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特表2024-546190厚鋼板及び厚鋼板の製造のための出発原料に対する加工熱処理方法
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  • 特表-厚鋼板及び厚鋼板の製造のための出発原料に対する加工熱処理方法 図1
  • 特表-厚鋼板及び厚鋼板の製造のための出発原料に対する加工熱処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】厚鋼板及び厚鋼板の製造のための出発原料に対する加工熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/02 20060101AFI20241210BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241210BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C21D8/02 B
C22C38/00 301A
C22C38/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539500
(86)(22)【出願日】2022-12-29
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2022088050
(87)【国際公開番号】W WO2023126506
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】21218236.4
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524228878
【氏名又は名称】フォエスタルピネ グロブレッチ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】エッガー,ルパート
(72)【発明者】
【氏名】クリマ,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】パーテダー,エリック
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA15
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA01
4K032CA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CD06
4K032CF02
4K032CF03
(57)【要約】
厚鋼板と、合金鋼で構成された厚鋼板の製造のための出発原料、より具体的には、スラブインゴットに対する加工熱処理方法とが開示されている。厚鋼板において有利な機械特性を達成するため、最終成形後、少なくとも1回の矯正工程を含む多段階冷却を行うことが提案されている。多段階冷却時、第2の圧延工程(W2)後の第1の段階(8a)において、第2の圧延工程(W2)の第2の最終圧延温度、より具体的には、Ar3以上の温度から、Ar3とAr1の間の第1の温度(T1)まで、第1の冷却速度(KR1)で冷却し、続く第2の段階(8b)において、第1の温度(T1)から、Ar1未満の第2の温度(T2)まで、第2の冷却速度(KR2)で冷却する。第1の冷却速度(KR1)は、第2の冷却速度(KR2)よりも遅い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金鋼で構成された厚鋼板の製造のための出発原料、より具体的には、スラブインゴットに対する加工熱処理方法であって、
合金鋼は、重量%で、
炭素(C):0.01~0.20
マンガン(Mn):0.5~2.50
シリコン(Si):0.05~0.80
アルミニウム(Al):0.01~0.20
リン(P):<0.05
硫黄(S):<0.01
を含み、さらに、
クロム(Cr):0~1.5
モリブデン(Mo):0~1.0
銅(Cu):0~1.0
ニッケル(Ni):0~5.0
バナジウム(V):0~0.30
チタン(Ti):0~0.20
ニオブ(Nb):0~0.20
ホウ素(B):0~0.005
窒素(N):0~0.015
カルシウム(Ca):0~0.01
からなる群より選択される個々の要素又はその組合わせを任意に含み、さらに、残部として、鉄(Fe)及び製造に伴う不可避の不純物を含み、
熱処理方法は、
Ac3温度以上に加熱し、第1の圧延工程(W1)によって部分成形を行うことと、
前記第1の圧延工程(W1)後に、第1の最終圧延温度からAr3温度未満、より具体的には、Ar1の温度未満まで急冷することと、
急冷後、第2の圧延工程(W2)のために前記Ac3温度より高い第2の初期圧延温度に加熱し、前記第2の圧延工程(W2)によって厚鋼板の厚さに最終成形することと、
最終成形後、少なくとも1回の矯正工程を含む多段階冷却を行うことと、
を含み、
多段階冷却時、
前記第2の圧延工程(W2)後の第1の段階(8a)において、前記第2の圧延工程(W2)の第2の最終圧延温度、より具体的には、Ar3以上の温度から、Ar3とAr1の間の第1の温度(T1)まで、第1の冷却速度(KR1)で冷却し、
続く第2の段階(8b)において、前記第1の温度(T1)から、Ar1未満の第2の温度(T2)まで、第2の冷却速度(KR2)で冷却し、
前記第1の冷却速度(KR1)は、前記第2の冷却速度(KR2)よりも遅い、
ことを特徴とする、加工熱処理方法。
【請求項2】
前記第2の冷却速度(KR2)は、
C1min=0.5
C2min=69.7
C3min=0.02148
Nmin=0.3
厚さ=前記厚鋼板の厚さ(ミリメートル単位)
とした場合、摂氏度で、
【数1】
と表される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の加工熱処理方法。
【請求項3】
前記第2の冷却速度(KR2)は、
C1max=1.5
C2max=12294.5
C3max=0.02264
Nmax=1.43
厚さ=前記厚鋼板の厚さ(ミリメートル単位)
とした場合、摂氏度で
【数2】
と表される、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の加工熱処理方法。
【請求項4】
前記第1の冷却速度(KR1)に対する前記第2の冷却速度(KR2)の比が、少なくとも2:1、より具体的には、少なくとも3:1である、
ことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項5】
前記第1の冷却速度(KR1)が、5°C/秒以下、特に好ましくは、3°C/秒以下である、
ことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項6】
前記第1の温度(T1)が摂氏温度で、
【数3】
及び
【数4】
と表される、
ことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項7】
前記第2の温度(T2)が450°C~100°Cの範囲であり、より具体的には、400°C~150°Cの範囲であり、好ましくは、400°C~250°Cの範囲である、
ことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項8】
前記第2の温度(T2)から室温までの冷却は、第3の段階(8c)において、第3の冷却速度(KR3)で行われ、前記第3の冷却速度(KR3)は前記第2の冷却速度(KR2)よりも遅い、
ことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項9】
前記第3の冷却速度(KR3)が5°C/秒以下、好ましくは3°C/秒以下である、
ことを特徴とする、請求項8に記載の加工熱処理方法。
【請求項10】
前記第2の圧延工程(W2)の前記第2の初期圧延温度への加熱は、少なくとも12°C/分の加熱速度で行われる、
ことを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項11】
最終成形は、8~150mmの範囲の厚鋼板の厚さ、より具体的は、25~120mmの範囲の厚鋼板の厚さに対して行われる、
ことを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項12】
前記合金鋼が、重量%で、
炭素(C):0.02~0.1
マンガン(Mn):1.0~2.0
シリコン(Si):0.1~0.80
アルミニウム(Al):0.010~0.15
リン(P):<0.050
硫黄(S):<0.010
を含む
ことを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項13】
前記合金鋼が、重量%で、
銅(Cu):0~0.75
ニッケル(Ni):0~3.0
バナジウム(V):0~0.20
ホウ素(B):0~0.003
からなる群より選択される個々の要素又はその組合わせを任意に含む、
ことを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項14】
前記厚鋼板の降伏強度比(Rp0.2/R)が、0.7未満、好ましくは、0.65未満である、
ことを特徴とする、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の加工熱処理方法。
【請求項15】
前記厚鋼板の厚みが、8~150mmの範囲、より具体的には、25~120mmの範囲である、
ことを特徴とする、請求項14に記載の加工熱処理方法。
【請求項16】
前記厚鋼板の降伏強度(Rp0.2)が、550N/mm未満、より具体的には、590N/mm未満である、
ことを特徴とする、請求項14又は15に記載の加工熱処理方法。
【請求項17】
より具体的には、地震活動が活発な地域における、天然ガスパイプライン用の縦溶接パイプ、又は、建設資材への、請求項14乃至16のいずれか一項に記載の加工熱処理方法を実施した厚鋼板の利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板と、合金鋼で構成された厚鋼板の製造のための出発原料、より具体的には、スラブインゴットに対する加工熱処理方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、合金鋼製の厚鋼板の靭性、特に、低温靭性を高めるための加工熱処理方法が開示されている。該方法では、出発原料を数段階で熱間圧延し、2つの熱間圧延パスの間でAr3温度以下に急冷した後、Ac3温度以上に誘導的に加熱する。最後の熱間圧延パスの後、室温への2段階の冷却が行われる。まず、Ar3未満の冷却停止温度まで、水焼入れによって冷却速度を加速し、次に、室温まで冷却される。こうした厚鋼板は低温靭性が高いにもかかわらず、均一伸びAgが低いという欠点があり、地震多発地帯などでの使用が制限されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/079341号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、厚鋼板の製造における加工熱処理方法を提供することにあり、これにより、厚鋼板において、高い靭性値を達成しつつ、改良された均一伸びAgを再現性高く達成する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の特徴により、本発明の上記目的を達成する。
【0006】
第2の圧延工程後、多段階冷却における第1の段階において、第2の圧延工程の第2の最終圧延温度、より具体的には、Ar3以上の温度から、Ar3とAr1の間の第1の温度までの冷却は、第1の冷却速度KR1で行われる。そして、続く第2の段階において、第1の温度から、Ar1未満の第2の温度までの冷却が、第2の冷却速度KR2で行われる。ここで、第1の冷却速度KR1は、第2の冷却速度KR2よりも遅い。これにより、従来技術とは対照的に、遅延した構造変換を開始することができ、厚鋼板の均一伸びAgが大幅に改善される。
【0007】
比較的低い第1の冷却速度KR1により、オーステナイトよりも炭素(C)の溶解度が低いフェライトがオーステナイト構造から析出できると考えられる。したがって、炭素は、フェライトから残部のオーステナイトに移動し、そこで蓄積され得る。比較的高い第2の冷却速度KR2で、出発原料をさらに冷却した場合、フェライトとベイナイト、又はフェライトとマルテンサイトから成る多相構造が形成される(合金、厚鋼板の厚さ、冷却速度KR2、及び冷却開始時の第1の温度に依存する)。特に、第2の冷却速度よりも遅い第1の冷却速度で、Ar3とAr1の間の温度まで冷却することにより、均一伸びを決定付ける構造変換をもたらすことができる。続く第2の段階では、例えば、急冷するなどして、出発原料をより高速で冷却することにより、厚鋼板の靭性の低下を抑えることができる。要求に応じて(すなわち任意で)、多段冷却は、矯正処理や他の処理工程も含み得る。本発明に係る厚鋼板は、以下(各重量%)を含有する合金鋼を用いた。
炭素(C):0.01~0.20
マンガン(Mn):0.5~2.50
シリコン(Si):0.05~0.80
アルミニウム(Al):0.01~0.20
リン(P):<0.05
硫黄(S):<0.01
さらに、残部として、鉄(Fe)及び製造に伴う不可避の不純物を、例えば、それぞれ最大0.05重量%、合計で最大0.15重量%含む。これにより、従来技術とは対照的に、比較的高い靭性値及び特に高い均一伸びを、再現性よく達成することができる。また該合金鋼は、以下からなる群より選択される個々の要素又はその組合わせを任意に含み得る。
クロム(Cr):0~1.5
モリブデン(Mo):0~1.0
銅(Cu):0~1.0
ニッケル(Ni):0~5.0
バナジウム(V):0~0.30
チタン(Ti):0~0.20
ニオブ(Nb):0~0.20
ホウ素(B):0~0.005
窒素(N):0~0.015
カルシウム(Ca):0~0.01
【0008】
好ましい実施形態において、合金鋼は、以下(それぞれ重量%)を含有する。
炭素(C):0.02~0.1
マンガン(Mn):1.0~2.0
シリコン(Si):0.1~0.80
アルミニウム(Al):0.010~0.15
リン(P):<0.050
硫黄(S):<0.010
【0009】
合金鋼が、重量%で、以下からなる群より選択される個々の要素又はその組合わせ(それぞれ重量%)を任意に含み得る。
銅(Cu):0~0.75
ニッケル(Ni):0~3.0
バナジウム(V):0~0.20
ホウ素(B):0~0.003
【0010】
例えば、第2の冷却速度(KR2)は、C1min=0.5、C2min=69.7、C3min=0.02148、Nmin=0.3、厚さ=厚鋼板の厚さ(ミリメートル単位)とした場合、摂氏度で、次式のように表される。
【0011】
【数1】
【0012】
本発明による鋼合金では、このプロセスにおける下限により、フェライト、ベイナイト、そして場合によっては、マルテンサイトからなる所望の微細構造を、
より再現性高く生成することができ、高靭性及び高均一伸びAgを達成することができる。例えば、厚さ25mmの厚鋼板の場合、出発原料の冷却速度KR2の下限は、16°C/秒とすることができる。厚さ80mmの厚鋼板の場合、出発原料の冷却速度KR2の下限は、3.9°C/秒とすることができる。
【0013】
第2の冷却速度(KR2)は、C1max=1.5、C2max=12294.5、C3max=0.02264、Nmax =1.43、厚さ=前記厚鋼板の厚さ(ミリメートル単位)とした場合、摂氏度で、次式のように表される値で充分であることが分かる。この上限により、所望の微細構造を特に再現性高く生成することができ、高靭性及び高均一伸びAgを達成することができる。
【0014】
【数2】
【0015】
冷却速度KR2における上限(上記の式を使用)は、例えば、厚さ25mmの厚鋼板で71.5°C/秒、厚さ80mmの厚鋼板で5.3°C/秒となる。
【0016】
本発明によれば、一例として、以上を組み合わせると、より薄い厚鋼板(最終成形後の出発原料)の第2の冷却速度KR2の範囲は、16°C/秒~78.6°C/秒の範囲であり、より厚い厚鋼板(最終成形後の出発原料)の場合、3.9°C/秒~5.9°C/秒の範囲であり得ることが分かる。mm(ミリメートル)で表される厚さ、摂氏度で表される温度、及び°C/秒で表される冷却速度は、すべての式において共通である。
【0017】
第1の冷却速度KR1に対する第2の冷却速度KR2の比が、少なくとも2:1である場合、充分に高い靭性で、均一伸びAgをさらに達成することができる。より具体的には、第1の冷却速度KR1に対する第2の冷却速度KR2の比が、少なくとも3:1である場合、請求項に記載の合金鋼又は合金において、靭性及び均一伸びAgの最適なバランスをもたらすことができる。
【0018】
好ましくは、第1の冷却速度KR1が、5°C/秒以下、特に好ましくは、3°C/秒以下である。これにより、方法の実施が容易になり、また、高靭性及び高均一伸びAgの再現性をさらに向上させることができる。
【0019】
好ましくは、第1の温度T1は、摂氏温度で、数式3及び数式4と表される。
【0020】
【数3】
【0021】
【数4】
【0022】
この範囲における第1の温度T1は、とりわけ、本発明による合金鋼において、最大の均一伸びAgを再現性よく達成することができる。
【0023】
高靭性を実現する微細組織とするため、また、高強度、均一伸び、そして靭性の最適な組み合わせを達成するため、好ましくは、第2の温度T2は、450°C~100°Cの範囲であり、好ましくは400°C~150°Cの範囲であり、特に好ましくは400°C~250°Cの範囲である。
【0024】
第2の温度から室温までの冷却は、第3の段階において、第3の冷却速度KR3で行われ、第3の冷却速度KR3は、第2の冷却速度KR2よりも遅い。こうすることにより、合金鋼の機械特性をさらに改善することができる。
【0025】
例えば、第3の冷却速度KR3が5°C/秒以下、好ましくは3°C/秒以下である。こうすることで、プロセスの観点から、加速せずに空気中で冷却することが容易となる。
【0026】
第2の圧延工程の第2の初期圧延温度への加熱は、少なくとも12°C/分の加熱速度で行われることが好ましい。
【0027】
例えば、こうすることで、出発原料を誘導加熱することができる。そのため、製造プロセス全体の所要時間を短縮し、加熱速度を非常に高く設定することができ、全体の生産時間において有利に働く。代わりに、特に簡単かつ堅牢な加熱方法として、放射熱を使用して加熱を行うことも可能である。
【0028】
好ましくは、最終成形は、8~150mmの範囲の厚鋼板の厚さ、より具体的は、25~120mmの範囲の厚鋼板の厚さに対して行われる。
【0029】
本発明の別の目的は、高い靭性値にもかかわらず、改善された均一伸びAgを有する厚鋼板を作成することである。
【0030】
請求項14の特徴により、本発明の上記目的を達成する。
【0031】
本発明による加工熱処理方法によって製造された厚鋼板において、例えば、降伏強度比(Rp0.2/R)を0.7未満とすることができる。好ましくは、厚鋼板においては、降伏強度比(Rp0.2/R)を0.70未満とすることができる。特に好ましくは、厚鋼板において、降伏強度比(Rp0.2/R)を0.65未満とすることができる。
【0032】
例えば、厚鋼板の厚みを8~150mmの範囲、より具体的には、厚鋼板の厚みを25~120mmの範囲とすることができる。
【0033】
好ましくは、厚鋼板の降伏強度Rp0.2を550N/mm(ニュートン/平方ミリメートル)未満、より具体的には、降伏強度Rp0.2(0.2%オフセット降伏強度)を590N/mm未満とする。これにより、比較的高い強度を確保できる。
【0034】
これにより、この厚鋼板は、地震活動が活発な地域における、天然ガスパイプライン用の縦溶接パイプ、又は、建設資材への利用に特に適している。
【0035】
なお、一般的に、出発原料の厚みが比較的厚いため、出発原料の厚さ全体にわたって、冷却速度及び/又は加熱速度にばらつきが生じ得る。例えば、出発原料の外側の冷却速度は、その中心部の冷却速度より、かなり高くなる場合がある。したがって、それぞれの冷却速度(KR1、KR2、KR3)又は初期温度から最終温度までの加熱速度は、平均値、つまり、初期温度から最終温度までの出発原料の厚さ全体にわたる冷却速度又は加熱速度の平均値とした。
【図面の簡単な説明】
【0036】
本発明の目的は、実の形態に基づいて、図により詳細に示される。図面は以下の通りである。
【0037】
図1図1は、 2つの加工熱処理方法の温度プロファイルを示す。
図2図2は、図1に準拠した加工熱処理方法によってそれぞれ製造された2つの厚鋼板の応力-ひずみ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、合金鋼から厚鋼板A、Bを製造するための加工熱処理方法における、2つの温度プロファイル1、2を示している。厚鋼板A、B(欧州統一材料規格DIN EN 10079に準拠した平板状製品)は、ともに、同様の合金鋼を使用しており、以下の要素を含む。
炭素(c):0.04重量%
マンガン(Mn):1.63重量%
シリコン(Si):0.34重量%
アルミニウム(Al):0.04重量%
リン(P):0.012重量%
硫黄(S):0.001重量%
クロム(Cr):0.17重量%
モリブデン(Mo):0.02重量%
ニオブ(Nb):0.035重量%
チタン(Ti):0.014重量%
ホウ素(b):0.0003重量%
窒素(N):0.0045重量%
さらに、残部として、鉄(Fe)及び製造に伴う不可避の不純物を含み、それぞれ最大0.05重量%、合計で最大0.15重量%含む。厚鋼板A及びBの厚さは、それぞれ25mm(ミリメートル)とした。
【0039】
図1は、室温RTへの多段冷却3の終盤において、第1の温度プロファイル1と第2の温度プロファイル2が、互いに異なることを示している。実施する方法の手順は同様とした。
【0040】
厚鋼板A、Bの出発原料、すなわちスラブインゴットに対し、それぞれ、例えば、スラブインゴット加熱装置によって、Ac3温度、すなわち1100°C(摂氏温度)を上回る温度に、加熱4が実行される。
【0041】
次いで、出発原料は、第1の圧延手順W1によって、部分的に形成される。
【0042】
これに続いて、加速冷却5、すなわち急冷、好ましくは水焼入れが行われ、それにより、出発原料が第1の最終圧延温度(Ac3を上回る温度)からAr3温度未満まで冷却される。具体的には、図1から明らかなように、出発原料は、Ar1の温度未満まで冷却又は急冷される。
【0043】
これに続いて、急速な、好ましくは、誘導的な加熱6が行われ、Ac3温度よりも高い温度に加熱される。この温度で、初期圧延温度として、出発原料が第二の圧延手順W2によって、最終的な厚さの厚鋼板(出発原料の最終厚み)に形成される。
【0044】
第2の圧延手順W2を終えると、出発原料は、Ar3以上の第2の最終圧延温度EW2、すなわち830°Cとなる。誘導加熱の代わりに、他の熱源、例えば輻射熱源も考えられる。ここでの急速加熱(誘導加熱又は輻射熱など)は、少なくとも12°C/分の速度で行われる。
【0045】
この第2の圧延手順W2は、最終圧延とも称される。その後、室温(こうしたプロセスでは、通常、0~60°C、例えば20°C)に至るまで、2つの異なる多段冷却工程3が実施される。
【0046】
第2の圧延手順W2後の、冷却3の第1の段階7aにおいて、厚鋼板Aの出発原料は、第2の最終圧延温度からAr1未満の温度まで、加速的に、すなわち、30°C/秒の水焼入れによって、急冷される。これに続いて、
直後の、冷却3の第2の段階7bにおいて、静止空気中、周囲温度で0.1°C/秒で室温RTまで冷却する。
【0047】
本発明に係る多段冷却3は、厚鋼板Bの出発原料の場合とともに示されている。この場合、第1の段階8aにおける第2の圧延手順W2の後、出発原料は、第2の最終圧延温度EW2から、Ar3とAr1の間の第1の温度T1、すなわち720°Cまで、第1冷却速度KR1、すなわち0.6°C/秒で冷却される。
【0048】
直後の第2の段階8bにおいて、出発原料は、第1の温度T1からAr1未満の第2の温度T2、すなわち150°Cまで、第2の冷却速度KR2、すなわち30°C/秒で急冷される。また、室温RTに急冷することもできるが、ここでは、説明を省略する。
【0049】
図1から明らかなように、第1の冷却速度KR1は、第2の冷却速度KR2よりも遅く、具体的には、第2の冷却速度KR2よりも3倍遅くなる。
【0050】
第2の温度T2から常温RTまで第3の冷却速度KR3で冷却する、第3の段階8cを、図1の多段冷却工程において示す。好ましくは、第3の冷却速度KR3は0.1°C/秒である。
【0051】
なお、一般に、加速冷却は、静止空気中で室温によって冷却するよりも速い冷却であると理解され、焼入れとも称される。
【0052】
また、ブロックやビレットを出発原料として使用することも考えられる。
【0053】
さらに、第1及び/又は第2の圧延手順は、1つ以上の部分圧延手順と、場合によっては、いくつかの部分圧延ステップ(パス)とから構成することができ、これは、例えば、逆転圧延手順によって可能となる。
【0054】
多段階冷却3における工程の違いにより、厚鋼板A及びBの機械的特性は、表2に示す通りとなった。応力σと伸びεを引張試験(欧州統一材料規格DIN EN 10002-1に準拠した引張試験)によって求め、靭性を欧州統一材料規格DIN EN ISO 148-1に準拠したノッチ付きバー衝撃曲げ試験によって求めた。
【0055】
【表1】
【0056】
表1及び図2から明らかなように、厚鋼板Bの均一伸びAgは、厚鋼板Aと比較して8.9%から14.7%まで増加、つまり5.8%増加した。そのため、厚鋼板Bは大幅に高いエネルギー放散能力、ひいては、エネルギー吸収能力を発揮できる。
【0057】
低ひずみ(0.2%オフセット降伏強度Rp0.2参照)では、実際、厚鋼板Bは、厚鋼板Aよりも早い段階で塑性変形を受けている(0.2%オフセット降伏強度Rp0.2参照)。しかしながら、破壊は厚鋼板Bにおいて、損傷は、かなり遅れて発生している(A参照)。
【0058】
地震の多い地域や地震活動が活発な地域などで、材料の吸収能力が重要視される場合において、こうした特性は特に有利となる。
【0059】
したがって、本発明により製造された厚鋼板Bは、例えば、地震活動が活発な地域における、天然ガスパイプライン用の縦溶接パイプ、又は、鉄骨構造への利用に、特に適している。厚鋼板Bから作られた部品は、その高い均一伸びにより、高いエネルギー放散能力を有する。また、穴軸受が破損した場合に、有利な挙動を発揮するため、溶接Iビームにおける、鉄骨構造の建築材料として、厚鋼板Bから作られた部品を利用することも想定され得る。
【0060】
なお、一般に、欧州統一材料規格DIN EN 10052には、以下の定義がある。
Ac3:加熱処理中にフェライトのオーステナイトへの変化が終了する温度
Ar1:冷却処理中にオーステナイトのフェライトへの変化、又は、フェライトとセメンタイトへの変化が終了する温度
Ar3:冷却処理中にフェライトの形成が始まる温度
【0061】
なお、一般に、厚鋼板という用語は、例えば、欧州統一材料規格DIN EN 10079などに、より既知のものである。
【0062】
なお、一般的に、ドイツ語の表現“insbesondere”は、英語では“more particularly(より具体的には)”と訳すことができる。「より具体的に」が先行する特徴は、省略することができ、こうした特徴は、任意に選択可能であり、請求項の内容を制限する意図はないものとみなされるべきである。ドイツ語の表現“vorzugsweise”についても同様であり、英語では“preferably(好ましい)”と訳される。
図1
図2
【国際調査報告】