241210BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241210BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20241210BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241210BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K31/375
A61K47/40
A61K31/14
A61P27/02
A61K47/02
A61K9/19
A61P17/02
A61K47/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539491
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-31
(86)【国際出願番号】 HU2022050090
(87)【国際公開番号】W WO2023126636
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523041632
【氏名又は名称】センメルベイス エジェテム
(71)【出願人】
【識別番号】524243930
【氏名又は名称】セゲディ トゥドマーニャエジェテム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジャ ティボー バログ
(72)【発明者】
【氏名】ガーボー カトナ
(72)【発明者】
【氏名】イルディコ チョカ
(72)【発明者】
【氏名】イストバーン ズプコ
(72)【発明者】
【氏名】ゾルターン ジョルト ナジ
(72)【発明者】
【氏名】フーバ キス
(72)【発明者】
【氏名】アーグネス タカークス
(72)【発明者】
【氏名】アニタ チョルバ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA30
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD23Z
4C076DD49R
4C076EE39
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA10
4C086BA18
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA44
4C086MA58
4C086NA14
4C086NA20
4C086ZA33
4C206AA01
4C206AA10
4C206FA41
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA37
4C206MA64
4C206MA78
4C206NA14
4C206NA20
4C206ZA33
(57)【要約】
L-アスコルビン酸6-パルミテート(ASP)を含む眼用製剤が提供される。製剤は、角膜透明性の維持が危険にさらされている状況、例えば角膜手術の間又は後において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-アスコルビン酸6-パルミテート(ASP)と、ランダムメチル化β-シクロデキストリン(RAMEB)、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)及びそれらの混合物からなる群から選択されるβ-シクロデキストリンと、等張生理食塩水と、場合によって塩化ベンザルコニウム(BC)とを含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物が、ASPと、RAMEB及びHPBCDからなる群から選択されるβ-シクロデキストリンと、等張生理食塩水と、BCとからなる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
-約800~1200μMのASP、好ましくは約850~1150μM、好ましくは約900~1100μM、好ましくは約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASP、及び
-約5~30mMのRAMEB、好ましくは約8~25mM、より好ましくは約9~22mMのRAMEB、又は
-約8~12mMのRAMEB、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのRAMEB、又は
-約15~25mMのRAMEB、好ましくは約16~24mM、好ましくは約17~23mM、好ましくは約18~22mM、好ましくは約19~21mM、非常に好ましくは約20mMのRAMEB、又は
-約5~30mMの(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)、好ましくは約8~25mM、より好ましくは約9~22mMのHPBCD、又は
-約8~12mMのHPBCD、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのHPBCD、又は
-約15~25mMのHPBCD、好ましくは約16~24mM、好ましくは約17~23mM、好ましくは約18~22mM、好ましくは約19~21mM、非常に好ましくは約20mMのHPBCD、及び
-等張生理食塩水、及び
-場合によって、約0.001~1m/V%(質量/体積)のBC、好ましくは約0.002~0.009m/V%、好ましくは約0.003~0.009m/V%のBC、又は
-場合によって、約0.002~0.006m/V%のBC、好ましくは約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBC、
を含む、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
-約800~1200μMのL-アスコルビン酸6-パルミテート(ASP)、好ましくは約850~1150μM、好ましくは約900~1100μM、好ましくは約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASP、及び
-約8~12mMのRAMEB、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのRAMEB、又は
-約8~12mMのHPBCD、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのHPBCD、及び
-等張生理食塩水、及び
-場合によって、約0.002~0.006m/V%のBC、好ましくは約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBC、
を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
-約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASPと、
-約9.5~10.5mMのRAMEB、好ましくは約10mMのRAMEB、約9.5~10.5mMのHPBCD、好ましくは約10mMのHPBCDから選択されるβ-シクロデキストリンと、
-等張生理食塩水と、
-場合によって、約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBCと、
を含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
-約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASPと、
-約18~22mMのRAMEB、好ましくは約20mMのRAMEB、約18~22mMのHPBCD、好ましくは約20mMのHPBCDから選択されるβ-シクロデキストリンと、
-等張生理食塩水と、
-場合によって、約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBCと、
を含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
-約1000μMのASPと、
-約10mMのRAMEB及び約10mMのHPBCDから選択されるβ-シクロデキストリンと、
-約0.004m/V%のBCと、
-等張生理食塩水と、
からなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
-約1000μMのASPと、
-約10mMのRAMEBと、
-約0.004m/V%のBCと、
-等張生理食塩水と、
からなる、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
-約1000μMのASPと、
-約10mMのHPBCDと、
-約0.004m/V%のBCと、
-等張生理食塩水と、
からなる、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
-約1000μMのASPと、
-約20mMのRAMEB及び約20mMのHPBCDから選択されるβ-シクロデキストリンと、
-約0.004m/V%のBCと、
-等張生理食塩水と、
からなる、請求項1~3及び6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
-約1000μMのASPと、
-約20mMのRAMEBと、
-約0.004m/V%のBCと、
-等張生理食塩水と、
からなる、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
-約1000μMのASPと、
-約20mMのHPBCDと、
-約0.004m/V%のBCと、
-等張生理食塩水と、
からなる、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物が凍結乾燥されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
眼の障害の予防又は治療に使用するための、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
眼の前記障害が、線維症、好ましくは角膜の線維症、角膜薄濁、好ましくは眼科手術に伴う角膜薄濁形成及び/又は急性角膜薄濁、創傷、好ましくは角膜の創傷から選択され、好ましくは前記医薬組成物が、創傷治癒の促進に使用するためのものである、請求項14に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
L-アスコルビン酸6-パルミテート(ASP)を含む眼用製剤が提供される。製剤は、角膜透明性の維持が危険にさらされている状況、例えば角膜手術の間又は後において有用である。
【背景技術】
【0002】
角膜の透明性は、間質内のコラーゲンフィブリルの高度に組織化された組成によって維持される(1)。架橋(CXL)又はエキシマレーザー光切除などの一般的な角膜手術は、角膜層の構造を変化させ、角膜薄濁形成のカスケードをもたらし得る。創傷治癒中の角膜組織のリモデリングプロセスには、角膜実質細胞アポトーシス、間質マトリックスの膨潤、及びより組織化されていないコラーゲンフィブリルの産生が含まれる(2)。角膜薄濁は、光散乱の増加及びその結果としての透明性の喪失を誘発し、これは、眩しさ、光輪、又はコントラスト感度低下及び視覚品質低下などの愁訴をもたらし得る(3)。通常、角膜薄濁の量は術後初期に最も高いが、治療1年後にも有意な増加が見られる場合がある(4)。創傷治癒応答の間のリモデリングプロセスはまた、他の角膜病理(例えば、熱的若しくは化学的損傷、又は感染性角膜炎の後)において生じ、永続的な角膜混濁の発生を導き得る。混濁を伴う角膜病変は、関与する患者の視覚関連の生活の質に対して重大な負担を有し得る(5)。一般的に、コルチコステロイド点眼剤及びマイトマイシン-Cの適用は、角膜混濁の治療における局所的投薬として使用され、これは、重篤な長期合併症、例えば、白内障、続発性緑内障、強皮症又は穿孔の発症に関連し得る(5)。
【0003】
必須水溶性ビタミンであるL-アスコルビン酸(AA、アスコルビン酸、又はビタミンC)は、人体におけるいくつかの生理学的機能及び代謝機能において中心的な役割を有する。AAは、主要な抗酸化特性を有し、ヒドロキシル化において必要な補因子であるため、コラーゲンフィブリルの生合成に必要である。AAの欠如は、構造的に不安定なコラーゲン分子の産生をもたらし得る。したがって、AA欠如は組織の治癒プロセスに影響を及ぼし得る(6)。静脈内投与されたAAは、感染性角膜炎の治療において、上皮欠損のサイズ及び角膜混濁のサイズを安全かつ効果的に減少させることが示されている(13)。AAの抗酸化効果は、エキシマ光アブレーション後の角膜血管新生及び術後間質混濁化を低減することができる(14、15)。Stojanovic及びRingvoldは、PRK治療後の角膜薄濁の重症度がAA治療群において有意に減少したことを見出した(16)。したがって、最近入手可能なデータによれば、AAは角膜薄濁形成に対して有益な効果を有する可能性がある。しかしながら、角膜はAAのような親水性物質に対しては主に親油性の拡散バリアに相当するため、角膜組織を通るAAの透過性は不十分であり得る。遊離形態のAAの水溶液の濃度を増加させると、ある時点まで、透過するAAの量が増加することを示す証拠がある(17)。
【0004】
副作用なしに角膜創傷治癒プロセスを効果的に補助する組成物が、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
アスコルビン酸と脂肪酸とのエステルと、C1~3アルキル及び/又はC1~3ヒドロキシアルキルで置換されたβ-シクロデキストリンと、等張生理食塩水と、場合により保存剤とを含むか又はそれらからなる医薬組成物が提供される。
【0006】
好ましくは、アスコルビン酸と脂肪酸とのエステルは、ラウリン酸アスコルビル、ミリスチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビル、オレイン酸アスコルビル、リノール酸アスコルビル及びそれらの任意の混合物から選択される。非常に好ましくは、アスコルビン酸と脂肪酸とのエステルは、L-アスコルビン酸6-パルミテート(ASP)である。
【0007】
好ましくは、C1~3アルキルで置換されたβ-シクロデキストリンは、メチル-β-シクロデキストリン(ランダムメチル化β-シクロデキストリン;RAMEB)である。
【0008】
好ましくは、β-シクロデキストリン置換C1~3ヒドロキシアルキルは、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)である。
【0009】
好ましくは、保存剤は塩化ベンザルコニウム(BC)である。
【0010】
ASPと、RAMEB、HPBCD及びそれらの混合物から選択されるβ-シクロデキストリンと、等張生理食塩水と、場合によりBCとを含むか又はそれらからなる医薬組成物が提供される。
【0011】
好ましくは、医薬組成物は、ASPと、RAMEB、HPBCD及びそれらの混合物から選択されるβ-シクロデキストリンと、等張生理食塩水と、BCとからなる。
【0012】
好ましくは、医薬組成物は、
-約800~1200μMのASP、好ましくは約850~1150μM、好ましくは約900~1100μM、好ましくは約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASP、及び
-約5~30mMのRAMEB、好ましくは約8~25mM、より好ましくは約9~22mMのRAMEB、又は
-約8~12mMのRAMEB、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのRAMEB、又は
-約15~25mMのRAMEB、好ましくは約16~24mM、好ましくは約17~23mM、好ましくは約18~22mM、好ましくは約19~21mM、非常に好ましくは約20mMのRAMEB、又は
-約5~30mMの(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)、好ましくは約8~25mM、より好ましくは約9~22mMのHPBCD、又は
-約8~12mMのHPBCD、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのHPBCD、又は
-約15~25mMのHPBCD、好ましくは約16~24mM、好ましくは約17~23mM、好ましくは約18~22mM、好ましくは約19~21mM、非常に好ましくは約20mMのHPBCD、又は
-約5~30mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、好ましくは約8~25mM、より好ましくは約9~22mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、又は
-約8~12mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、又は
-約15~25mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、好ましくは約16~24mM、好ましくは約17~23mM、好ましくは約18~22mM、好ましくは約19~21mM、非常に好ましくは約20mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、及び
-等張生理食塩水、及び
-場合によって、約0.001~1m/V%(質量/体積)のBC、好ましくは約0.002~0.009m/V%、好ましくは約0.003~0.009m/V%のBC、又は
-場合によって、約0.002~0.006m/V%のBC、好ましくは約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBC、
を含むか又はそれらからなる。
【0013】
好ましくは、医薬組成物は、
-約800~1200μMのL-アスコルビン酸6-パルミテート(ASP)、好ましくは約850~1150μM、好ましくは約900~1100μM、好ましくは約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASP、及び
-約8~12mMのRAMEB、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのRAMEB、又は
-約8~12mMのHPBCD、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのHPBCD、又は
-約8~12mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、好ましくは約8.5~11.5mM、好ましくは約9~11mM、好ましくは約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、及び
-等張生理食塩水、及び
-場合によって、約0.002~0.006m/V%のBC、好ましくは約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBC、
を含むか又はそれらからなる。
【0014】
好ましくは、医薬組成物は、
-約800~1200μMのL-アスコルビン酸6-パルミテート(ASP)、好ましくは約850~1150μM、好ましくは約900~1100μM、好ましくは約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASP、及び
-約15~25mMのRAMEB、好ましくは約16~24mM、好ましくは約17~23mM、好ましくは約18~22mM、好ましくは約19~21mM、非常に好ましくは約20mMのRAMEB、又は
-約15~25mMのHPBCD、好ましくは約16~24mM、好ましくは約17~23mM、好ましくは約18~22mM、好ましくは約19~21mM、非常に好ましくは約20mMのHPBCD、又は
-約15~25mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、好ましくは約16~24mM、好ましくは約17~23mM、好ましくは約18~22mM、好ましくは約19~21mM、非常に好ましくは約20mMのRAMEBとHPBCDとの混合物、及び
-等張生理食塩水、及び
-場合によって、約0.002~0.006m/V%のBC、好ましくは約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBC、
を含むか又はそれらからなる。
【0015】
好ましくは、医薬組成物は、
-約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASPと、
-約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのRAMEBと、
-等張生理食塩水と、
-場合によって、約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBCと、
を含むか又はそれらからなる。
【0016】
好ましくは、医薬組成物は、
-約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASPと、
-約18~22mM、非常に好ましくは約20mMのRAMEBと、
-等張生理食塩水と、
-場合によって、約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBCと、
を含むか又はそれらからなる。
【0017】
好ましくは、医薬組成物は、
-約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASPと、
-約9.5~10.5mM、非常に好ましくは約10mMのHPBCDと、
-等張生理食塩水と、
-場合によって、約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBCと、
を含むか又はそれらからなる。
【0018】
好ましくは、医薬組成物は、
-約950~1050μM、非常に好ましくは約1000μMのASPと、
-約18~22mM、非常に好ましくは約20mMのHPBCDと、
-等張生理食塩水と、
-場合によって、約0.003~0.005m/V%、非常に好ましくは約0.004m/V%のBCと、
を含むか又はそれらからなる。
【0019】
非常に好ましくは、医薬組成物は、
-1000μMのASPと、
-10mMのRAMEBと、
0.004m/V%のBCと、
等張生理食塩水と、
からなる。
【0020】
好ましくは、医薬組成物は、
-1000μMのASPと、
-10mMのHPBCDと、
0.004m/V%のBCと、
等張生理食塩水と、
からなる。
【0021】
好ましくは、医薬組成物は、
-1000μMのASPと、
-20mMのRAMEBと、
0.004m/V%のBCと、
等張生理食塩水と、
からなる。
【0022】
好ましくは、医薬組成物は、
-1000μMのASPと、
-20mMのHPBCDと、
0.004m/V%のBCと、
等張生理食塩水と、
からなる。
【0023】
好ましくは、等張生理食塩水は、医薬使用のためのものであり、例えば、点眼剤における使用に適している。
【0024】
好ましくは、医薬組成物は凍結乾燥される。好ましくは、医薬組成物は眼科(例えば、眼内)使用のためのものである。好ましくは、医薬組成物は、角膜薄濁の予防又は治療、好ましくは眼の手術に伴う角膜薄濁形成の予防又は治療に使用するためのものである。好ましくは、角膜薄濁は急性角膜薄濁である。
【0025】
好ましくは、医薬組成物は、眼、好ましくは角膜における線維症の予防又は治療に使用するためのものである。
【0026】
好ましくは、医薬組成物は、眼、好ましくは角膜における創傷治癒の促進に使用するためのものである。
【0027】
好ましくは、凍結乾燥医薬組成物は、投与前に、好ましくは等張生理食塩水に溶解される。好ましくは、凍結乾燥された医薬組成物は、例えば10mLの等張生理食塩水に溶解される。好ましくは、医薬組成物は、眼の手術の直後及び手術後1日1~20回、好ましくは1日1~10回、好ましくは3~8回、非常に好ましくは5回投与されるべきである。医薬組成物は、手術後30日間、又は25日間、20日間、15日間、10日間若しくは5日間使用することができる。好ましくは、1回に1滴が片眼に投与される(例えば、1滴が片眼に1~10回、1日に投与される)。
【0028】
好ましくは、平均置換度(メチル基)は、RAMEB中のグルコース単位当たり1.6~2.0である。好ましくは、平均置換度(ヒドロキシプロピル基)は、HPBCD中のグルコース単位当たり2.5~7.0である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】(2-ヒドロキシプロピル)-γ-シクロデキストリン(HPGCD)、γ-シクロデキストリン(GCD)、スルホブチル化β-シクロデキストリンナトリウム塩(SBECD)(A);(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)、β-シクロデキストリン(BCD)(B)及びランダム置換メチル-β-シクロデキストリン(RAMEB)(C)の場合のASP-CD(L-アスコルビン酸6-パルミテート-シクロデキストリン)複合体の溶解度プロファイル
【0030】
【
図2】35℃での生理食塩水溶液中でのASP-HPBCD(A)複合体及びASP-RAMEB(B)複合体の溶解度プロファイルに対する塩化ベンザルコニウム(BC)の影響
【0031】
【
図3】35℃での生理食塩水溶液中のASP-CD複合体の溶解度(ドナー側での)及び角膜透過性プロファイル
【0032】
【
図4】35℃でのASP-CD複合体のin vitro角膜透過性値
【0033】
【
図5】35℃でのASP-CD複合体の角膜フラックス(corneal flux)プロファイル
【0034】
【
図6】4℃(A)及び25℃(B)で貯蔵されたASP-CD複合体の貯蔵安定性プロファイル。
【0035】
【
図7】ASP溶液と比較した、15分間の処理の間の濃縮製剤のラマンマップにおいて得られたASPの相対強度値
【0036】
【
図8】ASP溶液と比較した、60分間の処理の間の濃縮製剤のラマンマップにおいて得られたASPの相対強度値
【0037】
【
図9】10倍希釈製剤での処置後のドナー部位(A)、角膜(B)及び眼房水(C)におけるASP濃度
【0038】
【
図10】ASPの角膜透過性(A)及び房水透過性(B)のフラックス
【発明を実施するための形態】
【0039】
副作用を伴わず、角膜創傷治癒プロセスを効果的に補助するアスコルビン酸を含む組成物が開発された。有用な製剤を作製するためには、AAの透過度を増加させなければならなかった。
【0040】
角膜透過度がより高ければ、より深い眼内構造でAAレベルが達成され得る。これは、酸化ストレスが病態生理に影響を及ぼすいくつかの眼病態、例えば、加齢性黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症若しくは黄斑症、又は緑内障において重要な役割を有し得る。硝子体におけるAAの枯渇は、増殖性糖尿病性網膜症を有する患者における黄斑虚血に関連し得る(18)。AAは、毛細血管周皮細胞のアポトーシスによる損失及び内皮機能不全を予防し得るため、糖尿病性黄斑浮腫の予防において潜在的な役割を有する(19)。酸化ストレスは、小柱網の損傷をもたらし、眼内圧のレベルの上昇及び網膜神経節細胞の喪失をもたらす可能性があり、したがって、ビタミンCが緑内障の病因形成にも影響を及ぼし得ることが報告されている(23、24)。眼房水又は硝子体におけるAAレベルの増加は、前述の疾患の潜在的な治療様式を有し得る。
【0041】
遊離形態AAは、親水性プロファイル及び酸性特性を有する。したがって、相対的に負に荷電した親油性脂質バリアを提供する、角膜の上皮を通る透過性は、不十分であり得る。親油性を有するAAの構造類似体として使用されるL-アスコルビン酸6-パルミテート(ASP又は6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸)は、そのより高い角膜透過性のため、角膜瘢痕の治療においてより有効であり得るが、この薬物単独の使用は、水溶性が乏しいことから局所濃度が低いため、制限される。シクロデキストリン(CD)複合体化は、主に親油性組成物の水性点眼剤溶液としての製剤化を可能にする(25、26)。
【0042】
試験したCDの中で、BCD、HPBCD及びRAMEBは、有望な水溶性を示した。しかし、BCDは、細胞膜からコレステロール及び他の脂質成分を抽出し、細胞破壊及び角膜上皮膜を通る薬物透過の増強をもたらすことが報告された。一方、HPBCDは、眼組織においてより良好に許容され、角膜上皮バリアの破壊を引き起こす可能性が低い。本発明者らはまた、5%及び12.5%の濃度でのRAMEBの眼投与がウサギ眼の結膜及び角膜表面に対して刺激性であるのに対して、HPBCDは12.5%の濃度であっても十分に許容されることを見出した。
【0043】
CDの量を増加させることは、ASPの溶解度に対して、比例した効果を有し、したがって、いかなる毒性学的問題も回避するために、適用されるCDの量は、1~20mMの範囲(2.8%(m/V%)未満)に最小限にしなければならなかった。
【0044】
角膜特異的平行人工膜透過性アッセイからの結果は、HPBCD及びRAMEBの両方の場合において、0.004%のBCに加えて、10及び20mM濃度のCDが、ASPのドナー側濃度の顕著な増加をもたらしたことを示した。
【0045】
CD濃度を増加させると、in vitro角膜透過性において逆の変化が観察され得、これは、異なるドナーASP濃度及び適用されたCDの増加した量で部分的に説明され得る。シクロデキストリンは、薬物の溶解度を増加させることによって透過を増強し得るが、過剰量のシクロデキストリンが角膜を通じた吸収の減少をもたらし得ることも報告されている。ASPの角膜透過性は、ASPの最大溶解度がドナー側で達成されるまで増加する。
【0046】
Ex vivoブタ角膜透過研究
驚くべきことに、RAMEBを含む製剤がASPの優れた透過値を提供することが見出された。
【0047】
置換の度合いは、特定のCDが透過性を増加させる能力に影響を与えないようである。
【0048】
保存剤
BCは、点眼剤において頻繁に使用される保存剤であるが、本発明者らの溶解性結果は、BCが溶解性に対して負の効果を有することを示した。したがって、その濃度は最終製剤において0.004%に最小限にされた。この濃度は、眼用製品の必要とされる微生物学的安定性を確保するのに十分高い。
【0049】
保存条件
安定性試験は、冷所での貯蔵がASP-CD複合体に悪影響を及ぼすことを示し、濃度-時間曲線は、溶質相中のASP含量がより高い傾向で減少することを示すが、ASPの分解速度は温度を上昇させることによって加速される。この結果に基づいて、最終製剤を室温で保存することが好ましい。
【0050】
本明細書で使用される用語「約」は、濃度を指す場合、この分野で通常の意味、すなわち測定方法が許す限り正確な意味を有する。「約」という用語はまた、所与の特定の値の±25%の範囲内、好ましくは±20%の範囲内、又は好ましくは±20%の範囲内にある濃度を指し得る。
【実施例】
【0051】
材料及び方法
材料
L-アスコルビン酸6-パルミテート(ASP)(CAS番号:137-66-6)、塩化ベンザルコニウム(BC)(CAS番号:63449-41-2)、L-α-ホスファチジルコリン(CAS番号:97281-47-5)、並びに塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを含まず、液体であり、滅菌濾過され細胞培養に適した改変ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)は、Sigma Aldrich Co.Ltd.(Budapest,Hungary)から購入した。分析等級の溶媒であるメタノール、ヘキサン、ドデカン及びクロロホルムは、Merck KGaA(Darmstadt,Germany)から購入した。β-シクロデキストリン(BCD)(CAS番号:7585-39-9)、2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)(CAS番号:128446-35-5)、γ-シクロデキストリン(GCD)(CAS番号:17465-86-0)、(2-ヒドロキシプロピル)-γ-シクロデキストリン(HPGCD)(CAS番号:128446-34-4)、スルホブチル化β-シクロデキストリンナトリウム塩(SBECD)(CAS番号:182410-00-0)及びランダム置換メチル-β-シクロデキストリン(RAMEB)(CAS番号:128446-36-6)は、Cyclolab Ltd.(Budapest,Hungary)から快く供与された。
【0052】
相溶解度試験
過剰量のASPを、密封ガラスバイアル中の1~50mM範囲の漸増濃度のCDを含有する5mLのリン酸緩衝液(PBS、pH=7.4)に添加した。得られた懸濁液を、平衡になるまで(24時間)、一定温度(35±0.5℃)で電磁気的に撹拌した(500rpm)。次いで、アリコートを取り出し、Hermle Z323K高性能冷却遠心機(Hermle AG,Goss-heim,Germany)を使用して16000rpmで30分間遠心分離して、固体ASP結晶をASP-CD溶液から分離し、ASP濃度をHPLC-DADでアッセイした。
【0053】
眼用製剤の開発
過剰量のASPを、密封ガラスバイアル中の1~20mM範囲の漸増濃度のCDを含有する5mLの生理食塩水溶液に添加した。保存剤としての異なる濃度の塩化ベンザルコニウム(BC)(0.004%及び0.008%)を製剤に添加した。得られた懸濁液を、平衡になるまで(24時間)、一定温度(35±0.5℃)で電磁的に撹拌した(500rpm)。次いで、アリコートを取り出し、Hermle Z323K高性能冷却遠心機(Hermle AG,Goss-heim,Germany)を使用して16000rpmで30分間遠心分離して、固体ASP結晶をASP-CD溶液から分離し、ASP濃度をHPLC-DADでアッセイした。
【0054】
高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)
ASP濃度の決定は、Agilent 1260(Agilent Technologies,Santa Clara,USA)を使用してHPLCで行った。固定相として、Zorbax Eclipse(登録商標)C18カラム100×4.6mm、5μm(Phenomenex,Torrance,CA,USA)を適用した。精製水及びメタノール10:90(v/v)による定組成溶離を、25℃で1.0mL/分の流速で6分間適用した。10μLのサンプルを注入して、ASP濃度を決定した。クロマトグラムは、UV-VISダイオードアレイ検出器を用いて255nmで検出した。ChemStation B.04.03ソフトウェア(Agilent Technologies,Santa Clara,USA)を用いてデータを評価した。検量線の線形回帰は0.9998であり、検出限界(LOD)及び定量化限界(LOQ)はそれぞれ1.11μg/mL及び3.33μg/mLであった。
【0055】
In vitro角膜透過性測定
角膜特異的平行人工膜透過性アッセイ(角膜-PAMPA)を使用して、ASP-CD製剤の経角膜透過性を決定した。フィルタードナープレート(Multiscreen(商標)-IP、MAIPN4510、孔径0.45μm;Millipore,Merck Ltd.,Budapest,Hungary)を、70%(v/v)ヘキサン、25%(v/v)ドデカン及び5%(v/v)クロロホルムの600μL溶媒混合物に溶解した5μLのホスファチジルコリン(16mg)でコーティングした。アクセプタープレート(MSSACCEPTOR;Millipore,Merck Ltd.,Budapest,Hungary)をpH7.4のPBS溶液300μLで満たした。150-150μLの製剤及び参照溶液をドナープレートの膜上に適用した。次いで、溶媒の蒸発の可能性を減少させるために、これをプレート蓋で覆った。このサンドイッチ系を35℃で4時間インキュベートした(Heidolph Titramax 1000,Heidolph Instruments,Schwabach,Germany)。アクセプタープレートに透過したASPの濃度を、HPLCを用いて決定した。ASPの有効透過率は、以下の式を用いて計算した(29)。
【数1】
式中、P
eは、有効透過係数(cm/s)であり、Aは、フィルター面積(0.3cm
2)であり、tはインキュベーション時間(s)であり、τ
ssは、定常状態に達する時間(s)であり、r
vは、水性区画の体積比(V
D/V
A)であり、V
D及びV
Aは、ドナー相の体積(0.15cm
3)及びアクセプター相の体積(0.3cm
3)であり、C
D(t)は、時点tでのドナー相中の化合物の濃度(mol/cm
3)であり、C
D(0)は、時点0でのドナー相中の化合物の濃度(mol/cm
3)であり、MRは、(29)のように定義される膜保持係数である。
【数2】
式中、C
A(t)は、時点tでのアクセプター相中の化合物の濃度(mol/cm
3)である。フラックス(mol/cm
2×s)も、以下の式を使用して計算した(30)。
【数3】
式中、P
eは有効透過係数(cm/s)であり、S
ASPは4時間後のドナー相におけるASPの溶解度(mol/mL)である。
【0056】
安定性試験
ASP及びASP-CD複合体の生理食塩水中の化学的安定性を、室温条件(25±0.5℃)及び冷所条件(4±0.5℃)で5日間調べた。製剤の貯蔵寿命を予測するために、所定の時間間隔でHPLCを用いて実際の薬物含量を定量した。
【0057】
ブタ角膜に対するex vivo透過研究
ASPのex vivo透過をHPLC及びラマン顕微鏡で調べた。屠殺場から得られた新鮮に提供されたブタの眼を、生理食塩水溶液で湿らせた滅菌脱脂綿床上に置き、輸送中は冷蔵庫内に保管した。ブタの眼をテフロンセルに入れ、ここで角膜の覆いを外し、テフロンリングで囲んで点眼剤の流れを防止した。1000μLの生理食塩水溶液を角膜に滴下し、50μLのASP-CD製剤を被覆食塩水に添加し、これによって涙液によって引き起こされる生理学的希釈を模倣可能であり、これを35℃でインキュベートした。15分、30分及び60分の個々の処置後、局所表面からの残留溶液及び房水を、死後2~5時間の角膜穿刺を介して吸引した。角膜を切除し、オービタルシェーカー(PSU-10i Orbital Shaker,Grant Instruments Ltd,Cambs,England)を使用して、450rpmで60分間、ASPを2mLのメタノール:水50:50(v/v)で抽出した。残留溶液、房水及び角膜中のASP含量をHPLCで測定した。ASの角膜保持を式2に従って計算する一方、以下の式を使用することによって見かけの透過性を計算した。
【数4】
式中、Pappは、処置後の眼房水におけるASの濃度差(Δ[C]
A)、初期ドナー濃度([C]
D)、前房の体積V
A(250μL)から計算され、Aは、透過性に利用可能な表面積である(1.77cm
2)。各測定を三つ組で行い、データを平均±SDとして示す。
【0058】
ラマン分光法による角膜薬物透過の調査
HPLC透過性決定と並行して、角膜を、15分及び30分の処置後にラマンマッピングで調査した。処置した角膜を凍結し、Leica CM1950 Cryostat(Leica Biosystems GmbH,Wetzlar,Germany)を用いて横断切片(15μm厚)に分割した。15μm厚の横断切片の下にアルミニウム被覆スライドを使用した。ラマン分光分析を、CCDカメラ及び780nmで作動するダイオードレーザーを備えたThermo Fisher DXR Dispersive Raman Spectrometer(Thermo Fisher Scientific Inc.,Waltham,MA,USA)を用いて行った。倍率50倍の顕微鏡レンズを使用した。24mWのレーザー出力及び50μmのスリット開口で測定を行った。150×1000μmの領域の角膜マッピングを、垂直及び水平に50μmのステップサイズで捕捉した。OMNIC for Dispersive Raman 8.2ソフトウェア(Thermo Fisher Scientific)を化学評価に使用した。化学マップをプロファイリングする際に、未配合ASPの個々のスペクトルを参照として使用した。
【0059】
結果
PBS中のCD誘導体の選択(スクリーニング)
異なる濃度のCD誘導体の存在下でのASPの溶解度試験では、CDの濃度を増加させると、PBS(pH=7.4)中のASPの溶解度の増強が示され、したがって薬物の複合体化の成功が示された(
図1)。
【0060】
溶解度試験は、ASPの水溶解度が、GCD、HPGCD又はSBECDと比較して、BCD、HPBCD及びRAMEBとの複合体化の場合に最も高かったことを明確に示す。しかし、BCDは、細胞膜からコレステロール及び他の脂質成分を抽出する能力があることが証明されており(31)、細胞破壊及び角膜上皮膜を通る薬物透過の増強をもたらす(32)ため、BCDの選択を回避した。逆に、HPBCDは、眼組織においてより良好に許容され、角膜上皮バリアの破壊を引き起こす可能性が低い(33)。したがって、HPBCD及びRAMEBをさらなる調査のための適切な候補として選択した。しかしながら、CDの量を増加させることは、ASPの溶解度に対して、比例した効果を有し、いかなる毒性学的問題も回避するために、適用されるCDの量は、さらなる調査のために1~20mM範囲(2.8%未満)に最小限にされた。5%及び12.5%の濃度でのRAMEBの眼への投与は、ウサギ眼の結膜及び角膜表面に対して刺激性であったが、HPBCDは、12.5%の濃度であっても、十分に許容された。
【0061】
API溶解度に対する電解質及び保存剤の影響に関する製剤の開発
眼用製剤の要件を満たすために、PBSを生理食塩水溶液に変更し、保存剤を添加した。その目的のために、BCが最も適切であるように思われたが、BCはまた、ASP溶解度に対して望ましくない影響、すなわち、複合体形成に関しての競合を有し得る。BCは、点眼剤において頻繁に使用される保存剤である。典型的な濃度は0.004~0.01%の範囲である(35)。したがって、これを解明するために、生理食塩水溶液及びBC(0.004及び0.008%)の存在下で溶解度試験も行った(
図2)。
【0062】
結果は、BCが溶解度に対して負の影響を有することを裏付け、さらに、BCに関連する有害反応(例えば、刺激)の可能性を最小限に抑えるために、その濃度を最終製剤中において0.004%に最小限にした。この濃度は、眼用製品の必要とされる微生物学的安定性を確保するのに十分高い。
【0063】
In vitroでの角膜透過性結果
HPBCD及びRAMEB製剤の両方を含む生理食塩水溶液中で角膜-PAMPA測定を実施して、透過性に対するCD及びBC濃度の影響を調べた(
図3)。
【0064】
角膜-PAMPA測定は、HPBCD及びRAMEBの場合の両方において、0.004%のBCに加えて、10及び20mM濃度のCDが、ASPのドナー側濃度の顕著な増加を示したことによって、予備製剤研究の結果を裏付ける。どのCD濃度が最も有望であるかを明らかにするために、濃度依存性因子としてのASPの有効透過性(
図4)及び角膜透過フラックス(
図5)も計算した。
【0065】
CD濃度を増加させると、in vitro角膜透過性において逆の変化が観察され得、これは、異なるドナーASP濃度及び適用されたCDの増加した量で部分的に説明され得る。シクロデキストリンは、薬物の溶解度を増加させることによって透過を増強し得るが、過剰量のシクロデキストリンが角膜を通じた吸収の減少をもたらし得ることも報告されている。ASPの角膜透過性は、ASPの最大溶解度がドナー側で達成されるまで増加する(36)。
【0066】
APSの角膜-PAMPA測定のフラックス値は、20mMとは対照的に、10mM CD濃度で0.004%BCの場合に最も高い増加を示し、これは、ASPの異なるドナー側濃度(5倍)で説明され得る。要約すると、角膜-PAMPAの結果に基づいて、20mMのCD製剤が有望であると思われたため、それらを用いてさらなる特徴付けを行った。
【0067】
安定性試験
安定性試験を実施して、ASP-CD製剤の最適な貯蔵条件及び貯蔵寿命を決定した。4℃及び25℃で保存した異なるASP-CD複合体のASP含量の時間依存的変化を
図6に示す。
【0068】
安定性試験は、冷所での貯蔵がASP-CD複合体に対して悪影響を及ぼすことを示し、濃度-時間曲線は、溶質相中のASP含量がより高い傾向で減少することを示すが、ASPの分解速度は温度を上昇させることによって加速される。この現象は、適用されたCDによる飽和ASP溶液の存在で説明され得る。温度を4℃に低下させることによって、ASPは、CD複合体から放出される傾向があり、水性媒体中で沈殿して、液体製剤のASP濃度を低下させる。この結果に基づいて、最終製剤を室温で保存することが好ましい。ASP-CD複合体の貯蔵寿命を、表1に示す貯蔵安定性プロフィールに基づいて決定した。
【表1】
m/v%
【0069】
貯蔵寿命データは、CD複合体がASPを安定化することができ、分解プロセスが最初のASPと比較して3~5倍も持続されることを示しており、これは製剤の治療適用性を改善する。BCは、貯蔵寿命に有意な影響を示さない。
【0070】
Ex vivoブタ角膜透過研究
ブタ角膜上の、選択されたASP-CD製剤及び最初のASPの分布を調べるために、ラマンマッピングを行った。濃縮製剤(
図7)及び10倍希釈製剤(
図8)の両方を試験して、生きている眼の生理学的希釈条件を模倣した。透過した製剤の位置決定のために、ASPのラマンスペクトルをプロファイルとして設定し、ImageJ 1.4ソフトウェア(National Institutes of Health,Bethesda,MD,USA)を用いてラマンマップにおけるASPの相対強度を測定することによって、その発生頻度を決定した。
【0071】
5分処置後のラマンマップは、HPBCD及びRAMEB複合体の両方が、参照ASP溶液と比較してASPの眼透過を改善したことを明確に示した。RAMEB 0.004%BCは、他の2つの調査サンプルと比較して、より高い相対強度を示し、これは透過した薬物の濃度がより高いことを示す。
【0072】
15分の処置後、ASPの相対強度は、ASP参照及びHPBCDの場合にも増加し、5分の処置と比較してより高い透過率を示した。生理学的に、最初の15分は、眼のクリアランスによる排除のため、薬物透過に関連する。
【0073】
30分の処置後、HPBCD及びRAMEBの両方は、ASP溶液と比較してより高い相対強度を示したが、RAMEBの場合、顕著により高いASP濃度を観察することができる。
【0074】
涙液による生理学的クリアランスを考慮して、実験をより生物学的に関連性のあるものにするために、10倍希釈製剤も用いて、先の測定を行った。
【0075】
希釈製剤は、製剤の透過において濃縮製剤と同様の傾向を示したが、15分後、透過した薬物は依然として間質に到達しなかった。作用部位として角膜が予想されるため、これは治療の観点からは重要ではなく、その飽和は治療目的に相当する。
【0076】
60分後、ASPの透過は濃縮製剤と同様であり、RAMEB複合体は、ブタ角膜の全横断面において顕著に高い相対強度及びASP飽和を示す。
【0077】
ex vivo透過を、HPLCを使用して角膜及び眼房水におけるASP濃度を決定することによってもまた定量的に調査した(
図9)。
【0078】
ドナー部位濃度は、ASP濃度のわずかな減少を示し、これは、角膜への薬物の透過の増加で説明され得る。この知見は、治療時までに同時に増加する角膜濃度によって裏付けられる。基本的に、角膜濃度は治療上重要であり、これらの結果は、両方のCD複合体の改善された治療有効性を予測する。興味深いことに、ASP濃度の増加は、眼房水においても検出することができ、これは、ASPの多量の眼透過を提供する。全ての場合において、RAMEBは有意に増加したASP濃度を示し、これは、HPBCDに対して2.5倍高いドナー濃度で説明され得る。角膜透過性及び房水透過性のフラックスも計算した(
図10)。
【0079】
RAMEBは、HPBCDと比較して顕著に増加した角膜フラックス値を示し、両方のCDは、最初の薬物に対して有意に高いフラックス値を示し、これは、ASPの眼送達の改善に対するそれらの有利な効果を証明する。房水フラックス値はそれほど明確な結果を示さず、わずかな差しか観察することができない。
【0080】
参考文献
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【国際調査報告】