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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】多峰性ポリエチレン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/04 20060101AFI20241212BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241212BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20241212BHJP
   C08F 10/02 20060101ALI20241212BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20241212BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C08L23/04
B32B27/32 Z
B32B7/12
C08F10/02
C08L23/06
C08J5/18 CES
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535752
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2022087479
(87)【国際公開番号】W WO2023118435
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21217270.4
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517301210
【氏名又は名称】タイ ポリエチレン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】ナークチャムナン,カニアナット
(72)【発明者】
【氏名】スチャオイン,ナッタポーン
(72)【発明者】
【氏名】クロムカモル,ワラチャッド
(72)【発明者】
【氏名】ブーンヤン,ハタイチャノク
(72)【発明者】
【氏名】チーヴァスリルングルアング,ワトチャリー
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA81
4F071AA82
4F071AA87
4F071AA88
4F071AA89
4F071AF61
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB03
4F071BB08
4F071BC01
4F100AK06A
4F100AK63A
4F100AL05A
4F100AR00C
4F100AT00E
4F100BA01
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10E
4F100CB00B
4F100CB00D
4F100EJ38A
4F100JA06A
4F100JA07A
4F100JA13A
4F100JD01C
4F100JL11B
4F100JL11D
4F100YY00A
4J002BB03W
4J002BB03X
4J002BB03Y
4J002BB05X
4J002BB05Y
4J100AA02P
4J100AA04Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA03
4J100DA04
4J100DA15
4J100DA22
4J100DA42
4J100DA51
4J100FA09
4J100FA10
4J100FA34
4J100JA58
(57)【要約】
本発明は、多峰性ポリエチレン組成物、多峰性ポリエチレン組成物を含むポリエチレン混合物、多峰性エチレン組成物またはポリエチレン混合物を含むフィルム、フィルムを調製する方法、フィルムを含む多層フィルム、および多層フィルムを含む物品に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多峰性ポリエチレン組成物であって:
(A)前記多峰性ポリエチレン組成物の総重量に対して40~52重量%の低分子量ポリエチレンであり、前記低分子量ポリエチレンはホモポリマーであって、前記低分子量ポリエチレンは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して、20,000~90.000g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する、低分子量ポリエチレンと
(B)前記多峰性ポリエチレン組成物の総重量に対して10~28重量%の第1の高分子量ポリエチレンであり、前記第1の高分子量ポリエチレンはホモポリマーまたはコポリマーであって、前記第1の高分子量ポリエチレンは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して、300,000~900,000g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する、第1の高分子量ポリエチレンと
(C)前記多峰性ポリエチレン組成物の総重量に対して25~50重量%の第2の高分子量ポリエチレンであり、前記第2の高分子量ポリエチレンはホモポリマーまたはコポリマーであって、前記第2の高分子量ポリエチレンは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して、130,000~500,000g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する、第2の高分子量ポリエチレンと、
を含み、
前記第1の高分子量ポリエチレンは、前記重量平均分子量に関して前記第2の高分子量ポリエチレンとは異なり
前記多峰性ポリエチレン組成物の結晶化度は、示差走査熱量測定法により測定して、49%~65%であり、そして、
DSC連続自己核生成およびアニーリング(SSA)によって測定して、前記多峰性ポリエチレン組成物の直鎖状メチレン連鎖長の数平均(L)値は1.90nm~4.8nmであり、前記多峰性ポリエチレン組成物の直鎖状メチレン連鎖長の重量平均(L)値は2.5nm~5.6nmである、多峰性ポリエチレン組成物。
【請求項2】
多峰性ポリエチレンの密度が、ASTM規格D1505に従って測定して、0.935~0.960g/cmの範囲内にある、請求項1に記載の多峰性ポリエチレン組成物。
【請求項3】
多峰性ポリエチレンのメルトフローレートMIが、ASTM規格D1238に従って測定して、0.01~2.5g/10分の範囲内にある、請求項1または2に記載の多峰性ポリエチレン組成物。
【請求項4】
前記多峰性ポリエチレン組成物の多分散度が、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して、12~40である、請求項1から3のいずれか一項に記載の多峰性ポリエチレン組成物。
【請求項5】
前記多峰性ポリエチレン組成物が、ゲル浸透クロマトグラフィーによりそれぞれ測定して、130,000~400,000g/モルの重量平均分子量;および/または5,000~15,000g/モルの数平均分子量;および/または1,000,000~3,000,000g/モルのZ平均分子量を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の多峰性ポリエチレン組成物。
【請求項6】
前記多峰性ポリエチレン組成物が、1.0~1.9のFm/Fyを有し、式中、Fmは前記多峰性ポリエチレン組成物の引張破断強度であり、Fyは前記多峰性ポリエチレン組成物の引張降伏強度であり、それぞれがISO規格527-2に従って測定されたものである、請求項1から5のいずれか一項に記載の多峰性ポリエチレン組成物。
【請求項7】
ポリエチレン混合物であって:
請求項1から6のいずれか一項に記載の多峰性ポリエチレン組成物と、
前記ポリエチレン混合物の総重量に対して10~50重量%の量の、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択されるさらなる構成要素と、
を含む、ポリエチレン混合物。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の多峰性ポリエチレン組成物または請求項7に記載のポリエチレン混合物を含むフィルム。
【請求項9】
請求項8に記載のフィルムの製造方法であって、前記フィルムをブロー成形または注型成形する工程と、前記フィルムをさらに共押出成形する工程とを含む、フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記フィルムを二軸逐次配向により熱延伸する、および/または、前記フィルムを二軸同時配向により熱延伸する、および/または、前記フィルムを縦方向に熱延伸する後続工程をさらに含む、請求項9に記載のフィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載のフィルムおよび/または請求項9もしくは10のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるフィルムであって、前記フィルムが、1.5~4.5の延伸倍率;および/または3~15の縦方向延伸倍率;および/または3~12の横方向延伸倍率を有する、フィルム。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか一項に記載のフィルムを含む多層フィルム。
【請求項13】
請求項12に記載の多層フィルムであって、
(a)内層;
(b)第1の接着剤層;
(c)バリア層;
(d)第2の接着剤層;および
(e)外層、
を含み、
前記外層が、請求項8から11のいずれか一項に記載のフィルムである、多層フィルム。
【請求項14】
請求項12または13に記載の多層フィルムを含む物品であって、包装体または容器である、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向または二方向に延伸することができる延伸フィルムを製造するために使用される多峰性ポリエチレン組成物に関する。本発明はさらに、上記フィルムを含む多層フィルムおよび上記多層フィルムを含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的なプラスチック包装体市場のトレンドは、2023年に最も成長すると期待されている。製造業者およびブランドオーナーは、材料を無駄にせずプラスチックを複数回使用する循環型経済に移行しようとしている。ブランドおよび小売業者は、自社の包装体がリサイクル可能、再利用可能、または堆肥化可能であることを確実にするための目標を自ら設定し、包装体および環境、特にプラスチックに対する関心が高まりつつあるが、一般大衆やCEFLEX等の取組の両方から企業に対して、株主も含めて、2025年までに、すべての軟包装体およびリサイクル材料の80%超を収集して貴重な新市場および未使用材料への代替用途に向けるように、圧力が高まっている。
【0003】
プラスチック軟包装体は、バリア性能および製品保護などの特徴を高めるために、マルチマテリアルおよび多層から主として構成される。多層包装体は、複数のフィルム層を含み、各フィルム層は、使用の有用性に応じて異なる種類のポリマー(すなわち、PP、PE、PET、ナイロン等)から調製される。例えば、(a)内層またはシール層(b)タイ層(tie layer)(c)バリア層(d)外層または印刷層。外層または印刷層は、包装体用途に応じて、二軸配向ポリアミドフィルム(BOPAフィルム)または二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(BOPETフィルム)から調製される。これらの材料は、熱安定性の点で優れており、印刷プロセス中の熱収縮が少ない。しかしながら、包装体中の異なる種類のポリマーは、モノマテリアル包装体(完全PE包装体)には使用できない。それらは、循環型経済原理に直面する既存のリサイクルシステムの課題を表している。
【0004】
市場で使用されているモノマテリアル用に使用される印刷層製品は、二軸配向ポリプロピレンフィルム(BOPPフィルム)、二軸配向ポリエチレンフィルム(BOPEフィルム)および縦方向配向フィルム(MDOPEフィルム)を有する。単層として、または多層フィルムのコアもしくは表面に適用することができる様々なフィルムが当分野で公知である。同様に、そのようなフィルムを製造するための様々なポリマー組成物、特にポリエチレン組成物が記載される。
【0005】
プラスチック軟包装体にBOPEフィルムを使用する際によくある問題は、印刷プロセスにおける高いレベルの熱収縮およびバッグ製造プロセスにおけるシール外観不良である。再加熱プロセス後に熱収縮が起こり、非晶質の移動によるフィルムの寸法変化をもたらし、結晶化度のレベルは収縮プロセスにとって重要な点である。
【0006】
通常、フィルム製造用ポリエチレン樹脂の最終密度を高めることにより熱収縮率を改善していた。しかしながら、フィルム製造用ポリエチレン樹脂の最終密度を高めることは、延伸性およびフィルム透明性およびヘイズおよび光沢特性とトレードオフの関係にある。したがって、二軸配向高密度ポリエチレンフィルム(BO-HDPEフィルム)の課題は、低熱収縮率、高フィルム透明度、および依然として良好な延伸性の間でバランスを実現することである。
【0007】
高密度ポリエチレン樹脂(HDPE樹脂)の延伸性と熱収縮とのバランスを実現するために、マルチモーダルプロセスを使用して、HDPE材料を設計することができる。マルチモーダルプロセスは、バイモーダルおよびユニモーダルプロセスよりも良好な延伸性を提供することができる。
【0008】
以下のような開発および開示を試みた多くの先行技術がある。
【0009】
米国特許出願公開第2014/179873号明細書は、約0.916~約0.936g/cmの密度、約0.1~約2.0g/10分のメルトインデックス(I)、約32~約50のメルトフロー比(I21/I)、約3.6~約6.5の分子量分布(Mw/Mn)、GPC-FTIRによって決定される逆転コモノマー分布プロファイル、多峰性TREFプロファイル、TREFによって決定される約45重量%~約75重量%の組成分布幅指数CDBI50を有し、さらに関係式:(Mw/Mn)が72以上であることを満たす、低密度の第1のポリエチレンコポリマーを5~約95重量%と、b)第1のポリエチレンコポリマーとは異なる直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であって、約0.910~約0.940g/cmの密度、約0.2~約5.0g/10分のメルトインデックス(I)および約35未満のメルトフロー比(I21/I)を有する第2のポリエチレンコポリマーを約95~約5重量%と、を有するポリマーブレンドを開示している。
【0010】
米国特許出願公開第2009/029182号明細書は、2種の異なる高密度ポリエチレン(HDPE)と核形成剤とのブレンドを含むコア層を使用して調製される、優れた水蒸気透過度(WVTR)性能を有する多層「バリア」フィルムを開示している。上記フィルムは、クラッカーおよび朝食用シリアルなどの乾燥食品用のパッケージの調製に適している。
【0011】
米国特許出願公開第2005/170194号明細書は、20%以下のヘイズ、40%以上の光沢、および0.935~0.948g/ccの範囲内の密度を有する本質的に透明な高密度ポリエチレンフィルムについて述べている。このフィルムは、高ストークブロー押出プロセスによって調製され、次いで縦方向に一軸配向され、この方法は、0.935~0.948g/ccの範囲内の密度および0.03~0.15dg/分の範囲内のMIを有するポリエチレンを高ストークブロー押出によってフィルムに変換する工程と、次いでフィルムを縦方向に一軸配向する工程とを含む。配向フィルムは、本質的に透明であり、20%以下のヘイズと、40%以上の光沢とを有する。
【0012】
しかしながら、上記の先行技術に照らしても、フィルムを調製するための多峰性ポリエチレン組成物、および先行技術の欠点を克服するそのような多峰性ポリエチレン組成物を使用することによって調製されたフィルムを提供すること、特に、多層包装体および容器を調製するために使用することができる延伸フィルム用の高密度ポリエチレン組成物を提供することが依然として必要である。
【0013】
したがって、先行技術の欠点を克服する、特に良好な特性を有する二軸配向ポリエチレン(BOPE)または(縦方向配向(MDO)フィルムを製造するための改善されたポリエチレン特性を有する高密度ポリエチレン組成物を提供することが目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/179873号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/029182号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/170194号明細書
【発明の概要】
【0015】
多峰性ポリエチレン組成物
一態様では、本発明は、多峰性ポリエチレン組成物であって:
(A)多峰性ポリエチレン組成物の総重量に対して40重量%~52重量%、好ましくは40~50重量%の低分子量ポリエチレンであり、上記低分子量ポリエチレンはホモポリマーで、上記低分子量ポリエチレンは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して2万~9万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する、低分子量ポリエチレンと、
(B)多峰性ポリエチレン組成物の総重量に対して10~28重量%、好ましくは10~26重量%の第1の高分子量ポリエチレンであり、上記第1の高分子量ポリエチレンはホモポリマーまたはコポリマーで、上記第1の高分子量ポリエチレンは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して30万~90万g/モル、好ましくは30万~85万g/モル、より好ましくは35万~80万g/モル、最も好ましくは40万~75万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する、第1の高分子量ポリエチレンと、
(C)多峰性ポリエチレン組成物の総重量に対して25~50重量%、好ましくは26~50重量%の第2の高分子量ポリエチレンであり、上記第2の高分子量ポリエチレンはホモポリマーまたはコポリマーで、上記第2の高分子量ポリエチレンは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して13万~50万g/モル、好ましくは14万~45万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する、第2の高分子量ポリエチレンと、を含み、
第1の高分子量ポリエチレンは、重量平均分子量に関して第2の高分子量ポリエチレンとは異なり、
多峰性ポリエチレン組成物の結晶化度は、示差走査熱量測定法により測定して、49%~65%、好ましくは50%~65%、より好ましくは52%~65%であり、ならびに
多峰性ポリエチレン組成物の直鎖状メチレン連鎖長の数平均(L)値は、1.90nm~4.80nm、好ましくは2.0nm~4.80nm、より好ましくは2.8nm~4.8nmであり、多峰性ポリエチレン組成物の直鎖状メチレン連鎖長の重量平均(L)値が、DSC連続的自己核形成およびアニーリング(SSA)によって測定して、2.5nm~5.6nm、好ましくは3.0nm~5.6nm、より好ましくは3.3nm~5.6nmである、多峰性ポリエチレン組成物を提供する。
【0016】
本発明による多峰性ポリエチレン組成物は、二軸配向ポリエチレン(BOPE)フィルム製造用のポリエチレン組成物であり得る。
【0017】
本発明の多峰性ポリエチレン組成物は、多段階プロセスで生成され、画分(A),(B)および(C)は後続の段階で製造される。そのような場合、多段階プロセスの第2の工程または第3の工程(またはさらなる工程)で生成された画分の特性は、画分が生成される多段階プロセスの段階に関して同一の重合条件(例えば、同一の温度、反応物/希釈剤の分圧、懸濁媒体、反応時間)を適用することによって、および以前に生成されたポリマーが存在しない触媒を使用することによって、単一の段階で別々に生成されるポリマーから推測することができる。あるいは、多段プロセスのより高い段階で生成された画分の特性も、例えばB.Hagstrom,Conference on Polymer Processing (The Polymer Processing Society),Extended Abstracts and Final Programme,Gothenburg,August 19 to 21,1997,4:13に従って計算することができる。
【0018】
したがって、多段階プロセス生成物で直接測定することはできないが、そのような多段階プロセスのより高い段階で生成された画分の特性は、上記の方法のいずれか一方または両方を適用することによって決定することができる。当業者であれば、適切な方法を選択することができる。分子量(Mwなど)などの特性を計算する1つの特定の方法は、Excelまたは他の計算プログラムを使用してデコンボリューション法を適用することである。デコンボリューション法では、各信号の減算が行われる。
【0019】
多段プロセスで生成されたポリマーHDPEは、「in-situ」ブレンドとも呼ばれる。得られた最終生成物は、3つ以上の反応器からのポリマーの均質な混合物からなり、これらのポリマーの異なる分子量分布曲線は共に、広い最大値または2つもしくは3つ以上の最大値を有する分子量分布曲線を形成する。
【0020】
多峰性ポリエチレンの密度は、ASTM規格D1505によって測定して、0.935~0.960g/cm、より好ましくは0.939~0.960g/cm、さらにより好ましくは0.943~0.960g/cm、最も好ましくは0.943~0.956g/cmの範囲内であり得る。
【0021】
多峰性ポリエチレンのメルトインデックス/メルトフローレートMIは、0.01~2.5g/10分、好ましくは0.02~1.8g/10分、より好ましくは0.02~1.6g/10分、最も好ましくは0.02~1.5g/10分の範囲内であり得る。
【0022】
多峰性ポリエチレン組成物の多分散度は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定して、12~40、好ましくは15~35、最も好ましくは16~33であり得る。
【0023】
多峰性ポリエチレン組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)に従ってそれぞれ測定して、13万~40万g/モル、好ましくは14万~35万g/モル、より好ましくは15万~30万の重量平均分子量、および/または5,000~15,000g/モル、好ましくは7,000~13,000g/モルの数平均分子量、および/または100万~300万g/モル、好ましくは100万~250万g/モルのZ平均分子量を有し得る。
【0024】
多峰性ポリエチレン組成物は、1以上、好ましくは1~5、より好ましくは1~3、最も好ましくは1~2のFm/Fyを有することができ、式中、Fmは多峰性ポリエチレン組成物の引張破断強度であり、Fyは、多峰性ポリエチレン組成物の引張降伏強度であり、それぞれISO規格527-2に従ってそれぞれ測定される。
【0025】
本発明による多峰性ポリエチレン組成物はさらに、LLDPE、LDPE、ならびにその使用目的に応じて、任意選択的に追加される添加剤、例えば、核形成剤、加工助剤、酸化防止剤、および光安定剤をさらに含んでもよい。
【0026】
ポリエチレン混合物
別の態様によれば、本発明は、ポリエチレン混合物(ポリエチレンブレンド)であって、本発明による多峰性ポリエチレン組成物と、
直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択されるさらなる構成要素と
を含む、ポリエチレン混合物を提供する。
【0027】
ポリエチレン混合物を調製するための多峰性ポリエチレン組成物へのLLDPE、LDPE、ULDPEまたはそれらの混合物の添加は、1.5~4.5の延伸倍率、3~15の縦方向延伸倍率および3~12の横方向延伸倍率を有する多層フィルムの少なくとも1つの層として使用するためのフィルムを製造する上で有利であり得る。
【0028】
ポリエチレン混合物は、ポリエチレン混合物の総重量に対して50~90重量%、好ましくは55~80重量%、好ましくは60~70重量%、最も好ましくは約65重量%の量の本発明による多峰性ポリエチレン組成物と、該ポリエチレン混合物の総重量に対して10~50重量%、好ましくは20~45重量%、好ましくは30~40重量%、最も好ましくは約35重量%の量の、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンおよびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択されるさらなる構成要素と、を含み得る。
【0029】
本発明によるポリエチレン混合物は、LLDPE、LDPE、およびULDPEに加えて、その使用目的に応じて、任意選択的にさらなる添加剤、例えば、核形成剤、加工助剤、酸化防止剤、および光安定剤をさらに含んでもよい。
【0030】
フィルム
別の態様によれば、本発明は、本発明による多峰性ポリエチレン組成物または本発明によるポリエチレン混合物を含むフィルムを提供する。
【0031】
すなわち、本発明によれば、フィルムであって:
(A)多峰性ポリエチレン組成物の総重量に対して40~52重量%(重量基準)の低分子量ポリエチレンであり、上記低分子量ポリエチレンはホモポリマーで、上記低分子量ポリエチレンはゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して、2万~9万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する、低分子量ポリエチレンと、
(B)多峰性ポリエチレン組成物の総重量に対して10重量%~28%の第1の高分子量ポリエチレンであり、上記第1の高分子量ポリエチレンはホモポリマーまたはコポリマーで、上記第1の高分子量ポリエチレンは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して、30万~90万g/モル、好ましくは30万~85万g/モル、より好ましくは35万~80万g/モル、最も好ましくは40万g/モル-75万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する、第1の高分子量ポリエチレンと、
(C)多峰性ポリエチレン組成物の総重量に対して25重量%~50%の第2の高分子量ポリエチレンであり、上記第2の高分子量ポリエチレンはホモポリマーまたはコポリマーで、上記第2の高分子量ポリエチレンは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定して、13万~50万g/モル、好ましくは14万~45万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する、第2の高分子量ポリエチレンと、を含み、
第1の高分子量ポリエチレンは、重量平均分子量に関して第2の高分子量ポリエチレンとは異なり
多峰性ポリエチレン組成物の結晶化度は、示差走査熱量測定法により測定して、49%~65%であり、
DSC連続自己核生成およびアニーリング(SSA)により測定して、多峰性ポリエチレン組成物の直鎖状メチレン連鎖長の数平均(L)値は、1.90nm~4.8nmであり、多峰性ポリエチレン組成物の直鎖状メチレン連鎖長の重量平均(L)値は、2.5nm~5.6nmであり、
フィルムはさらに、任意選択的に、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンおよびそれらの2種以上の混合物からなる群から選択されるさらなる構成成分を含み、
ポリエチレン混合物は、ポリエチレン混合物の総重量に対して、好ましくは50~90重量%、好ましくは55~80重量%、好ましくは60~70重量%、最も好ましくは約65重量%の量の本発明による多峰性ポリエチレン組成物を好ましくは含み、ポリエチレン混合物の総重量に対して10~50重量%、好ましくは20~45重量%、好ましくは30~40重量%、最も好ましくは約35重量%の量の、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンおよびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択されるさらなる構成要素を好ましくは含む、
フィルムが提供される。
【0032】
本発明によるフィルムは、均質なフィルムであってもよい。あるいは、フィルムは不均質であってもよい。フィルムが不均質である場合、2つ以上の副層、例えば3つの副層を含むフィルムが提供され得る。
【0033】
本発明のフィルムは、3つの副層、すなわち2つの外層および1つの内層を有するフィルムであってもよく、2つの外層は内層の対向する表面にそれぞれ配置される。これに関して、内層は、本発明による多峰性ポリエチレン組成物を含んでもよく(またはそれからなってもよく)、または本発明によるポリエチレン組成物を含んでもよく(またはそれからなってもよく)、2つの外層は、低密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレン、好ましくは直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を含んでもよい(またはそれからなってもよい)。副層を2層以上、例えば3層有するこのようなフィルムは、共押出によって製造することができ、内層は、1台またはそれ以上の押出機によって外層を形成するためにさらなるポリマー成分が表面に付着される基材として作用する。
【0034】
言い換えれば、(後述する多層フィルムに印刷層を形成するために使用することができる)フィルムは、例えば、本発明による多峰性ポリエチレン組成物または本発明によるポリエチレン組成物の100%から調製された均質なフィルムとすることができ、または、フィルムは、本発明による多峰性ポリエチレン組成物または本発明によるポリエチレン組成物の100%から調製された均質なフィルムがフィルムの少なくとも1つの副層である(1層を超える)共押出フィルムであってもよい。例えば、フィルム(低%ヘイズ)の透明性を改善するために、本発明によるポリエチレン組成物を含む(またはそれからなる)フィルム、またはスキン層としてLLDPEを有する共押出フィルムが好ましい場合がある。共押出フィルムを調製するプロセスは、共押出コーティングプロセスである。
【0035】
本発明による多峰性ポリエチレン組成物を含む本発明によるフィルムは、ブロー成形してもよく、または注型成形(キャスティング)およびさらに共押出成形によって得てもよい。フィルムは、二軸逐次配向によりフィルムを熱延伸し、二軸同時配向によりフィルムを熱延伸し、縦方向にフィルムを熱延伸することにより調製してもよい。
【0036】
フィルムは、ダブルバブルブローフィルムであってもよいし、トリプルバブルブローフィルムであってもよい。
【0037】
フィルム延伸プロセスには、用途/プロセス設計/機械所有者設計/最終用途の目的に応じた様々な選択肢がある。例えば、縦方向(MD)の一軸延伸プロセスが一つの工程のこともあり、フィルム延伸プロセスが複数工程のこともあるし、例えば、縦方向(MD)および横方向(TD)の二軸逐次延伸プロセスや、縦方向(MD)および横方向(TD)の二軸同時延伸プロセスがある。フィルム延伸プロセスのすべての選択肢は、1.5~15の延伸倍率を有する。
【0038】
多層フィルム
別の態様によれば、本発明は、本発明によるフィルムを含む多層フィルム、すなわち、多峰性ポリエチレン組成物を含むか、または本発明のポリエチレン混合物を含むフィルムを提供する。
【0039】
この点について、上記多層フィルムは、互いに積層された2層以上の層を含み、複数の層のうちの少なくとも1つの層が本発明のフィルムであればよい。すなわち、多峰性ポリエチレン組成物を含むフィルムは、多層フィルムの少なくとも1つの層である。上記多層フィルムを構成する各層同士は、任意選択的に接着剤を用いて、接着されてもよい。多層フィルムは、以下の層:(a)シール層と呼ばれ得る(および作用し得る)内層;(b)好ましくは水分および/または水(水蒸気)に対するバリア特性を有するバリア層;(c)印刷層と呼ばれ得る(および作用し得る)外層を、この順序で含むかまたはそれからなっていてもよく、外層は本発明によるフィルムを含む本発明によるフィルムである。
【0040】
多層フィルムは、以下の層:(a)シール層と呼ばれ得る(および作用し得る)内層;(b)第1のタイレジン(tie resin)層であり得る第1の接着剤層;(c)好ましくは水分および/または水(水蒸気)に対するバリア特性を有するバリア層;(d)第2のタイレジン(tie resin)層であり得る第2の接着剤層;(e)印刷層と呼ばれ得る(および作用し得る)外層を、この順序で含むかまたはそれからなっていてもよく、外層は本発明によるフィルムを含む本発明によるフィルムである。
【0041】
多層フィルムは、以下の層:(a)シール層と呼ばれ得る(および作用し得る)内層;(b)内層と直接接触する第1のタイレジン(tie resin)層であり得る第1の接着剤層またはタイ層(tie layer);(c)好ましくは水分および/または水(水蒸気)に対するバリア特性を有し、第1の接着剤層と直接接触するバリア層;(d)バリア層と直接接触する第2のタイレジン(tie resin)層であり得る第2の接着剤層;(e)第2の接着剤層と直接接触する印刷層と呼ばれ得る(および作用し得る)外層、からこの順序でなっていてもよく、外層は本発明によるフィルムを含む本発明によるフィルムである。
【0042】
内層、第1の接着剤層、およびバリア層は、独立して、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレンHDPE、またはそれらの2つ以上のブレンドで調製されてもよい。
【0043】
内層は、LDPE、LLDPE、MDPE、またはそれらの2つ以上のブレンドで調製されてもよい。
【0044】
第1の接着剤層および第2の接着剤層は、独立して、LDPE、LLDPE、HDPE、またはそれらの2つ以上のブレンド、好ましくはLDPE、LLDPE、またはそれらのブレンドで調製されてもよい。あるいは、接着剤層は、ポリウレタン系樹脂、アクリル酸系樹脂、ポリビニル系樹脂、ゴム、またはそれらの混合物を含んでもよい。
【0045】
バリア層は、HDPEまたはHDPEとエチレンビニルアルコール(EVOH)とのブレンドで調製されてもよく、EVOHの量は多層の総重量の3~5%(重量基準)である。あるいは、接着剤層は、ポリウレタン系樹脂、アクリル酸系樹脂、ポリビニル系樹脂、ゴム、またはそれらの混合物を含んでもよい。
【0046】
多層フィルムの異なる層同士は、積層プロセスによって互いに結び付けられて積層体を形成してもよい。互いに結び付けられるべき層が非相容性である場合、すなわち、積層プロセスにおいて互いに結び付けられない場合、タイ層(tie layer)(接着剤層)がそれらの間に配置されてもよい。
【0047】
「積層体」とは、積層によって互いに付着された内層および外層を含むフィルム構造体を指す。
【0048】
本発明の多層において、本発明の多峰性ポリエチレン組成物を含む本発明のフィルムを用いることにより、特に印刷層において、PETまたはナイロンなどの当分野で公知の印刷層用材料の代わりに用いることにより、(すなわち、ポリエチレンのみに基づく「モノマテリアル層配置」を用いることにより)多層フィルムのリサイクル性、および/または熱安定性および/または熱収縮挙動を改善することができる。
【0049】
多層フィルムは、共押出多層フィルムであってもよい。多層フィルムは、ドライラミネーションプロセスで調製されてもよい。印刷層は、防湿層として、水分、酸素、香りを防止するために、そして他の非相容性フィルム層との結合を可能にするために、バリア接着剤でコーティングされてもよい。次いで、バリア接着剤を有するコーティングされた印刷層は、多層フィルムから調製された包装体の内側に含まれる製品に直接接触するシール層または内層と積層されてもよい。軟包装体(すなわち、食品包装体、パーソナルケア包装体、ホームケア包装体など)を製造するために使用され得るそれぞれの多層フィルムは、共押出フィルムまたは共押出フィルムの組合せからなる積層体のいずれかであり得る。
【0050】
好ましくは、多峰性ポリエチレンを含むフィルムは、包装体または容器、例えば食品包装体、パーソナルケア包装体およびホームケア包装体のために調製された多層フィルムの少なくとも1つの層である。
【0051】
好ましくは、本発明による多峰性ポリエチレン組成物または本発明によるポリエチレン混合物を含むフィルムは、包装体または容器を調製するために使用され得る本発明による多層フィルムの少なくとも1つの層である。
【0052】
物品
別の態様によれば、本発明は、本発明による多層フィルムを含む物品であって、包装体または容器である物品を提供する。
【0053】
包装体または容器は、消費者製品の保管用、輸送用などであってもよく、消費者製品は、例えば、食品包装体、パーソナルケア包装体またはパーソナル&ホームケア包装体であってもよい。例えば、包装体は、保管用、輸送用などに用いられてもよく、真空加工食品、液体軟化剤、洗剤等に用いられてもよい。
【0054】
フィルムの調製方法
別の態様によれば、本発明は、本発明によるフィルムを調製するための方法であって、フィルムをブロー成形または注型(キャスティング)成形する工程、およびフィルムをさらに共押出成形する工程を含む方法を提供する。
【0055】
フィルムを調製する方法は、好ましくは後続の工程として、二軸逐次配向によってフィルムを熱延伸する工程、および/または二軸同時配向によってフィルムを熱延伸する工程、および/または縦方向配向でフィルムを熱延伸する工程をさらに含んでもよい。
【0056】
多峰性ポリエチレン組成物の調製方法
多峰性ポリエチレン組成物は、多峰性ポリエチレン重合用反応器システムを介して生成することができる。システムは、第1の反応器と、第2の反応器と、第3の反応器と、第1の反応器と第2の反応器との間に配置された水素除去ユニットとを備える。
【0057】
第1の反応器からの水素欠乏ポリエチレンは、後続の反応器における高分子量の重合に影響を及ぼす。特に、高分子量は、ポリエチレンの改善された機械的特性をもたらす。
【0058】
本発明の多峰性ポリエチレン樹脂を製造するための触媒は、チーグラー-ナッタ触媒から選択されてもよく、メタロセン系触媒および非メタロセン系触媒を含むシングルサイト触媒またはクロム系が使用されてもよく、好ましくは従来のチーグラー-ナッタ触媒またはシングルサイト触媒が使用される。触媒は、典型的には、当分野で周知の共触媒と共に使用される。
【0059】
第1の反応器、第2の反応器および第3の反応器内での重合は、不活性炭化水素の存在下で行ってもよい。不活性炭化水素としては、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、イソブタン等の脂肪族炭化水素が好ましい。好ましくは、ヘキサン(最も好ましくはn-ヘキサン)が使用される。
【0060】
配位触媒、エチレン、水素および任意選択的にα-オレフィンコモノマーが、第1の反応器内で重合される。次いで、第1の反応器から得られた生成物全体を水素除去ユニットに移送して、第1の反応器で得られたスラリーから98.0~99.8%(重量基準)の水素、未反応ガスおよび一部の揮発性物質を除去してから、第2の反応器に供給して重合を継続してもよい。
【0061】
第2の反応器から得られたポリエチレンは、第1の反応器から得られた生成物と第2の反応器の生成物との組合せである二峰性ポリエチレンである。次いで、この二峰性ポリエチレンを第3の反応器に供給して重合を継続する。第3の反応器から得られる最終的な多峰性(三峰性)ポリエチレンは、第1、第2および第3の反応器からのポリマーの混合物である。第1、第2および第3の反応器の各々で調製されたポリエチレン(本発明の多峰性ポリエチレン組成物の成分A~Cに対応する)は、例えば、その重量平均分子量に関して互いに異なる。第1の高分子量ポリエチレンは、第2の高分子量ポリエチレンよりも高い重量平均分子量を有するものを供給することができる。
【0062】
第1、第2および第3の反応器における重合は、異なるプロセス条件下で行われてもよい。その結果、各反応器で得られるポリエチレン(成分A~Cに対応)は、異なる分子量を有する。これらは、気相中のエチレンおよび水素の濃度、温度または各反応器に供給されるコモノマーの量の変動であり得る。所望の特性の、特に目標分子量のそれぞれのホモまたはコポリマーを得るための適切な条件は、当分野において周知である。当業者は、その一般的な知識に基づいて、それぞれの条件をこれに基づいて選ぶことができる。 好ましくは、低分子量ポリエチレンは第1の反応器で生成され、第1の高分子量ポリエチレンは第2の反応器で生成され、第2の高分子量ポリエチレンは第3の反応器で生成される。
【0063】
第1の反応器という用語は、低分子量ポリエチレン(LMW)が生成される段階を指す。第2の反応器という用語は、第1の高分子量ポリエチレン(HMW1)が生成される段階を指す。第3の反応器という用語は、第2の高分子量ポリエチレン(HMW2)が生成される段階を指す。
【0064】
LMWという用語は、第1の反応器内で重合された、20,000~90,000g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する低分子量ポリエチレンポリマーを指す。
【0065】
HMW1という用語は、第2の反応器内で重合された、30万超~90万g/モル、好ましくは30万~85万g/モル、より好ましくは35万~80万g/モル、最も好ましくは40万~75万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する第1の高分子量ポリエチレンポリマーを指す。
【0066】
HMW2という用語は、第3の反応器中で重合された、13万~50万g/モル、好ましくは14万~45万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する第2の高分子量ポリエチレンポリマーを指す。
【0067】
LMWは、ホモポリマーを得るためにコモノマーの非存在下で第1の反応器内で生成されてもよい。
【0068】
エチレンは、LMWについて密度≧0.965g/cmおよび10~1000g/10分の範囲のMIを有する高密度LMWポリエチレンを得るために、コモノマーの非存在下で第1の反応器中で重合されてもよい。第1の反応器内で目標密度およびMIを得るために、重合条件が制御および調整される。第1の反応器内の温度は、70~90℃、好ましくは80~85℃の範囲内である。ポリエチレンの分子量を制御するように、第1の反応器に水素が供給される。気相中のエチレンに対する水素のモル比は、目標MIに応じて変えることができる。しかしながら、好ましいモル比は、0.01~8.0、より好ましくは0.01~6.0の範囲内である。第1の反応器は、250~900kPaの間、好ましくは400~850kPaの圧力で運転される。第1の反応器の気相中に存在する水素の量は、0.1~95モル%、好ましくは0.1~90モル%の範囲内である。
【0069】
好ましくはヘキサン中のLMWポリエチレンを含む第1の反応器から得られたスラリーは、第2の反応器に供給される前に、水素除去ユニットに移送されてもよく、この水素除去ユニットは、好ましくは真空ポンプ、圧縮機、ブロワおよびエジェクタのうちの1つまたは組合せを含む減圧装置に接続されたフラッシュドラムを有してもよく、フラッシュドラム内の圧力が減圧されると、揮発性の未反応ガスおよび水素がスラリー流から除去される。水素除去ユニットの運転圧力は、典型的には、103~145kPa(abs)、好ましくは104~130kPa(abs)の範囲内であり、この圧力において、98.0~99.8重量%、好ましくは98.0~99.5重量%、最も好ましくは98.0~99.1重量%の水素をスラリーから除去することができる。
【0070】
本発明では、スラリーから98.0~99.8重量%の水素を除去し、この水素含有量の条件下で第2の反応器中で重合を行うと、(非常に)高い分子量のポリマーを達成することができる。第2の反応器の重合条件は、第1の反応器の重合条件とは著しく異なる。第2の反応器内の温度は、65~90℃、好ましくは68~80℃の範囲内である。エチレンに対する水素のモル比は、この反応器内では制御されないが、その理由は、水素が第2の反応器内に供給されないからである。第2の反応器内の水素は、水素除去ユニットにおいてフラッシングされた後にスラリー流内に残る、第1の反応器からの残留水素である。第2の反応器内の重合圧力は、100~3000kPa、好ましくは150~900kPa、より好ましくは150~400kPaの範囲内である。
【0071】
水素除去は、水素除去ユニット通過前後のスラリー混合物中に存在する水素の量の比較結果である。水素除去の計算は、ガスクロマトグラフィーによる第1および第2の反応器中のガス組成の測定によって行われる。
【0072】
上記の濃度を達成するために相当量の水素が除去された後、水素除去ユニットで得られたスラリーは、重合を継続するために第2の反応器に移送される。この反応器内で、第1の反応器から得られたLMWポリエチレンの存在下、α-オレフィンコモノマーを用いてまたは用いないでエチレンを重合してHMW1ポリエチレンを形成することができる。共重合に有用なα-オレフィンコモノマーとしては、C4-12、好ましくは1-ブテンまたは1-ヘキセンを挙げ得る。
【0073】
第2の反応器内の重合後、そこで得られたスラリーは、重合を継続するために第3の反応器に移送される。
【0074】
HMW2は、第1および第2の反応器から得られたLMWおよびHMW1の存在下でエチレンを任意選択的にα-オレフィンコモノマーと重合することによって第3の反応器内で生成される。共重合に有用なα-オレフィンコモノマーとしては、C4-12、好ましくは1-ブテンおよび1-ヘキセンが挙げられる。
【0075】
第3の反応器内で好ましい密度およびMIを得るために、所望であれば、重合条件を制御および調整してもよい。しかしながら、第3の反応器の重合条件は、第1および第2の反応器の重合条件とは著しく異なる。第3の反応器内の温度は、68~90℃、好ましくは68~80℃の範囲内であり得る。ポリエチレンの分子量を制御するように、第3の反応器に水素が任意選択的に供給される。エチレンに対する水素のモル比は、目標MIに応じて変えることができる。しかしながら、好ましいモル比は0.01~2.0の範囲内である。第3の反応器内の重合圧力は、250~900kPa、好ましくは250~600kPaの範囲内であり、窒素などの不活性ガスの添加によって制御される。
【0076】
最終的な(フリーフロー)多峰性ポリエチレン組成物は、第3の反応器から流出したスラリーからヘキサンを分離することによって得てもよい。
【0077】
多峰性ポリエチレン組成物を生成する方法は、
(a)チーグラー-ナッタ触媒またはメタロセンから選択される触媒系の存在下で、第1の反応器内の不活性炭化水素媒体中でエチレンと、第1の反応器内の気相中に存在する全ガスに対して0.1~95モル%の量の水素とを重合して、2万~9万g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する低分子量ポリエチレンを得る工程であって、低分子量ポリエチレン、中分子量ポリエチレンはそれぞれ少なくとも0.965g/cm3の密度を有し、低分子量ポリエチレンは10~1,000g/10分の範囲内のMIを有し、中分子量ポリエチレンは0.1~10g/10分の範囲内のMIを有する、工程と、
(b)水素除去ユニットにおいて、103~145kPa(abs)の範囲内の圧力の第1の反応器から得られたスラリー混合物に含まれる水素の98.0~99.8重量%、例えば、98.0~99.1%(重量基準)を除去する工程および得られた残留混合物を第2の反応器に移送する工程と、
(c)ホモポリマーまたはコポリマーの形態の40万超~75万g/モルの重量平均分子量を有する第1の高分子量ポリエチレンを得るために、チーグラー-ナッタ触媒またはメタロセンから選択される触媒系の存在下、および工程(b)で得られた量の水素の存在下、第2の反応器内でエチレンおよび任意選択的にC4~C12α-オレフィンコモノマーを重合する工程ならびに得られた混合物を第3の反応器に移送する工程と、
(d)チーグラー-ナッタ触媒またはメタロセンから選択される触媒系および水素の存在下で、第3の反応器内でエチレンおよび任意選択的にC4~C12α-オレフィンコモノマーを重合する工程であって、第3の反応器内の水素の量が、第3の反応器内の気相中に存在する全ガスに対して0.1~70モル%、好ましくは0.1~60モル%の範囲内であるか、または任意選択的に水素の実質的非存在下で、14万~45万g/モルの重量平均分子量を有する第2の高分子量ポリエチレンのホモポリマーまたはコポリマーを得る工程と、を含み得る。
【0078】
これに関して「実質的非存在下」とは、技術的手段によって回避することができない量でのみ水素が第3の反応器に含まれることを意味する。
【0079】
技術的効果
従来技術で公知の方法とは異なり、本発明の方法は、複数層または2種以上の樹脂のブレンドの使用を必要としない。
【0080】
本発明において、多層フィルムの印刷層は、既存の印刷層(PETおよびナイロン)に置き換えるために開発されたPEから調製される。サーキュラーエコノミーの取り組みの一環であることを目標としているが、この理由は、2025年までにあるいはそれ以前に、100%再利用可能、リサイクル可能、または堆肥化可能な包装体の使用に向けて取り組んでいる主要ブランド、小売業者、包装体会社、そしてまた樹脂製造業者のリストが継続的に増加しているためである。モノマテリアルPEに基づく完全PEソリューションは、軟包装体の重要な課題の1つであり、これは性能の点で効率的であると主張され、マルチマテリアルフィルムソリューションの100%代替として機能する。モノマテリアルPEソリューションは、MDOプロセス、BOPEプロセス、および他の延伸プロセス自体においてバランスのとれたダーツ衝撃およびより効率的な操作を伴う高い剛性を提供し、印刷プロセス、ラミネート、およびスタンドアップポーチなどの包装体用途のための変換中の熱安定性(低熱収縮率)を高める高品質のフィルムを製造する。
【0081】
したがって、印刷層用フィルムを形成するための本発明による多峰性ポリエチレン組成物が開発され、この問題を解決する。
【0082】
当分野で公知のLLDPEまたはLDPEは、縦方向または二軸配向方向に延伸することができるフィルムを製造するために使用されてきたが、これらの組成物は容器または包装体の印刷層として使用することができない。この理由は、LLDPEまたはLDPEフィルムが高温に耐えることができず収縮を示すためである。これらの欠点は、本発明の多峰性ポリエチレン組成物によって克服される。
【0083】
定義および測定方法
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」は、少なくとも50%の量で含むことができ、あるいは少なくとも80%の量で含むことができ、あるいは少なくとも90%の量で含むことができ、あるいは少なくとも95%の量で含むことができ、あるいは少なくとも98%の量で含むことができ、あるいは少なくとも99%の量で含むことができ、あるいは「からなる(consisting of)」を意味することができる。
【0084】
樹脂評価
MI :ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)、メルトフローインデックス(MI)は、それぞれ、荷重2.16kg、190℃の試験条件下でのポリマーの流動性を測定するASTM規格D1238に従って測定し、g/10分の単位で示す。
【0085】
密度:ポリエチレンの密度は、既知の密度の標準と比較して、ペレットが液柱勾配管に沈むレベルを観察することによって測定される。この方法は、ASTM規格D1505に従って100℃でアニーリングした後の固体プラスチックの測定である。
【0086】
分子量および多分散度(PDI):g/モル単位の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)およびZ平均分子量(M)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC).によって分析する。多分散度は、Mw/Mnによって計算する。試料約8mgを160℃の1,2,4-トリクロロベンゼン 8mlに90分間溶解した。次いで、試料溶液200μlを、IR5、赤外検出器(Polymer Char(スペイン)社製)を備える高温GPCに、145℃のカラムゾーン、160℃の検出器ゾーンに流量0.5ml/分で注入した。データは、GPC One(登録商標)ソフトウェア(Polymer Char(スペイン)社製)により処理する。
【0087】
本発明の多峰性ポリエチレン組成物は、多段階プロセスで生成され、画分(A),(B)および(C)は後続の段階で製造される。そのような場合、多段階プロセスの第2の工程または第3の工程(またはさらなる工程)で生成された画分の特性は、画分が生成される多段階プロセスの段階に関して同一の重合条件(例えば、同一の温度、反応物/希釈剤の分圧、懸濁媒体、反応時間)を適用することによって、および以前に生成されたポリマーが存在しない触媒を使用することによって、単一の段階で別々に生成されるポリマーから推測することができる。あるいは、多段プロセスのより高い段階で生成された画分の特性も、例えばB.Hagstrom,Conference on Polymer Processing (The Polymer Processing Society),Extended Abstracts and Final Programme,Gothenburg,August 19 to 21,1997,4:13に従って計算することができる。
【0088】
したがって、多段階プロセス生成物で直接測定することはできないが、そのような多段階プロセスのより高い段階で生成された画分の特性は、上記の方法のいずれか一方または両方を適用することによって決定することができる。当業者であれば、適切な方法を選択することができる。(Mvなど)分子量などの特性を計算する1つの特定の方法は、Excelまたは他の計算プログラムを使用してデコンボリューション法を適用することである。デコンボリューション法では、各信号の減算が行われる。
【0089】
多段プロセスで生成されたポリマーHDPEは、「in-situ」ブレンドとも呼ばれる。得られた最終生成物は、3つ以上の反応器からのポリマーの均質な混合物からなり、これらのポリマーの異なる分子量分布曲線は共に、広い最大値または2つもしくは3つ以上の最大値を有する分子量分布曲線を形成する。
【0090】
結晶化度:結晶化度は、示差走査熱量測定法(DSC)により、以下のようにして求められる。ポリマーの試料を190℃の温度で薄膜にプレスする。約5+/-0.5mgの試料を秤量し、DSCパンに載置する。蓋は、閉じた雰囲気を確保するためにパンに、かしめておく。試料パンをDSC(ブランド:メトラートレド)セルに入れ、次いで、Nパージ速度25ml/分で50Cから200Cにまで約50K/分の高速で加熱する。試料をこの温度、200Cで5分間保持する。次いで、試料を、Nパージ速度25ml/分.で10K/分.の速度で少なくとも50Cまで冷却する。次いで、試料を、溶融が完了するまでNパージ速度25ml/分で10K/分の速度で加熱する。試料は、ピーク温度およびエンタルピーによって特定され、ならびにピーク面積から結晶化度%が計算される。
【0091】
DSC逐次自己核生成およびアニーリング(SSA):直鎖状メチレン連鎖長を、示差走査熱量計(DSC)により、別報[1]で報告されている逐次自己核生成およびアニーリング(SSA)法を用いて評価する。DSC-SSA測定により得られたマルチピークサーモグラムを、まず、それらのピークを分離するガウシアン関数フィッティングを用いて解析する。ギブス-トムソンの式を使用して、式.1[1,2]
【数1】
で表現されるように各分離ピークの直鎖状結晶化可能メチレン連鎖長(l)を、ラメラ厚さと同等であると半定量的に仮定して、推定する。
式中、T は平衡融解温度(PEについては146℃)であり、Tmiは各分離ピークの融解温度である。sは、結晶性ラメラの折り畳まれた表面の自由エネルギー(7×10-13J/m)であり、DHは、反復単位の融解エンタルピー(CH単位については288×10J/m)である。
【0092】
lの統計的数平均値(l)および重量平均値(l)は、以下の式に示すように計算される:[3]
【数2】
式中、nは、分離ピークの正規化された面積である。直鎖状メチレン連鎖長の数平均(L)値および重量平均(L)値は、lおよびlに結晶化度をそれぞれ乗算することから得られる。結晶化度は、DSC-SSAサーモグラムの総融解エンタルピーをPEの理論上の100%融解エンタルピー(293J/g)で除算することから算出する。
【0093】
参考文献:
1.Rungswang, W.;Saendee, P.;Thitisuk, B.;Pathaweeisariyakul, T.;Cheevasrirungruang, W.J. Appl. Polym. Sci. 2012, 128, 5, 3131.
2.Teng, H.X.;Shi, Y.;Jin, X.G.;J. Polym. Sci. Part B:Polym. Phy. 2002, 40, 2107.
3.Zhu, H,;Monrabal, B.;Han, C.C.;Wang, D.Macromolecules 2008, 41, 826.
【0094】
延伸評価
引張強度(一軸延伸評価):試験片をISO規格293に従って調製する。これらの試験方法は、ISO規格527-2に従う。試験は、室温で50mm/分の一定のグリップ分離速度を用いる。引張破断強度(Fm)と引張降伏強度(Fy)の比をFm/Fy(比)として算出する。Fm/Fyの比は、(a).延伸倍率良好:Fm/Fy>,=1、および(b).延伸倍率不良:Fm/Fy<1として特定することができる。
【0095】
KARO-IV(二軸延伸評価):PE樹脂(純粋な多峰性ポリエチレン組成物)190℃、圧力5MPaで2分間の圧縮シートおよび11℃で2分間の急冷シートで調製。次いで、圧縮シートを、延伸速度100%/秒の同時モードのKaro IVを用いて、MD延伸倍率6およびTD延伸倍率6で延伸する。縦方向(MD)および横方向(TD)における延伸温度は、特定の延伸温度(123~135℃)と同じにした。各材料の延伸性を評価するために、破断時の延伸倍率を記録して比較する。
【0096】
KARO-IV(二軸延伸評価):多峰性ポリエチレン組成物(HDPE)と、LLDPEまたはLDPEとの混合物は、190℃、圧力5MPaで2分間の圧縮シートおよび11℃で2分間の急冷シートで調製。次いで、圧縮シートを、100%/秒の延伸速度の逐次モードのKaro IVを用いて、MD延伸倍率4およびTD延伸倍率7で延伸する。縦方向(MD)および横方向(TD)における延伸温度は、特定の延伸温度(123℃)と同じにした。各材料の延伸性を評価するために、破断時のTD延伸倍率を記録し、比較する。
【0097】
フィルム特性
延伸フィルムの熱収縮率:ASTM規格D-1204に準拠して熱収縮率(%)を測定する。KARO-IVから得られた延伸フィルム試料(フィルム寸法:10cm×10cm)を、100℃の熱風オーブンに15分の載置時間の条件下で評価する。次いで、延伸フィルムを常温で放冷する。測定された縦方向(MD)および横方向(TD)サイズ、熱収縮後の二方向サイズおよび前者の状態の二方向サイズの比較率は、熱収縮率である。熱収縮レベル%は、(a).低熱収縮率:4%以下および(b).高熱収縮率:4%超として特定することができる。
【実施例
【0098】
ここで、本発明の例示的な実施形態を詳細に参照する。以下では、本発明の態様を説明するために例示的な実施形態を説明するが、必ずしも本発明を限定するものではない。それにもかかわらず;その特定の態様は、本発明の開示のために本明細書に記載された一般的な態様と共に、本発明の実施形態を実現するための材料であり得る。
【0099】
1.多峰性樹脂組成物の調製および特性
IE1~IE6の本発明の実施例およびCE1~CE2の比較実施例を調製し、直列に接続された3つの反応器を使用して連続プロセスで実施した。表1に量を示すように、エチレン、水素、ヘキサン、触媒および助触媒を、コモノマーが存在しない第1の反応器に供給した。市販のチーグラー-ナッタ触媒を使用した。第2の反応器に供給する前に、好ましくはヘキサン中のLMWポリエチレンを含む第1の反応器から得られたスラリーを水素除去ユニットに移送して、未反応ガスおよびヘキサンの一部をポリマーから除去してもよい。
【0100】
相当量の水素を除去した後、水素除去ユニットで得られたスラリーを第2の反応器に移送して重合を継続した。この反応器では、第1の反応器から得られたLMWポリエチレンの存在下で、エチレンをα-オレフィンコモノマーを用いてまたは用いないで重合してHMW1ポリエチレンを形成することができた。共重合に有用であったα-オレフィンコモノマーとしては、C4-12、好ましくは1-ブテンまたは1-ヘキセンを挙げることができる。
【0101】
第2の反応器における重合後、そこで得られたスラリーを第3の反応器に移送して重合を継続した。HMW2は、第1および第2の反応器から得られたLMWおよびHMW1の存在下でエチレンを任意選択的にα-オレフィンコモノマーと重合することによって第3の反応器内で生成した。共重合に有用であったα-オレフィンコモノマーとしては、C4-12、好ましくは1-ブテンおよび1-ヘキセンが挙げられる。
【0102】
第3の反応器から得られた多峰性PE生成物を乾燥させ、得られた粉末を酸化防止剤および任意選択的に添加剤と混合した後、押し出してペレットに造粒した。ペレット化した樹脂を用いて密度およびMIを得た。
【0103】
CE4からの比較実施例にあっては、6リットルの精製n-ヘキサンを希釈剤として使用して、10リットルのオートクレーブ反応器内で重合を行った。市販のチーグラー-ナッタ触媒を使用した。適切な触媒調製は、例えば、ハンガリー特許出願第0800771R号明細書に記載されている。表1に示す触媒の使用量を加えた。6.0ミリモルのトリエチルアルミニウムを導入した。その後、温度を目標値まで加熱し、エチレン供給を開始した。第1の反応器内の生成されたポリマーのメルトフローレートを調整するために、水素を反応器に投入した。反応の全圧を維持しながらエチレンを連続的に供給した。目標量の粉末が調製されたら、圧力を解放し、スラリー含有量を冷却することによって重合を停止した。反応の第2段階は、温度を目標値に上昇させることによって開始した。ブテン-1コモノマーを、第2段階でコポリマーを生成するためにこの工程で添加した。反応の全圧を維持しながらエチレンを連続的に供給した。第2段階のブレンド比に達したら重合を停止した。圧力を解放し、スラリー含有量を冷却することによって重合を停止した。反応の第3段階は、温度を目標値に上昇させることによって開始した。ブテン-1コモノマーを、第3段階でコポリマーを生成するためにこの工程で添加した。第3の反応器内の生成されたポリマーのメルトフローレートを調整するために、水素を反応器に投入した。反応の全圧を維持しながらエチレンを連続的に供給した。第3段階のブレンド比に達したら、重合を停止した。圧力を解放し、スラリー含有量を冷却することによって重合を停止した。ブレンド比は、例えば欧州特許第3293205号明細書の特許出願に記載されている重合の様々な段階におけるエチレン取り込み量を比較することによって直接計算することができる。
【0104】
比較実施例4は、本発明の実施例と比較するために、特許請求された範囲外の多峰性ポリマー組成物を有する実験室規模の重合からの合成であった。けれども、それは異なるスケールおよび重合条件、例えば連続式およびバッチ式重合における一部の相違であったが、本発明の実施例と比較するための使用に適用可能であり得る。これは、実験室を商業規模にクライディング(cliding)する際の様々な反応器サイズの重合条件を調整するために、当業者に公知であり、彼の一般的な知識に基づいて適用されるであろう。
【0105】
比較実施例3では、2つの反応器で並行してスラリー重合から二峰性ポリエチレン樹脂を調製した。本発明のポリマー組成物と比較して延伸性能を比較するためにCE3を選択した。CE3の重合条件を表2に示した。
【0106】
表1の本発明のポリマー組成物の独自性および表3のこれらの多峰性ポリマーの特徴的な特性により、驚くべきことに、これらの組成物が本発明の延伸フィルムを形成するときに有利であることが見出された。
【0107】
本発明の実施例および比較実施例の重合条件および樹脂特性を表1、2および3にそれぞれ示す。
【0108】
本発明の実施例1(IE1)
本発明の実施例の多峰性ポリエチレン組成物(IE1)は、調製方法において直列の3つの反応器で実施され、その結果、表1に記載の特許請求の範囲内(42重量%の画分(A)、18重量%の画分(B)、40重量%の画分(C))の量のポリエチレン成分が得られた。IE1の最終MIは、0.20~0.35g/10分の範囲内であり、最終密度は0.952~0.956g/cmの範囲内であった。表3に示す有利なポリマー組成では、DSCからの結晶化度%ならびにDSC-SSAからのLnおよびLwは本発明の範囲内であった。IE1は、1.53という良好な延伸倍率を示した(「良好」とは1より大きいことを意味する)。その結果、IE1から得られたフィルムは良好な延伸特性を示した。
【0109】
本発明の実施例2(IE2)
本発明の実施例2(IE2)は、本発明の実施例(IE1)と同じ方法で実施した。表1に見られるように、IE2の各ポリマー組成物からのポリマー組成物または重量パーセントはIE1のものと同じであるが、IE2の最終MIはIE1の最終MIよりも低かった。この多峰性ポリマーの特徴的な特性を表3に示した。DSCからの結晶化度%ならびにDSC-SSAからのLnおよびLwは本発明の範囲内であった。IE2は、1.42の良好な延伸倍率を示した(「良好」とは1より大きいことを意味する)。その結果、IE2から得られたフィルムは良好な延伸特性を示した。
【0110】
本発明の実施例3(IE3)
本発明の実施例3(IE3)は、本発明の実施例(IE1)と同じ方法で実施した。IE3の各ポリマー組成物からのポリマー組成物または重量パーセントは、IE1のものと比較して少し異なっていたが、IE3の最終密度は、IE1の最終密度よりも低く、延伸倍率の大幅な改善をもたらした。その結果、IE3から得られたフィルムは、非常に良好な延伸特性を示した(Fm/Fy>,=1.5)。
【0111】
本発明の実施例4(IE4)
本発明の実施例4(IE4)は、本発明の実施例(IE1)と同じ方法で実施した。IE4の低分子量ポリエチレンの重量パーセントはIE1のものと同じであったが、他の組成は少し異なっていた。IE4の最終MIはIE1の最終MIよりも高かったが、IE4の最終密度はIE1の最終密度よりも低かった。表3に示すように、IE4は、1.32という良好な延伸倍率を示した(「良好」とは1より大きいことを意味する)。その結果、IE4から得られたフィルムは良好な延伸特性を示した。
【0112】
本発明の実施例5(IE5)
本発明の実施例5(IE5)は、本発明の実施例(IE5)と同じ方法で実施した。IE5の低分子量ポリエチレンおよび第1の高分子量ポリエチレンの重量パーセントはIE1のものよりも高かったが、IE5の最終MIおよび最終密度の両方はIE1のものよりも低く、延伸倍率の大幅な改善をもたらした。その結果、IE5から得られたフィルムは、非常に良好な延伸特性を示した(Fm/Fy>,=1.5)。
【0113】
本発明の実施例6(IE6)
本発明の実施例6(IE6)は、本発明の実施例(IE1)と同じ方法で実施した。IE6の各ポリマー組成物からのポリマー組成物または重量パーセントはIE1のものと比較して異なっていたが、IE3の最終密度はIE1のものとほぼ同じであった。この多峰性ポリマーの特徴的な特性は表3に示した。IE6は1.32という良好な延伸倍率を示した(「良好」とは1より大きいことを意味する)。その結果、IE6から得られたフィルムは良好な延伸特性を示した。
【0114】
比較実施例(CE1)
比較実施例1(CE1)は、本発明の実施例(IE1)と同じ方法で実施した。比較実施例CE1の多峰性ポリエチレン組成物は、調製方法におけるスプリット比を使用して調製され、結果として、特許請求の範囲内の量のポリエチレン成分(45重量%の画分(A)、10重量%の画分(B)、45重量%の画分(C))となった。しかし、DSCからの結晶化度ならびにDSC-SSAからのLnおよびLwは、本発明の規定の範囲外であった。その結果、CE1は延伸倍率不良(Fm/Fy<1.0)を呈した。
【0115】
比較実施例2(CE2)
比較実施例2(CE2)は、本発明の実施例(IE1)と同じ方法で実施した。比較実施例CE2の多峰性ポリエチレン組成物は、調製方法におけるスプリット比を使用して調製され、結果として、特許請求の範囲外の量のポリエチレン成分(56重量%の画分(A)、18重量%の画分(B)、26重量%の画分(C))となった。DSCからの結晶化度ならびにDSC-SSAからのLnおよびLwは、本発明の規定の範囲外であり、結果として、延伸倍率不良(Fm/Fy<1.0)となった。
【0116】
比較実施例(CE3)
表2に示す特性を有する、二つの反応器で並行してスラリー重合して得られた二峰性ポリエチレン樹脂を用いた。詳細には、CE3は、7.5g/10分のMIおよび0.964g/cmの密度を有する高密度二峰性ポリエチレンであった。しかし、DSCからの結晶化度ならびにDSC-SSAからのLnおよびLw値は、本発明の規定の範囲外であった。その結果、CE3は延伸倍率不良(Fm/Fy<1.0)を呈した。
【0117】
比較実施例4(CE4)
比較実施例4(CE4)は、本発明の実施例(IE1)と同じ方法で実施した。比較実施例CE4の多峰性ポリエチレン組成物は、調製方法におけるスプリット比を使用して調製され、結果として、特許請求の範囲外の量のポリエチレン成分(22.4重量%の画分(A)、47重量%の画分(B)、30.6重量%の画分(C))となった。DSCからの結晶化度ならびにDSC-SSAからのLnおよびLwは本発明の規定の範囲外であったが、驚くべきことに、CE4は良好な延伸倍率(Fm/Fy>,=1.5)を呈すことが見出された。
【0118】
【表1A】
【0119】
【表1B】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
2.二軸延伸フィルムの調製および試験(KARO-IV)
表3の結果として、IE1~IE6およびCE4の多峰性ポリエチレン組成物は、良好な延伸倍率(Fm/Fy>1.0)を呈した。したがって、これらの組成物は、KARO-IVによって測定した二軸-延伸性能を評価される可能性があった。
【0123】
表4に示す二軸延伸フィルムは、IE1~IE6およびCE1~CE4の多峰性ポリエチレン組成物からKARO-IVによって生成された。これらの二軸延伸フィルムを、ASTM規格D-1204に従って熱収縮率%を評価した。驚くべきことに、IE1-IE6の多峰性ポリエチレン組成物の本発明の組成物は、本発明の二軸延伸フィルムを形成する場合に有利であり、低熱収縮率%(低熱収縮率:4%相当以下)を実施したことが見出された。
【0124】
表4(a).実験室規模のテンターフレームストレッチャー(Bruckner KARO IV)で評価した同時延伸の結果および(b).KAROから回収したフィルムの100℃における15分間の熱収縮率%。
【0125】
【表4】
【0126】
3.ポリエチレン混合物
IE1~IE6の多峰性ポリエチレン組成物は、ポリエチレン混合物の総重量に関して35%(重量基準)の量の直鎖状低密度ポリエチレンおよび低密度ポリエチレンならびに2つの混合物からなる群のブレンドパートナーとして選択することができる。
【0127】
本発明の多峰性ポリエチレン組成物のポリエチレン混合物を、表5に示すように、KARO-IVによって測定した延伸倍率(Fm/Fy)および二方向延伸性能の両方で評価した。
【0128】
表5 本発明の多峰性ポリエチレン組成物(HDPE)とLLDPEまたはLDPEとの混合物の例およびそれらの特性
【0129】
【表5】
【0130】
本発明の実施例7(IE7)
IE7は、65重量%の本発明による多峰性ポリエチレン組成物IE1および35重量%のLLDPEからなるポリエチレンブレンド(ポリエチレン混合物)であり、合成されたLLDPE樹脂のMI2は3.5g/10分および密度は0.915g/cm3であった。
【0131】
本発明の実施例8(IE8)
IE8は、65重量%の本発明による多峰性ポリエチレン組成物IE1および35重量%のLLDPEからなるポリエチレンブレンド(ポリエチレン混合物)であり、合成樹脂のMIは2.5g/10分および密度は0.918g/cmであった。
【0132】
本発明の実施例9(IE9)
IE9は、65重量%の本発明による多峰性ポリエチレン組成物IE1および35重量%のLDPEからなるポリエチレンブレンド(ポリエチレン混合物)であり、市販の樹脂(EL-Lene(商標)D777C)のMIは、7.0g/10分および密度は0.920g/cmであった。
【0133】
表5に示すように、実施例7、8および9は、それぞれ1.67、1.68および1.14である1を超えるFm/Fy値を示した。すべての本発明の実施例7、8、9が4に等しい縦方向(MD)延伸倍率を達成することができた後、本発明の実施例7、8および9の123℃の温度でKARO-IV(逐次モード)によって測定された破断点での横方向(TD)延伸倍率は6より大きかった。これは、本発明による多峰性HDPE組成物が、延伸フィルムを製造するためのLLDPEまたはLDPEを含む化合物溶液の良好なパートナーであったことを意味する。
【0134】
実施例(IE1)の多峰性HDPE組成物および第1の高分子量部分の独自性は、様々なLLDPEの種類およびLDPEにおいてTD延伸倍率(5超)を高めることができた。
【0135】
前述の説明および従属請求項に開示されている特徴は、別個におよびそれらの任意の組合せの両方で、独立請求項でなされた開示の態様をその多様な形態で実現するための材料となり得る。
【0136】
前述の説明および従属請求項に開示されている特徴は、別個におよびそれらの任意の組合せの両方で、独立請求項でなされた開示の態様をその多様な形態で実現するための材料となり得る。
【国際調査報告】