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2024-546276高純度のポリシロキサンマクロマー及びその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-19
(54)【発明の名称】高純度のポリシロキサンマクロマー及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/12 20060101AFI20241212BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20241212BHJP
   C08G 77/08 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C07F7/12 L
C07B61/00 300
C08G77/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536000
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 US2021063438
(87)【国際公開番号】W WO2023113779
(87)【国際公開日】2023-06-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508129090
【氏名又は名称】ジェレスト, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バリー・シー・アルクレス
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・ディー・ゴフ
【テーマコード(参考)】
4H039
4H049
4J246
【Fターム(参考)】
4H039CD90
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ12
4H049VR13
4H049VR31
4H049VS21
4H049VT16
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4H049VU20
4J246AA03
4J246AB01
4J246BA020
4J246BA02X
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4J246CA65X
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4J246GA06
4J246GC21
4J246GC30
(57)【要約】
高純度のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを合成する方法は、(a)アクリル酸塩をハロアルキルジメチルアルコキシシランと反応させ、アクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシランを形成する工程、及び(b)アクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシラン中のアルコキシ基を、塩化物含有化合物を使用して置き換え、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを形成する工程を含む。アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランは、AROPのエンドキャップ剤として使用することができ、約99%超の純度を有し、検出可能な異性体も水素化不純物も含有しない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも約99%の純度を有し、約0.1質量%未満の水素化副産物及び約0.1質量%未満の異性体副産物を含有する、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【請求項2】
約0.05質量%未満の水素化副産物及び約0.05質量%未満の異性体副産物を含有する、請求項1に記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【請求項3】
(メタ)アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランである、請求項1又は2に記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【請求項4】
約0.05質量%未満のイソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン及び約0.05質量%未満の1-メチル-2-メタクリルオキシエチルジメチルクロロシランを含有する、請求項3に記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【請求項5】
純度が約99.3%超である、請求項1から4のいずれか一項に記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【請求項6】
3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシラン、メタクリルオキシメチルジメチルクロロシラン、3-(アクリルオキシ)プロピルジメチルクロロシラン、11-(メタクリルオキシ)ウンデシルジメチルクロロシラン、又は3-(メタクリルオキシ)プロピルメチルジクロロシランである、請求項1から5のいずれか一項に記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【請求項7】
(a)アクリル酸塩をハロアルキルジメチルアルコキシシランと反応させて、アクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシランを形成する工程、及び
(b)アクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシラン中のアルコキシ基を、塩素含有化合物を使用して置き換えて、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを形成する工程
を含む、高純度のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを合成する方法。
【請求項8】
工程(a)が相間移動触媒反応である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)が、(i)ハロゲン塩をメタクリル酸と反応させて、アクリル酸塩を形成させる工程、及び(ii)アクリル酸塩をハロアルキルジメチルアルコキシシランと反応させる工程を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)が交換反応又は置換反応である、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)が、アクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシランをアセチルクロライド及び弱いルイス酸触媒と反応させる工程を含む、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが(メタ)アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランであり、工程(a)の生成物が(メタ)アクリルオキシアルキルジメチルアルコキシシランである、請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが、3-メチルアクリルオキシプロピルジメチルクロロシラン、メタクリルオキシメチルジメチルクロロシラン、3-(アクリルオキシ)プロピルジメチルクロロシラン、11-(メタクリルオキシ)ウンデシルジメチルクロロシラン、又は3-(メタクリルオキシ)プロピルメチルジクロロシランである、請求項7から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが約99%超の純度を有する、請求項7から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが約99.3%超の純度を有する、請求項7から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが約0.1質量%未満の水素化副産物及び約0.1質量%未満の異性体副産物を含有する、請求項7から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが約0.05質量%未満の水素化副産物及び約0.05%未満の異性体副産物を含有する、請求項7から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが(メタ)アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランであり、約0.05質量%未満のイソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン及び約0.05質量%未満の1-メチル-2-メタクリルオキシエチルジメチルクロロシランを含有する、請求項7から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ヘキサメチルシクロトリシロキサンを出発物質として、及び請求項1から6のいずれか一項に記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを終端処理試薬として使用し、リビングアニオン開環重合を実施する工程を含む、高純度の(メタ)アクリルオキシアルキルジメチル官能性ポリシロキサンマクロマーを合成する方法。
【請求項20】
ポリシロキサンがモノメタクリルオキシプロピル終端処理ポリジメチルシロキサンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ポリシロキサンが非重合体ポリシロキサンを実質的に含まない、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
ポリシロキサンが水素化誘導体又は(メタ)アクリルオキシアルキル官能基の異性体を含有する不純物を約0.1質量%未満含有する、請求項19から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも約99%の純度を有する、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランから誘導されるメタクリレート官能性マクロマー又は共重合体。
【請求項24】
メタクリレート官能基の水素化誘導体を約0.1質量%未満含有する、請求項23に記載のマクロマー又は共重合体。
【請求項25】
メタクリレート官能基の水素化誘導体を約0.05質量%未満含有する、請求項23又は24に記載のマクロマー又は共重合体。
【請求項26】
約5,000ダルトン未満の分子量を有する、請求項23から25のいずれか一項に記載のマクロマー又は共重合体。
【請求項27】
少なくとも約99.3%の純度を有し、請求項23から26のいずれか一項に規定のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランから誘導される、メタクリレート官能性マクロマー又は共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アクリレート官能性ポリシロキサンマクロマーは、最終用途において機械的、光学的又は電気的特性の正確な制御が必須である適用先を見出し続けている。最も一般的なシロキサンマクロマーであるモノメタクリルオキシプロピル終端処理ポリジメチルシロキサンは、最も一般的にはMPDMS又はMCR-M11と称され、式(1)を有する。
【0002】
【化1】
【背景技術】
【0003】
アクリレート官能性ポリシロキサンマクロマーに見出される不純物は、しばしば最終用途に有害な影響を及ぼす。例えば、トリフルオロプロピル置換をもつ骨格を含有するマクロマー及び対称構造を有するマクロマー、例えば式(2)及び(3)を有するマクロマーを含む、最も一般的に使用されるマクロマーの変種において、同様の問題が生じる。
【0004】
【化2】
【0005】
例えば、異性体不純物は共重合体の構造における非均一性をもたらし、不活性不純物は、生体適合性に影響するか、又は共重合体の光学的特性に影響するドメイン分離を結果として生じさせる可能性のある、抽出可能種をもたらし得る。
【0006】
ポリシロキサンマクロマーは、リビングアニオン開環重合(AROP)により形成される。この化学はGoffらにより記載されている(「Applications of Hybrid Polymers Generated from Living Anionic Ring Opening Polymerization」、Molecules、26、2755(2021)を参照のこと)。シロキサン含有マクロマーを形成する重合中の再分配反応を回避する条件は、純度を達成するために極めて重要であるが、それらの変数の大半は現在、理解されている。高純度を達成するうえで最も重大な制約は、AROP反応において利用される「エンドキャップ剤」又は「終端処理」試薬、式(4)を有する、3-(メタクリルオキシ)プロピルジメチルクロロシランである。
【0007】
【化3】
【0008】
このエンドキャップ剤物質は従来、アリルメタクリレートのヒドロシリル化により生成される。この生成物の最も早期の確実な合成は、Cameron(Polymer、26、437(1985))により報告され、収率は50%で、最終的な純度は特定されていない。残念ながら、反応はクリーンではなく、生成物の沸点の近さのみならず、進行中に重合する傾向にも起因して、反応混合物は容易に精製されない。主な副産物はβ異性体、1-メチル-2-メタクリルオキシエチルジメチルクロロシラン(式(5))である。
【0009】
【化4】
【0010】
他の副産物には、所望の3-(メタクリルオキシ)プロピルジメチルクロロシラン及びβ異性体の水素化類似体が挙げられる。所望の生成物の水素化類似体であるイソブチルオキシプロピルジメチルクロロシランは、式(6)を有する。
【0011】
【化5】
【0012】
これらの不純物の起源は、逆マルコフニコフ付加生成物を優先しながら、正常なマルコフニコフ生成物の形成も許容し、小規模な脱水素カップリング反応を許容し、アクリレートの二重結合の水素化を触媒する、ヒドロシリル化触媒の選択性である。ヒドロシリル化は、限定はされないがアリル基が好ましく、程度は低いがアクリレートの不飽和化に伴っても生じる。アクリレート二重結合のヒドロシリル化により形成される生成物におけるアリル不飽和化はあるが、正常な重合条件下では結果物と基本的に非反応性であり、この副産物から誘導されるマクロマーもやはり抽出可能である。例えば、メタクリレート官能性マクロマーとは異なり、アリル官能性マクロマーは容易には光重合を行わない。
【0013】
【化6】
【0014】
加えて、プロピレンの除去により形成される主な副産物はメタクリルオキシジメチルクロロシラン(式(8))であり、これはケイ素に結合した塩素との交換反応を行い、式(9)を有する化合物を生成することが可能である。
【0015】
【化7】
【0016】
この不純物についての記載は網羅的なものであることを意味するものではなく、むしろ関与する問題及びヒドロシリル化により生成するアクリルオキシ官能性エンドキャップ剤から高純度のマクロマーを生成する際の困難の多くを示すものである。
【0017】
エンドキャップ剤の構造類似体を所望のマクロマーに取り込むことにより起こる明らかな構造性の不純物とは別に、分子量制御を達成するために求められるエンドキャップ剤の正確な量を決定する際に困難が生じる。エンドキャップ剤の高収率及び高純度を得ることは、経済性及び性能の両方において極めて重要である。
【0018】
より高収率の3-(メタクリルオキシ)プロピルジメチルクロロシランを得る方法は、Cracknell(WO2016/005757号)により報告されており、同一の基礎化学を利用するプロセス制御法により、副産物が最少化した。しかし、報告された分離生成物の純度は89%に過ぎず、異性体又は水素化副産物については何らの認知も報告もない。より詳細な合成は大川の米国特許第5,847,178号及び三上の米国特許第5,811,565号に報告されており、ここでは、合成後の工程において、銅試薬の添加によりβ異性体を分解することによって、98.8%もの純度が達成されることが実証された。より最近では、西脇のJP2003-096086号がイリジウム触媒の使用を記載しており、やはり98.8%の純度という結果を出している。恐らくは旧来のガスクロマトグラフィー技術ではこの生成物特定が不可能だったため、以前に報告された合成のうち、1つ(大川の米国特許第5,493,039号)のみがベースラインとして、又は改善として、標的化合物であるイソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン(α-メチルプロピオニルオキシプロピルジメチルクロロシランとしても公知)の低減した類似体の低減した量について述べていることに留意すべきである。更に、以前の文献の全てによる高純度についての報告は過大評価とみられ、それは少なくとも、これらの言及時点には、分析上の制約のため、水素化及び異性体副産物を決定する感度が典型的に欠如しており、性能基準を満たせないことは説明不能とみられたからである。
【0019】
低減した副産物は、それらが、非重合性で抽出可能な不純物を、名目上は純粋なメタクリレート官能性ポリシロキサンマクロマーから生成されるものに導入するため、特に問題である。現在まで、ヒドロシリル化又は任意の他の反応経路を介して、異性体も水素化副産物も含有しないメタ(アクリルオキシ)アルキルジメチルクロロシランを生成し、それら生成物を極めて重要な用途に好適にするような方法はない。例えば、コンタクトレンズ等の光学用途では、このようなクラスの不純物は、他の場合であれば完全に重合性のマクロマーにおいて、未反応の重合体種が汚染物質として作用し、移動、相分離、又は抽出されることにより、結果として透明性の低下及び目への刺激作用を生じさせる可能性がある。したがって、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを、高収率で、検出可能な異性体も水素化副産物も伴わずに生成できることが非常に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】WO2016/005757号
【特許文献2】米国特許第5,847,178号
【特許文献3】米国特許第5,811,565号
【特許文献4】JP2003-096086号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Goffら、「Applications of Hybrid Polymers Generated from Living Anionic Ring Opening Polymerization」、Molecules、26、2755(2021)
【非特許文献2】Cameron、Polymer、26、437(1985)
【非特許文献3】T. Senguptaら、Journal of the Indian Chemical Society、53:7、726~7(1976)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本開示の一態様では、少なくとも約99%の純度を有し、約0.1質量%未満の水素化副産物及び約0.1質量%未満の異性体副産物を含有する、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが提供される。
【0023】
本開示の別の態様では、
(a)アクリル酸塩をハロアルキルジメチルアルコキシシランと反応させてアクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシランを形成する工程、及び
(b)アクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシラン中のアルコキシ基を、塩素含有化合物を使用して置き換え、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを形成する工程
を含む、高純度のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを合成する方法が提供される。
【0024】
本開示の更なる態様では、少なくとも約99%の純度を有する、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランから誘導される、メタクリレート官能性マクロマー又は共重合体が提供される。
【0025】
本発明の有利な改良点は単独で又は組合せで実施することが可能であり、添付の特許請求の範囲で明示される。
【0026】
要約すると、以下の実施形態が本発明の範囲における特に好ましいものとして提示される。
【0027】
実施形態1:少なくとも約99%の純度を有し、約0.1質量%未満の水素化副産物及び約0.1質量%未満の異性体副産物を含有する、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【0028】
実施形態2:約0.05質量%未満の水素化副産物及び約0.05質量%未満の異性体副産物を含有する、実施形態1に記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【0029】
実施形態3:(メタ)アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランである、実施形態1又は2に記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【0030】
実施形態4:約0.05質量%未満のイソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン及び約0.05質量%未満の1-メチル-2-メタクリルオキシエチルジメチルクロロシランを含有する、実施形態3に記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【0031】
実施形態5:純度が約99.3%超である、実施形態1から4のいずれかに記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【0032】
実施形態6:3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシラン、メタクリルオキシメチルジメチルクロロシラン、3-(アクリルオキシ)プロピルジメチルクロロシラン、11-(メタクリルオキシ)ウンデシルジメチルクロロシラン、又は3-(メタクリルオキシ)プロピルメチルジクロロシランである、実施形態1から5のいずれかに記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシラン。
【0033】
実施形態7:(a)アクリル酸塩をハロアルキルジメチルアルコキシシランと反応させてアクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシランを形成する工程、及び
(b)アクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシラン中のアルコキシ基を、塩素含有化合物を使用して置き換え、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを形成する工程
を含む、高純度のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを合成する方法。
【0034】
実施形態8:工程(a)が相間移動触媒反応である、実施形態7に記載の方法。
【0035】
実施形態9:工程(a)が、(i)ハロゲン塩をメタクリル酸と反応させてアクリル酸塩を形成させる工程、及び(ii)アクリル酸塩をハロアルキルジメチルアルコキシシランと反応させる工程を含む、実施形態7又は8に記載の方法。
【0036】
実施形態10:工程(b)が交換反応又は置換反応である、実施形態7から9のいずれかに記載の方法。
【0037】
実施形態11:工程(b)が、アクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシランをアセチルクロライド及び弱いルイス酸触媒と反応させる工程を含む、実施形態7から10のいずれかに記載の方法。
【0038】
実施形態12:アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが(メタ)アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランであり、工程(a)の生成物が(メタ)アクリルオキシアルキルジメチルアルコキシシランである、実施形態7から11のいずれかに記載の方法。
【0039】
実施形態13:アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが、3-メチルアクリルオキシプロピルジメチルクロロシラン、メタクリルオキシメチルジメチルクロロシラン、3-(アクリルオキシ)プロピルジメチルクロロシラン、11-(メタクリルオキシ)ウンデシルジメチルクロロシラン、又は3-(メタクリルオキシ)プロピルメチルジクロロシランである、実施形態7から12のいずれかに記載の方法。
【0040】
実施形態14:アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが約99%超の純度を有する、実施形態7から13のいずれかに記載の方法。
【0041】
実施形態15:アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが約99.3%超の純度を有する、実施形態7から14のいずれかに記載の方法。
【0042】
実施形態16:アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが約0.1質量%未満の水素化副産物及び約0.1質量%未満の異性体副産物を含有する、実施形態7から15のいずれかに記載の方法。
【0043】
実施形態17:アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが約0.05質量%未満の水素化副産物及び約0.05%未満の異性体副産物を含有する、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
【0044】
実施形態18:アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランが(メタ)アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランであり、約0.05質量%未満のイソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン及び約0.05質量%未満の1-メチル-2-メタクリルオキシエチルジメチルクロロシランを含有する、実施形態7から17のいずれかに記載の方法。
【0045】
実施形態19:ヘキサメチルシクロトリシロキサンを出発物質として、及び実施形態1から6のいずれかに記載のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを終端処理試薬として使用して、リビングアニオン開環重合を実施する工程を含む、高純度の(メタ)アクリルオキシアルキルジメチル官能性ポリシロキサンマクロマーを合成する方法。
【0046】
実施形態20:ポリシロキサンがモノメタクリルオキシプロピル終端処理ポリジメチルシロキサンである、実施形態19に記載の方法。
【0047】
実施形態21:ポリシロキサンが非重合体ポリシロキサンを実質的に含まない、実施形態19又は20に記載の方法。
【0048】
実施形態22:ポリシロキサンが水素化誘導体又は(メタ)アクリルオキシアルキル官能基の異性体を含有する不純物を約0.1質量%未満含有する、実施形態19から21のいずれかに記載の方法。
【0049】
実施形態23:少なくとも約99%の純度を有する、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランから誘導されるメタクリレート官能性マクロマー又は共重合体。
【0050】
実施形態24:メタクリレート官能基の水素化誘導体を約0.1質量%未満含有する、実施形態23に記載のマクロマー又は共重合体。
【0051】
実施形態25:メタクリレート官能基の水素化誘導体を約0.05質量%未満含有する、実施形態23又は24に記載のマクロマー又は共重合体。
【0052】
実施形態26:約5,000ダルトン未満の分子量を有する、実施形態23から25のいずれかに記載のマクロマー又は共重合体。
【0053】
実施形態27:少なくとも約99.3%の純度を有し、実施形態23から26のいずれかに規定のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランから誘導される、メタクリレート官能性マクロマー又は共重合体。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本開示は、リビングAROPの好適なエンドキャップ剤である、高純度のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを合成する方法に関する。これらの高純度化合物は、異性体及び水素化副産物を実質的に含まず、非重合性ポリシロキサンを実質的に含まない、高純度アクリルオキシアルキル終端処理ポリ(シロキサン)の調製を可能にする。この開示の方法は、アクリレートのヒドロシリル化を回避し、代わりに、異性体化又は還元の化学機序を含まない、置換反応を利用する。好ましい実施形態では、本方法により生成されるエンドキャップ剤は、約99%以上の純度をもち、検出可能な水素化類似体(イソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン、式(6)を有する)、又はβ異性体(1-メチル-2-メタクリルオキシエチルジメチルクロロシラン、式(5)を有する)を含有しない、3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシラン(式(4))である。この高純度化合物は、モノメタクリルオキシプロピル終端処理ポリジメチルシロキサンの生成のためのエンドキャップ剤又は終端処理剤として使用することができる。本明細書に記載される方法により合成することができる、マクロマーのリビングAROP合成のためのエンドキャップ剤又は終端処理試薬として好適な高純度化合物の他の例には、(メタクリルオキシメチル)ジメチルクロロシラン及び3-(アクリルオキシメチル)ジメチルクロロシランが挙げられ、これらはこれまでに合成されたことがないものである。
【0055】
全ての場合において、本明細書に記載される化合物は、異性体及び水素化副産物/還元性類似体を実質的に含まない。不純なエンドキャップ化合物の負の影響は、マクロマーが比較的低分子量である、特に約5,000ダルトン未満の場合に最も顕著である。高分子量では、還元性類似体から形成される非反応性マクロマーは最終重合体中で可溶化することが可能であり、ここでマクロマーは共重合体におけるペンダント基を形成する。低分子量マクロマーから誘導される共重合体では、還元性類似体の相分離により起こる光学的透過性の喪失が生じ得る。本明細書に記載される物質及び方法は、コンタクトレンズの形成において利用される重合体中のコモノマーとして組み入れられる低分子量マクロマーと関連する光学における欠陥の問題を解決する。
【0056】
この開示の目的について、用語「高純度」は、約99%超、より好ましくは約99.2%超、更により好ましくは約99.3%超の純度を意味すると理解することができる。用語「実質的に含まない」は、不純物が、典型的に約0.05質量%未満の検出限界を有するGC及びGC-MSにより検出されないことを意味すると理解することができる。したがって、本方法は、高純度を有し、かつまた検出可能な異性体も水素化副産物も有しない、すなわち約0.1質量%未満、又は約0.05質量%未満の異性体も水素化副産物も有しない、アクリルオキシアルキルジメチルクロロシランの合成を提供する。存在し得る他の不純物は、AROPに、又は生成するマクロマーの性能に殆ど影響を及ぼさない。
【0057】
高純度のアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランを合成する方法は、(a)好ましくはアクリル酸塩と(ハロアルキル)ジメチルアルコキシシランとの間の相間移動触媒反応によるアクリルオキシ置換アルキルジメチルアルコキシシランを形成する工程、及び次いで、(b)アルコキシ基をハロゲン化物により、好ましくは交換反応又は置換反応で置き換える工程を含む。工程(a)では、好ましいアクリル酸塩はメタクリル酸カリウムであり、これは例えば、炭酸カリウムとメタクリル酸との反応からin-situで生成することができる。好ましい(ハロアルキル)ジメチルアルコキシシランは、3-クロロプロピルジメチルエトキシシランである。代替的に、但し好ましさは劣るが、アクリル酸を塩基アクセプターの存在下、ハロアルキルシランと反応させてもよい。しかし、この化学は、アクリル酸塩がケイ素に結合した塩素とも反応するため、好ましいメタクリルオキシプロピルジメチルクロロシランを直接生成することができない。したがって、メタクリルオキシプロピルジメチルアルコキシシランを生成することは、実際的には中間体であることが見出された。好ましい実施形態では、高純度のエンドキャップ剤は(メタ)アクリルオキシプロピルジメチルクロロシランであり、中間体は(メタ)アクリルオキシプロピルジメチルエトキシシランである。
【0058】
ケイ素に結合したアルコキシ基を、第2の反応工程(b)でハロゲン化物に転換するために利用できる公知の合成方法は多数ある。例えば、ケイ素上のエトキシ基は、塩化チオニル、三塩化ホスホリル、五塩化リン、塩化ベンジル、三塩化ホウ素、四塩化スズ、メチルトリクロロシラン、又は中でも酸塩化物との反応により、塩素と交換することができる。最も一般的に使用される試薬である塩化チオニル及び五塩化リンは、追加的にアクリル酸エステルを切断し、酸塩化物を形成することができ、全てが重合の開始剤として作用する(T. Senguptaら、Journal of the Indian Chemical Society、53:7、726~7(1976)を参照)。塩化ベンジル及び酸塩化物は、三塩化アルミニウム又は三塩化ホウ素等の強いルイス酸型触媒の存在により触媒されない限り、交換反応又は置換反応での効果が劣る。しかし、強いルイス酸は、アクリレート官能基の関与する反応を触媒する潜在力を有する。現在、交換反応に好ましい反応対は、塩化アセチル及び弱いルイス酸触媒、好ましくは、アクリル酸エステルを切断しないか又は重合を引き起こさない、塩化第二鉄である。
【0059】
上に記載した合成方法は、3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシランの類似体及び同族体を生成するために一般的に適用可能であり、純度は約99%超、より好ましくは約99.2%超、更により好ましくは約99.3%超で、検出可能な異性体の混入も、水素化副産物の混入もなく、高純度のアクリレート官能性マクロマーの合成での使用に好適である。本明細書に記載される方法により高純度で生成することができ、検出可能な異性体及び水素化副産物を含まない類似した官能性構造の化合物の他の例には、メタクリルオキシメチルジメチルクロロシラン、3-(アクリルオキシ)プロピルジメチルクロロシラン、11-(メタクリルオキシ)ウンデシルジメチルクロロシラン、及び3-(メタクリルオキシ)プロピルメチルジクロロシランが挙げられる。一方、類似のブロモシランは類似の方法により調製することができるが、これらは主に経済性のため、実用性に劣る。
【0060】
これと別に、この方式で生成されるエンドキャップ剤の純度を間接的に示すのは、リビングAROP重合を終結させるために求められるエンドキャップ剤の理論上の化学量を超える量が、より少なくなるという観察である。例えば、エンドキャップ剤が従来的にヒドロシリル化により生成される場合、理論上の量を2%超えるエンドキャップ剤が求められるのに対し、本明細書に記載される高純度のエンドキャップ剤が重合を終結させるために求められるのは、理論上の量を1%超えるに過ぎない。
【0061】
本開示の態様はまた、上に記載した高純度の(メタ)アクリルオキシアルキルメチルジクロロシランから誘導される、高純度の(メタ)アクリルオキシアルキルメチルシロキサンマクロマー及び共重合体を生成する方法にも関する。非対称マクロマーは通常、アルキルリチウム試薬とひずんだ環状シロキサン、最も一般的にはヘキサメチルシクロトリシロキサンとの反応により形成される、リチウムジメチルシラノレートを用いて重合を開始することにより調製される。リチウムシラノレートは、in situで分離又は形成することができる。典型的にはジメチルホルムアミド又はテトラヒドロフラン等の非プロトン性極性物質であるプロモーターを伴うひずんだ環の存在下、追加のひずんだ環状シロキサンとの開環重合が進行する。最後に、最も一般的に使用される3-(メタクリルオキシ)プロピルジメチルクロロシラン等のクロロシランを用いた重合体のエンドキャップにより、マクロマーの形成が完了する。対称性マクロマーは同様に形成されるが、ジクロロシランは反応を終結させるのではなく、カップリングする。これらのマクロマー及び共重合体は、約99%超、より好ましくは約99.2%超、更により好ましくは約99.3%超の純度を有し、約0.1質量%未満の水素化不純物及び約0.1質量%未満の異性体不純物を含有し、約5,000ダルトン未満、より好ましくは約1,000ダルトン未満の分子量を有する。
【0062】
本開示の更なる態様は、以前には調製されなかったメタ(アクリルオキシ)メチル終端処理マクロマーを含む高純度のエンドキャップ剤から誘導された、高純度の(メタ)アクリレート官能性マクロマーを生成する方法に関する。具体的には、これらのマクロマーは、当技術分野では周知のAROP手順を使用して、及び本明細書に記載される高純度のエンドキャップ剤を利用して生成することができる。
【0063】
例えば、高純度の(メタ)アクリルオキシアルキルジメチル官能性非対称ポリシロキサンマクロマーを合成する方法は、ヘキサメチルシクロトリシロキサンを出発物質として、及び先に記載したアクリルオキシアルキルジメチルクロロシランをエンドキャップ剤として使用し、リビングアニオン開環重合を実施する工程を含む。好ましい実施形態では、ポリシロキサンはモノメタクリルオキシプロピル終端処理ポリジメチルシロキサンである。生成するこのポリシロキサンは非重合体ポリシロキサンを実質的に含まず、水素化誘導体又は(メタ)アクリルオキシアルキル官能基の異性体を含有する不純物を約0.1質量%未満(又は好ましい実施形態では0.05質量%未満)含有する。同様に、対称性ポリシロキサンマクロマーは、3-(メタクリルオキシプロピル)メチルジクロロシランから誘導することができる。
【0064】
次に本発明を、以下の非限定的な実施例に関連して記載する。
【実施例1】
【0065】
(比較):メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシランの合成
アリルメタクリレート(1261g、10.0mol)及びBHT(4質量%、83.9g)を反応器に投入し、O2/Arのスパージングを開始した。反応混合液を75℃に加熱し、次いでKarstedt触媒(キシレン中のPt濃度2%、1ml)を添加した。ジメチルクロロシラン(969.8g、10.3mol)を、容器の温度を65~85℃の間に保ちながら6時間にわたり滴下添加した。結果として得られた反応混合液を80℃で1時間撹拌した。フェノチアジン(5質量%)を反応混合液に添加し、ワイプドフィルムエバポレーターを使用して精製し、無色透明の液体(1100g、50%)を得た。分析データ:1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.10 (s, 1H), 5.56 (s, 1H), 4.15-4.12 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 1.94 (s, 3H), 1.78 (m, 2H), 0.88 (m, 2H), 0.43 (s, 3H); FTIR (cm-1): 2958.43, 2925.56, 2892.7, 1716.86, 1638.17, 1452.32, 1407.43, 1319.71, 1295.06, 1254.91, 1157.04, 1064.03, 1011.38, 938.82, 846.93; GC-TCD: 純度 - 88.85%, β-異性体 - 2.01%, イソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン - 0.88%; GC-MS m/z: 220 (M), 205 (M - Me).試料扱い中に形成された人為的産物であるジシロキサンを除去するため、分析中に形成された加水分解(ジシロキサン)生成物を添加し戻すと、生成物の純度は89.7%であった。
【実施例2】
【0066】
3-メタクリルオキシプロピルジメチルエトキシシランの合成
【0067】
【化8】
【0068】
2Lの4つ口フラスコに、メカニカルスターラー、ヒーティングマントル、添加漏斗、容器温度プローブ、フリットガラス分散チューブ、及び水冷却器付きディーンスタークトラップを装備した。ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン(BHT)(4.19g、3.50質量%)及びトルエン(960g)を反応器に投入した。撹拌を開始し、炭酸カリウム(109.1g、7.67mol)を添加した。スラリーをO2/Arスパージングしつつ80℃に加熱し、次いでメタクリル酸(119.9g、1.40mol)を100℃で2時間にわたり滴下添加した。二酸化炭素ガスの放出が観察され、還流条件下、ディーンスタークトラップにより水を除去した。90℃から共沸混合物が観察された。副産物である水を全て除去した後、テトラブチルホスホニウムクロリド(トルエン中50%)(29.5g、0.031mol)及び3-クロロプロピルジメチルエトキシシラン(240.0g、1.33mol)をフラスコに添加した。反応混合液を還流しながら3時間加熱し、次いで室温に冷却した。反応混合液を濾過した。濾過液をin vacuoで濃縮し、5質量%のフェノチアジンを添加した。生成物を次いでワイプドフィルムエバポレーターにより、0.6~0.7mmHg真空で、64~5℃のジャケット温度及び30℃のコールドフィンガー温度で精製し、生成物:残渣分離比4:1で最終生成物である3-メタクリルオキシプロピルジメチルエトキシシランを、無色透明の液体として得た(202.6g、66.2%)。分析データ:1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.08 (s, 1H), 5.55 (s, 1H), 4.07-4.10 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 3.61-3.66 (q, J = 13.6 Hz, 2H), 1.91 (s, 3H), 1.63-1.73 (m, 2H), 1.12-1.20 (t, J = 6.8 Hz, 3H), 0.6 (m, 2H), 0.09 (S, 6H); FTIR (cm-1): 2956.15, 2927.88, 2893.38, 1718.05, 1638.46, 1451.95, 1389.58, 1320.36, 1294.94, 1250.75, 1158.40, 1105.72, 1077.42, 937.89, 836.16; GC-TCD: 純度 - 99.3%; GC-MS m/z: 229.2 (M), 215.1 (M - Me), 184.1 (M - OEt).β異性体及びイソブチルオキシプロピルジメチルエトキシシランのレベルはいずれもキャピラリーカラムを使用したGC及びGC-MSによる検出レベルより下、すなわち0.05%未満であった。
【実施例3】
【0069】
3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシランの合成
【0070】
【化9】
【0071】
1Lの4つ口反応器に、マグネチックスターラー、容器温度プローブ、クーリングバス、添加漏斗、パックドカラム、及びN2を入れた蒸留ヘッドを装備した。塩化第二鉄(無水)(1.40g、0.01mol)及び塩化アセチル(123.6g、1.58mol)を反応器に投入した。実施例2で調製し、1質量%BHT(345.5g、1.50mol)及びフェノチアジン(1.50g、0.01mol)で阻害した3-メタクリルオキシプロピルジメチルエトキシシランを、反応温度を20~25℃に維持するような速度で反応混合液に滴下添加した。発熱反応が観察され、混合液の色は黄色から褐色に変化した。(反応がクーリングバスを用いずに行われた場合、30~40℃の温度上昇が観察された。)結果として得られた反応混合液を室温で12時間撹拌した。混合液を5mmHgのin vacuoで、最高温度80℃で濃縮し、ワイプドフィルムエバポレーター(5質量%フェノチアジン、45~48℃、0.5mmHg、コールドフィンガー25℃、分離比3:1)により精製して生成物を無色透明の液体(270.4g、81.7%)として得た。GC-TCD:純度98.91%。試料扱い中に形成された人為的産物であるジシロキサンを除去するため、分析中に形成された加水分解(ジシロキサン)生成物を添加し戻すと、生成物の純度は99.3%であった。BHT(4質量%)を阻害剤として最終生成物に添加した。分析データ:1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.10 (s, 1H), 5.56 (s, 1H), 4.15-4.12 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 1.94 (s, 3H), 1.78 (m, 2H), 0.88 (m, 2H), 0.43 (s, 3H); FTIR (cm-1): 2958.43, 2925.56, 2892.7, 1716.86, 1638.17, 1452.32, 1407.43, 1319.71, 1295.06, 1254.91, 1157.04, 1064.03, 1011.38, 938.82, 846.93; GC-MS m/z: 220 (M), 205 (M - Me).イソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン及び1-メチル-2-メタクリルオキシエチルジメチルクロロシランは、検出限界である0.05%まで観察されなかった。
【実施例4】
【0072】
(メタクリルオキシメチル)ジメチルエトキシシランの合成
22Lの4つ口フラスコに、メカニカルスターラー、ヒーティングマントル、添加漏斗、容器温度プローブ、フリットガラス分散チューブ及び500cmのパックドカラム上に積載した蒸留ヘッドを装備した。フラスコにシクロヘキサン3000ml及び32%カリウムメトキシドのメタノール溶液3718gを投入した。撹拌及び液体表面下の空気スパージングを開始した。メタクリル酸(1439ml、BHTで阻害)を、温度を60℃未満に維持しながら添加漏斗を通じて添加した。添加が完了した後、pHは>9であった。フラスコを次いで加熱し、メタノールを除去した。容器温度が71~73℃に達した時、メタノールは容器から除去され、ディーンスタークトラップ中のシクロヘキサンは透明であった。透明なシクロヘキサンのおおよそ100mlは容器に戻さなかった。メタノールが全て除去され、フラスコが室温に冷却された後、クロロメチルジメチルエトキシシラン(2119ml)、続いてテトラブチルアンモニウムブロミド69.7gを添加漏斗を通じてフラスコへ添加した。フラスコを80~90℃に20時間加熱し、この時全ての原料が反応済みであった。反応が完了した後、混合液を濾過し、塩を1L分のシクロヘキサンで2回すすぎ、濾液を濃縮した。ヒドロキノン(MEHQ)のメチルエーテル1g及びフェノチアジン1gを添加し、濃縮した。生成物を0.3mmHg真空下、62~4℃で0.25mのパックドカラムを通じて蒸留した。保管のために20ppmのMEHQにより阻害し、<5℃で保管した。
【実施例5】
【0073】
(メタクリルオキシメチル)ジメチルクロロシランの合成
【0074】
【化10】
【0075】
実施例3に類似した条件下で、(メタクリルオキシメチル)ジメチルクロロシランを実施例4の生成物から調製した。500mLの4つ口フラスコに、マグネチックスターラー、容器温度プローブ、クーリングバス、添加漏斗、パックドカラム、及びN2で保護した蒸留ヘッドを装備した。塩化第二鉄(0.57g、0.003mol)及び塩化アセチル(40.6g、0.52mol)を反応器に投入した。3-メタクリルオキシメチルジメチルエトキシシラン(101g、0.50mol)及びフェノチアジン(0.5g、0.5質量%)の予混合液を、反応温度を20~25℃の間に維持するような速度で反応混合液に滴下添加した。発熱反応が観察され、混合液の色は黄色から褐色に変化した。結果として得られた反応混合液を室温で12時間撹拌した。混合液をin vacuoでO2/Arのスパージングにより濃縮し、0.5質量%のフェノチアジンを添加した。生成物を3~4mmHg及び57~59℃での蒸留により精製し、最終生成物である3-メタクリルオキシメチルジメチルクロロシランを、無色透明の液体(22.0g、22.8%)として得た。分析データ:1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.12 (s, 1H), 5.62 (s, 1H), 2.98 (s, 2H), 1.89 (s, 3H), 0.42 (s, 6H); FTIR (cm-1): 2963.01, 1698.46, 1635.40, 1452.12, 1400.94, 1379.80, 1331.06, 1306.77, 1255.92, 1164.14, 1107.79, 1007.47, 945.94, 867.54, 821.31, 760.86, 680.83, 650.27, 596.07, 473.47; GC-TCD: 純度 - 99.2%; GC-MS m/z: 192 (M), 177 (M - Me), 157 (M - Cl).イソブチルオキシメチルジメチルクロロシランのレベルはキャピラリーカラムを使用したGC及びGC-MSによる検出レベルより下、すなわち0.1%未満であった。
【実施例6】
【0076】
モノブチル-、モノメタクリルオキシプロピル終端処理ポリジメチルシロキサンの合成
ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3、204.2g、0.92mol)及びヘキサン(134.5g、2.62mol)を、磁気撹拌子を入れた1Lの丸底フラスコへ添加した。フラスコを窒素でスパージングし、反応混合液を室温で2h撹拌した。n-ブチルリチウム(ヘキサン中2.6M、69.3g、0.26mol)を添加漏斗を通じて反応フラスコへ添加して溶液を1h撹拌し、続いてジメチルホルムアミド(DMF、18.2g、0.25mol)を重合促進剤として溶液に添加した。3hの撹拌後、重合体を3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシラン(実施例3で調製)で終端処理し、モノブチル-、モノメタクリルオキシプロピル-終端処理ポリジメチルシロキサンを得た。溶液を次いで終夜撹拌し、脱イオン水178gで洗浄した。水層及び有機層を分離し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、95℃で真空下の乾燥空気のスパージングによりストリッピングした。
【実施例7】
【0077】
比較生成物及び発明生成物の比較
ヒドロシリル化(比較用、実施例1)により生成された3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシラン由来のマクロマー及び実施例3で調製された本発明の高純度物質を分析し、以下の表で比較した。
【0078】
【表1】
【0079】
比較例8:大川の米国特許第5,493,039号の実施例1
アリルメタクリレートの水分含有量を171ppmではなく37ppmにした以外、同一の条件及びスケールを使用して、大川の米国特許第5,493,039号の実施例1に記載のとおり、3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシランを合成した。生成物の分析により、イソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン(0.59%)及びβ異性体(1.47%)の存在が明らかとなった。この比較例の目的は、大川により報告されてはいないものの、このヒドロシリル化方法中に実際は還元生成物が生じていたことを実証することであった。イソブチルオキシメチルジメチルクロロシランのレベルはキャピラリーカラムを使用したGC及びGC-MSによる検出レベルより下、すなわち0.05%未満であった。
【0080】
比較例9:三上の米国特許第5,811,565号の実用実施例1
阻害剤としてのフェノチアジンを3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチルジメチルアンモニウムクロリドに替え、反応混合液をヒドロシリル化中O2/Arでスパージングした以外は、三上の米国特許第5,811,565号の実用実施例1に記載のとおり、3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシランを合成した。銅試薬の添加前の分析データは、イソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン(0.26%)及びβ異性体(1.87%)の両方の存在を示した。塩化銅(II)の添加後、β異性体の含有量は1.0%未満まで低減したことが観察されたが、イソブチルオキシプロピルジメチルクロロシラン含有量には変化が観察されなかった。この比較例の目的は、三上により報告されてはいないものの、このヒドロシリル化方法中に実際は還元生成物が生じていたことを実証することであった。イソブチルオキシメチルジメチルクロロシランのレベルはキャピラリーカラムを使用したGC及びGC-MSによる検出レベルより下、すなわち0.05%未満であった。
【0081】
本開示による方法により調製される3-メタクリルオキシプロピルジメチルクロロシランは、従来のヒドロシリル化により調製される同種の物質より劇的に高い純度を有するのみならず、検出可能なβ異性体も水素化副産物も有しないことを、明確に観察することができる。更に、この化合物をAROPのエンドキャップ剤として使用する際に求められる超過分の割合は、半分に低減される。
【0082】
上に記載された実施形態への変更が、その幅広い発明の概念から逸脱することなくなされ得ることは、当業者により理解される。したがって、この発明は、開示された特定の実施形態には限定されず、添付される特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨及び範囲内で修正を包含することが意図されると理解される。
【国際調査報告】