(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-18
(54)【発明の名称】改善した耐水素脆化特性を有するニッケル基析出硬化型合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20241211BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20241211BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20241211BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
C22C19/05 E
C22C30/00
C22F1/10 H
C22F1/00 640A
C22F1/00 641B
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 683
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 684C
C22F1/00 602
C22F1/00 624
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 630B
C22F1/00 640Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539917
(86)(22)【出願日】2022-12-30
(85)【翻訳文提出日】2024-08-07
(86)【国際出願番号】 US2022054330
(87)【国際公開番号】W WO2023129703
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594120489
【氏名又は名称】ハンチントン、アロイス、コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】HUNTINGTON ALLOYS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【氏名又は名称】海老 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【氏名又は名称】伊藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】デフォース, ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ベイカー, ブライアン, エー.
(72)【発明者】
【氏名】ダム, エドワード, フランシス
(57)【要約】
向上した耐水素脆化特性と所望の降伏強度を有するニッケル基析出硬化型合金は、他の元素の中でも特にチタンと鉄の臨界範囲を有する。ニッケル基析出硬化型合金の一つは、重量%で、約18.0%から約23.0%のCr、約7.0%から約12.0%のFe、約6.5%から約9.5%のMo、約3.2%から約5.2%のNb、約0.3%から約1.3%のTi、約0.4%までのAlを含み、残部のNiと不可避不純物を含む組成を有する。この合金は、120ksi(827MPa)以上の降伏強度(0.2%オフセット)と、0.35以上の塑性ひずみ比と、9.0%以上の破断塑性ひずみとを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル基析出硬化型合金であって、
重量パーセントで、
約18.0%から約23.0%のクロム、
約7.0%から約12.0%の鉄、
約6.5%から約9.5%のモリブデン、
約3.2%から約5.2%のニオブ、
約0.3%から約1.3%のチタン、
約0.4%までのアルミニウム、及び、
残部のニッケルと不可避不純物、
を含む組成を有し、
約120ksi(827MPa)以上の降伏強度(0.2%オフセット)と、
0.35以上の塑性ひずみ比と、
9.0%以上の破断塑性ひずみと、
を有する、ニッケル基析出硬化型合金。
【請求項2】
前記チタンが約0.8%から約1.1%であり、前記鉄が約9.0%から約12.0%である、請求項1に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項3】
前記チタンが約0.8%から約1.0%であり、前記鉄が約10.0%から約12.0%である、請求項1に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項4】
前記チタンが約0.4%から約0.8%であり、前記鉄が約10.0%から約12.0%である、請求項1に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項5】
前記降伏強度(0.2%オフセット)が、約120ksi(827MPa)から約150ksi(1034MPa)である、請求項1に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項6】
前記塑性ひずみ比が0.40以上であり、前記破断塑性ひずみが10.0%以上である、請求項1に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項7】
前記塑性ひずみ比が0.50以上であり、前記破断塑性ひずみが12.0%以上である、請求項1に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項8】
ニッケル基析出硬化型合金であって、
重量パーセントで、
約18.0%から約23.0%のクロム、
約9.0%から約16.0%の鉄、
約4.5%から約7.5%のモリブデン、
約3.2%から約5.2%のニオブ、
約0.4%から約1.3%のチタン、
約0.4%までのアルミニウム、及び、
残部のニッケルと不可避不純物、
を含む組成を有し、
約120ksi(827MPa)以上の降伏強度(0.2%オフセット)と、
0.30以上の塑性ひずみ比と、
8.5%以上の破断塑性ひずみと、
を有する、ニッケル基析出硬化型合金。
【請求項9】
前記チタンが約0.8%から約1.1%であり、前記鉄が約11.0%から約16.0%である、請求項8に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項10】
前記チタンが約0.8%から約1.0%であり、前記鉄が約12.0%から約16.0%である、請求項8に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項11】
前記チタンが約0.5%から約0.8%であり、前記鉄が約12.0%から約16.0%である、請求項8に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項12】
前記降伏強度(0.2%オフセット)が、約120ksi(827MPa)から約150ksi(1034MPa)である、請求項8に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項13】
前記塑性ひずみ比が0.35以上であり、前記破断塑性ひずみが9.0%以上である,請求項8に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項14】
前記塑性ひずみ比が0.45以上であり、前記破断塑性ひずみが10.0%以上である、請求項8に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項15】
ニッケル基析出硬化型合金であって、
重量パーセントで、
約18.0%から約23.0%のクロム、
約15.0%から約21.0%の鉄、
約3.0%から約4.5%のモリブデン、
約3.2%から約5.2%のニオブ、
約0.5%から約1.3%のチタン、
約0.4%までのアルミニウム、
約0.5%から約3.0%の銅、及び、
残部のニッケルと不可避不純物、
を含む組成を有し、
約140ksi(965MPa)以上の降伏強度(0.2%オフセット)と、
0.30以上の塑性ひずみと、
8.0%以上の破断塑性ひずみと、
を有する、ニッケル基析出硬化型合金。
【請求項16】
前記チタンが約0.8%から約1.1%であり、前記鉄が約16.0%から約21.0%である、請求項15に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項17】
前記チタンが約0.8%から約1.0%であり、前記鉄が約17.0%から約20.0%である、請求項15に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項18】
前記チタンが約0.5%から約0.8%であり、前記鉄が約18%から約21.0%である、請求項15に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項19】
前記降伏強度(0.2%オフセット)が約140ksi(965MPa)から170ksi(1172MPa)である、請求項15に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項20】
前記塑性ひずみ比が0.35以上であり、前記破断塑性ひずみが9.0%以上である、請求項15に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【請求項21】
前記塑性ひずみ比が0.45以上であり、前記破断塑性ひずみが10.0%以上である、請求項15に記載のニッケル基析出硬化型合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月30日に出願された米国特許出願第63/295,324号の優先権およびその利益を主張する。上記出願の開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、ニッケル基析出硬化型合金に関し、特に耐水素脆化特性を改善したニッケル基析出硬化型合金に関する。
【背景技術】
【0003】
本項の記述は、単に本開示に関連する背景情報を提供するものであり、先行技術を構成するものではない。
【0004】
ニッケル基析出硬化型合金は、油田設備の重要なダウンホールコンポーネントの製造に使用されている。このような合金は、塩化物イオン応力腐食割れ、硫化物応力腐食割れ、および電流誘起水素応力腐食割れに対して耐性があることが知られている。しかし、水素脆化(HE)に対する耐性の向上が望まれている。水素脆化に対する耐性は、塑性ひずみ比および破断塑性ひずみを求めることによって評価することができる。本明細書では、「破断塑性ひずみ」および「塑性ひずみ比」という表現は、NACE規格TM0198で定められた破断塑性ひずみおよび塑性ひずみ比を意味する。この規格は、高温の油田生産環境をシミュレートした際の、水素誘起応力腐食割れ(SCC)に対するNi基合金の耐性を評価するための低歪速度試験を規定している。より具体的には、破断塑性ひずみとは、材料が破断するまでの材料の最大塑性変形である。破断時点での応力とひずみの値を通る弾性直線の投影を用いて、サンプルの塑性変形に起因するひずみ量を、破断時点での全ひずみから破断点における等価弾性ひずみを差し引いた値として求める。HE塑性ひずみ比は、酸中で試験した試料から求めた破断塑性ひずみを、不活性環境で試験した試料から求めた破断塑性ひずみで割ったものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、ニッケル基析出硬化型合金の耐HE特性の改善、および油田環境で使用されるニッケル基析出硬化型合金に関するその他の問題に取り組むものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本項は、本開示の一般的な要約を提供するものであり、本開示の全範囲または全特徴を包括的に開示するものではない。
【0007】
本開示の一態様では、Ni(ニッケル)基析出硬化型合金は、重量%で、約18.0%から約23.0%のCr(クロム)、約7.0%から約12.0%のFe(鉄)、約6.5%から約9.5%のMo(モリブデン)、約3.2%から約5.2%のNb(ニオブ)、約0.3%から約1.3%のTi(チタン)、約0.4%までのAl(アルミニウム)、残部のNi(ニッケル)と不可避不純物を含む組成を有し、120ksi以上の降伏強度と、0.35以上の塑性ひずみ比と、9.0%以上の破断塑性を有する。少なくとも1つの変形例では、合金は、約0.8%から約1.1%のTi含有量と、約9.0%から約12.0%のFe含有量を有する。例えば、少なくとも1つの変形例では、合金は、約0.8%から約1.0%のTi含有量と約10.0%から約12.0%のFe含有量を有する。別の代替例では、合金は、約0.4%から約0.8%のTi含有量と約10.0%から約12.0%のFe含有量を有する。
【0008】
一態様の合金は、所望の塑性ひずみ比、すなわち0.35以上の塑性ひずみ比と、9.0%以上の破断塑性ひずみを有するが、合金はまた所望の強度、すなわち120ksi(827MPa)以上の強度を維持する。例えば、少なくとも1つの変形例では、合金は0.35以上のHE塑性ひずみ比、9.0%以上の破断塑性ひずみ、及び約120ksi(827MPa)から150ksi(1034MPa)の降伏強度を有する。また、いくつかの変形例では、合金は、0.40以上の塑性ひずみ比と、10.0%以上の破断塑性ひずみを有する。例えば、少なくとも1つの変形例では、塑性ひずみ比は0.50以上であり、破断塑性ひずみは12.0%以上である。
【0009】
本開示の別の態様では、Ni基析出硬化型合金は、重量%で、約18.0%から約23.0%のCr、約9.0%から約16.0%のFe、約4.5%から約7.5%のMo、約3.2%から約5.2%のNb、約0.4%から約1.3%のTi、約0.4%までのAl、及び残分のNiと不可避不純物を含む組成を有し、120ksi以上の降伏強度と、0.30以上の塑性ひずみ比と、8.5%以上の破断塑性ひずみを有する。少なくとも1つの変形例では、合金は、約0.8%から約1.1%のTi含有量と約11.0%から約16.0%の間のFe含有量を有する。例えば、少なくとも1つの変形例では、合金は、約0.8%から約1.0%のTi含有量と約12.0%から約16.0%のFe含有量を有する。別の代替案では、合金は、約0.5%から約0.8%のTi含有量と約12.0%から約16.0%のFe含有量を有する。
【0010】
この形態の合金は、所望の塑性ひずみ比、すなわち0.30以上の塑性ひずみ比を有するが、合金は依然として所望の強度、すなわち120ksi(827MPa)以上の強度を維持している。例えば、少なくとも1つの変形では、合金は、0.30以上の塑性ひずみ比と、8.5%以上の破断塑性ひずみを有し、降伏強度は約120ksi(827MPa)から150ksi(1034MPa)である。また、別の形態では、合金は、0.35以上の塑性ひずみ比と9.0%以上の破断塑性ひずみを有する。さらに別の態様では、塑性ひずみ比は0.45以上であり、破断塑性ひずみは10.0%以上である。
【0011】
本開示のさらに別の態様では、Ni基析出硬化型合金は、重量%で、約18.0%から約23.0%のCr、約15.0%から約21.0%のFe、約3.0%から約4.5%のMo、約3.2%から約5.2%のNb、約0.5%から約1.3%のTi、約0.4%までのAl、約0.5%から約3.0%のCu(銅)、および残部のNiおよび不可避不純物を含む組成を有する。この合金は、140ksi以上の降伏強度と、0.30以上の塑性ひずみ比と、及び8.0%以上の破断塑性ひずみを有する。この合金の少なくとも1つの変形例では、Ti含有量は約0.8%から約1.1%であり、Fe含有量は約16.0%から約21.0%である。例えば、少なくとも1つの変形例では、この合金は、約0.8%から約1.0%の間のTi含有量と、約17.0%から約20.0%の間のFe含有量を有する。別の代替案では、合金は、約0.5%から約0.8%の間のTi含有量と約18.0%から約21.0%の間のFe含有量を有する。
【0012】
この合金は、所望の塑性ひずみ比、すなわち0.5以上の塑性ひずみ比を有するが、それでも所望の強度、すなわち140ksi(965MPa)以上の強度を維持する。例えば、少なくとも1つの変形例では、この合金は、0.30以上の塑性ひずみ比と、8.0%以上の破断塑性ひずみを有し、降伏強度は約140ksi(965MPa)から170ksi(1172MPa)である。また、いくつかの変形例では、この合金は、0.35以上の塑性ひずみ比と9.0%以上の破断塑性ひずみを有する。さらに別の態様では、塑性ひずみ比は0.45以上であり、破断塑性ひずみは10.0%以上である。
【0013】
特定の理論に縛られるわけではないが、TiとFeのバランスを注意深くとることで、高い強度を持ち、水素脆化しにくい合金が得られると考えられている。
【0014】
さらなる適用可能な領域は、本明細書で提供される説明から明らかになるであろう。本明細書および特定の実施例は、説明のみを目的とするものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明は、本質的に単なる例示であり、本開示、用途、または使用を限定することを意図するものではない。図面全体を通して、対応する参照数字は、同様または対応する部分および特徴を示すことを理解されたい。
【0016】
以下の表1を参照すると、9種類のニッケル基(Ni基)析出硬化型合金のUNS(Unified Numbering System:統一ナンバリングシステム)の組成仕様が示されている。
【表1】
【0017】
表1に示す合金は、様々な産業および用途で使用されることが知られており、その中には油田設備のダウンホールコンポーネントも含まれ、そのために向上した耐HE特性が望まれている。表1に示すUNS仕様に該当する合金をHE試験に供した(論文番号13284、CORROSION2019のカンファレンス予稿集参照;参照により本明細書に組み込まれる)。また、本発明者らは、表1の合金の組成の統計分析を行い、これらの合金の耐HE特性は、Ti含有量の減少およびFe含有量の増加に伴って耐HE特性の向上の傾向を示すことを発見した。特に、合金の塑性ひずみ比は、統計的モデル化により以下の関係に従うことが判明した。
塑性ひずみ比=0.3461+0.016572×Fe-0.2022×Ti (1)
ここで、決定係数(R2)は0.997、Fe及びTiは重量%(wt.%)である。上記(1)の関係から明らかなように、Ti含有量を減少させ、Fe含有量を増加させることにより、塑性ひずみ比が増加し、よって耐HE特性が向上する。
【0018】
ここで表2を参照すると、クロム、鉄、モリブデン、ニオブ、チタン、およびアルミニウムの量が異なる4種類のNi基合金が示されている。特に、概して、UNS N07716、UNS N07718、UNS N09925、およびUNS N09945の組成範囲に概して入る特定の合金を表2に示す。表2に示された合金の組成は、CORROSION2014のカンファレンス予稿集の論文番号4248(参照により本明細書に組み込まれる)から得られたものであり、表に記載されたUNS仕様の合金元素の必ずしも全てを含まない場合があることを理解されたい。
【表2】
【0019】
表2の合金をHE試験に供した(論文番号4248、CORROSION2014のカンファレンス予稿集参照)。また、表2の合金の組成とこれらの合金の耐HE特性を統計的に分析したところ、同様に、Ti含有量の減少とFe含有量の増加に伴って耐HE特性が向上する傾向が見られた。特に、不活性環境下での試験に対するHE環境下での試験の面積比の減少は、統計的モデリングに基づく以下の関係に従うことが判明した。
面積比の減少=0.6348+0.01274×Fe-0.1530×Ti (2)
ここで、R2は0.779に等しい。
【0020】
次に表3を参照すると、クロム、鉄、モリブデン、ニオブ、チタン、およびアルミニウムの量が異なる7種類のNi基析出硬化型合金が示されている。特に、概してUNS N07725、UNS N07716、およびUNS N07718の組成範囲に入る特定の合金を表3に示す。表3に示される合金の組成および名称は、CORROSION2018カンファレンス予稿集の論文番号11114(参照により本明細書に組み込まれる)から得られたものであり、対応するUNS仕様に規定される合金元素の必ずしも全てを含まない場合があることを理解されたい。
【表3】
【0021】
表3の合金をHE試験に供した(論文番号11114、CORROSION2018のカンファレンス予稿集参照)。また、表3の合金の組成とこれらの合金の耐HE特性を統計的に分析したところ、同様に、Ti含有量の減少に伴って耐HE特性が向上する傾向が見られた。特に、不活性環境での試験に対するHE環境での試験合金の破断荷重の減少は、統計的モデリングに基づく以下の関係に従うことが発見された。
破断荷重の減少率%=-43.4+52.24×Ti (3)
ここでR2は0.876であり、破断荷重の減少率が高いほど(すなわち、負の値が小さいほど)、耐HE特性が高いことを示している。(3)の関係から明らかなように、表3に示した合金の破断荷重の減少率%に関して、Feの寄与は統計的に無関係であった。
【0022】
分析結果は、Ni基析出硬化型合金中のTi合金含有量の減少に伴って耐HE特性が増加することを示していることを理解すべきである。従って、本明細書の教示に従って、Ti含有量を減少させ、Feを増加させて、耐HE特性を向上させた新たなNi基析出硬化型合金が開発された。
【0023】
析出硬化型ニッケル合金の耐HE特性に及ぼすTi、Fe、降伏強度(YS)の影響をさらに解明するため、追加試験を行った。以下の表4を参照すると、試験したニッケル(Ni)基析出硬化型合金の組成が示されている。市販合金と実験室合金の組み合わせが含まれる。
【表4】
【0024】
表4の実験室溶融合金は、直径4インチ50ポンドの真空誘導(VIM)溶融インゴットから直径0.625インチの熱間圧延棒製品の形で製造された。均質化した熱間圧延棒試料を1900°F(約1038℃)でアニールした。時効硬化は1350°F(約732℃)で8時間行い、1時間当たり100°F(約38℃)の炉冷で1150°F(約621℃)まで冷却し、8時間保持した後に空冷した。生産用溶融合金は、市販のVIM溶融材料から製造された。直径18インチのVIM電極を直径20インチまで真空アーク再溶解(VAR)し、ジャイロ回転鍛造機(GFM)で直径5~10インチの仕上がり直径に鍛造した。以下の表5に示すように、完成したロッドは1850°F(約1010℃)から1900°F(約1038℃)の間でアニールされた。時効硬化は1300°F(約704℃)から1365°F(約741℃)で5.5から8時間行なわれ、1時間当たり50°F(約10℃)から100°F(約38℃)で1150°F(約621℃)まで炉冷却して、5.5から12時間保持した後に空冷した。
【表5】
【0025】
表5の合金を引張強さとシャルピー衝撃試験に供した。以下の表6は、熱ごとの試験結果をまとめたものである。
【表6】
【0026】
表5の合金を、さらに耐HE特性試験に供した。各変種の耐HE特性は、NACE TM0198 Method Cの遅ひずみ速度試験手順に従って試験された。遅ひずみ速度試験では、一定の伸長速度でゆっくりと動的ひずみを加える。これは、水素誘起応力割れに対する耐性を評価するものである。表7は、熱ごとの耐HE特性の平均試験結果をまとめたものである(空欄または数値なしは、その合金の試験が完了しなかったことを示す)。
【表7】
【0027】
すべてのサンプルを光学顕微鏡で検査し、微細構造がAPI6a CRA Annex A, Reference Microstructuresに規定された要件を満たし、顕著な粒界析出や粒内析出がないことを確認した。そのような微細構造はHE条件下で粒界破壊を起こしやすいことが示されている。そのような微細構造は、有意な粒界析出による追加的影響を排除してHE性能に対するTiとFeおよび降伏強度の影響を分離するために、今回の研究から除外された。
【0028】
単変数および多変数の回帰モデルと交差検証を含むデータ分析により、Ti含有量、Fe含有量、および降伏強度がそれぞれ耐HE特性に影響を及ぼすことが判明した。特に、降伏強度が120-170ksiの範囲では、Ti含有量が低く、Fe含有量が高いほど耐HE特性が高くなる。
【0029】
試験の結果は、評価されて本明細書に含まれる請求範囲を導くために使用された。以下の表8は、本開示による新しい合金の組成範囲、塑性ひずみ比、および降伏強度のまとめである。
【表8】
【0030】
表8において「A-新合金725」として示される本開示の一態様では、Ni基析出硬化型合金は、重量%で、約18.0%から約23.0%のCr、約7.0%から約12.0%のFe、約6.5%から約9.5%のMo、約3.2%から約5.2%のNb、約0.3%から約1.3%のTi、約0.4%までのAl、残部のNiおよび不可避不純物を含む組成を有し、0.35以上の塑性ひずみ比、または9.0%以上の破断塑性ひずみを有する。いくつかの変形例では、合金は約0.8%から約1.1%のTi含有量を有し、他の変形例では、合金は約0.8%から約1.0%のTi含有量を有する。少なくとも1つの変形例では、合金は約0.8%から約1.1%のTi含有量と約9.0%から約12.0%のFe含有量を有する。例えば、少なくとも1つの変形例では、合金は約0.8%から約1.0%のTi含有量と約10.0%から約12.0%のFe含有量を有する。また、B、C、Co、Mn、P、Si、およびSなどの追加の合金元素は、本開示の範囲内に留まりながら、Ni基析出硬化型合金を製造するためのUNS N07725仕様および/または通常の溶解方法に対応する量で存在し得る。
【0031】
この合金は、所望の塑性ひずみ比、すなわち0.35以上の塑性ひずみ比を有するが、120ksi(827MPa)以上の所望の強度、すなわち120ksi(827MPa)以上の強度も維持する。すなわち、TiをUNS N07725のTi範囲内またはそれ以下の低レベルに低減しても、合金は油田生産におけるダウンホールコンポーネントに対する所望の降伏強度を有する。例えば、少なくとも1つの変形例では、合金は、塑性ひずみ比が0.35以上であり、降伏強度は約120ksi(827MPa)から150ksi(1034MPa)である。一態様では、合金は、塑性ひずみ比が0.3以上であり、降伏強度が約130ksi(896MPa)から150ksi(1034MPa)である。別の態様では、合金は、0.35以上の塑性ひずみ比と、9.0%以上の塑性ひずみ比を有し、降伏強度は約140ksi(965MPa)から150ksi(1034MPa)である。また、いくつかの変形例では、合金は、0.40以上の塑性ひずみ比と10.0%以上の破断塑性ひずみを有する。例えば、少なくとも1つの変形例では、塑性ひずみ比は0.50以上であり、破断塑性ひずみは12.0%以上である。
【0032】
表8のB-新合金735で表される本開示の別の態様では、Ni基析出硬化型合金は、重量%で、約18.0%から約23.0%のCr、約9.0%から約16.0%のFe、約4.5%から約7.5%のMo、約3.2%から約5.2%のNb、約0.4%から約1.3%のTi、約0.4%までのAl、残部のNiおよび不可避不純物を含む組成を有し、0.3以上の塑性ひずみ比、または8.5%以上の破断塑性ひずみを有する。一態様では、合金は約0.8%から約1.1%のTi含有量を有し、他の変形例では、合金は約0.8%から約1.0%のTi含有量を有する。少なくとも1つの変形例では、合金は、約0.8%からq約1.1%のTi含有量と約14.0%から約17.0%のFe含有量を有する。さらに別の態様では、合金は、約0.8%から約1.0%のTi含有量と約15.0%から約17.0%のFe含有量を有する。また、B、C、Co、Mn、P、Si、およびSなどの追加の合金元素は、本開示の範囲内にとどまりながら、Ni基析出硬化型合金を製造するための通常の溶解方法に対応する量で存在し得る。
【0033】
合金は、所望の塑性ひずみ比、すなわち0.30以上の塑性ひずみ比を有するが、合金は依然として所望の強度の120ksi(827MPa)以上の強度を維持する。例えば、少なくとも1つの変形例では、合金は、0.30以上の塑性ひずみ比と、8.5%以上の破断塑性ひずみとを有し、降伏強度は約120ksi(827Mpa)から150ksi(1034Mpa)である。ある態様では、合金は、0.30以上の塑性ひずみ比と、8.5%以上の破断塑性ひずみとを有し、降伏強度は約130ksi(896Mpa)から150ksi(1034Mpa)である。さらに別の態様では、合金は、0.30以上の塑性ひずみ率と8.5%以上の破断塑性ひずみを有し、降伏強度は約140ksi(965Mpa)から150ksi(1034Mpa)である。別の形態では、合金は、0.35以上のHE塑性ひずみ比と9.0%以上の破断塑性ひずみを有する。さらに別の態様では、塑性ひずみ比は0.45以上であり、破断塑性ひずみは10.0%以上である。
【0034】
表8のC-新合金945Xに対応する本開示のさらに別の態様では、Ni基析出硬化型合金は、重量%で、約18.0%から約23.0%のCr、約15.0%から約21.0%のFe、約3.0%から約4.5%のMo、約3.2%から約5.2%のNb、約0.5%から約1.3%のTi、約0.4%までのAl、約0.5%から約3.0%のCu、および残部のNiと不可避不純物を含む組成を有し、0.3以上の塑性ひずみ比、または8.0%以上の破断塑性ひずみを有する。ある態様では、合金は約0.8%から約1.1%のTi含有量を有し、別の態様では、合金は約0.8%から約1.0%のTi含有量を有する。少なくとも1つの変形例では、合金は、約0.8%から約1.1%のTi含有量と約19.0%から約22.0%のFe含有量を有する。さらに別の態様では、合金は、約0.8%から約1.0%のTi含有量と約20.0%から約22.0%のFe含有量を有する。また、B、C、Co、Mn、P、Si、およびSなどの追加の合金元素は、本開示の範囲内にとどまりながら、Ni基析出硬化型合金を製造するためのUNS N09946仕様および/または通常の溶解方法に対応する量で存在し得る。
【0035】
合金は、所望の塑性ひずみ比、すなわち0.3以上の塑性ひずみ比を有するが、合金は依然として所望の強度、すなわち140ksi(965MPa)以上の強度を維持する。例えば、少なくとも1つの変形例では、合金は、0.30以上の塑性ひずみ比と、8.0%以上の破断塑性ひずみを有し、降伏強度は約140ksi(965MPa)から170ksi(1172MPa)である。ある態様では、合金は、0.30以上の塑性ひずみと8.0%以上の破断塑性ひずみを有し、降伏強度は約145ksiから170ksi(1172MPa)である。さらに別の態様では、合金は、0.30以上の塑性ひずみと8.0%以上の破断塑性ひずみを有し、降伏強度は約150ksi(1034MPa)から170ksi(1172MPa)である。さらに別の態様では、合金は、0.35以上の塑性ひずみ比と9.0%以上の破断塑性ひずみを有する。別の形態では、塑性ひずみ比は0.45以上であり、破断塑性ひずみは10.0%以上である。
【0036】
本開示に従って本明細書で説明した組成物から理解されるように、本明細書で説明した新しい合金の耐HE特性の測定値(すなわち、破断塑性ひずみまたは塑性ひずみ比)および強度(すなわち、降伏強度)は、Tiの臨界範囲が所望される。すなわち、所望の耐HE特性がもたらされるか、またはそれを超える一方で、所望のレベルの降伏強度がもたらされるか、またはそれを超えるような、合金中でのTiの臨界範囲が見出されている。特に、上記表8に示す最小値未満のTiレベルでは、合金は望ましくない(例えば、低い)降伏強度を有し、表8に示す最大値より大きいTiレベルでは、合金は望ましくない(例えば、低い)耐HE特性を有する。本開示のいくつかの変形例では、Tiの臨界範囲およびFeの臨界範囲が所望される。すなわち、合金中のTiの臨界範囲およびFeの臨界範囲は、所望の耐HE特性がもたらされるかまたはそれを上回り、所望の降伏強度のレベルがもたらされるかまたはそれを上回り、MoやCrなどの合金元素が概ね固溶体のまま、すなわち望ましくないMo-および/またはCr-リッチな析出物(例えば、シグマ相)が新しい合金中に存在しないように、見出された。本開示の少なくとも1つの変形例では、高い耐HE特性、所望の降伏強度、並びに望ましくないMo-および/またはCr-リッチ析出物が低減または全くない所望の微細構造の組み合わせを提供するTiとFeとの間の相乗効果がある。
【0037】
また、表8に示す合金の組成は、上記の最小合金元素組成値と最大合金元素組成値の間のすべての増分値を含むことを理解すべきである。すなわち、表8に示すいずれの合金の最小合金元素組成値も、表に示す最小値から最大値までの範囲とすることができる。同様に、表8に示すいずれの合金の合金元素組成の最大値も、表に示す最大値から最小値までの範囲とすることができる。例えば、A-新合金725のTi含有量の最小値は、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、または1.3、およびこれらの増分値の間のいずれの値とすることもでき、A-新合金725の最大Ti含有量は、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、または0.3、およびこれらの増分値の間のいずれの値とすることもできる。
【0038】
同様に、表8に示す合金の降伏強度は、上記の最小降伏強度値と最大降伏強度値の間のすべての増分値を含む。すなわち、表8に示すいずれの合金の最小降伏強度値も、表に示す最小降伏強度値から最大降伏強度値までの範囲とすることができる。同様に、表8に示すいずれの合金の最大降伏強度値も、表に示す最大降伏強度値から最小降伏強度値までの範囲とすることができる。
【0039】
同様に、表8に示す合金の塑性ひずみ比は、上記の最小塑性ひずみ比値と最大塑性ひずみ比値の間のすべての増分値を含む。すなわち、表8に示すいずれの合金の最小塑性ひずみ比値も、表に示す最小塑性ひずみ比値から最大塑性ひずみ比値までの範囲とすることができる。
【0040】
同様に、表8に示す合金のHE塑性ひずみには、上記の最小破断塑性ひずみ値と最大破断塑性ひずみ値の間のすべての増分値が含まれる。すなわち、表8に示すいずれの合金の最小塑性ひずみ値も、表に示す最小塑性ひずみ値から最大塑性ひずみ値までの範囲とすることができる。
【0041】
本明細書において別段の記載がない限り、機械的/熱的特性、組成割合、寸法および/または公差、またはその他の特性を示す数値はすべて、本開示の範囲を説明する際に「約」または「およそ」という語によって修飾されていると理解されるものとする。このような修飾は、工業的慣行、材料、製造、組立の公差、および試験能力を含む様々な理由から望まれる。
【0042】
本明細書において、A、B、Cのうちの少なくとも1つという表現は、非排他的論理和を用いた論理的(A OR B OR C)を意味するものと解釈されるべきであり、「Aの少なくとも1つ、Bの少なくとも1つ、およびCの少なくとも1つ」を意味するものと解釈されるべきではない。
【0043】
本開示の説明は、本質的に単なる例示であり、したがって、本開示の本質を逸脱しない変形は、本開示の範囲内にあることが意図されている。このような変形は、本開示の精神および範囲から逸脱するものとはみなされない。
【国際調査報告】