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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ロジウムを分離するための方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20241212BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/44 101Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526676
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2022079164
(87)【国際公開番号】W WO2023099076
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】21211870.7
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】324010105
【氏名又は名称】ヘレウス プレシャス メタルズ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ステムラー,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】サウアー,アンドレ
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA19
4K001DB22
(57)【要約】
【解決手段】 少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体並びに少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体及び/又は少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体を含有する塩酸水溶液からロジウムを分離するための方法であって、ロジウムを、脂肪族ポリアミンを使用して、酸化還元電位≧950~1050mVの塩酸水溶液から、難溶性ロジウムクロロ錯塩として沈殿させる一方で、従来行われているイリジウム及び/又はルテニウムとの同時分離を明示的に省略することを特徴とする、方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体並びに少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体及び/又は少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体を含有する塩酸水溶液からロジウムを分離するための方法であって、前記ロジウムを、脂肪族ポリアミンを使用して、酸化還元電位≧950~1050mVの前記塩酸水溶液から、難溶性ロジウムクロロ錯塩として沈殿させる一方で、従来行われている前記イリジウム及び/又は前記ルテニウムとの同時分離を明示的に省略することを特徴とする、方法。
【請求項2】
ステップ(1)~(4):
(1)少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体、又は
少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体、又は
少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体、少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体、及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体
を含有する塩酸水溶液を用意するステップと、
(2)前記塩酸水溶液の酸化還元電位を、確実に≧950~1050mVの範囲にするステップと、
(3)脂肪族ポリアミンを、前記少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体を難溶性ロジウムクロロ錯塩として完全に沈殿させるのに少なくとも十分な量又は更には過剰な量で添加するステップと、
(4)前記沈殿した難溶性ロジウムクロロ錯塩を、前記塩酸水溶液から分離するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(4)に続くステップ(5)~(7):
(5)還元剤を添加することによって、前記塩酸水溶液の酸化還元電位を400~550mVの範囲に設定するステップと、
(6)更に必要であれば、脂肪族ポリアミンを、前記少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体を難溶性イリジウムクロロ錯塩として及び/又は前記少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体を難溶性ルテニウムクロロ錯塩として完全に沈殿させるのに少なくとも十分な量又は更には過剰な量で添加するステップと、
(7)前記沈殿した難溶性イリジウムクロロ錯塩及び/又は前記沈殿した難溶性ルテニウムクロロ錯塩を、前記塩酸水溶液から分離するステップと
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩酸水溶液中の前記少なくとも1種の溶解したロジウムのクロロ錯体の割合が、0.5~15g/lのロジウムに相当する範囲である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記塩酸水溶液中の前記少なくとも1種の溶解したイリジウムのクロロ錯体の割合が、0.5~15g/lのイリジウムに相当する範囲である、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩酸水溶液中の前記少なくとも1種の溶解したルテニウムのクロロ錯体の割合が、0.5~15g/lのルテニウムに相当する範囲である、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(2)における前記酸化還元電位を、酸化剤を添加することによって設定する、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(3)において、前記脂肪族ポリアミンを、塩酸で中和された水溶液として添加する、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記脂肪族ポリアミンが、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレントリアミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミン(TAEA)、ジプロピレントリアミン、1-(2-アミノエチル)ピペラジンからなる群から選択可能な1種の脂肪族ポリアミン、2種の脂肪族ポリアミン、又は2種以上の脂肪族ポリアミンの組合せである、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(塩酸)貴金属クロロ錯体を含有する水溶液からロジウムを難溶性ロジウムクロロ錯塩として分離するための効率的な方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本明細書で使用される「貴金属クロロ錯体」という用語は、貴金属ロジウム、イリジウム、ルテニウム、金、白金又はパラジウムのクロロ錯体を指す。
【0003】
貴金属クロロ錯体を含有する塩酸水溶液から難溶性貴金属クロロ錯塩を沈殿させることは、湿式化学貴金属リサイクル又は湿式化学貴金属精錬における従来技術である。塩酸に加えて、そのような塩酸水溶液は、他の酸、特に硝酸などの無機酸を含有することもできる。このような塩酸水溶液のpHは、通常2未満の範囲である。
【0004】
本明細書で使用される「難溶性貴金属クロロ錯塩」という用語は、それの、2未満のpH範囲の塩酸又は塩酸水性媒体中での低い溶解度を指す。難溶性貴金属クロロ錯塩中に存在する貴金属の溶解度として定量及び表される場合、これは、当該貴金属の1リットル当たり100mg未満の溶解度を意味する。
【0005】
塩酸水溶液に溶解した貴金属の濃度は、ICP-OES(inductively coupled plasma optical emission spectrometry)(誘導結合プラズマ発光分光分析)によって決定することができる。
【0006】
上記塩酸水溶液に含有される貴金属クロロ錯体、すなわちそれに溶解した貴金属クロロ錯体の例としては、特にクロロ貴金属酸、ロジウムの場合、ヘキサクロロロジウム(III)酸HRhCl、イリジウムの場合、溶液の酸化還元電位に応じて、ヘキサクロロイリジウム(III)酸HIrCl及び/又はヘキサクロロイリジウム(IV)酸HIrCl、ルテニウムの場合、ヘキサクロロルテニウム(IV)酸HRuCl、金の場合、テトラクロロ金(III)酸HAuCl、白金の場合、ヘキサクロロ白金(IV)酸HPtCl、並びにパラジウムの場合、溶液の酸化還元電位に応じて、テトラクロロパラジウム(II)酸HPdCl及び/又はヘキサクロロパラジウム(IV)酸HPdCl、が挙げられる。
【0007】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「酸化還元電位」という用語は、Ag/AgCl電極に対して測定された、20℃の水溶液の酸化還元電位を意味する。
【0008】
上記湿式化学貴金属リサイクル又は上記湿式化学貴金属精錬の場合、脂肪族ポリアミンを用いた難溶性クロロ錯塩の形態での共沈による、比較的低い酸化還元電位、例えば400~550mVの範囲で行われる、ロジウム、イリジウム及びルテニウムの同時分離(joint separation)は、当技術分野では通例である。上記難溶性クロロ錯塩は、特に、対応するポリアミンヘキサクロロロジウム(III)酸塩、ポリアミンヘキサクロロイリジウム(III)酸塩、ポリアミンヘキサクロロルテニウム(III)酸塩又はポリアミンヘキサクロロルテニウム(IV)酸塩であり;当業者自身にとって、それぞれの脂肪族ポリアミン成分の窒素原子がそのようなクロロ錯塩においてプロトン化されていることに留意する必要はない。存在し得る任意の金は、例えば、既に前もって、すなわち、ロジウム/イリジウム/ルテニウム共沈の前に、還元的に分離することができ、場合により存在する白金及びパラジウムは、例えば、ロジウム/イリジウム/ルテニウム共沈の前又は後に、塩化アンモニウム又は塩化カリウムを用いた難溶性クロロ錯塩の形態での沈殿により分離することができる。脂肪族ポリアミンを用いて共沈させたロジウム、イリジウム、及びルテニウムの難溶性クロロ錯塩は、次に、更なる処理のためにまず王水中で蒸発させることがある。この場合、有機成分は、酸化によって分解され、最終的に、溶解したロジウム、イリジウム及びルテニウムのクロロ錯体を、特に前述のクロロ貴金属酸の形態で含む塩酸水溶液を形成する。更に精錬する典型的な方法は、ロジウムを、比較的高い酸化還元電位で、脂肪族ポリアミンを用いて沈殿により難溶性クロロ錯塩として分離し、続いてロジウムを更に精錬して、金属ロジウム又は精製ロジウム化合物、例えばヘキサクロロロジウム(III)酸HRHClなどを得ることである。次に、イリジウム及びルテニウムは、比較的低い酸化還元電位で、溶解したイリジウムクロロ錯体及びルテニウムクロロ錯体を含有する塩酸水相から、脂肪族ポリアミンを用いて沈殿により難溶性クロロ錯塩として分離することができ、次に、更なるイリジウム又はルテニウム精錬に供給することができる。
【0009】
米国特許第5,478,376号には、少なくとも1種のルテニウムクロロ錯体、塩酸並びにロジウム及び/又はイリジウムクロロ錯体を含有する出発溶液からロジウム及び/又はイリジウムを分離する方法であって、ルテニウムクロロ錯体を、二価状態のニトロシル錯体に変換することと、酸化状態を操作することによってロジウム及び/又はイリジウムを沈殿させることとを含む、方法が開示されている。
【0010】
本発明の目的は、ロジウム並びにイリジウム及び/又はルテニウムのクロロ錯体(ロジウム及びイリジウム、又はロジウム及びルテニウム、又はロジウム及びイリジウム及びルテニウムのクロロ錯体)を含有する塩酸水溶液からロジウムを特に効率的に分離することを可能にすることである。
【0011】
本発明は、少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体並びに少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体及び/又は少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体(すなわち、少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体、又は少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体、又は少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体、少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体、及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体)を含む塩酸水溶液からロジウムを分離するための方法であって、ロジウムを、脂肪族ポリアミンを使用して、酸化還元電位≧950~1050mVの(酸化還元電位≧950~1050mVの範囲の)塩酸水溶液から、難溶性ロジウムクロロ錯塩として沈殿させる一方で、従来行われている塩酸水溶液からのイリジウム及び/又はルテニウムとの同時分離を明示的に省略することを特徴とする、方法によって、驚くほど簡単な様式でこの目的を達成する。
【0012】
誤解を避けるために、本発明による方法は、貴金属ロジウム、イリジウム及びルテニウムのニトロシル錯体はもちろん、いかなるニトロシル錯体も識別しない。本発明による方法は、いかなるタイプのニトロシル錯体も含まない。本発明による方法中のいずれの時点においても、少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体並びに少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体及び/又は少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体を含有する上記塩酸水溶液中に、ニトロシル錯体は見出されない。本発明による方法中に使用される全ての更なる物質は、ニトロシル錯体を含まず、上記塩酸水溶液とニトロシル錯体を形成することができる物質も含まない。換言すれば、本発明による方法では、ニトロシル錯体はいかなる時点においても形成又は使用されないだけでなく、その必要性もない。
【0013】
本発明による方法は、特に、以下のステップ(1)~(4):
(1)
少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体、又は
少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体、又は
少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体、少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体、及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体
を含有する塩酸水溶液を用意するステップと、
(2)塩酸水溶液の酸化還元電位を、確実に≧950~1050mVの範囲にするステップと、
(3)脂肪族ポリアミンを、少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体を難溶性ロジウムクロロ錯塩として完全に沈殿させるのに少なくとも十分な量又は更には過剰な量で添加するステップと、
(4)沈殿した難溶性ロジウムクロロ錯塩を、塩酸水溶液から分離するステップと
を含む。
【0014】
本発明による方法は、好ましくは、ステップ(4)に続く更なるステップ(5)~(7):
(5)還元剤を添加することによって、塩酸水溶液の酸化還元電位を400~550mVの範囲に設定するステップと、
(6)更に必要であれば、脂肪族ポリアミンを、少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体を難溶性イリジウムクロロ錯塩として及び/又は少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体を難溶性ルテニウムクロロ錯塩として完全に沈殿させるのに少なくとも十分な量又は更には過剰な量で添加するステップと、
(7)沈殿した難溶性イリジウムクロロ錯塩及び/又は沈殿した難溶性ルテニウムクロロ錯塩を、塩酸水溶液から分離するステップと
を含む。
【0015】
本発明による方法のステップ(1)において、少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体、又は少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体、又は少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体、少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体を含有する塩酸水溶液が用意される。この塩酸水溶液中の上記少なくとも1種の溶解したロジウムのクロロ錯体の割合は、例えば0.5~15g/lのロジウムに相当する範囲であってもよく、好ましくはヘキサクロロロジウム酸である。この塩酸水溶液中の上記少なくとも1種の溶解したイリジウムのクロロ錯体の割合は、例えば、0.5~15g/lのイリジウムに相当する範囲であってもよく、好ましくはヘキサクロロイリジウム酸である。この塩酸水溶液中の上記少なくとも1種の溶解したルテニウムのクロロ錯体の割合は、例えば0.5~15g/lのルテニウムに相当する範囲であってよく、好ましくはヘキサクロロルテニウム酸である。塩酸水溶液の可能な更なる構成成分及びpHに関しては、既に上で述べたものを参照する。
【0016】
本発明による方法が、ロジウムを、イリジウムと一緒に、又はルテニウムと一緒に、又はイリジウム及びルテニウムと一緒に同時分離することを明示的に省略することが、本発明にとって重要である。
【0017】
この目的のために、本発明による方法のステップ(2)において、≧950~1050mVの範囲、例えば、≧950~1000mVの範囲の塩酸水溶液の酸化還元電位が存在することを最初に確実にする。これが当てはまらない場合、そのような酸化還元電位を、酸化剤を添加することによって設定する。酸化還元電位の上記設定は、当技術分野で通例である電位差制御下で塩酸水溶液を1種以上の酸化剤と混合することによって行うことができる。酸化剤は、そのまま、又は水溶液として塩酸水溶液に添加することができる。特に好適な酸化剤の例としては、塩素、ブロメート、クロレート、及びパークロレートが挙げられる。水溶液としての酸化剤を使用する場合、当業者は、不必要に低い濃度を有さないものを使用するよう便宜的に努めるであろう。
【0018】
ステップ(2)の間、例えば撹拌によって、確実によく混合することが好都合であり得る。ステップ(2)は、好都合には、例えば55~90℃の温度範囲で実行することができる。
【0019】
ステップ(2)に従って、塩酸水溶液の比較的高い酸化還元電位が存在するか、又は酸化剤の添加によって設定されている場合には、ステップ(3)において、脂肪族ポリアミンを、少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体を難溶性ロジウムクロロ錯塩として完全に沈殿させるのに十分な量又は更には過剰な量で塩酸水溶液に添加する。少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体を難溶性ロジウムクロロ錯塩として完全に沈殿させるのに少なくとも十分な脂肪族ポリアミンの量は、更に添加してもそれ以上の沈殿を引き起こさない量であり;この点において、当業者は、「完全に沈殿させる」という用語が、溶解度積を超える材料を沈殿させることであることを理解する。脂肪族ポリアミンは、そのまま、又は水溶液として、好ましくは酸、特に塩酸で中和された水溶液として添加することができる。脂肪族ポリアミンは、1種の脂肪族ポリアミンであっても2種以上の脂肪族ポリアミンの組合せであってもよいが、単一の脂肪族ポリアミンの使用が好ましい。酸で中和されたそのような水溶液中の脂肪族ポリアミンの割合は、例えば、15~25重量%の範囲であり得る。1種の脂肪族ポリアミン又は2種以上の脂肪族ポリアミンの組合せが選択され得る、このような沈殿剤として好適な脂肪族ポリアミンの例には、ジエチレントリアミン(diethylene triamine、DETA)、トリエチレントリアミン(triethylene triamine、TETA)、テトラエチレンペンタミン(tetraethylene pentamine、TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミン(tris(2-aminoethyl)amine、TAEA)、ジプロピレントリアミン、1-(2-アミノエチル)ピペラジンが含まれる。DETAが特に好適であり、したがってその使用が好ましい。
【0020】
換言すれば、ロジウムは、脂肪族ポリアミンを使用して、酸化還元電位≧950~1050mV、例えば≧950~1000mVの範囲で、難溶性ロジウムクロロ錯塩として直接かつ少なくとも大部分が選択的に沈殿し、そのため、最初にイリジウム及び/又はルテニウムから分離される。
【0021】
ステップ(3)の過程で沈殿した材料は、脂肪族ポリアミン、例えばDETAと、ロジウムのクロロ錯体、例えばトリヒドロヘキサクロロロジウム酸との難溶性塩、すなわち、例えば、式H(DETA)RhCl又は(HNCNHNH)(RhCl)のジエチレントリアンモニウムヘキサクロロロジウム塩である。
【0022】
ステップ(3)の間、例えば撹拌によって、確実によく混合することが好都合であり得る。ステップ(3)は、好都合には、例えば55~90℃の温度範囲で実行することができる。
【0023】
ステップ(3)の終了時、又はステップ(3)とステップ(4)との間で、形成された混合物を、例えば1~3時間放置することによって静置することが好都合であり得る。したがって、沈殿した材料の沈降及び塩酸水溶液の形態の上清の形成を効果的に支援することができる。
【0024】
その沈殿に続いて、難溶性ロジウムクロロ錯塩を、本発明による方法のステップ(4)において、典型的な固液分離によって上清塩酸水溶液から分離することができる。好適な固液分離法の例には、当業者に公知の方法、例えば、デカンテーション、圧搾、濾過、吸引濾過、遠心分離又はこれらの組合せが含まれる。
【0025】
ステップ(1)で用意された塩酸水溶液のロジウム含有量に基づいて、80~99%程度のロジウム分離を実現できることが見出された。これは、イリジウム又はルテニウムの共沈が起こらないか、又はステップ(1)で用意された元の塩酸水溶液のイリジウム若しくはルテニウム含有量に基づいて、例えば>0~15%程度でしか起こらないという意味で、少なくとも大部分が選択的に達成される。
【0026】
分離された難溶性ロジウムクロロ錯塩は、典型的なロジウム精錬プロセスに供給することができる。
【0027】
分離された塩酸水溶液は、溶解した非沈殿クロロ錯体の形態のイリジウム及び/又はルテニウムを更に含む。
【0028】
本発明による方法のステップ(1)~(4)は、連続ステップである。既に述べたように、本発明による方法は、好ましくは更なるステップ(5)~(7)を含み、そのうちステップ(5)及び(6)は、ステップ順序(5)-(6)又は(6)-(5)で行うことができるが、ステップ順序(5)-(6)が好ましい。
【0029】
ステップ(5)において、塩酸水溶液の比較的低い酸化還元電位は、還元剤を添加することによって、400~550mV、好ましくは440~470mVの範囲に設定される。酸化還元電位の設定は、電位差制御下で塩酸水溶液を還元剤と混合することによって好都合に行うことができる。還元剤は、そのまま、又は水溶液として塩酸水溶液に添加することができる。還元剤は、1種の還元剤であっても2種以上の還元剤の組合せであってもよい。好適な還元剤の例としては、塩化スズ(II)及び硫酸スズ(II)などのスズ(II)塩が挙げられるが、特に塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)及び硝酸鉄(II)などの鉄(II)塩が挙げられる。水溶液としての還元剤を使用する場合、当業者は、不必要に低い濃度を有さないものを使用するよう便宜的に努めるであろう。
【0030】
ステップ(5)の間、例えば撹拌によって、確実によく混合することが好都合であり得る。ステップ(5)は、好都合には、例えば50~70℃の温度範囲で実行することができる。
【0031】
更に必要であれば、この点において場合により任意であるステップ(6)において、更なる脂肪族ポリアミン、すなわち、少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体を難溶性イリジウムクロロ錯塩として及び/又は少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体を難溶性ルテニウムクロロ錯塩として完全に沈殿させるのに少なくとも十分な量又は更には過剰な量の脂肪族ポリアミンを、ステップ(5)において低い酸化還元電位が設定される前又は好ましくは後に、塩酸水溶液に添加することができる。少なくとも1種のイリジウム又はルテニウムのクロロ錯体を難溶性クロロ錯塩として完全に沈殿させるのに少なくとも十分な脂肪族ポリアミンの量は、更に添加してもそれ以上の沈殿を引き起こさない量であり;この点において、当業者は、「完全に沈殿させる」という用語が、溶解度積を超える材料を沈殿させることであることを理解する。脂肪族ポリアミンを添加する必要性、したがってステップ(6)を実現する必要性は、完全に沈殿させるのに必要な脂肪族ポリアミンが不足しているかどうか、より正確には、ステップ(2)における添加に由来する脂肪族ポリアミンが塩酸水溶液中に含有されているかどうか、及びどの程度含有されているかに依存する。これが当てはまらない場合、又は十分な量若しくは更には過剰な量ではない場合、ステップ(6)が行われる。この場合、脂肪族ポリアミンは、そのまま、又は水溶液として添加することができるが、好ましくは酸の形態で、特に塩酸で中和された水溶液の形態で添加することができる。酸で中和されたそのような水溶液中の脂肪族ポリアミンの割合は、例えば、15~25重量%の範囲であり得る。このような沈殿剤として好適な脂肪族ポリアミンの例としては、既に上で述べた脂肪族ポリアミンが挙げられる。
【0032】
ステップ(6)が不要であるために省略できる場合、すなわちステップ(2)の過程で添加された十分な量の脂肪族ポリアミンがステップ(5)の過程の塩酸水溶液中に含有されている場合には、イリジウム及び/又はルテニウムの沈殿は、いわば「自動的に」起こる。
【0033】
この点において、ステップ(5)又はステップ(6)の途中又は完了後に沈殿した材料は、脂肪族ポリアミンとイリジウムのクロロ錯体及び/又はルテニウムのクロロ錯体とからなる難溶性塩である。
【0034】
ステップ(6)の間、例えば撹拌によって、確実によく混合することが好都合であり得る。ステップ(6)は、好都合には、例えば55~90℃の温度範囲で実行することができる。ステップ(6)の終了時、又はステップ(6)とステップ(7)との間で、形成された混合物を、例えば1~6時間放置することによって静置することが好都合であり得る。したがって、沈殿した材料の沈降及び塩酸水溶液の形態の上清の形成を効果的に支援することができる。
【0035】
その沈殿に続いて、沈殿した難溶性イリジウムクロロ錯塩及び/又は沈殿した難溶性ルテニウムクロロ錯塩は、ステップ(7)において、典型的な固液分離によって塩酸水溶液から分離することができる。好適な固液分離法の例としては、当業者に公知の方法、例えば、デカンテーション、圧搾、濾過、吸引濾過、遠心分離又はこれらの組合せが挙げられる。
【0036】
分離された難溶性イリジウムクロロ錯塩及び/又は難溶性ルテニウムクロロ錯塩は、典型的なイリジウム又はルテニウム精錬プロセスに供給することができる。
【0037】
冒頭で述べた従来技術による方法と比較した本発明による方法の利点は、化学物質の消費量が少なく、効率が高いことである。従来技術とは異なり、分離されたロジウム並びにイリジウム及び/又はルテニウムは、実質的に時間遅延なく並行して処理することができる。
【0038】
例示的な実施形態1~3、一般的手順:
塩素酸ナトリウム溶液(酸含有量3mol/リットル、溶解貴金属:白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム)の添加によって酸化還元電位を950mVに設定した貴金属塩酸水溶液200mLを、ロジウム含有量に対して計算して1.5倍の化学量論的過剰量のDETAと共に、撹拌しながら75℃でビーカーに滴加した。この目的には、塩酸で中和したDETA含有量19重量%のDETA水溶液を使用した。次に、混合物を更に5分間撹拌し、時計皿で覆ったビーカーを放冷した。DETAヘキサクロロロジウム酸塩から実質的になる沈殿を吸引濾過し、少量の蒸留水で洗浄した。一方で濾液容量を、他方で濾液のそれぞれの貴金属含有量を決定し、ICP-OESによって元の貴金属溶液の200mLの容量及び貴金属含有量と関連付けた。以下の表は、元の貴金属溶液の貴金属含有量及び沈殿した貴金属のそれぞれの収率を示す。
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2024-05-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体並びに少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体及び/又は少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体を含有する塩酸水溶液からロジウムを分離するための方法であって、前記ロジウムを、脂肪族ポリアミンを使用して、酸化還元電位≧950~1050mVの前記塩酸水溶液から、難溶性ロジウムクロロ錯塩として沈殿させる一方で、従来行われている前記イリジウム及び/又は前記ルテニウムとの同時分離を明示的に省略することを特徴とする、方法。
【請求項2】
ステップ(1)~(4):
(1)少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体、又は
少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体、又は
少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体、少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体、及び少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体
を含有する塩酸水溶液を用意するステップと、
(2)前記塩酸水溶液の酸化還元電位を、確実に≧950~1050mVの範囲にするステップと、
(3)脂肪族ポリアミンを、前記少なくとも1種のロジウムのクロロ錯体を難溶性ロジウムクロロ錯塩として完全に沈殿させるのに少なくとも十分な量又は更には過剰な量で添加するステップと、
(4)前記沈殿した難溶性ロジウムクロロ錯塩を、前記塩酸水溶液から分離するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(4)に続くステップ(5)~(7):
(5)還元剤を添加することによって、前記塩酸水溶液の酸化還元電位を400~550mVの範囲に設定するステップと、
(6)更に必要であれば、脂肪族ポリアミンを、前記少なくとも1種のイリジウムのクロロ錯体を難溶性イリジウムクロロ錯塩として及び/又は前記少なくとも1種のルテニウムのクロロ錯体を難溶性ルテニウムクロロ錯塩として完全に沈殿させるのに少なくとも十分な量又は更には過剰な量で添加するステップと、
(7)前記沈殿した難溶性イリジウムクロロ錯塩及び/又は前記沈殿した難溶性ルテニウムクロロ錯塩を、前記塩酸水溶液から分離するステップと
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩酸水溶液中の前記少なくとも1種の溶解したロジウムのクロロ錯体の割合が、0.5~15g/lのロジウムに相当する範囲である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記塩酸水溶液中の前記少なくとも1種の溶解したイリジウムのクロロ錯体の割合が、0.5~15g/lのイリジウムに相当する範囲である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記塩酸水溶液中の前記少なくとも1種の溶解したルテニウムのクロロ錯体の割合が、0.5~15g/lのルテニウムに相当する範囲である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(2)における前記酸化還元電位を、酸化剤を添加することによって設定する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(3)において、前記脂肪族ポリアミンを、塩酸で中和された水溶液として添加する、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記脂肪族ポリアミンが、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレントリアミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミン(TAEA)、ジプロピレントリアミン、1-(2-アミノエチル)ピペラジンからなる群から選択可能な1種の脂肪族ポリアミン、2種の脂肪族ポリアミン、又は2種以上の脂肪族ポリアミンの組合せである、請求項2又は3に記載の方法。

【国際調査報告】