(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電池電極材料用の改良された炭素質コーティング材料
(51)【国際特許分類】
C09C 1/00 20060101AFI20241212BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241212BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241212BHJP
C08L 95/00 20060101ALI20241212BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20241212BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20241212BHJP
C09D 195/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C09C1/00
H01M4/36 C
H01M4/587
C08L95/00
C08K3/01
C09C3/10
C09D195/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534700
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-07-24
(86)【国際出願番号】 EP2022085668
(87)【国際公開番号】W WO2023110903
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523373669
【氏名又は名称】レイン カーボン ビーブイ
(71)【出願人】
【識別番号】520307687
【氏名又は名称】レイン カーボン ジャーマニー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Rain Carbon Germany GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】スパール,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】クント,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】クラーズ,ジョリス
(72)【発明者】
【氏名】デヌー,ブラム
(72)【発明者】
【氏名】スティエガート,ジェンス
【テーマコード(参考)】
4J002
4J037
4J038
5H050
【Fターム(参考)】
4J002AG001
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA066
4J002DB006
4J002DC006
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002FD010
4J002FD116
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4J002GQ02
4J037AA02
4J037CC04
4J037EE03
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4J037EE28
4J037EE29
4J037FF11
4J038BA241
4J038HA036
4J038KA15
4J038KA20
4J038MA14
4J038MA15
4J038PB09
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CB08
(57)【要約】
本発明は、一次粒子をコーティングするためのコーティング材料であって、コーティング材料は石油由来ピッチ生成物を含み、前記ピッチ生成物は、220℃で1.2~3.0、及び、240℃で1.0~2.5の溶融粘度指数log10(visc)*100/SPM(ここで、visc=溶融粘度(mPa.s)及びSPM=Mettler軟化点℃)を有することを特徴とするコーティング材料に関する。本発明はまた、電池電極、より具体的にはリチウムイオン電池の製造において電極材料の一次粒子をコーティングするための前記コーティング材料の使用に関する。本発明はさらに、前記コーティング材料製のコーティングを含む電池電極に関し、並びに、前記コーティング材料製のコーティングを有する電極を備える電池に関する。加えて、本発明は上記の石油由来ピッチ生成物を得るための方法に関し、前記方法は、石油由来蒸留残渣を得るための石油減圧蒸留プロセスステップを含む。さらに、本発明は、ピッチ生成物を生成するための前記方法を含む、電池電極の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子をコーティングするためのコーティング材料であって、前記コーティング材料は石油由来ピッチ生成物を含み、前記ピッチ生成物は、220℃で1.2~3.0、及び、240℃で1.0~2.5の溶融粘度指数log
10(visc)
*100/SPM(ここで、visc=溶融粘度(mPa.s)及びSPM=Mettler軟化点(℃))を有することを特徴とする、コーティング材料。
【請求項2】
前記ピッチ生成物は、220℃で100~500mPa.s、及び、240℃で50~200mPa.sの溶融粘度を有し、一方で、110~130℃のSPMを有する、請求項1に記載のコーティング材料。
【請求項3】
前記ピッチ生成物は、220℃で500~5000mPa.s、及び、240℃で100~1000mPa.sの溶融粘度を有し、一方で、140~160℃のSPMを有する、請求項1に記載のコーティング材料。
【請求項4】
前記ピッチ生成物は、220℃で5000~50000mPa.s、及び、240℃で500~10000の溶融粘度を有し、一方で、170~190℃のSPMを有する、請求項1に記載のコーティング材料。
【請求項5】
前記ピッチ生成物は、少なくとも35% Alcanのコークス収率を有する、請求項1に記載のコーティング材料。
【請求項6】
前記ピッチ生成物は、1重量%未満のキノリン不溶分含有量範囲、及び/又は、40重量%未満のトルエン不溶分含有量を有する、請求項1に記載のコーティング材料。
【請求項7】
前記ピッチ生成物は、35%~70% Alcanのコークス収率、及び、1重量%未満のキノリン不溶分含有量範囲を有する、請求項1に記載のコーティング材料。
【請求項8】
前記ピッチ生成物は20%未満の樹脂含有量(SARA)を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のコーティング材料。
【請求項9】
前記ピッチ生成物は、5000ppm未満のB(a)P含有量、及び/又は、7重量%未満の16 EPA-PAH合計値を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のコーティング材料。
【請求項10】
前記ピッチ生成物は石油由来蒸留残渣から構成される、請求項1~9のいずれか一項に記載のコーティング材料。
【請求項11】
電池電極を製造するための一次粒子をコーティングするための、請求項1~10のいずれか一項に記載のコーティング材料の使用。
【請求項12】
リチウムイオン電池の負極用の電極材料粒子をコーティング及び/又は結合するための、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
溶剤系コーティングプロセスにおける請求項11又は12に記載の使用であって、前記ピッチが、1重量%未満のキノリン不溶分含有量範囲、及び、5重量%未満のトルエン不溶分含有量を有する、使用。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項において使用されているピッチ生成物製の粒子コーティングを有する電極材料を含む電池電極。
【請求項15】
請求項14に記載の電極を備える、リチウムイオン電池。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載のコーティング材料に含まれる石油由来ピッチ生成物を得るための方法であって、石油由来蒸留残渣を得るための石油減圧蒸留プロセスステップを含む、方法。
【請求項17】
前記蒸留プロセスステップは、0.1~250mbarの減圧レベル、及び、200~370℃の温度で行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の方法を含む、電池電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は一般に、一次粒子をコーティングするための石油由来ピッチ生成物を含むコーティング材料に関する。
【0002】
さらに、本発明は、黒鉛、ケイ素、酸化ケイ素又は炭素質粒子及びこれらの複合体等の電極材料の炭素表面層を有する一次粒子をコーティングするために用いられる前記コーティング材料の使用に関する。これらの炭素でコーティングされた電極材料は、電池電極、より具体的にはリチウムイオン電池の製造で使用可能である。
【0003】
加えて、本発明は、このようなコーティング材料製の粒子コーティングを有する電極材料を含む電池電極に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
リチウムイオン電池において用いられる市販の負極材料は、従来では黒鉛系のものであるが、酸化ケイ素、金属ケイ素、ケイ素合金、並びに、炭素又は黒鉛と、ケイ素、錫及びその他に基づく材料との複合体にもますます基づくこととなっている。
【0005】
これらの負極材料の多くは、前駆体としてコールタール系及び石油系ピッチを用いる炭素コーティング材料でコーティングされている。好適なコーティングを得るための多数のプロセスが公知である。典型的には、電極材料粒子表面に対するコーティングの適用は、ピッチを有機溶剤中に溶解するか、又は、粉砕した微細なピッチ粉末を水中に分散し、溶液又は懸濁液を粒子と混合し、及び、混合物を乾燥させ、その後、これを不活性ガス雰囲気下に600℃~1300℃の高温で熱処理することによる湿式プロセスで行われる。また、微細に粉砕したピッチを電極材料粒子と混合する乾式コーティングプロセスが用いられる。次いで、混合物を不活性ガス雰囲気下で加熱することでピッチを溶融して表面炭素層を形成し、これが、最終的に高温で炭化され、必要に応じて、黒鉛化される。
【0006】
当技術分野において公知である第1の問題は、従来の炭素コーティングは電極粒子表面上に常に均質に分布している訳ではなく、BET表面積、電池電解質により湿潤化される電気化学的に活性な表面積、及び、電解質に対する電極材料の反応性を低減するために必要な粒子表面を完全に覆うために、比較的多量、すなわち、比較的厚い炭素膜が必要とされることである。低表面積炭素コーティングは、電荷損失を低減して、セルの安全性、及び、充電/放電サイクルの安定性を向上することにより、炭素粒子の電気化学的パラメータを向上させる。しかしながら、粒子表面に形成された炭素は、粒子コアと比して電極材料の可逆容量に対する寄与が低く、炭素層の厚さもまたバルクへのリチウムイオンの挿入速度に影響を及ぼすため、より薄いコーティングが好ましい。
【0007】
第2の問題は、コールタール及び石油化学的供給源に由来の典型的なピッチは、小さな炭素粒子だけではなく、形成されるコーティング層の品質に悪影響を与える金属不純物をも含有することである。これらの粒子不純物は通常、ピッチ品質の指標であるキノリン不溶性物質(QI含有量)として測定される。良好な炭素膜品質を得るためには、QI含有量は低くあるべきである。加えて、鉄、銅及び亜鉛等、いくつかの種類の金属粒子不純物は、リチウムイオンセルにおける安全性の問題を引き起こす。QI及びTI値に反映される不溶性の構成成分は、コーティングされる基材との混合の前に、THF、トルエン、キシレン又はヘキサン等の有機溶剤にピッチが溶解される湿式コーティングプロセスにおいて特に不利である。コーティング材料に係るQI及びTIに対する特定の要件は、湿式コーティングプロセスに関連する。
【0008】
第3の問題は、乾式又は湿式混合プロセスにおける電極粒子におけるコールタールピッチからのコーティングと、その後の、高温、不活性ガス雰囲気下における炭素化とに基づく典型的な表面コーティングプロセスでは、疎水性粒子表面がもたらされることである。この疎水性によって、水系の電極製造プロセスにおけるバインダの使用に関連してさらなる問題がもたらされてしまう。この問題を解決するために、欧州特許出願公開第3177651(A1)号には、非黒鉛炭素のコーティング及びその後の酸化が提案されている。
【0009】
特にコールタールピッチに係る他の問題は、発ガン性で、健康及び環境に有害な、ベンゾ[a]ピレン、B[a]P等、いくつかの多環芳香族炭化水素(PAH)が含有されていることである。
【0010】
加えて、温室効果ガスの排出を低減するための高炉離れを伴う製鉄における変化によって、コールタールピッチの原料としてのコールタールの入手可能性は将来的に著しく低下することとなり、その結果、高品質のコールタールの入手可能性も低下することとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記に鑑みて、本発明は、典型的には数十ナノメートルの厚さの薄いコーティング層をもたらすために適切な特徴を有する、一次粒子をコーティングするためのコーティング材料であって、ピッチ生成物を含む材料を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本発明はまた、電池電極の製造のための一次粒子をコーティングするためのコーティング材料であって、典型的には数十ナノメートルの厚さである薄いコーティング層をもたらすために適切な特徴を有する前記コーティング材料の使用を目的とする。
【0013】
いかなる理論にも言及することなく、粒子表面の良好な濡れ特性及び含浸特性を示すコーティング材料では、薄い均質なコーティングが想定される。これは、ピッチの溶融状態での組成及び好適な粘度によって調整が可能である。
【0014】
本発明は、電池電極の製造のための一次粒子の表面に形成される炭素コーティング層の品質を高めるコーティング材料としてのピッチ生成物の使用を他の目的とする。
【0015】
他の目的は、水系電極製造プロセスに好適であるピッチ系炭素コーティングを提供することである。
【0016】
さらなる目的は、リチウムイオンセルにおける安全性の問題及び比電荷損失を低減し、並びに、充電/放電サイクルの安定性を高めることである。
【0017】
本発明はさらに、供給が確実に保証され、及び、電池電極、特にリチウムイオン電池の製造における炭化水素コーティング材料としての使用に必要な要件を満たす、コールタールピッチ系コーティングの代替物を提供することを全般的な目的とする。
【0018】
本発明は、同様のコークス値及び軟化点をもたらすと共に、電池電極、特にリチウムイオン電池の同様の処理及び性能をもたらす、代替的なピッチ系コーティングを提供することを他の全般的な目的とする。
【0019】
本発明は、より環境に優しいコールタールピッチ系コーティングの代替物を提供することをさらなる全般的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
概要
第1の態様において、本発明は、一次粒子をコーティングするためのコーティング材料であって、石油由来ピッチ生成物を含む材料を提供し、ここで、前記ピッチ生成物は、220℃で1.2~3.0、及び、240℃で1.0~2.5の溶融粘度指数log10(visc)*100/SPM(ここで、visc=溶融粘度(mPa.s)及びSPM=軟化点Mettler(℃))を有することを特徴とする。
【0021】
特に、本発明は、電極、及び、特に電池電極の製造のための一次粒子をコーティングするための前記コーティング材料の使用を提供する。
【0022】
本発明に係る第2の態様において、前記ピッチ生成物製のコーティングを含む電池電極が提供される。
【0023】
本発明に係る第3の態様において、前記ピッチ生成物製のコーティングを有する電極を備える電池が提供される。
【0024】
本発明に係る第4の態様において、第1の態様において既述である使用のための石油由来ピッチ生成物を得るためのプロセスが提供され、前記プロセスは、石油由来蒸留残渣を得るための石油減圧蒸留プロセスステップを含む。
【0025】
本発明に係る第5の態様において、ピッチ生成物を生成するための前記プロセスを含む、電池電極を製造するためのプロセスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
第1の態様において、本発明は、一次粒子をコーティングするためのコーティング材料であって、一次粒子用のコーティング材料として石油由来ピッチ生成物を含む材料を提供するものであり、前記ピッチ生成物は、220℃で1.2~3.0、及び、240℃で1.0~2.5の溶融粘度指数log10(visc)*100/SPM(ここで、visc=溶融粘度(mPa.s)及びSPM=Mettler軟化点℃)を有することを特徴とする。
【0027】
本発明に関連して、一次粒子は、炭素、黒鉛、ケイ素、金属ケイ素、ケイ素合金、酸化ケイ素、金属、炭素質粒子及び複合体、若しくは、いずれかのこれらの組み合わせの粒子、又は、電池電極材料の製造に好適ないずれかの種類の一次粒子を含む。
【0028】
より好ましくは、前記ピッチ生成物は、220℃で1.8~2.5、及び、240℃で1.5~2.1の溶融粘度指数log10(visc)*100/SPM(ここで、visc=溶融粘度(mPa.s)及びSPM=Mettler軟化点℃)を有する。
【0029】
さらにより好ましくは、前記ピッチ生成物は、220℃で2.0~2.5、及び、240℃で1.7~2.1の溶融粘度指数log10(visc)*100/SPM(ここで、visc=溶融粘度(mPa.s)及びSPM=Mettler軟化点℃)を有する。
【0030】
このようなコーティング材料を炭素前駆体生成物として使用することによって、少ない前駆体の量で、炭素の薄く均質なコーティング層が電極材料粒子の表面に形成される。炭素のこのような薄く及び均質なコーティング層の形成を可能とすることは、電池電極、特にリチウムイオン電池の負極の製造において特に重要である。
【0031】
本発明の一実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、220℃で100~500、好ましくは150~400mPa.s、及び、240℃で50~200、好ましくは75~150mPa.sの溶融粘度を有し、一方で、110~130℃のSPMを有する。
【0032】
本発明の他の実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、220℃で、500~5000、好ましくは1000~3000mPa.s、及び、240℃で、100~1000、好ましくは400~900mPa.sの溶融粘度を有し、一方で、140~160℃のSPMを有する。
【0033】
本発明のさらに他の実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、220℃で5000~50000、好ましくは10000~35000mPa.s、及び、240℃で500~10000、好ましくは2000~7000mPa.sの溶融粘度を有し、一方で、170~190℃のSPMを有する。
【0034】
調整した溶融粘度は粒子表面の濡れ性及び含浸性を高め、これにより、炭素の薄膜を粒子表面に均質に分布させることが可能である。高い表面濡れ性及び含浸性により、幾何学的な粒子表面だけではなく、粒子表面に通常見られるミクロ-及びメソ細孔、並びに、凹凸も良好に被覆される。
【0035】
本明細書全体に記載されている使用は、電池製造産業に係る要件を満たすと共に十分な入手可能性という利点を有する、電池電極用のコールタールピッチ系コーティングの使用の代替として提供されている。
【0036】
本発明の一実施形態において、コーティング材料に含まれる石油由来ピッチ生成物は、SARA法(ASTM D2007に準拠したクレイ-ゲル吸収クロマトグラフィ法)による測定で少なくとも70%又は少なくとも75%又は少なくとも80%のアスファルテンの濃度を含み得、結果として、それぞれコークス値が増加する。このピッチ生成物により、電極材料表面の緻密(孔隙率)で均質な炭素コーティングが確保されて、電解質に対する表面反応性及び電池電解質と直接接触する電極材料の表面積が低減され、さらに、電池セル電極における電極材料の良好な電気伝導性及び粒子接触が得られる。
【0037】
本発明に係る一実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、高いコークス収率に寄与し得る20%未満の樹脂含有量(SARA)を有し得る。
【0038】
本発明に係る他の実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、5000ppm未満、若しくは、さらには3000ppm未満、若しくは、さらには2000ppm未満のB(a)P含有量、及び/又は、7重量%未満、若しくは、さらには5重量%未満の16 EPA-PAH合計値(米国環境保護庁(EPA)による多環芳香族炭化水素)を有し得る。十分に低いB(a)P含有量、及び/又は、16 EPA-PAH合計値により、純粋なコールタール由来のピッチ生成物と比して環境に対する優しさが明らかに向上することとなる。
【0039】
さらなる実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、110~185℃のMettler軟化点で、少なくとも35%Alcan、又は、少なくとも45%Alcan、又は、少なくとも50%Alcan、又は、少なくとも55%Alcanのコークス収率を有し得る。炭素化プロセス中にコーティング材料が炭素に転換されるため、十分に高いコークス収率により、炭素化プロセスの最中に形成される揮発物が少ないために、得られる黒鉛粒子における高い孔隙率を避けることが可能となる。空気中における、400~1000℃の温度での流動床又は回転炉中における後処理を用いて、炭素表面の親水性を高め、これにより、水系電極製造プロセスにおいて炭素コーティングされた電極材料の処理を改善し得る。緻密な炭素層は、電極粒子表面における効率的な固体電解質界面相の形成に有利な形態学を伴って形成され得る。加えて、粒子表面で形成される炭素膜の性質及び品質は、電池セルの電解質と直接接触する電気化学的に活性な電極表面積に加えて、電荷損失にも影響を及ぼす。
【0040】
さらなる実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、少なくとも200℃、好ましくは少なくとも220℃の引火点を有し得、これにより、高温混合プロセスにおいて要求され得る安全性要件に従ってピッチ生成物を処理することが可能となる。
【0041】
本発明の一実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、電池電極の製造における目標範囲である、110~190℃のMettler軟化点を有し得る。
【0042】
本発明によれば、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、1重量%未満のキノリン不溶分含有量範囲、及び/又は、40重量%未満又は20重量%未満のトルエン不溶分含有量を有し得る。好ましくは、ピッチ生成物は、1重量%未満のキノリン不溶分含有量範囲、及び、5重量%未満のトルエン不溶分含有量を有し得、これにより、トルエン不溶分含有量が低いことで溶解性が向上するために、溶剤系コーティングプロセスにおける一次粒子用のコーティング材料としての適用性が高まり得る。
【0043】
本発明に係る好ましい実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、220℃で500~50000mPa.sの溶融粘度、35%~70%Alcanのコークス収率、及び、1%重量未満のキノリン不溶分含有量範囲を有し得る。
【0044】
本発明によれば、コーティング材料は、ピッチ生成物に加えて、他の石油由来又はコールタール由来成分を含んでいてもよい。
【0045】
特定の実施形態において、コーティング材料は、ピッチ生成物のみから構成されていてもよい。
【0046】
特定の実施形態において、本発明のコーティング材料は石油由来成分のみから構成されており、すなわち、いずれのコールタール由来成分も含んでいない。
【0047】
特定の実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、石油由来成分のみから構成されている。
【0048】
特定の実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、石油由来蒸留残渣から構成されている。
【0049】
他の特定の実施形態において、コーティング材料に含まれるピッチ生成物は、いずれのコールタール由来成分も含まない。
【0050】
本発明に係る第2の態様において、前記ピッチ生成物製のコーティングを含む電池電極が提供される。このようなコーティングでは、電極において電極材料として用いられる6m2/gのBET SSA及び15ミクロンの平均粒径を有する球状天然黒鉛に対して、5重量%のピッチ量でBET表面積を少なくとも40%低減させ得る。コーティングされた天然黒鉛(BET 3m2/g)のクーロン効率は90%を超えて増加し得る。
【0051】
本発明に係る第3の態様において、本発明によれば、前記コーティング材料製のコーティングを有する電極を備える電池が提供される。特に、リチウムイオンセル性能は、特に、低い比電荷損失及び高いクーロン効率、良好なエネルギー及び電力密度及び比エネルギー及び粉末、並びに、セルのサイクル安定性等好影響を受ける可能性がある。
【0052】
本発明に係る第4の態様において、本発明のコーティング材料に含まれる石油由来ピッチを得るためのプロセスであって、前記プロセスは、石油由来蒸留残渣を得るための石油減圧蒸留プロセスステップを含む。
【0053】
本発明に係るプロセスの利点は、SARAにより測定されるアスファルテンの量を、公知のコールタール系電池電極コーティング前駆体と比して同様のレベルに維持させ得ることである。加えて、他のピッチ特性は、公知のコールタールコーティング前駆体と比して低下し得ない。
【0054】
追加の利点は、このようなプロセスは、ピッチ生成物のコークス値を、例えば110~190℃のMettler軟化点といった目標軟化点で、例えば少なくとも40% ALCANといった高いレベルで維持可能とし得ることである。
【0055】
本発明に係るプロセスによるピッチ生成物の生成とは対照的に、従来のコールタールピッチコーティング前駆体は、常圧及びより高い温度での蒸留によって、場合により、その後に送風が行われることで生成される。常圧での蒸留によりもたらされる、これらの生成物の欠点は、クラック及び中間相形成の原因となる、高いプロセス温度による高い中間相及びトルエン不溶分含有量である。他の欠点は、低いコークス収率、高い揮発物含有量、並びに、含浸及び結合特性を低下させると共にピッチの処理性を悪化させる高い粘度、並びに、電極製造プロセスにおいて安全性の問題を引き起こす低い引火点である。
【0056】
常圧での蒸留に係るさらなる欠点は、石油タールの蒸留は反応性であるため、大気圧での蒸留に必要な温度によって加熱チャンバ及びカラム内において固体炭素成分への転換が既に開始されてしまい、ピッチ生成中における過剰なファウリング速度につながる可能性があり、結果として、プラントの信頼性の問題がもたらされてしまうことである。
【0057】
本発明の一実施形態において、蒸留プロセスステップは、0.1~400mbar、好ましくは0.1~250mbarの減圧レベル、及び、200~400℃、好ましくは280~370℃の温度で行われる。
【0058】
本発明に係るプロセスにより、ピッチ中の低い二次キノリン不溶分量に係る潜在的な中間相の形成の厳密な制御及び防止が可能となり、粒子表面に薄く均質なコーティングがもたらされる。
【0059】
加えて、本発明に係るプロセスでは、従来の常圧蒸留と比してより低い温度でピッチ生成物の必要な軟化点及び粘度が達成されることで高レベルの信頼性が得られ、従って、より良好なプラント信頼性がもたらされる。減圧蒸留プロセスで用いられる蒸留温度が低いことで、プラントのファウリング及び定期的な操業停止につながる中間相及びコークス形成等の分解反応が回避される。
【0060】
さらに、本発明のプロセスにより、高品質及び信頼性を有し、低粘度で十分に高いコークス値及び低い16 EPA PAH含有量を示す、電池電極に用いられるピッチ生成物がもたらされ得る。得られるバインダの16 EPA PAHレベルは純粋なコールタール由来の生成物よりも低く、より環境に優しい材料がもたらされる。
【実施例】
【0061】
実施例1~6:
以下の表1は、本発明の一実施形態に係るコーティング材料に含まれる石油由来ピッチ生成物及び特性の例を示す。
【0062】
【0063】
表2は、実施例3及び4のピッチ生成物から構成されるコーティング材料によるコーティング、並びに、その後の1100℃での炭素化により得られたコーティングされた天然黒鉛材料の性能をさらに示す。
【0064】
【0065】
以下の表は、本明細書において用いられる生成物パラメータの分析手法の概要を提供する。
【0066】
【0067】
実施例7:
- コーティングされた天然黒鉛サンプルの調製:
球状天然黒鉛を、高せん断ミキサ中にて室温で5分間、本明細書全体に記載の石油由来ピッチ生成物から得たピッチ粉末と共に混合し、約3~5μmの平均粒径に粉砕した。混合物を、窒素雰囲気下に1100℃で5時間、100℃/hの加熱速度で熱処理した。
【0068】
- 炭素-コーティングされた天然黒鉛材料の電気化学的テスト:
黒鉛サンプルを水中のカルボキシメチルセルロース(CMC)の溶液中に分散させ、次いで、SBRラテックスバインダ材料を添加して、96重量%黒鉛、2重量%CMC及び2重量%SBRの最終組成を達成した。水性スラリーをドクターブレード法により銅箔上に塗布し、得られたコーティングされた箔を120℃で乾燥させた。乾燥したシートをロールプレスし、次いで、直径17mmの最終的な電極をこのシートから打ち抜いた。約8.5mg/cm2の質量負荷、約1.65g/cm3の密度、及び、約70μmの厚さを有する電極を100℃で減圧乾燥し、リチウムコインハーフセルで、1M LiPF6 EC/DEC(重量基準で1:1)電解質及び多孔性ポリプロピレンセパレータを使用してテストした。電極の初回のクーロン効率及び可逆比電荷を、ハーフセルを0.1CでLi/Li+に対して5mVまで放電し、セルを電流が0.7mAに低下するまでこの電位に維持し、次いで、セルをLi/Li+に対して1.5Vに充電し、セル電流が0.7mAに低下するまでこの電位で維持することにより計測した。最初の充電/放電サイクルのクーロン効率を、可逆比荷電/(可逆比荷電+不可逆比荷電)=実測したmAh(初回の充電)/実測したmAh(初回の放電)からパーセントで算出した。
【国際調査報告】